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  • 特許-ベントマスト 図1
  • 特許-ベントマスト 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】ベントマスト
(51)【国際特許分類】
   B63B 15/02 20060101AFI20241021BHJP
   B63B 25/16 20060101ALI20241021BHJP
   F17C 13/00 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
B63B15/02 Z
B63B25/16 A
F17C13/00 302A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020090259
(22)【出願日】2020-05-25
(65)【公開番号】P2021185056
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岸 治
(72)【発明者】
【氏名】大橋 徹也
(72)【発明者】
【氏名】海野 峻太郎
(72)【発明者】
【氏名】亀野 雄一
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 直人
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第203113726(CN,U)
【文献】特開2018-203106(JP,A)
【文献】国際公開第2019/097131(WO,A1)
【文献】特公昭47-034233(JP,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0122793(KR,A)
【文献】実開昭57-113800(JP,U)
【文献】中国実用新案第207438617(CN,U)
【文献】中国実用新案第201810580(CN,U)
【文献】国際公開第2019/039816(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 15/02
B63B 25/16
F17C 13/00
B63H 21/32
B63J 2/00 - 2/10
F23J 13/00 - 13/08
E04F 17/00 - 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化水素運搬船に設けられるベントマストであって、
マスト本体と、
前記マスト本体の上方に配置された放出管と、
前記マスト本体と前記放出管との間に介在する膨出ダクトであって、前記マスト本体から上向きに拡径する拡径部、前記放出管に向かって上向きに縮径する縮径部、および前記拡径部と前記縮径部との間に介在する筒状部を含む膨出ダクトと、
前記膨出ダクト内に配置された、前記放出管から侵入する雨を受ける漏斗と、を備え、
前記放出管の長さは前記放出管の内径よりも大きく、
前記膨出ダクトの縮径部の上端は、前記放出管の下端よりも上方で前記放出管の外周面に直接的に接続されている、ベントマスト。
【請求項2】
鉛直方向において、前記漏斗の上端は、前記筒状部の下端と上端の間に位置する、請求項1に記載のベントマスト。
【請求項3】
鉛直方向において、前記拡径部の長さは前記縮径部の長さよりも長い、請求項1または2に記載のベントマスト。
【請求項4】
鉛直方向に対する前記拡径部の角度は、30度以下である、請求項1~3の何れか一項に記載のベントマスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化水素運搬船に設けられるベントマストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液化水素を輸送する液化水素運搬船の開発が進められつつある。例えば、特許文献1には、液化水素を貯留するタンクが船体に搭載された液化水素運搬船が開示されている。
【0003】
また、特許文献1に開示された液化水素運搬船には、タンク内で発生するボイルオフガス(水素ガス)を大気中に放出するためのベントマストが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-204721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LNG(Liquefied Natural Gas)運搬船にも、タンク内で発生するボイルオフガス(NG)を大気中に放出するためのベントマストが設けられる。ベントマストの先端は膨らんでおり、その内部には雨を受ける漏斗が配置される。
【0006】
