(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】積層シート、包装体、および包装体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20241021BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241021BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
B32B27/00 B
B32B27/32
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2021015773
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】500163366
【氏名又は名称】出光ユニテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】永富 風花
(72)【発明者】
【氏名】中野 康宏
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-176670(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169036(WO,A1)
【文献】特開2021-008324(JP,A)
【文献】特開2013-159074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
B32B 27/32
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリア層と、
ラミネート接着層と、
第1フィルム層と、をこの順に有
し、
前記第1フィルム層は、スメチカ晶を含むプロピレン系樹脂を含む積層シート。
【請求項2】
前記プロピレン系樹脂はアイソタクティックペンタッド分率が85モル%以上である、請求項
1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記プロピレン系樹脂は、130℃での結晶化速度が2.5min
-1以下である、請求項
1または請求項
2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記プロピレン系樹脂は、示差走査熱量測定曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上の発熱ピークを有する、請求項
1から請求項
3のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項5】
前記第1フィルム層は、造核剤を含まない、請求項
1から請求項
4のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項6】
第2フィルム層と、前記バリア層と、前記ラミネート接着層と、前記第1フィルム層と、をこの順に有する、請求項
1から請求項
5のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項7】
前記第2フィルム層の厚みは、10μm以上である、請求項
6に記載の積層シート。
【請求項8】
前記第1フィルム層の厚みをA、前記第2フィルム層の厚みをBとすると、前記第1フィルム層と前記第2フィルム層の厚みの比A/Bは、2以上である、請求項
6または請求項
7に記載の積層シート。
【請求項9】
前記第2フィルム層は、無延伸ポリプロピレン樹脂を主成分とする、請求項
6から請求項
8のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項10】
前記バリア層は、樹脂および無機フィラーを含有する、請求項
1から請求項
9のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項11】
厚みが0.2mm以上1.5mm以下である、請求項
1から請求項
10のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項12】
前記ラミネート接着層は、エステル系接着剤、エーテル系接着剤によって形成されている、請求項
1から請求項
11のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項13】
請求項1から請求項
12のいずれか一項に記載の積層シートを用いた包装体。
【請求項14】
請求項1から請求項
12のいずれか一項に記載の積層シートを熱成形してなる包装体。
【請求項15】
請求項
1から請求項
12のいずれか一項に記載の積層シートを前記プロピレン系樹脂の融点以下の温度で熱成形してなる包装体。
【請求項16】
請求項1から請求項
