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特許7574017油圧プレス、油圧プレスの制御装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】油圧プレス、油圧プレスの制御装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B30B 15/14 20060101AFI20241021BHJP
   B30B 15/00 20060101ALI20241021BHJP
   B30B 15/06 20060101ALI20241021BHJP
   B30B 1/32 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
B30B15/14 H
B30B15/00 B
B30B15/06 C
B30B1/32 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020144138
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039221
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】高山 英治
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特許第6510869(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/143387(WO,A1)
【文献】特許第4939173(JP,B2)
【文献】特開2008-073741(JP,A)
【文献】特開2005-214267(JP,A)
【文献】特開2003-156005(JP,A)
【文献】特許第4510992(JP,B2)
【文献】特許第6871132(JP,B2)
【文献】特公平07-067607(JP,B2)
【文献】特許第3929368(JP,B2)
【文献】特許第3685615(JP,B2)
【文献】特許第5781552(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/143386(WO,A1)
【文献】特許第4351215(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/14
B30B 15/00
B30B 15/06
B30B 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークへ荷重を加える第1スライドと、
前記第1スライドを駆動する第1油圧回路と、
前記第1油圧回路へ油圧を加える第1油圧ポンプと、
前記第1スライドの位置を検出する第1位置センサと、
前記第1スライドの目標移動条件に基づいて、当該目標移動条件に対応する前記第1スライドの時間ごとの目標位置を計算する位置計算部と、
前記第1位置センサにより検出された前記第1スライドの検出位置と前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置との差に基づいて前記第1油圧ポンプの駆動量を制御する制御部と、を備え、
前記第1スライドの目標移動条件には、前記第1スライドの目標移動速度と、前記ワークの目標歪み速度と、前記第1スライドの目標到達位置とが含まれ、
前記位置計算部は、前記目標移動条件を満たし、かつ、前記第1スライドが前記目標到達位置に移動するように前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置を計算する油圧プレス。
【請求項2】
ワークへ荷重を加える第1スライドと、
前記第1スライドを駆動する第1油圧回路と、
前記第1油圧回路へ油圧を加える第1油圧ポンプと、
前記第1スライドの位置を検出する第1位置センサと、
前記第1スライドの目標移動条件に基づいて、当該目標移動条件に対応する前記第1スライドの時間ごとの目標位置を計算する位置計算部と、
前記第1位置センサにより検出された前記第1スライドの検出位置と前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置との差に基づいて前記第1油圧ポンプの駆動量を制御する制御部と、を備え、
前記第1スライドの目標移動条件には、前記第1スライドの目標移動速度と、前記第1スライドの速度変更区間の除変パラメータと、前記第1スライドの目標到達位置とが含まれ、
前記位置計算部は、前記目標移動条件を満たし、かつ、前記第1スライドが前記目標到達位置に移動するように前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置を計算する油圧プレス。
【請求項3】
ワークへ荷重を加える第2スライドと、
前記第2スライドを駆動する第2油圧回路と、
前記第2油圧回路へ油圧を加える第2油圧ポンプと、
前記第2スライドの位置を検出する第2位置センサと、
を備え、
前記位置計算部は、更に、前記第2スライドの目標移動条件に基づいて、前記第2スライドの時間ごとの目標位置を計算し、
前記制御部は、更に、前記第2位置センサにより検出された前記第2スライドの検出位置と前記第2スライドの前記時間ごとの目標位置との差に基づいて前記第2油圧ポンプの駆動量を制御する、
請求項1又は請求項2に記載の油圧プレス。
【請求項4】
前記第2スライドの目標移動条件には、前記第2スライドの目標移動速度と前記第2スライドの目標到達位置とが含まれ、
前記位置計算部は、前記第2スライドの速度が前記第2スライドの前記目標移動速度から漸次減少して前記第2スライドの前記目標到達位置に移動するように前記第2スライドの前記時間ごとの目標位置を計算する、
請求項3記載の油圧プレス。
【請求項5】
前記第1スライド及び前記第2スライドの目標移動条件には、前記ワークの目標歪み速度が含まれ、
