(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20241021BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20241021BHJP
B60W 30/09 20120101ALI20241021BHJP
【FI】
G08G1/16 A
G08G1/09 H
B60W30/09
(21)【出願番号】P 2020093205
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA CORPORATION
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱田 和之
【審査官】宮地 将斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-021478(JP,A)
【文献】特開平10-261195(JP,A)
【文献】特開平10-293899(JP,A)
【文献】特開2008-234183(JP,A)
【文献】国際公開第2020/066646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
G08G 1/09
B60W 30/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動運転を行う複数の車両が同じ区間を走行する際の緊急時の危険度を低減するための走行制御方法であって、
自車両が、自車両の周辺を走行する他車両の存在を確認する段階と、
自車両が、確認した前記他車両に情報共有を要求する段階と、
前記他車両に情報共有が承諾された場合に、自車両が前記他車両に対し緊急危険回避運転ルールの有無及び種類を問い合わせる段階と、
情報共有した前記他車両が、自車両と同じ前記緊急危険回避運転ルールを有する場合に、自車両と当該他車両とがクラスタ群を形成して走行運転する段階とを有し、
前記緊急危険回避運転ルールは回避不可能な緊急危険が発生した場合の衝撃軽減運転制御を行う車両制御方法を定めたルールであることを特徴とする自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法。
【請求項2】
自車両が前記緊急危険回避運転ルールの有無及び種類を問い合わせた結果、前記他車両が、自車両と異なる緊急危険回避運転ルールを有する場合、自車両が前記他車両との位置関係を確認し、緊急危険が発生した場合に自車両への影響があるか否かの判断を行う段階を更に有し、
自車両への影響がないと判断される場合は前記他車両に対しクラスタ群を形成して走行することを許可することを特徴とする請求項1に記載の自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法。
【請求項3】
前記クラスタ群を形成して走行することを許可された前記他車両は、通常走行時は前記他車両の周囲を走行する周囲車両の運行様式、仕様、搭載されたセンサを含む安全確認手段の内の少なくともいずれか一つの情報に基づく通常走行時の危険回避行動ルールに従い走行し、緊急危険が発生した場合は前記緊急危険回避運転ルールに従い走行することを特徴とする請求項2に記載の自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法。
【請求項4】
前記緊急危険が発生した場合に自車両への影響があるか否かの判断を行う段階は、
自車両が前記他車両から前記他車両を制御する前記緊急危険回避運転ルールを取得する段階と、
前記取得した緊急危険回避運転ルールに基づいて、自車両と前記他車両のそれぞれの速度、加速度、位置関係を含む走行状態データから算出される、現在の走行状況が継続した場合の車間距離がゼロになり自車両と前記他車両が接触するまでの余裕時間と
、緊急危険回避時に想定される将来の前記他車両の車速変化による前記余裕時間への影響度合いとに基づき危険ポテンシャルを算出して、算出した危険ポテンシャルの値を段階的に区分して危険ポテンシャルレベルを求め、予め設定した危険ポテンシャルレベル以下であるか否かを判断する段階と、を含むことを特徴とする請求項3に記載の自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法。
【請求項5】
前記緊急危険が発生した場合に自車両への影響があるか否かの判断を行う段階は、
自車両が前記他車両から前記他車両を制御する前記緊急危険回避運転ルールを取得する段階と、
自車両と前記他車両の位置関係と、前記他車両が前記他車両の前記緊急危険回避運転ルールに従う場合に想定される前記他車両の運転制御情報による自車両の運転制御への影響度と、に基づき
自車両の急激なブレーキ操作若しくは急激なアクセル操作、または急なステアリング操作の必要度合いに応じて設定される危険ポテンシャルレベルを求め、予め設定した危険ポテンシャルレベル以下であるか否かを判断する段階と、を含むことを特徴とする請求項3に記載の自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法に関し、特に自車両の周辺を走行する他車両の回避不可能な緊急危険が発生した場合の衝撃軽減運転制御を定めた緊急危険回避運転ルールが自車両と同じであるときに、自車両と当該他車両とがクラスタ群を形成して走行運転することにより、緊急時の危険度を低減することを可能とする自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に各種のセンサやカメラなどの検出手段と検出手段の検出結果によって車両を制御する制御部とを搭載し、運転手の見落としや操作ミスにより発生し得る危険に対し、自動的にブレーキを掛けたりステアリングホイールを操作したりするなどの危険回避技術が実用化され、適用車両が拡大している。こうした危険回避技術は、運転手の運転の負荷軽減のためのサポートシステムとして進化し、更にその先の自動運転技術の実用化に向けて開発が進められている。
