(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】カプセル混和材
(51)【国際特許分類】
C04B 24/00 20060101AFI20241021BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20241021BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
C04B24/00
C04B22/10
C04B28/02
(21)【出願番号】P 2020132151
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 亮一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】林 俊斉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 好幸
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0252934(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108609880(CN,A)
【文献】特開2010-150061(JP,A)
【文献】特開2006-321685(JP,A)
【文献】特開2006-263681(JP,A)
【文献】特開2018-172234(JP,A)
【文献】特開2015-214430(JP,A)
【文献】特開平03-215334(JP,A)
【文献】特表2002-521398(JP,A)
【文献】国際公開第2019/155334(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103601415(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
B01J 13/00-13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント組成物への添加用のカプセル混和材において、
内部に再アルカリ化溶液を保持し、所定値以上のアルカリ性のpHでは前記再アルカリ化溶液を保持し、他のpH領域では崩壊して前記再アルカリ化溶液を漏出させる殻部を有
し、
前記所定値がpH8~pH10の範囲で複数設定されていることを特徴とするカプセル混和材。
【請求項2】
前記殻部の粒径が、0.05mm~0.2mmであることを特徴とする請求項
1に記載のカプセル混和材。
【請求項3】
前記殻部の膜厚が、0.01mm~0.05mmであることを特徴とする請求項1
又は2に記載のカプセル混和材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプセル混和材、特に、セメント組成物に添加されるカプセル混和材に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の二酸化炭素がコンクリート(セメント硬化体)内に侵入し、炭酸化反応を起こすことで細孔溶液のpHが低下する現象を中性化と呼ぶ。この中性化により、コンクリート内部の鉄筋の腐食が進行し、ひび割れが発生してコンクリートの剥落や断面欠損が生じ、これにより耐久性が損なわれる。
【0003】
こうした中性化の代表的な対応策として、劣化因子を遮断させる(コンクリート中への二酸化炭素、水、酸素の侵入を低減する)表面含浸工法や中性化領域を回復させる(既に中性化したコンクリートのアルカリ性を回復する)再アルカリ化工法が挙げられる。表面含浸工法は、例えば下記非特許文献1に記載されるように、ケイ酸塩系などに代表される含浸材をコンクリート表面にはけやローラーにて塗布、含浸させることにより、外部からの劣化因子の侵入を遮断する工法である。また、再アルカリ化工法は、例えば下記特許文献1に記載されるように、コンクリート表面の陽極から内部鉄筋(陰極)に直流電流を通電し、この電流によって表面の再アルカリ化溶液をコンクリート内部に浸透させる工法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「コンクリートのひび割れ調査、補修・補強指針-2009-」、p140(公益社団法人 日本コンクリート工学会)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記再アルカリ化工法は、実施規模が大きく、通電による再アルカリ化に2~4週間の長い期間を必要とする。