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特許7574016多孔性板状MFI型ゼオライトおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】多孔性板状MFI型ゼオライトおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/40 20060101AFI20241021BHJP
   B01J 29/70 20060101ALI20241021BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
C01B39/40 ZAB
B01J29/70 A
B01D53/94 222
B01D53/94 241
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020143441
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038785
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 由紀夫
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-502017(JP,A)
【文献】特表2017-525653(JP,A)
【文献】特表2019-530634(JP,A)
【文献】特表2001-518437(JP,A)
【文献】特開2018-202399(JP,A)
【文献】Catalysis Science & Technology,2019年,Vol.9,pp.3259-3269
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/40
B01J 29/70
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiとAlを含有し、
SARが200以上で有り、
結晶の形状が板状結晶の一次粒子であり、
外表面積が1~10m /gであり、
前記板状結晶の一次粒子の平面上にはマクロ孔以上の大きさの凹孔および/または貫通孔が形成されている、
ことを特徴とするMFI型ゼオライト。
【請求項2】
更に、一次粒子の平面上に凸部を有する請求項1記載のMFI型ゼオライト。
【請求項3】
一次粒子の平均粒子径が3μm以上である請求項1または2記載のMFI型ゼオライト。
【請求項4】
マクロ孔の直径あるいは長径の大きさが100nm以上である請求項1~3の何れか1に記載のMFI型ゼオライト。
【請求項5】
ハニカム構造体に請求項1~の何れか1に記載のMFI型ゼオライトを含む触媒組成物を被覆したハニカム触媒。
【請求項6】
シリカ-アルミナ源としての種晶、鉱化剤、SDAおよび水を含有する混合組成物を、加熱加圧してゼオライトを合成する方法であって、
混合組成物中におけるシリカ換算のケイ素量に対する水のモル比が0.5~5であり、
加熱加圧する際に混合組成物を攪拌しない、
前記種晶のSARが、得ようとするMFI型ゼオライトのSARに対して10%前後の範囲の値である、
ことを特徴とするMFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項7】
シリカアルミナ源が、フレームワークデンシティが18.4(T原子数/nm)以下であり、コンポジットビルディングユニットにmorを有する構造のゼオライトである請求項記載のMFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項8】
シリカ-アルミナ源が、ゼオライトベータである請求項または記載のMFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項9】
鉱化剤が、フッ素化合物であることを特徴とする請求項のいずれか1に記載のMFI型ゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な粒子形状を有するMFI型ゼオライトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは原油のクラッキング触媒、吸着剤、脱水剤、イオン交換剤、気体浄化剤、分離膜等の用途に広く使用されている。ゼオライトはその骨格構造の特徴に応じて国際ゼオライト学会(IZA:International Zeolite Association)によりアルファベット3文字のコードが付与されている。
【0003】
このようなゼオライトのうち、MFI型として登録されているゼオライトは古くから知られているアルミノシリケートゼオライトの一つで、産業用途に広く使用されているゼオライトの一つである。
【0004】
MFI型ゼオライトは直線状の10員環細孔と直交するジグザクな10員環細孔を持つものである。MFI型ゼオライトを触媒として使用した場合、これらの細孔が交差する場所が主な反応場になるとされている(非特許文献1)。
【0005】
アルミノシリケートであるゼオライトは(SiIV)と(AlIII)を基本的な構成単位とするが、ゼオライト中のケイ素とアルミニウムの元素比の事を酸化物換算の組成比SiO/Alとして表されることがあり、このような酸化物換算の組成比はSAR(Silica Alumina Ratio)と言われ当業者に周知されている。
【0006】
ゼオライトの性質はこのSARの大きさにより大きく影響を受ける。ゼオライト骨格構造中には(AlIII)に由来したカチオンサイトが存在するが、SARが小さいゼオライトすなわちアルミニウム元素が多いゼオライトではこのカチオンサイトが多く存在する事になる。カチオンサイトは様々なカチオンの吸着場、反応場となる。よってSARが小さなゼオライトは高吸着性、高活性なゼオライトであるといえる。また、このようなカチオンサイトの性質を利用して銅や鉄のような遷移金属イオンをゼオライト骨格構造中に導入(イオン交換)し、触媒であればその活性の向上を図る事もある。
