(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】組織の虚血を治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20241021BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P9/10
(21)【出願番号】P 2022579756
(86)(22)【出願日】2021-08-13
(86)【国際出願番号】 CN2021112403
(87)【国際公開番号】W WO2022033570
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-03-02
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】524275827
【氏名又は名称】チロンステム インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徐 偉成
(72)【発明者】
【氏名】陳 建霖
(72)【発明者】
【氏名】鄭 隆賓
(72)【発明者】
【氏名】蔡 長海
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-500316(JP,A)
【文献】特表2007-537752(JP,A)
【文献】国際公開第2014/027474(WO,A1)
【文献】Experimental and Clinical Transplantation,2019年,Vol. 1,pp. 239-241
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/28
A61P 9/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織の虚血
を治
療するための医薬組成
物であって、
前記医薬組成物は、
第1剤及び第2剤からなり、前記第1剤及び前記第2剤はそれぞれ治療用細胞を含み、
前記治療用細胞は間葉系幹細胞であり、且つ前記医薬組成物の投与形態として、
前記第1剤
が動脈注射で投与
されてから、
前記第2剤
が静脈注射で投与
され、前記第1剤と前記第2剤とは、投与される時間間隔が2~4時間であることを特徴とする医薬組成
物。
【請求項2】
前記間葉系幹細胞は、臍帯間葉系幹細胞、骨髄間葉系幹細胞又は脂肪間葉系幹細胞である請求項
1に記載の医薬組成
物。
【請求項3】
前記第1剤は、前記組織の前記虚
血の発症から24時間後に投与される請求項1に記載の医薬組成
物。
【請求項4】
前記組織は、脳である請求項1に記載の医薬組成
物。
【請求項5】
前記組織の前記虚
血は、虚血性脳卒中である請求項
4に記載の医薬組成
物。
【請求項6】
前記第1剤は少なくとも1×10
5個の前記治療用細胞を含み、
前記第2剤は少なくとも1×10
6個の前記治療用細胞を含む請求項
4に記載の医薬組成
物。
【請求項7】
前記組織は、心臓である請求項1に記載の医薬組成
物。
【請求項8】
前記組織の前記虚
血は、心筋梗塞である請求項
7に記載の医薬組成
物。
【請求項9】
前記第1剤は少なくとも0.5×10
6個の前記治療用細胞を含み、
前記第2剤は少なくとも1×10
6個の前記治療用細胞を含む請求項
7に記載の医薬組成
物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用細胞を含む医薬組成物に関し、特に、組織の虚血の治療に適用される治療用細胞を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
虚血(ischemia)状態とは、組織の給血量が不足し、更に酸欠及び栄養不全になることである。虚血は、一般的に、血管問題に起因し、血管収縮、血栓形成又は塞栓により局所的に貧血になる可能性もある。虚血は、酸欠及び栄養不全以外に、代謝産物の蓄積を引き起こして、更に組織を損傷することもある。
【0003】
虚血状態は、心臓に発症すると、虚血性心疾患を引き起こす。虚血性心疾患は、全世界で死亡を引き起こす主な原因である。急性心筋虚血による心不全の多くの患者には、侵襲性治療が適合せず、効果的な薬物治療もないため、新たな治療方法が急務となっている。虚血状態が脳に発症すると、虚血性脳卒中を誘発し、それも全世界で死亡を引き起こす主な原因である。虚血性脳卒中は、脳血液供給の異常により脳機能が急速に喪失し、且つ神経行動能力での損害を引き起こしやすい。従来から、脳卒中を治療するために、主に薬物で脳卒中の再発を予防することは一般的である。虚血性脳卒中は、急性期に限って血栓溶解剤及び頭蓋内動脈塞栓除去術で治療する機会がある以外、他の薬物治療は主に脳卒中の再発の危険を低減するだけであるが、これらの薬物の脳卒中後の損傷した脳組織及び神経機能に対する回復効果は限られる。
【0004】
