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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】油性マーキングペン用インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20241021BHJP
   C09D 11/103 20140101ALI20241021BHJP
【FI】
C09D11/16
C09D11/103
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020183698
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073603
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 幹和
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-200186(JP,A)
【文献】特開2012-016866(JP,A)
【文献】特開2001-240788(JP,A)
【文献】特開2009-209249(JP,A)
【文献】特開2007-063386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/16
C09D 11/103
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分と、溶剤と、溶解型蛍光顔料と、チキソトロピー性付与剤と、を含み、
前記樹脂成分は、ケトン系樹脂である第1樹脂とケトン系樹脂の水素添加物である第2樹脂とを含み、
前記溶剤は、エタノール、2-プロパノール、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルを含み、
前記第1樹脂として、アセトフェノン系樹脂を含み、
前記第2樹脂として、アセトフェノン系樹脂の水素添加物を含み、
前記第1樹脂の前記第2樹脂に対する質量比は、0.3以上3.0以下であり、
前記エタノールの含有量Cetは、7質量%以上であり、
前記2-プロパノールの含有量Cipは、8質量%以上であり、
前記プロピレングリコールモノメチルエーテルの質量基準の含有量Cpmの、前記エタノールの含有量Cetおよび前記2-プロパノールの含有量Cipの合計に対する比は、1.7以上3以下である、油性マーキングペン用インキ組成物。
【請求項2】
前記チキソトロピー性付与剤は、疎水性シリカ粒子を含む、請求項1に記載の油性マーキングペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記チキソトロピー性付与剤の含有量は、0.5質量%以上1.5質量%以下である、請求項1または2に記載の油性マーキングペン用インキ組成物。
【請求項4】
前記溶解型蛍光顔料の含有量は、10質量%以上20質量%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の油性マーキングペン用インキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性マーキングペン用インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油性マーキングペン用インキ組成物は、水性インキに比べて、被着面に対する高い定着性が得られるため、様々な用途で用いられている。油性マーキングペン用インキ組成物は、有機溶剤、着色料、および樹脂などを含有する。
【0003】
特許文献1は、鱗片状顔料を1~30重量%の濃度で含有し、かつ水添されたベンゾフェノン型ケトン樹脂を含有するインキを提案している。
【0004】
特許文献2は、溶解型蛍光顔料、有機溶剤、前記有機溶剤に可溶な樹脂、炭化水素系ワックス及び/又は酸化炭化水素系ワックスを少なくとも含有するマーキングペン用油性蛍光インキを提案している。
【0005】
特許文献3は、(a)有機溶剤、(b)着色剤及び(c)上記有機溶剤に溶解させた樹脂を含む速乾性油性マーキングペンインキ組成物において、上記有機溶剤が20℃における飽和蒸気圧が8mmHg以上のものであり、上記樹脂がスチレン-マレイン酸樹脂、エチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-アクリル樹脂、アクリル樹脂及びこれらの部分エステル化物から選ばれる少なくとも1種であって、その酸価が150mgKOH/g以上のものであるマーキングペンインキ組成物を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-16866号公報
