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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20241021BHJP
   G03G 21/00 20060101ALI20241021BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20241021BHJP
   H02M 3/28 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
H02M7/12 R
G03G21/00 398
G03G15/00 680
H02M3/28 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020170747
(22)【出願日】2020-10-08
(65)【公開番号】P2021072768
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019195264
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】内山 信行
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06005780(US,A)
【文献】特開2002-247843(JP,A)
【文献】特開2012-053189(JP,A)
【文献】特開2012-088444(JP,A)
【文献】特許第3994942(JP,B2)
【文献】欧州特許出願公開第01500999(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0114176(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
G03G 21/00
G03G 15/00
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像が形成された記録材を処理するためのオプション装置が接続された画像形成装置において、
記録材にトナー像を形成するための画像形成部と、
前記画像形成部と電力を供給するためのコンデンサインプットタイプの第1の電源装置と、
前記オプション装置に電力を供給するための第2の電源装置と、
を備え、
前記第2の電源装置は、
第1の1次巻線と第2の1次巻線と2次巻線を有するトランスと、
前記1次巻線に直列に接続されたスイッチング素子と、
入力される交流電圧を全波整流する全波整流回路と、
一端が前記第1の1次巻線に接続され、他端が前記スイッチング素子を介して前記第2の1次巻線に接続された平滑回路と、
前記全波整流回路の出力端に接続されており、インダクタと整流素子とが直列に接続された回路と、
前記記録材に形成された画像を前記記録材に定着するための定着部と、
を備え、
前記第1の1次巻線は、前記第2の1次巻線よりも巻き数が多く、
前記第1の1次巻線と前記第2の1次巻線との巻き数比は2から3の範囲にあり、
前記定着部に電流が流れていない期間において前記第2の電源装置に電流が流れることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記第1の1次巻線の巻き数が前記第2の1次巻線の巻き数よりも多いほど、前記インダクタ及び前記整流素子に流れる電流が大きくなることを特徴とする請求項に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記第1の1次巻線及び前記第2の1次巻線は、前記2次巻線の極性とは異なる極性であることを特徴とする請求項に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記第1の1次巻線は、直列に接続された複数の巻線を有することを特徴とする請求項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記インダクタの一端が前記全波整流回路の出力端に接続され、前記整流素子のアノード端子が前記インダクタの他端に接続され、カソード端子が前記第1の1次巻線と前記第2の1次巻線との接続点に接続されたことを特徴とする請求項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関し、特に、力率の向上を図ったスイッチング電源及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なスイッチング電源は入力の初段に平滑コンデンサを備えるため、入力電圧が平滑コンデンサの充電電圧を上回ったタイミングでしか入力電流が流れないようになっている。この構成の場合、交流電源の交流電圧の周期に対して電流の流れる時間が短いため力率が低く、また高調波電流が高くなる傾向にあった。