12のいずれか一項に記載の積層シートを熱成形することによる包装体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シート、包装体、および包装体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内容物の視認性、長期保存性に優れる包装体を形成する積層シートとして、共押出し法を用いて、ポリオレフィン系樹脂とバリア層を構成する樹脂とを押し出すことにより形成される積層シートが知られている。特許文献1には、ガスバリア性、防曇性が高い積層シートとすることを目的として、ポリブチレンテレフタレート樹脂層、ポリエチレンテレフタレート樹脂層、ガスバリア層、防曇剤含有ヒートシール層の順に層を有する積層シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、環境保全の観点から包装体のリサイクル性の向上が求められている。しかしながら、共押出し法によりバリア層を積層したシートの場合、異なる材料で形成されたバリア層とフィルム層とを分離回収することが難しく、リサイクル性の点ではなおも課題があった。
【0005】
そこで、本発明は、リサイクル性が高く、環境保全に配慮した積層シート、包装体、および包装体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]バリア層と、ラミネート接着層と、第1フィルム層と、をこの順に有する積層シート。
[2]第1フィルム層は、スメチカ晶を含むプロピレン系樹脂を含む、[1]に記載の積層シート。
[3]プロピレン系樹脂はアイソタクティックペンタッド分率が85モル%以上である、[2]に記載の積層シート。
[4]プロピレン系樹脂は、130℃での結晶化速度が2.5min-1以下である、[2]または[3]に記載の積層シート。
[5]プロピレン系樹脂は、示差走査熱量測定曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上の発熱ピークを有する、[2]から[4]のいずれか一項に記載の積層シート。
[6]第1フィルム層は、造核剤を含まない、[2]から[5]のいずれか一項に記載の積層シート。
[7]第2フィルム層と、バリア層と、ラミネート接着層と、第1フィルム層とをこの順に有する、[2]から[6]のいずれか一項に記載の積層シート。
[8]第2フィルム層の厚みは、10μm以上である、[7]に記載の積層シート。
[9]第1フィルム層の厚みをA、第2フィルム層の厚みをBとすると、第1フィルム層と第2フィルム層の厚みの比A/Bは、2以上である、[7]または[8]に記載の積層シート。
[10]第2フィルム層は、無延伸ポリプロピレン樹脂を主成分とする、[7]から[9]のいずれか一項に記載の積層シート。
[11]バリア層は、樹脂および無機フィラーを含有する、[2]から[10]のいずれか一項に記載の積層シート。
[12]厚みが0.2mm以上1.5mm以下である、[2]から[11]のいずれか一項に記載の積層シート。
[13]ラミネート接着層は、エステル系接着剤、エーテル系接着剤によって形成されている、[2]から[12]のいずれか一項に記載の積層シート。
[14][1]から[13]のいずれか一項に記載の積層シートを用いた包装体。
[15][1]から[13]のいずれか一項に記載の積層シートを熱成形してなる包装体。
[16][2]から[13]のいずれか一項に記載の積層シートをプロピレン系樹脂の融点以下の温度で熱成形してなる包装体。
[17][1]から[13]のいずれか一項に記載の積層シートを、熱成形することによる包装体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層シートによれば、バリア層と第1フィルム層とがラミネート接着層を介して接着されることによって、バリア層の樹脂原料の使用量が削減でき、リサイクル性を高めることができる。
また、積層シートが、第2フィルム層とバリア層とラミネート接着層と第1フィルム層とをこの順に有し、第1フィルム層と第2フィルム層とが異素材の場合には、バリア層と第1フィルム層とがラミネート接着層を介して接着されることによって、バリア層と第1フィルム層とを分離することにより、バリア層を分離した後の第1フィルムの再利用が可能となり、リサイクル性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る積層シートの積層構造を示す模式的な断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る積層シートを構成する第2フィルムを製造する製造装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0010】
なお、本明細書において、積層シートの各層を形成する樹脂の主成分は、その層を形成している樹脂の中で最も含有率が多い樹脂成分を意味する。従って、樹脂は主成分に加えて他の成分を含んでもよい。主成分は、例えばIR法によって確認することができる。本明細書において、積層シートの各層を形成する樹脂の成分の含有率は、別途記載がない限りその層を形成する樹脂全体に対する質量%で表記する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層シートの積層構造を示す模式的な断面図である。
