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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】刃先交換式カッター
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/22 20060101AFI20241021BHJP
   B23C 5/06 20060101ALI20241021BHJP
   B23C 5/20 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
B23B27/22
B23C5/06 A
B23C5/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019064107
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020163488
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-30
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】三浦 亮
(72)【発明者】
【氏名】堀池 伸和
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】大山 健
【審判官】田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-11473(JP,A)
【文献】特表2010-536599(JP,A)
【文献】特開2011-115896(JP,A)
【文献】特許第5260924(JP,B2)
【文献】特許第5895456(JP,B2)
【文献】国際公開第2007/142224(WO,A1)
【文献】特開2000-288820(JP,A)
【文献】特開2017-154235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/22
B23C 5/06
B23C 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角形板状に形成されたインサート本体の多角形面がすくい面とされるとともに、このすくい面の周りに配置される上記インサート本体の側面が逃げ面とされ、これらすくい面と逃げ面との交差稜線部に切刃が形成された切削インサートが、軸線回りに回転されるカッター本体の先端部外周に形成されたインサート取付座に着脱可能に取り付けられる刃先交換式カッターであって、
上記インサート本体は正方形の板状に形成されており、
上記すくい面の角部にはコーナ刃が形成されており、このコーナ刃の一端に連なる上記交差稜線部には主切刃が形成されるとともに、上記コーナ刃の他端に連なる上記交差稜線部には副切刃が形成されていて、
これら主切刃および副切刃は、上記コーナ刃から離れるに従い、上記すくい面とされた多角形面とは反対の多角形面側に向かうように傾斜しており、
上記主切刃には、上記すくい面に対向する方向から見て互いに鈍角に交差する第1の主切刃部と第2の主切刃部とが形成され、
上記第1の主切刃部は上記コーナ刃の上記一端に連なり、上記第2の主切刃部は上記第1の主切刃部に連なって上記コーナ刃とは反対側に延び、上記第2の主切刃部の長さは上記第1の主切刃部の長さよりも長くされ、
上記コーナ刃は、上記すくい面とされた多角形面に対向する方向から見て、上記主切刃と副切刃に鈍角に交差する直線状に形成され、
上記すくい面とされた多角形面と、このすくい面とされた多角形面とは反対の上記インサート本体の多角形面には、互いに平行なボス面が形成されており、これらのボス面は、それぞれの多角形面において上記切刃よりも突出するように形成され、
上記すくい面には、上記主切刃、副切刃、およびコーナ刃から該すくい面の内側に向かうに従い、上記すくい面とされた多角形面とは反対の多角形面側に向かうように傾斜した後、上記ボス面に向かって突出するように傾斜して上記ボス面の外周縁に連なる底面を有するブレーカ溝が上記多角形面の全周に亙って形成され
上記インサート取付座に、上記切削インサートが、上記すくい面をカッター回転方向に向け、上記主切刃を上記カッター本体の外周側に向けるとともに、上記副切刃を上記カッター本体の先端側に向けて着脱可能に取り付けられており、
上記主切刃には正のアキシャルレーキ角が与えられるとともに、上記副切刃には正のラジアルレーキ角が与えられていることを特徴とする刃先交換式カッター。
【請求項2】
上記逃げ面は、上記ボス面に対して垂直な方向に延び、
