(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】菌叢改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/19 20060101AFI20241021BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241021BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241021BHJP
A61K 31/121 20060101ALI20241021BHJP
A61K 33/42 20060101ALI20241021BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20241021BHJP
A61K 31/132 20060101ALI20241021BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20241021BHJP
A61K 31/191 20060101ALI20241021BHJP
A61K 31/7012 20060101ALI20241021BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20241021BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20241021BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241021BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20241021BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20241021BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20241021BHJP
A61K 8/39 20060101ALI20241021BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20241021BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
A61K31/19
A61P17/00
A61P31/04
A61K31/121
A61K33/42
A61K31/198
A61K31/132
A61K31/47
A61K31/191
A61K31/7012
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/10
A61K8/365
A61K8/55
A61K8/73
A61K8/39
A61Q11/00
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2023566859
(86)(22)【出願日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2023015811
(87)【国際公開番号】W WO2023204274
(87)【国際公開日】2023-10-26
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2022070188
(32)【優先日】2022-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022210329
(32)【優先日】2022-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】522043699
【氏名又は名称】ジヨイ・クル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼介
(72)【発明者】
【氏名】平尾 尚也
(72)【発明者】
【氏名】太田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】堀江 誠司
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 孔志
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-298357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K33/00
A23L29/00
A23L33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキソ酸基に含まれるヒドロキシ基を2つ以上有する化合物(X1)及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である物質(X)と、
不揮発性成分を含む基剤(Y)とを含有する菌叢改善剤であって、
前記化合物(X1)が有するオキソ酸基、オキソ酸基に含まれないヒドロキシ基、オキソ酸基に含まれないカルボニル基、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる炭素原子、並びに、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる窒素原子の合計質量の割合が、化合物(X1)の分子量を基準として、45質量%以上であり、
前記化合物(X1)が、ポリリン酸、タングステン酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸、イミノ二酢酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、アデノシン三リン酸及びグアノシン三リン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記物質(X)の分子量が550以下であり、
前記不揮発性成分のHLB値が7以上であり、
前記不揮発性成分が、カルボキシアルキルセルロース及びその塩、アルキルセルロース及びその塩、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、デンプン・アクリル酸ナトリウムグラフト共重合体、ポリアルキレングリコール、ポリジメチルシロキサン並びに脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記物質(X)の重量割合が、前記菌叢改善剤の重量を基準として0.05~3.35重量%であり、
前記不揮発性成分の重量割合が、前記菌叢改善剤の重量を基準として1~70重量%であり、
以下の条件(i)~(ii)を満た
す爪の菌叢を改善するための菌叢改善剤。
(i)前記菌叢改善剤について、JIS K 2220に従って測定した混和ちょう度が100~400である。
(ii)前記菌叢改善剤について、コーンプレート型回転粘度計で測定した37℃における粘度が1~4,000Pa・sである。
【請求項2】
オキソ酸基に含まれるヒドロキシ基を2つ以上有する化合物(X1)及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である物質(X)と、
不揮発性成分を含む基剤(Y)とを含有する菌叢改善剤であって、
前記化合物(X1)が有するオキソ酸基、オキソ酸基に含まれないヒドロキシ基、オキソ酸基に含まれないカルボニル基、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる炭素原子、並びに、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる窒素原子の合計質量の割合が、化合物(X1)の分子量を基準として、45質量%以上であり、
前記化合物(X1)が、ポリリン酸、タングステン酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸、イミノ二酢酸
、アデノシン三リン酸及びグアノシン三リン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記物質(X)の分子量が550以下であり、
前記不揮発性成分のHLB値が7以上であり、
前記不揮発性成分が、カルボキシアルキルセルロース及びその塩、アルキルセルロース及びその塩、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、デンプン・アクリル酸ナトリウムグラフト共重合体、ポリアルキレングリコール、ポリジメチルシロキサン並びに脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記物質(X)の重量割合が、前記菌叢改善剤の重量を基準として0.05~3.35重量%であり、
前記不揮発性成分の重量割合が、前記菌叢改善剤の重量を基準として1~70重量%であり、
以下の条件(i)~(ii)を満たす粘
膜及び/又は爪の菌叢を改善するための菌叢改善剤(チモール、アネトール、オイゲノール、ビサボロール、ファルネソール又はネロリドールを含有するものを除く)。
(i)前記菌叢改善剤について、JIS K 2220に従って測定した混和ちょう度が100~400である。
