(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】車両検知装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/01 20060101AFI20241021BHJP
G08G 1/04 20060101ALI20241021BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241021BHJP
【FI】
G08G1/01 D
G08G1/04 D
G06T7/00 650B
(21)【出願番号】P 2020088238
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 和浩
【審査官】貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/047687(WO,A1)
【文献】特開2019-144852(JP,A)
【文献】特開平6-162388(JP,A)
【文献】特開2004-30484(JP,A)
【文献】特開昭58-96400(JP,A)
【文献】特開2000-149181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 1/16
G06T 7/00 - 7/90
G06V 10/00 - 20/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上に予め設定された検知エリアを通過する車両を検知する車両検知装置であって、
道路上を斜め上方から俯瞰するように、複数の車線を撮影し、前記検知エリアを撮影する撮像装置と、
前記撮像装置によって所定周期で撮影された時系列の画像データにおいて
車両を認識する車両認識部と、
前記車両認識部によって認識された
前記車両の長さを算出する車両長さ算出部と、
前記認識された
前記車両の走行速度を算出する車速算出部と、
前記
車両長さ算出部で算出された前記車両の長さ、前記車速算出部で算出された前記車両の走行速度
、および、所定エリアの長さか
ら占有時間を算出する占有時間算出部と、
前記
占有時間算出部で算出された占有時間
を検知信号として出力する信号出力部と、を備え、
前記所定エリアが、道路上の真上に設置された超音波センサの下方に設定されるエリアであり、
前記所定エリアの長さが、前記所定エリアに車両の先頭が進入する位置から車両の最後尾が進出する位置までの長さである、
ことを特徴とする車両検知装置。
【請求項2】
前記時系列の画像データに基づいて、前記認識された
車両の代表位置が前記検知エリアに進入および進出したことを判定する進入判定部を備え、
前記車速算出部は、
前記進入判定部の判定結果から計測した前記
車両が前記検知エリア内を走行した時間
および前記検知エリアの実際の長さに基づいて
、前記走行速度を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両検知装置。
【請求項3】
前記認識された
車両の代表位置が前記検知エリアに進入および進出したことを判定する進入判定部を備え、
前記車速算出部は、
前記進入判定部の判定結果から計測した前記
車両が前記検知エリア内を走行した時間を前記走行速度に変換する速度係数と
、前記進入判定部の判定結果から計測した前記
車両が前記検知エリア内を走行した
前記時間に基づいて
、前記走行速度を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両検知装置。
【請求項4】
前記検知エリアが、複数の車線を含む道路の車線毎に設定され、
前記認識された
車両の代表位置が、前記検知エリアに進入および進出したときに、複数の車線毎に設定された前記検知エリアのいずれに存在するか
識別し、識別した車線を前記信号出力部へ出力する車線識別部を備え、
前記信号出力部は、前記認識された
車両の代表位置が前記検知エリアから進出すると、前記車線識別部によって
出力された
前記車線の
検知信号である走行車線情報を出力する、
ことを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載の車両検知装置。
【請求項5】
前記車両認識部が認識している前記
車両の現在までの走行経路に基づいて、前記
車両が車線変更するか否か判定する車線変更判定部を備え、
前記車線識別部は、前記車線変更判定部の判定に基づいて
、前記検知エリアから進出後に車線を変更する前記
車両を検出し
た場合、
変更後の車線を前記信号出力部へ出力する、
