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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】塗膜切込み装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20241021BHJP
   B26D 3/08 20060101ALI20241021BHJP
   B26D 7/01 20060101ALI20241021BHJP
   B26D 7/26 20060101ALI20241021BHJP
   B26D 5/00 20060101ALI20241021BHJP
   G01N 19/04 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
G01N17/00
B26D3/08 Z
B26D7/01 A
B26D7/26
B26D5/00 Z
G01N19/04 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023123030
(22)【出願日】2023-07-28
【審査請求日】2024-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】519454925
【氏名又は名称】オールグッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085316
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100171572
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100213425
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 正憲
(74)【代理人】
【識別番号】100221707
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100099977
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 章吾
(74)【代理人】
【識別番号】100104259
【弁理士】
【氏名又は名称】寒川 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100229116
【弁理士】
【氏名又は名称】日笠 竜斗
(72)【発明者】
【氏名】前田 浩伸
(72)【発明者】
【氏名】森川 元明
【審査官】寺田 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-86494(JP,A)
【文献】特開2021-99224(JP,A)
【文献】特開2009-58347(JP,A)
【文献】特開2010-207995(JP,A)
【文献】特開平6-335893(JP,A)
【文献】特開昭63-238448(JP,A)
【文献】特開平2-307039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00-17/04
B26D 3/08
B26D 7/01
B26D 7/26
B26D 5/00
G01N 19/00ー19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に塗膜が形成された試験片に対して所定の切込み処理またはひっかき処理を行う装置であって、
前記試験片を保持する試験片ホルダと、
前記試験片ホルダに保持された試験片に対して所定の切込み処理またはひっかき処理を行うツールを備えたツールユニットとを有してなり、
前記試験片ホルダは、装置基台上において、X軸方向、Y軸方向およびθ軸方向に移動可能に備えられ、
前記ツールユニットは、前記装置基台上において、Z軸方向に移動可能に備えられた第1ステージにロードセルを介して吊り下げられた第2ステージに着脱可能に装着されている
ことを特徴とする塗膜切込み装置。
【請求項2】
前記装置基台は、前記試験片ホルダをX軸方向に駆動するX軸駆動機構と、前記試験片ホルダをY軸方向に駆動するY軸駆動機構と、前記試験片ホルダをθ軸周りに回転駆動するθ軸駆動機構と、前記第1ステージをZ軸方向に駆動するZ軸駆動機構と、これら各駆動機構を駆動制御する制御手段とを備えている
ことを特徴とする請求項1に記載の塗膜切込み装置。
【請求項3】
前記ツールユニットは、前記試験片に対して所定の切込み処理を行うためのカッターナイフの刃を保持するカッターユニットで構成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗膜切込み装置。
【請求項4】
前記カッターユニットは、前記カッターナイフの刃を着脱可能に保持する刃保持機構と、前記刃保持機構に保持された前記カッターナイフの刃を刃先側に送り出す刃送り機構と、前記刃送り機構の先端側に備えられ、前記刃送り機構によって送り出されたカッターナイフの刃の先端ブロックを折り目に沿って折る刃折り機構とを備えている
ことを特徴とする請求項3に記載の塗膜切込み装置。
【請求項5】
前記刃送り機構は、電動機と、前記電動機と駆動連結されたボールねじと、前記ボールねじのナット部と連結されたスライド部材とを有してなり、このスライド部材に前記カッターナイフの刃に形成された貫通孔と係合する係止部が備えられている
ことを特徴とする請求項4に記載の塗膜切込み装置。
【請求項6】
前記刃折り機構は、前記刃送り機構によって送り出されるカッターナイフの刃の先端ブロックを挟み込んで、前記カッターナイフの刃の送り出しに連動して旋回する刃折りブロックを有する
ことを特徴とする請求項4に記載の塗膜切込み装置。
【請求項7】
前記ツールユニットは、前記試験片に対して所定のひっかき処理を行うための針状工具または鉛筆を保持するひっかきユニットで構成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の塗膜切込み装置。
【請求項8】
前記ひっかきユニットは、前記針状工具または鉛筆を保持する工具保持機構と、前記工具保持機構に荷重を付与する錘を装着する錘装着機構とを有している
ことを特徴とする請求項7に記載の塗膜切込み装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塗膜切込み装置に関し、より詳細には、素地上に塗膜が形成された試験片に対して所定の切込み処理またはひっかき処理を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗膜の機械的性質を評価する試験として様々な試験法が提案されている。たとえば、塗膜の付着性を評価する試験として、付着性クロスカット法(JIS-K5600-5-6)、碁盤目法・碁盤目テープ法・Xカットテープ法(JIS-K5400 8.5.1)などが知られている。また、塗膜の長期耐久性を評価する試験として、サイクル腐食試験方法-塩水噴霧/乾燥/湿潤(JIS-K5600‐7-9)、塩水噴霧試験方法(JIS―Z2371)などが知られている。
