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特許7574099電子写真用ベルト及び電子写真画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】電子写真用ベルト及び電子写真画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/16 20060101AFI20241021BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
G03G15/16
G03G15/00 552
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021020725
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2021176007
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020076692
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】小島 弘臣
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-009366(JP,A)
【文献】特開2019-012124(JP,A)
【文献】特開2018-120083(JP,A)
【文献】特開2014-132329(JP,A)
【文献】特開2015-230456(JP,A)
【文献】特開2005-316040(JP,A)
【文献】再公表特許第2015/174042(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0105658(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0026775(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル樹脂と、水酸基を有するカチオンと、アニオンと、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有するアミド化合物と、の熱溶融混練物を含む熱可塑性樹脂組成物を含む第1の層を有することを特徴とする電子写真用ベルト。
【請求項2】
前記アミド化合物の分子量が、1000以下である請求項1に記載の電子写真用ベルト。
【請求項3】
前記カチオンが、1分子内に2個以上の水酸基を有する請求項1または2に記載の電子写真用ベルト。
【請求項4】
前記カチオンが、アンモニウム系イオン、イミダゾリウム系イオン、ピリジニウム系イオン、ピペリジニウム系イオン、ピロリジニウム系イオン及びホスホニウム系イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオンである請求項1~3のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項5】
前記アニオンが、下記構造式(1)で示される構造を有する請求項1~4のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【化1】
【請求項6】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリアルキレンテレフタレート、及びポリアルキレンナフタレートから選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~5のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項7】
前記ポリアルキレンテレフタレートが、ポリエチレンテレフタレートである請求項6に記載の電子写真用ベルト。
【請求項8】
前記ポリアルキレンナフタレートが、ポリエチレンナフタレートである請求項6に記載の電子写真用ベルト。
【請求項9】
前記アミド化合物が、脂肪酸ビスアミドである請求項1~8のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項10】
前記脂肪酸ビスアミドが、エチレンビス脂肪酸アミドである請求項9に記載の電子写真用ベルト。
【請求項11】
前記エチレンビス脂肪酸アミドが、エチレンビスステアリン酸アミドまたはエチレンビスカプリン酸アミドである請求項10に記載の電子写真用ベルト。
【請求項12】
前記カチオンおよびアニオンを有するイオン化合物の量が、熱可塑性樹脂組成物の総量に対して、0.5質量%以上、8質量%以下である請求項1~11のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項13】
前記1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物の質量が、前記カチオンおよびアニオンを有するイオン化合物の質量に対して2%以上、80%以下である請求項1~12のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリエーテルエステルアミドを更に含む請求項1~13のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項15】
活性エネルギー線硬化性樹脂を含む組成物の硬化物を含む第2の層を更に有する請求項1~14のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項16】
前記電子写真用ベルトがエンドレスベルト形状を有する請求項1~15のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項17】
