(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】硬化高反発型まくら
(51)【国際特許分類】
A47G 9/10 20060101AFI20241021BHJP
【FI】
A47G9/10 M
(21)【出願番号】P 2022135096
(22)【出願日】2022-08-26
【審査請求日】2023-03-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509180658
【氏名又は名称】株式会社バイオフェイス東京研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110434
【氏名又は名称】佐藤 勝
(72)【発明者】
【氏名】溝垣 友通
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-345920(JP,A)
【文献】特開平10-259559(JP,A)
【文献】実開昭60-108294(JP,U)
【文献】特開平02-154050(JP,A)
【文献】実開平04-135965(JP,U)
【文献】登録実用新案第3029965(JP,U)
【文献】特開2015-228941(JP,A)
【文献】特開2019-118361(JP,A)
【文献】特開2003-020555(JP,A)
【文献】特開平08-089369(JP,A)
【文献】特開昭59-100751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 9/10
B68G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低い融点を有し4乃至6デニールの太さの繊維からなるポリエステル綿、前記ポリエステル綿の融点よりも高い融点を有し12乃至18デニールの太さの繊維からなるポリエステル綿、及び再生ポリエステル綿を、前記低い融点を有するポリエステル綿は10乃至25%の重量比であり且つ再生ポリエステル綿は20乃至50%の重量比となり、
前記高い融点を有するポリエステル綿は残りの百分率の重量比となるように配合してシート状に加工し、そのシート状に加工されたポリエステル綿シートを連続的に積層したところで熱ロールに供給させて熱圧着させ、次いで一時的に溶けたポリエステル綿と溶けないポリエステル綿が混在する状態を作る熱処理によりシート材の体積を減らし、ブロワーで冷却風を当てて溶けていた低い融点を有するポリエステル綿を硬化させることで作られる硬化ポリエステルシートを
所定の枕のサイズに切断して得られた硬化ポリエステル枕部材を有することを特徴とする硬化高反発型まくら。
【請求項2】
請求項1記載の硬化高反発型まくらであって、前記高い融点
を有するポリエステル綿は30乃至60%の重量比を有することを特徴とする請求項1記載の硬化高反発型まくら。
【請求項3】
請求項1記載の硬化高反発型まくらであって、前記硬化ポリエステルシートは、単位面積当たりの重さが1.3kg/m
2乃至2.0kg/m
2の範囲であることを特徴とする硬化高反発型まくら。
【請求項4】
請求項3記載の硬化高反発型まくらであって、前記硬化ポリエステルシートの厚みが7乃至12cmの厚みに設定されることを特徴とする硬化高反発型まくら。
【請求項5】
前記硬化ポリエステルシートの表面反発力は、ゴルフボールを高さ60cmから自由落下させた場合に、最初の反発力での到達高さが30cm以上であることを特徴とする請求項1記載の硬化高反発型まくら。
【請求項6】
前記硬化ポリエステルシートを切断して前記硬化ポリエステル枕部材を多角形角柱形状にすることを特徴とする請求項1記載の硬化高反発型まくら。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル綿を用いた硬化高反発型まくらに関し、特に固めな構造から首痛などの悩みを抱える使用者に快適な寝心地をもたらす硬化高反発型まくらに関する。
【背景技術】
【0002】
就寝時のまくらは、寝心地に大きく影響することが良くあり、通常の高反発や低反発のウレタン系の発泡樹脂などを用いた場合には、柔らかすぎて姿勢を維持するために返って首筋を痛めてしまうという問題がある。例えば首や背中に負担がかかる状態で寝てしまった場合には、寝違えるなどの首や背中の痛みなどにつながることがあり、快眠を所望する人々にとっては常に適切な硬さでのまくらが求められている。
【0003】