図1に示されるように、積層シート10は、第2フィルム層11と、アンカーコート層12と、バリア層13と、第1フィルム層15と、をこの順で有する。バリア層13と第1フィルム層15とは、例えばエステル系接着剤またはエーテル系接着剤により形成されたラミネート接着層14を介して接着されている。
積層シート10は、容器を構成するのに適した厚みとすることが好ましく、下限は例えば0.15mm、好ましくは0.20mmである。上限は例えば1.5mm、好ましくは1.2mmである。以下、各層の構成について説明する。
【0012】
第2フィルム層11は、積層シート10の表面をなす層であり、レトルト対応フィルム、帯電防止フィルム、イージーピールフィルムなどのフィルムによって形成される層である。第2フィルム層11は、ポリオレフィン系樹脂を主成分とするフィルムによって形成される。具体的には、第2フィルム層11は、ポリプロピレン系樹脂が主成分であることが好ましく、無延伸ポリプロピレン樹脂(CPP)が主成分であることがより好ましいが、これに限ることはなく、他のポリオレフィン系樹脂で形成されてよい。
ポリプロピレン系樹脂の含有量は、例えば60質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。ポリプロピレン系樹脂の含有量の上限は特に限定されないが、例えば100質量%である。
【0013】
第2フィルム層11は、ポリプロピレン系樹脂の他、ナイロンや、高密度ポリエチレン(HDPE)もしくは低密度ポリエチレン(LDPE)などのポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、またはこれらの混合物などを含有してもよい。ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートは、例えば0.1g/10分以上6.0g/10分以下とすることが好ましく、1.5g/10分以上5.0g/10分以下とすることがより好ましい。これによって、成形性を良くすることができる。本発明においてポリプロピレン樹脂のメルトフローレートは、JIS-K7210に準拠して、測定温度230℃、荷重2.16kgで測定する。
ポリプロピレン系樹脂はアイソタクティックペンタッド分率が85モル%以上のポリプロピレン系樹脂を含んでもよい。ポリプロピレン系樹脂のアイソタクティックペンタッド分率は、88モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。ポリプロピレン系樹脂のアイソタクティックペンタッド分率の上限は、特に限定されないが、例えば99モル%である。ポリプロピレン系樹脂のアイソタクティックペンタッド分率をより高くすることによって、バリア性をさらに向上させることができる。第2フィルム層11に対するポリプロピレン系樹脂の含有率は、例えば5%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは30%以上である。第2フィルム層11に対するアイソタクティックペンタッド分率が85モル%以上のポリプロピレン系樹脂の含有量の上限は、通常100%である。
【0014】
アンカーコート層12は、好ましくは、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂およびポリエステル系樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂を含む層である。他の層との密着性を考慮すると、ウレタン系樹脂とポリオレフィン系樹脂が好ましい。
ウレタン系樹脂は、通常、少なくともジイソシアネート、高分子量ポリオール及び鎖延長剤を反応させて得られる。高分子量ポリオールは、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール又はポリエステルポリオールとしてもよい。アンカーコート層は、上述した材料を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アンカーコート層12は、例えば、上述した樹脂をグラビアコーター、キスコーター又はバーコーター等で第2フィルム層11に塗布し、40℃以上100℃以下にて10秒~10分間乾燥することで形成することができる。
アンカーコート層12の厚さは、例えば35nm以上、好ましくは50nm以上である。また、アンカーコート層12の厚さは、例えば3000nm以下、好ましくは2000nm以下である。アンカーコート層12の厚さが35nm以上であることによって、他の層との密着性を十分に確保できる。また、アンカーコート層の厚さが3000nm以下であることによって、べた付きによるブロッキングの発生を抑制することができる。
【0015】
