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特許7574112工作機械の環境温度変化予測装置及び予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】工作機械の環境温度変化予測装置及び予測方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20241021BHJP
   G01W 1/10 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
G05B19/18 W
G01W1/10 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021039561
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2022139266
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】溝口 祐司
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-198928(JP,A)
【文献】特開2020-116660(JP,A)
【文献】特開2014-134360(JP,A)
【文献】特開平06-060049(JP,A)
【文献】特開2020-059071(JP,A)
【文献】特開平11-058179(JP,A)
【文献】特開2018-079521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18
G01W 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械が設置された工場の環境温度変化を予測する工作機械の環境温度変化予測装置であって、
前記工作機械の発熱部の発熱の影響を受けない部位の機体温度及び/又は周囲気温を温度センサにより測定し、環境温度として取得する環境温度取得部と、
前記工場の外の気温を、温度センサによる測定及び/又は気象データにより工場外気温として取得する外気温取得部と、
前記環境温度と前記工場外気温とのデータに基づいて前記環境温度の変化傾向を幾つかのパターンに分類する分類規則と、前記パターンごとに異なる環境温度予測モデルと、を工場環境パターンとして予め定義しておく工場環境パターン設定部と、
過去の前記環境温度及び前記工場外気温のデータに基づいて、前記分類規則から当てはまる前記工場環境パターンを選択し、対応する前記環境温度予測モデルのパラメータを決定する予測モデル生成部と、
前記予測モデル生成部で生成された前記環境温度予測モデルにより、将来の前記環境温度の変化を予測する環境温度変化予測部と、
を備えることを特徴とする工作機械の環境温度変化予測装置。
【請求項2】
前記工場外気温の将来の予測データを外気温予測データとして取得する外気温予測データ取得部をさらに備え、
前記環境温度変化予測部は、前記外気温予測データと前記環境温度予測モデルとにより、前記将来の環境温度の変化を予測することを特徴とする請求項1に記載の工作機械の環境温度変化予測装置。
【請求項3】
前記工場環境パターン設定部における前記分類規則は、過去の前記環境温度変化の変化幅と、過去の前記工場外気温に時間遅れの処理を行ったものと前記環境温度変化との相関の大きさと、過去の前記環境温度変化の周期性とに基づいて分類する規則であることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械の環境温度変化予測装置。
【請求項4】
前記工場環境パターン設定部で定義される前記環境温度予測モデルは、一定温度と、時刻または曜日の関数と、前記工場外気温を入力とする伝達関数と、のいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の工作機械の環境温度変化予測装置。
【請求項5】
前記工場環境パターン設定部は、
前記環境温度変化の変化幅が所定の変化幅閾値を下回っている場合、前記環境温度予測モデルを、前記一定温度とし、
前記変化幅が前記変化幅閾値以上で、且つ前記相関の大きさが所定の係数閾値より高い場合、前記環境温度予測モデルを、前記工場外気温を入力とする伝達関数とし、
前記変化幅が前記変化幅閾値以上で、且つ前記相関の大きさが前記係数閾値以下であり、さらに前記過去の環境温度変化に日毎または週毎の周期性がある場合、前記環境温度予測モデルを、前記時刻または曜日の関数とし、
前記変化幅が前記変化幅閾値以上で、且つ前記相関の大きさが前記係数閾値以下であり、さらに前記過去の環境温度変化に日毎または週毎の周期性がない場合、前記環境温度予測モデルを決定不可能とする
