(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】光学装置の製造方法及び光学装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/026 20060101AFI20241021BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20241021BHJP
H01S 5/028 20060101ALI20241021BHJP
H01S 5/40 20060101ALI20241021BHJP
H01L 31/12 20060101ALI20241021BHJP
H01S 5/10 20210101ALI20241021BHJP
H01L 21/306 20060101ALN20241021BHJP
C23C 16/34 20060101ALN20241021BHJP
【FI】
H01S5/026 612
H01S5/343 610
H01S5/028
H01S5/40
H01L31/12 H
H01S5/10
H01L21/306 B
C23C16/34
(21)【出願番号】P 2020214577
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2020001700
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】張 梓懿
(72)【発明者】
【氏名】久志本 真希
(72)【発明者】
【氏名】天野 浩
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-164459(JP,A)
【文献】特開2019-197894(JP,A)
【文献】特開2019-204847(JP,A)
【文献】特開2002-319743(JP,A)
【文献】特開2001-251022(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108011291(CN,A)
【文献】特開2014-241397(JP,A)
【文献】特開2003-115629(JP,A)
【文献】特開2005-020037(JP,A)
【文献】特開2004-128298(JP,A)
【文献】特開平07-335969(JP,A)
【文献】特開平06-169129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H01L 31/12-31/16
H01L 21/306-21/308
H01L 21/465-21/467
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成されたn型導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層と、
前記n型クラッド層上に形成された1つ以上の量子井戸を含む発光層と、
前記発光層上に形成されたp型の導電性を有する窒化物半導体層を含むp型クラッド層と、を有する半導体積層部をエッチングして、共振器端面を有するメサ構造を形成してレーザーダイオードを形成するエッチング工程と、
前記メサ構造の全側面を覆うように光反射層を形成する反射層形成工程と、
を備
え、
前記共振器端面から発せられる光を受光して検知可能な、メサ構造を有する光検出器を形成する光検出器形成工程を更に備え、
前記反射層形成工程において、前記光検出器のメサ構造の全側面にも前記光反射層を形成する、光学装置の製造方法。
【請求項2】
前記光検出器形成工程が、前記エッチング工程に含まれる請求項
1に記載の光学装置の製造方法。
【請求項3】
前記レーザーダイオードと前記光検出器が隣接して形成される請求項
1又は
2に記載の光学装置の製造方法。
【請求項4】
前記基板がウエハ状であり、前記ウエハ状の基板上に、前記レーザーダイオードのメサ構造と、前記光検出器のメサ構造が各々複数形成される請求項
1から
3のいずれか一項に記載の光学装置の製造方法。
【請求項5】
前記光反射層を形成する方法が、アトミックレイヤーデポジション法ある請求項1から
4のいずれか一項に記載の光学装置の製造方法。
【請求項6】
前記エッチング工程がドライエッチングとウェットエッチングをこの順で有し、
前記基板がAlN基板であり、
前記ウェットエッチングのエッチング溶液が、水酸化テトラメチルアンモニウムを含む請求項1から
5のいずれか一項に記載の光学装置の製造方法。
【請求項7】
前記反射層形成工程より後に、ダイシング工程を更に備え、
該ダイシング工程で、共振器端面を有するメサ構造を備えるレーザーダイオードを個片化する請求項1から
6のいずれか一項に記載の光学装置の製造方法。
【請求項8】
前記エッチング工程と前記反射層形成工程の間に、前記レーザーダイオードの前記p型クラッド層と電気的に接続するp電極部を形成する電極部形成工程と、
前記p電極部を覆うように絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、を更に備える請求項1に記載の光学装置の製造方法。
【請求項9】
基板と、
前記基板上に形成され、n型導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層と、
前記n型クラッド層上に形成され、1つ以上の量子井戸を含む発光層と、
前記発光層上に形成され、p型の導電性を有する窒化物半導体層を含むp型クラッド層と、を有し、
前記n型クラッド層の少なくとも一部、前記発光層、及び前記p型クラッド層は、共振器端面を含むメサ構造であり、
前記メサ構造の全側面が光反射層に覆われているレーザーダイオードと、
を備
え、
前記基板上に形成され、前記レーザーダイオードから発する光を受光し検知する、メサ構造を有する光検出器をさらに備え、
前記光検出器のメサ構造の側面が前記光反射層に覆われている、光学装置。
【請求項10】
前記光検出器の受光面が、前記レーザーダイオードの主発光面に対向する位置に配置される請求項
9に記載の光学装置。
【請求項11】
前記レーザーダイオードを複数有する、請求項
9又は10に記載の光学装置。
【請求項12】
前記p型クラッド層に電気的に接続される電極部と、
前記光反射層と前記電極部の間に配置される絶縁層を更に備える請求項
9から
11のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項13】
前記光検出器を複数有する、請求項
9又は
10に記載の光学装置。
【請求項14】
前記基板がウエハ状である、請求項
9から
13のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項15】
基板と、
前記基板上に形成され、n型導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層と、
前記n型クラッド層上に形成され、1つ以上の量子井戸を含む発光層と、
