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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】RFIDタグ
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/077 20060101AFI20241021BHJP
   H01Q 19/02 20060101ALI20241021BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
G06K19/077 216
G06K19/077 248
G06K19/077 280
G06K19/077 296
H01Q19/02
H01Q21/24
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022079587
(22)【出願日】2022-05-13
(65)【公開番号】P2023167997
(43)【公開日】2023-11-24
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】514174213
【氏名又は名称】株式会社フェニックスソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】杉村 詩朗
【審査官】後藤 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-310453(JP,A)
【文献】特開2012-004812(JP,A)
【文献】特開2019-092151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
H01Q 21/24
H01Q 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合トランスと、前記結合トランスの2次側のコイルに接続されたRFチップと、X軸方向に位置するX軸アンテナと、X軸方向に直交するY軸方向に位置するY軸アンテナとを備えており、
前記X軸アンテナはX軸コイル部と、前記X軸コイル部の端部に接続された状態でX軸方向に位置するX軸エレメントとを備えており、
前記Y軸アンテナはY軸コイル部と、前記Y軸コイル部の端部に接続された状態でY軸方向に位置するY軸エレメントとを備えており、
前記X軸コイル部及び前記Y軸コイル部が前記結合トランスの1次側を構成し、
前記X軸コイル部及び前記Y軸コイル部各々の巻き線数が前記2次側のコイルの巻き線数よりも少なく、
前記2次側のコイル及び前記RFチップには防水処理が施されており、
円形又は多角形の導電体から成る導波器で周囲が囲まれていることを特徴とするRFIDタグ。
【請求項2】
結合トランスと、前記結合トランスの2次側のコイルに接続されたRFチップと、X軸方向に位置するX軸アンテナと、X軸方向に直交するY軸方向に位置するY軸アンテナとを備えており、
前記X軸アンテナはX軸コイル部と、前記X軸コイル部の端部に接続された状態でX軸方向に位置するX軸エレメントとを備えており、
前記Y軸アンテナはY軸コイル部と、前記Y軸コイル部の端部に接続された状態でY軸方向に位置するY軸エレメントとを備えており、
前記X軸コイル部及び前記Y軸コイル部が前記結合トランスの1次側を構成し、
前記結合トランスの1次側のインピーダンスの方が前記結合トランスの2次側のインピーダンスよりも低くなっており、
前記2次側のコイル及び前記RFチップには防水処理が施されており、
円形又は多角形の導電体から成る導波器で周囲が囲まれていることを特徴とするRFIDタグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中、水中、雪中等でも通信可能な無指向性で薄型のRFIDタグに関する。
【背景技術】
【0002】
RFID(Radio Frequency Identification)システムで使用するRFIDタグにはアンテナ及びRFチップが格納されており、リーダ・ライタのアンテナから送信された搬送波をアンテナで受信し、RFチップに記録されている識別データ等を反射波に乗せてリーダ・ライタへ返送することにより、非接触で交信する仕組みになっている。
RFIDタグにはその用途によって対候性や耐久性が求められることがある。
例えば特許文献1にはケース内に第1のアンテナと第2のアンテナを格納し、第1のアンテナから放射された電波に第2のアンテナが共振し、増幅させた電波を外部に放射する無線ICタグが開示されている。
また、特許文献2にはIDタグの周囲を弾性体や耐熱性の材料で覆った球体のIDタグパッケージが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4778264号公報