また、これら代表的な中性化対応策は、何れも、コンクリートの劣化が進行した後に実施され、コンクリートが外気と触れている大断面を補修しなければならない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、事後的な施工を必要としない、中性化抑制対策として有用なセメント組成物に添加されるカプセル混和材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るカプセル混和材は、セメント組成物への添加用のカプセル混和材において、内部に再アルカリ化溶液を保持し、所定値以上のアルカリ性のpHでは前記再アルカリ化溶液を保持し、他のpH領域では崩壊して前記再アルカリ化溶液を漏出させる殻部を有することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、本来、アルカリ性を示すセメント組成物が、硬化後、炭酸化反応によって中性化し、pHが上記所定値未満になるとセメント硬化物中に添加された混和材の殻部が崩壊して再アルカリ化溶液が漏出する。これにより、セメント硬化物が内部で再アルカリ化されてセメント硬化物の剥落や断面欠損が防止され、耐久性が向上される。このセメント硬化物の再アルカリ化は、セメント硬化物の中性化に伴ってセメント硬化物の表面部から徐々になされるので、中性化が鉄筋に及ぶまでの期間を長期化することが可能となり、事後的な施工を行うことなくセメント硬化物の耐久性を効果的に向上することが可能となる。
【0010】
また、本発明の他の構成は、前記所定値がpH8~pH10であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、本来、pH10超のアルカリ性を示すセメント組成物が、硬化後、炭酸化反応によって中性化し、pH8~pH10未満になるとセメント硬化物中に添加された混和材の殻部が崩壊して再アルカリ化溶液が漏出し、上記コンクリート硬化物の再アルカリ化がなされる。このpH値は、例えば、pH10一定としてもよいし、pH8~pH10の間に複数設定してもよい。特に、殻部崩壊のpH値を複数設定しておくと、セメント硬化物の或る(特定の)領域に添加された複数の混和物のうち、例えば、pH10で崩壊する殻部が先に崩壊して上記再アルカリ化溶液が漏出し、その後に、その領域がpH8になると、残存している混和物の殻部が崩壊して上記再アルカリ化溶液が漏出する。すなわち、殻部崩壊のpH値を複数設定しておくと、セメント硬化物の中性化が進むにつれて、セメント硬化物のpH値が設定されたpH値を下回るたびに再アルカリ化が複数回なされ、セメント硬化物の耐久性を効果的に向上することが可能となる。
【0012】
本発明の更なる構成は、前記殻部の粒径が、0.05mm~0.2mmであることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、混和物の殻部の粒径を0.05mm~0.2mmとすることで、セメント組成物中に混和物を練混ぜしやすい。また、モルタルなどの仕上げ材に添加した場合、殻部が略球状であることから、砂だけの場合に比べてセメント組成物の粘性が向上して付着性が向上し、コテ仕上げなどの作業性が良好となる。
【0014】
本発明の更なる構成は、前記殻部の膜厚が、0.01mm~0.05mmであることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、混和物の殻部の膜厚を0.01mm~0.05mmに設定することで、所定のpH値で確実に崩壊させることができる。また、膜厚を薄く設定することで、崩壊後にはセメント硬化物の異物となる殻部崩壊物の量を低減することができるので、殻部崩壊後のセメント硬化物の強度を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、セメント硬化物の中性化が進むとセメント硬化物の内部で再アルカリ化がなされ、その再アルカリ化はセメント硬化物の表面部から次第に深層部にかけてなされるので、事後的な施工を必要とせず、長期間にわたる中性化抑制対策を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のカプセル混和材の一実施の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明のカプセル混和材の一実施の形態について図面などを参照して詳細に説明する。
図1は、この実施の形態のカプセル混和材1の断面図である。このカプセル混和材1は、セメント組成物、いわゆる生コンクリートに添加されて練混ぜられるものであり、練混ぜられたセメント組成物は、セメントペースト、モルタル、コンクリートとして用いられる。このカプセル混和材1は、内部が空洞な略球形の殻部2を有する。この殻部2は、例えば、合成樹脂や天然高分子で構成され、外径(粒径)は0.05mm~0.2mm、殻部2の膜厚は0.01mm~0.05mmである。
【0019】