(ii)前記菌叢改善剤について、コーンプレート型回転粘度計で測定した37℃における粘度が1~4,000Pa・sである。
【請求項3】
前記菌叢改善剤の濃度が1重量%となるように水で希釈した液のpHが6~8である請求項1又は2に記載の菌叢改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌叢改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの身体[粘膜(口腔内等)、皮膚、爪等]には様々な菌が共生しており、菌叢と呼ばれる菌集団を形成している。この菌叢には、いわゆる非病原性の常在菌と、病原性を示す菌とが混在している。
通常は菌叢のバランスが保たれている、いわゆる健康な状態であり、病原性菌を原因とする疾患は抑制されている。
【0003】
しかし、食生活や抗生剤の摂取、ストレス、加齢、清掃不良等が原因となって、菌叢のバランスが崩れると、病原性を有する病原菌や日和見感染菌が増加し疾患となる。このため、疾患の制御には、病原性菌を抑制するだけではなく、非病原性の常在菌との菌叢バランスを健康な状態に保つことが重要である。
【0004】
ところで、特許文献1に記載の技術のように、特定の有害菌に作用する機能を示す病原性因子産生抑制剤に関する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、検討の結果、特許文献1に記載の病原性因子産生抑制剤を、そのまま使用した場合、病原性菌の作用の抑制だけでなく、非病原性の常在菌への悪影響が少なからず存在し、また、使用部位における病原性菌の作用の持続的抑制が難しく、菌叢バランスを持続的に健康な状態に保つためには、改善する手段が必要であることが分かった。
【0007】
そこで本発明の課題は、非病原性の常在菌は維持しながら、高い病原性菌抑制効果を発揮し、菌叢バランスを持続的に改善できる、粘膜、皮膚及び/又は爪の菌叢を改善するための菌叢改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は、オキソ酸基に含まれるヒドロキシ基を2つ以上有する化合物(X1)及びその塩、
オキソ酸基に含まれるヒドロキシ基を1つ有する化合物(X2)及びその塩、
オキソ酸基を有さない複素環式化合物(X3)及びその塩、並びに、
オキソ酸基を有さないケトン(X4)からなる群から選ばれる少なくとも1種である物質(X)と、
不揮発性成分を含む基剤(Y)とを含有する菌叢改善剤であって、
前記化合物(X1)が有するオキソ酸基、オキソ酸基に含まれないヒドロキシ基、オキソ酸基に含まれないカルボニル基、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる炭素原子、並びに、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる窒素原子の合計質量の割合が、化合物(X1)の分子量を基準として、45質量%以上であり、
前記化合物(X2)が、非共有電子対を有する原子(ただし、オキソ酸基に含まれる原子、並びに、イミダゾール骨格を構成しないアミノ基及びピリジン骨格を構成しないアミノ基に含まれる原子を除く)を有し、
前記化合物(X2)が有するオキソ酸基、オキソ酸基に含まれないヒドロキシ基、オキソ酸基に含まれないカルボニル基、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる炭素原子、並びに、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる窒素原子の合計質量の割合が、化合物(X2)の分子量を基準として、55質量%以上であり、
前記複素環式化合物(X3)が、イミダゾール骨格又はピリジン骨格と、ヒドロキシ基及び/又はカルボニル基とを有するか、又は、イミダゾール骨格及びピリジン骨格から選ばれる骨格を2つ以上有し、
前記ケトン(X4)が、直鎖のβ-ジケトン構造を有し、
物質(X)の分子量が550以下であり、
前記不揮発性成分のHLB値が7以上であり、
以下の条件(i)~(ii)を満たす粘膜、皮膚及び/又は爪の菌叢を改善するための菌叢改善剤である。
(i)前記菌叢改善剤について、JIS K 2220に従って測定した混和ちょう度が100~400である。
(ii)前記菌叢改善剤について、コーンプレート型回転粘度計で測定した37℃における粘度が1~4,000Pa・sである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、非病原性の常在菌は維持しながら、高い病原性菌抑制効果を発揮し、菌叢バランスを持続的に改善できる、粘膜、皮膚及び/又は爪の菌叢を改善するための菌叢改善剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の粘膜、皮膚及び/又は爪の菌叢を改善するための菌叢改善剤(以下、「本発明の菌叢改善剤」とも言う)は、オキソ酸基に含まれるヒドロキシ基を2つ以上有する化合物(X1)及びその塩、オキソ酸基に含まれるヒドロキシ基を1つ有する化合物(X2)及びその塩、オキソ酸基を有さない複素環式化合物(X3)及びその塩、並びに、オキソ酸基を有さないケトン(X4)からなる群から選ばれる少なくとも1種である物質(X)と、不揮発性成分を含む基剤(Y)とを含有する。
【0011】
本発明の菌叢改善剤は、非病原性の常在菌は維持しながら、高い病原性菌抑制効果を発揮し、菌叢バランスを改善できるという効果を奏する。
なお、上記「高い病原性菌抑制効果」とは、有害菌を死滅させること、有害菌を不活化して増殖を抑制すること、有害菌の毒性物質(病原性因子)の産出を抑制すること、の少なくともいずれかを意味するものである。
【0012】
本明細書において、「病原性菌」とは、病原性が高く増殖することにより様々な感染症等を引き起こす細菌、カビ類等を意味し、具体的には、Staphylococcus aureus、Streptococcus pyogenes、Pseudomonas aeruginosa、Porphyromonas gingivalis、Fusobacterium nucleatum、Prevotella intermedia、Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytes、Candida albicans、Candida glabrata等が挙げられる。
また、「非病原性の常在菌」とは、上記病原性菌の増殖を阻害し、健康に保つ作用を有する常在菌を意味し、具体的には、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus salivarius等が挙げられる。
【0013】
なお、上記の病原性菌の内、Porphyromonas gingivalis、Fusobacterium nucleatum、Prevotella intermediaは、口腔で発生し得る病原性菌として知られている。
また、上記の病原性菌の内、Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytes、Staphylococcus aureus、Candida albicans、Candida glabrataは、皮膚及び爪で発生し得る病原性菌として知られている。
なお、上記の非病原性菌の内、Streptococcus salivariusは、口腔に存在する常在菌として知られている。
また、上記の非病原性菌の内、Staphylococcus epidermidisは、皮膚及び爪に存在する常在菌として知られている。
【0014】
本発明の菌叢改善剤は、病原性菌のクオラムセンシング機構(すなわち、オートインデューサーを産生する機構)を選択的に阻害することができ、非病原性の常在菌は維持しながら、高い病原性菌抑制効果を有する。
【0015】
[物質(X)]
本発明の菌叢改善剤は、物質(X)を含む。
物質(X)は、オキソ酸基に含まれるヒドロキシ基を2つ以上有する化合物(X1)及びその塩、オキソ酸基に含まれるヒドロキシ基を1つ有する化合物(X2)及びその塩、オキソ酸基を有さない複素環式化合物(X3)及びその塩、並びに、オキソ酸基を有さないケトン(X4)からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
物質(X)として、化合物(X1)、化合物(X2)、複素環式化合物(X3)及びケトン(X4)をそれぞれ2種以上使用してもよい。化合物(X1)の塩、化合物(X2)の塩及び化合物(X3)の塩もそれぞれ2種以上使用してもよい。
【0016】
化合物(X1)は、オキソ酸基に含まれるヒドロキシ基を2つ以上有する。化合物(X1)は、オキソ酸基を2つ以上有してもよい。
本願において、「オキソ酸基」とは、ある1つの中心原子(炭素原子、リン原子、硫黄原子、タングステン原子等)に、ヒドロキシ基(-OH)及びオキソ基(=O)が結合した構造の基を意味する。ヒドロキシ基及びオキソ基は、いずれも、1つのオキソ酸基に2つ以上含まれていてもよい。
例えば、三リン酸
【化1】
が有するオキソ酸基は、分子の両末端の-P(=O)(OH)
2及び中央の-P(=O)(OH)-の2種類であり、両末端のオキソ酸基はヒドロキシ基を2つ含むものである。
【0017】
