(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】鉄筋挿通治具及び鉄筋の組立方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20241021BHJP
E04B 1/21 20060101ALI20241021BHJP
E04G 21/18 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
E04G21/12 105D
E04B1/21 B
E04G21/18 Z
(21)【出願番号】P 2021038992
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 康誉
(72)【発明者】
【氏名】田中 良一
(72)【発明者】
【氏名】土佐内 優介
(72)【発明者】
【氏名】小松原 知将
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 郁斗
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-178703(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008152(WO,A1)
【文献】特開平06-054421(JP,A)
【文献】特開昭61-079094(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0156646(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/21
E04G 21/12-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱材に設けられた水平かつ直線的な貫通孔に挿通される鉄筋の挿入方向側の先端側に着脱可能な装着部と、
前記装着部が装着する前記鉄筋の先端より前記挿入方向側かつ前記鉄筋の周面の下端より下方で前記貫通孔の内周面に接地し、少なくとも前記貫通孔の内周面に接地する接地面がR形状である保持部と、
を備え
、
前記保持部は、水平かつ前記鉄筋の長手方向に平行な方向に直交する回転軸を有し、前記回転軸に回転可能であるように前記装着部に対して支持されるローラを含む、鉄筋挿通治具。
【請求項2】
前記装着部は、前記鉄筋の周面に形成された雄ねじ部に螺合する雌ねじ部を内周面に含む、
請求項
1に記載の鉄筋挿通治具。
【請求項3】
前記鉄筋は、プレキャスト梁の長手方向の先端から突出してプレキャスト梁と一体で設けられる鉄筋である、
請求項1
又は2に記載の鉄筋挿通治具。
【請求項4】
柱材に設けられた水平かつ直線的な貫通孔に挿通される鉄筋の挿入方向側の先端側に着脱可能な装着部と、
前記装着部が装着する前記鉄筋の先端より前記挿入方向側かつ前記鉄筋の周面の下端より下方で前記貫通孔の内周面に接地し、少なくとも前記貫通孔の内周面に接地する接地面の、前記鉄筋の長手方向に沿った形状がR形状である保持部と、
を備える鉄筋挿通治具を
、前記鉄筋の先端に取り付ける工程と、
前記鉄筋挿通治具を装着した状態で前記鉄筋を移動させて前記貫通孔に対して挿入する工程と、
前記鉄筋を前記貫通孔に貫通させた後に前記鉄筋挿通治具を取り外す工程と、
を含む、鉄筋の組立方法。
【請求項5】
前記保持部は、水平かつ前記鉄筋の長手方向に平行な方向に直交する回転軸を有し、前記回転軸に回転可能であるように前記装着部に対して支持されるローラを含む、
請求項
4に記載の鉄筋
の組立方法。
【請求項6】
前記保持部は、少なくとも前記接地面に摩擦力を低減させるシート状の滑り材を含む、
請求項
4に記載の鉄筋
の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄筋挿通治具及び鉄筋の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柱梁接合工法として、プレキャスト梁と一体となった鉄筋(梁主筋)、又は梁主筋と継手する鉄筋を、プレキャスト柱に設けられた水平な孔に挿通させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水平姿勢で鉄筋を孔に通す際に、特にプレキャスト柱が大断面のものである場合、孔の長さが長くなるため、鉄筋の先端が自重で撓む可能性がある。そして、鉄筋を通す孔には、狭小なものが多く、さらにコンクリートと鉄筋との付着性能を上げるために内側に凹凸が形成されているシース管が使用されることも多い。