(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】PEDF由来短ペプチドを含む組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20241021BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241021BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241021BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20241021BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241021BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20241021BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20241021BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K9/06
A61K9/08
A61K38/10
A61P27/02
A61P27/04
C07K14/47 ZNA
(21)【出願番号】P 2019540514
(86)(22)【出願日】2017-08-24
(86)【国際出願番号】 US2017048340
(87)【国際公開番号】W WO2018067244
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-08-20
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-30
(32)【優先日】2016-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519124338
【氏名又は名称】ブリム バイオテクノロジー インク
【氏名又は名称原語表記】BRIM BIOTECHNOLOGY, INC.
【住所又は居所原語表記】8F, No.1, Alley 30, Lane 358 Ruiguang Rd., Neihu Dist. Taipei, 11492 (TW)
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】リー フランク ウェン-チー
(72)【発明者】
【氏名】リン クァンユィン カレン
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ ヨウ-ピン
(72)【発明者】
【氏名】ホ ツォン‐チュアン
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】岡山 太一郎
【審判官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0183832(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素上皮由来因子(PEDF)由来のPEDFフラグメントおよび製薬上許容される賦形剤を含む、眼疾患を予防および/または治療するための医薬組成物であって、
前記PEDFフラグメントは、配列番号4のアミノ酸配列を含む29-44アミノ酸残基長を有し、
前記眼疾患は、ドライアイ症候群である、
医薬組成物。
【請求項2】
前記
PEDFフラグメントが、N末端のアセチル化で修飾されているか、またはC末端のアミド化で修飾されている、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記
PEDFフラグメントの濃度が10~200μΜである、
請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記組成物が、溶液、軟膏、またはゲルの形態である、
請求項2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2016年10月7日出願の米国特許出願第62/405,522号の優先権を主張し、その開示は参照によりその全文が本明細書に援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、PEDF由来短ペプチドならびに眼疾患、特にドライアイ疾患の治療および/または寛解におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ドライアイ疾患または症候群(DEDまたはDES)は、乾性角結膜炎としても公知であって、不快感、視覚障害、および眼表面の損傷の可能性を生じる涙膜不安定性の症状をもたらす複合疾患である。ドライアイは、涙膜の浸透圧の増加および眼表面の炎症を伴う。ドライアイの徴候/症状の重症度はまた、患者によって大きく異なる。軽度の刺激だけを患っている患者もいれば、重度の角膜損傷および視覚障害につながる重大な合併症を経験している患者もいる。
【0004】
ドライアイ疾患(DED)またはドライアイ症候群(DES)は、乾性角結膜炎としても公知であり、涙膜の組成(脂質、水、およびムチン)、眼表面または涙液の産生に影響を及ぼす多因子性眼表面障害である。眼の乾燥、フォージングのような身体感覚(forging body sensation)、刺激および疼痛をもたらす。DEDは、様々な原因から生じ得、それは涙液の組成のいずれかの産生、または涙膜の安定性に影響を及ぼす(例えば、涙液の急速蒸発)。その上、涙液高浸透圧、涙膜不安定性、眼表面上皮の完全性の不十分な支持もまたドライアイを引き起こし得る。
【0005】
涙液高浸透圧状態は、潜在的に眼上皮細胞の炎症カスケードを損傷および刺激し、結膜杯細胞を含む表面上皮細胞の喪失をもたらし得る。杯細胞の喪失はムチン分泌を減少させ、それは続いて表面上皮への保護の喪失および涙膜の不安定性をもたらし、そして最終的にドライアイ症状ならびに角膜上皮細胞の損傷の発生を導く。この結果として生じる涙膜不安定性は、しばしば炎症の慢性的なサイクルおよび眼表面の損傷をもたらし、それがDEDを引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
DED患者におけるこの多因子性眼症状の治療には、まだ対処されていない大きな必要性がある。現在、人工涙液、抗炎症薬、および鎮痛薬をはじめとする、DED患者に利用可能な治療選択肢はほんの少ししかない。これらの治療が一部の患者のいくつかの症状を軽減することができるとしても、DEDに対するより良い治療および予防手段が広く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、ドライアイの予防および/または治療のための試薬および方法に関する。