【文献】特開2001-240788号公報
【文献】特開2003-327890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
油性マーキングペン用インキ組成物には、筆記性、定着性、樹脂の溶解性、適度な粘度などの基本的な性能に加え、発色性、耐水性および速乾性などが求められる。しかし、いずれかの特性を向上させると他の特性が低下して、発色性、耐水性、および速乾性の全てに優れる油性マーキングペン用インキ組成物を得ることは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、樹脂成分と、溶剤と、溶解型蛍光顔料と、チキソトロピー性付与剤と、を含み、
前記樹脂成分は、ケトン系樹脂である第1樹脂とケトン系樹脂の水素添加物である第2樹脂とを含み、
前記溶剤は、エタノール、2-プロパノール、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルを含み、
前記第1樹脂の前記第2樹脂に対する質量比は、0.3以上3.0以下であり、
前記エタノールの含有量Cetは、7質量%以上であり、
前記2-プロパノールの含有量Cipは、8質量%以上であり、
前記プロピレングリコールモノメチルエーテルの質量基準の含有量Cpmの、前記エタノールの含有量Cetおよび前記2-プロパノールの含有量Cipの合計に対する比は、1.7以上3以下である、油性マーキングペン用インキ組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
高い発色性および耐水性を有するとともに、優れた速乾性を有する油性マーキングペン用インキ組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の上記側面に係る油性マーキングペン用インキ組成物は、樹脂成分と、溶剤と、溶解型蛍光顔料と、チキソトロピー性付与剤と、を含む。樹脂成分は、ケトン系樹脂である第1樹脂とケトン系樹脂の水素添加物である第2樹脂とを含む。溶剤は、エタノール、2-プロパノール、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルを含む。第1樹脂の第2樹脂に対する質量比は、0.3以上3.0以下である。油性マーキングペン用インキ組成物中のエタノールの含有量Cetは、7質量%以上であり、2-プロパノールの含有量Cipは、8質量%以上である。油性マーキングペン用インキ組成物中のプロピレングリコールモノメチルエーテルの質量基準の含有量Cpmの、エタノールの含有量Cetおよび2-プロパノールの含有量Cipの合計に対する比は、1.75以上3以下である。
【0011】
このような組成により、本発明の油性マーキングペン用インキ組成物では、高い発色性および耐水性と、優れた速乾性とを確保することができる。より具体的に説明すると、第1樹脂と第2樹脂とを特定の質量比で用いることで、溶解型蛍光顔料の発色を高めることができるとともに、高い耐水性を確保することができる。また、エタノールと、2-プロパノールと、プロピレングリコールモノメチルエーテルとを組み合わせるとともに、各溶剤の含有量を上記のように調節することで、第1樹脂および第2樹脂の分散安定性を高めることができるとともに、チキソトロピー性付与剤の凝集を抑制することができる。これにより、油性マーキングペン用インキ組成物の速乾性を向上することができる。また、チキソトロピー性付与剤を用いることで、速乾性をさらに高めることができる。また、溶解型蛍光顔料を用いるとともに、各樹脂および各溶剤の量的比率を上記のように調節することで、樹脂成分および溶解型蛍光顔料の高い溶解性を確保できるとともに、油性マーキングペン用インキ組成物の粘度を低く抑えることができる。
【0012】
以下、油性マーキングペン用インキ組成物についてより詳細に説明する。
【0013】
(樹脂成分)
樹脂成分は、ケトン系樹脂(第1樹脂)とケトン系樹脂の水素添加物(第2樹脂)とを含む。樹脂成分は、第1樹脂および第2樹脂以外の第3樹脂を含んでもよい。
【0014】
(第1樹脂)