化合物(X1)が有するオキソ酸基、オキソ酸基に含まれないヒドロキシ基、オキソ酸基に含まれないカルボニル基(C=O)、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる炭素原子、並びに、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる窒素原子の合計質量の割合は、菌叢改善剤の効果の観点から、化合物(X1)の分子量を基準として、45質量%以上であり、好ましくは55質量%以上である。菌叢改善剤が、化合物(X1)として複数の化合物を含有する場合は、各化合物がこの条件を満足する。本願において、オキソ酸基の質量は、中心原子、オキソ基及びヒドロキシ基の合計質量である。
例えば、分子量134.1のリンゴ酸
【化2】
の場合、オキソ酸基であるカルボキシ基(式量45.0)を2つ及びオキソ酸基に含まれないヒドロキシ基(式量17.0)を1つ有するので、リンゴ酸の分子量を基準としたこれらの基の合計質量の割合は、
[(45.0×2+17.0×1)/134.1]×100=80(質量%)
である。
なお、化合物(X1)は、オキソ酸基を必須の基として有するが、オキソ酸基に含まれないヒドロキシ基、オキソ酸基に含まれないカルボニル基、イミダゾール骨格及びピリジン骨格は必須ではなく、任意に有する。
【0018】
本願において、「イミダゾール骨格」とは、
【化3】
で表される構造(Rは水素原子又はイミダゾールと結合しうる基)を意味する。
また、「ピリジン骨格」とは、
【化4】
で表される構造を意味する。
これらの構造は、縮合環に含まれていてもよい。
【0019】
また、前記化合物(X1)が有するオキソ酸基、オキソ酸基に含まれないヒドロキシ基及びオキソ酸基に含まれないカルボニル基の合計質量の割合は、菌叢改善剤の効果を更に改善する観点から、化合物(X1)の分子量を基準として、45質量%以上であることが好ましい。
【0020】
化合物(X1)としては、ポリリン酸、タングステン酸(H2WO4)、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸、イミノ二酢酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、アデノシン三リン酸、グアノシン三リン酸等が挙げられる。なお、本願において、タングステン酸は、下記の化学式(1)で示すように、オキソ酸基に含まれるヒドロキシ基を2つ有する化合物であるとみなし、化合物(X1)に含む。
【0021】
【0022】
化合物(X1)は、菌叢改善剤の効果の観点から、「-NH2」基を有さないことが好ましい。
【0023】
化合物(X1)がヒドロキシカルボン酸である場合、ヒドロキシカルボン酸が有するヒドロキシ基のモル数とカルボキシ基(-COOH)のモル数との比率(-OHのモル数/-COOHのモル数)は、菌叢改善剤の効果の観点から、1/3以上であることが好ましく、1/2以上であることが更に好ましい。
【0024】
化合物(X1)の塩としては、特に限定されず、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、プロピオン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ピリジン等の有機塩基との塩;アルギニン、グルタミン酸等の塩基性アミノ酸又は酸性アミノ酸とのアミノ酸塩等が挙げられる。これらの中でも、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
【0025】
化合物(X2)は、非共有電子対を有する原子(ただし、オキソ酸基に含まれる原子、並びに、イミダゾール骨格を構成しないアミノ基及びピリジン骨格を構成しないアミノ基に含まれる原子を除く)を有する。
非共有電子対を有する原子として好ましいものとしては、カルボニル基に含まれる酸素原子、ヒドロキシ基に含まれる酸素原子(ただし、オキソ酸基に含まれる酸素原子を除く)、イミダゾール骨格に含まれる窒素原子、ピリジン骨格に含まれる窒素原子等が挙げられる。
【0026】
また、化合物(X2)が有するオキソ酸基、オキソ酸基に含まれないヒドロキシ基、オキソ酸基に含まれないカルボニル基、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる炭素原子、並びに、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる窒素原子の合計質量の割合は、菌叢改善剤の効果の観点から、化合物(X2)の分子量を基準として、55質量%以上である。菌叢改善剤が、化合物(X2)として複数の化合物を含有する場合は、各化合物がこの条件を満足する。
なお、化合物(X2)は、オキソ酸基を必須の基として有し、オキソ酸基に含まれないヒドロキシ基、オキソ酸基に含まれないカルボニル基、イミダゾール骨格及びピリジン骨格を任意に有する。
【0027】
化合物(X2)としては、アミノ基を有さない化合物(X21)及びアミノ基を有する化合物(X22)等が挙げられる。
アミノ基を有さない化合物(X21)としては、ヒドロキシカルボン酸(グルコン酸、グルクロン酸等)、ケト酸(レブリン酸等)等が挙げられる。
アミノ基を有する化合物(X22)としては、グリシルグリシン、ヒスチジン等が挙げられる。
【0028】
化合物(X2)の塩としては、化合物(X1)の塩として説明したものと同じものが挙げられ、好ましいものも同じである。
【0029】
複素環式化合物(X3)は、イミダゾール骨格又はピリジン骨格と、ヒドロキシ基及び/又はカルボニル基とを有するか、又は、イミダゾール骨格及びピリジン骨格から選ばれる骨格を2つ以上有する。
【0030】
複素環式化合物(X3)としては、8-キノリノール(ピリジン骨格を1つとヒドロキシ基を有する化合物)、フェナントロリン(ピリジン骨格を2つ有する化合物)等が挙げられる。
複素環式化合物(X3)が有するイミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる炭素原子、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる窒素原子、ヒドロキシ基、並びに、カルボニル基の合計質量の割合は、菌叢改善剤の効果の観点から、複素環式化合物(X3)の分子量を基準として、50質量%以上であることが好ましい。菌叢改善剤が、複素環式化合物(X3)として複数の化合物を含有する場合は、各化合物がこの条件を満足することが好ましい。
【0031】
複素環式化合物(X3)の塩としては、化合物(X1)の塩として説明したものと同じものが挙げられる。
【0032】
ケトン(X4)は、直鎖のβ-ジケトン構造を有する。
ケトン(X4)は、対イオンを有する塩であってもよい。
ケトン(X4)としては、ベンゾイルアセトン、アセチルアセトン等が挙げられる。
ケトン(X4)が有するカルボニル基の合計質量の割合は、菌叢改善剤の効果の観点から、ケトン(X4)の分子量[ただし、ケトン(X4)が、対イオンを有する塩である場合は、対イオンを除いた直鎖のβ-ジケトン構造を有するイオンのみの質量]を基準として、30質量%以上であることが好ましい。菌叢改善剤が、ケトン(X4)として複数の化合物を含有する場合は、各化合物がこの条件を満足することが好ましい。
【0033】
物質(X)としては、安全性の観点から、レブリン酸及びその塩、タングステン酸及びその塩、ベンゾイルアセトン、ポリリン酸及びその塩並びにアセチルアセトンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ポリリン酸(リン酸単位の繰り返し数は2~5であることが好ましく、3~5であることが更に好ましい。)及びその塩がより好ましく、三リン酸五ナトリウムが特に好ましい。
【0034】
物質(X)の分子量は、菌叢改善剤の効果の観点から、550以下である。菌叢改善剤が、物質(X)として複数の化合物を含有する場合は、各分子の分子量が550以下である。
【0035】
物質(X)は、イオン電極法で測定した場合の、物質(X)100gあたりに捕獲されるマグネシウムの量が1g以上であることが好ましい。
なお、物質(X)が水和物である場合は、水和水を除いた重量100gあたりを意味する。
上記のイオン電極法による測定は、20℃、pH7の1mMのMgCl2水溶液に対して、2mMの物質(X)を用いて実施する。
【0036】
[基剤(Y)]
本発明の菌叢改善剤は、上記物質(X)だけでなく、不揮発性成分を含む基剤(Y)も含有する。なお、物質(X)は、基剤(Y)に含まれる成分には該当しない。
上記の基剤(Y)における不揮発性成分のHLB値は、7以上である。不揮発性成分のHLB値が7未満である場合、患部に菌叢改善剤を塗布する際の展着性が悪化する。不揮発性成分のHLB値は、展着性の観点から、7~60であることが好ましい。菌叢改善剤に含まれるHLB値が7以上である成分は、基剤(Y)における不揮発性成分とみなす。
【0037】
HLB値は、親水性と親油性のバランスを示す指標であって、例えば「界面活性剤入門」〔2007年三洋化成工業株式会社発行、藤本武彦著〕212頁に記載されている小田法による計算値として知られているものであり、グリフィン法による計算値ではない。
不揮発性成分である化合物のHLB値は、該化合物の有機性値と無機性値との比率をもとに下記式の通り計算することができる。