前記位置計算部は、前記第1スライドと前記第2スライドとが前記ワークを加圧する速度が前記目標歪み速度になるように前記第1スライドの時間ごとの目標位置と前記第2スライドの時間ごとの目標位置とを計算する、
請求項3又は請求項4に記載の油圧プレス。
【請求項6】
ワークへ荷重を加える第1スライドと、前記第1スライドを駆動する第1油圧回路と、
前記第1油圧回路へ油圧を加える第1油圧ポンプと、前記第1スライドの位置を検出する第1位置センサとを備えた油圧プレスに搭載される油圧プレスの制御装置であって、
前記第1スライドの目標移動条件に基づいて、当該目標移動条件に対応する前記第1スライドの時間ごとの目標位置を計算する位置計算部と、
前記第1位置センサにより検出された前記第1スライドの検出位置と前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置との差に基づいて前記第1油圧ポンプの駆動量を制御する制御部と、
を備え、
前記第1スライドの目標移動条件には、前記第1スライドの目標移動速度と、前記ワークの目標歪み速度と、前記第1スライドの目標到達位置とが含まれ、
前記位置計算部は、前記目標移動条件を満たし、かつ、前記第1スライドが前記目標到達位置に移動するように前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置を計算する油圧プレスの制御装置。
【請求項7】
ワークへ荷重を加える第1スライドと、前記第1スライドを駆動する第1油圧回路と、
前記第1油圧回路へ油圧を加える第1油圧ポンプと、前記第1スライドの位置を検出する第1位置センサとを備えた油圧プレスに搭載される油圧プレスの制御装置であって、
前記第1スライドの目標移動条件に基づいて、当該目標移動条件に対応する前記第1スライドの時間ごとの目標位置を計算する位置計算部と、
前記第1位置センサにより検出された前記第1スライドの検出位置と前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置との差に基づいて前記第1油圧ポンプの駆動量を制御する制御部と、
を備え、
前記第1スライドの目標移動条件には、前記第1スライドの目標移動速度と、前記第1スライドの速度変更区間の除変パラメータと、前記第1スライドの目標到達位置とが含まれ、
前記位置計算部は、前記目標移動条件を満たし、かつ、前記第1スライドが前記目標到達位置に移動するように前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置を計算する油圧プレスの制御装置。
【請求項8】
ワークへ荷重を加える第1スライドと、前記第1スライドを駆動する第1油圧回路と、
前記第1油圧回路へ油圧を加える第1油圧ポンプと、前記第1スライドの位置を検出する第1位置センサとを備えた油圧プレスに搭載されるコンピュータが実行するプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記第1スライドの目標移動条件に基づいて、当該目標移動条件に対応する前記第1スライドの時間ごとの目標位置を計算する計算機能と、
前記第1位置センサにより検出された前記第1スライドの検出位置と前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置との差に基づいて前記第1油圧ポンプの駆動量を制御する制御機能と、
を実現させ、
前記第1スライドの目標移動条件には、前記第1スライドの目標移動速度と、前記ワークの目標歪み速度と、前記第1スライドの目標到達位置とが含まれ、
前記計算機能は、前記目標移動条件を満たし、かつ、前記第1スライドが前記目標到達位置に移動するように前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置を計算するプログラム。
【請求項9】
ワークへ荷重を加える第1スライドと、前記第1スライドを駆動する第1油圧回路と、
前記第1油圧回路へ油圧を加える第1油圧ポンプと、前記第1スライドの位置を検出する第1位置センサとを備えた油圧プレスに搭載されるコンピュータが実行するプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記第1スライドの目標移動条件に基づいて、当該目標移動条件に対応する前記第1スライドの時間ごとの目標位置を計算する計算機能と、
前記第1位置センサにより検出された前記第1スライドの検出位置と前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置との差に基づいて前記第1油圧ポンプの駆動量を制御する制御機能と、
を実現させ、
前記第1スライドの目標移動条件には、前記第1スライドの目標移動速度と、前記第1スライドの速度変更区間の除変パラメータと、前記第1スライドの目標到達位置とが含まれ、
前記計算機能は、前記目標移動条件を満たし、かつ、前記第1スライドが前記目標到達位置に移動するように前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置を計算するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧プレス、油圧プレスの制御装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スライドを高い精度で下死点へ移動させる機械式のサーボプレスが記載されている。機械式のサーボプレスは、サーボモータの動力がリンク機構を介してスライドに伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-176699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、サーボモータにより油圧ポンプの駆動量を制御することでスライドの位置、速度又は荷重等を制御する油圧プレスが実用化されている。油圧を用いることで安価に大きなスライドの荷重を得ることができる。一方、油圧ポンプにより作動油を圧送する作用の応答性は高くなく、加えて、作動油は圧縮性を有する。したがって、油圧ポンプの駆動量を制御する油圧プレスにおいては、機械式のサーボプレスと比較してスライドの位置精度が得られにくいという課題を有する。
