(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】電極触媒
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20241021BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20241021BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20241021BHJP
B01J 35/45 20240101ALI20241021BHJP
B01J 23/644 20060101ALI20241021BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241021BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/92
B01J35/60 G
B01J35/45
B01J23/644 M
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2021063422
(22)【出願日】2021-04-02
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 正哲
(72)【発明者】
【氏名】竹下 朋洋
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 健作
(72)【発明者】
【氏名】安藤 雅樹
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-157353(JP,A)
【文献】特開2020-161273(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146454(WO,A1)
【文献】特開2017-162572(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136908(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/92
H01M 8/10
B01J 35/60
B01J 35/45
B01J 23/644
C25B 1/00
C25B 9/00
C25B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた電極触媒。
(1)前記電極触媒は、
比表面積が30m
2/g以上である酸化スズ系粒子と、
前記酸化スズ系粒子に担持されたPt系微粒子と
を
備え、
前記酸化スズ系粒子は、多孔質の一次粒子が数珠状に融着している構造(連珠状構造)を備えている。
(2)前記電極触媒は、
0.9Vにおける酸素還元反応質量活性が
300A/g
Pt
以上であり、及び/又は、
0.85Vにおける酸素還元反応質量活性が
1500A/g
Pt
以上である。
【請求項2】
前記酸化スズ系粒子は、その内部に細孔径が50nm以下である細孔を持つ請求項1に記載の電極触媒。
【請求項3】
前記酸化スズ系粒子は、Sb、Nb、Ta、及び/又は、WがドープされたSnO
2からなる請求項1又は2に記載の電極触媒。
【請求項4】
前記酸化スズ系粒子は、SbがドープされたSnO
2からなり、
前記Sbのドープ量は、2.5at%以上15.0at%以下である
請求項1から3までのいずれか1項に記載の電極触媒。
【請求項5】
前記酸化スズ系粒子は、圧粉体の導電率が1×10
-3S/cm以上である請求項1から4までのいずれか1項に記載の電極触媒。
【請求項6】
前記酸化スズ系粒子の細孔径は、1nm以上20nm以下である
請求項1から5までのいずれか1項に記載の電極触媒。
【請求項7】
前記
Pt系微粒子の平均粒径は、5nm以下である
請求項1から6までのいずれか1項に記載の電極触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒に関し、さらに詳しくは、酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質膜の両面に触媒層が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。触媒層の外側には、通常、ガス拡散層が配置される。さらに、ガス拡散層の外側には、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。PEFCは、通常、このようなMEA、ガス拡散層及び集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
PEFCにおいて、触媒層は、一般に、担体表面に白金などの触媒金属微粒子を担持させた電極触媒と、触媒層アイオノマとの混合物からなる。触媒担体には、通常、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの炭素材料が用いられている。しかし、カーボン担体は、高電位に曝されると酸化腐食し、担体上に担持された触媒金属微粒子が脱落すること、及びこれによって電極性能が低下することが知られている。このため、高電位で安定な導電性金属酸化物を担体材料として用いることが提案されている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、
(a)種々の導電性金属酸化物の中でも、不定比酸化チタン(TiOx)あるいは異元素(Nb、Sb等)をドープした酸化スズが触媒担体として有望であること、及び、
(b)特に、PEFCのカソード用の触媒担体には、強酸性かつ高電位の環境下において安定な酸化スズが有望であること
が記載されている。
【0005】
非特許文献2には、
(a)Sn0.96Nb0.04O2-δからなる担体にPtが担持された触媒(担体のBET比表面積は37m2/g、Pt担持量は10.0wt%)、及び、
(b)Sn0.96Sb0.04O2-δからなる担体にPtが担持された触媒(担体のBET比表面積は33m2/g、Pt担持量は12.3wt%)
が開示されている。
同文献には、これらの触媒の0.85Vにおける酸素還元反応(ORR)質量活性が515~608A/gPTである点が記載されている。
【0006】
非特許文献3には、Sb-SnO2キセロゲルからなる担体にPtが担持された触媒が開示されている。
同文献には、この触媒の0.9VにおけるORR質量活性が92A/gPtである点が記載されている。
【0007】
非特許文献4には、Sb-SnO2キセロゲルからなる担体にPtが担持された触媒が開示されている。
同文献には、この触媒の0.9VにおけるORR質量活性が32A/gPtである点が記載されている。
【0008】
非特許文献5には、Nb-SnO2からなる担体にPtが担持され、さらにこれがカーボン(VGCF)に担持された触媒が開示されている。
同文献には、この触媒の0.9VにおけるORR質量活性が141A/gPtであり、0.85VにおけるORR質量活性が541A/gPtである点が記載されている。
【0009】
さらに、非特許文献6には、Ta-SnO2ナノファイバーからなる担体(担体のBET比表面積は27m2/g)にPtが担持された触媒が開示されている。
同文献には、この触媒の0.9VにおけるORR質量活性が307~465A/gPtである点が記載されている。
【0010】
PEFCのカソード電極触媒には、高いORR活性が求められる。これに加えて、活性種であるPtの担持率は高い方が良い。これは、Pt担持率が低い触媒で触媒層を作製した場合、その触媒層の厚さは、同じPt目付(電極面積当たりのPt量)の触媒層を高Pt担持率の触媒で作製した場合と比べて厚くなり、触媒層内の電子抵抗、プロトン移動抵抗、及びガス拡散抵抗の面で不利なためである。