ことを特徴とする請求項4に記載の工作機械の環境温度変化予測装置。
【請求項6】
前記環境温度変化予測部で予測された前記将来の環境温度の変化を報知する予測結果報知部をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の工作機械の環境温度変化予測装置。
【請求項7】
工作機械が設置された工場の環境温度変化を予測する工作機械の環境温度変化予測方法であって、
前記工作機械の発熱部の発熱の影響を受けない部位の機体温度及び/又は周囲気温を温度センサにより測定し、環境温度として取得する環境温度取得ステップと、
前記工場の外の気温を、温度センサによる測定及び/又は気象データより工場外気温として取得する外気温取得ステップと、
前記環境温度と前記工場外気温とのデータに基づいて前記環境温度の変化傾向を幾つかのパターンに分類する分類規則と、前記パターンごとに異なる環境温度予測モデルと、を工場環境パターンとして予め定義しておく工場環境パターン設定ステップと、
過去の前記環境温度及び前記工場外気温のデータに基づいて、前記分類規則から当てはまる前記工場環境パターンを選択し、対応する前記環境温度予測モデルのパラメータを決定する予測モデル生成ステップと、
前記予測モデル生成ステップで生成された前記環境温度予測モデルにより、将来の前記環境温度の変化を予測する環境温度変化予測ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械の環境温度変化予測方法。
【請求項8】
前記環境温度変化予測ステップの前に、
前記工場外気温の将来の予測データを外気温予測データとして取得する外気温予測データ取得ステップを実行し、
前記環境温度変化予測ステップでは、前記外気温予測データと前記環境温度予測モデルとにより、前記将来の環境温度の変化を予測することを特徴とする請求項7に記載の工作機械の環境温度変化予測方法。
【請求項9】
前記工場環境パターン設定ステップにおける前記分類規則は、過去の前記環境温度変化の変化幅と、過去の前記工場外気温に時間遅れの処理を行ったものと前記環境温度変化との相関の大きさと、過去の前記環境温度変化の周期性とに基づいて分類する規則であることを特徴とする請求項7又は8に記載の工作機械の環境温度変化予測方法。
【請求項10】
前記工場環境パターン設定ステップで定義される前記環境温度予測モデルは、一定温度と、時刻または曜日の関数と、前記工場外気温を入力とする伝達関数と、のいずれかであることを特徴とする請求項9に記載の工作機械の環境温度変化予測方法。
【請求項11】
前記工場環境パターン設定ステップでは、
前記環境温度変化の変化幅が所定の変化幅閾値を下回っている場合、前記環境温度予測モデルを、前記一定温度とし、
前記変化幅が前記変化幅閾値以上で、且つ前記相関の大きさが所定の係数閾値より高い場合、前記環境温度予測モデルを、前記工場外気温を入力とする伝達関数とし、
前記変化幅が前記変化幅閾値以上で、且つ前記相関の大きさが前記係数閾値以下であり、さらに前記過去の環境温度変化に日毎または週毎の周期性がある場合、前記環境温度予測モデルを、前記時刻または曜日の関数とし、
前記変化幅が前記変化幅閾値以上で、且つ前記相関の大きさが前記係数閾値以下であり、さらに前記過去の環境温度変化に日毎または週毎の周期性がない場合、前記環境温度予測モデルを決定不可能とする
ことを特徴とする請求項10に記載の工作機械の環境温度変化予測方法。
【請求項12】
前記環境温度変化予測ステップで予測された前記将来の環境温度の変化を報知する予測結果報知ステップをさらに実行することを特徴とする請求項7乃至11の何れかに記載の工作機械の環境温度変化予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械が設置された工場の環境温度変化を予測する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械を用いて加工を行う場合、主軸や送り軸動作などの機械発熱、及び工作機械の設置環境の温度変化や、クーラントの温度変化などの影響により、工作機械各部が熱変形を起こす。こうした熱変位は、工具とワークとの相対位置を変化させることになるため、加工中に工作機械に熱変位が生じると、ワークの加工精度が悪化してしまう。工作機械の熱変位の影響による精度悪化を防ぐ従来技術としては、工作機械の構造体各部に取り付けた温度センサにより測定した温度、あるいは主軸や送り軸などの運転条件から、予めプログラムされた熱変位推定式に基づいて変位量を推定し、それに応じて軸移動量を変化させる熱変位補正が有効であり広く用いられている。