前記電子写真用ベルトがエンドレス形状を有し、前記第1の層の外周面を被覆する第2の層を更に有し、
該第2の層が活性エネルギー線硬化性樹脂を含む組成物の硬化物を含む請求項1~14のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項18】
中間転写ベルトを具備する電子写真画像形成装置であって、
該中間転写ベルトが、請求項1~17のいずれか一項に記載の電子写真用ベルトで構成されていることを特徴とする電子写真画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真用ベルト、及び該電子写真用ベルトを具備した電子写真画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高導電性かつ長期の使用によっても電気抵抗の変動が小さい導電性ベルトが開示されている。該導電性ベルトは、ポリエステル等の熱可塑性樹脂中に、疎水性のフッ素化スルホンイミド構造、またはヘキサフルオロホスファートをアニオンとして有するイオン液体を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-230456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に係る電子写真用ベルトを中間転写ベルトとして、長期に亘って電子写真画像の形成に供したのちに所定の期間放置し、その後再び、電子写真画像の形成に供したところ、トナーの転写不良による画像欠陥が認められた。
【0005】
本開示の一態様は、長期に亘って画像形成に供したのちの長期放置後にも表面にカチオン成分が染み出しにくく、高品位な電子写真画像の安定的な形成に資する電子写真用ベルトの提供に向けたものである。また本開示の他の態様は、高品位な電子写真画像を安定して形成できる電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、熱可塑性ポリエステル樹脂と、水酸基を有するカチオンと、アニオンと、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物と、の熱溶融混練物を含む熱可塑性樹脂組成物を含む層を有する、電子写真用ベルトが提供される。
また、本開示の他の態様によれば、上記の電子写真用ベルトを中間転写ベルトとして具備している電子写真画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、長期の繰り返し画像出力後の長期保管によっても、ベルト表面状態が初期状態から変化しにくい電子写真用ベルトを提供することができる。また、本開示の他の態様によれば、高品位な電子写真画像を安定して形成できる電子写真画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電子写真プロセスを利用したフルカラー電子写真画像形成装置の一例を示す断面概略図である。
図2】実施例で使用した射出成形装置の概略断面図である。
図3】実施例で使用した1次ブロー成形装置の概略断面図である。
図4】実施例で使用した2次ブロー成形装置の概略断面図である。
図5】本開示に係る電子写真用ベルトの効果発現メカニズムの説明図である。
図6】本開示に係る電子写真用ベルトの構成例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者は、上記した特許文献1に係る電子写真用ベルトを、中間転写ベルトとして電子写真画像の形成に使用したときに生じた画像欠陥について検討を行った。
具体的には、電子写真用ベルトのトナー担持面の、当該画像欠陥の位置に対応する部位を観察した。その結果、未転写トナーおよび粘着性の付着物が確認された。さらにこの付着物の元素分析を行ったところ、電子写真用ベルトに含有されるイオン液体のカチオン成分であることが確認された。このことから、本発明者は、高品位な電子写真画像のより一層の安定的な形成のためには、イオン液体で導電化した電子写真用ベルトにおけるカチオン成分の沁み出し(ブリード)のより一層の抑制を図るための技術開発が必要であることを認識した。
【0010】
ここで、特許文献1に係る電子写真用ベルトを従来よりも長期間にわたって繰り返し画像出力し、長期保管した後にベルト表面にカチオン成分がブリードする理由は、以下のように推測される。
すなわち、熱可塑性樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂とカチオンおよびアニオンとは完全には相溶せず、微視的には、ポリエステル樹脂の相とカチオン及びアニオンの相とが混在している。そのため、カチオンとアニオンは、電圧の印加方向に従って、一方はベルトの一方の表面に向かって移動し、他方はベルトの他方の表面(裏面)に向かって移動する。
電子写真画像形成のプロセスにおいては、感光ドラム上のトナーを電子写真用ベルトに転写する一次転写と、電子写真用ベルト上のトナーを転写媒体に転写する二次転写とがある。電子写真用ベルトにかかる電圧の印加方向は、電子写真用ベルトの厚み方向に対して、一次転写と二次転写ではそれぞれ反対向きとなる。
一次転写と二次転写で反対向きに印加された電圧による通電量は、通常異なるため、カチオンとアニオンの厚み方向に対する移動は一方向に偏りやすい。そのため、従来よりも長期間にわたって繰り返し画像出力されることで、ベルト表面のより近傍にカチオンとアニオンが偏在することとなる。
このような状態で電子写真用ベルトを長期保管すると、電子写真用ベルトの外表面と大気との界面エネルギー差を緩和しようとして、カチオン成分が電子写真用ベルトの外表面に向かって移動する力が作用し、カチオン成分が電子写真用ベルトの外表面にブリードする。
【0011】