水素運搬船に設けられるベントマストは、NG用のベントマストと同様の構造であってもよい。しかし、水素はNGに比べて燃焼範囲が広いため、NG用のベントマストに比べて、ベントマストから比較的に遠くまで水素ガスを放出することが望まれる。
【0007】
そこで、本発明は、ベントマストから比較的に遠くまで水素ガスを放出することできるベントマストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の一つの側面からのベントマストは、液化水素運搬船に設けられるベントマストであって、マスト本体と、前記マスト本体の上方に配置された放出管と、前記マスト本体と前記放出管とを接続する膨出ダクトと、前記膨出ダクト内に配置された、前記放出管から侵入する雨を受ける漏斗と、を備え、前記放出管の長さは前記放出管の内径よりも大きい、ことを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、放出管の長さが内径よりも大きいので、放出管を通じて放出される水素ガスは、水平方向への拡散が抑えられ、真っ直ぐに上向きに放出される。従って、ベントマストから比較的に遠くまで水素ガスを放出することできる。
【0010】
また、本発明の別の側面からのベントマストは、液化水素運搬船に設けられるベントマストであって、マスト本体と、前記マスト本体の上方に配置された放出管と、前記マスト本体と前記放出管とを接続する膨出ダクトと、前記膨出ダクト内に配置された、前記放出管から侵入する雨を受ける漏斗と、を備え、前記ダクトは、前記マスト本体から上向きに拡径する拡径部と、前記放出管に向かって上向きに縮径する縮径部と、前記拡径部と前記縮径部との間に介在する筒状部を含む、ことを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、筒状部が無い場合に比べて、漏斗を迂回するように膨出ダクトの内面に沿って水素ガスが流れるときの圧力損失を低減することができる。従って、放出管の先端での水素ガスの流速が速くなり、ベントマストから比較的に遠くまで水素ガスを放出することできる。
【0012】
本発明のさらに別の側面からのベントマストは、液化水素運搬船に設けられるベントマストであって、マスト本体と、前記マスト本体の上方に配置された放出管と、前記マスト本体と前記放出管とを接続する膨出ダクトと、前記膨出ダクト内に配置された、前記放出管から侵入する雨を受ける漏斗と、を備え、前記ダクトは、前記マスト本体から上向きに拡径する拡径部と、前記放出管に向かって上向きに縮径する縮径部を含み、鉛直方向に対する前記拡径部の角度は、30度以下である、ことを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、拡径部の角度が30度を上回る場合に比べて、漏斗を迂回するように膨出ダクトの内面に沿って水素ガスが流れるときの圧力損失を低減することができる。従って、放出管の先端での水素ガスの流速が速くなり、ベントマストから比較的に遠くまで水素ガスを放出することできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ベントマストから比較的に遠くまで水素ガスを放出することできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るベントマストが設けられた液化水素運搬船の側面図である。
図2】ベントマストの先端部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、本発明の一実施形態に係るベントマスト5が設けられた液化水素運搬船1を示す。この液化水素運搬船1は、船体2と、船体2に搭載された2つのタンク3を含む。本実施形態では、タンク3が船長方向に並んでいるが、船幅が広い場合は船幅方向に並んでもよい。また、船体2に搭載されるタンク3の数は1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0017】
例えば、各タンク3は、内槽と外槽の間が真空の二重殻タンクである。ただし、各タンク3は、断熱材で覆われた一重殻タンクであってもよい。
【0018】
本実施形態では、各タンク3が水平方向に長い円筒状である。ただし、タンク3の形状は、球形状であってもよいし、立方体状または直方体状であってもよい。
【0019】
具体的に、各タンク3は、液化水素を貯留するタンク本体31と、このタンク本体31から上向きに突出するドーム32を含む。より詳しくは、タンク本体31は、一定の断面形状で船長方向に延びる胴部と、この胴部の両側の開口を塞ぐ半球状の閉塞部を含む。ただし、閉塞部は、胴部と垂直なフラットであってもよいし、皿状であってもよい。ドーム32は、タンク3を貫通する配管を集約するためものである。