【0011】
Ptの担持率を高くするためには、担体の表面積を大きくする必要がある。比表面積が小さい担体の表面にPtを高担持率で担持すると、担体上でPt微粒子が凝集したり、あるいは、Ptが粗大粒子として担持される。その結果、Ptの比表面積が低下し、ORR質量活性が低下する。
【0012】
しかしながら、酸化スズ担体のような酸化物担体の場合、比表面積と導電率とはトレードオフの関係にある。一般に、比表面積を大きくするためには酸化物担体粒子の粒径を小さくする必要があるが、粒径が小さくなると粒子間の接点が増えるために接触抵抗の総和が増大し、圧粉体としての導電率は低下する。担体の導電率が低いと、担持したPtの利用率が低下したり、あるいは、Ptの表面積当たりのORR活性(比活性)が低下するため、結果としてORR質量活性が低下する。
【0013】
上述した非特許文献1~6に記載されたPt/M-SnO2の内、最も高いORR質量活性が報告されているのは、非特許文献6のPt/Ta-SnO2ナノファイバーである。しかし、このTa-SnO2ナノファイバー担体は比表面積が27m2/gと小さいため、Pt担持率を7mass%から34mass%に増やすと、Ptの電気化学比表面積(ECSA)が73m2/gPtから48m2/gPtに低下し、0.9VにおけるORR質量活性も465A/gPtから307A/gPtに低下する。
【0014】
他方、非特許文献4のSb-SnO2エアロゲル担体は比表面積が85m2/gと大きいが、0.9VにおけるORR比活性、及び質量活性がそれぞれ100μA/cm2
Pt、及び、32A/gPtと低い。
このように、従来報告されているPt/M-SnO2触媒において、高比表面積と高ORR質量活性とを両立させた例はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【文献】T. Arai et al., SAE Int. J. Alt. Power., 2017, 6, 145
【文献】K. Kakinuma et al., Electrochim. Acta, 2013, 110, 316
【文献】V. K. Ramani, DOE 2020 Annual Merit Review, #FC145
【文献】G. Ozouf et al., J. Electrochem. Soc., 2018, 165, F3036
【文献】S. Matsumoto et al., J. Electrochem. Soc., 2018, 165, F1164
【文献】I. Jimenez-Morales et al., ACS Catal., 2020, 10, 10399
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された新規な電極触媒を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒において、高比表面積と高ORR質量活性とを両立させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明に係る電極触媒は、以下の構成を備えている。
(1)前記電極触媒は、
比表面積が30m2/g以上である酸化スズ系粒子と、
前記酸化スズ系粒子に担持されたPt系微粒子と
を備えている。
(2)前記電極触媒は、
0.9Vにおける酸素還元反応質量活性が150A/gPt以上であり、及び/又は、
0.85Vにおける酸素還元反応質量活性が650A/gPt以上である。
【発明の効果】
【0018】
酸化スズ系粒子の表面にPt系粒子が担持された電極触媒において、酸化スズ系粒子の微構造及び/又は組成を最適化すると、高比表面積と高ORR質量活性とを両立させることができる。特に、酸化スズ系粒子がメソ孔を備えている場合には、高比表面積でありながら、高いORR質量活性を示す。これは、メソ孔内にPt系粒子が担持されることにより、アイオノマ被毒が低減するためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1(ALD法)で得られたPt/Sb-SnO
2のSEM像(反射電子像)である。
【
図2】実施例2(コロイド法)で得られたPt/Sb-SnO
2のSEM像(反射電子像)である。
【
図3】実施例1(ALD法)及び実施例3(コロイド法)で得られたPt/Sb-SnO
2のXRDパターンである。
【
図4】実施例2及び実施例3で得られたPt/Sb-SnO
2のサイクリックボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 電極触媒]
本発明に係る電極触媒は、
比表面積が30m2/g以上である酸化スズ系粒子と、
前記酸化スズ系粒子に担持されたPt系微粒子と
を備えている。
【0021】
[1.1. 酸化スズ系粒子]
[1.1.1. 組成]
「酸化スズ系粒子」とは、SnO2からなる粒子、又は、ドーパントを含むSnO2からなる粒子をいう。
本発明において、ドーパントの種類は、特に限定されない。ドーパントとしては、例えば、Nb、Sb、W、Ta、Alなどがある。SnO2には、これらのいずれか1種のドーパントが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0022】
これらの中でも、酸化スズ系粒子は、Sb、Nb、Ta、及び/又は、WがドープされたSnO2が好ましい。
特に、酸化スズ系粒子は、SbがドープされたSnO2が好ましい。SbがドープされたSnO2は、他のドーパントを含むSnO2と比べて導電率が高いので、Pt系微粒子を担持するための触媒担体として好適である。
【0023】
SbがドープされたSnO2において、Sbのドープ量が多くなるほど、導電性が高くなる。このような効果を得るためには、Sbのドープ量は、2.5at%以上が好ましい。Sbのドープ量は、さらに好ましくは、5.0at%以上である。
一方、Sbのドープ量が過剰になると、キャリア濃度が過剰となり、導電性が低下する場合がある。従って、Sbのドープ量は、15.0at%以下が好ましい。Sbのドープ量は、さらに好ましくは、10.0at%以下である。
【0024】
[1.1.2. 比表面積]
一般に、酸化スズ系粒子の比表面積が大きくなるほど、Pt系微粒子を高分散に担持することができるので、ORR質量活性が向上する。そのため、酸化スズ系粒子の比表面積は、大きいほど良い。高いORR質量活性を得るためには、酸化スズ系粒子の比表面積は、30m2/g以上である必要がある。比表面積は、好ましくは、50m2/g以上、さらに好ましくは、100m2/g以上である。
【0025】
[1.1.3. 細孔径]
酸化スズ系粒子は、その内部に細孔径が50nm以下である細孔(以下、これを「メソ孔」ともいう)を有しているものが好ましい。
ここで、「メソ孔」とは、一般的には、直径が2nm以上50nm以下の細孔をいうが、本発明において「メソ孔」というときは、特に断らない限り、直径が2nm以上50nm以下の細孔に加えて、直径が2nm未満の細孔(いわゆる「マイクロ孔」)も含まれる。
「細孔径」とは、メソ孔の直径の平均値をいう。
細孔径は、酸化スズ系粒子の窒素吸着等温線の吸着側データをBJH法で解析し、細孔容量が最大となるときの細孔径(最頻出ピーク値、又はモード細孔径)を求めることにより得られる。
【0026】
酸化スズ系粒子がメソ孔を有している場合において、酸化スズ系粒子にPt系微粒子を担持させると、Pt系微粒子は、メソ孔内に存在する割合が高くなる。そのため、酸化スズ系粒子のメソ孔内にPt系微粒子を担持させて電極触媒とし、このような電極触媒とアイオノマとを用いて触媒層を作製した場合、Pt系微粒子のアイオノマによる被毒、及びこれに起因する性能低下を抑制することができる。
【0027】