【0008】
本発明の一態様は、対象において眼疾患を治療するための医薬組成物に関する。本発明の一実施形態による医薬組成物は、ペプチドおよび製薬上許容される賦形剤を含み、ペプチドは、配列番号1の配列:S-X-X-A-X-Q/H-X-X-X-X-I/V-I-X-Rを含み、各Xは独立に任意のアミノ酸である。但し、ペプチドは、ヒトおよびマウスPDSP配列にそれぞれ対応するSLGAEQRTESIIHR(配列番号2)またはSLGAEHRTESVIHR(配列番号3)の配列を含まない。組成物は、溶液、軟膏、またはゲルの形態であってよい。
【0009】
本発明の一部の実施形態によれば、ペプチドは、配列番号6~75のいずれか1つの配列を含む。本発明の一部の実施形態によれば、ペプチドは、20、22、24、または29アミノ酸残基長からなる。
【0010】
本発明の一部の実施形態によれば、眼疾患は、角膜損傷関連疾患であり、これはドライアイ症候群(DES)であり得る。
【0011】
本発明の一態様は、眼疾患を治療するための方法に関する。本発明の一実施形態による方法は、上記のペプチドのいずれか1つを含有する組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む。眼疾患は角膜損傷関連疾患であり、これはドライアイ症候群(DES)であり得る。
【0012】
本発明のその他の態様は、以下の説明および同封の図面によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1(A)】角膜損傷を評価するために使用される角膜フルオレセイン染色によって明らかにされた、乾燥ストレス誘発性ドライアイにおけるPEDF由来短ペプチド(PDSP)の効果を示す図である。C57BL6マウスを、制御された環境チャンバ(CEC)に14日間収容して眼表面の破壊を誘発し(0日目)、その後、PDSPまたはビヒクルでさらに5日間処置した(5日目)。
【
図1(B)】フェノールレッド糸試験により評価された水性涙液生成量を示す図である。NS:正常な周囲条件下で収容した非ストレスマウス。UT:CECに14日間収容した未処置マウス。
【0014】
【
図2(A)】脳弓結膜(forniceal conjunctiva)における杯細胞の過ヨウ素酸シッフ試薬(PAS)染色の代表的な画像を示す図である。原倍率×100。C57BL6マウスをCECに14日間収容した後、PDSPまたはビヒクルでさらに5日間処置した。
【
図2(B)】PAS染色陽性細胞の平均数が、PDSP処置後に大幅に増加したことを示す図である。データは、平均±SDとして示される。
【0015】
【
図3】乾燥ストレスによって引き起こされる眼表面バリア破壊の予防を実証する、局所適用PDSPの結果を示す図である。マウスをCECに14日間収容し、CECでの収容開始時から100μM PDSPを投与した。値を平均±SDとして表す。
【0016】
【
図4】局所PDSPの適用の乾燥ストレス誘発性眼炎症への効果を示す図である。C57BL6マウスをCECに14日間収容し(0日目)、次にPDSPまたはビヒクルでさらに5日間処置した(5日目)。様々な炎症因子のmRNAレベルを定量的リアルタイムPCRによって評価した。各群の値を平均±SEとして表す。NS:非ストレスマウスに対して
*P<0.05。ビヒクル処置群に対して
**P<0.05。
【0017】
【
図5(A)】PDSPの局所適用が、酸化ストレス誘発性脂質過酸化を防ぐことを示す図である。マウスをCECに14日間収容し、CECでの収容開始時から100μM PDSPを投与した。
図5(A)は、ドライアイの角膜上皮における酸化ストレスマーカー4-HNEの代表的な免疫組織化学を示す。
【
図5(B)】陽性4-HNE細胞の定量分析の結果を示す図である。値を平均±SDとして表す。ビヒクル処置群に対して
*P<0.00002。
【
図5(C)】ドライアイの結膜上皮におけるo 4-HNEの代表的な免疫組織化学を示す図である。
【0018】
【
図6】NaCl処理したウサギ角膜上皮細胞における細胞内ROSおよびGSHレベルへのPDSPの効果を示す図である。ウサギ角膜上皮細胞を、10μM PDSPまたは対照ペプチド(ConP、PEDFの残基93-110)で20時間前処理し、その後NaClで処理して高浸透圧ストレスを誘導した。さらに24時間NaCl処理した後、細胞をH
2DCFDAプローブ(A)によるROSの検出またはOPAプローブ(B)によるグルタチオン(GSH)の検出に供した。未処理細胞(等張性培地中の細胞)に対して
*P<0.002。ContP/NaCl処理細胞(高浸透圧培地中の細胞)に対して
#P<0.05。
【0019】
【
図7(A)】NaClで処理したウサギ角膜上皮細胞におけるMMP-9 mRNA発現および活性へのPDSPの効果を示す図である。
図7(A)は、定量的リアルタイムPCRによって評価された、MMP-9 mRNAレベルを示す。各群の値を平均±SEとして表す。未処理細胞に対して
*P<0.005。ContP/NaCl処理細胞に対して
#P<0.02。
【
図7(B)】ゼラチンザイモグラフィーによって評価されたMMP-9活性を示す図である。各群の値を平均±SEとして表す。未処理細胞に対して
*P<0.0001。ContP/NaCl処理細胞に対して
#P<0.0003。
【0020】
【
図8】フルオレセイン染色によって明らかにされた、乾燥誘発性角膜損傷の予防または治療における様々なアラニン置換ペプチドの効果を示す図である。マウスをCEC環境に14日間収容してドライアイを誘発し、様々なペプチドを両眼に5日間適用した。5日後、角膜をフルオレセインで染色して表面への損傷を評価した。
【0021】
【
図9】フェノールレッド糸法によって明らかにされた、涙液の産生の増強における様々なアラニン置換ペプチドの効果を示す図である。
【0022】
【
図10】培養中のC2C12細胞の細胞生存力への様々なアラニン置換ペプチドの効果を示す図である。細胞生存率をMTTアッセイで評価した。
【0023】
【
図11】乾燥ストレス誘発性ドライアイにおけるヒトPDSP 29merおよびmoPDSP 29mer変異体の治療効果を示す図である。C57BL6マウスを、制御された環境チャンバ(CEC)に14日間収容して眼表面の破壊を誘発し(0日目)、その後、ペプチドまたはビヒクルによる処置を3日間開始した(3日目)。角膜フルオレセイン染色によって角膜損傷を評価した。3日間異なるペプチドに応答したマウスの平均角膜染色スコア。0日目に対して