現在、再生医学では、例えば幹細胞等の治療用細胞が多能性及び自己複製能を有し、虚血性心疾患及び虚血性脳卒中の新たな治療方法として用いられることができることが発見される。しかしながら、虚血性心疾患を治療用細胞で治療する場合、インプラント不良が観察される。その原因として、インプラントされた治療用細胞の梗塞した心臓組織における生存能力が悪く、インプラントしてから4日後には1%の生細胞しか見られず、更に治療用細胞を梗塞部位にインプラントした心臓の機能が殆ど改善されていないことが考えられる。従って、治療用細胞の生存率を向上できる方法は、治療にとって重要である。虚血性脳卒中を治療用細胞で治療する場合、静脈注射で治療用細胞をインプラントすると、多くの治療用細胞が被験体の肺や肝臓に留まることが見られる。従って、治療効果を向上させるように梗塞領域内及び周囲の治療用細胞数を如何に増加させるかは、解決すべき課題である。
【発明の概要】
【0005】
これに鑑みて、本発明の一つの目的は、治療用細胞のインプラント後の生存状態及び免疫調節能力を保持して、組織の虚血状態及び脾細胞活性化免疫システムの酸欠環境を克服し、また治療用細胞に優れた臨床転換を持たせて、組織の虚血状態による機能性損傷を改善することのできる新たな治療用細胞のインプラントポリシーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、組織の虚血を治療するための医薬組成物である。
医薬組成物は、第1剤及び第2剤からなる。第1剤及び第2剤はそれぞれ治療用細胞を含み、治療用細胞は間葉系幹細胞である。且つその投与形態として、第1剤が動脈注射で投与されてから、第2剤が静脈注射で投与される。第1剤と第2剤とは、投与される時間間隔が2~4時間である。
【0009】
医薬組成物によれば、間葉系幹細胞は、臍帯間葉系幹細胞、骨髄間葉系幹細胞又は脂肪間葉系幹細胞であってよい。
【0010】
医薬組成物によれば、第1剤は、組織の虚血の発症から24時間後に投与されてよい。
【0012】
医薬組成物によれば、組織は、脳であってよい。好ましくは、組織の虚血は、虚血性脳卒中であってよい。
【0013】
医薬組成物によれば、第1剤は少なくとも1×105個の治療用細胞を含み、第2剤は少なくとも1×106個の治療用細胞を含む。
【0014】
医薬組成物によれば、組織は、心臓であってよい。好ましくは、組織の虚血は、心筋梗塞であってよい。
【0015】
医薬組成物によれば、第1剤は少なくとも0.5×106個の治療用細胞を含み、第2剤は少なくとも1×106個の治療用細胞を含む。
【0016】
上記発明の内容は、本開示内容の簡略化した概略を提供し、読者が本開示内容を基本的に理解することを目的としている。この発明の内容は、本開示内容の完全な概要ではなく、且つ本発明の実施例の重要/肝心な要素を指摘し又は本発明の範囲を限定する意図としていない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の上記及び他の目的、特徴、メリット及び実施例をより明確に理解するために、添付図面の説明は以下の通りである。
【
図1】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの脳梗塞状態の分析結果図である。
【
図2A】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの脳梗塞状態の分析結果図である。
【
図2B】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの脳梗塞状態の分析結果図である。
【
図2C】異なる投与形態で脂肪間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの脳梗塞状態の分析結果図である。
【
図2D】異なる投与形態で脂肪間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの脳梗塞状態の分析結果図である。
【
図2E】異なる投与形態で骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの脳梗塞状態の分析結果図である。
【
図2F】異なる投与形態で骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの脳梗塞状態の分析結果図である。
【
図3A】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの神経行動改善の分析結果図である。
【
図3B】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの神経行動改善の分析結果図である。
【
図3C】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの神経行動改善の分析結果図である。
【
図4A】異なる投与形態で脂肪間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの神経行動改善の分析結果図である。
【
図4B】異なる投与形態で脂肪間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの神経行動改善の分析結果図である。
【
図4C】異なる投与形態で脂肪間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの神経行動改善の分析結果図である。
【
図5A】異なる投与形態で骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの神経行動改善の分析結果図である。