【0020】
船体2は、上向きに開口する2つの貨物艙21を有する。貨物艙21は船長方向に並んでおり、貨物艙21同士は隔壁22によって仕切られている。そして、各貨物艙21の内部に、タンク3が配置されている。
【0021】
各貨物艙21の内部には、船長方向に互いに離間する一対のサドル23が設けられている。サドル23は、タンク3を支持する。各タンク3の上方には、タンクカバー4が配置されている。各タンクカバー4は、対応するタンク3のタンク本体31を上方から覆う。ドーム32はタンクカバー4を貫通している。
【0022】
上述したベントマスト5は、タンクカバー4に設けられている。ただし、ベントマスト5は、貨物艙21の周囲に位置する上甲板に設けられてもよい。ベントマスト5は、タンク3内で発生するボイルオフガス(水素ガス)を大気中に放出するためのものである。
【0023】
ベントマスト5は、図2に示すように、タンクカバー4から立ち上がるマスト本体6と、マスト本体6の上方に配置された放出管8と、マスト本体6と放出管8とを接続する膨出ダクト7を含む。
【0024】
放出管8はマスト本体6と同軸上に配置されており、膨出ダクト7はマスト本体6および放出管8よりも径方向外向きに広がっている。図示は省略するが、放出管8の先端(上端)には、鳥の侵入を防止するためのメッシュが取り付けられる。本実施形態では、放出管8の長さLが放出管8の内径Dよりも大きい。
【0025】
膨出ダクト7内には、放出管8から侵入する雨を受ける漏斗9が配置されている。漏斗9は断面V字状であり、漏斗9の上端の直径は、放出管8の内径Dよりも大きい。漏斗9は、膨出ダクト7に設けられた図略のサポートにより支持されている。
【0026】
膨出ダクト7は、マスト本体6から上向きに拡径する拡径部71と、放出管8に向かって上向きに縮径する縮径部73と、拡径部71と縮径部73との間に介在する筒状部72を含む。放出管8内に侵入した雨が当該放出管8の下端から落下するように、縮径部73の上端は放出管8の下端よりも少し上方で放出管8の外周面に接続されている。
【0027】
本実施形態では、漏斗9の上端が、鉛直方向において筒状部72の下端と上端の間に位置する。ただし、漏斗9の上端は、筒状部72の下端よりも下方に位置してもよいし、筒状部72の上端よりも上方に位置してもよい。
【0028】
本実施形態では、鉛直方向において、拡径部71の長さLaが縮径部73の長さLcよりも長く(La>Lc)、筒状部72の長さLbが縮径部73の長さLcよりも短い(Lb<Lc)。ただし、拡径部71の長さLaは縮径部73の長さLcよりも短くてもよい。
【0029】
また、本実施形態では、鉛直方向に対する拡径部71の角度θ(すなわち、拡径角度)が30度以下である。ただし、拡径部71の角度θは30度を上回ってもよい。
【0030】
以上説明したように、本実施形態のベントマスト5では、放出管8の長さLが内径Dよりも大きいので、放出管8を通じて放出される水素ガスは、水平方向への拡散が抑えられ、真っ直ぐに上向きに放出される。従って、ベントマスト5から比較的に遠くまで水素ガスを放出することできる。
【0031】
さらに、本実施形態では、膨出ダクト7の拡径部71と縮径部73との間に筒状部72が介在するので、筒状部72が無い場合に比べて、漏斗9を迂回するように膨出ダクト7の内面に沿って水素ガスが流れるときの圧力損失を低減することができる。従って、放出管8の先端での水素ガスの流速が速くなり、ベントマスト5から比較的に遠くまで水素ガスを放出することできるという効果を向上させることができる。
【0032】
特に、本実施形態では、漏斗9の上端と筒状部72との間が狭隘部となるので、その狭隘部での圧力損失を低減することができる。
【0033】
また、本実施形態では、拡径部71の角度θが30度以下である。このため、拡径部71の角度θが30度を上回る場合に比べて、漏斗9を迂回するように膨出ダクト7の内面に沿って水素ガスが流れるときの圧力損失を低減することができる。従って、放出管8の先端での水素ガスの流速が速くなり、ベントマスト5から比較的に遠くまで水素ガスを放出することできるという効果をさらに向上させることができる。
【0034】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0035】
例えば、膨出ダクト7は、筒状部72を含まずに、拡径部71の上端が縮径部73の下端と接続されてもよい。
【0036】
また、膨出ダクト7が筒状部72を含む場合は、放出管8の長さLが内径Dよりも小さくてもよい。このような構成でも、漏斗9を迂回するように膨出ダクト7の内面に沿って水素ガスが流れるときの圧力損失を低減することができる。従って、放出管8の先端での水素ガスの流速が速くなり、ベントマスト5から比較的に遠くまで水素ガスを放出することできる。
