(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】品質検査方法、及びそれに用いられる品質検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/07 20060101AFI20241021BHJP
【FI】
G01N29/07
(21)【出願番号】P 2020213730
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100161090
【氏名又は名称】小田原 敬一
(72)【発明者】
【氏名】澤 武一
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-010493(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0063473(US,A1)
【文献】特開2004-150945(JP,A)
【文献】特開2008-111846(JP,A)
【文献】特開2010-074119(JP,A)
【文献】特開平06-011385(JP,A)
【文献】特開2010-236892(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0091952(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 1/00 - B24B 57/04
B24D 3/00 - B24D 99/00
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を研磨するための砥石の品質を検査する品質検査方法であって、
前記砥石に表面波を発生させるための波発生手段を通じて前記砥石に実際に表面波を発生させる波発生手順と、
前記砥石の表面波を検出するための検出手段を通じて前記砥石に実際に生じた表面波としての実際の表面波を検出する波検出手順と、
前記実際の表面波と、当該実際の表面波を利用して前記砥石の品質を判別するための判別用情報とに基づいて、前記砥石の品質を評価する品質評価手順と、
を備える、品質検査方法。
【請求項2】
前記波検出手順は、前記実際の表面波として当該表面波の伝播速度を検出するように構成され、
前記品質評価手順は、前記実際の表面波として当該表面波の伝播速度を利用し、当該伝播速度と前記判別用情報とに基づいて前記砥石の品質を評価するように構成される、請求項1に記載の品質検査方法。
【請求項3】
前記検出手段は、前記砥石の所定間隔があけられた二カ所において前記実際の表面波をそれぞれ検出する第1検出手段、及び第2検出手段を含み、
前記波検出手順は、前記第1検出手段、及び前記第2検出手段を通じて前記二カ所における前記実際の表面波をそれぞれ検出する第1検出手順と、前記第1検出手段による前記実際の表面波の検出時間と前記第2検出手段による前記実際の表面波の検出時間との間のずれ時間に基づいて前記実際の表面波の伝播速度を算出することにより当該伝播速度を検出する第2検出手順と、を含んでいる、請求項2に記載の品質検査方法。
【請求項4】
前記判別用情報は、前記砥石の品質を判別するための基準として機能すべき伝播速度としての基準伝播速度の情報を含み、
前記品質評価手順は、前記実際の表面波の伝播速度と前記基準伝播速度とを比較することにより前記砥石の品質を評価するように構成される、請求項2又は3に記載の品質検査方法。
【請求項5】
前記判別用情報は、前記砥石に関するポアソン比の情報、及び密度の情報を含み、
前記品質評価手順は、
前記実際の表面波の伝播速度をV
rと、前記ポアソン比をvと、前記実際の表面波に関する横波の伝播速度をVsと、それぞれした場合において、(1)の式に基づいて横波の伝播速度を算出する第1評価手順と、
前記密度をρと、前記砥石の縦弾性係数をEと、それぞれした場合において、前記砥石の品質の評価として(2)の式に基づいて前記縦弾性係数を算出する第2評価手順と、を含んでいる、請求項2又は3に記載の品質検査方法。
【数4】
【請求項6】
対象物を研磨するための砥石の品質を検査する品質検査装置であって、
前記砥石に波発生手段を通じて弾性波が生じた場合に、前記砥石の所定間隔があけられた二カ所に、前記弾性波を検出する装置としてそれぞれ配置される二つの弾性波検出装置と、
前記弾性波のうち各弾性波検査装置によって検出された表面波としての実際の表面波に生じる前記二カ所の間のずれ時間に基づいて、前記実際の表面波に関する伝播速度としての実際の伝播速度を算出する速度算出手段と、
前記実際の伝播速度と、当該実際の伝播速度を利用して前記砥石の品質を判別するための判別用情報とに基づいて、前記砥石の品質を評価する品質評価手段と、
を備える、品質検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物を研磨するための砥石の品質を検査する品質検査方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物を研磨するための砥石の品質を検査する品質検査方法が存在する。例えば、このような品質検査方法として、共振周波数測定法(ソニック法)が知られている(例えば非特許文献1~3参照)。また、その他にも本発明に関連する先行技術文献として非特許文献4~6が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】T.E.Dustine、Electronics、24、4(1951)115
【文献】R.G.Rowe、Steel、126、26(1950)74
【文献】砥粒加工研究協会、砥粒加工技術便覧、日本、(1965)947
【文献】海野邦昭、篠崎襄、研削砥石の結合度測定に関する研究(第1報)、精密機械、日本、36、8(1970)538
【文献】海野邦昭、篠崎襄、研削砥石の結合度測定に関する研究(第2報)、精密機械、日本、36、9(1970)608
【文献】海野邦明、篠崎襄、微粒砥石の結合度の評価-研削砥石の結合度に関する研究(第3報)-、精密機械、日本、38、1(1972)161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
航空機・自動車の構造材料や半導体の次世代パワーデバイス材料の研削は一層難しくなっている。一方、需要増、並びに国際競争力の強化のための加工能率向上、加工コスト低減、及び高品位・高精度加工は生産現場の大きな課題である。このような背景のもと、研削加工においては耐摩耗性、及び高熱伝導率の優位性からWA(ホワイトアランダム)砥石、或いはGC(グリーンカーボランダム)砥石といった普通研削砥石からCBN(立方晶窒化ホウ素)やダイヤモンドを砥粒とする超砥粒ホイールへの移行が望ましい。ただし、超砥粒ホイールはツルーイング、及びドレッシングが困難なことや砥粒層の機械的性質(特に縦弾性係数)と研削性能との間の関係が明確でないこともあり、発売されて久しいが、十分に普及しているとはいえない。また、超砥粒ホイールの砥粒層に含まれる結合剤やフィラー(添加物)は製造メーカのノウハウであり、砥粒層の構造体としての縦弾性係数は生産現場で把握できない傾向にある。このため、超砥粒ホイールの制御性は低く、加工結果の良否は主として作業者の熟練度に依存してしまう場合が多い。このことから、研削加工の研究や技術開発は研削状態をモニタリングする、或いはセンシングするものが主であり、加工前の段階で加工状態や加工結果を予測する技術に関してはあまり検討されない傾向にある。切削工具の性能評価法として活用される寿命曲線(VT線図)と同様に、超砥粒ホイールでも砥粒層の縦弾性係数を含む機械的性質と研削性能(アブレシブ摩耗特性)とが関連付けられれば、砥粒層の機械的性質から加工性能を評価でき、ホイールの選定や研削作業の条件設定に有益な情報となる。
【0005】