このため、撓んだ鉄筋の先端が孔の内側とぶつかり、凹凸に引っ掛かり、施工に手間取る可能性がある。また、大断面のプレキャスト柱に限らず、現場打ちコンクリートを用いた在来工法で施工した柱に対して水平姿勢で鉄筋を孔に通す際にも、同様の問題が生じる可能性がある。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、水平な貫通孔に円滑に鉄筋を挿通させることができる鉄筋挿通治具及び鉄筋の組立方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様の鉄筋挿通治具は、柱材に設けられた水平かつ直線的な貫通孔に挿通される鉄筋の挿入方向側の先端側に着脱可能な装着部と、前記装着部が装着する前記鉄筋の先端より前記挿入方向側かつ前記鉄筋の周面の下端より下方で前記貫通孔の内周面に接地し、少なくとも前記貫通孔の内周面に接地する接地面がR形状である保持部と、を備える。
【0007】
鉄筋挿通治具の望ましい態様として、前記保持部は、水平かつ前記鉄筋の長手方向に平行な方向に直交する回転軸を有し、前記回転軸に回転可能であるように前記装着部に対して支持されるローラを含む。
【0008】
鉄筋挿通治具の望ましい態様として、前記保持部は、少なくとも前記接地面に摩擦力を低減させるシート状の滑り材を含む。
【0009】
鉄筋挿通治具の望ましい態様として、前記装着部は、前記鉄筋の周面に形成された雄ねじ部に螺合する雌ねじ部を内周面に含む。
【0010】
鉄筋挿通治具の望ましい態様として、前記鉄筋は、プレキャスト梁の長手方向の先端から突出してプレキャスト梁と一体で設けられる鉄筋である。
【0011】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様の鉄筋の組立方法は、前記鉄筋挿通治具を前記鉄筋の先端に取り付ける工程と、前記鉄筋挿通治具を装着した状態で前記鉄筋を移動させて前記貫通孔に対して挿入する工程と、前記鉄筋を前記貫通孔に貫通させた後に前記鉄筋挿通治具を取り外す工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、水平な貫通孔に円滑に鉄筋を挿通させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る鉄筋挿通治具の構成例を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す鉄筋挿通治具の装着対象である鉄筋の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す鉄筋挿通治具による鉄筋の組立方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3に示す取り付け工程後の状態を示す側面図である。
【
図5】
図5は、
図3に示す挿入工程の一状態を一部断面で示す側面図である。
【
図6】
図6は、
図3に示す取り外し工程の一例を一部断面で示す側面図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る鉄筋挿通治具の構成例を模式的に示す側面図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態に係る鉄筋挿通治具の構成例を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本開示につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本開示は、以下の実施形態の記載に限定されるものではない。また、以下の実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した実施形態における構成要素は、本開示の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。以下の実施形態では、本開示の実施形態を例示する上で、必要となる構成要素を説明し、その他の構成要素を省略する。
【0015】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る鉄筋挿通治具1の構成及び装着対象の鉄筋100の一例について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係る鉄筋挿通治具1の構成例を模式的に示す側面図である。
