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特許7573921ウルトラファインバブルの発生装置、水循環システムおよびノズル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】ウルトラファインバブルの発生装置、水循環システムおよびノズル
(51)【国際特許分類】
   B01F 23/2375 20220101AFI20241021BHJP
   B01F 23/2326 20220101ALI20241021BHJP
   B01F 25/313 20220101ALI20241021BHJP
   B01F 33/81 20220101ALI20241021BHJP
   A01K 63/04 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
B01F23/2375
B01F23/2326
B01F25/313
B01F33/81
A01K63/04 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024069472
(22)【出願日】2024-04-23
【審査請求日】2024-04-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524156504
【氏名又は名称】合同会社喜八郎
(74)【代理人】
【識別番号】100143111
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100189876
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 将晴
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博幸
(72)【発明者】
【氏名】折田 大充
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-028340(JP,A)
【文献】特開2020-138106(JP,A)
【文献】国際公開第00/009243(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 23/00-25/90
B01F 33/81
C02F 1/68
A01K 63/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中ポンプに装着されるノズルであって、
前記ノズルが、整流手段と、空気の微細化手段と、空気の吸引手段とを上流側から順に備え、
前記整流手段が、複数の螺旋状流路を有し、
各々の前記螺旋状流路が、前記ノズルの中心軸の周りに均等に配されると共に、反時計回りに捻じられた流路とされ、
前記微細化手段が、前記吸引手段の上流に隣接して設けられると共に、前記水中ポンプにより圧送された水の流速を高くさせる絞り部とされ、
前記吸引手段が、前記流速による負圧により空気を導入する空気導入管とされ、
前記絞り部が、前記空気導入管から前記ノズルに導入される前記空気を、微細気泡とさせるように機能し、
前記整流手段が、前記微細気泡が含まれた前記水を、前記ノズルから渦巻かないで吐出させるように整流させ、前記微細気泡を大きな気泡に凝集させない、
ことを特徴とするノズル。
【請求項2】
前記螺旋状流路が、3本の螺旋状流路とされ、各々の前記螺旋状流路が同一形状とされている、
ことを特徴とする請求項1に記載のノズル。
【請求項3】
前記整流手段をなす流路の長さが、前記流路の外径に対して、2倍以上3倍以下とされ、
前記螺旋状流路の流入口と流出口の位相のずれが、反時計回りに180度ずれている、
ことを特徴とする請求項1に記載のノズル。
【請求項4】
ウルトラファインバブルの発生装置であって、
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の前記ノズルが、前記水中ポンプの本体に備えられた吐出口の下流に備えられている、
ことを特徴とする発生装置。
【請求項5】
水循環システムであって、
請求項4に記載の前記発生装置を複数含み、
各々の前記発生装置が、上流に配された発生装置から吐出された前記水を、下流に配された発生装置が吸入させて、前記水を循環させている、
