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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】防汚性膜形成用液組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20241021BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20241021BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241021BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20241021BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/16
C09D7/61
C09D7/20
C09K3/18 104
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020169506
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2022061541
(43)【公開日】2022-04-19
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-051976(JP,A)
【文献】特開2009-191101(JP,A)
【文献】特開2009-154480(JP,A)
【文献】特開2020-158649(JP,A)
【文献】特表2012-516913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(19)から式(27)のいずれか1つで示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有化合物(A)と、平均粒子径2nm~90nmの粒子状の金属酸化物である金属酸化物粒子(B)と、シリカゾルゲル(C)と、溶媒(D)と、層状無機化合物(E)とを含み、
層状無機化合物(E)は、スメクタイト系層状無機化合物またはバーミキュライトであり、
前記溶媒(D)を除く全成分量を100質量%とするとき、前記フッ素含有化合物(A)の含有割合が0.5質量%~10質量%である防汚性膜形成用液組成物。
【化6】
【化7】
上記式(19)から式(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【請求項2】
前記溶媒(D)を除く全成分量を100質量%とするとき、前記金属酸化物粒子(B)と前記層状無機化合物(E)を合計した含有割合が5.0質量%~75.0質量%である請求項1記載の防汚性膜形成用液組成物。
【請求項3】
前記金属酸化物粒子(B)が、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属の酸化物粒子である請求項1又は2記載の撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法。
【請求項4】
前記層状無機化合物(E)が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティブンサイト又はバーミキュライトである請求項1又は2記載の防汚性膜形成用液組成物。
【請求項5】
前記溶媒(D)が、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記炭素数1~4のアルコール以外の有機溶媒との混合溶媒である請求項1記載の防汚性膜形成用液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性及び撥油性(以下、撥水撥油性という。)を有する防汚性膜を形成するための液組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の防汚性膜形成用液組成物として、本出願人は、シリカゾルゲルを主とする成分並びに溶媒を含み、前記シリカゾルゲルを100質量%とするときに、前記シリカゾルゲルがペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分を0.5質量%~10質量%と炭素数2~7のアルキレン基含有成分を0.5質量%~20質量%含み、前記溶媒が、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒であることを特徴とする膜形成用液組成物を提案した(特許文献1(請求項1)参照。)。
【0003】
