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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】光走査光学系および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/47 20060101AFI20241021BHJP
   G02B 26/12 20060101ALI20241021BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
B41J2/47 101D
G02B26/12
G02B5/00 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020153004
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2021062608
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2019187964
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】荒井 一浩
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-185955(JP,A)
【文献】特開2005-157325(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0362707(US,A1)
【文献】特開2011-154115(JP,A)
【文献】特開2013-101333(JP,A)
【文献】特開2018-124325(JP,A)
【文献】特開2007-078979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/47
G02B 26/12
G02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、光源から射出された波長λの光ビームを偏向走査する偏向手段と、前記偏向手段で偏向走査された光を被走査面上に結像させる複数のレンズからなるレンズユニットと、を有する走査光学系であって、前記複数のレンズの少なくとも一つのレンズは、光学面に円柱状の複数のホール構造を有し、
前記光学面の中央部における前記ホール構造の深さが、前記光学面の端部における前記ホール構造の深さと異なることを特徴とする走査光学系。
【請求項2】
光源と、光源から射出された波長λの光ビームを偏向走査する偏向手段と、前記偏向手段で偏向走査された光を被走査面上に結像させる複数のレンズからなるレンズユニットと、を有する走査光学系であって、前記複数のレンズの少なくとも一つのレンズは、光学面に円柱状の複数のホール構造を有し、
前記光学面の中央部における前記ホール構造の径が、前記光学面の端部における前記ホール構造の径と異なることを特徴とする走査光学系。
【請求項3】
前記複数のホール構造を有するレンズに入射する光は、前記複数のホール構造の位置に応じた光量分布を有しており、
前記光学面の中央部における前記ホール構造と前記光学面の端部における前記ホール構造との差は、当該ホール構造に入射する光の光量分布に応じた差であることを特徴とする請求項1または2に記載の走査光学系。
【請求項4】
前記レンズユニットを通過した光ビームは、前記レンズユニットを通過する前に比べて光分布が小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の走査光学系。
【請求項5】
前記複数のホール構造を表面に有するレンズ面は、レンズ中央部における透過率がレンズ端部における透過率より大きいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の走査光学系。
【請求項6】
前記複数のホール構造を表面に有するレンズ面は、前記レンズ中央部から前記レンズ端部にかけて上記波長λの光ビームの透過率が単調に減少することを特徴とする請求項5に記載の走査光学系。
【請求項7】
前記レンズ表面の前記複数のホール構造は、前記ホール構造の高低差がレンズ中央部から端部にかけて単調に小さくなっていることを特徴とする請求項4に記載の走査光学系。
【請求項8】
前記複数のレンズの2面以上の光学面に前記ホール構造を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の走査光学系。
【請求項9】
前記走査光学系は、第1のレンズと第2のレンズを有し、
