(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】車両の後部構造
(51)【国際特許分類】
B60K 13/04 20060101AFI20241021BHJP
B60K 5/00 20060101ALI20241021BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20241021BHJP
F01N 13/00 20100101ALI20241021BHJP
【FI】
B60K13/04 A
B60K5/00 Z
B62D25/20 F
F01N13/00 C
(21)【出願番号】P 2020171995
(22)【出願日】2020-10-12
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】小賀坂 博
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-303074(JP,A)
【文献】実開平5-927(JP,U)
【文献】特開平4-353205(JP,A)
【文献】特開2017-74822(JP,A)
【文献】特開平5-171931(JP,A)
【文献】特開平2-24781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/00- 15/10
B60K 1/00- 6/12
B60K 7/00- 8/00
B60K 16/00
B62D 17/00- 25/08
B62D 25/14- 29/04
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
F01N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の後部構造において、
タイヤ及びリムを備えた車輪と、
車体の下部且つ車両幅方向両外側で前記車輪の前方に配置され、車両前後方向に伸長するサイドシルと、
前記車輪の車両後方に配置され、車両幅方向外側部が車両後面視で前記車輪の少なくとも幅方向中央領域まで重合するマフラと、を備え
、
前記マフラの車両幅方向外側部の車両前方側に車両前方に突出する前方突出部が設けられ、
前記前方突出部は、車両後面視で前記車輪と重合することを特徴とする車両の後部構造。
【請求項2】
車輪の制動力を制御する制動力制御装置と、
車両への後方からの荷重入力を検出する後方荷重検出手段と、を備え、
前記制動力制御装置は、前記後方荷重検出手段で車両への後方からの荷重入力が検出された場合に、前記車輪に制動力を付与することを特徴とする請求項
1に記載の車両の後部構造。
【請求項3】
前記マフラの前記車幅方向外側部
は、内部に、断熱材と該マフラの内部を区分する金属製遮蔽板との組み合わせを積層した断熱構造を有することを特徴とする請求項1
又は2に記載の車両の後部構造。
【請求項4】
前記車両は、駆動源としてエンジンとモータジェネレータとを備えるとともに、車両後部に前記モータジェネレータに電力を供給する駆動用バッテリを備え、
前記マフラの後端縁部が、前記駆動用バッテリよりも、車両前後方向の後方側に突出していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両の後部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の後部構造、特に、後方からの荷重入力に対して有効な車両の後部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両などを含む電動車両では、車両の後部にモータや駆動用バッテリなどの重要保安部品が搭載される場合がある。そうした車両では、後方からの入力荷重、例えば車両後面衝突に対して、重要保安部品を保護することが可能な車両の後部構造が要求される。例えば、下記特許文献1には、モータ及びエンジンを備えたレンジエクステンダ装置が後部に搭載された車両の後部構造が開示されている。この車両の後部構造では、モータ及びエンジンを備えたレンジエクステンダ装置の後方に車両幅方向に伸長するマフラを配置し、後方からの荷重入力時には、レンジエクステンダ装置を搭載するリヤサブフレームに押されてマフラがレンジエクステンダ装置の下方に回り込む構造とし、これによりモータなどの重要保安部品を保護するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載される車両の後部構造は、上記リヤサブフレームなどに複雑で精密な構造が要求される。また、一般に、後方からの入力荷重が重要保安部品に及ばないようにするためには、強固な補強部材の追加や車体骨格の強化が必要となり、車両重量の増加、コストの増大などにつながる。また、こうした手段が適用できない場合には、例えばバッテリの容量を小さくするなどの対応が必要となり、所望の性能が得られず、商品力の低下を招く。すなわち、簡易な構造にして、後部に搭載される重要保安部品を保護することが可能な車両の後部構造が望まれる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構造にして、後部に搭載される重要保安部品を保護することが可能な車両の後部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両の後部構造は、