酸化スズ系粒子がメソ孔を持つ場合において、細孔径(メソ孔の大きさ)は、電極触媒の性能に影響を与える。一般に、細孔径が小さくなりすぎると、メソ孔内にPt系微粒子を担持するのが困難となる。その結果、本発明に係る電極触媒とアイオノマとを用いて触媒層を作製した場合、Pt系微粒子がアイオノマにより被毒される場合がある。従って、細孔径は、1nm以上が好ましい。細孔径は、さらに好ましくは、2nm以上である。
一方、細孔径が大きくなりすぎると、メソ孔内にアイオノマが侵入し、メソ孔内に担持されたPt系微粒子がアイオノマにより被毒されるおそれがある。従って、細孔径は、20nm以下が好ましい。細孔径は、さらに好ましくは、10nm以下、さらに好ましくは、5nm以下である。
【0028】
[1.1.4. 形状]
本発明において、酸化スズ系粒子の形状は、上述した条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。酸化スズ系粒子は、孤立した粒子であっても良く、あるいは、多孔質の一次粒子が融着した連珠状構造を備えた粒子であっても良い。
ここで、「連珠状構造」とは、一次粒子が数珠状に融着している構造をいう。
【0029】
後述する方法を用いると、多孔質の一次粒子が融着した連珠状構造を備えた酸化スズ系粒子が得られる。連珠状構造を備えた粒子(すなわち、二次粒子)は、一次粒子が互いに粗に連結しているため、一次粒子の間には相対的に粗大な空隙がある。そのため、連珠状構造を備えた酸化スズ系粒子を用いて電極触媒を作製し、これとアイオノマとを用いて触媒層を作製すると、触媒層内に適度な空隙が形成される。その結果、触媒層のガス拡散抵抗が低下する。
また、一次粒子は微細な結晶子の集合体からなるため、一次粒子の内部には相対的に微細な空隙(メソ孔)がある。そのため、これを触媒担体として用いると、Pt系微粒子のアイオノマによる被毒を抑制することができる。
【0030】
一次粒子の形状は、特に限定されない。後述する方法を用いて酸化スズ系粒子を作製した場合、一次粒子は、通常、完全な球状とはならず、アスペクト比が1.1~3程度のいびつな形状を持つ。
【0031】
後述するように、本発明に係る酸化スズ系粒子は、メソポーラスカーボンを鋳型に用いて製造される。また、メソポーラスカーボンは、メソポーラスシリカを鋳型に用いて製造される。メソポーラスシリカは、通常、シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、シリカ源を縮重合させることにより合成されている。
【0032】
この時、反応溶液中の界面活性剤の濃度及びシリカ源の濃度をそれぞれある特定の範囲に限定すると、連珠状構造を備えており、かつ、比表面積、細孔径等が特定の範囲にあるメソポーラスシリカが得られる。
このような連珠状構造を備えたメソポーラスシリカを第1鋳型に用いると、連珠状構造を備えたメソポーラスカーボンが得られる。さらに、連珠状構造を備えたメソポーラスカーボンを第2鋳型に用いると、連珠状構造を備えた酸化スズ系粒子が得られる。
【0033】
[1.1.5. 一次粒子の平均粒径]
「一次粒子の平均粒径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定された一次粒子の最大寸法の平均値をいう。
酸化スズ系粒子が、多孔質の一次粒子が融着した連珠状構造を備えた粒子である場合、一次粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
【0034】
一般に、一次粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、Pt系微粒子を担持することが困難となる。従って、一次粒子の平均粒径は、0.05μm以上が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、0.06μm以上、さらに好ましくは、0.07μm以上である。
一方、一次粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、触媒層の厚さが厚くなり、触媒層中のイオン抵抗及び電子抵抗が大きくなる。従って、一次粒子の平均粒径は、2μm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、1μm以下、さらに好ましくは、0.5μm以下である。
【0035】
[1.1.6. 圧粉体の導電率]
「圧粉体の導電率」とは、
(a)2枚のステンレス鋼製円盤と、円筒状の穴が開いたプラスチック製治具とを用いて酸化スズ系粒子を成形し、
(b)得られた圧粉体に2.4MPaの圧力をかけた状態で、一定の電流を流しながら電圧を測定することで得た値をいう。
圧粉体(すなわち、酸化スズ系粒子)の導電性は、主として、ドーパントの種類及び量に依存する。酸化スズ系粒子の組成を最適化すると、圧粉体の導電率は、1×10-3S/cm以上となる。製造条件を最適化すると、導電率は、1×10-2S/cm以上となる。
後述する方法を用いると、圧粉体の導電率が10S/cm程度である酸化スズ系粒子であっても、合成することができる。
【0036】
[1.1.7. 細孔容量]
「細孔容量」とは、一次粒子に含まれるメソ孔の容積をいい、一次粒子間にある空隙の容積は含まれない。
細孔容量は、酸化スズ系粒子の窒素吸着等温線の吸着データをBJH法で解析し、P/P0=0.03~0.99の値で算出することにより得られる。
【0037】
本発明に係る酸化スズ系粒子をPEFC用の触媒担体に用いる場合において、細孔容量が小さくなりすぎると、細孔内に担持される触媒粒子の割合が小さくなる。従って、細孔容量は、0.1mL/g以上が好ましい。細孔容量は、好ましくは、0.15mL/g以上、さらに好ましくは、0.2mL/g以上である。
一方、細孔容量が大きくなりすぎると、酸化スズ系粒子の細孔壁の割合が小さくなり、電子伝導性が低くなる。また、アイオノマ侵入量が多くなり、触媒被毒により活性が低下する場合がある。従って、細孔容量は、1mL/g以下が好ましい。細孔容量は、好ましくは、0.7mL/g以下、さらに好ましくは、0.5mL/g以下である。
【0038】
[1.1.8. タップ密度]
「タップ密度」とは、JIS Z 2512に準拠して測定される値をいう。
本発明に係る酸化スズ系粒子をPEFCの触媒層に用いる場合において、酸化スズ系粒子のタップ密度が小さくなりすぎると、得られた触媒層の厚みが厚くなりすぎ、プロトン伝導性が低下する。従って、タップ密度は、0.005g/cm3以上が好ましい。タップ密度は、好ましくは、0.01g/cm3以上、さらに好ましくは、0.05g/cm3以上である。
一方、タップ密度が大きくなりすぎると、これを用いて触媒層を作製した時に、触媒層内にフラッディングを抑制可能な空隙を確保するのが困難となる。従って、タップ密度は、1.0g/cm3以下が好ましい。タップ密度は、好ましくは、0.75g/cm3以下である。
【0039】
[1.2. Pt系微粒子]
[1.2.1. 組成]
「Pt系微粒子」とは、Pt又はPt合金からなる微粒子をいう。Pt系微粒子は、酸化スズ系粒子の外表面又はメソ孔の内表面に担持される。
Pt系微粒子がPt合金からなる場合、Pt合金の組成(すなわち、合金元素の種類及び含有量)は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な組成を選択することができる。Pt合金としては、例えば、
(a)Ptと、1種又は2種以上のPt以外の貴金属元素とを含む合金(例えば、Pt-Pd合金、Pt-Ru合金、Pt-Ir合金など)、
(b)Ptと、1種又は2種以上の卑金属元素(例えば、Fe、Co、Ni、Cr、V、Tiなど)とを含む合金(例えば、Pt-Fe合金、Pt-Co合金、Pt-Ni胸襟、Pt-Cr合金、Pt-V合金、Pt-Ti合金など)、
などがある。
【0040】
[1.2.2. 平均粒径]