本発明者らは、このようなカチオンのブリードを抑制すべく検討を重ねた。その結果、熱可塑性ポリエステル樹脂(以降、単に「ポリエステル樹脂」ともいう)と、水酸基を有するカチオンと、アニオンと、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物と、の熱溶融混練物を含む熱可塑性樹脂組成物を含む層を有する電子写真用ベルトによれば、カチオン成分の外表面へのブリードをより良く抑制し得ることを見出した。
上記した構成を有する電子写真用ベルトによってカチオン成分の染み出しがより良く抑制できる想定メカニズムを、図5を用いて説明する。なお、図5に示す水酸基を有するカチオン501、ポリエステル樹脂としてのポリエチレンナフタレート502、及び1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物としてのエチレンビスステアリン酸アミド503は、あくまで一例であり、本開示はこれらの化合物に何ら限定されるものではない。
水酸基を有するカチオン501と、ポリエステル樹脂502とは、水酸基501-1とポリエステル樹脂502が有するエステル結合502-1との間で水素結合やエステル交換反応により相互作用(図5の矢印A参照)するため高い親和性を有する。加えて、水酸基を有するカチオン501と、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物(以降、単に「アミド化合物」と称する場合がある)503とは、水酸基501-1と、アミド基503-1とが相互作用(図5中の矢印B参照)するため、高い親和性を示す。さらに、アミド化合物503と、ポリエステル樹脂502とは、アミド基503-1と、ポリエステル樹脂が有するエステル結合502-1とが相互作用(図5中の矢印C参照)するため、高い親和性を示す。このように、アミド化合物503が水酸基を有するカチオン成分501とポリエステル樹脂502との親和性のより一層の向上を仲介するものと考えられる。なお、図5中の矢印A、B及びCは水酸基、エステル結合、及びアミド基の各々の間に働く相互作用の一態様を模式的に示したものであり、実際にはこれらの官能基及び結合が複雑に相互作用しあっているものと考えられる。また、図5中、n、p及びqは、各々独立に1以上の整数を示し、R及びRは、各々独立に水素原子または有機基を示す。
【0012】
また、図5に示したように、上記カチオンが2個以上の水酸基を有する場合、ポリエステル樹脂及びアミド化合物との相互作用がより高まることにより、電子写真用ベルトの外表面へのカチオンのブリードを、より一層の抑制できる。
さらに、第1の層が、ポリエーテルエステルアミド(PEEA)を含有する場合であっても、PEEAは分子内にエステル結合とアミド基を含むため、上記と同様なメカニズムによって、電子写真用ベルトの外表面へのPEEAのブリードを抑制することができる。なお、PEEAは、高分子イオン導電剤として機能するため、電子写真用ベルトの第1の層のより一層の高導電化を図るうえで好ましい材料である。
【0013】
本開示の一態様に係る電子写真用ベルトは、熱可塑性ポリエステル樹脂と、水酸基を有するカチオンと、アニオンと、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物と、を含む熱溶融混練物を含む熱可塑性樹脂組成物を含む層を有する。本明細書において、カチオンと、対をなすアニンオンと、を有する化合物を「イオン化合物」ということがある。
【0014】
<熱可塑性樹脂組成物>
本開示に係る熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂と、水酸基を有するカチオンと、アニオンと、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物と、を含む成分を熱溶融混練して得ることができる熱溶融混練物を含む。これらの成分とともに、PEEAを熱溶融混練してもよい。
なお、熱溶融混練とは、熱可塑性樹脂組成物に含有させる樹脂を加熱して溶融状態で混練することを意味する。熱溶融混練に際して、熱可塑性樹脂組成物に含有させる樹脂のうち、最も高い融点を有する樹脂が良好に混練されるように、当該最も高い融点以上の温度で混練することができる。混練方法に特に制限はなく、一軸押出機、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、プラストグラフ、ニーダーなどを用いることができる。
【0015】
<熱可塑性ポリエステル樹脂>
熱可塑性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオールとの重縮合、オキシカルボン酸もしくはラクトンの重縮合、または、これらの成分を複数用いた重縮合などにより得ることができる。さらなる多官能性モノマーを併用してもよい。熱可塑性ポリエステル樹脂は、1種のエステル結合を含むホモポリエステルであっても、複数のエステル結合を含むコポリエステル(共重合体)であってもよい。
熱可塑性ポリエステル樹脂としては、高い結晶性を有し、優れた耐熱性を示すポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンナフタレートからなる群より選択される少なくとも一種が好適な例として挙げることができる。また、コポリエステル(共重合体)として、ポリアルキレンテレフタレートまたはポリアルキレンナフタレートと、ポリアルキレンイソフタレートとの共重合体を好適に用いることができる。
このときの共重合体の形態としては、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。
ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレートおよびポリアルキレンイソフタレートにおけるアルキレンの炭素数は、高い結晶性、耐熱性の観点から2以上16以下が好ましい。より具体的には、熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリエチレンテレフタレートとポリエチレンイソフタレートとの共重合体が好ましい。