車両の後部構造において、
タイヤ及びリムを備えた車輪と、車体の下部且つ車両幅方向両外側で前記車輪の前方に配置され、車両前後方向に伸長するサイドシルと、前記車輪の車両後方に配置され、車両幅方向外側部が車両後面視で前記車輪の少なくとも幅方向中央領域まで重合するマフラと、を備え、前記マフラの車両幅方向外側部の車両前方側に車両前方に突出する前方突出部が設けられ、前記前方突出部は、車両後面視で前記車輪と重合することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、後方からの荷重入力時には、後方からの当接物によってマフラが車両前方に移動されて車輪に当接し、更にその車輪が車両前方に移動されてサイドシルに当接する。一般に、車両に後方から荷重が入力されると、その荷重は、車体後部の骨格を形成するリヤサイドフレームのみに作用するが、上記構成では、後方からの入力荷重がサイドシルにも分散されるので、サイドフレームの大きな変形を回避することができる。これにより、車両後部の大きな変形を回避することが可能となり、車両後部に搭載される重要保安部品を保護することが可能となる。
【0009】
この構成によれば、車両に後方からの荷重が入力され、マフラが車輪に当接すると、マフラの前方突出部が車輪のリムの幅方向内側の窪みに入り込む。一般に、リムの外周は、タイヤを収納するために幅方向内側部分が窪んでおり、この窪みにマフラの前方突出部が入り込むことにより、後方からの荷重入力時にマフラが車輪から車両幅方向内側又は外側に外れることが回避され、車輪が確実にサイドシルに当接されることから、後方からの入力荷重を確実にサイドシルに分散することができる。
【0010】
本発明の更なる構成は、車輪の制動力を制御する制動力制御装置と、車両への後方からの荷重入力を検出する後方荷重検出手段と、を備え、前記制動力制御装置は、前記後方荷重検出手段で車両への後方からの荷重入力が検出された場合に、前記車輪に制動力を付与することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、車両に後方からの荷重入力が検出されると、車輪の回転が規制されるので、マフラが車輪に当接した際、車輪の回転に伴うマフラと車輪との上下方向への逸脱が回避され、車輪を確実にサイドシルに当接させることができる。また、車両後面衝突の際、車両の前方への移動が規制されるので、前方物体への更なる衝突が回避される。
【0012】
本発明の更なる構成は、前記マフラの前記車幅方向外側部は、内部に、断熱材と該マフラの内部を区分する金属製遮蔽板との組み合わせを積層した断熱構造を有することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、既存の車両と比較してマフラの車両幅方向外側部が車両幅方向外側に位置しても、その部分に断熱構造を設けることにより、バンパなどの車体構成部品に対する熱影響を低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、車両への後方からの入力荷重をサイドシルに分散することで、車両後部の大きな変形を回避することを可能とし、これにより、重量増やコスト増を伴うことなく、後部に搭載される重要保安部品を保護することができ、商品性も確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の車両の後部構造が適用された一実施の形態の電動車両の概略構成を示す車両後部の側面図である。
【
図3】
図1の車両のマフラ及び後輪の後面図である。
【
図4】
図1の制動力制御装置で実行される演算処理のフローチャートである。
【
図5】
図1乃至3の車両に後方からの荷重が入力されたときの状態を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の車両の後部構造の一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この実施の形態の車両の後部構造が適用された電動車両の概略構成を示す車両後部の側面図、
