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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】無線通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/04 20060101AFI20241021BHJP
   H04B 1/16 20060101ALI20241021BHJP
   H04B 1/10 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
H04B1/04 H
H04B1/16 Z
H04B1/10 L
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021000341
(22)【出願日】2021-01-05
(65)【公開番号】P2022105797
(43)【公開日】2022-07-15
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 賢晃
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-043001(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103455(WO,A1)
【文献】特開2010-183422(JP,A)
【文献】特開平11-032007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/04
H04B 1/16
H04B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数偏移変調方式で変調した信号を送信する無線通信装置を各々備える第1の基地局および第2の基地局と、
前記第1の基地局から送信される信号を受信するとともに前記第2の基地局から送信される信号を受信する受信局と、を有し、
前記第1の基地局の前記無線通信装置の変調処理における周波数と前記第2の基地局の前記無線通信装置の変調処理における周波数との間にオフセット周波数が設定され、
前記受信局が、学習期間において送信される既知信号を利用して、前記第1の基地局と前記受信局との間の伝搬環境、前記第2の基地局と前記受信局との間の伝搬環境、および前記オフセット周波数を求めて、前記受信局における受信信号から、一方の基地局から送信される信号を除去して他方の基地局から送信される信号を取得する、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記オフセット周波数が、前記変調処理におけるマッピングの基準値に対する許容誤差以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記周波数偏移変調方式が、多値数が4である4値の周波数偏移変調方式である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線通信システムに関し、特に、狭帯域信号を使用する無線通信システムに適用して好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
狭帯域信号を使用する業務用無線システムには、周波数帯域の枯渇を背景に、新規の周波数割当てが困難な状況になっている。このため、複数の基地局から同一の信号を同一周波数で端末へ向けて送信する業務用無線システムが存在する。しかしこの方式では、或る受信地点で、複数の無線信号が同一レベル且つ逆相になると、同一波干渉(即ち、ビート干渉)により信号が消失してしまう。このような信号の消失への対策として、基地局毎にマッピングルールを変更する方式が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-166293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方式では、振幅の異なる2つの信号を受信する状況には対応することができない、という問題がある。
【0005】