第1樹脂としては、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いてもよいが、ケトンアルデヒド縮合樹脂を含むことが好ましい。第1樹脂は、ケトンのカルボニル基を有するものである。ケトンアルデヒド縮合樹脂は、ケトンがアルデヒド化合物で縮合した構造を含む樹脂であり、ケトンの残基(カルボニル基を含む)とアルデヒド化合物の残基とを含む。ケトンとしては、脂肪族ケトンでもよいが、芳香族ケトンが好ましい。芳香族ケトンとしては、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノンなどが挙げられる。ケトンと縮合するアルデヒド化合物としては、アルデヒド(ホルムアルデヒドなど)またはその縮合物などが挙げられる。例えば、芳香族ケトンがアルデヒド化合物で縮合した樹脂は、芳香環がアルデヒド化合物の残基(ホルムアルデヒドの場合にはメチレン基)で連結された構造を有する。ホルムアルデヒドで縮合したケトンアルデヒド樹脂では、第1樹脂を用いることで、油性マーキングペン用インキ組成物の高い耐水性を確保することができる。
【0015】
樹脂成分は、一種の第1樹脂を含んでもよく、二種以上の第1樹脂を含んでもよい。
【0016】
より高い耐水性が得られ易い観点から、アセトフェノン系樹脂を含む第1樹脂が好ましい。アセトフェノン系樹脂は、アセトフェノン化合物とアルデヒド化合物との縮合樹脂である。アセトフェノン化合物には、アセトフェノンの他、アセトフェノンの芳香環に置換基(例えば、アルキル基、アルコキシ基)を有するものも包含される。
【0017】
第1樹脂に占めるアセトフェノン系樹脂の比率は、多い方が好ましく、例えば、90質量%以上であり、95質量%以上または99質量%以上であってもよい。第1樹脂に占めるアセトフェノン系樹脂の比率は、100質量%以下である。第1樹脂をアセトフェノン系樹脂のみで構成してもよい。
【0018】
油性マーキングペン用インキ組成物中の第1樹脂の含有量は、例えば、1質量%以上である。より高い耐水性を確保し易い観点から、第1樹脂の含有量は、2質量%以上が好ましく、3質量%以上または4質量%以上であってもよい。第1樹脂の含有量は、例えば、10質量%以下である。樹脂成分のより高い分散安定性を確保し易い観点からは、第1樹脂の含有量は、8質量%以下または7質量%以下が好ましく、6質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0019】
第1樹脂の第2樹脂に対する質量比(=第1樹脂/第2樹脂)は、0.3以上3.0以下であり、0.8以上2以下であってもよく、0.9以上1.5以下であってもよい。質量比がこのような範囲であることで、優れた発色性と高い耐水性とを両立することができる。
【0020】
(第2樹脂)
第2樹脂としては、第1樹脂について例示したケトン系樹脂の水素添加物であればよい。第2樹脂は、ケトンアルデヒド縮合樹脂の水素添加物を含むことが好ましい。ケトンアルデヒド縮合樹脂としては、第1樹脂について例示したものが挙げられる。水素添加物では、ケトンアルデヒド縮合樹脂のケトン基(>C=O)が、水素添加され、ヒドロキシメチレン基(>CH-OH)に変換されている。なお、水素添加物では、ケトン基以外の部分(例えば、芳香環)が水素添加されていてもよい。
【0021】
樹脂成分は、第2樹脂を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0022】
優れた発色性が得られ易い観点から、第2樹脂として、アセトフェノン系樹脂の水素添加物を用いることが好ましい。アセトフェノン系樹脂の水素添加物と、第1樹脂としてのアセトフェノン系樹脂とを組み合わせて用いると、発色性と耐水性とをバランスよく確保し易い。
【0023】
第2樹脂に占めるアセトフェノン系樹脂の水素添加物の比率は、多い方が好ましく、例えば、90質量%以上であり、95質量%以上または99質量%以上であってもよい。第2樹脂に占めるアセトフェノン系樹脂の水素添加物の比率は、100質量%以下である。第2樹脂をアセトフェノン系樹脂の水素添加物のみで構成してもよい。
【0024】
油性マーキングペン用インキ組成物中の第2樹脂の含有量は、例えば、1質量%以上である。より高い発色性を確保し易い観点からは、第2樹脂の含有量は、2質量%以上が好ましく、3質量%以上または4質量%以上であってもよい。第2樹脂の含有量は、例えば、15質量%以下であり、12質量%以下または10質量%以下であってもよい。第2樹脂の含有量がこのような範囲である場合、第2樹脂の析出をさらに抑制することができるため、かすれなどの不良を低減できる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0025】