例えば、非特許文献1の共振周波数測定法では、各種砥石のうち普通研削砥石の縦弾性係数が測定可能である。縦弾性係数は砥石の機械的性質に関連するため、その品質との関連性が高く、砥石の品質を示す指標の一つと考えられる。例えば、非特許文献6には、縦弾性係数と砥石の研削性能との関連が開示されている。このため、非特許文献1の共振周波数測定法は普通研削砥石の品質検査方法の一つとして機能し得る。非特許文献2及び3に開示される共振周波数測定法も同様である。さらに、非特許文献4、及び5は超音波パルス透過法を開示しているが、このような超音波パルス透過法でも砥石の縦弾性係数の測定は可能である。このため、これらの超音波パルス透過法も普通研削砥石の品質検査方法として機能し得る。しかし、超砥粒ホイールは台金に砥粒層を固定する構造上、普通研削砥石に適用されるソニック法や超音波パルス法の適用は難しい。このため、砥粒層の縦弾性係数を測定する手法は今のところ確立されていないと考えられ、このような縦弾性係数の測定を含む超砥粒ホイールの品質を検査する方法にはニーズがある。
【0006】
例えば、メーカは超砥粒ホイールの砥粒層と同様の配分のスティックを別途形成し、そのスティックの品質を検査する場合もあり、その検査結果が超砥粒ホイールの品質検査として代用される場合もあるようである。しかし、この検査方法では、あくまでも代用的な品質が検査されるに過ぎず、超砥粒ホイール自体の品質は検査されない。また、検査用のスティックの形成には手間暇がかかってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、多様な種類の砥石の品質検査に適用することができる品質検査方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の品質検査方法は、対象物を研磨するための砥石の品質を検査する品質検査方法であって、前記砥石に表面波を発生させるための波発生手段(7)を通じて前記砥石に実際に表面波を発生させる波発生手順と、前記砥石の表面波を検出するための検出手段(2)を通じて前記砥石に実際に生じた表面波としての実際の表面波を検出する波検出手順と、前記実際の表面波と、当該実際の表面波を利用して前記砥石の品質を判別するための判別用情報とに基づいて、前記砥石の品質を評価する品質評価手順と、を備えるものである。
【0009】
本発明によれば、砥石に生じた表面波に基づいてその砥石の品質が評価される。つまり、砥石の品質の評価に表面波が利用される。表面波は普通研削砥石にはもちろん、超砥粒ホイールの砥粒層にも生じ得る。このため、表面波を利用して普通研削砥石はもちろん、超砥粒ホイールの砥粒層の品質も評価することができる。つまり、普通研削砥石だけでなく、超砥粒ホイールの品質も評価することができる。結果として、ソニック法等に比べて、多様な種類の砥石の品質検査に適用することができる。また、砥石を直接的に評価することができるので、例えば代用品を通じて品質が評価される場合に比べて、そのような代用品を用意する手間暇を軽減することができる。
【0010】
砥石に生じる表面波はその品質に関連している。このため、砥石に生じた表面波の各種の成分が品質の評価に利用されてよい。例えば、砥石に生じた表面波の伝播速度が品質の評価に利用されてよい。具体的には、例えば、本発明の品質検査方法の一態様において、前記波検出手順は、前記実際の表面波として当該表面波の伝播速度を検出するように構成され、前記品質評価手順は、前記実際の表面波として当該表面波の伝播速度を利用し、当該伝播速度と前記判別用情報とに基づいて前記砥石の品質を評価するように構成されてもよい。
【0011】
表面波の伝播速度は各種の手法により適宜に検出されてよい。このため、このような各種の手法に応じた検出手段が利用されてよく、そのような検出手段に応じた手順として波検出手順は構成されてよい。例えば、検出手段は伝播速度を直接的に計測するように構成され、波検出手順では表面波の伝播速度が直接的に検出されてもよい。あるいは、検出手段は、表面波の伝播速度を間接的に検出するように構成されてもよい。具体的には、例えば、表面波の伝播速度を品質検査に利用する態様において、前記検出手段は、前記砥石の所定間隔(WD2)があけられた二カ所において前記実際の表面波をそれぞれ検出する第1検出手段(2A)、及び第2検出手段(2B)を含み、前記波検出手順は、前記第1検出手段、及び前記第2検出手段を通じて前記二カ所における前記実際の表面波をそれぞれ検出する第1検出手順と、前記第1検出手段による前記実際の表面波の検出時間と前記第2検出手段による前記実際の表面波の検出時間との間のずれ時間に基づいて前記実際の表面波の伝播速度を算出することにより当該伝播速度を検出する第2検出手順と、を含んでいてもよい。
【0012】
品質評価手順では、表面波に基づいて適宜に砥石の品質が評価されてよい。例えば、品質評価手順では、砥石の品質として表面波の伝播速度に基づいて砥石の縦弾性係数が算出されてもよいし、縦弾性係数に基づく要素が品質として提供されてもよい。また、砥石の品質は表面波の伝播速度の遅延度合いにも反映される。このため、品質評価手順では、砥石の品質として表面波の伝播速度の遅延度合いが算出されてもよいし、遅延度合いに基づく要素が品質として提供されてもよい。具体的には、例えば、表面波の伝播速度を品質検査に利用する態様において、前記判別用情報は、前記砥石の品質を判別するための基準として機能すべき伝播速度としての基準伝播速度の情報を含み、前記品質評価手順は、前記実際の表面波の伝播速度と前記基準伝播速度とを比較することにより前記砥石の品質を評価するように構成されてもよい。あるいは、前記判別用情報は、前記砥石に関するポアソン比の情報、及び密度の情報を含み、前記品質評価手順は、前記実際の表面波の伝播速度をVpと、前記ポアソン比をvと、前記実際の表面波に関する横波の伝播速度をVsと、それぞれした場合において、(1)の式に基づいて横波の伝播速度を算出する第1評価手順と、前記密度をρと、前記砥石の縦弾性係数をEと、それぞれした場合において、前記砥石の品質の評価として(2)の式に基づいて前記縦弾性係数を算出する第2評価手順と、を含んでいてもよい。
【0013】
【0014】
また、本発明の品質検査装置は、対象物を研磨するための砥石の品質を検査する品質検査装置(1)であって、前記砥石に波発生手段(7)を通じて弾性波が生じた場合に、前記砥石の所定間隔(WD2)があけられた二カ所に、前記弾性波を検出する装置としてそれぞれ配置される二つの弾性波検出装置(2A、2B)と、前記弾性波のうち各弾性波検査装置によって検出された表面波としての実際の表面波に生じる前記二カ所の間のずれ時間に基づいて、前記実際の表面波に関する伝播速度としての実際の伝播速度を算出する速度算出手段(14)と、前記実際の伝播速度と、当該実際の伝播速度を利用して前記砥石の品質を判別するための判別用情報とに基づいて、前記砥石の品質を評価する品質評価手段(14)と、を備えるものである。本発明の品質検査装置によれば、本発明の品質検査方法を実現することができる。
【0015】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0016】
以上に説明したように、本発明によれば、多様な種類の砥石の品質検査に適用することができる品質検査方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一形態に係る品質検査方法に適用される品質検査装置の全体構成の一例を示す図。
【
図2】本発明の一形態に係る品質検査方法に適用される品質検査装置の制御系の要部を示す機能ブロック図。
【
図3】本発明の一形態に係る品質検査方法の手順を説明するための説明図。
【
図5】品質評価処理の手順の一例を示すフローチャート。
【
図6】二カ所における表面波の遅延時間の計測結果を示す図。
【
図7】各種材料における表面波の伝播速度の理論値と実験値との比較結果を示す図。
【
図8】粒度が異なる砥粒層の表面波を測定した結果を示す図。
【
図9】コンセントレーションが異なる砥粒層の表面波を測定した結果を示す図。
【
図10】結合剤が異なるダイヤモンドホイールの表面波を測定した結果を示す図。
【
