(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサおよび固体電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20241021BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20241021BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
H01G9/00 290H
H01G9/15
H01G9/028 G
(21)【出願番号】P 2021070650
(22)【出願日】2021-04-19
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】大橋 赳太
(72)【発明者】
【氏名】多田 勝
(72)【発明者】
【氏名】根尾 定弘
(72)【発明者】
【氏名】峯村 英利
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-186292(JP,A)
【文献】特開2017-147466(JP,A)
【文献】特開2020-072132(JP,A)
【文献】特開2016-021453(JP,A)
【文献】特開2017-017182(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103617(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/15
H01G 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータとを有するコンデンサ素子本体部を備えた
固体電解コンデンサの製造方法であり、
前記コンデンサ素子本体部に、導電性高分子と、酸化防止剤を0.2wt%以上2.0wt%以下とを含む第1液を含浸させた後、熱処理することにより、前記コンデンサ素子本体部に導電性高分子層を形成する第1工程と、
前記導電性高分子層が形成された後、前記コンデンサ素子本体部に、有機溶媒と、酸化防止剤を0.2wt%以上10.0wt%以下とを含
み、電解質を含まない第2液を含浸させることにより、有機溶媒層を形成する第2工程と、
を有し、
前記第1液に含まれる酸化防止剤および前記第2液に含まれる酸化防止剤が、ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される少なくとも1種であり、
前記第2液における酸化防止剤の濃度が、前記第1液における酸化防止剤の濃度と同じである、または、前記第1液における酸化防止剤の濃度より高いことを特徴とする
固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記第2液に含まれる有機溶媒は、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の
固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の
固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータとを有するコンデンサ素子本体部を備えた
固体電解コンデンサであり、
前記コンデンサ素子本体部に、少なくとも導電性高分子と酸化防止剤とを含む導電性高分子層と、
少なくとも有機溶媒と酸化防止剤とを含
み、電解質を含まない有機溶媒層が形成され、
前記導電性高分子層に含まれる酸化防止剤および前記有機溶媒層に含まれる酸化防止剤が、ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される少なくとも1種であり、
前記導電性高分子層に含まれる酸化防止剤と前記有機溶媒層に含まれる酸化防止剤の重量比率が、1:1~1:50であることを特徴とする
固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記有機溶媒層に含まれる有機溶媒は、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載の
固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載の
固体電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサおよび電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサとして、誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、陽極および陰極の間に配置されたセパレータとを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納された外装体と、を備えた電解コンデンサが知られている。
【0003】
特許文献1には、誘電体酸化皮膜の上に形成された導電性高分子層に、ポリヒドロキシ化合物が含まれた電解コンデンサが記載されている。特許文献1には、融点が40℃以上150℃以下であるポリヒドロキシ化合物を用いた場合、導電性の向上およびE.S.R.(等価直列抵抗)の低減を図ることができることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、電解コンデンサの電解液が、溶質の酸成分として、ヒドロキシル基を有する第1芳香族化合物を含むことが記載されている。特許文献2には、ヒドロキシル基を有する第1芳香族化合物により、長期的にE.S.R.を低く維持することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6767630号
【文献】国際公開第2017/056447号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、高温環境下において従来より低いE.S.R.を維持可能な電解コンデンサが望まれている。それに加え、電解コンデンサには、初期のE.S.R.が低いことが要望されている。
【0007】