【0005】
本発明は、精度の高い成形を行うことのできる油圧プレス、油圧プレスの制御装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る油圧プレスは、
ワークへ荷重を加える第1スライドと、
前記第1スライドを駆動する第1油圧回路と、
前記第1油圧回路へ油圧を加える第1油圧ポンプと、
前記第1スライドの位置を検出する第1位置センサと、
前記第1スライドの目標移動条件に基づいて、当該目標移動条件に対応する前記第1スライドの時間ごとの目標位置を計算する位置計算部と、
前記第1位置センサにより検出された前記第1スライドの検出位置と前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置との差に基づいて前記第1油圧ポンプの駆動量を制御する制御部と、
を備え、
前記第1スライドの目標移動条件には、前記第1スライドの目標移動速度と、前記ワークの目標歪み速度又は前記第1スライドの速度変更区間の除変パラメータと、前記第1スライドの目標到達位置とが含まれ、
前記位置計算部は、前記目標移動条件を満たし、かつ、前記第1スライドが前記目標到達位置に移動するように前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置を計算する。
【0007】
本発明に係る油圧プレスの制御装置は、
ワークへ荷重を加える第1スライドと、前記第1スライドを駆動する第1油圧回路と、
前記第1油圧回路へ油圧を加える第1油圧ポンプと、前記第1スライドの位置を検出する第1位置センサとを備えた油圧プレスに搭載される油圧プレスの制御装置であって、
前記第1スライドの目標移動条件に基づいて、当該目標移動条件に対応する前記第1スライドの時間ごとの目標位置を計算する位置計算部と、
前記第1位置センサにより検出された前記第1スライドの検出位置と前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置との差に基づいて前記第1油圧ポンプの駆動量を制御する制御部と、
を備え、
前記第1スライドの目標移動条件には、前記第1スライドの目標移動速度と、前記ワークの目標歪み速度又は前記第1スライドの速度変更区間の除変パラメータと、前記第1スライドの目標到達位置とが含まれ、
前記位置計算部は、前記目標移動条件を満たし、かつ、前記第1スライドが前記目標到達位置に移動するように前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置を計算する。
【0008】
本発明に係るプログラムは、
ワークへ荷重を加える第1スライドと、前記第1スライドを駆動する第1油圧回路と、
前記第1油圧回路へ油圧を加える第1油圧ポンプと、前記第1スライドの位置を検出する第1位置センサとを備えた油圧プレスに搭載されるコンピュータが実行するプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記第1スライドの目標移動条件に基づいて、当該目標移動条件に対応する前記第1スライドの時間ごとの目標位置を計算する計算機能と、
前記第1位置センサにより検出された前記第1スライドの検出位置と前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置との差に基づいて前記第1油圧ポンプの駆動量を制御する制御機能と、
を実現させ、
前記第1スライドの目標移動条件には、前記第1スライドの目標移動速度と、前記ワークの目標歪み速度又は前記第1スライドの速度変更区間の除変パラメータと、前記第1スライドの目標到達位置とが含まれ、
前記位置計算部は、前記目標移動条件を満たし、かつ、前記第1スライドが前記目標到達位置に移動するように前記第1スライドの前記時間ごとの目標位置を計算する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、油圧プレスにおいて精度の高い成形を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態1に係る油圧プレスを示す図である。
図2】本発明の実施形態1に係る油圧プレスの制御構成を示す図である。
図3】位置計算部が計算するスライドの時間ごとの目標位置の一例を示すタイミングチャートである。
図4図3の速度変更区間C1を拡大したタイミングチャートである。
図5】ワークの歪み速度を説明する図である。
図6】制御部に含まれる演算機能構成の一例を示すブロック図である。
図7】本発明の実施形態2に係る油圧プレスを示す図である。
図8】本発明の実施形態2に係る油圧プレスの制御構成を示す図である。
図9】第2スライドの作用を説明する図であり、(A)は成形途中のワークと金型を示し、(B)は成形後のワークを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る油圧プレスを示す図である。図2は、本発明の実施形態1に係る油圧プレスの制御構成を示す図である。以下では、スライド12Aに荷重が加えられる方向を下方として説明する。なお、説明上の方向は油圧プレス1Aの使用時における方向と一致しなくてもよい。
【0013】