【0007】
一方で、SARが大きなゼオライト、すなわち骨格構造中のアルミニウム元素が少ないゼオライトではカチオンサイトは少ないが、骨格構造が安定であり、耐酸性、耐水熱性、固体酸強度は大きなものになるとされている(非特許文献2)。MFI型ゼオライトでは様々なSARを取り得る事が知られており、特にSARが大きく概ね1000以上のMFI型ゼオライトはシリカライト-1としても知られている。また、SARが大きくなるとゼオライトは疎水性を増す事が知られておりMFI型ゼオライトでも同様である(非特許文献1)。
【0008】
産業用に使用されるMFI型ゼオライトではSARのような成分組成による特定の他にも使用目的に応じた多様な仕様が提案されている。その様な仕様の一つとしてはゼオライトの粒子の幾何学的な形状に関するものがある(特許文献1,特許文献2,特許文献3)。
【0009】
特許文献1では、アスペクト比が2.50~4.00の範囲にある一次粒子が二次粒子の長径方向に配向して凝集した特異な形状のMFI型ゼオライトが提案されている。このような形状の粒子は、MFI型ゼオライトの結晶構造に由来するメソ孔の他に、二次粒子の構造に由来するマクロ孔を多数形成されることで外表面積や細孔容積が大きいという特徴を有し、前記のようなゼオライトの産業用途における高い有用性が期待できるとされている。
【0010】
特許文献2では、ゼオライトを触媒や吸着剤として使用するにあたり、その機能性の向上を図るものとして、整った形状の一次粒子を凝集させることで二次粒子中に多くのマクロ孔を存在させたMFI型ゼオライトが提案されている。
【0011】
特許文献3では、特許文献1特許文献2とは異なりMFI型ゼオライトによるゼオライト膜の合成に関するものであるが、ゼオライトの合成にあたって結晶成長時の配向性を制御してゼオライトの骨格構造に由来する細孔(チャネル)の方向性を整えるもので、いわば凸凹の無い平滑な表面を有するMFI型ゼオライトについて提案されている。
【0012】
ゼオライトの具体的な用途としては、内燃機関の燃焼で生じる排ガス中の有害成分を浄化するために使用される排ガス浄化触媒も知られている。このような排ガス浄化触媒では、通気可能なハニカム構造体にゼオライトを含む触媒組成物を被覆することでハニカム触媒とし、これに排ガスを通過させることで排ガス中の様々な有害成分を浄化するものである。このようなハニカム構造体には大きく分けてフロースルー型ハニカム構造体とウォールフロー型ハニカム構造体がある。
【0013】
フロースルー型ハニカム構造体を使用したハニカム触媒は、ハニカムのセル表面に被覆された触媒と流通する排ガスを接触させることで有害成分を浄化するものであり、ウォールフロー型ハニカム構造体はハニカム構造体を構成するセルの一方の端面が目封じ(plug)され、この目封じ部分がハニカム構造体の両端面において交互に配置され、更にセルを構成する壁は排ガスが通気可能な多孔質で形成されることで排ガス中の煤等の微粒子成分をウォールフロー型ハニカム触媒のフィルター機能で捕捉している。ウォールフロー型のハニカム触媒で捕捉された煤成分は、他の有害成分、環境負荷成分と共に触媒により浄化される。MFI型ゼオライトはこのようなハニカム触媒における成分の一つとして検討される。
【0014】
フロースルー型ハニカム構造体を使用したハニカム触媒、ウォールフロー型ハニカム構造体を使用したハニカム触媒、いずれの場合も排ガスの浄化は気体と触媒の反応であることから、触媒性能にはガスの拡散性も重要な要素になる。ハニカム触媒ではセル壁の表面、あるいはセル壁の中に触媒組成物を層状に被覆あるいは含侵させたものであるが、いずれの場合にもハニカム触媒の触媒層が高いガス拡散性を有することで優れた触媒活性が期待できる。
【0015】
市場に存在するハニカム構造体そのものはコージェライト等の無機酸化物成形体を焼成したものであり、ハニカム構造体そのものが触媒活性を有するもので無く、触媒化することでハニカム触媒として排ガス浄化等の用途に使用される。
【0016】
ハニカム構造体を触媒化する主な手法としてウオッシュコート法とパウダーコート法が知られている。ウオッシュコート法の概要はスラリー化した触媒組成物をハニカム構造体のセルの開口端面から供給し、供給した触媒組成物スラリーをセル壁に塗り伸ばし、余剰な触媒組成物スラリーをエアブロー等で除去し、乾燥焼成を経てハニカム触媒を得るものである。
【0017】
パウダーコート法は主にウォールフロー型ハニカム構造体の触媒化で使用される手法である。パウダーコート法の触媒化にあたり使用される触媒組成物はスラリー状では無く、粉状の触媒組成物を気流と共にハニカム構造体の開口端面から供給し、ウォールフロー型ハニカム構造体のフィルター作用を利用して粉状の触媒組成物をセル壁に被覆し、焼成を経て成分を定着させてハニカム触媒を得るものである。このようなパウダーコート法に使用される粉状の触媒組成物は気流によって運ばれ易く、また気流中での分散性に優れる粒子であることが望ましい。なお、パウダーコートに使用される粉状の触媒成分は必ずしも組成物である必要は無く、単一の粒子がそのまま使用される事もある。パウダーコート法で製造したハニカム触媒では触媒層は嵩高く空隙も多く形成され、後述する圧力損失の点でも有利な製法であるといえる。
【0018】
ウォールフロー型ハニカム構造体を使用したハニカム触媒ではセル壁における排ガスの透過性も重要な要素となる。排ガスの透過性が劣るウォールフロー型ハニカム構造体を使用したハニカム触媒では排ガスの排出圧力に損失が生じる。これは圧力損失とも言われ、圧力損失の高いハニカム触媒を使用した内燃機では排気効率が低下し、内燃機関の出力低下の原因にもなる。