図2は、
図1の底面図である。この電動車両は、車両を駆動するための駆動源として図示しないエンジンとモータジェネレータを車両の前部に搭載し、車両後部には、モータジェネレータに高電圧大電流の電力を供給する高電圧大容量の駆動用バッテリ1を搭載している。この駆動用バッテリ1には、モータジェネレータをジェネレータとして用いたときの回生電力で充電することが可能な、例えばリチウムイオンバッテリなどが用いられる。
【0017】
車両後部の左右両側(車両幅方向両側)には、後輪(車輪)2が配置されている。後輪2は、車輪外周部のタイヤ3と、そのタイヤ3の内周を支持するリム4を備え、リム4は、例えば後軸に軸支されるホイールの外周部に設けられている。周知のように、タイヤ3はゴムなどの弾性体で、径方向内側部が開放された円環チューブ状に形成され、リム4は、このタイヤ3の径方向内側部を収納するように幅方向内側部が窪んでいる(
図6参照)。この径方向内側部がリム4によって閉塞されている状態でタイヤ3の内部に空気(又は他の気体)が加圧注入されて空気入りタイヤとなる。
【0018】
上記左右の後輪2の車両幅方向内側には、それぞれ、車両前後方向に伸長するリヤサイドフレーム5が配置されており、それらの後端部はリヤバンパビーム6で連結されている。このリヤサイドフレーム5は、上記後輪2の前寄りで且つ車両幅方向内側に位置するキックアップ部7を経て、車室下部の車両幅方向両側で略車両前後方向に伸長するフロアサイドフレーム8に連続している。上記駆動用バッテリ1は、左右のリヤサイドフレーム5の間に収納されるようにして図示しないバッテリフレーム内に搭載されている。
【0019】
上記後輪2の車両前方には、上記フロアサイドフレーム8の車両幅方向外側の位置で、車両前後方向に伸長するサイドシル9が配置されている。サイドシル9は、文字通り、サイドドアの下方に配設された、車室の閾であり、主要な骨格部材に数えられないこともあるが、車室を保護する強度部材である。サイドシル9は、一般に、図示しない前輪のホイールハウスと上記後輪2のホイールハウスとの間で伸長する。
【0020】
この実施の形態では、車両の前部にエンジンが搭載されており、その排気管10は車両後方に向けて伸長され、車両の後部で分岐されて、そのそれぞれにマフラ11が1つずつ介装されている。マフラ11は、エンジンの排気を段階的に膨張させたり、圧力波を干渉させたりすることで、排気の圧力と温度を低減するものである。こうした排気消音器をサイレンサと呼ぶこともあるが、ここではマフラ11と称する。
【0021】
この実施の形態では、例えば
図3の後面視に示すように、マフラ11の車両幅方向外側部が後輪2の幅方向中央領域まで重合するように配置・構成されている。このマフラ11は、上記車両幅方向外側部を含む全体がマフラ11として一体化されているが、
図3に示すマフラ11の左方端部(車両幅方向外側部)は、前述の排気消音器としては機能しておらず、外殻(巻締め)部分だけが金属板で覆われた断熱構造13となっている。なお、この実施の形態では、後述のように後方からの荷重入力時、マフラ11を車両前方に移動させて後輪2に当接させることから、その前方移動を妨げないように、マフラ11を車体に吊り下げるマフラハンガ12を車両幅方向外側の部位に配置している。また、マフラ11と後輪2の間には、図示しないリヤホイールハウスライナ(フェンダーライナ)が介装されている。
【0022】
また、この実施の形態の電動車両には、各車輪の制動力を制御する制動力制御装置14が設けられている。この制動力制御装置14は、例えばアンチロックブレーキ装置や車両挙動制御装置のように、各車輪の制動液圧を調整することで各車輪の制動力を制御可能とするものであり、運転者がブレーキペダルを踏み込んでいない状態でも各車輪に制動力を付与することができる。なお、制動液圧を調整する構成に代えて、例えば各車輪に電動ブレーキ装置が装備されている場合には、例えば制動力を付与する電動モータの作動量(作動状態)を調整することで各車輪の制動力を制御することも可能である。
【0023】
上記制動力制御装置14には、高い演算機能を有する演算処理装置が備えられている。この演算処理装置は、例えばマイクロコンピュータのようなコンピュータシステムで構築され、したがって既存のコンピュータシステムと同様に、この制動力制御装置14は、例えば演算処理のプログラムを記憶する記憶装置や、後述する荷重センサ15などのセンサ信号を読込んだり、他の制御装置と相互通信を行ったりするための入出力装置を備えて構成される。
【0024】