前記発光層上に形成され、p型の導電性を有する窒化物半導体層を含むp型クラッド層と、を有し、
前記n型クラッド層の少なくとも一部、前記発光層、及び前記p型クラッド層は、共振器端面を含むメサ構造であり、
前記メサ構造の全側面が光反射層に覆われているレーザーダイオードと、
を備
え、
前記p型クラッド層は、Al
s
Ga
1-s
N(0.3≦s≦1)を含み、前記基板から遠ざかるにつれてAl組成sが小さくなる組成傾斜を有し、膜厚を0.5μm未満とするp型縦伝導層と、
Al
t
Ga
1-t
N(0<t≦1)を含むp型横伝導層と、を有する、光学装置。
【請求項16】
前記n型クラッド層と前記発光層との間に形成されて、前記発光層へ光を閉じ込めるn側導波路層と、
前記p型クラッド層と前記発光層との間に形成されて、前記発光層へ光を閉じ込めるp側導波路層と、を有する請求項
15に記載の光学装置。
【請求項17】
前記p型縦伝導層と前記p側導波路層との間に形成されて、Al
vGa
1-vN(0<v≦1)を含み、前記基板から遠ざかるにつれてAl組成vが増加する組成傾斜を有する中間層、を備える、請求項
16に記載の光学装置。
【請求項18】
前記p型縦伝導層は、前記p側導波路層との界面を含む領域がアンドープである、請求項
16又は
17に記載の光学装置。
【請求項19】
前記p型縦伝導層の膜厚が250nm以上450nm以下である、請求項
15から
18のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項20】
前記p型横伝導層は、前記p型縦伝導層との隣接面において、前記Al組成tが前記Al組成sの最小値よりも大きい、請求項
15から
19のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項21】
前記p型縦伝導層及び前記p型横伝導層が前記基板に対して完全歪である、請求項
15から
20のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項22】
前記発光層の発光波長が210nm以上300nm以下である、請求項
9から
21のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項23】
前記光反射層が、誘電体積層膜である請求項
9から
22のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項24】
前記光反射層がアルミニウム、ハフニウム、シリコン、チタン、ジルコニウム、鉛、及びガリウムからなる群より選択される少なくとも一つの酸化物である請求項
9から
23のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項25】
前記誘電体積層膜が、1周期以上のハフニウム酸化膜とアルミニウム酸化膜との積層膜である請求項
23に記載の光学装置。
【請求項26】
前記基板がAlN基板であり、
前記光反射層の前記共振器端面と接する面が、AlN基板の(0001)面に対して85度以上95度以下の角度である請求項
9から
25のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項27】
前記n型クラッド層、前記発光層、及び前記p型クラッド層がAlGaN層であり、前記共振器端面がAlGaN層の(1-100)面である請求項
9から
25のいずれか一項に記載の光学装置。
【請求項28】
前記レーザーダイオードを複数有する、請求項
15に記載の光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学装置の製造方法及び光学装置に関し、詳細には、レーザーダイオードを有する光学装置の製造方法及びレーザーダイオードを有する光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーダイオードは、適切な手法を用いて向かい合う2枚の平行なミラー端面を形成した後、通常閾値を低減させるための反射層を端面に形成することで作製される。非特許文献1は、一般的なレーザーダイオードのミラー端面形成手法を開示している。具体的には、半導体結晶を自然劈開面に沿って割ることで垂直でなめらかな端面を露出する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Z.Zhang,M.Kushimoto,T.Sakai,N.Sugiyama,L.J.Schowalter,C.Sasaoka and H.Amano,Appl.Phys.Express.12,124003(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の自然劈開面に沿って割ることで共振器端面を露出する方法において、当該共振器端面に反射層をコーティングする場合、特許文献1のように細かく分割したレーザーバーのハンドリングが不可欠であるため、大量生産には適さないという問題点がある。また従来の方法で得られたレーザーダイオードでは、迷光と称される共振器端面以外から出射した光に起因して、レーザーダイオードの正確な特性評価が困難であり、また、当該レーザーダイオードを用いた測定等において誤差が生じていた。
【0006】
すなわち、本発明は、大量生産に適したレーザーダイオードを有する光学装置の製造方法を提供することを課題とする。また、正確な特性評価が可能で測定誤差の小さいレーザーダイオードを有する光学装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様においては、基板上に形成され、n型導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に形成され、1つ以上の量子井戸を含む発光層と、前記発光層上に形成され、p型の導電性を有する窒化物半導体層を含むp型クラッド層と、を有する半導体積層部をエッチングして、共振器端面を有するメサ構造を形成してレーザーダイオードを形成するエッチング工程と、前記メサ構造の全側面を覆うように光反射層を形成する反射層形成工程と、を備える、光学装置の製造方法を提供する。
【0008】
本発明の第2の態様においては、基板と、前記基板上に形成され、n型導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に形成され、1つ以上の量子井戸を含む発光層と、前記発光層上に形成され、p型の導電性を有する窒化物半導体層を含むp型クラッド層と、を有し、前記n型クラッド層の少なくとも一部、前記発光層、及び前記p型クラッド層は、共振器端面を含むメサ構造であり、前記メサ構造の全側面が光反射層に覆われているレーザーダイオードと、を備える光学装置を提供する。
【0009】