本発明の目的は、初期のE.S.R.が低く、かつ、高温環境下において従来より低いE.S.R.を維持可能な電解コンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許文献1、2等には、E.S.R.を低減可能な技術が記載されている。しかし、本発明者らの研究から、これらを採用しても、初期および高温環境下において望ましい低E.S.R.にするには不十分であることが分かった。
【0009】
本発明者らはさらに研究を進め、以下の発明により、高温環境下において従来より低いE.S.R.を維持可能な電解コンデンサを提供することができることを見出した。また、この電解コンデンサによれば、初期のE.S.R.を低くすることができることを見出した。
【0010】
本発明の電解コンデンサの製造方法は、誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータとを有するコンデンサ素子本体部を備えた電解コンデンサの製造方法であり、前記コンデンサ素子本体部に、導電性高分子と、酸化防止剤を0.2wt%以上2.0wt%以下とを含む第1液を含浸させた後、熱処理することにより、前記誘電体酸化皮膜の上に導電性高分子層を形成する第1工程と、前記導電性高分子層が形成された後、前記コンデンサ素子本体部に、有機溶媒と、酸化防止剤を0.2wt%以上10.0wt%以下とを含む第2液を含浸させることにより、有機溶媒層を形成する第2工程と、を有し、前記第1液に含まれる酸化防止剤および前記第2液に含まれる酸化防止剤が、ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される少なくとも1種であり、前記第2液における酸化防止剤の濃度が、前記第1液における酸化防止剤の濃度と同じである、または、前記第1液における酸化防止剤の濃度より高い。
【0011】
本発明によると、導電性高分子層を形成する第1液と有機溶媒層を形成する第2液とが、それぞれ、酸化防止剤として、ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される少なくとも1種を含む。上記の酸化防止剤の濃度の範囲内で、有機溶媒層を形成する第2液の酸化防止剤の濃度を、導電性高分子層を形成する第1液の酸化防止剤の濃度と同じにする、または、第1液の酸化防止剤の濃度より高くする。これらにより、初期のE.S.R.が低く、かつ、高温環境下において従来より低いE.S.R.を維持可能な電解コンデンサを製造することができることが分かった。
【0012】
前記第2液に含まれる有機溶媒は、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0013】
有機溶媒層を形成するため、ポリアルキレングリコールなどの有機溶媒を使用することにより、陽極の誘電体酸化皮膜の修復性能が高められるため、漏れ電流の低減が期待できる。
【0014】
前記ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0015】
有機溶媒層を形成するため、入手しやすい上記化合物を使用することにより、漏れ電流の低減が期待できる。
【0016】
本発明に係る電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータとを有するコンデンサ素子本体部を備えた電解コンデンサであり、前記コンデンサ素子本体部に、少なくとも導電性高分子と酸化防止剤とを含む導電性高分子層と、少なくとも有機溶媒と酸化防止剤とを含む有機溶媒層が形成され、前記導電性高分子層に含まれる酸化防止剤および前記有機溶媒層に含まれ酸化防止剤が、ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される少なくとも1種であり、前記導電性高分子層に含まれる酸化防止剤と前記有機溶媒層に含まれる酸化防止剤の重量比率が、1:1~1:50である。
【0017】
上記構成によると、導電性高分子層および有機溶媒層が、それぞれ、酸化防止剤として、ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される少なくとも1種を含む。導電性高分子層の酸化防止剤と有機溶媒層に含まれる酸化防止剤の比率が、1:1~1:50である。これらにより、初期のE.S.R.が低く、かつ、高温環境下において従来より低いE.S.R.を維持可能な電解コンデンサを提供することができることがわかった。
【0018】
上記構成において、前記有機溶媒層に含まれる有機溶媒は、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0019】
有機溶媒層に、ポリアルキレングリコールなどの有機溶媒が含まれることにより、陽極の誘電体酸化皮膜の修復性能が高められるため、漏れ電流の低減が期待できる。
【0020】
前記ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0021】
有機溶媒として、入手しやすい上記化合物を使用することにより、漏れ電流の低減が期待できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、初期のE.S.R.が低く、かつ、高温環境下において従来より低いE.S.R.を維持可能な電解コンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る電解コンデンサの要部切断正面図である。
【
図2】
図1に示すコンデンサ素子の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
電解コンデンサ1は、
図1に示すように、外装ケース2および外装ケース2の開口を封止した封口体3を有する外装体4と、外装体4に収容されたコンデンサ素子5とを備えている。
【0026】
コンデンサ素子5は、
図2に示すように、陽極11と陰極12とをセパレータ13を介して円筒形に巻回して形成され、外周面に貼り付けられたテープ14により巻止めされている。
【0027】
陽極11および陰極12にはそれぞれ図示しないリードタブが接続されている。陽極11は、リードタブを介して、リード端子21に接続されている。陰極12は、リードタブを介して、リード端子22に接続されている。リード端子21およびリード端子22は、それぞれ、