ことを特徴とする水循環システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中にウルトラファインバブルを発生させて、水の性状を植物の育成、養殖、洗浄等に適した性状に改質させるウルトラファインバブルの発生装置、水循環システムおよびノズルに関する。より詳細には、水を吐出するノズルを備えた水中ポンプからなる発生装置であって、水のpH値を変えないでウルトラファインバブルを発生させ、発生させた気泡を水中に長時間留めることができる発生装置、水循環システムおよびノズルに関する。
【0002】
具体的には、水中ポンプとノズルに予めテラヘルツ波を照射させ、水中ポンプとノズルとから水分子と共振する周波数帯のテラヘルツ波を放射させて、隣り合う水分子の引力的相互作用を分断させて活性化させる。そして、ポンプからノズルに活性化させた水を圧送させ、ノズルから延びる空気導入管に負圧を発生させて空気を吸引し、吸引による気泡を微細化させてウルトラファインバブルを発生させ、水に溶存させる発生装置、水循環システムおよびノズルに関する。
【背景技術】
【0003】
従来から、農業用水や魚の養殖池の溶存酸素濃度を高くさせると、農作物・養殖魚の育成が促進されることが知られており、貯水槽に曝気装置を設置して水に強制的に空気を導入し、溶存酸素濃度を高くすることが行われてきた。しかし、従来の曝気装置では水中に発生させる気泡が大きかったため、気泡の大半が短時間で水面まで浮上して大気に放散され、水に溶存する空気は僅かでしかなかった。
【0004】
近年、水中に発生させる気泡を微細化させることにより、水の洗浄力を向上させる技術、溶存酸素濃度を効率よく高くさせる技術等が普及しつつある。2019年にはファインバブル技術に係る日本産業規格(JIS B 8741-1)が規定され、ファインバブルは直径が1μm以上100μm以下の気泡と定義され、ウルトラファインバブルは直径が1μm未満の気泡と定義された。
【0005】
微細気泡のうち、ウルトラファインバブルは水中に数か月から1年といった長期間に亘って留まることが確認されており、農業、養殖、畜産、水質改善、洗浄といった多様な技術分野での応用が期待されている。ところが、自然界に存在する水は、隣り合う水分子が引力的相互作用によりクラスターを形成しているため、気泡を溶存させるための隙間が大きくなっている。
【0006】
そのため、簡易な装置で水中に発生させた微細気泡は、隣り合うクラスターの隙間で、ウルトラファインバブルよりも大きい気泡に凝集されて、短時間で水中から大気に放散されやすく、微細気泡を水中に安定して溶存させることは困難であった。そこで、従来から水分子のクラスターを細分化させることにより、微細気泡を安定して溶存させる技術が開発されている。
【0007】
特許文献1には、ナノバブル含有磁気活性水の製造装置の技術が開示されている。この文献に記載の技術によれば、液体に磁場をかけて水分子のクラスターを細分化させると共に、第1気体せん断部により液体にマイクロバブルを発生させ、更に第2気体せん断部によりマイクロバブルをせん断し、ウルトラファインバブルを発生させるとされている。
【0008】
この文献によれば、水を磁力線の中に通過させて水中に微弱電流を発生させることにより、水中に活性酸素を発生させて、酸化還元電位の高い水に改質させている。酸化還元電位とpH値とは相関性があり、酸化還元電位が上昇すると、pH値は低下して酸性が強くなる。具体的には、曝気後の水のpH値が5.2となった試験結果が示されている。
【0009】
しかし、農林水産省が公開している「土壌pHと肥料要素の溶解・利用度(非特許文献1)」によれば、農作物の三大栄養素である窒素、リン、カリウム等は、いずれもpHが5.5未満では溶解しにくくなることが示されており、文献1に記載の技術は、植物の育成に適さないという課題があった。
【0010】
特許文献2には、水中に微細気泡を曝気させる水中溶存酸素増加装置の技術が開示されている。この文献に記載の技術によれば、水中に浸漬させる吸引フィルターと微細気泡発生ノズルとに、5THzから50THzの周波数帯の電磁波を発振する物質を組み込み、水分子のクラスターを細分化させている。
【0011】
この文献によれば、曝気後の水のpH値が8.5となった試験結果が示されている。非特許文献1によれば、pH値が7.5を超えると、リンのほか、ホウ素、鉄、マンガン等のミネラル類も溶解しにくくなることが示されている。これらのリン・ミネラル類が欠乏すると、農作物に葉枯れ等の病害が発生することから、文献2に記載の技術を適用したとしても、植物の育成を促進できないという課題があった。