前記第1のレンズ又は第2のレンズは、互いに対向する光学面に前記ホール構造を有することを特徴とする請求項8に記載の走査光学系。
【請求項10】
前記第1のレンズ及び第2のレンズのそれぞれは、互いに対向する両面の光学面に前記ホール構造を有することを特徴とする請求項9に記載の走査光学系。
【請求項11】
前記複数のホール構造は、三角格子配列されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光走査光学系。
【請求項12】
前記複数のホール構造のピッチは、100nm以上900nm以下であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光走査光学系。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の走査光学系を有する光走査装置と、前記光走査装置の被走査面に配置された感光ドラムと、前記感光ドラム上を光束が走査することによって形成された静電潜像をトナー像として現像する現像手段と、前記現像されたトナー像を用紙に転写する転写手段と、転写されたトナー像を用紙に定着させる定着手段と、を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項14】
光源から射出された波長λの光ビームを偏向走査された光を被走査面上に結像させる走査光学系に用いられるレンズであって、
当該レンズは、
第1の光学面と、第1の光学面に対向する第2の光学面とを有し、
前記第1の光学面に円柱状の複数のホール構造を有し、
前記第1の光学面の中央部における前記ホール構造の深さは、前記第1の光学面の端部における前記ホール構造の深さと異なることを特徴とするレンズ。
【請求項15】
光源から射出された波長λの光ビームを偏向走査された光を被走査面上に結像させる走査光学系に用いられるレンズであって、
当該レンズは、
第1の光学面と、第1の光学面に対向する第2の光学面とを有し、
前記第1の光学面に円柱状の複数のホール構造を有し、
前記第1の光学面の中央部における前記ホール構造の径は、前記第1の光学面の端部における前記ホール構造の径さと異なることを特徴とするレンズ。
【請求項16】
前記複数のホール構造のピッチは、100nm以上900nm以下であることを特徴とする請求項14または15に記載のレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の走査方向に透過率分布を有する光学素子を用いる光走査光学系、光走査光学装置および画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザービームプリンター(LBP)等の走査光学系において、画像信号に応じて光変調された光源から出射された光ビームを光偏向器により周期的に偏向させ、結像光学系によって記録媒体面上にスポット状に集束、走査して画像記録を行っている。
【0003】
従来の走査光学系の主走査方向の要部断面図(主走査断面図)を図8に示す。図8で、走査光学系80は、光源81を有しており、例えば半導体レーザーから構成される。光源81から出射された光は、コリメーターレンズ82を通って略平行光束に変換され、開口絞り83によって通過光束を制限してビーム形状が整形される。光偏向器84は、例えば4面構成のポリゴンミラー(回転多面鏡)から構成され、モーター等の駆動手段(不図示)により図中矢印A方向に一定速度で回転して光を偏向する。
【0004】
偏向された光は、集光機能とfθ特性とを有する走査光学レンズ系85を構成する、第1の走査レンズ86と、第2の走査レンズ87によって、光偏向器84によって反射偏向された画像情報に基づく光ビームを被走査面としての感光ドラム面88上に結像させる。
【0005】
このような従来の走査光学系では、回転多面鏡の反射面の反射特性により、光ビームによる被走査面での主走査方向における光量が不均一となる光量ムラが発生するという課題があった。光量ムラが生じると、LBPの記録媒体面上に記録される画像の品質が低下する原因となる。
【0006】