上記コーナ刃は、上記ボス面に平行に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の刃先交換式カッター。
【請求項3】
上記切刃にはチャンファーホーニングが施されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の刃先交換式カッター。
【請求項4】
上記インサート本体は、上記多角形面の周回り方向に一定の角度ずつ回転対称形状に形成されるとともに、
上記すくい面とされた多角形面と、このすくい面とされた多角形面とは反対の多角形面に関して表裏反転対称形状に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の刃先交換式カッター。
【請求項5】
上記第1、第2の主切刃部は、上記多角形面に対向する平面視において直線状であって、180°に近い鈍角で交差していることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の刃先交換式カッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多角形板状に形成されたインサート本体の多角形面がすくい面とされるとともに、このすくい面の周りに配置されるインサート本体の側面が逃げ面とされ、これらすくい面と逃げ面との交差稜線部に切刃が形成された切削インサートが軸線回りに回転されるカッター本体の先端部外周に形成されたインサート取付座に着脱可能に取り付けられた刃先交換式カッターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような切削インサートとして、例えば特許文献1には、焼結して製造された多角形を基本形状とする正面フライスカッターなどの切刃として使用される切削インサートであって、上下面の中央部にフラットな保持面を有し、さらに、上下面の各コーナ部近傍にそれぞれ突起を有し、その突起の各々は、頭頂部が平坦でその頭頂部の位置が切削インサートの上下面と側面との間に形成される切刃の位置より高く、かつ、保持面の位置よりも高くなっており、その突起が、切削インサートの各コーナ部の切刃と保持面との間に配置され、切削インサートの平面視において切刃の側が短辺で保持面の側が長辺となる略台形の形状を有してコーナ部近辺で生成される切屑をワークから離反する方向に誘導する機能を備えたものが記載されている。
【0003】
ここで、この特許文献1に記載された切削インサートでは、切刃に、隣り合うコーナの一方から他方に至る主切刃が含まれ、その主切刃を、その主切刃の両端から長手方向中央に向って保持面からの深さを増大させる方向に落ち込ませたことも記載されている。さらに、この特許文献1の切削インサートは、基本形状が正方形の切削インサートであって、切刃に副切刃が含まれ、その副切刃が直線または直線に近似した曲線で形成され、その副切刃が切削インサートの平面視において切削インサートのコーナ角の2等分線を基準にして対称形状をなし、かつ、互いのなす角を鈍角にする方向に傾いていることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-104738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この特許文献1に記載された切削インサートでは、逃げ面(側面)が保持面に対して垂直な方向に延びるネガティブタイプの切削インサートであるのに対し、特許文献1の図3に示されるように副切刃が保持面と平行に延びており、正面フライスカッターのカッター本体の外周側に向けられる主切刃の逃げ面に逃げ角を与えるためには、カッター本体の先端側に向けられる副切刃のラジアルレーキ角(径方向すくい角)を負の角度としなければならない。しかしながら、このように副切刃のラジアルレーキ角が負の角度であると、副切刃に作用する主分力が高くなって切削抵抗が大きくなり、例えば鋳鉄のような被削材の切削加工においては、副切刃にチッピングや欠損が発生し易くなるおそれがある。
【0006】
また、この特許文献1に記載された切削インサートは、上述のように正方形の切削インサートであり、しかも副切刃が切削インサートの平面視において切削インサートのコーナ角の2等分線を基準にして対称形状をなしている勝手無しの切削インサートであるので、特許文献1の図6に示されるようにカッター本体の先端側に向けられる副切刃をカッター本体の軸線に垂直な平面に沿って延びるように配置すると、特許文献1の図7に示されるようにカッター本体の外周側に向けられる主切刃が大きく傾いてしまって切り込み角が小さくなる。そして、これに伴い背分力も大きくなってビビリ振動が発生するおそれがあるとともに、同じ大きさの切削インサートであれば主切刃の最大切り込み量も小さくならざるを得ない。