【0003】
自動運転技術については既に様々な技術が提案されている。車両が自動運転する場合、目標としてインプットされた地点に向かう経路において、車両は常に自車両の周辺の状況をデータとして取り込み、周辺の状況に応じて速度調節や車線を選択しながら走行する。このとき、周辺に他車両がいる場合、他車両の動きを予測して走行しないと事故を起こしかねない。そのため周辺に他車両がいる場合の制御部の負荷が大きくなることから、車両同士が車車間通信により情報を共有化する技術も開発されている。
【0004】
特許文献1には、周囲の車両の情報を受信する受信手段と、受信手段で受信した周囲の車両の情報に基づいて自車両の走行速度を演算する演算手段と、演算手段で演算した走行速度に基づいて自車両の走行を制御する走行制御手段と、を備えた自動運転制御装置が開示されている。
【0005】
また、車車間通信の技術を使い、同じ目的を持つ車両同士が隊列を組み、互いに安全な位置関係を維持しながら隊列走行を行う技術も開発されている。隊列走行を行うことにより、先頭車両以外は先行車両に追従するだけでよいので制御部の負荷が軽減されるという効果が得られる。
【0006】
特許文献2は、こうした隊列走行する車両の隊列走行制御装置に関するものであるが、隊列走行している隊列車群とは別に単独で走行する独立車に、隊列車群の先導車に対して隊列への組み込みを希望する旨の要求を出す手段を設け、先導車には独立車からの組み込み要求に基づきこれを許可あるいは不許可とする手段を設け、先導車が独立車の組み込み要求を許可した場合に、独立車が隊列車群の先導車に自動的に追従する自動運転走行への切り替えを行う隊列走行制御装置が記載されている。
【0007】
これらの技術は、いずれも通常の走行を行う上での制御を前提としている。しかし実際の車両の走行においては、意図しない想定外の危険が発生することが有る。上空から突然落下物が前方に落下してきたり、前方から車両が逆走してきたりした場合には通常の走行制御では対処しきれない。このような回避不可能な緊急危険の発生時には衝突や接触が発生してもその危険度を低減するような運転ルールが必要である。しかしながら、現在世界標準となるような運転ルールは設定されていないため、車両メーカーや車種毎に緊急時の運転ルールが異なることが想定される。
【0008】
このように緊急時の運転ルールが異なる車両が混在して走行している状況で回避不可能な緊急危険が発生し、各車両がそれぞれ独自の緊急時の運転ルールで対応すると2次事故が発生する危険度も高くなりやすい。逆に周囲の車両が同じ緊急時の運転ルールに従っていれば、回避不可能な緊急危険発生時の2次事故の発生を回避することが可能となる。
こうした緊急時の運転ルールを踏まえた走行制御方法の提供が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-176355号公報
【文献】特開2001-6099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の自動運転車両の走行制御方法における問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、自車両の周辺を走行する他車両の回避不可能な緊急危険が発生した場合の衝撃軽減運転制御を定めた緊急危険回避運転ルールが自車両と同じであるときに、自車両と当該他車両とがクラスタ群を形成して走行運転することにより、緊急時の危険度を低減することを可能とする自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためになされた本発明による自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法は、自動運転を行う複数の車両が同じ区間を走行する際の緊急時の危険度を低減するための走行制御方法であって、自車両が、自車両の周辺を走行する他車両の存在を確認する段階と、自車両が、確認した前記他車両に情報共有を要求する段階と、前記他車両に情報共有が承諾された場合に、自車両が前記他車両に対し緊急危険回避運転ルールの有無及び種類を問い合わせる段階と、情報共有した前記他車両が、自車両と同じ前記緊急危険回避運転ルールを有する場合に、自車両と当該他車両とがクラスタ群を形成して走行運転する段階とを有し、前記緊急危険回避運転ルールは回避不可能な緊急危険が発生した場合の衝撃軽減運転制御を行う車両制御方法を定めたルールであることを特徴とする。
【0012】
自車両が前記緊急危険回避運転ルールの有無及び種類を問い合わせた結果、前記他車両が、自車両と異なる緊急危険回避運転ルールを有する場合、自車両が前記他車両との位置関係を確認し、緊急危険が発生した場合に自車両への影響があるか否かの判断を行う段階を更に有し、自車両への影響がないと判断される場合は前記他車両に対しクラスタ群を形成して走行することを許可することが好ましい。
【0013】
前記クラスタ群を形成して走行することを許可された前記他車両は、通常走行時は前記他車両の周囲を走行する周囲車両の運行様式、仕様、搭載されたセンサを含む安全確認手段の内の少なくともいずれか一つの情報に基づく通常走行時の危険回避行動ルールに従い走行し、緊急危険が発生した場合は前記緊急危険回避運転ルールに従い走行することが好ましい。
【0014】
前記緊急危険が発生した場合に自車両への影響があるか否かの判断を行う段階は、自車両が前記他車両から前記他車両を制御する前記緊急危険回避運転ルールを取得する段階と、前記取得した緊急危険回避運転ルールに基づいて、自車両と前記他車両のそれぞれの速度、加速度、位置関係を含む走行状態データから算出される、現在の走行状況が継続した場合の車間距離がゼロになり自車両と前記他車両が接触するまでの余裕時間と、緊急危険回避時に想定される将来の前記他車両の車速変化による前記余裕時間への影響度合いとに基づき危険ポテンシャルを算出して、算出した危険ポテンシャルの値を段階的に区分して危険ポテンシャルレベルを求め、予め設定した危険ポテンシャルレベル以下であるか否かを判断する段階と、を含むことが好ましい。