*P<0.05。
【0024】
【
図12】フェノールレッド糸試験によって評価した、涙液の産生の結果を示す図である。C57BL6マウスを、制御された環境チャンバ(CEC)に14日間収容して眼表面の破壊を誘発し(0日目)、その後、ペプチドまたはビヒクルによる処置を3日間開始した(3日目)。NS:正常な周囲条件下で収容した非ストレスマウス。0日目に対して
*P<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ヒト色素上皮由来因子(PEDF)は、分子量が約50kDaの418アミノ酸を含む分泌タンパク質である。PEDFは、多くの生物学的機能を有する多機能性タンパク質である(例えば、米国特許出願公開第2010/0047212号参照)。PEDFの異なるペプチド領域は、異なる機能を担うことが見出された。例えば、34mer断片(PEDFの残基44-77)は血管新生抑制作用を有すると同定され、一方、44mer断片(PEDFの残基78-121)は神経栄養特性を有すると同定されている。
【0026】
米国特許出願公開第2010/0047212号は、PEDFが幹細胞の自己再生を促進できることを開示している。米国特許第9,051,547号および米国特許第9,617,311号は、長さ20~39のアミノ酸を有するPEDFの断片(PEDFの残基93-121)は、幹細胞の増殖および創傷治癒、特に、角膜縁上皮幹細胞の増殖を促進することができることを開示している。
【0027】
本発明の実施形態は、PEDFに由来する短ペプチド断片およびそれらの変異体に関する。本発明の実施形態は、ドライアイ症候群(DES)の予防および/または治療におけるこれらのペプチドの使用にも関する。
【0028】
ドライアイは、いずれかの眼が十分な涙を産生しない場合、または涙の蒸発が早すぎる場合に起こる。ドライアイの状態がしばらく続くと眼の表面の擦傷の原因となり得る。進行した場合、上皮は例えば扁平上皮化生または杯細胞の喪失などの病理学的変化を受けることがあり、重度の場合、患者は結果として角膜損傷となることがあり、それには角膜表面の肥厚、角膜びらん、点状角膜症、上皮欠損、角膜潰瘍形成、角膜血管新生、角膜瘢痕、角膜菲薄化、さらには角膜穿孔が含まれる。
【0029】
本発明の発明者らは、PEDFに由来する特定のペプチド断片が、乾燥に起因する角膜損傷を予防および/または治療することができることを見出した。
【0030】
ドライアイ疾患の動物モデルにおいて、マウスを制御された環境チャンバ(CEC)に入れて、前述のようにドライアイを誘発した(Barabinoら、2005)。CECに入れたマウスを、25%未満の相対湿度(RH)、20~22℃の温度、15L/分の空気流に1日12時間曝した。非ストレスマウスは、同じ持続時間の間、通常の環境(RH>50%、空気流なし、温度21~23℃)中で保持された。14日後、非ストレスマウスをビヒクルで処置し、一方、ストレスを与えたマウスを試験ペプチド(例えば、29mer PDSP)かまたはビヒクル溶液のいずれかで(ビヒクル群)5日間処置した。次に、角膜をフルオレセイン染色によって調べた。
【0031】
図1(A)に示されるように、14日目に、ストレスを与えない群と試験群の両方において、角膜損傷はフルオレセイン染色から明らかであった。PEDF由来短ペプチド(PDSP、PEDFの残基93-121)による5日間の処置の後、角膜表面の損傷は本質的になくなったが、対照群(ビヒクルによる処置)ではなお角膜の損傷が示された。
【0032】
さらに、本発明において、様々な長さをもつPDSP(PEDFの残基93から出発する20~29アミノ酸)は、ドライアイ疾患の動物モデルにおいて、10uM~200uMの濃度で角膜損傷を修復する能力があることが見出された。
【0033】
図1(B)は、フェノールレッド糸試験(後の項で詳述)によって明らかにされた涙液産生の結果を示す。
図1(B)において、NSは、非ストレスマウスを表し、LITはストレスを与えたマウスおよび未処置マウスを表す。
図1(B)に示されるように、PDSPによる処置は、UTおよびビヒクル処置群と比較して、涙液産生を著しく増加させた。
【0034】
ヒトにおいて、前角膜として公知の、眼を覆う涙膜は、3つの異なる層:脂質層(マイボーム腺により分泌)、水層(涙腺により分泌)、および粘膜層(結膜杯細胞より分泌)を有する。ストレス誘発性ドライアイは、これらの構成要素のいずれかまたは全ての産生の低下に起因し得る。
【0035】
ムチン産生の低下は、杯細胞の減少に起因し得る。本発明は、PDSPがドライアイによる杯細胞の減少を防ぐことができることを示す。
図2(A)は、マウスの眼のピリオド酸(period acid)シッフ(PAS)試薬染色の結果を示す。手短に言えば、C57BL6マウスをCECに14日間収容した後、PDSPまたはビヒクルでさらに5日間処置した。ストレスを与えていない眼は、ストレスを与えていない対照(NS)として含まれる。
図2(A)は、ストレスを与えていない眼(NS)、ビヒクル処理した眼、およびPDSP処理した眼の杯細胞の代表的な染色を示す。
図2(B)は、PDSP処理した眼が、未処理のストレスを与えた眼およびビヒクル処理した眼と比較して、より多くの杯細胞(より多くのPAS陽性細胞)を有することを示す。
【0036】
ドライアイ症候群を逆転または治癒させることができることに加えて、本発明者らは、PDSPがドライアイ状態によって引き起こされる損傷を防ぐことができることも見出し、実験では、100μΜの濃度のPDSPまたはビヒクル(対照として)をC57BL6マウスの眼に適用し、その後、マウスを制御された環境チャンバ(湿度が低く空気流がある)内で14日間保持した。次に、乾燥ストレスによって引き起こされた眼表面バリア破壊を、フルオレセイン染色によって視覚化した。乾燥ストレスによって引き起こされた眼表面バリア破壊を、眼表面の損傷の程度に基づいて0から3までスコア付けした。
図3に示されるように、PDSPは、ビヒクル処置群と比較して、眼表面の損傷を効果的に予防した。
【0037】
ドライアイは、前角膜涙膜の異常、およびそれに続く付属器、結膜および角膜を含む眼表面全体の炎症性変化と関連している(Hessenら,“Dry eye:An Inflammatory Ocular Disease,”J.Ophthalmic Vis.Res.,2014,9(2):240-250参照)。そのため、角膜炎症応答におけるPDSPの効果を次に調査した。手短に言えば、C57BL6マウスをCECに14日間収容した後(0日目)、PDSPまたはビヒクルによる処置をさらに5日間実施した(5日目)。次に、炎症因子のmRNAレベルを定量的リアルタイムPCRによって評価した。