【文献】特許第4884383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術ではRFチップ及びアンテナの周囲をケースや弾性体等で覆う構造のため、RFIDタグが大型化するという問題や、製造コストが嵩むという問題がある。
また、RFIDタグを設置する位置によっては、位相による通信指向性やインピーダンス整合等のため通信が困難になる場合がある。
【0005】
本発明はこのような問題を考慮して、地中、水中、雪中等でも通信可能な無指向性で薄型のRFIDタグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のRFIDタグは、結合トランスと、前記結合トランスの2次側のコイルに接続されたRFチップと、X軸方向に位置するX軸アンテナと、X軸方向に直交するY軸方向に位置するY軸アンテナとを備えており、前記X軸アンテナはX軸コイル部と、前記X軸コイル部の端部に接続された状態でX軸方向に位置するX軸エレメントとを備えており、前記Y軸アンテナはY軸コイル部と、前記Y軸コイル部の端部に接続された状態でY軸方向に位置するY軸エレメントとを備えており、前記X軸コイル部及び前記Y軸コイル部が前記結合トランスの1次側を構成し、前記X軸コイル部及び前記Y軸コイル部各々の巻き線数が前記2次側のコイルの巻き線数よりも少なく、前記2次側のコイル及び前記RFチップには防水処理が施されており、
円形又は多角形の導電体から成る導波器で周囲が囲まれていることを特徴とするRFIDタグ。
【0007】
本発明のRFIDタグは、結合トランスと、前記結合トランスの2次側のコイルに接続されたRFチップと、X軸方向に位置するX軸アンテナと、X軸方向に直交するY軸方向に位置するY軸アンテナとを備えており、前記X軸アンテナはX軸コイル部と、前記X軸コイル部の端部に接続された状態でX軸方向に位置するX軸エレメントとを備えており、前記Y軸アンテナはY軸コイル部と、前記Y軸コイル部の端部に接続された状態でY軸方向に位置するY軸エレメントとを備えており、前記X軸コイル部及び前記Y軸コイル部が前記結合トランスの1次側を構成し、前記結合トランスの1次側のインピーダンスの方が前記結合トランスの2次側のインピーダンスよりも低くなっており、前記2次側のコイル及び前記RFチップには防水処理が施されており、
円形又は多角形の導電体から成る導波器で周囲が囲まれていることを特徴とするRFIDタグ。



【発明の効果】
【0008】
本発明では結合トランスの1次側のX軸アンテナ及びY軸アンテナ各々のインピーダンスを2次側のRFチップのインピーダンスに対して小さくしている。本来であればRFIDタグを地中、水中、雪中等に配置した場合、X軸アンテナ及びY軸アンテナはショートしてしまい、電流が流れない。しかし、本発明では2次側のインピーダンスを1次側に対して大きくすることで1次側のインピーダンスが水没などの影響(短絡以外)で極度に低下しても、2次側に影響が少ないため電力は供給され、リーダ・ライタと通信することができる。
当然のことながら、本発明のRFIDタグを土中に埋設した状態で雨や雪が降った場合でもリーダ・ライタと通信することができる。
【0009】
また、水平波と垂直波が90度位相が異なることに対応して、本発明のRFIDタグはX軸アンテナ及びY軸アンテナを利用した結合トランスにより位相結合を行うので無指向性を実現できる。
従来のようにRFチップ及びアンテナの周囲をケースや弾性体等で覆う構造と比較して、本発明ではケースや弾性体等が不要になるのでRFIDタグを薄型化できる。
導波器を配置することでRFIDタグの無指向性を更に高めることができる。
また、RFIDタグを誘電体から成る基台の上に固定すると、電磁波の波長を短くすることができるのでアンテナの小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】RFIDタグの平面図
図2】RFIDタグの変形例
図3】RFIDタグの等価回路図
図4】RFIDタグを基台に固定した状態を示す正面図
図5】導波器を配置した場合の放射パターンを示す斜視図
図6】実施例における放射パターンを示す図
図7】実施例における飛距離パターンを示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のRFIDタグ1の実施の形態について図面を用いて説明する。
図1図3に示すようにRFIDタグ1はRFチップ10、X軸アンテナ20、Y軸アンテナ30、結合トランス40を備える。
RFチップ10は結合トランス40の2次側に接続される。RFチップ10としては市販品を使用することができる。