そこでこの発明は、各基地局から送信される信号の電力比に関係なく、ビート干渉の発生を抑制しつつ周波数偏移変調方式の変調波を復調することが可能な、無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、周波数偏移変調方式で変調した信号を送信する無線通信装置を各々備える第1の基地局および第2の基地局と、前記第1の基地局から送信される信号を受信するとともに前記第2の基地局から送信される信号を受信する受信局と、を有し、前記第1の基地局の前記無線通信装置の変調処理における周波数と前記第2の基地局の前記無線通信装置の変調処理における周波数との間にオフセット周波数が設定され、前記受信局が、学習期間において送信される既知信号を利用して、前記第1の基地局と前記受信局との間の伝搬環境、前記第2の基地局と前記受信局との間の伝搬環境、および前記オフセット周波数を求めて、前記受信局における受信信号から、一方の基地局から送信される信号を除去して他方の基地局から送信される信号を取得する、ことを特徴とする無線通信システムである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の無線通信システムにおいて、前記オフセット周波数が、前記変調処理におけるマッピングの基準値に対する許容誤差以下である、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の無線通信システムにおいて、前記周波数偏移変調方式が、多値数が4である4値の周波数偏移変調方式である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、各基地局における変調処理において割り当てられる周波数偏移それぞれに一定のオフセット周波数が設定されたうえで各基地局から信号が送信されるようにしているので、ビート干渉の発生を抑圧することが可能となる。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、また、学習期間において送信される既知信号を利用するとともに各基地局の間の周波数のオフセットが一定であることを利用して一方の基地局から送信される信号を受信局において受信信号から除去して他方の基地局から送信される信号を取得することにより、各基地局から送信される信号の電力比に関係なく、ビート干渉の発生を抑制しつつ周波数偏移変調方式の変調波を復調することが可能となる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、オフセット周波数が適切な値に設定され、これによりこの発明が支障なく適用されて良好な無線通信を行うことが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、4値の周波数偏移変調方式を用いて無線通信を行う無線通信システムにおいて上記の作用効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明の実施の形態に係る無線通信システムの概要を示す図である。
図2図1の無線通信システムの基地局に備えられる変調部の概略構成を示す機能ブロック図である。
図3】基地局において付加されるオフセット周波数を説明する図である。
図4図1の無線通信システムの受信局に備えられる復調部の概略構成を示す機能ブロック図である。
図5図4の復調部の干渉キャンセラ部の概略構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。なお、以下では、この発明の特徴的な構成について説明し、無線通信を行う際の従来と同様の仕組みについては説明を省略する。また、各図では、複素信号を構成する実部(I信号;別言すると、同相成分,I信号成分)を伝送する信号線と虚部(Q信号;別言すると、直交成分,Q信号成分)を伝送する信号線とをまとめて1本の信号線で表示している。
【0015】
図1は、この発明の実施の形態に係る無線通信システム1の概要を示す図である。
【0016】
この実施の形態では、基地局2A,2Bに備えられる変調部20を含む無線通信装置と受信局3に備えられる復調部30を含む無線通信装置とによってデータの変復調が行われ、これら基地局2A,2Bと受信局3との間で無線通信が行われる。データの変復調は、周波数偏移変調(FSK:Frequency Shift Keying の略)方式によって行われる。
【0017】
基地局2A,2Bは、送信対象の情報を含む送信信号を生成し、前記送信信号を受信局3へと送信する。この際、基地局2Aと基地局2Bとは、同一の信号を同期して発信/無線送信する(即ち、同報する)。
【0018】
基地局2Aから送信される送信信号は無線伝搬路5Aを経て受信局3へと至り、また、基地局2Bから送信される送信信号は無線伝搬路5Bを経て受信局3へと至る。