【0038】
図4に示されるように、様々な炎症関連因子、例えば、IL-1β、IL-6、TNF-α、およびMCP-1(単球走化性タンパク質-1(MCP-1/CCL2)は、炎症および組織反応における白血球の動員を制御する重要な炎症性ケモカインである)の発現は、ストレス誘発性ドライアイにおいて増加した(未処置UT群を参照)。PDSPによる処置は、未処置UT群またはビヒクル処置群と比較して、これらの炎症性因子の発現を大幅に減少させた。従って、PDSPはストレス誘発性ドライアイにおいて炎症を効果的に軽減することができる。
【0039】
その上、ドライアイ症候群と酸化ストレスの蓄積との間に関係が存在することが仮定されている(Nakamuraら.Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,2007、48(4):1552-8参照)。そのため、PDSPがドライアイにおいて酸化ストレスを減らすかまたは防ぐことができるかどうかも調査した。
【0040】
この試験のために、マウスをCECに14日間収容し、PDSP処置をCECに収容し始めた時に開始した。次に、酸化ストレス生成物(例えば、4-ヒドロキシ-2-ノネナール、4-HNE)の産生を調べた。4-HNEは、動物組織全体に見られ、脂質過酸化の増加に起因して酸化ストレスの間により多量に見られた。4-HNEは反応性アルデヒドを含み、それはタンパク質を修飾することができる。4-HNE修飾タンパク質は、4-HNE部分に特異的な抗体によって検出され得る。
【0041】
図5(A)に示されるように、ストレスを与えられていない眼は最小の4-HNEを有する。ストレス誘発性ドライアイは、4-HNE染色(ビヒクル処置群)を増加させた。対照的に、ストレス誘発性ドライアイのPDSP処置により、4-HNEの産生が著しく低下した。
図5(B)は、陽性4-HNE細胞の定量分析の結果を示す。
図5(C)は、ドライアイの結膜上皮における4-HNEの代表的な免疫組織化学染色を示す。
【0042】
一般に、高い浸透圧(HOP)の涙液は眼の炎症および損傷の原因であると考えられている。HOPは、細胞代謝の副生成物である活性酸素種(ROS)の産生を誘導し得る。ROS生成は、円錐角膜患者の角膜線維芽細胞およびドライアイ動物モデルの角膜上皮細胞で増加することが報告されている。この知見は、ROSがドライアイの角膜損傷に役割を果たし得ることを示唆する。一方、グルタチオン(GSH)は、フリーラジカルまたはROSに対抗し、フリーラジカルまたはROSによって起こる損傷を軽減させるかまたは防ぐことのできる天然種である。
【0043】
そのため、本発明者らは、NaCl処理したウサギ角膜上皮細胞(HOP)における細胞内ROSおよびGSHレベルへのPDSPの効果を調べた。手短に言えば、ウサギ角膜上皮細胞を10μΜ PDSPまたは陰性対照ペプチド(ConP)で20時間前処理し、その後NaClで処理して高浸透圧ストレスを誘導した。さらに24時間NaCl処理した後、ROS指示薬色素である2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート(H2DCFDA)プローブを用いて細胞をROSについて評価した。H2DCFDAは細胞内に拡散することができ、そこでその酢酸エステル結合が細胞内エステラーゼによって切断されてROSによって酸化される。このROSが非蛍光のジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート(H2DCFDA)を高蛍光性の2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート(DCF)に変換する。
【0044】
図6(A)に示されるように、HOPでない、PDSP単独は、未処置マウスと比較してDCF蛍光を増加させなかった。HOPがNaClによって誘導される場合、PDSPによる前処置は、陰性対照ペプチド(ConP)による前処置と比較して、ROS産生の低下(すなわちより低いDC蛍光)をもたらした。この結果は、PDSPがHOPに誘導されるROS形成を減少させ得ることを示す。
【0045】
図6(B)は、異なる処置群における相対GSHレベルを示す。HOPストレスがないと、未処置マウスと比較して、PDSP単独がGSHレベルのわずかな増加を誘導したことは興味深い。抗酸化剤であるGSHのレベルのこの増加は、細胞が酸化ストレスによりよく耐えることを可能にする。HOP下では、PDSP処置も対照ペプチド(ConP)による処置と比較してGSHが増加した。これらの結果は、PDSP処置がROS産生を最小減に抑え、それと同時にGSHレベルを増加させることを示す。この複合効果は、酸化ストレスまたは高浸透圧ストレスに対して細胞をはるかに耐性にする。
【0046】
ドライアイ症候群(DES)には、涙膜の浸透圧の増加および眼表面の炎症が含まれる。高浸透圧の涙液は、炎症を起こした上皮細胞に高レベルのサイトカインMMP-9を産生させる炎症カスケードに寄与する。ドライアイにおけるMMP-9活性の増加は、角膜上皮バリア機能の混乱、角膜上皮の剥離の増加、および角膜表面の不規則性に寄与し得る。(Chotikavanichら,“Production and activity of matrix metalloproteinase-9 on the ocular surface increase in dysfunctional tear syndrome,”Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.2009;50:3203-3209)。
【0047】
そのため、本発明者らは、NaCl処理したウサギ角膜上皮細胞におけるMMP-9 mRNAの発現および活性へのPDSPの効果も調べた。手短に言えば、ウサギ角膜上皮細胞を上記のように処理した。
図7(A)は、高浸透圧ストレスがないと、PDSP単独では、定量的リアルタイムPCRによって評価して、MMP-9 mRNAレベルに効果がないことを示す。高浸透圧ストレスは、MMP-9 mRNAレベルのかなり(約2倍)の増加を誘導した(陰性対照ペプチド、ConP、続いてNaCl処理)。比較すると、PDSP処理は、高浸透圧ストレス下でMMP-9 mRNAレベルの増加の大部分を効果的に抑制した(PDSP処理に続いてNaCl処理)。
図7(B)に示されるように、MMP-9 mRNAレベルの増加は、SDSゲルおよび酵素活性で測定した場合のMMP-9タンパク質の発現と実質的に相関する。
【0048】