この膜形成用液組成物によれば、液組成物がシリカゾルゲルを主成分とするため、高い強度の塗膜が得られ、かつ塗膜の基材への密着性が良好となる。また液組成物がペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分と炭素数2~7のアルキレン基成分をそれぞれ特定の割合で含むため、形成した膜に優れた撥水撥油性と離型性を付与することができる。また溶媒が、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒であるため、塗膜を成膜性良く形成することができる。更にシリカゾルゲル中に炭素数2~7のアルキレン基成分を含むため、この液組成物は乾燥過程にレベリング性が改善され、形成した膜は厚さが均一で虹色の干渉縞を発生しない。ここで干渉縞とは、液組成物を塗布した後の溶媒が揮発する乾燥過程で、膜の薄い部位から徐々に揮発していくときに膜表面で反射する光が干渉し合って生じ、膜の外観を損なう縞模様をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6609382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示される膜形成用液組成物は、油汚れ防止等には優れた効果が得られているが、浄水の殺菌剤として用いられる次亜塩素酸カルシウムであるカルキの付着を防止する効果が不十分であった。これは、ペルフルオロアミン構造を持つ含窒素フッ素系化合物が、ペルフルオロ基に柔軟性が少なく、膜が不均一に形成され易いためであった。そこで、この含窒素フッ素系化合物の代わりに、油汚れ防止とともに、カルキの付着を防止する効果も得られる防汚性膜形成用液組成物が求められていた。また、特許文献1に示される膜形成用液組成物は、形成した膜の厚さは均一であるものの、膜形成用液組成物のチキソトロピー性が低いため、形成した膜表面に塗布ムラや塗布筋が残存し易く良好な外観を得ることが困難であった。
【0006】
本発明の目的は、形成した膜に撥水撥油性と防汚性の機能を付与するとともに、膜の外観に優れ、基材への密着性が良好で、強度が高く、カルキの付着防止性に優れた膜を形成可能な防汚性膜形成用液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、下記の式(19)から式(27)のいずれか1つで示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有化合物(A)と、平均粒子径2nm~90nmの粒子状の金属酸化物である金属酸化物粒子(B)と、シリカゾルゲル(C)と、溶媒(D)と、層状無機化合物(E)とを含み、層状無機化合物(E)は、スメクタイト系層状無機化合物またはバーミキュライトであり、前記溶媒(D)を除く全成分量を100質量%とするとき、前記フッ素含有化合物(A)の含有割合が0.5質量%~10質量%である防汚性膜形成用液組成物である。
【0008】
【化6】
【化7】
【0009】
上記式(19)から式(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0010】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記溶媒を除く全成分量を100質量%とするとき、前記金属酸化物粒子(B)と前記層状無機化合物(E)を合計した含有割合が5.0質量%~75.0質量%である防汚性膜形成用液組成物である。
【0011】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、前記金属酸化物粒子が、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属の酸化物粒子である撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法である。
【0012】
本発明の第4の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、前記層状無機化合物が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティブンサイト又はバーミキュライトである防汚性膜形成用液組成物である。
【0013】
本発明の第5の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記溶媒が、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記炭素数1~4のアルコール以外の有機溶媒との混合溶媒である防汚性膜形成用液組成物である。
【発明の効果】
【0014】
液組成物が上述した式(19)から式(27)のいずれか1つで示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有化合物(A)を含むため、形成した膜に優れた撥水撥油性と防汚性の機能を付与することができる。特に、フッ素含有化合物(A)が特許文献1に示されるペルフルオロアミン構造でなく、ペルフルオロエーテル構造であるため、ペルフルオロアミン構造と比べて柔軟な構造を取り易く、撥水撥油性に優れるとともに、膜が均一に形成されてカルキの付着を防止することができる膜を得やすい。また液組成物がシリカゾルゲルを含むため、高い強度の塗膜が得られ、かつ塗膜の基材への密着性が良好となる。また液組成物が金属酸化物粒子を含むため、高い強度の塗膜が得られ、かつ塗膜の基材への密着性が良好となる。更に液組成物が層状無機化合物を含むため、塗布した液組成物の乾燥過程で塗布物のレベリング性が改善され、膜が均一に形成されてカルキの付着を防止できるとともに、形成した膜に虹色の干渉縞を発生せず、膜表面に塗布ムラや塗布筋が残存せずに良好な膜の外観が得られ、膜の強度も高まる。
【0015】