【
図5B】異なる投与形態で骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの神経行動改善の分析結果図である。
【
図5C】異なる投与形態で骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、脳卒中ラットの神経行動改善の分析結果図である。
【
図6A】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓梗塞状態の分析結果図である。
【
図6B】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓梗塞状態の分析結果図である。
【
図6C】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓梗塞状態の分析結果図である。
【
図7A】異なる投与形態で脂肪間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓梗塞状態の分析結果図である。
【
図7B】異なる投与形態で脂肪間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓梗塞状態の分析結果図である。
【
図8A】異なる投与形態で骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓梗塞状態の分析結果図である。
【
図8B】異なる投与形態で骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓梗塞状態の分析結果図である。
【
図9A】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞又は骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓炎症状態の分析結果図である。
【
図9B】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞又は骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓炎症状態の分析結果図である。
【
図9C】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞又は骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓炎症状態の分析結果図である。
【
図9D】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞又は骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓炎症状態の分析結果図である。
【
図10A】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞又は骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓線維化状態の分析結果図である。
【
図10B】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞又は骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓線維化状態の分析結果図である。
【
図10C】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞又は骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓線維化状態の分析結果図である。
【
図10D】異なる投与形態で臍帯間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞又は骨髄間葉系幹細胞を投与した後の、急性心筋梗塞ラットの心臓線維化状態の分析結果図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書の開示内容は、動脈注射及び静脈注射の組み合わせで、組織が虚血状態にある被験体に治療用細胞を含む医薬組成物を投与する新たな治療用細胞のインプラントポリシーを提案する。
【0019】
更に、前記治療用細胞は、虚血状態を有する組織を再構成及び修復し、組織の虚血状態による機能性損傷を改善し、又は組織の虚血状態を治療できる細胞であり、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、成体幹細胞又は体細胞であってよい。例えば、間葉系幹細胞であってよく、好ましくは、臍帯間葉系幹細胞、骨髄間葉系幹細胞又は脂肪間葉系幹細胞であってよい。前記医薬組成物は、その投与形態として、その第1剤を動脈注射で投与してから、その第2剤を静脈注射で投与してよい。虚血の組織が脳である場合、前記医薬組成物の第1剤は少なくとも1×105個の治療用細胞を含み、前記医薬組成物の第2剤は少なくとも1×106個の治療用細胞を含む。虚血の組織が心臓である場合、前記医薬組成物の第1剤は少なくとも0.5×106個の治療用細胞を含み、前記医薬組成物の第2剤は少なくとも1×106個の治療用細胞を含む。好ましくは、前記医薬組成物の第1剤は、組織の虚血状態発症後24時間に投与されてよい。前記医薬組成物の第1剤と前記医薬組成物の第2剤とは、投与する時間間隔が2~4時間であってよい。