プリント基板50の表面にエポキシ系ダイボンド材等の接着剤を用いてRFチップ10が搭載される。
【0012】
更にプリント基板50の表面に結合トランス40の2次側のコイル11が形成されている。2次側のコイル11の2つの端子はRFチップ10の端子にワイヤーボンディングにより接続されている。なお、図示は省略するが2次側のコイル11の一方の端子がRFチップ10の一方の端子に接続し、他方の端子がスルーホールを介してプリント基板50の裏面に至り、更にスルーホールを介してプリント基板50の表面に至り、RFチップ10の他方の端子に接続することにしてもよい。本実施の形態では2次側のコイル11の巻き数は約4.5である。2次側のコイル11は蒸着等で形成される平面状のコイルに限られず、導線によるコイルでもよい。
RFチップ10及び2次側のコイル11は防水処理しておく必要がある。防水処理の手段は特に限定されないが、例えばRFチップ10及び2次側のコイル11をセラミックの内部に封印する方法が挙げられる。
【0013】
X軸アンテナ20及びY軸アンテナ30はリーダ・ライタからの搬送波を受信し、また、反射波をリーダ・ライタに返信するために設けられる。
X軸アンテナ20はX軸方向に位置しており、X軸コイル部21とX軸エレメント22を備えている。
Y軸アンテナ30はX軸方向に直交するY軸方向に位置しており、Y軸コイル部31とY軸エレメント32を備えている。
X軸アンテナ20及びY軸アンテナ30の素線の素材としては銅線、鉄線、真鍮線等の金属線を使用すればよい。
【0014】
X軸コイル部21及びY軸コイル部31は結合トランス40の1次側として機能する。X軸コイル部21及びY軸コイル部31各々の巻き線数は2次側のコイル11の巻き線数よりも少なくする必要がある。本実施の形態ではX軸コイル部21を構成する素線の巻き線数は1で、Y軸コイル部31を構成する素線の巻き線数は1である。
X軸エレメント22はX軸コイル部21の端部に接続された状態でX軸方向に位置する部材である。本実施の形態のX軸エレメント22は扇形に類似した形状である。
RFIDタグ1の通信周波数における電波の波長をλとしたとき、X軸エレメント22の電気長をλ/4,λ/2,(3/4)λ,(5/8)λのいずれかにすると、X軸エレメント22の共振周波数をRFIDタグ1の通信周波数λと一致させることができるので好ましい。
【0015】
Y軸エレメント32はY軸コイル部31の端部に接続された状態でY軸方向に位置する部材である。本実施の形態のY軸エレメント32は扇形に類似した形状である。
Y軸エレメント32の電気長をλ/4,λ/2,(3/4)λ,(5/8)λのいずれかにすると、Y軸エレメント32の共振周波数をRFIDタグ1の通信周波数λと一致させることができるので好ましい。
図2に示すようにX軸アンテナ20及びY軸アンテナ30としてダイポールアンテナを使用するのが特に好ましい。
面積の小さいRFチップ10及び2次側のコイル11は絶縁層で封止され、面積の大きいX軸アンテナ20(X軸コイル部21及びX軸エレメント22)とY軸アンテナ30(Y軸コイル部31及びY軸エレメント32)の表面は絶縁層で封止されておらず露出した状態になっている。
【0016】
RFIDタグ1を大気中に置いた状態でリーダ・ライタから水平波が送信された場合にはX軸アンテナ20で受信した電波が結合トランス40を介してRFチップ10に伝達される。具体的にはX軸エレメント22のX軸コイルを挟んで右側と左側には電波の反転位相の電流が流れることとなり、X軸コイル部21に電流が流れて、2次側のコイル11に交流電圧が誘起される。
RFIDタグ1を大気中に置いた状態でリーダ・ライタから垂直波が送信された場合にはY軸アンテナ30で受信した電波が結合トランス40を介してRFチップ10に伝達される。具体的にはY軸エレメント32のY軸コイルを挟んで上側と下側には電波の反転位相の電流が流れることとなり、Y軸コイル部31に電流が流れて、2次側のコイル11に交流電圧が誘起される。
更に、RFIDタグ1を大気中に置いた状態でリーダ・ライタから中間波が送信された場合にはX軸アンテナ20又はY軸アンテナ30で電波を受信し、結合トランス40を介してRFチップ10に伝達される。
このように、水平波と垂直波が90度位相が異なることに対応して、本発明のRFIDタグ1はX軸アンテナ20及びY軸アンテナ30を利用した結合トランス40により位相結合を行うので無指向性を実現できる。
【0017】
2次側のRFチップ10のインピーダンスが数kΩから10kΩ程度であるのに対して、本発明では1次側のX軸アンテナ20及びY軸アンテナ30各々のインピーダンスを数十Ω程度と相対的に小さくしている。