【0003】
このような塗膜の機械的性質を評価する試験では、素地上に塗膜が形成された試験片を用いて試験が行われる。試験片の塗膜には、試験の前または試験中に、カッターナイフなどで切込みが入れられる。たとえば、付着性クロスカット法では、試験前の準備として、試験片の塗膜にカッターナイフを用いて手作業で直角の格子パターン(25マス)が切り込まれる(たとえば、特許文献1参照)。また、サイクル腐食試験では、試験前に試験片の塗膜に対してカッターナイフを用いて手作業で塗膜への切込みが行われ、その後塩水の噴霧、乾燥、湿潤の腐食サイクルが繰り返し実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-85725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のやり方には以下のような問題があった。
すなわち、この種の試験では、塗膜へのカッターナイフの切込みの深さや切込み角度、さらには素地への食い込み具合などが試験結果に大きく影響を与えるところ、従来のように切り込み作業を手作業で行っていたのでは、人為的な偏りにより、切込みの再現性、安定性が乏しく、塗膜に均一な切込みを施すことが困難であった。そのため、塗膜の機械的性質を評価する試験の結果が、人為的な偏りによってバラついてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、再現性、安定性の高い均一な切込みを塗膜に施すことができる塗膜切込み装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る塗膜切込み装置は、表面に塗膜が形成された試験片に対して所定の切込み処理またはひっかき処理を行う装置であって、上記試験片を保持する試験片ホルダと、上記試験片ホルダに保持された試験片に対して所定の切込み処理またはひっかき処理を行うツールを備えたツールユニットとを有してなり、上記試験片ホルダは、装置基台上において、X軸方向、Y軸方向およびθ軸方向に移動可能に備えられ、上記ツールユニットは、上記装置基台上において、Z軸方向に移動可能に備えられた第1ステージにロードセルを介して吊り下げられた第2ステージに着脱可能に装着されていることを特徴とする。
【0008】
そして、本発明はその好適な実施態様として、以下の特徴を備えている。
(1)上記装置基台は、上記試験片ホルダをX軸方向に駆動するX軸駆動機構と、上記試験片ホルダをY軸方向に駆動するY軸駆動機構と、上記試験片ホルダをθ軸周りに回転駆動するθ軸駆動機構と、上記第1ステージをZ軸方向に駆動するZ軸駆動機構と、これら各駆動機構を駆動制御する制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0009】
(2)上記ツールユニットは、上記試験片に対して所定の切込み処理を行うためのカッターナイフの刃を保持するカッターユニットで構成されていることを特徴とする。
【0010】
(3)上記カッターユニットは、上記カッターナイフの刃を着脱可能に保持する刃保持機構と、上記刃保持機構に保持された上記カッターナイフの刃を刃先側に送り出す刃送り機構と、上記刃送り機構の先端側に備えられ、上記刃送り機構によって送り出されたカッターナイフの刃の先端ブロックを折り目に沿って折る刃折り機構とを備えていることを特徴とする。
【0011】
(4)上記刃送り機構は、電動機と、上記電動機と駆動連結されたボールねじと、上記ボールねじのナット部と連結されたスライド部材とを有してなり、このスライド部材に上記カッターナイフの刃に形成された貫通孔と係合する係止部が備えられていることを特徴とする。
【0012】
(5)上記刃折り機構は、上記刃送り機構によって送り出されるカッターナイフの刃の先端ブロックを挟み込んで、上記カッターナイフの刃の送り出しに連動して旋回する刃折りブロックを有することを特徴とする。
【0013】
(6)上記ツールユニットは、上記試験片に対して所定のひっかき処理を行うための針状工具または鉛筆を保持するひっかきユニットで構成されていることを特徴とする。
【0014】
(7)上記ひっかきユニットは、上記針状工具または鉛筆を保持する工具保持機構と、上記工具保持機構に荷重を付与する錘を装着する錘装着機構とを有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塗膜が形成された試験片を保持する試験片ホルダが、装置基台上でX軸方向、Y軸方向およびθ軸方向に移動可能に構成されるとともに、塗膜に対する切込み処理などを行うツールユニットが、装置基台上でZ軸方向に移動可能に備えられた第1ステージにロードセルを介して吊り下げられた第2ステージに装着されているので、ツールユニットが塗膜に作用する荷重を測定しながら塗膜への切込み処理などを実行することができるので、再現性、安定性が高く均一な切込みなどを塗膜に施すことができる。そのため、本発明に係る塗膜切込み装置を用いることにより、塗膜の機械的性質を評価する試験をバラつきなく正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る塗膜切込み装置の外観構成の一例を示す斜視図である。
図2】同塗膜切込み装置のケーシングを取り外した内部構造を示す斜視図である。
図3】同塗膜切込み装置のケーシングを取り外した内部構造を示す平面図である。
図4】同塗膜切込み装置の駆動機構とその制御部などの機能的構成を示したブロック図である。
図5】同塗膜切込み装置における試験片ホルダの外観構成の一例を示す斜視図である。
図6】同塗膜切込み装置におけカッターユニットの外観構成の一例を示す斜視図である。
図7】同塗膜切込み装置のカッターユニットにおけるカッターナイフの刃の装着構造の一例を示す分解斜視図である。
図8】同塗膜切込み装置のカッターユニットにおけるカッターナイフの刃の保持状態を示しており、図8(a)は、同カッターユニット先端部を上方から見た斜視図を、図8(b)は同カッターユニット先端部の平面図を、図8(c)は同カッターユニット先端部を下方から見た斜視図を、それぞれ示している。
図9】同塗膜切込み装置のカッターユニットにおけるカッターナイフの刃を折る刃折り状態を示しており、図9(a)は、同カッターユニット先端部を上方から見た斜視図を、図9(b)は同カッターユニット先端部の平面図を、図9(c)は同カッターユニット先端部を下方から見た斜視図を、それぞれ示している。
図10】同塗膜切込み装置の鉛筆硬度試験ユニットの外観構成の一例を示しており、図10(a)は同鉛筆硬度試験ユニットの錘を取り除いた状態を、図10(b)は同鉛筆硬度試験ユニットに錘を搭載した状態を、それぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る塗膜切込み装置の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