【0020】
本発明の提案する新たな治療用細胞のインプラントポリシーについて、それが安全なポリシーであることは、脳卒中ラットと急性心筋梗塞ラットの動物実験によって証明できる。且つ治療用細胞を含む医薬組成物を動脈注射又は静脈注射で単独投与する群と比べて、治療用細胞を含む医薬組成物を動脈注射及び静脈注射の組み合わせで投与する方が、相乗効果を有し、虚血後の心臓機能と脳虚血後の神経機能をより有意に改善することができるので、組織の虚血状態の治療に用いることができ、組織は脳又は心臓であってよい。組織が脳である場合、虚血状態は、虚血性脳卒中であってよい。組織が心臓である場合、虚血状態は、心筋梗塞であってよい。
【0021】
特に説明しない限り、本発明で使用される全ての専門用語、符号又は他の科学名詞又は用語は、本発明の当業者に熟知される意味を有する。ある場合、従来の意味を有する用語は、本発明において明確及び/又は即時的な参照目的を達成するように定義され、且つ本発明に含まれるこれらの定義は必ずしも当該分野における従来の意味と実質的に異なるわけではないと解釈されるべきである。本発明で説明され、又は引用される多くの技術及びプログラムは、何れも大衆に公知され且つ当業者が通常の方法で使用するものである。適切な場合に、特に説明しない限り、市販キット及び試薬の使用プログラムは、一般的に、製造者に定義される使用説明及び/又はパラメータに基づいて行われる。
【0022】
本明細書に記載の「治療」とは、本発明の医薬組成物を必要のある被験体、例えば、虚血性心疾患や虚血性脳卒中の被験体に投与することをいう。
【0023】
本明細書に記載の「改善」とは、疾患又はその症状の進行や進展を減少、抑制、弱化、低減、停止又は安定化することをいう。
【0024】
本明細書に記載の「動脈注射(Intra-arterialinjection;IA)」は、血液、薬液、栄養液、細胞液等の液体物質を動脈に直接注射する投与形態である。
【0025】
本明細書に記載の「静脈注射(Intra-venous injection;IV)」は、血液、薬液、栄養液、細胞液等の液体物質を静脈に直接注射する投与形態である。
【0026】
以下の具体的な実験例で本発明を更に例示的に説明する。当業者が過度の解読を必要としない状況で本発明を完全に利用し且つ実践することができることに用いられ、これらの実験例は、本発明の範囲を限定するものと見なすべきではないが、本発明の材料及び方法を如何に実施するかを説明することに用いられる。
【0027】
(実験例)
【0028】
実験例では、本発明の提案する治療用細胞のインプラントポリシーにより、治療用細胞を含む医薬組成物を組織の虚血状態の治療に用いた効果を検討する。実験例で使用される治療用細胞は、臍帯間葉系幹細胞(umbilical cord mesenchymal stem cell、以下はUMSCと略称)、脂肪間葉系幹細胞(adipose mesenchymal stem cell、以下はADSCと略称)及び骨髄間葉系幹細胞(bone marrow mesenchymal stem cell、以下はBMSCと略称)である。何れもアメリカ・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection、ATCC)から購入され、そのATCC番号はそれぞれUMSC(ATCC PCS 500-010)、ADSC(ATCC PCS 500-011)及びBMSC(ATCC PCS 500-012)である。実験は、治療用細胞を含む医薬組成物を動脈注射(IA)又は静脈注射(IV)で単独投与する群と、治療用細胞を含む医薬組成物を動脈注射及び静脈注射の組み合わせ(IA-IV)で投与する群とを含む。そのため、下記の実験例の群は、UMSCを含む医薬組成物を動脈注射で単独投与する(以下、IA-UMSCと略称)群、UMSCを含む医薬組成物を静脈注射で単独投与する(以下、IV-UMSCと略称)群、UMSCを含む医薬組成物を動脈注射及び静脈注射の組み合わせで投与する(以下、IA-IV-UMSCと略称)群、ADSCを含む医薬組成物を動脈注射で単独投与する(以下、IA-ADSCと略称)群、ADSCを含む医薬組成物を静脈注射で単独投与する(以下、IV-ADSCと略称)群、ADSCを含む医薬組成物を動脈注射及び静脈注射の組み合わせで投与する(以下、IA-IV-ADSCと略称)群、BMSCを含む医薬組成物を動脈注射で単独投与する(以下、IA-BMSCと略称)群、BMSCを含む医薬組成物を静脈注射で単独投与する(以下、IV-BMSCと略称)群、及びBMSCを含む医薬組成物を動脈注射及び静脈注射の組み合わせで投与する(以下、IA-IV-BMSCと略称)群を含む。
【0029】
一、脳の虚血状態の治療への適用
【0030】
本実験例では、脳卒中ラットモデルを用い、本発明の提案する治療用細胞のインプラントポリシーが脳卒中ラットの脳梗塞体積を減少できるかを評価し、且つ3種類の神経機能欠損モードによって脳卒中前後のラットの神経行動を検出し、神経機能が回復するかを評価した。
【0031】
