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特許7573881網膜細胞からリポフスチンを除去する活性を有する組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】網膜細胞からリポフスチンを除去する活性を有する組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/724 20060101AFI20241021BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241021BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20241021BHJP
【FI】
A61K31/724
A61P27/02
A61K47/54
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021552728
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-11
(86)【国際出願番号】 US2020020805
(87)【国際公開番号】W WO2020180872
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】62/814,028
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508298488
【氏名又は名称】コーネル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】ノチアーリ マルセロ エム
(72)【発明者】
【氏名】ボーラン エンリケ ロドリゲス
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-513612(JP,A)
【文献】国際公開第2018/091859(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0085392(US,A1)
【文献】国際公開第2014/152959(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-βCD)または薬学的に許容されるその塩を唯一の有効成分として含む、それを必要とする対象において視力を損なわずに網膜細胞のリポフスチン蓄積を伴う眼疾患を予防するまたは治療するための組成物であって、
SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩が、賦形剤ではない、前記組成物
【請求項2】
網膜細胞のリポフスチン蓄積を伴う眼疾患が、シュタルガルト病(STGD)、網膜色素変性(RP)、加齢黄斑変性(AMD)、ベスト病(BD)、および錐体杆体ジストロフィーからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
眼疾患が、遺伝的、非遺伝的である、または加齢に伴う、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-βCD)または薬学的に許容されるその塩を唯一の有効成分として含む、それを必要とする対象において視力を損なわずに網膜細胞のリポフスチン蓄積を予防するまたは治療するための組成物であって、
SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩が、賦形剤ではない、前記組成物
【請求項5】
SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩の有効量の投与が、対象におけるリポフスチン関連網膜損傷の増悪を防止する、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-βCD)または薬学的に許容されるその塩を唯一の有効成分として含む、網膜色素上皮細胞におけるリポフスチン蓄積を減少させるための組成物であって、
SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩が、賦形剤ではない、前記組成物
【請求項7】
SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩が、網膜色素上皮細胞に限局化するように構成されている、請求項1~6のうちのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩が、網膜色素上皮細胞においてリポフスチンビスレチノイド脂質と複合体を形成するように構成されている、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
リポフスチンビスレチノイド脂質が、N-レチニリデン-N-レチニルエタノールアミン(A2E)、A2E異性体、A2Eの酸化誘導体、およびオールトランスレチナール2量体からなる群から選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩の有効量の投与が、網膜色素上皮細胞におけるリポフスチンの蓄積を遮断する、軽減する、または元に戻す、請求項1~のうちのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩が、網膜色素上皮細胞を標的にする薬剤と結合されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
薬剤が、網膜色素上皮細胞におけるエンドソームまたはリソソームを標的にする、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
薬剤が、マンノース6-リン酸である、請求項11または12に記載の組成物。
【請求項14】
SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩が、局所投与、硝子体内投与、眼球内投与、網膜下投与、または強膜下投与によって投与される、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
強膜下投与が、対象において徐放強膜下留置剤を留置することにより達成される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩が、フルオロフォアと結合されている、請求項1~15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
無菌の点眼用懸濁液または溶液として製剤化する、請求項1~16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
前もって形作られたゲルとして製剤化する、請求項1~16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
in situで形成されるゲルとして製剤化する、請求項1~16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
硝子体内注射剤として製剤化する、請求項1~14または16のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月5日出願の米国仮出願第62/814,028号の利益およびその優先権を主張し、その全体を、参照により本明細書に組み込む。
本開示は、一般に、眼疾患(例えば、網膜症)、より詳細には、網膜細胞のリポフスチン蓄積を伴う眼疾患を治療するための組成物および方法に関する。
政府の支援
本発明は、国立眼病研究所(NEI:National Eye Institute)/米国国立保健研究所(NIH)によって与えられた助成金番号EY027422-02に基づいて政府の支援によって成された。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
本技術の背景の以下の説明を、単に、本技術を理解する一助として提供し、本技術に、従来技術を記載するまたは構成することを認めていない。
リポフスチンは、リソソーム消化後のレムナントであると考えられる不消化材料から構成される微細な黄褐色の色素である。リポフスチンは、大部分は、脂質ビスレチノイドとして知られる、レチンアルデヒドの2量体で構成され、ならびに少量の炭水化物、酸化タンパク質および金属から構成される。網膜細胞におけるリポフスチンの蓄積は、網膜毒性を引き起こし、これは、黄斑変性、眼の変性疾患、およびシュタルガルト病のような状態を伴う。
【発明の概要】
【0003】
一態様では、本技術は、有効量のスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-βCD)または薬学的に許容されるその塩を対象に投与するステップを含む、それを必要とする対象において視力を損なわず、網膜細胞のリポフスチン蓄積を伴う眼疾患を予防するまたは治療するための方法を提供する。網膜細胞のリポフスチン蓄積を伴う眼疾患は、シュタルガルト病(STGD)、網膜色素変性(RP)、加齢黄斑変性(AMD)、ベスト病(BD)、および錐体杆体ジストロフィーからなる群から選択することができる。さらにまたはあるいは、いくつかの実施形態では、眼疾患は、遺伝的、非遺伝的である、または加齢に伴う。別の態様では、本技術は、有効量のスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-βCD)または薬学的に許容されるその塩を対象に投与するステップを含む、それを必要とする対象において視力を損なわず、網膜細胞のリポフスチン蓄積を予防するまたは治療するための方法を提供する。
さらにまたはあるいは、本明細書中に開示される方法のいくつかの実施形態では、SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩の有効量の投与は、対象におけるリポフスチン関連網膜損傷の増悪を防止する。
【0004】
また、本明細書中で開示されるのは、有効量のスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-βCD)または薬学的に許容されるその塩と、網膜色素上皮細胞を接触させるステップを含む、網膜色素上皮細胞におけるリポフスチン蓄積を減少させるための方法である。
本明細書中に開示される方法の任意のおよびすべての実施形態では、SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩は、網膜色素上皮細胞に限局化するように構成される。ある実施形態では、SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩は、網膜色素上皮細胞においてリポフスチンビスレチノイド脂質と複合体を形成するように構成される。リポフスチンビスレチノイド脂質は、N-レチニリデン-N-レチニルエタノールアミン(A2E)、A2E異性体、A2Eの酸化誘導体、またはオールトランスレチナール(all-trans-retinal)2量体であり得る。
さらにまたはあるいは、本明細書中に開示される方法のいくつかの実施形態では、SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩の有効量の投与は、網膜色素上皮細胞におけるリポフスチンの蓄積を遮断(block)する、軽減(mitigate)する、または元に戻す(reverse)。
【0005】
本明細書中に開示される方法の上記実施形態のいずれかにおいて、SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩は、網膜色素上皮細胞を標的にする薬剤と結合されている。いくつかの実施形態では、薬剤は、網膜色素上皮細胞におけるエンドソームまたはリソソーム、例えば、マンノース6-リン酸などを標的にする。さらにまたはあるいは、本明細書中に開示される方法のいくつかの実施形態では、SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩は、フルオロフォアと結合されている。フルオロフォアの例には、それだけには限らないが、フルオレセイン、ローダミン、オレゴングリーン、エオシン、テキサスレッド、シアニン、ストレプトシアニン、ヘミシアニン、連鎖シアニン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、インドカルボシアニン、オキサカルボシアニン、チアカルボシアニン、メロシアニン、およびフタロシアニン、ナフタレン誘導体(例えば、ダンシルおよびプロダン誘導体)、クマリンおよびそれらの誘導体、オキサジアゾールおよびそれらの誘導体(例えば、ピリジルオキサゾール、ニトロベンズオキサジアゾール、およびベンズオキサジアゾール)、ピレンおよびそれらの誘導体、オキサジンおよびそれらの誘導体(例えば、ナイルレッド、ナイルブルー、およびクレシルバイオレット)、アクリジン誘導体(例えば、プロフラビン、アクリジンオレンジ、およびアクリジンイエロー)、アリールメチン(arylmethine)誘導体(例えば、オーラミン、クリスタルバイオレット、およびマラカイトグリーン)、ならびにテトラピロール誘導体(例えば、ポルフィリンおよびビリルビン)が含まれる。
【0006】
さらにまたはあるいは、本明細書中に開示される方法のいくつかの実施形態では、SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩は、局所投与、硝子体内投与、眼球内投与、網膜下投与、または強膜下投与によって投与される。ある実施形態では、強膜下投与は、対象において徐放強膜下留置剤(slow-release subscleral implant)を留置(implanting)することにより達成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A-1B】本技術の組成物の構造式を示す図である。図1Aは、β(ベータ)-シクロデキストリンについての一般式を示し、これは、7置換グルコピラノシド単位を含む。置換は、記号Rにより示される。図1Bは、(i)メチルベータ-シクロデキストリン(MβCDまたはMBCD);(ii)2-ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリン(HPβCD);および(iii)スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBEβCD)中の置換基のアイデンティティーを示す。
図2】投与量4mMで本技術の異なるシクロデキストリンを用いた、LBの除去を示す図である。5μM A2EとヒトRPE培養細胞を終夜インキュベートすることにより、細胞を、リポフスチンで前処置した。細胞を、洗浄し、未処置のままにしたまたはシクロデキストリン化合物4mMで処置した(X軸に示される)。24hrで、細胞を、トリプシンで収集し、沈殿させ(pelleted down)、2%Triton-緩衝液に溶解した。A2E含有量を、430nmにおいて蛍光により評価し、細胞数を、タンパク質含有量対細胞数の検量線にタンパク質含有量を内挿することにより得た。100%は、未抽出の細胞における含有量に対応する。カラムは、次の通り表示される。A0=α-シクロデキストリン;B0=β-シクロデキストリン;M1=メチルβ-シクロデキストリン;M2=メチルβ-シクロデキストリン;M3=メチルβ-シクロデキストリン;M4=ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)β-シクロデキストリン;M5=ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-メチル)β-シクロデキストリン;H1=ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン;H2=ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン;H3=ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン;SB1=スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン;SB2=スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン;SB3=スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン;G0=ガンマ-シクロデキストリン。図2に示す通り、すべてのシクロデキストリンが、LB除去の促進に有効であるとは限らない。メチルβ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン、およびスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンは、網膜細胞からのリポフスチンビスレチノイドの除去を促進し、非置換のα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびガンマ-シクロデキストリンは、これらの条件下でA2Eを抽出しなかった。2,6-ジ-O-メチル-β-シクロデキストリン(ヘプタキス2,6-ジ-O-メチル)または2,3,6-トリ-O-メチル-β-シクロデキストリン(ヘプタキス2,3,6-トリ-O-メチル)もまた、LB除去の促進において有効でなかった。*100mM原液を、水溶性欠如のためDMSOで調製した。
