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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】経鼻治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 11/00 20060101AFI20241021BHJP
【FI】
A61M11/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023513330
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 TR2021050860
(87)【国際公開番号】W WO2022046014
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】2020/13497
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(73)【特許権者】
【識別番号】523050726
【氏名又は名称】イスタンブル ウニヴェルシテシ レクトールルグ
【氏名又は名称原語表記】ISTANBUL UNIVERSITESI REKTORLUGU
(74)【代理人】
【識別番号】100081455
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100170966
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 正紀
(72)【発明者】
【氏名】ペコズ、アイカ ユルディズ
【審査官】立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/097645(WO,A1)
【文献】特表2013-512755(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104027903(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0239428(US,A1)
【文献】特表2005-516644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形、正方形、長方形、三角柱、四角形、五角形の形状であって、患者の鼻を完全に覆う閉鎖構造を構成してこの構造から薬剤が漏れ出ることを防止することで、鼻治療装置を使用する人に最大限の薬効を保証し、従来の全ての液体の医薬組成物に適用可能で患者の薬剤服用順守を最大化する、閉鎖系の鼻治療装置において、
- 前記鼻を完全に覆う構造を有し、円形であって、噴霧器を外側から取り囲む骨格系(1)と、
- チューブ形状またはさまざまな幾何学的形状で製造でき、液体の状態の薬剤で満たすことができる薬剤リザーバ(2)と、
- 前記噴霧器(5)が動作中に必要とする電力を供給するバッテリ(3)と、
- 侵入した液状の前記薬剤が標的領域で所望の粒子比を有するエアロゾル液滴に変化することを可能にする薬剤リザーバ(2)に設けられた穴(4)と、
- 前記薬剤リザーバ(2)内の前記薬剤が前記穴(4)を通過する際にエアロゾル液滴になることを可能にする噴霧器(5)と、
- 前記鼻治療装置の遠隔制御を可能にする遠隔制御装置(6)と、
- 前記噴霧器(5)がバッテリ又はバッテリフリーで携帯電話又は異なる信号送信装置により動作することを可能にし、前記患者への投薬量を年齢、身長および体重に基づいて調整するソフトウエアと、
- 投薬中に前記骨格系の上部に向かって開き、前記骨格系(1)の外壁を閉じるシャッタシステム形態の構造を有することで、同時に前記穴(4)から放出されたエアロゾル液滴が前記鼻治療装置の前記骨格系(1)から漏れるのを防止するテントウムシの羽型シャッタ(7)と、
を備えることを特徴とする鼻治療装置。
【請求項2】
前記骨格系(1)の形状は、球形、正方形、長方形、三角柱、四角形又は五角形であることを特徴とする請求項1に記載の鼻治療装置。
【請求項3】
前記骨格系(1)は、球形の形態であることを特徴とする請求項1に記載の鼻治療装置。
【請求項4】
本発明は、前記バッテリから離れて、有線または無線でバッテリを介して充電することができることを特徴とする請求項1に記載の鼻治療装置。
【請求項5】
起動/押下されることで前記鼻内に前記薬剤を放出することができる起動ボタンを備えることを特徴とする請求項1に記載の鼻治療装置。
【請求項6】
請求項5に記載の経鼻治療装置の動作方法であって、
- 前記経鼻治療装置は、前記起動ボタンが起動されることで作動し、
- 前記経鼻治療装置は、Bluetooth(登録商標)ユニットを介してスマートモバイルデバイスとの間の通信を保証し、前記スマートモバイルデバイスは、前記患者に対する前記投薬量の調整に必要な前記患者の身長、体重、年齢、及び/又は性別に関する情報を取得し、このために生成されたトリガ信号を前記経鼻治療装置のマイクロプロセッサユニットへ送信し、
- 前記マイクロプロセッサユニットは、入力した前記トリガ信号を処理し、圧電結晶材料の共振周波数を決定し、
- 前記マイクロプロセッサユニットは、決定された前記共振周波数で信号を生成し、それをドライバ回路を用いて前記圧電結晶材料へ送信し、
- 前記圧電結晶材料は、振動し、