脳卒中ラットモデルとして、脳虚血/再灌流モデル(ischemia-reperfusion model)を用いて、3つの血管を結紮することでラットにおける一時的な局所脳虚血の症状をシミュレートする。使用される実験動物は体重250~300グラムの雄性SD(Sprague-Dawley)のラットであった。全ての外科手術、動物実験及び方法は、何れも「実験動物介護及び使用指南」に従って行い、且つ中国医薬大学の動物・臨床研究機構委員会によって承認されるものであった。ラットの脳虚血/再灌流モデルを確立する時、まず腹腔内に0.4g/kgの抱水クロラールを注射してラットを麻酔してから、非創傷性動脈クランプでラットの両側頸動脈(common carotid arteries;CCA)をクランプし、10-0ナイロン糸で右中大脳動脈(middle cerebral artery;MCA)を結紮し、局所的な脳虚血を誘発した。90分間虚血した後、MCAの縫合糸及びCCA上の動脈クランプを除去して再灌流を行った。ラットの核体温をサーミスタプローブでモニターし、麻酔中には加熱パッドで37℃に保持されていた。麻酔から回復した後は、加熱ランプでラットの体温を37℃に維持した。
【0032】
脳卒中ラットモデルの確立が完了した後、脳卒中ラットには、異なる投与形態でUMSC、ADSC又はBMSCを含む医薬組成物を投与し、実験では、対照群として、リン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline;PBS)のみを投与する群を更に含んでいた。動脈注射で単独投与する群(IA-UMSC、IA-ADSC又はIA-BMSC)では、脳卒中後24時間に、まず腹腔内に0.4g/kgの抱水クロラールを注射して脳卒中ラットを麻酔して、脳卒中ラットに同側の頸動脈を露出させ、6-0縫糸で頸外動脈を結紮し、甲状腺及びフランジ動脈を凝固させ、流動停止技術で30-G血管カテーテルを用い、300μLのPBSに懸濁したUMSC、ADSC又はBMSC(細胞量は1×105個である)を頸内動脈に注射し、且つ細胞注射中に血管カテーテルによって近端の血流を3分間遮断した。静脈注射のみで投与する群(IV-UMSC、IV-ADSC又はIV-BMSC)では、脳卒中後2時間に、まず腹腔内に0.4g/kgの抱水クロラールを注射して脳卒中ラットを麻酔し、1mLのPBSに懸濁したUMSC、ADSC又はBMSC(細胞量は1×106個)を27-G血管カテーテルで大腿静脈に注射した。動脈注射及び静脈注射の組み合わせで投与する群(IA-IV-UMSC、IA-IV-ADSC又はIA-IV-BMSC)では、脳卒中から24時間後に300μLのPBSに懸濁したUMSC、ADSC又はBMSC(細胞量1×105個)を頚内動脈に注射し、次いで脳卒中から26時間後に1mLのPBSに懸濁したUMSC、ADSC又はBMSC(細胞量は1×106個である)を大腿静脈に注射した。間葉系幹細胞の免疫抑制特性により、実験されたラットは、何れの免疫抑制薬物の治療を受けなかった。
【0033】
1.1 脳卒中ラットの脳梗塞体積の減少
【0034】
本実験例では、本発明の提案する治療用細胞のインプラントポリシーが脳卒中ラットの脳梗塞体積を減少することができるかについて更に検討した。実験において、UMSC、ADSC又はBMSCをインプラントして3日後の脳卒中ラットを犠牲にし、脳組織をトリフェニルテトラゾリウム塩化物(triphenyltetrazolium chloride;TTC)で染色し、トリフェニルテトラゾリウム塩化物で染色した後、非梗塞領域が赤レンガ色となり、梗塞領域が黄白色となった。脳卒中ラット脳内の梗塞領域の大きさを観察して、UMSC、ADSC又はBMSCをインプラントして脳卒中ラットを虚血による損傷から保護することができるかを確定することができる。
【0035】
図1~
図2Fを参照する。
図1、
図2A及び
図2Bは、対照群、IA-UMSC、IV-UMSC及びIA-IV-UMSCの脳卒中ラットにおける脳梗塞状態の分析結果図である。
図2C及び
図2Dは、対照群、IA-ADSC、IV-ADSC及びIA-IV-ADSCの脳卒中ラットにおける脳梗塞状態の分析結果図である。
図2E及び
図2Fは、対照群、IA-BMSC、IV-BMSC及びIA-IV-BMSCの脳卒中ラットにおける脳梗塞状態の分析結果図である。データは平均値±SEMであり、*はp<0.
05を表し、**はp<0.01を表す。
【0036】
図1の結果によると、IA-IV-UMSCの脳卒中ラットは脳虚血から3日後に軽度の梗塞が見られた。また、
図2A及び
図2Bの梗塞体積定量測定の分析結果に示すように、IA-IV-UMSCはIV-UMSC、IA-UMSC及び対照群と比較すると、梗塞体積が有意に減少した。最大梗塞切片面積の結果は梗塞体積変化の結果と一致し、IA-IV-UMSCの最大梗塞切片面積はIV-UMSC、IA-UMSC及び対照群より小さかった。また、
図2C及び
図2Dの結果に示すように、IA-IV-ADSCはIV-ADSC、IA-ADSC及び対照群と比較すると、梗塞体積が有意に減少し、IA-IV-ADSCの最大梗塞切片面積もIV-ADSC、IA-ADSC及び対照群より小さかった。
図2E及び