【0012】
特許文献3には、マイクロナノバブル含有水製造装置の技術が開示されている。この文献に記載の技術によれば、磁力線による気体分子クラスター分解手段と、テラヘルツ波による水分子クラスター分解手段とを備えさせたことにより、水中に配設させた散気管から発生させるマイクロナノバブルを効率よく溶存させるとしている。
【0013】
しかし、文献3に記載の技術によれば、ポンプと散気管以外に、気体分子クラスター分解手段と水分子クラスター分解手段とが必要となり、装置が複雑になるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
特許文献1:特開2009-28595号公報
特許文献2:特開2011-224529号公報
特許文献3:特開2022-64805号公報
【非特許文献】
【0015】
非特許文献1:農林水産省のホームページ,「土壌pHと肥料要素の溶解・利用度」,令和6年4月4日検索,ウェブサイト
<https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/attach/pdf/index-10.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、水のpH値を変えないで、ウルトラファインバブルを発生させることができ、気泡の溶存時間を長くすることができるウルトラファインバブルの発生装置、水循環システムおよびノズルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の発明は、水中ポンプに装着されるノズルであって、前記ノズルが、整流手段と、空気の微細化手段と、空気の吸引手段とを上流側から順に備え、前記整流手段が、複数の螺旋状流路を有し、各々の前記螺旋状流路が、前記ノズルの中心軸の周りに均等に配されると共に、反時計回りに捻じられた流路とされ、前記微細化手段が、前記吸引手段の上流に隣接して設けられると共に、前記水中ポンプにより圧送された水の流速を高くさせる絞り部とされ、前記吸引手段が、前記流速による負圧により空気を導入する空気導入管とされ、前記絞り部が、前記空気導入管から前記ノズルに導入される前記空気を、微細気泡とさせるように機能し、前記整流手段が、前記微細気泡が含まれた前記水を、前記ノズルから渦巻かないで吐出させるように整流させ、前記微細気泡を大きな気泡に凝集させないことを特徴としている。
【0018】
抵抗が小さいまっ直ぐな管路を通った水流は、ノズルの吐出口では北半球では時計回りの渦を、南半球では反時計回りの渦を発生させる。第1の発明によれば、逆トルネードのノズルにおいて、複数の細い捻じれた流路を形成させている。そうすることにより、流路壁と水との面積が増大され、流路壁を水流の抵抗とさせ、流速を低下させると共に水流を整流させている。
【0019】
単位水量あたりの水と流路壁との接触面積の増加、及び、水と流路壁との接触時間を増加させる逆トルネードにより水流を整流させていることにより、ノズルの吐出口における渦の発生を抑制し、ウルトラファインバブルが大きな気泡に再凝集することを抑制させるという効果を奏する。
【0020】
なお、第1の発明を北半球で使用する場合には、螺旋状流路が、時計回りの渦を打ち消すように、反時計回りに捻じられればよい。
【0021】
第1の発明によれば、ノズルの吐出口における渦の発生を抑制し、発生されたバブルが大きな気泡に再凝集されることを抑制させることができるという有利な効果を奏する。第1の発明のノズルは、後述する第4の発明の発生装置、第5の発明の水循環システムに適用されると好適である。
【0022】
本発明の第2の発明は、第1の発明であって、前記螺旋状流路が、3本の螺旋状流路とされ、各々の前記螺旋状流路が同一形状とされていることを特徴としている。第2の発明によれば、螺旋状流路の数が3本で同一形状とされているため、水流を著しく低下させず、整流効果が得られるという効果を奏する。流路の断面形状は円形状であればよいが限定されない。
【0023】
本発明の第3の発明は、第1の発明であって、前記整流手段をなす流路の長さが、前記流路の外径に対して、2倍以上3倍以下とされ、前記螺旋状流路の流入口と流出口の位相のずれが、反時計回りに180度ずれていることを特徴としている。第3の発明によれば、流路の長さが外径に対して2倍以上3倍以下であり、且つ、流入口と流出口の位相差が180度であるため、圧送させた水の流速を落とさず、短い距離で整流することができる。