図11】超砥粒の種類と表面波との間の関係を示す図。
【
図12】ホイールの砥粒層に欠陥がある場合、及びそれがない場合の表面波の伝播速度を比較して示す図。
【
図13】
図12の例と同様のホイールの砥粒層に
図12の例と異なる欠陥がある場合、及びそれがない場合の表面波の伝播速度を比較して示す図。
【
図14】各種材料におけるポアソン比、及び密度の値を示す表。
【
図15】各種材料における縦弾性係数の理論値、及び実験値を示す図。
【
図16】実施例で使用されたポアソン比、及び密度の値を示す表。
【
図17】超砥粒ホイールの砥粒層における縦弾性係数として算出された値を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の品質検査方法の一形態を説明する。まず、
図1を参照して、本発明の一形態に係る品質検査方法に適用される品質検査装置の全体構成を説明する。本発明の品質検査方法は、被検査対象に生じる表面波に基づいてその被検査対象の品質を検査(評価)する方法である。本発明の品質検査方法では、表面波の各種成分を品質の検査に利用し得るが、
図1の例は表面波の伝播速度を品質の検査に利用する場合を示している。同様に、被検査対象に生じる表面波の伝播速度は各種の方法で検出されてよいが、
図1の例は被検査対象の異なる二か所において生じる表面波の検出時間のずれに基づいて表面波の伝播速度を検出する場合を示している。この場合、
図1に示すように、品質検査装置1は、検出手段としてのセンサ(検出装置)2、増幅器3、データ記録装置(データロガ)4、及びコンピュータ装置5を含んでいる。
【0019】
品質検査装置1は、各種の被検査対象の品質検査に適用されてよいが、
図1の例では円形の砥石6の品質検査に適用されている。砥石6は、適宜の対象物を研磨するための物である。砥石6は、WA砥石、或いはGC砥石等の各種の砥石を適宜に含み得るが、
図1の例ではCBNやダイヤモンドを砥粒とする超砥粒ホイールとして構成されている。このため、砥石6には、超砥粒層6aが設けられている。
【0020】
砥石6における表面波は適宜の手法により実現されてよいが、例えば波発生手段としての発生装置7を通じて実現される。発生装置7は表面波を発生させるための装置である。表面波を発生させることができる各種の装置が発生装置7として利用されてよく、その構成によっては品質検査装置1の一部としてコンピュータ装置5等により動作が制御されてもよい。このように発生装置7として各種の装置が適宜に利用されてよいが、一例としてシャープペンシルが利用される。シャープペンシルは、シャープペンシル芯圧折法(アメリカ材料試験協会によりE976として規格化される手法)により表面波を発生させることができる周知の装置である。この手法では、シャープペンシルの芯を圧折する際の角度を一定に保つことにより繰り返し精度を向上させることができる。発生装置(シャープペンシル)7は、砥石6の適宜の位置に表面波を発生させてよいが、一例として超砥粒層6aに表面波を生じさせるように設置される。
【0021】
センサ2は、砥石6に生じた表面波を検出するための装置である。表面波は上述のとおり適宜の手法で検出されてよく、センサ2はその手法に応じて同様に適宜に構成されてよいが、
図1の例では第1検出手段としての第1センサ2A、及び第2検出手段としての第2センサ2Bを含んでいる。これらの第1センサ2A、及び第2センサ2Bとして表面波を検出可能な適宜のセンサが利用されてよいが、一例としてAE(アコースティック エミッション)センサが利用される。AEセンサは、弾性波(AE波)を検出する周知のセンサ(弾性波検出装置の一例)である。
【0022】
第1センサ2A、及び第2センサ2Bは、砥石6の異なる二か所に生じた表面波をそれぞれ検出するように設置される。これらの第1センサ2A、及び第2センサ2B(いずれもAEセンサ)は、被検出対象(砥石6)の適宜の二か所にそれぞれ設置されてよく、例えば
図1の例における奥行き方向(紙面と直交する方向)の超砥粒層6aを挟むように配置されてもよいが、
図1の例では周方向の離れた位置に設置されている。具体的には、第1センサ2Aは発生装置7が表面波を発生させる位置から一定距離WD1だけ離れて位置するように設置される。また、第2センサ2Bは、その第1センサ2Aから更に所定間隔WD2だけ離れて位置するように配置される。つまり、第1センサ2A、及び第2センサ2Bは、互いの間に所定間隔WD2(一例として砥石の中心CNに対する角度rに対応する幅)が設けられるように設置される。
【0023】
増幅器3は、センサ2の検出結果を増幅するための装置である。増幅器3は適宜に省略されてもよいが、
図1の例では第1センサ2A、及び第2センサ2Bにそれぞれ対応する第1増幅器3A、及び第2増幅器3Bを含んでいる。第1増幅器3Aは第1センサ2Aの検出結果の増幅に、第2増幅器3Bは第2センサ2Bの増幅に、それぞれ利用される。このため、第1増幅器3A、及び第2増幅器3Bは、それらの検出結果を取得可能なように第1センサ2A、及び第2センサ2Bにそれぞれ接続される。
【0024】
データ記録装置4は、増幅器3による増幅結果を記録する周知の装置である。データ記録装置4は、適宜に省略されてもよいが、
図1の例では第1増幅器3A、及び第2増幅器3Bの増幅結果を記録するように設けられている。このため、データ記録装置4は第1増幅器3A、及び第2増幅器3Bに接続されている。さらに、データ記録装置4は、適宜の時期に記録した増幅結果を提供するようにコンピュータ装置5に接続されている。
【0025】
コンピュータ装置5は、センサ2の検出結果に基づく各種演算(処理)を実行するための周知の装置である。コンピュータ装置5として、据置型又はブック型のパーソナルコンピュータ(以下、PCと呼ぶ場合がある)、携帯電話(スマートフォンを含む)のようなモバイル端末装置、或いは携帯型タブレット端末装置が利用されてよいが、
図1の例では据置型のPCが利用されている。コンピュータ装置5は、センサ2の検出結果、より具体的には増幅器3によって増幅された後の検出結果に基づいて各種の処理を実行するが、そのような処理には砥石6の品質評価が含まれる。
【0026】
次に、
図2を参照して、品質検査装置1の制御系の要部の構成について説明する。
図2は、品質検査装置1の制御系の要部を示す機能ブロック図である。
図2に示すように、コンピュータ装置5には、制御ユニット11と、記憶部12とが設けられる。記憶部12は、ハードディスクアレイ等の不揮発性記憶媒体(コンピュータ読み取り可能な記憶媒体)を含んだ記憶ユニットによって構成される。記憶部12には、制御ユニット11にて参照されるべきプログラム(コンピュータプログラム)PG、及び検査用データCDが記憶される。検査用データCDには品質検査に必要な各種のデータが適宜に含まれ得るが、
図2の例では基準データRDが示されている。基準データRDは、品質検査の基準となる各種の情報が記述されたデータである。基準データRDの詳細は後述する。
【0027】
制御ユニット11は、コンピュータ装置5のコンピュータハードウエア資源(例えばCPU)を利用して構成される。制御ユニット11には品質検査装置1に設けられる各種の機器が適宜に接続され得るが、それらには上述のセンサ2、増幅器3、及びデータ記録装置4が含まれる。具体的には、制御ユニット11には、データ記録装置4がそこに記録される検出結果を提供可能なように直接的に接続される。一方、増幅器3はデータ記録装置4を介して、センサ2は更に増幅器3を介して、間接的に制御ユニット11に接続される。また、センサ2には第1センサ2A及び第2センサ2Bが、増幅器3には第1増幅器3A及び第2増幅器3Bが、それぞれ含まれる。
【0028】
制御ユニット11には、制御ユニット11を構成するハードウエア資源とプログラムPGとの組み合わせによって品質検査に関連する各種の論理的装置が構成され得るが、
