(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】液体吐出装置、インプリント装置及び回復処理方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20241021BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20241021BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241021BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20241021BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
B41J2/165 207
B41J2/165 101
B41J2/165 401
B41J2/165 501
B41J2/175 171
B41J2/01 403
B41J2/14 305
B41J2/16 517
(21)【出願番号】P 2020173537
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細川 尊広
(72)【発明者】
【氏名】九里 真弘
(72)【発明者】
【氏名】難波 永
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 敬恭
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-289809(JP,A)
【文献】特開2015-120332(JP,A)
【文献】特開2016-41496(JP,A)
【文献】特開2016-13676(JP,A)
【文献】特開2017-124515(JP,A)
【文献】特開2018-47635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数の吐出口が開口した吐出面を有する吐出手段と、
前記吐出面に対向して配置されるキャップを有し、前記吐出手段から前記キャップに吐出された前記液体を排出する回復手段と、
各吐出口に設けられ、前記吐出口の液体吐出状態に応じた信号を出力する素子と、
前記素子が出力した前記信号に基づいて吐出口を選択し、前記吐出面に前記キャップを対向させて、選択した前記吐出口に対して回復処理を実行する回復制御手段と、を備え、
前記回復処理は、選択された前記吐出口において、前記吐出面と、前記キャップとの間に、洗浄液を保持した状態で行わ
れ、
前記素子は、前記液体を前記吐出口から吐出させるエネルギを発生する圧電素子であり、
前記回復処理では、選択された前記吐出口に対応する前記圧電素子が駆動される、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
液体を吐出する複数の吐出口が開口した吐出面を有する吐出手段と、
前記吐出面に対向して配置されるキャップを有し、前記吐出手段から前記キャップに吐出された前記液体を排出する回復手段と、
各吐出口に設けられ、前記吐出口の液体吐出状態に応じた信号を出力する素子と、
前記素子が出力した前記信号に基づいて吐出口を選択し、前記吐出面に前記キャップを対向させて、選択した前記吐出口に対して回復処理を実行する回復制御手段と、を備え、
前記回復処理は、選択された前記吐出口において、前記吐出面と、前記キャップとの間に、洗浄液を保持した状態で行わ
れ、
前記回復制御手段は、
前記信号に基づいて各吐出口が吐出不良を生じているか否かを判定し、吐出不良を生じていると判定した吐出口のみを、前記回復処理の対象として選択する、ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の液体吐出装置であって、
前記液体を収容する容器と、
前記容器内の圧力を制御する圧力制御手段と、を備え、
前記複数の吐出口は前記容器と連通している、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の液体吐出装置であって、
前記圧力制御手段は、前記回復処理において前記容器内の圧力を大気圧よりも陽圧に制御する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項5】
請求項