本発明の第2の観点の防汚性膜形成用液組成物では、前記溶媒を除く全成分量を100質量%とするとき、前記金属酸化物粒子(B)と前記層状無機化合物(E)を合計した含有割合が5.0質量%~75.0質量%であるため、高い強度の塗膜が得られ、かつ膜表面に塗布ムラや塗布筋が残存せずに良好な膜の外観が得られる。
【0016】
本発明の第3の観点の防汚性膜形成用液組成物では、前記金属酸化物粒子が、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属酸化物粒子であるため、多種の金属酸化物粒子の中から、形成する膜の用途又は使用環境に適した金属酸化物粒子を含むことができる。
【0017】
本発明の第4の観点の防汚性膜形成用液組成物では、前記層状無機化合物が、モンモリロナイト等であるため、モンモリロナイト等の有する多層構造及び大きな膨潤性により容量の大きな層間を有し、これにより、ある程度のチキソトロピー性を付与することで、塗布した膜がより均一に形成され、膜表面に塗布ムラや塗布筋が残存せずに、より良好な膜の外観が得られ、かつ膜の強度もより高まる。
【0018】
本発明の第5の観点の防汚性膜形成用液組成物では、溶媒が、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記炭素数1~4のアルコール以外の有機溶媒との混合溶媒であるため、塗膜を成膜性良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態の防汚性膜形成用液組成物の第1の製造方法によるフロー図である。
図2】本実施形態の防汚性膜形成用液組成物の第2の製造方法によるフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0021】
〔防汚性膜形成用液組成物の製造方法〕
本実施形態の防汚性膜形成用液組成物の製造方法を説明する。この製造方法は2通りある。第1の製造方法は、図1に示すように、先ず、ケイ素アルコキシド11とアルコール12とフッ素含有官能基成分を含むフッ素系化合物13と層状無機化合物14と金属酸化物粒子15と水16とを混合して混合液を調製する。次いでこの混合液と触媒17とを混合してケイ素アルコキシドを加水分解することによりフッ素含有シリカゾルゲル液18を調製する。このフッ素含有シリカゾルゲル液18を溶媒19で希釈して、防汚性膜形成用液組成物20を調製する。
【0022】
本実施形態の防汚性膜形成用液組成物の第2の製造方法は、図2に示すように、先ず、ケイ素アルコキシド21とアルコール22とフッ素含有官能基成分を含むフッ素系化合物23と金属酸化物粒子25と水26とを混合して混合液を調製する。次いでこの混合液と触媒27とを混合してケイ素アルコキシドを加水分解することによりフッ素含有シリカゾルゲル液28を調製する。このフッ素含有シリカゾルゲル液28を溶媒29で希釈する際に、層状無機化合物24を添加し混合して、防汚性膜形成用液組成物30を調製する。
第1及び第2の製造方法とも、上記混合液を調製する際に、成膜性を向上させるため、又は乾燥速度を向上させるために、アルコールとともに、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素を加えて混合してもよい。
第1の製造方法の長所は、最初に層状無機化合物を含む原料を混合するため、製造が簡略化できる点にある。また第2の製造方法の長所は、層状無機化合物を後から添加し混合するため、液組成物のバリエーションを簡単に増やせる点にある。
【0023】
上記ケイ素アルコキシドとしては、具体的には、テトラメトキシシラン、そのオリゴマー又はテトラエトキシシラン、そのオリゴマーが挙げられる。例えば、硬度の高い膜を得る目的には、テトラメトキシシランを用いることが好ましく、一方、加水分解時に発生するメタノールを避ける場合は、テトラエトキシシランを用いることが好ましい。
【0024】
上記アルコールとしては、炭素数1~4のアルコールが挙げられる。この炭素数1~4の範囲にあるアルコールとしては、炭素数がこの範囲にある1種又は2種以上のアルコールが挙げられ、例えば、メタノール(沸点64.7℃)、エタノール(沸点約78.3℃)、プロパノール(n-プロパノール(沸点97-98℃)、イソプロパノール(沸点82.4℃))が挙げられる。特にメタノール又はエタノールが好ましい。これらのアルコールは、ケイ素アルコキドと混合し易いためである。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。
【0025】
上記層状無機化合物としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティブンサイト等のスメクタイト系層状無機化合物又はバーミキュライトが前述した理由で好ましい。
【0026】
上記金属酸化物粒子は、2nm~90nm、好ましくは2nm~85nmの平均粒子径を有する。平均粒子径が2nm未満では、金属酸化物粒子の凝集が起こりやすくなり、媒体中に分散しにくくなる。90nmを超えると、液組成物を成膜したときに、金属酸化物粒子が防汚性膜から脱落する。金属酸化物粒子としては、SiO2、Al23、MgO、CaO、TiO2、ZnO、ZrO2の粒子、これらの混合粒子、MgAl24等の複合酸化物粒子等が例示される。
【0027】
上記混合液は、第1の製造方法では、ケイ素アルコキシドに、炭素数1~4の範囲にあるアルコールとフッ素系化合物と層状無機化合物と金属酸化物粒子を添加混合した後、水を添加して調製することが好ましい。この調製は、好ましくは10~30℃の温度で5~20分間撹拌して行われる。