【0007】
さらに、この特許文献1に記載された切削インサートは、上述のように上下面の各コーナ部近傍にそれぞれ突起を有し、その突起の各々は、頭頂部が平坦でその頭頂部の位置が切削インサートの上下面と側面との間に形成される切刃の位置より高く、かつ、保持面の位置よりも高くなっており、その突起が、切削インサートの各コーナ部の切刃と保持面との間に配置されているので、コーナ部の副切刃によって生成された切屑がこの突起に当たって詰まりを生じるおそれもある。
【0008】
本発明は、このような背景の下になされたもので、切削加工時に切削インサートに作用する主分力や背分力の低減を図って切刃のチッピングや欠損、ビビリ振動の発生等を防止するとともに、切屑の詰まりを防ぎ、さらに主切刃に大きな切り込み量を確保することが可能な切削インサートを取り付けた刃先交換式カッターを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の刃先交換式カッターは、多角形板状に形成されたインサート本体の多角形面がすくい面とされるとともに、このすくい面の周りに配置される上記インサート本体の側面が逃げ面とされ、これらすくい面と逃げ面との交差稜線部に切刃が形成された切削インサートが、軸線回りに回転されるカッター本体の先端部外周に形成されたインサート取付座に着脱可能に取り付けられる刃先交換式カッターであって、上記インサート本体は正方形の板状に形成されており、上記すくい面の角部にはコーナ刃が形成されており、このコーナ刃の一端に連なる上記交差稜線部には主切刃が形成されるとともに、上記コーナ刃の他端に連なる上記交差稜線部には副切刃が形成されていて、これら主切刃および副切刃は、上記コーナ刃から離れるに従い、上記すくい面とされた多角形面とは反対の多角形面側に向かうように傾斜しており、上記主切刃には、上記すくい面に対向する方向から見て互いに鈍角に交差する第1の主切刃部と第2の主切刃部とが形成され、上記第1の主切刃部は上記コーナ刃の上記一端に連なり、上記第2の主切刃部は上記第1の主切刃部に連なって上記コーナ刃とは反対側に延び、上記第2の主切刃部の長さは上記第1の主切刃部の長さよりも長くされ、上記コーナ刃は、上記すくい面とされた多角形面に対向する方向から見て、上記主切刃と副切刃に鈍角に交差する直線状に形成され、上記すくい面とされた多角形面と、このすくい面とされた多角形面とは反対の上記インサート本体の多角形面には、互いに平行なボス面が形成されており、これらのボス面は、それぞれの多角形面において上記切刃よりも突出するように形成され、上記すくい面には、上記主切刃、副切刃、およびコーナ刃から該すくい面の内側に向かうに従い、上記すくい面とされた多角形面とは反対の多角形面側に向かうように傾斜した後、上記ボス面に向かって突出するように傾斜して上記ボス面の外周縁に連なる底面を有するブレーカ溝が上記多角形面の全周に亙って形成され、上記インサート取付座に、上記切削インサートが、上記すくい面をカッター回転方向に向け、上記主切刃を上記カッター本体の外周側に向けるとともに、上記副切刃を上記カッター本体の先端側に向けて着脱可能に取り付けられており、上記主切刃には正のアキシャルレーキ角が与えられるとともに、上記副切刃には正のラジアルレーキ角が与えられていることを特徴とする。
【0011】
このように構成された切削インサートにおいては、主切刃および副切刃が、コーナ刃から離れるに従い、すくい面とされた多角形面とは反対の多角形面側に向かうように傾斜しているので、すくい面とされた多角形面と、このすくい面とされた多角形面とは反対のインサート本体の多角形面に互いに平行なボス面が形成されて、上記逃げ面がこのボス面に対して垂直な方向に延び、上記コーナ刃は、上記ボス面に平行に形成されているネガティブタイプの切削インサートであっても、上記構成の刃先交換式カッターのように、主切刃には正のアキシャルレーキ角を与えるとともに、副切刃には正のラジアルレーキ角を与えることができる。さらには、このようにコーナ刃がボス面に平行に形成されている場合には、コーナ刃のアキシャルレーキ角を小さくすることができる。
【0012】
このため、副切刃に作用する主分力を小さく抑えて切削抵抗を低減することができるとともに、コーナ刃の被削材への食い付き時の衝撃を分散させることができるので、例えば鋳鉄のような被削材の切削加工においても、副切刃や主切刃、さらには、コーナ刃にチッピングや欠損が生じるのを防ぐことが可能となる。
【0013】