従来の首痛などの諸問題を解決する技術としては、種々のものが知られており、例えばまくらが載置された水平面からの角度が10度以上20度以下になるよう傾斜されて形成されている、略直角三角柱状の部材でまくらを形成するもの(特許文献1参照。)や、就寝時に頚椎および腰椎にかかる負担を軽減できるまくらとして、底面が床に載置される面となり、底面に対して約30°傾斜して体載置面がある枕(特許文献2)などが知られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-110956号公報
【文献】特開2009-261512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウレタン素材を使用した場合では、柔らか過ぎて就眠時の気道の確保ができないなどの問題も発生し易いという問題が発生することがあり、これらの特許文献に記載された断面三角形状のまくらにおいても、発泡樹脂の利用部分は柔らか過ぎる問題が生じる。また、複数の部材を組み合わせて構成する場合には、それが価格の上昇につながることから、まくらの市場でのコスト面からの競争力を失うことになる。
【0006】
そこで、本発明は、特に就寝時に有効で快眠をもたらす硬化高反発型まくらの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の技術的な課題を解決するため、本発明の硬化高反発型まくらは、低い融点を有し4乃至6デニールの太さの繊維からなるポリエステル綿、前記ポリエステル綿の融点よりも高い融点を有し12乃至18デニールの太さの繊維からなるポリエステル綿、及び再生ポリエステル綿を、前記低い融点を有するポリエステル綿は10乃至25%の重量比であり且つ再生ポリエステル綿は20乃至50%の重量比となり、前記高い融点を有するポリエステル綿は残りの百分率の重量比となるように配合してシート状に加工し、そのシート状に加工されたポリエステル綿シートを連続的に積層したところで熱ロールに供給させて熱圧着させ、次いで一時的に溶けたポリエステル綿と溶けないポリエステル綿が混在する状態を作る熱処理によりシート材の体積を減らし、ブロワーで冷却風を当てて溶けていた低い融点を有するポリエステル綿を硬化させることで作られる硬化ポリエステルシートを所定の枕のサイズに切断して得られた硬化ポリエステル枕部材を有することを特徴とする。このような処理で得られた硬化高反発型まくらは、ポリエステル綿を原材料としながらも非常に固めのマットレスを構成し、その固さがもたらす機能によって首痛などの発生を未然に防止しうるものである。
【0008】
また、本発明の硬化高反発型まくらの一例においては、前記融点が異なるポリエステル綿のうち高い融点のポリエステル綿は30乃至60%の重量比とすることができ、前記硬化ポリエステルシートは、単位面積当たりの重さが1.3kg/m
2
乃至2.0kg/m
2
の範囲とすることができ、その硬化ポリエステルシートの厚みは7乃至12cmの厚みに設定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の1つの実施形態の硬化高反発型まくらを一部破断して示す模式的な斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態の硬化高反発型まくらの模式的な側面図である。
【
図3】本発明の実施形態の硬化高反発型まくらの使用状態を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施形態の硬化高反発型まくらについて行ったゴルフボールを用いた反発力比較実験を説明する模式図である。
【
図5】本発明の実施形態の硬化高反発型まくらに用いる硬化ポリエステルシートの製造方法の一例を説明するための流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の硬化高反発型まくらの実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、硬化高反発型まくら10の模式的な斜視図であり、外側はキルティング構造のまくらカバー14であり、その内側に固く高反発を示す硬化ポリエステル枕部材12がある。なお、本明細書においてまくらの用語については、広く解されるものであって、敷布団と組み合わせて使用することもでき、他のまくらと組み合わせて使用することもでき、必ずしも布団の上に敷くものに限定されず、ソファーの座面や背もたれなどと組み合わせられるものも含む。また、必ずしも住居用のまくらに限定するものでもなく、病院やホテルなどの業務用や乗り物、その他の施設の一部で人が寝転がってあるいは座って利用する様なあらゆる形態に適用できる。まくらは必ずしも常時使用するものに限らず、一時的な利用も含む。
【0011】