ここで、例えば「基板上に形成され、n型導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層」という表現における「上に」という文言は、基板の上にn型クラッド層が形成されることを意味するが、基板とn型クラッド層との間に別の層がさらに存在する場合もこの表現に含まれる。その他の層同士の関係においても、「上の」という文言は、同様の意味を有する。
【0010】
ここで、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションは発明となりうる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、大量生産に適したレーザーダイオードを有する光学装置の製造方法を提供することが可能になる。また、正確な特性評価が可能で測定誤差の小さいレーザーダイオードを有する光学装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)、
図1(b)及び
図1(c)は、本実施形態の光学装置の製造方法のエッチング工程の模式図である。
【
図2】
図2(a)及び
図2(b)は、本実施形態の光学装置の及び本実施形態の光学装置の製造方法の反射層形成工程の模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の光検出器を備える光学装置の模式図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の光学装置における半導体積層部の模式図である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は、実施例1におけるメサ構造の側面を観察した断面TEM像である。
【
図6】
図6は、実施例1における光反射層の理論反射率と実測反射率を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例1におけるレーザーダイオードの共振器端面を含む断面TEM像である。
【
図8】
図8は、実施例1におけるレーザーダイオードの電流-電圧(I-V)及び順方向パルス電流の関数としてプロットした、光出力(I-L)特性である。
【
図9】
図9は、実施例2におけるレーザーダイオード及び光検出器を備える光学装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
<光学装置の製造方法>
本実施形態の光学装置の製造方法は、基板上に形成されたn型導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層と、n型クラッド層上に形成された1つ以上の量子井戸を含む発光層と、発光層上に形成されたp型の導電性を有する窒化物半導体層を含むp型クラッド層と、を有する半導体積層部をエッチングして、共振器端面を有するメサ構造を形成してレーザーダイオードを形成するエッチング工程と、メサ構造の共振器端面を含む全側面を覆うように光反射層を形成する反射層形成工程と、を備える。
【0015】
レーザーダイオードのメサ構造の共振器端面を含む全側面を覆うように光反射層を形成する工程を備えることで、細かく分割したレーザーバーのハンドリングという課題がなくなり、大量生産に適している。
【0016】
ここで「全側面を覆う」とは、対象物(ここでは光反射層)を各側面に垂直投影した時に側面の略全体が対象物の垂直投影像で覆われることを意味する。光反射層と各側面の間には他の層が介在してよいが、正確な特性評価を可能にし、測定誤差を小さくする観点から光反射層が側面に直接配置されることが好ましい場合がある。
【0017】
「共振器端面」とは、レーザー光の主発光面となる面であり、少なくとも発光層を含む半導体積層部の断面である。レーザー光の主発光面となる面であるため、一般的には上部から平面視したときの短辺側の発光層を含む端面となる。
【0018】
<<エッチング工程>>
図1(a)、
図1(b)及び
図1(c)はエッチング工程の模式図である。エッチング工程は、基板11上に形成されたn型導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層12と、n型クラッド層12上に形成された1つ以上の量子井戸を含む発光層14と、発光層14上に形成されたp型の導電性を有する窒化物半導体層を含むp型クラッド層20と、を有する半導体積層部30をエッチングして、共振器端面41を有するメサ構造40を形成する。さらに別のエッチング工程によって、メサ構造40のエッチング深さよりさらに深いエッチングが施されてよい。例えば、出射される光の縦方向(基板面に垂直方向)の広がりによる底面での反射の影響を低減するために、
図1(c)に示すように、光が出射する側(共振器端面側)をメサ構造40よりも深くエッチングしてよい。その際、エッチングは基板11に到達してよい。
【0019】
特に制限されないが、基板平面に対して垂直に近い共振器端面を形成する観点から、ドライエッチングとウェットエッチングをこの順で適用することが好ましい。
【0020】
基板がAlN基板であり、半導体積層部がAlGaNを含む場合、任意のドライエッチングを行った後に、水酸化テトラメチルアンモニウムをエッチング溶液としてウェットエッチングを行うことで、AlN基板の(0001)面に対してほとんど垂直なAlGaN層の(1-100)面を共振器端面として露出することが可能になる。ドライエッチングは、例えば、SiO2をマスクとしてCl2及びBCl3雰囲気中での誘導結合型反応性イオンエッチング(ICP-RIE)である。詳細は実施例にて述べるが、基板に対して垂直に近い共振器端面ほど高い反射率を実現できる。
【0021】
<<反射層形成工程>>
図2(a)及び
図2(b)は反射層形成工程の模式図である。反射層形成工程は、レーザーダイオードのメサ構造40の全側面を覆うように光反射層50を形成する。特に制限されないが、
図2(a)に示すようにメサ構造40のすべての側面のみを覆うように光反射層50が形成されてよい。また、
図2(b)に示すようにメサ構造40の全ての側面及び上面の一部若しくは全部を覆うように光反射層が形成されてよい。
【0022】
光反射層を形成する方法は特に制限されないが、ステップカバレッジのよい堆積方法として、アトミックレイヤーデポジション法が好ましい。アトミックレイヤーデポジション法とは複数の気相原料(プリカーサ)を交互に基板表面に暴露させることで膜を生成する薄膜形成方法である。CVDと異なり、違う種類のプリカーサが同時に反応チャンバに入ることはなく、それぞれ独立のステップとしてパルス的に交互導入され排出(パージ)される。各パルスにおいてプリカーサ分子は基板表面で自己制御的に振る舞い、吸着可能なサイトが表面になくなった時点で反応が終了する。従って、一度のサイクルにおける最大成膜量は、プリカーサ分子と基板表面分子が化学的にどのように結合するのか、その性質により規定される。そのためパルスサイクルのシーケンス、反応層温度、原料種などの薄膜形成条件をコントロールすることで任意の構造・サイズの基板に対して高精度かつ均一に成膜することができる。例えばVeeco/CNT社のALD装置等を用いることができる。