実施形態1
図1は、本発明に係る塗膜切込み装置1の外観構成の一例を示しており、図2および図3は、同塗膜切込み装置1のケーシング4を取り除いた内部構造を示している。また、図4は、同塗膜切込み装置1の各種駆動機構とその制御部などを示したブロック図を示している。
【0019】
塗膜切込み装置1は、表面に塗膜が形成された試験片TPに対して所定の切込み処理またはひっかき処理を行うための装置であって、試験片TPを保持する試験片ホルダ2と、試験片TPに対して所定の切込み処理を行うツール(カッターナイフの刃)を保持するカッターユニット3とを主要部として備えている。
【0020】
ここで、試験片TPは、金属または樹脂などで構成された素地の上に機械的性質の評価が行われる塗膜を形成してなる板状またはフィルム状の試料である。本実施形態では、たとえば、素地が金属板で構成された試験片TPが用いられる。
【0021】
塗膜切込み装置1は、図1に示すように、ケーシング4に収容されている。ケーシング4は、試験片ホルダ2とカッターユニット3を除く、装置のほぼ全体を覆う本体ケーシング4aと、本体ケーシング4aにヒンジ5を介して開閉可能に取り付けられた開閉蓋4bとで構成されており、開閉蓋4bを閉じることによって、試験片ホルダ2およびカッターユニット3を閉じた空間内に収容できるようになっている。そのため、試験片TPに対して切込み処理を行ときなどは、開閉蓋4bを閉じることで、塗膜の切断片などが装置外部に飛散するのを防止することができる。なお、図中の4cは、開閉蓋4bに備えられた透明窓を示しており、この透明窓4cを通じて切込み処理の状況などを装置外部から視認できるようになっている。
【0022】
試験片ホルダ2は、試験片TPを固定的に保持するためのホルダであって、図5に示すように、上下方向(Z軸方向)に昇降可能に構成された昇降ステージ6と、昇降ステージ6と協働して試験片TPを挟み込んで保持する押えフレーム7とを主要部として構成されている。
【0023】
具体的には、試験ホルダ2は、ベース板8と、ベース板8に立設される支柱9と、支柱9上に配置される押えフレーム7と、押えフレーム7の下方に配置される昇降ステージ6と、昇降ステージ6の昇降機構10とを備えている。ベース板8は略矩形状を呈する板状の部材で構成されており、その四隅に支柱9,9,…が立設されている。押えフレーム7は、試験片TPが載置された昇降ステージ6が上昇したときに、試験片TPの外周縁と当接して、試験片TPを昇降ステージ6との間に挟み込んで保持する部材であって、中央部が開口した枠体で構成されおり、その四隅が支柱9上に取り付けられている。なお、押えフレーム7において、昇降ステージ6と対面する面(下面)には、図示しない弾性体(たとえば、ゴム板)が配置される。これにより、試験片TPの位置ずれが弾性体との摩擦によって防止される。また、この種の試験片TPでは、試験片TPの端部をシールするために試験片TPの外周縁については塗膜を構成する塗料などを多めに塗布することがあり、そのため試験片TPの外周縁が塗膜が膨らんでいることがある。しかし、このように外周縁が膨らんだ試験片TPであっても押えフレーム7に弾性体を配置しておくことで、確実に保持することができるようになる。
【0024】
昇降ステージ6は、4本の支柱9,9,…の内側に配置される略矩形状を呈する板状部材で構成される。昇降機構10は、昇降ステージ6の下面に作用するカム(図示せず)と、このカムの回転軸に連結された昇降ノブ11と、昇降ステージ6の昇降移動を案内するリニアシャフト12およびリニアブッシュ13とを有しており、昇降ノブ11の回転に伴って、リニアブッシュ13に取り付けられた昇降ステージ6が上下に昇降移動するようになっている。なお、図中の14は昇降ノブ11の回転を制止する回転ストッパである。この回転ストッパ14により昇降ステージ6を所望の高さ位置に制止できるようになっている。また、図中の15は試験片TPを昇降ステージ6上にセットするときの位置決めに使用する突き当て板である。また、図5に示す昇降ステージ6は、当該ステージの外周部に中央より低い溝が形成されている。この溝は、上述した外周縁が膨らんだ試験片TPの膨らんだ外周縁を収容するための溝であって、この溝に外周縁を収容することで、昇降ステージ6上に試験片TPを安定して載置することができる。
【0025】
このように構成された試験片ホルダ2は、使用にあたり、まず、昇降ステージ6を試験片TPのセット位置まで下げ、その位置で昇降ステージ6上に試験片TPを載置する。載置が完了すると、次に、昇降ノブ11を操作して昇降ステージ6を上昇させる。昇降ステージ6を上昇させることで、昇降ステージ6と押えフレーム7との間に試験片TPを挟み込まれ、昇降ステージ6と押えフレーム7との間に試験片TPが保持される。試験片TPの保持が完了すると、最後に回転ストッパ14を操作して昇降ノブ11の回転を制止する。これにより、試験片TPが試験片ホルダ2に保持された状態で固定される。
【0026】
本発明に係る塗膜切込み装置1では、このような構成を有する試験片ホルダ2は、塗膜切込み装置1の装置基台20上において、X軸方向(左右方向)、Y軸方向(前後方向)およびθ軸方向(周方向)に移動可能に備えられている。
【0027】
ここで、塗膜切込み装置1の装置基台20について簡単に説明する。
本実施形態に示す塗膜切込み装置1では、装置基台20は、最下層に表示部90や操作部91、図示しない電源部などの電装品を収容する電装品エリア、中間層に試験片ホルダ2とその駆動機構を収容する試験片ホルダエリア、最上層にカッターユニット3とその駆動機構を収容するツールユニットエリアが形成されるように、底板21、中間板22、天井板23を備えた3層構造のフレームで構成されている。
【0028】
試験ホルダ2は中間板22上に配置されており、中間板22には、試験片ホルダ2をY軸方向に移動させるY軸駆動機構25と、試験片ホルダ2をX軸方向に移動させるX軸駆動機構26と、試験片ホルダ2をθ軸周りに回転させるθ軸駆動機構27とが備えられている。
【0029】
Y軸駆動機構25は、中間板22上にY軸方向に配設された一対のY軸レール28と、Y軸レール28上をY軸方向に走行可能に配置されたXYステージ29と、XYステージ29をY軸方向に駆動するY軸モータ30とを備えている。Y軸モータ30は、後述する制御部100と接続されており、制御部100を通じてXYステージ29のY軸方向の位置が制御可能に構成されている。
【0030】