HLB=10×無機性値/有機性値
HLBを導き出すための有機性値及び無機性値については、有機性値として、炭素原子1個あたり20と定め、無機性値として、上記「界面活性剤入門」213頁に記載の表の値(無機性基における「数値」、又は、有機性兼無機性基における「無機性」の数値)を用いて算出する。算出例として、
-CH3基:有機性値20、無機性値0、
-CH2-基:有機性値20、無機性値0、
=CH2基:有機性値20、無機性値1、
=CH-基:有機性値10、無機性値1、
ベンゼン環:有機性値120、無機性値15、
-O-基:無機性値20、
-COO-:有機性値20、無機性値60、
-OH基:無機性値100、
-COOH基:有機性値20、無機性値150
が挙げられる。
また、本発明におけるHLB値の計算においては、以下の構成については、以下に示す有機性値及び無機性値を用いる。
COO-M+:有機性値20、無機性値400(なお、「M+」は、「COO-」の対イオンであり、金属カチオン又はアンモニウムカチオンを表す)
Si原子:有機性値0、無機性値0
なお、不揮発性成分が複数の成分から構成される場合は、各成分の重量割合に基づいて、加重平均した値を不揮発性成分のHLB値として用いる。
【0038】
なお、本発明における「不揮発性成分」とは、試料をガラス製シャーレ中で、蓋をせずに130℃45分間循風乾燥機で加熱乾燥した後の残渣である。
【0039】
菌叢改善剤の効果の観点から、不揮発性成分の含有量(重量割合)は、菌叢改善剤の重量を基準として0.1~80重量%であることが好ましく、1~70重量%であることがより好ましい。
また、菌叢改善剤の効果の観点から、不揮発性成分の含有量(重量割合)は、物質(X)の重量を基準として30~6,000重量%であることが好ましく、50~5,000重量%であることがより好ましい。
【0040】
基剤(Y)における不揮発性成分としては、重量平均分子量が10,000~3,000,000のポリマーが好ましい。また、重量平均分子量が10,000~3,000,000のポリマーが含有する化合物としては、分子量が500以上であることが好ましい。菌叢改善剤に含まれるポリマーで、重量平均分子量が10,000~3,000,000かつHLB値が7以上であるものは、基剤(Y)における不揮発性成分とみなす。
なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、以下の条件等で測定することができる。
<GPC測定条件>
[1]装置:ゲルパーミエイションクロマトグラフィー[型番「HLC-8120GPC」、東ソー(株)製]
[2]カラム:「TSKgelG6000PWxl」、「TSKgelG3000PWxl」[いずれも東ソー(株)製]を直列に連結。
[3]溶離液:メタノール/水=30/70(容量比)に0.5重量%の酢酸ナトリウムを溶解させたもの。
[4]基準物質:ポリエチレングリコール(以下PEGと略記)
[5]注入条件:サンプル濃度0.25重量%、カラム温度40℃
【0041】
上記ポリマーにおけるモノマーとしては、単糖[α-グルコース、β-グルコース、ウロン酸(マンヌロン酸及びグルロン酸等)等]、(メタ)アクリルモノマー[炭素数3~10の(メタ)アクリルモノマー。アクリル酸等]、(アルキル)アルコキシシラン[炭素数4~40のジアルキルジアルコキシシラン。例えば、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン等]、アルキレンオキサイド[炭素数2~4のアルキレンオキサイド。エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等]等が挙げられる。
なお、本発明において、(メタ)アクリルは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
なお、本発明において、(アルキル)アルコキシシランは、アルコキシシラン及び/又はアルキルアルコキシシランを意味する。
上記ポリマーとしては具体的には、カルボキシアルキルセルロース及びその塩(カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、アルキルセルロース及びその塩(メチルセルロース4000等)、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、デンプン・アクリル酸ナトリウムグラフト共重合体、並びに、ポリアルキレングリコール(PEG20000等のポリエチレングリコール等)、ポリジメチルシロキサン(A)、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)等が挙げられる。
【0042】
また、不揮発性成分として、上記ポリマーの内1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。
例えば、ポリジメチルシロキサン(A)と脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)を併用しても良い。この場合、ポリジメチルシロキサン(A)及び脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)のHLB値の加重平均値[ポリジメチルシロキサン(A)及び脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)の重量割合に基づく加重平均値]が7以上である。
【0043】
基剤(Y)は、不揮発性成分のみ含有してもよく、不揮発性成分以外に揮発性成分を含んでいてもよい。
以下、基剤(Y)の例として、不揮発性成分であるポリジメチルシロキサン(A)と脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)及び揮発性成分である水(後述する添加剤)を含有する組成物について説明する。
【0044】
ポリジメチルシロキサン(A)としては、ジメチルシロキサン単位{-(CH3)2SiO-}を繰り返し単位とする構造を有するものが含まれ、具体的には、下記一般式(1)で表されるもの等が挙げられる。
CH3-[(CH3)2SiO]n-Si-(CH3)3 (1)
一般式(1)中、nはジメチルシロキサン単位の数平均個数であって、60~500の数を表し、整数であるとは限らない。
【0045】
一般式(1)において、nとしては、展着性の観点から、100~450の数が好ましく、さらに好ましくは150~400の数である。
【0046】
ポリジメチルシロキサン(A)としては、例えば、東レ・ダウコーニング(株)製DOW CORNING(R) Q7-9120 SILICONE FLUIDの「100CST(n=85)」、「350CST(n=200)」及び「1000CST(n=350)」等が市販されており、入手可能である。
【0047】
ポリジメチルシロキサン(A)としては、菌叢改善剤の効果の持続性の観点から、上記一般式(1)で表されるポリジメチルシロキサンが好ましい。
【0048】
脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)としては、展着性の観点から、下記一般式(2)で表されるものが好ましい。
R1-(OA)m-OH (2)
一般式(2)中、R1は炭素数8~18のアルキル基又は炭素数8~18のアルケニル基、OAは炭素数2~4のオキシアルキレン基、mはオキシアルキレン基の数平均付加モル数を表し、1~50の数であり、整数であるとは限らない。
【0049】
一般式(2)において、R1は、炭素数8~18のアルキル基又は炭素数8~18のアルケニル基を表す。
炭素数8~18のアルキル基としては、炭素数8~18の直鎖アルキル基及び炭素数8~18の分岐アルキル基が含まれる。
炭素数8~18の直鎖アルキル基としては、n-オクチル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基及びn-オクタデシル基等が挙げられる。
炭素数8~18の分岐アルキル基としては、2-エチルヘキシル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基及びイソオクタデシル基等が挙げられる。
【0050】
炭素数8~18のアルケニル基としては、炭素数8~18の直鎖アルケニル基及び炭素数8~18の分岐アルケニル基が含まれる。
炭素数8~18の直鎖アルケニル基としては、n-オクテニル基、n-ドデセニル基、n-ヘキサデセニル基及びn-オクタデセニル基等が挙げられる。
炭素数8~18の分岐アルケニル基としては、イソデセニル基、イソドデセニル基及びイソオクタデセニル基等が挙げられる。
【0051】
R1としては、展着性の観点から、炭素数8~18の直鎖アルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数10~18の直鎖アルキル基がより好ましい。
【0052】
一般式(2)において、OAとしては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基及びオキシブチレン基等が挙げられる。
OAとしては、展着性の観点から、オキシエチレン基が好ましい。
【0053】
一般式(2)において、mとしては、展着性の観点から、3~40の数が好ましい。