この課題を解決するために、入力フィルタに力率改善用のコイルを備える、又は、さらに力率を向上するために入力電流の波形がほぼ正弦波状となるような力率改善回路をスイッチング電源の前段に構成する等して対策していた。この中で、入力フィルタのコイルで力率を改善する対策では、力率が70~80%程度までしか上がらない。一方、力率改善回路を搭載したスイッチング電源はほぼ100%に近い力率を得ることができた。しかし、力率改善回路自体が一つのコンバータとして機能するため、後段のスイッチング電源と合わせて2つのコンバータで回路を構成していることになる。このため、力率が良くても効率が低く、コストやプリント基板の面積も大きくなる傾向にあった。これらの課題を解消するため、高力率と高効率とを一つのコンバータで兼ね備えたスイッチング電源が考案されている。例えば特許文献1には、入力電流の波形を正弦波状に近づける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3994942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、1次巻線と補助巻線との比率(巻数比)によっては高力率を得ることができないおそれがある。また、従来から、1次巻線と補助巻線との比率については明確な説明がなされていなかった。このため、1次巻線と補助巻線との巻数比について明確にし、入力電流の導通角をより広くすることが求められている。
【0005】
本発明は、このような状況のもとでなされたもので、交流電圧の周期に対して入力電流が流れる期間を長くすることができ、高い力率特性を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、以下の構成を備える。
【0009】
)画像が形成された記録材を処理するためのオプション装置が接続された画像形成装置において、記録材にトナー像を形成するための画像形成部と、前記画像形成部と電力を供給するためのコンデンサインプットタイプの第1の電源装置と、前記オプション装置に電力を供給するための第2の電源装置と、を備え、前記第2の電源装置は、第1の1次巻線と第2の1次巻線と2次巻線を有するトランスと、前記1次巻線に直列に接続されたスイッチング素子と、入力される交流電圧を全波整流する全波整流回路と、一端が前記第1の1次巻線に接続され、他端が前記スイッチング素子を介して前記第2の1次巻線に接続された平滑回路と、前記全波整流回路の出力端に接続されており、インダクタと整流素子とが直列に接続された回路と、前記記録材に形成された画像を前記記録材に定着するための定着部と、を備え、前記第1の1次巻線は、前記第2の1次巻線よりも巻き数が多く、前記第1の1次巻線と前記第2の1次巻線との巻き数比は2から3の範囲にあり、前記定着部に電流が流れていない期間において前記第2の電源装置に電流が流れることを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、交流電圧の周期に対して入力電流が流れる期間を長くすることができ、高い力率特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1のレーザビームプリンタの概略図
図2】実施例1のスイッチング電源の回路図
図3】実施例1の電流波形と電圧波形を示すグラフ、レーザビームプリンタの電流波形を示すグラフ
図4】実施例2のスイッチング電源の回路図
図5】実施例1のプリンタへの適用例2の構成図
図6】実施例1のプリンタへの適用例2における合成電流の波形を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例により図面を参照しながら詳しく説明する。
【実施例1】
【0013】
[画像形成装置]
実施例1では、本発明の電源装置を画像形成装置に適用した場合について、図1から図3を参照しながら説明する。図1は画像形成装置の一例として、レーザビームプリンタの概略構成を示す。レーザビームプリンタ(以下、プリンタという)100は、像担持体である感光ドラム101、帯電手段である帯電部102、現像手段である現像部103を備えている。感光ドラム101は、静電潜像が形成される。帯電部102は、感光ドラム101を一様に帯電する。現像部103は、感光ドラム101に形成された静電潜像をトナーで現像する。そして、感光ドラム101に現像されたトナー像を、カセット104から搬送手段であるローラ110等により供給された記録材としてのシートPに転写手段である転写部105によって転写する。シートPに転写されたトナー像は定着手段である定着器106によって定着され、シートPはトレイ107に排出される。この感光ドラム101、帯電部102、現像部103、転写部105が画像形成部である。また、プリンタ100は、電源装置である低電圧電源108を備え、低電圧電源108は、モータ等の駆動部や画像形成部による画像形成動作やシートPの搬送動作を制御する制御部(不図示)へ電力を供給する。