【0037】
さらに、膨出ダクト7の拡径部71の角度θが30度以下である場合は、膨出ダクト7が筒状部72を含まず、かつ、放出管8の長さLが内径Dよりも小さくてもよい。このような構成でも、拡径部71の角度θが30度を上回る場合に比べて、漏斗9を迂回するように膨出ダクト7の内面に沿って水素ガスが流れるときの圧力損失を低減することができる。従って、放出管8の先端での水素ガスの流速が速くなり、ベントマスト5から比較的に遠くまで水素ガスを放出することできる。
【0038】
(まとめ)
本発明の一つの側面からのベントマストは、液化水素運搬船に設けられるベントマストであって、マスト本体と、前記マスト本体の上方に配置された放出管と、前記マスト本体と前記放出管とを接続する膨出ダクトと、前記膨出ダクト内に配置された、前記放出管から侵入する雨を受ける漏斗と、を備え、前記放出管の長さは前記放出管の内径よりも大きい、ことを特徴とする。
【0039】
上記の構成によれば、放出管の長さが内径よりも大きいので、放出管を通じて放出される水素ガスは、水平方向への拡散が抑えられ、真っ直ぐに上向きに放出される。従って、ベントマストから比較的に遠くまで水素ガスを放出することできる。
【0040】
前記ダクトは、前記マスト本体から上向きに拡径する拡径部と、前記放出管に向かって上向きに縮径する縮径部と、前記拡径部と前記縮径部との間に介在する筒状部を含んでもよい。この構成によれば、筒状部が無い場合に比べて、漏斗を迂回するように膨出ダクトの内面に沿って水素ガスが流れるときの圧力損失を低減することができる。従って、放出管の先端での水素ガスの流速が速くなり、ベントマストから比較的に遠くまで水素ガスを放出することできるという効果を向上させることができる。
【0041】
鉛直方向において、前記漏斗の上端は、前記筒状部の下端と上端の間に位置してもよい。この構成によれば、漏斗の上端と筒状部との間が狭隘部となるので、その狭隘部での圧力損失を低減することができる。
【0042】
例えば、鉛直方向において、前記拡径部の長さは前記縮径部の長さよりも長くてもよい。
【0043】
鉛直方向に対する前記拡径部の角度は、30度以下であってもよい。この構成によれば、拡径部の角度が30度を上回る場合に比べて、漏斗を迂回するように膨出ダクトの内面に沿って水素ガスが流れるときの圧力損失を低減することができる。従って、放出管の先端での水素ガスの流速が速くなり、ベントマストから比較的に遠くまで水素ガスを放出することできるという効果をさらに向上させることができる。
【0044】
また、本発明の別の側面からのベントマストは、液化水素運搬船に設けられるベントマストであって、マスト本体と、前記マスト本体の上方に配置された放出管と、前記マスト本体と前記放出管とを接続する膨出ダクトと、前記膨出ダクト内に配置された、前記放出管から侵入する雨を受ける漏斗と、を備え、前記ダクトは、前記マスト本体から上向きに拡径する拡径部と、前記放出管に向かって上向きに縮径する縮径部と、前記拡径部と前記縮径部との間に介在する筒状部を含む、ことを特徴とする。
【0045】
上記の構成によれば、筒状部が無い場合に比べて、漏斗を迂回するように膨出ダクトの内面に沿って水素ガスが流れるときの圧力損失を低減することができる。従って、放出管の先端での水素ガスの流速が速くなり、ベントマストから比較的に遠くまで水素ガスを放出することできる。
【0046】
鉛直方向において、前記漏斗の上端は、前記筒状部の下端と上端の間に位置してもよい。この構成によれば、漏斗の上端と筒状部との間が狭隘部となるので、その狭隘部での圧力損失を低減することができる。
【0047】
例えば、鉛直方向において、前記拡径部の長さは前記縮径部の長さよりも長くてもよい。
【0048】
本発明のさらに別の側面からのベントマストは、液化水素運搬船に設けられるベントマストであって、マスト本体と、前記マスト本体の上方に配置された放出管と、前記マスト本体と前記放出管とを接続する膨出ダクトと、前記膨出ダクト内に配置された、前記放出管から侵入する雨を受ける漏斗と、を備え、前記ダクトは、前記マスト本体から上向きに拡径する拡径部と、前記放出管に向かって上向きに縮径する縮径部を含み、鉛直方向に対する前記拡径部の角度は、30度以下である、ことを特徴とする。
【0049】
上記の構成によれば、拡径部の角度が30度を上回る場合に比べて、漏斗を迂回するように膨出ダクトの内面に沿って水素ガスが流れるときの圧力損失を低減することができる。従って、放出管の先端での水素ガスの流速が速くなり、ベントマストから比較的に遠くまで水素ガスを放出することできる。
【符号の説明】
【0050】
1 液化水素運搬船
5 ベントマスト
6 マスト本体
7 膨出ダクト
71 拡径部
72 筒状部
73 縮径部
8 放出管
9 漏斗
図1
図2