特許文献1は、この課題を解決するため、走査光学系の光路上に主走査方向に透過率分布を有する光量補正用光学フィルタを備えることにより被走査面上の光量を均一化する走査光学系を開示している。具体的には、光量補正用光学フィルタとして、光透過性部材に遮光性材料を蒸着法によって成膜したものを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-154115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、光量補正用光学フィルタ追加によるとコストが上昇するという課題がある。本発明では、光量補正用光学フィルタを用いずに被走査面上の光量を均一化できる走査光学系の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、光源と、光源から射出された波長λの光ビームを偏向走査する偏向手段と、偏向手段で偏向走査された光を被走査面上に結像させる複数のレンズを有する走査光学系であって、前記複数のレンズの少なくとも一つのレンズは、微細凹凸構造を表面に有し、前記微細凹凸構造を表面に有するレンズの面は、上記波長λの光ビームに対して、レンズ中央部における透過率がレンズ端部の透過率より大きいことを特徴とする走査光学系に関する。
【0010】
また、本発明は、上記の走査光学系を有する光走査装置と、前記光走査装置の被走査面に配置された感光ドラムと、前記感光ドラム上を光束が走査することによって形成された静電潜像をトナー像として現像する現像手段と、前記現像されたトナー像を用紙に転写する転写手段と、転写されたトナー像を用紙に定着させる定着手段と、を備えたことを特徴とする画像形成装置に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光量補正用光学フィルタなどの新たな部材を追加することなく被走査面上の光量を均一化することができ、コストの上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の走査光学系についての主走査方向断面図である。
図2】光偏向器における光ビーム反射率の入射角依存性を示す図である。
図3】本実施形態のレンズ(図3(a))及び微細凹凸構造(図3(b))の概略図である。
図4】微細凹凸構造の寸法と透過率との相関を示すグラフである。
図5】本実施形態にかかる画像形成装置の概略図である。
図6】本実施形態の微細凹凸構造を作製する工程断面図である。
図7】実施例3の微細凹凸構造作を作製する工程断面図である。
図8】従来技術の走査光学系についての主走査方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いながら詳細に説明する。
【0014】
(光走査光学系)
図1は、本実施形態の走査光学系の主走査方向の断面図である。図1で、光走査光学系10は、光源11を有しており、例えば光源11は半導体レーザーを用いることができる。光源11から出射された光(波長λ)は、光偏向器(偏向手段)12によって偏向される。本明細書において、光偏向器12によって光ビームが偏向走査される方向を主走査方向と定義する。光偏向器12は、例えば4面構成のポリゴンミラーにより構成され、モーター等の駆動手段(不図示)を用いて図中矢印A方向に一定速度で回転する。
【0015】
集光機能とfθ特性とを有する走査光学手段としての走査レンズ系13は、樹脂材料から成る複数のレンズを有するレンズユニットである。図1では、第1のレンズ14と、第2のレンズ15で構成されている。第1の走査レンズ14は、光偏向器12側の光学面14aと、光学面14aに対向する光学面14bを有している。同様に、第2の走査レンズ15は、光偏向器12側の光学面15aと、光学面15aに対向する光学面15bを有している。本実施形態の光走査光学系10は、第1のレンズ14又は第2の走査レンズ15の少なくともいずれか一つの光学面に微細凹凸構造を有している。実施形態の光走査光学系10は、複数のレンズの少なくとも2面以上の光学面に微細凹凸構造を有することが好ましい。ここで光学面とは、レンズを設計する際に光ビームが通過することを想定している面を言う。
【0016】
光走査光学系10は、第1のレンズ14及び/又は第2のレンズ15は、対向する両面の光学面に前記微細凹凸構造を有することが好ましい。また、第1のレンズ14及び第2のレンズ15が、対向する両面の光学面14a,14b,15a,15bに前記微細凹凸構造を有することがより好ましい。
【0017】
第1の走査レンズ14の2つの光学面14a,14b及び第2の走査レンズ15の2つの光学面15a,15bに微細凹凸構造を有していることが好ましい。
【0018】
光偏向器12によって反射偏向された光ビームは、走査レンズ系13を通って被走査面16上に結像する。
【0019】
図2に光偏向器12における光ビーム反射率の入射角依存性の一例を示す。ここで、入射角θは、光偏向器の反射面に入射する光ビーム光の入射方向と前記反射面に対する法線との成す角である。例えば、使用する入射角θの範囲が22°~68°の場合、反射偏向された光ビームの光量は主走査方向でおよそ1.9%の分布を有する。
【0020】