【0014】
[電源装置]
図2は低電圧電源108としての実施例1のスイッチング電源200の回路図である。ACプラグ201は、コンセントに接続されて交流電圧をスイッチング電源200に供給する。スイッチング電源200に供給された交流電圧は、フィルタ回路202を介して全波整流回路であるダイオードブリッジ203で全波整流される。一方、スイッチング電源200の電力が供給される外部負荷が略一定であり、出力電圧Voが安定している場合、平滑手段である電解コンデンサ207に充電される充電電圧はほぼ一定電圧となる。
【0015】
スイッチング電源200は、入力インダクタ204(インダクタ)、整流素子であるダイオード205、トランス206、電解コンデンサ207を備えている。トランス206は、1次巻線206a、206bと2次巻線206cとを有している。トランス206において、1次巻線206a、206bと2次巻線206cとは異なる極性である。入力インダクタ204は、一端がダイオードブリッジ203の出力端に接続され、他端がダイオード205のアノード端子に接続されている。ダイオード205は、カソード端子が、1次巻線206aと1次巻線206bとの接続点に接続されている。すなわち、ダイオードブリッジ203の出力電圧は、入力インダクタ204及びダイオード205を介して1次巻線206aと1次巻線206bとの接続点に供給される。
【0016】
トランス206の1次巻線206aは、一端が電解コンデンサ207の+側に接続され、他端が1次巻線206bの一端に接続されている。1次巻線206bは、他端が電界効果トランジスタ(以下、FETという)208のドレイン端子に接続されている。スイッチング素子であるFET208は、ソース端子が電解コンデンサ207の-側に接続され、ゲート端子が制御部である制御IC(不図示)に接続されている。すなわち、トランスの1次巻線206bには、FET208が直列に接続されている。FET208のゲート端子に制御IC(不図示)からゲート電圧が供給されてFET208が導通状態となると、電解コンデンサ207の充電電圧は、トランス206の1次巻線206a及び1次巻線206bにより分圧される。この分圧された電圧よりもダイオードブリッジ203の出力電圧が高い状態にあると、入力電流が入力インダクタ204とダイオード205に流れる。
【0017】
ここで、1次巻線206aの巻き数を1次巻線206bの巻き数よりも多くすることで、1次巻線206aと1次巻線206bとにより分圧される電圧値は低くなり、ダイオードブリッジ203の出力電圧がより低い電圧から入力電流が流れることになる。また、1次巻線206a、206bにより分圧される電圧値がほぼ一定電圧である中、ダイオードブリッジ203の出力電圧は正弦波状に時間的に変化するため、入力電流の波形もほぼ正弦波状に変化することになる。このため、スイッチング電源200では、力率が高い電源特性を得ることができる。
【0018】
また、1次巻線206a及び1次巻線206bと、2次巻線206cとの巻数比、入力電圧等の条件により、2次巻線206c間に発生する電圧が変化する。スイッチング電源200を制御する制御IC(不図示)は、2次側のフィードバック信号に基づいてFET208のオン幅やデューティを変化させてスイッチング動作を制御し、2次巻線206cに発生する電圧を制御する。そして、2次巻線206cに発生した電圧が整流ダイオード209と2次側平滑コンデンサ210で整流/平滑されることで、出力電圧Voが所定電圧に安定化される。V、Vc、Vinについては後述する。
【0019】
[各波形の推移]
図3(A)は、入力電流をIin、ダイオードブリッジ203の出力電圧をVinとした場合の各波形を示している。入力電流Iinは、ダイオードブリッジ203から入力インダクタ204及びダイオード205を介して1次巻線206aと1次巻線206bとの接続点に入力される電流を意味する。出力電圧Vinは、ダイオードブリッジ203から入力インダクタ204及びダイオード205を介して1次巻線206aと1次巻線206bとの接続点に入力される電圧を意味する。図3(A)(a)に入力電流Iinを示し、(b)に出力電圧Vinを示す。いずれも横軸は時間tを示す。また、図3(A)(b)には、トランス206の第1の1次巻線である1次巻線206aと第2の1次巻線である1次巻線206bとで電解コンデンサ207の電圧が分圧された値(分圧値)を破線で示す。
【0020】
図3(A)に示すように、1次巻線206aと1次巻線206bとで電解コンデンサ207の電圧が分圧され、その電圧をダイオードブリッジ203の出力電圧Vinが超えた時点(時刻t1(t3、t5・・・))で入力電流Iinが流れる。入力電流Iinは出力電圧Vinが分圧値以下となる時点(時刻t2(t4、t6・・・))まで流れる。逆説的には、出力電圧Vinが分圧値に達するまで(例えば時刻t2から時刻t3まで)入力電流Iinは流れない(Iin=0)構成となる。このため、分圧値が低ければ低いほど、入力電流Iinが流れ始めるタイミングが早くなり、また入力電流Iinが流れなくなるタイミングが遅くなって、入力電流Iinが流れる位相角、すなわち導通角が拡がり、そして力率を向上することが可能になる。