【0015】
前記緊急危険が発生した場合に自車両への影響があるか否かの判断を行う段階は、自車両が前記他車両から前記他車両を制御する前記緊急危険回避運転ルールを取得する段階と、自車両と前記他車両の位置関係と、前記他車両が前記他車両の前記緊急危険回避運転ルールに従う場合に想定される前記他車両の運転制御情報による自車両の運転制御への影響度と、に基づき自車両の急激なブレーキ操作若しくは急激なアクセル操作、または急なステアリング操作の必要度合いに応じて設定される危険ポテンシャルレベルを求め、予め設定した危険ポテンシャルレベル以下であるか否かを判断する段階と、を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法によれば、緊急危険回避運転ルールが共通な車両同士がクラスタ群を形成して走行するため、回避不可能な緊急危険が発生した場合に、クラスタ群内の車両は同一の制御ルールで危険回避の制御が行われるため、衝撃軽減運転制御が行われることに伴う2次事故の回避若しくは軽減化が可能となる。
【0017】
また本発明に係る自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法によれば、同じ目的で構成される隊列走行を行う車両群に参加しない車両がいたとしても、同じ緊急危険回避運転ルールによるクラスタ群を形成して運転制御が類似する車両の集団を大きくすることができるため、全体として緊急危険に対する衝突などの損害を軽減するように制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態による自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法におけるクラスタ群形成を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の実施形態による緊急危険回避運転ルールとして想定される回避行動の例を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態による通常走行時と緊急危険時の運転制御に用いる情報例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態による他の車両と共有する緊急危険回避運転ルールの運転制御情報例を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態による自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法を説明するためのフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態による周辺の他車両に対するクラスタ群形成による走行の許可または不許可の判定方法を説明するためのフローチャートである。
【
図7】本発明の実施形態による周辺の他車両に対するクラスタ群形成による走行の許可または不許可の判定方法を説明するためのフローチャートである。
【
図8】本発明の実施形態による他車両の位置と、他車両の緊急危険回避運転ルールとに基づく危険ポテンシャルレベルの設定例を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態による他車両の緊急危険回避運転ルールに基づく危険ポテンシャルレベルの設定方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係る自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法を実施するための形態の具体例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態による自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法におけるクラスタ群形成を概略的に示す図である。
【0020】
図1を参照すると、
図1の上側に示す時刻t=t0の走行車両群の図において、道路2上を9台の車両(A1、A2、B、C、D)が同じ方向に走行している。道路2は車線3が4つある4車線道路の例である。9台の車両(A1、A2、B、C、D)の内少なくとも車両(A1、A2、B)は通信手段を備え、他の車両と通信することが可能な自動運転車両である。
【0021】
自動運転車両は自車両の周辺の状況をデータとして取り込み、周辺の状況に応じて速度調節や車線を選択しながら走行する。開発初期段階での自動運転車両では、周辺を走行する車両がいる場合、自車両が備えるカメラやセンサにより、他車両の位置を感知しながらその走行速度や進行方向を推定して他車両と接触などの事故を起こさないように自車両の走行を制御する必要があり、制御部の演算の負荷が大きいという課題があった。
【0022】
しかし車車間通信技術の開発により、他車両の情報を入手し、それに基づき自車両の制御を行うことができるようになり、他車両の動きを予測するための演算の負荷が削減されるようになってきている。特に目的や行先など共通のニーズを持つ車両同士が連携して隊列を組み、先頭車両からの情報に基づき、後続車両が安全を維持しつつ追従する隊列走行の研究も進んできている。隊列走行を組むことにより、後続車両は走行制御のための制御部の演算量を大幅に削減することが可能となる。また前方に不意の障害物が現れても、後続車両は先頭車両からの情報を受けて事前に察知し、回避したりブレーキを掛けたりして事故の防止を図ることができる。
【0023】
複数車線の道路を走行する場合、前後方向に限らず周辺に他の車両も走行する。自車両が隊列走行していても隣の車線には隊列走行しない他の車両が走行する状況は頻繁に発生する。複数車線の道路の場合は特に隣接する車線も含めて、他の車両との間での事故回避も考慮した走行制御が必要となる。
【0024】