ことを特徴とする請求項4に記載の車両検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路を走行する車両を検知する車両検知装置に関し、特に撮像装置によって取得した画像から検出するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より一般的に、車両の渋滞等の交通情報を提供するために、例えば交差点の付近などに車両感知器を設置し、その出力により得た交通量や混雑状況等の情報を交通管制センターに送信するようにしている。例えば、特許文献1に開示されているシステムでは、
図7に一例を示すように、道路上の所定高さに設置された超音波センサSSにより、下方の所定エリア(検知エリアIA)内を通過する車両Vを検知し、検知信号ISを出力する。
【0003】
そのような超音波センサによる車両の検出では、道路上に複数の走行車線がある場合、それぞれの走行車線に対応して検知エリアを設定し、そのほぼ真上に超音波センサを設置する必要がある。つまり、一車線に一台の超音波センサが必要となるため、設置コストが嵩む上に、設置場所の確保が困難となり、例えば道路脇に建てた柱から張り出して延びるアームに複数の超音波センサを設置しなくてはならない。
【0004】
これに対して特許文献2には、複数の車線を俯瞰するカメラ(撮像装置)によって撮影した画像において車両を認識するとともに、その走行方向と移動速度とを算出することが開示されている。すなわち、画像において認識した車両の前端位置、若しくは重心位置における画素座標を算出し、この画素座標から実際の道路座標に座標変換した上で、車両の走行方向毎の走行速度を推定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-162388号公報
【文献】特開2004-030484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献2に開示される画像処理技術を利用した車両の検出では、特許文献1のように超音波センサを用いるシステムとの互換性が問題になる。すなわち、前記
図7に模式的に示すように検知信号ISは、車両Vの先頭が検知エリアIAに進入したときにオンになり、その後、車両Vの最後尾が検知エリアIAを抜けるとオフになるので、信号のパルスの長さが占有時間に相当するものとなるが、このような信号は、特許文献2の画像処理技術を利用したシステムでは得られない。
【0007】
また、特許文献2のような画像処理技術を利用した車両の検出では、同時に複数の車線を俯瞰するように撮影し、その画像において複数の車両を認識するようにしているため、車線毎に設定した検知エリアを通過する車両を必ずしも特定できないことがあり、また、一度は特定したとしても、その後に見失うおそれもある。つまり、超音波センサのように検知エリアの車両を安定的に検知することが難しい。
【0008】
本発明は以上の課題を考慮したものであり、その目的は、カメラなど撮像装置によって撮影した画像から車両を認識し、超音波センサを用いるシステムと同様の検知信号が安定して得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る1つの態様は、道路上に予め設定された検知エリアを通過する車両を検知する車両検知装置であって、道路上を斜め上方から俯瞰するように、複数の車線を撮影し、前記検知エリアを撮影する撮像装置と、前記撮像装置によって所定周期で撮影された時系列の画像データにおいて移動体を認識する車両認識部と、前記車両認識部によって認識された移動体の長さを算出する車両長さ算出部と、前記認識された移動体の走行速度を算出する車速算出部と、前記認識された移動体の長さおよび走行速度から前記検知エリアを通過する時間である占有時間を算出する占有時間算出部と、前記算出された占有時間に対応する長さのパルス信号の占有時間情報を出力する信号出力部と、を備えるものである。
(2)上記(1)の態様において、前記占有時間算出部が算出する前記占有時間は、既存の車両検出装置が当該検出エリアにおいて検出する既存の占有時間に変換して算出するようにしてもよい。
(3)上記(1)または(2)の態様において、前記時系列の画像データに基づいて、前記認識された移動体が前記検知エリアに進入および進出したことを判定する進入判定部を備え、前記車速算出部は、前記移動体が前記検知エリア内を走行した時間から前記検知エリアの実際の長さに基づいて前記走行速度を算出するようにしてもよい。