【0054】
脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)において、HLB値は、展着性の観点から、8.5~11.0が好ましく、さらに好ましくは9.0~10.5である。
【0055】
ポリジメチルシロキサン(A)と脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)との重量比{(A)/(B)}は、展着性と効果の持続性の観点から、85/15~40/60が好ましく、さらに好ましくは80/20~35/65である。
【0056】
ポリジメチルシロキサン(A)及び脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)の合計含有量は、効果の持続性の観点から、菌叢改善剤の重量を基準として、0.1~85重量%が好ましく、1~85重量%がより好ましく、さらに好ましくは5~85重量%であり、特に好ましくは40~85重量%であり、最も好ましくは50~80重量%である。
また、ポリジメチルシロキサン(A)及び脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)の合計含有量は、効果の持続性の観点から、物質(X)と基剤(Y)における不揮発性成分との合計重量を基準として、30~99重量%が好ましく、さらに好ましくは50~99重量%であり、特に好ましくは80~99重量%であり、最も好ましくは90~99重量%である。
【0057】
菌叢改善剤が、物質(X)、ポリジメチルシロキサン(A)、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)及び水の4成分のみを含有し、物質(X)以外の3成分を基剤(Y)として使用する場合、ポリジメチルシロキサン(A)及び脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)の合計含有量は、効果の持続性の観点から、基剤(Y)の重量を基準として、1~85重量%が好ましく、さらに好ましくは5~85重量%であり、特に好ましくは40~85重量%であり、最も好ましくは50~80重量%である。
【0058】
ポリジメチルシロキサン(A)、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)及び水を含有する基剤(Y)の製造方法として、例えば、ポリジメチルシロキサン(A)と脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)と、水とを混合する工程(I)を含むものが挙げられる。
【0059】
ポリジメチルシロキサン(A)と脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)は、事前に混合することが好ましく、ポリジメチルシロキサン(A)と脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)とを混合する工程において、混合時の温度は、乳化性の観点から、20℃~70℃が好ましく、さらに好ましくは25℃~65℃である。
【0060】
工程(I)において、ポリジメチルシロキサン(A)と脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)との重量比{(A)/(B)}は、展着性と効果の持続性の観点から、85/15~40/60が好ましく、さらに好ましくは80/20~35/65である。
【0061】
工程(I)において、水の温度は、乳化性の観点から、20℃~70℃が好ましく、さらに好ましくは25~65℃である。
【0062】
工程(I)において、水の量は、効果の持続性の観点から、ポリジメチルシロキサン(A)、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)及び水の合計重量を基準として、15~99重量%が好ましく、さらに好ましくは20~99重量%である。
【0063】
工程(I)において、ゲル化の観点から、プラネタリーミキサーで攪拌することが好ましい。
プラネタリーミキサーの回転数は、均一性の観点から、自転10~70rpm、公転5~40rpmが好ましく、さらに好ましくは自転15~60rpm、公転10~35rpmである。
攪拌羽根としては、スクリュー翼、門型攪拌翼等が挙げられ、均一性の観点から、門型攪拌翼が好ましい。
【0064】
工程(I)において、ポリジメチルシロキサン(A)と脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)との混合物と、水とを混合する際、水は、ゲル化の観点から、5分割~50分割で添加することが好ましく、さらに好ましくは10分割~40分割で添加することである。
また、工程(I)において水を混合する際、ゲル化の観点から、1分割分の水を仕込み、外観が十分に均一になったことを確認し、次の分割分の水を投入する方法が好ましい。
【0065】
本発明の菌叢改善剤を口腔の菌叢バランスの改善に用いる場合、効果の持続性の観点から、不揮発性成分として、以下の(Y-A)及び/又は(Y-B)を含有することが好ましく、(Y-A)及び(Y-B)を併用することが更に好ましい。
<(Y-A)>
アニオン性基(カルボキシ基、カルボキシレート基等)を有するポリマー(カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム及びアルギン酸ナトリウム等)であって、重量平均分子量が、50,000~3,000,000(好ましくは、100,000~2,000,000)であるポリマーであり、2種以上のポリマーの混合物でもよい。
<(Y-B)>
(Y-B)は、HLB値が7以上の成分から上記の(Y-A)を除いた成分であって、以下の(1)及び/又は(2)の条件を満たす。
(1)(Y-B)の濃度が1重量%となるように水で希釈した液の粘度(後述の菌叢改善剤のコーンプレート型回転粘度計で測定した37℃における粘度と同様の方法で測定する)が1mPa・s以上、500mPa・s未満(好ましくは5mPa・s以上450mPa・s以下)である。
(2)重量平均分子量が10,000~80,000(好ましくは15,000~50,000)である。
(Y-B)は、2種以上の成分の混合物でもよい。
【0066】
(Y-A)と(Y-B)を併用する場合、(Y-A)の重量及び(Y-B)の重量の比率[(Y-A)/(Y-B)]は、0.001~0.2であることが好ましく、0.001~0.1であることが更に好ましい。
【0067】
[その他の成分]
本発明の菌叢改善剤は、上記物質(X)及び不揮発性成分以外の成分(添加剤)を含有していてもよい。添加剤は、基剤(Y)とは別に加えてもよいし、適宜基剤(Y)に含ませてもよい。
【0068】
上記添加剤としては、ワックス等の潤滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、防腐剤、香料、溶剤[水及び有機溶剤(エタノール等)等]等が挙げられる。
【0069】
上記添加剤として、以下の殺菌成分を含有する場合、殺菌成分の合計重量は、菌叢改善剤の効果の観点から、物質(X)の合計重量に対して、2重量%以下であることが好ましい。
前記の殺菌成分は、グリチルリチン酸(塩)、β-グリチルレチン酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化アルキルジアミノエチルグリシン液、塩酸クロルヘキシジン、クロルヘキシジン塩酸塩、トリクロサン、塩化リゾチーム、ヒノキチオール、ラウロイルサルコシンナトリム及びラウリル硫酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上である。
【0070】
菌叢改善剤中の上記溶剤の含有量としては、後述の菌叢改善剤の粘度及び混和ちょう度の範囲内とすることができれば特に限定されず、例えば、菌叢改善剤の全重量に対して、5~99重量%であることが好ましい。
また、菌叢改善剤中の水の含有量としては、展着性及び菌叢バランス改善効果の観点から、菌叢改善剤の全重量に対して、5~99重量%であることが好ましく、30~99重量%であることが更に好ましい。
なお、菌叢改善剤が水を含有する場合、後述の方法で菌叢改善剤を製造後、25℃で10分静置した後の外観が、目視で均一である(2相以上に分離していない)ことが好ましい。
【0071】
菌叢改善剤中の上記溶剤以外の添加剤の含有量の上限は、菌叢改善剤中の不揮発性成分の重量に基づいて、10重量%以下であることが好ましく、8重量%以下であることが更に好ましく、1重量%以下であることが特に好ましい。
菌叢改善剤中の上記溶剤以外の添加剤の含有量の下限としては特に限定されないが、菌叢改善剤中の不揮発性成分の重量に基づいて、0.1重量%以上であることが挙げられる。
【0072】
[菌叢改善剤]
【0073】
物質(X)の含有量(重量割合)は、菌叢改善剤の重量を基準として0.01~5重量%であることが好ましく、0.05~3重量%であることがより好ましい。
物質(X)の含有量(重量割合)は、高い病原性菌抑制効果を好適に付与する観点から、本発明の菌叢改善剤の重量に基づいて、下限が0.01重量%であることが好ましく、下限が0.05重量%であることがより好ましい。