【0023】
後述のハフニウム酸化物とアルミニウム酸化物の多層構造を用いる場合、ハフニウム酸化物の気相原料としては、TDMAH(テトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウム)を用いることができる。また、アルミニウム酸化物の気相原料としては、TMA(トリメチルアルミニウム)を用いることができる。
【0024】
<<絶縁層形成工程及び電極部形成工程>>
本実施形態の光学装置の製造方法は、エッチング工程と反射層形成工程の間に、レーザーダイオードのp型クラッド層と電気的に接続するp電極部を形成する電極部形成工程と、p電極部を覆うように絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、を更に備えていてよい。
【0025】
電極部形成工程及び絶縁層形成工程を更に備えることにより、光学装置に電力を印加した際の効率を良くすることができる。絶縁層は後述する光検出器のメサ構造の少なくとも一部の上面を覆うように形成されてよい。
【0026】
また、絶縁層はメサ構造の側面の少なくとも一部を覆うように形成されてよい。
【0027】
ここで、p電極部は、p型クラッド層に直接接続されて電気的に接続されてよいし、間に別の層(例えばコンタクト層)を介して電気的に接続されてよい。
【0028】
絶縁層を形成するための材料としては、例えばケイ素、ボロン、ハフニウム、チタン、アルミニウムなどを含む金属酸化物及び金属窒化物等が挙げられるがこの限りではない。
【0029】
<<光検出器形成工程>>
本実施形態の光学装置の製造方法は、共振器端面から発せられる光を受光して検知可能な、メサ構造を有する光検出器を形成する光検出器形成工程を更に備え、反射層形成工程において、光検出器のメサ構造の全側面にも光反射層を形成することが好ましい。
【0030】
詳細は後述するが、同一基板上に光検出器を設けることにより、レーザーダイオードから発せられた光を光検出器で検知することが可能になる。本実施形態のレーザーダイオード及び光検出器はメサ構造の各々の全側面に光反射層が形成されているため、当該検知のノイズとなる迷光(共振器端面以外から出射した光)の影響を低減することが可能になる。
【0031】
また、光検出器形成工程が、レーザーダイオードのエッチング工程に含まれる、すなわち、レーザーダイオードのメサ構造と光検出器のメサ構造を同時に形成することも好ましい。これにより、追加のプロセスなく同一基板上にレーザーダイオードと光検出器を設けることが可能になる。
【0032】
レーザーダイオードから発せられた光を高感度に検出することを可能にする観点から、レーザーダイオードと光検出器が隣接して形成されることが好ましい。具体的にはレーザーダイオードの共振器端面の一方と光検出器の受光面が対向する位置にレーザーダイオードと光検出器を形成することが好ましい。
【0033】
量産性向上の観点から、基板がウエハ状であり、ウエハ状の基板上に、レーザーダイオードのメサ構造と、光検出器のメサ構造が各々形成されることが好ましく、各々複数形成され得ることがより好ましい。また、同一基板上にレーザーダイオードと光検出器を形成することにより、両者の位置ずれを製造装置によるメサパターン形成の誤差レベルまで低減することが可能であり、効率よくレーザーの射出光を光検出器にカップリングさせることが可能になる。
【0034】
<<ダイシング工程>>
本実施形態の光学装置の製造方法は、反射層形成工程よりも後に、共振器端面を有するメサ構造を備えるレーザーダイオードをレーザーダイオードチップへ個片化するダイシング工程を更に備えることができる。これにより、従来技術のようにハンドリングが困難であったレーザーバー(個片化されたレーザーダイオード)状態で共振器端面に反射層をコーティングすることなく、共振器端面に反射層を備えるレーザーダイオードチップが簡易に製造することが可能になる。また、一つの基板上に光検出器を備えたレーザーダイオードチップを同一のダイシング工程にて形成するが可能であることにより、生産性が劇的に向上する。
【0035】
つぎに、本実施形態の光学装置が説明される。
【0036】
(光学装置)
図2(a)及び
図2(b)に示すように、本実施形態の光学装置は、基板11と、基板11上に形成され、n型導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層12と、n型クラッド層12上に形成され、1つ以上の量子井戸を含む発光層14と、発光層14上に形成され、p型の導電性を有する窒化物半導体層を含むp型クラッド層20と、を有し、n型クラッド層の少なくとも一部、発光層、及びp型クラッド層は、共振器端面41を含むメサ構造40であり、メサ構造40の共振器端面41を含む全側面が光反射層50に覆われているレーザーダイオード1と、を備える。
【0037】
「メサ構造の共振器端面を含む全側面が光反射層に覆われている」とは、光反射層がメサ構造の全側面上に直接形成されて直接覆う形態でよいし、側面と光反射層の間の別の層を介して間接的に覆う形態でよい。即ち、メサ構造の側面に垂直な方向から平面視した時に光反射層がメサ構造の側面を覆っていれば良い。
【0038】
図3に示すように、本実施形態の光学装置は、レーザーダイオード1から発する光を受光し検知する、メサ構造を有する光検出器2をさらに備え、光検出器2のメサ構造の側面が光反射層51に覆われていてよい。光反射層51は光反射層50と同一であってよいし、異なっていてよい。高精度にレーザーダイオードの特性評価を実現する観点からは同一であることが好ましい。光検出器2の層構造はレーザーダイオードと同一であってよいし、異なっていてよい。光検出器の受光面はレーザーダイオードの主発光面、すなわち共振器端面に対向する位置に配置されることが好ましい。光反射層で側面が覆われたレーザーダイオード及び光検出器を備えることにより、レーザーダイオードの特性評価をより簡易にかつ高精度に実施することが可能である。同一基板上にレーザーダイオードと光検出器を形成することにより、両者の位置ずれを製造装置によるメサパターン形成の誤差レベルまで低減することが可能であり、高精度な特性評価が可能になる。さらに、上述の通りレーザーダイオードと光検出器の層構造が同一である場合、発光面と受光面の高さが略同一になるために、更に高精度な特性評価が可能となる。
【0039】
本実施形態の光学装置は、レーザーダイオード及び光検出器を制御する制御部を備えていてよい。
【0040】
本実施形態の光学装置は、レーザーダイオードを複数有してよい。本実施形態の光学装置は、光検出器を複数有してよい。本実施形態の光学装置は、基板がウエハ状であってよい。レーザーダイオード及び/又は光検出器を複数有する場合、基板がウエハ状であることで生産効率がより向上する。
【0041】