図3A】ミリモル範囲でメチルβ-シクロデキストリンによるLBの用量依存的な除去を示す図である。A2Eを負荷した上皮細胞を、メチルβ-シクロデキストリンの指示された投与量で24時間処置した。対照として、A2Eで前負荷されなかった、未処置の上皮細胞を、メチルβ-シクロデキストリンの指示された投与量で24時間処置した。インキュベーション期間の終了時に細胞当たりA2E含有量を、メチルβ-シクロデキストリンの投与量の関数としてプロットした。
図3B】メチルβ-シクロデキストリンによるLBの除去を示す図である。A2Eを負荷した上皮細胞を、メチルβ-シクロデキストリンで24時間処置した。インキュベーション期間の終了時に、細胞内のA2Eの蛍光は、100×の拡大率で蛍光顕微鏡によりモニターした。細胞を、ヘキスト染料で染色して、A2Eを含有した細胞の核を可視化した。左欄は、LB(青緑色、矢印)および核(青色、矢印)についての蛍光により示される通り、未処置の対照(A2E未処置)でリポフスチンLB蓄積を示す。右欄は、メチルβ-シクロデキストリンで治療した後、LB蓄積(青緑色、矢印)および核(青色、矢印)を示す。
図4A-4B】蛍光顕微鏡により決定された、メチルβ-シクロデキストリンによるLBの除去を示す図である。A2Eを負荷した上皮細胞を、メチルβ-シクロデキストリンで24時間処置した。細胞を、ヘキスト染料で染色して、核を可視化した。細胞内のA2Eの蛍光(未抽出の細胞)を、100×の拡大率で蛍光顕微鏡によりモニターした。図4Aは、LBおよび核についての蛍光により示される、未処置の対照(A2E未処置)におけるLBに富むリポフスチン蓄積を示す。図4Bは、4mM MβCDで24hrs処置した後に細胞から排出されたLBを示す。
図5A】網膜細胞においてリポフスチンを除去する薬剤を同定するために用いられるアッセイを示す図である。ヒト網膜色素上皮(RPE)培養細胞、ARPE-19(ATCC)を、5μM A2E(網膜RPE中の最も大量に存在するLB)でこれらを終夜インキュベートすることにより、リポフスチンで前負荷した。A2Eを、眼のRPEにおいて見出されるLBに富むリポフスチンの代替物として用いた。細胞を、ウェル当たり1×105細胞で96穴プレートに播種した。DMEM-10%培地中で48hrs後、培地を、24hr除去アッセイ中で試験薬剤を用いてまたは用いずに、DMEM-10%培地と置き換えた。除去剤の各投与量を、4回評価した。処置の終了時に、上清を、除去し、接着細胞を、1X A2E可溶化緩衝液で溶解した。A2E含有量を、分光光度計プレートリーダー(励起:430nm、発光600nm)を用いたライセートの蛍光に基づいて決定した。
図5B】細胞当たりA2EのピコモルとA2E標準の公知の量の蛍光との間の相関をプロットする図である。細胞当たりのA2Eのピコモルを算出するために、A2E特異的蛍光値(A2Eで前負荷した細胞から得られたライセートの蛍光マイナスA2Eが負荷されない対照細胞から得られた対応するライセートの蛍光)を、1×A2E可溶化緩衝液に溶解したA2E標準の公知の量に対して蛍光(励起430nm/発光600nm)をプロットすることにより生成した検量線に内挿した。A2E可溶化緩衝液の組成物を、最適化して、蛍光を用いてA2Eの量の算出を妨げ得るシクロデキストリンによるソルバトクロミックな干渉を除去した。
図5C図5Bに記載した条件下で、A2Eの蛍光がシクロデキストリン複合体形成により影響されないこと、および蛍光読み取りが真のA2E量を反映することを示す図である。
図6】メチルβ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン、およびスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンによるLB除去の画像を示す図である。未処置のA2E負荷RPE培養物は、陰性対照としての役割をした。A2E負荷RPE培養を、指示されたβ-シクロデキストリン化合物7.5mMで48hrs処置した。各シクロデキストリンについて、3種の別々のロットを試験した。リポフスチン(黄色)は、多数の細胞を捕獲するために低拡大率(10×)の対物を用いて、蛍光顕微鏡(488nm/600nm)により可視化される。
図7】β-シクロデキストリンによる処置の終了時のA2Eの化学量論的分布の例を示す図である。A2Eで前処置した上皮細胞を、指示されたβ-シクロデキストリン12.5mMを含む無血清培地中で4hrs処置した。細胞ライセートおよび上清中のA2E含有量を、図5A中に記載した通り、蛍光アッセイにより決定した。図7に示す通り、細胞から消失するA2Eの大部分は、上清中に出現した。
図8】β-シクロデキストリンが、用量依存的なLB除去効果をもたらすことを示す図である。A2Eを負荷した上皮細胞を、メチルβ-シクロデキストリンの指示された投与量で48時間処置した。対照として、A2Eで前負荷されなかった、未処置のRPE細胞を、β-シクロデキストリンの指示された投与量で48時間処置した。インキュベーションの終了時に、細胞を、A2E可溶化緩衝液で溶解し、対照ライセートの蛍光を、同じシクロデキストリン投与量で処置したA2E負荷細胞のライセート中の蛍光から減算することにより、各薬物濃度についてのA2E特異的蛍光(ASF)を算出した。ASFを、A2E標準曲線中で内挿して、ピコモルに変換した。細胞当たりのA2E含有量の百分率を、β-シクロデキストリンの投与量の関数としてプロットした。
図9】メチルβ-シクロデキストリン(M-βCD)、2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HP-βCD)、およびスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SEB-βCD)によるin vivo除去の定量化を示す図である。RPE中でレチンアルデヒドを再利用する経路における二重変異(DKO)による、異常なLB蓄積を伴う動物に、1週間を隔てて、100mM M-βCD(右眼、OD)2μl;水中の500mM HP-βCD1μlまたは500mM SEB-βCD1μlの、眼当たり2回の硝子体内注射を施した。分離された同年齢の群に、対照として、ビヒクル(水)の対応する体積を注射した。眼を、第2の注射の4日後に収集した。網膜色素上皮(RPE)眼杯を、平らに乗せ、63×拡大率で自動蛍光顕微鏡にかけた。多数の写真を一緒にまとめて、完全な眼杯を示した。まとめた画像を、グレースケールに変換し、網膜の平均蛍光強度を、Image J(NIH)を用いて測定した。溶解性の制約により、M-βCD原液を、100mMで調製し、2μlを、in vivo処置のために投与した。眼に残存しているリポフスチン(%)を、それらの眼に同じ体積のビヒクル(水)を投与した動物から得られた眼と比較した。有意性を、両側の、対応のないT-検定により決定した。M-βCDは、リポフスチンの量を有意に減少せず、HP-βCDおよびSEB-βCDは、有効であった。
図10A-10B】SEB-βCDによるLBの除去が、視力を損なわなかったことを示す図である。視覚機能に対するβ-シクロデキストリン処置の効果を測定するために、空間周波数(SF)試験(視力の尺度)を行った。SFを、OptoMotryにより評価した(Prusky GT, et al. (2004) Rapid quantification of adult and developing mouse spatial vision using a virtual optomotor system. Invest Ophthalmol Vis Sci 45(12):4611-6; Douglas RM, et al. (2005) Independent visual threshold measurements in the two eyes of freely moving rats and mice using a virtual-reality optokinetic system. Vis Neurosci 22(5):677-84; Kretschmer F, et al. (2015) A system to measure the Optokinetic and Optomotor response in mice. J Neurosci Methods 256:91-105)。簡潔に言えば、無拘束のマウスを、白の背景に黒いバーを有する仮想円柱を創出するコンピュータモニターにより包囲された、高く作られたプラットフォームに立たせる。格子の仮想の回転によって、視覚的再帰性頭部運動を誘発させ;黒いバーの振動数は、バーの厚さを調製することにより変更することができる。より薄いバー、すなわち、より高いSFは、ヒトにおいて視力を評価するために用いられるスネレン試視力表中のより小さい文字に等しい。トラッキングを誘発しない最も高いSFを、視力の尺度とする。メチルβ-シクロデキストリン処置が、試験された投与量で、リポフスチンの量を有意に減少しなかったため、SFは、評価されなかった。ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンは、実験中に用いられる投与量で、視力の有意な機能障害をもたらすLBを中程度に有効に除去し、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンは、マウスの視力に影響を与えなかったため、耐容性があった。
図11A】スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-BCD)による処置は、光受容体層(ONL)の完全性を損なわないことを示す図である。対照およびSBE-BCDによって処置された動物における外顆粒層(ONL)の厚さを比較する形態計測分析を行った。光受容体(photoreceoptor)の層を、Photoshop(登録商標)およびImageJを用いて選択し、厚さを測定した。
図11B】対照およびスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-BCD)によって処置された動物の網膜が、処置後損なわれていなかったことを示す図である。まとめた画像を、ZEN Blue(Zeiss社)を用いて、ビヒクルまたはスルホブチルβ-シクロデキストリン1μlで処置したマウスから得られた網膜のヘマトキシリンおよびエオシン染色パラフィン包埋された断面積のカラー顕微鏡により得られた個別の視野から創出した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本技術の実質的な理解を示すために、本方法のいくつかの態様、モード、実施形態、変形法および特徴が、様々な詳細なレベルで以下に記載されることが理解されるものとする。
【0009】
眼リポフスチンの主な構成成分である、有毒な脂質ビスレチノイド(LB)は、光受容体の生存を担う主要な網膜支持細胞である光覚細胞の網膜色素上皮のリソソームにおいて、年齢と共に蓄積する。RPEにおけるLB蓄積は、ヒト遺伝病、例えば、シュタルガルト病(STGD)、錐体杆体ジストロフィー(CRD)のABCA4に関連した形態、および網膜色素変性(RP)において増強される。かかる蓄積は、RPEについて毒性があるおよびこれらの疾患の原因の最重要な態様であると考えられる。さらに、年齢によるLBの蓄積は、高齢者人口の25%が発症する不治の病である加齢黄斑変性(AMD)についてのリスク因子である。現在、LB蓄積を前の状態に戻す薬物治療はない。したがって、細胞LBを除去する薬剤は、ヒト失明性疾患の治療において未だ満たされていないニーズを満たす可能性がある。
【0010】
シクロデキストリンは、α-1,4グリコシド結合により接合されるグルコースサブユニットを含有する環状オリゴ糖である。シクロデキストリンは、酵素変換によりデンプンから生成され、6個のグルコースサブユニットを含有するα-シクロデキストリン、7個のグルコースサブユニットを含有するβ-シクロデキストリン、および8個のグルコースサブユニットを含有するγ-シクロデキストリンとして分類される。α-、β-、ならびにγ-シクロデキストリンはすべて、米国食品医薬品局(FDA)により安全と一般に認識され、食品、医薬、薬物送達、および化学工業、ならびに農業および環境工学において一般に用いられる。他の誘導体の中でもとりわけ、メチルベータ-シクロデキストリン(M-βCD)および2-ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリン(HP-βCD)は、安全と考えられる。HP-βCDは、ニーマン-ピック型C1病の治療のためにFDAからINDステータスを受けている。
先行する研究によって、いくつかのシクロデキストリンが、細胞からLBを被包し除去することが可能であったことが発見された。Davis ME, Brewster ME, Cyclodextrin-based pharmaceutics: past, present and future. Nat Rev Drug Discov 3(12):1023-35 (2004); Nociari et al., Beta cyclodextrins bind, stabilize, and remove lipofuscin bisretinoids from retinal pigment epithelium. Proc Natl Acad Sci U S A. 111(14): E1402-E1408 (2014)を参照のこと。
【0011】
本開示は、すべてのシクロデキストリンが、上皮細胞からのリポフスチンのin vivo除去を促進する上で有効であるとは限らないという発見に一部で基づいている。(i)メチルベータ-シクロデキストリン(MβCD);(ii)2-ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリン(HPβCD);および(iii)スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBEβCD)が、LB除去の促進において有効であり、他の誘導体、例えば、アルファ-シクロデキストリン、ガンマ-シクロデキストリン、2,6-ジ-O-メチル-β-シクロデキストリン(ヘプタキス2,6-ジ-O-メチル)および2,3,6-トリ-O-メチル-β-シクロデキストリン(ヘプタキス2,3,6-トリ-O-メチル)などは、細胞LBを効率的に除去することができないことを予想外に発見した。さらに、メチルβ-シクロデキストリンおよびヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンは、in vivoで視力の顕著な機能障害をもたらし、一方、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンは、視力を損なわなかった。
したがって、本開示は、網膜細胞のリポフスチン蓄積を伴う眼疾患に罹患している対象を治療するための方法を提供する。本明細書中に記載される方法により治療可能な状態および疾患には、網膜色素上皮(RPE)細胞におけるリポフスチンの蓄積により直接または間接的に引き起こされる、任意の眼科もしくは網膜の障害、状態、または疾患が含まれ、これらは、遺伝的または非遺伝的、例えば、加齢黄斑変性(AMD)、シュタルガルト病(SD)、ベスト病(BD)、網膜色素変性、および錐体杆体ジストロフィーなどであり得る。
【0012】
定義