図2は、
図1に示す鉄筋挿通治具1の装着対象である鉄筋100の一例を示す斜視図である。鉄筋挿通治具1は、柱材(例えば、
図2、
図5及び
図6のプレキャスト柱200)に設けられた水平かつ直線的な貫通孔(例えば、
図2、
図5及び
図6の貫通孔202)に鉄筋(例えば、
図2及び
図4等の鉄筋100)を挿通する際に鉄筋に取り付ける治具である。
【0016】
鉄筋挿通治具1が装着される鉄筋100は、第1実施形態において、プレキャスト梁150の長手方向の端面152から突出してプレキャスト梁150と一体で設けられる鉄筋である。鉄筋100は、1つのプレキャスト梁150の端面152に、複数並列で設けられる。複数の鉄筋100は、プレキャスト梁150を接合するプレキャスト柱200の側面に設けられた複数の貫通孔202にそれぞれ挿通される。プレキャスト柱200の複数の貫通孔202は、接合するプレキャスト梁150の複数の鉄筋100のそれぞれと同軸であるように設けられる。以下の説明では、
図2に示すプレキャスト梁150の鉄筋100をプレキャスト柱200の貫通孔202に挿入する場合として説明するが、本開示ではこれに限定されない。
【0017】
鉄筋挿通治具1は、第1実施形態において、装着部10と、保持部20と、を備える。装着部10は、鉄筋100の貫通孔202への挿入方向側の先端102側に着脱可能である。装着部10は、中心軸Acが取り付け対象の鉄筋100の長手方向に沿う円筒形状を含む。装着部10は、内周面12が取り付け対象の鉄筋100の周面104(
図4等参照)と対向する。装着部10の内径Diは、取り付け対象の鉄筋100の直径と同等である。
【0018】
装着部10は、第1実施形態において、内周面12と外周面14との間の厚みが、7mm未満となるように設けられる。また、装着部10の外径Doは、少なくとも、取り付け対象の鉄筋100を挿通する貫通孔202の内径より小さい。装着部10の外周面14側には、後述の保持部20のアーム50の一端部52が連結される。装着部10は、アーム50の姿勢を保持する。
【0019】
装着部10は、例えば、フレキシブルなベルト状で取り付け対象の鉄筋100の周面104(
図4等参照)に巻かれて装着するものでもよい。また、装着部10は、例えば、一対の半円筒状部材と、一対の半円筒状部材が周方向の一端側で開閉可能であるように他端側を屈曲自在に連結する連結部と、一端側で一対の半円筒状部材同士を固定する固定部材と、を含むものでもよい。連結部は、例えば、蝶番等を含む。固定部材は、例えば、ねじ又はスナップ錠等を含む。
【0020】
保持部20は、装着部10が鉄筋100に装着している状態で鉄筋100を貫通孔202に挿通する際に、貫通孔202の内周面に接地することで鉄筋100を保持する。保持部20は、装着部10が装着する鉄筋100の先端102より挿入方向側で貫通孔202の内周面に接地する。保持部20は、装着対象の鉄筋100の周面104(
図4等参照)の下端より下方で貫通孔202の内周面に接地する。保持部20は、少なくとも貫通孔202の内周面に接地する接地面(第1実施形態では、ローラ30の接地面34)がR形状である。なお、鉄筋100に装着している際の鉄筋100及び貫通孔202の各部との位置関係については、後述にて詳細に説明する。保持部20は、第1実施形態において、ローラ30と、軸部40と、一対のアーム50と、を含む。
【0021】
ローラ30は、回転軸Arが装着部10に対して支持される円板体を含む。回転軸Arは、水平かつ装着部10の中心軸Acに平行な方向、すなわち装着対象の鉄筋100の長手方向に直交する。ローラ30の回転軸Arは、装着部10の中心軸Acと高低差hを有する。より詳しくは、回転軸Arの垂直方向の位置は、中心軸Acの垂直方向の位置より低い。
【0022】
ローラ30の外周面32は、装着対象の鉄筋100を貫通孔202に挿通する際に、貫通孔202の内周面を転動する転動周面である。ローラ30の外周面32において下端に位置する接地面34は、装着部10の外周面14の下端と高低差Hを有する。より詳しくは、接地面34の垂直方向の位置は、装着部10の外周面14の下端の垂直方向の位置より低い。
【0023】
軸部40は、軸心がローラ30の回転軸Arと同一であるように、ローラ30に固定して設けられる。軸部40は、アーム50の他端部54に対して回転軸Ar回りに回転可能に支持される。
【0024】