(第3樹脂)
第3樹脂には、第1樹脂および第2樹脂以外の樹脂が含まれ得る。第3樹脂としては、油溶性樹脂などが好ましい。第3樹脂としては、フェノール系樹脂(アルキルフェノール樹脂、フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂など)、キシレン系樹脂(アルキルフェノール変性キシレン樹脂、ロジン変性キシレン樹脂など)、ロジン系樹脂(ロジン酸系樹脂、ロジンエステル、ロジン金属塩、ロジンジオールなど)、有機酸変性ビニル重合体(例えば、スチレンと有機酸またはその酸無水物(アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、および/または無水マレイン酸など)との共重合体(スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体など)またはその塩など)、アクリル系樹脂(アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルをモノマー単位として含む重合体など)などが挙げられる。
【0026】
樹脂成分は、第3樹脂を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0027】
樹脂成分に占める第1樹脂および第2樹脂の合計比率は、例えば、85質量%以上であり、90質量%以上または95質量%以上であってもよい。樹脂成分に占める第1樹脂および第2樹脂の合計比率は、100質量%以下であり、99質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0028】
(溶剤)
溶剤は、エタノール、2-プロパノール、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルを含む。
【0029】
油性マーキングペン用インキ組成物中のエタノールの含有量Cetは、7質量%以上である。これにより、高い速乾性を確保することができる。溶解型蛍光顔料の溶解をより容易にする観点から、エタノールの含有量Cetは、例えば、15質量%以下であり、12質量%以下または10質量%以下であってもよい。
【0030】
油性マーキングペン用インキ組成物中の2-プロパノール(IPA)の含有量Cipは、8質量%以上であり、10質量%以上であってもよい。IPAの含有量Cipがこのような範囲である場合、エタノールとの組み合わせにより、速乾性を大きく向上できる。溶解型蛍光顔料の溶解をより容易にする観点から、IPAの含有量Cipは、例えば、18質量%以下であり、17質量%以下または15質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0031】
油性マーキングペン用インキ組成物中のプロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)の質量基準の含有量Cpm(質量%)の、エタノールの含有量CetおよびIPAの含有量Cipの合計(質量%)に対する比(=Cpm/(Cet+Cip))は、1.7以上3以下であり、1.7以上2.7以下であってもよい。各溶剤の含有量の比がこのような範囲であることで、溶解型蛍光顔料の溶解性が向上し、樹脂成分の分散安定性が高まるとともに、高い速乾性を確保することができる。
【0032】
溶剤としては、エタノール、IPAおよびPMに加え、これら以外の他の溶剤を併用してもよい。他の溶剤としては、エタノールおよびIPAを除くアルコール類(フェノール類も含む)、PMを除くグリコールエーテル類、ケトン類、エステル類などが挙げられる。アルコール類は、ヒドロキシ基を1つ有する一価アルコール類であってもよく、2つ以上有する多価アルコール類であってもよい。これらの他の溶剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
溶剤全体に占める、エタノール、IPAおよびPMの合計比率は、例えば、90質量%以上であり、95質量%以上であってもよい。溶剤全体に占める、エタノール、IPAおよびPMの合計比率は、100質量%以下である。溶剤を、エタノール、IPAおよびPMのみで構成してもよい。