本実施の形態における第1の走査レンズ14と、第2の走査レンズ15の各レンズ面は図1に示すように主走査断面において球面もしくは非球面の形状を有している。本実施形態の光学系は、第1の走査レンズ14又は第2の走査レンズ15の少なくとも1面に微細凹凸構造が形成されている。走査レンズ上に形成された微細凹凸構造は、光偏向器12で反射偏向された光ビームの反射率(透過率)を制御して、被走査面16上における光量を均一化している。
【0021】
図3(a)に、本実施の形態における走査レンズの一例を示す。図3(a)では、第1の走査レンズ14の一つの面14aに微細凹凸構造が設けられている。図3(a)で、第1の走査レンズ14は、光を走査させる方向(以下、走査方向と呼ぶ)Bにおいて、光学有効領域の中央Cにレンズ中央部31と、光学有効領域における端にレンズ端部32を有する。ここで、レンズ中央部31は、中央C(レンズの走査方向における中心)を含む幅1cmの領域をいい、レンズ端部32は、光学有効領域の端部から幅1cmの領域をいう。
【0022】
本実施形態の第1の走査レンズ14は、走査レンズ系13を通過した後の走査光の光量ばらつきが小さくなるように、波長λの光ビームに対して、透過率分布を有している。
【0023】
例えば、図2に示す光偏向器12を用いて、入射角θが22°~68°の範囲Wの光ビームを走査させる場合について説明する。図2からわかるように、レンズ中央部31に入射させる入射角45°近傍の光ビームは、レンズ端部32に入射させる入射角22°および68°近傍の光ビームに比べて光偏向器12での反射率が低いため、光量が少なくなっている。そこで、第1の走査レンズ14aの波長λの光に対する透過率が、レンズ中央部31においてレンズ端部32より大きくなるように、面14aに微細凹凸構造を設ける。これにより、入射角θが22°~68°の範囲の光ビームについて、走査レンズ系13を通過した後の光量が均一になるようにすることができる。つまり、光偏向器12で偏向走査され、走査レンズ系13に入射する光の光量分布に応じて、走査レンズ系13の透過率に分布を持たせる。以下、単に微細構造と記述する場合がある。
【0024】
第1の走査レンズ14は、レンズ中央部31からレンズ端部32にかけて波長λの光ビームの透過率が単調に減少することが好ましい。
【0025】
図3(b)は、図3(a)の破線で示す領域を(上下反転して)拡大した微細凹凸構造の概略図である。図3に示す走査レンズ14の場合、三角配列された円柱状のホールからなる微細構造によって透過率を制御することにより、主走査方向の光量を調整し、被走査面14上における光量を均一化している。微細凹凸構造は、円柱状のホールに限定されるものではなく、円錐状、角柱状、角錐状のホールであってもよい。また、円柱、円錐、角柱、角錐などの微細な凸部を有する構造であってもよいし、ラインアンドスペースのパターン等を用いることができる。なお、微細構造のピッチは使用条件において回折が生じない範囲であれば良い。ただし、ピッチが小さすぎると製造が困難になるため、実際には100nm以上900nm以下であることが好ましく、300nm以上500nm以下であることがより好ましい。ホール深さは、100nm以上220nm以下が好ましく、110nm乃至210nm以下がより好ましく、125nm以上195nm以下が更に好ましい。
【0026】
図3のような柱状のホール構造の場合、微細構造は、ホールのピッチP、ホールの深さD、空孔率Vで表すことができる。空孔率Vは、単位体積当たりのホールの体積に相当する。回折光が生じないピッチの範囲では、ホール深さDと空孔率Vの一方又は両方を調整することで透過率を制御することができる。
【0027】
まずピッチPについて説明する。λ:光ビームの波長、N[λ]:光ビームの波長における空気の屈折率、N[λ]:光ビームの波長における走査レンズの屈折率とした場合、空気中で回折が生じないためには下記式(1)を満たす必要がある。
P<λ/(N[λ]+N[λ]×sinα) (1)
次に走査レンズ内部で回折が生じないためには下記式(2)を満たす必要がある。
P<λ/(N[λ]+N[λ]×sinα) (2)
次にホール深さDと空孔率Vについて説明する。λ:光ビームの波長、N[λ]:光ビームの波長における微細構造の等価屈折率、N[λ]:光ビームの波長における空気の屈折率、N[λ]:光ビームの波長における走査レンズの屈折率、とする。微細凹凸構造の等価屈折率Nは、空孔率Vを用いた下記式(3)で求めることができる。
N[λ]=N[λ]×V+N[λ]×(1-V) (3)
ピッチPが回折光の生じない範囲であれば、微細構造は、膜厚がホール深さD、屈折率N[λ]の単層膜として扱うことができる。従って、ホール深さDと空孔率Vを用いて一般的な光学計算をすることにより、走査レンズの屈折率、即ち透過率を設計することができる。