上記の結果は、本発明のPDSPが、ドライアイ疾患(DED)またはドライアイ症候群(DES)を予防および治療することができることを明らかに示す。具体的には、DEDの予防および治療における本発明のPDSPの効果には、(1)ドライアイストレスによって誘発される角膜表面への損傷を予防および治癒する;(2)涙液産生を増加させる;(3)結膜杯細胞を維持または保護する;(4)ドライアイ誘発性の炎症を抑制する;(5)酸化ストレス誘発性脂質過酸化を軽減または最小化する;(6)細胞内活性酸素種(ROS)の形成を抑制し、細胞内グルタチオン(GSH)レベルを増加させる;および(7)MMP-9発現を抑制する、が含まれる。
【0049】
本発明のPDSPは、DEDの予防および治療に効果的な薬剤であるので、本発明者らは、アラニンスキャニングによってPDSPの構造活性相関をさらに調査した。アラニンスキャニング実験では、本発明者らは、ヒトPEDF:93SLGAEQRTESIIHRALYYDLISSPDIHGT121(配列番号4)の残基93-121からの29merを使用した。29mer中のアミノ酸の各々を、アラニンで(または、残基がアラニンである場合はグリシンで)置換し、アラニン置換またはグリシン置換変異体の活性を評価した。
【0050】
図8は、眼染色アッセイの例となる結果を示す。これらの試験では、乾燥誘発性の角膜表面損傷(フルオレセイン染色によって評価)を、上記のように、および後の項で実験に基づいて詳述されるように、CECにおいて誘発した。これらの結果は、29mer中の残基1(L93A)、4(A96G)、6(Q98A)、11(I103A)、12(I104A)、および14(R106A)でのアラニンまたはグリシン置換がPDSP活性のかなりの喪失をもたらしたことを示し、これらの残基がPDSP活性に必要不可欠であることを示す。
【0051】
図9は、上記のように実施され、以降の項で詳述される、涙液産生アッセイの例となる結果を示す。
図9に示される涙液産生に基づく結果は、
図8に示されるフルオレセイン染色に基づく結果と一致する。つまり、29mer中の残基1(S93A)、4(A96G)、6(Q98A)、11(I103A)、12(I104A)、および14(R106A)でのアラニンまたはグリシン置換は、PDSPが涙液産生を誘導する能力のかなりの喪失をもたらし、これらの残基がPDSP活性に必要不可欠であることを示す。
【0052】
本発明のPDSPが角膜表面損傷を予防し、細胞内の酸化ストレスを減少させ、そして炎症反応を最小限に抑えることができるという事実は、PDSPが一般に細胞生存力を維持する能力を有し得ることを示唆する。このことを細胞培養中の細胞生存力によって試験した。
図10は、C2C12細胞培養を用いるアラニンスキャニング実験の結果を示す。細胞生存力は、染色および細胞数カウントによるか、またはMTTアッセイによって評価し得る。これらの技法は当技術分野で周知である。
【0053】
図10に示されるように、29mer中の位置1(S93A)、4(A96G)、6(Q98A)、11(I103A)、12(I104A)、および14(R106A)の残基のアラニン(またはグリシン)置換は、これらのペプチドが細胞の生存力を維持/増強する能力を実質的に消失させた。これらのアラニンスキャニング結果は、ドライアイ動物モデルを使用する
図8および
図9に示される結果と一致する。
【0054】
上の実験はヒトPDSP配列(PDSP 29mer:SLGAEQRTESIIHRALYYDLISSPDIHGT、配列番号4)で実施したものであるが、本発明者らは、対応するマウス配列(moPDSP 29mer:SLGAEHRTESVIHRALYYDLITNPDIHST、配列番号5)が同程度に機能することを見出した。例えば、
図11は、眼染色によって明らかにされた、ヒト(PDSP 29mer)とマウス(moPDSP 29mer)の両方による、乾燥によって誘発された角膜表面損傷からの保護の結果を示す。マウス配列がヒト配列と同様の効果を有することは明らかである。同様に、
図12は、ヒトPDSPとマウスPDSPの両方が涙液の産生を同程度まで改善したことを示す。これらの結果は、DESを予防および/または治療する能力において、ヒトPDSPとマウスPDSPとの間に識別可能な機能的差異がないことを裏付ける。
【0055】
この領域のヒトPEDFとマウスPEDFのアミノ酸残基の違いは、2つの相同置換からなる、すなわちヒト配列のQ-98はマウス配列のH-98に対応し、ヒト配列のI-103はマウス配列のV-103に対応する。そのため、これらの2つの位置(98および103)の必須残基は、対応する残基(98Q/Hおよび103I/V)で置換されてよい。
【0056】
当業者は、たとえこれらの2つの残基がドライアイの治療および予防に重要であることが見出されているとしても、相同アミノ酸置換が一般に生物活性に著しい影響を及ぼさないことを理解するであろう。さらに、当業者は、非必須位置での同様の相同置換がさらに良好に許容されることを理解するであろう。どのアミノ酸置換が相同とみなされるのかは当技術分野で周知である。一部の例は、(I、V、L、M)、(Q、N、H)、(D、E)、(R、K、H)、(S、T、C)、および(F、Y、W)であり、ここで、同じ括弧群内のアミノ酸は、一般にペプチドまたはタンパク質の生物活性にあまり影響を与えずに互いに置換することができる。
【0057】
これらの結果に基づいて、DEDを予防または治療するためのPDSPの必須ペプチド配列は以下のように表され得ると結論付けることができる:1S-2X-3X-4A-5X-6Q/H-7X-8X-9X-10X-11I/V-12I-13X-14R(配列番号1)、この際、各Xは非必須残基を意味し、任意のアミノ酸、好ましくは天然アミノ酸であり得る。ヒトPDSPの対応する配列は、SLGAEQRTESIIHR(配列番号2)であり、マウスPDSPの対応する配列は、SLGAEHRTESVIHR(配列番号3)である。
【0058】
当業者は、これらの必須残基を含むペプチドが、ドライアイを予防または治療するために使用され得ることを理解するであろう。そのようなペプチドは、一般にPDSP(すなわちPEDF由来短ペプチド)と呼ばれ得る。これらのPDSPの一部の例を、以下の表に例示する。
【表1】
【0059】
当業者は、上の表に列挙されたペプチド配列が説明のためだけのものであり、本発明の範囲から逸脱することなくその他の置換が可能であることを理解するであろう。その上、上記はドライアイ症候群を予防および/または治療する際に効果的である短いまたは最小のペプチドを表し得るが、それよりも長いペプチドも使用されてよい。特に、より長いペプチドは、より好ましい薬物動態学および/または生物学的利用能を提供することができる。
【0060】