「Pt系微粒子の平均粒径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定されたPt系微粒子の最大寸法の平均値をいう。
Pt系微粒子の平均粒径は、質量活性に影響を与える。一般に、Pt系微粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、Pt系微粒子の質量活性が低下する。従って、Pt系微粒子の平均粒径は、5nm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、4nm以下である。
一方、Pt系微粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、Ptなどの微粒子を構成する成分が溶出しやすくなる。従って、Pt系微粒子の平均粒径は、1nm以上が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、2nm以上である。
【0041】
[1.2.3. 担持量]
Pt系微粒子の担持量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な担持量を選択することができる。一般に、Pt系微粒子の担持量が少なくなりすぎると、所定の目付量を得るために必要な触媒層の厚さが厚くなり、触媒層の電子抵抗、プロトン移動抵抗、及び/又は、ガス拡散抵抗が増大する。従って、Pt系微粒子の担持量は、5mass%以上が好ましい。担持量は、さらに好ましくは、10mass%以上、さらに好ましくは、15mass%以上である。
一方、Pt系微粒子の担持量が過剰になると、担体表面においてPt系微粒子が凝集し、かえって電極触媒の活性が低下する。従って、Pt系微粒子の担持量は、60mass%以下が好ましい。担持量は、さらに好ましくは、50mass%以下、さらに好ましくは、40mass%以下である。
【0042】
[1.3. 特性]
[1.3.1. 0.9Vにおける酸素還元反応(ORR)質量活性]
本発明に係る電極触媒において、組成及び/又は構造(特に、酸化スズ系粒子の組成及び/又は構造)を最適化すると、0.9VにおけるORR質量活性は、150A/gPt以上となる。電極触媒の組成及び/又は構造をさらに最適化すると、0.9VにおけるORR質量活性は、300A/gPt以上、あるいは、400A/gPt以上となる。
【0043】
[1.3.2. 0.85Vにおける酸素還元反応(ORR)質量活性]
本発明に係る電極触媒において、組成及び/又は構造(特に、酸化スズ系粒子の組成及び/又は構造)を最適化すると、0.9VにおけるORR質量活性が上記の範囲になることに加えて、又は、これに代えて、0.85VにおけるORR質量活性が650A/gPt以上となる。電極触媒の組成及び/又は構造をさらに最適化すると、0.85VにおけるORR質量活性は、1500A/gPt以上、あるいは、2000A/gPt以上となる。
【0044】
[2. メソポーラスシリカ(第1鋳型)の製造方法]
酸化スズ系粒子は、種々の方法により製造することができる。これらの内、連珠状構造を備えた酸化スズ系粒子を製造するためには、まず、連珠状構造を備えたメソポーラスシリカ(第1鋳型)を製造する必要がある。このようなメソポーラスシリカは、
(a)シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させて前駆体粒子を作製し、
(b)前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させ、
(c)必要に応じて、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行い、
(d)前記前駆体粒子を焼成する
ことにより得られる。
【0045】
[2.1. 縮重合工程]
まず、シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させ、前駆体粒子を得る(縮重合工程)。
【0046】
[2.1.1. シリカ源]
本発明において、シリカ源の種類は、特に限定されない。シリカ源としては、例えば、
(a)テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、テトラエチレングリコキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、
(b)3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、
などがある。シリカ源には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0047】
[2.1.2. 界面活性剤]
シリカ源を反応溶液中で縮重合させる場合において、反応溶液に界面活性剤を添加すると、反応溶液中において界面活性剤がミセルを形成する。ミセルの周囲には親水基が集合しているため、ミセルの表面にはシリカ源が吸着する。さらに、シリカ源が吸着しているミセルが反応溶液中において自己組織化し、シリカ源が縮重合する。その結果、一次粒子内部には、ミセルに起因するメソ細孔が形成される。メソ細孔の大きさは、主として、界面活性剤の分子長により制御(1~50nmまで)することができる。
【0048】
本発明において、界面活性剤には、アルキル4級アンモニウム塩を用いる。アルキル4級アンモニウム塩とは、次の(a)式で表される化合物をいう。
CH3-(CH2)n-N+(R1)(R2)(R3)X- ・・・(a)
【0049】
(a)式中、R1、R2、R3は、それぞれ、炭素数が1~3のアルキル基を表す。R1、R2、及び、R3は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。アルキル4級アンモニウム塩同士の凝集(ミセルの形成)を容易化するためには、R1、R2、及び、R3は、すべて同一であることが好ましい。さらに、R1、R2、及び、R3の少なくとも1つは、メチル基が好ましく、すべてがメチル基であることが好ましい。
(a)式中、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子の種類は特に限定されないが、入手の容易さからXは、Cl又はBrが好ましい。
【0050】
(a)式中、nは7~21の整数を表す。一般に、nが小さくなるほど、メソ細孔の中心細孔径が小さい球状のメソ多孔体が得られる。一方、nが大きくなるほど、中心細孔径は大きくなるが、nが大きくなりすぎると、アルキル4級アンモニウム塩の疎水性相互作用が過剰となる。その結果、層状の化合物が生成し、メソ多孔体が得られない。nは、好ましくは、9~17、さらに好ましくは、13~17である。
【0051】
(a)式で表されるものの中でも、アルキルトリメチルアンモニウムハライドが好ましい。アルキルトリメチルアンモニウムハライドとしては、例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライド、ノニルトリメチルアンモニウムハライド、デシルトリメチルアンモニウムハライド、ウンデシルトリメチルアンモニウムハライド、ドデシルトリメチルアンモニウムハライド等がある。
これらの中でも、特に、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド又はアルキルトリメチルアンモニウムクロリドが好ましい。
【0052】
メソポーラスシリカを合成する場合において、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。しかしながら、アルキル4級アンモニウム塩は、一次粒子内にメソ細孔を形成するためのテンプレートとなるので、その種類は、メソ細孔の形状に大きな影響を与える。より均一なメソ細孔を有するシリカ粒子を合成するためには、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いるのが好ましい。