図1に示すように、封口体3に形成された孔31および孔32を通って外部に引き出されている。
【0028】
図2に示す陽極11は、表面に誘電体である誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属である。弁作用金属として、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブおよびチタンから構成される群より選択される少なくとも1つが挙げられる。誘電体酸化皮膜は、例えば、弁作用金属の箔の表面をエッチング処理により粗面化した後、化成処理を施すことによって形成される。
【0029】
陰極12は、弁作用金属を用いて形成されている。陰極12として、例えば、弁作用金属箔の表面をエッチング処理により粗面化した箔、または、粗面化後、化成処理を施した箔が使用される。陰極12として、エッチング処理を施さないプレーン箔を使用してもよい。さらに、前記粗面化箔もしくはプレーン箔の表面に、チタン、ニッケル、チタン炭化物、ニッケル炭化物、チタン窒化物、ニッケル窒化物、チタン炭窒化物およびニッケル炭窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む金属薄膜が形成されたコーティング箔を使用してもよい。また、粗面化箔もしくはプレーン箔の表面にカーボン薄膜が形成されたコーティング箔を使用してもよい。
【0030】
セパレータ13の材質は特に限定されない。セパレータ13として、例えば、セルロースを主体とするものを使用してもよい。
【0031】
陽極11の誘電体酸化皮膜と陰極12との間に、セパレータ13に保持された導電性高分子層が形成されている。導電性高分子層は、導電性高分子と、酸化防止剤とを含む。導電性高分子層は、導電性高分子と、酸化防止剤を0.2wt%以上2.0wt%以下とを含む第1液を、誘電体酸化皮膜に含浸および熱処理することにより形成された層である。
【0032】
導電性高分子層に含まれる高分子として、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンまたはそれらの誘導体が用いられる。高分子として、一般的に、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が用いられる。高分子は、これらに限定されない。
【0033】
導電性高分子層は、ドーパントをさらに含む。ドーパントとして、一般的に、p-トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸(PSS)等が用いられる。ドーパントは、これらに限定されない。また、自己ドープ型導電性高分子を使用してもよい。
【0034】
導電性高分子層は、高分子、ドーパントおよび上記酸化防止剤に加え、他の添加剤を含んでいてもよい。酸化防止剤については、後述する。
【0035】
図2に示すコンデンサ素子5は、有機溶媒層をさらに有する。有機溶媒層は、有機溶媒と、酸化防止剤とを含む。有機溶媒層は、導電性高分子層が形成された後、陽極11、陰極12およびセパレータ13を有するコンデンサ素子本体部に、有機溶媒と、酸化防止剤を0.2wt%以上10.0wt%以下とを含む第2液を含浸させることにより形成された層である。有機溶媒層は、導電性高分子層が形成されたコンデンサ素子5の空隙に形成または保持される。
【0036】
有機溶媒は、例えば、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であってもよい。これらは、陽極の誘電体酸化皮膜の修復性能が高められるため、漏れ電流の低減が期待できる。ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体から選択される少なくとも1種であってもよい。これらの化合物は、入手しやすい化合物である上に、漏れ電流の低減が期待できる。なお、有機溶媒層に含まれる有機溶媒は、特に限定されない。
【0037】
有機溶媒層は、有機溶媒および酸化防止剤に加え、他の添加剤を含んでいてもよい。また、有機溶媒層は、電解質を含んでいてもよく、電解質を含んでいなくてもよい。
【0038】
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤および有機溶媒層に含まれる酸化防止剤は、ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される少なくとも1種である。ベンゼントリオールとして、ピロガロール、ヒドロキシノール、および、フロログルシノールが挙げられる。ベンゼントリオールの誘導体は、例えば、ベンゼントリオールの水素基が、エーテル化、エステル化、ハロゲン化、アミノ化、カルボニル化したものでもよい。具体的には、ベンゼントリオールの誘導体は、ベンゼントリオールの水素基が、水素基以外の原子または官能基などに置き換わったものでもよい。官能基として、例えば、アミノ基、カルボキシル基が挙げられる。ベンゼントリオールの誘導体として、例えば、没食子酸プロピルが挙げられる。導電性高分子層に含まれる酸化防止剤と、有機溶媒層に含まれる上記酸化防止剤とは、同じでもよく、異なってもよい。
【0039】
有機溶媒層に含まれる上記酸化防止剤の量は、導電性高分子層に含まれる上記酸化防止剤の量と同じ量である、または、導電性高分子層に含まれる上記酸化防止剤より多い。「有機溶媒層に含まれる上記酸化防止剤の量」と、「導電性高分子層に含まれる上記酸化防止剤の量」との大小関係は、後述する電解コンデンサ1の製造方法における、導電性高分子層を形成するための「第1液における上記酸化防止剤の濃度」と、有機溶媒層を形成するための「第2液における上記酸化防止剤の濃度」との大小関係と同様な傾向があると推測される。つまり、有機溶媒層を形成するための「第2液における上記酸化防止剤の濃度」が、導電性高分子層を形成するための「第1液における上記酸化防止剤の濃度」と同じである場合、「有機溶媒層に含まれる上記酸化防止剤の量」が「導電性高分子層に含まれる上記酸化防止剤の量」と同じであると推測される。有機溶媒層を形成するための「第2液における上記酸化防止剤の濃度」が、導電性高分子層を形成するための「第1液における上記酸化防止剤の濃度」より高い場合、「有機溶媒層に含まれる上記酸化防止剤の量」が「導電性高分子層に含まれる上記酸化防止剤の量」より多いと推測される。