第2の製造方法では、上記混合液に層状無機化合物が含まれないこと、及び層状無機化合物がフッ素含有シリカゾルゲル液に添加されること以外は、第1の製造方法と同様に行われる。
【0028】
上記触媒としては、有機酸、無機酸又はチタン化合物が挙げられる。有機酸としては酢酸、ギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。
【0029】
上記調製された混合液と上記触媒とを混合するときには、液温を好ましくは30~80℃の温度に保持して好ましくは1~24時間撹拌する。第1の製造方法では、図1に示すように、フッ素含有シリカゾルゲル液18は、フッ素含有シリカゾルゲル液を100質量%とするとき、ケイ素アルコキシドを9質量%~70質量%と、フッ素系化合物中のフッ素含有官能基成分を0.05質量%~3質量%と、層状無機化合物を0.01質量%~1質量%と、金属酸化物粒子を0.1質量%~20質量%含むことが好ましい。またフッ素含有シリカゾルゲル液中では、炭素数1~4の範囲にあるアルコールを20質量%~98質量%と、水を0.1質量%~40質量%と、触媒を0.01質量%~5質量%含むことが好ましい。第2の製造方法では、図2に示すように、層状無機化合物24は、フッ素含有シリカゾルゲル液28には含まれないが、フッ素含有シリカゾルゲル液28を溶媒29で希釈する際に、溶媒を除いた成分に対して、0.1質量%~5質量%の割合で添加されることが好ましい。
【0030】
ケイ素アルコキシドが下限値の9質量%未満では、シリカゾルゲルの重合が不十分になり易くなることから、膜の強度が高くなりにくい。上限値の70質量%を超えると、加水分解反応中に反応液がゲル化し易くなる。
炭素数1~4の範囲にあるアルコールの割合を上記範囲に限定したのは、アルコールの割合が下限値の20質量%未満では、ケイ素アルコキシドが、溶液中に溶解せず分離し、加水分解反応中に反応液がゲル化し易く、一方、上限値の98質量%を超えると、加水分解に必要な水、触媒量が相対的に少なくなるために、加水分解の反応性が低下し易く、重合が進まず、膜の密着性が低下し易くなるからである。
【0031】
水の割合を上記範囲に限定したのは、下限値の0.1質量%未満では加水分解速度が遅くなり易く、重合が進みにくく、塗布膜の密着性並びに成膜性が不十分になり易い。一方、上限値の40質量%を超えると加水分解反応中に反応液がゲル化し易く、水が多過ぎてケイ素アルコキシド化合物がアルコール水溶液に溶解しにくく、分離し易くなるからである。
【0032】
触媒の割合を上記範囲に限定したのは、下限値の0.01質量%未満では反応性に乏しく重合が不十分になり、膜が形成されにくく、一方、上限値の5質量%を超えても反応性に影響はないが、残留する酸により基材が腐食等を生じ易くなるからである。
【0033】
フッ素系化合物に含まれるフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランは、具体的には、下記一般式(3)及び式(4)で示される。式(3)及び式(4)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(5)~(13)で示されるペルフルオロエーテル構造を挙げることができる。
【0034】
【化2】
【0035】
【化3】
【0036】
【化4】
【0037】
また、上記式(3)及び式(4)中のXとしては、下記式(14)~(18)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(14)はエーテル結合、下記式(15)はエステル結合、下記式(16)はアミド結合、下記式(17)はウレタン結合、下記式(18)はスルホンアミド結合を含む例を示している。
【0038】
【化5】
【0039】
ここで、上記式(14)~(18)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子又は炭素数1から6の炭化水素基である。R2及びR3の炭化水素基の例とは、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基が挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基等も挙げられる。
【0040】
また、上記式(3)及び式(4)中、R1は、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0041】
また、上記式(3)及び式(4)中、Zは、加水分解されてSi-O-Si結合を形成可能な加水分解性基であれば特に限定されるものではない。このような加水分解性基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアラルキルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基、エトキシ基を適用することが好ましい。
【0042】
ここで、上記式(3)及び式(4)で表されるペルフルオロエーテル構造を有するフッ素含有官能基成分を含むフッ素系化合物の具体例としては、例えば、下記式(19)~(27)で表される構造が挙げられる。なお、下記式(19)~(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0043】