しかし、特に設置環境の温度変化による熱変位については、熱変位量を正確に推定することは難しく、熱変位補正のある機械であっても、設置環境の温度変化が大きい場合には誤差が大きくなってしまう場合がある。そのため、生産現場では工場内の室温変化が小さい時間帯に高い要求精度の加工を行ったり、室温変化の大きい時間帯には寸法確認・修正を実施したりして精度を確保する場合がある。室温変化の大きさを考慮したこれらの対策は、作業者の経験則に依存して実施されている場合が多い。
一方、ある建物内の室温変化を予測する方法については、特許文献1のような従来技術が示されている。特許文献1では、外気温と建物内の室温データとを取得し、外気温から室温を求める回帰式を予測式として生成し、予測式を用いて外気温の予測推移から室温変化の推移を予測する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6160945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の方法は、室内の冷暖房を行わない場合の室温を推定する技術であるとされている。実際には工場内では空調を使用する場合が多く、外気温の変化だけでなく空調の影響も考慮する必要がある。また、工場環境は、空調を常時使用する場合と昼間の就業時間中のみ使用する場合、外気温に対する断熱性が高い場合と低い場合など、空調の運用方法や建物の断熱性能により様々であると想定される。工場内の室温変化を予測するには、工場の環境がどのような性質であるかを考慮したうえで予測することが有効である。
一方、工場の建物の断熱性能、工場で使用する空調の設定、対象となる工作機械以外の設備の運転による発熱などの情報を入力してコンピュータシミュレーションにより工場内の室温変化を予測することは公知の技術で可能と考えられるが、実際の生産現場において計算に必要な情報すべてを正しく入力することは困難と考えられる。
【0005】
そこで、本開示は、容易にデータを取得できる工作機械の機体及び/又は周囲気温と工場外気温とのデータから、工作機械が置かれた工場環境に合わせて適切に環境温度を予測することができる工作機械の環境温度変化予測装置及び予測方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示は、工作機械が設置された工場の環境温度変化を予測する工作機械の環境温度変化予測装置であって、
前記工作機械の発熱部の発熱の影響を受けない部位の機体温度及び/又は周囲気温を温度センサにより測定し、環境温度として取得する環境温度取得部と、
前記工場の外の気温を、温度センサによる測定及び/又は気象データにより工場外気温として取得する外気温取得部と、
前記環境温度と前記工場外気温とのデータに基づいて前記環境温度の変化傾向を幾つかのパターンに分類する分類規則と、前記パターンごとに異なる環境温度予測モデルと、を工場環境パターンとして予め定義しておく工場環境パターン設定部と、
過去の前記環境温度及び前記工場外気温のデータに基づいて、前記分類規則から当てはまる前記工場環境パターンを選択し、対応する前記環境温度予測モデルのパラメータを決定する予測モデル生成部と、
前記予測モデル生成部で生成された前記環境温度予測モデルにより、将来の前記環境温度の変化を予測する環境温度変化予測部と、を備えることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記工場外気温の将来の予測データを外気温予測データとして取得する外気温予測データ取得部をさらに備え、
前記環境温度変化予測部は、前記外気温予測データと前記環境温度予測モデルとにより、前記将来の環境温度の変化を予測することを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記工場環境パターン設定部における前記分類規則は、過去の前記環境温度変化の変化幅と、過去の前記工場外気温に時間遅れの処理を行ったものと前記環境温度変化との相関の大きさと、過去の前記環境温度変化の周期性とに基づいて分類する規則であることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記工場環境パターン設定部で定義される前記環境温度予測モデルは、一定温度と、時刻または曜日の関数と、前記工場外気温を入力とする伝達関数と、のいずれかであることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記工場環境パターン設定部は、前記環境温度変化の変化幅が所定の変化幅閾値を下回っている場合、前記環境温度予測モデルを、前記一定温度とし、
前記変化幅が前記変化幅閾値以上で、且つ前記相関の大きさが所定の係数閾値より高い場合、前記環境温度予測モデルを、前記工場外気温を入力とする伝達関数とし、
前記変化幅が前記変化幅閾値以上で、且つ前記相関の大きさが前記係数閾値以下であり、さらに前記過去の環境温度変化に日毎または週毎の周期性がある場合、前記環境温度予測モデルを、前記時刻または曜日の関数とし、