別段定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本技術が属する分野の当業者によって普通に理解されるものと同じ意味を一般に有する。本明細書および添付した特許請求の範囲において用いられる通り、別段文脈で明確に指示しない限り、単数形(「a」、「an」および「the」)は、複数の対象を含む。例えば、「細胞」(a cell)への参照には、2個以上の細胞の組合せなどが含まれる。一般に、本明細書中で用いられる命名法および細胞培養、分子遺伝学、有機化学、分析化学および核酸化学における検査手技ならびに下記に記載されるハイブリダイゼーションは、本技術分野で周知のおよび一般に使用されるものである。
本明細書で使用される場合、数に関しての用語「約」は、(かかる数字が、あり得る値の0%を下回るまたは100%を上回る場合を除いて)別段の記載がない、または別段文脈から明らかでない限り、数字のどちらか一方の指示(より大きいまたはそれ未満)において、1%、5%、または10%の範囲内に属する数字を含むことが一般に必要とされる。
【0013】
本明細書で使用される場合、対象への薬剤または薬物の「投与」には、その所期の機能を行うために、対象に化合物を導入するまたは送達する任意の経路が含まれる。投与は、それだけには限らないが、経口的、鼻腔内、非経口的(静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下)、直腸、くも膜下腔内、または局所を含めた、任意の適した経路により行うことができる。投与には、自己投与および他による投与が含まれる。
本明細書で使用される場合、用語「生体試料」とは、生細胞に由来する試料材料を意味する。生体試料は、対象から単離された、組織、細胞、タンパク質または細胞の膜抽出物、および生体液(例えば、腹水または脳脊髄液(CSF))、ならびに対象の中に存在する組織、細胞および体液を含むことができる。本技術の生体試料には、それだけには限らないが、眼、乳房組織、腎組織、子宮頚部、子宮内膜、頭頸部、胆嚢、耳下腺組織、前立腺、脳、下垂体、腎臓組織、筋肉、食道、胃、小腸、結腸、肝臓、脾臓、膵臓、甲状腺組織、心臓組織、肺組織、膀胱、脂肪組織、リンパ節組織、子宮、卵巣組織、副腎組織、精巣組織、扁桃腺、胸腺、血液、毛髪、口腔、皮膚、血清、血漿、CSF、精液、前立腺液、精漿、尿、糞便、汗、唾液、痰、粘液、骨髄、リンパ液、および涙液から採取された試料が含まれる。生体試料は、内臓の生検から得ることもできる。生体試料は、診断もしくは研究のために対象から得ることができるまたは対照としてまたは基礎研究のために、非疾患の個体から得ることができる。試料は、例えば、静脈穿刺および外科生検を含めた、標準的な方法により得ることができる。ある実施形態では、生体試料は、針生検により得られた組織試料である。
【0014】
本明細書で使用される場合、「対照」は、比較の目的のために、実験において用いられる代替試料である。対照は、「陽性」または「陰性」であり得る。例えば、実験の目的が、ある特定のタイプの疾患のための治療用の治療薬の有効性の相関を決定することである場合、陽性対照(所望の治療効果を示すことが知られている化合物または組成物)および陰性対照(療法を受けないもしくはプラセボを受ける対象または試料)が、一般に使用される。
本明細書で使用される場合、用語「有効量」とは、所望の治療および/予防効果を達成するのに十分な含量、例えば、本明細書中で記載される疾患もしくは状態または本明細書中で記載される疾患または状態に伴う1種もしくは複数の徴候または症状の予防またはそれらの減少をもたらす量を意味する。治療もしくは予防適用という状況において、対象に投与される組成物の量は、組成物、疾患の程度、タイプおよび重症度ならびに個体の特徴、例えば、一般的な健康、年齢、性別、体重および薬物への耐性に応じて変わる。当業者は、これらのおよび他の因子に応じて適切な投与量を決定することが可能である。本組成物はまた、1種または複数の追加の治療用化合物と組み合わせて、投与することもできる。本明細書に記載される方法において、治療用組成物は、本明細書中で記載される疾患または状態の1種もしくは複数の徴候または症状を有する対象に投与することができる。本明細書で使用される場合、組成物の「治療有効量」とは、疾患または状態の生理的効果が、寛解するまたは取り除かれる組成物レベルを意味する。治療有効量は、1回または複数回投与することができる。
【0015】
本明細書で使用される場合、用語「個体」、「患者」、または「対象」は、個別の生物、脊椎動物、哺乳動物、またはヒトであり得る。いくつかの実施形態では、個体、患者または対象は、ヒトである。
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される担体」とは、薬剤投与と適合する、任意およびすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌化合物、等張化合物および吸収遅延化合物等を含むことが意図される。薬学的に許容される担体およびこれらの配合物は、当業者に公知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (20th edition, ed. A. Gennaro, 2000, Lippincott, Williams & Wilkins, Philadelphia, Pa.)に記載されている。薬学的に許容される担体の例には、有効な薬剤を身体に導入するのに有用な、液体または固体充てん剤、希釈剤、賦形剤、製造助剤(manufacturing aid)(例えば、滑沢剤、タルクマグネシウム、ステアリン酸カルシウムもしくはステアリン酸亜鉛、またはステアリン酸(steric acid))、または溶媒カプセル化材料が含まれる。
【0016】
本明細書で使用される場合、障害もしくは状態の「予防」、「予防する」、または「予防している」とは、統計試料において、未治療の対照試料に対して、治療された試料において障害もしくは状態の発生を減少させる、または、未治療の対照試料に対して、障害もしくは状態の1種または複数の症状の開始を遅延する、1種または複数の化合物を意味する。
本明細書で使用される場合、用語「別々の」治療用途とは、異なる経路により同時にまたはほぼ同時に少なくとも2種の有効成分を投与することを意味する。
【0017】
本明細書で使用される場合、用語「逐次的」治療用途は、異なる時間に少なくとも2種の有効成分を投与することを意味し、投与経路は、同一であるまたは異なる。より詳細には、逐次的使用は、1種または複数の他の投与を開始する前の、有効成分のうちの1種の投与全体を意味する。したがって、1種または複数の他の有効成分を投与する数分前、数時間前、または数日前にわたって、有効成分のうちの1種を投与することが可能である。この場合において、同時治療はない。
本明細書で使用される場合、用語「同時の」治療用途とは、同じ経路によりおよび同時にまたは実質的に同時に少なくとも2種の有効成分を投与することを意味する。
【0018】
本明細書で使用される場合、「治療する」または「治療」は、対象、例えば、ヒトなどにおいて、本明細書に記載される疾患または障害の治療を包含し、(i)疾患または障害を抑制する、すなわち、その発生を停止させる;(ii)疾患または障害を軽減する、すなわち、障害の後退をもたらす;(iii)障害の進行を遅くする;かつ/または(iv)疾患または障害の1種もしくは複数の症状の進行を抑制する、軽減する、または遅くすることが含まれる。いくつかの実施形態では、治療とは、疾患に伴う症状が、例えば、緩和する、低減する、治癒させる、または寛解の状態に入ることを意味する。
本明細書に記載される障害の治療の様々なモードが、「実質的な」を意味することを意図しており、これには、全体を含むだけでなく、全体の治療に満たないものも含み、いくつかの生物学的にまたは医学的に適切な結果が達成されることが、やはり理解されるものとする。治療は、慢性疾患の場合、連続的な治療の延長でもよく、急性疾患の治療の場合、単回または数回の投与でもよい。
【0019】
網膜細胞のリポフスチン蓄積を伴う眼疾患
眼の網膜色素上皮(RPE)細胞のリポフスチンの過剰な蓄積に関連する黄斑性疾患(macular condition)は、失明をもたらす。リポフスチン蓄積を示す黄斑性疾患は、ベスト黄斑ジストロフィー(Best macular dystrophy)、シュタルガルト病/黄色斑眼底、ABCA4関連網膜色素変性、ABCA4関連杆体錐体ジストロフィー、および加齢黄斑変性(AMD)が含まれる。リポフスチンは、リソソーム酵素分解に対して抵抗性であり、リソソーム消化のレムナントであると考えられる。眼におけるリポフスチンは、大部分は、脂質ビスレチノイドA2E、isoA2E、およびオールトランスレチナール2量体ホスファチジルエタノールアミンを含有する。リポフスチンはまた、反応性窒素酸化物種およびカルボキシエチルピロールから生成されたニトロチロシン、ならびに反応性脂質フラグメントから生成されたイソ[4]レブグランジンE2付加体などのような、酸化修飾を特徴とする少量のペプチドを含有する。例えば、Ng K-P, et al. (2008) Retinal Pigment Epithelium Lipofuscin Proteomics. Mol Cell Proteomics 7(7):1397- 1405; Ben-Shabat S, et al. Fluorescent pigments of the retinal pigment epithelium and age-related macular degeneration. Bioorg Med Chem Lett 11(12):1533-40 (2001)を参照のこと。
【0020】
リポフスチンは、年齢と共に蓄積し、遺伝的素因およびいくつかの基礎症状により増加するおそれがある。Molday RS, Zhong M, Quazi F, The role of the photoreceptor ABC transporter ABCA4 in lipid transport and Stargardt macular degeneration. Biochim Biophys Acta 1791(7):573-83 (2009); Zaneveld J, et al. Comprehensive analysis of patients with Stargardt macular dystrophy reveals new genotype-phenotype correlations and unexpected diagnostic revisions. Genet Med 17(4):262-270 (2015); Allikmets R et al., Mutation of the Stargardt disease gene (ABCR) in age-related macular degeneration, Science 277(5333):1805-7 (1997); van Driel M a, Maugeri a, Klevering BJ, Hoyng CB, Cremers FP, ABCR unites what ophthalmologists divide(s). Ophthalmic Genet 19(3):117-122 (1998); Fishman GA, Historical evolution in the understanding of Stargardt macular dystrophy. Ophthalmic Genet 31(4):183-9 (2010); Lim LS, Mitchell P, Seddon JM, Holz FG, Wong TY, Age-related macular degeneration. Lancet 379(9827):1728-1738 (2012); Swaroop A, Chew EY, Rickman CB, Abecasis GR, Unraveling a multifactorial late-onset disease: from genetic susceptibility to disease mechanisms for age-related macular degeneration. Annu Rev Genomics Hum Genet 10:19-43 (2009); Charbel Issa P, Barnard AR, Herrmann P, Washington I, MacLaren RE (2015) Rescue of the Stargardt phenotype in Abca4 knockout mice through inhibition of vitamin A dimerization. Proc Natl Acad Sci 112(27):8415-20 (2017)を参照のこと。
【0021】
網膜細胞のリポフスチン蓄積を標的とするための現在の治療戦略
現在開発中であるLB沈着物を標的とする薬理療法には、LBの新規の形成を遮断する戦略、およびLBを除去するための戦略が含まれる。LBの新規の形成を遮断する戦略には、フェンレチニド、エミクススタト塩酸塩、重水素化ビタミンA、およびアルデヒドトラップの投与が含まれる。かかる戦略の不利な点は、これらが、LBの新規の形成を予防し得るが、既存のLB沈着物を減少させることができないということである。したがって、LBの新規の形成を遮断する戦略は、臨床症状を確立した患者にほとんどまたは全く利益をもたらさないはずである。LBを除去するための戦略には、ソラプラザン(soraprazan)の投与、およびLBの酵素的分解が含まれる。こうしたいかなる既存の戦略も、患者に臨床的有用性を与えるほど前進していない。
【0022】
LBの新規の形成を遮断する戦略の中でもとりわけ、ビタミンAの合成型であるフェンレチニドの経口投与は、癌、ざ瘡、嚢胞性線維症、関節リウマチ、および乾癬に対してすでに用いられているが、血液からRPEへの、ビタミンA、前駆体LBのRBP4輸送を競合的に遮断し得る。Radu RA, et al. (2005) Reductions in Serum Vitamin A Arrest Accumulation of Toxic Retinal Fluorophores: A Potential Therapy for Treatment of Lipofuscin-Based Retinal Diseases. Invest Ophthalmol Vis Sci 46(12):4393-4401を参照のこと。しかしながら、ビタミンAが、正常視力に関与する最重要な分子である、11 cis レチナールの前駆体であるため、経口フェンレチニドは、副作用、例えば、夜盲症、および軽度の可逆性の皮膚の乾燥などを示した。フェンレチニドが、動物における新たなLBの形成を鈍化させるのに有効であると思われるが、これは、既存のLB沈着物に対して効果が全くなく、これは、なぜ、すでにシュタルガルトまたはAMDと診断された患者において有意な治療効果を与えなかったのかを説明することができる。
【0023】
経口エミクススタト塩酸塩(Acucela Inc)は、RPE65酵素の合成非レチノイド可逆性阻害剤であり、これは、オールトランス-レチニルを11-cis-レチナールに転換し、後者の内在性合成を促進する。2016年5月において、第2b/3相SEATTLE試験から得られた結果は、網膜変性速度または視力の変化に有意差を示さなかった。エミクススタント(Emixustant)はまた、その使用を制限する有意な夜盲症を引き起こした。フェンレチニドのように、エミクススタトは、既存のLB沈着物に対して効果がなかった。
【0024】
経口重水素化ビタミンA(ALK-001)は、水素を、安全な、非放射性同位元素である重水素と置き換えることにより修飾されるビタミンAである。重水素化ビタミンAは、LBに自然に2量体化する傾向が低い。ALK-001からABCA4-/-の長期の、経口投与は、リポフスチンおよびA2Eの蓄積を、それぞれ70%および80%まで低減した。光情報(網膜電図)に対する網膜電気的応答の評価によって、ALK-001治療は、ABCA4-/-マウスモデルにおいて観察される視覚機能が徐々に失われるのを予防することが明らかになった。安全性第1相臨床試験は、終了しており(NCT02230228)、STGD1の治療についての第2相多施設臨床試験(NCT02402660)は、進行中である。ALK-001がリポフスチンの形成を遮断すると仮定すると、AMD患者において既存のLB沈着物に対して効果を有するかどうか不確かである。
【0025】