他の車両との間での事故回避を考慮する自動運転車両の走行制御として、通常走行時の走行制御と、回避不可能な危険発生時の走行制御の2面を踏まえた走行制御が重要である。通常走行時は、車線変更を行う場合も、他車両に影響を与えない範囲での制御が行われるため、事故は発生しにくい。しかし突然の落下物や突風に伴う前方他車両の転覆など回避不可能な突然の緊急危険に対しては通常走行時の走行制御では対処しきれず、通常走行の運転ルールとは異なる緊急危険回避運転ルールが必要となる。
【0025】
ここで緊急危険回避運転ルールは回避不可能な緊急危険が発生した場合の衝撃軽減運転制御を行う車両制御方法を定めたルールである。単独で走行中であれば一般には少しでも緊急危険を回避するために、急激なステアリング制御により隣接する車線に回避しようとするが、後続車両がいる場合は、このような回避を行うと後続車両との2次事故を引き起こし、かえって甚大な事故になることも起こり得る。
もし、後続車両が自車両と同じ緊急危険回避運転ルールを持ち、自車両の緊急危険回避の方針が他車両に瞬時に伝達できれば、自車両の緊急危険回避動作開始に伴い他車両も急ブレーキをかけるなどして2次事故を回避することが可能となる。
【0026】
本発明はこうした緊急危険回避運転ルールを備えた車両同士がクラスタ群を形成して緩やかに連携して走行し、回避不可能な突然の緊急危険に対してクラスタ群全体として緊急危険の危険度の低減を行う走行制御方法を提供するものである。そのために本発明による自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法では、自車両の周辺を走行する他車両の存在を確認し、他車両が存在する場合に他車両と情報共有した後、他車両の緊急危険回避運転ルールの有無及びその種類を問い合わせ、同じ緊急危険回避運転ルールを備える場合にクラスタ群を形成する。
【0027】
ここでいうクラスタ群は、回避不可能な突然の緊急危険に対して全体で危険の度合いを低減可能であるという車両の集まりであり、通常の走行条件に関してまで制約する必要はない。そこで、クラスタ群を形成して走行することを許可された他車両は、少なくとも緊急危険が発生した場合は緊急危険回避運転ルールに従い走行するが、通常走行時は他車両の周囲を走行する周囲車両の運行様式、仕様、搭載されたセンサを含む安全確認手段の内の少なくともいずれか一つの情報に基づく通常走行時の危険回避行動ルールに従い走行する。
【0028】
自車両と他車両とが同じ緊急危険回避運転ルールを備える場合、例えば走行制御に使用する運転制御情報が共通のフォーマットで表現でき、他車両に送信する運転制御情報を予め定められたパラメータに限定するなどして必要最低限の情報量に抑えることが可能となる。さらに想定される緊急危険に対する動作方針を予めコード化しておけば、緊急時にはコードを送信するだけで自車両の動作方針を他車両に伝達することも可能である。このように必要最低限の情報量で自車両の動作方針を他車両に伝達することにより情報伝達時間も短縮され、また動作方針を受信した他車両も、予め定められたルールにより走行制御の演算の省力化が可能となり、それだけ短時間で危険に対処することが可能となる。
このように同じ緊急危険回避運転ルールを有する車両同士がクラスタ群を形成し、まとまって走行することにより緊急危険時の危険度を低減することが可能となる。
【0029】
再び
図1を参照すると、同じ符号で示す車両同士が同じ緊急危険回避運転ルールを備えることを示しており、例えばA1で示す2台の自動運転車両1は同じ緊急危険回避運転ルールを備える。同様にA2で示す2台、Bで示す3台の自動運転車両1もそれぞれの車両同士で同じ緊急危険回避運転ルールを備える。
時刻t=t0の走行車両群では、4車線の中で各車両はばらばらに存在して走行しているが、上記の様に周辺の他車両と情報共有し、自車両と情報共有した他車両が自車両と同じ緊急危険回避運転ルールを備える場合にクラスタ群を形成する。
【0030】
図1の下側の時刻t=t1の走行車両群の図は、クラスタ群10(以下符号10はクラスタ群を総称する場合に使用する)を形成後の走行車両を示す。クラスタ群11はA1で示す2台の自動運転車両1で構成され、クラスタ群12はA2で示す2台の自動運転車両1で構成され、クラスタ群13はBで示す3台の自動運転車両1で構成されている。クラスタ群(11、12、13)内の構成車両同士は同じ緊急危険回避運転ルールを備えるが、異なるクラスタ群10、例えばクラスタ群11とクラスタ群12の構成車両同士は異なる緊急危険回避運転ルールを備える。
【0031】
単独走行車両のC及びDは、他の車両と共通の緊急危険回避運転ルールを備えない車両であり、単独走行車両のC及びDは、緊急危険回避運転ルールそのものを備えない自動運転車両でもあり得るし、自動運転の制御部を備えない手動運転の車両でもあり得る。
【0032】
図1ではそれぞれのクラスタ群(11、12、13)を形成する車両同士は同じ車線3内を縦に並んで走行し、丸印を付した先頭車両は同じクラスタ群10内の他車両を先導する先導車両を示す。同じクラスタ群10内の車両同士でどの車両が先導車両となるかは特に制限はないが、先導車両は追従車両に比べて走行制御に多くの演算処理が必要になるため、例えば同じクラスタ群10内で、演算処理性能の高い制御部を備える車両が先導車両となるようにクラスタ群10を形成する。これにより、先導車両はクラスタ群10を含む自車両の走行制御演算を行い、走行時に移動ベクトルと位置情報を追従車両に送信し、追従車両では先導車両から受信した移動ベクトルと位置情報とに基づき自車両を制御することができる。
【0033】
逆に同じクラスタ群10内の車両同士で制御部の演算処理性能にそれほど差がない場合などに、先導車両の演算処理の負荷を減らす意味で、先導車両の演算処理の一部を追従車両が分担するように構成してもよい。
【0034】
クラスタ群13は、Bで示す自動運転車両1が3台ある例を示すが、3台の自動運転車両が個別に走行中に、互いに同じ緊急危険回避運転ルールを備えることを確認して、3台で1つのクラスタ群13を形成してもよいし、3台の内、もともと2台が隊列を組む隊列走行をしていたところに、単独で走行していた残りの1台が同じ緊急危険回避運転ルールを備えることを確認して合流し、1つのクラスタ群13を形成してもよい。