- 前記経鼻治療装置は、振動する前記圧電結晶材料の前記薬剤リザーバ(2)を動作させることで、前記穴(4)を介することで決定された粒子サイズのエアロゾル液滴に変換された前記薬剤を前記情報に応じて前記患者用に調整された前記投薬量を決定する、
ことを備えることを特徴とする経鼻治療装置の動作方法。
【請求項7】
鼻を完全に覆うことで閉じた構造を構成して系から薬剤が漏れ出ることを防止することで、経鼻治療装置を使用する人が前記薬剤から最大限の効果を得ることを保証し、患者による薬剤服用遵守を最大化する、従来の全ての液体医薬組成物を適用することが可能な経鼻治療装置であって、
- 前記鼻を完全に覆う構造を有し、円形であって、噴霧器を外側から取り囲む骨格系(1)と、
- 前記骨格系(1)内のチューブ形状またはさまざまな幾何学的形状で製造でき、液体の状態の薬剤で満たすことができる薬剤リザーバ(2)と、
- 前記骨格系(1)内の前記薬剤リザーバ(2)に隣接して配置される圧電結晶材料と、
- 前記噴霧器(5)が動作中に必要とする電力を供給するバッテリ(3)と、
- 侵入した液状の前記薬剤が標的領域で所望の粒子比を有するエアロゾル液滴に変化することを可能にする穴(4)と、
- 剤形が薬剤リザーバ(2)に含まれる前記穴(4)を通過する際にエアロゾル液滴になることを可能にし、前記経鼻治療装置をスマートモバイルデバイスで操作し、患者の年齢、身長、体重および/または性別に応じて前記患者の投与量を調整する噴霧器(5)と、
- 投薬中に前記骨格系の上部を開き、前記骨格系(1)の外壁を閉じるシャッタシステム形態の構造を有し、同時に前記穴(4)から放出されたエアロゾル液滴が前記経鼻治療装置の前記骨格系(1)から漏れるのを防止するテントウムシの羽型シャッタ(7)と、
を備えることを特徴とする経鼻治療装置。
【請求項8】
噴霧器(5)は、Bluetooth(登録商標)ユニット、マイクロプロセッサユニット、ドライバ回路を備えることを特徴とする請求項7に記載の経鼻治療装置。
【請求項9】
前記経鼻治療装置を遠隔で制御することを可能にするBluetooth(登録商標)を含む遠隔制御装置(6)、又はモバイルデバイスをさらに備えることを特徴とする請求項8に記載の経鼻治療装置。
【請求項10】
起動ボタンをさらに備えることを特徴とする請求項7~9の何れか1項に記載の経鼻治療装置。
【請求項11】
請求項10に記載の経鼻治療装置の動作方法であって、
- 前記経鼻治療装置は、前記起動ボタンが起動されることで作動し、
- 前記経鼻治療装置は、Bluetooth(登録商標)ユニットを介してスマートフォンとの間の通信を保証し、前記スマートフォンは、前記患者に対する投薬量の調整に必要な前記患者の身長、体重、年齢、及び/又は性別に関する情報を取得し、このために生成されたトリガ信号をマイクロプロセッサユニットへ送信し、
- 前記マイクロプロセッサユニットは、入力した前記トリガ信号を処理し、前記圧電結晶材料の共振周波数を決定し、
- 前記マイクロプロセッサユニットは、決定された前記共振周波数で信号を生成し、それをライバ回路を用いて前記圧電結晶材料へ送信し、
- 前記圧電結晶材料は、振動し、
- 前記経鼻治療装置は、振動する前記圧電結晶材料の薬剤リザーバ(2)を動作させることで、前記穴(4)を介することで決定された粒子サイズのエアロゾル液滴に変換された前記薬剤を前記情報に応じて前記患者用に調整された前記投薬量を決定する、
ことを備えることを特徴とする経鼻治療装置の動作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくは円形、正方形、長方形、三角柱、四角形、五角形などの形状であって、小児、成人及び高齢の患者グループの鼻を完全に覆う閉鎖構造を構成してこの構造から薬剤が漏れ出ることを防止することで、それを使用する人に最大限の薬効を保証し、従来の全ての液体の医薬組成物に適用可能で患者の薬剤服用順守を最大化する、閉鎖系の経鼻治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
嗅覚を司る器官である鼻は、呼吸器系への異物の侵入を防止する器官でもあり、形態学的には薬剤吸収に好適である。薬の放出において鼻腔を使用する状況は4つあり、局所治療と、全身治療と、ワクチン放出と、中枢神経系をターゲットとする場合とである。経鼻は、局所効果をもたらすために長年使用されてきた。経鼻の利点のいくつかは、以下の通りである:
・粘液層の下層部分に血管が密集しているため、鼻腔は形態学的に薬剤吸収を助長する。
・無数の微絨毛のため、それは広範囲の吸収領域を備える。
・薬は、鼻の静脈を経由して直接的に体循環へ入り込み、肝臓での初回通過効果を克服する。
・吸収経路及び血漿濃度は、静脈投与に匹敵するレベルである。
・酸素活性の低い粘膜構造を備えている。
・透過性が他の粘膜構造よりも高い。
・急速な吸収により、生体利用効率が高いため、薬剤の投与量が少ない。
・即効性がある。
・消化器官で代謝される薬剤の投与が可能である。
・過剰摂取のリスクが低い。
・巨大分子が鼻粘膜を通って体循環に侵入することができる。
・人の鼻は、薬剤投与の点で効果的であり、患者の薬剤服用順守の点で容易である互換性の高いチャネルである。
【0003】