(4)上記(1)または(2)の態様において、前記認識された移動体が前記検知エリアに進入および進出したことを判定する進入判定部を備え、前記車速算出部は、前記移動体が前記検知エリア内を走行した時間から前記検知エリアを前記移動体が実際に走行した速度およびそのときの前記検知エリアの進入から進出するまでの所要時間に基づいて前記走行速度を算出するようにしてもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれかの態様において、前記検知エリアが、複数の車線を含む道路の車線毎に設定され、前記車両認識部によって認識された前記移動体が、複数の車線毎に設定された検知エリアのいずれに存在するか検出する車線識別部を備え、前記信号出力部は、前記車線識別部によって検出された車線の走行車線情報を出力するようにしてもよい。
(6)上記(5)の態様において、前記車両認識部が認識している前記移動体の現在までの走行経路に基づいて、前記移動体が車線変更するか否か判定する車線変更判定部を備え、前記車線識別部は、前記車線変更判定部の判定に基づいて前記移動体が前記検知エリアから進出後に車線を変更する前記移動体を検出し、前記信号出力部は、前記車線識別部によって検出された車線の走行車線情報を出力するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両検知装置では、カメラなど撮像装置によって撮影した画像から車両を認識し、超音波センサを用いるシステムと同様の検知信号が安定して得られるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る実施形態の車両検知装置の概略構成を示す図である。
【
図2】撮影された画像の中の車両や検知エリア等の一例を示す説明図である。
【
図3】検知演算装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図4A】隣り合う車線に跨って走行する車両の一例を示す
図2相当図である。
【
図4B】蛇行して車線変更する車両の一例を示す
図2相当図である。
【
図5A】車両の重心位置による車線の識別の説明図である。
【
図5B】車線変更の判定の一例を示す説明図である。
【
図6】車両検知装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】従来の超音波式センサを用いた車両検知装置についての
図1相当図である。
【
図8】渋滞の発生に伴う占有率の変化を、従来の超音波式センサを用いた車両検知装置と比較して示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本明細書の実施形態においては、全体を通じて、同一の部材には同一の符号を付している。なお、添付図面では、見易さのために、複数存在する同一属性の部位には、一部のみしか符号が付されていない場合もある。
【0013】
図1は本発明の概略構成を模式的に示しており、本実施形態の車両検知装置1は、交通信号制御装置10等を介して交通管制センター100に接続されて、交通管制システムの一部を構成している。例えば図示の交通管制システムでは、複数台(n台)の交通信号制御装置10が交差点の付近等、それぞれ異なる地点に設置され、車両検知装置1による車両Vの検出結果などに応じて信号機Sの制御を行う。
【0014】
図1に表れているように車両検知装置1は、例えば信号機Sの手前(図示しない停止線近傍)など各地点に予め設定された検知エリアRAを、車両Vが通過することを検知するためのものであり、その検知エリアRAを所定周期で撮影する撮像装置としてのカメラ2と、その動作を制御するとともに、撮影された画像データを取得して以下に述べるような処理を行う検知演算装置3と、を備えている。
【0015】
なお、カメラ2は、
図1に表れているように道路脇に建てられた柱Pに設置され、道路上を斜め上方から俯瞰するように撮影する。カメラ2の視野角は、複数の車線を同時に撮影するように設定されており、撮影された画像中の道路や車両V等は、一例を
図2に示すように遠くに離れるに連れて小さく見えるようになる。
【0016】
検知演算装置3は、いわゆるコンピュータ装置からなり、所定のプログラムを実行して各種の処理を行う処理演算ユニット(CPU)の他に、この処理演算ユニットにおいて使用されるプログラムやデータを記憶するROMやRAM等のメモリを備えている。処理演算ユニットは、カメラ2によって所定周期で撮影された時系列の画像データを使用して、車両Vを認識し、検知エリアRAの通過に合わせて検知信号を出力する。
【0017】
そのために検知演算装置3は、一例を