また、光検出器2をさらに備える場合は、光反射層50,51を備えない形態であってよい。その場合、検出精度向上の観点から、レーザーダイオード1と光検出器2は同一基板上に形成されていることが好ましく、同一層構造であることがより好ましい。同一層構造である場合、レーザーダイオードの共振器端面と、光検出器の受光層端面が同じ高さになるため、高効率に光を受光することが可能になり、測定精度がより向上する。レーザーダイオードの共振器端面と光検出器の受光層の距離が近いほうが好ましく、50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがより更に好ましい。通常、レーザーダイオードの共振器端面と光検出器の受光層の距離をこのような距離で形成することはプロセス上困難であり、位置ズレ等の影響で測定精度が劣ってしまうが、同一基板上の同一層構造とすることにより、煩雑なプロセスを導入することなく高精度に両者を備える光学装置を実現可能になる。
【0042】
(光反射層)
所望の波長に対する高い光反射率の光反射層を設計する観点から、光反射層は誘電体積層膜であることが好ましい。誘電体積層膜は2つ以上の異なる材料の積層であれば良い。周期は1周期以上であればよい。例えば、第1の材料/第2の材料/第1の材料の3層からなる場合は1.5周期である。
【0043】
光反射層の材料としては、アルミニウム、ハフニウム、シリコン、チタン、ジルコニウム、鉛、マグネシウム、及びガリウムからなる群より選択される少なくとも一つの酸化物又はフッ化物、又は窒化物であることが好ましい。また2つ以上の酸化物の組み合わせにより上述の誘電体積層膜が実現されてよい。
【0044】
光反射層は反射率が0より大きければ特に制限されないが、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0045】
(レーザーダイオード)
本実施形態の光学装置におけるレーザーダイオードは、基板と、基板上に形成され、n型導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層と、n型クラッド層上に形成され、1つ以上の量子井戸を含む発光層と、発光層上に形成され、p型の導電性を有する窒化物半導体層を含むp型クラッド層と、を含む半導体積層部を有する。n型クラッド層の一部、発光層、及びp型クラッド層は、共振器端面を含むメサ構造である。メサ構造の共振器端面を含む全側面は光反射層に覆われている。
【0046】
共振器とは、対面した光反射面の間に光を閉じ込め、光の定常波を作り出す部位である。共振器端面とは光反射面のことである。特に制限されないが、結晶の劈開面を用いることができる。共振器がAlGaN層の場合、例えばAlGaNの(1-100)面を共振器端面として用いることができる。共振器端面は基板平面に対して垂直に近い角度で設けられていることが好ましい。具体的には基板平面に対して60度から120度であることが好ましく、80度から100度であることがより好ましく、85度から95度であることが更に好ましく、87.5度から92.5度であることがよりさらに好ましい。
【0047】
メサ構造とは、断面視したときに上方に凸となる形状の領域を含む構造であり、当該構造の断面視したときの形状は四角形(典型的には台形)である。換言すると、断面視したときに、下部領域の平面を底面とし、該底面と略平行な面を上面として持つ領域を含む構造である。一般的には半導体積層部の一部をエッチングすることでエッチングされなかった領域がメサ構造となる。
【0048】
次に、
図4を参酌しながら半導体積層部及び該半導体積層部の各構成要件が説明される。
【0049】
(半導体積層部)
半導体積層部は、基板11上に形成されたn型導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層12と、n型クラッド層上に形成された1つ以上の量子井戸を含む発光層14と、発光層上に形成されたp型の導電性を有する窒化物半導体層を含むp型クラッド層20と、を有する。
【0050】
半導体積層部は、さらにp型縦伝導層16、p型横伝導層17、n側導波路層13、p側導波路層15、p型コンタクト層18、電極部(図示せず)を備えていてよい。
【0051】
(基板)
基板11は、半導体積層部を、低い面内転位密度を有する基板11の上面に成長できるものが好ましい。本発明の効果を最大化できる実施形態の一つは、レーザーダイオード1の様々な層において、面内転位密度が5×104cm-2以下の良質な層である。特に面内転位密度が5×104cm-2以下の結晶では、転位によるキャリア散乱が軽減されることで、縦抵抗率が減少する結果、さらに縦横抵抗率の比が小さくなる傾向にある。したがって基板11は上記の欠陥密度よりさらに低い欠陥密度(例えば1×103~1×104cm-2)が求められる。様々な基板11のうち、例えば、AlN単結晶の基板11上には1×104cm-2以下のAlxGa1-xN混晶を得ることができるため好ましいが、この限りではない。基板11の貫通転位密度は、例えば、450℃で5分間KOH-NaOH共晶エッチングを行った後にエッチピット密度測定を用いて測定され得る。
【0052】
基板11は、異なる材料(例えばSiC、Si、MgO、Ga2O3、アルミナ、ZnO、GaN、InN、及び/又はサファイア)を含むか、本質的にそれから成るか、若しくはそれから成り、その上にAluGa1-uN材料(0≦u≦1.0)が例えばエピタキシャル成長によって形成されている可能性がある。そのような材料は、実質的に完全に格子緩和され、例えば少なくとも1μmの厚さを有し得る。基板11は、例えばAlNのような、基板11内又は基板11上に存在する同一の材料を含むか、本質的にそれから成るか、又はそれから成るホモエピタキシャル層で覆うことができる。
【0053】
基板11は、伝導性を得るなどの目的で、Nの他に,P,As,Sb等のN以外のV族元素,H,C,O,F,Mg,Si等の不純物が混入していて良いが,元素としてはこの限りではない。
【0054】
レーザーダイオード1は、好ましくは(0001)面、又は(0001)面法線方向からいくらかの角度に傾いた面上に形成することができるが、これに限らない。この角度は、例えば-4°~4°に設定され、好ましくは-0.4°~0.4°に設定される。
【0055】
基板11上に配置された多層構造の様々な層は、例えば、有機金属化学気相堆積(MOCVD)、ハライド気相成長法(HVPE)等の堆積法、分子線エピタキシー法(MBE)のようなエピタキシャル成長技法等、多種多様な異なる技法のいずれかによって形成され得る。
【0056】
(p型クラッド層)
p型クラッド層20は、p型の導電性を有する窒化物半導体層を含む。p型クラッド層20は、基板11に対して完全歪であることが好ましい。完全歪で形成されるレーザーダイオード1の層は貫通転位密度の増加を抑制することができるため、本発明の効果を最大化する。ここで、「基板11に対して完全歪」という文言は、多層を構成する層が基板11に対して格子緩和率が5%以下の非常に小さな歪み緩和を有することを意味する。格子緩和率は、非対称面のX線回折測定によって十分な回折強度が得られる面、例えば(105)面、(114)面又は(205)面などのいずれかの非対称面の回折ピークの逆格子座標と、基板11の回折ピークの逆格子座標から規定することができる。