実施形態1の油圧プレス1Aは、図1に示すように、下金型D2を支持するベッド11と、上金型D1を支持するスライド12Aと、作動油の圧力によりスライド12Aを下降させる油圧シリンダを含んだ油圧回路13Aと、作動油に圧力を加える油圧ポンプ21Aと、油圧ポンプ21Aを駆動するサーボモータ23Aと、スライド12Aの下降位置を検出する位置センサ18Aとを備える。油圧プレス1Aは、さらに、油圧回路13Aを支持するクラウン16と、クラウン16とベッド11とを連結するアップライト14及びタイロッド15とを備える。スライド12Aは、アップライト14に昇降可能にガイドされている。位置センサ18Aは、例えばリニアセンサであり、アップライト14に固定される。上記の構成要素のうち、スライド12Aは、本発明に係る第1スライドの一例に相当する。油圧回路13Aは、本発明に係る第1油圧回路の一例に相当する。油圧ポンプ21Aは、本発明に係る第1油圧ポンプの一例に相当する。位置センサ18Aは、本発明に係る第1位置センサの一例に相当する。
【0014】
油圧プレス1Aは、さらに、位置センサ18Aの検出出力を受けて、油圧ポンプ21Aを駆動するための操作量MVの信号を出力する制御装置30と、制御装置30からの操作量MVの信号に応じて油圧ポンプ21Aを駆動する駆動回路41とを備える。油圧ポンプ21Aの駆動とはサーボモータ23Aの駆動と言い換えてもよい。制御装置30は、コンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)30Aと、CPUが実行するプログラムP30を格納した記憶装置30Bと、CPU30Aと外部機器との間で信号を仲介するインタフェース30Cと、タッチパネルなどユーザとの間で情報を入出力するユーザインタフェース30Dとを備える。制御装置30では、CPU30AがプログラムP30を実行することで、ソフトウェアによる複数の機能モジュールが実現される。制御装置30は、油圧プレス1Aの本体部に後付け可能である。
【0015】
制御装置30により実現される複数の機能モジュールには、図2に示すように、ユーザの操作によりスライド12Aの目標移動条件を入力する入力機能部33と、入力された目標移動条件に基づいてスライド12Aの時間ごとの目標位置SVを計算する位置計算部31と、位置センサ18Aが検出したスライド12Aの検出位置PVと上記計算された時間ごとの目標位置SVとの差に基づいて油圧ポンプ21Aの操作量MVを計算する制御部32と、を備える。なお、目標移動条件は、ユーザから入力される構成とせず、予め制御装置30が保有する構成としてもよい。
【0016】
図3は、スライドの時間ごとの目標位置の一例を示すタイミングチャートである。図4は、図3の速度変更区間C1を拡大したタイミングチャートである。図5は、ワークの歪み速度を説明する図である。ここでは、図3及び図4をスライド12Aの実際の移動位置を示すタイミングチャートと見なして説明する。図3及び図4において上金型D1がワークに荷重を加え始めるスライド12Aの加圧開始位置を“Ps”、ワークの成形工程でスライド12Aが最も降下する加圧終了位置を“Pe”と記す。
【0017】
入力機能部33から入力されるスライド12Aの目標移動条件には、次の第1例~第5例の目標移動条件など、様々な条件を含めることができる。
第1例・・・1つの目標移動速度、及び、1つの目標到達位置
第2例・・・第1目標移動速度、第1目標到達位置、第2目標移動速度、及び、第2目標到達位置
第3例・・・第1~第n(nは3以上の整数)の目標移動速度、並びに、第1~第nの目標到達位置
第4例・・・第1例から第3例に加えて速度変更区間の除変パラメータ
第5例・・・ワークの目標歪み速度
【0018】
第1例の目標移動条件において、目標移動速度とは、図3に示すように、加圧開始位置Ps(又はそれよりも上方の位置)から加圧終了位置Peの近傍までのスライド12Aの下降速度V1の目標値を意味する。また、目標到達位置とは、加圧終了位置Peの目標値を意味する。
【0019】
第2例の目標移動条件において、第1目標移動速度と第1目標到達位置とは、加圧開始位置Psと加圧終了位置Peとの任意の中間位置までのスライド12Aの下降速度の目標値と、上記中間位置の目標値とを、それぞれ意味する。また、第2目標移動速度と第2目標到達位置とは、上記中間位置から加圧終了位置Peの近傍までのスライド12Aの下降速度の目標値と、加圧終了位置Peの目標値とを意味する。言い換えれば、第2例の目標移動条件は、加圧開始位置Psから加圧終了位置Peの近傍までを任意の位置で2分割した2区間で、スライド12Aの下降速度の目標値をそれぞれ指定する目標移動条件である。
【0020】
第3例の目標移動条件は、第2例が2区間のスライド12Aの下降速度の目標値を指定できたのに対して、加圧開始位置Psから加圧終了位置Peまでを任意の複数の位置で3つ以上に分割した、各分割区間のスライド12Aの下降速度の目標値をそれぞれ指定する目標移動条件である。
【0021】
第4例の目標移動条件において、除変パラメータとは、スライド12Aの速度変化の緩急を示すパラメータの目標値を意味する。図4に示すように、速度変更区間C1においてスライド12Aの下降速度は徐々に低下するように設定され、除変パラメータにより、下降速度の緩急を変更できる。除変パラメータには、速度が低下し始める位置の目標値が含まれてもよい。
【0022】
第5例の目標移動条件において、目標歪み速度とは、ワークWの歪み速度ε’=V/(L-y)=V/zの目標値を示す(図5を参照)。ここで、Vはスライド12Aの下降速度(すなわち上金型D1の下降速度)、Lは成形前のワークWの縦寸、yは成形中のワークWの縦寸の減少量、zは成形中のワークWの縦寸である。図5は、スライド12Aに支持される上金型D1と、ベッド11に支持される下金型D2との間で、ワークWが荷重を受けて変形する例を示している。工程J1は変形前、工程J2は変形途中を示している。歪み速度が一定の場合、スライド12Aの下降速度Vは、歪み速度ε’に基づいて、V=ε’(L-y)=ε’×zのように決定される。すなわち、下降速度Vは、スライド12Aの位置が低くなるほど低下する速度となる。第5例の目標移動条件において、目標歪み速度は、加圧開始位置Psから加圧終了位置Peまでの全区間において、一つの目標値が指定されてもよいし、あるいは、第2例及び第3例の目標移動条件のように、加圧開始位置Psから加圧終了位置Peまでを複数に分割した区間のうち、いずれか1つ又は複数の区間において、目標値が指定されてもよい。また、複数の区間のうち、いずれかの区間は目標移動速度が指定され、別のいずれかの区間は目標歪み速度が指定されてもよい。