図3の機能ブロック図に示すように、カメラ2からの画像信号を入力し、画像中の移動体(車両V)をその特徴から乗用車、オートバイ(二輪車)やトラックなどを認識して予め記憶している車種を特定する車両認識部31と、特定した車種からこの車両Vの長さを特定する車両長さ算出部32と、車両Vが検知エリアRAに進入および進出したことを判定する進入判定部33と、検知エリアRA内の走行時間から車両Vの走行速度(車速)を算出する車速算出部34と、これらの算出結果に基づいて車両Vが従来の超音波センサを用いたシステムおける検知エリアIA(
図7参照)を通過する時間(占有時間)を算出する占有時間算出部35と、その占有時間を検知信号(占有時間情報)として出力する信号出力部36と、を備えている。
【0018】
また、この実施形態の検知演算装置3は、
図2に表れているように、道路上の複数の車線のそれぞれに検知エリアRA1および検知エリアRA2を設定しており、詳しくは後述するが、車両認識部31によって認識された車両Vが、複数の車線のいずれに存在するか識別する車線識別部37と、その車両Vが車線変更するか否か判定する車線変更判定部38と、を備えている。そして、信号出力部36は、車両Vが検知エリアRAを進出すると、これからの車線変更する予測も含め、車両Vが走行する車線を決定して検知信号(走行車線情報)を出力するようになっている。
【0019】
-検知信号の生成-
詳しくは、まず、車両認識部31は、所定周期で撮影される画像データの入力に応じて、或いは一旦、RAMに記憶された時系列の画像データを読み出して、画像中の車両Vを認識する。例えば、連続する画像データの時間差分処理を行って、所定数のフレーム間で変化のあった領域を移動体として抽出し、周知の人工知能(artificial intelligence: AI)技術により、車両Vのフロントグリルやライトの形状(車のブランドおよびモデル)や、ナンバープレートの番号などの検出から、予め設定した大きさ、例えばオートバイ(二輪車)などの小型、乗用車などの中型、トラックやバスなどの大型、トレーラなどの特大型、それぞれ車種に当てはめて四角形の枠のラベルを付ける。また、検知演算装置3は、予め車種のそれぞれに車両の長さを、例えは小型を2m、中型を5m、大型を10mおよび特大型を18mと設定して記憶している。
【0020】
上述したようにカメラ2は、道路を斜め上方から俯瞰するように配置されて、複数の車線を撮影するので、その視野角等によって決まる撮影範囲A(
図2に仮想線で示す)の中では、車線も遠くに離れるに連れて狭くなってゆく。本実施形態では、複数の車線のそれぞれについて長方形状の検知エリアRA1、RA2を設定しているが、この検知エリアRA1、RA2も画像平面においては略台形状になる。
【0021】
また、検知エリアRA1,RA2の車両が進入する側に、検知エリアRA1および検知エリアRA2をまたいで引かれた進入線STを設定し、検知エリアRA1,RA2から車両が進出する側に、検知エリアRA1および検知エリアRA2をまたいで引かれた進出線SPを設定している。
【0022】
一方、車両認識部31では、ラベリングした四角形の枠を画素座標から実際の道路座標に座標変換することで、車両Vの位置を認識することができる。このように認識した車両V(即ち、車両Vとしてラベリングした四角形の枠)の位置を代表して表す代表位置としては、例えばそのラベリングした四角形の枠において、四角形の枠の中心、車両Vの先頭部または車両Vの最後部など、予め設定した位置を用いればよい。
【0023】
車両長さ算出部32は、前記のように特定された車両Vの車種から記憶している車両の長さを決定する。例えば車両Vを中型として特定した場合は、5mと決定する。また、進入判定部33は、車両Vが検知エリアRAに進入したこと、すなわち進入線STに到達したか判断する。
【0024】
進入判定部33は、例えばラベリングした四角形の枠の中心点Gの撮影画像上の画素座標から座標の変化を追跡して、中心点Gの座標が進入線STに到達したか判断し、進入線STに到達したと判定すると、その旨の信号を車速算出部34に出力する。その後、中心点Gの座標が進出線SPに到達したか判断し、進出線SPに到達したと判定すると、その旨の信号を車速算出部34に出力する。進入線ST到達と進出線SP到達の判定は、後述する車線変更判定部38にも出力される。
【0025】
車速算出部34は、予め撮影している現場にて、実際の道路上で進入線STの地点から進出線SPの地点までの距離を計測して、その長さを距離kとして記憶している。そして、進入判定部33から進入線STに到達した信号を受信すると時間の測定を開始し、進入線STに到達した信号を受信すると時間の測定を終了して、進入線ST到達から進出線SP到達までの時間を算出する。その算出結果の時間と、記憶している距離kから車速を算出する。