図2Fの結果に示すように、IA-IV-BMSCはIV-BMSC、IA-BMSC及び対照群と比較すると、梗塞体積が有意に減少し、IA-IV-BMSCの最大梗塞切片面積もIV-BMSC、IA-BMSC及び対照群より小さかった。上記結果によると、本発明の提案する治療用細胞のインプランテーションポリシーは、脳卒中ラットの脳梗塞体積を有意に減少することができることが見られた。
【0037】
1.2 脳卒中ラットの神経行動の改善
【0038】
神経行動の検出時点は、脳虚血/再灌流前5日間、細胞インプラント後1日目、7日目、14日目及び28日目であった。3種類の神経機能欠損モードは、それぞれ、ラット身体の非対称性及び活動能力を評価するためのものであった。ラット身体の非対称性は、身体揺動実験によって評価され、実験的にまずラットを尻尾の上方の10センチメートルの飼育ケージの底板に宙吊りに配置し、ラットの横方向での移動回数を記録し、特に虚血側の対向側の頭部の揺動頻度は連続20カウントであり、基線スコアで標準化した。ラットの活動能力については、VersaMax動物活動監視システム(Accuscan Instruments)によってラットを2時間検出した。VersaMax動物活動監視システムは、16の水平赤外線センサ及び8つの上下赤外線センサを含み、上下センサがそれぞれチャンバ底板の上方10センチメートルに位置し、ラットの活動能力の移動をチャンバ内のラットの移動によるビーム切断回数によって定量した。測定された3つの上下移動パラメータは、上下移動、上下移動時間及び上下移動数であった。
【0039】
図3A~
図5Cを参照する。
図3A、
図3B及び
図3Cは、対照群、IA-UMSC、IV-UMSC及びIA-IV-UMSCの脳卒中ラットにおける神経行動改善の分析結果図である。
図4A、
図4B及び
図4Cは、対照群、IA-ADSC、IV-ADSC及びIA-IV-ADSCの脳卒中ラットにおける神経行動改善の分析結果図である。
図5A、
図5B及び
図5Cは、対照群、IA-BMSC、IV-BMSC及びIA-IV-BMSCの脳卒中ラットにおける神経行動改善の分析結果図である。データは平均値±SEMであり、**はp<0.01を表す。
【0040】
図3A、
図3B及び
図3Cの結果によると、身体の非対称性又は活動能力の検出に関わらず、IA-IV-UMSCのインプラントモードでは、脳卒中ラットの神経行動を有意に改善する。IA-IV-UMSCはIA-UMSC、IV-UMSC及び対照群に比べて身体の非対称性検出においてより良好な回復が観察され、活動能力についてもIA-UMSC、IV-UMSC群及び対照群と比較すると、IA-IV-UMSCの脳卒中ラットに神経機能欠損の有意な改善が観察され、IA-IV-UMSCのインプラントモードではUMSCに優れた神経再生可能性を持たせることが判明した。
【0041】
図4A、
図4B及び
図4Cの結果によると、IA-IV-ADSCは、IA-ADSC、IV-ADSC及び対照群に比べて、身体の非対称性検出においてより良好な回復が観察された。活動能力についてもIA-ADSC、IV-ADSC群及び対照群と比較すると、IA-IV-ADSCの脳卒中ラットに神経機能欠損の有意な改善も観察され、IA-IV-ADSCのインプラントモードが脳卒中ラットの神経行動を有意に改善することができることが判明した。
図5A、
図5B及び
図5Cの結果によると、IA-IV-BMSCはIA-BMSC、IV-BMSC及び対照群に比べて身体の非対称性検出においてより良好な回復が観察され、活動能力についてもIA-BMSC、IV-BMSC群及び対照群と比較すると、IA-IV-BMSCの脳卒中ラットに神経機能欠損の有意な改善も観察され、IA-IV-BMSCのインプラントモードでは脳卒中ラットの神経行動を有意に改善することができることが判明した。
【0042】
二、心臓の虚血状態の治療への適用
【0043】
本実験例では、急性心筋梗塞(acute myocardial infraction;AMI)のラットモデルを用い、本発明の提案する治療用細胞のインプラントポリシーが心筋梗塞後の心筋機能回復を改善するかを評価した。
【0044】
AMIラットモデルでは、ラットの左前下行(left anterior descending;LAD)冠状動脈を閉塞することで、ラットの一時的な心臓虚血の症状をシミュレートした。本実験で使用した実験動物は、体重250~300グラムの雄SDラットであり、実験的には、まず、ラットを2%のイソフラン(酸素100%中)で麻酔し、全麻後に手術台に仰臥させ、口腔内に呼吸器(SN-480-7)を挿入し、1mL/100gの水分量及び80回/分の呼吸数で人工的に通気した。更に、肋骨リトラクタ(MY-9454S)を用いて、胸骨左縁第4、5の脇の隙間に沿って縦方向に切開し、左肺に生理食塩水を浸したガーゼでエアー抜きした。心嚢を切り、続いて6-0-ポリエチレン縫合針(Ethicon)を用いて左前下行冠状動脈を閉塞し、目視により閉塞領域が白くなり、心電
図T波が高くなり、胸部を縫合する前に肺を再膨張させ、AMIラットモデルを完成した。
【0045】