【0023】
入力機能部33は、ユーザがタッチパネル等のユーザインタフェース30Dを介して目標移動条件を入力できる構成としてもよいし、目標移動条件が書き込まれた可搬型の記憶装置(メモリカード等)を読み込ませることで目標移動条件が入力される構成としてもよいなど、入力方式は特に限定されない。入力機能部33は、予め複数パターンの目標移動条件を保持し、ユーザがその中からいずれかの目標移動条件を選択することで、選択された目標移動条件が入力される構成としてもよい。
【0024】
位置計算部31は、入力機能部33から入力された目標移動条件に基づいて、目標移動条件に対応した時間ごとにスライド12Aの目標位置を計算する。例えば、入力機能部33から第1例の目標移動条件(目標移動速度と目標到達位置)が入力された場合、位置計算部31は、図3及び図4のタイムチャートに示すような、スライド12Aの時間ごとの目標位置を計算する。目標移動速度がタイムチャートの速度V1に相当し、目標到達位置が加圧終了位置Peに相当する。入力された目標移動条件に第4例の除変パラメータが含まれなければ、デフォルトの除変パラメータ“1.0”のチャート線に示されるように、位置計算部31は、デフォルトの除変を加えた時間ごとの目標位置を計算する。また、入力された目標移動条件に第4例の除変パラメータが含まれる場合、図4の複数のチャート線のうち、入力された除変パラメータに対応するチャート線に示されるように、位置計算部31は、指定された除変を加えた時間ごとの目標位置を計算する。
【0025】
また、入力機能部33から第5例の目標移動条件(ワークの目標歪み速度)が入力された場合には、位置計算部31は、ワークの歪み速度が目標歪み速度になるように、スライド12Aの時間ごとの目標位置を計算する。図5のようなワークW及び金型(D1、D2)の場合、位置計算部31は、図5のワークWの縦寸の減少量y、すなわち、スライド12Aの下降量yが大きくなるに従って、成形中のワークWの縦寸zに比例してスライド12Aの下降速度Vが低下する時間ごとの目標位置を計算する。
【0026】
前述したように、位置計算部31は、目標移動条件に対応した時間ごとのスライド12Aの目標位置を計算するが、「目標移動条件に対応した」とは、目標移動条件を厳密に満たすものに限られない。「目標移動条件に対応した」とは、例えば速度変更区間で速度の除変が加えられるなど、所定の補正が加えられた上で目標移動条件をほぼ満たすものを含む概念である。位置計算部31は、スライド12Aが実際に移動する成形工程よりも前に、予め全区間の時間ごとの目標位置を計算し、計算結果を保持していてもよいし、成形工程中のスライド12Aの移動と並行して1つ又は複数の制御サイクル先のスライド12Aの目標位置を計算してもよい。制御サイクルとは、制御部32によるスライド12Aの位置制御処理のサイクル期間を意味する。
【0027】
図6は、制御部に含まれる演算機能構成の一例を示す図である。
【0028】
制御部32は、位置センサ18Aから送られるスライド12Aの検出位置PVと、位置計算部31が計算したスライド12Aの時間ごとの目標位置SVとに基づいて、各制御サイクルの検出位置PVと目標位置SVとの差が小さくなるようにフィードバック制御を行う。又は、フォードバック制御とフィードフォワード制御の両方を行う。そして、上記制御の結果、制御部32は、油圧ポンプ21Aを駆動制御するための操作量MVを計算する。制御部32は、上記の制御及び計算をリアルタイムに所定の制御サイクル(例えば1msec)ごとに繰り返し実行する。
【0029】
制御部32は、より詳細には、図6に示すように、減算器321、伝達ブロック322、323、加算器324、ゲインブロック325及び積算器326を有する。減算器321は、位置センサ18Aから入力された現制御サイクルのスライド12Aの検出位置PVと、位置計算部31が計算した現制御サイクルの目標位置SVとの差EVを計算する。伝達ブロック322は、差EVに伝達関数“1+1/(Ti・s)”を適用し、適用後の値を出力する。伝達ブロック323は、検出位置PVに伝達関数“Td・s/(1+Td・Kd・s)”を適用し、適用後の値を出力する。加算器324は、伝達ブロック322、323の出力を加算する。ゲインブロック325は、加算器324の出力に比例ゲインKpを及ぼして前回の制御サイクルからの操作量差分ΔMVを出力する。積算器326は操作量差分ΔMVを積算して油圧ポンプ21Aを駆動制御するための操作量MVを出力する。ここで、Tiは積分時間、Tdは微分時間、Kdは微分ゲイン、sはラプラス演算子、添え字nはn番目の制御サイクルを示す。上記のような演算機能構成により、PID(Proportional-Integral-Differential)制御によって速やかに差EVを小さくする操作量MVが計算される。制御部32は、リアルタイムにかつ所定の制御サイクルごとに上記の計算処理を繰り返す。
【0030】
上記のような制御部32の計算処理の結果、制御サイクルごとに操作量MVが駆動回路41に送られ、駆動回路41は入力された操作量MVに応じて油圧ポンプ21Aを駆動する。具体的には、操作量MVがサーボモータ23Aの回転速度に合致するように、駆動回路41はサーボモータ23Aを駆動する。このような駆動制御により、位置計算部31が計算した時間ごとの目標位置SVに各時点の位置が合致するようにスライド12Aが移動し、ユーザが入力した目標移動条件に対応したスライド12Aの移動が実現される。
【0031】
なお、制御部32には、図2に示すように、入力機能部33からスライド12Aの停止位置(例えば第1例の目標移動条件の目標到達位置)の値が入力されてもよい。この場合、制御部32は、スライド12Aの位置が停止位置に移動した場合にスライド12Aの停止判定を行って、スライド12Aの移動制御を停止する処理へ移行してもよい。
【0032】