1、請求項3及び請求項4のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記回復処理において、前記圧電素子は、前記回復処理ではない吐出動作の場合よりも、高い電圧、及び/又は、高い周波数で駆動される、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項6】
請求項
1、請求項3及び請求項4のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記回復処理において、前記圧電素子は、前記吐出口から前記液体が吐出されない程度に駆動された後、前記吐出口から前記液体が吐出されるように駆動される、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項7】
請求項
3に記載の液体吐出装置であって、
前記回復処理において、前記圧電素子は、前記圧力制御手段による前記容器内の加圧によって前記容器内の前記液体を前記吐出口から吐出させた後、駆動される、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項
7のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記吐出面には、撥液処理が施されている、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項9】
請求項
1に記載の液体吐出装置であって、
前記圧電素子は、前記吐出口に連通した液室に配置され、
前記回復制御手段は、前記圧電素子の駆動による前記液室での前記液体の振動により前記圧電素子が出力する逆起電力に基づいて前記回復処理の対象とする吐出口を選択する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項10】
請求項1乃至
9のいずれか一項に記載の液体吐出装置から液体を吐出して基板にインプリント処理を行うインプリント装置。
【請求項11】
液体を吐出する複数の吐出口が開口した吐出面を有する吐出手段を、前記吐出面に対向して配置されるキャップを有し、前記吐出手段から前記キャップに吐出された前記液体を排出する回復手段を用いて回復する回復処理方法であって、
前記複数の吐出口の各吐出口に設けられ、前記吐出口の液体吐出状態に応じた信号を出力する素子から該信号を取得する工程と、
前記素子が出力した前記信号に基づいて吐出口を選択し、前記吐出面に前記キャップを対向させて、選択した前記吐出口に対して回復処理を実行する工程と、を備え、
前記回復処理は、選択された前記吐出口において、前記吐出面と、前記キャップとの間に、洗浄液を保持した状態で行わ
れ、
前記素子は、前記液体を前記吐出口から吐出させるエネルギを発生する圧電素子であり、
前記回復処理では、選択された前記吐出口に対応する前記圧電素子が駆動される、
ことを特徴とする回復処理方法。
【請求項12】
液体を吐出する複数の吐出口が開口した吐出面を有する吐出手段を、前記吐出面に対向して配置されるキャップを有し、前記吐出手段から前記キャップに吐出された前記液体を排出する回復手段を用いて回復する回復処理方法であって、
前記複数の吐出口の各吐出口に設けられ、前記吐出口の液体吐出状態に応じた信号を出力する素子から該信号を取得する工程と、
前記素子が出力した前記信号に基づいて吐出口を選択し、前記吐出面に前記キャップを対向させて、選択した前記吐出口に対して回復処理を実行する工程と、を備え、
前記回復処理は、選択された前記吐出口において、前記吐出面と、前記キャップとの間に、洗浄液を保持した状態で行わ
れ、
前記回復処理を実行する前記工程では、
前記信号に基づいて各吐出口が吐出不良を生じているか否かを判定し、吐出不良を生じていると判定した吐出口のみを、前記回復処理の対象として選択する、
ことを特徴とする回復処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出する液体吐出装置には、吐出口の目詰まりの解消や、吐出口の周辺に付着した異物の除去といった回復処理が必要となる。特許文献1には各吐出口に対応して設けられた洗浄ノズルから洗浄液を吐出して吐出口内を洗浄する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全ての吐出口に対して一律に回復処理を行うと、正常な吐出口に対して不要な回復処理が行われることになり、回復処理の効率を悪化させる。