また、すくい面には、主切刃、副切刃、およびコーナ刃からすくい面の内側に向かうに従い、すくい面とされた多角形面とは反対の多角形面側に向かうように傾斜する底面を有するブレーカ溝が形成されていて、特許文献1に記載の切削インサートのように切削インサートの各コーナ部の切刃とボス面との間に切刃や保持面の位置よりも高い突起が配置されることがない。従って、このような突起に切屑が当たって詰まりを生じるようなこともない。
【0014】
さらに、上記構成の切削インサートでは、すくい面と逃げ面との交差稜線部のうち、コーナ刃の一端に連なる交差稜線部には主切刃が形成されるとともに、コーナ刃の他端に連なる交差稜線部には副切刃が形成されていて、すくい面に対向する平面視においてすくい面の角部の2等分線を基準に関して対称形状ではない勝手付きの切削インサートとすることができる。
【0015】
このため、副切刃をカッター本体の軸線に垂直な平面に沿うように配置しても、主切刃の切り込み角が小さくなるのを防ぐことができ、主切刃に作用する背分力を一層低減してビビリ振動を防止することができるとともに、同じ大きさの切削インサートであれば主切刃の最大切り込み量も大きく確保することができる。
【0016】
ここで、上記主切刃には、上記すくい面に対向する方向から見て互いに鈍角に交差する第1の主切刃部と第2の主切刃部とを形成することにより、第1の主切刃部をコーナ刃の一端に連なるように形成した場合に、コーナ刃とは反対側の第2の主切刃部の切り込み角をさらに大きくすることができる。従って、主切刃に作用する背分力をさらに低減してビビリ振動を確実に防止することができるとともに、最大切り込み量も一層大きくすることができる。
【0017】
ところで、上記コーナ刃がすくい面に対向する方向から見て主切刃と副切刃に接する凸円弧状等の丸コーナの場合には、コーナ刃の副切刃側で切屑の厚さが薄くなるため、鋳鉄のような被削材では切刃が被削材から抜け出る際にコバ欠けが発生し易くなる。これに対して、上記構成の切削インサートにおいては、上記コーナ刃を、上記すくい面とされた多角形面に対向する方向から見て、上記主切刃と副切刃に鈍角に交差する直線状に形成し、いわゆる面取りコーナあるいはチャンファーコーナとすることにより、コーナ刃の副切刃側でも切屑の厚さを厚くすることができるので、鋳鉄のような被削材の切削加工においても、被削材の加工面にコバ欠けが発生するのを防止することができる。さらにまた、切刃にチャンファーホーニングを施すことにより、切刃のチッピングや欠損を防止することができる。
【0018】
さらに、上記インサート本体を、上記多角形面の周回り方向に一定の角度ずつ回転対称形状に形成するとともに、上記すくい面とされた多角形面と、このすくい面とされた多角形面とは反対の多角形面に関して表裏反転対称形状に形成することにより、切削加工に使用可能な主切刃、副切刃、およびコーナ刃の数を表裏の多角形面の角部の総数分だけ確保することができ、インサート本体の有効利用を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、切削加工時に作用する主分力や背分力を低減して、切刃のチッピングや欠損を防ぐとともにビビリ振動の発生等を防止することができるとともに、切屑の詰まりを防止することができ、さらに主切刃に大きな切り込み量を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の切削インサートの一実施形態を示す斜視図である。
図2図1に示す実施形態のすくい面に対向する方向から見た平面図である。
図3図1に示す実施形態の逃げ面に対向する方向から見た側面である。
図4図1図3に示す実施形態の切削インサートを着脱可能に取り付けた本発明の刃先交換式カッターの一実施形態を示す、軸線方向先端側(底面側)から見た斜視図である。
図5図4に示す実施形態の底面図である。
図6図5における矢線A方向視の側面図である。
図7図5における矢線B方向視の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1図3は本発明の切削インサートの一実施形態を示すものであり、図4図7は、この実施形態の切削インサートを着脱可能に取り付けた本発明の刃先交換式カッターの一実施形態を示すものである。本実施形態の切削インサートは、超硬合金等の硬質材料により多角形板状に形成されたインサート本体1を備えており、本実施形態のインサート本体1は概略正方形の板状に形成されている。
【0022】
このインサート本体1の2つの多角形面(正方形面)2は、それぞれがすくい面とされるとともに、これらの多角形面2の周囲に配置される4つの側面3は逃げ面とされ、これら2つの多角形面2と4つの側面3との交差稜線部に切刃4が形成されている。なお、切刃4にはチャンファーホーニングが施されている。また、本実施形態のインサート本体1は、多角形面2の周回り方向に一定の角度ずつ(本実施形態では90°ずつ)回転対称形状に形成されているとともに、2つの多角形面2に関して表裏反転対称形状に形成されている。