【0034】
油性マーキングペン用インキ組成物中の溶剤の含有量は、例えば、40質量%以上であり、45質量%以上が好ましく、50質量%以上または55質量%以上であってもよい。溶媒の含有量がこのような範囲である場合、溶解型蛍光顔料の高い溶解性および樹脂成分の高い分散安定性をさらに確保し易くなる。また、油性マーキングペン用インキ組成物の粘度を低く抑えることができる。溶媒の含有量は、例えば、85質量%以下であり、80質量%以下または75質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0035】
(着色剤)
油性マーキングペン用インキ組成物は、着色剤として、溶解型蛍光顔料(第1着色剤)を含む。また、溶解型蛍光顔料以外の着色剤として、他の顔料(第2着色剤)および染料(第3着色剤)から選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0036】
(溶解型蛍光顔料(第1着色剤))
溶解型蛍光顔料としては、溶剤に可溶性の樹脂(熱可塑性樹脂など)と蛍光染料とを含むものが用いられる。蛍光染料は、蛍光性能を有する染料であり、蛍光増白剤も包含する。溶解型蛍光顔料を上記の樹脂成分および溶剤と組み合わせることで、均一に溶解して、優れた発色性を確保できる。なお、溶解型蛍光顔料は、油性マーキングペン用インキ組成物中に、樹脂や蛍光染料が溶解した状態で含まれていてもよい。このような状態を含めて、油性マーキングペン用インキ組成物において溶解型蛍光顔料が添加された痕跡が検出可能であれば、油性マーキングペン用インキ組成物に溶解型蛍光顔料が含まれているものとする。
【0037】
溶解型蛍光顔料としては、シンロイヒ社製のFM-10シリーズ、FM-11~17、FM-27、FM-34N、FM-35N、FM-47、FM-100シリーズ、FM-103、FM-105、FM-107、FM-109などが挙げられる。
【0038】
油性マーキングペン用インキ組成物は、溶解型蛍光顔料を一種含んでいてもよく、二醜状含んでいてもよい。
【0039】
油性マーキングペン用インキ組成物中の溶解型蛍光顔料の含有量は、例えば、5質量%以上25質量%以下であり、5質量%以上20質量%以下であってもよく、8質量%以上20質量%以下または10質量%以上20質量%以下であってもよい。溶解型蛍光顔料の含有量がこのような範囲である場合、より高い蛍光強度を得ることができるとともに、溶解型蛍光顔料の高い溶解性を確保し易くなる。また、油性マーキングペン用インキ組成物の粘度を比較的低くすることができる。
【0040】
(第2着色剤)
第2着色剤としては、第1着色剤以外の顔料、例えば、着色顔料、体質顔料、および機能性顔料などが挙げられる。第2着色剤としては、無機顔料、有機顔料、蛍光顔料、金属粉顔料などが挙げられる。また、顔料として、パール顔料、白色樹脂粒子、着色ビーズなどを用いてもよい。また、これらの顔料と樹脂とを含む粉体を第2着色剤として用いてもよい。油性マーキングペン用インキ組成物は、第2着色剤を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0041】
より高い下地の隠蔽効果を確保する観点からは、少なくとも白色顔料を含む第2着色剤を用いることが好ましい。
【0042】
白色顔料としては、例えば、酸化チタン(ピグメントホワイト6など)、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク、マイカ、白色樹脂粒子が挙げられる。これらの白色顔料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。より高い下地の隠蔽性を確保し易い観点から、少なくとも酸化チタンを用いることが好ましく、酸化チタンと他の白色顔料とを組み合わせて用いてもよい。なお、白色顔料の粒子は、無機成分(例えば、金属酸化物(アルミナ、ジルコニア、および/またはチタニアなど))および有機成分の少なくとも一方で被覆されたものであってもよい。
【0043】
油性マーキングペン用インキ組成物中の第2着色剤の含有量は、例えば、1質量%以上20質量%以下であり、5質量%以上15質量%以下であってもよい。
【0044】
(第3着色剤)
