(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】キャップ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 41/34 20060101AFI20241021BHJP
【FI】
B65D41/34 ZAB
(21)【出願番号】P 2020160809
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】川村 伸生
(72)【発明者】
【氏名】梅木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】大久保 健太
【審査官】二ッ谷 裕子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-133164(JP,A)
【文献】特開2020-100407(JP,A)
【文献】登録実用新案第3150064(JP,U)
【文献】特開2010-222482(JP,A)
【文献】特開昭62-122956(JP,A)
【文献】特開昭64-84854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペットボトルである容器の口部に装着されて使用され
、開栓の際に容器口部から離脱するキャップ本体と容器口部から離脱せずにとどまるタンパーエビデンスバンドとを有するキャップであって、
複数種類の植物由来原料を混合した樹脂原料で成形し、
前記キャップの成形に用いる原料に占める前記樹脂原料の配合率を95%以上としてあ
り、
前記樹脂原料のMFR(190℃、荷重2.16kg(JIS K7210))が2~5g/10分、密度が0.954~0.957g/cm
3
、曲げ弾性率が1200~1400MPa、ESCR(耐環境応力き裂性)が2時間以上であることを特徴とするキャップ。
【請求項2】
請求項
1に記載のキャップの製造方法であって、
前記原料を用いたインジェクション成形またはコンプレッション成形により、前記キャップを成形するキャップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、飲料物等の内容物を収容する容器の口部に装着されるキャップ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の枯渇問題等の背景から、バイオマスが注目され、従来の石油由来樹脂からなるキャップにバイオマス(バイオマスプラスチック)を用いることが検討されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】登録実用新案第3150064号公報
【文献】特許第4456681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、バイオマスは、石油由来樹脂と異なる性質を示すため、キャップに所望の性状を持たせながら、バイオマスの配合率を高めるといった両立を図るのは困難である。
【0005】
本発明者らは、バイオマスのうちの植物由来原料に着目し、鋭意研究の結果、植物由来原料の配合率を高めながらキャップに所望の性状を持たせる技術を開発するに至った。
【0006】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、植物由来原料の配合率を高めながら所望の性状を持たせるのを容易とするキャップ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るキャップは、ペットボトルである容器の口部に装着されて使用され、開栓の際に容器口部から離脱するキャップ本体と容器口部から離脱せずにとどまるタンパーエビデンスバンドとを有するキャップであって、複数種類の植物由来原料を混合した樹脂原料で成形し、前記キャップの成形に用いる原料に占める前記樹脂原料の配合率を95%以上としてあり、前記樹脂原料のMFR(190℃、荷重2.16kg(JIS K7210))が2~5g/10分、密度が0.954~0.957g/cm
3
、曲げ弾性率が1200~1400MPa、ESCR(耐環境応力き裂性)が2時間以上である(請求項1)。
【0008】
本発明に係るキャップの製造方法は、請求項1に記載のキャップの製造方法であって、前記原料を用いたインジェクション成形またはコンプレッション成形により、前記キャップを成形する(請求項2)。
【発明の効果】
【0009】
本願発明では、植物由来原料の配合率を高めながら所望の性状を持たせるのを容易とするキャップ及びその製造方法が得られる。
【0010】
すなわち、本願の各請求項に係る発明のキャップでは、複数種類の植物由来原料を混合することにより、キャップに所望の性質・機能(開栓性・密封性・耐久性等)を持たせることが容易になり、ひいては、植物由来原料の配合率を高めながら所望の性状を持たせることも容易となる。
【0011】
樹脂原料のMFR(190℃、荷重2.16kg(JIS K7210))を1~8g/10分とすることにより、取扱い性、高速成形性(コンプレッション成形)、シール強度、易開封性等を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るキャップを備えた容器の要部の構成を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0014】
図1に示すキャップ1は、例えばペットボトル等の容器の口部Mに装着されて使用されるものである。なお、
図1において、キャップ1の右半分の図示は省略してある。
【0015】
そして、キャップ1は、平面視において略円形状の天壁2と、この天壁2の外周部から下向きに延びる略円筒状のスカート壁3を有している。ここで、スカート壁3の外周面にはローレット溝4を、内周面には雌ねじ5を設けてあり、この雌ねじ5は容器口部Mの外周に形成された雄ねじM1に結合可能である。
【0016】
また、キャップ1は、未開封(開栓が一度もされていないこと)を証明する機能を有するピルファープルーフキャップであり、スカート壁3の下側には、スカート壁3の全周にわたって延びる環状弱化部6を介してタンパーエビデンスバンド(以下、単に「バンド」という)7を連結してある。
【0017】