具体的には、本発明のRFIDタグ1では結合トランス40の2次側のコイル11の巻き線数N2と1次側のコイル(X軸コイル部21及びY軸コイル部31)の巻き線数N1x及びN1yとの比n(n=N2/N1x又はn=N2/N1y)を調整している。入力インピーダンスZのRFチップ10と、X軸コイル部21又はY軸コイル部31とを結合トランス40を介して接続した場合、結合トランス40の1次側のインピーダンスはZ/nとなる。したがって、1次側のコイル(X軸コイル部21及びY軸コイル部31)の巻き線数N1x及びN1yを2次側のコイル11の巻き線数N2よりも少なくすることでnを大きくして1次側の入力を低インピーダンスにし、結合トランス40で2次側を高インピーダンスに変換してRFチップ10の入力インピーダンスZと整合させている。
【0018】
上述の通り、X軸アンテナ20及びY軸アンテナ30の表面は絶縁層で封止されておらず露出した状態になっている。2次側は高インピーダンスなので、本来であればRFIDタグ1を地中、水中、雪中等に配置した場合、X軸アンテナ20及びY軸アンテナ30がショートし、1次側と2次側とでインピーダンス整合がとれなくなり電流が流れない。
しかし、本発明のRFIDタグ1では2次側のインピーダンスを1次側に対して大きくしているので1次側のインピーダンスが水没などの影響(短絡以外)で極度に低下しても、2次側に影響が少ないため電力は供給され、リーダ・ライタと通信することができる。
ただし、2次側の巻き線数N2を大きくするには結合トランス40の面積などの制約があり、2次側と1次側との巻き線数の比nはRFチップ10の仕様等によって適宜調整する必要がある。
【0019】
図4に示すようにRFIDタグ1を誘電体から成る基台60の上に固定してもよい。RFIDタグ1を誘電体に取り付けることで電磁波の波長を短くすることができるのでRFIDタグ1の小型化を図ることができる。
図5に示すようにX軸アンテナ20及びY軸アンテナ30を囲む位置に導波器70を配置しても良い。導波器70は円形又は多角形の導電体から成る。円形には楕円形も含まれる。導波器70はアルミ等の金属薄膜のエッチングやパターン印刷等の周知の手法によって形成される。導波器70は少なくとも一部に切欠部71を備える。
導波器70が円形又は多角形ということは、仮に切欠部71を繋いだ場合には導波器70が閉じた形状になり、その内側に空間が形成されることを意味する。導波器70が切欠部71を二つ以上備えていても良いが、RFIDタグ1を全方向性に変換するという意味では可能な限り短い長さの切欠部71を一つだけ備えるのが好ましい。
【0020】
リーダ・ライタから実線で示す水平波(X軸方向)を送信した場合、X軸アンテナ20が受信して反射波を送信する。この場合の放射パターンを実線(符号A)で示す。リーダ・ライタから破線で示す垂直波(Y軸方向)を送信した場合、Y軸アンテナ30が受信して反射波を送信する。この場合の放射パターンを破線(符号B)で示す。
更に導波器70を配置すると、リーダ・ライタの送信波を受けた導波器70の全域で磁界が誘起される。この場合の放射パターンを二点鎖線(符号C)で示す。この誘起磁界をX軸アンテナ20又はY軸アンテナ30で受信して反射波を送信する。
このように、X軸アンテナ20及びY軸アンテナ30を囲む位置に導波器70を配置することでRFIDタグ1の無指向性を更に高めることができる。
【実施例
【0021】
本発明のRFIDタグの性能試験を行った。
基台として直径30ミリの磁石(誘電体)を用意し、基台の上面に厚さ1ミリ以下の本発明のRFIDタグ1を固定し、土中に埋設した。
RFIDタグ1に対して上方向に200ミリ、左方向に400ミリ離れた位置に2.15dBiの標準アンテナを設置した。
リーダ・ライタの出力を24dBmに設定したところ、RFIDタグと通信できた。
次に、土中のRFIDタグの向きを水平面内で90度回転させた場合も通信できた。
リーダ・ライタの出力を変えて数回繰り返した結果、最低出力17dBm=50mWで通信できた。
図6に放射パターン(測定方式:2WEIRP)を示す。水平方向及び垂直方向に放射していることが分かる。
図7に飛距離パターンを示す。水平方向及び垂直方向に充分な距離で放射していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、地中、水中、雪中等でも通信可能な無指向性で薄型のRFIDタグであり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0023】
1 RFIDタグ
10 RFチップ
11 2次側のコイル
20 X軸アンテナ
21 X軸コイル部
22 X軸エレメント
30 Y軸アンテナ
31 Y軸コイル部
32 Y軸エレメント
40 結合トランス
50 プリント基板
60 基台
70 導波器
71 切欠部


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7