【0035】
自車両と異なるクラスタ群10に含まれる他車両や、単独走行する他車両は、自車両と同じ緊急危険回避運転ルールを備えないため、回避不可能な突然の緊急危険が発生する場合、自車両の動作の方針を瞬時に伝達することができない。このためこうした他車両とは距離を広く開けるように走行制御する。一実施形態では、一つのクラスタ10群の先導車両である自車両と同じ緊急危険回避運転ルールを備えない他のクラスタ群10の車両群又は単独の他車両が自車両の周辺を走行する場合、自車両は他のクラスタ群10の先導車両又は単独の自動運転車両とクラスタ群10の規模や走行の制御に関する情報の一部を通信して共有するようにしてもよい。それにより互いに距離を開けるように走行することも可能である。
【0036】
図1では3つのクラスタ群(11、12、13)に含まれる車両はそれぞれ縦に並んで走行するように示すが、車線3が複数の場合、横や斜めの位置関係で並走するように走行してもよく、この場合もクラスタ群10を形成する車両のいずれかが先導車両の役割を果たすようにしてもよい。このようにすれば、例えば同じクラスタ群10の車両が並走する場合、一方の車両の前に突然障害物が出現した際、他方の車両が急ブレーキをかける前提で他方の車両の前に車線逸脱して回避する回避方法を採用することも可能となる。
【0037】
また
図1では2台または3台でクラスタ群10を形成する例を示すが、クラスタ群10を形成する車両はこれより多くても構わない。その場合、先導車両は1台に限らず複数車両で構成してもよい。
例えば、上記ではA1で示す車両とA2で示す車両はそれぞれ別のクラスタ群11及び12を形成するとしたが、別の実施形態ではA1で示す車両とA2で示す車両は同じ共通の緊急危険回避運転ルールを備え、符号Aを付した4台、即ち、A1の2台とA2の2台とで1つのクラスタ群10を形成する。多くの車両でクラスタ群10を形成する場合、緊急危険回避運転ルールが同じであっても、それ以外のルールや目的などまで一致するとは限らない。例えばA1の2台の車両同士、A2の2台の車両同士は通常走行時の危険回避運転ルールが共通であるが、A1の2台の車両とA2の2台の車両とでは通常走行時の危険回避運転ルールが異なる場合である。このような場合、1つのクラスタ群10内でも、ルールの共通性が高いA1の車両同士、A2の車両同士がそれぞれまとまって走行し、それぞれで先導車両を設定してもよい。
【0038】
さらに他の実施形態ではA1、A2の区別なく符号Aを付した4台で1つのクラスタ群10を形成し、その中で演算処理性能の高い制御部を備える車両を1台に限らず先導車両に設定してもよい。
【0039】
図2は、本発明の実施形態による緊急危険回避運転ルールとして想定される回避行動の例を示す図である。
図2には、前方に急停止車両又は落下物などの障害物が存在する場合の自車両の回避行動を、自車両の車線3を維持するか否かで(a)~(c)の3つのケースに分けて示す。
【0040】
図2(a)は前方車両や落下物などの障害物への衝突を容認することを前提条件とし、自車線内での操舵制御とブレーキ制御を行い、直撃事故の衝撃を軽減することを回避行動とする場合である。
図2(a)を参照すると、片側3車線道路2を、自車両及びA~Eで示す他車両が走行し、中央の車線3を走行中の自車両の前方を走行する車両Aが急停止した状態を示す。自車両の左側の車線3では車両Bが自車両より前方側を走行し、後方側には車両Dが走行中である。同様に自車両の右側の車線3では車両Cが自車両より前方側を走行し、後方側には車両Eが走行中である。
【0041】
このケースは例えば後方側に位置する車両D及び車両Eが高速で接近中、或は車両D及び車両Eが大型車両であり、安全に減速できないため、自車両が車線を逸脱して危険を回避しようとすると、車両D及び車両Eとの衝突による2次事故によりかえって大きな事故に至ることが想定されるような場合である。
【0042】
自車両の前には2本の破線の矢印を示すが、これは自車両が停止中の車両Aに衝突することはやむを得ないとしながらも、少しでも被害を軽減するための選択肢を示す。例えば自車両には運転者が一人だけ搭乗している場合は同じ車線内でも右側に回避する方が運転者へのダメージが少なくて済む可能性が高い。一方助手席に搭乗者がいる場合や車両Aの停止状況により左側に回避する方が、人的被害が少なくなる可能性が高い場合は左側に回避することも起こり得る。もちろん回避せずにまっすぐ進んだ方が乗員のダメージを軽減できることが期待される場合は直進する選択もあり得る。
いずれにしても自車両が車線内を維持している限り残りの車両(B、C、D、E)との衝突は起こらない。
【0043】
図2(b)は前方車両や落下物を含む周辺車両への衝突被害を軽減するため車線外への操舵を含む運転制御を行うことを前提条件とし、車線外への操舵制御とブレーキ制御を回避行動とする場合である。
【0044】
図2(b)における車両の位置関係は
図2(a)の場合と変わらないが、後方に位置する車両(D、E)の速度が高速ではない場合や、予め後方に位置する車両(D、E)と運転制御情報を共有し、自車両が緊急危険の回避動作を行った場合に、後方に位置する車両(D、E)も回避行動をとることが期待できる場合である。この場合も状況に応じどちらの車線に逸脱するかは乗員の状況や停止中の車両Aの状況の他、後方に位置する車両(D、E)の状況により変化する。例えば車両Dの速度と車両Eの速度との差や、車両Dと車両Eが大型車両か否かなどが判断の元となり得る。
【0045】
図2(c)は前方車両や落下物への衝突を回避するために、車線変更を伴う運転制御、後続車両からの衝突を容認することを前提条件とし、車線外への操舵制御とブレーキ制御を回避行動とする場合である。
【0046】
図2(c)における車両の位置関係も
図2(a)の場合と変わらないが、自車両が後方からくる車両に衝突されるとしても、停止中の車両Aに衝突するよりは危険の度合いが低いと想定される場合である。この場合は特に自車両と後方に位置する車両(D、E)とが同じ緊急危険回避運転ルールを備える場合は、自車両の回避の方針が短時間で端的に後方に位置する車両(D、E)に伝達可能となり、後方に位置する車両(D、E)の回避行動の開始も早まり、それだけ自車両と後方に位置する車両(D、E)との2次事故の程度を軽減若しくは回避することが可能となる。