【0021】
[トランスの設計方法]
次に、スイッチング電源200の力率の特性を決定するトランス206の設計方法について詳しく述べていく。図2のスイッチング電源200の回路の基本的構成はフライバックコンバータとなる。このため、出力電力に対する入力電力の目安は、次の式(1)を用いて算出することができる。
Pin=V2×ton2×f/(2×L)・・・式(1)
【0022】
ここで、Pinは入力電力、tonはFET208のオン時間、fはFET208のスイッチング動作の駆動周波数、Lは1次巻線206bのインダクタンスである。ここでの注意点は、式(1)に記載した電圧Vが、出力電圧Vinではなく1次巻線206aと1次巻線206bの中点電圧であるということである。この中点電圧Vは、電解コンデンサ207の電圧Vcを1次巻線206aと1次巻線206bとで分圧した電圧である。1次巻線206aの巻き数と1次巻線206bの巻き数との巻数比(以下、比率ともいう)をNとすると、式(1)は以下の式(2)となる。
Pin=(Vc/(N+1))2×ton2×f/(2×L)・・・式(2)
【0023】
また入力電力Pinと出力電力Poとの関係は、以下の式(3)で表される。
Pin=Po/η・・・式(3)
ここで、ηは1次側から2次側への変換効率である。このため、式(2)は、以下の式(4)のように変換することができる。
Po=η×(Vc/(N+1))2×ton2×f/(2×L)・・・式(4)
式(4)を満たすように1次巻線206bのインダクタンスLが計算で求められる。
【0024】
また、1次巻線206bに流れる電流のピーク値は、I=V×ton/Lで決まり、ここでのVも電解コンデンサ207の電圧Vcを1次巻線206aと1次巻線206bとで分圧した電圧になる。つまり以下の式(5)となる。
I=Vc/(N+1)×ton/L・・・式(5)
さらに、FET208のオン時、1次巻線206bに流れる電流は入力インダクタ204を流れる電流である。この電流は、ダイオードブリッジ203の出力電圧Vinと中点電圧Vとの差分を入力インダクタ204のインダクタンスLinで除し、オン時間tonを掛けて算出することができる。入力インダクタ204に流れる電流をIinとすると、以下の式(6)で表される。
Iin=(Vin-Vc×N206b/(N206a+N206b))/Lin×ton・・・式(6)
となる。ここで、N206aは1次巻線206aの巻き数、N206bは1次巻線206bの巻き数である。
【0025】
次に、交流電源の周期に対し1次側の電流が流れる期間、つまり導通角は、1次巻線206bに対して1次巻線206aの巻き数を多く巻いた方が広くとることができる。この回路の目的が高力率を得ることであることからも、導通角は広い方が望ましい。
【0026】
ここで、巻数比Nがどのくらいまで大きくできるかを考察する。なお、1次巻線206bと1次巻線206aの総数(N206a+N206b)は、出力電圧Voと入力電圧、ここではダイオードブリッジ203の出力電圧Vinの最小値で巻数比Nの目安を算出することができる。例えば、ダイオードブリッジ203の出力電圧Vinが交流85V、出力電圧Voが24Vの場合、1次巻線206a、206bと2次巻線206cの巻数比はおよそ5となる。2次巻線206cの巻き数を3ターンとすると、1次巻線206a、206bの巻き数の総数は15ターン(=3ターン×5)となる。
【0027】
前提として、各条件を以下のように設定した場合を考える。
η:0.85、Vc:120V、ton:7.5μs、f=65kHz、Po:100W
ここで、N=2~4とした場合を実際に計算して検討を進める。
【0028】
・N=2の場合
巻数比Nが2で1次巻線206a、206bの総数が15ターンのため、1次巻線206b=5、1次巻線206a=10となる。式(4)から1次巻線206bのインダクタンスLを求めると、式(7)のようになる。
L=0.85×(120/(2+1))2×7.5μ2×65000/2/100=24.9μH≒25μH・・・式(7)
次に、式(7)で求めた1次巻線206bのインダクタンスLを、式(5)に代入し、1次巻線206bに流れる電流のピーク値を求めると、式(8)のようになる。
I=120/(2+1)×7.5μ/25μ=12A・・・式(8)
【0029】
また、式(6)を用いて入力インダクタ204に流れる入力電流Iinを求めると、式(9)のようになる。
Iin=(120-120×5/15)/40μ×7.5μ=15A・・・式(9)
ここでは、入力インダクタ204のインダクタンスLinは40μHとしている。式(8)と式(9)から、Iin>Iであるため、1次巻線206bの巻き数(N206b=5)は、実現可能な設定定数であることが判断できる。
【0030】
・N=3の場合