また、物質(X)の含有量は、非病原性の常在菌を好適に維持する観点から、本発明の菌叢改善剤の重量に基づいて、上限が5重量%であることが好ましく、上限が3重量%であることがより好ましい。
なお、化合物(X2)としてヒドロキシカルボン酸(ヒドロキシ基及びカルボキシ基を有する化合物、特にクエン酸)を使用する場合、化合物(X2)であるヒドロキシカルボン酸の重量割合は、菌叢改善剤の効果の観点から、菌叢改善剤の重量を基準として1重量%以上であることが好ましい。
【0074】
物質(X)の含有量は、菌叢改善剤における不揮発性成分の重量に対して、下限が1重量%であることが好ましく、下限が2重量%であることがより好ましい。また、物質(X)の含有量は、菌叢改善剤における不揮発性成分の重量に対して、上限が200重量%であることが好ましく、上限が150重量%であることがより好ましい。物質(X)の含有量は、菌叢改善剤における不揮発性成分の重量に対して、1~200重量%であることが好ましく、2~150重量%であることがより好ましい。
物質(X)を上記範囲で含有することにより、非病原性の常在菌は維持しながら、高い病原性菌抑制効果を有し、かつ、長期間上記性能を維持できるという効果を好適に付与することができる。
【0075】
本発明の菌叢改善剤が、亜鉛原子及び/又はマグネシウム原子を含有する場合(これらの原子を含む化合物(酸化亜鉛等)を含有する場合も含む)、亜鉛原子及びマグネシウム原子の合計重量の割合は、菌叢改善剤の効果の観点から、物質(X)の合計重量を基準として0.5重量%以下であることが好ましい。
また、本発明の菌叢改善剤が、亜鉛原子及び/又はマグネシウム原子を含有する場合(これらの原子を含む化合物を含有する場合も含む)、亜鉛原子及びマグネシウム原子の合計重量の割合は、菌叢改善剤の効果の観点から、菌叢改善剤の重量を基準として0.005重量%以下であることが好ましい。
【0076】
また、本発明の菌叢改善剤のJIS K 2220に従って測定した混和ちょう度は、100~400である。100未満であると病原性菌の抑制効果が悪化する。400を超えると非病原性の常在菌の維持が困難になる。
本発明の菌叢改善剤のJIS K 2220に従って測定した混和ちょう度は、効果の持続性の観点から、100~300が好ましい。
【0077】
本発明の菌叢改善剤のコーンプレート型回転粘度計で測定した37℃における粘度は1~4,000Pa・sである。
具体的には、以下の測定方法で測定した粘度である。
<測定条件>
・装置:MCR302(AntonPaar社製)
・治具:CP-25(直径25mmのコーンプレート)
・ギャップ:1mm
・温度:37℃、
・ひずみ速度:0.5 1/s(回転速度:0.6rpm)
<測定方法>
試料台上にサンプル約1.5gを載せて、CP-25で挟み込み、コーンプレートの間隔は1mmとし、はみ出た試料は掻き取る。
37℃で1分間温調後、回転速度を0.1~10rpmで変化(測定間隔10秒~1秒で20プロット)させて測定を行う。ひずみ速度が0.5 1/s(回転速度:0.6rpm)の時の粘度の値を記録し、この値を、菌叢改善剤の粘度とする。
菌叢改善剤の上記の粘度が1Pa・s未満の場合は、菌叢改善剤の効果の持続性が悪化する。菌叢改善剤の上記の粘度が4,000Pa・sを超える場合は、病原性菌の抑制効果が悪化する。
菌叢改善剤の上記の粘度は、効果の持続性の観点から、10~4,000Pa・sが好ましく、1,000~4,000Pa・sが更に好ましい。
また、菌叢改善剤の上記の粘度は、展着性の観点から、2,000~3,700Pa・sであることが好ましい。
【0078】
本発明の菌叢改善剤の濃度が1重量%となるように水(イオン交換水等)で希釈した液のpHは、菌叢バランス改善効果の観点から、6~8であることが好ましい。
pHは、25℃でpHメーターを用いて測定することができる。
【0079】
本発明の菌叢改善剤は、各成分を配合し、常温又は必要に応じて加熱(例えば30~70℃)して均一に混合することにより製造することができる。各成分の配合順序、配合方法は特に限定されない。
【0080】
[使用方法]
本発明の菌叢改善剤は、粘膜、皮膚及び/又は爪の菌叢を改善するための菌叢改善剤であり、患部[粘膜{口腔(舌、歯茎、歯肉等)、腸、眼等}、皮膚、爪(爪甲)等]や患部周辺に指等で塗布し、菌叢改善剤を患部に留置することで使用することができ、特に粘膜に適用することが好ましい。
例えば、本発明の菌叢改善剤を、口腔の粘膜(舌、歯茎、歯肉等)に適用した場合、歯肉炎、歯周炎の段階を経て進行する歯周病を予防する効果が期待できる。
本発明の菌叢改善剤は、用途に応じた不揮発性成分を用いることで、医薬品、医療機器(医療用接着剤及び創傷治癒材等)、医薬部外品、化粧品及び食品等としても使用することができ、上記の用途共に、適用箇所の菌叢バランスの改善を図ることができる。また上記の用途としては、具体的には、歯みがき類、口腔用ジェル、口腔ケア食品、サプリメント、ペットケア製品及び爪ケア製品等が挙げられる。
【0081】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0082】
本開示(1)は、オキソ酸基に含まれるヒドロキシ基を2つ以上有する化合物(X1)及びその塩、
オキソ酸基に含まれるヒドロキシ基を1つ有する化合物(X2)及びその塩、
オキソ酸基を有さない複素環式化合物(X3)及びその塩、並びに、
オキソ酸基を有さないケトン(X4)からなる群から選ばれる少なくとも1種である物質(X)と、
不揮発性成分を含む基剤(Y)とを含有する菌叢改善剤であって、
前記化合物(X1)が有するオキソ酸基、オキソ酸基に含まれないヒドロキシ基、オキソ酸基に含まれないカルボニル基、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる炭素原子、並びに、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる窒素原子の合計質量の割合が、化合物(X1)の分子量を基準として、45質量%以上であり、
前記化合物(X2)が、非共有電子対を有する原子(ただし、オキソ酸基に含まれる原子、並びに、イミダゾール骨格を構成しないアミノ基及びピリジン骨格を構成しないアミノ基に含まれる原子を除く)を有し、
前記化合物(X2)が有するオキソ酸基、オキソ酸基に含まれないヒドロキシ基、オキソ酸基に含まれないカルボニル基、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる炭素原子、並びに、イミダゾール骨格及びピリジン骨格に含まれる窒素原子の合計質量の割合が、化合物(X2)の分子量を基準として、55質量%以上であり、
前記複素環式化合物(X3)が、イミダゾール骨格又はピリジン骨格と、ヒドロキシ基及び/又はカルボニル基とを有するか、又は、イミダゾール骨格及びピリジン骨格から選ばれる骨格を2つ以上有し、
前記ケトン(X4)が、直鎖のβ-ジケトン構造を有し、
物質(X)の分子量が550以下であり、
前記不揮発性成分のHLB値が7以上であり、
以下の条件(i)~(ii)を満たす粘膜、皮膚及び/又は爪の菌叢を改善するための菌叢改善剤である。
(i)前記菌叢改善剤について、JIS K 2220に従って測定した混和ちょう度が100~400である。
(ii)前記菌叢改善剤について、コーンプレート型回転粘度計で測定した37℃における粘度が1~4,000Pa・sである。
【0083】
本開示(2)は、前記菌叢改善剤の濃度が1重量%となるように水で希釈した液のpHが6~8である本開示(1)に記載の菌叢改善剤である。
【0084】
本開示(3)は、前記物質(X)の重量割合が、前記菌叢改善剤の重量を基準として0.01~5重量%である本開示(1)又は(2)に記載の菌叢改善剤である。
【実施例】
【0085】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、部は重量部を示し、%は重量%を示す。
【0086】
<実施例1~44及び比較例1~16:菌叢改善剤の製造>
表1-1~表1-6に記載した濃度(重量%)となるように、物質(X)[又は(X’)]、基剤(Y)[又は(Y’)]及びイオン交換水を、25℃で混合した。
また、各菌叢改善剤の粘度及び混和ちょう度を、明細書に記載の方法で測定し、結果を表1-1~表1-6に記載した。また、各菌叢改善剤の濃度が1重量%となるように、イオン交換水で希釈した液のpHも表1-1~表1-6に記載した。比較例14の菌叢改善剤の混和ちょう度は400を超えており、測定不能であった。
また、各基剤(Y)における不揮発性成分の濃度が1重量%となるように、イオン交換水で希釈した液の粘度も明細書に記載の方法で測定し、該不揮発性成分のHLB値及び重量平均分子量と共に表2に記載した。
【0087】
<各成分の説明>
実施例及び比較例で用いた各成分に対応する原料は、以下の通りである。
[物質(X)又は(X’)]
(X-1):3リン酸5ナトリウム[富士フイルム和光純薬(株)製、3リン酸の分子量に対するオキソ酸基の合計質量の割合:88質量%]
(X-2):アセチルアセトン[ナカライテスク(株)製、アセチルアセトンの分子量に対するカルボニル基の合計質量の割合:56質量%]
(X-3):ベンゾイルアセトン[MERCK社製、ベンゾイルアセトンの分子量に対するカルボニル基の合計質量の割合:35質量%]