X軸駆動機構26は、XYステージ29上にX軸方向に配設された一対のX軸レール31と、X軸レール31上をX軸方向に走行可能に配置された第1θステージ32と、第1θステージ32をX軸方向に駆動するX軸モータ33とを備えている。X軸モータ33は、後述する制御部100と接続されており、制御部100によって第1θステージ32のX軸方向の位置が制御されるようになっている。また、第1θステージ32の四隅には支柱38が立設されており、この支柱38上に第2θステージ34が配設されている。すなわち、X軸レール31上に配置されるθステージは、第1および第2の2層構造とされている。
【0031】
θ軸駆動機構27は、第2θステージ34上に配設された環状のθ軸レール35と、θ軸レール35上に配置されてθ軸を中心に軸周りに回転可能に配置された試験片ホルダ取付板36と、試験片ホルダ取付板36に連結されたθ軸体(図示せず)を回転駆動するθ軸モータ(図示せず)とを有している。θ軸モータは、後述する制御部100と接続されており、制御部100によって試験片ホルダ取付板36の回転角が制御されるようになっている。なお、θ軸体は、第2θステージ34を貫通して第1θステージ32に配置された電磁ブレーキ37に連結されており、電磁ブレーキ37によってθ軸体の回転を制止できるようになっている。これにより、試験片ホルダ取付板36に取り付けられた試験片ホルダ2の回転を固定することができ、試験片TPへの切込み処理中に試験片ホルダ2の位置ずれが生じることが防止される。
【0032】
そして、このθ軸駆動機構27の試験片ホルダ取付板36上に試験片ホルダ2のベース板8が取り付けられている。これにより、試験片ホルダ取付板36の回転とともに試験片ホルダ2が回転駆動するようになっている。
【0033】
なお、本実施形態では、試験片ホルダ2をY軸、X軸およびθ軸方向に駆動するY軸駆動機構25、X軸駆動機構26およびθ軸駆動機構27が、上下方向の高さ位置をずらして配置した積層構造を採用していることから、試験片ホルダ2の駆動手段を狭いスペース(平面視において狭いスペース)に配置することができる。そのため、塗膜切込み装置1をコンパクトに構成することできる。
【0034】
一方、カッターユニット3は、試験片ホルダ2に保持された試験片TPに対して、カッターナイフの刃CBを用いて所定の切込み処理を行うためのユニットであって、本実施形態では、図6および図7に示すように、カッターナイフの刃CBを着脱可能に保持する刃保持機構40と、刃保持機構40に保持されたカッターナイフの刃CBを刃先(先端)側に送り出す刃送り機構41と、刃送り機構41の先端側に備えられ、刃送り機構41によって送り出されたカッターナイフの刃CBの先端ブロックCB1を折り目に沿って折り取る刃折り機構42とを主要部として備えている。
【0035】
ここで、カッターユニット3で用いられるカッターナイフの刃CBは、塗膜の機械的性質を評価する試験などに用いられるカッターナイフの刃であって、たとえば、JIS-K5600-5-6において切込み工具に指定されたカッターナイフの刃、ISO2409においてカッティングツールに指定されたカッターナイフの刃、JIS-5400 8.5.1(2)(a)およびJIS-K5400 7.2(2)(e)で指定されたカッターナイフの刃などが用いられる。殊に本実施形態では、カッターナイフの刃CBとして、図7に示すように、刃先側から一定間隔で折り目が形成され、基端側にカッターナイフのスライダーと係合する係合孔(貫通孔)BHが穿設された刃が用いられる。なお、この種のカッターナイフの刃CBは一般的なカッターナイフの替え刃として市販されているので、安価かつ容易に入手することができる。
【0036】
刃保持機構40は、本体フレーム43と刃押えカバー44とを主要部として備えている。本体フレーム43は、図6および図7に示すように、カッターナイフの刃CBを収容する細長いブロック体で構成されており、その一側面にカッターナイフの刃CBを嵌め込む刃嵌合溝45が長手方向に沿って形成されている。刃嵌合溝45の底部には長手方向に延びる細長いスライド貫通孔46が形成されており、このスライド貫通孔46から後述する刃送り機構41のジョイントピン53が露出して配設されている。
【0037】
ジョイントピン53は、カッターナイフの刃CBの係合孔BHと係合するピンであって、カッターナイフの刃CBを刃嵌合溝45に嵌め込む際に、カッターナイフの刃CBの係合孔BHをジョイントピン53に係合させることで、ジョイントピン53がスライド貫通孔46に沿って移動するのに伴ってカッターナイフの刃CBが本体フレーム43の長手方向にスライド移動するようになっている。なお、長手方向にスライド移動するカッターナイフの刃CBは、刃嵌合溝45に篏合することによって上下方向のブレが抑えられるようになっている。
【0038】
刃押えカバー44は、刃嵌合溝45内に嵌め込まれたカッターナイフの刃CBを被覆するカバーであって、この刃押えカバー44によって刃嵌合溝45内に収容されたカッターナイフの刃CBの浮き上がりが防止されている。刃押えカバー44にはボルト軸47aを備えたローレットノブ47が備えられており、このローレットノブ47のボルト軸47aを本体フレーム43側のねじ穴49に螺合することによって、刃押えカバー44が本体フレーム43に装着されている。なお、本体フレーム43に収容したカッターナイフの刃CBの交換は、この刃押えカバー44を浮かして行われる。
【0039】
また、本体フレーム43の先端側には、カッターナイフの刃CBの刃先を案内する刃先ガイドブロック48が備えられている。刃先ガイドブロック48は、図8(a)、(b)に示すように、本体フレーム43との間にカッターナイフの刃CBをわずかな隙間(たとえば、0.1mm程度の隙間)を残して挟み込むように配置されており、この刃先ガイドブロック48によってカッターナイフの刃CBの刃先が左右に振れないようにガイドされている。
【0040】
また、本体フレーム43と刃先ガイドブロック48の各先端は、両者の間からカッターナイフの刃CBの刃先BTがわずかに露出する(たとえば、刃先2mm程度が露出する)ように下向きに突出した形状となっている(図8(c)参照)。これにより、カッターナイフの刃CBのうち塗膜への切込みに使用される刃先BT部分のみが外部に露出するようになり、塗膜への切込み処理中に刃先BT以外の部分が折れにくくなるようにしている。なお、本体フレーム43の先端面43aと刃先ガイドブロック48の先端面48aは略面一になるように形成されており、この面と後述する刃折りブロック58の対向面58a(図9(b)参照)とが対面するようになっている。
【0041】
刃送り機構41は、刃保持機構40によって保持されたカッターナイフの刃CBを本体フレーム43の長手方向に沿って前進後退させる(スライド移動させる)機構部であって、ステッピングモータ(電動機)50と、ステッピングモータ50と駆動連結されたボールねじ51と、ボールねじ51のナット部52と連結されたスライド部材(図示せず)とを有しており、このスライド部材にカッターナイフの刃CBの係合孔BHと係合するジョイントピン(係止部)53が備えられている。
【0042】