すなわち、環状弱化部6は、スカート壁3とバンド7とを上下に画するものであり、スカート壁3及びバンド7の周方向に断続して延びる(ミシン目状の)スリットと、隣り合うスリットの間に存在するブリッジとで構成され、ブリッジは所定の力で引っ張られると破断する。
【0018】
そして、このバンド7の内周側には、内向きに突出するフック8を、周方向に間隔をおいて複数(例えば5個)設けてある。各フック8は、キャップ1が容器口部に装着された状態で、容器口部Mの外周において雄ねじM1よりも下方に形成された環状突起(ビード部)9の略下側へ位置し、開封操作によって環状突起9に係止する。すなわち、フック8は、環状突起9に下方から係止可能に構成されている。
【0019】
図1に示す状態からキャップ1を開封方向に回転させると、容器口部Mに対してキャップ1が相対的に上昇し、やがてフック8が環状突起9に下方から係止する状態となる。そして、さらにキャップ1を開封方向に回転させると、環状突起9に対するフック8の係止により、バンド7は容器口部Mから離脱せずにとどまり、天壁2及びスカート壁3からなるキャップ本体は容器口部Mから離脱する。すなわち、最初の開栓の際に、容器口部Mから離脱する容器本体と離脱しないバンド7とをつなぐブリッジ(つまりは環状弱化部6)は破断するのであり、環状弱化部6の破断の有無を視認することにより、開封操作が行われたか否かを容易に確認することができる。
【0020】
そして、キャップ1は、例えばインジェクション成形またはコンプレッション成形により成形されるのであり、本例では、複数種類の植物由来原料を混合した樹脂原料でキャップ1を成形する。
【0021】
本例は、キャップ1に植物由来原料を用いるので地球環境の保全に資するものとなる。また、複数種類の植物由来原料を混合することにより、キャップ1に所望の性質・機能(開栓性・密封性・耐久性等)を持たせることが容易になり、ひいては、植物由来原料の配合率を高めながら所望の性状を持たせることも容易となる。
【0022】
ここで、樹脂原料のMFR(190℃、荷重2.16kg(JIS K7210))が1~8g/10分とすることにより、取扱い性、高速成形性(コンプレッション成形)、シール強度、易開封性等を高めることができる。この際、樹脂原料に用いる複数種類の植物由来原料につき、それぞれのMFRが上記範囲にある必要はなく、混合後に上記範囲にあるように複数種類の植物由来原料を配合すればよいので、樹脂原料に用いることができる植物由来原料の選択肢をそれだけ広げることができる。
【0023】
このことから明らかなように、複数種類の植物由来原料は、MFRに限らず、例えば、密度、曲げ弾性率、ESCR(耐環境応力亀裂性)等が相互に大きく異なっていてもよい。なお、ESCRは、ASTM規格 D1693に記載されている耐環境応力亀裂性である。
【0024】
例えば、二種類の植物由来原料を混合(ブレンド)した樹脂原料でキャップ1を成形する場合、相対的にESCRが大きい植物由来原料と、相対的に密度、MFR、曲げ弾性率が大きい植物由来原料を用いる、といったことが可能である。
【0025】
実際に、密度が0.952g/cm3 、MFR(190℃、荷重2.16kg(JIS K7210))が1.6g/10分、曲げ弾性率が1175±5MPa、ESCR(耐環境応力き裂性)が15時間のポリエチレンである植物由来原料Aと、密度が0.959g/cm3 、MFR(190℃、荷重2.16kg(JIS K7210))が7.2g/10分、曲げ弾性率が1431±22MPa、ESCR(耐環境応力き裂性)が3時間のポリエチレンである植物由来原料Bとを用いて確認したところ、これらをそれぞれ単独で用いてキャップ1を成形しても混合してキャップ1を成形しても、成形性に問題は無かった。
【0026】
また、植物由来原料A,Bの単独、混合いずれで用いても、
図1に示すようにフック8が設けられたキャップ1では開栓性にも問題は生じなかったが、フック8の代わりにフラップ片(特許文献2の
図1に記載のようなフラップ片25)が設けられているキャップでは、開栓の際に、環状弱化部6のブリッジが破断するよりも先にリークが生じてしまうことがあった。
【0027】
また、植物由来原料Aを100%、75%、50%、25%、0%(植物由来原料Bを0%、25%、50%、75%、100%)の5通りに配合して成形した各キャップ1を10個ずつ用意し、それぞれの寸法を測定したところ、植物由来原料Aが25%及び0%のキャップ1では、アウターリング10の外径が他のキャップ1よりもひと際大きくなることが確認された。
【0028】
その他にも種々の試験を行ったが、植物由来原料A,Bの単独、混合いずれで用いても、キャップ1に問題は見当たらなかった。
【0029】
以上より、植物由来原料A,Bを50%ずつ配合した場合、特に良好な機能を発揮するキャップ1が得られたのであり、このことからも、植物由来原料を単独で用いるより、複数種類を混合して用いることにより、キャップ1に所望の性質・機能(開栓性・密封性・耐久性等)を持たせることが容易になるといえる。
【0030】
もちろん、キャップ1の成形につき、上記樹脂原料のみを用いず、上記樹脂原料以外の原料を混合するようにしてもよいが、環境保全等の観点から、キャップ1の成形に用いる原料に占める上記樹脂原料の配合率を95%以上とするのが好ましく、98%以上とするのがより好ましい(着色成分を除く)。
【0031】
そして、特に、複数種類の植物由来原料(ポリエチレン)を混合して樹脂原料を得るに際し、密度が0.954~0.957g/cm3 、MFRが2~5g/10分、曲げ弾性率が1200~1400MPa、ESCR(耐環境応力き裂性)が2時間以上、という条件を満たすようにした樹脂原料では、これを用いて成形したキャップ1の開栓性、密封性、耐久性等が優れたものとなることを本発明者らは確認した。換言すれば、斯かる樹脂原料を得るために用いる複数種類の植物由来原料のそれぞれは、その密度、MFR、曲げ弾性率、ESCRの少なくとも何れか一つが上記各範囲に無くてもよいということである。
【0032】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
1 合成樹脂製キャップ
2 天壁
3 スカート壁
4 ローレット溝
5 雌ねじ
6 環状弱化部
7 タンパーエビデンスバンド
8 フック
9 環状突起
10 アウターリング
M 容器口部
M1 雄ねじ