【0053】
[2.1.3. 触媒]
シリカ源を縮重合させる場合、通常、反応溶液中に触媒を加える。粒子状のメソポーラスシリカを合成する場合、触媒には、水酸化ナトリウム、アンモニア水等のアルカリを用いるのが好ましい。
【0054】
[2.1.4. 溶媒]
溶媒には、水、アルコールなどの有機溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒などを用いる。
アルコールは、
(1)メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール、
(2)エチレングリコール等の2価のアルコール、
(3)グリセリン等の3価のアルコール、
のいずれでも良い。
水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中の有機溶媒の含有量は、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、溶媒中に適量の有機溶媒を添加すると、粒径や粒度分布の制御が容易化する。
【0055】
[2.1.5. 反応溶液の組成]
反応溶液中の組成は、合成されるメソポーラスシリカの外形や細孔構造に影響を与える。特に、反応溶液中の界面活性剤の濃度、及びシリカ源の濃度は、メソポーラスシリカ粒子の平均一次粒子径、細孔径、細孔容量、及びタップ密度に与える影響が大きい。
【0056】
[A. 界面活性剤の濃度]
界面活性剤の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなり、一次粒子が連結している構造体は得られない。従って、界面活性剤の濃度は、0.03mol/L以上である必要がある。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.035mol/L以上、さらに好ましくは、0.04mol/L以上である。
【0057】
一方、界面活性剤の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなりすぎ、一次粒子径が容易に300nmを超える。従って、界面活性剤の濃度は、1.0mol/L以下である必要がある。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.95mol/L以下、さらに好ましくは、0.90mol/L以下である。
【0058】
[B. シリカ源の濃度]
シリカ源の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなり、一次粒子が連結している構造体は得られない。あるいは、界面活性剤が過剰となり、均一なメソ細孔が得られない場合がある。従って、シリカ源の濃度は、0.05mol/L以上である必要がある。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.06mol/L以上、さらに好ましくは、0.07mol/L以上である。
【0059】
一方、シリカ源の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなりすぎ、一次粒子径が容易に300nmを超える。あるいは、球状粒子ではなく、シート状の粒子が得られる場合がある。従って、シリカ源の濃度は、1.0mol/L以下である必要がある。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.95mol/L以下、さらに好ましくは、0.9mol/L以下である。
【0060】
[C. 触媒の濃度]
本発明において、触媒の濃度は、特に限定されない。一般に、触媒の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなる。一方、触媒の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなる。最適な触媒の濃度は、シリカ源の種類、界面活性剤の種類、目標とする物性値などに応じて最適な濃度を選択するのが好ましい。
【0061】
[2.1.6 反応条件]
所定量の界面活性剤を含む溶媒中に、シリカ源を加え、加水分解及び重縮合を行う。これにより、界面活性剤がテンプレートとして機能し、シリカ及び界面活性剤を含む前駆体粒子が得られる。
反応条件は、シリカ源の種類、前駆体粒子の粒径等に応じて、最適な条件を選択する。一般に、反応温度は、-20~100℃が好ましい。反応温度は、さらに好ましくは、0~90℃、さらに好ましくは、10~80℃である。
【0062】
[2.2. 乾燥工程]
次に、前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させる(乾燥工程)。
乾燥は、前駆体粒子内に残存している溶媒を除去するために行う。乾燥条件は、溶媒の除去が可能な限りにおいて、特に限定されるものではない。
【0063】
[2.3. 拡径処理]
次に、必要に応じて、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行っても良い(拡径工程)。「拡径処理」とは、一次粒子内のメソ細孔の直径を拡大させる処理をいう。
拡径処理は、具体的には、合成された前駆体粒子(界面活性剤の未除去のもの)を、拡径剤を含む溶液中で水熱処理することにより行う。この処理によって前駆体粒子の細孔径を拡大させることができる。
【0064】
拡径剤としては、例えば、
(a)トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン、トリイソプロピルベンゼン、ナフタレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどの炭化水素、
(b)塩酸、硫酸、硝酸などの酸、
などがある。
【0065】
炭化水素共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、拡径剤が溶媒から、より疎水性の高い前駆体粒子の細孔内に導入される際に、シリカの再配列が起こるためと考えられる。
また、塩酸などの酸共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、一次粒子内部においてシリカの溶解・再析出が進行するためと考えられる。製造条件を最適化すると、シリカ内部に放射状細孔が形成される。これを酸共存下で水熱処理すると、シリカの溶解・再析出が起こり、放射状細孔が連通細孔に変換される。
【0066】
拡径処理の条件は、目的とする細孔径が得られる限りにおいて、特に限定されない。通常、反応溶液に対して、0.05mol/L~10mol/L程度の拡径剤を添加し、60~150℃で水熱処理するのが好ましい。
【0067】
[2.4. 焼成工程]
次に、必要に応じて拡径処理を行った後、前記前駆体粒子を焼成する(焼成工程)。これにより、連珠状構造を備えたメソポーラスシリカ粒子が得られる。
焼成は、OH基が残留している前駆体粒子を脱水・結晶化させるため、及び、メソ細孔内に残存している界面活性剤を熱分解させるために行われる。焼成条件は、脱水・結晶化、及び界面活性剤の熱分解が可能な限りにおいて、特に限定されない。焼成は、通常、大気中において、400℃~700℃で1時間~10時間加熱することにより行われる。
【0068】
[3. メソポーラスカーボン(第2鋳型)の製造方法]
次に、連珠状構造を備えたメソポーラスシリカを鋳型に用いて、連珠状構造を備えたメソポーラスカーボン(第2鋳型)を製造する。このようなメソポーラスカーボンは、
(a)第1鋳型となるメソポーラスシリカを準備し、
(b)前記メソポーラスシリカのメソ細孔内にカーボンを析出させ、シリカ/カーボン複合体を作製し、