具体的には、ステッピングモータ50は、伝動ベルト55を介してボールねじ51の一端に駆動連結されている。ボールねじ51は、スライド貫通孔46に沿って本体フレーム43の長手方向に配設されており、ステッピングモータ50の回転に連動してボールねじ51のナット部52がスライド移動するように構成されている。
【0043】
ナット部52には、スライド部材が連結されており、このスライド部材に備えられたジョイントピン53がスライド貫通孔46を通じて本体フレーム43の反対側に露出するように配設されている。これにより、ナット部52のスライド移動に連動してジョイントピン53が本体フレーム43の長手方向にスライド移動するようになっている。
【0044】
ボールねじ51を駆動するステッピングモータ50は、制御部100と接続されており、制御部100によってジョイントピン50の長手方向の位置が制御されるようになっている。つまり、制御部100により、カッターナイフの刃CBの送り出し制御が行われるようになっている。なお、本実施形態では、制御部100による刃CBの送り出し制御は、最小1μm単位で行えるように構成されている。
【0045】
図中の56は、スライド部材の原点位置を検出する原点センサである。原点センサ56は、スライド部材の位置を検知するフォトインタラプタで構成されており、本体フレーム43の基端側の所定位置に配置されている。制御部100は、ステッピングモータ50の電源投入時にスライド部材を原点センサ56で検出される位置まで一旦戻すように構成されており、これによって刃送り制御時の原点が設定されるようになっている。
【0046】
また、図中の57は、カッターナイフの刃CBの刃先を検出する刃先検知センサ57である。刃先検知センサ57は、刃先ガイドブロック48上に配置された光電センサで構成されている。制御部100は、刃先検知センサ57により、刃送り機構41によってスライド移動するカッターナイフの刃CBの刃先位置ならびにカッターナイフの刃CBの有無を検出する。
【0047】
刃折り機構42は、刃送り機構41によって送り出されたカッターナイフの刃CBの先端ブロックCB1を折って取り除く機構部であって、刃送り機構41によって送り出されるカッターナイフの刃CBの先端ブロックCB1を挟み込み、かつ、カッターナイフの刃CBの送り出しに連動して旋回することによって、先端ブロックCB1を折り目に沿って折り取る刃折りブロック58を有している。
【0048】
具体的には、刃折り機構42は、刃折りブロック58と、刃折りブロック58を旋回させる旋回アーム59とを主要部として備えている。
【0049】
刃折りブロック58は、本体フレーム43および刃先ガイドブロック48の各先端面43a,48aと対面する対向面58aを有しており、この対向面58aにカッターナイフの刃CBの先端ブロックCB1を挿入可能なスリット状の刃先導入穴58bが形成されている。この刃先導入穴58bは、刃折りブロック58の対向面58aと本体フレーム43および刃先ガイドブロック48の各先端面43a,48aとが対面状態にあるとき、本体フレーム43に保持されたカッターナイフの刃CBの延長線上に位置するように形成されており、刃送り機構41によって送り出されるカッターナイフの刃CBの刃先(先端ブロックCB1)が刃送りに伴って刃先導入穴58b内に導入されるようになっている。また、刃先導入穴58bの深さは、カッターナイフの刃CBの折り目の幅に応じて設定されており、本実施形態では、折り目1つ分の深さ(先端ブロックCB1の幅寸法)に相当する深さに設定されている(図9(c)参照)。
【0050】
旋回アーム59は、先端に刃折りブロック58が備えられるとともに、基端がリンク機構60を介して本体フレーム43の先端に連結されている。リンク機構60は、本体フレーム43、旋回アーム59およびこれらを連結する一対の連結部材61,61とからなる4節リンク機構を構成しており、リンク機構60の内側には、旋回後の刃折りブロック58を初期位置に復帰させる復帰用ばね62が備えられている(図8(b)参照)。
【0051】
これにより、刃送り機構41によって、カッターナイフの刃CBが本体フレーム43および刃先ガイドブロック48の各先端面43a,48aを超えて前方に送り出されると、先端面43a,48aを超えたカッターナイフの刃CBの刃先が刃折りブロック58の刃先導入穴58bに導入される。そして、カッターナイフの刃CBがさらに送り出されると、今度はカッターナイフの刃CBによって刃折りブロック58が押し出され、それに伴ってリンク機構60を介して本体フレーム43に連結された旋回アーム59が旋回を開始し、これにより旋回アーム59に取り付けられた刃折りブロック58がカッターナイフの刃CBを折り曲げるように傾けられ(曲げ角が発生し)、その結果、カッターナイフの刃CBの先端ブロックCB1が折り取られる(刃折り動作(図9(a),(b)参照))。
【0052】
このとき、刃先導入穴58bはカッターナイフの刃CBの折り目1つ分の深さに設定されているので、図9(c)に示すように、先端ブロックCB1のみが折り取られる。その際、刃先から2番目の折り目は、本体フレーム43と刃先ガイドブロック48とによって挟まれて保護されるので、2番目の折り目の位置でカッターナイフの刃CBが折れることはない。また、刃折り機構42は、刃送り機構41のアクチュエータ(ステッピングモータ50)を利用して刃折り動作を行うので、シンプルな構造で刃折り機構を実現することができ、刃折り機構42を安価に提供できる。
【0053】
なお、先端ブロックCB1の刃折りに必要とされる刃折りブロック58の曲げ角について出願人が実験したところ、先端ブロックCB1を折るためには、少なくとも7°以上の曲げ角が必要であることが判明した。そのため、本実施形態に示す刃折り機構42では、刃折りブロック58は最大15°(最大曲げ角が15°)まで傾けられるように構成されている。
【0054】
そして、このように構成されたカッターユニット3は、刃押えカバー44とは反対側の一側面に、カッターユニット3をZ軸方向(上下方向)に移動可能に支持するための取付板65が備えられており、この取付板65を介して後述する第2ステージ73に着脱可能に装着されている。なお、この装着にあたっては、カッターユニット3をZ軸方向に移動させることで、試験片ホルダ2に保持された試験片TPに対して、カッターナイフの刃CBが正しく(正しい刃筋、正しい切込み角度で)切込みを行えるように装着する。
【0055】
次に、カッターユニット3をZ軸方向に移動させる構造について説明する。
本実施形態に示す塗膜切込み装置1では、カッターユニット3は、装置基台20上において、Z軸方向に移動可能に備えられた第1ステージ71にロードセル72を介して吊り下げられた第2ステージ73に装着される。
【0056】
第1ステージ71は、図2および図3に示すように、天井板23に起立して設けられたZ軸ベース板74に取り付けられている。Z軸ベース板74にはZ軸方向に一対のZ軸レール75が配設されており、第1ステージ71はこのZ軸レール75にスライド移動可能に装着されている。
【0057】