【0016】
熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は、好ましくは1.4dl/g以下、より好ましくは0.3dl/g以上1.2dl/g以下である。固有粘度が1.4dl/g以下の熱可塑性ポリエステル樹脂は熱溶融混練時の流動性に優れる。固有粘度が0.3dl/g以上であることは、電子写真用ベルトの強度や耐久性をより容易に向上させ得る。なお、熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は、熱可塑性ポリエステル樹脂の希釈溶媒としてo-クロロフェノールを用いて、熱可塑性ポリエステル樹脂のo-クロロフェノール溶液の濃度を0.5質量%、温度を25℃にして測定した値である。
【0017】
また、熱可塑性樹脂組成物における熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の全質量に対して好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量を熱可塑性樹脂組成物の全質量に対して50質量%以上とすることにより、当該熱可塑性樹脂組成物の機械的な強度を高めることが容易である。
【0018】
<水酸基を有するカチオン>
水酸基を有するカチオンとしては、特に制限はないが、アンモニウム系イオン、イミダゾリウム系イオン、ピリジニウム系イオン、ピペリジニウム系イオン、ピロリジニウム系イオン、ホスホニウム系イオンが挙げられる。これらの中でも、コスト等観点から、アンモニウム系イオンおよびイミダゾリウム系イオンが好ましい。
上記カチオンの具体例としては、2-ヒドロキシエチルアンモニウムイオン、2-ヒドロキシプロピルアンモニウムイオン、2-ヒドロキシエチル-トリメチルアンモニウムイオン、2-ヒドロキシプロピル-トリメチルアンモニウムイオン、2-ヒドロキシ-3-メタアクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムイオン、N-オレイル-N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-N-メチルアンモニウムイオン、等が挙げられる。上記カチオンは、それぞれ1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
電子写真用ベルトに含有されるカチオンの量は、対となるアニオンの量と合わせて(イオン化合物の量として)、電子写真用ベルトの電気抵抗の観点から、熱可塑性樹脂組成物の総量に対して、0.5質量%以上とすることが好ましい。上限値は特に限定されないが、8質量%を超えて添加しても、電気抵抗の低減効果は限定的である。また、該熱可塑性樹脂組成物の良好な成形性の観点からも、8質量%以下とすることが好ましい。また、熱可塑性樹脂組成物への配合もイオン化合物として配合することができる。
【0019】
<アニオン>
アニオンとしては、上記カチオンと対をなしてイオン化合物を形成できるものであれば特に限定されないが、ClO 、Br、Cl、AlCl 、AlCl 、NO 、BF 、PF 、CHCOO、CFCOO、CFSO 、(CFSO、AsF 、SbF 、F(HF)n、CHCHOSO 、HPO 、CFCFCFCFSO 、CFCFCFCOO、および下記構造式(1)で示されるアニオンが挙げられる。これらの中でも、ポリエステル樹脂との親和性や導電性等観点から、下記構造式(1)で示されるスルホンイミド系アニオンが好ましい。
【0020】
【化1】
【0021】
構造式(1)を満たすアニオンの具体例としては、例えばビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドイオン、ビス(パーフルオロプロパンスルホニル)イミドイオン、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドイオン(ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドイオン)、トリフルオロメタンスルホニルパーフルオロプロパンスルホニルイミドイオン、トリフルオロメタンスルホニルパーフルオロブタンスルホニルイミドイオン等が挙げられる。上記アニオンは、それぞれ1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
<1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物(アミド化合物)>
1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物は好ましくは分子量が1000以下、特には、800以下である。また、該アミド化合物の分子量の下限としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、200以上である。該アミド化合物の分子量が上記範囲内であることにより、熱可塑性ポリエステルと、イオン液体と、アミド化合物の熱溶融混練時にこれらがより効率的に相互作用し得るものと考えられる。
また、該アミド化合物は、熱溶融混練時の温度において溶融することが好ましい。その融点は好ましくは70℃以上、200℃未満であり、更に好ましくは100℃以上、170℃以下である。融点が上記の範囲内にあると熱溶融混練時に熱可塑性樹脂組成物中での分散性や分配性に優れ、ポリエステル樹脂とカチオン及びアニオンの分子間に容易に配置され、また熱劣化による分解も起こりにくい。そのため、ブリード抑制効果をより一層高めることが容易である。