【化6】
【0044】
【化7】
【0045】
上述したように、本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物に含まれるフッ素系化合物は、分子内に酸素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキレン基が複数結合したペルフルオロエーテル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した膜に優れた撥水撥油性を付与することができる。
【0046】
図1及び図2に示すように、本実施形態の防汚性膜形成用液組成物20、30は、フッ素含有シリカゾルゲル液18、28を溶媒19、29で希釈して製造される。この希釈用溶媒としては、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記炭素数1~4のアルコール以外の有機溶媒との混合溶媒である。炭素数1~4のアルコールとともに用いられるアルコール以外の有機溶媒としては、沸点が120℃以上160℃未満の第1溶媒と、沸点が160℃以上220℃以下の第2溶媒が挙げられる。第1溶媒は沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるアルコールと第2溶媒の中間の沸点を有することから、塗膜の乾燥時に前記アルコールと第2溶媒の沸点差に伴う塗膜の乾燥速度の大きな差を緩和する作用があり、第2溶媒は第1溶媒よりも高沸点であり、塗膜の乾燥速度が遅いことから塗膜の急激な乾燥を防止して急激な乾燥に伴う膜の不均一性を防止する作用があり、前記アルコールは沸点が最も低いことから塗膜の乾燥を速くする作用がある。このように沸点の異なる3種類の溶媒を用いることにより溶媒の乾燥速度を調整して、より的確にかつ効率的に塗膜を成膜性良く形成することができる。
【0047】
第1溶媒を例示すれば、2-メトキシエタノール(沸点125℃)、2-エトキシエタノール(沸点136℃)、2-イソプロポキシエタノール(沸点142℃)、1-メトキシ-2-プロパノール(沸点120℃)及び1-エトキシ-2-プロパノール(沸点132℃)からなる群より選ばれた1種又は2種以上の溶媒が挙げられる。また第2溶媒を例示すれば、ジアセトンアルコール(沸点169℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、N-メチルピロリドン(沸点202℃)及び3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(沸点173℃)からなる群より選ばれた1種又は2種以上の溶媒が挙げられる。
【0048】
〔防汚性膜形成用液組成物〕
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物は、上記第1の製造方法又は第2の製造方法で製造され、溶媒を除く防汚性膜形成用液組成物中、上記の一般式(1)又は(2)で示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有官能基成分を0.5質量%~10質量%含む。また溶媒を除く防汚性膜形成用液組成物中、シリカゾルゲルを15質量%~95質量%と、層状無機化合物を0.1質量%~5質量%と、金属酸化物粒子を1質量%~75質量%含むことが好ましい。また上記溶媒は、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと上記炭素数1~4のアルコール以外の有機溶媒との混合溶媒であることが好ましい。層状無機化合物の含有割合は0.2質量%~4.0質量%であることが更に好ましい。
【0049】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物中のフッ素系官能基成分が上記一般式(1)又は(2)で示されるペルフルオロエーテル構造であるため、ペルフルオロアミン構造と比べて柔軟な構造を取り易く、撥水並びに撥油の効果に加え、防汚性に優れ、カルキの付着を防止する効果がある。フッ素含有官能基成分の含有割合が0.5質量%未満では形成した膜に撥水撥油性と防汚性の機能を付与できず、カルキの付着防止性に劣る。また10質量%を超えると塗膜の弾きや塗布筋が発生し膜の外観に劣る。また膜の強度、膜の基材への密着性及びカルキの付着防止性に劣る。好ましいフッ素含有官能基成分の含有割合は0.6質量%~5質量%であることが好ましい。
【0050】
また液組成物がシリカゾルゲルを含むため、塗膜の基材への密着性に優れ、高い強度の塗膜が得られる。液組成物中のシリカゾルゲルの含有割合が下限値の15質量%未満では、塗膜の基材への密着性とカルキの付着防止性に劣り、高い強度の塗膜が得られないおそれがある。また防汚性膜を形成したときに膜が白濁化し、外観が悪くなり易い。上限値の95質量%を超えると、膜の強度が低くなり易く、カルキの付着防止性に劣り易い。また膜の撥水撥油性と防汚性に劣り易い。シリカゾルゲルの含有割合は20質量%~80質量%であることが更に好ましい。
【0051】
また層状無機化合物の含有割合が0.1質量%~5質量%の範囲にあると、膜表面に塗布ムラや塗布筋が残存せずに、良好な外観が得られ易く、また膜の強度がより高まり易い。0.1質量%未満では、膜の強度が低くなり易く、膜に干渉縞が発生し、膜の外観が不良になり易い。5質量%を超えると、膜が多孔質状態になり易く、膜が白濁化して外観が不良になり、膜の強度及びカルキの付着防止性が低くなり易い。