【0019】
排ガス浄化用のハニカム触媒の触媒層はガス拡散性、ガスの透過性に優れている必要がある事は前述のとおりである。一般的な触媒組成物は反応条件下において高い耐久性を有する無機酸化物粒子と貴金属等の活性種、また必要に応じて助触媒成分からなるものである。このうち、無機酸化物粒子はその形状によってハニカム触媒におけるガス拡散性、ガス透過性に大きく影響する。そのため、無機酸化物粒子の形状は触媒層を形成した時に空隙を形成し易い形状であることが望まれる。このような空隙を形成し易い粒子しては、粒子表面に幾何学的な凹凸を有する形状であることが挙げられる。
【0020】
産業用の触媒が使用される環境には高温で触媒の劣化を早める成分を含む場合が少なくない。自動車等の化石燃料を燃焼した排ガスでは高温である事に加え、炭化水素、硫黄成分、リン成分等が含まれ、これらは触媒に対する被毒物質になる場合がある。また、ゼオライトを触媒成分として使用する場合、ゼオライトは水熱条件下で脱アルミにより劣化し易い事が知られており、炭化水素を燃焼して駆動される排ガス中には高温環境下で多量の水分が含まれることから、ゼオライトにとっては過酷な使用環境であるといえる。
【0021】
ゼオライトを排ガス浄化用途に使用する場合、水熱環境下で高い耐久性を持つものを使用することが望ましいが、このような高い水熱耐久性を有するゼオライトとしては前述のとおり、脱アルミによるゼオライト骨格構造への影響が少ないSARの大きなものが望ましいことは前述のとおりである。しかし、SARが著しく大きなゼオライトであると触媒としての活性に劣る事があるのも前述のとおりである。
【0022】
そのため、自動車排ガスの浄化触媒用途にゼオライトを使用する場合、SARが大きすぎず、耐久性にも優れているものが望ましい。一般的に原子や分子は結晶化することで機械的にも化学的にも安定性が高まる傾向があるがゼオライトにおいても同様である。ゼオライトに限らず、結晶化した粒子は原子や分子が規則正しく配列していることから粒子表面は平滑な状態であることが一般的である。このような粒子表面の平滑さの指標としては外表面積が小さいこと挙げられる。ゼオライトでも結晶化が促進することでその粒子表面は平滑になり外表面積は小さなものとなる。
【0023】
一方で、平滑な粒子表面は反応吸着作用にとっては不利な条件でもある。ゼオライトには吸着材や触媒としての産業用途があるのは前述のとおりであるが、このように結晶化の程度が高く粒子表面が平滑で外表面積の小さなゼオライトでは、反応物や吸着物が粒子内部の機能性を持つ細孔にアクセスし難くなる。そのため、ゼオライトにおける耐久性と機能性はトレードオフの関係になることがあり、その両立は産業用の材料としての課題になることもある。
【0024】
この様に、ゼオライトでは、幾何学的な形状の特徴を持つ粒子には様々な有用性が期待されており、前記のとおり現在でも多様な形状について活発に提案されている。そして、各種ゼオライトの中でもMFI型ゼオライトは様々な分野に使用されるもので、その粒子形状の多様性はハニカム触媒等の産業用触媒の材料として高い価値を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【文献】特許第6727884号公報
【文献】特開2019-034879号公報
【文献】特表2015-526366号公報
【非特許文献】
【0026】
【文献】「ゼオライトの科学と工学」 第7頁 第210頁、小野嘉夫 八嶋建明 編、講談社、2000年7月10日発行
【文献】「ゼオライトの科学と応用」第7刷 第100頁、富永博夫編、講談社、1998年6月20日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
従って、本発明の課題は、幾何学的に新規な形状を有し、高い水熱耐久性を有する高SARなMFI型ゼオライトを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特殊な製造方法により、幾何学的に新規な形状を有し、高い水熱耐久性を有する高SARなMFI型ゼオライトが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0029】
すなわち、本発明は、
SiとAlを含有し、
SARが200以上で有り、
結晶の形状が板状結晶の一次粒子であり、
前記板状結晶の一次粒子の平面上にはマクロ孔以上の大きさの凹孔および/または貫通孔が形成されている、
ことを特徴とするMFI型ゼオライトである。
【0030】
また、本発明は前記のような特徴的な形状を有するMFI型ゼオライトを含む触媒組成物をハニカム構造体に被覆したハニカム触媒である。
【0031】
更に、本発明は、シリカ-アルミナ源としての種晶、鉱化剤、SDAおよび水を含有する混合組成物を、加熱加圧してゼオライトを合成する方法であって、
混合組成物中におけるシリカ換算のケイ素量に対する水のモル比が0.5~5であり、
加熱加圧する際に混合組成物を攪拌しない、
ことを特徴とするMFI型ゼオライトの製造方法である。
【発明の効果】
【0032】
本発明のMFI型ゼオライトは、200以上の高SARを有することから高い水熱耐久性が期待できるもので、その幾何学的な特徴から優れたガス拡散性も期待できる。
【0033】
そのため、本発明のMFI型ゼオライトは、膜状(層状)に堆積させて気体を透過させて使用するような場合でもガス透過性に優れ、加えて一次粒子表面に形成されたマクロ孔により、ゼオライトの粒子内部の骨格構造中の反応場、吸着場を有効に利用することが可能であり、優れたガス拡散性も期待できることからフロースルー型ハニカム構造体、ウォールフロー型ハニカム構造体を問わず、またウオッシュコート法パウダーコート法を問わず、触媒組成物としてハニカム構造体に被覆した場合に高活性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明のMFI型ゼオライト粒子の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)画像である。