【0028】
図4は、図3に示す微細構造の寸法と透過率との相関を示すグラフの一例である。ここで、ピッチPは回折光が生じない範囲とし、光ビームの波長は光源手段として一般的に用いられる790nmとした。図4(a)は、空孔率Vが55%におけるホール深さDと透過率の相関グラフである。また、図4(b)は、深さDが160nmにおける空孔率Vと透過率の相関グラフである。これらのグラフからわかるように、ホール深さ(凹凸の高低差)Dと空孔率Vを用いて、走査レンズの透過率を制御することができる。
【0029】
走査レンズ系の主走査方向に微細構造の寸法分布を設けることで、光偏向器で反射偏向され、走査レンズ系1に入射する光ビームの光量に応じた透過率分布を構成し、被走査面14上における光量を均一化することが可能となる。
【0030】
微細凹凸構造は、走査レンズ系13の透過率を調整する役割を有しているが、同時に面14aの表面で生じる光反射を防止する効果も有する。その結果、面14aの表面における反射によって生じる迷光を低減し、迷光による光量ムラの発生を抑制することができる。以上、第1の走査レンズ14の一つの面14aにのみ微細凹凸構造を設ける例を説明したが、微細凹凸構造は、光ビームが通過する、第1走査レンズ1の面14aおよび14b、第2走査レンズ15の面15aおよび15bの少なくともいずれか1つに設ければよい。さらに、面14a、14b、15a、15bのうち任意の2面、あるいは3面、あるいは全面に設けてもよく、微細凹凸構造を形成する面が多いほど、1面あたりの微細構造の寸法分布を小さくすることができる。
【0031】
(電子写真装置)
本発明にかかる走査光学系を、複写機や複合機のレーザー光学系に用いた画像形成装置について説明する。図5は、複写機の概略図である。複写機51は、画像読み取り部52と画像形成部53を有する。画像形成部53は、レーザー光学系50を有している。
【0032】
画像形成部53は、さらに、レーザー走査装置の被走査面に配置された感光ドラム54と、感光ドラム上を光束が走査することによって形成された静電潜像をトナー像として現像する現像手段55と、を有している。画像形成部53は、現像されたトナー像を用紙Pに転写する転写手段56と、転写されたトナー像を用紙に定着させる定着手段57と、を備えている。
【0033】
レーザー光学系50に、本発明にかかるレーザー光学系を用いることにより、感光ドラムに走査される光量を均一化して高画質の画像形成をすることができる。また、前述したように、微細凹凸構造は、走査レンズ系13の透過率を調整すると同時に反射防止する効果を有しているため、表面における反射によって生じる迷光を低減することができる。従って、迷光によって生じる光量ムラ(いわゆるゴースト)を抑制することができ、より高画質な画像を実現することができる。
【0034】
(走査レンズの製造方法)
図6を用いて、本実施形態の走査レンズに微細構造を形成する方法について説明する。
【0035】
図6(a)に示すように、走査レンズを成形するための射出成形金型61を準備する。射出成形金型61はステンレス製の基部61aとニッケル合金製の鏡面部61bから構成される。
【0036】
図6(b)に示すように、スピンコート法によりフォトレジスト層62を形成する。スピンコートは、500rpm以上4000rpmで、10秒以上60秒以下で行うことができる。フォトレジスト層の膜厚は、100nm以上10000nmが好ましく、100nm以上500nm以下がより好ましい。
【0037】
図6(c)に示すように、干渉露光法により露光したのち、現像することによりフォトレジストパターン63を得ることができる。干渉露光は、波長が254以上365nm以下のレーザー光で、露光時間は0.1秒以上10秒以下で行うことができる。
【0038】
図6(d)に示すように、めっき法によりフォトレジストパターンの凹部にニッケル合金パターン64を成長させる。
【0039】
図6(e)に示すように、Arイオンを用いたイオンミリング法にてニッケル合金パターン64の高さを調整する。中央部から端部に向かって単調に高さ増すように各エリアのミリング時間を制御する。
【0040】
図6(f)に示すように、剥離液を用いた超音波洗浄によりフォトレジストパターン63を除去して、走査レンズ表面に形成される微細構造の反転構造が形成された微細構造金型65を得る。
【0041】
次に、図6(g)に示すように、微細構造金型65を用いて射出成形することにより、走査レンズの成形と同時に、表面に微細構造を転写する。このようにして表面に微細構造を有する走査レンズ14,15を得る。
【0042】
なお、微細構造を形成しない面は、ステンレス製の基部の上にニッケル合金の鏡面部を有する金型によって形成される。