図2の例では、機器制御部13、及び品質評価部14が示されている。機器制御部13は、コンピュータ装置5に接続される各種機器の制御に関連する各種の処理を行う論理的装置である。このような処理には、例えばデータ記録装置4に記録される検出結果等の適宜の情報を取得するための処理が含まれる。品質評価部14は、砥石6の品質を評価に関連する各種の処理を行う論理的装置である。このような処理には、砥石6(被検査対象)の品質評価(品質検査)を実現するための各種の処理が含まれる。例えば、品質評価部14は、このような処理の一つとして、品質評価処理を実行する。品質評価処理の手順の詳細は後述する。
【0029】
コンピュータ装置5には、例えばその他にも品質検査に必要な各種の出力装置、及び入力装置が適宜に設けられ得るが、
図2の例ではそのような出力装置、及び入力装置としてモニタMO、及びキーボードKBがそれぞれ示されている。モニタMOは、品質検査に関連する各種画像を適宜に表示する周知の表示装置である。キーボードKBは、ユーザによる押す操作を入力するための周知の入力装置である。これらは品質検査の実現のために適宜に活用される。
【0030】
次に、
図3を参照して、本発明の一形態に係る品質検査方法を実現するための手順について説明する。
図3は、本発明の一形態に係る品質検査方法の手順を説明するための説明図である。
図3に示すように、本発明の一形態に係る品質検査方法は、波発生手順(F1)、波検出手順(F2)、及び品質評価手順(F3)を順に含んでいる。波発生手順は、被検査対象に表面波を発生させるための手順である(F1)。波発生手順では適宜の手法により表面波の発生が実現されてよいが、品質検査装置1では上述のとおり発生装置7を通じて被検査対象としての砥石6に表面波の発生が実現される。より具体的には、品質検査装置1では、波発生手順は、発生装置7としてのシャープペンシルを通じてシャープペンシル芯圧折法にて砥石6の超砥粒層6aに表面波を発生させる手順として実現(構成)される。
【0031】
波検出手順は、被検査対象に生じた実際の表面波を検出する手順である(F2)。波検出手順では適宜の手法により実際の表面波が検出されてよいが、品質検査装置1では上述のとおり第1センサ2A、及び第2センサ2Bを通じて検出される。また、品質検査装置1では、第1センサ2A、及び第2センサ2Bを通じて実際の表面波として超砥粒層6aに実際に生じた表面波の伝播速度が検出される。このため、品質検査装置1の場合、波検出手順は、第1センサ2A、及び第2センサ2Bを通じて異なる二カ所における実際の表面波をそれぞれ検出する第1検出手順と、それらの二カ所間における実際の表面波のずれ時間に基づく算出により伝播速度を検出する第2検出手順とを含んでいる。
【0032】
具体的には、第1検出手順では、発生装置7の位置から一定距離WD1だけ離れた位置の第1センサ2Aと、そこから所定間隔WD2だけ離れた位置の第2センサ2Bとにおいて異なる二カ所に生じる表面波が検出される。また、第1センサ2Aと第2センサ2Bとの間には所定間隔WD2だけ距離が生じているため、発生装置7の位置から生じる表面波の検出時期には差が生じる。つまり、第1センサ2Aと第2センサ2Bとの間には検出の時間にずれが生じる。第2検出手順では、そのずれ時間に基づいて超砥粒層6aに実際に生じた表面波の伝播速度が算出される。より具体的には、所定間隔WD2(二カ所間の距離)をずれ時間で割ることにより伝播速度が算出される。そして、その算出された伝播速度が超砥粒層6aに実際に生じた表面波の伝播速度として検出される。
【0033】
品質評価手順は、波検出手順(F2)における検出結果に基づいて被検査対象の品質を評価する手順である(F3)。被検査対象の品質は実際の表面波に関連する各種の要素に基づいて評価され得るが、品質検査装置1ではそのような要素は伝播速度の遅延度合い、及び縦弾性係数の値を含んでいる。つまり、品質検査装置1では、伝播速度の遅延度合い、及び縦弾性係数の値に基づいて砥石6の品質が評価される。
【0034】
例えば、表面波の伝播速度には砥石6の品質に関連する傾向が見られる。具体的には、表面波の伝播速度には、コンセントレーションの程度が低い(超砥粒層6aにおける砥粒の密度が低い)ほど伝播速度が遅くなる傾向が見られる。同様の傾向はクラック等の欠陥がある場合にも生じる。このため、表面波の伝播速度が所定の基準値よりも遅いか否か(遅延度合い)によって、その砥石6のコンセントレーションの程度、或いは欠陥の有無が判別される。換言すれば、表面波の伝播速度が所定の基準値以上である場合、コンセントレーションの程度が一定以上であり、かつ欠陥もないと推測される。このため、超砥粒層6aにおいて実際に検出された伝播速度と所定の基準値との比較により得られる遅延度合いに基づいて砥石6の品質が評価される。
【0035】
実際に検出された伝播速度と所定の基準値との比較による品質の評価は適宜に実現されてよく、例えば所定の基準値を記憶する、或いは参照する検査者(人)によって実現されてもよいが、一例としてコンピュータ装置5によって実行される。より具体的には、コンピュータ装置5の品質評価部14が基準データRDを参照しつつ品質評価処理を通じて品質の評価を実現する。所定の基準値として、例えば被検査対象の素材における理論値、一定の品質に対応する対象の実測値(経験値)、或いは複数の被検査対象に対する計測結果の平均値等といった基準となり得る適宜の値が利用されてよい。このため、伝播速度の遅延度合いに基づいて品質が評価される場合、基準データRDには、このような所定の基準値が基準として記述される。
【0036】
一方、縦弾性係数は、砥粒層の性質に関連する周知の要素である。砥粒層には添加剤等の各種の混合物が含まれる。このため、縦弾性係数は生産現場で砥粒層の縦弾性係数を把握することは難しい傾向にあるが、縦弾性係数が分かれば被検査対象の品質の把握につながる。縦弾性係数は、一例として以下の5つの式に基づいて算出される。
【0037】
具体的には、まず弾性体を伝播する弾性波には、縦波、横波、表面波の3種類が含まれる。波長に比べて弾性体が十分に大きく、一様で等方性をみなせる場合、半無限等方体の自由表面に沿う波の伝播速度が次の(A)の式、(B)の式、及び(C)の式に基づいて導くことができることが、Rayleigh(レイリー)によって示されている。ここで、
Vp:縦波の伝播速度(分/秒)
Vs:横波の伝播速度(分/秒)
Vr:表面波の伝播速度(分/秒)
v :ポアソン比
E :縦弾性係数(ギガパスカル)
ρ :密度(キログラム/立法メートル)
G :せん断弾性係数
とする。
【0038】
【0039】
ただし、これらの(A)の式~(C)の式は単一材料の場合に成立する。砥粒、結合剤、及び気孔で構成される普通研削砥石の縦弾性係数の評価には超音波パルス透過法が適用されていることから、普通研削砥石は等方性とみなすことができる。このため、超砥粒ホイールの砥粒層でも(A)の式~(C)の式が適用可能と考えられる。
【0040】
一方、(A)の式~(C)の式のままでは変数が多く、縦弾性係数の算出には不向きである。このため、品質評価手順において被検査対象の品質として縦弾性係数が算出される場合、計測可能な変数を限定した式が(A)の式~(C)の式から導き出され、使用される。例えば、(A)の式、及び(B)の式はいずれも縦弾性係数Eに関係する式である。このため、(A)の式、及び(B)の式に基づいて、縦弾性係数Eを変数に含まない式として、次の(D)の式が導き出される。さらに、(D)の式を(C)の式の縦波の伝播速度Vpに代入すると、縦波の伝播速度Vpを変数に含まない式として次の(E)の式が得られる。
【0041】
【0042】
(E)の式は、表面波の伝播速度Vr、横波の伝播速度Vs、ポアソン比vのみの多項式として表される。つまり、弾性体において実際に検出された表面波の伝播速度Vrと、弾性体のポアソン比vとを(E)の式に代入することにより横波の伝播速度Vsが導き出される。そして、その導き出された(算出された)横波の伝播速度Vsと弾性体の密度ρとを(E)の式に代入することにより弾性体の縦弾性係数Eを算出することができる。このため、品質評価手順では、これらの(E)の式、及び(B)の式に基づいて超砥粒層6a(弾性体)の縦弾性係数Eが算出される。
【0043】
