(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】コンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20241021BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20241021BHJP
E04C 3/294 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
E04B1/58 508S
E04B1/30 E
E04C3/294
(21)【出願番号】P 2021043055
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2020047689
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002033
【氏名又は名称】弁理士法人東名国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】右田 周平
(72)【発明者】
【氏名】端 直人
(72)【発明者】
【氏名】梅本 宗宏
(72)【発明者】
【氏名】岡田 崇
(72)【発明者】
【氏名】庄司 大輔
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弦太
(72)【発明者】
【氏名】久須美 真悟
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-107370(JP,A)
【文献】特開2020-153221(JP,A)
【文献】特開平3-212534(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第0218313(EP,A2)
【文献】韓国登録特許第10-1469145(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38 - 1/61
E04B 1/00 - 1/36
E04C 3/00 - 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムであって、
前記ダイアフラムは、その中央部に鋼管内に下から圧入して打設されるコンクリートを通過させるための打設孔と、その周辺部に空気を上部に逃すための空気抜き孔と、が設けられてなり、
前記空気抜き孔は、前記ダイアフラムの前記周辺部の外周寄りに設けられた複数個の外側空気抜き孔と、前記周辺部において隣接配置された2つの前記外側空気抜き孔の重心同士を結ぶ線分P
0よりもその重心位置が前記打設孔寄りとなるように設けられた少なくとも
2個以上の内側空気抜き孔と、を含み、
前記打設孔の重心O
1と前記外側空気抜き孔の重心O
2とを結ぶ線分P
1の長さをL
1とし、
前記打設孔の重心O
1と前記内側空気抜き孔の重心O
3とを結ぶ線分P
2の長さをL
2とし、
前記線分P
1と前記線分P
2とのなす角をθとし、
前記打設孔の半径をRとした場合に、
R<L
2・cos(45°-θ)<L
1・cos45°、且つ
0°≦θ≦45°
の関係を満た
し、
前記内側空気抜き孔は、前記線分P
1
を挟んで隣り合う少なくとも一対の前記内側空気抜き孔である空気抜き対を有している、コンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム。
【請求項2】
前記外側空気抜き孔の個数が4個である、請求項1に記載のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム。
【請求項3】
前記外側空気抜き孔が、矩形平板状の前記ダイアフラムの四隅のそれぞれに1個ずつ設けられている、請求項2に記載のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム。
【請求項4】
前記内側空気抜き孔の個数が、1~4個である、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム。
【請求項5】
前記空気抜き対は、当該空気抜き対を構成する一対の前記内側空気抜き孔の重心が、前記線分P
1で線対称となっている、請求項
1に記載のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム。
【請求項6】
前記空気抜き対が、前記線分P
1のそれぞれにおいて少なくとも1組存在する、請求項