【実施例
【0043】
以下の実施例および比較例では以下の方法で評価した。
【0044】
(透過率の測定方法)
透過率は、分光器装置(日本分光製、V-7300DS)を用いて測定した。透過光は測定対象であるレンズにより屈折するため、積分球を用いることで評価した。レンズ中央部およびレンズ端部それぞれにおける透過率は、それぞれの領域に含まれる任意のφ1mmの領域で評価した。
【0045】
(反射率の測定方法)
反射率は、顕微分光装置(ラムダビジョン製、LVmicro)を用いて測定した。測定波長は380nm~1600nmとし、790nmの反射率の値を用いて評価した。レンズ中央部およびレンズ端部それぞれにおける反射率は、それぞれの領域に含まれる任意のφ1mmの領域で評価した。
【0046】
(被走査面上の光量分布評価)
光量分布は、LBP製品向けに設計された走査光学系と同様に各部材を配置し、被捜査面の位置に光量センサーを設置することにより測定した。
【0047】
(実施例1)
実施例1は、図1の走査光学系で、第1の光学素子14の光偏向器12側の光学面14aだけに、微細凹凸構造と透過率分布を設けた。光偏向器12は図2に示す入射角依存性を有し、使用する入射角θの範囲は22°~68°とする。なお、他の面は鏡面であり透過率分布も設けていない。
【0048】
まず、以下の方法で、第1の光学素子14の光学面に微細構造を設けた。
【0049】
図6を用いて本発明の第1の実施例における微細構造の形成方法について説明する。図6は実施例1の工程断面図である。
【0050】
まず、図6(a)に示すように、走査レンズを成形するための射出成形金型61を準備した。射出成形金型61はステンレス製の基部61aとニッケル合金製の鏡面部61bから構成されているものを用いた。
【0051】
図6(b)に示すように、スピンコート法によりフォトレジスト層62を形成した。スピンコート条件は1000rpm/20秒とし、フォトレジスト層の膜厚はおよそ350nmであった。
【0052】
次に、図6(c)に示すように、干渉露光法により露光したのち、現像することによりフォトレジストパターン63を得た。実施例1では周期400nmで三角格子配列のホールパターンを形成した。また、ホールの直径は約312nmであり、深さはフォトレジスト層の膜厚と同等の約350nmであった。
【0053】
次に、図6(d)に示すように、めっき法によりフォトレジストパターンの凹部にニッケル合金パターン64を成長させた。ニッケル合金パターン64の高さがおよそ310nmになるように、めっき時間を調整した。
【0054】
次に、数100μm□のエリア単位でArイオンを用いたイオンミリング法を行い、図6(e)に示すようにニッケル合金パターン64の高さを調整した。実施例1では、ミリング時間を調整することにより、中央部の高さを約160nm、端部の高さを約243nmとした。また、使用する光の光偏向器12の入射角依存性に応じて、中央部から端部に向かって単調に高さ増すように各エリアのミリング時間を制御した。
【0055】
次に、図6(f)に示すように、剥離液を用いた超音波洗浄によりフォトレジストパターン63を除去した。この際、イオンミリング時にフォトレジストパターン63の側壁に付着したニッケル合金も一緒に除去された。超音波洗浄後、さらに電解洗浄によりニッケル合金パターン64の表面を洗浄し、走査レンズ表面に形成される微細構造の反転構造が形成された微細構造金型65を得た。
【0056】
次に、図6(g)に示すように、微細構造金型65とステンレス製の基部とニッケル合金製の鏡面部からなる、微細構造が形成されていない金型と、を用いて射出成形することにより、走査レンズの成形と同時に、表面に微細構造を転写した。このようにして表面に微細構造を有する走査レンズ14を得た。実施例1で得られた走査レンズ14表面の微細構造に関して中央部、端部、及び中央部と端部の中間部の3か所を電子顕微鏡観察した結果、ほぼ微細構造金型65の微細構造の反転構造が得られた。
【0057】
第2の走査レンズ15は通常の射出成形金型を用いて射出成形することにより得た。
【0058】
作製した走査レンズ14、15を用いて走査レンズ系13を構成し、LBP製品の走査光学系と同様に図1に記載の光学系を作製して、評価をした。評価結果を表1に示す。
【0059】
(実施例2)
実施例2は、第1の走査レンズ14の光学面14a、14bおよび第2の走査レンズの光学面15a、15bに微細凹凸形状を形成した点、光学面15bにのみ透過率分布を形成した以外は実施例1と同様にした。実施例2の光学面15bの透過率分布は、実施例1の光学面14aの透過率分布と同等にした。
【0060】