【0057】
p型縦伝導層16とp型横伝導層17を有する場合、両者が合わせてp型クラッド層をなす。
【0058】
(p型縦伝導層)
p型縦伝導層16は、p型の伝導性を得る目的で、Al組成sが基板11の上面から遠ざかる方向へ減少する様に傾斜したAlsGa1-sNから成る層である。つまり、p型クラッド層を構成するp型縦伝導層16は組成傾斜を有する。p型縦伝導層16の膜厚とAl組成s範囲は、所望する発光波長の光を吸収しないバンドギャップの材料であって、デバイス内で定在する光モードの電界強度分布と発光層14の重なりを増大させる(すなわち光閉じ込めを増大させる)目的でAl組成、膜厚が限定されることがある。発光層14の発光波長が210nm以上300nm以下の場合、例えばAl組成sが0.3以上1.0以下の範囲において、基板11の上面から遠ざかる方向に減少したAlsGa1-sNから成る層であって、膜厚が250nm以上450nm以下、より好ましくは300nm以上400nm以下であることが好ましい。適切に膜厚を制御することで、レーザーダイオード1の内部損失を低減することができる。
【0059】
レーザーダイオード1の内部損失は、例えば、公知のVariable Stripe Length Method(以下、VSLM)などの方法によって測定が可能である。
【0060】
p型縦伝導層16は、その膜厚に対するAl組成の変化量が一様でなくとよい。光閉じ込めを増大させる目的などから、発光層14へ近づくにつれてAl組成の変化量が漸近的に、又は段階的に減少する構成であり得る。
【0061】
p型縦伝導層16は、不純物の拡散を抑制する目的などから,p側導波路層15に近い領域においてH,Mg,Be,Zn,Si,B,等の不純物を意図的に混入しないことが好ましく、すなわちアンドープの状態であることが好ましい。ここで、「アンドープ」という文言は、対象の層を形成する過程で元素として上記が意図に供給されないことを意味する。ただし、原料、製造装置由来の元素が、例えば1016cm-3以下の範囲で混入される場合は、この限りでない。元素の混入量は、二次電子イオン質量分析等の手法によって規定することができる。本願の「アンドープ」は本質的に同様な意味を示す。また、p型縦伝導層16のアンドープの状態とする領域は、少なくともp側導波路層15との境界を含む。ただし、領域の大きさは限定されない。例えば、p型縦伝導層16の全ての領域がアンドープの状態であってよい。また、別の例として、p型縦伝導層16のうち、p型横伝導層17よりもp側導波路層15に近い50%の領域がアンドープの状態であってよい。また、別の例として、p型縦伝導層16のうち、p側導波路層15に近い約10%の領域がアンドープの状態であってよい。
【0062】
p型縦伝導層16とp側導波路層15の中間に、伝導率を向上させる目的、かつ/又はp型横伝導層17及びp型コンタクト層18を完全歪で形成させるためなどの目的から、基板11の上面から遠ざかる方向へAl組成vが増加するようなAlvGa1-vN(0<v≦1.0)から成る中間層を設けることができる。p型縦伝導層16とp側導波路層15の中間層は、所望する発光波長の光を吸収しないバンドギャップでない混晶であって良く、さらに50nm以下の膜厚であることが好ましく、アンドープであって良い。
【0063】
p型縦伝導層16の縦抵抗率は、例えば本願実施形態のレーザーダイオード1の直列抵抗値Rsから、n型クラッド層12が寄与する抵抗値Rnを除いた抵抗値Rs´=Rs-Rnを用いて算出することができる。レーザーダイオード1のp型コンタクト層18に接触するp型電極の面積Aとp型クラッド層20の膜厚Tから、p型クラッド層20の縦抵抗率はRs´×A/Tとして算出される。n型クラッド層12の抵抗値Rは、例えば、伝送線路測定法及び渦電流による非接触抵抗測定によって決定され得る。
【0064】
(p型横伝導層)
p型横伝導層17は、p型横伝導層17を貫通するキャリアの量子透過を容易とするように薄い膜厚であり得る。例えば20nm以下、又は10nm以下、好ましくは5nm以下である。
【0065】
p型横伝導層17は、p型横伝導層17の縦抵抗率を制御する目的などからH,Mg,Be,Zn,Si,B,等の不純物を意図的に混入されることができる。混入される不純物の量は、p型横伝導層17の表面及び内部に誘積される正味の電界量に応じて、一例として、1×1019cm-3以上5×1021cm-3を取り得る。
【0066】
p型横伝導層17の、p型コンタクト層18との界面におけるAl組成は、好ましくは0.9以上1.0以下の範囲であって、基板11に対して完全歪であることが好ましい。このようなp型横伝導層17は、p型横伝導層17の表面及び表面付近の内部に蓄積される正味内部電界が負となって、正孔が誘積されることで横伝導率を向上させる効果がある。また、レーザーダイオード1の領域においてp型横伝導層17のAl組成の分布が5%以下に制限されることが好ましい。このようなp型横伝導層17は、組成の分布によるキャリア散乱が低減されるためにより高い横伝導率を実現し得る。
【0067】
p型横伝導層17は、最終的なp型横伝導層17のAl組成tより小さいAl組成yから成るAlyGa1-yNをAl原料及びGa原料が供給されない高温状態で保持することによって、Al組成tが0.9≦t≦1.0のAltGa1-tNであるように形成されることが好ましい。
【0068】
(n型クラッド層)
n型クラッド層12は、n型の導電性を有する窒化物半導体層を含む。n型クラッド層12は、基板11に対して完全歪で形成されることが好ましい、またn型クラッド層12が基板11に対して完全歪で形成する目的で、n型クラッド層12と基板11の界面にAl組成が一様に変化する中間層が存在し得、また、n型クラッド層12のAl組成と膜厚が制約を受けることがある。n型クラッド層12は、適切な電極に対して低い接触抵抗(例えば1×10-6~1×10-4Ωcm2)を得る目的でAl組成が制限を受けることがある。上記の制限を鑑みたn型クラッド層12の実施形態として、Al組成が0.6~0.8、厚みが0.3~0.5μmであってよい。
【0069】
n型クラッド層12は、その縦伝導率を制御する目的などから、Al組成を基板11から遠ざかる方向に対して増加させるような傾斜層であって良い。この場合、上記のAl組成に対する限定はn型クラッド層12内、各膜厚方向位置におけるAl組成をn型クラッド層12の膜厚で平均したAl組成として、同様の実施形態を取ることができる。
【0070】
n型クラッド層12は、その縦伝導率を制御する目的などから,Nの他に,P,As,Sb等のN以外のV族元素,H,C,O,F,Mg,Ge,Si等の不純物が混入していて良いが,元素としてはこの限りではない。適切な不純物の混入量はn型クラッド層12のAl組成によって制限を受ける。好ましくは1×1019~1×1020cm-3である。
【0071】
(導波路層)