1に記載のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムに関する。更に詳しくは、ダイアフラム下方のコンクリートの充填率を向上させることが可能なコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管内にコンクリートが充填されて構造物の柱として使用されるコンクリート充填鋼管柱は、圧縮と引張に強いばかりでなく、型枠や耐火被覆を不要としてその経済性、耐力・変形性能、外観性、短工期等の優れた性質を有している。以下、コンクリート充填鋼管を「CFT」ということがある。「CFT」は、「Concrete Filled stell Tube」の略である。
【0003】
近年、建築構造物を構成する躯体として上述したCFT柱が多く採用されるようになっている。CFT柱と鉄骨梁等との接合においては、ダイアフラムを用いることが一般的である。ダイアフラムとは、柱から鉄骨梁等に曲げ応力を伝達できるように配置される鉄骨プレートである。例えば、外壁との納まりや床開口部との兼ね合いが良好なことから、
図11~
図13に示すように、鋼管に通しダイアフラム11を設けたり、鋼管の内側にダイアフラム12aを設けたりする場合には、当該ダイアフラム11,12aにコンクリート打設用の打設孔13が設けられる。そして、建築現場で建入れされて梁18が架設された鋼管15に、その下部に設けられた打設口15aからコンクリート16がコンクリートポンプ圧送車によって圧送されて注入される。ここで、
図11は、従来のダイアフラム12aの使用状態を示す、一部を切り欠いて示す斜視図である。
図12は、従来のダイアフラム12aの使用状態を示す縦断面図である。
図13は、従来のダイアフラム12aで鋼管の下からコンクリートを圧入する様子を示す説明図である。
【0004】
打設されたコンクリート16は、
図12に示すように、上昇途中において、その上端面16aが中央部において盛り上がり、その周辺部で下がってしまう状態となる。ダイアフラム12aの下側の空気は、コンクリートの上端面で押し上げられて、打設孔13から上に抜け出している。このような状態で、
図14に示すように、コンクリート打設の圧力で打設孔13からコンクリート16がダイアフラム12aの上に押し上げられて周囲に広がると、打設孔13がコンクリート16により塞がれて、ダイアフラム12aの下側の周辺の空気が抜けきれないで四隅に滞留してしまうことがある。それにより、空隙17ができてしまうと、軸力の伝達又はせん断力への対応に支障が生じてしまう。
図14は、従来のダイアフラム12aの使用状態の断面図である。
【0005】
そこで、従来においては、
図15の(A)及び(B)に示すように、ダイアフラム11,12aの鋼管内部の四隅に、空気抜き用の空気抜き孔14を設けているものが知られている(例えば、特許文献1~3参照)。なお、鋼管の側壁には、打設したコンクリート16から発生する蒸気を抜くための孔が設けられる。
図15は、従来の通しダイアフラム11の使用状態の平面図(A)と、ダイアフラム12aの使用状態平面図(B)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-224509号公報
【文献】特開平10-183764号公報
【文献】特開平07-034540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンクリート充填鋼管柱に用いられるダイアフラムの空気抜き孔は、鋼管内にコンクリートを充填した際に、ダイアフラム下方に過大な空隙が生じないようにし、コンクリートを密実に充填させるためのものである。従来、ダイアフラムの空気抜き孔は、ダイアフラムの外周部位に4個以上設けることが一般的とされている。特に、このような空気抜き孔は、ダイアフラムの外周部位に対して可能な限り外側寄りに、4個以上均等に設けることが推奨されている。
【0008】
従来のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムは、充填するコンクリートの強度が上がるにつれてコンクリートの粘性が強くなった場合に、ダイアフラム下方のコンクリートの充填率が下がる傾向にある。このような場合の対策として、例えば、ダイアフラムの空気抜き孔の個数を、4個から8個、12個と増加させるといった技術が提案されている。ダイアフラムの空気抜き孔の個数を増加させることにより、コンクリートの充填率に関して一定の改善を図ることができる。
【0009】
しかしながら、ダイアフラムの空気抜き孔の個数が過度に増加すると、ダイアフラムの外周部位に空気抜き孔が集中して、ダイアフラムの構造的な弱点となることがある。このため、ダイアフラム下方のコンクリートの充填率を有効に向上させることが可能なコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムの開発が要望されている。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明は、ダイアフラム下方のコンクリートの充填率を向上させることが可能なコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下に示すコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムが提供される。