【0005】
本発明は、回復処理の効率を向上する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
液体を吐出する複数の吐出口が開口した吐出面を有する吐出手段と、
前記吐出面に対向して配置されるキャップを有し、前記吐出手段から前記キャップに吐出された前記液体を排出する回復手段と、
各吐出口に設けられ、前記吐出口の液体吐出状態に応じた信号を出力する素子と、
前記素子が出力した前記信号に基づいて吐出口を選択し、前記吐出面に前記キャップを対向させて、選択した前記吐出口に対して回復処理を実行する回復制御手段と、を備え、
前記回復処理は、選択された前記吐出口において、前記吐出面と、前記キャップとの間に、洗浄液を保持した状態で行われ、
前記素子は、前記液体を前記吐出口から吐出させるエネルギを発生する圧電素子であり、
前記回復処理では、選択された前記吐出口に対応する前記圧電素子が駆動される、
ことを特徴とする液体吐出装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回復処理の効率を向上する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】(A)及び(B)は逆起電力の信号波形の例を示す図。
【
図5】(A)及び(B)は制御部の制御例を示すフローチャート。
【
図6】吐出面とキャップとの間に洗浄液が充填された状態を示す模式図。
【
図7】吐出面とキャップとの間に洗浄液が充填された状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第1実施形態>
<インプリント装置の概要>
図1は本発明の一実施形態に係るインプリント装置101の構成を示す概略図である。図中、矢印Zは上下方向を示し、矢印X及びYは互いに直交する水平方向を示す。インプリント装置101は、半導体デバイスなどの各種デバイスの製造に用いられる。インプリント装置101は液体吐出装置130を備える。液体吐出装置130は、液体吐出部10と回復部80とを備える。液体吐出部10は、液体(ここではレジスト)114を基板111上に吐出する。液体114は、例えば、紫外線(UV)を受光することにより硬化する性質を有する光硬化性の樹脂である。液体114は、半導体デバイス製造工程などの各種条件により適宜選択される。光硬化性の他にも、例えば、熱硬化性のレジストである液体を用いてもよく、インプリント装置は熱でレジストを硬化させてインプリント処理を行う装置でもよい。液体114のことを吐出材或いはインプリント材と呼んでもよい。回復部80は液体吐出部10の吐出性能を回復する回復処理に用いられる。
【0011】
インプリント装置101は、また、光照射部102と、モールド保持機構103と、基板ステージ104と、制御部106と、計測部122と、筺体123とを有する。
【0012】
光照射部102は、光源109と、光源109から照射された紫外線108を補正するための光学素子110とを有する。光源109は、例えばi線またはg線を発生するハロゲンランプである。紫外線108は、モールド(型)107を介して液体114に照射される。紫外線108の波長は、硬化させる液体114に応じた波長である。尚、レジストとして熱硬化性レジストを用いるインプリント装置の場合は、光照射部102に代えて、熱硬化性レジストを硬化させるための熱源部が設置される。
【0013】
モールド保持機構103は、モールドチャック115と、モールド駆動機構116とを有する。モールド保持機構103によって保持されるモールド107は、外周形状が矩形であり、基板111に対向する面には転写すべき回路パターンなどの3次元の凹凸パターンが形成されたパターン部107aを有する。本実施形態におけるモールド107の材質は、紫外線108が透過することができる材質であり、例えば石英が用いられる。モールドチャック115は、真空吸着または静電力によりモールド107を保持する。
【0014】
モールド駆動機構116は、モールドチャック115を保持して移動することによりモールド107を移動させる。モールド駆動機構116は、モールド107をZ方向下方に移動させてモールド107を液体114に押し付けることができる。また、モールド駆動機構116は、モールド107をZ方向上方に移動させてモールド107を液体114から引き離すことができる。モールド駆動機構116に採用可能なアクチュエータとしては、例えばリニアモータまたはエアシリンダが挙げられる。