【0040】
導電性高分子層および/または有機溶媒層は、上記酸化防止剤に加え、他の酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0041】
上述した電解コンデンサ1は、例えば以下の方法によって作製される。
【0042】
所定の幅に切断された陽極11および陰極12(
図2参照)に、外部引き出し電極用のリードタブを接続する。リードタブが接続された陽極11および陰極12を、セパレータ13を介して巻回することにより、コンデンサ素子本体部を作製する。陽極11は、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属である。
【0043】
コンデンサ素子本体部の切り口やコンデンサ素子本体部の作製時に欠損した誘電体酸化皮膜を修復するため、コンデンサ素子本体部を化成処理する。化成処理は、化成液中でコンデンサ素子本体部に電圧を印加することによって行われる。化成処理に使用される化成液として、例えば、アジピン酸およびアジピン酸塩の少なくとも一方を含む水溶液が挙げられる。
【0044】
次に、コンデンサ素子本体部に、導電性高分子と、酸化防止剤を0.2wt%以上2.0wt%以下とを含む第1液を含浸させた後、熱処理(例えば、40℃以上220℃以下で加熱)する(第1工程)。この酸化防止剤は、ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される少なくとも1種である。第1液の導電性高分子として、上記で例示した高分子およびドーパントを使用してもよい。高分子およびドーパントは、特定の高分子およびドーパントに限定されない。また、自己ドープ型導電性高分子を使用してもよい。第1液には、高分子および酸化防止剤に加え、他の添加剤がさらに含まれていてもよい。第1液には、ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される少なくとも1種の酸化防止剤に加え、他の酸化防止剤が含まれていてもよい。
【0045】
上記により、コンデンサ素子本体部に導電性高分子層が形成される。
【0046】
続いて、導電性高分子層が形成されたコンデンサ素子本体部に、有機溶媒と、上述した酸化防止剤を0.2wt%以上10.0wt%以下とを含む第2液を含浸させる(第2工程)。この酸化防止剤は、ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される少なくとも1種である。第2液における酸化防止剤の濃度は、第1液における酸化防止剤の濃度と同じである、または、第1液における酸化防止剤の濃度より高い。第2液に含まれる酸化防止剤(ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される少なくとも1種)は、第1液に含まれる上述した酸化防止剤(ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される少なくとも1種)と、同じでもよく、異なってもよい。有機溶媒は、上記で例示した有機溶媒を使用してもよい。有機溶媒の種類は、特に限定されない。第2液には、他の添加剤がさらに含まれていてもよい。第2液には、ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される少なくとも1種の酸化防止剤に加え、他の酸化防止剤が含まれていてもよい。
【0047】
上記により、有機溶媒層が形成される。これにより、コンデンサ素子5が得られる。
【0048】
コンデンサ素子5を外装ケース2(
図1参照)に収容し、封口体3により外装ケース2の開口を閉じる。これにより、電解コンデンサ1が得られる。
【0049】
本発明者らにより、以下の知見が得られた。
【0050】
高温環境下でE.S.R.が高くなるのは、導電性高分子層に含まれる導電性高分子の熱酸化劣化に起因すると考えられる。従来、導電性高分子の熱酸化劣化を十分に抑制できなかった理由として、例えば、導電性高分子層に酸素が流入することにより、導電性高分子が熱酸化劣化したためと考えられる。また、誘電体酸化皮膜の表面に存在する導電性高分子が誘電体酸化皮膜中の酸素と反応する熱酸化劣化を十分に抑制できなかったと考えられる。
【0051】
これに対し、上述した方法によって製造された電解コンデンサによると、導電性高分子の熱酸化劣化を十分に抑制できると考えられる。
具体的には、導電性高分子層に、酸化防止剤として含まれるベンゼントリオールおよび/またはベンゼントリオールの誘導体により、導電性高分子層に酸素が流入しても、導電性高分子の熱酸化劣化が抑制されると考えられる。また、導電性高分子層の表面に、酸化防止剤としてベンゼントリオールおよび/またはベンゼントリオールの誘導体を含む有機溶媒層が形成されるとともに、有機溶媒層に存在する酸化防止剤がある程度確保されている。これにより、誘電体酸化皮膜の表面に存在する導電性高分子の熱酸化劣化が十分に抑制されると考えられる。
これらにより、高温環境下において従来より低いE.S.R.を維持可能となることがわかった。
【0052】
また、導電性高分子層に酸化防止剤が多く含まれる場合、初期のE.S.R.が高い傾向にあるが、有機溶媒層に酸化防止剤が含まれることで、導電性高分子層を形成する第1液の酸化防止剤の濃度を少なくすることができる。そのため、電解コンデンサの初期のE.S.R.が高くなることが抑制されると考えられる。
【0053】
上記より、本実施形態によると、初期のE.S.R.が低く、かつ、高温環境下において従来より低いE.S.R.を維持可能な電解コンデンサを製造することができる。また、上述した電解コンデンサは、初期のE.S.R.が低く、かつ、高温環境下において従来より低いE.S.R.を維持可能なコンデンサである。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0055】
以下の方法により電解コンデンサを作製した。
【0056】