(c)前記複合体からシリカを除去する
ことにより得られる。
また、得られたメソポーラスカーボンの黒鉛化を促進させるために、シリカを除去した後に、メソポーラスカーボンを1500℃より高い温度で熱処理しても良い。
【0069】
[3.1. 第1鋳型準備工程]
まず、第1鋳型となるメソポーラスシリカを準備する(第1鋳型準備工程)。メソポーラスシリカの製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0070】
[3.2. カーボン析出工程]
次に、メソポーラスシリカのメソ細孔内にカーボンを析出させ、シリカ/カーボン複合体を作製する(カーボン析出工程)。
メソ細孔内へのカーボンの析出は、具体的には、
(a)メソ細孔内にカーボン前駆体を導入し、
(b)メソ細孔内において、カーボン前駆体を重合及び炭化させる
ことにより行われる。
【0071】
[3.2.1. カーボン前駆体の導入]
「カーボン前駆体」とは、熱分解によって炭素を生成可能なものをいう。このようなカーボン前駆体としては、具体的には、
(1) 常温で液体であり、かつ、熱重合性のポリマー前駆体(例えば、フルフリルアルコール、アニリン等)、
(2) 炭水化物の水溶液と酸の混合物(例えば、スクロース(ショ糖)、キシロース(木糖)、グルコース(ブドウ糖)などの単糖類、あるいは、二糖類、多糖類と、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などの酸との混合物)、
(3) 2液硬化型のポリマー前駆体の混合物(例えば、フェノールとホルマリン等)、
などがある。
これらの中でも、ポリマー前駆体は、溶媒で希釈することなくメソ細孔内に含浸させることができるので、相対的に少数回の含浸回数で、相対的に多量の炭素をメソ細孔内に生成させることができる。また、重合開始剤が不要であり、取り扱いも容易であるという利点がある。
【0072】
液体又は溶液のカーボン前駆体を用いる場合、1回当たりの液体又は溶液の吸着量は、多いほど良く、メソ細孔全体が液体又は溶液で満たされる量が好ましい。
また、カーボン前駆体として炭水化物の水溶液と酸の混合物を用いる場合、酸の量は、有機物を重合させることが可能な最小量とするのが好ましい。
さらに、カーボン前駆体として、2液硬化型のポリマー前駆体の混合物を用いる場合、その比率は、ポリマー前駆体の種類に応じて、最適な比率を選択する。
【0073】
[3.2.2. カーボン前駆体の重合及び炭化]
【0074】
次に、重合させたカーボン前駆体をメソ細孔内において炭化させる。
カーボン前駆体の炭化は、非酸化雰囲気中(例えば、不活性雰囲気中、真空中など)において、カーボン前駆体を含むメソポーラスシリカを所定温度に加熱することにより行う。加熱温度は、具体的には、500℃以上1200℃以下が好ましい。加熱温度が500℃未満であると、カーボン前駆体の炭化が不十分となる。一方、加熱温度が1200℃を超えると、シリカと炭素が反応するので好ましくない。加熱時間は、加熱温度に応じて、最適な時間を選択する。
【0075】
なお、メソ細孔内に生成させる炭素量は、メソポーラスシリカを除去した時に、カーボン粒子が形状を維持できる量以上であればよい。従って、1回の充填、重合及び炭化で生成する炭素量が相対的に少ない場合には、これらの工程を複数回繰り返すのが好ましい。この場合、繰り返される各工程の条件は、それぞれ、同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
また、充填、重合及び炭化の各工程を複数回繰り返す場合、各炭化工程は、相対的に低温で炭化処理を行い、最後の炭化処理が終了した後、さらにこれより高い温度で、再度、炭化処理を行っても良い。最後の炭化処理を、それ以前の炭化処理より高い温度で行うと、複数回に分けて細孔内に導入されたカーボンが一体化しやすくなる。
【0076】
[3.3. 第1鋳型除去工程]
次に、複合体から第1鋳型であるメソポーラスシリカを除去する(第1鋳型除去工程)。これにより、連珠状構造を備えたメソポーラスカーボン(第2鋳型)が得られる。
メソポーラスシリカの除去方法としては、具体的には、
(1) 複合体を水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液中で加熱する方法、
(2) 複合体をフッ化水素酸水溶液でエッチングする方法、
などがある。
【0077】
[3.4. 黒鉛化処理工程]
次に、必要に応じて、メソポーラスカーボンを1500℃より高い温度で熱処理する(黒鉛化工程)。メソポーラスシリカのメソ細孔内において炭素源を炭化させる場合において、シリカと炭素の反応を抑制するためには、熱処理温度を低くせざるを得ない。そのため、炭化処理後のカーボンの黒鉛化度は低い。高い黒鉛化度を得るためには、第1鋳型を除去した後、メソポーラスカーボンを高温で熱処理するのが好ましい。
【0078】
熱処理温度が低すぎると、黒鉛化が不十分となる。従って、熱処理温度は、1500℃超が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、1700℃以上、さらに好ましくは、1800℃以上である。
一方、熱処理温度を必要以上に高くしても、効果に差がなく、実益がない。従って、熱処理温度は、2300℃以下が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、2200℃以下である。
【0079】
[4. 酸化スズ系粒子の製造方法]
連珠状構造を備えた酸化スズ系粒子の製造方法は、
連珠状構造を備えたメソポーラスカーボンを準備する第1工程と、
メソポーラスカーボンのメソ細孔内に酸化スズ又はドーパントを含む酸化スズ(以下、これらを総称して「Sn含有酸化物」ともいう)析出させ、Sn含有酸化物/カーボン複合体を得る第2工程と、
Sn含有酸化物/カーボン複合体からカーボンを除去する第3工程と
を備えている。
【0080】
[4.1. 第1工程]
まず、連珠状構造を備えたメソポーラスカーボンを準備する(第1工程)。メソポーラスカーボンの製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0081】
[4.2. 第2工程]
次に、メソポーラスカーボンのメソ細孔内にSn含有酸化物を析出させる(第2工程)。これにより、Sn含有酸化物/カーボン複合体が得られる。
メソ細孔内へのSn含有酸化物の析出は、具体的には、メソ細孔内にSn含有酸化物の前駆体を導入し、前駆体をSn含有酸化物に変換することにより行う。
【0082】
[4.2.1. 前駆体]
メソ細孔内においてSn含有酸化物を形成するための前駆体としては、具体的には、
(1)Sn含有酸化物を構成する金属元素を含み、溶媒に可溶であり、かつ溶媒中の溶存酸素により酸化され、析出させることが可能な化合物、
(2)Sn含有酸化物を構成する金属元素を含み、熱分解あるいは加水分解により金属酸化物を形成することが可能な化合物、
などがある。
【0083】
溶存酸素により酸化し、析出させることが可能な化合物としては、
(1)SnCl2などの2価のSnを含む塩、
(2)NbCl5、SbCl3、WCl6、TaCl5、AlCl3などのNb、Sb、W、Ta、又はAlをを含む塩、
などがある。
【0084】
熱分解あるいは加水分解により金属酸化物を形成することが可能な化合物としては、
(1)SnCl4、SnCl2、NbCl5、SbCl3、WCl6、TaCl5、AlCl3などの塩化物、
(2)タングステンエトキシド(W(OC2H5)6)、Sn(OC2H5)2、Sn(OC(CH3)3)4、Nb(OC2H5)5、Ta(OC2H5)5、Sb(OC2H5)3、Al(OC2H5)3などのアルコキシド、
(3)スズアセチルアセトナート(Sn(CH3COCHCOCH3)2)、Al(CH3COCHCOCH3)3などのアセチルアセトナート塩、