【0015】
モールドチャック115およびモールド駆動機構116は、中心部に開口領域117を有する。また、モールド107は、紫外線108が照射される面に、凹型の形状をしているキャビティ107bを有する。モールド駆動機構116の開口領域117には、光透過部材113が設置されており、光透過部材113とキャビティ107bと開口領域117とで囲まれる密閉の空間112が形成されている。
【0016】
空間112内の圧力は圧力補正装置(不図示)によって制御される。圧力補正装置が空間112内の圧力を外部よりも高く設定することにより、パターン部107aは基板111に向けて凸形に撓む。これにより、パターン部107aの中心部が液体114に接触するようになる。よって、モールド107が液体114に押し付ける際に、パターン部107aと液体114との間に気体(空気)が閉じ込められることが抑制され、パターン部107aの凹凸部の隅々まで液体114を充填させることができる。空間112の大きさを決めるキャビティ107bの深さは、モールド107の大きさまたは材質に応じて適宜変更される。
【0017】
基板ステージ104は、基板チャック119と、基板ステージ筐体120と、ステージ基準マーク121とを有する。基板ステージに保持される基板111は、単結晶シリコン基板またはSOI(Silicon on Insulator)基板であり、基板111の被処理面には、液体114が吐出されパターンが成形される。
【0018】
基板チャック119は、基板111を真空吸着により保持する。基板ステージ筐体120は、基板チャック119を機械的手段により保持しながらX方向およびY方向に移動することで基板111を移動させる。ステージ基準マーク121は、基板111とモールド107とのアライメントにおいて、基板111の基準位置を設定するために使用される。基板ステージ筐体120のアクチュエータには、例えばリニアモータが用いられる。他にも、基板ステージ筐体120のアクチュエータは、粗動駆動系または微動駆動系などの複数の駆動系を含む構成でもよい。
【0019】
計測部122は、アライメント計測器127と、観察用計測器128と、を有する。アライメント計測器127は、基板111上に形成されたアライメントマークと、モールド107に形成されたアライメントマークとのX方向およびY方向の位置ずれを計測する。観察用計測器128は、例えばCCDカメラなどの撮像装置であり、基板111に吐出された液体114のパターンを撮像して、画像情報として制御部106に出力する。
【0020】
制御部106は、インプリント装置101の各構成要素の動作などを制御し、特に、液体吐出装置130の回復制御も行う。制御部106は、例えば、CPU、ROM、およびRAMを有するコンピュータで構成される。制御部106は、インプリント装置101の各構成要素に回線を介して接続され、CPUは、ROMに記憶された制御プログラムに従って各構成要素の制御をする。また、制御部106は、表示部を有し、各種の表示を行うことができる。制御部106は、計測部122の計測情報を基に、モールド保持機構103、基板ステージ104、および液体吐出部10の動作を制御する
筺体123は、基板ステージ104を載置するベース定盤124と、モールド保持機構103を固定するブリッジ定盤125と、ベース定盤124から延設されブリッジ定盤125を支持する支柱126と、を備える。また、インプリント装置101は、モールド107を装置外部からモールド保持機構103へ搬送するモールド搬送機構(不図示)と、基板111を装置外部から基板ステージ104へ搬送する基板搬送機構(不図示)と、を備える。
【0021】
インプリント装置101は、次の一連の処理を含むインプリント処理を行う。まず、インプリント装置101は、液体吐出部10に液体114を基板111上に吐出させる。そして、基板上に吐出された液体114に、成型用のパターンを有するモールド107を押し付け、その状態において、光(紫外線)の照射によって液体114を硬化させる。その後、硬化後の液体114からモールド107を引き離すことによって、モールド107のパターンを基板111上に転写する。
【0022】
<液体吐出部と回復部>