一対のアーム50は、軸部40を介してローラ30を装着部10に対して支持する。アーム50の一端部52は、装着部10の外周面14に固定される。すなわち、アーム50は、一端部52において、装着部10を介して、装着部10に装着された鉄筋100に固定される。アーム50の他端部54は、軸部40を回転軸Ar回りに回転可能に支持する。すなわち、アーム50は、他端部54において、軸部40を介して、ローラ30を回転軸Ar回りに回転可能に支持する。
【0025】
次に、本開示に係る鉄筋100の組立方法について、
図3から
図6までを参照して説明する。以下の説明では、
図1に示す第1実施形態の鉄筋挿通治具1による鉄筋100の組立方法について説明する。
図3は、
図1に示す鉄筋挿通治具1による鉄筋100の組立方法を示すフローチャートである。鉄筋100の組立方法は、取り付け工程S1と、挿入工程S2と、取り外し工程S3と、を含む。
【0026】
図4は、
図3に示す取り付け工程S1後の状態を示す側面図である。取り付け工程S1は、鉄筋挿通治具1を鉄筋100の先端102に取り付ける工程である。
図4に示すように、取り付け工程S1では、装着部10の中心軸Acが鉄筋100の長手方向と一致するように、鉄筋挿通治具1を鉄筋100の先端102に取り付ける。この際、鉄筋100は、先端102近傍の周面104の一部が、装着部10の内周面12に固定される。鉄筋挿通治具1を鉄筋100の先端102に取り付けた状態で、装着部10の中心軸Ac、すなわち鉄筋100の長手方向を水平姿勢にすると、保持部20のローラ30の接地面34は、鉄筋100の周面104の下端及び装着部10の外周面14の下端より下方に位置する。
【0027】
図5は、
図3に示す挿入工程S2の一状態を一部断面で示す側面図である。挿入工程S2は、鉄筋挿通治具1を装着した状態で鉄筋100を移動させて貫通孔202に対して挿入する工程である。貫通孔202は、第1実施形態において、プレキャスト柱200に設けられた水平方向に延在しかつ直線的な貫通孔である。
【0028】
図5に示すように、貫通孔202は、第1実施形態において、プレキャスト柱200のコンクリートに埋設されたシース管210によって形成される。すなわち、プレキャスト柱200において、シース管210の外周面212側は、コンクリートによって充填されている。シース管210は、円形断面形状を有する。
【0029】
シース管210の内周面214は、鉄筋100が挿通された後(
図5参照)に鉄筋100の周面104との間に充填されるグラウトとの接着性を向上させるために、凹凸を有することが好ましい。なお、グラウトの接着性を担保するためには、シース管210の内周面214と鉄筋100の周面104との間の間隙を、約7mmとする必要がある。したがって、シース管210の内径は、鉄筋100の外径Doより14mm大きく設定される。
【0030】
挿入工程S2で鉄筋100を貫通孔202に挿入する際には、貫通孔202の一端側の開口204から鉄筋挿通治具1を先頭にして、鉄筋100の水平姿勢を維持しながら、挿入方向へ移動させる。鉄筋挿通治具1は、保持部20のローラ30が回転軸Ar回りに回転し、シース管210の内周面214を転動しながら貫通孔202を挿入方向へ移動する。
【0031】
この際、貫通孔202の内周面214に接地する保持部20の接地面34は、鉄筋100の先端102より挿入方向側に位置する。また、接地面34は、鉄筋100の周面104の下端より下方に位置する。鉄筋挿通治具1に装着され、水平姿勢を維持された鉄筋100は、保持部20の接地面34が貫通孔202の内周面214に接地することによって、貫通孔202の内周面214に接地しないように保持されながら、挿入方向へ挿通される。
【0032】
図6は、
図3に示す取り外し工程S3の一例を一部断面で示す側面図である。取り外し工程S3は、鉄筋100を貫通孔202に貫通させた後に鉄筋挿通治具1を取り外す工程である。
図6に示すように、鉄筋挿通治具1は、鉄筋100が貫通孔202を貫通し、鉄筋100の先端102が貫通孔202の他端側の開口206より外側へ突き出した状態において、貫通孔202の開口206より外部側に位置する。
【0033】
作業者は、鉄筋挿通治具1を鉄筋100の先端102から取り外す。その後は、貫通孔202のシース管210の内部に挿通された鉄筋100の周面104とシース管210の内周面214との間にグラウトを注入して充填させ、鉄筋100とシース管210とを接着させる。
【0034】
以上で説明したように、第1実施形態の鉄筋挿通治具1は、柱材(プレキャスト柱200)に設けられた水平かつ直線的な貫通孔202に挿通される鉄筋100の挿入方向側の先端102側に着脱可能な装着部10と、装着部10が装着する鉄筋100の先端102より挿入方向側かつ鉄筋100の周面104の下端より下方で貫通孔202の内周面214に接地し、少なくとも貫通孔202の内周面214に接地する接地面34がR形状である保持部20と、を備える。