【0019】
受信局3は、基地局2Aから送信されて無線伝搬路5Aを介して伝送される信号を受信するとともに、基地局2Bから送信されて無線伝搬路5Bを介して伝送される信号を受信し、受信信号に対して所定の処理を施して送信対象の情報を出力する。
【0020】
そして、実施の形態に係る無線通信システム1は、周波数偏移変調方式で変調した信号を送信する無線通信装置を各々備える第1の基地局(基地局2A)および第2の基地局(基地局2B)と、第1の基地局(基地局2A)から送信される信号を受信するとともに第2の基地局(基地局2B)から送信される信号を受信する受信局3と、を有し、第1の基地局(基地局2A)の無線通信装置の変調処理における周波数と第2の基地局(基地局2B)の無線通信装置の変調処理における周波数との間にオフセット周波数Δfが設定され、受信局3が、学習期間において送信される既知信号XA’を利用して、第1の基地局(基地局2A)と受信局3との間の伝搬環境HA、第2の基地局(基地局2B)と受信局3との間の伝搬環境HB、およびオフセット周波数Δfを求めて、受信局3における受信信号Yから、一方の基地局(この実施の形態では、基地局2B)から送信される信号XBを除去して他方の基地局(この実施の形態では、基地局2A)から送信される信号XAを取得する、ようにしている。
【0021】
図2は、この発明の実施の形態に係る無線通信システム1の基地局2A,2Bに備えられる変調部20の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0022】
基地局2A,2Bに備えられる変調部20のマッピング部21は、送信対象の情報/データに対して必要に応じて所定の処理(例えば、アナログ-デジタル変換処理、誤り訂正符号化処理、周波数変換処理、増幅処理)が施されたバイナリデータ列の入力を受け、前記バイナリデータ列に対して周波数偏移変調(FSK)方式によって変調マッピング処理を施してシンボル列を生成して出力する。
【0023】
マッピング部21は、この実施の形態では具体的には、狭帯域デジタル移動通信方式のうち4値FSK方式を用いた無線システムに係る標準規格である「市町村デジタル移動通信システム(SCPC/4値FSK方式)」(一般社団法人電波産業会、標準規格番号:ARIB STD-T116)に従って変調マッピング処理を行う。前記の標準規格(ARIB STD-T116)では、下記の表1に示す内容で4値FSKマッピングが行われる。
【表1】
【0024】
マッピング部21は、入力されるバイナリデータ列を構成するダイビットに対して(言い換えると、2bitごとに)表1に従ってそれぞれシンボルへの変換処理を行い、シンボル列を出力する。
【0025】
ROF部22は、ロールオフフィルタの機能を備え、マッピング部21から出力されるシンボル列の入力を受け、シンボル間干渉を低減/除去するために、前記シンボル列に対して帯域制限処理を施して出力する。
【0026】
周波数オフセット部23は、ROF部22から出力されるシンボル列の入力を受け、各シンボルに対応する周波数偏移の値にオフセット周波数Δfを付加した周波数を表す数値であって、NCO部24へと入力する周波数を表す数値を計算して出力する。
【0027】
ここで、上記の標準規格(ARIB STD-T116)では、周波数偏移の許容誤差がマッピングの基準値に対して±10%以下と規定されている。このことを考慮して、上記の標準規格(ARIB STD-T116)に従って変調マッピング処理を行うこの実施の形態では、オフセット周波数Δfは絶対値が31.5Hz以下の範囲で設定される。
【0028】
上記も踏まえ、この実施の形態では具体的には、基地局2Aのオフセット周波数Δfを0Hzとするとともに、基地局2Bのオフセット周波数Δfを30Hzとする(図3参照)。ここで、各シンボルに対応する周波数偏移の値それぞれに付加されるオフセット周波数Δfの値は、いずれの周波数偏位に対しても一定である。
【0029】
なお、例えば、基地局2Aのオフセット周波数Δfを0Hzとするとともに、基地局2Bのオフセット周波数Δfを-30Hzとするようにしたり、また、基地局2Aのオフセット周波数Δfを-15Hzとするとともに、基地局2Bのオフセット周波数Δfを+15Hzとするようにしたりしてもよい。
【0030】
NCO部24は、数値制御発振器(NCO:Numerically Controlled Oscillator の略)の機能を備え、周波数オフセット部23から出力される所定の周波数を表す数値の入力を受け、前記数値に対応する周波数の発振信号を出力する。