【0012】
[1] 平板状のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムであって、
前記ダイアフラムは、その中央部に鋼管内に下から圧入して打設されるコンクリートを通過させるための打設孔と、その周辺部に空気を上部に逃すための空気抜き孔と、が設けられてなり、
前記空気抜き孔は、前記ダイアフラムの前記周辺部の外周寄りに設けられた複数個の外側空気抜き孔と、前記周辺部において隣接配置された2つの前記外側空気抜き孔の重心同士を結ぶ線分P0よりもその重心位置が前記打設孔寄りとなるように設けられた少なくとも2個以上の内側空気抜き孔と、を含み、
前記打設孔の重心O1と前記外側空気抜き孔の重心O2とを結ぶ線分P1の長さをL1とし、
前記打設孔の重心O1と前記内側空気抜き孔の重心O3とを結ぶ線分P2の長さをL2とし、
前記線分P1と前記線分P2とのなす角をθとし、
前記打設孔の半径をRとした場合に、
R<L2・cos(45°-θ)<L1・cos45°、且つ
0°≦θ≦45°
の関係を満たし、
前記内側空気抜き孔は、前記線分P
1
を挟んで隣り合う少なくとも一対の前記内側空気抜き孔である空気抜き対を有している、コンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム。
【0013】
[2] 前記外側空気抜き孔の個数が4個である、前記[1]に記載のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム。
【0014】
[3] 前記外側空気抜き孔が、矩形平板状の前記ダイアフラムの四隅のそれぞれに1個ずつ設けられている、前記[2]に記載のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム。
【0015】
[4] 前記内側空気抜き孔の個数が、1~4個である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム。
【0017】
[5] 前記空気抜き対は、当該空気抜き対を構成する一対の前記内側空気抜き孔の重心が、前記線分P1で線対称となっている、前記[1]に記載のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム。
【0018】
[6] 前記空気抜き対が、前記線分P1のそれぞれにおいて少なくとも1組存在する、前記[1]に記載のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム。
【発明の効果】
【0019】
本発明のダイアフラムは、鋼管内にコンクリートが充填されて構造物の柱として使用されるコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムであり、ダイアフラム下方のコンクリートの充填率を向上させることができる。特に、ダイアフラムの周辺部の外周寄りにだけ空気抜き孔を設けるのではなく、ダイアフラムの周辺部における内側(別言すれば、打設孔寄り)にも配置することにより、ダイアフラム下方のコンクリートの充填率を有効に向上させることができる。打設孔寄りの内側空気抜き孔については、上記した「R<L2・cos(45°-θ)<L1・cos45°」且つ「0°≦θ≦45°」の関係を満たすように設けることにより、コンクリートの充填率向上の効果が極めて有効に発現する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムの一の実施形態の使用状態を示す斜視図である。
【
図2】本発明のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムの一の実施形態の平面図である。
【
図3】
参考例1のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリート充填率の測定結果を示す平面図である。
【
図4】比較例1のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリート充填率の測定結果を示す平面図である。
【
図5】比較例2のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリート充填率の測定結果を示す平面図である。
【
図6】比較例3のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリート充填率の測定結果を示す平面図である。
【
図7】