経口アルデヒドトラップ(VM200、Vision Medicines社)は、可逆性シッフ塩基を形成し、したがって、細胞性アミン基を有する遊離アルデヒドの利用可能なレベルを低下させるレチンアルデヒドと反応する新薬を構成する。Maeda A, et al. (2012) Primary amines protect against retinal degeneration in mouse models of retinopathies. Nat Chem Biol 8(2):170-8を参照のこと。
ソプラザン(soprazan)(プロトンカリウム競合的酸遮断薬)の経口投与の1年後のサルの網膜におけるRPE細胞からのリポフスチンの除去の成功が報告された。Julien and Schraermeyer (2012) Lipofuscin can be eliminated from the retinal pigment epithelium of monkeys. Neurobiol Aging 33(10):2390-7を参照のこと。
【0026】
LB沈着物が、リソソーム加水分解酵素による分解に難分解性であるため、いくつかのグループは、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)のような、LBを破壊する活性を含む外因性酵素について探索した。例えば、Wu Y, Zhou J, Fishkin N, Rittmann BE, Sparrow JR, Enzymatic degradation of A2E, a retinal pigment epithelial lipofuscin bisretinoid. J Am Chem Soc 133(4):849-57 (2011); Sparrow JR, Zhou J, Ghosh SK, Liu Z, Bisretinoid degradation and the ubiquitin-proteasome system. Adv Exp Med Biol 801:593-600 (2014); Yogalingam G, et al. Cellular uptake and delivery of Myeloperoxidase to lysosomes promotes lipofuscin degradation and lysosomal stress in retinal cells. J Biol Chem 292:4255-4265 (2017)を参照のこと。しかしながら、これらの酵素による分解の副次的生成物は、非常に毒性であり、重症網膜損傷を潜在的に誘導することができる。
【0027】
本技術の治療方法
本開示は、網膜細胞からLB沈着物を捕捉するおよび除去する組成物、例えば、メチルベータ-シクロデキストリン(MβCD)、2-ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリン(HPβCD)、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBEβCD)、および任意の薬学的に許容されるその塩を提供する。図1A~1Bを参照のこと。一態様では、本開示は、網膜細胞のリポフスチン蓄積を伴う眼疾患に罹患している対象を予防するまたは治療する方法を提供し、本方法は、治療有効量の置換β-シクロデキストリンを対象に投与するステップを含み、置換β-シクロデキストリンは、4~14.5の間の置換度(DS)を有する無作為に置換されたベータ-シクロデキストリンを含む。
【0028】
一態様では、本技術は、有効量のスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-βCD)または薬学的に許容されるその塩を対象に投与するステップを含む、それを必要とする対象において視力を損なわず、網膜細胞のリポフスチン蓄積を伴う眼疾患を予防するまたは治療するための方法を提供する。網膜細胞のリポフスチン蓄積を伴う眼疾患は、シュタルガルト病(STGD)、網膜色素変性(RP)、加齢黄斑変性(AMD)、ベスト病(BD)、および錐体杆体ジストロフィーからなる群から選択することができる。本明細書中に記載される方法により治療可能な状態および疾患には、網膜色素上皮(RPE)細胞におけるリポフスチンの蓄積により直接または間接的に引き起こされる、任意の眼科もしくは網膜疾患または状態が含まれ、これらは、遺伝的または非遺伝的であり得、例えば、加齢黄斑変性(AMD)、シュタルガルト病、ベスト病(BD)、網膜色素変性、および錐体杆体ジストロフィーなどであり得る。さらにまたはあるいは、いくつかの実施形態では、β-シクロデキストリン(例えば、SBEβCD)の有効量は、対象に投与した場合視力を損なわない。
【0029】
さらにまたはあるいは、いくつかの実施形態では、眼疾患は、遺伝的、非遺伝的である、または加齢に伴う。別の態様では、本技術は、有効量のスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-βCD)または薬学的に許容されるその塩を対象に投与するステップを含む、それを必要とする対象において視力を損なわず、網膜細胞のリポフスチン蓄積を予防するまたは治療するための方法を提供する。
さらにまたはあるいは、本明細書中に開示される方法のいくつかの実施形態では、SBE-βCDまたは薬学的に許容されるその塩の有効量の投与は、対象におけるリポフスチン-関連網膜損傷の増悪を防止する。
【0030】
やはり本明細書中で開示されるのは、有効量のスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-βCD)または薬学的に許容されるその塩と、網膜色素上皮細胞を接触させるステップを含む、網膜色素上皮細胞におけるリポフスチン蓄積を減少させるための方法である。
一般に、本明細書で考えられる治療は、RPE細胞におけるリポフスチンビスレチノイド脂質の蓄積を停止する、軽減する、または元に戻す、および同様に、リポフスチン関連損傷または関連疾患もしくは状態を停止する、軽減する、または逆転させる効果を有する。いくつかの実施形態では、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、複合体を構成し、RPE細胞におけるリポフスチンビスレチノイド脂質を除去する。理論により縛られることを望まずに、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩が、パートナーとして少なくとも1つのリポフスチンビスレチノイド脂質分子を受け入れるのに適した空洞(すなわち、結合ポケット)を有することが考えられる。結果は、β-シクロデキストリンとリポフスチンビスレチノイド脂質分子との間の複合体である。β-シクロデキストリンとリポフスチンビスレチノイド脂質分子との間の相互作用は、一般に、例えば、水素結合および/またはファンデルワールス(分散)力による非共有結合性性質を持つ。リポフスチンビスレチノイド脂質は、一般に、A2E、A2E異性体、A2Eの酸化誘導体、A2-ジヒドロピリジン-ホスファチジルエタノールアミン、またはオール-トランスレチナール2量体である。
【0031】
用語「薬学的に許容される塩」とは、患者、例えば、哺乳動物などへの投与を許容できる塩基または酸から調製した塩(例えば、所与の用量レジメンについての許容される哺乳動物の安全性を有する塩)を意味する。しかしながら、塩が、薬学的に許容される塩、例えば、患者への投与を対象としていない中間化合物の塩などであることを要さないことが理解される。薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される無機もしくは有機塩基および薬学的に許容される無機もしくは有機酸に由来し得る。さらに、本技術の1種または複数のβ-シクロデキストリンが、塩基部分、例えば、アミン、ピリジンまたはイミダゾールなど、および酸性部分、例えば、カルボン酸またはテトラゾールなどを含有する場合、双性イオンは、形成することができ、本明細書で使用される場合、用語「塩」の範囲内に含まれる。
【0032】
一実施形態では、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンは、1つまたは複数の塩基性官能基、例えば、アミノまたはアルキルアミノなどを含有することができ、それにより、薬学的に許容される酸との反応により、薬学的に許容される塩を形成することができる。これらの塩は、投与ビヒクルまたは剤形製造方法において、またはその遊離塩基の形態における本技術の精製された化合物を、適当な有機もしくは無機酸と別々に反応させ、したがって、その後の精製中に形成される塩を単離することにより、in situで調製することができる。別の実施形態では、1種または複数のβ-シクロデキストリンは、1つまたは複数の酸性官能基を含有することができ、それにより、薬学的に許容される塩基との反応により、薬学的に許容される塩を形成することができる。これらの塩は、同様に、投与ビヒクルまたは剤形製造方法において、またはその遊離酸の形態(例えば、ヒドロキシルまたはカルボキシル)における精製された化合物を、適当な塩基と別々に反応させ、したがって、その後の精製中に形成される塩を単離することにより、in situで調製することができる。
【0033】
薬学的に許容される無機塩基に由来する塩には、アンモニウム塩、アルミニウム塩、カルシウム塩、銅塩、第二鉄塩、第一鉄塩、リチウム塩、マグネシウム塩、第二マンガン塩、マンガン塩、カリウム塩、ナトリウム塩、および亜鉛塩などが含まれる。薬学的に許容される有機塩基に由来する塩には、置換アミン、環状アミン、天然起源のアミンなど、例えば、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、N-エチルモルホリン、N-エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペラジン(piperadine)、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなどを含めて、一級、二級および三級アミンの塩が含まれる。薬学的に許容される無機酸に由来する塩には、ホウ酸、炭酸、ハロゲン化水素酸(臭化水素酸、塩酸、フッ化水素酸またはヨウ化水素酸)、硝酸、リン酸、スルファミン酸および硫酸の塩が含まれる。薬学的に許容される有機酸に由来する塩には、脂肪族系ヒドロキシル酸(例えば、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸、ラクトビオン酸、リンゴ酸、および酒石酸)、脂肪族系モノカルボン酸(例えば、酢酸、酪酸、ギ酸、プロピオン酸およびトリフルオロ酢酸)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸)、芳香族カルボン酸(例えば、安息香酸、2-アセトキシ安息香酸、p-クロロ安息香酸、ジフェニル酢酸、ゲンチシン酸、馬尿酸、およびトリフェニル酢酸)、芳香族ヒドロキシル酸(例えば、o-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸、1-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸および3-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸)、アスコルビン酸、ジカルボン酸(例えば、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸およびコハク酸)、グルクロン酸、マンデル酸、粘液酸、ニコチン酸、オロト酸、パモ酸、パントテン酸、スルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、カンホスルホン酸、エジシリック(edisylic)酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、メタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2,6-ジスルホン酸およびp-トルエンスルホン酸)、キシナホ酸(xinafoic acid)、吉草酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、クエン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、シュウ酸、フマル酸、フェニル酢酸、イセチオン酸、コハク酸、酒石酸、グルタミン酸、サリチル酸、スルファニル酸、ナフチル(napthylic)酸、ラクトビオン酸、グルコン酸、ラウリルスルホン酸などの塩が含まれる。
【0034】
さらにまたはあるいは、いくつかの実施形態では、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩の有効量の投与は、対象におけるリポフスチン関連網膜損傷の増悪を予防する。本明細書中に開示される方法の任意のおよびすべての実施形態では、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩の有効量の投与は、網膜色素上皮細胞におけるリポフスチンの蓄積を遮断する、軽減する、または逆転させる。本明細書中に開示される方法のいくつかの実施形態では、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩の有効量の投与は、リポフスチン関連損傷または対象のRPE細胞内のリポフスチン関連損傷またはリポフスチン蓄積に直接または間接的に関連する疾患または状態の開始を予防する、緩徐にする、またはリポフスチン関連損傷または対象のRPE細胞内のリポフスチン関連損傷またはリポフスチン蓄積に直接または間接的に関連する疾患または状態の重症度を減らす。対象は、任意のジェンダー(例えば、男性または女性)であり得、かつ/または、任意の年齢、例えば、高齢者(一般に、少なくとも60、70、もしくは80歳または60、70、もしくは80歳を超える)、高齢者から成人への移行年齢対象、成人、成人から成人前移行年齢対象、および青年(例えば、13歳および16、17、18、または19歳まで)、小児(一般に、13歳未満または思春期の開始前)、および乳児を含めた、成人前もやはりあり得る。対象は、任意の民族的母集団または遺伝子型の対象もやはりあり得る。ヒト民族的母集団のいくつかの例には、コーカサス人、アジア人、ラテンアメリカ系、アフリカ人、アフリカ系アメリカ人、ネイティブアメリカン、セム人、および太平洋諸島の住民が含まれる。
【0035】
さらにまたはあるいは、いくつかの実施形態では、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、RPE細胞に限局化するように構成される。本明細書中に開示される方法のある実施形態では、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、RPE細胞においてリポフスチンビスレチノイド脂質と複合体を形成するように構成される。この複合体は、非共有結合性分子間力により共に保持される2種以上の構成成分の会合からもたらされる組織された化学実体を考慮することができる。
【0036】
さらにまたはあるいは、ある実施形態では、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、RPE細胞の隣接する近傍で、そこにまたはその中で直接投与されることにより、例えば、注射または移植により、RPE細胞に限局化する。他の実施形態では、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩を、RPE細胞を選択的に標的にする標的薬剤と結合させることにより、RPE細胞に限局化し、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、RPE細胞の隣接する近傍で、それにもしくはその中で、またはRPE細胞から離れて(例えば、全身投与により)投与することができる。細胞標的薬剤(すなわち、「標的薬剤」)は、RPE細胞に結合する(すなわち、「標的にする」)能力を有する任意の化学実体である。細胞標的薬剤は、RPE細胞、例えば、細胞膜、オルガネラ(例えば、リソソームもしくはエンドソーム)、または細胞質の任意の部分を標的にすることができる。一実施形態では、細胞標的薬剤は、選択的なやり方でRPE細胞の構成成分を標的にする。RPE細胞の構成成分を選択的に標的にすることにより、細胞標的薬剤は、他のタイプの細胞構成成分に対して、細胞のいくつかの構成成分を例えば、選択的に標的にすることができる。他の実施形態では、標的薬剤は、例えば、大部分のまたはすべての細胞において見出された細胞構成成分を標的にすることにより、非選択的に細胞構成成分を標的にする。