図2図1中の破線で囲まれた箇所の拡大画像である。
図3】粉末X線回折(XRD:X‐Ray Diffraction)により得られた本発明のMFI型ゼオライトの回析パターンである。
図4】本発明の実施例で使用した種晶のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明のMFI型ゼオライトは、
SiとAlを含有し、
SARが200以上で有り、
結晶の形状が板状結晶の一次粒子であり、
前記板状結晶の一次粒子の平面上にはマクロ孔以上の大きさの凹孔および/または貫通孔が形成されているものである。なお、MFI型ゼオライトかどうかは、例えば、国際ゼオライト学会 (IZA:International Zeolite Association)によって公開されているX線回折パターンとの整合をみることにより確認することができる。
【0036】
[マクロ孔、結晶形状、高度な結晶化、SARについて]
本発明のMFI型ゼオライトのマクロ孔は一次粒子である板状結晶表面の平面上に形成されている。ここで平面とは平滑な面のことをいう。MFI型ゼオライトが平面を持ち高度に結晶化した一次粒子であることで触媒用途等の産業用途において高い安定性が期待できる。このような高い安定性は本発明のMFI型ゼオライトのSARが200以上であることで、ゼオライトの劣化原因の一つである脱アルミニウムの影響も僅かなものとなる。なお、ゼオライト中のケイ素とアルミニウムの元素比の事を酸化物換算の組成比SiO/Alとして表されることがあり、このような酸化物換算の組成比をSAR(Silica Alumina Ratio)という。本発明において、SARは上記の通り200以上であるが、好ましくは200~1000である。
【0037】
[マクロ孔]
ゼオライトにおけるマクロ孔の存在は、二次粒子における一次粒子同士の隙間としては報告がある。しかし、このような二次粒子中のマクロ孔では結晶粒子である一次粒子の内部のゼオライトの骨格構造からなる細孔への反応物や吸着物のアクセスそのものに影響するものではなく、ゼオライト結晶中の機能性の細孔を充分に利用できるものでは無かった。これに対して本発明のMFI型ゼオライトは結晶である一次粒子の表面に存在するマクロ孔によって、一次粒子内部の機能性細孔への反応物や吸着物の効率的なアクセスが期待でき、ゼオライトの骨格構造からなる機能性細孔を有効に利用することが可能になる。なお、このマクロ孔はSEMによる電子顕微鏡観察の他、デジタルマイクロスコープのような光学顕微鏡でも確認することができる。
【0038】
本発明におけるマクロ孔はIUPAC(国際純正・応用化学連合: International Union of Pure and Applied Chemistry)によりそのサイズが規定されているもので、50nm以上の細孔がマクロ孔とされている。このようなマクロ孔の存在は、単に結晶粒子の幾何学的な表面積を増大させるだけでなく、マクロ孔の存在で反応物や吸着物がマクロ孔で滞留させることが可能で触媒反応、吸着作用において有利に働くことが期待できる。
【0039】
反応物や吸着物の滞留作用は、前述のような二次粒子における一次粒子の間隙で形成されるマクロ孔でも期待されるものであるが、このような二次粒子であることで形成されるマクロ孔では、高温環境下で使用されたような場合には一次粒子同士の燒結により塞がれてしまい易く、水熱環境下で使用されたような場合には脱アルミニウムによる一次粒子の崩壊で埋まってしまう事がある。これに対して本発明のMFI型ゼオライトのマクロ孔は一次粒子に形成されているため一次粒子同士の燒結によっても塞がれ難く、高SARであることと相まって脱アルミニウムによる構造崩壊懸念が少なく、マクロ孔が埋まるような事もおこり難い。
【0040】
本発明のMFI型ゼオライトにおけるマクロ孔以上の大きさとは、上記の通り50nm以上であれば特に限定されないが、100nm以上である事が好ましく、200nm以上であることがより好ましく、300nm以上であることが最も好ましい。マクロ孔の大きさの上限は特に限定されるものでは無いが、大き過ぎると粒子の機械的強度が低下する恐れがあり、本発明のMFI型ゼオライトの用途、例えば触媒組成物として他の成分と混合攪拌するような時に粒子が破壊されてしまう事が有る。このような事情を踏まえると、マクロ孔の大きさは800nm以下である事が好ましく、600nm以下であることがより好ましい。マクロ孔の大きさが直径で表される時は凹孔や貫通孔の形状が略円形の場合であり、マクロ孔の大きさが長径で表される時は凹孔や貫通孔の形状がそれ以外の形状の場合である。
【0041】
[結晶形状:板状]
本発明のMFI型ゼオライトは結晶形状が板状であることで、ゼオライトの骨格構造に由来する機能性の細孔の有効利用が期待できる。結晶粒子では格子面や結晶の方向をミラー指数で表すことができ、ゼオライトでも同様である。板状のMFI型ゼオライトには直線状の10員環細孔とジグザグな10員環細孔が形成されているが、それぞれの細孔のミラー指数は直線状の10員環細孔が(010)面に、とジグザグな10員環細孔が(100)面に現れる。本発明のMFI型ゼオライトの粒子では平で広い面に(010)面が表れている。そのため、反応物、吸着物は細孔を通じて粒子内部の活性な細孔へ至るが、結晶粒子において細孔が表れている面積が広いことと結晶粒子の厚みが薄いことで大量の反応物、吸着物が速やかに結晶内部の機能性の細孔に到達する事が可能になり、高い反応速度、吸着速度が期待できる。なお、結晶形状が板状であることはSEMによる電子顕微鏡観察の他、デジタルマイクロスコープのような光学顕微鏡でも確認することができ、ミラー指数については結晶をX線回折し、反射されるX線のピークを観測して、反射した格子面を特定することで特定することができる。