具体的には、砥石6の品質として縦弾性係数Eが算出される場合、品質評価手順は、(E)の式に基づいて横波の伝播速度Vsを算出するための第1評価手順と、その算出結果、及び(B)の式に基づいて縦弾性係数Eを算出する第2評価手順と、を含んでいる。例えば、第1評価手順では、波検出手順において検出された横波の伝播速度Vsと、超砥粒層6aのポアソン比vとを(E)の式に代入することにより横波の伝播速度Vsが算出される。同様に、第2評価手順では、第1評価手順で算出された横波の伝播速度Vsと、超砥粒層6aの密度ρとを(B)の式に代入することにより縦弾性係数Eが算出される。
【0044】
また、第1評価手順における横波の伝播速度Vsの算出、及び第2評価手順における縦弾性係数Eの算出は、適宜に実現されてよく、例えば検査者によって実現されてもよいが、一例としていずれもコンピュータ装置5によって実行される。より具体的には、コンピュータ装置5の品質評価部14が基準データRDを参照しつつ品質評価処理を通じて実行することにより横波の伝播速度Vsの算出、或いは縦弾性係数Eの算出が実現される。このため、ポアソン比v、及び密度ρは、適宜に提供されてよく、検査者によって都度提供されてもよいが、一例として基準データRDを介して提供される。つまり、砥石6の品質として縦弾性係数Eが算出される場合、基準データRDには、これらのポアソン比v、及び密度ρの情報が基準として記述される。
【0045】
次に、
図4を参照して、基準データRDの詳細について説明する。
図4は、基準データRDの構成の一例を示す図である。
図4に示すように、基準データRDは、各種の基準を検査の対象毎に管理するための基準レコードRDRを含んでいる。また、基準レコードRDRは、このような管理を実現するために、“対象”、及び“基準”の情報を含んでいる。基準レコードRDRには、これらの情報が相互に関連付けられるように記録されている。
【0046】
“対象”は、被検査対象を示す情報である。“対象”には、被検査対象を示す情報として複数の被検査対象が存在する場合に各被検査対象を識別可能な各種の情報が適宜に記述されてよく、例えば被検査対象の名称や種類(超砥粒ホイール等。CBNの含有率やコンセントレーションの程度を示す情報を含んでいてもよい。)といった情報が適宜に記述されてもよいが、一例として各被検査対象にユニークに付与される数字が記述される。
【0047】
“基準”は、被検査対象の品質を判別するために必要な各種の基準を示す情報である。このような基準には、品質評価の手法に応じて各種の情報が適宜に含まれてよいが、例えば伝播速度の遅延度合いに基づいて品質が評価される場合にはその遅延度合いを得るための所定の基準値(品質評価手順において実際の表面波の伝播速度と比較されるべき基準となる伝播速度の値)が含まれる。同様に、例えば被検査対象の品質として縦弾性係数Eが算出される場合には、その被検査対象のポアソン比v、及び密度ρの情報が“基準”に記述される基準の情報に含まれる。この例において“基準”に記述される基準の情報が本発明の判別用情報として機能する。また、その基準の情報に含まれる所定の基準値が本発明の基準伝播速度として機能する。なお、基準データRDは、これらの情報に限定されず、品質評価の手法等に応じて各種の情報を適宜に含んでいてよい。あるいは、上述の情報の一部等が適宜に省略されてもよい。
【0048】
次に、品質評価処理について説明する。品質評価処理は、品質検査装置1を通じて被検査対象の品質を評価するための処理である。より具体的には、品質評価処理は、品質検査装置1を通じて波検出手順、及び品質評価手順を実現するための処理である。
図5は、品質評価処理の手順の一例を示すフローチャートである。また、
図5の例は、表面波の伝播速度が品質評価に利用される場合の品質評価処理を示している。この場合、品質評価部14は、所定の時期が到来した場合、或いは所定の開始操作が実行された場合等に満たされる開始条件が満たされた場合に
図5の品質評価処理を開始し、まずデータ記録装置4に記録されるセンサ2の検出結果(増幅後のもの)を取得する(ステップS101)。
【0049】
続いて品質評価部14は、ステップS101で取得した検出結果に基づいて被検査対象に実際に生じた表面波の伝播速度Vrを算出する(ステップS102)。具体的には、品質評価部14は、第1センサ2A、及び第2センサ2Bがそれぞれ検出した二か所に生じる表面波の検出時間のずれに基づいて、その被検査対象に実際に生じた表面波の伝播速度Vrを算出する。
【0050】
次に品質評価部14は、ステップS102で算出した表面波(実際の表面波)の伝播速度Vr、及び基準データRDに基づいて被検査対象の品質の評価を実行する(ステップS103)。例えば、被検査対象の品質が実際の伝播速度(実際の表面波の伝播速度)Vrの遅延度合いに基づいて評価される場合、品質評価部14は、ステップS102で算出した実際の伝播速度Vrと、基準データRDの“基準”に含まれる所定の基準値とを比較することにより被検査対象の評価を実現する。この評価は、例えば砥石6の超砥粒層6aに生じた実際の伝播速度Vrが所定の基準値と同程度か、それよりも早い場合に“良”と、所定の基準値よりも遅い場合(所定の基準値未満の場合)に“不良”とモニタMOを通じて検査者に提示することにより実現されてもよいが、一例として所定の基準値より早い(同程度以上)か、遅い(所定の基準値未満)かの提示により実現される。
【0051】
一方、例えば被検査対象の品質として被検査対象の縦弾性係数Eが算出される場合、品質評価部14は、ステップS102で算出した実際の伝播速度Vr、及び基準データRDの“基準”に含まれるポアソン比vの情報を(E)の式の代入することにより、まず被検査対象の横波の伝播速度Vsを算出する。続いて品質評価部14は、その算出した横波の伝播速度Vs、及び基準データRDの“基準”に含まれる密度ρ(今回の被検査対象に該当するもの)の情報を(B)の式に代入することにより、被検査対象の縦弾性係数Eを算出する。これらの算出において、例えば被検査対象が砥石6の場合、品質評価部14は、基準データRDからその砥石6に対応するポアソン比v、及び密度ρを特定し、その特定したポアソン比v等を(E)の式等への代入に使用する。そして、品質評価部14は、その算出した縦弾性係数E(遅延度合いの場合と同様に“良”等の評価の要素であってもよい)を被検査対象の品質としてモニタMOを通じて検査者に提示する。
【0052】
被検査対象の品質として被検査対象の縦弾性係数Eが算出される場合、或いは実際の伝播速度Vrの遅延度合いに基づいて品質が評価される場合、一例として上述のように評価が実行される。そして、このような評価の後に品質評価部14は今回の品質評価処理を終了する。これにより、品質検査装置1を通じて被検査対象の品質が評価される。より具体的には、品質検査装置1を通じて波検出手順、及び品質評価手順が実現される。換言すれば、品質検査装置1を通じて本発明の品質検査方法が実現される。
【0053】
以上に説明したように、この形態によれば、被検査対象としての砥石6に生じた表面波に基づいてその砥石6(超砥粒ホイール)の品質が評価される。つまり、砥石6の品質の評価に表面波が利用される。表面波は普通研削砥石にはもちろん、超砥粒ホイールの砥粒層にも生じ得る。このため、表面波を利用して普通研削砥石はもちろん、超砥粒ホイールの超砥粒層6aの品質も評価することができる。つまり、普通研削砥石だけでなく、超砥粒ホイールの品質も評価することができる。結果として、ソニック法等に比べて、多様な種類の砥石の品質検査に適用することができる。また、表面波を利用して、砥石6を直接的に評価することができるので、例えば検査専用の代用品を通じて品質が評価される場合に比べて、そのような代用品を用意する手間暇を軽減することができる。
【0054】
以上の形態では、コンピュータ装置5の品質評価部14が、
図5の品質評価処理を実行することにより本発明の速度算出手段、及び品質評価手段として機能する。具体的には、品質評価部14が、
図5のステップS102を実行することにより速度算出手段として、