第1ステージ71には、第1ステージ71をZ軸方向に駆動するZ軸駆動機構79が備えられている。Z軸駆動機構79は、Z軸レール75と、第1ステージ71をZ軸方向に駆動するZ軸モータ80とを備えており、第1ステージ71はZ軸モータ80と駆動連結され、これによって第1ステージ71がZ軸方向に駆動するように構成されている。なお、Z軸モータ80は、後述する制御部100と接続されており、制御部100を通じて第1ステージ71、ひいてはカッターユニット3のZ軸方向の位置を制御できるようになっている。
【0058】
ロードセル72は、カッターユニット3に付加される荷重を測定するセンサであって、一端が第1ステージ71に装着されたセンサ取付板76に連結されるとともに、他端が第2ステージ73に連結される。これにより、第2ステージ73は、ロードセル72を介して第1ステージ71に吊り下げられる。
【0059】
この吊り下げにあたっては、たとえば、ロードセル72の他端に、先端にフランジが形成されたロッド(図示せず)を配置し、このロッドにロードセル保護用ばね81、連結ブロック82、および金属カラー83を配置し、ロッドに遊嵌された連結ブロック82を第2ステージ73に固定する。ロードセル保護用ばね81は、ロードセル72と連結ブロック82との間に圧縮して挿入されており、たとえば、カッターユニット3に過大な力(変位)が加わったような場合に、ロードセル72の破損を防いでロードセル72を保護するように機能する。
【0060】
そしてこのように吊り下げられた第2ステージ73にカッターユニット3を取り付けると、カッターユニット3の自重によりロードセル72が引張状態となって第2ステージ73が下降する。ここで、カッターユニット3の自重が1kgであり、1kgあたりのロードセル72のたわみ量が4μmであったと仮定すると、この状態で第1ステージ71を下降させてカッターユニット3に保持されたカッターナイフの刃先BTを試験片TPに接触させると、接触前に4μmの引張状態になっていたロードセル72のたわみが徐々に戻ることになるが、この時の戻り量が4μm以下の場合は自重(1kg)以下の荷重が付加されていることになる。第1ステージ71をさらに下降させ、ロードセル72に圧縮方向のたわみが加わるようになると、自重以上の荷重が付加されていることになる。これらの荷重は、いずれもZ軸駆動機構79のZ軸モータ80の推力によって設定される。
【0061】
なお、ロードセル72は制御部100と接続されており、制御部100はカッターユニット3に付加される荷重を測定できるようになっている。
【0062】
第2ステージ73は、カッターユニット3などのツールユニットを装着する部位であって、略板状の部材で構成されている。本実施形態では、第2ステージ73は、第1ステージ71の表面にZ軸方向に配設される一対のガイドレール78,78に装着されており、このガイドレール78,78に沿ってZ軸方向にスライド移動できるように構成されている。
【0063】
このように、本実施形態に示す塗膜切込み装置1では、第1ステージ71をZ軸方向に移動させることによって、第2ステージ73に装着されたカッターユニット3をZ軸方向に移動させることができ、これにより、カッターユニット3に保持されたカッターナイフの刃CBを用い、試験片ホルダ2に保持された試験片TPに対して、所定の切込み処理を行えるようになっている。
【0064】
次に、折り刃回収機構85について説明する。
折り刃回収機構85は、刃折り機構42によって折り取られた刃片BPを回収する機構部であって、刃片回収トレー86と、刃片回収トレー86をスライダ89に装着するブラケット87と、スライダ89をX軸方向に駆動するトレー駆動機構88とを主要部として備えている。
【0065】
刃片回収トレー86は、刃折り機構42によってカッターナイフの刃CBの先端ブロックCB1を折り取るときに、刃折りブロック58の直下(の刃片回収位置)に配置されて、刃折りブロック58から落下する刃片BPを収容する受皿であって、本実施形態では略矩形状を呈する上部が開口したトレーの形態とされている。
【0066】
トレー駆動機構88は、刃片回収トレー86を所定の待機位置と刃片回収位置との間で移動させる駆動機構であって、本実施形態では、スライダ89を上記待機位置と刃片回収位置との2点間で移動させる電動アクチュエータで構成されている。図示のトレー駆動機構88は、天井板23上に配置されており、2点間を移動するスライダ89に刃片回収トレー86が取り付けられたブラケット87が装着されている。
【0067】
このように、刃片回収トレー86をブラケット87を介して着脱可能に取り付けるように構成したことで、たとえば、刃片BPの大きさに応じたサイズの刃片回収トレー86に取り換えたり、あるいは、性質の異なる(たとえば、磁性を帯びた/磁性を帯びない)刃片回収トレー86を交換可能とすることができる。なお、この電動アクチュエータは制御部100と接続され、制御部によって刃片回収トレー86の位置を制御できるようになっている。
【0068】
制御部100は、Y軸駆動機構25(Y軸モータ30)、X軸駆動機構26(X軸モータ33)、θ軸駆動機構27(θ軸モータ)、Z軸駆動機構79(Z軸モータ80)、刃送り機構41(ステッピングモータ50)、トレー駆動機構88などを制御する制御装置であって、本実施形態では、これら各駆動機構の駆動制御や表示部90の表示制御などを行う制御プログラムを備えたマイコン(図示せず)で構成されており、装置基台20の電装品エリアに収容されている。特に、本実施形態では、制御部100は、これら各駆動機構の駆動制御を通じて、後述する塗膜への切込み処理および刃折り刃送り処理などを実行するように構成されている。
【0069】
なお、図中の90は塗膜切込み装置1の表示部を示している。本実施形態では、表示部90は、たとえば、操作部91を兼ねたタッチパネルで構成されている。また、図中の91は、タッチパネル以外の物理スイッチで構成された操作部を示している。塗膜切込み装置1のユーザは、表示部90の表示を確認しながら、物理スイッチやタッチパネルを操作することで、制御部100に対して各種指示を入力できるようになっている。
【0070】
次に、塗膜切込み装置1による試験片TPの塗膜への切込み処理について説明する。
塗膜への切込み処理は、以下の手順で行われる。
【0071】
(1)試験片ホルダ2への試験片TPの装着
塗膜の切込み処理にあたっては、事前準備として、表面に塗膜が形成された試験片TPを試験片ホルダ2に装着する。この装着は、上述したように、昇降ステージ6と押えフレーム7との間に試験片TPを挟み込んで保持し、かつ、その状態で回転ストッパ14を操作して試験片TPを試験片ホルダ2に固定することにより行う。
【0072】
(2)カッターユニット3へのカッターナイフの刃CBの装着
試験片ホルダ2への試験片TPの装着と並行して、カッターユニット3にカッターナイフの刃CBを装着する。この装着は、カッターユニット3の本体フレーム43に備えられた刃押えカバー44を緩めて行う。具体的には、本体フレーム43の刃嵌合溝45にカッターナイフの刃CBを嵌め込むとともに、スライド貫通孔46から露出するジョイントピン53にカッターナイフの刃CBの係合孔BHを係合させ、最後に刃押えカバー44を再装着することで、カッターナイフの刃CBの装着を完了する。