より長いペプチドの場合、上記のペプチドのいずれか1つのN末端および/またはC末端に追加のアミノ酸が含まれていてもよい。追加のアミノ酸は、任意の適した残基、例えば上記ペプチドの領域に隣接するヒトまたはマウスPEDFの残基などであってよい。より長いペプチドの特定の例としては、20mer(PEDFの残基93-112;配列番号76)、22mer(PEDFの残基93-114;配列番号77)、24mer(PEDFの残基93-116;配列番号78)、および29mer(PEDFの残基93-121;配列番号4)が挙げられ得る。
【0061】
本発明の実施形態は、対象においてドライアイを予防および/または治療するための方法にも関する。本発明の実施形態に従う対象は、ヒトであっても動物であってもよい。本発明の実施形態による方法は、ドライアイの予防を必要とする対象に投与することか、または上記のいずれかから選択されるペプチドを含む組成物を用いる治療のいずれかを含み得る。本発明の実施例によると、組成物は、本発明のペプチド、またはそのようなペプチドの塩を、製薬上許容される担体または賦形剤、例えば蒸留水、生理食塩水、油、またはゲルなどと共に含んでよい。
【0062】
本発明の組成物は、任意の適した剤形、例えば溶液、軟膏、懸濁液、ゲルまたは乳濁液などに製剤されてよく、これらは任意の適した濃度、例えば10~200μΜなどで製剤されてよい。当業者は、本発明の成果を用いずに、有効量を送達する適切な濃度でこれらを製剤することができるであろう。これらの剤形は、眼への局所適用またはその他の適した投与経路(例えば、経口または注射)用に製剤されてよい。
【0063】
以下の実験の詳細および実施例によって本発明の実施形態をさらに説明する。当業者は、これらの実験の詳細および実施例が例示のためだけのものであること、および本発明の範囲から逸脱することなくその他の変更および変形が可能であることを理解するであろう。
【0064】
材料および方法
カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ピリオド酸(period acid)シッフ(PAS)試薬およびデキサメタゾンは全てシグマアルドリッチ(米国ミズーリ州セントルイス)から入手した。バランス塩溶液(BSS;Alcone)中のCMC(1% w/v)をPDSPのビヒクルとして使用した。PDSPおよび陰性対照ペプチド(ConP)を合成し、NH2末端をアセチル化し、安定性のためにCOOH末端をアミド化して修飾し、質量分析(純度>95%)によって特徴づけてジェンスクリプト(米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)で注文した。
【0065】
動物
7~8週齢の雌C57BL/6マウスをこれらの実験に使用した。
実験手順はMackay Memorial Hospital Review Boardによって承認され、ARVO Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchに従って実施された。
【0066】
ドライアイモデル
ドライアイを、前述のようにマウスを制御された環境チャンバ(CEC)に入れることによって誘発した(Barabinoら、2005)。手短に言えば、CECに入れたマウスを、25%未満の相対湿度(RH)、20~22℃の温度、および15L/分の空気流に1日12時間曝した。ストレス誘発性ドライアイを有していない非ストレス(NS)マウスを、同じ持続時間の間、通常の環境(RH>50%、空気流なし、温度21~23℃)中で保持した。
【0067】
角膜フルオレセイン染色および
動物を、ゾレチル(zoletil)(6mg/kg)およびキシラジン(3mg/kg)の混合物の腹腔内注射によって麻酔した。角膜上皮損傷を局所フルオレセインによる染色によって決定した(Fluor-I-Strip、Ayerst Laboratories、ペンシルベニア州フィラデルフィア)。角膜フルオレセイン染色をコバルトブルー光下、細隙灯生体顕微鏡で調べ、デジタルカメラで撮影した。角膜の色素染色は以下のように点数化した:点状染色なしの場合はスコア0;角膜の3分の1未満が染色された場合はスコア1;3分の2以下が染色された場合はスコア2;そして3分の2超が染色された場合はスコア3(Horwath-Winter J 2013)。
【0068】
涙液産生の測定
涙液産生をフェノールレッド含浸綿糸で測定した(ゾーンクイック;オアシス、カリフォルニア州グレンドラ)。マウスにおけるこの試験の妥当性は以前述のように実施した(Dursunら、2002)。糸を宝石細工人の鉗子で保持し、外側眼角に60秒間置いた。涙液産生は、涙液によって濡れて赤色になった糸のミリメートルで表される。
【0069】
杯細胞のPAS染色
動物を安楽死させた後、眼を外科的に切除し、10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋し、5μmの切片に切断した。上下結膜の杯細胞を測定するために過ヨウ素酸シッフ試薬(PAS;シグマアルドリッチ)で切片を染色し、デジタルカメラを装備した顕微鏡で調べて撮影した。結膜中のPAS陽性杯細胞を、各眼から5つの切片で測定した。
【0070】
RNA抽出および定量的リアルタイムPCR
全RNAを、TRIzol(Invitrogen)を使用して細胞から抽出し、RNアーゼフリーDNアーゼI(キアゲン、カリフォルニア州サンタクラリタ)で処理してゲノムDNAを取り出し、次にRNA精製キット(ダイナビーズ;Invitrogen)で精製した。cDNAの合成をスーパースクリプトIII(Invitrogen)によって実施した。定量的リアルタイムPCRをGeneAmp7700配列検出系(アプライドバイオシステムズ、カリフォルニア州フォスターシティ)で実施した。増幅は、3pmolのプライマー、段階希釈したRT産物およびSYBR Green PCRコア試薬(アプライドバイオシステムズ)を含有する総量40μlで実行した。特異的PCRプライマーの配列は、マウスTNF-α(受入番号:NM_013693)センス、5’-CTACCTTGTTGCCTCCTCTTT-3’(配列番号79)、アンチセンス、5’-GAGCAGAGGTTCAGTGATGTAG-3’(配列番号80);マウスIL-1β(受入番号:NM008361)センス、5’-GGTGTGTGACGTTCCCATTA-3’(配列番号81)、アンチセンス、5’-ATTGAGGTGGAGAGCTTTCAG-3’(配列番号82);マウスIL-6(受入番号:NM031168)センス、5’-GTCTGTAGCTCATTCTGCTCTG-3’(配列番号83)、アンチセンス、5’-GAAGGCAACTGGATGGAAGT-3’(配列番号84);マウスMCP-1(受入番号:NM011333)センス、5’-CTCGGACTGTGATGCCTTAAT-3’(配列番号85)、アンチセンス、5’-TGGATCCACACCTTGCATTTA-3’(配列番号86);ウサギMMP-9(受入番号:NM001082203)センス、5’-TGCGAGTTTCCGTTCATCTT-3’(配列番号87)、アンチセンス、5’-GTAGAGCTTGTCCTTGTCGTAG-3’(配列番号88)であった;ステップサイクルプログラムは、95℃で15秒間の変性、および62℃で1分間のアニーリングおよび伸長、合計40サイクルに設定した。全ての測定は三重反復で測定された。サイクル閾値(Ct)は、リアルタイムの蛍光発光がベースライン発光を上回る閾値に達するPCRサイクル数に対応し、GeneAmp7700SDSソフトウェアを用いて分析された。次に、目的のPCR産物および対照mRNA(GAPDH)のCt値を用いて試料間のmRNAの相対量を計算した。