実施例2では、以下の工程以外は実施例1と同様にして走査光学レンズ14を作製した。
【0061】
図6(a)から図6(c)は、実施例1と同様にした。
【0062】
次に、図6(d)めっき法によるニッケル合金パターン64の形成において、高さがおよそ200nmになるようにめっき時間を調整した。
【0063】
次に、図6(e)Arイオンを用いたイオンミリング法によるニッケル合金パターン64の高さ調整において、中央部の高さを約181nm、端部の高さを約76nm、中央部から端部に向かって単調に低くなるように各エリアのミリング時間を制御した。
【0064】
図6(f)から図6(g)は、実施例1同様にして、表面に微細構造を有する走査レンズ14を得た。
【0065】
実施例2の光学系の評価結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
実施例3は、第2の走査レンズ15の光学面15a、15bの2面において透過率分布を形成した以外は実施例2と同様にした。
【0067】
実施例3では、以下の工程以外は実施例1と同様にして走査光学レンズ15を作製した。
【0068】
図7を用いて実施例3における微細構造の形成方法について説明する。なお、図7では、微細構造が形成される過程を片側の面だけ示している。
【0069】
図7(a)に示すように、走査レンズを成形するための射出成形金型71を準備した。射出成形金型71は、ステンレス製の基部71aとニッケル合金製の鏡面部71bから構成されているものを用いた。
【0070】
図7(b)に示すように、スパッタ法によりチタン膜72と二酸化ケイ素膜73を成膜した。実施例3ではチタン膜72の膜厚を約50nm、二酸化ケイ素膜73の膜厚を約200nmとした。
【0071】
図7(c)に示すように、スピンコート法によりフォトレジスト層74を形成した。実施例3におけるスピンコート条件は3000rpm/20秒とし、フォトレジスト層の膜厚はおよそ150nmであった。
【0072】
次に、図7(d)に示すように、EB描画法により露光した後、現像することによりフォトレジストパターン75を得た。実施例3では周期450nmで三角格子配列のピラーパターンを形成した。また、ピラー直径を中央部で約350nm、端部で約401nmとし、中央部から端部に向かって単調に直径が広くなるように描画した。高さはフォトレジスト層の膜厚と同等の約150nmであった。
【0073】
次に、図7(e)に示すように、CHF3ガスを用いたドライエッチング法によりフォトレジストパターンの凹部に露出した二酸化ケイ素膜73をドライエッチングし、二酸化ケイ素パターン76を得た。実施例3では二酸化ケイ素パターン76の高さが約160nmとなるようにエッチング時間を制御した。
【0074】
次に、図7(f)に示すように、酸素アッシング法によりレジストパターン75を除去した。その後、二酸化ケイ素パターン76の表面に単分子離型膜(不図示)を形成することで、微細構造金型77を得た。
【0075】
次に、微細構造金型77と同様の方法で作製した、走査レンズ15の他方の面に形成する微細構造に応じた凹凸を有する微細構造金型と微細構造金型77とを用いて射出成形を行った。このような方法により、図7(g)に示すように走査レンズの成形と同時に、表面に微細構造が転写された。このようにして両側の表面に微細構造を有する第2の走査レンズ15を得た。実施例3で得られた第2の走査レンズ15表面の微細構造に関して中央部、端部、及び中央部と端部の中間部の3か所を電子顕微鏡観察した結果、ほぼ微細構造金型77の微細構造の反転構造が得られていた。
【0076】
(実施例4)
実施例4は、第1の走査レンズ14の光学面14b、第2の走査レンズの光学面15a、15bの3面に透過率分布を形成した点以外は実施例1と同様にした。光学面14b、15a、15bは、各面とも中央部と端部の間は単調に透過率を変化させた。
【0077】
実施例4では、以下の工程以外は実施例3と同様にして第1の走査レンズ14および第2の走査レンズ15を作製した。
【0078】
図7(a)から図7(c)は、実施例3と同様にした。
【0079】
次に、図7(d)EB描画法によるフォトレジストパターン73の形成において、15b面用の金型では、周期300nmで三角格子配列のピラーパターンを形成した。ピラー直径は中央部で約234nm、端部で約202nmとし、中央部から端部に向かって単調に直径が狭くなるように描画した。光学面15a及び光学面15bの反転構造を有する金型では、周期200nmで三角格子配列のピラーパターンを形成した。ピラー直径は中央部で約156nm、端部で約119nmとし、中央部から端部に向かって単調に直径が狭くなるように描画した。深さはフォトレジスト層の膜厚と同等の約150nmであった。