図5のステップS103を実行することにより品質評価手段として、それぞれ機能する。
【0055】
本発明は上述した各形態に限定されることなく、各種の変形又は変更が施された形態にて実施されてよい。例えば、上述の形態では、砥石6として超砥粒ホイールが利用されている。しかし、本発明の品質検査方法、及び品質検査装置1は、普通研削砥石にも当然適用可能である。
【0056】
上述の形態では、表面波の伝播速度Vrに基づいて縦弾性係数Eが算出されている。しかし、本発明は、このような形態に限定されない。例えば、上述の(A)の式~(C)の式に含まれる適宜の変数が縦弾性係数の算出に利用されてよい。このため、本発明の品質検査方法は、例えば縦波の伝播速度Vp、或いは横波の伝播速度Vsといった各種の弾性波に基づいて被検査対象の品質を評価する方法として構成されてもよい。
【0057】
上述の形態では、被検査対象として砥石6が利用されている。しかし、本発明は、このような形態に限定されない。被検査対象として、弾性波が生じ得る各種の対象が適宜に利用されてよい。このため、本発明の品質検査方法は、砥石6に限定されず、そのような各種の被検査対象の品質を検査する方法として構成されてもよい。
【実施例】
【0058】
上述の実施の形態に係る品質検査装置1、及び手順に基づいて、本発明の品質検査方法を実施した。実施例に共通する条件は次のとおりである。
【0059】
品質検査装置1の一定距離WD1として10mmが、所定間隔WD2として40mm(角度rが45度程度に対応する長さ)が、それぞれ設定された。また、発生装置7(シャープペンシル)の芯の突き出し長さを3mmで傾斜角30度(芯の接点における法線に対する傾斜角)にて圧折する方法でシャープペンシル芯圧折法が適用された。さらに、コンピュータ装置5には、キーエンス社製の「MEGA VIEW」(登録商標)というアプリケーション(プログラム)がインストールされ、表面波の波形データの計測に使用された。同様に、センサ2(AEセンサ)としてAE-901S(NF Corporation製)が、増幅器3としてAE9501A(NF Corporation製)が、データ記録装置4としてNR-500(キーエンス社製)が、それぞれ使用された。
【0060】
図6は、上述の条件で計測された二カ所における表面波の遅延時間の計測結果を示す図である。
図6において縦軸のCH1は第1センサ2Aの検出結果を、CH2は第2センサ2Bの検出結果を、それぞれ示している。一方、横軸は時間経過を示している。
図6に示すように、第1センサ2Aが検出する最初の波形の頂点と、第2センサ2Bが検出する最初の波形の頂点と、の間には時間的なずれ(ずれ時間)が生じる。以下の実施例では、これらの二カ所における最初の波形の頂点を基点とするずれ時間に基づいて表面波の伝播速度Vrが算出(検出)されている。
【0061】
また、発生装置7(シャープペンシル)、第1センサ2A、及び第2センサ2Bは、いずれも超砥粒層6aの幅方向における中央に設置された。さらに、第1センサ2A、及び第2センサ2Bが設置される二カ所のホイール台金には粘土が貼り付けられ、ホイール台金の表面を伝播する表面波は遮断されたが、粘土の有無による表面波の波形の乱れや伝播時間に差が生じないことは別の予察実験にて確認されている。
【0062】
第1センサ2A、及び第2センサ2Bは、いずれも狭域のAEセンサとして構成され、表面波に近い周波数以外の波を測定しないようにフィルダリングされている。実施例にて使用される超砥粒ホイールは特別な断り(例えば後述の欠陥のあるホイール)のない限り、新品未使用のものが利用されている。また、そのような超砥粒ホイールのうち、レジノイドボンドホイール、及びメタルボンドホイールは無気孔として、ビトリファイドボンドは有気孔として、それぞれ構成されている。超砥粒層6aの厚み(半径方向の高さ)は全て3mmである。
【0063】
なお、本実施例の実施の予察において、数種類の超砥粒ホイールを通じて、目つぶれ状態のホイール作業面(超砥粒層6a)とドレッシングが行われた目立て終了後のホイール作業面とにおいて、本発明に係る品質検査方法によって表面波が計測されたが、両者の表面波は同じ波形になり、伝播速度Vrの差異も見られなかった。このため、本発明に係る品質検査方法は、砥粒の突き出し高さ、及び摩耗状態に影響せず、表面波の測定が可能と考えられる。一方、砥粒層が薄くなると台金が表面波の伝播速度Vrに影響すると推測されるが、今回の実施例ではそこまでの検証はされていない。
【0064】
(実施例1)
超砥粒ホイールに本発明の品質検査方法を適用する前に、本発明の品質検査方法によって表面波の測定が可能か否か検証するため、次の4種類の金属材料で超砥粒ホイールを模した円板(外径200mm×内径70mm×幅5mm)を制作し、この円板の円周表面に品質検査装置1を取付け、円周表面を伝播する表面波を測定した。また、測定は測定箇所を変えて3回行い、その3回の平均値を実験値(実施値)として検出した。
【0065】
図7は、上述の各種材料における表面波の伝播速度Vrの理論値と実験値との比較結果を示す図である。
図7の例は、それらの理論値、及び実験値を棒グラフで示している。棒グラフの縦軸は表面波の伝播速度Vr(Propagation velocity of surface wave)を、横軸は円板の各素材(Disc material)を、それぞれ示している。また、棒グラフの各材料における配色の濃淡は理論値(Theoretical value)と、実験値(Experimental value)とをそれぞれ示している。より具体的には、配色の濃い方が理論値を、淡い方が実験値を、それぞれ示している。
【0066】
図7に示すように、測定の結果、いずれの材料においても理論値と実験値との間の相対的誤差は0.4%~7.8%であることが把握される。これにより、実験値を理論値に相当する値と理解することができる。結果として、本発明に係る品質検査方法によって表面波を測定できることを確認することができた。
【0067】
なお、
図7の例において理論値は次の二つの文献から引用されたものである。
文献1:岸輝夫、栗林一彦、Acoustic Emissionの金属学(1)、金属、47、4(1977)16
文献2:岸輝夫、AEによる材料評価(1)、材料、29、(1980)323
【0068】
(実施例2)
本発明の品質検査方法、及び品質検査装置1をレジノイドボンドホイール、及びメタルボンドホイールに適用した。本発明の品質検査方法の実施に使用したレジノイドボンドホイール、及びメタルボンドホイールの仕様は、それぞれSDC-N100B、及びMD-N100Mである。また、レジノイドボンドホイールとして140、270、400の3種類の粒度を用意した。同様に、メタルボンドホイールとして140、270、600の3種類の粒度を用意した。SDCは低衝撃度ダイヤモンド砥粒を金属被覆したものである。MDは高衝撃ダイヤモンド砥粒で金属被覆がないものである。本実施例では、ホイールの側面に30度間隔で印を付け、この印を基準に測定点を変え、砥粒層の12か所で表面波を計測した。各測定点では5回計測し、計測値の最大と最小を除く三つの値を平均し、その値を各測定箇所の値とした。そして、測定点12か所の値を平均し、その値を実験値とした。なお、超砥粒ホイールは高価で購入が困難であるため、比較対象以外の仕様を同一にできていない場合がある。ただし、本実施の主目的は表面波の特性の把握にあるため、この点は捨象されている。また、本実施例において各測定点での伝播速度Vrの差異は最大で7%であった。
【0069】
図8は、上述の粒度が異なる砥粒層の表面波を測定した結果を示す図である。
図8の例は、
図7の例と同様に測定結果(実験値)を棒グラフで示している。棒グラフの縦軸は表面波の伝播速度Vrを、横軸は素材別の各粒度の仕様(Wheel specs)を、それぞれ示している。また、横軸の左側にレジノイドボンドホイール(Resinoid Bond)の三種類の粒度が140、270、400の順に左から位置している。一方、横軸の右側にメタルボンドホイール(Metal Bond)の三種類の粒度が140、270、600の順に左から位置している。