【0026】
そして、占有時間算出部35は、車両長さ算出部32が、前記のように決定した車両Vの長さと、車速算出部34が算出した車両Vの速度から次の式より超音波センサを用いたシステムの場合の占有時間に変換する。
占有時間ST=(距離L+車両長SL)/車両速度V・・・式1
距離Lは
図7に示す超音波センサによる真上から俯瞰した場合の検知エリアIAの長さ、車両長SLは車両長さ算出部32が決定した車両Vの長さ、車両速度Vは車速算出部34が算出した車両Vの速度。こうして算出された占有時間STは、信号出力部36に出力され、従来までの超音波センサが出力するパルス信号の長さに相当する。
【0027】
信号出力部36は、占有時間算出部35により算出された占有時間STの長さのパルス信号すなわち検知信号(占有時間情報)を出力する。こうすることで、車両Vが従来までの超音波センサがパルス信号を出力する同じ長さのパルス信号が出力され、従来の超音波センサを用いたシステムと同様の占有時間情報を交通信号制御装置10に出力することになる。
【0028】
-車線の識別-
ところで、
図2を参照して上述したように、道路には複数の車線が含まれており、本実施形態の車両検知装置1では、それぞれの車線に対応して車両Vの検知エリアRAが設定されている。このため、上述したように車両Vが検知エリアRAを通過する際に出力する検知信号の生成は、車線毎に認識した車両Vの長さおよび車速に基づいて行われる。
【0029】
しかしながら、実際に道路を走行する車両Vの中には、隣接する2つの車線に跨って走行したり、蛇行したりするものがあり、また、交差点などの手前で急に車線変更する場合もある。このため、例えば
図4Aに示すように、バスなど比較的大型の車両Vが隣り合う車線に跨って走行する場合、カメラ2によって撮影された画像においては、複数の車線の両方で車両Vを認識してしまうことがある。
【0030】
また、例えば
図4Bに示すように車両Vが蛇行して、隣りの車線に移動した場合も、両方の車線で二重に車両Vを認識してしまい、誤って両方の検知エリアRA1,RA2の通過と検出することがある。また、従来までの超音波センサを用いたシステムのように1車線に1台の感知器を設置しても、前記のような場合には1台の車両Vを複数の車線で検知していまい見落としなく安定して車両Vの走行車線を検出することが難しい。
【0031】
そこで、本実施形態では、
図3を参照して上述したように、検知演算装置3に車線識別部37と車線変更判定部38とを備えている。そして、車両Vが検知エリアRAに進入すると車線識別部37によって車両Vの走行車線を識別し、車線変更判定部38によって車線変更すると判定された車両Vは、変更後の車線に進入するものとして、車両Vが走行する車線の検知信号(走行車線情報)を出力するようにしている。
【0032】
例えば、まず、前記
図4Aに示すように車両Vが隣り合う車線に跨って走行する場合、車線識別部37は、車両Vの例えば上述したように、車両認識部31おいて車両Vを特定して、所定の車種でラベリングした四角形の枠の中心点Gが複数の車線のいずれの検知エリアRAに存在するか、識別する。すなわち、車両Vを表す四角形の枠の中心点Gを撮影画像上の画素座標から、
図5Aに模式的に示すように、車両Vの中心点Gがいずれの車線の検知エリアRA1,RA2に存在するか識別すればよい。
【0033】
その上で、時系列の画像データにおける中心点Gの変化に基づいて、車線変更判定部38により、車両Vが車線変更するか否か判定する。上述したように、進入判定部33が撮影画像上の中心点Gの座標の変化を追跡して、中心点Gの座標が進入線STに到達したか判断する。そして、中心点Gの座標が進入線STに到達したと判定すると、車線識別部37に車両Vが検知エリアRAに進入した旨の信号を出力する。
【0034】
車線識別部37は進入判定部33からの信号を受信すると、中心点Gの座標を記憶するとともに、中心点Gの座標から車両Vが検知エリアRA1または検知エリアRA2のいずれかに存在するか判断して、その結果から進入時に走行している車線を記憶する。また、検知エリアRAから進出するまで車両Vが走行する中心点Gの座標を記憶し追跡を続ける。
【0035】
車線変更判定部38は、車線識別部37が記憶した中心点Gの座標の移動軌跡を追い、例えば
図5Bに模式的に示すように、現在の車両Vの中心点Gの座標と1つ前に記憶した座標とを結んだ直線の移動方向が、車線の方向に対してなす角度θについて、所定の第1角度(例えば30°)以上、隣接車線側に傾斜しているときに、当該隣接車線に車線変更すると判定する。
【0036】