【0042】
[結晶形状:マクロ孔]
本発明のMFI型ゼオライトの粒子には多量のマクロ孔が形成されているが、特に凹孔は上記の広い面積を持つ結晶面の面積を減らすことなく、更に凹孔の壁にあたる面にはジグザグな10員環細孔が表れる(100)面からも反応物、吸着物が細孔を通じて粒子内部の活性な細孔にアクセスできるようになり、本発明のMFI型ゼオライトにおける優れた機能性が期待できる。
【0043】
また、マクロ孔のような立体障害はガスを通過させたときに気流に乱れを生じさせる。このような気流の乱れは触媒反応にけるガス拡散性の向上につながり、本発明のMFI型ゼオライトにおいて一層の機能性の向上が期待できる。
【0044】
[結晶形状:板状平面上の凸部]
本発明のMFI型ゼオライトの板状平面上には更に凸部が形成されていてもよい。この場合には、上記のガス拡散性は更に向上し、本発明のMFI型ゼオライトにおいてより一層の機能性の向上が期待できる。この凸部が形成されているかどうかは、SEMによる電子顕微鏡観察の他、デジタルマイクロスコープのような光学顕微鏡でも確認することができる。
【0045】
また、本発明のMFI型ゼオライトを触媒成分としてフロースルー型ハニカム構造体やウォールフロー型ハニカム構造体のようなフィルター材料のセル壁上に層状に被覆した場合、このような凸部の存在は触媒層における空隙率を増える事に繋がる。空隙の多い触媒層であれば、そこを通過する反応ガスの拡散性と共に透過性が上がる。ガス拡散性はいずれのハニカム構造体においても活性の向上につながるものであり、ガス透過性は触媒化したウォールフロー型ハニカム構造体を自動車排ガス浄化用途に使用した場合に特に有効である。ハニカム触媒による自動車排ガスの浄化は排ガスの流れ中にハニカム触媒を配置して行う。ここでハニカム触媒が触媒化したウォールフロー型ハニカム構造体であるとフィルターとしての性質から排ガスにとっては流通抵抗となり、エンジン出力の低下原因の一つである排ガスの圧力損失となる。触媒化したウォールフロー型ハニカム構造体がガス透過性に優れるものであれば、圧力損失が少なくなり、エンジン出力を得やすくなる。更に、本発明のMFI型ゼオライトの表面に形成されたマクロ孔が粒子を貫通するものであれば、一層の圧力損失の低下が期待できる。
【0046】
[粒径]
本発明のMFI型ゼオライトの粒径、並びに粒子の長さ、幅、厚みは特に限定されるものでは無いが、本発明のMFI型ゼオライトを後記のウォールフロー型ハニカム構造体のような触媒化フィルター用の材料として使用する場合、ウオッシュコート法、パウダーコート法を問わず、フィルターを構成するセル壁の細孔内に緻密に充填されてしまうような大きさでは無い事が望ましい。
【0047】
このような粒子サイズとしては、粒子の長さと幅に関しては1~100μmであることが好ましく、3~50μmであることがより好ましく、厚みに関しては長さと幅の短い方の1/20~1/10である事が好ましく、具体的には0.1~5μmであることが好ましく、0.5~3μmである事がより好ましい。このような粒子サイズの特定は特に限定されるものでは無いが、SEMやデジタルマイクロスコープによる観察により特定視野範囲、例えば50μm四方の視野内で確認された粒子の平均サイズをもって特定すれば良い。このような粒子サイズは適宜分級した後に測定したものであっても良い。
【0048】
粒子の長さと幅に関しては前記の様にフィルターを触媒化する際の細孔を完全に塞ぐ事がない様にすべく、フィルターにおける通気性細孔サイズに合わせて適宜選択すれば良い。厚みに関しては薄過ぎると機械的強度が劣る場合があり、排ガス触媒として使用した際のガス圧力や、触媒化にあたってスラリー化する際の攪拌応力やセル壁への被覆時の応力やエアロゾル化の過程で粉砕されてしまう事があり、粉砕されて細粒化した粒子がセル壁の細孔を塞いでしまう恐れがある。また、厚すぎると気流との分散性に劣ることがあり、前記のようなパウダーコート法に使用するのには適さない場合があり、粒子内部の機能性細孔の有効利用にも不利になる場合がある。
【0049】
本発明のMFI型ゼオライトは高度に結晶化して高い耐久性が期待できる平滑な表面構造を有する事が好ましい。このような平滑な粒子表面は外表面積の小ささとして表す事ができる。外表面積はt-plot法により求められ、本発明ではサンプル約0.1gを200℃で2時間真空排気した後、TristarII 3020型窒素吸着測定装置(マイクロメリティクス社製)を用いて、相対圧0~1.0の範囲で窒素吸着測定を行い、BET法により比表面積を、t-plot法により外表面積を算出した。本発明のMFI型ゼオライトにおける外表面積は10m/g以下であることが好ましく、1~8m/g以下であることがより好ましく、比表面積は100~1,000m/gである事が好ましく、200~600m/gである事がより好ましい。比表面積が大きな事で触媒化した際の高い活性が期待でき、大きすぎない事で粒子として高い機械強度が期待でき、触媒組成物として他の成分と混合攪拌するような時に粒子が破壊されてしまう事を抑制し、本発明のMFI型ゼオライトの形状的特徴を生かして実施し易くなる。
【0050】
[本発明のMFI型ゼオライトの用途]
以上説明した本発明の本発明のMFI型ゼオライトは、種々の用途に用いることができる。具体的には、下記の排ガス浄化用触媒の他、ゼオライト固有のミクロ細孔を利用した選択的な吸着材料等が挙げられる。
【0051】
[ハニカム触媒製造への応用]