また、この実施の形態の電動車両には、車両への後方からの荷重入力を検出する荷重センサ(後方荷重検出手段)15が設けられている。この荷重センサ15は、例えばリヤバンパの近傍に配置された加速度センサなどで構成される。この荷重センサ15は、例えば車両後面衝突で生じる程度の大きさの後方荷重を検出するためのものであり、例えばエアバッグ展開の決定のために用いられる。この実施の形態では、後述するように、上記制動力制御装置14による各車輪への制動力付与の決定のためにも用いられる。
【0025】
図4は、上記制動力制御装置14で実行される演算処理のフローチャートである。この演算処理は、例えば予め設定された所定サンプリング周期のタイマ割込み処理で実行され、まずステップS1で、上記荷重センサ15の出力信号から車両への後方からの荷重入力があったか否かを判定し、後方からの荷重入力があった場合にはステップS2に移行し、そうでない場合には復帰する。
【0026】
上記ステップS2では、全ての車輪を全制動する制御(最大制動液圧制御)を行ってから復帰する。
【0027】
この演算処理によれば、車両後面衝突程度の大きさの車両への後方からの荷重入力があった場合、全ての車輪が全制動される。
【0028】
図5は、車両後面衝突程度の大きさの車両への後方からの荷重入力があった場合の上記マフラ11、後輪2、サイドシル9の底面図である。図は、車両の左側部分のみを示している。この実施の形態の電動車両では、車両後面衝突程度の大きさの車両への後方からの荷重入力があった場合、前述のように、全車輪が全制動される。この後方からの荷重入力時には、後方からの当接物により上記マフラ11が車両前方に移動されるが、その車両前方には、それぞれ後輪2があり、且つマフラ11の車両幅方向外側部は車両後面視で後輪2の幅方向中央領域まで重合しているので、マフラ11は後輪2に当接する。その状態から、更にマフラ11及び後輪2が後方からの当接物、すなわち入力荷重によって車両前方に移動されると、後輪2はサイドシル9に当接する。前述のように、サイドシル9は車室を保護する強度部材であるから、このサイドシル9に後輪2が当接することによって後方からの入力荷重がサイドシル9に分散される。
【0029】
一般的な車両では、マフラ11は車両後面視で後輪2と重合しないか、重合しても僅かにしか重合しない。その状態でマフラ11が後方からの入力荷重によって車両前方に移動しても、マフラ11は後輪2に当接しないか、或いは、当接したとしても車両幅方向内側に斜めに移動されてしまい、結果としてマフラ11の当接によって後輪2が車両前方に移動されることは少ない。その場合、後方からの入力荷重は、ほぼ全てがリヤサイドフレーム5に作用し、リヤサイドフレーム5が大きく変形する。また、車両後面衝突の場合、衝突物によって後輪2が車両前方に移動されることはあり得る。しかしその場合にも、衝突物はリヤサイドフレーム5を大きく変形させながら後輪2を車両前方に移動することから、リヤサイドフレーム5の大きな変形は回避できない。この実施の形態ように、左右のリヤサイドフレーム5の間に駆動用バッテリ1を収納するようにして搭載している電動車両では、重要保安部品である駆動用バッテリ1の損傷を回避することは困難である。
【0030】
これに対し、マフラ11及び後輪2を介して後方からの入力荷重をサイドシル9に分散することが可能なこの実施の形態の電動車両では、その後方からの入力荷重によるリヤサイドフレーム5の大きな変形を回避することが可能となり、これにより左右のリヤサイドフレーム5間に収納される駆動用バッテリ1、すなわち重要保安部品を保護することが可能となる。また、後方からの荷重入力時には、全車輪が全制動されるので、後輪2とマフラ11の当接後、例えば後輪2とマフラ11の相対回転によってマフラ11が後輪2から上下方向に逸脱してしまうのを回避することができ、これにより後輪2をサイドシル9に確実に当接させることができる。また、全車輪が全制動される、すなわち車両が停止状態に維持されるので、車両の前方物体への更なる衝突が回避される。なお、マフラハンガ12による車体からのマフラ11の吊り下げ位置が車両幅方向内側にあると、その吊り下げ位置を中心としてマフラ11が車両幅方向内側に回転移動されるおそれがある。これに対し、マフラハンガ12による車体からのマフラ11の吊り下げ位置を車両幅方向外側に配置したことにより、後方からの荷重入力時、マフラ11を確実に後輪2に当接させることができる。
【0031】