バリア層13は、酸素バリア性、水蒸気バリア性を有する層である。バリア層13は、例えば、溶媒中に樹脂や無機フィラーを分散させた水系コーティング剤を用いて形成することができる。バリア層13を上記水系コーティング剤によって形成することによって、積層シート10を成形した際、バリア層13の追従性を向上させることができる。バリア層13は、水系コーティング剤の他にも、添加剤等を含有していてもよい。
【0016】
バリア層13は、水や、アルコール中に樹脂や無機粒子を含有する水系コーティング剤を塗布し、熱処理を行うことによって形成することができる。熱処理を行うことで、無機粒子が規則的に並ぶ、いわゆる迷路効果によりバリア性を高めることができる。
樹脂としては、例えばポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、多糖類、ポリアクリル酸およびそのエステル類、ポリメタアクリル酸およびそのエステル類、アミド樹脂、イミド樹脂、エステル樹脂、一分子中に2種類以上の官能基を有する樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
無機粒子としては無機層状化合物であることが好ましい。無機層状化合物は、単位結晶層が互いに積み重なって層状構造を形成しているものである。無機層状化合物としては、グラファイト、リン酸塩系誘導体型化合物(リン酸ジルコニウム系化合物等)、カルコゲン化物、ハイドロタルサイト類化合物、リチウムアルミニウム複合水酸化物、粘土系鉱物などを挙げることができる。
粘土系鉱物としては、カオリナイト等のカオリナイト-蛇紋石族の粘土鉱物、タルクなどのタルク-パイロフィライト族の粘土鉱物、モンモリロナイトなどのスメクタイト族の粘土鉱物、バーミキュライト族の粘土鉱物、テトラシリリックマイカ等のマイカ族の粘土鉱物、ザンソフィライト等の脆雲母族の粘土鉱物、クリノクロア等の緑泥石族の粘土鉱物などを挙げることができる。
また、水系コーティング剤として、市販の材料を使用することができ、例えば商品名EXCEVIER NOH1200、商品名EXCEVIER NOH2200(住友化学社製)などを使用することができる。
【0017】
ラミネート接着層14は、後述するようなラミネート工程によって形成され、例えばエステル系またはエーテル系などの接着剤によって形成される層である。
【0018】
第1フィルム層15は、積層シート10の基材層として機能する層であり、プロピレン系樹脂を含有する。
プロピレン系樹脂は、少なくともプロピレンを含む重合体であればよい。プロピレンを含む重合体としては、例えば、ホモポリプロピレン、およびプロピレンとオレフィンとの共重合体等が挙げられる。プロピレンとオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。あるいは、これらの混合物であってもよい。
耐熱性および硬度の観点から、本実施形態において第1フィルム層15に含有されるプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレンが好ましい。
【0019】
第1フィルム層15を形成するプロピレン系樹脂は、結晶構造としてスメチカ晶を含む。スメチカ晶は、準安定状態の中間相であり、1つ1つのドメインサイズが小さいことから、透明性に優れる。また、準安定状態であるため、スメチカ晶を含む積層シート10は、結晶化が進んだα晶を含むシートと比較して、低い熱量でシートが軟化することから、成形性に優れる。第1フィルム層15は、スメチカ晶を含むプロピレン系樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0020】
第1フィルム層15を形成するプロピレン系樹脂は、スメチカ晶の他に、β晶、γ晶、および非晶部等の他の結晶形を含んでもよい。例えば、プロピレン系樹脂の30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、または90質量%以上がスメチカ晶であり、それ以外が他の結晶形であってもよい。
【0021】
プロピレン系樹脂がスメチカ晶を含むか否かは、プロピレン系樹脂を含むシートが80℃/秒以上で冷却して得られたものか否かによって判断することができる。プロピレン系樹脂を含むシートが80℃/秒以上で冷却して得られたものか否かは、小角X線散乱解析法により散乱強度分布と長周期を算出することにより判断することができる。測定は以下の条件で行う。
・X線発生装置はultraX 18HF(株式会社リガク製)を用い、散乱の検出にはイメージングプレートを使用する。
・光源波長:0.154nm
・電圧/電流:50kV/250mA
・照射時間:60分
・カメラ長:1.085m
・試料厚み:1.5mm以上2.0mm以下になるようにシートを重ねる。製膜(MD)方向が揃うようにシートを重ねる。
なお、測定時間を短縮するため、1.5mm以上2.0mm以下になるようにシートを重ねているが、測定時間を長くすれば、シートを重ねずに1枚でも測定可能である。
【0022】