また、前記車線変更判定部38は、図示はしないが、車両Vの中心点Gの前記の移動方向が、車線の方向に対して前記第1角度よりも小さい第2角度(例えば20°)以上、隣接車線側に傾斜しており、かつ、中心点Gから隣接車線との境界線までの距離が所定距離(例えば1~2m)以下のときに、当該隣接車線に車線変更すると判定するようにしてもよい。
【0037】
そして、進入判定部33が中心点Gの座標が進出線SPに到達したか判断し、進出線SPに到達したと判定すると、車線識別部37に車両Vが検知エリアRAから進出した旨の信号を送信し、車線識別部37は進入判定部33からの信号を受信すると、中心点Gの座標の記憶を止めて追跡を終了するとともに、最後に記憶した中心点Gの座標から車両Vが検知エリアRA1または検知エリアRA2のいずれかに存在したか判断する。
【0038】
車線識別部37は、車両Vが検知エリアRAに進入したときの最初に判定した進入時の車線と、最後に記憶した中心点Gの座標から判定した進出時の車線とを比較して、進入時の車線と進出時の車線が違う場合は、進出時の車線を信号出力部36に出力する。
【0039】
また、進入時の車線と進出時の車線が同じ場合は、車線変更判定部38の車線変更の判定結果により、車線変更の判定ならば検知エリアRAから進出後に、当該隣接車線に車線変更すると予想して、当該隣接車線を信号出力部36に出力する。また、車線変更の判定がなければ検知エリアRAに進入から進出まで車線変更がなかったとして、進入時の車線または進出時の車線を信号出力部36に出力する。
【0040】
信号出力部36は、車線識別部37から受信した車両Vが走行する車線の検知信号(走行車線情報)を交通信号制御装置10に出力することになる。このように車両Vの現在(検知エリアRAからの進出時)の走行車線だけでなく、これから変更になる車線を予測した走行車線情報を出力することができる。
【0041】
なお、信号出力部36は、車線識別部37から受信する車線および占有時間算出部35から受信する占有時間STの2つとも揃った場合に、走行車線情報および占有時間情報を交通信号制御装置10に出力してもよいし、同じ車両Vの情報とわかるように共通した車両IDなどを付して、いずれかを受信するとともに走行車線情報または占有時間情報を別々に出力してもよい。
【0042】
次に、本実施形態の車両検知装置1によって、道路上の検知エリアIAを通過する車両Vを検知する処理について、
図6のフローチャートを参照して具体的に説明する。このフローチャートに示すルーチンは、検知演算装置3において所定時間(例えば100ミリ秒)毎に繰り返し実行される。
【0043】
ルーチンが開始すると、まず、カメラ2が動作されて、複数の車線を含む道路上を撮影する。こうして撮影された画像のデータがカメラ2から検知演算装置3に出力されると、一般的なノイズの除去や輝度値の階調補正等の前処理が行われ(ステップS1)、その後、車両認識部31が移動体を抽出して車種を示すラベル付けがされているか確認をする(ステップS2)。
【0044】
車種を示すラベル付けがされていなければ否定判定(NO)として、その特徴から既存技術により車種を特定し、移動体(車両V)に車種のラベルを付け、例えば四角形の枠およびその四角形枠の中心に中心点Gなるラベリング処理が行われる(ステップS3)。なお、複数車線における複数台数の車両Vに対して、それぞれの車両Vを区別して判別できるように車両IDなどを付してラベル付けが行われる。
【0045】
そうしてラベリング処理された車両VおよびステップS2ですでに車種を示すラベル付けがされて肯定判定(YES)の車両Vについて、進入判定部33により車両Vの中心点Gが進入線STに到達したか判断し、すなわち車両Vが検知エリアRAに進入したか否か判定され(ステップS4)。車両Vの中心点Gが進入線STに到達していなければ、否定判定(NO)であれば一旦、ルーチンを終了する。所定時間後にルーチンが再開されて、上述したステップS1~S4の手順が繰り返され車両Vが進入線STに到達するまで繰り返して判定が行われることになる。
【0046】
そして、車両Vの中心点Gが進入線STに到達して肯定判定(YES)であればステップ5に進み、ラベル付けされた当該車両Vが、車両長さ算出部32による車両Vの車両の長さを決定しているか判定する(ステップS5)。否定判定(NO)であれば、車両長さ算出部32は車両Vの車種から記憶されている車両の長さを決定するとともに、車速算出部34により時間の計測が開始される(ステップS6)。
【0047】
次に、車線識別部37が、中心点Gの座標を記憶するとともに、車両Vが検知エリアRA1または検知エリアRA2のいずれかに存在するか判断し、その結果から走行している車線を記憶する(ステップS7)。また、車両Vが走行する中心点Gの座標の記憶を開始する。