【0073】
(3)刃送り処理
カッターナイフの刃CBの装着が完了すると、次に、制御部100は、カッターナイフの刃CBの刃先BTの位置を検出しつつ、刃先BTが所定位置に配設されるようにカッターナイフの刃CBの刃送り処理を実行する。本実施形態に示す塗膜切込み装置1では、電源が投入されると、制御部100がステッピングモータ50を制御してカッターナイフの刃CBを後退させて原点位置を検出する。原点位置の検出が完了すると、次に制御部100はステッピングモータ50を制御してカッターナイフの刃CBを前進させる。このとき、制御部100は、刃先ガイドブロック48に備えられた刃先検知センサ57でカッターナイフの刃CBの刃先BTを検知し、その検出結果に基づいて、カッターナイフの刃CBの刃先BTが刃先ガイドブロック48の先端からわずかに突出する位置、すなわち、切込み処理に使用する刃先BT部分のみが刃先ガイドブロック48から外部に露出する位置までカッターナイフの刃CBを前進させ、カッターナイフの刃CBを所定の切込み位置に配置する(刃送り処理)。
【0074】
(4)切込み処理
カッターナイフの刃CBを所定の切込み位置に配置すると、次に、試験片TPに対する切込み処理を実行する。この処理は、操作部91を操作して手動で行うように構成してもよいが、本実施形態では、制御部100に対して切込み処理用のデータを入力し、このデータに基づいて、制御部100がY軸駆動機構25、X軸駆動機構26、θ軸駆動機構27およびZ軸駆動機構79を駆動制御することで、自動で切込み処理を行うように構成している。
【0075】
具体的には、制御部100は、Y軸駆動機構25、X軸駆動機構26およびθ軸駆動機構27を制御して、試験片ホルダ2に保持された試験片TPを所定の切込み開始位置に配置する。切込み開始位置は、たとえば、切込み処理の始点がカッターユニット3の直下、すなわち、カッターナイフの刃CBの刃先BTの真下に配置される位置とされる。これにより、カッターユニット3をZ軸方向に移動することで切込み処理の開始が可能になる。
【0076】
試験片ホルダ2を所定の切込み開始位置に配置すると、次に制御部100は、Z軸駆動機構79を駆動制御してカッターユニット3を下降させ、試験片ホルダ2に保持された試験片TPに対する切込み処理を開始する。その際、制御部100は、ロードセル72によって試験片TPに付加される荷重を測定することで、試験片TPに対して、あらかじめ設定された所望の荷重で切込みを行うことができる。
【0077】
このようにして、試験片TPに対する切込み処理が開始されると、制御部100は、Y軸駆動機構25、X軸駆動機構26、θ軸駆動機構27およびZ軸駆動機構79を駆動制御することで、試験片TPに対して所望の切込み処理を実行する。たとえば、X軸駆動機構26の制御により試験片TPの長手方向に切込みを行ったり、Z軸駆動機構によりカッターユニット3を一旦上昇させるとともに、Y軸駆動機構25で試験片ホルダ2の位置をY軸方向にずらして再び切込み処理を行うことで、先の切込みと並行する切込みを行うことができる。また、θ軸駆動機構27を駆動して試験片ホルダ2を回転させることで、たとえば、90度の角度を直交する切込み処理などを実行することができる。
【0078】
このように、本発明に係る塗膜切込み装置1によれば、試験片TP(塗膜)に作用する荷重を測定しながら塗膜への切込み処理を実行することができるので、再現性、安定性が高く均一な切込みを塗膜に施すことができる。そのため、本発明に係る塗膜切込み装置1を用いることにより、塗膜の機械的性質を評価する試験をバラつきなく正確に行うことができる。
【0079】
(5)刃折り処理
また、本発明に係る塗膜切込み装置1は刃折り機構42を備えていることから、制御部100は、所定のタイミングで以下の刃折り処理を実行する。
【0080】
刃折り処理を行う場合、制御部100は、Z軸駆動機構79を駆動制御して、カッターユニット3を切込み位置から所定の退避位置まで上昇させる。また、カッターユニット3の上昇と並行して、制御部100は、トレー駆動機構88を駆動制御し、刃片回収トレー86を待機位置から刃片回収位置に移動させる。
【0081】
カッターユニット3の退避と刃片回収トレー86の刃片回収位置への移動が完了すると、制御部100は、刃送り機構41を使って刃保持機構40に保持されたカッターナイフの刃CBを所定量だけ送り出して前進させる。これにより、カッターナイフの刃CBの先端ブロックCB1が刃折りブロック58の刃先導入穴58bに導入され、さらなる前進により、カッターナイフの刃CBによって押し出された刃折りブロック58が旋回し、それによってカッターナイフの刃CBの先端ブロックCB1が折り取られる(図9(b)、(c)参照)。
【0082】
折り取られた先端ブロックCB1は、刃片BPとなって刃折りブロック58から落下し、刃片回収位置に配置された刃片回収トレー86に収容・回収される。制御部100は、刃片BPを回収するタイミングを待った後、刃片回収トレー86を初期の待機位置に復帰させる。
【0083】
このように、本実施形態に係る塗膜切込み装置1では、制御部100が刃送り機構41を利用してカッターナイフの刃CBの先端ブロックCB1を折り取るように構成されているので、たとえば、試験片TPに複数の切込みを入れる場合、それぞれの切込みの開始前に刃折り処理を行うことで、カッターナイフの刃CBの刃先BTの劣化に伴う切込みのバラツキをなくし、複数の切込みを均一に実施することができる。
【0084】
実施形態2
次に、本発明の第2の実施形態を図10を用いて説明する。
この第2の実施形態に示す塗膜切込み装置1は、実施形態1に示す塗膜切込み装置1において、カッターユニット3の交換ユニットとして、試験片TPに対して所定のひっかき処理を行うひっかきユニット200を備えた場合を示している。その他の構成は実施形態1に示す塗膜切込み装置1と共通するので、構成が共通する点については同一符号を付して説明を省略する。
【0085】
ひっかきユニット200は、試験片TPに対するひっかき処理を行うための針状工具または鉛筆Pを保持するユニットであって、針状工具または鉛筆Pを保持する工具保持機構201と、工具保持機構201に荷重を付与する錘203を装着する錘装着機構202とを有している。
【0086】
工具保持機構201は、針状工具または鉛筆Pを着脱可能に保持する機構部であって、本実施形態では、けがき針などの針状工具または鉛筆Pを挟持状に保持する工具ホルダの形態とされており、針状工具または鉛筆Pを所定の角度を付して保持するように構成されている。なお、図中の204は、工具ホルダの挟持/解除操作を行う操作ノブを示している。
【0087】