図2は、液体吐出部10と回復部80の構成を示した図である。液体吐出部10は、吐出ヘッド11、収容容器12及び圧力制御部13を含む。収容容器12は、液体114を収容する。収容容器12の内部空間は、可撓性を有する分離膜14によって2つの空間に区画されている。容器内の一方の空間15には液体114が収容されており、他方の空間16には充填液が収容されている。分離膜14の厚みは例えば10μm以上200μm以下である。分離膜13は、液体及び気体の透過性が低い材料で形成され、例えばPFA等のフッ素樹脂材のフィルムやフッ素樹脂材とプラスチック材料を組み合わせた複合多層フィルムで形成することができる。
【0023】
空間16は、接続配管17によって圧力制御部13と連通しており、空間15は、吐出ヘッド11と連通している。圧力制御部13は、充填液を収容するタンク、圧力センサ、及び、接続配管17を開閉するバルブ等を備えており、空間16内の圧力を制御可能に構成されている。圧力制御部13で空間16内の充填液の圧力を制御することで、分離膜14を介して空間15内の液体114の圧力を制御することができる。これにより、吐出ヘッド11における気液界面の形状を安定化させ、再現性よく液体114を吐出できる。
【0024】
回復部80は、吐出ヘッド11から液体114の廃液が吐出されるキャップ81を備える。キャップ81は、吐出ヘッド11よりも大きな開口を持つ凹型の部材であり、その材質は、例えば、金属溶出の懸念のないPTFE樹脂の切削部品である。キャップ81は酸洗浄が実施されてもよく、これにより物理的・化学的にクリーンな状態で用いられる。回復処理時に吐出ヘッド11の吐出面58に対向して配置される。キャップ81は、不図示の駆動機構によりZ方向に変位可能に設けられており、キャップ81と吐出面58との間隔が調整可能となっている。
【0025】
回復部80は、また、廃液チューブ85と、廃液チューブ85を開閉するバルブ83と、廃液容器82と、ポンプ84とを備える。廃液チューブ85はキャップ81に連通している。ポンプ84は、キャップ81に吐出された廃液を廃液チューブ85を介して廃液容器82に圧送して排出するチュービングポンプである。
【0026】
図3は吐出ヘッド11の一部拡大断面図である。吐出ヘッド11は、共通液室56とモジュール基板57とを備えている。モジュール基板57には、複数のノズル54を備える。各ノズル54は、上面59に開口し、液体114を取り入れる供給口21と、吐出面58に開口し、液体114をを吐出する吐出口19とを備える。ノズル54の内部には、液体114を吐出するためのエネルギを発生するエネルギ素子18が設けられている。吐出口19の開口面積は、供給口21の開口面積よりも小さく、吐出ノズル54における流路で断面積が最小となっている。エネルギ素子18は、本実施形態の場合、ピエゾ素子に代表される圧電素子であり、以下、エネルギ素子18のことを圧電素子18と表記する場合がある。
【0027】
供給口21は、モジュール基板57の内部で吐出口19と小液室20を介して連通している。圧電素子18は、駆動回路90を介して制御部106によって駆動が制御される。圧電素子18によって小液室20の容積を変化させることで、小液室20の液体114が、吐出口19から吐出される。なお、吐出ヘッド11としては、インクジェットプリンタに用いられるインク吐出ヘッドと同様の構成であってもよい。
【0028】
吐出ヘッド11は吐出口19によって大気に開放されているが、吐出口19の口径が数μmから十数μmであり、液体114は毛細管現象により自重で漏れだすことはない。吐出口19近傍の液面は、凹形状のいわゆるメニスカス状態で保持される。小液室20の吐出液8の内圧を圧力制御部13によって-0.1から-1000Paの負圧に保つことで、メニスカス状態を安定的に保持することができる。吐出面58には撥液処理が施されており、液体114が吐出口19からの漏れだすことを確実に防止する。撥液処理としては、例えば、フッ素含有化合物を吐出面58に膜状に塗布することが挙げられる。
【0029】
吐出口19の口径が数μmから数十数μmと小径であると、パーティクルが吐出口19内部に付着した場合や、液体114に含まれる成分の一部が乾燥して吐出口19の周囲で凝固した場合には吐出性能が低下する。吐出性能の低下としては、例えば、不吐出の他、吐出量や吐出方向の変動が挙げられる。こうした吐出性能の低下が生じた場合には、回復部80によって吐出性能の回復処理を行う。
【0030】
但し、一部の吐出口19においてのみ吐出性能の低下があった場合に、全吐出口19に対して回復処理を行うことは効率的ではない。本実施形態では、圧電素子18を用いることで、吐出口19の液体吐出状態を検知し、吐出性能の低下が生じている吐出口19に対して個別的に回復処理を行うことが可能である。