【0048】
ステップS7において車線の識別およびステップS5において肯定判定(YES)のすでに車両長さ算出部32による車両Vの車両の長さが決定されている場合は、車線識別部37が中心点Gの座標を記憶するとともに、車線変更判定部38は記憶している中心点Gの座標の移動軌跡を追い、車両Vが車線変更するか否か判定され(ステップS8)、肯定判定(YES)であれば隣接する車線に移行すると識別される(ステップS9)、一方、否定判定(NO)であれば、現在の車線にいると識別される。
【0049】
続いて、進入判定部33が、車両Vの中心点Gが進出線SPに到達したか判断し、すなわち車両Vが検知エリアRAから出たか否か判定され(ステップS10)、肯定判定(YES)であればステップS11に進む一方、否定判定(NO)であれば一旦、ルーチンを終了する。この場合、所定時間後にルーチンが再開されて、上述したステップS1~S10の手順が繰り返される。つまり、車両Vが検知エリアRAから出るまで、時間の計測や車両Vが移動する座標(軌跡)の記憶が続き、その認識や車線の識別などを繰り返す。
【0050】
そして、進入判定部33が、車両Vの中心点Gが進出線SPに到達したと判定して、道路上を走行する車両Vが検知エリアRAから出ると、ステップS10で肯定判定(YES)であればステップS11に進み、車両Vが移動する座標(軌跡)の記憶を終了して、ここで車両Vの走行車線を確定し車線(検知信号)を信号出力部36に出力する。
【0051】
一方、車速算出部34は、時間の計測を終了して(ステップS12)、計測時間から車両Vの速度を算出する(ステップS13)。そして、算出した車両Vの速度から占有時間算出部35は、超音波センサを用いたシステムの場合の占有時間STを算出して、算出された長さのパルス信号(検知信号)を信号出力部36に出力する(ステップS14)。
【0052】
信号出力部36は、従来の超音波センサを用いたシステムと同様のパルス信号の検知信号(占有時間情報)および車両Vが走行する車線の検知信号(走行車線情報)を交通信号制御装置10に出力して(ステップS15)、ルーチンを終了する。
【0053】
なお、車両Vを検知する処理は、複数車線それぞれを走行する複数の車両Vに対して、撮影画像上における最も奥の進入線STに到達前の移動体(カメラ2の設置位置から遠い車両V)から進出線SPまでの全ての移動体(車両V)に対して1台ずつ順次行われ、撮影画像上の進出線SPの車両Vの検知処理が終了すると、再び撮影画像上における最も奥の進入線STに到達前の移動体(車両V)から検知処理を行うことになる。
【0054】
以上、説明したように本実施形態の車両検知装置1によれば、画像処理技術を利用したシステムであっても、超音波センサSSを用いたシステムと同様の検知信号が得られる。すなわち、従来の超音波センサ式のものでは、
図7に一例を示すように、道路上の真上から所定高さに設置された超音波センサSSにより、下方の検知エリアIA内を通過する車両Vを検知し、その通過に要する時間(占有時間)に相当するパルス信号(検知信号)を出力する。
【0055】
これに対し、本実施形態のように複数の車線をカバーするべく、道路上を斜め上方から俯瞰するように設けたカメラ2の撮影範囲は、
図1に表れているようにかなり広くなることから、仮に検知エリアRAにおいて車両Vを検知している間、検知信号を出力すると、超音波センサSSからの信号に比べてかなり長いパルス信号になってしまう。このように、検知エリアRAの占有時間を表すパルス信号が長くなると、渋滞状況を誤って判定するおそれがあった。
【0056】
すなわち、従来一般的な交通管制システムでは、例えば交差点の付近など各地点に超音波センサSSを設置して検知エリアIAを設定し、ここを通過する車両Vの占有時間から当該地点の占有率を算出して、渋滞を判定するようにしている。一例として或る交差点における占有率の一日の変化を
図8に示すと、車両Vの走行していない深夜0時から明け方までは略0%になり、早朝から通勤時間帯にかけて占有率が立ち上がって、所定値Thを超えると、渋滞判定がなされる。
【0057】
図8に破線で示すのは、超音波センサSSを用いた従来システムによるもので、7時半くらいに占有率が所定値Thを超えている。これに対して、画像処理技術を用いた一般的なシステムでは、上述したように占有時間が長くなることから、図には実線で示すように占有率が実際よりも早く立ち上がって、6時前に所定値Thを超えてしまうので、渋滞していないのに誤って渋滞と判定することになる。
【0058】