【0031】
直交変調部25は、NCO部24から出力される発振信号の入力を受け、前記発振信号を用いて直交変調処理を施して送信信号(ベースバンド信号)を出力する。
【0032】
直交変調部25から出力される送信信号は、必要に応じて所定の処理(例えば、増幅処理、周波数変換処理)が施されたうえで、アンテナ26を介して発信/無線送信される。この際、前述のとおり、基地局2Aと基地局2Bとは、同一の信号を同期して発信/無線送信する。
【0033】
この実施の形態では、基地局2Aから送信信号XA(ベースバンド信号)が発信され、基地局2Bから送信信号XB(ベースバンド信号)が発信される。
【0034】
受信局3は、基地局2Aから送信される信号と基地局2Bから送信される信号とをアンテナ31を介して受信する。
【0035】
図4は、この発明の実施の形態に係る無線通信システム1の受信局3に備えられる復調部30の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0036】
アンテナ31を介して受信された信号は、必要に応じて所定の処理(例えば、帯域制限処理、増幅処理、周波数変換処理)が施されたうえで、受信局3に備えられる復調部30の直交検波部32へと入力される。
【0037】
直交検波部32は、局部発振器(図示省略)から供給される局部発振信号を用いて直交検波を行い、同相成分のI信号と直交成分のQ信号とから構成される複素信号を生成して出力する。
【0038】
干渉キャンセラ部4は、各基地局2A,2Bにおける変調マッピング処理において割り当てられる周波数偏移それぞれに一定のオフセット周波数Δf(この実施の形態では具体的には、基地局2Bにおいてオフセット周波数Δf=30Hz)が付加されたうえで基地局2A,2Bから送信される信号について、基地局2Aと基地局2Bとの間の周波数のオフセットが一定であることを利用して一方の基地局(この実施の形態では具体的には、基地局2B)から送信される信号を受信信号から除去するための仕組みである。
【0039】
図5は、この実施の形態に係る干渉キャンセラ部4の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0040】
ここで、基地局2Aから発信される送信信号XA(ベースバンド信号)は、オフセット周波数Δfが0Hzであることも踏まえ、下記の数式1のように表される。
【数1】
【0041】
また、基地局2Bから発信される送信信号XB(ベースバンド信号)は、オフセット周波数Δfが30Hz(即ち、Δf≠0)であることも踏まえ、下記の数式2のように表される。
【数2】
【0042】
数式1,数式2における各記号/変数の意味は下記のとおりである。
A:基地局2Aから発信される送信信号(ベースバンド信号)
B:基地局2Bから発信される送信信号(ベースバンド信号)
A:基地局2Aから発信される送信信号の周波数〔Hz〕
Δf:基地局2Bで付加されるオフセット周波数〔Hz〕
t:時刻(サンプリング時刻)
j:虚数単位
【0043】
基地局2Aから受信局3へと至る無線伝搬路5Aにおける伝搬環境HAは下記の数式3のように表され、基地局2Bから受信局3へと至る無線伝搬路5Bにおける伝搬環境HBは、下記の数式4のように表される。
【数3】
【数4】
【0044】
数式3,数式4における各記号/変数の意味は下記のとおりである。
A:基地局2Aと受信局3との間の伝搬環境
B:基地局2Bと受信局3との間の伝搬環境
α:伝搬環境HAにおける振幅変動
β:伝搬環境HBにおける振幅変動
ΦA:伝搬環境HAにおける位相変動
ΦB:伝搬環境HBにおける位相変動
【0045】
上記を踏まえ、受信局3における受信信号Yは下記の数式5のように表される。以降の数式5乃至数式11における各記号/変数の意味は上記の数式1乃至数式4における各記号/変数の意味と同じである。
【数5】
【0046】
干渉キャンセラ部4は、所定の時間間隔で周期的に(或いは、所定のタイミングで繰り返し)受信信号に含められる/付加される既知信号XA’を利用して、基地局2Aと受信局3との間の伝搬環境HA、基地局2Bと受信局3との間の伝搬環境HB、および基地局2Bで付加されるオフセット周波数Δf〔Hz〕の値をそれぞれ求めて適宜更新しつつ、前記値に基づいて、受信局3における受信信号Y(上記の数式5参照)から、基地局2Bから発信される送信信号XBを除去して基地局2Aから発信される送信信号XAを取得する。なお、基地局2Aから発信される送信信号XAを除去して基地局2Bから発信される送信信号XBを取得するようにしてもよい。