同じくN=3の場合は、巻数は整数である必要があることと総数が15ターンであるため、1次巻線206bの巻き数N206b=4、1次巻線206aの巻き数N206a=11となり、巻数比Nは狙いの3ではなく、N=11/4となる。この巻き数の値、及び他の値をN=2のときと同様に各式に代入して、I=15A、Iin=16.5Aを得る。この場合、Iin>Iのため、1次巻線206bの巻き数(N206b=4)は、実現可能な設定定数であることが判断できる。
【0031】
・N=4の場合
また、N=4の場合は、1次巻線206bの巻き数N206b=3、1次巻線206aの巻き数N206a=12となる。この場合、巻き数の値、及び他の値をN=2のときと同様に各式に代入して、I=20A、Iin=18Aを得る。この場合、Iin<Iとなるため、入力インダクタ204を流れる入力電流Iinよりも1次巻線206bに流す電流Iが大きくなってしまう。このため、これらの設定定数では、実現が不可能であると判断できる。
【0032】
ここで、式(6)から、入力インダクタ204のインダクタンスLinをさらに低くすれば入力インダクタ204に流れる電流Iinをより高めることができるため、1次巻線206bに流す電流I以上にする考えを採ることもできる。しかし、入力インダクタ204のインダクタンスLinを低くして流れる入力電流Iinを増やすと、FET208のオフ時の充電電流により電解コンデンサ207の電圧が上昇し、FET208に定格電圧が高い素子を使用する必要が生じる。また、ピーク電流が大きくなるとFET208のサージ電圧が上昇し、FET208の定格電流もより高いものが必要になる。さらにこれらの条件の場合、そもそもピーク電流が20A前後に達していて、使用する半導体の定格や損失、又はトランス206に巻く巻線の損失等を考慮すると、現実的に使用可能な電流の限界に近いと考えられる。以上の考察により、巻数比Nは、最も高くしても4までが上限であると考えられる。
【0033】
[プリンタへの適用例1]
次に、このようにして導通角を拡げた低電圧電源108をプリンタ100に適用した例について図3(B)を参照しながら説明する。図3(B)は、定着器106の電流と低電圧電源108の電流とを合成した合成電流の波形を表したものである。図3(B)(a)は低電圧電源108が一般的な電源方式であるコンデンサインプットタイプである場合の合成電流の波形を示す。また図3(B)(b)は低電圧電源108が実施例1の電源方式である場合の合成電流の波形を示す。いずれも縦軸は電流I、横軸は時間tを示す。また定着器106の電流波形は、位相制御と呼ばれる定着制御の波形であり、所定期間、電流が流れない電流波形となっている。
【0034】
図3(B)(a)では、電流がまったく流れない時刻t11’までの期間が長いため、導通角が狭まっている。図3(B)(a)に対し、図3(B)(b)では、実施例1の効果で時刻t11よりも前の時刻t10から電流が流れ始めることで、電流の流れている期間が長くなり、導通角が拡がっていることが確認できる。また、電流のピーク部分が図3(B)(a)のIp’に対して図3(B)(b)のIpは抑えられ(Ip<Ip’)、正弦波形に近い形状となっている。このため図3(B)(b)の波形では力率を改善することができる。
【0035】
以上説明したように、1次巻線206bに対し1次巻線206aの巻き数を多いほど、交流電源から入力される交流電圧の周期に対する入力電流の導通角を拡げることができる。また、1次巻線206aの巻き数が1次巻線206bの巻き数よりも多いほど、入力インダクタ204及びダイオード205に流れる電流が大きくなる。また、入力インダクタ204のインダクタンスが低いほど、入力インダクタ204及びダイオード205に流れる電流が大きくなる。また、上述した前提において、この1次巻線206bに対する1次巻線206aの巻数比Nは、最大で4まで広げることができる。すなわち、1次巻線206aの巻き数は、1次巻線206bの巻き数の4倍以下である。さらに実施例1の低電圧電源108をプリンタ100に適用した場合、力率を向上することができる。
【0036】
[プリンタへの適用例2]
プリンタとしては、図5に示すようにプリンタ本体800に対して出力オプション装置802が接続された装置を接続する構成がある。このような構成の場合、プリンタ本体800に電力を供給するための低電圧電源801と、出力オプション装置802に電力を供給するための低電圧電源803を有している。なお、プリンタ本体800の基本的な構成は図1のプリンタ100と同様であるため説明を省略する。低電圧電源803は図2と同様の構成であるため説明を省略する。なお、出力オプション装置802とは図5に示すような記録材としてのシートを振り分けて出力することが可能なソート機能を有するオプション装置である。図5には3つの排出ビン802a、802b、802cを有する出力オプション装置を示している。なお、ソート機能を有する出力オプション装置に限らず、画像が形成された複数枚のシートにステープルする機能を有する出力オプション装置等、シートを処理するオプション処理装置であってもよい。この構成において、低電圧電源803が図2に示す低電圧電源に対応する。また、低電圧電源801は一般的な電源方式であるコンデンサインプットタイプの電源である。