【0047】
図3は、本発明の実施形態による通常走行時と緊急危険時の運転制御に用いる情報例を示す図であり、
図3(a)は通常走行時、
図3(b)は緊急危険時の情報例を示す。
図3(a)を参照すると、通常走行時の運転制御に用いる情報としては、交通に関しては、道路の道路タイプやそれにかかわるレーンの種類及び交通標識などを参照する。又車両の動作として、車線変更や減速などのコースを進行する上でのコース戦術を参照し、交通関係者としては、対象が車両なのか歩行者なのかなどの対象の種類を参照する。またこれらの情報操作に対する評価値として、対象物との距離や対象物に到達するまでの時間に伴う安全性などを参照し、更に、想定する事象が複数同時に起こるのか、いずれか一つが起こった場合を想定するのかといった演算子を参照する。
【0048】
図3(b)を参照すると、基本的な交通や交通関係者などの情報を参照する点では通常走行時の運転制御に用いる情報と共通するが、緊急動作として緊急ブレーキや衝突を前提としたエアバッグの動作を含めた情報を参照する点や、運転者や搭乗者のダメージレベルを想定する点などで通常走行時の運転制御とは相違する。また評価値としての距離についても、衝突を想定して前方及び後方の車両との距離を参照する点において、通常走行時の運転制御とは相違する。
【0049】
図4は、本発明の実施形態による他の車両と共有する緊急危険回避運転ルールの運転制御情報例を示す図である。
図4は車または障害物との距離が5m未満で安全に停止できない場合、車線変更を行い停止するという運転制御における運転制御情報例である。
【0050】
図4の中で下線を付して示した情報が、上記運転制御を表記するために選択した情報である。例えば同じ緊急危険回避運転ルールを備える他車両に下線を付して示した情報のみを区切り記号を付けて送信し、この情報を受信した他車両が
図4のフォーマットに当てはめて送信元の自車両の動向を把握するように構成することも可能である。更に想定される事象と、その時の動作の方針とをそれぞれコード化して、組み合わせた組合せコードを作成し、この組合せコードを送信することで他車両に自車両の状況と動作方針を伝達するようにすることも可能である。
【0051】
図5は、本発明の実施形態による自動運転車両のクラスタ群形成による走行制御方法を説明するためのフローチャートである。
図5を参照すると、段階S510にて自車両が、自車両の周辺を走行する他車両の存在を確認する。実施形態では、他車両の確認には自車両が備えるカメラやLiDAR(Light Detection and Ranging)などのセンサを利用し画像や散乱光などの情報を取得する。取得した画像や散乱光などの情報を基に自車両の制御部にて画像処理や解析を行い他車両が存在するか否かを判断する(段階S520)。他車両が存在しないと判断した場合は段階S510に戻り他車両の存在の確認を繰り返す。
【0052】
段階S520で他車両が存在すると判断した場合は、段階S530にて自車両の制御部は、確認した他車両に情報共有を要求する。情報共有の要求は自車両が備える通信手段を使用した車車間通信により他車両に情報共有を要求する信号を送信することで行う。
自車両の周辺の他車両は1台に限らない。自車両の周辺の他車両の状況は刻々と変化し、新たな他車両が周辺に入ってくることもあるが、しばらく自車両と同等の速度で自車両の周辺にとどまる他車両が存在することもある。そこで実施形態では、段階S520では新たな他車両が存在するか否かを判断し、段階S530では新たに確認した他車両に情報共有を要求する。
【0053】
次いで段階S540で、自車両の制御部は、他車両からの応答により他車両が自車両と情報共有が可能か否かを判断する。自車両と情報共有が可能であると判断すると段階S550で他車両と情報共有する。
段階S560で自車両の制御部は、情報共有した他車両に緊急危険回避運転ルールの有無及び種類を問い合わせ、他車両の緊急危険回避運転ルールが自車両の緊急危険回避運転制御に影響があるか否かを判断する。
ここでの判断は、自車両が他車両とクラスタ群10を形成することができるかどうかを判断するためのものであり、一実施形態では他車両の緊急危険回避運転ルールが自車両の緊急危険回避運転ルールと同じであれば、自車両の緊急危険回避運転制御に影響がないと判断し、自車両の緊急危険回避運転ルールと異なれば自車両の緊急危険回避運転制御に影響があると判断する。
【0054】
ここまで他車両の緊急危険回避運転ルールが自車両の緊急危険回避運転ルールと同じであればクラスタ群10を形成すると記載してきたが、他車両の緊急危険回避運転ルールが自車両の緊急危険回避運転ルールと異なっていても、両車両の位置関係や走行速度などの走行状況などによっては自車両の緊急危険回避運転制御に影響がないと判断できる場合があり、この場合にはクラスタ群10を形成することができる。そこで他の実施形態では自車両と他車両の緊急危険回避運転ルールの一致性に加え、両車両の緊急危険回避運転ルールが一致しない場合には、走行状況を加味した上で、自車両の緊急危険回避運転制御への影響の有無を判断する。
【0055】
自車両の緊急危険回避運転制御への影響があると判断した場合は、段階S570で他車両に対しクラスタ群走行を許可しない。それに伴い、他車両とはクラスタ群10を形成して走行するときよりも距離を取り、離れて走行するように制御する。
【0056】
逆に自車両の緊急危険回避運転制御への影響がないと判断した場合は他車両にクラスタ群走行を許可する(段階S580)。段階S580にてクラスタ群10形成の条件として、自車両の緊急危険回避運転制御への影響にさらに条件を付加してもよい。例えば通常走行時の運転ルールの一致性をさらに付加してもよい。
【0057】
段階S540に戻って、他車両が自車両と情報共有化が不可能な場合、自車両は当該他車両のクラスタ群走行を許可しない。それに伴い、他車両とはクラスタ群10を形成して走行するときよりも距離を取り、離れて走行するように制御する(段階S590)。