【0047】
既知信号XA’(尚、参照信号,パイロット信号,或いはトレーニング信号などと呼ばれる信号である場合も含む)は、例えば予め定められて基地局2A,2Bと受信局3との両方で共有される所定のビット系列であり、受信局3における処理のために受信局3内の記憶部(図示省略)に格納されるなどする。また、下記の説明では、「’」が付いている記号/変数は既知信号XA’に関係する記号/変数であることを表す。
【0048】
干渉キャンセラ部4の第1の除算部401は、アンテナ31を介して受信される受信局3における受信信号Y(上記の数式5および下記の数式6参照)の入力を受けるとともに、記憶部(図示省略)から供給される既知信号XA’の入力を受け、前記受信信号Yを前記既知信号XA’によって除算して、下記の数式7のように表される信号を出力する。ここで、基地局2A,2Bから発信される送信信号が既知信号である場合(別言すると、期間,タイミング)は、数式6におけるXAはXA’である(この場合を「学習期間」と呼ぶ)。
【数6】
【数7】
【0049】
LPF部402は、ローパスフィルタの機能を備え、第1の除算部401から出力される信号(上記の数式7参照)の入力を受け、前記信号のうち、基地局2Aと受信局3との間の伝搬環境HAは低い周波数成分であり、基地局2Bと受信局3との間の伝搬環境HBに関係する成分(即ち、上記の数式7における第2項)の方が高い周波数成分であることを利用して基地局2Aと受信局3との間の伝搬環境HAを出力する。
【0050】
第1の伝搬環境更新制御部403は、LPF部402から出力される基地局2Aと受信局3との間の伝搬環境HAの入力を受け、学習期間における前記伝搬環境HAを、学習期間でない期間の間、言い換えると次の学習期間まで保持しつつ、加算部404に対して干渉キャンセル処理用の伝搬環境HA’として出力する。
【0051】
第1の加減算部405は、LPF部402から出力される基地局2Aと受信局3との間の伝搬環境HAの入力を受けるとともに、第1の除算部401から出力される信号(上記の数式7参照)の入力を受け、前記第1の除算部401から出力される信号を前記伝搬環境HA(学習期間の場合には、HA’)から減算して、下記の数式8のように表される信号を出力する。
【数8】
【0052】
位相角算出部406は、第1の加減算部405から出力される信号(上記の数式8参照)の入力を受け、前記信号の逆正接関数(即ち、tan-1)をとることによって位相角θを算出する。
【0053】
遅延部407は、位相角算出部406から出力される位相角θの入力を受け、前記位相角θを1サンプリング周期だけ遅延させて、遅延後の位相角θを出力する。位相角算出部406から出力される位相角を「θt」と表記し、位相角θtに対して1サンプリング周期だけ遅延して遅延部407から出力される遅延後の位相角を「θt-1」と表記する。
【0054】
周波数算出部408は、位相角算出部406から出力される位相角θtから、遅延部407から出力される位相角θt-1を減算し、サンプリング周期における位相角変化量Δθtを求める。周波数算出部408は、さらに、Δf=Δθt×fs/2π(但し、fs:サンプリング周波数〔Hz〕)の関係を用いてオフセット周波数Δfを算出する。
【0055】
周波数更新制御部409は、周波数算出部408から出力されるオフセット周波数Δfの入力を受け、学習期間における前記オフセット周波数Δfを、干渉キャンセル処理用のオフセット周波数Δf’として学習期間でない期間の間、言い換えると次の学習期間まで保持しつつ、前記オフセット周波数Δf’を表す数値であって、NCO部411へと入力する周波数を表す数値を計算して出力する。
【0056】
増幅部410は、増幅器の機能を備え、周波数更新制御部409から出力されるオフセット周波数Δf’を表す数値(信号)の入力を受け、所定の増幅処理を施して出力する。
【0057】
NCO部411は、数値制御発振器の機能を備え、増幅部410から出力されるオフセット周波数Δf’を表す数値の入力を受け、前記オフセット周波数Δf’を表す数値に応じて、下記の数式9のように表される信号を生成して出力する。
【数9】
【0058】
乗算部412、第2の加減算部413、推定部414、および第2の伝搬環境更新制御部415は、基地局2Bと受信局3との間の伝搬環境HBを推定するための処理ループを構成する。
【0059】