図6は、この実施の形態のマフラ11の変形例を示す底面図であり、車両左側部分のみを示している。このマフラ11では、車両幅方向外側部の車両前方側に、車両前方に突出する前方突出部16が設けられている。この前方突出部16は、例えばマフラ11の外殻を構成する金属板を折り曲げ成形して形成されている。前述のように、この実施の形態のマフラ11の車両幅方向外側部は車両後面視で車両幅方向中央領域まで重合しているので、後方からの荷重入力時、このマフラ11の車両幅方向外側部に形成された前方突出部16は同図に示すようにリム4の幅方向内側の窪みに入り込む。例えば、後方からの入力荷重が車両幅方向内側向きに作用した場合、マフラ11の車両前方面が平坦であると、マフラ11が後輪2のタイヤ3の接地面で滑って車両幅方向内側に移動されてしまい、その結果、マフラ11が後輪2から逸脱し、後輪2をサイドシル9に当接させることができないおそれがある。これに対し、マフラ11の前方突出部16がリム4の幅方向内側の窪みに入り込めば、両者の車両幅方向内側又は外側への逸脱が回避され、その結果、後輪2をサイドシル9に確実に当接させることができる。
【0032】
また、この実施の形態では、既存の車両よりも車両幅方向外側に配置されることになるマフラ11の車両幅方向外側部が断熱構造13となっている。前述のように、マフラ11は排気を降温する作用を有するので、マフラ11そのものは高温になりやすい。車両後部の車両幅方向外側には、例えば樹脂製のリヤバンパのように熱影響を受けやすい車体構成部品が存在する。こうした熱影響を受けやすい車体構成部品に対し、マフラ11の車両幅方向外側部に断熱構造13を配置することにより、それら車体構成部品に対する熱影響を低減することが可能となる。
【0033】
図7は、この実施の形態のマフラ11の変形例を示す後面図である。
図3のマフラ11は、排気消音器としての機能部の車両幅方向外側を金属板で覆って、その空洞部分を断熱構造13としたが、
図7のマフラ11では、例えばプレスマフラの車両幅方向外側部分に個別の断熱材17を収納し、この断熱材17とそれを覆う金属板によって断熱構造13を構成している。このような断熱構造13でも、
図3のマフラ11と同様に、車両後部の車体構成部品に対する熱影響を低減することができる。また、例えば、このような断熱材17とマフラ11の内部を車両幅方向に区分する金属製遮蔽
板の組合せを積層してもよい。
【0034】
このように、この実施の形態の車両の後部構造では、マフラ11の車両幅方向外側部を後輪2の幅方向中央領域まで重合させることにより、後方からの荷重入力時には、マフラ11が車両前方に移動されて後輪(車輪)2に当接し、更にその後輪2が車両前方に移動されてサイドシル9に当接する。既存の車両では、車両に後方から荷重が入力されると、その荷重は、車体後部の骨格を形成するリヤサイドフレーム5のみに作用するが、この実施の形態の後部構造では、後方からの入力荷重がサイドシル9にも分散されるので、リヤサイドフレーム5の大きな変形を回避することができる。したがって、後方からの荷重入力時、車両後部の大きな変形を回避することが可能となり、車両後部に搭載される重要保安部品、すなわち駆動バッテリ1を保護することが可能となる。
【0035】
また、マフラ11の車両幅方向外側部の車両前方側に車両前方に突出する前方突出部16を設けることにより、車両に後方からの荷重が入力され、マフラ11が後輪2に当接すると、マフラ11の前方突出部16が後輪2のリム4の幅方向内側の窪みに入り込む。リム4の外周は、タイヤ3を収納するために幅方向内側部分が窪んでおり、この窪みにマフラ11の前方突出部16が入り込むことにより、後方からの荷重入力時にマフラ11が後輪2から車両幅方向内側又は外側に外れることが回避され、後輪2が確実にサイドシル9に当接されることから、後方からの入力荷重を確実にサイドシル9に分散することができる。
【0036】
また、上記荷重センサ(後方荷重検出手段)15で車両への後方からの荷重入力が検出されると、制動力制御装置14により車輪に制動力が付与されて回転が規制されるので、マフラ11が後輪2に当接した際、後輪2の回転に伴うマフラ11と後輪2との上下方向への逸脱が回避され、後輪2を確実にサイドシル9に当接させることができる。また、車両後面衝突の際、車両の前方への移動が規制されるので、前方物体への更なる衝突が回避される。
【0037】
また、既存の車両と比較してマフラ11の車両幅方向外側部が車両幅方向外側に位置しても、その車両幅方向外側部に断熱構造13を設けることにより、バンパなどの車体構成部品に対する熱影響を低減することができる。
【0038】
以上、実施の形態に係る車両の後部構造について説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、本件発明の車両の後部構造をハイブリッド車両などの電動車両に展開した例についてのみ説明したが、本件発明の車両の後部構造は、マフラ11を備えたあらゆる駆動形式の車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 駆動用バッテリ(重要保安部品)
2 後輪
3 タイヤ
4 リム
5 リヤサイドフレーム
9 サイドシル
11 マフラ
13 断熱構造
14 制動力制御装置
15 荷重センサ(後方荷重検出手段)
16 前方突出部