従来技術を検討すると、抗アレルギー薬と充血除去剤とが高い頻度で経鼻経路で投与される薬理学的グループを構成している。近年、局所効果を目的とする経鼻薬が全身的な副作用を示すことが明らかになっており、それにより、経鼻経路は全身的な薬効を得るためにも使用することができることが明らかになっている。経鼻投与される全身活性薬剤の数は、世界の医薬品市場で増加している。加えて、研究では、鼻粘膜免疫応答が非常に高かったことから、ワクチン会社は特に気道感染症に対する鼻ワクチンに注目している。最初の経鼻インフルエンザワクチンは、2011年に有名な会社によって抗原アジュバント系として欧州で販売された。2003年には、2番目となるインフルエンザワクチンが市場に出回った。経鼻内生インフルエンザワクチン(LAIV、FluMist(登録商標)4価染色体)は、インフルエンザA及びBのウイルス感染を予防するための使用が承認されており、筋肉内に投与されるインフルエンザワクチンに加えて、生であって弱毒化された0,2mlの単回使用としての経鼻投与用の鼻腔内スプレーとして用意された4成分生ワクチンも使用が認められている。しかしながら、2015年から2016年のパンデミックの後、H1 N1 A/ボリビア亜型に対する防御効果が低下したため、米国で流通しているこのワクチンは、2016年から2017年および2017年から2018年のインフルエンザシーズンには使用が推奨されなかった。
【0004】
経鼻薬剤投与は、脳をターゲットとする薬剤投与の重要な経路の1つであり、1989年にウィリアム二世フレイ博士によって最初に導入された。この開始以来、脳を標的とする経鼻薬剤に関する多くの研究が行われてきた。ボーンらは、33人の健康な被験者(9人の女性及び27人の男性)の血液脳関門を越えて、30分以内にメラノコルチン、バソプレシン、インスリンなどのペプチドを脳脊髄液に標的化することに成功した[1]。
【0005】
経鼻用医薬品剤形;点鼻薬、ヒドロゲル、粉末、エマルジョン、軟膏、またはマイクロおよびナノ粒子などの特殊なシステムなど。点鼻薬は、長年使用されてきた経鼻経路の典型的な剤形である。この剤形は、局所殺菌の用途で肯定的な結果をもたらす;ただし、望ましい全身効果を達成するほどの十分な吸収を保証することはできない。この形態で投与された薬剤は、粘膜繊毛クリアランスによって容易に除去することが可能である。ヒドロゲルは、粘液線毛の動きを防ぐために粘性流体から研究されている。ゲル剤形では、鼻汁のリスクがなく、薬剤が鼻腔に付着する。ゲルは、特に局所治療において非常に実用的で効果的であり、刺激の可能性は低い。ポリアクリル酸を含有する生体接着性ヒドロゲルを含むシステムで作製されたインスリンの経鼻投与では、生体接着特性が所望の程度に達成された。一方、これらのハイドロゲルを過剰な濃度で使用すると、インスリンの放出が減少し、効果がより長時間で現れることが判明している。溶液剤または懸濁剤の剤形が得られない場合、経鼻用医薬品剤形の1つである乾燥粉末剤形を調製することができる。粉末剤形は、鼻腔内で局所的に有効な薬剤に使用され、計量投与が可能である。しかしながら、乾燥粉末形態には、鼻粘膜への刺激の危険性や組織に砂のような感触を与えるなどの重大な欠点がある。さらに、乾燥粉末剤形は、製造がはるかに難しく、患者にとって費用がかかる。これらの理由から、粉末は鼻への投与には好ましくない。乳剤および軟膏の剤形は、経鼻経路および局所的に有効な薬剤にも適している。しかしながら、最大の欠点は、患者により投与されないということではないこと、製剤開発の難しさ、および定量投与の問題に直面していることである。マイクロ粒子やナノ粒子、リポソームなどの担体システムによる薬剤の経鼻送達に関する研究は日々増加している。ただし、これらのシステムの最も重要な欠点は、活性物質が鼻粘膜より長時間相互作用し、経鼻吸収が増加することである。経鼻吸収が多すぎることは、局所効果に適していない。これらのシステムは、持続放出および制御放出を実行するよう、生体適合性ポリマーを使用して調製される。
【0006】
鼻局所ガスレススプレー、鼻局所ドロップ、鼻局所スティックおよびロールオン、鼻全身定量液体は、鼻投与を提供する装置である。これらのデバイスの患者による薬剤服用順守は、特に幼児、子供、および高齢の患者においては良好ではない。その他にも、これらのデバイスは液体の剤形で満たされているため、粘膜線毛のクリアランスに抵抗できず;したがって、鼻での持久力が短いため、効果が低い。
【0007】
経鼻薬投与は、従来技術において、新生児、幼児、および子供に大きな問題をもたらす。鼻へのデバイス注入口は、特に新生児、乳児、小児患者にとって、使用が困難である。加圧液体の鼻へのスプレーは、患者による薬剤服用順守を低下させ、治療を中断してしまう。さらに、鼻粘膜の刺激や灼熱感などの物理的な副作用がある。彼らは薬液の噴出を恐れ、怪我をする。これを行うために、親は子供たちを安定した状態に保つために力尽くで押さえ込む必要があり、状況によっては、投薬が子供の理解できない力の行使に変わる。力の行使は、双方にとって心理的に難しいプロセスである。それは、薬剤投与が最適なレベルで行われるのを妨げる。そのため、家族はしばしば投薬をキャンセルする場合がある。親と子の経鼻投薬は、心理的なプロセスの点で注射投与とほぼ同じくらい困難である。
【0008】