乗算部412は、NCO部411から出力される信号(上記の数式9参照)の入力を受けるとともに、第2の伝搬環境更新制御部415から出力される基地局2Bと受信局3との間の伝搬環境の入力を受け、前記信号と前記伝搬環境とを乗算して出力する。
【0060】
第2の加減算部413は、第1の加減算部405から出力される信号(上記の数式8参照)の入力を受けるとともに、乗算部412から出力される信号の入力を受け、前記2つの信号を減算してその差分を誤差信号として出力する。つまり、第2の加減算部413は、第1の加減算部405から出力される信号(上記の数式8参照)をリファレンス信号として、当該リファレンス信号に対する乗算部412から出力される信号の差違を誤差信号として出力する。
【0061】
推定部414は、例えばトランスバーサル型等化器の機能を備え、NCO部411から出力される信号(上記の数式9参照)の入力を受けるとともに、第2の加減算部413から出力される誤差信号の入力を受け、例えば最小平均二乗(LMS:Least Mean Square の略)アルゴリズムなどを用いて、第2の加減算部413から出力される誤差信号に基づいて、NCO部411から出力される信号(上記の数式9参照)を第1の加減算部405から出力される信号(上記の数式8参照;リファレンス信号)に収束させるようにして、基地局2Bと受信局3との間の伝搬環境HB(上記の数式4参照)を推定する。
【0062】
第2の伝搬環境更新制御部415は、推定部414から出力される基地局2Bと受信局3との間の伝搬環境HBの入力を受け、学習期間における前記伝搬環境HBを、学習期間でない期間の間、言い換えると次の学習期間まで保持しつつ、乗算部412に対して干渉キャンセル処理用の伝搬環境HB’として出力する。なお、推定部414における推定処理(別言すると、収束処理)を開始する際の前記伝搬環境HBの初期値は例えば1に設定される。
【0063】
上記により、第1の伝搬環境更新制御部403から干渉キャンセル処理用の基地局2Aと受信局3との間の伝搬環境HA’が出力され、周波数更新制御部409から干渉キャンセル処理用の基地局2Bで付加されるオフセット周波数Δf’が出力され、さらに、第2の伝搬環境更新制御部415から干渉キャンセル処理用の基地局2Bと受信局3との間の伝搬環境HB’が出力される。
【0064】
そして、学習期間でない期間において、上記の基地局2Aと受信局3との間の伝搬環境HA’、基地局2Bと受信局3との間の伝搬環境HB’、および基地局2Bで付加されるオフセット周波数Δf’の値に基づいて、受信局3における受信信号Y(上記の数式5および数式6参照)から、基地局2Bから発信される送信信号XB(ベースバンド信号)が除去されて基地局2Aから発信される送信信号XA(ベースバンド信号)が取得される。
【0065】
具体的には、第2の伝搬環境更新制御部415から干渉キャンセル処理用の伝搬環境HB’が出力されることにより、乗算部412から、下記の数式10のように表される信号が出力される。なお、NCO部411は、学習期間でない期間も、上記の数式9のように表される信号を生成して出力する。
【数10】
【0066】
加算部404は、第1の伝搬環境更新制御部403から出力される干渉キャンセル処理用の伝搬環境HA’の入力を受けるとともに、乗算部412から出力される信号(上記の数式10参照)の入力を受け、前記2つの信号を加算して、下記の数式11のように表される信号を出力する。
【数11】
【0067】
第2の除算部416は、受信信号Y(上記の数式6参照)の入力を受けるとともに、加算部404から出力される信号(上記の数式11参照)の入力を受け、前記受信信号Yを前記加算部404から出力される信号によって除算して、基地局2Aから発信される送信信号XA(ベースバンド信号)を出力する。
【0068】
以上により、干渉キャンセラ部4から、基地局2Aから発信される送信信号XA(ベースバンド信号)が出力される。
【0069】
遅延検波部33は、干渉キャンセラ部4から出力される信号の入力を受け、前記信号を入力として連続したシンボル間で遅延検波を行い、検波信号を生成して出力する。
【0070】
ROF部34は、基地局2A,2BのROF部22と同じ特性のロールオフフィルタの機能を備え、遅延検波部33から出力される検波信号の入力を受け、前記検波信号に対して帯域制限処理を施して出力する。
【0071】