本発明のMFI型ゼオライトが触媒化したウォールフロー型ハニカム構造体にとって好ましい形状を有する事は前述のとおりであるが、特にハニカム構造体の触媒化にあたっても優れた効果が期待できる。
【0052】
産業化されたハニカム構造体を触媒化する方法には大きく2種類ある。一つがウオッシュコート法と言われ、スラリー化した触媒組成物をハニカム構造体のセル内部に塗り広げることで触媒組成物層を形成するものである。この手法で形成された触媒組成物層に本発明のMFI型ゼオライトを使用された場合の効果はガス拡散性、ガス透過性、結晶粒子内の機能性細孔の有効利用であり前述のとおりである。
【0053】
もう一つの方法はパウダーコート法と言われ、ウォールフロー型ハニカム構造体の触媒化で採用される手法である。触媒化したウォールフロー型ハニカム構造体としてはディーゼル車排ガスの煤成分の浄化のために触媒化して使用されるCSF(Catalyzed Soot Filter)、尿素等の還元剤を使用して窒素酸化物の還元浄化と煤成分の浄化を一つの触媒で行うSCRoF(Selective Catalytic on Filter)等が知られている。また、近年はガソリン車排ガス中の煤成分を濾し取り浄化する為に使用されるGPF(Gasoline Particulate Filter)としても普及が始まっている。
【0054】
パウダーコート法は、粉体の触媒組成物を気流と共にウォールフロー型ハニカム構造体を構成するセル開口部から供給し、フィルター機能を持つセル壁上に触媒組成物を堆積させるものである。ここで、堆積される触媒組成物がウォールフロー型ハニカム構造体に均一に堆積される事が望ましい事は言うまでも無いが、そのためには、触媒組成物粉体は気流中で高分散されたエアロゾルとして供給される必要がある。このような高分散なエアロゾルを得るためには、粉体が気流の力を強く受ける形状である事が好ましい。
【0055】
本発明のMFI型ゼオライトは板状であり、マクロ孔の形成より粒子は軽量化もされていることから気流の影響を受け分散し易い形状であるといえる。また、板状平面上に凸部を有すれば更に強く気流の力を受け止めることができ、より一層、気流中での分散性の向上が期待できる。この様に、気流中で分散性が高い粒子であれば低い気流速度でも均一な分散が可能になり、気流の発生に必要なエネルギー量も少なくすることができる。
【0056】
[MFI型ゼオライトの製造方法]
本発明のMFI型ゼオライトの製造方法は、シリカ-アルミナ源としての種晶、鉱化剤、SDAおよび水を含有する混合組成物を、加熱加圧してゼオライトを合成する方法において、混合組成物中におけるシリカ換算のケイ素量に対する水のモル比を0.5~5とし、加熱加圧する際に混合組成物を攪拌しない方法である。なお、本発明における種晶とは、合成原料として用いる結晶性材料をいう。
【0057】
一般的に粒子状のゼオライトは水熱合成法によって得られる。水熱合成法の概要は種晶やシリカアルミナ、ケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウムなどのシリカ源、アルミナ源と、アルカリ金属の水酸化物、フッ化物等の鉱化剤、構造規定剤(SDA:Structure-Directing Agent)と水とを混合してスラリー化し、オートクレーブを使用した加熱加圧環境下で攪拌あるいは静置することでゼオライトを得るものである。
【0058】
このような水熱合成法とは別に、ドライゲルコンバージョン法(DGC法)という合成法も広く知られたゼオライトの製法である。DGC法は主にゼオライト膜の製法に用いられる。ゼオライト膜は水/有機物混合溶液の中から有機物の選択的な分離や濃縮に使用するもので、水/アルコールの混合溶液からアルコールを分離濃縮する目的で産業的にも利用されている。
【0059】
DGC法は水熱合成法の様に全てのゼオライト原料をスラリー化するようなことはせず、その概要はシリカ源とアルミナ源を混合した乾燥ゲル(ドライゲル)をゼオライト膜を形成しようとする無機支持体上に配置し、この状態のドライゲルと非接触な鉱化剤、SDA、水の混合物をオートクレーブ中に静置して加熱するものである。ここでゼオライトの合成に作用する水は蒸気としてドライゲルに供給されるもので、言い換えるとドライゲルに作用する水の量は極めて少ない事ともいえる。
【0060】
本発明のMFI型ゼオライトの製造方法はこの様な水熱合成法、DGC法とは若干趣を異にするものであり、シリカ-アルミナ源、鉱化剤、SDA、水の混合組成物をオートクレーブ中に仕込んで加熱加圧することまでは水熱合成法と同じであるが、混合組成物中におけるシリカ換算のケイ素量に対する水のモル比を0.5~5と水分を著しく少ない量とする点と、加熱加圧する際に混合組成物を攪拌しない点で異なる。
【0061】
本発明のMFI型ゼオライトの製造方法は、原料の仕込量に対してゼオライトの取れ高も多く比較的小型なオートクレーブでも大量のゼオライトが得られる効率的な手法である。また、仕込量に対して取れ高が多いことから、ゼオライト合成に伴って発生する廃棄物の量も少なく環境負荷の少ない手法でもある。
【0062】
本発明のMFI型ゼオライトの製造方法における水分の量は、上記の通り、混合組成物中におけるシリカ換算のケイ素量に対する水のモル比を0.5~5であるが、1~3であることがより好ましい。水の量が少なすぎるとゼオライトの合成自体が充分に促進せず収率が低くなってしまうことがあり、多すぎると本発明の特徴であるマクロ孔が形成された板状結晶粒子にならない事が有る。
【0063】
[シリカ-アルミナ源]