硬化高反発型まくら10に用いられる硬化ポリエステル枕部材12は、硬化される硬化ポリエステルシートを三角角柱形状に切断して形成された硬化ポリエステル部材であり、後述するような工程で製造される。外側のキルティング構造のまくらカバー14は必須ではなく、硬化ポリエステル枕部材12に所要の繊維で構成されたシーツを被せるようにすることも可能である。硬化ポリエステル枕部材12の端部は多少の面取りがなされていても良く、余りに端部が薄い場合には強度の問題も生ずるので、三角角柱形状も厳密な三角角柱形状でなくとも良い。硬化ポリエステル枕部材12の多角角柱形状の一例として三角角柱形状を例示したが、他の多角角柱形状とすることも可能である。
【0012】
図2は硬化高反発型まくら10に用いられる硬化ポリエステル枕部材12の厚みTを図示しており、この厚みTは、硬化ポリエステル枕部材12を積層する枚数で調整することも可能であるが、7~12cm程度の厚み(高さ)に設定することができる。一例として、硬化高反発型まくら10では水平面から10度~30度の程度角度で立ちあがる斜面を頭を載せる面とすることができる。このような斜面はシートを厚み方向で斜めに切断することで形成され、このような斜面を利用することで、例えば胃の中のものが逆流し難くなり、逆流性食道炎の悩みがある人が安心して利用できるまくらとなり得る。硬化ポリエステル枕部材12の幅は90cmや68cmなどに設定され、硬化ポリエステル枕部材12の奥行も例えば45cmに設定されるが、これらサイズについては適宜変更可能である。
【0013】
図3は使用者16が本実施形態の硬化高反発型まくら10を用いて寝ている状態の模式図である。硬化高反発型まくら10は発
泡樹脂製ではないため、極めて空気の流通性を高く維持することができ、睡眠中の発汗なども硬化高反発型まくら10自体の比較的に大きな隙間を介して逃がすこともでき、発
泡樹脂を使用したまくらに有りがちなベトつき感も払拭することができる。また、硬化高反発型まくら10は発
泡樹脂製ではないため、使用者の重力方向の底面に広く接して体を保持することを主眼とするのではなく、硬さを以って使用者の頭部などを確実に保持することができ、従って、使用者の就眠時の姿勢に依存する首痛の発生は未然に防止することもできる。
【0014】
硬化高反発型まくら10に用いられる硬化ポリエステル枕部材12の材質は、100%のポリエステル綿を主な材料としており、ここでポリエステル綿とはポリエステル繊維を綿に加工したもので、特徴は弾力性が高いことで知られ、ソファー・布団・クッション・ぬいぐるみなどに使用される綿状の繊維の塊である。ポリエステル綿はちぎって分けることも可能であるが、本実施例では、それらをプレス加工して所要の厚みのシート化を図った硬化ポリエステル枕部材12に仕上げている。完成した硬化ポリエステル枕部材12の重量としては、圧縮されていることから、単位面積当たりの重さが1.2kg/m2もしくはそれ以上であることが望ましく、典型的には硬化ポリエステル枕部材12は1.3kg/m2乃至2.0kg/m2の範囲での重さを有す。
【0015】
硬化高反発型まくら10に用いられる硬化ポリエステル枕部材12は、種類の異なるポリエステル綿を配合することで得られるシートであり、特に低融点ポリエステル綿を混ぜることで、熱処理時に一時的に溶けたポリエステル綿と溶けないポリエステル綿が混在する状態を作り、そこから極めて短い時間の冷却処理により、低融点ポリエステル綿を瞬時に固化させて全体的に硬く反発係数の高い硬化ポリエステルシートが得られることになる。一例を挙げれば、低融点ポリエステル綿は10乃至25%の重量比であり、再生ポリエステル綿は20乃至50%の重量比、通常のポリエステル綿は30乃至60%の重量比で均一に各ポリエステル綿を混ぜ合わせてポリエステル綿シートを得る。低融点ポリエステル綿としては、全体的に低融点のポリエステル繊維を綿状にしたものも使用することができ、芯はポリエステル綿とし、鞘の部分は共重合ポリエステルあるいはポリエチレンとなるような芯鞘で組成が異なるような繊維を用いることもできる。通常のポリエステル綿としては例えば12乃至18デニールの太ささのものを使用し、低融点ポリエステル綿としては例えば4乃至6デニールの太さの繊維を使用できる。
【0016】
製造時においては、例えば通常のポリエステル綿と、ペットボトルなどの再生資源を綿状に加工した再生ポリエステル綿と、低融点ポリエステル綿を均一になるように混ぜ、シート状のポリエステル綿シートを製造する。このシートを重ねるように折り返して、少しずつ送り、複数枚のポリエステル綿シートを熱圧着させる。具体的には熱ローラーなどにより圧力を加えて繊維を板状に加圧し、その際には低融点ポリエステルが溶融してシート内の隅々まで至るような温度に維持される。この加熱のため、比較的に大きさ規模の熱処理装置が使用され、熱圧着によりシート内の低融点ポリエステルの成分が溶融されながらポリエステル綿シートが熱処理装置内を搬送され、熱処理装置の最後に位置するブロワーで冷却風を当てて、溶融していた融点の低いポリエステル成分を硬化させる。圧縮されたポリエステル綿シートは固い状態となって硬化し、シート材の体積を減らして硬化されることになる。