【0024】
本発明の第4の発明は、ウルトラファインバブルの発生装置であって、第1の発明から第3の発明の前記ノズルが、前記水中ポンプの本体に備えられた吐出口の下流に備えられていることを特徴としている。
【0025】
ノズルが、空気の吸引手段をなす空気導入管と、空気の細分化手段をなす絞り部と、整流手段をなす螺旋状流路とからなるため、構造が簡単であり、ノズルに詰まりが発生しにくく、発生装置を上水だけでなく、養殖池等に使用することもでき、汎用性が高い。
【0026】
また、水中ポンプおよびノズルの全体から、圧送させる水にテラヘルツ波を放射させると好適である。テラヘルツ波を放射させる場合については、水中ポンプとノズルの加工は、公知のテラヘルツ波照射装置により、水分子と共振する周波数帯のテラヘルツ波が照射されるだけでよい。
【0027】
水中ポンプとノズルの全体から、32THzから38THz以下の周波数帯のテラヘルツ波を放射させれば、実施例で後述するとおり、ウルトラファインバブルを溶存させやすい活性化させた水(以下、活性水という)とすることができる。
【0028】
吸引手段と微細化手段とにより、活性水の中に発生させたウルトラファインバブルは、実施例の気泡数の計測試験1で後述するとおり、直径0.1μm以下の気泡となりやすく、発生させた気泡が凝集されにくく、気泡の溶存時間が長くなる。
【0029】
また、本発明の発生装置は、純水、湖沼水、水道水、養殖池の水のいずれに適用した場合であっても、pH値を殆ど変化させることがなかった。そのため、農業用水に適用させた場合には、三大栄養素もミネラル類の溶存も阻害させにくく、且つ、溶存酸素濃度が高いことから、農作物の育成促進に好適である。
【0030】
本発明の第4の発明によれば、水のpH値を変えないで、ウルトラファインバブルを発生させることができ、その溶存時間を長くすることができるという従来技術にはない有利な効果を奏する。水のpHを変えないため、農業用水に適用させれば、水耕栽培だけでなく、土耕栽培において農作物に散水する場合であっても、生育促進効果を得やすい。
【0031】
本発明の第5の発明の水循環システムは、第4の発明の前記発生装置を複数含み、各々の前記発生装置が、上流に配された発生装置から吐出された前記水を、下流に配された発生装置が吸入させて、前記水を循環させていることを特徴としている。
【0032】
第5の発明によれば、複数の発生装置を配列させて、ウルトラファインバブルを溶存させた水を循環させている。これにより、ウルトラファインバブルが溶存された水を、広く遠方まで吐出させることができるという効果を奏する。
【0033】
更に、複数の発生装置により循環流を発生させているため、広い面積の養殖池・ため池等に適用させた場合であっても、池全体にウルトラファインバブルを行き渡らせることができ、水質改善、養殖魚介類の生育促進効果が得られるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0034】
・本発明の第1の発明によれば、吐出口における渦の発生を抑制し、発生されたバブルが大きな気泡に再凝集されることを抑制させることができるという有利な効果を奏する。
・本発明の第2の発明によれば、水流を著しく低下させず、整流効果が得られるという効果を奏する。
【0035】
・本発明の第3の発明によれば、圧送させた水の流速を落とさず、短い距離で整流することができる。
・本発明の第4の発明によれば、水のpH値を変えないで、ウルトラファインバブルを発生させることができ、その溶存時間を長くすることができるという従来技術にはない有利な効果を奏する。
【0036】
・本発明の第5の発明によれば、ウルトラファインバブルが溶存された水を、広く遠方まで吐出させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】発生装置の概要図(実施例1)。
図2】ノズルの説明図(実施例1)。
図3】整流手段を備えるノズルの説明図(実施例1)。
図4】渦と、整流させた水の模式図(実施例1)。
図5】気泡溶存数を比較するグラフ(実施例1)。
図6】気泡溶存数の経時変化を比較するグラフ(実施例1)。
図7】水循環システムの説明図(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0038】