前記変化幅が前記変化幅閾値以上で、且つ前記相関の大きさが前記係数閾値以下であり、さらに前記過去の環境温度変化に日毎または週毎の周期性がない場合、前記環境温度予測モデルを決定不可能とすることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記環境温度変化予測部で予測された前記将来の環境温度の変化を報知する予測結果報知部をさらに備えることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本開示は、工作機械が設置された工場の環境温度変化を予測する工作機械の環境温度変化予測方法であって、
前記工作機械の発熱部の発熱の影響を受けない部位の機体温度及び/又は周囲気温を温度センサにより測定し、環境温度として取得する環境温度取得ステップと、
前記工場の外の気温を、温度センサによる測定及び/又は気象データより工場外気温として取得する外気温取得ステップと、
前記環境温度と前記工場外気温とのデータに基づいて前記環境温度の変化傾向を幾つかのパターンに分類する分類規則と、前記パターンごとに異なる環境温度予測モデルと、を工場環境パターンとして予め定義しておく工場環境パターン設定ステップと、
過去の前記環境温度及び前記工場外気温のデータに基づいて、前記分類規則から当てはまる前記工場環境パターンを選択し、対応する前記環境温度予測モデルのパラメータを決定する予測モデル生成ステップと、
前記予測モデル生成ステップで生成された前記環境温度予測モデルにより、将来の前記環境温度の変化を予測する環境温度変化予測ステップと、を実行することを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記環境温度変化予測ステップの前に、前記工場外気温の将来の予測データを外気温予測データとして取得する外気温予測データ取得ステップを実行し、
前記環境温度変化予測ステップでは、前記外気温予測データと前記環境温度予測モデルとにより、前記将来の環境温度の変化を予測することを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記工場環境パターン設定ステップにおける前記分類規則は、過去の前記環境温度変化の変化幅と、過去の前記工場外気温に時間遅れの処理を行ったものと前記環境温度変化との相関の大きさと、過去の前記環境温度変化の周期性とに基づいて分類する規則であることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記工場環境パターン設定ステップで定義される前記環境温度予測モデルは、一定温度と、時刻または曜日の関数と、前記工場外気温を入力とする伝達関数と、のいずれかであることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記工場環境パターン設定ステップでは、前記環境温度変化の変化幅が所定の変化幅閾値を下回っている場合、前記環境温度予測モデルを、前記一定温度とし、
前記変化幅が前記変化幅閾値以上で、且つ前記相関の大きさが所定の係数閾値より高い場合、前記環境温度予測モデルを、前記工場外気温を入力とする伝達関数とし、
前記変化幅が前記変化幅閾値以上で、且つ前記相関の大きさが前記係数閾値以下であり、さらに前記過去の環境温度変化に日毎または週毎の周期性がある場合、前記環境温度予測モデルを、前記時刻または曜日の関数とし、
前記変化幅が前記変化幅閾値以上で、且つ前記相関の大きさが前記係数閾値以下であり、さらに前記過去の環境温度変化に日毎または週毎の周期性がない場合、前記環境温度予測モデルを決定不可能とすることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記環境温度変化予測ステップで予測された前記将来の環境温度の変化を報知する予測結果報知ステップをさらに実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、工作機械周囲の環境温度と工場外気温とを取得し、それらのデータに基づいて、環境温度の変化傾向を幾つかのパターンに分類する。このパターンは、恒温室に近い工場環境、断熱性が低く外気温の影響が大きい工場環境、空調または周囲の熱源の影響が大きい工場環境など想定される幾つかの工場環境のパターンと結び付けられる。さらに、工場環境のパターンごとに異なる環境温度予測モデルが用意されているため、まず工作機械が置かれた工場環境がどのようなパターンに当てはまるかを診断し、ついで環境温度予測モデルのパラメータを取得したデータに合わせて決定することにより、工作機械が置かれた工場環境に合わせて適切に環境温度を予測することができる。