【0052】
また液組成物中、金属酸化物粒子の含有割合が下限値の1質量%未満では、防汚性膜に撥水撥油性と防汚性の機能を付与しにくい。また上限値が75質量%を超えると、膜表面に塗布ムラや塗布筋が残存し、良好な外観の膜が得にくい。また液組成物では、前記溶媒を除く全成分量を100質量%とするとき、金属酸化物粒子(B)と前記層状無機化合物(E)を合計した含有割合が5.0質量%~75.0質量%であることが好ましい。この含有割合が5質量%未満では、防汚性膜の強度が高くなりにくい。また75質量%を超えると、防汚性膜が透明でなくなり外観に劣り易く、また高い強度の塗膜及び高い膜の基材への密着性が得にくい。更に好ましい含有割合は2質量%~65質量%である。
【0053】
上本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物は、上記の一般式(1)又は(2)で示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有官能基成分と層状無機化合物を含む。より具体的には、上述した式(19)~(27)で示されるペルフルオロエーテル構造を挙げることができる。
【0054】
〔防汚性膜の形成方法〕
本実施の形態の防汚性膜は、例えば、基材であるステンレス鋼(SUS)、鉄、アルミニウム等の金属板上、窓ガラス、鏡等のガラス上、タイル上、ポリ塩化ビニル(PVC)等のプラスチック上、又はポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム上に、上記液組成物を、スクリーン印刷法、バーコート法、ダイコート法、ドクターブレード、スピン法等により塗布した後に、室温乾燥もしくは乾燥機等により室温~130℃の温度で乾燥させることにより、形成される。
【実施例
【0055】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。先ず、実施例と比較例で用いられる金属酸化物粒子の分散液及び層状無機化合物の詳細を説明し、次いでフッ素含有シリカゾルゲル液を調製するための合成例1~10及び比較合成例1~4を説明し、次にこれらの合成例1~10及び比較合成例1~4を用いた防汚性膜形成用液組成物の製造に関する実施例1~10及び比較例1~4を説明する。
【0056】
〔金属酸化物粒子の分散液〕
以下の表1に、本発明の実施例と比較例で用いられる市販の7種類の金属酸化物粒子の分散液を記号(a)~(g)で示す。
【0057】
【表1】
【0058】

〔層状無機化合物〕
以下の表2に、本発明の実施例と比較例で用いられる市販の5種類の層状無機化合物を記号(i)~(v)で示す。
【0059】
【表2】
【0060】
<合成例1>
合成例1は、図1に示すフローに基づく。先ず、ケイ素アルコキシドとしてのテトラエトキシシラン(TEOS)の平均5量体(コールコート社製、商品名:エチルシリケートMS51)112.5gに、有機溶媒としてのエタノール(EtOH:沸点78.3℃)80.1gと、フッ素含有官能基成分としての式(19)で表わされるフッ素含有シラン(R:エチル基)0.32gと、表2に記号(ii)で示す層状無機化合物としてのスメクトン-ST(クニミネ工業社製、スティブンサイト)0.32gとを添加した。続いて、表1に記号(a)で示す平均粒子径が12nmの二酸化ケイ素のIPA分散液(IPA-ST、日産化学社製、SiO2濃度30%)63.7gを添加し混合した。更に続いてイオン交換水43.0gを添加して、セパラブルフラスコ内で25℃の温度で5分間撹拌することにより混合液を調製した。次に、この混合液に、触媒として濃度35質量%の塩酸0.06gを添加し、40℃で2時間撹拌した。これにより、フッ素含有シリカゾルゲル液(I)を調製した。この調製内容を表3及び表4に示す。表3は質量(g)で、表4は質量割合(%)でそれぞれ示す。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
<合成例2~5、7~10、比較合成例1~4>
合成例2~5、7~10、比較合成例1~4は、図1に示すフローに基づく。表3~表4に示すように、合成例1と異なるケイ素アルコキシドを用いた。即ち、ケイ素アルコキシドとしてテトラメトキシシラン(TMOS)の3~5重合体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)を用いた。また表3~表4に示すように、フッ素含有官能基成分となるフッ素含有シラン、層状無機化合物、金属酸化物粒子の分散液及び触媒の各種類を選定した。触媒である塩酸は、合成例1と同一の濃度35質量%の塩酸を用い、硝酸は濃度60質量%の硝酸を用いた。
【0064】
また層状無機化合物と金属酸化物粒子は、それぞれ表1と表2に示されるものを選定した。表3~表4に示すように、ケイ素アルコキシド、エタノール、フッ素含有シラン、層状無機化合物、金属酸化物粒子の分散液及び水の各添加量を合成例1とそれぞれ同一にするか又は変更して、これらを合成例1と同様に混合して混合液を調製した。表3~表4に示すように、混合液に合成例1と同一又は異なる触媒を合成例1と同様に添加混合して、12種類のフッ素含有シリカゾルゲル液(II)~(V)、(VII)~(XIV)を調製した