これに対し、本実施形態の車両検知装置1では、検知エリアRAにおいて車両Vを検知している間、検知信号を出力するのではなく、検知した車両Vの長さおよび車速から占有時間である占有時間STを算出して、この占有時間STに対応する長さのパルス信号を検知エリアRAから進出したタイミングで出力する。つまり、超音波センサSSを用いる従来システムと同様の検知信号が得られるのである。
【0059】
このように従来システムと同様の検知信号が得られることから、本実施形態の車両検知装置1は、従来システムに組み込むことが容易である。すなわち、超音波センサ式の車両検知装置から出力される検知信号を受け入れる交通信号制御装置10に、本実施形態の車両検知装置1を接続して、検知信号をそのまま入力することができる。そして、その場合に前記のような渋滞の誤判定をする心配がない。
【0060】
しかも、本実施形態では、道路に複数の車線が含まれていても、いずれの車線上を車両Vが走行しているか追跡して検知し、さらに、その車両Vが車線に跨って走行したり、蛇行したり、また車線変更したりしても、車両Vが走行する検知エリアRAを特定し、従来の超音波センサSSを用いるシステムと同様に見落としなく、安定して車両Vを検知することができる。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0062】
例えば、上述した実施形態では、車速算出部34は、予め撮影している現場にて、実際の道路上で進入線STの地点から進出線SPの地点までの距離を計測した距離kにより車両Vの速度を算出し、その車両の速度に基づいて占有時間STを算出したが、予め実際の車両速度に変換する速度係数を算出し、その速度係数から車両Vの速度を算出して占有時間STを算出してもよい。
【0063】
その場合は、予め撮影している現場の実験により、実際に車両を走らせて撮影映像で進入線ST到達から進出線SP到達までの時間を計測し、その計測時間と、そのときの実際の車両の速度から速度係数vkを算出して、当該車両の進入線STから進出線SP到達までの計測時間から実際の車両速度に変換する速度係数vkを記憶する。
【0064】
そして、車速算出部34は、進入判定部33から進入線STに到達した信号を受信すると時間の測定を開始し、進入線STに到達した信号を受信すると時間の測定を終了して、進入線ST到達から進出線SP到達までの時間を計測する。その計測結果と、記憶している速度係数vkから車速を算出するようにしてもよい。
【0065】
また、上述の実施形態では、認識した車両Vの中心点Gを基準にして車線を識別するとともに、その位置の変化に基づいて車線変更を判定するようにしているが、この車線変更の判定はしなくてもよい。また、車両Vの代表位置として中心点Gを用いるだけでなく、例えば車両Vの先頭部や最後部などを用いてもよいし、これらを組み合わせて用いることもできる。
【0066】
また、上述の実施形態では、車線変更判定部38が算出する移動方向に、現在の車両Vの中心点Gの座標と1つ前に記憶した座標とを結んだ直線としたが、現在の車両Vの中心点Gの座標と記憶している検知エリアRAに進入した際の中心点Gが進入線STに到達したときの座標とを結んだ直線としてもよい。
【0067】
また、上述の実施形態では、車線変更判定部38により車両Vの移動軌跡から検知エリアRAから進出してからの当該隣接車線に車線変更するか否かの予測をして、車両Vが走行する車線を判定しているが、車線識別部37が進入判定部33から中心点Gが進入線STに到達した信号を受信したときの車両Vの中心点Gの座標が検知エリアRA1または検知エリアRA2のいずれかに存在するか判断したときの車線を信号出力部36に出力してもよし、車線識別部37が進入判定部33から中心点Gが進出線SPに到達した信号を受信したときの車両Vの中心点Gの座標が検知エリアRA1または検知エリアRA2のいずれかに存在するか判断したときの車線を信号出力部36に出力してもよい。
【0068】
この場合は、検知エリアRAから進出した後の将来の予測が必要なければ、検知エリアRAの中で予め決めた地点、例えば進入線STや進出線SPから手前5m(撮影画像上3cm)などを通過した際の車両Vの中心点Gの座標が検知エリアRA1または検知エリアRA2のいずれかに存在するか判断して、車線を信号出力部36に出力する。
【符号の説明】
【0069】
1;車両検知装置、2;カメラ(撮像装置)、3;検知演算装置、
31;車両認識部、32;車両長さ算出部、33;進入判定部、34;車速算出部、
35;占有時間算出部、36;信号出力部、37;車線識別部、38;車線変更判定部、
A;撮影範囲、IA,RA;検知エリア、V;車両、G;重心位置(代表位置)