【0023】
この切刃4においては、多角形面2の4つの角部にそれぞれコーナ刃4aが形成されており、このコーナ刃4aの一端(図2において、多角形面2の周回り方向にコーナ刃4aの反時計回り方向側の端部)に連なる上記交差稜線部には主切刃4bが形成されるとともに、コーナ刃4aの他端(図2において、多角形面2の周回り方向にコーナ刃4aの時計回り方向側の端部)に連なる上記交差稜線部には副切刃4cが形成されている。この副切刃4cは、多角形面2に対向する平面視において直線状であってもよく、また曲率半径の大きな凸曲線状であってもよい。
【0024】
また、2つの多角形面2の中央部には、互いに平行な平坦面であるボス面5が形成されており、これらのボス面5は、図3に示すようにそれぞれの多角形面2において切刃4よりも突出するように形成されている。さらに、逃げ面とされる側面3はこのボス面5に垂直な方向に延びており、すなわち、本実施形態の切削インサートは、ネガティブタイプの切削インサートである。なお、インサート本体1には、2つの多角形面2の間を貫通する貫通孔6が形成されてボス面5の中央部に開口している。
【0025】
切刃4のうち、コーナ刃4aは、上記すくい面とされた多角形面2に対向する平面視において図2に示すように、主切刃4bおよび副切刃4cに略等しい角度で鈍角に交差する直線状に形成されていて、いわゆる面取りコーナあるいはチャンファーコーナとされており、コーナ刃4aの長さは主切刃4bおよび副切刃4cよりも短い。また、このコーナ刃4aは、側面3に対向する側面視においては図3に示すように、ボス面5に平行な平面に沿って延びるように形成されている。
【0026】
これに対して、主切刃4bおよび副切刃4cは、このコーナ刃4aから離れるに従い、略一定の角度ですくい面とされた多角形面2とは反対の多角形面2側に向かうように傾斜している。ここで、主切刃4bは副切刃4cよりも長くされていて、本実施形態の切削インサートは勝手付きの切削インサートとされている。さらに、多角形面2と側面3との1つの交差稜線部の両端部に形成される主切刃4bと副切刃4cとは、図3に示すように主切刃4bがコーナ刃4aから離れて反対の多角形面2側に延びた後、凹曲線と凸曲線を介して突出し、副切刃4cに連なるように形成されている。
【0027】
また、主切刃4bには、コーナ刃4aの上記一端に連なる第1の主切刃部4b1と、この第1の主切刃部4b1に連なってコーナ刃4aとは反対側に延びる第2の主切刃部4b2とが形成されており、これら第1、第2の主切刃部4b1、4b2は、多角形面2に対向する平面視において直線状であって、180°に近い鈍角で交差している。なお、第1の主切刃部4b1の長さは副切刃4cの長さと略等しくされるとともに、第2の主切刃部4b2の長さは第1の主切刃部4b1の長さよりも長くされている。
【0028】
さらに、すくい面とされる多角形面2には、主切刃4b、副切刃4c、およびコーナ刃4aから多角形面2の内側に向かうに従い、すくい面とされた多角形面2とは反対の多角形面2側に向かうように傾斜する底面を有するブレーカ溝7が多角形面2の全周に亙って形成されている。このブレーカ溝7の底面は、多角形面2の内側に向かうに従い、このように反対の多角形面2側に傾斜した後、ボス面5に向かって突出するように傾斜してボス面5の外周縁に連なっている。
【0029】
このように構成された切削インサートは、図4図7に示すように、軸線Oを中心とした円盤状の刃先交換式カッターのカッター本体11先端部(図6および図7において下側部分)の外周に形成された複数のインサート取付座12に着脱可能に取り付けられ、このカッター本体11の後端部が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りにカッター回転方向Tに回転させられつつ軸線Oに垂直な方向に送り出されることにより、1組の切刃4(コーナ刃4a、主切刃4b、および副切刃4c)によって鋳鉄のような被削材に切削加工(正面フライス加工)を施す。
【0030】
カッター本体11の先端部(図5および図6において下側部分)は後端部(図5および図6において上側部分)よりも大径に形成されており、この先端部の外周には軸線O方向に延びる凹溝状の複数のチップポケット13が周方向に間隔をあけて形成されていて、インサート取付座12は、これらのチップポケット13のカッター回転方向Tとは反対側に隣接して開口するカッター本体11の後端内周側に凹んだスリット状に形成されている。本実施形態では、10ずつのインサート取付座12とチップポケット13とが周方向に等間隔に形成されている。
【0031】