第3着色剤としては、第1着色剤以外の染料、例えば、油溶性染料が挙げられる。第3着色剤としては、例えば、アゾ系染料、トリフェニルメタン系染料、アンスラキノン系染料などが挙げられる。また、塩基性染料、酸性染料、直接染料、分散染料などを用いてもよい。油性マーキングペン用インキ組成物は、第3着色剤を、一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0045】
油性マーキングペン用インキ組成物中の第3着色剤の含有量は、例えば、0.1質量%以上15質量%以下であり、0.1質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0046】
(チキソトロピー性付与剤)
チキソトロピー性付与剤としては、無機系、有機系、および複合系のものが挙げられる。これらのうち、無機系および複合系のものが好ましい。無機系のチキソトロピー性付与剤としては、シリカ系、ベントナイト系、および沈降炭酸カルシウムなどが挙げられる。複合系のチキソトロピー性付与剤としては、表面処理シリカ系、有機ベントナイト系、表面処理炭酸カルシウム系のものが挙げられる。油性マーキングペン用インキ組成物は、チキソトロピー性付与剤を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。なお、チキソトロピー性付与剤は、油性マーキングペン用インキ組成物にチキソトロピー性(揺変性)を付与する成分である。
【0047】
中でも、チキソトロピー性付与剤は、疎水性シリカ粒子を含むことが好ましい。この場合、樹脂成分の分散安定性をさらに高めることができ、乾燥し易くなることで、より高い速乾性を確保することができる。
【0048】
疎水性シリカ粒子としては、例えば、ヘキサメチルジシラザンやジメチルジクロロシランなどで疎水化表面処理されたシリカ粒子が挙げられる。このような疎水性シリカ粒子としては、アエロジルRX-50、アエロジルRX-200、アエロジルRX-300、アエロジルR974、アエロジルR976(日本アエロジル社製)、レオロシールZD-30ST、レオロシールHM-20L、レオロシールHM-30S(トクヤマ社製)が挙げられる。
【0049】
油性マーキングペン用インキ組成物中のチキソトロピー性付与剤の含有量は、例えば、0.1質量%以上2質量%以下であり、0.5質量%以上1.5質量%以下または0.5質量%以上1質量%以下であってもよい。チキソトロピー性付与剤の含有量がこのような範囲である場合、より高い分散安定性を確保することができるため、速乾性をさらに高めることができる。
【0050】
(その他)
油性マーキングペン用インキ組成物は、必要に応じて、添加剤を含むことができる。添加剤としては、特に制限されず、油性マーキングペン用インキ組成物に添加される公知の添加剤が挙げられる。添加剤としては、例えば、粘度調整剤、構造粘性付与剤、染料可溶化剤、乾燥性付与剤、湿潤分散剤、界面活性剤(レベリング剤、消泡剤など)、シリコーンオイルなどが例示されるが、これらに制限されるものではない。
【0051】
油性マーキングペン用インキ組成物は、構成成分を混合することにより調製できる。調製の過程で、必要に応じて、混合物を加熱してもよい。構成成分を一度に混合してもよく、一部の構成成分を混合した後、残りの構成成分を添加してもよい。構成成分の添加の順序は特に制限されない。
【0052】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
《実施例1~6および比較例1~22》
(1)油性マーキングペン用インキ組成物の調製
表1に示す成分および量で油性マーキングペン用インキ組成物を調製した。より具体的には、溶剤の混合物に、撹拌下で、添加剤および必要に応じてチキソトロピー性付与剤を添加して混合した。混合物を45℃±5℃に加熱し、この温度で保持した状態で、撹拌下、必要により第2着色剤を溶剤中に予め分散させた分散液を添加し、次いで、第1着色剤を添加して溶解させた。得られた混合物に、45℃±5℃で保持した状態で、樹脂成分を加えて溶解させ、室温(20℃~35℃)に冷却した。このようにして、油性マーキングペン用インキ組成物を調製した。
【0054】
油性マーキングペン用インキ組成物の原料としては、下記のものを用いた。
(I)溶剤
(a)エタノール:EtOH
(b)2-プロパノール:IPA
(c)プロピレングリコールモノメチルエーテル:PM
【0055】
(II)樹脂成分
(a)ケトン系樹脂(アセトフェノン系樹脂):TEGO(登録商標)Variplus AP(Evonik社製、ケトン-アルデヒド縮合樹脂)