所定の幅に切断された陽極箔および陰極箔に外部引き出し電極用のアルミリードタブを接続した。陽極アルミ箔は、弁作用金属であるアルミニウム箔の表面にエッチング処理を施すことよって粗面化した後、100Vで化成処理を施すことによって誘電体酸化皮膜が形成されたものである。陰極箔は、カーボンが蒸着されたアルミニウム箔である。陽極アルミ箔および陰極アルミ箔を、ナイロンを主体とした電解紙(セパレータ)を介して巻回することにより、コンデンサ素子の本体部を作製した。
【0057】
陽極箔の切り口およびリードタブの取り付け部に欠損した誘電体酸化皮膜を修復するため、化成処理を行った。化成処理は、化成液にコンデンサ素子となる本体部を浸した状態で、誘電体酸化皮膜の化成電圧値に近似した電圧を印加することにより行った。化成液として、アジピン酸アンモニウム濃度が2wt%のアジピン酸アンモニウム水溶液を使用した。
【0058】
次に、コンデンサ素子本体部に、下記の条件(後述の[導電性高分子層および有機溶媒層の作製条件])の第1液を、減圧下で含浸させた後、コンデンサ素子本体部を40℃に設定した恒温槽内で30分間保持した後、160℃に設定した恒温槽内で30分間保持する熱処理を行った。この含浸および熱処理を2回繰り返し行った。これにより、コンデンサ素子本体部に導電性高分子層を形成した。
【0059】
続いて、コンデンサ素子本体部に下記の条件(後述の[導電性高分子層および有機溶媒層の作製条件])の第2液を、減圧下で含浸させた。その後、135℃の恒温槽内に、コンデンサ素子本体部を30分間放置することにより、有機溶媒層を形成した。
【0060】
得られたコンデンサ素子をアルミニウム製のケース内に収容した後、ケースの開口の周縁をカーリング加工した。125℃に設定された恒温槽内で、ケースに収容されたコンデンサ素子に定格電圧(63V)を印加し、エージング処理を施すことにより、電解コンデンサを作製した。本実験で作製した電解コンデンサは、カテゴリ上限温度125℃、定格電圧63WV、定格静電容量22μFおよび製品サイズφ8×7L(mm)の製品である。
【0061】
[導電性高分子層および有機溶媒層の作製条件]
<従来条件1>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液(酸化防止剤を含まない)
有機溶媒層:なし
<従来条件2>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液(酸化防止剤を含まない)
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 0.5wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
「PEG400」とは、数平均分子量が400のポリエチレングリコールである。
<従来条件3>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ピロガロール(濃度 0.5wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ポリエチレングリコール(PEG400)溶液(酸化防止剤を含まない)
<実施例1>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ピロガロール(濃度 0.2wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 0.2wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:1
<実施例2>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ピロガロール(濃度 0.2wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 5.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:25
<実施例3>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ピロガロール(濃度 0.5wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 1.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:2
<実施例4>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ピロガロール(濃度 0.5wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 5.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:10
<実施例5>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ピロガロール(濃度 0.5wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 10.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:20
<実施例6>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ピロガロール(濃度 2.0wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 5.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:2.5
<実施例7>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ピロガロール(濃度 0.2wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 10.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:50
<実施例8>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、フロログルシノール(濃度 0.5wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:フロログルシノール(濃度 5.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:10