【0080】
次に、図6(e)から図6(g)の工程は実施例3と同様にして、表面に微細構造を有する走査レンズ14、15を得た。
【0081】
(実施例5)
実施例5は、4つの光学面14a、14b、15a,15bに透過率分布を形成した以外は実施例4と同様にした。透過率分布は、中央部の透過率を99.99%、端部の透過率を99.40%とし、中央部と端部の間は単調に透過率を変化させた。
【0082】
実施例5では、以下の工程以外は実施例1と同様にして走査光学レンズ14を作製した。
【0083】
図6(a)から図6(c)の工程は、実施例1と同様にした。
【0084】
次に、図6(d)めっき法によるニッケル合金パターン64の形成において、高さがおよそ200nmになるようにめっき時間を調整した。
【0085】
次に、図6(e)Arイオンを用いたイオンミリング法によるニッケル合金パターン64の高さ調整において、中央部の高さを約160nm、端部の高さを約122nm、中央部から端部に向かって単調に低くなるように各エリアのミリング時間を制御した。
【0086】
図6(f)から図6(g)は、実施例1同様にして、表面に微細構造を有する走査レンズ14を得た。
【0087】
【表1】
【0088】
(評価)
実施例1では、第1の走査レンズ14の光学面14aだけに円柱状のホール有する微細構造を設けた。ホールの深さが中央部から端部にかけて高くなるように形成することで、レンズ中央部の透過率を99.99%、レンズ端部の透過率を97.60%となり、レンズ中央部とレンズ端部の間は単調に透過率が変化していた。被走査面16上の光量分布を均一化することができた。一方、第1の走査レンズ14の光学面14aの中央部の反射率は1%以下となっているが、その他の光学面の反射率は1%より高くなっていた。
【0089】
反射率1%が超える領域での反射による迷光が生じてしまうものの、被走査面16上に最も到達しやすい光学面14a中央部の反射率が1%以下となっているため、被走査面16上において十分に均一な光量分布を実現することができた。
【0090】
実施例2では、被走査面16上の光量分布を均一化することができた。さらに、走査レンズ系の第1の走査レンズ14の光学面14a,14bおよび第2の走査レンズ15の光学面15a、15bでの反射を抑制して透過率を高くしたため、光ビームのロスを少なくすることができた。光ビームのロスの減少は、光源の低コスト化又は走査速度の向上になった。第2の走査レンズ15の光学面15bの端部の反射率が1%より高くとなっているが、その他の光学面では反射率が1%以下となっていたので、被走査面16上において十分に均一な光量分布が得られることが確認された。
【0091】
実施例3では、実施例2と同様に被走査面16上の光量分布を均一化することができ、走査レンズ系の全面の透過率を高くしたため、光ビームのロスを少なくすることができた。さらに、走査レンズ表面を2面使って透過率分布を設けたため、1面あたりの透過率分布を小さくすることができた。光学面15aおよび15bの端部の反射率を、実施例2の光学面15bの端部よりも抑制することができたが、反射率を1%以下とすることはできなかった。しかし、すべての光学面の中央部における反射率が1%以下であったため、被走査面16上において十分に均一な光量分布を実現することができた。
【0092】
実施例4では、実施例3と同様に被走査面16上の光量分布を均一化することができ、光ビームのロスを少なくすることができた。さらに、走査レンズ表面を3面使って透過率分布を設けたため、1面あたりの透過率分布を小さくすることができ、全光学面の反射率を1%以下にすることができ、実施例1~3に比べて迷光が低減され、被走査面16上においてより均一な光量分布が得られた。
【0093】
実施例5では、実施例4と同様に被走査面16上の光量分布を均一化することができ、光ビームのロスを少なくすることができた。また、全光学面の反射率を1%以下にすることができた。実施例4と同様に、迷光が低減され、被走査面16上においてより均一な光量分布が得られた。
【0094】
実施例1~5の結果から、レンズ中央部とレンズ端部の透過率の差を1.9%未満にすることができた。また、第1のレンズ14および第2のレンズ15について、中央部から端部まで反射率を1.0%以下にすることにより、被走査面16上において他の実施例に比べてさらに均一な光量分布が得られた。
【符号の説明】
【0095】
11 光源
12 光偏向器
13 走査レンズ系
14 第1の走査レンズ
15 第2の走査レンズ
16 被走査面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8