第1フィルム層15を形成するプロピレン系樹脂は、アイソタクチックペンダット分率が85モル%以上であることが好ましく、88モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。アイソタクチックペンダット分率が85モル%以上であれば、積層シート10は剛性に優れる。また、アイソタクチックペンダット分率が99モル%以下であれば、積層シート10は透明性に優れる。
なお、アイソタクチックペンダット分率とは、樹脂組成の分子鎖中のペンダット単位(プロピレンモノマーが5個連続してアイソタクチック結合した単位)でのアイソタクチックペンダット分率である。この分率の測定法は、例えば、マクロモレキュールズ(Macromolecules)第8巻(1975年)第687頁に記載されており、13C-NMRにより測定できる。
【0023】
第1フィルム層15を形成するプロピレン系樹脂は、130℃での結晶化速度が2.5min-1以下であることが好ましい。結晶化速度が2.5min-1以下であると、熱成形の際に金型へ接触した部分が急速に硬化すること等を抑制でき、意匠性の低下を防止することができる。結晶化速度は、実施例に記載の方法により測定する。
【0024】
第1フィルム層15を形成するプロピレン系樹脂は、示差走査熱量測定曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上の発熱ピークを有することが好ましい。より好ましくは、1.5J/g以上である。上限値は特に限定されない。通常、10J/g以下である。
発熱ピークは、示差走査熱量測定器を用いて測定する。
また、第1フィルム層15を形成するポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートは、例えば0.1g/10分以上6.0g/10分以下とすることが好ましく、1.5g/10分以上5.0g/10分以下とすることがより好ましい。これによって、成形性を良くすることができる。
【0025】
第1フィルム層15は、プロピレン系樹脂の他にも、プロピレン系樹脂以外の樹脂および添加剤等を含有していてもよい。
第1フィルム層15は、造核剤を含まないことが好ましい。第1フィルム層15が造核剤を含まないことで、α晶および球晶数が増加等することなく、結晶化度が高くなることもない。
造核剤としては、例えば、ソルビトール系結晶核剤等が挙げられる。市販品としては、例えば、ゲルオールMD(新日本理化株式会社)、リケマスターFC-2(理研ビタミン株式会社)等が挙げられる。
第1フィルム層15の厚みをA、第2フィルム層11の厚みをBとすると、第1フィルム層15と第2フィルム層11の厚みの比(層比)A/Bは、2以上であることが好ましい。
【0026】
〔積層シートの製造方法〕
次に、積層シート10の製造方法について説明する。
積層シート10の製造方法は、第1フィルム層15をなす第1フィルム15bを製造する第1フィルム製造工程と、第2フィルム層11をなす第2フィルム11aにアンカーコート剤およびバリアコート剤を積層してバリアコートフィルム16を形成するバリアコートフィルム製造工程と、第1フィルム15bとバリアコートフィルム16とをラミネート法により貼り合わせるラミネート工程と、を有する。
【0027】
(第1フィルム製造工程)
第1フィルム層15をなす第1フィルム15bは、
図2に示す製造装置20を用いて製造する。製造装置20は、溶融樹脂をフィルム状に成形するTダイ21、第1冷却ロール22、第2冷却ロール23、第3冷却ロール24、第4冷却ロール25、金属製エンドレスベルト26、冷却水吹き付けノズル27、水槽28、吸水ロール29、および剥離ロール30を備える。
【0028】
まず、ポリプロピレン系樹脂をシート状物15aとして押出機のTダイ21より押し出し、シート状物15aを第1冷却ロール22上で金属製エンドレスベルト26と第4冷却ロール25との間に挟み込む。この状態で、シート状物15aを、第1冷却ロール22の中心角度θ1に対応する円弧部分で、第1冷却ロール22と第4冷却ロール25とで圧延するとともに急冷する。
【0029】
次いで、第4冷却ロール25の略下半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト26と第4冷却ロール25との間にシート状物15aを挟みこんでさらに圧延するとともに、冷却水吹き付けノズル27による金属製エンドレスベルト26の裏面側への冷却水の吹き付けにより、さらにシート状物15aを急冷する。なお、吹き付けられた冷却水は、水槽28に回収されるとともに、回収された水は排水溝28aにより排出される。
【0030】
次いで、第4冷却ロール25でさらに圧延および冷却され、金属製エンドレスベルト26に密着したシート状物15aを、金属製エンドレスベルト26とともに第2冷却ロール23上まで搬送する。ここで、剥離ロール30によって与えられる張力で第2冷却ロール23側に押し付けられたシート状物15aを、第2冷却ロール23の略上半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト26を介してさらに冷却する。なお、金属製エンドレスベルト26の裏面に付着した水は、第4冷却ロール25から第2冷却ロール23への移動途中に設けられている吸水ロール29により除去する。