予めテラヘルツ波が照射された水中ポンプとノズルから、水分子と共振する周波数帯のテラヘルツ波を放射させ、隣り合う水分子の引力的相互作用を分断させ水を活性化させ、ノズルに吸引した空気を微細化させてウルトラファインバブルを発生させ水に溶存させるようにした。ノズルには、圧送水に発生する渦を整流させる整流手段を備えさせると好適である。
【実施例1】
【0039】
実施例1では、水中ポンプとノズルとからなるウルトラファインバブルの発生装置1を、図1から図6を参照して説明する。図1は、発生装置の概要図を示している。図2は、ノズルの断面による説明図を示している。図3(A)図は、整流手段を備えたノズルの断面による説明図を示している。図3(B)図は、整流手段の拡大図を示している。
【0040】
図4は、渦を整流させる整流手段の説明図を示している。図4(A)図は、図2に示すノズルから渦巻いた水が吐出されている状態を示し、図4(B)図は、図3(A)図に示すノズルから整流させた水が吐出されている状態を示している。図5は、発生装置の構成の違いによる気泡溶存数を比較するグラフを示している。図6は、発生装置の構成の違いによる気泡溶存数の経時変化を比較するグラフを示している。
【0041】
発生装置1は、テラヘルツ波照射装置によりテラヘルツ波が照射された水中ポンプ10とノズル20とからなる(図1)。テラヘルツ波の周波数帯は、水分子と共振する32THz以上38THz以下とされている。特に、約35THz前後の周波数帯のテラヘルツ波を照射させると好適である。
【0042】
テラヘルツ波照射装置は、公知の装置であればよく限定されない。例えば、テラヘルツ波だけを照射させる装置であってもよく、加温しつつテラヘルツ波を照射させる装置であってもよい。具体的には、電子レンジで料理を調理する如く、テラヘルツ波照射装置の中に水中ポンプ10とノズル20とを収容し、テラヘルツ波を照射させるだけでよい。テラヘルツ波を照射された水中ポンプ等からはテラヘルツ波が放射される。
【0043】
水中ポンプ10は、水を吸水口から吸水してノズルに圧送させる本体部11と、本体部から側方に突出された吐出口12と、水中ポンプに交流電力を供給させるケーブル13とからなる(図1参照)。水中ポンプの大きさ・吐出圧力等は、適用させる水の貯水量に応じて決めればよく限定されない。
【0044】
水を吐出させるノズル20は、空気の吸引手段をなす空気導入管21と、空気の微細化手段をなす絞り部22を備えた管体23とされ(図2参照)、水中ポンプの吐出口12に装着されて水に浸漬されている。水中ポンプ10とノズル20とから放射されたテラヘルツ波は、水中ポンプ内部とノズル内部とを圧送された水分子の引力的相互作用を分断させて、水を活性水に改質させている。
【0045】
ノズルをなす管体23は、単数の管であってもよく、複数の管を連結させてもよく、形態は限定されない。ここでは管体23は、上流側から、絞り部を有する第1流速調整管24と、第1流速調整管に内嵌させて絞り部22を位置固定させる内挿管25と、第1流速調整管の先端に連結させる負圧発生管26と、負圧発生管の先端に連結させる第2流速調整管27とからなる。管体の材質は、ポリ塩化ビニルとしているが、ステンレス、アルミニウム等の金属製であってもよく、これに限定されない。
【0046】
第1流速調整管24は、後端部に吐出口12に装着させる装着部28を有すると共に、内部にノズルの内径を絞って水中ポンプから圧送された活性水の流速を高くさせる絞り部22を備えている。絞り部22は、第1流速調整管24の先端から挿入させた負圧発生管の挿入部29と、第1流速調整管の後端から挿入させた内挿管25との間に挟まれて、位置固定されている(図2参照)。
【0047】
絞り部22は、公知のステンレス製のワッシャー等の薄板リングであればよい。絞り部の内径は、例えば、内挿管25の外径の約1/2から1/3の大きさとすると好適であるが、これに限定されない。水中ポンプから圧送された活性水は、絞り部により流速が高くされた状態で負圧発生管26に圧送され、圧送された活性水の水流により、空気導入管21からノズル20に吸引させた空気の泡を微細化させる。
【0048】
負圧発生管26は、側方に穿設させた孔30に空気導入管21が挿入されて、空気導入管の先端開口部が水に浸されている。負圧発生管26の内径は、後端部から前記孔の位置にかけて拡径されている。活性水の流速が絞り部22により高められて負圧発生管26に負圧が発生し、空気導入管21からノズルに空気が吸引される。