(X-4):レブリン酸[東京化成工業(株)製、レブリン酸の分子量に対するオキソ酸基及びカルボニル基の合計質量の割合:63質量%]
(X-5):タングステン酸ナトリウムニ水和物[Na2WO4・2H2O、富士フイルム和光純薬(株)製、タングステン酸の分子量に対するオキソ酸基の合計質量の割合:100質量%、なお、(X-5)が含有する物質(X)(Na2WO4)の重量割合は、(X-5)の重量を基準として、89重量%である。]
(X-6):グリシルグリシン[富士フイルム和光純薬(株)製、グリシルグリシンの分子量に対するオキソ酸基及びカルボニル基の合計質量の割合:55質量%]
(X-7):グルタミン酸[富士フイルム和光純薬(株)製、グルタミン酸の分子量に対するオキソ酸基の合計質量の割合:61質量%]
(X-8):リンゴ酸[富士フイルム和光純薬(株)製、リンゴ酸の分子量に対するオキソ酸基及びヒドロキシ基の合計質量の割合:80質量%]
(X-9):クエン酸[富士フイルム和光純薬(株)製、クエン酸の分子量に対するオキソ酸基及びヒドロキシ基の合計質量の割合:79質量%]
(X-10):グルコン酸[富士フイルム和光純薬(株)製、グルコン酸の分子量に対するオキソ酸基及びヒドロキシ基の合計質量の割合:66質量%]
(X-11):グルクロン酸[富士フイルム和光純薬(株)製、グルクロン酸の分子量に対するオキソ酸基及びヒドロキシ基の合計質量の割合:58質量%]
(X-12):エチレンジアミン四酢酸[富士フイルム和光純薬(株)製、エチレンジアミン四酢酸の分子量に対するオキソ酸基の合計質量の割合:62質量%]
(X-13):イミノ二酢酸[富士フイルム和光純薬(株)製、イミノ二酢酸の分子量に対するオキソ酸基の合計質量の割合:68質量%]
(X-14):8-キノリノール[富士フイルム和光純薬(株)製、8-キノリノールの分子量に対するピリジン骨格に含まれる炭素原子及び窒素原子並びにヒドロキシ基の合計質量の割合:63質量%]
(X-15):酒石酸[富士フイルム和光純薬(株)製、酒石酸の分子量に対するオキソ酸基及びヒドロキシ基の合計質量の割合:83質量%]
(X-16):アデノシン三リン酸二ナトリウム三水和物[富士フイルム和光純薬(株)製、アデノシン三リン酸の分子量に対するオキソ酸基、ヒドロキシ基並びにイミダゾール骨格に含まれる炭素原子及び窒素原子の合計質量の割合:61質量%、なお、(X-16)が含有する物質(X)(アデノシン三リン酸二ナトリウム)の重量割合は、(X-16)の重量を基準として、91重量%である。]
(X’-1):塩化ベンザルコニウム(富士フイルム和光純薬(株)製)
(X’-2):塩化セチルピリジニウム(富士フイルム和光純薬(株)製)
[基剤(Y)又は(Y’)]
(Y-1):カルボキシメチルエチルセルロース[品名:CMEC、三洋化成工業(株)製]
(Y-2):カルボキシメチルセルロースナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)(Y-3):アルギン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)
(Y-4):キサンタンガム(富士フイルム和光純薬(株)製)
(Y-5):デンプン・アクリル酸ナトリウムグラフト共重合体[品名:サンフレッシュST100、三洋化成工業(株)製]
(Y-6):PEG20000[三洋化成工業(株)製]
(Y-7-1)~(Y-7-4):製造例1~4においてそれぞれ製造したもの
(Y’-1):白色ワセリン(富士フイルム和光純薬(株)製)
(Y-8):メチルセルロース4000(富士フイルム和光純薬(株)製)
【0088】
また、各物質(X)について、イオン電極法で測定した場合の、物質(X)100gあたりに捕獲されるマグネシウムの量(g)を以下の方法で測定した。(X-5)については、(X-5)が含有するNa2WO4100gあたりに捕獲されるマグネシウムの量を測定した。また、(X-16)については、(X-16)が含有するアデノシン三リン酸二ナトリウム100gあたりに捕獲されるマグネシウムの量を測定した。
上記のイオン電極法による測定は、20℃、pH7の1mMのMgCl2水溶液に対して、2mMの物質(X)を用いて実施した。
結果を表3に記載する。
【0089】
<製造例1:基剤(Y-7-1)の製造>
門型の攪拌翼を装備した井上製作所製プラネタリーミキサーPLM-15にポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング(株)製:Q7-9120 SILICONE FLUID,1000CST(n=350)、HLB値:5.1)46.9部、セチルアルコールのオキシエチレン15モル付加物(HLB値:12.2)23.1部を仕込み、37℃に加温後、プラネタリーミキサーを自転20rpm、公転50rpmで攪拌しながら37℃に調整した。そこに、37℃に温調した温水40部を外観を確認しながら徐々に混合し、基剤(Y-7-1)を作製した。
【0090】
<製造例2:基剤(Y-7-2)の製造>
製造例1において、「温水40部」に代えて「温水630部」を用いる以外は同様にして、基剤(Y-7-2)を作製した。
【0091】
<製造例3:基剤(Y-7-3)の製造>
製造例1において、「温水40部」に代えて「温水3430部」を用いる以外は同様にして、基剤(Y-7-3)を作製した。
【0092】
<製造例4:基剤(Y-7-4)の製造>
製造例1において、「温水40部」に代えて「温水20部」を用いる以外は同様にして、基剤(Y-7-4)を作製した。
【0093】
<菌選択的増殖抑制の確認試験>
試験には病原性菌として、Porphyromonas gingivalis、Fusobacterium nucleatum、Prevotella intermedia、Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytes、Staphylococcus aureus、Candida albicans、Candida glabrataを、非病原性菌として、Streptococcus salivarius、Staphylococcus epidermidisを使用した。
各菌を培養する培地として、Porphyromonas gingivalisには1μg/mLメナジオンを添加した変法GAMブイヨン「ニッスイ」(日水製薬(株)製)を、Fusobacterium nucleatum、Prevotella intermedia、Streptococcus salivariusには変法GAMブイヨン「ニッスイ」を、Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytesにはサブローブドウ糖液体培地(日本製薬(株)製)を、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidisにはLB培地(ベクトン・ディッキンソン社製)を、Candida albicans、Candida glabrataには、YM培地(シグマ社製)を使用した。
Porphyromonas gingivalis、Fusobacterium nucleatum、Prevotella intermediaについては、嫌気的条件下で、Streptococcus salivarius、Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytes、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Candida albicans、Candida glabrataについては好気的条件下で培養を行った。
表1-1~表1-6に記載の組成で調製した各菌叢改善剤を24ウェルプレートの各ウェル上に50mgずつ分注した。
上記の培地を用いて嫌気的条件下にて37℃にて一晩培養した各菌株を、600nmにおける吸光度が0.2となるように各培養用培地で希釈し、菌叢改善剤の入った24ウェルプレートに各500μLずつ分注後、アネロパック・ケンキ10%(三菱ガス化学(株)製)を使用して嫌気的条件下にて37℃にて静置培養した。また、上記の培地を用いて好気的条件下にて37℃にて一晩振盪培養した各菌株を、600nmにおける吸光度が0.2となるように各培養用培地で希釈し、菌叢改善剤の入った24ウェルプレートに各500μLずつ分注後、37℃にて静置培養した。それぞれ48時間後にプレートを回収し、600nmの吸光度を測定することで、各菌の増殖性を評価した。
なお、増殖抑制効果は、各菌叢改善剤に代えて、同じ重量のイオン交換水を用いた場合の濁度を1とした際の相対値で示した。結果を表1-1~表1-6に示す。
【0094】
本発明の菌叢改善剤を口腔に適用する場合、Porphyromonas gingivalis、Fusobacterium nucleatum、Prevotella
intermediaの増殖性が、菌叢改善剤を添加しなかった場合と比較して抑制され、かつ、Streptococcus salivariusの増殖性は、菌叢改善剤を添加しなかった場合と比較して変化がなければ、菌選択的に増殖が抑制されていることになる。
例えば、上記の相対値が以下の範囲となる態様が挙げられる。