(4)Sn(CH3COO)2、Sb(CH3COO)3などの酢酸塩、
などがある。
【0085】
[4.2.2. 細孔への前駆体の導入]
前駆体が液体である場合、これをそのままメソポーラスカーボンの細孔内に吸着させても良い。あるいは、前駆体を適当な溶媒に溶解させ、この溶液をメソポーラスカーボンの細孔内に吸着させても良い。前駆体を溶媒に溶解させる場合、溶媒の種類及び前駆体の濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択する。
【0086】
[4.2.3. 前駆体の酸化物への変換]
前駆体を吸着させた後、前駆体をSn含有酸化物に変換する。変換方法は、特に限定されるものではなく、前駆体の種類に応じて最適な方法を選択する。
例えば、前駆体として塩化物を用いる場合、塩化物を溶解させた溶液にメソポーラスカーボンを分散させ、空気中で攪拌する。攪拌を続けると、やがて塩化物がメソポーラスカーボンのメソ細孔内に吸着され、メソ細孔内の塩化物が溶存酸素により次第にSn含有酸化物となる。
【0087】
また、例えば、前駆体としてアルコキシドを用いる場合、アルコキシド又はこれを溶解させた溶液をメソポーラスカーボンに添加し、メソ細孔内にアルコキシド又はその溶液を含浸させる。これを所定の温度に加熱すると、アルコキシドの重縮合が起こり、メソ細孔内にSn含有酸化物が生成する。
なお、1回の前駆体の吸着及びSn含有酸化物への変換により、メソ細孔内に十分な量のSn含有酸化物を形成することができないときは、吸着及び変換を複数回繰り返しても良い。
【0088】
[4.3. 第3工程]
次に、Sn含有酸化物/カーボン複合体からカーボンを除去する(第3工程)。これにより、本発明に係る酸化スズ系粒子が得られる。
カーボンの除去方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。カーボンの除去方法としては、例えば、
(1)Sn含有酸化物/カーボン複合体を酸化雰囲気下で加熱する方法、
(2)Sn含有酸化物/カーボン複合体を酸素プラズマエッチングする方法、
などがある。
加熱温度、加熱時間などの除去条件は、特に限定されるものではなく、Sn含有酸化物の結晶子を粗大化させることなく、カーボンが完全に除去される条件であれば良い。
【0089】
[5. 作用]
酸化スズ系粒子の表面にPt系微粒子が担持された電極触媒において、酸化スズ系粒子の微構造及び/又は組成を最適化すると、高比表面積と高ORR質量活性とを両立させることができる。特に、酸化スズ系粒子がメソ孔を備えている場合には、高比表面積でありながら、高いORR質量活性を示す。これは、メソ孔内にPt系微粒子が担持されることにより、アイオノマ被毒が低減するためと考えられる。
【0090】
特に、連珠状構造を備えた多孔質カーボンを鋳型に用い、鋳型の細孔内にSn源を析出させると、高比表面積で、かつ、連珠状構造を備えた多孔質SnO2粒子が得られる。また、Sn源に適切な量のドーパントM(例えば、Sb)を添加すると、高い導電性を有する多孔質M-SnO2粒子が得られる。この多孔質M-SnO2粒子の表面にコロイド法を用いてPt又はPt合金を担持すると、多孔質M-SnO2粒子の比表面積が高いために、粒径が2~3nm程度のPt系微粒子をその表面に高分散に担持することができる。
【0091】
このようにして得られた電極触媒は、担体の導電性が高いために、Pt系微粒子のORR面積比活性が高くなり、その結果として高いORR質量活性を示す。より具体的には、0.9VにおけるORR質量活性が150A/gPt以上であり、及び/又は、0.85VにおけるORR質量活性が650A/gPtである電極触媒が得られる。
【実施例】
【0092】
(実施例1~4)
[1. Sb-SnO2担体の作製]
[1.1. 連珠状メソポーラスシリカ(放射状細孔)の作製]
メタノール(MeOH):4.6g、及びエチレングリコール(EG):4.6gの混合溶媒に、30mass%塩化セチルトリメチルアンモニウム水溶液:56.3gを加え、室温で攪拌した。これに1M NaOH:8.8gを加え、50℃に加温した。以下、これを「第1溶液」という。
次に、MeOH:6.5g、及びEG:6.5gの混合溶媒にテトラエトキシシラン(TEOS):12.3gを溶解させた。以下、これを「第2溶液」という。
【0093】
50℃に加温された第1溶液に第2溶液を加えた。混合液が白濁した後、加温を停止し、さらに4時間以上攪拌した。ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した後、45℃で乾燥させた。さらに、乾燥粉を大気中、550℃×6h焼成し、連珠状メソポーラスシリカ(放射状細孔、CSS、Connected Starburst Silica)を得た。
【0094】
[1.2. 連珠状メソポーラスカーボン(放射状細孔)の作製]
PFA製容器にCSS:0.5gを入れ、フルフリルアルコール(FA)をCSSの細孔容量分だけ加えて、CSSの細孔内に浸透させた。これを150℃×24h熱処理することにより、FAを重合させた。さらに、これを窒素雰囲気中で500℃×6h熱処理し、FAの炭化を進めた。これを2回繰り返した後、さらに窒素雰囲気中で900℃×6h熱処理して、CSS/カーボン複合体を得た。
【0095】
この複合体を12%HF溶液に4h浸漬し、シリカ成分を溶解した。溶解後、ろ過、洗浄を繰り返し、さらに45℃で乾燥して、連珠状メソポーラスカーボン(放射状細孔、CSC、Connected Starburst Carbon)を得た。得られた多孔体は、BET比表面積:2122m2/g、細孔容量:1.3mL/g、細孔径:2.2nmであった。
【0096】
[1.3. 連珠状メソポーラスSb-SnO2の作製]
濃塩酸(35mass%):4mLにSbCl3:0.03gを溶解し、精製水:36mLを加えて希釈した後、SnCl2:5.0gをさらに加えて溶解させた。この溶液に連珠状メソポーラスカーボン(CSC):0.1gを加えて分散させた。この分散液を空気中、室温で2h攪拌した後、精製水:200mLを追加して、さらに空気中で4h攪拌した。続いて、ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した後、45℃で乾燥し、連珠状Sb-SnO2/カーボン複合体を得た。
この連珠状Sb-SnO2/カーボン複合体を空気雰囲気中において、320℃×24h処理し、連珠状メソポーラスSb-SnO2(Sbドープ量:2.5at%)を得た。
【0097】
さらに、濃塩酸に溶解させるSbCl3量を0.06g、0.12g、又は0.18gとした以外は、上記と同様にして、Sbドープ量の異なる連珠状メソポーラスSb-SnO2(Sbドープ量:3.2at%、5.6at%、又は、8.1at%)を得た。なお、「Sbドープ量」とは、ICP分析により得られる値をいう。
【0098】
[2. 電極触媒の作製]
[2.1. 実施例1:ALD法によるPt/Sb-SnO2]
ALD装置を用いて、Sb-SnO2担体粒子へのPt蒸着を行った。Pt前駆体には、MeCpPtMe3(メチルシクロペンタジエニルトリメチル白金)を用いた。Sb-SnO2担体粒子(Sbドープ量:2.5at%):100mgを入れた試料管を150℃、Pt前駆体を封入した容器を60℃にそれぞれマントルヒーターで加熱し、以下のALDサイクル(1~4)を18回繰り返すことで、Pt/Sb-SnO2(Pt担持率:35mass%)を得た。
1.Pt前駆体供給:MeCpPtMe3/Ar、50ccm、20min
2.パージ:Ar、200ccm、5min
3.Pt前駆体還元:H2、100ccm、5min
4.パージ:Ar、200ccm、5min
【0099】
[2.2. 実施例2:コロイド法によるPt/Sb-SnO2(1)]