少なくとも2個のアミド基を有する化合物としては、脂肪酸ビスアミドが好ましい。脂肪酸ビスアミドは、分子内に脂肪酸基(好ましくは長鎖脂肪酸基)とアミド基を含み、熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性に優れ、熱及び化学的に比較的安定である。
熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性、ならびに熱及び化学的な安定性の観点から、当該長鎖脂肪酸基の炭素数範囲は7~23が好ましい。また、少なくとも2個のアミド基を有する化合物として、分子内に脂肪酸基とアミド基を含み、アミド基間が芳香族炭化水素で結合した芳香族ビスアミドも用いることができる。
【0023】
脂肪酸ビスアミドとしては、例えば、エチレンビス脂肪酸アミド等のアルキレン脂肪酸ビスアミド類を用いることができる。その具体例として、メチレンビスステアリン酸アミド(Tm(融点):142℃)、エチレンビスカプリン酸アミド(Tm:161℃)、エチレンビスラウリン酸アミド(Tm:157℃)、エチレンビスステアリン酸アミド(Tm:145℃)、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド(Tm:145℃)、エチレンビスベヘン酸アミド(Tm:142℃)、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド(Tm:140℃)、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド(Tm:142℃)、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド(Tm:135℃)、N,N'-ジステアリルアジピン酸アミド(Tm:141℃)、N,N'-ジステアリルセバシン酸アミド(Tm:136℃)、エチレンビスオレイン酸アミド(Tm:115℃)、エチレンビスエルカ酸アミド(Tm:120℃)、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド(Tm:110℃)、N,N'-ジオレイルアジピン酸アミド(Tm:118℃)、N,N'-ジオレイルセバシン酸アミド(Tm:113℃)が挙げられる。
【0024】
1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物の含有量(質量)は、前記カチオンおよびアニオンの総量(イオン化合物の質量)に対して、好ましくは2%以上、80%以下である。より好ましくは5%以上、50%以下である。
当該含有量が2%以上であると、熱可塑性ポリエステル樹脂および前記カチオンおよびアニオンと相互作用を及ぼすアミド基の数が多く、ブリードのより一層の抑制を図るうえで好ましい。また、80%以下であると、熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度の低下を抑制し、電子写真用ベルトの強度低下を抑制することが容易となる。また、前記カチオンおよびアニオンの移動度の過度な低下を抑制し、電子写真用ベルトの高抵抗化を抑制することが容易である。
【0025】
<ポリエーテルエステルアミド(PEEA)>
PEEAとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12の如きポリアミドブロック単位と、ポリエーテルエステル単位とからなる共重合体を主たる成分とする化合物を挙げることができる。
例えば、ラクタム(例えばカプロラクタム、ラウリルラクタム)またはアミノカルボン酸の塩と、ポリエチレングリコールと、ジカルボン酸とから誘導される共重合体などが挙げられる。前記ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等が挙げられる。PEEAは溶融重合などの公知の重合方法で製造することができる。勿論、PEEAはこれらに限定されるものではない。また、PEEAは2種類以上のブレンドまたはアロイであってもよい。本開示で用いる1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物とは、主に分子量1000以下の低分子化合物であり、一方PEEAは分子量がそれよりも大きな高分子化合物である。
【0026】
<添加剤>
熱可塑性樹脂組成物には、本開示の効果を損なわない範囲でその他の成分を添加してもよい。その他の成分の例としては、導電性高分子化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、有機顔料、無機顔料、pH調整剤、架橋剤、相溶化剤、離型剤、架橋剤、カップリング剤、滑剤、絶縁性フィラー、導電性フィラーなどが含まれる。これらの添加剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組合せて用いてもよい。添加剤の使用量は適宜設定することができ、特に限定されない。
【0027】
<電子写真用ベルト>
図6(a)に、本開示の一態様に係る、エンドレスベルト形状を有する電子写真用ベルト500の斜視図を示す。層構成の例としては、図6(a)のA-A’線の断面が、図6(b-1)に示すように前記熱可塑性樹脂組成物を含む第1の層501のみで構成された単層(モノレイヤー)構造が挙げられる。この場合、第1の層の外表面500-1が電子写真用ベルトのトナー担持面(外表面)となる。
また層構成の他の例としては、A-A’線の断面が、図6(b-2)に示すように、第1の層501と、第1の層501の外周面を被覆する第2の層502とを有する積層構造を有するものが挙げられる。第2の層502が設けられている場合は、第2の層502の外表面500-1が電子写真用ベルトのトナー担持面となる。