ここで、比較例として、スライドの下降速度が目標速度に合致するようにスライドを移動させる速度制御方式について検討する。速度制御方式では、例えばスライドの下降初期に速度のズレが生じると、その後の速度制御により、速度のズレが解消された場合でも、速度のズレに基づくスライドの位置ズレ(あるタイミングにおける予定位置と実際の位置とのズレ)は、解消されず残ってしまう。このような位置ズレを解消するには、スライドの速度を増加又は減少する制御が必要であるが、速度制御方式ではスライドの速度を目標速度に合わせるように制御が働くので、上記のような位置ズレを解消するための速度の増減ができない。
【0033】
一方、本実施形態のスライド12Aの駆動制御によれば、時間ごとの目標位置SVに従うようにスライド12Aが移動する。したがって、例えば、スライド12Aの下降初期にスライド12Aの位置にズレが生じても、その後に、スライド12Aの下降速度が増加又は減少されて、スライド12Aの位置ズレが解消される。よって、下降初期のスライド12Aの位置ズレが、その後のスライド12Aの移動中に解消されず継続的に残ってしまうといったことが抑制される。したがって、本実施形態の制御によれば、スライド12Aの動きに乱れが生じにくく、高い精度のスライド12Aの移動を実現できる。よって、高精度な成形処理を実現できる。
【0034】
さらに、上述した比較例(速度制御方式)では、スライドを加圧終了位置Peの近傍で低速域で移動させる場合に、低速域におけるスライドの速度制御の分解能が不足するという課題が生じる。例えば、スライドの移動速度は、演算周期ΔTの間のスライドの位置の変化ΔYにより演算して求められる。演算周期が1[msec]で、スライドの位置の分解能(位置センサの最小単位)が1[μm]とすると、計算された速度ΔY/ΔTの分解能は1[mm/sec]となる。この場合、1[mm/sec]未満の速度制御が行えず、仮に数[mm/sec]の速度制御を行う場合でも、目標速度に対する偏差の比率が大きくなって、フィードバック制御により精度の高い速度制御を行うことが困難となる。このような分解能不足に起因した精度の低下という課題は、ワークの歪み速度を低速域で制御したい場合にも、同様に生じる。
【0035】
一方、実施形態1のスライド12Aの駆動制御であれば、仮にスライド12Aの位置の分解能が1[μm]であれば、その分解能でスライド12Aの位置を制御できる。したがって、スライド12Aの速度が低速域であっても、スライド12Aを高い精度で移動できる。したがって、スライド12Aを加圧終了位置Peの近傍で低速域で移動させて加圧終了位置Peに到達させるといった制御を、安定的に高精度で実行することができ、これにより高精度な成形処理を実現できる。また、ワークの歪み速度を制御する場合でも、同様の理由から、低速域での高精度な制御が可能となる。
【0036】
以上のように、実施形態1の油圧プレス1Aによれば、位置計算部31が目標移動条件に基づいてスライド12Aの時間ごとの目標位置SVを計算し、制御部32が目標位置SVとスライド12Aの検出位置PVとの差に基づき油圧ポンプ21Aの駆動量を制御する。したがって、前述したように、スライド12Aの速度を目標値に合わせる速度制御方式と比較して、スライド12Aを高い精度で移動させることができ、これにより高品質な成形処理を実現できる。また、目標移動条件を指定すれば、位置計算部31が目標移動条件に対応するスライド12Aの時間ごとの目標位置SVを計算するので、スライド12Aを動かすための制御データの入力の煩雑さを低減できる。
【0037】
さらに、実施形態1の油圧プレス1Aによれば、目標移動条件としてスライド12Aの目標移動速度及び目標到達位置が指定された場合に、位置計算部31は、スライド12Aが目標移動速度で移動し、下降速度を徐々に減少(漸次減少)して目標到達位置に移動するような、スライド12Aの時間ごとの目標位置を計算する。したがって、少ない制御データ(目標移動速度及び目標到達位置)の入力によって、スライド12Aが一定の速度で下降し、安定的に目標到達位置に到達する移動を実現できる。
【0038】
プレス処理では、荷重を加えてワークを変形させる際のスライド12Aの移動速度と、ワークの変形が終了するスライド12Aの下降終了位置(加圧終了位置Pe)とが、スライド12Aの移動条件としてユーザから指定されることが多い。このような移動条件に対して、なんら工夫がないと、移動速度の指定に合わせて、速度制御方式によりスライド12Aの速度制御を行い、その後、制御方式を位置制御方式に変えて、下降終了位置の指定に合わせて、スライド12Aの停止位置を制御するといった制御方法が採用されることが想定される。しかし、このように途中で速度制御方式から位置制御方式に切り替える制御方法では、制御方式を切り替える際に制御の乱れが生じやすい。一方、実施形態1の油圧プレス1Aによれば、スライド12Aの速度(加工初期から終了直前までの速度)の指定と位置(加工終了位置)の指定との両方が行われた場合でも、速度の指定は、時間ごとの目標位置の指定に変換されることで、速度の指定と位置の指定との両方を、スライド12Aの位置制御によって達成する。したがって、速度制御から位置制御に途中で制御方式が切り替わることがなく、成形開始から終了まで乱れの少ない高精度な制御が可能となる。
【0039】
さらに、実施形態1の油圧プレス1Aによれば、目標移動条件としてワークの目標歪み速度が指定された場合、位置計算部31は、ワークの歪み速度が目標歪み速度になるようにスライド12Aの時間ごとの目標位置を計算する。そして、目標位置に従ったスライド12Aの駆動制御が行われることで、ワークの歪み速度が高精度に制御された成形処理を実現できる。さらに、上記の構成によれば、簡単な目標移動条件の入力により、ワークの歪み速度を指定した成形処理を実現できる。
【0040】
(実施形態2)
図7は、本発明に係る実施形態2の油圧プレスを示す図である。図8は、実施形態2の油圧プレスの制御構成を示す図である。図9は、第2スライドの作用を説明する図であり、(A)は成形途中のワークと金型を示し、(B)は成形後のワークを示す。