【0058】
図6は、本発明の実施形態による周辺の他車両に対するクラスタ群10形成による走行の許可または不許可の判定方法を説明するためのフローチャートである。
図6は、
図5の段階S560の判断をより詳細に記載したものである。
図6を参照すると、段階S610にて自車両は、他車両が緊急危険回避運転ルール(図中ではERRにて記載する)を備えるか否かを問い合わせ、その結果から他車両が緊急危険回避運転ルール(図中ではERRにて記載する)を備えるか否かを判断する。他車両が緊急危険回避運転ルールを備えない場合は、他車両のクラスタ群走行を不許可とする(段階S660)。
【0059】
他車両が緊急危険回避運転ルールを備える場合、段階S615にて自車両は、他車両の緊急危険回避運転ルールの種類を問い合わせ、その結果から他車両の緊急危険回避運転ルールが自車両の緊急危険回避運転ルールと同じか否かを判断する。他車両の緊急危険回避運転ルールが自車両の緊急危険回避運転ルールと同じであると判断した場合、自車両は段階S620にて他車両に対してクラスタ群走行を許可する。このとき、通常走行時の運転ルールの一致性などの条件を、クラスタ群走行を許可する条件に更に付加してもよい。
【0060】
段階S615にて他車両の緊急危険回避運転ルールが自車両の緊急危険回避運転ルールと異なると判断した場合、ルールが異なっていても緊急危険発生時に、他車両が、他車両が備える緊急危険回避運転ルールに従い走行制御すれば自車両への影響がないと判断できる場合は他車両にクラスタ群走行を許可してもよい。
【0061】
実施形態では自車両への影響をより正確に判断するため、段階S625にて評価する他車両と自車両との位置関係を判断する。他車両と自車両との位置関係の判断は例えば双方の車両のGNSS等による位置情報を情報共有の段階で交換してもよいし、自車両が備えるカメラやLiDARなどのセンサを利用してもよい。
【0062】
段階S625の判断の結果に応じ、他車両が自車両の前方にいる場合は段階S630、他車両が自車両の後方にいる場合は段階S635、他車両が自車両の右または左にいる場合は段階S640にてそれぞれ緊急危険時に自車両に影響があるか否かを判断する。このように他車両と自車両との位置関係に基づいて、それぞれ別の段階で判断するのは、他車両と自車両との位置関係によって想定される2次事故の危険度合いが異なるからである。この点については
図8を参照して後述する。
【0063】
他車両と自車両との位置関係に応じて処理を振り分け、段階S630、段階S635、段階S640のいずれかで自車両に影響がないと判断した場合は、段階S650又は段階S655で他車両に対しクラスタ群走行を許可する。このとき段階S620と同様、他の条件を、クラスタ群走行を許可する条件に更に付加してもよい。
逆に段階S630、段階S635、段階S640のいずれかで自車両に影響があると判断した場合は、段階S645にて他車両に対してクラスタ群走行を不許可とする。このときクラスタ群10で走行する場合の他車両の走行位置を変更するなどの限定をすることで自車両に影響が出なくなるかどうかの検討を加え、このような限定を加えても自車両への影響が出る場合にクラスタ群走行を不許可とするようにしてもよい。
【0064】
図7は、本発明の実施形態による周辺の他車両に対するクラスタ群10形成による走行の許可または不許可の判定方法を説明するためのフローチャートである。
図7は
図5の段階S580又は
図6の段階S650、段階S655をさらに細かく記載したものである。
【0065】
図7を参照すると、クラスタ群10形成の条件として以下の条件a~cの3つの条件が設定されている。
条件a 緊急危険回避運転ルール
条件b 通常走行環境における事故の危険性発生時の危険回避ルール、回避性能
条件c 目的地、目的所要時間、走行経路、途中での寄り道の可能性、過去の運転の嗜好など
【0066】
段階S710にて自車両と他車両とは上記の条件a~cの3つの条件を共有する。この条件の共有は
図5の段階S550の情報共有の中で行っておいてもよい。
条件の判断については条件aを最優先とし、まず条件aが他車両と自車両とで同じか否かを判断する(段階S720)。
条件aが他車両と自車両とで異なる場合、段階S730で条件b、cが他車両と自車両とで同じか否かを判断する。この結果、条件a~cのいずれも自車両と異なる場合は、自車両は、段階S740にて評価した他車両のクラスタ群走行を不可とし、当該他車両とは離れて走行する。
【0067】
一方、段階S730で条件b、cについては他車両と自車両とが同じであると判断した場合、付加的条件として走行条件A、即ち条件aが異なるため、緊急危険発生時に重大事故になる可能性があり、車間距離等を長くとるように設定するという条件の下で、自車両は他車両のクラスタ群走行を許可する(段階S750)。
【0068】
段階S720に戻って、条件aが他車両と自車両とで同じと判断した場合、自車両は更に段階S760にて条件b、cが他車両と自車両とで同じか否かを判断する。
条件aに加えて条件b、cも自車両と同じである場合、自車両は段階S770にて他車両のクラスタ群走行を許可してクラスタ群走行を実施する。
段階S760にて条件b、cが自車両と異なる場合は、付加的条件として走行条件B、即ち条件aが同じで、条件bが異なることから、緊急危険発生時に重大事故になる可能性が低く、条件bに起因する事故への回避性能を考慮した車両間隔を設定するという条件の下で、自車両は他車両のクラスタ群走行を許可する(段階S780)。
【0069】
図8は、本発明の実施形態による他車両の位置と、他車両の緊急危険回避運転ルールとに基づく危険ポテンシャルレベルの設定例を示す図である。
図6を参照して前述したように、他車両と自車両との位置関係によって想定される2次事故の危険度合いが異なるため、緊急危険発生時の自車両への影響を判断するのに、他車両の位置に応じた判断が必要となる。こうした他車両と自車両との位置関係に応じた自車両への影響をより明確に判断するために、実施形態では危険ポテンシャルレベルを設定し、これを判断基準とする。