幼い頃の子供は、なるべくなら鼻から呼吸をし;彼らは口呼吸をしたがらない。新生児および幼児は、年長の小児および成人よりも軟口蓋に非常に近い咽頭の高い位置に水平に配置された長いオメガ型の喉頭蓋を持っている。副鼻腔がないことと相まって、これにより、経口経路よりも鼻腔の気流に対する抵抗が小さくなる。そのため、新生児や乳児は口呼吸よりも鼻呼吸を好む[2]。鼻づまりの場合、進行中の治療は、上記のマイナス面のために実際には失敗してしまう。治療が完了していない場合、深刻な睡眠障害と関連する合併症が子供に見られる。そのため、既存の製薬技術には、子供にとって低刺激で患者による薬剤服用順守を高める薬剤送達方法と、これらの投薬を実行できるデバイスを開発する責務がある。市場に出回っている経鼻器具は、特に幼児や子供の場合、患者による薬剤服用遵守が良好ではない。このため、効果的な治療を行うことができない。
【0009】
米国特許出願公開第2012/0193377号明細書には、鼻スプレーポンプが開示されている。このシステムでは、閉鎖端と開放端との間に延びるリザーバが存在する。ここでは、治療薬の1回の投与が鼻に集中するだけでなく、髪、目、皮膚などの領域に簡単かつ効果的に到達することも目的としている。国際公開第2012/119153号では、薬剤製剤から生じ、脳への経鼻薬剤投与のために嗅覚領域に達することができる噴射剤および加圧ガスを含む定量投薬システムが開発されている。薬剤製剤は、粉末、懸濁液、分散液または液体の形態の経鼻投与形態である。プッシュイン経鼻剤形は、鼻腔の嗅覚領域内に蓄積される。嗅覚領域に蓄積された薬剤は、血液脳関門を避けて脳に到達する。ヒドロフルオロアルカン噴射剤は、経鼻剤形がエアロゾル化される散布器に充填され、加圧された小型の容器から薬剤を含むチャンバ内に充填される。エアロゾル化された経鼻剤形は、ノズルを通過し、煙として使用者の鼻腔の嗅覚領域に運ばれる。
【0010】
米国特許第9,078,814号明細書の先行技術特許では、医薬組成物を含有する鼻腔内スプレー装置と共に使用される活性物質が開示されている。米国特許出願公開第2010/0122697号明細書では、U字型チューブシステムの第1の末端に陰圧があり、第2の末端にエアロゾルシステムがある。2つの鼻孔に配置されたシステムでは、一方の鼻孔に陰圧がかかると、もう一方の鼻孔からエアロゾルが鼻腔に放出される。本発明は、薬剤を含むエアロゾルを供給するために多種多様な方法で使用することができ、既知のエアロゾル供給システム、麻酔薬ワクチン、代謝産物、インスリン、および香料を含む多くの分野で好適であり;エアロゾルの経鼻送達のための方法およびシステムを提供する。
【0011】
国際公開第2007/113551号は、薬剤用のリザーバを含む鼻スプレー装置に関する;前記リザーバは、垂直面と、ベース部分に対してある角度で配置されたネック部分とを有する。点鼻スプレーの鼻孔に装着するマウスピースの角度を最適化した発明である。ここにあるスプレーポンプディスペンサは、押し込み付きのネック部分に取り付けられる。従来技術に係る他の米国特許出願公開第2016/0082204号明細書は、薬学的製剤を計量用量で鼻腔内に送達するための鼻スプレー装置に関する。
【0012】
振動型メッシュ式(VMT)噴霧器は、圧電セラミックとメッシュを使用してエアロゾル(液体溶液をミクロンレベルの液滴に変換)を生成し、ポータブルで比較的静かで、超音波噴霧器とは異なり、噴霧溶液の加熱を必要としない[3]。振動型メッシュ式噴霧器は、片側に備えられた圧電メッシュディスクが取り付けられた液体タンクと、バッテリを備えたドライバ回路基板を備えたマイクロプロセッサユニットで構成されている。この圧電材料は、レーザによって精密に形成された無数の穴の通路を持ち、液体溶液と接触する。それは、特定の周波数と電圧のアナログ信号によって駆動されると、高周波で振動する。急速な振動の結果として、溶液は穴から引き出され、一定サイズの液滴(エアロゾル)を形成し、直接吸入のために低速で放出される。
【0013】
圧電材料の駆動周波数は、材料の共振周波数と等しい必要がある。このようにして、噴霧器は最も効率的な状態で動作する。なお、噴霧器の効率的な操作に影響を与えるその他の要因は、溶液の出口速度、メッシュサイズと粒子サイズ、および溶液の物理化学的特性などの噴霧特性である[4,5]。
【0014】
最近の研究では、一定の共振周波数において出口速度と電圧との間には関係があり、出口速度は駆動電圧とともに増加することが示されている[6]。圧電材料は、それ自体の共振周波数で最も振動し、駆動周波数が圧電セラミックの共振周波数に近づくと、薬液の放出速度がピークに達する[7,8]。ただし、実際の共振周波数は、メーカが指定する公称共振周波数とは異なる。共振周波数は、圧電材料の温度と圧力、及び/又は媒体の粘度によって引き起こされるインピーダンスの変化に依存する[9]。デバイスの実際の共振周波数とドライバ回路によって生成される信号周波数との間の1%の不適合でさえが、デバイスの使用効率の低下を招くことが研究で分かっている。この1%のコンプライアンス違反には、薬剤のデバイスからの液滴の排出率を11~30%悪化させ、液滴のサイズを1.6~7.7%増加させ、バッテリの消費電流を6.6~13.6%増加させる[10]。
【0015】