本発明のMFI型ゼオライトの製造方法に使用されるシリカ-アルミナ源は特に限定されるものでは無く、従来からゼオライト合成に使用されて来たシリカ-アルミナ源の中から適宜選択して使用することができる。シリカ源としては、各種ゼオライトの製造に使用される従来公知のSiO分含有材料、例えば、テトラエチルオルトシリケート、コロイダルシリカ、シリカゲル乾燥粉末、シリカヒドロゲル等や、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリを使用することができる。また、アルミナ源としては、塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等を使用することができる。
【0064】
このようなシリカ-アルミナ源はそれぞれ個別に適宜選択してゼオライトの合成に使用されるものであるが、シリカ源、アルミナ源を共に含む原料を使用しても良い。このようなシリカ-アルミナ源としては、アルミノケイ酸ナトリウム、アルミノケイ酸カリウム等のアルミノケイ酸アルカリが挙げられる。また、シリカ-アルミナ源として各種の型のゼオライトを使用しても良い。
【0065】
[種晶]
本発明のMFI型ゼオライトの製造方法に使用されるシリカ-アルミナ源としての種晶は特に限定されるものではなく、上記シリカ-アルミナ源に相当する種晶を市場から適宜入手等すれば良いが、好ましくはゼオライトを種晶として使用することである。種晶に使用されるゼオライトは特に限定されないが、原料ゼオライトと目的とするゼオライトを構成するビルディングユニットの内、一部、例えばmorコンポジットビルディングユニットを同じくし他は異なるものとすることで、骨格構造の再構築の過程が激しいものとなり、特徴的な形状を持つ本発明のようなMFI型ゼオライトが得られるため好ましく、かつ、フレームワークデンシティ(以下、「骨格密度」という)がMFI型の18.4(T原子数/nm)より大きく密な構造では、MFI構造を誘導する際に、骨格内のTOユニットとOSDAの相互作用が立体障害によって起こりにくくなる可能性があるため、種晶の骨格密度は18.4以下であることが好ましく、18.4以下13.3以上であることがより好ましい。このようなゼオライトの構造の例としては、*BEA、BEC、CDO、DAC、EON、EPI、ETL、EWS、FER、IMF、ISV、ITG、ITN、IWS、IWW、MEL、MFI、MFS、MOR、MSE、OKO、*PCS、SFS、SFV、SOV、*-SSO、-SVR、TUN、UOV、UTL、YFIおよび純粋な構造ではないがゼオライトベータが挙げられる。これらの中でも*BEA、ゼオライトベータが好ましく、入手のし易さからゼオライトベータがより好ましい。上記種晶のSARは本発明のMFI型ゼオライトと同等である事が好ましく、例えば、得ようとするMFI型ゼオライトのSARに対して10%前後の範囲の値であることが好ましい。また、2種以上の種晶を使用する場合には全体のSARが得ようとするMFI型ゼオライトのSARに対して10%前後の範囲の値であることが好ましい。このような種晶の使用量は、合成用組成物において40~80wt%であることが好ましく、50~70wt%であることがより好ましい。種晶が少なすぎると仕込量に対するMFI型ゼオライトの取れ高が少なく非効率なものとなり、相対的に合成時の水分量も増えてしまうことになる。逆に種晶が多すぎると再合成における合成組成物の拡散性が低下し、収率が低下してしまう事が有る。
【0066】
ゼオライトは四配位のケイ素原子やアルミニウム原子と酸素原子からなるTOユニットを基本単位としている。このTOユニットが複数つながることにより構造単位を構成し、このような構造単位が更につながる事でゼオライトの骨格構造を構成している。種晶を使用してゼオライトを合成する場合、アルカリの作用で種晶のゼオライト骨格構造は破壊され、構造規定剤の働きで目的の骨格構造が再構築されるが、合成しようとするゼオライトと一部同じビルディングユニットを持つゼオライトを種晶として使用することで、ビルディングユニットをそのまま使用してゼオライトの骨格構造の構築が可能になり効率的にゼオライト合成が行える。また、種晶が異なるビルディングユニットも有することでMFI型ゼオライトの骨格に再構築される際に、MFI型ゼオライトを構成するビルディングユニットとは異なるビルディングユニットが大きく変化することになり、合成時の水分量が少ない事と相まって、本発明の様に特徴的な形状を有するMFI型ゼオライトが得られ易くなるものと考えられる。
【0067】
[鉱化剤]
本発明のMFI型ゼオライトの製造方法に使用される鉱化剤は特に限定されるものでは無く、従来からゼオライト合成に使用されて来たアルカリ金属の水酸化物やフッ化物の中から適宜選択しても良いがフッ化物を使用することが好ましい。鉱化剤としてのフッ化物はアルカリ金属の水酸化物に比べて合成されたゼオライトの結晶サイズが大きくなり易い事が知られている(特公表2016-512191)。本発明の様にゼオライトの粒子表面にマクロ孔を形成する場合、特に一つの粒子の表面にマクロサイズを大きく超える凹孔および/または貫通孔を複数形成させるためには結晶粒子のサイズも大きい事が望ましく、そのような大径粒子を得るためには、フッ化物は本発明のMFI型ゼオライトの合成に適した鉱化剤であるといえる。加えて鉱化剤としてフッ化物を使用したゼオライトでは骨格構造における欠陥を少なくできる事も知られている。本発明のMFI型ゼオライトが板状と薄く、更に凹孔および/または貫通孔が形成されている事で機械的な強度が低下する懸念がある。ゼオライトを産業用途に使用した場合、機械的強度はゼオライトの耐久性を左右する事がある。機械的に高強度な材料は産業用材料として価値の高いものであり本発明のMFI型ゼオライトにおいても同様である。このような機械的に高強度が期待できる鉱化剤としてもフッ化物は好ましい硬化剤であるといえる。
【0068】