【0071】
免疫組織化学
酸化ストレス誘発性脂質過酸化を、角膜および結膜における4-ヒドロキシ-2-ノネナール(4HNE)の免疫組織化学的検出によって評価した。ホルマリン固定パラフィン包埋眼標本をキシレン中で脱パラフィンし、段階的な一連のエタノール濃度で再水和した。スライドを10%ヤギ血清で60分間ブロックし、次に4-HNEに対する一次抗体(1:100希釈)(ab46545、Abeam)とともに室温で4時間インキュベートした。続いてスライドを適切なペルオキシダーゼ標識ヤギ免疫グロブリン(1:500希釈;ケミコン、カリフォルニア州テメクラ)とともに20分間インキュベートし、次に色素原基質(3,3’-ジアミノベンジジン)とともに2分間インキュベートした後、ヘマトキシリンで対比染色した。
【0072】
角膜上皮細胞培養および処理
角膜縁幹細胞を6カ月齢のニュージーランド白ウサギから単離し、DMEM/F-12基礎培地に基づく細胞懸濁培養によって14日間連続培養して、前述のように(Hoら、2013)角膜のような上皮細胞分化を達成した。高浸透圧ストレスに起因するROSまたはMMP-9活性を誘導するために、90mM NaClの添加によって達成された高浸透圧培地(463mOsm)中で細胞を一晩インキュベートした。DMEM/F-12基礎培地(309mOsm)中で培養した細胞を陰性対照として使用した。高浸透圧ストレス誘発性ROSまたはMMP-9活性への予防効果を検出するために、NaClの処理の前に細胞を10μM PDSPで20時間前処理した。
【0073】
ゼラチンザイモグラフィー
MMP-9活性を検出するために、10μLの培地を用いて前述の方法(Liら、2004)のようにゼラチンザイモグラフィーを実施した。バンド強度を、モデルGS-700イメージングデンシトメーター(バイオ・ラッドラボラトリーズ、カリフォルニア州ハーキュリーズ)によるザイモグラフィーで評価し、Lab works4.0ソフトウェアを用いて分析した。
【0074】
細胞内ROSおよびグルタチオン含有量の測定
ROSによって酸化されると緑色蛍光化合物2’,7’-ジクロロフルオレセイン(DCF)を放出する2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート(H2DCFDA;モレキュラープローブス、オレゴン州ユージーン)を使用して、細胞内ROS生成をアッセイした。分光蛍光アッセイによってROSを検出するために、細胞をPBSで洗浄し、次にNP-40溶解緩衝液(10mMトリス-Cl、pH7.4、10mM NaCl、および0.5%NP-40)で溶解し、5μM H2DCFDAを含有するPBSとともに暗所で37℃で15分間インキュベートした。蛍光(励起、488nm;発光、520nm)を、Spectra MAX GEMINIリーダー(モレキュラーデバイス、米国カリフォルニア州サニーベール)で測定した。H2DCFDAを添加していない対照ウェルからのバックグラウンド蛍光を実験の測定値から減算した。
【0075】
GSHレベルは、グルタチオンアッセイキット(BioVision Research Products、カリフォルニア州マウンテンビュー)を製造業者の推奨に従って使用して定量した。手短に言えば、過塩素酸処理した細胞溶解物を、OPA(o-フタルアルデヒド)プローブおよびGSH緩衝液とともに室温で40分間インキュベートした。SPECTRAmax GEMINI XS蛍光マイクロプレート分光光度計(モレキュラーデバイス、カリフォルニア州サニーベール)で励起について340nm、発光について420nmで蛍光を読み取った。
【0076】
局所PDSP処理は乾燥ストレスにより誘発される眼表面損傷を回復させる
PDSPが乾燥ストレス(DS)誘発性眼表面欠損において治療効果を有するかどうかを決定するために、マウスを制御された環境チャンバ(CEC)に14日間収容して眼表面の崩壊を生じさせた。CECで14日後、本発明者らは最初の実験に蛍光スコアが2を超えるマウスを使用した(
図1(A))。その後、同じ乾燥ストレスプロトコールを維持しながらさらに5日間、25~200μMのPDSP(3回/日)またはPDSPビヒクル(BSS中1%CMC)でドライアイを局所的に処置した。
【0077】
0日目に、平均涙液量は、綿糸試験によって測定して、非ストレス(NS)マウスと比較してマウスにおいて有意に低下していた(3.8±0.5mm対5.4±0.4mm;
図1B)。マウスをPDSPで5日間処置した後、ビヒクル群と比較して、眼の涙液産生は有意に増加した(5±0.3対4.5±0.2)。
【0078】
PDSPは結膜の杯細胞の量を部分的に回復させる
杯細胞は、主に結膜円蓋の表層上皮に存在し、粘液涙液産生を担う。NS眼の過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色は、杯細胞が結膜上皮で連続的な均一パターンを示すことを示した(
図2A)。しかし、乾燥ストレスの14日後(0日目)、結膜のPAS染色は、杯細胞の数がNS群と比較して著しく減少したことを示した(58±3.1対38±3.2;
図2B)。点眼薬中のPDSPまたはビヒクルで5日間処置すると、結膜杯細胞数はビヒクル処置対照と比較してPDSP処置した眼において有意に高かった、(46±3.8対37±1.1)。まとめると、PDSP処置は杯細胞の数を救った。
【0079】
局所PDSPは乾燥ストレスにより誘発される眼表面損傷を防ぐ
PDSPがDS誘発性角膜上皮破壊を抑制することができるかどうか調査するため、本発明者らは14日の乾燥ストレスプロトコールをマウスに適用し、これらのマウスを1日3回PDSPで局所的に処置した。14日後、角膜上皮の欠損をフルオレセイン色素染色によって評価し(