すなわち、容易にデータを取得できる工作機械の機体及び/又は周囲気温と工場外気温とのデータから、工作機械が置かれた工場環境に合わせて適切に環境温度を予測することができる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、外気温予測データと環境温度予測モデルとにより、将来の環境温度の変化を予測するので、工場外気温の将来の予測データに合わせて予測モデルのパラメータを決定でき、断熱性が低く外気温の影響が大きい工場環境に合わせて適切に環境温度を予測することができる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、分類規則を、過去の工場の環境温度変化の変化幅と、過去の工場外の気温変化に時間遅れの処理を行ったものと工場の環境温度変化との相関の大きさと、過去の工場の環境温度変化の周期性とに基づいて分類する規則とすることで、取得した工作機械周囲の環境温度と工場外気温とのデータから適切に工場環境のパターンを分類できる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、分類された工場環境パターンに合わせて、環境温度予測モデルを、一定温度、時刻または曜日の関数、工場外の気温を入力とする伝達関数のいずれかとすることで、工場環境に合わせた適切な環境温度予測モデルを生成することができる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、分類規則を用いて環境温度予測モデルを決定していくアルゴリズムとすることで、取得された工作機械周囲の環境温度と工場外気温とのデータに基づいて工場環境に合わせた環境温度予測モデルを自動的に決定できるようになり、簡単に環境温度変化を予測することができる。
本開示の別の態様によれば、上記効果に加えて、予測された環境温度変化を報知することで、環境温度変化による熱変位が原因で加工精度不良が出る問題を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】工作機械の環境温度変化予測装置の構成図である。
図2】環境温度変化予測方法のアルゴリズムを示すフローチャートである。
図3】外気温の影響が大きい工場環境の温度変化の例を示すグラフである。
図4】空調または周囲の熱源の影響が大きい工場環境の温度変化の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本開示を適用する工作機械の環境温度変化予測装置の構成図である。
工場1の建物内には、工作機械2と、工場1の室温を制御する空調3とが設置されている。工場1の外には、工場外気温を測定する温度センサ4が設置されている。工場1内で工作機械2には、主軸などの発熱部の影響を受けない部分(本例ではコラム)の温度を測定する温度センサ5と、周囲気温を測定する温度センサ6とが設置されている。
なお、工場外気温は、工場1の外壁等、工場外気温と同等の温度と見なせる部分に温度センサ4を設置して得てもよい。また、工場外気温は、インターネットなどを通じて工場1のある地域の気象データとして取得しても良く、その場合は温度センサ4を省略できる。気象データと温度センサ4との双方のデータを用い、例えば平均をとる等して工場外気温を取得してもよい。温度センサ5と温度センサ6とは、どちらか一方のみの設置でも良い。
【0010】
工場1内の室温が変化すると、工作機械2に熱変位が生じ、加工精度が悪化する場合がある。これを事前に予測するため、環境温度変化予測装置7が設置されている。環境温度変化予測装置7は、工作機械2のNC装置に内蔵されていても良いし、工作機械2とは別の電子機器に組み込まれていても良い。
環境温度変化予測装置7には、温度センサ5,6を利用して工作機械2の環境温度変化のデータを取得する環境温度取得部8と、温度センサ4などを利用して工場外気温データを取得する外気温取得部9と、工場環境パターン設定部10とが設けられている。
工場環境パターン設定部10には、環境温度の変化傾向に基づいて分類される複数のパターンと、各パターンごとに環境温度変化を予測する環境温度予測モデル(以下「予測モデル」という。)とが、工場環境パターンとして予め定義づけられている(工場環境パターン設定ステップ)。工場環境パターン設定部10には、環境温度取得部8で取得された環境温度と、外気温取得部9で取得された工場外気温とのデータに基づいて、工場環境パターンを診断・分類するアルゴリズムがインプットされている。
【0011】
また、環境温度変化予測装置7には、予測モデル生成部11と、外気温予測データ取得部12と、環境温度変化予測部13と、予測結果報知部14とが設けられている。