【0031】
次いで、第2冷却ロール23上で冷却されたシート状物15aを、剥離ロール30により金属製エンドレスベルト26から剥離する。
上記のような製造装置20において、第1冷却ロール22の表面には、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)製の弾性材21aが被覆されている。また、第2冷却ロール23の表面にも、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)製の弾性材(図示省略)が被覆されている。
また、第3冷却ロール24等に内蔵された水冷式等の冷却手段(図示省略)により、金属製エンドレスベルト26の温度調節が可能となっている。
【0032】
以下、第1フィルム15bの製造条件の一例を示すが、製造条件は以下に限定されない。
・溶融樹脂:ホモポリプロピレンF-300SP(株式会社プライムポリマー製)(融点:160℃、アイソタクチックペンダット分率:[mmmm]=92モル%)
・押出機の直径:150mm
・Tダイ21の幅(ダイスの端のサイズ):1400mm
・第1フィルム15bの厚さ:0.3mm
・第1フィルム15bの引き取り速度:25m/分
・第4冷却ロール25および金属製エンドレスベルト26の表面温度:17℃
・冷却速度:10,800℃/分(180℃/秒)
・造核剤:なし
【0033】
溶融樹脂(ポリプロピレン)の融点は、以下のようにして測定した。
示差走査熱量測定器(DSC)(株式会社パーキンエルマージャパン製「Diamond DSC」)を用いて、ポリプロピレンを10℃/分にて50℃から200℃に昇温し、220℃にて5分間保持し、10℃/分にて220℃から50℃に冷却した。この時得られた吸熱ピークの最大値を示す温度を、ポリプロピレンの融点とした。
【0034】
示差走査熱量測定器(DSC)(株式会社パーキンエルマージャパン製「Diamond DSC」)を用いて、第1フィルム15bに用いたポリプロピレンの結晶化速度を測定した。具体的には、ポリプロピレンを10℃/分にて50℃から230℃に昇温し、230℃にて5分間保持し、80℃/分で230℃から130℃に冷却し、その後130℃に保持して結晶化を行った。130℃になった時点から熱量変化について測定を開始し、DSC曲線を得た。得られたDSC曲線から、以下の手順(i)~(iv)により結晶化速度を求めた。
(i)測定開始からピークトップまでの時間の10倍の時点から、20倍の時点までの熱量変化を直線で近似したものをベースラインとした。
(ii)ピークの変曲点における傾きを有する接線とベースラインとの交点を求め、結晶化開始および終了時間を求めた。
(iii)得られた結晶化開始時間から、ピークトップまでの時間を結晶化時間として測定した。
(iv)得られた結晶化時間の逆数から、結晶化速度を求めた。
【0035】
(バリアコートフィルム製造工程)
第2フィルム層11、アンカーコート層12およびバリア層13からなるバリアコートフィルム16は、第2フィルム層11をなす第2フィルム11aにアンカーコート剤とバリア剤をコーティングすることによって得られる。バリアコートフィルム16は、例えばバーコーターを用いる方法、グラビアコートによる方法、スプレーコートによる方法、ディップコートによる方法などによりコーティングすることができる。
【0036】
(ラミネート工程)
ラミネート工程は、第1フィルム15bとバリアコートフィルム16とを例えば接着剤ラミネート法、押出ラミネート法、または熱ラミネート法などのラミネート法によって貼り合わせる工程である。上記ラミネート法のうち、接着剤ラミネート法、または熱ラミネート法が好ましく、接着剤ラミネート法がより好ましく、ドライラミネート法がさらに好ましい。
ラミネート法で使用される接着剤としては、使用される容器等の用途に応じ、例えばエステル系、エーテル系、その他任意のものを使用できる。
【0037】
ラミネート工程では、バリアコートフィルム16のバリア層13側の面が第1フィルム15bと接着される。これにより、バリア層13と第1フィルム層15との間に上記のような接着剤からなるラミネート接着層14が形成される。
ラミネート接着層14とバリア層13との間の界面、およびラミネート接着層14と第1フィルム15bとの間の界面においては、双方の樹脂が溶けることで混合された状態となっていない。本明細書では、このような特徴を有する層をラミネート接着層と呼ぶ。ラミネート接着層は上記のような特徴を有するため、例えば使用後のリサイクル時にはバリア層13または第1フィルム15bと分離することが比較的容易である。
【0038】
上記実施形態の積層シート10によれば、バリア層13を有するバリアコートフィルム16と、第1フィルム15bとが、ラミネート工程を経て形成されるラミネート接着層14を介して接着されることによって、例えば、共押出し多層フィルムと比較して、バリア層13の樹脂原料の使用量が削減でき、リサイクル性を高めることができる。