導波路層は、所望する発光波長の光を吸収しないバンドギャップを持つAl、Gaを含む窒化物半導体であって、デバイス内で定在する光の電界強度分布と発光層14の重なりを増大させる目的でAl組成、膜厚が限定され得る。例えば260nm~280nmの発光層14に対してAl組成0.55~0.65、膜厚70~150nmなどが好ましい。
【0072】
導波路層は、発光層14に対してn型クラッド層12側の部分(n側導波路層13)と、発光層14に対してp型クラッド層20側(p側導波路層15)の2層から構成され得る。すなわち、n側導波路層13は、n型クラッド層12と発光層14との間に形成され得る。p側導波路層15は、p型クラッド層20と発光層14との間に形成され得る。n側導波路層13とp側導波路層15の膜厚比は、発光層14への光閉じ込めと、n型クラッド層12とp型クラッド層20のAl組成によってさまざまに取りうる。n側導波路層13とp側導波路層15のAl組成は膜厚方向において均一であることが好ましいが、この限りではない。p型コンタクト上に存在する金属への光吸収を回避するために、p側導波路層15のAl組成がn側導波路層13のAl組成より高い可能性がある。同様の目的で、p側導波路層15の膜厚がn側導波路層13の膜厚より厚い可能性がある。n側導波路層13は、n型クラッド層12と同じ伝導型を得る目的などからNの他に,P,As,Sb等のN以外のV族元素,H,C,O,F,Mg,Si等の不純物が混入していて良いが,元素としてはこの限りではない。
【0073】
n側導波路層13とn型クラッド層12の中間に、縦伝導率を向上させる目的などから、Al組成wが、基板11の上面から遠ざかる方向において、減少するようなAlwGa1-wNから成る組成傾斜層を設けることができる。n側導波路層13とn型クラッド層12の中間層は、10nm以下の膜厚であることが好ましい。
【0074】
p側導波路層15とp型クラッド層20の中間に、縦伝導率を向上させる目的などから、基板11の上面から遠ざかる方向へAl組成xが増加するようなAlxGa1-xNから成る組成傾斜層を設けることができる。p側導波路層15とp型クラッド層20の中間層は、導波路層への光閉じ込めを劣化させないために十分に薄い(例えば30nm以下、又は20nm以下の)膜厚であることが好ましい。
【0075】
p側導波路層15の内部又はp側導波路層15と発光層14の中間、又はp側導波路層15とp型縦伝導層16の中間、又はp側導波路層15の一部において、バンドギャップがp側導波路層15より大きい電子ブロック層を設けることができる。電子ブロック層は、電子ブロック層を正孔が量子貫通しやすいように、30nm以下、又は20nm以下、さらに好ましくは15nm以下とすることができる。
【0076】
(発光層)
発光層14は、n型クラッド層とp型クラッド層によって直接又は間接的に挟まれた単数又は複数の量子井戸であり得る。量子井戸の数は、n型クラッドとp型クラッドの縦伝導率によって、3又は2、又は1であり得る。
【0077】
発光層14の結晶欠陥の影響を低減する目的などから、発光層14の一部又は全てがSi,Sb,Pなどの元素が1×1015cm-3以上意図的に混入されてよい。
【0078】
(p型コンタクト層)
p型コンタクト層18は、p型クラッド層20上に形成され、GaNを含む窒化物半導体であってよい。コンタクト抵抗を低減するなどの目的において、Nの他に,P,As,Sb等のN以外のV族元素,H,B,C,O,F,Mg,Ge,Si等の不純物が混入していて良いが,元素としてはこの限りではない。例えばMgを1×1020~1×1022cm-3混入させることができる。
【0079】
レーザーダイオード1に対する電気的接触は、p型コンタクト層18上に配置された電極部によって、及び、n型クラッド層12に接触するように配置された電極部によって行うことができる。例えば、基板11の裏側に電極部を配置するか、又は、p型コンタクト層18近傍の1つ以上の領域において、n型クラッド層12が露出するようにレーザーダイオード1の様々な上部の層を、例えば化学エッチング又はドライエッチングによって除去し、露出したn型クラッド層12上に電極を配置することで成し得る。
【0080】
(電極部)
p型コンタクト層18上に配置される電極部は、Ni,Pt、Au、Pdのうち一つ以上の元素を含む金属であって良い。
【0081】
n型クラッド層12、又は基板11の裏面に配置される電極部は、V,Al,Au,Ti、Ni、Moのうち一つ以上の元素を含む金属であって良い。基板11に接触する金属層はV又はTiを含む金属であることが好ましい。
【実施例】
【0082】
[実施例1]
実施例1として、以下に示す窒化物半導体レーザーダイオードを備える光学装置が作製された。レーザーダイオードの作製にはMOCVD、また、原料には、トリメチルガリウム(TMG)、トリエチルガリウム(TEG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(Cp2Mg)などが用いられた。単結晶AlN基板11の(0001)面に対して0.1°~0.3°傾斜した面上に、TMA、NH3を1200℃のH2雰囲気中で反応させることによって、0.2μmのAlNから成るホモエピタキシャル成長層が形成された。
【0083】
AlNから成るホモエピタキシャル成長層上に、TMA、TMG、NH3及びSiH4を1055℃のH2雰囲気中で反応させることによって、AlGaN中間層と、n型クラッド層12と、がこの順序で積層された。AlGaN中間層は、30nmの膜厚を有し、基板11の上面から遠ざかる方向にAl組成が1.0から0.71まで一様に減少する。n型クラッド層12は、0.35μmの膜厚を有し、5×1019cm-3のSiによってドープされたAl0.7Ga0.3Nの層である。AlNホモエピタキシャル成長層、中間層及びn型クラッド層12は、0.3~0.6μm/hの速度で形成されることによって、基板11に対して完全歪であるように形成された。
【0084】
n型クラッド層12上に、TMA、TMG、NH3を1055℃のH2雰囲気中で反応させることによって、n側導波路層13と、発光層14と、がこの順序で積層された。n側導波路層13は、60nmの膜厚を有し、Al0.63Ga0.37Nから成る。発光層14は、総膜厚30nmの多層量子井戸層から成る。発光層14の障壁層の一部の形成中に、SiH4を原料として導入することによって、3×1019cm-3のSiがドープされた。さらに、発光層14上に50nmの膜厚を有し、Al0.62Ga0.38Nから成るp側導波路層15が形成された。n側導波路層13、発光層14及びp側導波路層15は、0.4μm/hの速度で形成されたことによって、基板11に対して完全歪であるように形成された。
【0085】
p側導波路層15上に、TMA、TMG、NH3を1055℃のH2雰囲気中で反応させることによって、20nmの膜厚を有し、Al組成が、基板11の上面から遠ざかる方向に0.62から1.0まで一様に増加するAlGaN中間層と、0.32μmの膜厚を有し、Al組成が、基板11の上面から遠ざかる方向に1.0から0.3まで減少させたp型縦伝導層16と、がこの順序で積層された。p型縦伝導層16は、0.3~0.5μm/hの速度で形成されたことによって、基板11に対して完全歪であるように形成された。また、p型縦伝導層16は、全ての領域がアンドープの状態である。