【0041】
実施形態2の油圧プレス1Bは、実施形態1の油圧プレス1Aの構成要素に加えて、第2スライド12B、ピストンシリンダを有する第2油圧回路13B、第2油圧ポンプ21B、第2油圧ポンプ21Bを駆動する第2サーボモータ23B、並びに、リニアセンサなどの第2位置センサ18Bを備える。実施形態1と同様の構成要素は、同一符号を付して、詳細な説明を省略する。実施形態1のスライド12A、油圧回路13A、油圧ポンプ21A、サーボモータ23A及び位置センサ18Aに対応する構成要素は、第1スライド12A、第1油圧回路13A、第1油圧ポンプ21A、第1サーボモータ23A及び第1位置センサ18Aと記す。
【0042】
実施形態2の油圧プレス1Bにおいては、第1油圧ポンプ21Aにより加圧された作動油が第1油圧回路13Aに供給され、それにより第1スライド12Aが下降し、第1位置センサ18Aが第1スライド12Aの位置を検出する。一方、第2油圧ポンプ21Bにより加圧された作動油がピストンシリンダを含んだ第2油圧回路13Bに供給され、それにより第2スライド12Bが上昇し、第2位置センサ18Bが第2スライド12Bの位置を検出する。
【0043】
第2スライド12B及び第2油圧回路13Bは、例えば、ベッド11内に配置され、図9(A)に示すように、下金型D12の一部である下パンチD13を上昇させてワークWに別途荷重を加える。すなわち、上金型D11と下金型D12との間に形成されるキャビティに、下パンチD13の先端部が進退可能にされる。なお、第2スライド12B及び第2油圧回路13Bの配置及び作用は、上記の例に限定されず、例えば、第2スライド12B及び第2油圧回路13Bは、上金型D11の一部を別途動かす構成であってもよいし、下金型D12の全体を昇降する構成であってもよい。
【0044】
制御装置30においては、CPU30AがプログラムP30を実行することで、ソフトウェアによる複数の機能モジュールが実現される。複数の機能モジュールには、図8に示すように、第1スライド12Aの目標移動条件及び第2スライド12Bの目標移動条件が入力される入力機能部33Bと、第1スライド12Aの目標移動条件に基づいて第1スライド12Aの時間ごとの目標位置SVaを計算する第1位置計算部31と、第1位置センサ18Aにより検出された第1スライド12Aの検出位置PVaと上記計算された時間ごとの目標位置SVaとの差に基づいて第1油圧ポンプ21Aを駆動制御するための操作量MVaを計算する第1制御部32とが含まれる。実施形態1と同様の構成要素については、実施形態1と同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0045】
さらに、複数の機能モジュールには、第2スライド12Bの目標移動条件に基づいて第2スライド12Bの時間ごとの目標位置SVbを計算する第2位置計算部36と、第2位置センサ18Bにより検出された第2スライド12Bの検出位置PVbと上記計算された時間ごとの目標位置SVbとの差に基づいて第2油圧ポンプ21Bを駆動制御するための操作量MVbを計算する第2制御部37とが含まれる。操作量MVbは、第2サーボモータ23Bの駆動回路42へ送られ、駆動回路42は操作量MVbに応じた回転速度で第2サーボモータ23Bを駆動する。上記の構成要素のうち、第1位置計算部31及び第2位置計算部36が、本発明に係る位置計算部の一例に相当する。第1制御部32及び第2制御部37が、本発明に係る制御部の一例に相当する。
【0046】
入力機能部33Bには、実施形態1の入力機能部33と同様に第1スライド12Aの目標移動条件が入力される。さらに、入力機能部33Bには、第1スライド12Aの目標移動条件と同様に、第2スライド12Bの目標移動条件が入力される。さらに、入力機能部33Bには、第1スライド12Aの目標移動条件と第2スライド12Bの目標移動条件とがどのように同期するかを示す同期条件が入力される。同期条件は、例えば第2スライド12Bがどの位置に移動するタイミングと、第1スライド12Aがどの位置に移動するタイミングとが同期するといった条件を示す。第1スライド12A及び第2スライド12Bの目標移動条件及び同期条件は、例えばユーザによりユーザインタフェース30Dを介して入力される。
【0047】
第2位置計算部36は、第1位置計算部31と同様に、第2スライド12Bの目標移動条件に対応する第2スライド12Bの時間ごとの目標位置を計算する。ただし、目標移動条件にワークの目標歪み速度が含まれる場合には、第1スライド12Aの移動と第2スライド12Bの移動とが組み合わされたときのワークの歪み速度が目標歪み速度に一致するように、第1スライド12Aの時間ごとの目標位置に合わせて、第2スライド12Bの時間ごとの目標位置が計算される。
【0048】
第2制御部37は、第1制御部32が第1スライド12Aに対して行う処理と同様に、第2位置センサ18Bから送られる第2スライド12Bの検出位置PVbと、第2位置計算部36が計算した第2スライド12Bの目標位置SVbとを入力する。そして、第2制御部37は、検出位置PVbと目標位置SVbの差が小さくなるようにフィードバック制御、又は、フィードバック制御とフィードフォワード制御の両方を行って、第2油圧ポンプ21Bの駆動量を制御する。第2制御部37は、上記の制御処理を、リアルタイムにかつ第1制御部32の制御処理と同期させて、所定の制御サイクルごとに繰り返す。
【0049】
第1位置計算部31及び第2位置計算部36により計算された第1スライド12Aの時間ごとの目標位置と、第2スライド12Bの時間ごとの目標位置とは、入力機能部33Bを介して入力された同期条件を満たすように計算されている。したがって、第1制御部32と第2制御部37とが、制御タイミングを同期させ、かつ、同一の制御サイクルで上記の制御処理を実行することで、それぞれの目標移動条件に対応しかつ同期条件を満たした第1スライド12A及び第2スライド12Bの移動が実現される。
【0050】