上記殻部2の内部には、セメント硬化物の再アルカリ化を可能とする再アルカリ化溶液3が封入されている。この再アルカリ化溶液3の溶質には、pH10以上の塩基(水に溶けたときに水酸化物イオンを出す物質)が使用可能であり、その中でも、強アルカリ性を示す、炭酸カリウムや炭酸ナトリウムの水溶液が望ましい。セメント硬化物中で上記殻部2が崩壊すると、これら再アルカリ化溶液3がセメント硬化物中に漏出し、その近傍のセメント硬化物が再アルカリ化される。
【0020】
この実施の形態のカプセル混和材1の最も特徴的な構成は、上記殻部2が所定のpH値で崩壊することである。この殻部2が崩壊するpH値は、例えば、pH8~pH10が適切と考えられる。殻部2の内部には、再アルカリ化溶液3が封入されているので、殻部2が所定のpH値で崩壊すれば、前述のように、セメント硬化物の再アルカリ化がなされる。セメント硬化物の中性化は、一般的にフェノールフタレイン1%エタノール溶液をセメント硬化物に噴霧し、赤紫色を呈する部分(pH10程度以上のアルカリ性)を未中性化部、着色しない部分を中性化部と判断する。このセメント硬化物中性化判定に適合するように、中性化した(と判定された)セメント硬化物を再アルカリ化するために、殻部2の崩壊pH値をpH8~pH10とした。
【0021】
この殻部2が崩壊するpH値は、前述のように、特定のpH値一つのみとすることもできるし、複数のpH値を設定することもできる。例えば、殻部2が崩壊するpH値を一つのみとすれば、セメント硬化物のpH値がその崩壊pH値未満となったときにのみ殻部2を確実に崩壊させてセメント硬化物を再アルカリ化することができると共に、殻部2の開発・製造コストを低廉化することも可能となり得る。一方、殻部2が崩壊するpH値を複数設定しておくと、セメント硬化物のpH値が複数の崩壊pH値を下回るたびに異なる殻部2が崩壊してセメント硬化物を再アルカリ化することができる。すなわち、一例として、或る領域のセメント硬化物のpH値がpH10未満になったときに最初の再アルカリ化がなされ、次いで、その領域のセメント硬化物のpH値がpH9未満になったときに2回目の再アルカリ化がなされ、最後に、その領域のセメント硬化物のpH値がpH8未満になったときに3回目の再アルカリ化がなされるといったように、長期間にわたり、セメント硬化物の中性化を抑制することができることから、セメント硬化物の耐久性を長く維持することができる。
【0022】
上記カプセル混和材1が添加されるセメント組成物は、セメント、水、混和剤と、各種の骨材を練混ぜしたものである。このセメント組成物に用いるセメントは、水で練ったときに硬化性を示す無機質接合材であり、この実施の形態においては、水硬性セメントを用いる。水硬性セメントとしては、普通ポルトランドセメントを始め、水硬性石灰、ローマンセメント、天然セメントなどの単味セメントを用いてもよく、石灰混合セメント、混合ポルトランドセメントなどの混合セメントを用いてもよい。
【0023】
なお、例えば、細骨材に砂を用いるモルタルなどの仕上げ用セメント組成物に、外径が略球状のカプセル混和材1を添加することにより、カプセル混和材1を添加しないものに比べてセメント組成物の粘性が向上し、これによりコテ仕上げなどで付着性が向上して作業性が良好になる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0025】
[設計例]
セメント組成物は、下記表1に記載の材料を用いることができる。セメントには、普通ポルトランドセメントを用い、水と細骨材及び粗骨材を練混ぜて生コンクリート(セメント組成物)を作成する。混和剤には、セメント分散作用と空気連行作用を有するAE減水剤(AD)と、その空気連行量を調整する空気量調整剤(AE)を用いる。カプセル混和材には、粒径が0.05mm、膜厚が0.01mmのカプセル混和材B1と、粒径が0.2mm、膜厚が0.05mmのカプセル混和材B2の2種類を設定した。カプセル混和材は、共に内部に炭酸カリウム水溶液を封入しているものとした。
【0026】
【0027】
上記カプセル混和材の添加量は、下記表2に従って設定する。ここでは、カプセル混和材を使用しないものを比較例とし、セメントペースト量(=セメント+水)に対し、カプセル混和材B1を0.5Vol%、1.0Vol%、2.0Vol%で添加したものをそれぞれ実施例1~3とし、カプセル混和材B2を0.5Vol%、1.0Vol%、2.0Vol%で添加したものをそれぞれ実施例4~6とした。
【0028】
【0029】
セメント組成物の物性条件は、下記表3とした。表には、設計基準強度、変動係数、目標強度、目標スランプ、目標空気量を示す。
【0030】
【0031】
カプセル混和材を除く材料の配合量及び配合比を下記表4に示す。表4の各記号は、表1に従う。また、表中のs/aは、細骨材比(=細骨材量/全骨材料×100)である。また、表4中、混和剤の配合量は、セメントの配合量に対する質量%で示す。