【0086】
p型縦伝導層16上に、3nmの膜厚を有し、Al0.45Ga0.05Nから成るp型横伝導層17が形成された。さらに、1055℃の状態でTMA、TMG原料の供給を停止し、Cp2Mgの供給のみを行った状態を10分間以上保持(アニール)することによって、p型横伝導層17が1×1020cm-3のMgによってドープされたAl0.97Ga0.03N層に変質した。このような手順で変質させることによって、p型横伝導層17は基板11に対して完全歪であるように形成された。ここで、p型縦伝導層16とp型横伝導層とが併せてp型クラッド層20をなす。
【0087】
(002)面のXRD測定を行ったところ、p型横伝導層17のAl組成の分散は、レーザーダイオード1の領域に相当する領域範囲において3.5%であった。p型横伝導層17は、複数の位置において、透過電子顕微鏡の<11-20>方向の透過像によって原子配列を確認したところ、基板11に対して完全歪であった。
【0088】
p型横伝導層17上に、TMG、Cp2Mg、NH3を940℃のH2雰囲気中で反応させることによって、膜厚20nmであって、5×1020cm-3のMgによってドープされたGaNから成るp型コンタクト層18が形成された。
【0089】
上記のように作製された窒化物半導体のレーザーダイオード1は、N2雰囲気中、700℃で10分以上アニーリングを行うことによって、p型層を更に低抵抗化した。
【0090】
Cl2を含むガスによりドライエッチングを行うことによって、<1-100>方向に平行であって、<1-100>方向に長い矩形の領域内において、n型クラッド層12が露出した。さらに、窒化物半導体のレーザーダイオード1の表面にSiO2を含むパッシベーション層が形成された。
【0091】
p型コンタクト層18上に、<1-100>方向に平行であって、<1-100>方向に長い矩形のNi又はAuを含む電極金属領域(p型電極)が複数形成された。また、n型クラッド層12が露出した領域において、<1-100>方向に平行であって、<1-100>方向に長い矩形のV、Al、Ni、Ti又はAuから成る電極金属(n型電極)が複数形成された。
【0092】
次に、PECVD法で堆積した500nmのSiO
2をマスクとして、ULVAC社製のICP-RIE装置(CE-S)を使用し、Cl
2とBCl
3雰囲気中でp型コンタクト層から深さ方向に1.2μmドライエッチングが行われた。AlGaN層の(1-100)面に沿ったドライエッチングがなされ、共振器端面を含む長さ400μm、幅100μmのメサ構造が形成された。このとき、共振器端面はAlN基板の(0001)面に対して60度の傾斜を有していた(
図5(a))。
【0093】
ついで、80℃のTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)溶液(濃度25%)中に7.5分浸漬し、ウェットエッチングが行われた。その結果、AlN基板の(0001)面に対して略垂直(91.5度)なミラー端面が形成された(
図5(b))。
【0094】
続いて、Veeco/CNT社製のALD装置(Fiji G2)を用いたアトミックレイヤーデポジション法にて、酸化ハフニウム(HfO2)と酸化アルミニウム(Al2O3)の積層膜からなる光反射層が形成された。積層膜は、メサ構造の側面側から41nmの酸化ハフニウムと22nmの酸化アルミニウムが交互に4.5周期堆積した構造とした。
【0095】
ここで、本実施例に先立ち、同一構造の光反射層をサファイア基板上に形成し、反射率を測定したところ、
図6に示すように、波長275nmで最大の反射率が約80%となっており、理論値と一致していることが確認された。
【0096】
図7はレーザーダイオードの共振器端面を含む断面TEM像である。本実施例の方法で得られた光反射層は、メサ構造の側面を均一に被覆していることがわかる。すなわち、On-Waferで共振器端面を含むメサ構造の側面に均一な光反射層を形成することが可能であることが理解される。
【0097】
図8は作製したレーザーダイオードの電流-電圧(I-V)及び順方向パルス電流に対する端面発光強度(I-L)特性である。端面発光強度は、光電子増倍管によって検出した。電流経路がp電極直下の領域に制限されていると仮定した場合の電流密度である20kA/cm
2に対応する、順方向電流が0.3Aを超えたあたりで非線形な端面発光強度の立ち上がりがみられ、エッチング法とALD法を用いてミラー端面を形成したLDの室温パルス電流下での発振が観察された。278.9nmの波長に先鋭なスペクトルピークが出現した。
図8の挿入図は、順方向電流が0.37Aの時の分光器で測定したスペクトルである。また、閾値電流における駆動電圧は13.8Vであった。
【0098】
[実施例2]
実施例1におけるエッチング工程において、レーザーダイオード1に加えて光検出器2のメサ構造が形成された。
図9は実施例2におけるレーザーダイオード1と光検出器2を備える光学装置の1つの繰り返し単位を抜き出した模式図である。
図9の構造を繰り返し単位として複数のレーザーダイオード1及び光検出器2が作製された。
【0099】
図中、61はp型電極である。また、62はn型電極である。レーザーダイオード1と光検出器2の半導体積層部の構造は同一としている。ここで、光検出器側の構造の符号はレーザーダイオード1と対応するものに「´」を付している。また、図示していないが、p型電極及びn型電極の外部とのコンタクト用の領域を除いて全表面及び共振器端面を含む全側面に実施例1と同様の光反射層が形成された。
【0100】
レーザーダイオード1のメサ構造の長辺の長さL1は400μmとした。また、短辺の長さW1は100μmとした。光検出器2のメサ構造の長さL2は50μmとした。レーザーダイオード1と光検出器2の距離L3は16μmとした。レーザーダイオード1の共振器端面側の側面は、底面反射の影響を緩和するために、基板11(11´)が露出するまでエッチングを行った。
【0101】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0102】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、プログラム、及び方法における動作、手順、ステップ、及び段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0103】
1 レーザーダイオード
2 光検出器
11 基板
12 n型クラッド層
13 n側導波路層
14 発光層
15 p側導波路層
16 p型縦伝導層
17 p型横伝導層
18 p型コンタクト層
20 p型クラッド層
30 半導体積層部
40 メサ構造
41 共振器端面
50 光反射層
51 光反射層
61 p型電極
62 n型電極