【0031】
<液体吐出状態の検知>
圧電素子18は吐出口19の液体吐出状態の検知にも用いることができる。圧電素子18を、液体114を吐出する際に加える電圧の30%から70%の強度の電圧で駆動し、小液室20の容積を変動(以下、検査発振と呼ぶ)させ、小液室20内の液体114に振動を加える。例えば、吐出口19から液体114を吐出する際に±10Vの駆動パルスを圧電素子18に印加する場合には、±6Vの駆動パルスを圧電素子18に印加する。換言すると、吐出口19のメニスカスを破って液体114が吐出されない程度に圧電素子18を駆動し、小液室20内の液体114に振動を加える。
【0032】
圧電素子18の駆動を停止しても、液体114の残留振動により、圧電素子18には逆起電力が生じる。逆起電力を吐出口19毎に設けられたセンサ91で検知する。センサ91は例えば電圧センサ或いは電流センサである。吐出口19が汚染物によって塞がっている場合や、小液室20内に気泡が入り込んでしまった場合、逆起電力の波形は、標準状態(メニスカス形成時の波形)とは異なる。つまり、圧電素子18は対応する吐出口19の液体吐出状態に応じた信号を出力する。この信号により、各吐出口19の液体吐出状態を個別に検知することができる。
【0033】
より具体的に説明すると、圧電素子18(ピエゾ素子)は、電圧が印加されることで変形し、この変形によってノズル54内の液体114の圧力を変化させる。そして、圧電素子18を強制的に振動させると残留振動が発生し、圧電効果により逆起電力が発生する。センサ91は、この残留振動により生じた逆起電力を検出する。また逆起電力は圧電素子18ごと、換言すればノズル54ごとに発生するため、センサ91は逆起電力をノズル54ごとに検出する。
【0034】
図4(A)及び
図4(B)は逆起電力の信号波形の例を示す図である。
図4(A)は吐出口19に吐出性能の低下が生じていない正常な場合の信号波形である。
図4(B)の破線は、正常な場合の信号波形であり、実線は吐出性能の低下が生じている場合の信号波形である。吐出口19に液体114のメニスカスが形成されなくなる場合、吐出口19が正常な場合と比べると、信号の周期が長く(周波数が小さく)なる。また、振幅が大きくなる場合もある。
【0035】
こうした信号波形の違いにより、吐出口19の吐出性能の低下を判別することができる。なお、比較対象となる正常時の信号波形は制御部106のROM等の記憶デバイスに格納しておくことができる。また、正常時の信号波形を記憶することに代えて、吐出不良を生じているか否かを判定するための閾値を格納していてよい。閾値は、逆起電力の信号周期に関する閾値や信号振幅に関する閾値であってもよい。
【0036】
なお、本実施形態ではエネルギ素子18として圧電素子を例示したが、これに限られず、発熱抵抗体等も採用可能である。発熱抵抗体を用いた場合、液体吐出状態の検知は、温度センサを各ノズルに設けて行う。発熱抵抗体の駆動によりピーク温度に達した後の液体114の温度低下を温度センサで検知し、温度低下の傾きにより液体吐出状態を判別することができる。
【0037】
<制御例>
制御部106が実行する吐出ヘッド11の回復処理の例について
図5(A)を参照して説明する。
図5(A)は制御部106が実行する処理例を示すフローチャートである。液体114の吐出動作を行っていないタイミングで実行される。
【0038】
S1では各吐出口19の液体吐出状態の検査を行う。ここでは、上記の通り、各圧電素子18の逆起電力を検出し、その信号波形を取得する。S2ではS1の検査結果に基づき、吐出不良の吐出口19を特定する。吐出不良を生じているか否かの判定は、正常時の信号波形と比較や、上述した信号周期に関する閾値や信号振幅に関する閾値との比較により行うことができる。例えば、逆起電力の信号周期が閾値を超える場合、或いは、信号振幅が閾値を超える場合は吐出不良が生じていると判定する。
【0039】
S3では回復処理対象とする吐出口19を選択する。回復処理対象とする吐出口19には、少なくとも吐出不良を生じている吐出口19が含まれる。回復処理対象とする吐出口19は吐出不良を生じている吐出口19のみだけであってもよい。回復処理の効率化を図れる。他の選択方法として、吐出口19をその位置に応じてグループ分けし、グループ単位で回復処理の吐出口19を選択してもよい。更に他の選択方法として、吐出不良を生じている吐出口19と、その周囲の一定の範囲内の吐出口19を選択してもよい。