従来技術における解決策の制限と不十分さのため、鼻を完全に包むことによって閉鎖系を構成し、薬剤がシステムから漏れ出るのを防ぐことで、それを使用する人が薬剤から最大の効率を得ることを保証し、患者による薬剤服用遵守を最大化するような、そして、従来技術のすべての液体医薬組成物が適用可能であり、デバイスを鼻に挿入することなく経鼻投与が行われるような、鼻デバイスの提供が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明では、好ましくは円形、正方形、長方形、三角柱、四角形、五角形などの形状であって、鼻を完全に覆う閉鎖構造を構成して薬剤が漏れ出ることを防止することで、それを使用する人に最大限の薬効を保証し、患者の薬剤服用順守を最大化し、従来の全ての液体の医薬組成物に適用可能な、閉鎖系の経鼻治療装置が開示される。
【0017】
本発明の目的は、子供の鼻への薬剤の効果的かつ実用的な投与を提供することである。本発明のデバイスを用いた薬剤の最適で効果的な投与に加えて、従来技術のデバイスと比較して適用が容易である。
【0018】
本発明の他の目的は、外部への薬剤の漏出を防止することによって患者による薬剤服用遵守を最大化することである。外部への薬剤の漏れは、使いやすさを提供し且つ鼻に完全にフィットする本発明に係るデバイスの閉じた形状によって防止され、患者による薬剤服用遵守は、スプレー投薬形態のように圧力を加えることなく、はるかに高いレベルにまで向上する。薬剤投与の効率が高いほど、投与される薬剤の用量が少なくなるため、投薬期間と副作用が減少し、患者による薬剤服用遵守が向上する。本発明では、スプレー投薬系値の場合のように圧力を加えなくても、患者による薬剤服用遵守ははるかに高いレベルまで向上する。
【0019】
本発明の他の目的は、溶液形態の製剤を投与できるデバイスを提供することである。製剤は、本発明に係るデバイスにおいて、従来技術のデバイスよりも容易に溶液形態で調製することができる。さらに、投薬領域における溶液形態の吸収及びその有効性は、他の(半固体、固体などの)剤形よりも速く、より効果的である。
【0020】
本発明に係るデバイスは、市場で入手可能な多くの活性物質について、小児および正常な成人の両方において効果的な経鼻薬剤投与を可能にする。本発明に係るデバイスは、他の鼻腔内放出デバイスと比較して手と腕の調整を必要としないという効果、人がそれを鼻に挿入した後に特別な姿勢をとることなく通常の呼吸パターンで薬を服用することができるという効果、投薬された薬が閉鎖系によって他の鼻腔内投与経路よりも効率的に投与領域に留まるという効果を有し、より効果的な投薬を可能としている。
【0021】
本発明の他の目的は、鼻内での薬剤の残留時間を延長することによって薬剤の有効性を高めることである。本発明のデバイスが液体およびin-situシステム(室温では液体であり、鼻を標的とするときに、鼻のpHおよび体温でゲル化する製剤)の両方で使用される場合、薬剤の有効性は、鼻でのその薬剤の残留時間を長くすることでさらに向上する。本発明に係るデバイスは、液体剤形との相性が良い。in-situシステムもデバイス内では液状であり、身体への投与後にゲル化するシステムである。このため、製造段階と充填段階が液体剤形であるため、in-situシステムは鼻腔内放出デバイスと互換性がある。これらのin-situシステムは、適用後の液体剤形とは異なり、鼻の中でゲル化するため、活性物質がより長い時間鼻に留まることが保証される。
【0022】
本発明の他の目的は、鼻への投薬がなされたとき、薬剤を鼻に均一に分配することである。従来の点鼻器(点鼻スプレーなど)では、スプレーから出た滴が一定の角度で一定の範囲に効果を発揮し、鼻腔全体に薬剤を行き渡らせることができなかった。本発明により、従来の点鼻スプレーおよび点鼻薬の最大の欠点である、薬剤が鼻全体に均一に分布しないという問題は解消され、鼻内での薬剤の均一な分布が保証される。鼻腔内放出デバイスのメカニズムは、霧の形態で薬剤をターゲットである鼻粘膜に確実に噴霧し、薬剤が鼻腔全体に均一に到達することを保証する。
【0023】
本発明の他の目的は、追加のデバイスを必要とせずに無痛の鼻投薬を提供することである。鼻への投薬は、本発明を用いて、鼻孔への器具(スポイト、ピペット、シリコンキャップなど)の挿入または押し込みなど、身体の完全性に反する行為を必要とせずに行うことができ、患者は、痛みを伴わずにゆっくりと、ソフトミストの形態で投与される薬を吸入し、プロセスは薬が投与されていることを意識することなく閉鎖系で行われる。また、市場に出回っているデバイスのように、圧力や子供の鼻に圧迫を加えないため、本発明に係るソフトミスト技術で補助されるエアロゾル投薬により、親が力尽くで押さえ込む必要がなくなる。
【0024】
本発明の他の目的は、閉鎖系によって鼻の外側への薬剤の漏出を最小限に抑えることによって、薬剤を投与された個人に最大限の効果を提供することである。
【0025】
本発明の他の目的は、特に小児科の患者において、患者による薬剤服用遵守が高いデバイスを提供することである。患者の鼻に取り付けられたデバイスの部分に埋め込まれた薬剤リザーバは、本発明に係る遠隔電磁波によって引き起こされる圧電結晶機構によって遠隔制御される。そのため、鼻に装着する骨格系以外に接続ケーブルやチューブ、インジェクターは必要なく、アタッチメントのない設計である。それにより、小児患者はメカニズムにさらされていることを感じないため、患者による薬剤服用遵守がさらに高くなる。
【0026】