また、第1フィルム層15と第2フィルム層11とが異素材の場合には、バリア層13と第1フィルム層15とがラミネート接着層14を介して接着されることによって、バリア層13と第1フィルム層15とを分離することにより、バリアコートフィルム16を分離した後の第1フィルム15bの再利用が可能となり、リサイクル性を高めることができる。
【0039】
なお、バリア層13は、バリア性樹脂であるポリ塩化ビニリデン系樹脂によって形成されてよい。ポリ塩化ビニリデン系樹脂は、構成単位として、塩化ビニリデンモノマーを主に含有するものであれば特に限定されず、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)であってもよいし、塩化ビニリデンと、塩化ビニリデンと共重合可能な単量体との共重合体であってもよい。
【0040】
上記共重合体としては、塩化ビニリデンの含有量が60質量%以上99質量%以下であり、塩化ビニリデンと共重合可能な単量体の含有量が1質量%以上40質量%以下である共重合体を例示することができる。
塩化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、例えば、塩化ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1~18)、メタクリル酸、メタクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1~18)、無水マレイン酸、イタコン酸、イタコン酸アルキルエステル、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン等から選択される一種または二種以上を挙げることができる。
【0041】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂は、公知の方法で製造することができ、また、様々な市販品を用いることもできる。市販品としては、旭化成社製のサランレジンシリーズ、旭化成社製のサランラテックスシリーズ等を挙げることができる。
【0042】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂によるバリア層13は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂を溶媒に分散させることにより得られる樹脂液を第1フィルム層15上にコーティングし、硬化させることにより形成することができる。
ポリ塩化ビニリデン系樹脂を形成する方法はこれに限ることはなく、ポリ塩化ビニリデン系樹脂により構成された樹脂フィルムを第1フィルム層15に積層させるラミネート法により形成してもよい。ラミネート法によりポリ塩化ビニリデン系樹脂を形成する際は、必要に応じてアンカーコート剤をコーティングすることが好ましい。
【0043】
バリア層13は、ポリビニルアルコール(PVA)によって形成されてよい。ポリビニルアルコールは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂と同様に、第1フィルム層15にコーティングまたはラミネートによって形成することができる。
【0044】
バリア層13をポリ塩化ビニリデン系樹脂またはポリビニルアルコールによって形成する場合は、積層シート10は、第2フィルム層11およびアンカーコート層12を必要としない。すなわち、バリア層13をポリ塩化ビニリデン系樹脂またはポリビニルアルコールによって形成する場合は、積層シート10は、バリア層13と第1フィルム層15と、をこの順で有する構成としてもよい。
【0045】
また、上記実施形態において、第2フィルム層11をポリプロピレン系樹脂で形成する場合、第1フィルム層15と同じ構成、例えばスメチカ晶を含むポリプロピレン系樹脂としてもよい。
【0046】
〔包装体および包装体の製造方法〕
上記実施形態の積層シート10は、包装体として用いることができる。
包装体は、例えば、上記実施形態の積層シート10を熱成形することにより製造できる。この場合、積層シート10の第1フィルム層15におけるプロピレン系樹脂の融点以下の温度で熱成形することが好ましい。
プロピレン系樹脂の融点以下の温度で熱成形することで、微細結晶構造が保たれ、透明性の高い積層シート10となる。包装体は、例えば、食品用等の容器の容器本体および蓋体等として使用できる。
【0047】
透明性を向上させる観点から、包装体の内部ヘイズは15パーセント以下であることが好ましい。また、包装体の内部ヘイズ/熱成形前の積層シート10の内部ヘイズの比が1以下であることも好ましい。
包装体の内部ヘイズが15パーセント以下で、かつ、包装体の内部ヘイズ/熱成形前の積層シート10の内部ヘイズの比が1以下であることがより好ましい。包装体の内部ヘイズが15パーセント以下で、かつ包装体の内部ヘイズ/熱成形前の積層シートの内部ヘイズの比が1以下であれば、包装体はより透明性が高くなる。