【0040】
S4ではS4で選択した吐出口19の回復処理を実行する。
図5(B)はその処理例を示すフローチャートである。S11では、吐出面58に対向する位置にキャップ81を配置する。その後、回復処理対象とする吐出口19に対応した小液室20を圧力制御部13によって加圧する。小液室20を例えば、+10kPaから+50kPaに加圧することで、吐出口19に詰まった異物等を押し出すことができる。この時、吐出口19からキャップ81吐出された液体114及び異物等、ポンプ84により廃液容器82へ排出される。このような加圧回復で吐出口19の詰りが回復されない場合もあるため、次に洗浄工程に移行する。
【0041】
S13では、キャップ81の底面と吐出面11aとの間隔が100から500μmとなるまで近接させたのち、キャップ81と吐出面11aの間に洗浄液を充填する。本実施形態では洗浄液として液体114を利用する。圧力制御部13により空間16内の充填液を約10kPa~30kPaまで加圧することで、小液室20内の液体114の圧力を10kPa以上とする。これにより、吐出口19から洗浄液として液体14を吐出する。キャップ81と吐出面11aとの間が液体114で満たされたら、空間16内の充填液の加圧を停止する。
【0042】
次に、圧力制御部13によって、小液室20内の圧力を微陽圧(数百Pa~数kPa)にした後、圧力制御部13と空間16を接続している配管17を圧力制御部13のバルブを閉弁して閉鎖する。キャップ81上にある液体114は大気に開放されているため、小液室20内の液体114の圧力が微陽圧から徐々に大気圧に減少する。これにより、吐出ヘッド11から液体114がキャップ81内に流出することが防止され、キャップ81から、液体114が溢れないようにしている。また、小液室20内の液体114の圧力は、大気圧から微陽圧に維持されている。このため、キャップ81上の液体114が吐出ヘッド11へ逆流することも防止されて、
図6に示すようにキャップ81と吐出面11aとの間に液体114が保持される。
【0043】
次に、S14で回復処理対象とする吐出口19の洗浄を行う。吐出口19の洗浄は、圧電素子18の駆動によって、小液室20を物理的に振動させることにより行う。この振動によりノズル54の内部の液体114が流動し、ノズル54内に付着した汚染物が剥がされる。回復処理対象ではない吐出口19については、その圧電素子18を駆動させないことで、汚染物が吐出口19に流入しないようにし、二次汚染を防止する。
【0044】
この振動による洗浄における圧電素子18の駆動条件は、通常の吐出動作における圧電素子18の駆動条件と同じであってもよい。汚染物の除去が困難な場合は、通常の吐出動作における圧電素子18の駆動条件よりも、電圧又は周波数を異ならせてもよい。例えば、電圧については、通常の吐出動作における圧電素子18の電圧よりも20%~40%程度高くしてもよい。また、周波数については30kHz~50kHz程高くしてもよい。電圧、周波数の双方を高くしてもよいし、一方を高くしてもよい。振動による洗浄時間は、長い程効果が高く、例えば、数時間から数日間に渡って実施してもよい。
【0045】
洗浄終了後、S15では、キャップ81と吐出面11aとの隙間を広げる。そして、吐出ヘッド11内の液体114を入れ替えるために、S12の処理と同様にして、吐出ノズル19から液体114を排液キャップ81に排出させる。これにより汚染物が再度、吐出口19に侵入することを防止できる。その後、ポンプ84を駆動して、吐出面11aとキャップ81との間の液体114を排出する。
【0046】
なお、吐出ヘッド11の吐出面11aは、図示しない吸引ノズルを用いて清掃してもよい。清掃は吐出面11aに付着している洗浄液(液体114)を吸引除去して清掃を行う。負圧源に直結された吸引ノズルを吐出ヘッド11の吐出面11aに対して100μmまで近接させたうえで吸引を開始し、吐出面11aとの間隔を保ったうえで、吐出面11aに対して吸引ノズルを走査し、吐出面11aの表面に残った液滴を吸い取る。吸引ノズルの吸引口隙間は100μmから200μmに設定される。残滴によって瞬間的に吐出面11aの表面と吸引ノズルの先端が液体114で導通状態となる場合がある。金属汚染の危険性を防止するために、PTFE樹脂の吸引ノズルを使用してもよい。
【0047】
S16では、確認処理を行う。ここでは、再びS1と同様の検査を行い、