第2制御部37の詳細な演算機能の一例としては、図6に示した第1制御部32の詳細な演算機能と同様の構成を適用できる。
【0051】
なお、第2制御部37には、図8に示すように、入力機能部33Bから第2スライド12Bの停止位置の値が入力されてもよい。この場合、第2制御部37は、第2スライド12Bの位置が停止位置に移動した場合に第2スライド12Bの停止判定を行って、第2スライド12Bの移動制御を停止する処理へ移行してもよい。
【0052】
実施形態2の油圧プレス1Bによれば、第1スライド12Aの目標移動条件及び第2スライド12Bの目標移動条件に基づいて、第1スライド12A及び第2スライド12Bの時間ごとの目標位置が計算される。そして、時間ごとの目標位置に検出位置が一致するように第1スライド12A及び第2スライド12Bが位置制御される。したがって、図9(A)に示すように、上金型D11と下金型D12とがワークWに荷重を加えてワークWが変形を開始する加圧開始位置から、ワークWの成形が終了する加圧終了位置まで、上金型D11が高い精度で目標移動条件に合致するように移動する。同様に、下パンチD13がワークWに荷重を加えて加圧終了位置へ上昇するまで、下パンチD13が高い精度で目標移動条件に合致するように移動する。さらに、第1スライド12Aの位置制御と第2スライド12Bの位置制御とが同期して行われるので、上金型D11と下パンチD13との相互の位置関係がそれぞれの目標移動条件により示された位置関係に高い精度で合致する。
【0053】
図9に示すようなワークWの成形では、ワークWが変形する際のワークWの各部の素材の流れが目標の流れになるように要求されることがある。この場合、目標の素材の流れが得られるように、上金型D11と下パンチD13との相互の位置関係を制御する必要が生じる。実施形態2の油圧プレス1Bによれば、上述の第1スライド12A及び第2スライド12Bの位置制御により、上記の要求に応じることができる。
【0054】
以上のように、実施形態2の油圧プレス1Bによれば、実施形態1の油圧プレス1Aと同様に、第1スライド12Aの高い精度の移動、並びに、低速域における高い精度の移動が実現する。さらに、実施形態2の油圧プレス1Bによれば、第1スライド12Aと同様の移動制御が、第2スライド12Bに対しても行われることから、第2スライド12Bについても、高い精度の移動、並びに、低速域における高い精度の移動が実現する。さらに、第1スライド12Aと第2スライド12Bとの移動は、ともに位置制御によって実施されるため、いずれかのタイミングで第1スライド12Aの移動位置と第2スライド12Bの移動位置とが合わせられることで、その後、第1スライド12Aの移動と第2スライド12Bの移動との同期がずれにくい。したがって、第1スライド12A及び第2スライド12Bの相関位置が高い精度で制御されたプレス動作が得られる。よって、高品質なプレス成形が実現できる。
【0055】
さらに、実施形態2の油圧プレス1Bにおいても、目標移動条件として第2スライド12Bの目標移動速度及び目標到達位置が指定された場合に、第2位置計算部36は、第2スライド12Bが目標移動速度で上昇し、上昇速度を徐々に減少(漸次減少)して目標到達位置に移動するような、第2スライド12Bの時間ごとの目標位置を計算する。したがって、少ない制御データ(目標移動速度及び目標到達位置)の入力により、第2スライド12Bが一定の速度で上昇したのち、安定的に目標到達位置に到達する移動を実現できる。
【0056】
さらに、実施形態2の油圧プレス1Bによれば、目標移動条件としてワークの目標歪み速度が指定された場合、第1位置計算部31及び第2位置計算部36は、ワークの歪み速度が目標歪み速度になるように第1スライド12Aと第2スライド12Bの時間ごとの目標位置を計算する。そして、目標位置に従った第1スライド12A及び第2スライド12Bの駆動制御が行われることで、ワークの歪み速度が高精度に制御された成形処理を実現できる。さらに、上記の構成によれば、簡単な目標移動条件の入力により、ワークの歪み速度を指定した成形処理を実現できる。
【0057】
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、油圧ポンプの駆動量を制御する構成を、ソフトウェアにより実現した例を示したが、これらはハードウェアにより構成されてもよい。また、油圧ポンプ21A、第1油圧ポンプ21A及び第2油圧ポンプ21Bを駆動するモータとしてサーボモータを適用した例を示したが、駆動力が可変制御可能な電動機など、サーボモータ以外のモータが適用されてもよい。また、上記の実施形態では、制御装置30に制御部32、位置計算部31、第1制御部32、第1位置計算部31、第2制御部37、第2位置計算部36の各機能を実現させるプログラム(P30)が、制御装置30の記憶装置30Bに格納されている例を示した。しかし、上記のプログラムは、光ディスク又はIC(Integrated Circuit)メモリなどの可搬型記録媒体に格納され、これを制御装置(コンピュータ)30に読み込ませて実行させる構成が採用されてもよい。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0058】
1A、1B 油圧プレス
12A スライド、第1スライド
12B 第2スライド
13A 油圧回路、第1油圧回路
13B 第2油圧回路
18A 位置センサ、第1位置センサ
18B 第2位置センサ
21A 油圧ポンプ、第1油圧ポンプ
21B 第2油圧ポンプ
23A サーボモータ、第1サーボモータ
23B 第2サーボモータ
30 制御装置
P30 プログラム
31 位置計算部、第1位置計算部
32 制御部、第1制御部
33、33B 入力機能部
36 第2位置計算部
37 第2制御部
SV、SVa、SVb 時間ごとの目標位置
PV、PVa、PVb 検出位置
MV、MVa、MVb 操作量
D1、D11 上金型
D2、D12 下金型
D13 下パンチ
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9