参考例1のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリートの充填状況を示す写真である。
【
図8】比較例1のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリートの充填状況を示す写真である。
【
図9】比較例2のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリートの充填状況を示す写真である。
【
図10】比較例3のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリートの充填状況を示す写真である。
【
図11】従来のダイアフラム12aの使用状態を示す、一部を切り欠いて示す斜視図である。
【
図12】従来のダイアフラム12aの使用状態を示す縦断面図である。
【
図13】従来のダイアフラム12aで鋼管の下からコンクリートを圧入する様子を示す説明図である。
【
図14】従来のダイアフラム12aの使用状態の断面図である。
【
図15】従来の通しダイアフラム11の使用状態の平面図(A)と、ダイアフラム12aの使用状態平面図(B)である。
【
図16】本発明のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムの他の実施形態の平面図である。
【
図17】本発明のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムの更に他の実施形態の平面図である。
【
図18】本発明のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムの更に他の実施形態の平面図である。
【
図19】
参考例2のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリートの充填状況を部分的に示す写真である。
【
図20】
参考例2のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリート充填率の測定結果を示す平面図である。
【
図21】実施例3のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリートの充填状況を部分的に示す写真である。
【
図22】実施例3のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリート充填率の測定結果を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0022】
本発明のダイアフラムの一の実施形態は、
図1及び
図2に示すように、平板状のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム12である。ここで、
図1は、本発明のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムの一の実施形態の使用状態を示す斜視図である。
図2は、本発明のコンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムの一の実施形態の平面図である。以下、「コンクリート充填鋼管柱用のダイアフラム12」を、単に「ダイアフラム12」ということがある。
【0023】
ダイアフラム12には、平板状のダイアフラム12の平面視において、その中央部に鋼管15内に下から圧入して打設されるコンクリート16(例えば、
図12等参照)を通過させるための打設孔13と、その周辺部に空気を上部に逃すための空気抜き孔14と、が設けられている。そして、本実施形態のダイアフラム12の空気抜き孔14は、以下のように構成された複数個の外側空気抜き孔14aと、少なくとも1個の内側空気抜き孔14bと、を含んでいる。
【0024】
外側空気抜き孔14aは、ダイアフラム12の周辺部の外周寄りに設けられた空気抜き孔14である。特に、ダイアフラム12の形状が多角形の平板状である場合には、当該多角形のそれぞれの角部近傍に設けられた空気抜き孔14が、外側空気抜き孔14aとなる。例えば、ダイアフラム12の形状が四角形の平板状である場合には、外側空気抜き孔14aは、ダイアフラム12の周辺部の最外周における四角形の四隅に設けられた空気抜き孔14となる。
【0025】
内側空気抜き孔14bは、ダイアフラム12の周辺部において隣接配置された2つの外側空気抜き孔14a,14aの重心O
2同士を結ぶ線分P
0よりも、その重心O
3の位置が打設孔13寄りとなるように設けられた空気抜き孔14である。
図1及び
図2に示すダイアフラム12においては、4個の内側空気抜き孔14bが、線分P
0よりも打設孔13寄りに設けられている。内側空気抜き孔14bの個数については特に制限はないが、例えば、1~8個であることが好ましく、1~4個であることが更に好ましい。