(b)ケトン系樹脂(アセトフェノン系樹脂)の水素添加物:TEGO(登録商標)Variplus SK(Evonik社製)
【0056】
(III)第1着色剤(溶解型蛍光顔料)
(a)溶解型蛍光顔料1(蛍光色顔料、シンロイヒ社製、FM-15)
(b)溶解型蛍光顔料2(蛍光増白剤タイプ、シンロイヒ社製、FM-109)
【0057】
(IV)第2着色剤
(a)酸化チタン(冨士色素社製、フジASLホワイト)
(b)酸化チタン(石原工業社製、タイペークCR-95)
(c)マイカ(ヤマグチマイカ社製、マイカTM-10)
【0058】
(V)チキソトロピー性付与剤
疎水性シリカ粒子(トクヤマ社製、レオロシールHM-20L)
【0059】
(VI)添加剤
(a)湿潤分散剤(ビックケミー・ジャパン社製、DISPERBYK-185)
(b)レベリング剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-302)
【0060】
(2)油性マーキングペンの作製
上記(1)で得られた油性マーキングペン用インキ組成物を、油性マーキングペン用の中芯に充填し、油性マーキングペンの容器にセットすることにより、油性マーキングペンを作製した。
【0061】
(3)評価
上記(2)で作製した油性マーキングペンまたは(1)で調製した油性マーキングペン用インキ組成物を用いて下記の評価を行った。必要に応じて、(1)の油性マーキングペン用インキ組成物の調製過程の状態に基づいて評価を行った。
【0062】
(a)溶解性
油性マーキングペン用インキ組成物を調製する際の、第1顔料、および樹脂成分の溶解性を下記の基準で評価した。
A:第1顔料および樹脂成分が全て容易に溶解した。
B:第1顔料が溶解しなかった。
C:樹脂成分が溶解しなかった。
【0063】
(b)冷蔵安定性
調製した油性マーキングペン用インキ組成物を、5℃で一晩放置し、析出や凝集の状態を観察し、下記の基準で評価した。
A:析出や凝集が観察されず、油性マーキングペン用インキ組成物の状態に変化が見られなかった。
B:チキソトロピー性付与剤の凝集が確認された。
C:樹脂成分が析出した。
【0064】
(c)蛍光強度
油性マーキングペン用インキ組成物を用いて、バーコーターでPHOケント紙の片面に20μmの厚みの塗膜を形成し、乾燥させることにより測定用サンプルを作製した。顕微色差計(日本電色工業社製、VSS7700)を用いて、測定波長:380~780nm、測定径s:1mmの条件でサンプルの反射率(%)を測定し、極大値を蛍光強度とした。測定した蛍光強度の値に基づき、以下の基準で評価した。
A:105%以上
B:100%以上105%未満
C:100%未満
【0065】
(d)耐水性
油性マーキングペンを用いて、ガラス板の表面に直線を引き、乾燥させた。形成された被膜の約半分の部分をガラス板ごと、イオン交換水に静かに浸漬させ、24時間静置した。静置した後の、被膜の剥離の状態を観察した。
A:被膜の剥離が全く見られなかった。
B:浸漬した部分の被膜の一部に剥離が見られた。
C:浸漬した部分の被膜が全て剥離した。
【0066】
(e)速乾性
油性マーキングペンを用いて、ガラス板の表面に直線を引いた。直線を引いた直後から、所定時間後に、筆記線と交差するように、約500gf(≒4.9N)の荷重で指でこすり、未乾燥による線伸びの有無を観察する。このとき、観察は、直線を引いた直後から10秒毎に、筆記の開始側から所定の間隔を開けて、指でこする位置をずらしながら行う。線伸びが無くなった時点を乾燥時間(秒)として、速乾性の指標とする。
【0067】
実施例および比較例の結果を表1および表2に示す。表中、E1~E6は実施例であり、C1~C22は比較例である。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
表に示されるように、C1~C22では、蛍光強度、耐水性および乾燥速度の少なくともいずれか1つが劣るのに対し、E1~E6では、蛍光強度および耐水性が高く、乾燥速度が短く速乾性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の油性マーキングペン用インキ組成物は、発色性(蛍光強度)、耐水性、および速乾性の全てに優れている。そのため、工場などの作業現場で使用する部品や鋼材などにマーキングしたり、紙などの吸収面もしくはガラスまたはプラスチックなどの非吸収面を装飾したりする用途などに適している。しかし、油性マーキングペン用インキ組成物の用途はこれらに限定されるものではない。