<実施例9>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、フロログルシノール(濃度 1.0wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:フロログルシノール(濃度 5.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:5
<実施例10>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ヒドロキシノール(濃度 0.5wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ヒドロキシノール(濃度 5.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:10
<実施例11>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、没食子酸プロピル(濃度 0.5wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:没食子酸プロピル(濃度 5.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:10
<実施例12>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ピロガロール(濃度 0.5wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:フロログルシノール(濃度 5.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:10
<実施例13>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ヒドロキシノール(濃度 0.5wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 5.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:10
<比較例1>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ピロガロール(濃度 0.2wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 0.1wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:0.5
<比較例2>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ピロガロール(濃度 1.0wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 0.5wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:0.5
<比較例3>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ピロガロール(濃度 5.0wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 0.5wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:0.1
<比較例4>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ピロガロール(濃度 10.0wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 0.5wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:0.05
<比較例5>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、カテコール(濃度 0.5wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:カテコール(濃度 5.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:10
<比較例6>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、p-ニトロフェノール(濃度 0.5wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:p-ニトロフェノール(濃度 5.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:10
<比較例7>
導電性高分子層:PEDOT/PSS(濃度 2.0wt%)と、ヒドロキシノール(濃度 5.0wt%)と、エチレングリコール(濃度 10wt%)とを混合した分散液
有機溶媒層:ピロガロール(濃度 1.0wt%)を含むポリエチレングリコール(PEG400)溶液
導電性高分子層に含まれる酸化防止剤:有機溶媒層に含まれる酸化防止剤=1:0.2
【0062】
(評価)
初期特性として、20℃の環境下で、電解コンデンサの等価直列抵抗(E.S.R.)を測定した。
次に、150℃の高温雰囲気で、電解コンデンサに定格電圧(63V)を印加した状態を1000時間保持した後(以下、「高温試験後」と称することがある)、コンデンサの等価直列抵抗(E.S.R.)を測定した。
【0063】
表1に、実験条件および評価結果を示している。
表1において、「Avg.」はE.S.R.の相加平均値(n=30)である。「150℃定格印加試験 1000時間経過後」(「高温試験後」)の「c.f.」は、初期E.S.R.に対する高温試験後のE.S.R.の上昇率である。「c.f.」は、以下の式から算出したものである。
c.f.=(高温試験後のAvg.のE.S.R. - 初期のAvg.のE.S.R.)/初期のAvg.のE.S.R.