インサート取付座12には、チップポケット13のカッター回転方向Tとは反対側に連なってカッター回転方向Tとは反対側を向く底面と、この底面からさらにカッター回転方向Tとは反対側に延びてカッター本体11の先端側を向く壁面およびカッター本体11の外周側を向く壁面の2つの壁面とが形成されている。また、インサート取付座12のカッター回転方向Tとは反対側と、インサート取付座12のカッター本体11の先端側を向く壁面の軸線O方向後端側には、それぞれ凹所が形成されている。
【0032】
このようなインサート取付座12に、上記実施形態の切削インサートは、切削に使用される上記1組の切刃4のコーナ刃4aをカッター本体11の先端外周部に突出させ、このコーナ刃4aの一端に連なる主切刃4bをカッター本体11の外周側に突出させるとともに、上記コーナ刃4aの他端に連なる副切刃4cをカッター本体11の先端側に突出させて、カッター回転方向Tに向けられたすくい面とされる多角形面2のボス面5をインサート取付座12の底面に密着させるとともに、切削に使用される切刃4が形成された角部とは対角線上に位置する角部に交差する2つの側面3をインサート取付座12の上記2つの壁面に当接させて着座させられる。
【0033】
さらに、インサート取付座12のカッター回転方向Tとは反対側に形成された上記凹所には、クサビ部材14が収容されてクランプネジ15によりネジ止めされ、このクサビ部材14のカッター回転方向Tを向くインサート取付座12の底面と平行な側面がインサート本体1のカッター回転方向Tとは反対側を向く多角形面2のボス面5を押圧することにより、インサート取付座12の底面との間に挟み込まれるようにして切削インサートはインサート取付座12に着脱可能に取り付けられる。なお、インサート取付座12のカッター本体11の先端側を向く壁面の軸線O方向後端側に形成された凹所には、調整クサビ16が収容されて調整ネジ17によってねじ込まれ、インサート本体1の軸線O方向の位置が調整される。
【0034】
こうしてインサート取付座12に取り付けられた切削インサートは、切削に使用される副切刃4cがカッター本体11の軸線Oに垂直な平面に沿うように配置される。また、インサート取付座12の上記底面とクサビ部材14のカッター回転方向Tを向く上記側面とは、カッター本体11の後端側に向かうに従いカッター回転方向T側に向かうように僅かに傾斜しており、これにより切削に使用される副切刃4cに連なる側面(逃げ面)3は、カッター回転方向Tとは反対側に向かうに従い僅かにカッター本体11の後端側に向かうように傾斜して逃げ角が与えられる。
【0035】
さらに、切削に使用される主切刃4bは、コーナ刃4aの一端からカッター本体11の先端側から後端側に向かうに従い僅かに外周側に傾斜して延びるように配置されて切り込み角が与えられる。主切刃4bのうち第2の主切刃部4b2の切り込み角θbは、本実施形態では84°とされている。
【0036】
また、インサート取付座12の上記底面とクサビ部材14のカッター回転方向Tを向く上記側面とは、カッター本体11の内周側に向かうに従ってもカッター回転方向T側に向かうように僅かに傾斜しており、これにより主切刃4bに連なる側面(逃げ面)3も、カッター回転方向Tとは反対側に向かうに従い僅かにカッター本体11の内周側に向かうように傾斜して逃げ角が与えられる。
【0037】
さらにまた、切削に使用されるコーナ刃4aも、カッター本体11の先端側から後端側に向かうに従い外周側に傾斜して延びるように配置されて切り込み角が与えられる。このコーナ刃4aの切り込み角θaは、本実施形態では39°とされている。また、インサート取付座12の上記底面とクサビ部材14のカッター回転方向Tを向く上記側面とが上述のように傾斜していることにより、このコーナ刃4aに連なる側面(逃げ面)3も、カッター回転方向Tとは反対側に向かうに従い僅かにカッター本体11の後端内周側に向かうように傾斜して逃げ角が与えられる。
【0038】
そして、上記構成の切削インサートおよび刃先交換式カッターでは、切削インサートがネガティブタイプの切削インサートであって、インサート取付座12の上記底面とクサビ部材14のカッター回転方向Tを向く上記側面とが上述のように傾斜していることにより主切刃4bと副切刃4cに連なる側面(逃げ面)3に逃げ角が与えられていても、これら主切刃4bおよび副切刃4cが、コーナ刃4aから離れるに従い、すくい面とされた多角形面2とは反対の多角形面2側に向かうように傾斜している。
【0039】
このため、主切刃4bには図7に示すように正のアキシャルレーキ角αを与えることができるとともに、副切刃4cには図5に示すように正のラジアルレーキ角βを与えることができる。本実施形態では、主切刃4bのアキシャルレーキ角αは18.46°とされ、副切刃4cのラジアルレーキ角βは5.0°とされている。さらには、コーナ刃4aが、ボス面5に平行に形成されているので、コーナ刃4aのアキシャルレーキ角を小さくすることができる。