【0070】
図8はこの危険ポテンシャルレベルの設定例を示すものである。
図8を参照すると、自車両と他車両との位置関係毎に周辺車両の緊急危険回避運転ルールに基づく運転制御情報、周辺車両の緊急危険回避運転ルールに対する自車両の運転制御、及びそれに対する危険ポテンシャルレベルを表形式で示している。
【0071】
その下には危険ポテンシャルレベルの設定条件の説明が示してあり、下記のようにレベルE1~E5の5段階に設定されている。
レベル-E1 自車両の運転制御情報の変更の必要性が無い場合
レベル-E2 急激なブレーキまたはアクセル操作が必要な場合
レベル-E3 急激なブレーキまたはアクセル操作と急なステアリング操作が必要な場合
レベル-E4 強いブレーキまたはアクセル操作と急な車線変更を伴うステアリング操作が必要な場合
レベル-E5 急激なブレーキまたはアクセル操作と急な車線変更を伴うステアリング操作が必要な場合
【0072】
1例として、他車両が自車両の前方に位置する場合、周辺車両の緊急危険回避運転ルールに基づく運転制御情報として、他車両が急激なブレーキ操作を実施すると、自車両が追突の可能性が大きいことから、自車両に影響有ることが想定される。そこで周辺車両の緊急危険回避運転ルールに対する自車両の運転制御としては急激なブレーキ操作が必要となる。この操作は危険ポテンシャルレベルの設定条件の説明からレベル-E2に相当する。
【0073】
同様に、他車両が自車両の左方に位置する場合、他車両が障害物を避けようとしてステアリング操作により、右側車線に急激に移動すると、自車両が追突の可能性が大きいことから、自車両に影響有ることが想定される。この場合、他車両は自車両の直前に入り込んでくることが有るため、急激なブレーキ操作と車線変更が必要となる。この操作はレベル-E5に相当する。
【0074】
このように本発明の実施形態では、緊急危険が発生した場合に前記自車両への影響があるか否かの判断を行う際、自車両は他車両から他車両を制御する緊急危険回避運転ルールを取得し、自車両と他車両の位置関係と、他車両が他車両の緊急危険回避運転ルールに従う場合に想定される他車両の運転制御情報による自車両の運転制御への影響度と、に基づき危険ポテンシャルレベルを求める。この結果、求めた危険ポテンシャルレベルが予め設定したレベル以下であるかどうかを判断し、予め設定したレベル以下であれば、自車両は他車両に対しクラスタ群10の形成を許可する。
【0075】
図8の例で、例えばレベル-E2以下を、クラスタ群走行を許可する判断基準と設定すると、他車両が自車両の前方又は右に位置する場合はクラスタ群走行を許可し、自車両の後方又は左に位置する場合はクラスタ群走行を不許可とするような走行制御方法となる。
【0076】
図9は、本発明の実施形態による他車両の緊急危険回避運転ルールに基づく危険ポテンシャルレベルの設定方法を説明するためのフローチャートである。
図9を参照すると、自車両は、段階S910で自車両周辺車両の緊急危険回避運転ルールを取得した後、段階S915にて周辺の他車両が緊急危険回避運転時に自車両の運転制御が必要か否かを判断し、自車両の運転制御が必要なければ危険ポテンシャルレベル-E1に設定する(段階S920)。自車両の運転制御が必要であれば順次レベル-E2からレベル-E4対応で可能か否かを判断し(段階S925、935、945)、その結果に応じて危険ポテンシャルレベルを設定する(段階S930、940、950、955)。
【0077】
危険ポテンシャルレベルの設定は上記に限らず、緊急危険が発生した場合に前記自車両への影響があるか否かの判断を行う際、自車両は他車両から他車両を制御する緊急危険回避運転ルールを取得し、自車両と他車両のそれぞれの速度、加速度、位置関係を含む走行状態データから危険ポテンシャルを算出して、危険ポテンシャルレベルを求め、予め設定した危険ポテンシャルレベル以下であるか否かを判断するようにしてもよい。
【0078】
危険ポテンシャルは、例えばx軸方向に延在する1車線道路にて、自車両が位置x1において、速度v1、加速度α1で走行し自車両の前方の位置x2において、他車両が速度v2、加速度α2で走行する場合を例にとると、以下のようにして求めることができる。
【0079】
自車両と他車両との車間距離をd、相対速度をvr、相対加速度をαrとすると、
d=x2-x1
vr=v2-v1
αr=α2-α1
【0080】
先行する他車両までの余裕時間、即ち現在の走行状況が継続し、v1、v2及びvrが一定の場合に何秒後に車間距離がゼロになり自車両と他車両が接触するかを示す値をTCとすると
TC=-d/vr (1)
となる。
また車間時間、即ち自車両が他車両に追従走行している場合に、想定される将来の他車両の車速変化による余裕時間TCへの影響度合いを示す値をTWとすると、
TW-d/v1 (2)
と表すことができる。
【0081】
余裕時間TC、及び車間時間TWを用いて定常項危険ポテンシャルRPs及び過渡項危険ポテンシャルRPtをそれぞれ
RPs=1/TW
RPt=1/TC
とすると、危険ポテンシャルRPは次のように表すことができる
RP=(a/k)RPs+(1-(a/k))RPt (3)
ここに、kはRPsとRPtの絶対的な重み付けを決定する定数であり、実験等の結果から予め適切に設定しておくことが可能な数であり、
aは自車両と他車両との走行状態により動的に定常状態と過渡状態の走行シーンを決定する変数である。
【0082】
車線が複数ある場合の危険ポテンシャルは、このような計算を2次元に拡張することで算出することができる。
こうして求めた危険ポテンシャルの値を段階的に区分して危険ポテンシャルレベルを求め、これを予め設定した危険ポテンシャルレベルと比較することで、緊急危険が発生した場合に前記自車両への影響があるか否かの判断を行うことが可能となる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 自動運転車両
2 道路
3 車線
10、11、12、13 クラスタ群