【0049】
ノズルに吸引され、気泡とされた空気は、絞り部22で流速が高められた活性水により微細化され、一部がウルトラファインバブル200となり隣り合う水分子同士の隙間に溶存される。径が大きい気泡201については、溶存しないまま、活性水と共に第2流速調整管27に圧送される。
【0050】
第2流速調整管27においては、負圧発生管よりもノズルの内径を絞り、吐出水量を低下させ大きな気泡の発泡を抑制し、ウルトラファインバブルの凝集を抑制している。ノズルの先端からは時計回りに渦巻いた活性水が、貯水槽300に蓄えられた水中に吐出される(図4(A)図参照)。この渦によって、ウルトラファインバブルの一部は、気泡201と衝突、又はウルトラファインバブル同士で衝突することにより、再凝集して大きな気泡201と同様に水面に浮上して消失する。
【0051】
ここで、整流手段を備えるノズル(以下、整流ノズル40という。)を、図3を参照して説明する。整流手段41は、複数の螺旋状流路42を備え、絞り部22の上流側に位置されている。具体的には、整流手段は、第1流速調整管24の上流側から内挿管25に挿し込まれている。ここでは、整流手段は、3Dプリンタにより熱硬化樹脂を使用して製造し、テラヘルツ波を照射させている。
【0052】
整流ノズル40には、その中心軸43の周りに等間隔で3本の螺旋状流路42を形成させている(図3(B)図参照)。螺旋状流路42は、流入口44から流出口45にかけて、位相差が180度となるように、中心軸43の周りで、反時計回りに捻じられて形成され、水中ポンプの吐出口で発生させる時計回りの渦を整流させている。
【0053】
整流手段41においては、整流手段を有さないノズル20と比べて、活性水と流路壁との接触面積が増大し、水が流れる際の抵抗が大きくなり、活性水の流速が低下するため、著しく流速を低下させないように、整流手段41の長さは、その外径に対して2倍以上3倍以下としている。具体的には、整流手段の長さを約25mmから約30mm、直径を約10mmから15mmとした。
【0054】
これにより、整流ノズル40では、水の流速を、負圧を発生可能な範囲で低下させつつ、テラヘルツ波を放射する流路壁と水との接触時間を長くすることができ、水の引力的相互作用によるクラスターをより細かく分断させて、整流手段を有さないノズル20(図3参照)よりも、多くのウルトラファインバブル200を発生させることができる。
【0055】
また、整流手段により渦が整流されているため、整流ノズル40からは微細気泡が含まれた活性水が渦巻かない状態で吐出されるため、吐出された微細気泡同士が衝突されにくく、溶存時間の短い大きな気泡に凝集されにくい(図4(B)図参照)。
【0056】
(気泡数の計測試験1)
気泡数の計測試験1では、直方形形状の貯水容器に50リットルの純水を貯留させ、水中ポンプ10とノズル20とを浸漬させて30分間駆動させ、水1mLあたりに溶存している気泡の数と径を計測した。試験結果は、表1と図5に示している。水中ポンプの性能は、吐出量が80L/分、揚程が5mである。以下の各表には、左端欄に下記の各試験に対応する符号を付している。表1では、溶存期間の長い0.1μm未満の気泡数と、JIS B 8741-1に規定される直径が1μm未満のウルトラファインバブルの気泡数と、その他の気泡数の夫々の計を示している。
【0057】
図5の各図は、以下の各試験の発生装置における気泡の直径と発生数との関係を示したグラフであり、図5(A)図は(以下、試験条件(A)という。)ノズルだけをテラヘルツ波を照射している場合であり、図5(B)図は(以下、試験条件(B)という。)ノズルと共に水中ポンプにもテラヘルツ波を照射した場合であり、図5(C)図は(以下、試験条件(C)という。)テラヘルツ波を照射した整流ノズルを試験条件(B)に付加した場合を示している。
【0058】
気泡数と径の計測は、日本産業規格「JIS B 8741-2」と「JIS Z 8825-1」とに準拠して、レーザー回析式粒度分布測定装置により実施した。試験地及び試験者は、新潟県工業技術総合研究所である。試験日は、2024年3月4日である。測定機は、株式会社島津製作所製の「SALD-7500X10」である。
【0059】
[表1]
【0060】