第2の層の例としては、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物を含む、耐摩耗性に優れる層が挙げられる。このような第2の層は、例えば、第1の層の外周面上に、光硬化性の樹脂の如き活性エネルギー線硬化性樹脂を含む組成物を塗布し、硬化させることによって設けることができる。
このような積層構造を有する電子写真用ベルトにおける本開示の効果としては、第1の層と第2の層との界面にカチオン成分が染み出すことが抑制されることによる第1の層と第2の層との密着性の低下の抑制が挙げられる。
また、第1の層の内周面を被覆する第3の層(不図示)を設けてもよい。第3の層の例としては、例えば、第1の層を補強するための樹脂層や、電子写真用ベルトの内周面を導電化するための導電層が挙げられる。
【0028】
エンドレスベルト形状を有する第1の層は、例えば、以下の方法によって作製することができる。
i)熱可塑性ポリエステル樹脂、アニオンとしてスルホンイミド構造を有するイオン導電剤および1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物の混合物を、円筒形状に溶融押し出しする方法
ii)前記熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形、ストレッチブロー成形、またはインフレーション成形の如き成形方法を用いてエンドレスベルト形状に成形する方法。
中でも、上記i)の方法としては、例えば、押し出したチューブの内径を高精度で制御可能な下方押出方式の内部冷却マンドレル方式、およびバキュームサイジング方式などが挙げられる。
【0029】
上記ii)の内のストレッチブロー成形による電子写真用ベルトの製造方法は、以下の工程を含む。すなわち、前記熱可塑性樹脂組成物のプリフォームを成形する工程。前記プリフォームを加熱する工程。加熱後の前記プリフォームをエンドレスベルト成形用の金型に装着し、その後、該金型内に気体を流入し延伸ブロー成形を行う工程。その延伸ブロー成形により得られる延伸成形物を切断してエンドレス形状のベルトを得る工程。
第1の層の厚みは、40μm以上、500μm以下が好ましく、特には、50μm以上、100μm以下が好ましい。
電子写真用ベルトの表面の外観改良やトナー等の離型性向上のために、熱可塑性樹脂組成物層の表面に処理剤を塗布してもよく、または、研磨処理等の表面処理を施してもよい。また、熱可塑性樹脂組成物層の表面にスパッタなどによって最外層を設けてもよい。
電子写真用ベルトの用途は、特に制限されるものではないが、例えば、トナー像を一時的に転写保持する中間転写ベルト、転写材としての記録材を搬送する搬送転写ベルトなどに好適に用いられる。特に中間転写ベルトとして好適に使用することができる。また、電子写真用ベルトを中間転写ベルトとして用いる場合には、電子写真用ベルトの表面固有抵抗率が1×10Ω/□以上、1×1012Ω/□以下であることが好ましい。表面固有抵抗率が1×10Ω/□以上であれば、抵抗が低くなることを防ぎ、転写電界を容易に得ることができ、画像の抜けやガサツキが生じることを効果的に防止することができる。表面固有抵抗率が1×1012Ω/□以下であれば、転写電圧が高くなることをより有効に抑制することができ、電源の大型化やコストの増大を効果的に抑えることができる。
【0030】
<電子写真画像形成装置>
以下に、本開示の一態様に係る電子写真用ベルトを中間転写ベルトとして用いた電子写真画像形成装置の例について説明する。この電子写真画像形成装置は、図1に示したように、複数色の電子写真ステーションを中間転写ベルトの回転方向に並べて配置した、所謂タンデム型の構成を有する。なお、以下の説明では、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色に関する構成の符号に、それぞれ、Y、M、C、kの添え字を付しているが、同様の構成については添え字を省略する場合もある。
【0031】
図1において、感光ドラム(感光体、像担持体)1Y、1M、1C、1kの周囲には、帯電装置2Y、2M、2C、2k、露光装置3Y、3M、3C、3k、現像装置4Y、4M、4C、4k、中間転写ベルト(中間転写体)6が配置されている。感光ドラム1は、矢印Fの方向に所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動される。帯電装置2は、感光ドラム1の周面を所定の極性、電位に帯電する(1次帯電)。露光装置3としてのレーザビームスキャナーは、不図示のイメージスキャナー、コンピュータ等の外部機器から入力される画像情報に対応してオン/オフ変調したレーザ光を出力して、感光ドラム1上の帯電処理面を走査露光する。この走査露光により感光ドラム1面上に目的の画像情報に応じた静電潜像が形成される。
現像装置4Y、4M、4C、4kは、それぞれイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(k)の各色成分のトナーを内包している。そして、画像情報に基づいて使用する現像装置4を選択し感光ドラム1面上に現像剤(トナー)が現像され、静電潜像がトナー像として可視化される。本実施形態では、このように静電潜像の露光部にトナーを付着させて現像する反転現像方式が用いられる。また、このような帯電装置、露光装置、現像装置により電子写真画像形成手段を構成している。
【0032】
また、中間転写ベルト6は、エンドレス形状を有する電子写真用ベルトで構成されている。そして、中間転写ベルト6は、外周面が感光ドラム1の表面と当接するよう、複数のローラ20、21、22によって張架されている。本実施形態では、ローラ20は中間転写ベルト6の張力を一定に制御するようにしたテンションローラ、ローラ22は中間転写ベルト6の駆動ローラ、ローラ21は2次転写用の対向ローラである。そして、中間転写ベルト6は、ローラ22の駆動により、矢印Gの方向へ回動する。また、中間転写ベルト6を挟んで感光ドラム1と対向する1次転写位置には、それぞれ、1次転写ローラ5Y、5M、5C、5kが配置されている。