。フッ素含有官能基成分として式(19)~式(23)及び式(27)で表わされるフッ素含有シランの式中のRはすべてエチル基である。なお、式(28)で表されるフッ素含有シランは、特許文献1に示されるペルフルオロアミン構造を有する。式(28)の含窒素フッ素系化合物を下記に示す。
【0065】
【化8】
【0066】
<合成例6>
合成例6は、図2に示すフローに基づく。先ず、表3~表4に示すように、ケイ素アルコキシド、エタノール、フッ素含有シラン、金属酸化物粒子の分散液及び水の各添加量を合成例1とそれぞれ同一にするか又は変更して、これらを合成例1と同様に混合して混合液を調製した。これによりフッ素含有シリカゾルゲル液(VI)を調製した。合成例6では層状無機化合物を用いなかった。
【0067】
<実施例1>
実施例1では、下記の表5に示すように、合成例1で調製した、既に層状無機化合物を含むフッ素含有シリカゾルゲル液(I)を用いた。このフッ素含有シリカゾルゲル液10gに、工業用アルコール(日本アルコール産業社製、AP-7)90gを添加混合して、防汚性膜形成用液組成物を調製した。この防汚性膜形成用液組成物は、溶媒を除くと、下記の表6に示すように、フッ素含有官能基成分が0.5質量%と、金属酸化物粒子が29.5質量%と、シリカゾルゲルが69.5質量%と、層状無機化合物が0.5質量%含まれていた。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
<実施例2~10及び比較例1~4>
実施例2~10及び比較例1~4では、表5に示すように、合成例2~10及び比較合成例1~4で調製したフッ素含有シリカゾルゲル液(II)~(XIV)をそれぞれ用いた。これらのフッ素含有シリカゾルゲル液(II)~(V)、(VII)~(XIV)に、表5に示す希釈用溶媒を添加混合して防汚性膜形成用液組成物を調製した。またフッ素含有シリカゾルゲル液(VI)には、表5に示す層状無機化合物と希釈用溶媒を添加混合して防汚性膜形成用液組成物を調製した。これらの防汚性膜形成用液組成物は、溶媒を除くと、表6に示すように、フッ素含有官能基成分(A)と、金属酸化物粒子(B)と、シリカゾルゲル(C)と、層状無機化合物(E)とを、表6に示す配合割合で含んでいた。なお、表6には金属酸化物粒子(B)と層状無機化合物(E)とを合計した配合割合も示す。
【0071】
<比較試験及び評価>
実施例1~10及び比較例1~4で得られた14種類の防汚性膜形成用液組成物を、バーコーター(安田精機製作所製、型番No.3)を用いて、厚さ2mm、たて150mm、よこ75mmのアクリル基材上にそれぞれ乾燥後の厚さが0.1μm~1μmとなるように塗布し、14種類の塗膜を形成した。ここで、すべての塗膜を室温にて、3時間乾燥して14種類の防汚性が付与された膜を得た。これらの膜について、膜の外観、膜表面の撥水性、撥油性、n-ヘキサデカン(HD)の転落性、膜の強度、膜の基材への密着性及びカルキ付着防止性を評価した。これらの結果を表7に示す。
【0072】
(1) 膜の外観
膜の外観は、膜を目視にて評価した。膜全体に弾き等の発生がなく、また干渉縞がなく、膜全体が白濁せずに、液組成物を塗布筋、塗布ムラを生じずに均一に塗布できたものは『良好』とし、膜の一部に僅かに弾き、筋等が生じ、膜がやや白濁化したもの、やや干渉縞が発生したものは『可』とし、膜全体に弾き、筋等が生じ、膜が白濁化し、干渉縞が明確に発生したものは『不良』とした。
【0073】
(2) 膜表面の撥水性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するアクリル基材上の防汚性膜をこの液滴に近づけて防汚性膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の撥水性を評価した。
【0074】
(3) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn-ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するアクリル基材上の防汚性膜をこの液滴に近づけて防汚性膜に液滴を付着させる。この付着した油の接触角を測定した。静止状態で油が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を油の接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。膜の表面状態が凸凹になって荒れていると通常よりも高い値を示すため、接触角が高過ぎる場合には、成膜性が不良であるとの判断基準となる。
【0075】
(4) n-ヘキサデカンの転落性試験
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに25℃±1℃のn-ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、水平に置いたアクリル基材上にシリンジからn-ヘキサデカンを9μLの液滴を滴下し、基材を2度/分の速度で傾斜させ、n-ヘキサデカンの液滴が移動開始するときの基材の傾けた角度を測定した。基材を90度傾けても液滴が転落しない場合又は液滴が基材に濡れ広がる場合を『転落せず』とした。上記(3)の接触角が低くてもこの角度が小さい方が防汚性が高いことを意味する。