【0032】
【0033】
セメント組成物の練混ぜ条件は、以下の通りである。すなわち、公称容量50L強制二軸型ミキサーを用い、練り量30Lで練混ぜ、セメント組成物を調整した。練混ぜ手順としては、まず、セメント(C)、カプセル混和材(B1、B2)、細骨材(S)及び粗骨材(G)を上記公称容量50L強制二軸型ミキサーに投入して15秒間練混ぜ、水(W)を投入してさらに30秒間練混ぜた。この混錬物を一旦掻落してから混和剤(AD、AE)を添加して更に90秒間練混ぜて排出し、セメント組成物とする。
【0034】
このようにして得られたセメント組成物及びその硬化物の性状は、下記表5に従って試験することができる。セメント組成物のフレッシュ性状として、スランプ量についてはJIS A 1101に準拠した方法で測定されるものとし、空気量についてはJIS A 1128に準拠した方法で測定されるものとした。また、コンクリート硬化物の硬化性状として、圧縮強度についてはJIS A 1108に準拠した方法で測定されるものとし、中性化の促進状態についてはJIS A 1152、JIS A 1153に準拠した方法で測定されるものとした。圧縮強度の供試体は、JIS A 1132に基づき、直径10cm×高さ20cmの円柱体を標準水中養生し、その材齢を28日とした。また、中性化促進状態の試験には、前述のフェノールフタレインエタノール溶液を用い、促進期間を91日とした。
【0035】
【0036】
結果は、具体的数値は示さないが、比較例を含めて、何れの実施例も、スランプ、空気量、圧縮強度共に目標値を達成できることが確認できた。一方、中性化深さについて、カプセル混和材を使用しない比較例よりも本発明のカプセル混和材を添加した実施例は、何れも中性化深さが比較例よりも小さかった。また、実施例同士の比較から、カプセル混和材の添加量が多いほど、中性化深さが小さい、すなわち中性化抑制効果の大きいことが分かった。また、カプセル混和材B1とカプセル混和材B2を比較すると、同じ添加量であっても、カプセル混和材B2の方が中性化抑制効果が大きいことが分かった。これは、殻部の粒径(直径)及び膜厚の違いにより、カプセル混和材B2の方がカプセル混和材B1よりも内包物、すなわち上記炭酸カリウム水溶液の容量が多いことによると考えられる。
【0037】
このように、本発明のカプセル混和材を含むセメント組成物においては、本来、アルカリ性を示すセメント組成物が、硬化後、炭酸化反応によって中性化し、pHが上記所定値未満になるとセメント硬化物中に添加されたカプセル混和材1の殻部2が崩壊して再アルカリ化溶液3が漏出する。これにより、セメント硬化物が内部で再アルカリ化されてセメント硬化物の剥落や断面欠損が防止され、耐久性が向上されるものと考えられる。このセメント硬化物の再アルカリ化は、セメント硬化物の中性化に伴ってセメント硬化物の表面部から徐々になされるので、中性化が鉄筋に及ぶまでの期間を長期化することが可能となり、セメント硬化物の耐久性を効果的に向上することが可能となる。
【0038】
また、本来、pH10超のアルカリ性を示すセメント組成物が、硬化後、炭酸化反応によって中性化し、pH8~pH10未満になるとセメント硬化物中に添加されたカプセル混和材1の殻部2が崩壊して再アルカリ化溶液3が漏出し、上記コンクリート硬化物の再アルカリ化がなされる。特に、殻部崩壊のpH値を複数設定しておくと、セメント硬化物の中性化が進むにつれて、セメント硬化物のpH値が設定されたpH値を下回るたびに再アルカリ化が複数回なされ、セメント硬化物の耐久性を効果的に向上することが可能となる。
【0039】
また、混和物の殻部2の粒径を0.05mm~0.2mmとすることで、セメント組成物中に混和物を練混ぜしやすい。また、モルタルなどの仕上げ材に添加した場合、殻部2が略球状であることから、砂だけの場合に比べてセメント組成物の粘性が向上して付着性が向上し、コテ仕上げなどの作業性が良好となる。
【0040】
また、混和物の殻部2の膜厚を0.01mm~0.05mmに設定することで、所定のpH値で確実に崩壊させることができる。また、膜厚を薄く設定することで、崩壊後にはセメント硬化物の異物となる殻部崩壊物の量を低減することができるので、殻部崩壊後のセメント硬化物の強度を確保することが可能となる。
【0041】
以上、実施の形態に係るカプセル混和材1について説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施例では、カプセル混和材1の添加量をセメントペースト量に対して0.5Vol%~2.0Vol%としたが、本発明のカプセル混和材の添加量は、この範囲に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0042】
1 カプセル混和材
2 殻部
3 再アルカリ化溶液