試験条件(A)では、水中に溶存している気泡の略全てが、JIS B 8741-1に規定される直径が1μm未満の気泡のウルトラファインバブルであることが確認された。一方、溶存期間の長い0.1μm未満のウルトラファインバブルについては、800,114個/mLに留まり、ウルトラファインバブル全数に対する割合は約2.3%だけであった。
【0061】
試験条件(B)でも、溶存している微細気泡の略全てが直径1μm未満のウルトラファインバブルであった。ウルトラファインバブルの数は、166,612,662個/mLであり、試験条件(A)の約5倍であった。なお、溶存期間の長い0.1μm未満のウルトラファインバブルについては、59,245,921個/mLとなり、試験条件(A)の約74倍となり有意に増加した。
【0062】
また、直径0.1μm未満の気泡数が、ウルトラファインバブルの総数の約35.5%であり、試験条件(A)の約15倍となり有意に増加した。試験条件(A)と(B)との相違点は、水中ポンプにテラヘルツ波を照射したか否かだけであった。この結果から、ノズルだけでなく、水中ポンプにもテラヘルツ波を照射させていることが、ウルトラファインバブルの発生数の増大と、気泡の溶存時間の長期化に有効であることが確認された。
【0063】
試験条件(C)でも、溶存している微細気泡の略全てが直径1μm未満のウルトラファインバブルであった。直径1μm未満のウルトラファインバブル数が、642,050,679個/mLであり、試験条件(B)の約3.8倍であった。溶存期間の長い0.1μm未満のウルトラファインバブルについては、221,574,322個/mLとなり、試験条件(B)の約3.7倍であった。
【0064】
試験条件(B)と(C)との相違点は、ノズルに整流手段を備えさせたか否かだけである。この結果から、整流手段をなす螺旋状流路により、活性水に生じていた渦を整流させることが、微細気泡の再凝集の抑制に、更に有効であることが確認された。特に、直径0.1μm以下のウルトラファインバブルの発生数の増大に顕著な効果があることが確認された。
【0065】
(pH値の計測試験1)
pH値の計測試験1では、気泡数の計測試験1の後の水を計測対象とし、pH値と水温を計測した。試験結果は、表2に示している。pH値の計測試験1は、気泡数の計測試験1の実施直後に、出願人自らが実施している。試験機は、株式会社堀場製作所製のpH計測器である。
【0066】
試験開始時のpH値・水温は、貯留容器に蓄えた純水のpH値と水温であり、pH値は6.140、水温は10.0℃であった。試験開始時において、純水のpHが6.14であり、7.0未満となっているのは、空気中の二酸化炭素が純水に溶解してpH値が下がったためである。
【0067】
[表2]
【0068】
試験条件(A)では、純水からpH値が約0.11上昇した。(B)では純水からpH値が約0.04減少し、試験条件(C)でも純水からpH値が約0.12減少した。いずれの場合も、純水のpH値を殆ど変化させなかった。本発明によれば、上記した特許文献1から3とは異なり、純水のpH値を殆ど変えないで、ウルトラファインバブルを多数含む水とすることができ、農作物の育成促進に適していることが実証された。
【0069】
(pH値の計測試験2)
pH値の計測試験2では、ウルトラファインバブルを発生させる対象水の種類によって、水のpH値の変化が異なるか検証した。対象水は、純水、新潟県上越市の養魚場で取水した養殖水、新潟県上越市の水道水、長野県の野尻湖で取水した湖沼水の4種である。試験結果は、表3に示している。発生装置はノズルと水中ポンプとの全体にテラヘルツを照射した試験条件(B)とし、水中ポンプの駆動時間を30分に統一した。
【0070】
pH値の計測は、日本産業規格「JIS K 0102 12.1」に準拠したガラス電極法により実施した。試験者および試験地は、一般財団法人上越環境科学センターである。試験日および取水日は、純水と養殖水については2024年2月7日であり、水道水と湖沼水については2024年2月19日である。
【0071】
[表3]
【0072】
純水のpH値は、約5.8から6.0に増加したが、増加値は約0.2であった。養殖水のpH値は約7.4から7.6に増加したが、増加値は約0.2であった。水道水のpH値は、約5.6から5.5に減少したが、減少値は約0.1であった。湖沼水のpH値は、約6.0から6.1に増加したが、増加値は約0.1であった。
【0073】