なお、内部ヘイズとは、シート等の表面の粗さ等の影響を排除して測定した、樹脂そのもののヘイズである。内部ヘイズは、ヘイズメーター(NDH-2000、日本電色工業株式会社製)を使用し、JIS K 7136に基づいて測定される。
【実施例】
【0048】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例等の記載内容に何ら制約されるものではない。
実施例では、積層シート10を、バリアコートフィルム16と第1フィルム15bとをラミネート法により貼り合わせることで製造した。一方、比較例では、フィルム層とバリア層とを有する積層シートを共押出し法により製造した。
【0049】
(実施例1)
全層厚みが0.3mmとなるように、第1フィルム層がスメチカ晶を含む積層シート10を製造した。各層の原料および厚みは以下の通りである。
<第2フィルム層>
無延伸ポリプロピレン系樹脂(CPP)、商品名 RT-610C(出光ユニテック社製)
厚み:80μm
<バリア層>
水系コーティング剤、商品名 EXCEVIER NOH1200(住友化学社製)
厚み:0.95μm
<第1フィルム層>
ホモポリプロピレン系樹脂、商品名 F-300SP(プライムポリマー社製、アイソタクチックペンダット分率:92モル%、メルトフローレート:3.0g/10分)
厚み:200μm
130℃での結晶化速度:1.0min-1以下
【0050】
(実施例2)
バリア層の厚みを1.2μmとしたこと以外は、実施例1と同じとした。各層の原料および厚みは以下の通りである。
<第2フィルム層>
無延伸ポリプロピレン系樹脂(CPP)、商品名 RT-610C(出光ユニテック社製)
厚み:80μm
<バリア層>
水系コーティング剤、商品名 EXCEVIER NOH1200(住友化学社製)
厚み:1.2μm
<第1フィルム層>
ホモポリプロピレン系樹脂、商品名 F-300SP(プライムポリマー社製)
厚み:200μm
【0051】
(比較例1)
全層厚みが0.3mmとなるように、共押し出機を用いて、フィルム層/接着層/バリア層/接着層/フィルム層をこの順で有する積層シートを製造した。各層の原料および厚みは以下の通りである。なお、比較例1の接着層は、共押出し法を用いた積層シートの製造の際にバリア層とフィルム層との接着性を改善するために形成される層であり、例えば下記のような接着性樹脂で形成される。
比較例1の接着層は、共押出し法によって形成されるため、ラミネート接着層とは異なり、フィルム層と接着層との間、および接着層とバリア層との間の界面では双方の樹脂が溶けることで混合された状態となっている。
【0052】
<フィルム層>
ホモポリプロピレン系樹脂、商品名 F-300SP(プライムポリマー社製)
<バリア層>
エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、商品名 G-ソアノール(三菱ケミカル社製)
<接着層>
接着性樹脂、商品名 モディックP674V(三菱ケミカル社製)
【0053】
(比較例2)
フィルム層を、ホモポリプロピレン系樹脂、商品名 PS412M(サンアロマー社製)としたこと以外は、比較例1と同じとした。
【0054】
(光学特性評価)
ヘイズメーター(NDH-2000、日本電色工業株式会社製)を使用し、JIS K 7136に基づいて、実施例および比較例の積層シートのヘイズ・光沢度を測定した。また、積層シートをフラットな面をもつ金型にて成形し(実施例1、2は第1フィルム層が金型面)、金型側のヘイズ・光沢度を測定した。
光学特性評価結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
表1に示されるように、実施例1、2の積層シートは、比較例1、2の積層シートと比較して、透明性、光沢度ともに優れたものであることがわかる。
【0057】
(酸素透過度評価1)
実施例および比較例の積層シートを直径76mmの容器に成形し、測定雰囲気を温度23℃、相対湿度50%という条件下で、容器外から透過した酸素ガス濃度をJIS K 7126-Bに基づいて測定した。
酸素透過度評価1の結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
表2に示されるように、実施例1、2の容器は、比較例1、2の容器と比較して、酸素バリア性に優れるものであることがわかる。
【0060】
(酸素透過度評価2)
実施例および比較例の積層シートをフラットな面を金型に延伸成形し、測定雰囲気を温度23℃、相対湿度50%という条件下で、透過した酸素ガス濃度をJIS K 7126-Bに基づいて測定した。
酸素透過度評価2の結果を表3に示す。
【0061】
【0062】
表3に示されるように、実施例1、2の積層シートは、比較例1の積層シートと比較して、酸素バリア性に優れるものであることがわかる。
【符号の説明】
【0063】
10…積層シート、11…第2フィルム層、12…アンカーコート層、13…バリア層、14…ラミネート接着層、15…第1フィルム層、20…製造装置。