錘装着機構202は、工具保持機構201、すなわち、工具保持機構201に保持された針状工具または鉛筆Pに荷重を付与する錘203を装着する機構部であって、錘装着機構202と連結された錘載せ基台205と、錘載せ基台205に起立状に設けられた錘ガイド支柱206とを主要部として構成されている。錘ガイド支柱206は、図10(b)に示すように、環状の錘203,203を装着する支柱であって、図示のように、錘ガイド支柱206に装着(積み上げる)錘203の数を増減することで、荷重を調節するようになっている。
【0088】
そして、このように構成された工具保持機構201および錘装着機構202は、これらを第2ステージ73に着脱可能に取り付けるための取付板207に、Z軸方向にスライド移動可能に取り付けられている。具体的には、取付板207にはZ軸方向に延びるツール用Z軸レール208が設けられており、このツール用Z軸レール208に、工具保持機構201および錘装着機構202が取付らたツール基台板209がスライド自在に装着されている。これにより、第2ステージ73に装着される取付板207に対して、Z軸方向にスライド移動可能に工具保持機構201および錘装着機構202が取り付けられている。
【0089】
このように第2ステージ73にひっかきユニット200を装着した塗膜切込み装置1は、上述した実施形態1に示す塗膜切込み装置1と同様に、制御部100の制御によって、試験片ホルダ2をX軸、Y軸およびθ軸方向に任意に移動させることができるとともに、ひっかきユニット200をZ軸方向に移動させることができるので、たとえば、JIS K5600 塗料一般試験方法の「引っかき硬度(鉛筆法)」などを実施することができる。具体的には、たとえば、まず、制御部100の制御によってひっかきユニット200を下降させて鉛筆Pの先端を試験片TPに接触させる。その後、さらに第1ステージ71を所定距離(たとえば、10mm)だけ下降させて停止する。このとき、第2ステージ73は、第1ステージ71にスライド自在に装着されていることから、工具保持機構201および錘装着機構202は両者の重量(これらの自重)による荷重で試験片TPと接触することになる。そして、この状態から更に荷重を付加する場合には、錘ガイド支柱206に必要な分の錘203,203を装着する。このように、本実施形態の塗膜切込み装置1によれば、所望の荷重をひっかきユニット200に付与することができ、荷重を一定に保ちながら試験片TPに対してひっかき処理を行うことができる。
【0090】
なお、上述した実施形態はあくまでも本発明の好適な実施態様を示すものであって、本発明はこれらに限定されることなくその範囲内で種々の設計変更が可能である。
【0091】
例えば、上述した実施形態では、試験片ホルダ2の昇降ステージ6を手動操作で昇降させる場合を示したが、試験片ホルダ2に電磁モータを配置するなどして、昇降ステージ6の昇降移動を電動で行わせるように構成することも可能である。
【0092】
また、上述した実施形態では、カッターユニット3の交換ユニットとしてひっかきユニット200を用いた場合を示したが、本発明に係る塗膜切込み装置1は、試験片ホルダ2をX軸、Y軸およびθ軸方向に移動させる一方で、カッターユニット3などのツールユニット側をZ軸方向に移動させる構造を備えているので、このような構造を利用して試験片TPに所望の作用を施すユニットであれば、ひっかきユニット200以外のユニットを交換可能または単独で備えるように構成してもよい。
【0093】
また、上述した実施形態では、第2ステージ73をロードセル72を介して第1ステージ71に吊り下げるにあたり、ロードセル72の他端にロッドを配置し、このロッドにロードセル保護用ばね81、連結ブロック82、および金属カラー83を配置した構造を示したが、第2ステージ73はロードセル72を介して第1ステージ71に吊り下げられる構造であれば、他の構造、たとえば、第2ステージ73に装着する連結ブロックと第2ステージ73の自重を支えるばねとからなるよりシンプルな構造で吊り下げるように構成することも可能である。
【0094】
また、上述した実施形態では、制御部100は、ロードセル72でZ軸方向の荷重を測定しながらZ軸駆動機構79の駆動制御を行う場合を示したが、たとえば、制御部100の制御プログラムによって、荷重とは関係なく、ユーザがカッターナイフの刃CBによる切込み深さを任意に設定できるように構成することも可能である。たとえば、1μm単位で切込み深さを設定できるように構成することも可能である。
【0095】
また、たとえば、上述した実施形態1に係る塗膜切込み装置1において、試験片ホルダ2とカッターユニット3に図示しない静電容量センサーを取り付け、制御部100において、この静電容量センサの検出結果に基づいて、カッターナイフの刃CBが試験片TPの金属製の素地に到達した否かを判別できるように構成することも可能である。なお、この場合、カッターナイフの刃CBが素地に到達した否かは表示部90に表示するなど外部に報知するように構成するのが望ましい。
【符号の説明】
【0096】
1 塗膜切込み装置
2 試験片ホルダ
3 カッターユニット
4 ケーシング
6 昇降ステージ
7 押えフレーム
10 昇降機構
20 装置基台
21 底板
22 中間板
23 天井板
25 X軸駆動機構
26 Y軸駆動機構
27 θ軸駆動機構
29 XYステージ
32 第1θステージ
34 第2θステージ
40 刃保持機構
41 刃送り機構
42 刃折り機構
43 本体フレーム
44 刃押えカバー
45 刃嵌合溝
46 スライド貫通孔
48 刃先ガイドブロック
50 ステッピングモータ(電動機)
51 ボールねじ
52 ボールねじのナット部
53 ジョイントピン(係止部)
58 刃折りブロック
71 第1ステージ
72 ロードセル
73 第2ステージ
79 Z軸駆動機構
85 折り刃回収機構
86 刃片回収トレー
88 トレー駆動機構
90 表示部
91 操作部
100 制御部
200 ひっかきユニット
201 工具保持機構
202 錘装着機構
TP 試験片TP
CB カッターナイフの刃
BH 係合孔(貫通孔)BH
BT 刃先
BP 刃片
【要約】
【課題】再現性、安定性の高い均一な切込みを塗膜に施すことができる塗膜切込み装置を提供する。
【解決手段】塗膜が形成された試験片TPに対して切込み処理を行う装置であって、試験片TPを保持する試験片ホルダ2と、試験片ホルダ2に保持された試験片TPに対して切込み処理を行うカッターユニット3とを備えている。試験片ホルダ2は、装置基台20上に、X軸、Y軸およびθ軸方向に移動可能に備えられる。カッターユニット3は、Z軸方向に移動可能に備えられた第1ステージ71にロードセル72を介して吊り下げられた第2ステージ73に装着される。塗膜への切込み処理は、カッターユニット3をZ軸方向に移動させて切込みを行いつつ、試験片TPが保持された試験片ホルダ2をX軸、Y軸およびθ軸方向に移動させることで所望の深さ、長さ、向きの切込みを行う。
【選択図】図2
図1
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図10