【0040】
従って、上記構成の切削インサートおよび刃先交換式カッターによれば、主切刃4bおよび副切刃4cに作用する背分力および主分力を抑制して切削抵抗を低減することができる。さらには、最初に被削材に食い付くのはコーナ刃4aであるが、そのコーナ刃4aの被削材への食い付き時の衝撃を分散させることができる。その結果、例えば鋳鉄のような被削材を正面フライス加工する場合でも、これら主切刃4bや副切刃4c、さらにはコーナ刃4aにチッピングや欠損が生じるのを防ぐことが可能となり、長期に亙って安定した切削加工を行うことができる。
【0041】
また、上記構成の切削インサートでは、すくい面とされる多角形面2に、主切刃4b、副切刃4c、およびコーナ刃4aからすくい面の内側に向かうに従い、すくい面とされた多角形面2とは反対の多角形面2側に向かうように傾斜する底面を有するブレーカ溝7が形成されていて、特許文献1に記載された切削インサートのように切削インサートの各コーナ部の切刃とボス面との間に切刃や保持面の位置よりも高い突起が配置されることがない。従って、このような突起に切屑が当たって詰まりを生じるようなこともない。
【0042】
さらに、上記構成の切削インサートでは、すくい面とされる多角形面2と逃げ面とされる側面3との交差稜線部のうち、コーナ刃4aの一端に連なる交差稜線部には主切刃4bが形成されるとともに、コーナ刃4aの他端に連なる交差稜線部には副切刃4cが形成されており、すくい面に対向する平面視においてすくい面の角部の2等分線を基準に関して対称形状ではない勝手付きの切削インサートとされている。
【0043】
このため、上述のように副切刃4cをカッター本体11の軸線Oに垂直な平面に沿うように配置しても、主切刃4bの切り込み角が小さくなるのを防ぐことができ、主切刃4bに作用する背分力を一層低減してビビリ振動を防止することができる。また、同じ大きさの切削インサートであれば主切刃4bの最大切り込み量も大きく確保することができる。本実施形態では、多角形面2がなす正方形に内接する円の直径が12.7mmであるのに対して主切刃4bの最大切り込み量は7.7mmとされ、この内接円の直径の1/2よりも長い。
【0044】
また、本実施形態では、この主切刃4bに、すくい面とされる多角形面2に対向する方向から見て互いに鈍角に交差するコーナ刃4a側の第1の主切刃部4b1とコーナ刃4aと反対側の第2の主切刃部4b2とが形成されている。このため、コーナ刃4aとは反対側の第2の主切刃部4b2の切り込み角θbをさらに大きくすることができるので、主切刃4bに作用する背分力をさらに低減することができるとともに、最大切り込み量も上述のように大きく確保することができる。
【0045】
さらにまた、本実施形態では、コーナ刃4aが、すくい面とされた多角形面2に対向する方向から見て、主切刃4bと副切刃4cに鈍角に交差する直線状に形成された面取りコーナあるいはチャンファーコーナとされているので、コーナ刃4aの副切刃4c側でも切屑の厚さを厚くすることが可能となり、鋳鉄のような被削材を切削加工する場合においても、被削材の加工面にコバ欠けが発生するのを防止することができる。また、本実施形態では、切刃4にチャンファーホーニングが施されているので、切刃4の強度を向上させることができ、切刃4のチッピングや欠損を防止することが可能となる。
【0046】
また、インサート本体1は、多角形面2の周回り方向に一定の角度(本実施形態では90°)ずつ回転対称形状に形成されるとともに、2つの多角形面2に関して表裏反転対称形状に形成されているので、切削加工に使用可能なコーナ刃4a、主切刃4b、および副切刃4cの組の数を表裏の多角形面の角部の総数分(本実施形態では8組分)だけ確保することができ、超硬合金のような高価な材質よりなるインサート本体1の有効利用を図ることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 インサート本体
2 多角形面(すくい面)
3 側面(逃げ面)
4 切刃
4a コーナ刃
4b 主切刃
4b1 第1の主切刃部
4b2 第2の主切刃部
4c 副切刃
5 ボス面
7 ブレーカ溝
11 カッター本体
12 インサート取付座
O カッター本体11の軸線
T カッター回転方向
α 主切刃4bのアキシャルレーキ角
β 副切刃4cのラジアルレーキ角
θa コーナ刃4aの切り込み角
θb 第2の主切刃部4b2の切り込み角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7