AMIラットモデルの確立が完了した後、AMIラットは異なる投与形態でUMSC、ADSC又はBMSCを含む医薬組成物を投与され、実験では、対照群として、PBSのみを投与する群を更に含んだ。動脈注射で単独投与する群(IA-UMSC、IA-ADSC又はIA-BMSC)では、AMIから24時間後に、まず腹腔内に0.4g/kgの抱水クロラールを注射してAMIラットを麻酔し、AMIラットに左側頸動脈を露出させ、6-0縫糸で頸外動脈を結紮し、甲状腺及びフランジ動脈を凝固させ、流動停止技術で30-G血管カテーテルを用い、500μLのPBSに懸濁したUMSC、ADSC又はBMSC(細胞量は0.5×106個である)を頸内動脈に注射し、且つ細胞注射中に血管カテーテルによって近端の血流を3分間遮断した。静脈注射で単独投与する群(IV-UMSC、IV-ADSC又はIV-BMSC)では、AMIから2時間後に、まず腹腔内に0.4g/kgの抱水クロラールを注射してAMIラットを麻酔し、1mLのPBSに懸濁したUMSC、ADSC又はBMSC(細胞量は1×106個である)を27-G血管カテーテルで大腿静脈に注射した。動脈注射及び静脈注射の組み合わせで投与する群(IA-IV-UMSC、IA-IV-ADSC又はIA-IV-BMSC)では、AMIから24時間後に500μLのPBSに懸濁したUMSC、ADSC又はBMSC(細胞量は0.5×106個である)を頚内動脈に注射し、次いでAMIから26時間後に1mLのPBSに懸濁したUMSC、ADSC又はBMSC(細胞量が1×106個である)を大腿静脈に注射した。
【0046】
2.1 AMIラットの心臓梗塞体積の減少
【0047】
本実験例では、本発明の提案する治療用細胞のインプラントポリシーがAMIラットの心臓梗塞体積を減少することができるかについて更に検討した。実験においてUMSC、ADSC又はBMSCをインプラントしてから28日後のAMIラットを犠牲にし、心臓組織切片をトリフェニルテトラゾリウム塩化物溶液に浸漬し、更にデヒドロラーゼ(dehydrogenase)を浸漬し、壊死領域は赤青となり、梗塞しない領域は赤レンガ色となることが発見された。且つ、ImageJソフトウェア(NIH)によって長軸に沿って異なるレベル(左心室の頂点、中段及び底部)の染色切片を分析して、梗塞面積及び梗塞血管壁の厚さを算出した。
【0048】
図6A~
図8Bを参照する。
図6A、
図6B及び
図6Cは、対照群、IA-UMSC、IV-UMSC及びIA-IV-UMSCのAMIラットにおける心臓梗塞状態の分析結果図である。
図7A及び
図7Bは、対照群、IA-ADSC、IV-ADSC及びIA-IV-ADSCのAMIラットにおける心臓梗塞状態の分析結果図である。
図8A及び
図8Bは、対照群、IA-BMSC、IV-BMSC及びIA-IV-BMSCのAMIラットにおける心臓梗塞状態の分析結果図である。データは平均値±SEMであり、*はp<0.
05を表し、**はp<0.01を表す。
【0049】
図6Aの結果によると、IA-IV-UMSCのAMIラットは、AMIから28日後に、軽度の梗塞が見られた。また、
図6B及び
図6Cの梗塞体積定量測定の分析結果に示すように、IA-IV-UMSCはIV-UMSC、IA-UMSC及び対照群と比較すると、梗塞体積が有意に減少し、梗塞血管壁の厚さの結果が梗塞体積変化の結果と一致し、IA-IV-UMSCはIV-UMSC、IA-UMSC及び対照群と比較すると、梗塞血管壁の厚さが増加した。
図7A及び
図7Bの結果に示すように、IA-IV-ADSCはIV-ADSC、IA-ADSC及び対照群と比較すると、梗塞体積が有意に減少し、IA-IV-ADSCの梗塞血管壁の厚さもIV-ADSC、IA-ADSC及び対照群より大きかった。
図8A及び
図8Bの結果に示すように、IA-IV-BMSCはIV-BMSC、IA-BMSC及び対照群と比較すると、梗塞体積が有意に減少し、IA-IV-BMSCの梗塞血管壁の厚さもIV-BMSC、IA-BMSC及び対照群より大きかった。上記結果から、本発明の提案する治療用細胞のインプラントポリシーでは、治療用細胞が心臓虚血性損傷を救う方面で重要な役割を果たすことができることが判明した。
【0050】
2.2 虚血心臓組織の抗炎症への影響
【0051】
本実験例では、本発明の提案する治療用細胞のインプラントポリシーが心筋梗塞後の炎症反応を抑制することができるかについて更に検討した。実験的にUMSC、ADSC又はBMSCをインプラントしてから3日後のAMIラットを犠牲にし、心臓組織切片に対してH&E染色法を行って炎症の程度を検出し、且つ光学顕微鏡(Nikon、E600)で分析した。心臓組織炎症の状態をグレード0~5に分け、グレード0は無炎症を示し、グレード1は5%以下の心臓切片に炎症が見られることを示し、グレード2は6%から10%の心臓切片に炎症が見られることを示し、グレード3は11%から30%の心臓切片に炎症が見られることを示し、グレード4は31%から50%の心臓切片に炎症が見られることを示し、グレード5は50%より大きい心臓切片に炎症が見られることを示した。且つ異なる群で撮影した結果を、上記基準に基づいて分類及び統計した。
【0052】
異なる投与形態でUMSC、ADSC又はBMSCを投与した後のAMIラットにおける心臓炎症状態の分析結果図である
図9A、
図9B、
図9C及び
図9Dを参照する。
図9BはIA-UMSC、IV-UMSC及びIA-IV-UMSC群の分析結果であり、
図9CはIA-ADSC、IV-ADSC及びIA-IV-ADSC群の分析結果であり、
図9DはIA-BMSC、IV-BMSC及びIA-IV-BMSC群の分析結果である。データは平均値±SEMであり、*はp<0.