上記鉱化剤として使用されるフッ化物は特に限定されるものでは無く、例えば、フッ化水素、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム、ケイフッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、クリオライト、フッ化アルミニウム等が挙げられるが、酸性フッ化アンモニウム(NHHF)を使用することで外表面積が小さく、結晶化が促進して機械的にも高強度が期待できる本発明のMFI型ゼオライトが得られている。鉱化剤として使用されるフッ化物の量は特に限定されるものでは無いが、合成組成物中のアルミニウム原子に対して0.5~300mol%が好ましく、0.5~200mol%であることがより好ましい。
【0069】
[SDA]
本発明のMFI型ゼオライトの製造方法に使用されるSDAは特に限定されるものでは無く、従来からMFI型ゼオライトの合成に使用されて来たSDAの中から適宜選択可能なものであり、このようなSDAとしてはテトラエチルアンモニウム水酸化物、テトラプロピルアンモニウム水酸化物、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウム水酸化物等の4級アンモニウム塩、トリメチルアダマンタンアンモニウム塩等の水溶液が挙げられ、本発明の実施形態ではテトラプロピルアンモニウム水酸化物水溶液を用いることで板状の結晶粒子表面に本発明のマクロ孔が形成できることが確認されている。本発明におけるSDAの使用量は特に限定されるものでは無いが、合成組成物中のケイ素原子に対して1~20mol%であることが好ましく、3~10mol%であることがより好ましい。
【0070】
[合成条件]
本発明のMFI型ゼオライトの製造方法は、上記したシリカ-アルミナ源としての種晶、鉱化剤、SDAおよび水を含有する混合組成物を、加熱加圧する。この加熱加圧条件は特に限定されないが、例えば、加熱温度が100~200℃、圧力が0.1~1.65MPaである。この条件で1~30日程静置すればよい。また、この加熱加圧をする際には混合組成物は攪拌しても良く無攪拌であっても良い。攪拌速度が遅いか撹拌しない場合には比較的大きな結晶サイズの粒子が得られ易くなる。また、本発明において撹拌しないとは静置状態に置くことをいう。また、加熱加圧をするのは一般的にゼオライトの合成に使用されるオートクレーブ等の装置を用いればよい。
【0071】
上記加熱加圧後は、乾燥し、必要により粉砕をすればよく、本発明のMFI型ゼオライトの用途に応じて分級処理を施してもよい。これにより本発明のMFI型ゼオライトが製造できる。
【実施例
【0072】
以下、本発明の実施例について記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでは無く、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0073】
[実施例1:MFI型ゼオライトの合成]
40wt%テトラプロピルアンモニウム水酸化物水溶液(セイケム社製)7.1gと水4.7gを混合した溶液に、酸性フッ化アンモニウム(富士フイルム和光純薬社製)0.4gを溶解した。この溶液の全量を、種晶であるゼオライトベータ(フレームワークデンシティ15.3(T原子数/nm)、コンポコットビルディングユニットにmorを有する)であるCP-7104(SAR:275、ゼオリスト社製)23.3gに含浸させて一晩密閉状態で放置した。合成用組成物の組成は次のとおりであった。
【0074】
SiO
0.036 Al
0.040 TPAOH (TPA:テトラプロピルアンモニウムカチオン)
0.020 (NH +NH
0.040 F
1.848 H
※上記混合組成物における各成分の数値は、SiOの物質量を1としたときの物質量(モル)比を意味する。
【0075】
次いで、この原料組成物(混合物)を100cc内筒テフロン(登録商標)のステンレス製密閉耐圧容器に入れ、140℃で14日間静置保持した。この水熱処理後の生成物をまとめて105℃乾燥し粉砕した後、600℃で焼成して生成物を得た。この様にして得られた生成物について粉末X線回折分析を行った。回析結果を図3に表す。図3の結果から生成物はMFI型ゼオライトの単相であることが確認され、蛍光X線(XRF:X-ray Fluorescence)により組成分析をしたところ、種晶と同じくSARは278であった。
【0076】
この様にして得られたMFI型ゼオライト粉末の形状と種晶であるゼオライトベータの粒子の形状をSEMにより確認した。実施例のMFI型ゼオライトの画像を図1に、図1の部分拡大図を図2に、種晶のSEM画像を図4に表す。SEMによる確認の結果、種晶は略球状であったところ、実施例1では板状でありマクロサイズの凹孔、貫通孔を有する粒子形状のMFI型ゼオライトが合成されていることが確認された。また、実施例1のMFI型ゼオライトの板状粒子にはその表面からは更に結晶が成長した凸部が形成された粒子も確認された。
【0077】
この板状MFI型ゼオライトの長さ、幅、厚みSEM画像から確認したところ、長さは概ね6μmを最大として粉砕により生じたそれより小さい長さの粒子を含み、幅は3μmを最大としてこれも粉砕により生じたそれより小さい幅の粒子を含み、厚さは凸部も含め概ね0.5μmであり、観察した粒子にはマクロサイズ以上の凹孔、貫通孔が形成されていた。
【0078】
また、この板状MFI型ゼオライト粉末約0.1gを200℃で2時間真空排気した後、TristarII 3020型窒素吸着測定装置(マイクロメリティクス社製)を用いて、相対圧0~1.0の範囲で窒素吸着測定を行い、BET法により比表面積を、t-plot法により外表面積を算出した。比表面積は403.3m/g、外表面積は6.0m/gであった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のMFI型ゼオライトは、産業用材料として高い価値を有する。
図1
図2
図3
図4