予測モデル生成部11は、環境温度取得部8と外気温取得部9とにより蓄積された過去の温度データ、および工場環境パターン設定部10にインプットされたアルゴリズムに基づいて、工場環境パターン設定部10で設定される工場環境パターンを選択し、選択した工場環境パターンに対応する予測モデルのパラメータを決定する。
外気温予測データ取得部12は、インターネットなどを通じて気象予報データを取得したり、別の予測手段を用いて、将来の外気温予測データを取得する。
環境温度変化予測部13は、予測モデル生成部11で生成された予測モデルと、外気温予測データ取得部12で取得した外気温予測データとを用いて、或いは、外気温予測データを使用せず、予測モデルと、環境温度取得部8と外気温取得部9とに蓄積された過去の温度データとを用いて、将来の工作機械2の環境温度変化を予測する。
予測結果報知部14は、環境温度変化予測部13で予測された環境温度変化を、工作機械2を使用するオペレータに報知する。予測された環境温度変化が所定の変化幅より大きく、工作機械2の加工精度悪化が予想される場合には、予測結果報知部14はアラームを報知する。予測結果報知部14は、結果を画面上に表示するようにしても良いし、結果を他の端末にメール通知する機能であっても良い。
【0012】
次に、環境温度変化予測装置7により実行される環境温度変化予測方法について、図2のフローチャートを使って説明する。
まずS1で、環境温度取得部8と外気温取得部9とにより、工場外の気温変化と、工作機械2の環境温度変化とのデータを取得する(環境温度取得ステップ及び外気温取得ステップ)。取得期間は1週間分~1か月分程度が目安である。
次に、S2で、工場環境パターン設定部10が、期間内の環境温度変化の変化幅を計算して、所定の変化幅閾値以上かどうかを判定する。変化幅閾値は、工作機械2の加工での要求精度などを考慮して決定しておく。1℃~3℃程度が目安である。変化幅閾値よりも変化幅が小さい場合には、S3において、恒温室に近い工場環境であると判定する。この場合、予測モデル生成部11では、環境温度変化の予測モデルを、以下の式(1)に示すように過去の測定期間内の平均温度(一定温度)として定義する(予測モデル生成ステップ)。
【0013】
【数1】
【0014】
S2の判別で、期間内の環境温度変化の変化幅が変化幅閾値以上の場合、工場環境パターン設定部10は、S4で、時定数を変化させながら工場外気温に一次遅れ処理を行い、環境温度変化との相関係数を計算し、最大となる相関係数の値を求める処理を行う。まず実測した工場外気温θa,iに対し、以下の式(2)により、一次遅れ処理を行った工場外気温θaT,iを求める。
【0015】
【数2】
【0016】
ついで、式(2)で求めた時定数Tで一次遅れ処理を行った工場外気温θaT,iと、環境温度変化の実測値θm,iとの相関係数を求める。式(2)の一次遅れの時定数Tを変化させながら、以下の式(3)により、最大となる相関係数rmaxを求める。
【0017】
【数3】
【0018】
次にS5で、工場環境パターン設定部10は、式(3)で求めた最大となる相関係数rmaxが、所定の第1係数閾値以下であるかどうかを判別する。この第1係数閾値は予め設定しておくが、0.8程度が目安である。
相関係数rmaxが第1係数閾値を超えているときは、S6において、外気温の影響が大きい工場環境であると判定する。このとき予測モデル生成部11では、環境温度変化の予測モデルを、工場外気温を入力とする伝達関数として定義する。具体的には、式(2)と式(3)とにより求められる相関係数が最大となる一次遅れの時定数Tmを用いて、式(2)と同様の一次遅れの以下の式(4)で、工場外気温の予測値の一次遅れを計算し、以下の式(5)で線形変換を行うことで定義できる(予測モデル生成ステップ)。
【0019】
【数4】
【0020】
S5の判別で、最大となる相関係数rmaxが第1係数閾値以下の場合、工場環境パターン設定部10は、S7で、温度変化の日毎の周期性の指標を計算する。計算方法は、例えば、環境温度変化のデータを日毎に区切って、日毎のデータ間の相関係数を求める方法を用いる。このとき、データ間の相関係数は、1/2×(日数)×(日数-1)通り計算されることになる。
S8で、工場環境パターン設定部10は、その中で最小となる相関係数について、予め設定した第2係数閾値と比較して判定する。判定には、最小となる相関係数ではなく、求めた相関係数について平均値を取って比較しても良い。また、相関係数を判定に使う方法では温度変化の大小は無視されてしまうことになるため、差分の2乗平均など、データ間の距離に相当する指標を計算して、温度変化の大小を考慮して判定しても良い。また、日毎ではなく週毎にデータを区切って、データ間の相関係数や距離を求めて周期性を判定しても良い。この方法は、平日は夜間も含めて空調を使用するが、週末は電源を切るような場合を判別するのに有効である。
【0021】