硬判定部35およびデマッピング部36は、ROF部34から出力される検波信号の入力を受け、前記検波信号に基づいて、基地局2A,2Bのマッピング部21において用いられる変調方式(この実施の形態では具体的には、上記の標準規格(ARIB STD-T116)に従う4値FSK方式)に従って、シンボル単位で硬判定してデマッピング処理を行い、ダイビットの値を出力する。
【0072】
デマッピング部36から出力されるバイナリデータ列は、基地局2A,2Bのマッピング部21へと入力されるバイナリデータ列が再現されたデータ(言い換えると、元のデータ配列に戻されたデジタル信号)である。
【0073】
実施の形態に係る無線通信システム1によれば、各基地局2A,2Bにおける変調マッピング処理において割り当てられる周波数偏移それぞれに一定のオフセット周波数Δf(上記の実施の形態では、基地局2Bにおいてオフセット周波数Δf=30Hz)が設定されたうえで各基地局2A,2Bから信号が送信されるようにしているので、ビート干渉の発生を抑圧することが可能となる。
【0074】
実施の形態に係る無線通信システム1によれば、また、学習期間において送信される既知信号を利用するとともに基地局2Aと基地局2Bとの間の周波数のオフセットが一定であることを利用して一方の基地局(上記の実施の形態では、基地局2B)から送信される信号を受信局3において受信信号Yから除去して他方の基地局(上記の実施の形態では、基地局2A)から送信される信号を取得することにより、各基地局2A,2Bから送信される信号の電力比に関係なく、ビート干渉の発生を抑制しつつ周波数偏移変調方式の変調波を復調することが可能となる。
【0075】
実施の形態に係る無線通信システム1によれば、さらに、下記のような利点がある。
1)業務用無線システムで導入が相次いでいる4値FSK方式に適用可能である。
2)送信ダイバーシチなどのように装置が大型化しない。
3)例えば差動時空間ブロック符号のように符号を冗長化しないので、情報伝送レートが低下しない。
4)数十Hzの周波数オフセットによって実現されるので、周波数利用効率が高い。
5)各基地局から送信される信号の電力比が近くても、ビット誤りは発生しない。
【0076】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0077】
具体的には、上記の実施の形態ではこの発明に係る無線通信システム1の基地局2A,2Bの構成を図2に示すようにするとともに受信局3の構成を図4に示すようにしているが、この発明に係る無線通信システム1の基地局2A,2Bや受信局3の構成は図2図4に示す構成に限定されるものではなく、基地局2A,2Bや受信局3の構成が他の態様に構成されるようにしてもよい。すなわち、この発明に係る無線通信システム1の要点は、各基地局での変調マッピング処理における周波数偏移をオフセットさせたうえで、受信局において既知信号を利用するとともに周波数のオフセットが一定であることを利用して一方の基地局から送信される信号を受信信号から除去して他方の基地局から送信される信号を取得することであり、この要点を実現するための具体的な構成は特定の態様には限定されない。
【0078】
また、上記の実施の形態では「市町村デジタル移動通信システム(SCPC/4値FSK方式)」(一般社団法人電波産業会、標準規格番号:ARIB STD-T116)に従って変調マッピング処理が行われるようにしているが、前記の標準規格(ARIB STD-T116)に従うことはこの発明において必須の要件ではなく、他の規格や仕様に従って周波数偏移変調が行われるようにしてもよい。付け加えると、周波数偏移変調の多値数は4に限定されるものではなく、他の多値数であっても構わない。
【符号の説明】
【0079】
1 無線通信システム
2A 基地局
2B 基地局
20 変調部
21 マッピング部
22 ROF部
23 周波数オフセット部
24 NCO部
25 直交変調部
26 アンテナ
3 受信局
30 復調部
31 アンテナ
32 直交検波部
33 遅延検波部
34 ROF部
35 硬判定部
36 デマッピング部
4 干渉キャンセラ部
401 第1の除算部
402 LPF部
403 第1の伝搬環境更新制御部
404 加算部
405 第1の加減算部
406 位相角算出部
407 遅延部
408 周波数算出部
409 周波数更新制御部
410 増幅部
411 NCO部
412 乗算部
413 第2の加減算部
414 推定部
415 第2の伝搬環境更新制御部
416 第2の除算部
5A 基地局2Aから受信局3へと至る無線伝搬路
5B 基地局2Bから受信局3へと至る無線伝搬路
図1
図2
図3
図4
図5