【0070】
図8に示すように、レジノイドボンドホイール、及びメタルボンドホイールのいずれにおいても、粒度が高くなると表面波の伝播速度Vrが僅かに早くなることが把握される。これは、コンセントレーションが同じであるため、粒度が高いほど砥粒数が多くなることに起因すると考えられる。上述の(A)の式、及び(B)の式によって示されるとおり、弾性波の速度は縦弾性係数が大きくなるほど速くなる。レジノイドボンドホイール、及びメタルボンドホイールともにダイヤモンドと結合剤の密着性が考慮されるべきであるが、砥粒数が多いほど砥粒層の縦弾性係数が高くなるためと考えられる。本実施例で行われたシャープペンシルの芯圧折法では表面波の周波数は速くても400kHz程度であり、波長は最小でも6.0mm程度となる。つまり、波長が砥粒径に比べてはるかに大きい。このため、砥粒径の差異を本手法で検出するのは難しいと考えられるが、本実施例の結果から粒度の違いにより表面波の伝播速度Vrに差異が見られることは明らかである。ただし、粒度と表面波との間の関係は高い周波数を発信させることができる方法の利用も含め、今後追加実験が必要かもしれない。
【0071】
(実施例3)
本発明の品質検査方法、及び品質検査装置1をコンセントレーションが異なる砥粒層に適用した。本実施例で使用したホイールの仕様は、SDC400N-Bのコンセントレーション75、及び100である。実験値(実施値)の導出方法は、本実施例も含め、以下の実施例において実施例2と同様である。
【0072】
図9は、上述のコンセントレーションが異なる砥粒層の表面波を測定した結果を示す図である。
図9の例は、表面波の測定結果を
図8等の例と同様に棒グラフで示している。棒グラフの縦軸、及び横軸は
図8の例と同様であるが、
図9の例では横軸にSDC400N-Bのコンセントレーション75、及び100が順に左から位置している。
【0073】
図9に示すように、コンセントレーションが高いほど表面波の伝播速度Vrが速くなることが把握される。これは、
図8の例と同様に砥粒数が多くなることに起因すると考えられる。結果として、この結果の反対解釈により、表面波の伝播速度Vrが速いほどコンセントレーションが高いことが把握され得る。このため、表面波の伝播速度Vrを所定の基準値(例えば理論値等)と比較することにより、砥粒層のコンセントレーションの程度を検査(評価)することができると考えられる。
【0074】
(実施例4)
本発明の品質検査方法、及び品質検査装置1を結合剤が異なるダイヤモンドホイールに適用した。結合剤の種類は、レジノイドボンド、ビトリファイドボンド、メタルボンドの三種類である。また、本実施例で使用したホイールは、レジノイドボンドで140、230、400の粒度の三種類、ビトリファイドボンドで140、200の二種類、メタルボンドで140、270、600の三種類である。さらに、レジノイドボンドでは、粒度が400の種類において75、及び100のコンセントレーションが相違する二種類を使用した。レジノイドボンドホイール、及びメタルボンドホイールは無気孔である。ビトリファイドボンドホイールは有気孔である。
【0075】
図10は、上述の結合剤が異なるダイヤモンドホイールの表面波を測定した結果を示す図である。
図10の例は、
図8等の例と同様に測定結果を棒グラフで示している。棒グラフの縦軸、及び横軸は
図8等の例と同様であるが、
図10の例では横軸がレジノイドボンド、ビトリファイドボンド、メタルボンドの順に左から区別されている。また、レジノイドボンドでは、SDC140N100B(粒度140、コンセントレーション100)、SDC230N100B(粒度230、コンセントレーション100)、SDC400N100B(粒度400、コンセントレーション100)、SDC400N75B(粒度400、コンセントレーション75)、及びSDC400N100B(粒度400、コンセントレーション100)が順に左から横軸に位置している。ビトリファイドボンドでは、SD140N100V(粒度140、コンセントレーション100)、及びSD200N100V(粒度200、コンセントレーション100)が順に左から横軸に位置している。メタルボンドでは、MD140N50V(粒度140、コンセントレーション50)、MD270N50V(粒度270、コンセントレーション50)、及びMD600N50V(粒度600、コンセントレーション50)が順に左から横軸に位置している。
【0076】
図10に示すように、細かい仕様の違いによって表面波の伝播速度Vrに違いはあるものの、表面波の伝播速度Vrではレジノイドボンドが最も遅く、ビトリファイドボンド、及びメタルボンドの順に徐々に速くなっている。この順列は縦弾性係数Eと相関関係が成立するため、
図8の例(実施例2の結果)と同様に、砥粒層の構造体としての巨視的な縦弾性係数Eが表面波の速度に影響していると考えられる。また、メタルボンドホイールの伝播速度Vrが速いのはダイヤモンドと結合剤との密着性も起因していると考えられるが、この点は別途詳細の検討が必要かもしれない。一方、ビトリファイドボンドホイールは有気孔であるため、表面波の伝播速度Vrは遅くなると予測されたが、レジノイドボンドホイールよりも遅くなっている。これは、伝播速度Vrに対する影響が気孔よりも弾性係数が大きいことが起因していると考えられる。
【0077】
(実施例5)
本発明の品質検査方法、及び品質検査装置1を同じ結合剤が使用された異なる種類の超砥粒に適用した。本実施例では、同じ結合剤としてレジノイドボンドが使用されている。また、異なる種類の超砥粒としてダイヤモンド、及びCBNが使用されている。具体的には、本実施例で使用したホイールは、ダイヤモンドホイールで140、230、400の粒度の三種類、CBNホイールで140、400の粒度の二種類である。さらに、ダイヤモンドホイールでは、100、及び75のコンセントレーションの相違する二種類を使用した。なお、本実施例では、ダイヤモンドホイールの実験値は
図10の例(実施例4の結果)が流用されている。
【0078】
図11は、上述の超砥粒の種類と表面波との間の関係を示す図である。
図11の例は、表面波の測定結果を
図8等の例と同様に棒グラフで示している。棒グラフの縦軸、及び横軸は
図8等の例と同様であるが、
図11の例では横軸がダイヤモンドホイール、及びCBNホイールの順に左から区別されている。また、ダイヤモンドホイールでは、SDC140N100B(粒度140、コンセントレーション100)、SDC230N100B(粒度230、コンセントレーション100)、SDC400N100B(粒度400、コンセントレーション100)、SDC400N75B(粒度400、コンセントレーション75)、及びSDC400N100B(粒度400、コンセントレーション100)が順に左から横軸に位置している。同様に、CBNホイールでは、CBN140N125B(粒度140、コンセントレーション125)、及びCBN400N125B(粒度400、コンセントレーション125)が順に左から横軸に位置している。
【0079】
図11に示すように、いずれの仕様の砥粒層でもダイヤモンドはCBNよりも表面波の伝播速度Vrが高くなっている。この結果もダイヤモンドとCBNとの間の縦弾性係数Eの違いが影響していると推察される。
【0080】
(実施例6)
本発明の品質検査方法、及び品質検査装置1を欠陥のある砥粒層と欠陥のない砥粒層に適用した。本実施例で使用したホイールは、ダイヤモンドホイールである。また、そのダイヤモンドの仕様は、230の粒度、及び75のコンセントレーションである。これらの同じ仕様のホイールのうち、一方にのみ欠陥がある。
【0081】
図12は、上述のホイールの砥粒層に欠陥がある場合、及びそれがない場合の表面波の伝播速度Vrを比較して示す図である。
図12の例は、表面波の測定結果を
図8等の例と同様に棒グラフで示している。棒グラフの縦軸、及び横軸は
図8等の例と同様であるが、