【0037】
様々な実施形態において、標的薬剤は、例えば、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド(例えば、グルタチオン)、テトラペプチド、ペンタペプチド、ヘキサペプチド、より高いオリゴペプチド、タンパク質、単糖、二糖、三糖、四糖、より高いオリゴ糖、多糖(例えば、炭水化物)、核酸塩基、ヌクレオシド(例えば、アデノシン、シチジン、ウリジン、グアノシン、チミジン、イノシン、およびS-アデノシルメチオニン)、ヌクレオチド(すなわち、一-、二-、または三リン酸塩の形態)、ジヌクレオチド、トリヌクレオチド、テトラヌクレオチド、より高いオリゴヌクレオチド、核酸、補助因子(例えば、TPP、FAD、NAD、コエンザイムA、ビオチン、リポアミド、金属イオン(例えば、Mg2+)、金属-含有クラスター(例えば、鉄-硫黄クラスター)、または非生物学的(すなわち、合成)標的基であり得る、またはそれらが含まれる。タンパク質のいくつかの特定のタイプには、酵素、ホルモン、抗体(例えば、モノクローナル抗体)、レクチン、およびステロイドが含まれる。
【0038】
標的薬剤としての使用するための抗体は、1種または複数の細胞表面抗原に対して一般に特異的である。特定の実施形態では、抗原は、受容体である。抗体は、完全抗体、あるいは、抗体の認識部分(すなわち、高頻度可変領域)を保持する抗体のフラグメントであり得る。抗体フラグメントのいくつかの例には、Fab、Fc、およびF(ab’)2が含まれる。特定の実施形態では、特に、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは本明細書に記載される薬学的に許容されるそれらの塩への抗体の架橋を容易にする目的のために、抗体もしくは抗体フラグメントを化学的に還元させて、スルフヒドリル基を有する抗体もしくは抗体フラグメントを誘導体化することができる。ある実施形態では、標的薬剤は、標的細胞の内部移行される受容体のリガンドである。例えば、標的薬剤は、様々な材料を、リソソームに輸送する酸性加水分解酵素前駆体タンパク質の標的シグナルであり得る。特定の目的のかかる一標的薬剤は、マンノース-6-リン酸(M6P)であり、これは、トランスゴルジにおいてマンノース6-リン酸受容体(MPR)タンパク質により認識される。エンドソームは、M6P標識化物質のリソソームへの輸送に関与することが知られている。
【0039】
他の実施形態では、標的薬剤は、多くのタイプの細胞の表面にRGD受容体を結合する、RGD配列を含有するペプチドまたはそれらの変異体である。他の標的薬剤には、例えば、トランスフェリン、インスリン、アミリンなどが含まれる。受容体内部移行を用いて、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは本明細書に記載される薬学的に許容されるそれらの塩の細胞内輸送を容易にすることができる。ある実施形態では、1種の細胞標的分子もしくは基、または同じタイプの細胞-標的分子もしくは基のうちのいくつか(例えば、2つ、3つ、またはそれ以上)は、直接またはリンカーを介して1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩に結合される。他の実施形態では、2種以上の異なるタイプの標的分子は、直接またはリンカーを介して、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩に結合される。
【0040】
さらにまたはあるいは、いくつかの実施形態では、フルオロフォアは、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩に結合することができる。1種または複数のフルオロフォアの取込みは、いくつかの目的を有し得る。いくつかの実施形態では、1種または複数のフルオロフォアは、(例えば、蛍光分光法により)1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩の細胞取込みおよび保持を定量化するために、含まれる。
【0041】
本明細書で使用される場合、「フルオロフォア」とは、蛍光を発する(すなわち、蛍光特性を有する)能力を有する任意の種を意味する。例えば、一実施形態では、フルオロフォアは、有機フルオロフォアである。有機フルオロフォアは、例えば、荷電(すなわち、イオン)分子(例えば、スルホネートまたはアンモニウム基)、無電荷(すなわち、中性)分子、飽和分子、不飽和分子、環式分子、2環式分子、3環式分子、多環式分子、非環式分子、芳香族分子、および/または複素環式分子(すなわち、例えば、窒素、酸素および硫黄から選択される、1個または複数のヘテロ原子により環置換されることによる)であり得る。不飽和フルオロフォアの特定の場合では、フルオロフォアは、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の炭素-炭素および/または炭素-窒素二重および/または三重結合を含有する。特定の実施形態では、フルオロフォアは、フルオロフォアの形態であり得る任意の芳香族基の他に、少なくとも2つ(例えば、2つ、3、4、5、またはそれ以上)の共役二重結合を含有する。他の実施形態では、フルオロフォアは、少なくとも2、3、4、5、または6つの環(例えば、ナフタレン、ピレン、アントラセン、クリセン、トリフェニレン、テトラセン、アズレン、およびフェナントレン)を含有する縮合多環式芳香族炭化水素(PAH)であり、PAHは、1個、2個、3個もしくはそれ以上のヘテロ原子またはヘテロ原子含有基により環置換または誘導体化してもよい。
【0042】
他の実施形態では、有機フルオロフォアは、キサンテン誘導体(例えば、フルオレセイン、ローダミン、オレゴングリーン、エオシン、およびテキサスレッド)、シアニンまたはそれらの誘導体もしくはサブクラス(例えば、ストレプトシアニン、ヘミシアニン、連鎖シアニン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、インドカルボシアニン、オキサカルボシアニン、チアカルボシアニン、メロシアニン、およびフタロシアニン)、ナフタレン誘導体(例えば、ダンシルおよびプロダン誘導体)、クマリンおよびそれらの誘導体、オキサジアゾールおよびそれらの誘導体(例えば、ピリジルオキサゾール、ニトロベンズオキサジアゾール、およびベンズオキサジアゾール)、ピレンおよびそれらの誘導体、オキサジンおよびそれらの誘導体(例えば、ナイルレッド、ナイルブルー、およびクレシルバイオレット)、アクリジン誘導体(例えば、プロフラビン、アクリジンオレンジ、およびアクリジンイエロー)、アリールメチン誘導体(例えば、オーラミン、クリスタルバイオレット、およびマラカイトグリーン)、ならびにテトラピロール誘導体(例えば、ポルフィリンおよびビリルビン)である。本明細書中で考えられる色素のいくつかの特定のファミリーは、色素のCy(登録商標)ファミリー、色素のAlexa(登録商標)ファミリー、色素のATTO(登録商標)ファミリー、および色素のDy(登録商標)ファミリーである。ATTO(登録商標)色素は、特に、クマリンに基づいた、ローダミンに基づいた、カルボピロニンに基づいた、およびオキサジンに基づいた構造モチーフを含めた、いくつかの構造モチーフを有することができる。
【0043】
フルオロフォアは、当技術分野で公知の結合方法論のうちいずれかにより1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩に結合することができる。例えば、市販のモノ反応性フルオロフォア(例えば、NHS-Cy5)またはビス反応性フルオロフォア(例えば、ビス-NHS-Cy5またはビス-マレイミド-Cy5)を用いて、フルオロフォアを、適切な反応性基(例えば、アミノ、チオール、ヒドロキシ、アルデヒド、またはケトン基)を含有する1つまたは複数の分子に連結することができる。あるいは、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、1つ、2つまたはそれ以上のかかる反応性基、および適切な反応性基を含有するフルオロフォア(例えば、アミノ含有フルオロフォア)と反応させたこれらの反応性部分で誘導体化することができる。
【0044】
1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、RPE細胞と接触することが可能になる任意の経路によって投与することができる。投与は、例えば、点眼、非経口(例えば、皮下、筋肉内、または静脈内)、局所、経皮、硝子体内、後眼窩、網膜下、強膜下、経口、舌下、または口腔の投与モードであり得る。投与の前述の例示的なモードのうちのいくつかは、注射により達成することができる。しかしながら、いくつかの実施形態では、注射は、網膜(例えば、強膜下経路)の近傍における徐放留置剤の使用によりまたは結膜に点眼薬を投与することにより回避される。本技術の1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、シュタルガルト、ABCA4欠損遺伝子の保因者、乾燥AMDを含めたリポフスチン蓄積に罹患しているまたは脂質ビスレチノイド(リポフスチン)の蓄積により網膜変性を発症するリスクがある患者の眼に局所投与することができる。局所投与には、硝子体内、局所点眼、経皮パッチ、皮下、非経口、眼球内、結膜下、または眼球後もしくはテノン嚢下の注射、(イオン導入を含めた)経強膜、後強膜近傍(posterior juxtascleral)送達、または徐放性生分解性ポリマーまたはリポソームが含まれる。1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩はまた、眼灌流液中で送達することもできる。濃度は、約0.001μM~約100μM、好ましくは、約0.01μM~約5μMの範囲であり得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、所望の治療効果を達成するために要するものよりも低いレベルで、少なくとも最初に投与され、投与量は、所望の効果が達成されるまで徐々にまたは急激に増加される。他の実施形態では、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、所望の治療効果を加速するために要するものよりも高いレベルで少なくとも最初に投与され、投与量は、所望の効果が達成されるまで徐々にまたは急激に調節される。
選択された投与量レベルは、医師により決定される通り、いくつかの因子に依存する。これらの因子のうちのいくつかは、治療される疾患または状態のタイプ、状態もしくは疾患のステージまたは重症度、使用されている治療用化合物の有効性およびそのバイオアベイラビリティプロフィール、ならびに治療される対象の特異性(例えば、遺伝子型および表現型)、例えば、年齢、性別、体重、および全体的な状態が含まれる。
【0046】
特に、全身投与モードの場合、投与量は、例えば、1日当たり体重kg当たり約0.01、0.1、0.5、1、5、または10mg~1日当たり体重キログラム当たり約20、50、100、500、または1000mgの範囲であり得、または1日2回(bi-daily)、または1日2回(twice)、3回、4回、もしくはそれ以上の回数であり得る。特に、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩が、非全身的に、網膜に直接投与される実施形態において、投与量は、体重を無視することができ、より少量(例えば、投与当たり1~1000μg)であり得る。いくつかの実施形態では、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩の一日量は、治療効果をもたらすのに有効な最低投与量である。いくつかの実施形態では、1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、別々の投与で投与されず、例えば、徐放留置剤または静脈ラインにより提供される、連続モードで投与される。
【0047】
一態様では、本開示は、置換β-シクロデキストリンを含む医薬組成物を提供し、置換β-シクロデキストリンは、置換度(DS)が4~14.5の間である無作為に置換されたベータ-シクロデキストリンを含む。一態様では、本開示は、メチルベータ-シクロデキストリン(MβCD)、2-ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリン(HPβCD)、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBEβCD)、および薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選択される1種または複数のシクロデキストリンを含む医薬組成物を提供する。
1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、当技術分野で公知の、1種または複数の薬学的に許容される担体(添加物)および/または希釈剤と共に製剤化することができる。本技術の医薬組成物は、次に適応されるものを含めて、固体または液体の形態での投与のために特に配合することができる。(1)経口投与、例えば、水剤(水溶液または非水溶液または懸濁液)、錠剤、例えば、口腔、舌下、および全身性吸収を標的としたもの、大型丸剤、散剤、顆粒剤、舌への適用のためのペースト剤;(2)非経口投与、例えば、無菌液もしくは懸濁液として、例えば、皮下、筋肉内、静脈内または硬膜外注射による、または持続放出製剤;(3)局所適用、例えば、皮膚に適用されるクリーム、軟膏剤、または制御放出パッチまたはスプレーとして等;(4)舌下;(5)眼球;(6)経皮的;または(7)経鼻的。
【0048】
いくつかの実施形態では、本技術の医薬組成物は、1種または複数の「薬学的に許容される担体」を含むことができ、本明細書で使用される場合、一般に、薬学的に許容される組成物、例えば、有効な薬剤を身体に導入するために有用な、液体または固体充てん剤、希釈剤、賦形剤、製造助剤(例えば、滑沢剤、タルクマグネシウム、ステアリン酸カルシウムもしくはステアリン酸亜鉛、またはステアリン酸)、または溶媒カプセル化材料などを意味する。各担体は、製剤の他の成分と適合性があるおよび患者に傷害性でないという意味で、「許容され」なければならない。本技術の医薬組成物において使用することができる適当な水性および非水性担体の例には、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、植物油(例えば、オリーブ油など)、および注射用有機エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、およびそれらの適当な混合物が含まれる。適切な流動性は、例えば、コーティング材料、例えば、レシチンなどの使用により、分散の場合における必要とされる粒度の維持により、および界面活性剤の使用により維持することができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、配合物は、糖類、例えば、ラクトース、グルコースおよびスクロース等;デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびバレイショデンプン;セルロース、およびそれらの誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;トラガント末;麦芽;ゼラチン;タルク;添加剤、例えば、カカオ脂および坐剤ワックス;油状物、例えば、ラッカセイ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油等;グリコール、例えば、プロピレングリコール;ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール;エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;寒天;アルギン酸;緩衝化剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;発熱性物質を含まない水;等張食塩水;リンゲル液;エチルアルコール;pH緩衝液;ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリ無水物;保存剤;流動促進剤;充てん剤;および医薬配合物に使用される他の無毒性の適合性の物質のうちの1種または複数が含まれる。