【0026】
本実施形態のダイアフラム12の空気抜き孔14は、下記式(1)及び式(2)の関係を満たすように構成されている。ここで、下記式(1)及び式(2)において、打設孔13の重心O1と外側空気抜き孔14aの重心O2とを結ぶ線分P1の長さをL1とする。また、打設孔13の重心O1と内側空気抜き孔14bの重心O3とを結ぶ線分P2の長さをL2とする。線分P1と線分P2とのなす角をθとする。打設孔13の半径をRとする。
【0027】
R<L2・cos(45°-θ)<L1・cos45° ・・・ (1)
0°≦θ≦45° ・・・ (2)
【0028】
上記式(1)及び式(2)を満たすように、外側空気抜き孔14aの重心O2及び内側空気抜き孔14bの重心O3が配置されることにより、外側空気抜き孔14aと内側空気抜き孔14bの双方にて、ダイアフラム12下方の空気を上方に良好に逃がすことができる。これにより、ダイアフラム12下方のコンクリートの充填率を有効に向上させることができる。なお、打設孔13の重心O1、外側空気抜き孔14aの重心O2、及び内側空気抜き孔14bの重心O3は、平板状のダイアフラム12の平面視において、それぞれの開口形状に対する幾何学的な重心のことを意味する。
【0029】
線分P1と線分P2とのなす角θは、上記式(2)に示すように、0°から45°の範囲であれば特に制限はないが、なす角θは、0°≦θ<45°であることが好ましい。このように構成することによって、ダイアフラム12下方のコンクリートの充填率をより有効に向上させることができる。なお、内側空気抜き孔14bの重心O3の位置については、例えば、隣接配置された2つの外側空気抜き孔14a,14aの重心O2同士を結ぶ線分P0の中点から、内側空気抜き孔14bの半径に相当する長さ以上離間していることが好ましい。また、特に限定されることはないが、例えば、なす角θの下限値は、5°であってもよく、なす角θの上限値は、40°であってもよい。
【0030】
本発明のダイアフラムは、少なくとも1個の内側空気抜き孔14bを含むものであり、その数には特に制限はなく、複数の内側空気抜き孔14bを含むことができる。そして、複数の内側空気抜き孔14bを含む場合、その具体的な数や形成位置は特に制限はないが、例えば、
図16~
図18に示すダイアフラム21~23のように複数の内側空気抜き孔14bを設けることができる。
【0031】
具体的には、
図16~
図18に示すダイアフラム21~23のように、内側空気抜き孔14bが少なくとも2個以上(
図16~
図18では、8個)形成され、内側空気抜き孔14bが、線分P
1を挟んで隣り合う少なくとも一対の内側空気抜き孔14b、14bである空気抜き対20を有しているようにすることができる。そして、この空気抜き対20を構成する一対の内側空気抜き孔14b、14bの重心O
3は、線分P
1で線対称となる位置にある(線分P
1を対称軸とする)ものとすることができる。このように内側空気抜き孔14bを形成すると、ダイアフラム下方のコンクリートの充填率を更に向上させることができる。
【0032】
本発明において、空気抜き対20は、複数の線分P
1のそれぞれにおいて少なくとも1組存在することが更に好ましい。このようにすると、ダイアフラム下方のコンクリートの充填率を更に向上させることができる。
図16~
図18に示すダイアフラム21~23は、4本の線分P
1を描くことができ、各線分P
1を挟んで隣り合う一対の内側空気抜き孔14b、14bが4組(即ち、空気抜き対20が4つ)存在している例を示している。
【0033】
なお、
図16~
図18に示す各ダイアフラム21~23は、各内側空気抜き孔14bの直径及び打設孔13の直径が異なり、線分P
2の長さL
2が異なること以外は同様である。
【0034】
空気抜き対20である一対の内側空気抜き孔14b、14bが複数組存在する場合、線分P2の長さL2は、いずれも同じであることがよいが、異なることでもよい。
【0035】
図21は、
図18に示すダイアフラム23を用いたポンプ圧送実験のコンクリートの充填状況を示す写真である。更に、
図22は、
図18に示すダイアフラム23を用いたポンプ圧送実験のコンクリート充填率の測定結果を示す平面図であり、
図21に示す写真を二値化処理した結果を示している。
図22の結果からも分かるように、良好に空気が抜けていることが分かる。
【0036】
更に、
図16~
図18に示す各ダイアフラム21~23は、一対の内側空気抜き孔14b、14bを構成する各内側空気抜き孔14bの位置については特に制限はないが、例えば、一対の内側空気抜き孔14b、14bを構成する各内側空気抜き孔14bの重心O
3の全てが、打設孔13の重心O
1を中心とする円の円周25(
図17参照)上に位置することができる。このように配置すると、ダイアフラム下方のコンクリートの充填率を更に向上させることができる。
【0037】