図12の例では欠陥がある場合のSDC230N75B(粒度230、コンセントレーション75)のホイール、及び欠陥がない場合の同じホイールの実験結果が順に左から横軸に示されている。また、
図12の例では、欠陥のある砥粒層は研削作業中の誤操作により砥粒層の一部が破壊されたもの(
図12に示す写真部分も参照)が欠陥のあるホイールとして使用されている。そして、第1センサ2A、及び第2センサ2Bは、この欠陥部分を跨ぐように配置され、表面波を検出した。
【0082】
図12に示すように、同じ仕様の砥粒層でありながら欠陥がある場合は、それがない場合よりも伝播速度Vrが遅くなっている。これは、欠陥による表面波の錯乱が主要因と考えられる。
【0083】
図13は、
図12の例と同様に上述のホイールの砥粒層に欠陥がある場合、及びそれがない場合の表面波の伝播速度Vrを比較して示す図である。
図12の例との相違は、ホイールに形成される欠陥部分である。具体的には、
図13の例では、ホイールの砥粒層の一部がワイヤーカットで切断され、欠陥部分として形成されている(
図13に示す写真部分も参照)。第1センサ2A、及び第2センサ2Bは、
図12の例と同様に、この欠陥部分を跨ぐように配置され、表面波を検出した。
【0084】
図13に示すように、
図12の例と同様に、ワイヤーカットで切断された部分(欠陥部分)では、通常の部分よりも伝播速度Vrが遅くなっている。
図12の例、及び
図13の例から表面波の伝播速度Vrによって砥粒層の欠陥の有無を判別できることが示唆された。このため、表面波の伝播速度Vrを所定の基準値(例えば理論値等)と比較することにより、欠陥の有無を検査(評価)することができると考えられる。つまり、所定の基準値に対する伝播速度Vrの遅延度合いに基づいて砥粒層の品質(欠陥の有無)を評価することができると考えられる。
【0085】
なお、今回の実施では、超砥粒ホイールが高額であるため比較対象以外の仕様を同一にすることができず、砥粒層の細かい仕様(砥粒層の厚みを含む)と伝播速度Vrとの間の関係まで検出できていない。このため、このような関係の検出も含め、今後実施(実験)データを増やすことが好ましい。ただし、本実施結果から砥粒層の仕様によって表面波の伝播速度Vrに相違が見られることは明らかであり、一定の傾向は把握できている。このことから、欠陥の有無だけでなく、表面波の伝播速度Vrによって砥粒分布(均一性)や結合度のムラといった砥粒層の品質を広く評価できる可能性は高いと考えられる。
【0086】
(実施例7)
本発明の品質検査方法、及び品質検査装置1を各種材料の縦弾性係数Eの算出に適用した。本実施例で縦弾性係数Eの算出に使用した材料は、アルミニウム合金(Aluminum alloy)、銅(Copper)、真ちゅう(Brass)、及びステンレス鋼(Stainless steel)である。縦弾性係数Eの実験値は上述の(E)の式、及び(B)の式に基づいて算出されるが、その計算には数式処理システムMathematica(登録商標)が使用されている。
【0087】
図14は、上述の各種材料におけるポアソン比v(Poission’s ratio)、及び密度ρ(Density)の値を示す表である。
図14の表に示すように、アルミニウム合金のポアソン比v、及び密度ρは順に0.34、及び2.69である。同様に、銅のポアソン比v、及び密度ρは順に0.34、及び8.96であり、銅のポアソン比v、及び密度ρは順に0.35、及び8.71である。また、ステンレス鋼のポアソン比v、及び密度ρは順に0.3、及び7.93である。本実施例では、実験値の算出にこれらのポアソン比v、及び密度ρが基準となる情報として使用されている。
【0088】
図15は、上述の各種材料における縦弾性係数Eの理論値、及び実験値を示す図である。
図15の例では、これらの値が棒グラフで示されている。棒グラフの縦軸は縦弾性係数E(Elastic modulus)を、横軸は円板の材料(Disc material)を、それぞれ示している。また、
図15の棒グラフでは、配色の濃淡により理論値(Theoretical value)と実験値(Experimental value)とが区別されている。具体的には、
図15の例では、配色の濃い方が理論値を、淡い方が実験値を、それぞれ示している。なお、
図15の例では、理論値として一般的に示されている縦弾性係数Eの値が利用されている。
【0089】
図15に示すように、上述の各種材料において理論値と実験値との間には、それらを同視してよい程度の、高い対応関係が示さている。このため、本発明に係る品質検査方法に基づく縦弾性係数Eの算出方法は妥当であると考えられる。
【0090】
(実施例8)
実施例7の結果を踏まえ、本発明の品質検査方法、及び品質検査装置1を超砥粒ホイールの砥粒層における縦弾性係数Eの算出に適用した。本実施例で使用されたホイールは、SDC140N100B、CB140N125B、及びMD140N50Mの三種類である。ビトリファイドボンドは有気孔であるためポアソン比v、及び密度ρの算出が難しい場合が多い。このため、本実施例では、無気孔の砥粒層について検討されている。
【0091】
図16は、本実施例で使用されたポアソン比v、及び密度ρの値を示す表である。
図16に示すように、ポアソン比vは便宜的にレジノイド砥粒層(SDC140N100B、及びCB140N125B)では0.2として、メタルボンド砥粒層(MD140N50M)では0.3として、本実施例では使用されている。一方、密度ρは、いずれの砥粒層も無気孔であるため、超砥粒と結合剤のコンセントレーション(有率割合)とから比例計算により算出された値が使用されている。また、この比例計算に基づく算出において超砥粒はダイヤモンド及びCBNの値が使用されている。同様に、結合剤はレジノイドボンドではベークライトの値が、メタルボンドでは青銅の値が、それぞれ使用されている。結果として、本実施例では、密度ρの値として、1.85、1.98、及び8.28がSDC140N100B、CB140N125B、及びMD140N50Mに順に使用されている。
【0092】
図17は、上述の超砥粒ホイールの砥粒層における縦弾性係数Eとして算出された値を示す図である。
図17の例では、算出結果が棒グラフとして示されている。棒グラフの縦軸は縦弾性係数E(算出値)を、横軸はホイールの仕様を、それぞれ示している。また、
図17の例では、SDC140N100B、CB140N125B、及びMD140N50Mの順に左から横軸に位置している。
【0093】
図17に示すように、表面波から算出された縦弾性係数Eは、SDC140N100B、CB140N125B、及びMD140N50Mの順に、43Gpa(ギガパスカル)、55Gpa、及び631Gpaである。レジノイドボンドホイール砥粒層の一般的な縦弾性係数E(General Elastic modulus of resinoid bond)は、約20~50Gpaと考えられている。このため、本実施例で算出された縦弾性係数Eは、ダイヤモンド、及びCBNのいずれにおいてもレジノイドボンドホイールでは妥当な値と考えられる。
【0094】
一方、メタルボンドホイール砥粒層の一般的な縦弾性係数E(General Elastic modulus of metal bond)は、約100~150Gpaと考えられている。このため、本実施例で算出された縦弾性係数Eは、このような一般的な値と差異が生じているが、これはメタルボンドホイールの砥粒層の密度ρが適切な値ではなかったことが主要因と考えられる。結果として、ポアソン比v、及び密度ρの適切な値が必要となるものの、本発明に係る品質検査方法により超砥粒ホイールの砥粒層における縦弾性係数Eとして、ある程度妥当な値を算出可能であることが理解できる。
【符号の説明】
【0095】
1 品質検査装置
2 センサ(検出手段、弾性波検出装置)
5 コンピュータ装置
6 砥石
7 発生装置(波発生手段)
14 品質評価部(速度算出手段、品質評価手段)
2A 第1センサ(第1検出手段、弾性波検出装置)
2B 第2センサ(第2検出手段、弾性波検出装置)
WD2 所定間隔