本発明の他の目的は、薬剤を投与できる経鼻放出デバイスを提供することである。特に、2歳までの乳児の体重値は週毎に変化する。本発明に係るデバイスによれば、遠隔制御することが可能であり、投薬は患者の個人情報に基づいて行うことができる。患者に投与される薬剤の投与量は、前述のデバイスの噴霧器に搭載されたBluetooth(登録商標)ユニット、マイクロプロセッサユニット、およびドライバ回路とスマートモバイルデバイス(スマートフォンなど)との通信により、また、デバイス骨格系の圧電結晶材料を動作させることで患者の個人情報(体重、身長、年齢、性別など)に応じて、デバイス内で調製することができる。
【0027】
本発明の他の目的は、確実に皮膚が刺激されないようにすることと、デバイスを鼻に取り付けた状態で快適な呼吸を提供することである。本発明に係るデバイスにおける鼻に取り付けられるキャリア部分は、スポンジまたはスポンジのような柔らかく通気性のある材料であるため、鼻からの呼吸が容易になる。また、デバイスは鼻の外側の表面を傷つけることはなく、デバイスの柔らかい質感で皮膚を刺激することもない。
【0028】
本発明の他の目的は、鼻への投与において鼻内における最適な薬剤残存量を確保することである。骨格系の上部への投薬中は開いて骨格の外壁を閉じるシャッタシステム形態をしたテントウムシの羽型シャッタを用いて、デバイスから漏れ出るエアロゾル霧に対する第2の障害を形成することで、最適な薬量が鼻に留まることを保証する。
【0029】
本発明の他の目的は、すべての患者グループにおいて、また、市販の経鼻投与用のすべての液体剤形において、成人および子供の両方が容易に使用できる製品を提供することである。
【0030】
本発明の他の目的は、鼻投薬における呼吸中の不必要な製剤放出を防止することである。エアロゾル雲を含む薬剤リザーバ内で呼吸中にのみ開く特別なポートを備えた本発明に係るデバイスによれば、呼吸中の不必要な製剤放出が防止される。
【0031】
本発明の範囲内で開発されたデバイスによる鼻および肺疾患の局所治療に加えて、全身効果をもたらす活性物質もこれらの応用分野から適用することができる。さらに、介してこのデバイスを使用することで、脳への薬剤投与を経鼻経路で実現することができる。
【0032】
本発明を用いることで、患者の年齢、身長、および体重に応じて、薬剤用量を調節することができる。さらに、遠隔制御装置を用いて薬剤放出を提供および制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の上面図である。
図2】本発明に係る内部の側面図である。
図3】本発明に係るデバイスの例示的な動作原理は以下の通りである;a)エアロゾルの枯渇、バッテリ残量の低下、トリガ信号の受信、b)トリガ信号の受信(Bluetooth、ボタン押下)、c)バッテリのフル充電、d)共進周波数の発見である。
図4】本発明に係るデバイス内のマイクロプロセッサ上で実行される共振周波数走査アルゴリズムである。
図5】本発明に係る経鼻治療装置における圧電性結晶材料の振動のための回路ブロック図である。
【符号の説明】
【0034】
本発明のより良い説明のため、図中の部及びセクションを列挙し、対応する符号を以下に示す。
1 - 骨格系
2 - 薬剤リザーバ
3 - バッテリ
4 - 穴
5 - 噴霧器
6 - 遠隔制御装置
7 - テントウムシの羽型シャッタ
100 - ユーザ
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、鼻を完全に覆うことで閉じた構造を構成して系から薬剤が漏れ出ることを防止することで、それを使用する人が薬剤から最大限の効果を得ることを保証し、患者による薬剤服用遵守を最大化する、従来の全ての液体医薬組成物を適用することが可能な経鼻治療装置に関する。
【0036】
それは、異なる幾何学的形状(円形、正方形、長方形、三角形、角柱、四角系、五角形など)に、好ましくは鼻を完全に覆うために丸く、設計された骨格系(1)と、このシステム内でチューブ形状または異なる幾何学的形状で製造でき、液状の薬剤で満たすことができる薬剤リザーバ(2)(リザーバ)と、入ってくる液体薬剤が標的領域内で所望の粒子間隔(2~15マイクロメートル)のエアロゾル液滴になることを可能にする穴(4)と、投薬チャンバ(リザーバ)(2)内の薬剤が穴(4)を通過するときにエアロゾル液滴になることを可能にする噴霧器(5)と、デバイスの遠隔制御を可能にする遠隔制御装置(6)と、噴霧器(5)が電気エネルギーで動作するときに必要とする電力を供給するバッテリ(3)と、噴霧器(5)がバッテリ又はバッテリ無しで携帯電話又は異なる信号送信装置により動作することを可能にし、患者への投薬量を年齢、身長および体重に基づいて調整するソフトウエアと、投薬中に骨格系(1)の上部に向かって開き、骨格系(1)の外壁を閉じるシャッタシステム形態の構造を有することで、同時に骨格系(1)の穴(4)から放出されたエアロゾル液滴がデバイスの骨格系(1)から漏れるのを防止するテントウムシの羽型シャッタ(7)と、を備える。本発明の一実施形態では、デバイスは、薬剤を鼻に向けて噴霧することができる起動ボタンをさらに含み、起動/押下されることでゆっくりとした穏やかな薬剤放出を提供する。本発明の一実施形態では、鼻治療装置はまた、セル電池以外の電池で動作してもよいし、または遠隔/無線で充電されることによって動作してもよい。
【0037】
本発明の他の実施形態では、前記経鼻治療装置は、
- 鼻を完全に覆う構造を有し、好ましくは円形であって、機構を外側から取り囲む骨格系(1)と、
- 機構内でチューブ形状またはさまざまな幾何学的形状で製造でき、液体の状態の薬剤で満たすことができる薬剤リザーバ(2)と、