【0050】
様々な補助剤、例えば、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム)、着色剤、放出剤(release agent)、コーティング剤、甘味剤、矯味剤、保存剤、および酸化防止剤はまた、医薬組成物に含むこともできる。薬学的に許容される酸化防止剤のいくつかの例には、(1)水溶性酸化防止剤、例えば、アスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど;(2)油溶性酸化防止剤、例えば、アスコルビン酸パルミテート、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロールなど;および(3)金属キレート剤、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などが含まれる。いくつかの実施形態では、医薬配合物には、例えば、セルロース、リポソーム、ミセル形成剤(micelle-forming agent)(例えば、胆汁酸)、およびポリマー担体、例えば、ポリエステルおよびポリ無水物から選択される賦形剤が含まれる。活性化合物に加えて、懸濁液は、懸濁化剤、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、結晶セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天およびトラガカントなど、ならびにこれらの混合物を含有することができる。微生物の活性化合物に対する作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などを含めることで保証することができる。これは、組成物中に等張剤、例えば、糖類、塩化ナトリウムなどを含むことが望ましいこともある。さらに、注射用医薬形態の吸収の延長は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどを含めることで実現することができる。
【0051】
本技術の医薬製剤は、医薬分野で公知の方法のうちのいずれかにより調製することができる。担体材料と合わせて、単一剤形を生成することができる有効成分の量は、処置される宿主および投与のある特定のモードに応じて変わる。担体材料と合わせて、単一剤形を生成することができる有効成分の量は、一般に、治療効果をもたらす化合物の量である。一般に、活性化合物の量は、約0.1~99パーセント、より典型的には、約5~70パーセント、より典型的には、約10~30パーセントの範囲内である。
【0052】
本技術の組成物は、シュタルガルト、ABCA4欠損遺伝子の保因者、乾燥AMDを含めたリポフスチン蓄積に罹患している、または脂質ビスレチノイド(リポフスチン)の蓄積により網膜変性を発症するリスクがある患者の眼に局所投与することができる。本技術の1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、(例えば、局所的に、前房内に、強膜近傍に、または移植によって)眼への送達用の点眼用製剤の様々なタイプに取り込むことができる。本技術の1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、眼科学的に許容される保存剤、界面活性剤、粘性増強剤(viscosity enhancer)、ゲル化剤、浸透促進剤、緩衝液、塩化ナトリウム、水と合わせて、水性の、無菌の点眼用懸濁液もしくは溶液または前もって形作られたゲルもしくはin situで形成されるゲルを形成することができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、本技術の置換β-シクロデキストリン(例えば、メチルベータ-シクロデキストリン(MβCD)、2-ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリン(HPβCD)、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBEβCD)、および薬学的に許容されるそれらの塩)は、1日1~10回、1日1回、2回、3回、4回、またはそれ以上の回数、1日1~3回、1日2~4回、1日3~6回、1日4~8回または1日5~10回投与される。いくつかの実施形態では、置換β-シクロデキストリン(例えば、メチルベータ-シクロデキストリン(MβCD)、2-ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリン(HPβCD)、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBEβCD)、および薬学的に許容されるそれらの塩)は、毎日、隔日、1週間に2~3回、または1週間に3~6回投与される。
【0054】
いくつかの実施形態では、置換β-シクロデキストリン(例えば、メチルベータ-シクロデキストリン(MβCD)、2-ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリン(HPβCD)、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBEβCD)、および薬学的に許容されるそれらの塩)の投与量は、例えば、1日当たり体重kg当たり約0.01、0.1、0.5、1、5、10、または100mg~体重キログラム当たり約20、50、100、500、または1000mgの範囲内であり得る。特に、活性物質が網膜で直接投与される実施形態では、投与される投与量は、体重と非依存的であり得、より少量(例えば、投与量当たり1~1000μg)であり得る。
【0055】
局所投与される場合、本技術の1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、pHが約4~8の局所点眼用懸濁液もしくは溶液として製剤化してもよい。本技術の1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、0.001質量%~5質量%の量で、または0.01質量%~2質量%の量で、普通は、これらの配合物中で含有される。したがって、局所組成(topical presentation)の場合、これらの製剤の1~2滴が、熟練した臨床医の裁量により1日当たり1~4回眼の表面に送達されるはずである。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の単量体またはポリマーシクロデキストリンの治療有効量を含有する、本技術の医薬組成物は、注射(おそらく、ミクロスフェア)、硝子体内デバイスによって硝子体内に送達される、または注射、ゲル、もしくは移植により、または上記で論じられた他の方法によりテノン嚢下腔に置かれる。溶液として送達される場合、組成物中の本技術の1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩の治療有効量は、約20~50%の濃度の約18~44μMであり得る。懸濁液として配合される場合、本技術の1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩の治療有効量は、約20~80%である。別の実施形態では、治療有効量の本技術の1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩は、ミニ錠剤の形態で投与され、それぞれ約1mg~約40mg、または約5mgの重量である。かかるミニ錠剤1~20錠は、総単一用量50~100mg[44~88μM]が注射されるように、1回投与量でトロカールによってテノン嚢下腔に注射[乾燥]することができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、置換β-シクロデキストリン(例えば、メチルベータ-シクロデキストリン(MβCD)、2-ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリン(HPβCD)、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBEβCD)、および薬学的に許容されるそれらの塩)は、1日1~10回、1日1回、2回、3回、4回、またはそれ以上の回数、1日1~3回、1日2~4回、1日3~6回、1日4~8回または1日5~10回投与される。いくつかの実施形態では、置換β-シクロデキストリン(例えば、メチルベータ-シクロデキストリン(MβCD)、2-ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリン(HPβCD)、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBEβCD)、および薬学的に許容されるそれらの塩)は、毎日、隔日、1週間に2~3回、または1週間に3~6回投与される。
【0057】
いくつかの実施形態では、置換β-シクロデキストリン(例えば、メチルベータ-シクロデキストリン(MβCD)、2-ヒドロキシプロピルベータ-シクロデキストリン(HPβCD)、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBEβCD)、および薬学的に許容されるそれらの塩)の投与量は、例えば、1日当たり体重kg当たり約0.01、0.1、0.5、1、5、10、または100mg~体重キログラム当たり約20、50、100、500、または1000mgの範囲内であり得る。特に、活性物質が網膜で直接投与される実施形態では、投与される投与量は、体重と非依存的であり得、より少量(例えば、投与量当たり1~1000μg)であり得る。
【0058】
経口投与に適した本技術の製剤は、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、錠剤、口中錠(風味付けされた基剤、通常、スクロースおよびアラビアまたはトラガカントを用いて)、散剤、顆粒剤の形態で、または水性のもしくは非水性の液体中の溶液または懸濁液として、または水中油型または油中水型液体エマルションとして、またはエリキシル剤もしくはシロップ剤として、または芳香錠として(不活性な基剤、例えば、ゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアラビアなどを用いて)および/または口腔洗浄薬などとしてでもよく、それぞれは、有効成分として本技術の化合物の予定された量を含有する。活性化合物はまた、大型丸剤、舐剤、またはパスタ剤として投与してもよい。
【0059】
これらの製剤を調製する方法は、一般に、本技術のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるその塩を、担体、任意に、1種または複数の補助剤と混合するステップを含む。固形剤形(例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、トローチ剤など)の場合では、活性化合物は、微粉砕した固形担体と混合することができ、一般に、例えば、ペレット化する、打錠する(tableting)、造粒する、粉末化する、またはコーティングすることにより、成形することができる。一般に、固形担体には、例えば、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウム、および/または次のうちのいずれかを含むことができる。(1)充てん剤または増量剤、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、および/またはケイ酸など;(2)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースおよび/またはアラビアなど;(3)湿潤剤、例えば、グリセロールなど;(4)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、バレイショデンプンまたはタピオカデンプン、アルギン酸、いくつかのケイ酸塩、および炭酸ナトリウムなど;(5)溶解遅延剤(solution retarding agent)、例えば、パラフィンなど;(6)吸収促進剤(absorption accelerator)、例えば、第四級アンモニウム化合物および界面活性剤、例えば、ポロキサマーおよびラウリル硫酸ナトリウムなど;(7)湿潤剤、例えば、セチルアルコール、モノステアリン酸グリセロール、および非イオン性界面活性剤など;(8)吸収剤、例えば、カオリンおよびベントナイト粘土など;(9)滑沢剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸、およびこれらの混合物;(10)着色剤;および/または(11)制御放出剤、例えば、クロスポビドンまたはエチルセルロースなど。カプセル剤、錠剤および丸剤の場合では、医薬組成物は、緩衝剤を含むこともできる。類似のタイプの固形組成物は、ラクトースまたは乳糖、ならびに高分子量のポリエチレングリコールなどのような賦形剤を用いて、軟および硬シェルゼラチンカプセル剤中の充てん剤として使用することもできる。
【0060】
錠剤は、任意に1種もしくは複数の補助成分と共に圧縮または成形により作製することができる。圧縮成型錠は、結合剤(例えば、ゼラチンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウムまたは架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤または分散化剤を用いて調製することができる。錠剤、および有効な薬剤の他の固形剤形、例えば、カプセル剤、丸剤および顆粒剤などは、割線入りであってもよく、コーティングおよびシェルで、例えば、腸溶コーティングおよび製剤処方(pharmaceutical-formulating)分野で周知の他のコーティングで調製してもよい。製剤はまた、所望の放出プロフィール、他のポリマーマトリックス、リポソームおよび/またはミクロスフェアを提供するために様々な割合で、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いて、その中の有効成分緩徐放出または制御放出を提供するように、製剤化することができる。あるいは、剤形は、急速放出、例えば、凍結乾燥用に配合することができる。
【0061】
一般に、剤形は、無菌であることを要する。この目的のために、剤形は、例えば、細菌保持フィルターを通したろ過により、または使用直前に、無菌の水、またはいくつかの他の無菌の注射用媒体に溶解することができる、無菌の固形組成物の形態で、減菌剤を取り込むことにより、滅菌することができる。医薬組成物は、不透明化剤を含有してもよく、有効成分(複数可)のみをまたは優先的に、胃腸管のいくつかの部分で、任意に、遅延した方式で放出する組成物でもよい。用いることができる包埋組成物の例には、ポリマー物質およびワックスが含まれる。有効成分はまた、必要に応じ、前述の賦形剤のうちの1種または複数と共にマイクロカプセル化された形態であり得る。
【0062】
液体剤形は、一般に、有効な薬剤の薬学的に許容されるエマルション、マイクロエマルション、溶液、懸濁液、シロップ剤、またはエリキシル剤である。有効成分の他に、液体剤形は、当技術分野で一般に用いられる不活性希釈剤、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油状物(特に、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにこれらの混合物などを含有することができる。
【0063】
特に、局所もしくは経皮投与を目的とする剤形は、例えば、散剤、スプレー剤、軟膏剤、パスタ剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、溶液、またはパッチの形態でもよい。点眼用製剤、例えば、眼軟膏剤、散剤、液剤などもまた、本明細書中で考えられる。活性化合物は、薬学的に許容される担体と、および必要とされ得る、任意の保存剤、緩衝液、または噴射剤と無菌条件下で混合することができる。局所もしくは経皮剤形は、本技術の活性化合物に加えて、1種または複数の賦形剤、例えば、動物および植物の脂肪、油状物、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルクおよび酸化亜鉛、ならびにこれらの混合物から選択されるものを含有することができる。スプレー剤はまた、通例の噴射剤、例えば、クロロフルオロヒドロカーボンおよび揮発性の非置換の炭化水素、例えば、ブタンおよびプロパンなどを含有することもできる。