また、外側空気抜き孔14aと内側空気抜き孔14bとが、上記式(1)の関係を満たす場合において、内側空気抜き孔14bは、外側空気抜き孔14a及び打設孔13と接触せず、所定の間隔を空けて配置されていることが好ましい。例えば、内側空気抜き孔14bの重心O3と外側空気抜き孔14aの重心O2の間隔は、少なくとも150mmであることが好ましい。また、内側空気抜き孔14bの重心O3と打設孔13の重心O0の間隔についても、少なくとも150mmであることが好ましい。
【0038】
各空気抜き孔14(外側空気抜き孔14a及び内側空気抜き孔14b)の大きさについては特に制限はないが、例えば、空気抜き孔14が円形の場合、その直径が30mm以上で且つダイアフラム12の厚さ以上であることが好ましい。ダイアフラム12の厚さについては特に制限はなく、そのダイアフラム12を使用するコンクリート充填鋼管柱の仕様に応じて適宜決定することができる。
【0039】
本実施形態のダイアフラム12の打設孔13は、従来公知のダイアフラムの打設孔と同様の構成を採用することができる。例えば、打設孔13の面積は、充填コンクリート断面積の15%以上且つ直径100mm以上とすることが好ましい。また、圧入工法の場合には、打設孔13の面積は、圧入管径と同等以上であることが好ましい。
【0040】
ダイアフラム12は、そのダイアフラム12の対角線上で、空気抜き孔14と打設孔13を排除した残りの断面積が、元の対角線断面積に対して42%以上残っていることが好ましい。空気抜き孔14の大きさは、ダイアフラム12の耐力設計上の観点を考慮して適切な大きさを選択することができる。
【0041】
空気抜き孔14は、直径が30mm以上の貫通孔であればよく、その開口面積は、特に制限はなく必要に応じて適宜設定することができる。外側空気抜き孔14aと内側空気抜き孔14bとの開口面積は、互いに同じとすることでもよいし、異ならせてもよい。
【0042】
空気抜き孔14(外側空気抜き孔14a、内側空気抜き孔14b)の開口割合は、特に制限はなく適宜設定することができる。
【0043】
なお、ダイアフラムの面積が大きくなると、十分な充填率を得るためには、多くの内側空気抜き孔14bを設けることがよい(即ち、内側空気抜き孔の総開口面積を大きくすることがよい)が、内側空気抜き孔14bが多すぎると、ダイアフラムの強度が十分に得られない傾向がある。そこで、ダイアフラムの面積が大きい場合には、
図16~
図18に示すダイアフラム21~23のように空気抜き対20を設ける態様を採用することができる。空気抜き対20を設けると、ダイアフラムの破損強度を維持しつつ、良好な充填率が達成できる。空気抜き対20は、これを構成する内側空気抜き孔14bの開口面積については上記の通り適宜設定することができる。また、内側空気抜き孔14bの総開口面積(複数の内側空気抜き孔14bの開口面積の総和)についても必要に応じて適宜設定することができる。
【0044】
空気抜き孔14の開口形状は、特に制限はなく、例えば、円形状、楕円形状、多角形状などとすることができる。これらの中でも、円形状とすることでダイアフラムの強度が維持される。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
(
参考例1)
参考例1では、
図3に示すようなダイアフラム12を作製した。
図3は、
参考例1のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリート充填率の測定結果を示す平面図である。
【0047】
図3に示す
参考例1のダイアフラム12は、1辺の長さが600mmの正方形の平板状である。打設孔13は、直径250mmの円形とし、その重心O
1がダイアフラム12の正方形の中心に位置するようにした。外側空気抜き孔14aは、正方形のダイアフラム12の各頂点寄りに1個ずつ合計4個設けた。
図3の紙面左側の2個の外側空気抜き孔14aは、直径30mmの円形とし、
図3の紙面右側の2個の外側空気抜き孔14aは、直径40mmの円形とした。各外側空気抜き孔14aは、ダイアフラム12の外周の各辺からの距離がそれぞれ50mmとなる位置に、各重心O
2が位置するようにした。
【0048】
内側空気抜き孔14bは、外側空気抜き孔14aの重心O
2同士を結ぶ線分よりもその重心O
3位置が打設孔13寄りとなるように設けた。
図3の紙面左側の2個の内側空気抜き孔14bは、直径30mmの円形とし、
図3の紙面右側の2個の内側空気抜き孔14bは、直径40mmの円形とした。各内側空気抜き孔14bは、線分P
1と線分P
2とのなす角θが15°となるように設けた。なお、線分P
1は、重心O
1と重心O
2とを結ぶ線分であり、線分P
2は、重心O
1と重心O
3とを結ぶ線分である。
【0049】
参考例1のダイアフラムを用いて小型CFT模擬柱を使用したポンプ圧送実験を行い、ダイアフラム下方のコンクリートの充填率を測定した。ポンプ圧送実験の実験概要は、以下の通りである。