【0035】
第1実施形態の鉄筋挿通治具1は、R形状の接地面34で貫通孔202の内周面214に接地するように装着対象の鉄筋100の先端102側を保持する。これにより、装着対象の鉄筋100が、貫通孔202に挿通する際に先端102が自重で撓むような鉄筋100であっても、鉄筋100が貫通孔202の内周面214にぶつかることを抑制することができる。また、貫通孔202の内周面214に接地する接地面34がR形状であるため、貫通孔202の内周面214に凹凸がある場合でも、鉄筋100の先端102が凹凸に引っ掛かることを抑制することができる。したがって、水平な貫通孔202に円滑に鉄筋100を挿通させることができる。
【0036】
また、第1実施形態の鉄筋挿通治具1において、保持部20は、水平かつ鉄筋100の長手方向に平行な方向に直交する回転軸Arを有し、回転軸Ar回りに回転可能であるように装着部10に対して支持されるローラ30を含む。これにより、装着対象の鉄筋100が、貫通孔202に挿通する際に、ローラ30が回転軸Ar回りに回転することで貫通孔202の内周面214を転動する。
【0037】
装着部10が装着する鉄筋100は、ローラ30の転動中、ローラ30の外周面32の下端に位置する接地面34が貫通孔202の内周面214に接地することで、先端102が内周面214に接地しないように保持される。したがって、鉄筋100が貫通孔202の内周面214にぶつかることを抑制するとともに、貫通孔202の内周面214に凹凸がある場合でも、鉄筋100の先端102が凹凸に引っ掛かることを抑制することができる。
【0038】
また、第1実施形態の鉄筋挿通治具1において、鉄筋100は、プレキャスト梁の長手方向の先端から突出してプレキャスト梁と一体で設けられる鉄筋である。第1実施形態の鉄筋挿通治具1は、プレキャスト柱とプレキャスト梁との接合工程において、プレキャスト梁の主筋をプレキャスト柱の仕口に形成された孔に挿通する際にも利用可能である。
【0039】
また、第1実施形態の鉄筋100の組立方法は、鉄筋挿通治具1を鉄筋100の先端102に取り付ける工程(取り付け工程S1)と、鉄筋挿通治具1を装着した状態で鉄筋100を移動させて貫通孔202に対して挿入する工程(挿入工程S2)と、鉄筋100を貫通孔202に貫通させた後に鉄筋挿通治具1を取り外す工程(取り外し工程S3)と、を含む。
【0040】
このように、鉄筋100を貫通孔202に挿通させる前に、鉄筋100の先端102に鉄筋挿通治具1を取り付けることによって、鉄筋100を貫通孔202の内周面214にぶつけたり、凹凸に引っ掛けたりすることなく、円滑に挿通させることができる。また、鉄筋100を貫通孔202に挿通させた後に、鉄筋挿通治具1を取り外すことができるので、鉄筋挿通治具1を別の鉄筋100に改めて装着し、繰り返し使用することが可能である。
【0041】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る鉄筋挿通治具2の構成について、
図7を参照して説明する。
図7は、第2実施形態に係る鉄筋挿通治具2の構成例を模式的に示す側面図である。なお、第2実施形態に係る鉄筋挿通治具2について、第1実施形態に係る鉄筋挿通治具1と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。第2実施形態に係る鉄筋挿通治具2は、第1実施形態に係る鉄筋挿通治具1と比較して、装着部10の代わりに装着部60を備える点で異なる。また、第2実施形態の鉄筋挿通治具2は、周面114の少なくとも周方向の一部に雄ねじ部116が形成される鉄筋110(ねじ節鉄筋)に取り付ける治具である。
【0042】
装着部60は、鉄筋110の貫通孔への挿入方向側の先端112側に着脱可能である。装着部60は、中心軸Acが取り付け対象の鉄筋の長手方向に沿う円筒形状を含む。なお、第1実施形態の装着部10が両端とも開口する円筒形状を含むのに対し、第2実施形態の装着部60は、一端が閉塞する円筒形状を含む。装着部60は、内周面62に雌ねじ部が形成される。雌ねじ部は、取り付け対象の鉄筋110の周面114に形成された雄ねじ部116に螺合する。装着部60の外周面64側には、保持部20のアーム50の一端部52が連結される。装着部60は、アーム50の姿勢を保持する。
【0043】