【0064】
本技術の目的のために、経皮パッチは、身体への本技術の化合物の制御された送達を可能にする利点を提供することができる。かかる剤形は、適した媒体中で化合物を溶解するまたは分散させることにより作製することができる。吸収促進剤はまた、皮膚にわたって化合物の流入を高めるために含むこともできる。かかる流入の速度は、律速膜を提供するまたはポリマーマトリックスまたはゲル中に化合物を分散させることにより制御することができる。
非経口投与に適した本技術の医薬組成物は、一般に、1種または複数の薬学的に許容される無菌の等張の水性もしくは非水性の溶液、分散体、懸濁液またはエマルション、または使用前に無菌の注射用溶液または分散体に再構成することができる無菌の粉末と組み合わせて、本技術の1種または複数の化合物を含み、これらは、かかる製剤を初期のレシピエントの血液と等張にする糖類、アルコール、酸化防止剤、緩衝液、静菌剤、または溶質を含有することができる。
【0065】
いくつかの場合では、薬物の効果を延長するために、これは、皮下または筋肉内注射から薬物の吸収をゆっくりとすることが望ましい。これは、難水溶性を有する結晶質または非晶質の材料の液体懸濁液の使用により達成することができる。次いで、薬物の吸収の速度は、溶解のその速度に依存し、結晶サイズおよび結晶形に依存し得る。あるいは、非経口投与される薬物の形態の遅延される吸収は、油状ビヒクル中で薬物を溶解するまたは懸濁することにより達成することができる。
注射用デポー形態は、生分解性ポリマー、例えば、ポリ乳酸-ポリグリコリドなどにおいて、活性化合物のマイクロカプセル化マトリックスを形成することにより作製することができる。薬物対ポリマー比、および使用される特定のポリマーの性質に応じて、薬物放出の速度は、制御することができる。他の生分解性ポリマーの例には、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が含まれる。デポー注射用製剤はまた、体組織と適合性があるリポソームまたはマイクロエマルション中で薬物を封入することにより調製することもできる。
【0066】
医薬組成物はまた、マイクロエマルションの形態であり得る。マイクロエマルションの形態において、有効な薬剤のバイオアベイラビリティは、改善することができる。参照は、Dordunoo, S. K., et al., rug Development and Industrial Pharmacy, 17(12), 1685-1713, 1991, and Sheen, P. C., et al., J. Pharm. Sci., 80(7), 712-714, 1991についてなされ、その内容は、その全体を参照により本明細書中に組み込まれる。
医薬組成物はまた、本技術の化合物および少なくとも1種の両親媒性担体から形成されるミセルを含有することもでき、ミセルは、平均直径約100nm未満である。いくつかの実施形態では、ミセルは、平均直径が約50nm未満、または平均直径が約30nm未満、または平均直径が約20nm未満である。
【0067】
任意の適当な両親媒性担体は、本明細書中で考えられているが、両親媒性担体は、一般に、一般に安全と認められている(GRAS:Generally-Recognized-as-Safe)状態であるものであり、本技術の化合物を可溶化することができ、溶液が、複合の水相(例えば、生きている生物組織中で見出されるものなど)と接触する後のステージに、それをマイクロエマルション化することができる。通常、これらの要件を満たす両親媒性成分は、HLB(親水性・親油性バランス)値が、2~20であり、それらの構造は、C-6~C-20の範囲内で直鎖脂肪族基を含有する。両親媒性薬剤のいくつかの例には、ポリエチレングリコール化された脂肪グリセリドおよびポリエチレングリコールが含まれる。
【0068】
いくつかの両親媒性担体は、飽和および一不飽和のポリエチレングリコール化された脂肪酸グリセリド、例えば、完全にまたは部分的に水素化された様々な植物油から得られたものである。かかる油状物は、有利には、3-.2-および1-脂肪酸グリセリドならびに例えば、カプリン酸4~10、カプリン酸3~9、ラウリン酸40~50、ミリスチン酸14~24、パルミチン酸4~14およびステアリン酸5~15%を含めた脂肪酸組成物などの、対応する脂肪酸の2-および1-ポリエチレングリコールエステルからなり得る。両親媒性担体の別の有用なクラスには、飽和もしくは一-不飽和脂肪酸(SPAN-シリーズ)または対応するエトキシ化類似体(TWEEN-シリーズ)を有する、部分的にエステル化されたソルビタンおよび/またはソルビトールが含まれる。市販の両親媒性担体は、特に、Gelucire(登録商標)-シリーズ、Labrafil(登録商標)、Labrasol(登録商標)、またはLauroglycol(登録商標)、PEG-モノオレエート、PEG-ジオレエート、PEG-モノラウレートおよびジラウレート、レシチン、ポリソルベート80を含めて、考えられる。
【0069】
医薬組成物における使用に適した親水性ポリマーは、一般に、容易に水に溶けるものであり、ベシクルを形成する脂質に共有結合することができるもの、および実質的な毒性作用がなくin vivoで耐容性がある(すなわち、生体適合性である)ものである。適したポリマーには、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ乳酸(ポリラクチドとも呼ばれる)、ポリグリコール酸(ポリグリコリドとも呼ばれる)、ポリ乳酸-ポリグリコール酸コポリマー、およびポリビニルアルコールが含まれる。模範的なポリマーは、分子量が、約100または120ダルトン~約5,000または10,000ダルトンまで、より好ましくは、約300ダルトン~約5,000ダルトンまでであるものである。ある実施形態では、ポリマーは、分子量が、約100~約5,000ダルトンである、または分子量が、約300~約5,000ダルトンである、または分子量が、750ダルトン、すなわち、PEG(750)である、ポリエチレングリコールである。ポリマーは、その中のモノマーの数により定義することもできる。いくつかの実施形態では、本技術の医薬組成物は、少なくとも約3個のモノマーのポリマーを利用し、かかるPEGポリマーは、少なくとも3個のモノマー、またはおよそ150ダルトンを含む。本技術における使用に適し得る他の親水性ポリマーには、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、および誘導体化されたセルロース、例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはヒドロキシエチルセルロースが含まれる。
【0070】
ある実施形態では、医薬組成物には、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのポリマー、ポリビニルポリマー、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタンおよびそれらのコポリマー、セルロース、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、乳酸およびグリコール酸のポリマー、ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリ(ブチック酸(butic acid))、ポリ(吉草酸)、ポリ(ラクチド-co-カプロラクトン)、多糖類、タンパク質、ポリヒアルロン酸、ポリシアノアクリレート、ならびにブレンド、混合物、およびそれらのコポリマーから選択される、生体適合性ポリマーが含まれる。
【0071】
医薬組成物はまた、リポソームの形態であり得る。リポソームは、水性の内部コンパートメントを封入する少なくとも1種の脂質二分子膜を含有する。リポソームは、膜タイプおよびサイズにより特徴付けられる。小型単層小胞(SUVs)は、単一膜を有し、一般に、直径が0.02~0.05μmの範囲であり;大型単層小胞(LUVS)は、一般に、0.05μmより大きく、オリゴラメラ大型小胞および多層小胞は、複数の、通常、同心性の膜層を有し、一般に、0.1μmより大きい。リポソームは、より大型の小胞内に含有されるいくつかのより小型の小胞、すなわち、多胞性小胞を含有することもできる。
【0072】
いくつかの実施形態では、医薬組成物には、本技術の1種または複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容されるそれらの塩を含有するリポソームが含まれ、リポソーム膜は、運搬能力を高めるために配合される。あるいはまたはさらに、本技術の1種もしくは複数のβ-シクロデキストリンまたは薬学的に許容される塩は、リポソームのリポソーム二重層内で含有する、またはリポソームのリポソーム二重層に吸着することもできる。いくつかの実施形態では、有効な薬剤は、脂質界面活性剤で凝集することも、リポソームの内部空間内に運搬することもできる。かかる場合において、リポソーム膜は、有効な薬剤-界面活性剤凝集体の分裂的な効果に抵抗するために配合される。ある実施形態では、ポリエチレングリコール(PEG)鎖が、脂質二重層の内部表面からリポソームによりカプセル化された内部空間に拡張するおよび脂質二重層の外面から周囲の環境に拡張するように、リポソームの脂質二重層は、PEGで誘導体化された脂質を含有する。
【0073】
リポソーム内で含有される有効な薬剤は、好ましくは、可溶化された形態である。界面活性剤および有効な薬剤の凝集体(例えば、目的の有効な薬剤を含有する、エマルションまたはミセル)は、リポソームの内部空間内に封入することができる。界面活性剤は、一般に、有効な薬剤を分散させ、可溶化する働きをする。界面活性剤は、それだけには限らないが、様々な鎖長、例えば、約14~20個の炭素の生体適合性のリゾホスファチジルコリン(LPCs)を含めた、任意の適当な脂肪族、脂環式または芳香族界面活性剤から選択することができる。ポリマーによって誘導体化された脂質、例えば、PEG-脂質はまた、ミセル/膜融合を抑制するために働くため、および界面活性剤分子にポリマーを加えることにより、界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)を低下し、ミセル形成を助けるため、ミセル形成のために利用することもできる。好ましいのは、CMCがマイクロモル濃度の範囲である界面活性剤であり;より高いCMC界面活性剤は、本技術のリポソーム内に封入されるミセルを調製するために利用することができるが、ミセル界面活性剤モノマーは、リポソーム二重層の安定性に影響し得、所望の安定性のリポソームを設計する上での1つの因子になるはずである。
【0074】
本技術によるリポソームは、例えば、米国特許第4,235,871号および国際出願公開WO96/14057に記載され、その内容を参照により本明細書中に組み込む、当技術分野で公知の様々な技術のうちのいずれかにより調製することができる。例えば、リポソームは、親水性ポリマーで誘導体化された脂質を、前もって形作られたリポソームに拡散することにより、例えば、リポソームにおいて望まれる誘導体化された脂質の最終のモルパーセントに対応する脂質濃度で、前もって形作られたリポソームを、脂質をグラフトされたポリマー(lipid-grafted polymer)から構成されるミセルに曝露することにより、調製することができる。親水性ポリマーを含有するリポソームはまた、当技術分野で公知である通り、均質化、脂質-領域水和作用(lipid-field hydration)、または押出し技術により形成することもできる。他の方法論により、有効な薬剤は、リゾホスファチジルコリンまたは(ポリマーをグラフトした脂質(polymer grafted lipids)を含めた)疎水性分子を容易に可溶化する他の低臨界ミセル濃度(CMC)界面活性剤で超音波処理することにより初めに分散される。次いで、有効な薬剤の得られたミセル懸濁液を用いて、ポリマーをグラフトした脂質、またはコレステロールの適したモルパーセントを含有する乾燥した脂質試料を再水和する。次いで、脂質および有効な薬剤懸濁液は、当技術分野で周知の押出し技術を用いてリポソームに形成され、得られたリポソームは、標準カラム分離によりカプセル化されない溶液から分離される。
【0075】
いくつかの実施形態では、リポソームは、選択されたサイズ範囲内でほぼ均質なサイズを有するよう調製される。ある有効なサイジング方法は、選択された均一の孔径を有する一連のポリカーボネート膜を通してリポソームの水性懸濁液を押し出すものである。膜の孔径は、膜を通した押出しにより生成されたリポソームの最大サイズでおおよそ対応する(米国特許第4,737,323号、その内容は、その全体を参照により本明細書中に組み込まれる)。
【0076】
本技術の配合物の放出の特徴は、例えば、被包される材料のタイプおよび厚さ、カプセル化された薬物の濃度、ならびに放出調節剤の存在を含めて、いくつかの因子に依存する。所望であれば、放出は、例えば、胃などの場合、低pHでのみ放出する、または腸などの場合、より高いpHで放出するpH感受性コーティングを用いることにより、pH依存性であるように操作することができる。腸溶コーティングを用いて、胃に通過した後まで行わないよう放出を防止することができる。複数のコーティングまたは異なる材料でカプセル化されたシアナミドの混合物を用いて、胃における最初の放出、その後の腸における放出を得ることができる。放出はまた、塩または細孔形成剤(pore-forming agent)を含めることにより操作することもでき、それは、カプセル剤からの拡散により、薬物の水の取込みまたは放出を増加させることができる。薬物の溶解性を修正する賦形剤はまた、放出速度を制御するために用いることもできる。マトリックスの分解またはマトリックスからの放出を促進する薬剤はまた、組み入れることもできる。薬剤は、別々の相として(すなわち、粒子物として)加えた、薬物に加えることができる、または、化合物に応じてポリマー相に共溶解することができる。すべての場合において、量は、好ましくは、0.1~30パーセント(w/wポリマー)の間である。分解促進剤のいくつかのタイプには、無機塩、例えば、硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウムなど;有機酸、例えば、クエン酸、安息香酸、およびアスコルビン酸など;無機塩基、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、および水酸化亜鉛など;有機塩基、例えば、硫酸プロタミン、スペルミン、コリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンなど;ならびに界面活性剤、例えば、Tween(商標)またはPluronic(商標)など、市販の界面活性剤が含まれる。微細構造を、マトリックス(すなわち、水溶性化合物、例えば、無機塩および糖類など)に加える細孔形成剤は、一般に、粒子物として含まれる。
【0077】
取込みはまた、体内で粒子の滞留時間を変更することにより操作することもできる。これは、例えば、粘膜接着性ポリマーで粒子をコーティングすることにより、または被包される材料として、粘膜接着性ポリマーを選択することにより、達成することができる。例には、遊離カルボキシル基、例えば、キトサン、セルロース、特に、ポリアクリレーツ(本明細書で使用される場合、ポリアクリレーツとは、アクリレート基および修飾アクリレート基、例えば、シアノアクリレーツおよびメタクリレーツなどを含めたポリマーを意味する)を含むほとんどのポリマーが含まれる。
【実施例
【0078】
本技術は、次の例によりさらに例証され、これは、限定するものとして解釈するべきではない。本明細書中の例は、本技術の利点を実証するために、本技術の組成物および系を調製するまたは用いることにより当業者をさらに補助するために提供される。これらの例は、添付した特許請求の範囲により定義される通り、本技術の範囲を限定するものとして、解釈されるべきではない。これらの例は、前述した本技術の変形形態、態様、または実施形態のうちのいずれかを含むことも組み込むこともできる。前述した変形形態、態様、または実施形態は、本技術の任意のもしくはすべての他の変形形態、態様または実施形態の変形法をさらにそれぞれ含んでも組み込んでもよい。
【0079】
(実施例1)
材料および方法