感光ドラム1にそれぞれ形成された各色未定着トナー像は、1次転写ローラ5に不図示の定電圧源または定電流源によりトナーの帯電極性と逆極性の1次転写バイアスを印加することにより、中間転写ベルト6上に順次静電的に1次転写される。そして、中間転写ベルト6上に4色の未定着トナー像が重ね合わされたフルカラー画像を得る。中間転写ベルト6は、このように感光ドラム1から転写されたトナー像を担持しつつ回転する。1次転写後の感光ドラム1の1回転毎に感光ドラム1表面は、クリーニング装置11で転写残トナーがクリーニングされ、繰り返し作像工程に入る。
【0033】
また、転写媒体としての記録材7の搬送経路に面した中間転写ベルト6の2次転写位置には、中間転写ベルト6のトナー像担持面側に2次転写ローラ(転写部)9を圧接配置している。また、2次転写位置の中間転写ベルト6の裏面側には、2次転写ローラ9の対向電極をなし、バイアスが印加される対向ローラ21が配設されている。中間転写ベルト6上のトナー像を記録材7に転写する際、対向ローラ21にはトナーと同極性のバイアスが転写バイアス印加手段28により、例えば-1000~-3000Vが印加されて-10~-50μAの電流が流れる。このときの転写電圧は転写電圧検知手段29により検知される。更に、2次転写位置の下流側には、2次転写後の中間転写ベルト6上に残留したトナーを除去するクリーニング装置(ベルトクリーナ)12が設けられている。
記録材7は搬送ガイド8を通過して矢印Hの方向に搬送され、2次転写位置に導入される。2次転写位置に導入された記録材7は、2次転写位置で挾持搬送され、その時に、2次転写ローラ9の対向ローラ21に2次転写バイアス印加手段28から所定の値に制御された定電圧バイアス(転写バイアス)が印加される。対向ローラ21にトナーと同極性の転写バイアスを印加することで転写部位において中間転写ベルト6上に重ね合わされた4色のフルカラー画像(トナー像)を記録材7へ一括転写し、記録材上にフルカラーの未定着トナー像を形成する。トナー画像の転写を受けた記録材7は不図示の定着器へ導入され加熱定着される。
【実施例
【0034】
以下に、実施例および比較例を示し、本開示に係る電子写真用ベルト及び電子写真画像形成装置について具体的に説明する。なお、本開示に係る電子写真用ベルト及び電子写真画像形成装置は、実施例に具現化された構成に限定されるものではない。
まず、実施例および比較例に係る電子写真用ベルトの製造に用いる材料(熱可塑性ポリエステル樹脂、カチオンおよびアニオンを有するイオン化合物、アミド化合物、ポリエーテルエステルアミド、シリコーン粒子)として下記表1~表5に記載の材料を用意した。
なお、表2に示すイオン化合物1~6におけるカチオンは、水酸基を有するカチオンに該当し、一方、イオン化合物7のカチオンはこの水酸基を有するカチオンに該当しない。また、表3に示すアミド化合物1~2は、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物に該当し、一方、アミド化合物3はこの化合物に該当しない。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
特性値の測定法、評価法)
以下に実施例および比較例に係る電子写真用ベルトの評価方法(1)~(4)について説明する。また、以下の評価において画像形成に供した転写媒体としては、温度23℃、相対湿度45%の環境に1日放置した、Ra(算術平均粗さ)が4、Rzjis(十点平均粗さ)が15であるA4サイズの紙を用いた。
【0041】
(1)表面固有抵抗値
電子写真用ベルトの表面固有抵抗率の測定は、日本産業規格(JIS)-K6911 1995に規定されている方法に基づき測定した。測定装置としては、高抵抗計(商品名:ハイレスタUP MCP-HT450型)の主電極の内径が50mm、ガード・リング電極の内径が53.2mm、外径が57.2mmのプローブ(商品名:UR-100)を用いた。高抵抗計及びプローブは、三菱化学アナリテック社製である。
作製した電子写真用ベルトを、温度23℃、相対湿度50%に制御された環境試験室内に12時間放置した。その後、温度23℃、相対湿度50%環境下にて、測定する電子写真用ベルトに電圧250Vを10秒間印加し、この電子写真用ベルトの周方向の4箇所の表面固有抵抗率を測定した。得られた表面固有抵抗率の平均値(ρs)の10を底とした対数をlogρsとし、電気抵抗の指標とした。表6~8の「表面固有抵抗値」の欄に示した値は、このlogρsの値である。
【0042】
(2)初期のトナー転写効率
作製した電子写真用ベルトをフルカラー電子写真装置(商品名:LBP-5200、キヤノン株式会社製)のドラムカートリッジに中間転写ベルトとして装着した。このフルカラー電子写真装置を用いて、転写媒体にシアントナーおよびマゼンタトナーを重ね合わせて紫のベタ画像を形成した。
トナー転写効率は、感光ドラムから一次転写により電子写真用ベルト表面に保持されたトナー量F(g)と、転写媒体に二次転写されたときに、電子写真用ベルト表面に残っている残トナー量S(g)から算出した。具体的には下記式[1]により表される。
トナー転写効率(%)=(1-S/F)×100 [1]
【0043】
(3)耐久試験後のトナー転写効率
300,000枚目の転写媒体に形成された画像について、上記(2)と同様の方法により、トナー転写効率を計測した。
【0044】
(4)耐久試験後、10日間放置した電子写真用ベルトのトナー転写効率
上記(3)で耐久試験した電子写真用ベルトを、フルカラー電子写真装置内で、温度23℃、相対湿度50%に制御された状態で10日間保管した後、転写媒体にシアントナーおよびマゼンタトナーを重ね合わせて紫のベタ画像を形成した。転写媒体に形成された画像について、上記(2)と同様の方法により、トナー転写効率を計測した。