05を表し、**はp<0.01を表す。
【0053】
図9A及び
図9Bの結果によると、IA-IV-UMSCはIV-UMSC、IA-UMSC及び対照群と比較すると、観察された炎症が有意に減少した。また、
図9Cの結果に示すように、IA-IV-ADSCはIV-ADSC、IA-ADSC及び対照群と比較すると、観察された炎症も有意に減少した。
図9Dの結果に示すように、IA-IV-BMSCはIV-BMSC、IA-BMSC及び対照群と比較すると、観察された炎症も有意に減少した。上記結果から分かるように、本発明の提案する治療用細胞のインプラントポリシーは、心筋梗塞後の炎症反応に対する治療用細胞の抑制効果を向上させることができる。
【0054】
2.3 心筋梗塞による線維化の低減
【0055】
心臓の筋線維は、一般的な筋線維と異なり、長時間に動作して体の各部分に血液を巡らせることができる。心筋梗塞時に、心筋は、不可逆的な壊死を生じ、且つ壊死の部分が繊維組織で代替され、数週間後に線維化される。本実験例では、本発明の提案する治療用細胞のインプラントポリシーが心筋梗塞による線維化を低減することができるかについて更に検討した。実験的にUMSC、ADSC又はBMSCをインプラントしてから28日後のAMIラットを犠牲にし、心臓組織切片をマッソントリクローム染色(Masson's trichrome staining)でラットの心臓組織線維化の状態を観察し、コラーゲン線維は青色となり、筋肉線維は赤色となり、且つ光学顕微鏡(Nikon、E600)で分析した。心臓組織線維化の状態をグレード0~5に分け、グレード0は線維化がないことを示し、グレード1は5%以下の心臓切片が線維化していることを示し、グレード2は6%から10%の心臓切片が線維化していることを示し、グレード3は11%から30%の心臓切片が線維化していることを示し、グレード4は31%から50%の心臓切片が線維化していることを示し、グレード5は50%より大きい心臓切片が線維化していることを示す。且つ異なる群で撮影した結果を、上記基準に基づいて分類及び統計した。
【0056】
異なる投与形態でUMSC、ADSC又はBMSCを投与した後のAMIラットにおける心臓線維化状態の分析結果図である
図10A、
図10B、
図10C及び
図10Dを参照する。
図10BはIA-UMSC、IV-UMSC及びIA-IV-UMSC群の分析結果であり、
図10CはIA-ADSC、IV-ADSC及びIA-IV-ADSC群の分析結果であり、
図10DはIA-BMSC、IV-BMSC及びIA-IV-BMSC群の分析結果である。データは平均値±SEMであり、*はp<0.
05を表し、**はp<0.01を表す。
【0057】
図10A及び
図10Bの結果によると、IA-IV-UMSCはIV-UMSC、IA-UMSC及び対照群と比較すると、観察された線維化が有意に減少した。また、
図10Cの結果に示すように、IA-IV-ADSCはIV-ADSC、IA-ADSC及び対照群と比較すると、観察された線維化も有意に減少した。また、
図10Dの結果に示すように、IA-IV-BMSCはIV-BMSC、IA-BMSC及び対照群と比較すると、観察された線維化も有意に減少した。上記結果から分かるように、本発明の提案する治療用細胞のインプラントポリシーは、心筋梗塞後の線維化に対する治療用細胞の減少効果を向上させることができる。
【0058】
以上説明したように、本発明の提案する新たなインプラントポリシーは、組織の虚血状態を有する被験体に治療用細胞を含む医薬組成物を投与し、動脈注射で前記医薬組成物の第1剤を投与し、更に静脈注射で前記医薬組成物の第2剤を投与し、治療用細胞のインプラント後の生存状態及び免疫調節能力を保持して、組織の虚血状態及び脾細胞活性化免疫システムの酸欠環境を克服し、且つ治療用細胞に優れた臨床転化を持たせて、組織の虚血状態による機能性損傷を改善することができる。且つ明細書のデータによると、本発明の提案する治療用細胞のインプラントポリシーは、安全で効果的であるだけでなく、且つ治療用細胞が脳虚血性損傷及び心臓虚血性損傷を救う方面で重要な役割を果たすようにする。
【0059】
本発明を実施形態で以上のように開示するが、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、様々な変更及び修飾を行うことができ、従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって定義されたものを基準とすべきである。