細胞内のリポフスチンビスレチノイドの量を評価する高感度および定量的方法を、LBの固有の自己蛍光に基づいて開発した。
【0080】
蛍光顕微鏡:LBは、それらの疎水性アームにおける大量の共役二重結合による自己蛍光分子である。430nm(青色光)で励起したとき、これらは、610nmでピークになる黄橙色の蛍光を放射する。蛍光の強度は、それらの量に比例する。ヘキスト青色蛍光色素を用いて、シクロデキストリンで処置した細胞の核を染色した。こうした方法において、これは、画像化された領域における細胞の数の関係で610nm発光ピーク(LBの量)を表すことが可能である。各投与量を、3回アッセイし、10カ所の無作為の領域を、ウェル当たりで評価した。
【0081】
蛍光プレートリーダー方法:メチルβ-シクロデキストリンは、蛍光顕微鏡およびHPLCを用いるin vitroおよびin vivoで、脂質ビスレチノイド(LB)含有量を減少させる(Nociari et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 111(14): E1402-E1408 (2014))。しかしながら、これらの方法は、LB量の頑健なおよび不偏性の評価を示すのに十分な直線性および感受性を欠く。これらの制限を克服するために、単純なおよび感受性のマイクロプレートアッセイを開発して、LB除去を定量化した。簡潔に言えば、A2E(5μM)の非毒性投与量によるRPE細胞のコンフルエントな培養を前負荷する条件を最適化した。細胞を、アッセイの少なくとも1週間前に、1もしくは反復ステップで低投与量のA2Eで前負荷した。これらの細胞を、除去アッセイに必要になるまで数カ月間負荷し続けてもよい。次いで、アッセイの48時間前に、細胞を、トリプシン化し、カウントし、96穴ガラス底プレートに、ウェル当たり1×105細胞の密度で播種した。48hr後、細胞を、β-シクロデキストリン配合物でO/N(少なくとも4回)で処理した(図5A)。β-シクロデキストリンによる処理後、上清を除去し、細胞を、A2E抽出緩衝液で収集して、β-シクロデキストリン複合体によるソルバトクロミックな干渉を防止しながら、A2E自己蛍光を最大化し(図5B)、これによって、A2E5×10-4~2×103ピコモルの間の驚くべき直線性がもたらされた(図5C)。
【0082】
蛍光を用いてA2E量を決定し、シクロデキストリンと結合した場合A2Eがより強力な蛍光を示すことが考えられるため、この干渉を克服し、A2Eの蛍光検出を最大化するA2E抽出緩衝液を開発した。A2E抽出緩衝液は、PBS中に2%Triton X-100および1%SDSの混合を含有する。Triton-100は、A2Eより高い親和性で、βシクロデキストリンとの複合体を形成することが知られている。2%Tritonで、負荷された細胞から潜在的に放出され得るA2Eの任意の量を順守する非常に過剰の界面活性剤がある。これは、2つの目的を果たす、すなわち、(i)シクロデキストリン腔からすべてのA2E分子を出すこと;および(ii)界面活性剤分子でA2Eを均一に取り囲み、したがって、水クエンチングに対してそれらを遮蔽して、発光の強度を高め、その結果、アッセイの感受性を改善することである。
【0083】
本試験に用いられるシクロデキストリン(CD)を、表1に示す。CD分子中の置換度は、1~21個まで変わり得る。DSは、CD分子当たり置換基の平均数である。図1A~1Bは、本技術のいくつかのCD分子の組成物の構造式を示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0084】
(実施例2)
本技術のシクロデキストリン化合物の細胞LB沈着物に対する効果
図5Aに記載されるin vitroアッセイによって、シクロデキストリンの細胞LBを除去する能力の速やかな評価が可能になる。すべてのシクロデキストリンが、中央に疎水性ポケットを有するため、すべてのシクロデキストリンが、上皮細胞からのリポフスチンビスレチノイドの除去を促進する上で有効であるとの仮説がたてられた。この仮説を試験するために、5μM A2Eでこれらを終夜インキュベートすることにより、ヒトRPE細胞をリポフスチンで前負荷した。細胞を、洗浄し、未処置のまままたは試験シクロデキストリン化合物4mMで処理した。処理の48hr後、細胞を、2%Triton/2%SDS-PBS緩衝液に溶解した。細胞内のA2E含有量を、蛍光(430nmで励起および600nmで発光)により測定した。
【0085】
図2に示す通り、すべてのシクロデキストリンが、LB除去の促進に有効であるとは限らない。メチルβ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン、およびスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンは、網膜細胞からのリポフスチンビスレチノイドの除去を促進し、非置換のα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンおよびガンマ-シクロデキストリンは、これらの条件下でA2Eを抽出しなかった。2,6-ジ-O-メチル-β-シクロデキストリン(ヘプタキス2,6-ジ-O-メチル)または2,3,6-トリ-O-メチル-β-シクロデキストリン(ヘプタキス2,3,6-トリ-O-メチル)もまた、LB除去の促進において有効でなかった。
LB沈着物の除去が起こったことを確認するために、細胞を、倍率10×の対物の蛍光顕微鏡下で分析した。リポフスチンの黄色の自己蛍光の特徴は、48hrs、7.5mM β-シクロデキストリンによる処理後、劇的に低減された(図6)。
【0086】
試験されたβ-シクロデキストリンにより促進されたLB除去プロセスをさらに解明するために、A2E負荷細胞を、光学的に純粋なガラス底プレートに播種し、7.5mM β-シクロデキストリンで48hrs処理し、高倍率対物(100×)を用いて画像化した。図4A~4Bは、ヘキスト色素で1時間染色して核を可視化した後、倍率100×の対物の蛍光顕微鏡によりモニターした細胞内のA2Eの蛍光(未抽出の細胞)を示す。上パネルは、未処理の対照(A2E未治療の)におけるLBに富むリポフスチン蓄積を示す。図4A~4Bに示す通り、未処理の細胞は、細胞質中の青色DNA蛍光、および黄色点状LB蛍光を示した。この局在化は、リソソームの内側で以前に報告された局在化と一致した。下側のパネルは、LBが、メチルβ-シクロデキストリンで処理した後、細胞の外側に排出されたことを示す。実際、A2Eの顆粒剤の細胞外放出は、処理により誘導されたように見えた。
【0087】
リポフスチン除去のプロセスには、リポフスチンの細胞外放出が関与することを確認するために、ウェル当たり1×105 A2E負荷および対照細胞を、無血清培地で培養し、4hrs後、12.5mMメチルβ-シクロデキストリン(MBCD);ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HPBCD);またはスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-BCD)で処理した。接着細胞を、1×A2E抽出緩衝液に溶解し、上清を、ウェルの新鮮な組に移し、濃縮したA2E抽出緩衝液を加えて、1×最終濃度を得、したがって、培地に分泌されるA2Eを定量化した。図7に示す通り、細胞には存在しなかったすべてのA2E蛍光は、上清中に存在した。次いで、HPLC分析を、ライセートおよび上清で行って、A2Eが、本プロセス中で分解しなかったことを検証した(データは示されない)。
これらの結果によって、本技術のシクロデキストリン組成物が、それを必要とする対象において網膜細胞のリポフスチン蓄積を伴う眼疾患を治療するための方法において有用であることが実証される。
【0088】
(実施例3)
β-シクロデキストリンによるLBの用量依存的な除去
メチルβ-シクロデキストリンの有効な投与量を決定するために、A2Eを負荷した上皮細胞を、メチルβ-シクロデキストリンの投与量を増加させながら、インキュベートした。24hrsのインキュベーション後、メチルβ-シクロデキストリンを、細胞から除去し、細胞とさらに関連するA2Eの量を決定した。図3Aに示す通り、A2Eの除去に対するメチルβ-シクロデキストリンの効果は、用量依存的であった。試験された最低投与量は、未処理の対照と比較して、約75%の除去を示した。10~20μMからの投与量のメチルβ-シクロデキストリンを、検出可能なLB沈着物の大部分を上皮細胞から除去した。
【0089】
LB沈着物の除去を評価するために、細胞を、核をDAPIで染色した後、蛍光顕微鏡下で100×の拡大率で分析した。未処理の対照細胞をやはり、同じ条件下で観察した。図3Bに示す通り、未処理の細胞は、LB沈着物により青色DNA蛍光、ならびに青緑色蛍光を呈した。一方、24時間メチルβ-シクロデキストリンで処理した細胞は、青色蛍光を呈し、青緑色蛍光が完全になく、したがって、LBの抽出および除去を実証した。
【0090】
β-シクロデキストリンの効力を比較するために、A2Eを負荷した上皮細胞を、指示されたβ-シクロデキストリンの投与量を増加させながら、インキュベートした。48hrsのインキュベーション後、β-シクロデキストリンの上清を含む培地を除去し、細胞とさらに関連するA2Eの量を、図5Aに記載された定量的蛍光アッセイにより決定した。図8に示す通り、A2Eの除去に対するβ-シクロデキストリンの効果は、用量依存的であった。β-シクロデキストリンの投与によって、ミリモル範囲で、上皮細胞からLB沈着物を除去した。
これらの結果によって、本技術のシクロデキストリン組成物が、それを必要とする対象において網膜細胞のリポフスチン蓄積を伴う眼疾患を治療するための方法において有用であることが実証される。
【0091】
(実施例4)
硝子体内注射で処理した眼からのLBの除去
メチルβ-シクロデキストリン(MBCD);ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HPBCD);および/またはスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-BCD)が、in vivoで眼からLBを抽出することが可能であったかさらに決定するために、次の実験を行った。ABCA4おおよびRDH8遺伝子における突然変異による、DKOマウス、すなわち、LBの蓄積が増悪した動物の右眼(OD)(Maeda A, et al. (2008) Retinopathy in Mice Induced by Disrupted All- trans-retinal Clearance. J. Biol Chem 283(39):26684-93)を、100mM MβCD2μl;500mM HPβCD1μl;または500mM SBE-βCD1μlの2回の硝子体内注射で処理し、左眼(OS)を、ビヒクル単独で疑似処理した。同年齢の対照動物の別々の群を、ビヒクル単独でやはり処理して、これらのマウスの眼においてベースライン自己蛍光を確立した。同一の第2の注射を、1週間後に投与した。眼を、第2の注射の4日後に収集し、網膜色素上皮(RPE)眼杯を、平らに乗せた。平らに乗せたRPE眼杯の自動蛍光顕微鏡を、拡大率630×で行い、全眼杯の画像を、ZEN Blueソフトウェア(Zeiss社)を用いて、個々の画像をまとめることにより作成した。網膜の平均蛍光強度を、Image Jソフトウェアを用いて定量化した。図9によって、MBCDでなくSBE-BCDおよびHP-ΒCDは、試験される濃度で網膜からLBを有意に除去することが可能であったことが実証される。SBE-BCDは、HPBCDより優れていた。図9に示す通り、総LB42.6、28.5および18.2%を、それぞれSBE-BCD、HP-ΒCDおよびMBCDの2回の硝子体内注射で抽出した。
これらの結果から、本技術のシクロデキストリンが、LB除去を促進し、眼球内注射、徐放デバイスの留置または局所(点眼剤)によって、リポフスチン関連失明性障害を治療するための方法に有用であるということが実証される。
【0092】
(実施例5)
視力に対する本技術のシクロデキストリンのin vivo効果
100mM M-βCD2μl;500mM HP-βCD1μl;または500mM SBE-βCD1μlを、両眼に、1週間の間隔を空けて2回注射し、H2O 2μlを、同年齢の対照に硝子体内注射した。治療の視覚毒性を評価するために、空間周波数応答(SF)を、各注射の直前およびマウスを屠殺する前に、すなわち、第2の注射の4日後に決定した。SFは、OptoMotry(OMT)チャンバーを用いて測定された錐体媒介視覚応答である。簡潔に言えば、高く作られたプラットフォームで無拘束で起立するマウスを、白の背景に黒いバーを有する仮想円柱を創出するコンピュータモニターにより包囲させる。格子の仮想の回転によって、視覚的再帰性頭部運動を誘発し;トラッキングを誘導しない最高空間周波数(SF)を、視力の尺度とする。SFは、M-βCDによって処置されたマウスにおいて測定可能でなかった。HP-βCDに関して、視覚応答(visal response)の顕著な機能障害を示すいくつかの動物を用いた観察可能な変形法があった。一方、SBE-βCDは、耐容性があり、水で処置されたおよび注射されなかった陰性対照と区別不能な(indishtinguishabe)SFを示した。図10A~10Bを参照のこと。スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE-BCD)による処置は、光受容体層(ONL)の完全性を損なわず、SBE-BCDによって処置された動物の網膜の全体的な構造は、処置後無傷のままであった。図11A~11Bを参照のこと。
これらの結果から、本技術のシクロデキストリンが、LB除去を促進し、眼球内注射、徐放デバイスの留置または局所適用(点眼剤)によって、リポフスチン関連失明性障害を治療するための方法に有用であるということが実証される。したがって、本技術のシクロデキストリン組成物が、それを必要とする対象において網膜細胞のリポフスチン蓄積を伴う眼疾患を治療するための方法において有用である。
【0093】
等価物
本技術は、本出願に記載される特定の実施形態に関して限定されるものではなく、これは、本技術の個々の態様の単一の例証として意図される。本技術の多くの修正および変形は、当業者に明らかである通り、その精神および範囲から逸脱することなくなされ得る。本技術の範囲内の、機能的に等価な方法および装置は、本明細書に列挙したものに加えて、前述の説明から当業者に明らかである。かかる修正形態および変形形態は、本技術に属することが意図されている。本技術が、特定の方法、試薬、化合物 組成物または生物システムに限定するものでなく、無論、変わり得るということが理解されるものとする。本明細書中で用いられる用語は、特定の実施形態のみを記述する目的のためであり、限定することを目的としないということもやはり理解されるものとする。
さらに、本開示の特徴または態様が、マーカッシュ群に関して記載されている場合、当業者は、それにより、本開示が、マーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループに関して記載されることを認識している。
【0094】
当業者により理解される通り、任意のおよびすべての目的について、特に、書面に記載されることに関して、本明細書に開示されるすべての範囲は、任意のおよびすべてのあり得る部分範囲およびそれらの部分範囲の組合せをやはり包含する。任意の示した範囲は、十分に説明され、同じ範囲を、少なくとも2等分、3等分、4等分、5等分、10等分などにすることが可能であるものとして容易に認識することができる。限定されない例として、本明細書で論じた各範囲は、下部3分の1、中部3分の1および上部3分の1などに容易に分類することができる。当業者によりやはり理解される通り、すべての言語、例えば、「~まで」、「少なくとも」、「を超える」、「未満の」などは、列挙した数が含まれ、上記で論じた部分範囲にその後分けることができる範囲を意味する。最後に、当業者により理解される通り、範囲には、各個別の数が含まれる。したがって、例えば、1~3個の細胞を有する群は、1、2、または3個の細胞を有する群を意味する。同様に、1~5個の細胞を有する群は、1、2、3、4、または5個の細胞などを有する群を意味する。
【0095】
本明細書中で言及したまたは引用した、すべての特許、特許出願、仮出願、および公表文献は、それらが本明細書の明示的な教示と矛盾しない程度まで、すべての図および表を含めて、その全体を参照により組み込まれる。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B