次に、回復確認工程Jは、再び検査発振を実行して吐出不良を生じている吐出口19があるか否かを念のため確認する。吐出不良を生じている吐出口19があれば、再度、回復処理(S4)を行うことになる。二次汚染があった場合に、これを解消することができる。吐出不良を生じている吐出口19がなければ処理を終了する。
【0048】
<第二実施形態>
第一実施形態では、S13でキャップ81と吐出面11aの間に洗浄液を充填する際、吐出面11aの全面に渡って洗浄液を充填する例を想定した。しかし、回復処理対象とする吐出口19の付近のみに洗浄液を充填してもよい。これにより、液体114の消費量を削減できる。本実施形態では、S13で圧力制御部13の加圧によって洗浄液(液体114)を吐出せず、圧電素子18の駆動により洗浄液を吐出する。
【0049】
図7は本実施形態における洗浄液の充填態様の例を示す模式図である。同図の例では、左端の吐出口19が回復処理対象とされ、他の吐出口19は回復処理対象ではない。左端の吐出口19から液体114を吐出し、他の吐出口19からは液体114を吐出しないことで、同図に示すように回復処理対象とする吐出口19の付近のみに洗浄液(液体114)の液柱を形成することができる。吐出面11aに施された撥液処理は、液柱の形成に寄与する。本実施形態では、正常な吐出口19の二次汚染をより確実に防止できる。
【0050】
S14の洗浄処理については第一実施形態と同様である。本実施形態おいても、第一実施形態と同様に、圧力制御部13によって、小液室20内の液体114の圧力は、大気圧から微陽圧が維持される。キャップ81上の液体114が逆流することが防止される。
【0051】
<第三実施形態>
第一、第二実施形態では、S13でキャップ81と吐出面11aとの間に洗浄液(液体114)を充填させた状態で、S14の洗浄処理を行ったが、洗浄液をキャップ81と吐出面11aとの間に充填しない状態で吐出口19の洗浄を行うこともできる。
【0052】
本実施形態では、S12の加圧回復処理の後、S13、S14の処理に代えて以下の処理を行う。まず、キャップ81の底面と吐出面11aとの間隔が100μmから500μmとなるまで近接させる。その後、回復処理対象の吐出口19に対応する圧電素子18を、吐出口19から液体114が吐出しない程度に駆動する。例えば、通常の吐出動作における圧電素子18の電圧に対して、20%~70%程度の電圧で圧電素子を駆動する。電圧の低下と共に、或いは、電圧は下げずに周波数を下げて圧電素子を駆動する。これにより、小液室20の容積を変動させて小液室20内の液体114を振動させる。圧電素子18をこの程度に駆動することで、吐出口19近傍において液体114が盛り上がることはあっても、吐出されることを防止できる。
【0053】
この振動により、液体114がノズル54内で流動し、内部に付着した汚染物が剥がされる。また、この振動による洗浄中に、定期的に(例えば数分間隔で)、液体114が吐出されるように圧電素子18を駆動する。
図8はその模式図であり、吐出口19から液体114の液滴がキャップ81に吐出されている。そうすることで、ノズル54内にある汚染物が、液体114とともにキャップ81内に排出される。吐出口19はキャップ81から離間しており、排出した汚染物が吐出口19に逆流することもない。
【0054】
なお、洗浄中の定期的な液体114の吐出に関する圧電素子18の駆動条件は、通常の吐出動作の駆動条件(電圧、周波数)と同じであってもよいが、吐出口19が詰まっており、吐出が困難な場合は、駆動条件を変更してもよい。例えば、通常の吐出動作における圧電素子18の電圧よりも20%~40%程度高くしてもよい。また、周波数については30kHz~50kHz程高くしてもよい。電圧、周波数の双方を高くしてもよいし、一方を大きくしてもよい。これにより、液体114を汚染物と共により確実に吐出することができる。
【0055】
なお、本実施形態おいても、第一実施形態と同様に、洗浄中、圧力制御部13によって、小液室20内の液体114の圧力は、大気圧から微陽圧が維持される。キャップ81上の液体114が逆流することが防止される。また、洗浄前に、圧力制御部13の加圧によって微量の液体114を各吐出口19から吐出させ、吐出面11aを液体114で濡らしておいてもよい。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
11 吐出ヘッド、18 エネルギ素子(圧電素子)、81 キャップ、106 制御部、130 液体吐出装置