【0076】
(5) 膜の強度
評価するアクリル基材上の膜に下記の接触子を所定の荷重をかけながら、次の条件で10往復移動した後で、基材上の膜が基材から剥離しないか否かを目視で調べた。膜が剥離しない場合を膜の強度が『良好』とし、僅かな筋(すじ)が見られた場合を膜の強度が『可』とし、剥離した場合を膜の強度が『不良』とした。
(a) 測定器:静・動摩擦測定機TL201Tt(株式会社トリニティーラボ)
(b) 測定条件:
・移動距離:30mm
・垂直荷重:500g重
・移動速度:50mm/秒
・接触子:5mm×15mm角のネオプレーンゴム
【0077】
(6) 膜の基材への密着性
評価するアクリル基材上の膜に碁盤目状に1mm幅のクロスカットを施し、その碁盤目状にクロスカットされた膜に粘着テープ(ニチバン社製、商品名「セロテープ(登録商標)」)を貼り、JISK5600-5-6(クロスカット法)の碁盤目テープ法に準拠してセロテープ(登録商標)剥離試験(以下、単に剥離試験という。)を行った。クロスカットを施したマス目100個を分母で表し、剥離試験後に基材上に残存するマス目の数を分子で表した。マス目100個に対して残存したマス目の割合が90個以下の場合を密着性が『不良』とし、91個~97個の場合を密着性が『可』とし、98個以上の場合を密着性が『良好』とした。
【0078】
(7) カルキ付着防止性
純水に、35%塩酸を用いて、pH4に調整した水溶液を100g準備し、炭酸カルシウム1.5mgを添加し、撹拌、溶解した。得られた炭酸カルシウム水溶液100μLを、評価するアクリル基材上の塗膜に滴下し、室温で5時間乾燥して滴下跡の状態を観察した。次亜塩素酸カルシウムからなるカルキの跡がほぼない場合をカルキ付着防止性が『良好』とし、滴下した跡がカルキとして残っている場合もしくは、白く変色している場合をカルキ付着防止性が『不良』とした。
【0079】
【表7】
【0080】
表7から明らかなように、比較例1の液組成物では、平均粒子径が150nmである金属酸化物(二酸化チタン)粒子を含む比較合成例1の二酸化チタン粒子の分散液から防汚性膜形成用液組成物を調製し、この液組成物により膜を形成したため、膜中の金属酸化物粒子の平均粒子径が大き過ぎ、バインダ成分であるシリカゾルゲルで金属酸化物粒子が基材表面に結着しにくかった。この結果、水及びn-ヘキサデカンの接触角は悪く、n-ヘキサデカンの液滴が転落せず、防汚性と撥水撥油性に劣っていた。また膜が白濁していて、膜の外観が不良であった。また膜の強度試験では膜が基材から剥離し、剥離試験では基材上に残存するマス目の数は5個しかなく、大部分が剥離した。更にカルキの付着を防止する防汚機能に劣っていた。
【0081】
また比較例2の液組成物では、フッ素含有官能基成分の割合が0.3質量%と少な過ぎたため、干渉膜はなく外観は良好で、膜の強度及び膜の基材への密着性は良好であったが、水及びn-ヘキサデカンの接触角は悪く、n-ヘキサデカンの液滴が転落せず、防汚性と撥水撥油性に劣っていた。またカルキの付着を防止する機能に劣っていた。
【0082】
また比較例3の液組成物では、フッ素含有官能基成分の割合が12質量%と多過ぎたため、撥水撥油性に優れていたが、n-ヘキサデカンの液滴が転落せず防汚性がやや劣っていた。また膜の外観は塗膜に筋やムラがあり不良であった。また膜の強度が低く、膜の基材への密着性が不良であった。更にカルキの付着を防止する機能に劣っていた。
【0083】
更に比較例4の液組成物では、フッ素含有シランとして、ペルフルオロアミン構造を持つ含窒素フッ素系化合物を用いたため、撥水撥油性と防汚性に優れ、膜の強度及び膜の基材への密着性は良好であったが、カルキの付着を防止する機能に劣っていた。また干渉縞はなかったが、塗布ムラや塗布筋が若干みられたため、膜の外観は可であった。
【0084】
これに対して、表7から明らかなように、実施例1~6の液組成物では、干渉縞や塗布ムラ、塗布筋の発生は無く膜の外観は良好であった。また塗膜の撥水撥油性、n-ヘキサデカンの液滴は転落せず、膜の強度、膜の基材への密着性、カルキの付着防止性はすべて良好であった。特に金属酸化物粒子を所定の割合で含むことにより、高い強度の塗膜が得られ、かつ塗膜の基材への密着性が良好となった。また層状無機化合物を含むことにより、液組成物の粘性が高まり、膜表面の塗布ムラ、塗布筋等が無くなり、膜の外観がより良好になり、更に膜の強度がより高まった。
【0085】
金属酸化物粒子(B)と前記層状無機化合物(E)を合計した含有割合が、実施例7では4.0質量%と若干少なかったため、膜の強度が可であった。実施例8では(B)+(E)の含有割合が80.0質量%と若干多かったため、防汚性膜が若干透明でなくなり外観にやや劣り可であり、膜の強度及び膜の基材への密着性がともに可であった。層状無機化合物の含有割合が、実施例9では0.1質量%と僅かであったため、膜の強度が可であり、膜の外観が可であった。実施例10では5.0質量%と若干多かったため、膜が若干多孔質になって、膜がやや白濁化して外観は可であった。また膜の強度及び膜の基材への密着性がともに可であった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の防汚性膜形成用液組成物は、機械油を使用する工場、油が飛散する厨房、油蒸気が立ちこめるレンジフード、換気扇、冷蔵庫扉等において、油汚れを防止する分野に用いられる。
図1
図2