Porphyromonas gingivalis、Fusobacterium nucleatum、Prevotella intermediaでの試験結果が0.01~0.30(好ましくは0.01~0.15)であり、かつ、Streptococcus salivariusでの試験結果が0.8~1.2である態様。
【0095】
また、本発明の菌叢改善剤を皮膚及び爪甲に適用する場合、Trichophyton
rubrum、Trichophyton mentagrophytes、Staphylococcus aureus、Candida albicans、Candida glabrataの増殖性が、菌叢改善剤を添加しなかった場合と比較して抑制され、かつ、Staphylococcus epidermidisの増殖性は、菌叢改善剤を添加しなかった場合と比較して変化がなければ、菌選択的に増殖が抑制されていることになる。
例えば、上記の相対値が以下の範囲となる態様が挙げられる。
Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytes、Staphylococcus aureusでの試験結果が0.01~0.30(好ましくは0.01~0.15)であり、かつ、Staphylococcus epidermidisでの試験結果が0.8~1.2である態様。
【0096】
<病原性菌によるプロテアーゼ産生抑制試験>
試験には病原性菌として、Porphyromonas gingivalis、Fusobacterium nucleatum、Prevotella intermediaを使用した。各菌を培養する培地として、Porphyromonas gingivalisには1μg/mLメナジオンを添加した変法GAMブイヨン「ニッスイ」(日水製薬(株)製)を、Fusobacterium nucleatum、Prevotella intermediaには変法GAMブイヨン「ニッスイ」を使用した。
表1-1~表1-6に記載の組成で調製した各菌叢改善剤を24ウェルプレートの各ウェル上に50mgずつ分注した。上記の培地を用いて嫌気的条件下にて37℃にて一晩培養した各菌株を、600nmにおける吸光度が0.2となるように各培養用培地で希釈し、菌叢改善剤の入った24ウェルプレートに各500μLずつ分注後、アネロパック・ケンキ10%(三菱ガス化学(株)製)を使用して嫌気的条件下にて37℃にて静置培養した。48時間後にプレートを回収し、4℃、10000rpmの遠心条件で5分間遠心分離することで、各培養上清を回収した。Ampliteプロテアーゼ活性測定キット(AAT Bioquest社製)を使用して培養上清に含まれるプロテアーゼの活性を評価した。
なお、プロテアーゼ産生は、各菌叢改善剤に代えて、同じ重量のイオン交換水を用いた場合のプロテアーゼ活性値を1とした際の相対値で示した。結果を表1-1~表1-6に示す。
ここで、プロテアーゼは、病原性菌が産生する毒素成分の1つであることが知られておりプロテアーゼ活性値が低いほどプロテアーゼ産生が抑制されていることになる。
【0097】
<ハロー試験による効果の持続性評価>
[ハロー試験用寒天培地の調製]
試験には病原性菌として、Porphyromonas gingivalis、Fusobacterium nucleatum、Prevotella intermedia、Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytes、Staphylococcus aureus、Candida albicans、Candida glabrataを、非病原性菌として、Streptococcus salivarius、Staphylococcus epidermidisを使用した。
各菌を培養する培地として、Porphyromonas gingivalisには1μg/mLメナジオンを添加した変法GAMブイヨン「ニッスイ」(日水製薬(株)製)を、Fusobacterium nucleatum、Prevotella intermedia、Streptococcus salivariusには変法GAMブイヨン「ニッスイ」を、Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytesにはサブローブドウ糖液体培地(日本製薬(株)製)を、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidisにはLB培地(ベクトン・ディッキンソン社製)を、Candida albicans、Candida glabrataには、YM培地(シグマ社製)を使用した。
上記の培地を用いて嫌気的条件下又は好気的条件下にて37℃にて一晩培養した各菌株を1.0×105 CFU/mlとなるように菌液を調製後、各培地成分の寒天培地上に菌液100μLを植菌しコンラージ棒で均一に塗布した。
[ハロー試験]
表1-1~表1-6に記載の組成で調製した各菌叢改善剤200μL分を試験サンプルとして菌を塗布した寒天培地上に接種して試験を実施した。嫌気的条件下で培養する菌は、アネロパック・ケンキ10%(三菱ガス化学(株)製)を使用して37℃、24時間培養した。好気的条件下で培養する菌は、37℃、24時間培養した。病原性菌に対する増殖抑制効果の持続性評価では、培養24時間後の評価が×のものは、病原性菌の培養を終了し、それ以外のものは、37℃での培養を培養1週間後まで継続した。培養1週間後の評価が△のものは、病原性菌の培養を終了し、それ以外のものは37℃での培養をさらに培養2週間後まで継続した。非病原性菌に対する効果の持続性評価では、どの菌についても、培養2週間後まで継続した。
なお、ハローの判定は、試験サンプル塗布域の末端からハローの末端までの長さを測定し、0mmより大きければ、ハローが確認されたと判定し、0mmであれば、ハローが確認されないと判定した。
病原性菌に対する増殖抑制効果の評価では、ハローが確認される場合は増殖抑制効果があり、ハローが確認されない場合は増殖抑制効果がないことを意味する。また、非病原性菌に対する効果の評価では、ハローが確認されない場合は増殖が抑制されず(増殖が影響を受けない)、ハローが確認される場合は増殖が抑制されることを意味する。そこで、病原性菌に対する増殖抑制効果の持続性評価(「持続性評価(病原性菌)」)及び非病原性菌に対する効果の持続性評価(「持続性評価(非病原性菌)」)は、それぞれ以下の基準で行った。評価結果を表1-1~表1-6に示す。
<持続性評価(病原性菌)>
◎:培養24時間後、1週間後及び2週間後の評価でハローが確認された
○:培養24時間後及び1週間後の評価ではハローが確認されたが、2週間後の評価ではハローが確認されなかった(消失していた)
△:培養24時間後の評価でハローが確認されたが、1週間後の評価ではハローが消失していた
×:培養24時間後の評価でハローが確認されなかった
<持続性評価(非病原性菌)>
◎:培養24時間後、1週間後及び2週間後もハローが確認されない状態が維持されていた
○:培養24時間後の評価ではハローは確認されたが、1週間後及び2週間後の評価ではハローが確認されなかった
△:培養24時間後及び1週間後の評価ではハローは確認されたが、2週間後の評価でハローが確認されなかった
×:培養24時間後、1週間後及び2週間後の評価でハローが確認された
【0098】
<展着性の評価>
37℃で80ccの人工唾液(0.844g/L塩化ナトリウム、1.2g/L塩化カリウム、0.146g/L塩化カルシウム水和物、0.052g/L塩化マグネシウム、0.342g/Lリン酸二カリウム)を入れた直径15cmのシャーレに10cm四方の皮革を10分間浸し、10分後皮革表面の水分をガーゼで除去後、各菌叢改善剤0.5gを指に置き、皮革上に伸ばし、伸ばした時の滑らかさと指への残存の大小を10名により官能試験した。以下の通り評価した結果を表1-1~表1-6に示す。
◎:7名以上が、伸ばした時滑らかで、指に菌叢改善剤が残っていないと感じた
○:7名以上が、伸ばした時滑らかであるが、指に菌叢改善剤が残ると感じた
△:7名以上が、伸ばした時滑らかでないが、指に菌叢改善剤が残っていないと感じた
×:7名以上が、伸ばした時滑らかでなく、指に菌叢改善剤が残ると感じた
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
表1-1~表1-6に示すように、物質(X)と物質(Y)を含む実施例1~44では、比較例1~16と比較して、病原性菌の増殖を選択的に抑制し、非病原性菌に対しては増殖を抑制せず、理想の菌叢バランスを実現できていることから、菌叢改善効果が確認できた。
また、一般的な抗菌剤(塩化ベンザルコニウム又は塩化セチルピリジニウム)を使用した比較例15及び16では、病原性菌のみならず非病原性菌の増殖も抑制されてしまうのに対して、実施例1~44では、非病原性菌の増殖を維持できることから、病原性菌に対して選択的に抑制効果を発揮していることが示唆された。
さらに、実施例1~44では、病原性菌の毒素(プロテアーゼ)産生抑制効果を有することも確認された。また、やはりプロテアーゼ産生抑制効果を示した比較例11~12及び14と比較して、菌叢改善効果の長期持続性を確認できた。
従って、本発明の菌叢改善剤は、非病原性菌に影響を与えることなく病原性菌選択的に増殖及び毒素産生の抑制効果を有し、長期的にその効果を持続できることがわかる。本発明の菌叢改善剤を一度患部に処置すれば、菌叢バランス改善効果を長期間発揮できるので、菌叢改善剤として特に有用であることがわかる。