この試験結果からは、本発明のウルトラファインバブルの発生装置によれば、原水が弱酸性・弱アルカリ性のいずれであっても、pH値を殆ど変化させないことが確認された。農業用水に適用させたときには、農作物の生育に必須である三大栄養素とミネラル類の吸収阻害を発生させずに、ウルトラファインバブルによる植物の生育を促進することができる。養殖池に適用させたときには、魚介類の生育環境を変えずに、溶存酸素濃度を高くすることができる。
【0074】
(気泡数の計測試験2)
気泡数の計測試験2は、(気泡数の計測試験1)と同様にして発生させた気泡溶存数の経時変化を計測した。発生装置のノズルから吐出させた水を、貯留容器内で循環させて、水1mLあたりの気泡溶存数の経時変化を計測した。試験結果を表4と図6に示している。具体的には、円筒形状の貯水容器に20リットルの純水を貯留し、水中ポンプとノズルとを浸漬させ、円筒壁に向けて水を吐出させて循環流を発生させるようにした。
【0075】
ノズルと水中ポンプ全体にテラヘルツ波を照射した発生装置の試験条件(B)により、発生させた気泡溶存数の経時変化を計測した。表4には、試験条件(B)での、30分経過後、60分経過後の気泡数を示している。図6(B-1)図には、30分経過後の気泡数と分布とをグラフで示し、図6(B-2)図には60分経過後の気泡数と分布とをグラフで示している。
【0076】
[表4]
【0077】
気泡数の計測試験2の結果によれば、試験条件(B)については、30分経過時点でも気泡数が増加し、60分経過後においても気泡数(図6(B-2)図参照)は、30分経過時点(図6(B-1)図参照)と比べて、直径1μm未満の気泡数が、約9.4倍となり、直径0.1μm未満の気泡数が約16.4倍となった。この結果から、本発明の発生装置は、養殖池のように水を循環させ続ける環境において、ウルトラファインバブルの発生・維持に有効であることが確認された。
【実施例2】
【0078】
実施例2では、水循環システム100を、図7を参照して説明する。図7は、養殖池に発生装置を環状に配設させてなる水循環システムの平面図を示している。
【0079】
水循環システム100は、養殖池の面積にあわせて複数の発生装置を環状に配設させている。例えば、長さ20m、幅4mの養殖池であれば、発生装置を約2mの間隔をあけて配設させる。各々の発生装置1をなすノズルから吐出させる水が循環流をなすように、水の吐出方向は、下流側で隣り合う発生装置に向けている。
【0080】
本発明の発生装置1によれば、上記した気泡数の計測試験2に示したとおり、ウルトラファインバブル含有水を循環させることにより、ウルトラファインバブルの数を著しく増加させることができる。水循環システム100では、複数の発生装置1,1・・を環状に配設させ、ウルトラファインバブル含有水を循環させているため、容積の大きい養殖池であっても、ウルトラファインバブルの再凝集を防いで、効率よく溶存酸素濃度を高くすることができる。
【0081】
(その他)
・今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記した説明に限られず特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
1…発生装置、100…水循環システム、
10…水中ポンプ、20…ノズル、
11…本体部、12…吐出口、13…ケーブル
21…空気導入管、22…絞り部、23…管体、24…第1流速調整管、
25…内挿管、26…負圧発生管、27…第2流速調整管、28…装着部、
29…挿入部、30…孔、
40…整流ノズル、41…整流手段、42…螺旋状流路、43…中心軸、
44…流入口、45…流出口、
200…ウルトラファインバブル、201…気泡、300…貯水槽
【要約】      (修正有)
【課題】水のpH値を変えないでウルトラファインバブルを発生させ、発生させた気泡を水中に長時間留めることができる発生装置、水循環システムおよびノズルを提供すること。
【解決手段】ウルトラファインバブルの発生装置1において、予めテラヘルツ波が照射された水中ポンプ10とノズル20から、水分子と共振する周波数帯のテラヘルツ波を放射させ、隣り合う水分子の引力的相互作用を分断させ水を活性化させ、ノズルに吸引した空気を微細化させてウルトラファインバブルを発生させ水に溶存させるようにした。ノズルには、圧送水に発生する渦を整流させる整流手段を備えさせると好適である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7