図3)、この結果から角膜フルオレセイン染色スコアが、PDSP処置した眼と比較してビヒクル処置した眼において有意に高いことが明らかになった(1.7±0.3対0.7±0.2)。この結果は、PDSPが乾燥ストレスに対する眼表面の予防効果も示し得ることを示す。
【0080】
乾燥ストレス動物モデルにおけるヒトおよびマウスPDSPの機能比較
ヒトおよびマウスのPEDFの同じ領域がDED対象の治療で同程度に機能するかどうかを調査すること。ヒトPDSPおよびネズミPDSPの活性を、マウスにおける乾燥ストレス誘発性ドライアイモデルで調べた。ストレス誘発性ドライアイを有するマウスにおいて、ヒトおよびマウスの両方のPDSPが、乾燥ストレス(
図11)ならびに涙液産生(
図12)によって誘発される眼表面損傷を回復させることができることが示される。
【0081】
PDSPによる乾燥ストレス誘発性炎症応答の抑制
実験動物の乾燥ストレス誘発ドライアイにおいて炎症が眼表面損傷を増加させ得ることが示唆されている(Luoら、2004;De Paivaら、2006)。炎症誘発性メディエーターの中で、TNF-αまたはインターロイキン-1(IL-1)遮断薬で前処置されたマウスにおいて乾燥ストレス誘発性ドライアイが改善されたことが報告された[Ji YW 2013;Okanobo A 2012]。
図4に示されるように、マウスをCECに14日間収容した後(0日目に設定;未処置マウス)、IL-1β、TNF-α、IL-6およびMCP-1をはじめとする炎症誘発性メディエーターのmRNAレベルは、非ストレス(NS)環境に収容されたマウスと比較して、それぞれ3.9倍、2.8倍、2.6倍、および2.4倍有意にアップレギュレートされた。しかし、マウスにおける5日間の局所PDSP処置は、眼のIL-1β、TNF-α、IL-6およびMCP-1のmRNA発現を、ビヒクル処置群と比較してそれぞれ2.4倍、1.9倍、2.0倍および1.7倍の倍数で明らかに阻止した。総合すると、本発明者らの結果は、PDSPがDS誘発性眼炎症応答を軽減したことを示す。
【0082】
PDSPによる脂質過酸化関連眼表面損傷の部分的予防
活性酸素種(ROS)の過剰産生に起因する眼表面の酸化的損傷はドライアイの病因に関与している(Wakamatsuら、2013)。本発明者らは、PDSPが脂質過酸化関連膜損傷を4-HNE免疫組織化学染色を通じて抑制することができるかどうかを調査した。
図5Aに示されるように、角膜上皮の4-HNE染色は、マウスをCECに14日間収容した後に、上皮翼細胞で核および/または核周囲での局在を示し、以前の報告と一致した(Nakamuraら、2007)。4-HNEについて陽性に染色された細胞の数は、NS、ビヒクルおよびPDSP群においてそれぞれ1.9±0.6、20.1±1.4、および5.3±1.0(
図5B)であった、これはPDSPが脂質過酸化を防ぐことができることを示す。その上、結膜におけるDS誘発性脂質過酸化も4-HNE染色によって評価し、免疫組織化学染色結果は、4-HNEシグナルがPDSP処置を受けた眼よりもビヒクル処理した眼において明らかに強いことを示した、これはPDSPの抗酸化効果の知見をさらに裏付ける(
図5C)。まとめると、PDSP処置は、眼表面のDS誘導性酸化的損傷を有意に抑制した。
【0083】
角膜上皮細胞における高浸透圧ストレス誘発性ROSの蓄積およびグルタチオン枯渇のPDSPによる予防
涙液浸透圧の上昇は、ドライアイにおいて炎症および眼表面損傷を誘発する中心的な機構であると考えられている(Stahlら、2012)。ドライアイ診断のための現在のカットオフは、正常な眼の300~310mOsmと比較して316 mOsmである(Liuら、2009)。しかし、角膜上皮細胞の高浸透圧のインビトロ研究、ROSおよびMMP-9活性を誘導するために、細胞をより高いレベルの涙液浸透圧(350~500mOsm)に長期間曝すことが必要とされる(Li DQ 2004;Li J 2016)。
【0084】
細胞内ROS形成への高浸透圧ストレスの効果を調べるために、ウサギ角膜上皮細胞を、90mM NaClを添加することによる高浸透圧培地(463mOsM)中で24時間培養した。細胞内ROSレベルをH2DCFDAプローブによって検出し、分光蛍光光度計によってDCF蛍光の形成を測定した。
【0085】
図6Aに示されるように、DCF蛍光は、張性培地(309mOsm)中で培養した細胞と比較して、細胞を高浸透圧培地中で24時間培養した後に1.6倍増加した。しかし、PDSPで前処理したウサギ角膜上皮細胞は、NaCl単独で処理した細胞と比較して、1.3倍の倍数でDCF蛍光レベルの抑制を示した(P<0.04)。対照ペプチド(ContP)前処理はそのような効果を示さなかった。NaCl誘発性高浸透圧ストレスはまた、等張環境下の対照細胞と比較して、抗酸化剤であるグルタチオン(GSH)のレベルを著しく枯渇させた(
図6B;46.7±15.4%対100±7.0%)が、PDSPで再処理した細胞はGSHレベルを70.5±11.4%まで有意に増加させた。これらの結果は、PDSPが、NaCl誘発性高浸透圧ストレス(463mOsM)で処理された角膜上皮細胞において、少なくとも部分的にGSHレベルを増強することによって、抗酸化効果を有することを示す。
【0086】
PDSPによる角膜上皮細胞における高浸透圧ストレス誘発性MMP-9発現の抑制
角膜上皮細胞における高浸透圧ストレス誘発性MMP-9発現へのPDSPの効果を調べるために、細胞をPDSPまたは対照ペプチド(ConP)で20時間前処理し、次に細胞を高浸透圧培地(463mOsM)にさらに24時間曝した。
図7Aに示されるように、ContP/高浸透圧培地で処理した細胞におけるMMP-9のmRNAレベルは、等張性培地中で培養した細胞(未処理対照)と比較して、3倍有意にアップレギュレートされた。しかし、PDSP前処理は、MMP-9 mRNA発現を2倍の倍数で阻止した。
【0087】
ゼラチンザイモグラフィーも、高浸透圧ストレスが、未処理対照と比較して(ほぼ90kDaの大きさ;
図7B)、MMP-9活性を2.7倍誘導したことを実証した。ザイモグラフィーはさらに、PDSP前処理がMMP-9活性を3倍阻止したことを示した。これらの結果は、PDSPが、高浸透圧ストレスによって誘導されるMMP-9の発現および活性を抑制することを示す。
【0088】
本発明の実施形態は限られた数の例で説明されている。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、その他の修正形態または変形形態が可能であることを理解するであろう。そのため、保護の範囲は添付の特許請求の範囲によって限定されるべきである。
【配列表】