S8の判定にて、データ間の相関係数が第2係数閾値より大きい場合には、周期性があるということになるため、S9において、日または週毎の周期的なON/OFFがある空調または周囲の熱源の影響が大きい工場環境と判定される。この場合、予測モデル生成部11では、環境温度変化の予測モデルを、時刻または曜日の関数で定義する(予測モデル生成ステップ)。具体的には、以下の式(6)のように、それぞれの時刻や曜日に対応する測定値の平均値を取ったものの一次関数を予測値とし、時刻と予測値との点群データを作成し、各点の間を補間したものが環境温度変化を表す関数となる。
【0022】
【数5】
【0023】
一方、S8の判定にて、データ間の相関係数が第2係数閾値以下の場合には、工場外の気温変化に時間遅れの処理を行ったものと環境温度変化との相関が低く、環境温度変化に周期性もないということになる。このとき、S10で、不規則な温度変化のある工場環境と判定され、予測モデル生成部11で予測モデルは決定不可能となる。この場合、予測結果報知部14で、不規則な温度変化が生じている原因を特定して工場環境を改善する必要があることを工作機械2のオペレータに提示することができる。
【0024】
以上の方法で、工場環境パターン設定部10では、工場環境パターンを、S3:恒温室に近い工場環境、S6:外気温の影響が大きい工場環境、S9:空調または周囲の熱源の影響が大きい工場環境、S10:不規則な温度変化のある工場環境、に分類し、各分類に対応する予測モデルを決定する。
よって、予測モデル生成部11は、過去の環境温度及び/又は工場外気温のデータに基づいて、当てはまる工場環境パターンを選択し、選択された工場環境パターンにおける予測モデルのパラメータを決定する。
こうしてパラメータが決定された予測モデルにより、環境温度変化予測部13では、S11において、S3,S9の場合は、環境温度取得部8及び外気温取得部9に蓄積された過去の環境温度のデータから、S6の場合は、外気温予測データ取得部12から得られる工場外気温の将来の予測データから、それぞれ環境温度変化を予測する(環境温度変化予測ステップ)。
環境温度変化予測部13での予測結果は、S12で、予測結果報知部14によって報知される(予測結果報知ステップ)。
【0025】
最後に本発明を用いて測定データから工場環境を診断し、環境温度を予測する具体例を示す。
図3図4とは、それぞれ別の工場、別の季節における1週間分の外気温変化と、環境温度変化(工場内の室温変化)の実測値及び予測値とのグラフである。グラフを見ると、外気温は1日周期で昼間は高くなり、夜は低くなる変化をしていることが分かる。ただし、外気温は天候の影響も受け、日によって気温の上がり方が変わる。例えば図3の6日目や、図4の5日目は、雨天であったため他の日に比べて気温の上がり方が小さくなっている。
一方、環境温度変化を見ると、図3では外気温変化が小さい日は環境温度変化も小さいが、図4では外気温変化に関係なく昼間は20℃付近まで温度が上がっていることが分かる。図3図4との工場の環境温度変化は性質が異なると考えられる。
【0026】
図3図4との変化から、図2のフローチャートに基づいて予測モデルを求める。この例では、S2の環境温度変化の変化幅閾値を3℃、S5の外気温と環境温度との相関係数の第1係数閾値を0.8、S8の日毎のデータ間の相関係数の最小値の第2係数閾値を0.7に設定する。
このとき、図3の工場では、S2で1週間の環境温度変化の変化幅は5.9℃あり、変化幅閾値3℃より大きいと判定される。次にS4で、時定数を変化させながら工場外気温に一次遅れ処理を行い、環境温度変化との相関係数を計算し、最大となる相関係数の値を求めると、rmax=0.95となり、S5で第1係数閾値0.8より大きいと判定される。その結果、S6で、外気温の影響が大きい工場環境と診断され、環境温度変化を工場外気温を入力とする伝達関数として定義する。実際に伝達関数を求めると、図3の破線のような予測結果が得られ、実測の環境温度変化をよく表していることが分かる。
【0027】
一方、図4の工場では、S2で1週間の環境温度変化の変化幅は7.3℃あり、変化幅閾値3℃より大きいと判定される。次にS4で、時定数を変化させながら工場外気温に一次遅れ処理を行い、環境温度変化との相関係数を計算し、最大となる相関係数の値を求めると、rmax=0.68となり、S5で第1係数閾値0.8より小さいと判定される。次に、S7で、環境温度変化のデータを日毎に区切って、日毎のデータ間の相関係数を求めると、7日間では21通りの相関係数が得られるが、このデータでは0.94~0.99の範囲となる。S8にて、最小となる相関係数0.94は第2係数閾値0.7より大きいと判定される。その結果、S9で、空調または周囲の熱源の影響が大きい工場環境と診断され、環境温度変化を時刻の関数として定義する。7日間の各時間帯の温度の平均値を取って、時刻の関数として求めると、図4の破線のような予測結果が得られ、実測の1日の間の環境温度変化の傾向を表していることが分かる。