【0050】
[試験体]
小型CFT模擬柱は、軸方向に直交する断面形状が1辺の長さが600mmの正方形で、高さ1200mmの角柱形状の小型CFT模擬柱型枠を用いた。このように構成された小型CFT模擬柱型枠の中央部に、参考例1のダイアフラムを1枚設けた。コンクリートは、小型CFT模擬柱型枠の下面にベンド管を取り付け、下から圧入して打ち込んだ。
【0051】
[コンクリートの使用材料及び調合]
表1に充填コンクリートの使用材料を示す。また、表2に充填コンクリートの調合を示す。使用するコンクリートは,大臣認定取得済みである管理強度150N/mm2のコンクリートとした。
【0052】
【0053】
【0054】
シリカフューム混入セメントとし、強度増進や流動性の改善を目的に、更にシリカフュームを別添した。コンクリートの水結合材比(W/B)は13.1%とし、目標スランプフローは65±10cm、空気量は2.0±1.5%とした。
【0055】
[ポンプ圧送実験:実験方法]
ポンプ車のブームを水平に伸ばし、小型CFT模擬柱にコンクリートを打ち込んだ。実験条件は以下の通りである。
・ブーム水平換算長さ:52.00m
・ベント管長さ:1.57m(4インチ管3.14m相当)
・テーパー管長さ:1.00m
・フレキシブルホース長さ:2.00m
・フレッシュコンクリート単位容積重量:24.50kN/m3
・圧送高さ:1.00m
・圧入高さ:1.00m
・圧力増大係数(β):1.30
・管内圧力損失(低速):0.07N/mm2/m
・管内圧力損失(高速):0.15N/mm2/m
【0056】
[打設量測定結果]
打設量の測定結果を、表3及び表4に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
[コンクリート打込量]
ポンプ圧送実験におけるコンクリート打込量を、表5及び表6に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
(比較例1)
比較例1においては、
図4に示すようなダイアフラム12aを作製した。比較例1のダイアフラム12aは、空気抜き孔14を、正方形のダイアフラム12aの各頂点寄りに1個ずつ合計4個のみとしたこと以外は、
参考例1のダイアフラムと同様の構成とした。
図4は、比較例1のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリート充填率の測定結果を示す平面図である。
【0065】
(比較例2)
比較例2においては、
図5に示すようなダイアフラム12aを作製した。比較例2のダイアフラム12aは、空気抜き孔14を、正方形のダイアフラム12aの各頂点寄りに1個ずつ4個、更に、これらの空気抜き孔14の重心同士を結ぶ線分の各中点に1個ずつ4個、合計8個とした。
図5は、比較例2のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリート充填率の測定結果を示す平面図である。
【0066】
(比較例3)
比較例3においては、
図6に示すようなダイアフラム12aを作製した。比較例3のダイアフラム12aは、空気抜き孔14を、正方形のダイアフラム12aの各頂点寄りに1個ずつ4個、更に、これらの空気抜き孔14の重心同士を結ぶ線分の各三等分点に1個ずつ8個、合計12個とした。
図6は、比較例3のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリート充填率の測定結果を示す平面図である。
【0067】
比較例1~3のダイアフラムについても、
参考例1と同様の方法でダイアフラム下方の充填率の測定を行った。結果を表7に示す。
図4~
図6に示す充填率の測定結果においても、黒く塗り潰されている部分が、コンクリートが充填されず空隙となっている箇所を示す。また、比較例1~3のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリートの充填状況を示す写真を、
図8~
図10に示す。
【0068】
(
参考例2)
参考例2においては、
図2に示すようなダイアフラム12を作製した。
参考例2のダイアフラム12は、1辺の長さが918mmの正方形の平板状である。打設孔13は、直径325mmの円形とし、その重心O
1がダイアフラム12の正方形の中心に位置するようにした。
【0069】
外側空気抜き孔14aは、正方形のダイアフラム12の各頂点寄りに1個ずつ合計4個の外側空気抜き孔14aを設けた。この外側空気抜き孔14aは、直径40mmの円形とした。各外側空気抜き孔14aは、ダイアフラム12の外周の各辺からの距離がそれぞれ199mmとなる位置に、各重心O2が位置するようにした。
【0070】