- 骨格系(1)内の薬剤リザーバ(2)に隣接して配置される圧電結晶材料と、
- 動作中に噴霧器(5)が必要とする電力を供給するバッテリ(3)と、
- 侵入した液状の薬剤が標的領域で所望の粒子比を有するエアロゾル液滴に変化することを可能にする穴(4)と、
- 剤形が薬剤リザーバ(2)に含まれる穴(4)を通過する際にエアロゾル液滴になることを可能にし、経鼻治療装置をスマートモバイルデバイスで操作し、年齢、身長、体重および/または性別に応じて患者の投与量を調整する噴霧器(5)と、
- 投薬中に骨格系(1)の上部を開き、骨格系(1)の外壁を閉じるシャッタシステム形態の構造を有し、同時に穴(4)から放出されたエアロゾル液滴がデバイスの骨格系(1)から漏れるのを防止するテントウムシの羽型シャッタ(7)と、を備える。
【0038】
この実施形態では、前記デバイスはまた、遠隔制御装置(6)、またはデバイスを遠隔制御できるようにするBluetooth(登録商標)を含むモバイルデバイスを備えてもよい。また、この実施形態では、前記デバイスは、起動ボタンをさらに含んでもよい。
【0039】
鼻治療装置の動作原理は2段階で構成される。まず、液体の薬剤が電子システムによってエアロゾルの形態を形成するマイクロサイズの穴(4)に導かれることで、ゆっくりと移動できるソフトミストまたは正確なスプレーコンテンツが確実に形成される。第2段階では、デバイスから放出されたエアロゾル液滴がロスすることなく鼻腔に到達することが、骨格系(1)によって保証される。本発明は、ユーザの鼻に配置され、その準備が整うと、薬剤の種類や患者の使用目的によって異なるが、平均5分間の投与期間中にソフトミストエアロゾル雲が放出される。経鼻薬投与は、振動スクリーン法などの電気機械エアロゾル発生システムに基づいている。
【0040】
薬剤リザーバ(2)は、鼻腔内投与用の液体形態の薬剤を含むソフトミストエアロゾルを含み;デバイス全体においてコンパクトな構造を有する。骨格系(1)は、好ましくは海綿状であり、好ましくはボール形状であり、コンパクトな構造で鼻を覆う特徴を有する。薬剤リザーバ(2)に保持されている液状の薬剤は、デバイスの骨格系(1)が鼻に挿入され、起動ボタンが押されると、ゆっくりと穏やかに放出されることにより、薬剤を鼻内に放出する。鼻に取り付けられた骨格系(1)に埋め込まれた薬剤リザーバ(2)は、遠隔電磁波によって誘発される圧電性結晶材料を用いた遠隔制御(6)によって制御することができる。この圧電性結晶材料は、薬剤リザーバ(2)に隣接する骨格系(1)に位置する。年齢-体重-投薬量の計算と経過観察は、スマートフォン又はこのデバイス用に設計された制御パネルにインストールされたソフトウエアプログラムにより、遠隔制御装置(6)による投薬量制御を用いることで可能になる。噴霧器(5)は、Bluetoothユニット、マイクロプロセッサユニット、ドライバ回路を備える。
【0041】
本発明に係る経鼻治療装置で使用される圧電結晶材料の共振周波数を発見すると、デバイスは動作する。この理由から、デバイス内のドライバ回路は、この共振周波数を発見するために最初に使用される。図3には、本発明によるデバイスの例示的な動作原理が示されている。デバイスの最初の動作は、デバイスの起動ボタンを機械的に押すか、Bluetooth経由でスマートフォンアプリケーションからワイヤレスでトリガ信号を送信することによって実行される。次に、バッテリの状態がチェックされ、適切な場合、マイクロプロセッサユニットとドライバ回路が周波数スキャンプロセスを開始し、圧電材料の実際の共振周波数を発見する。周波数が発見されると、ドライバ回路が指定された電圧と周波数のアナログ信号で圧電材料を駆動し、そして圧電材料が振動する。薬品タンク内の液剤が無くなった場合、または電池残量が少なくなった状態で停止トリガ信号を受信した場合、ドライバ回路は信号の駆動を停止し、動作を終了する。
【0042】
図4に、マイクロプロセッサで実行する共振周波数スキャンアルゴリズムを示す。このアルゴリズムは、開始周波数と終了周波数の間をスキャンすることにより、圧電結晶材料の真の共振周波数を発見する。開始周波数と終了周波数は、材料の公称共振周波数の上下10%として選択することができる。初期周波数が設定され、ドライバ回路によりアナログ信号が材料に印加された後、電流が読み取られる。電流は毎回読み取られ、決定された周波数範囲で信号を生成し続けることによって、最大電流を伴う信号の周波数が記録される。スキャンの最後に、バッテリから最大の電流を引き出す信号の周波数が、圧電結晶材料の真の共振周波数である。
【0043】
図5には、本発明に係る経鼻治療装置における圧電結晶材料の振動のための回路ブロック図が示されている。
【0044】
本発明に係る経鼻治療装置の動作方法は、以下の通りである;
- Bluetoothユニットを介してスマートフォンとデバイス間の通信を確保し、患者の投薬量を調整するために必要な、患者の身長、体重、年齢、および/または性別の情報を取得し、このために生成されたトリガ信号をマイクロプロセッサユニットに送信する、
- マイクロプロセッサユニットによるマイクロプロセッサユニットに入力されたトリガ信号を処理し、圧電結晶材料の共振周波数を決定する、
- マイクロプロセッサユニットによって決定された共振周波数で信号を生成し、駆動回路によって圧電結晶材料に転送する、