【0037】
このような構成における合成電流の波形について説明する。図6(a)は、定着器(図1の106)の電流と低電圧電源801、低電圧電源803の電流を合成した合成電流の波形を表したものである。図の縦軸は電流I、横軸は時間tを示している。図6(a)において、(1)定着器への電流波形、(2)低電圧電源801の電流波形、(3)低電圧電源803の電流波形、(4)(1)から(3)の合成電流の波形を示している。一方、低電圧電源803として、本実施例の低電圧電源ではなく一般的なコンデンサインプット方式の電源を用いた場合の合成電流波形について図6(b)に示す。図6(b)において、(1)定着器への電流波形、(2)低電圧電源801の電流波形、(3)コンデンサインプット方式の定電圧電源の電流波形、(4)(1)から(3)の合成電流の波形を示している。
【0038】
図6(a)と図6(b)を比較すると、図6(a)における合成電流の波形について、図6(b)では電流が流れていない期間601bにおいても期間601aでは電流が流れるため、全体として図6(b)よりも力率が改善される。また、図6(a)における電流のピーク値602aは図6(b)におけるピーク値602bに比べて小さい値になるため図6(b)よりも力率が改善される。
これにより、プリンタ本体800と出力オプション装置802を接続した装置においても、出力オプション装置802に本実施例の電源を適用することにより、電源から電力を供給する場合の力率を向上することができる。
【0039】
以上、実施例1によれば、交流電圧の周期に対して入力電流が流れる期間を長くすることができ、高い力率特性を得ることができる。
【実施例2】
【0040】
[電源装置]
実施例1では、1次巻線206aを1つの巻線で構成した場合で説明した。実施例2では、1次巻線206aを複数の巻線、例えば2つの巻線に分割して構成したものである。実施例2の説明を、図4の回路図を参照しながら説明していく。図4において、図2の1次巻線206aに相当する1次巻線は、1次巻線501aと1次巻線501bに分割して構成されており、他の構成要素については同一の構成要素となり、同じ符号を付している。同じ符号を付したものについては、説明を省略する。
【0041】
1次巻線206aを1次巻線501aと1次巻線501bとに分割しても、電解コンデンサ207の分圧値Vは1次巻線206bの上側(・側)電圧となり、分圧値は1次巻線501a、501b、206bの総数と1次巻線206bの巻数比で決まる。そしてこの分圧値をダイオードブリッジ203の出力電圧Vinが超えると入力電流Iinが流れることになる。このため1次巻線501aと1次巻線501bの合計の巻き数を1次巻線206bの巻き数に対して多くすることにより分圧値は低くなり、入力電流Iinの導通角をより広くすることができる。このように、1次巻線206aに相当する1次巻線501a、501bの巻き数をより多く設定した場合、1次巻線501aと1次巻線501bのように2つの巻線に分割しても同様の効果を得ることができる。
【0042】
以上説明したように、1次巻線206bを1次巻線501aと1次巻線501bの2つの巻線構成に分割したとしても、1次巻線501aと1次巻線501bの合計巻き数を1次巻線206bよりも多くする。これにより、導通角を拡げることができる。なお、実施例2の説明では、1次巻線206aを2つに分割した場合について説明したが、さらに複数の巻線に分割しても同様な効果が得られる。
【0043】
以上、実施例2によれば、交流電圧の周期に対して入力電流が流れる期間を長くすることができ、高い力率特性を得ることができる。
【0044】
なお、上記の実施例1、2の夫々の回路(図2図4)において、入力インダクタ204とダイオード205を直列に接続した回路の接続位置について入力インダクタ204をダイオードブリッジ203側に接続した構成で説明した。しかし、この構成に限らずダイオード205をダイオードブリッジ203側に接続した構成でも同様の効果を得ることができる。
なお、ダイオード205をダイオードブリッジ203側に接続した構成とは具体的には以下のような接続構成である。
整流素子のアノード端子が、ダイオードブリッジ203の出力端に接続され、カソード端子が入力インダクタ204の一端に接続されている。入力インダクタ204の他端が、1次巻線206aと1次巻線206bとの接続点に接続された構成である。
【符号の説明】
【0045】
203 ダイオードブリッジ
204 入力インダクタ
205 ダイオード
206 トランス
206a 1次巻線
206b 1次巻線
206c 2次巻線
207 電解コンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6