内側空気抜き孔14bは、外側空気抜き孔14aの重心O2同士を結ぶ線分よりもその重心O3の位置が打設孔13寄りとなるように設けた。これらの内側空気抜き孔14bは、直径40mmの円形とし、合計4個形成した。各内側空気抜き孔14bは、線分P1と線分P2とのなす角θが0°≦θ≦45°の条件を満たすように設けた。なお、線分P1は、重心O1と重心O2とを結ぶ線分であり、線分P2は、重心O1と重心O3とを結ぶ線分である。
【0071】
参考例2のダイアフラムを用いて、
参考例1と同様に、小型CFT模擬柱を使用したポンプ圧送実験を行い、ダイアフラム下方のコンクリートの充填率を測定した。ポンプ圧送実験の実験概要は、
参考例1と同じとした。
図19は、
参考例2のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリートの充填状況を部分的に示す写真である。
図20は、
参考例2のダイアフラムを用いたポンプ圧送実験のコンクリート充填率の測定結果を示す平面図である。
図19、
図21中、円形の破線は、内側空気抜き孔14bの対応する位置を示している。
【0072】
ダイアフラム下方の充填率を測定した結果、本参考例のダイアフラム下方の充填率は、84.5%であった。
【0073】
ここで、参考例2,実施例3は、ダイアフラムの1/4部分を抜き出した要素実験であり、落とし込み充填工法を採用した結果である。なお、参考例1、比較例1~3は、実大模擬柱で行ったものであり、圧入施工実験での結果である。
【0074】
(実施例3)
実施例3においては、
図18に示すようなダイアフラム23を作製した。実施例3のダイアフラム23は、1辺の長さが918mmの正方形の平板状である。打設孔13は、直径325mmの円形とし、その重心O
1がダイアフラム12の正方形の中心に位置するようにした。
【0075】
外側空気抜き孔14aは、正方形のダイアフラム23の各頂点寄りに1個ずつ合計4個の外側空気抜き孔14aを設けた。この外側空気抜き孔14aは、直径40mmの円形とした。各外側空気抜き孔14aは、ダイアフラム23の外周の各辺からの距離がそれぞれ199mmとなる位置に、各重心O2が位置するようにした。
【0076】
内側空気抜き孔14bは、外側空気抜き孔14aの重心O2同士を結ぶ線分よりもその重心O3の位置が打設孔13寄りとなるように設けた。これらの内側空気抜き孔14bは、直径40mmの円形とし、合計8個形成した。各内側空気抜き孔14bは、線分P1と線分P2とのなす角θが0°≦θ≦45°の条件を満たすように設けた。なお、線分P1は、重心O1と重心O2とを結ぶ線分であり、線分P2は、重心O1と重心O3とを結ぶ線分である。
【0077】
内側空気抜き孔14bは、線分P1を挟んで隣り合う少なくとも一対の内側空気抜き孔14bである空気抜き対20を有し、この空気抜き対20は、当該空気抜き対20を構成する一対の内側空気抜き孔14bの重心O3が、線分P1で線対称となるように配置した。更に、空気抜き対20は、線分P1のそれぞれにおいて少なくとも1組、具体的には、4組存在するようにした。
【0078】
実施例3のダイアフラム23を用いて、
参考例1と同様に、小型CFT模擬柱を使用したポンプ圧送実験を行い、ダイアフラム下方のコンクリートの充填率を測定した。ポンプ圧送実験の実験概要は、
参考例1と同じとした。
図21は、実施例3のダイアフラム23を用いたポンプ圧送実験のコンクリートの充填状況を部分的に示す写真である。
図22は、実施例3のダイアフラム23を用いたポンプ圧送実験のコンクリート充填率の測定結果を示す平面図である。
【0079】
ダイアフラム下方の充填率を測定した結果、本実施例のダイアフラム下方の充填率は、94.9%であった。
【0080】
[結果]
参考例1~2、実施例3のダイアフラムは、外側空気抜き孔の重心同士を結ぶ線分よりもその重心位置が打設孔寄りとなる内側空気抜き孔を設けたことにより、ダイアフラム下方の充填率の改善を図ることができた。特に、空気抜き孔の個数が4個の比較例1のダイアフラムは勿論のこと、空気抜き孔の個数が同数(8個)の比較例2のダイアフラムに対して大幅に充填率の改善を図ることができた。また、空気抜き孔の個数が12個の比較例3のダイアフラムと比較しても、参考例1~2、実施例3のダイアフラムは、ダイアフラム下方の充填率が高いという結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のダイアフラムは、コンクリート充填鋼管柱用のダイアフラムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
11 通しダイアフラム、
12,21,22,23 ダイアフラム、
12a ダイアフラム、
13 打設孔、
14 空気抜き孔、
14a 外側空気抜き孔、
14b 内側空気抜き孔、
15 鋼管、
15a 打設口、
16 コンクリート、
16a 上端面、
17 空隙、
18 梁、
20 空気抜き対、
25 円周。