【0017】
なお、硬化ポリエステルシートには、所望の難燃剤などを加えることも可能であり、抗菌性や防カビ性の材料を混ぜることも可能であるが、所望の難燃剤や抗菌性や防カビ性の材料については最終的な製品に塗布するようにしても良い。また、ウェブ状で熱処理装置から排出された硬化ポリエステルシートは、所要のサイズに切断され、カバーなどを付与して硬化高反発型まくらが構成されることとなる。
【0018】
このような硬化ポリエステルシートについては、本件発明者はその高反発性能についての試験を行っている。
図4はゴルフボールの落下試験を示す図である。ゴルフボールの落下試験は、ある一定の高さ、本試験では60cmの高さから、一定のゴルフボール22を本実施形態の硬化ポリエステルシートと比較例として高反発ポリウレタン材の表面にそれぞれ自由落下させ、それぞれシート表面で跳ねて到達した最大高さを計測した。すると、次の表1に示すように、本実施形態の硬化ポリエステルシート18では、大きく跳ね上がって最大33乃至40cm程度の高さまでの跳ね上がりが測定された。これに対して、比較例としての高反発ポリウレタン材20に対してゴルフボール22を自由落下させた場合では、約6cmの高さまでしか跳ね上がりがなく、その反発係数が著しく異なることが示された。
【0019】
【0020】
本実施形態の硬化高反発型まくらに用いられる硬化ポリエステルシートは概ねどのような厚みでも高い反発力を示す傾向があり、例えば厚み(高さ)が10cmを越える硬化ポリエステルシートでは、約60cmの高さからゴルフボールを落下させた場合に、約45cm程度もしくはそれ以上となり、厚みが薄い場合には跳ね上がり高さが低くなる傾向がある。例えば硬化ポリエステルシートの厚みが2cm程度の薄い場合には、30cm程度となり得る。なお、ゴルフボールもそれぞれ反発が異なるため、いわゆる公認球(重さ:45.93グラム以内、直径:42.67mm以上、反発係数:0.800以内)を使用した。
【0021】
次に、本実施形態の硬化高反発型まくらに用いられる硬化ポリエステルシートの製造工程の流れについて簡単に
図5を参照しながら説明する。一例として、本実施形態の硬化高反発型まくらに用いられる硬化ポリエステル枕部材の製造では、巨大なベルトコンベヤーを配した製造ラインを利用することができ、初めに、製造に従事する職人が原料のポリエステル綿として、通常のポリエステル綿、再生ポリエステル綿、および低融点ポリエステル綿を手などでちぎりながらシート加工機に導入する(手順S10)。このシート加工機では、導入されたポリエステル綿を良く混ぜることができ、混ぜ合わされたポリエステル綿を平たく押し伸ばす(手順S12)。次に、流れ作業の中でシート加工機から排出されたポリエステル綿シートを何枚かの枚数のシートが重なるように積層させ(手順S14)、次いで熱ロールで加熱しながら積層されたシートを圧縮する(S16)。この圧縮工程で積層されていたポリエステル綿シートはその厚みが大きく減少されるように加工される。本実施形態の硬化ポリエステルシートの製造工程では、圧縮した後に引き続いて熱処理を施して(手順S18)、通常のポリエステル綿が圧縮されたまま熱を付与して低融点ポリエステル綿を溶かしで全体に広げ、最後に冷却風を当てることで瞬時に硬化させて硬化ポリエステルシートを固めることができる。硬化された硬化ポリエステルシートは、大きな糸鋸やレーザービームなどの切断装置を利用して切断され(手順S20)、例えば三角角柱形状の硬化ポリエステル枕部材を形成することで、最終的には硬化ポリエステル枕部材を得ることができる(手順S22)。
【0022】
以上のように、本実施形態の硬化高反発型まくらは、圧縮されて固化した硬化ポリエステル枕部材を用いるため、一般的な発泡ウレタン樹脂のような柔らかさがなく、固くて高反発なまくら部材となることから、就寝者が姿勢を維持することや姿勢を変えることも容易であり、その結果、腰痛などの発生も未然に防止することができる。また、全く発泡樹脂材を使用しない形態では、本実施形態の硬化高反発型まくらは空気の通気性に優れることになり、発泡樹脂が皮膚に接触したりあるいは近くにある場合におけるベトつきなども防止することもできる。さらに、まくら部材となるシート材は切断されて角度を持った傾斜面を有するため、逆流性食道炎の悩みがある人が安心して利用できるまくらとなり得る。
【符号の説明】
【0023】
10 硬化高反発型まくら
12 硬化ポリエステルシート枕部材
14 まくらカバー
16 使用者
18 硬化ポリエステルシート
20 高反発ポリウレタン材
22 ゴルフボール