- 圧電結晶材料が振動する、
- 振動する圧電結晶材料の薬剤チャンバ(2)をトリガすることで、エアロゾル液滴に変換された薬剤を、個人データに従って患者に合わせて調整された投薬量に従って決定された粒子サイズで、穴(4)から噴霧する。
【0045】
通常動作モードでは、デバイスはスマートモバイルデバイス(スマートフォンなど)との通信を継続する。スマートフォンアプリは、デバイスの稼働前と稼働中の両方で使用される。デバイスが動作を開始する前に、ユーザの選択、投薬量の選択、時間の選択などの設定も、スマートモバイルデバイスを介して行うことができる。また、スマートモバイルデバイスを介して患者の身長、体重、年齢、および/または性別の情報を選択することができ、患者に投与される投薬量は、この情報に従って決定される。さらに、本発明の一実施形態では、ユーザが経鼻治療装置を使用した日時、使用中のデバイス内の圧力、温度、湿度、および姿勢など、デバイス内のセンサから読み取られた情報が、デバイスのBluetoothユニットを介してスマートモバイルデバイスに送信され、ここでアプリケーションを介して記録される。
【0046】
鼻全体を覆う閉鎖系であるデバイスの作動系は、骨格系(1)内に配置された薬剤リザーバ(2)からの薬剤の放出から始まる。ここでは、患者の年齢、性別、身長-体重比などの要素に応じて薬の投与量が調整され、開発されたソフトウエアを介して必要なレベルで注入される。次に、噴霧器の128,000個の穴が、電気エネルギー及び振動スクリーン技術(VMT)を用いて振動し始め、薬剤リザーバ内の剤形(溶液、エマルジョン、または懸濁液)が、この振動スクリーンシステムを通過するときにエアロゾル液滴に変化する。
【0047】
薬剤を鼻や脳に向けて投与する場合、エアロゾル液滴の粒子サイズは10~15マイクロメートルにする必要がある。局所投薬の標的を肺とすることが望まれる場合、エアロゾル液滴の粒子サイズは2~6マイクロメートルである必要がある。全身投薬の標的を肺とすることが望まれる場合、エアロゾル液滴は1マイクロメートル未満の粒子サイズを持つ必要がある。ここでのサイズの違いは、デバイスの骨格系(1)の穴(4)と、穴の振動周波数によって実現される。
【0048】
デバイスの鼻に取り付けられた骨格系(1)は、スポンジ状の材料からなる。しかしながら、これに代わるものとして、骨格系(1)の材料は、身体に適合し、害を及ぼさないプラスチック、スポンジゴム、ポリマー由来の材料で作ることができる。骨格系(1)で開く薄いシャッタシステム形態の構造を持ち、海綿状構造で生産されたテントウムシの羽型シャッタ(7)は、デバイスから漏れ出るエアロゾル蒸気に対する第2の障害を構成し、薬剤の投与中に最適な薬剤が鼻に確実に残るようにする。
【0049】
本発明の他の実施形態では、電気エネルギーなしでデバイスを使用することが可能である。そのような使用では、電気噴霧器(5)、噴霧器(5)にエネルギーを供給するバッテリ(3)、及び噴霧器(5)に従って設計されたソフトウエアは、システムから省略され;デバイスの骨格系(1)にエアバルーン及びこのエアバルーンに接触する少なくとも1つのシリンジがある。シリンジ内の空気はエアバルーンに機械的な力を加え、エアバルーンを確実に膨張させ、気球内に圧力を形成する。シリンジが空気で満たされると、平均10barの圧力が発生する。この圧力で薬剤リザーバ内の薬液を穴システム(4)に確実に搬送するエアバルーンと、エアロゾル液滴が外部に逃げるのを防ぐテントウムシの羽型シャッタ(7)がある。このような用途では、噴霧器(5)がシステムから取り除かれるので、電子システムは機械的となる。
【0050】
本発明の他の実施形態では、骨格系(1)内に配置されたばねシステムと、デバイス内のこのばねシステムに連結するラッチとが存在する。このラッチは、デバイスの骨格系(1)の外側に配置され、ラッチを手で回し始めると、ばねシステムが伸び始め、このエネルギーが提供されて、薬剤リザーバ(2)内の剤形が鼻スプレージェットに押し出される。ここに含まれる鼻スプレージェットは、従来の点鼻薬の鼻洗浄液に使用されている液体を鼻に噴霧するシステムである。このシステムは、鼻孔に対応する角度で両方の鼻孔を標的とする角度で、閉じた骨格系(1)内に配置を提供する。圧力は、電子システムではなく、このシステムの薬剤リザーバ(2)、穴(4)、テントウムシの羽型シャッタ(7)に隣接する機械システムによって提供される。この圧力は、上述の代替実施形態で述べた機械システムである。
【0051】
上述の代替実施形態では、薬剤リザーバ(2)、穴(4)、およびテントウムシの羽型シャッタ(7)は同様であり、システムの動作を可能にする圧力が電気でないか又はバッテリが切れている場合、電気の代わりに機械的にシステムの使用を可能にする。
【0052】
本発明に係るデバイスは、5分間の投薬のために最大で300pLのリザーバ面積を必要とする。デバイスから放出または噴霧されるエアロゾルの液滴サイズは、鼻および脳を標的とする場合は10~15pm、肺を標的とする局所投薬の場合は2~6pm、肺を標的とした全身投薬の場合は1マイクロメートル未満の範囲である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0053】
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図1
図2
図3
図4
図5