以上で説明したように、第2実施形態の鉄筋挿通治具2において、装着部60は、鉄筋110の周面114に形成された雄ねじ部116に螺合する雌ねじ部を内周面62に含む。第2実施形態の鉄筋挿通治具2は、鉄筋挿通治具2を鉄筋110の先端112にねじ留めするので、鉄筋挿通治具2の装着部60の中心軸Acを、鉄筋110の長手方向に容易に一致させることができる。これにより、鉄筋110を貫通孔の内周面にぶつけたり、凹凸に引っ掛けたりすることなく、より円滑に挿通させることができる。
【0044】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る鉄筋挿通治具3の構成について、
図8を参照して説明する。
図8は、第3実施形態に係る鉄筋挿通治具3の構成例を模式的に示す側面図である。なお、第3実施形態に係る鉄筋挿通治具3について、第1実施形態に係る鉄筋挿通治具1と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。第3実施形態に係る鉄筋挿通治具3は、第1実施形態に係る鉄筋挿通治具1と比較して、保持部20の代わりに保持部70を備える点で異なる。
【0045】
保持部70は、装着部10が鉄筋に装着している状態で鉄筋100を貫通孔に挿通する際に、貫通孔の内周面に接地することで鉄筋を保持する。保持部70は、第3実施形態において、アーム80と、滑り材90と、を含む。
【0046】
アーム80は、装着部10に支持される。アーム80の一端部82は、装着部10の外周面14に固定される。すなわち、アーム80は、一端部82において、装着部10を介して、装着部10に装着された鉄筋100に固定される。装着部10の中心軸Acが水平姿勢である場合、アーム80は、一端部82から他端部84に向かって、前方(装着対象の鉄筋100の先端102側、
図8に示す左方向)かつ下方に延在する。アーム80の他端部84は、前方に向かって上方に反り返るように湾曲して設けられる。
【0047】
滑り材90は、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)等でコーティングされたシート状である。滑り材90は、アーム80の他端部84の下面86側に設けられる。滑り材90の一方の面は、アーム80の他端部84の下面86側に貼着される。滑り材90の他方の面92は、装着対象の鉄筋100を貫通孔に挿通する際に、貫通孔の内周面を摺動する接地面94を含む。滑り材90は、少なくとも接地面94に摩擦力を低減させる。
【0048】
装着部10の中心軸Acが鉄筋100の長手方向と一致するように、鉄筋挿通治具3を鉄筋100の先端102に取り付けた状態で、装着部10の中心軸Ac、すなわち鉄筋100の長手方向を水平姿勢にすると、保持部70の滑り材90の接地面94は、鉄筋100の周面104の下端及び装着部10の外周面14の下端より下方に位置する。
【0049】
以上で説明したように、第3実施形態の鉄筋挿通治具3において、保持部70は、少なくとも接地面94に摩擦力を低減させるシート状の滑り材90を含む。これにより、装着対象の鉄筋100が、貫通孔に挿通する際に、滑り材90の接地面94が貫通孔の内周面を摺動する。
【0050】
装着部10が装着する鉄筋100は、滑り材90の摺動中、滑り材90の下方に向く面92の下端に位置する接地面94が貫通孔の内周面に接地することで、先端102が貫通孔の内周面に接地しないように保持される。したがって、鉄筋100が貫通孔の内周面にぶつかることを抑制するとともに、貫通孔の内周面に凹凸がある場合でも、鉄筋100の先端102が凹凸に引っ掛かることを抑制することができる。また、滑り材90により、接地面94と貫通孔の内周面との間の摩擦力が低減されるので、より円滑に鉄筋100を挿通させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1、2、3 鉄筋挿通治具
10、60 装着部
12、62 内周面
14、64 外周面
20、70 保持部
30 ローラ
32 外周面
34、94 接地面
40 軸部
50、80 アーム
52、82 一端部
54、84 他端部
86 下面
90 滑り材
92 面
100、110 鉄筋
102、112 先端
104、114 周面
116 雄ねじ部
150 プレキャスト梁
152 端面
200 プレキャスト柱
202 貫通孔
204、206 開口
210 シース管
212 外周面
214 内周面
Ac 中心軸
Ar 回転軸
Di 内径
Do 外径
h、H 高低差
S1 取り付け工程
S2 挿入工程
S3 取り外し工程