【0028】
以上の如く、上記形態の工作機械2の環境温度変化予測装置7は、工作機械2の発熱部の発熱の影響を受けない部位の機体温度及び周囲気温を温度センサ5,6により測定し、環境温度として取得する環境温度取得部8と、工場の外の気温を、温度センサ4による測定及び/又は気象データにより工場外気温として取得する外気温取得部9と、環境温度と工場外気温とのデータに基づいて環境温度の変化傾向を幾つかのパターンに分類する分類規則と、パターンごとに異なる予測モデルと、を工場環境パターンとして予め定義しておく工場環境パターン設定部10と、過去の環境温度及び/又は工場外気温のデータに基づいて、分類規則から当てはまる工場環境パターンを選択し、対応する予測モデルのパラメータを決定する予測モデル生成部11と、予測モデル生成部11で生成された予測モデルにより、将来の環境温度の変化を予測する環境温度変化予測部13とを備えて、図2の環境温度変化予測方法を実行する。
【0029】
この構成によれば、工作機械2の周囲の環境温度と工場外気温とを取得し、それらのデータに基づいて、環境温度の変化傾向を幾つかのパターンに分類する。このパターンは、恒温室に近い工場環境、断熱性が低く外気温の影響が大きい工場環境、空調または周囲の熱源の影響が大きい工場環境など想定される幾つかの工場環境のパターンと結び付けられる。さらに、工場環境のパターンごとに異なる予測モデルが用意されているため、まず工作機械2が置かれた工場環境がどのようなパターンに当てはまるかを診断し、ついで予測モデルのパラメータを取得したデータに合わせて決定することにより、工作機械2が置かれた工場環境に合わせて適切に環境温度を予測することができる。すなわち、容易にデータを取得できる工作機械2の機体及び周囲気温と工場外気温とのデータから、工作機械2が置かれた工場環境に合わせて適切に環境温度を予測することができる。
【0030】
特に、工場外気温の将来の予測データを外気温予測データとして取得する外気温予測データ取得部12をさらに備え、環境温度変化予測部13は、外気温予測データと予測モデルとにより、将来の環境温度の変化を予測するので、工場外気温の将来の予測データに合わせて予測モデルのパラメータを決定でき、断熱性が低く外気温の影響が大きい工場環境に合わせて適切に環境温度を予測することができる。
また、工場環境パターン設定部10における分類規則は、過去の環境温度変化の変化幅と、過去の工場外気温に時間遅れの処理を行ったものと環境温度変化との相関の大きさと、過去の環境温度変化の周期性とに基づいて分類する規則であるので、取得した工作機械2の周囲の環境温度と工場外気温とのデータから適切に工場環境のパターンを分類できる。
【0031】
さらに、分類された工場環境パターンに合わせて、予測モデルを、一定温度、時刻または曜日の関数、工場外の気温を入力とする伝達関数のいずれかとしているので、工場環境に合わせた適切な予測モデルを生成することができる。
加えて、工場環境パターン設定部10は、環境温度変化の変化幅が所定の変化幅閾値を下回っている場合、予測モデルを一定温度とし、変化幅が変化幅閾値以上で、且つ相関の大きさが所定の第1係数閾値より高い場合、予測モデルを工場外気温を入力とする伝達関数とし、変化幅が変化幅閾値以上で、且つ相関の大きさが第1係数閾値以下であり、さらに過去の環境温度変化に日毎または週毎の周期性がある場合、予測モデルを時刻または曜日の関数とし、変化幅が変化幅閾値以上で、且つ相関の大きさが第1係数閾値以下であり、さらに過去の環境温度変化に日毎または週毎の周期性がない場合、予測モデルを決定不可能とする。よって、取得された工作機械周囲の環境温度と工場外気温とのデータに基づいて工場環境に合わせた予測モデルを自動的に決定できるようになり、簡単に環境温度変化を予測することができる。
そして、環境温度変化予測部13で予測された将来の環境温度の変化を報知する予測結果報知部14をさらに備えることで、環境温度変化による熱変位が原因で加工精度不良が出る問題を防ぐことができる。
【0032】
なお、工作機械の機体温度、周囲気温、工場外気温を測定する温度センサは、それぞれ1つずつに限らず、複数設けて、複数の測定値の平均をとったりしてもよい。
工場環境パターン設定部で定義する工場環境パターンは、上記形態の3パターンに限らず、さらに細分化して増やしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1・・工場、2・・工作機械、3・・空調、4,5,6・・温度センサ、7・・環境温度変化予測装置、8・・環境温度取得部、9・・外気温取得部、10・・工場環境パターン設定部、11・・予測モデル生成部、12・・外気温予測データ取得部、13・・環境温度変化予測部、14・・予測結果報知部。
図1
図2
図3
図4