0.4M NaOH/EG溶液:6mLと、0.04mM H2PtCl6/EG溶液:6mLとを混合した。この混合液をマイクロ波合成装置(Monowabe 400, Anton Paar社製)で攪拌しながら160℃で3min加熱することで、Ptナノ粒子コロイド溶液を得た。
次に、Ptナノ粒子コロイド溶液:6mLに、Sb-SnO2担体粒子(Sbドープ量:2.5at%):94mgを加え、室温で2h攪拌した。続いて、1M HNO3:0.15mLを加え、室温で1h攪拌する操作を2回繰り返した。さらに、1M HNO3:0.375mLを加え、室温で1h攪拌した。その後、ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した。固形物に対して70℃で真空乾燥を行い、Pt/Sb-SnO2(Pt担持率:20mass%)を得た。
【0100】
[2.3. 実施例3:コロイド法によるPt/Sb-SnO2(2)]
Sb-SnO2担体粒子(Sbドープ量:2.5at%)に代えて、Sb-SnO2担体粒子(Sbドープ量:5.6at%)を用いた以外は実施例2と同様にして、Pt/Sb-SnO2(Pt担持率:20mass%)を得た。
【0101】
[2.4. 実施例4:コロイド法によるPt/Sb-SnO2(3)]
Sb-SnO2担体粒子(Sbドープ量:2.5at%)に代えて、Sb-SnO2担体粒子(Sbドープ量:5.6at%)を用い、Ptナノ粒子コロイド溶液の量を10mLとした以外は実施例2と同様にして、Pt/Sb-SnO2(Pt担持率:30mass%)を得た。
【0102】
[3. 試験方法]
[3.1. 連珠状メソポーラスSb-SnO2の評価]
[3.1.1. N2吸着測定]
作製した連珠状メソポーラスSb-SnO2について、N2吸着測定を行った。N2吸着等温線からBJH法により細孔径分布を求め、モード細孔径(細孔径の最頻値)をその試料の細孔径とした。
【0103】
[3.1.2. 導電率測定]
作製した連珠状メソポーラスSb-SnO2について、導電率測定を行った。導電率の測定は、圧粉体を作製し、これに2.4MPaの圧力をかけながら直流電流を流した時の電圧値を計測することにより行った。
【0104】
[3.2. Pt/Sb-SnO2の評価]
[3.2.1. SEM観察]
作製したPt/Sb-SnO2について、SEM観察を行った。
[3.2.2. XRD測定]
作製したPt/Sb-SnO2について、XRD測定を行った。
【0105】
[3.2.3. 電気化学評価]
作製したPt/Sb-SnO2について、回転ディスク電極(RDE)法による電気化学測定を行った。RDE測定は、0.1M過塩素酸中、室温で行った。Arでパージした電解液中で記録したサイクリックボルタモグラムの水素吸脱着ピークの電荷量から、Ptの電気化学表面積(ECSA)を算出した。
また、O2で飽和させた電解液中でリニアスイープボルタンメトリー(20mV/s、正方向掃引)を行った。得られたボルタモグラムに対して、バックグラウンド補正、溶液抵抗補正、及び、限界電流補正を行うことで、0.9V又は0.85V(可逆水素電極(RHE)基準)におけるORR活性を求めた。なお、ORR活性は、Pt質量当たりの活性(質量活性、MA)と、Pt表面積当たりの活性(比活性、SA)とを算出した。
【0106】
[4. 結果]
[4.1. 連珠状メソポーラスSb-SnO2の評価]
表1に、連珠状メソポーラスSb-SnO2のSbドープ量、比表面積、細孔径、及び導電率を示す。導電率は、Sbドープ量が5.6at%の時に最も高くなることが分かった。他方、Sbドープ量が8.1at%である粒子は、比表面積が他の粒子よりやや大きいが、細孔径については他の粒子との間に顕著な差は見られなかった。
【0107】
【0108】
[4.2. Pt/Sb-SnO
2の評価]
[4.2.1. SEM観察]
図1に、実施例1(ALD法)で得られたPt/Sb-SnO
2のSEM像(反射電子像)を示す。
図2に、実施例2(コロイド法)で得られたPt/Sb-SnO
2のSEM像(反射電子像)を示す。
図1及び
図2より、ALD法及びコロイド法のいずれの担持方法を用いた場合であっても、2~3nm程度のPtナノ粒子がSb-SnO
2担体上に高分散に担持されている様子が分かる。
【0109】
[4.2.2. XRD測定]
図3に、実施例1(ALD法)及び実施例3(コロイド法)で得られたPt/Sb-SnO
2のXRDパターンを示す。コロイド法でPtを担持した電極触媒(実施例3)では、Pt(200)由来の回折ピークが2θ=47°付近に確認できる。他方、ALD法でPtを担持した電極触媒(実施例1)では、これに対応するピークが低角側にシフトしており、PtSb
3に帰属されるピークであることが分かった。このことより、ALD法を用いた場合、担体表面にPtが担持されるとと同時に、Ptと担体のSnとの合金化が進むことが分かった。
【0110】
[3.2.3. 電気化学評価]
図4に、実施例2及び実施例3で得られたPt/Sb-SnO
2のサイクリックボルタモグラムを示す。実施例2(Sbドープ量:2.5at%、コロイド法)と実施例3(Sbドープ量:5.6at%、コロイド法)とを比較すると、0.6V以下では両者に違いは見られなかった。しかし、0.6V以上のPt酸化還元由来のピークについては、実施例2(Sbドープ量:2.5at%)の方が実施例3(Sbドープ量:5.6at%)より小さくなった。これは、Sbドープ量が少ない場合、高電位領域において担体の電子伝導性が低下し、電気化学的に使用可能なPt粒子の割合が低下していることを示している。
【0111】
表2に、実施例1~4のPt/Sb-SnO2の担体物性、Pt担持率、及び電気化学評価結果を示す。実施例1(ALD法)は、ECSA、SA、及びMAのいずれも、最も低い値となった。これは、ALD法を用いてPtを担持した場合、Ptが担体のSnと合金化したことによるものと考えられる。一般に、Pt合金は純Ptと比較して水素吸着量が少なく、サイクリックボルタモグラムの水素吸脱着ピークからECSAを見積もると、低い値が得られることが知られている。また、ORR活性についても、合金化により低下したものと考えられる。従って、連珠状メソポーラスSb-SnO2へのPt担持法としては、ALD法よりもコロイド法の方が適していることが分かった。
【0112】
コロイド法で担持した電極触媒の中では、担体のSbドープ量が5.6at%である実施例3、4のMAは、担体のSbドープ量が2.5at%である実施例2のそれよりも15%程度高い値となった。これは、Sbドープ量が少ない場合、0.6V以上の領域で担体の電子伝導性が低下することによると考えられる。Pt担持率の違い(実施例3と実施例4)によるMAの差は認められなかった。
【0113】
【0114】
表3に、実施例3で得られたPt/Sb-SnO2と、非特許文献2~6に報告されているPt/M-SnO2(M=Sb、Nb、Ta)とのECSA及びORR活性の比較を示す。実施例3のORR質量活性(MA)は、非特許文献2~5で報告されているPt/M-SnO2のMAよりも3倍以上高い。
また、非特許文献6のPt/Ta-SnO2については、実施例3よりも1割程度高いMAが報告されている。しかし、非特許文献6のTa-SnO2担体の比表面積は、実施例3で用いたSb-SnO2担体の比表面積の1/6である。
従って、M-SnO2担体の比表面積が30m2/g以上、かつ、ORR質量活性が150A/g(@0.9V)又は650A/g(@0.85V)であるPt/M-SnO2触媒はこれまでに報告例がなく、本発明により初めて達成されたものである。
【0115】
【0116】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明に係る電極触媒は、固体高分子形燃料電池の空気極触媒層の電極触媒、あるいは、燃料極触媒層の電極触媒として用いることができる。