【0045】
[実施例1~10]
表6に記載の配合にて材料を事前にプリブレンドした後、二軸押出し機(商品名:TEX44α、日本製鋼所社製)を用いて、熱溶融混練してペレット状の熱可塑性樹脂組成物を調製した。熱溶融混練温度は270℃以上、300℃以下の範囲内となるように調整し、熱溶融混練時間はおよそ3分とした。
得られたペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、温度140℃で6時間乾燥させた。次いで、図2に示した構成を有する射出成形装置(商品名:SE180D、住友重機械工業社製)のホッパー48に、乾燥させたペレット状の熱可塑性樹脂組成物を投入した。
そして、シリンダ設定温度を290℃にし、スクリュー42および42A内で溶融させ、ノズル41Aを通して、金型(不図示)内に射出成形してプリフォーム104(図3参照)を作成した。このときの射出成形金型温度は30℃とした。
【0046】
次に、図3に示す1次ブロー成形装置の、温度500℃の加熱装置107内にプリフォーム104を入れて軟化させ、プリフォーム104を500℃で加熱した。そして、金型温度を室温に保ったブロー金型108内で延伸棒109とエアーの力(ブローエアー注入部分110)でプリフォーム温度160℃、エアー圧力0.3MPa、延伸棒速度1000mm/sでブロー成形してブローボトル112を得た。
【0047】
次いで、図4に示した2次ブロー成形装置の、電鋳で作製されたニッケル製円筒金型201の中に、得られたブローボトル205をセットし、外型203を装着した。エアー圧力0.1MPaをブローボトル205内に印加し、外部にエアーが漏出しないよう調整することでブローボトル205を金型内面に転写させ、ニッケル製円筒金型201を回転させながら加熱ヒータ202にて190℃で合計60秒間均一に加熱した。
その後、このニッケル製円筒金型にエアーを吹き当てて常温まで冷却し、ブローボトル内に印加された圧力を解除し、アニールにより寸法が改善されたブローボトルを得た。このブローボトルの両端をカットすることによりエンドレスベルトを得た。このエンドレスベルトをそのまま電子写真用ベルトとして用いた。電子写真用ベルトの厚みは70μmであった。この電子写真用ベルトについて上記(1)~(4)の評価を行った結果を表6に示す。
【0048】
【表6】
【0049】
[実施例11~15]
表7に記載の配合としたこと以外は、実施例1と同様にしてエンドレスベルトを得た。このエンドレスベルトを基層とし、感光ドラムやクリーニングブレードの如き他の接触部材との密着性や、トナーの離型性を向上することを目的として、活性エネルギー線硬化性樹脂であるアクリル樹脂からなる最外層を以下のようにして設けた。
【0050】
アクリル樹脂最外層の原料として、次の材料を混合した。
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 100質量部
(商品名:ライトアクリレートDPE-6A、共栄社化学社製)
・カーボンブラック(ケッチェンブラック) 15質量部
(商品名:MHIブラック#273、御国色素社製)
・光重合開始剤 5質量部
(商品名:イルガキュア(登録商標)184、BASFジャパン社製)。
【0051】
そして、この混合物を、樹脂固形分濃度が6質量%になるようにメチルエチルケトンで希釈し、スターラーで撹拌して、均一なアクリル樹脂最外層形成用の混合液を得た。この混合液を、上記基層の外周面にスプレー法で均一に塗布し、60℃で1分間乾燥させて溶媒を除去した後、紫外線を照射して硬化させた。このようにして、基層の外周面に、厚み2μmのアクリル樹脂最外層を形成した電子写真用ベルトを得た。なお、紫外線源として、紫外線照射装置(商品名:UE06/81-3、アイグラフィックス社製)を使用して、積算光量が1000mJ/cmになるまで紫外線を照射し、アクリル樹脂最外層のUV硬化を行った。得られた電子写真用ベルトについて、上記(1)~(4)の評価を行った結果を表7に示す。
【0052】
【表7】
【0053】
表6、表7に示した通り、実施例1~15の材料組成ではいずれも、電子写真用ベルトのトナー転写効率評価において、耐久試験後10日間放置した後のトナー転写効率は、全て92%以上で非常に良好であった。
【0054】
[比較例1~7]
材料種および配合量を下記表8に記載した通りとしたこと以外、実施例1または実施例11と同様にして電子写真用ベルトを作製した。これらの評価結果を表8に示す。
【0055】
【表8】
【0056】
比較例1、2、3においては、水酸基を含有しないカチオン(イオン化合物7)が含有されている。比較例1,4においては、アミド化合物が含有されていない。比較例5、6、7においては、1分子内に少なくとも2個のアミド基を有する化合物の代わりに1個のアミド基を有する化合物が含有されている。また、比較例7においては、アクリル樹脂からなる最外層を設けた。
いずれの比較例においても、耐久試験後、10日間放置した後のトナー転写効率は、初期および耐久試験後よりも10%以上低下した。この結果より、本開示で規定するカチオンと、アミド基を有する化合物の組み合わせ以外では、熱可塑性ポリエステル樹脂、カチオン間の相互作用による親和性は向上せず、ベルト表面のブリード物の付着を抑制する効果が得られないことが検証された。
【符号の説明】
【0057】
1 感光ドラム
2 帯電装置
3 露光装置
4 現像装置
5 1次転写ローラ
6 中間転写ベルト
7 記録材
9 2次転写ローラ
11 クリーニング装置
12 クリーニング装置(ベルトクリーナ)
20 テンションローラ
21 対向ローラ
22 駆動ローラ
28 転写バイアス印加手段
29 転写高圧検知手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6