【0064】
【0065】
表1に示すように、従来条件1の電解コンデンサは、導電性高分子層に酸化防止剤を含まず、有機溶媒層を有しないコンデンサで、従来条件2の電解コンデンサは、有機溶媒層だけに酸化防止剤としてベンゼントリオールを含むコンデンサで、従来条件3の電解コンデンサは、導電性高分子層だけに酸化防止剤としてベンゼントリオールを含むコンデンサである。従来条件1~3では、表1に示すように、高温試験後のE.S.R.が高かった。また、従来条件1~3のE.S.R.の上昇率(c.f.)は大きかった。
【0066】
実施例1~13の電解コンデンサは、表1に示すように、導電性高分子層および有機溶媒層の両方が、酸化防止剤としてベンゼントリオールまたはベンゼントリオールの誘導体を含むコンデンサである。実施例1では、第2液の酸化防止剤の濃度が、第1液の酸化防止剤の濃度と同じである。この場合、有機溶媒層の酸化防止剤の量が、導電性高分子層の酸化防止剤の量と同量と推測される。実施例2~13では、第2液の酸化防止剤の濃度が、第1液の酸化防止剤の濃度より高い。この場合、有機溶媒層の酸化防止剤の量が、導電性高分子層の酸化防止剤の量より多いと推測される。
【0067】
実施例1~13では、表1に示すように、初期のE.S.R.が低く、高温試験後のE.S.R.も低かった。また、E.S.R.の上昇率(c.f.)は小さかった。
すなわち、実施例1~13の電解コンデンサは、初期のE.S.R.が低く、かつ、高温環境下において従来よりも低いE.S.R.を維持可能な電解コンデンサであった。
【0068】
また、実施例1~7の酸化防止剤と実施例8~13の酸化防止剤とは、種類が異なるが、実施例1~7と実施例8~13の効果は同等であった。このことから、酸化防止剤がベンゼントリオールおよび/またはベンゼントリオールの誘導体である場合、酸化防止剤の種類に関係なく、初期のE.S.R.が低く、かつ、高温環境下において従来よりも低いE.S.R.を維持可能であると考えられる。
【0069】
比較例1~4、7の電解コンデンサは、表1に示すように、導電性高分子層および有機溶媒層の両方が、酸化防止剤としてベンゼントリオールまたはベンゼントリオールの誘導体を含むが、高温試験後のE.S.R.が高かった。
比較例1~4、7では、実施例1~12と異なり、第1液の酸化防止剤の濃度が、第2液の酸化防止剤の濃度より高かった。この場合、導電性高分子層の酸化防止剤の量が、有機溶媒層の酸化防止剤の量より多いと推測される。このことが、高温試験後のE.S.R.に影響したと考えられる。
【0070】
比較例3、4では、初期のE.S.R.が高かった。また、比較例7では、比較例7と同じ酸化防止剤を使用した実施例13より、初期のE.S.R.が高かった。
比較例3、4、7では、実施例1~13と比べ、第1液の酸化防止剤の濃度が高かった。この場合、導電性高分子層の酸化防止剤の量が多いと推測される。このことが、初期のE.S.R.に影響したと考えられる。
【0071】
比較例5、6では、高温試験後のE.S.R.が高かった。また、E.S.R.の上昇率(c.f.)が大きかった。
比較例5では、酸化防止剤として、ベンゼンジオールであるカテコールを使用した。
比較例6では、酸化防止剤として、フェノールの水素原子がニトロ基に置換したp-ニトロフェノールを使用した。
これらの酸化防止剤では、高温環境下でのE.S.R.の上昇を十分に抑制できないことがわかった。
【0072】
上記実験より、以下のことがわかった。
導電性高分子層を形成する第1液と有機溶媒層を形成する第2液とが、それぞれ、酸化防止剤として、ベンゼントリオールまたはベンゼントリオールの誘導体を含み、第1液が酸化防止剤を0.2wt%以上2.0wt%以下含むとともに、第2液が酸化防止剤を0.2wt%以上10.0wt%以下含む。さらに、第2液における酸化防止剤の濃度が、第1液における酸化防止剤の濃度と同じである、または、前記第1液における酸化防止剤の濃度より高い。この場合、有機溶媒層に含まれる酸化防止剤が、導電性高分子層に含まれる酸化防止剤と同じ量である、または、導電性高分子層に含まれる酸化防止剤より多いと推測される。
上記の条件で作製された電解コンデンサは、初期のE.S.R.が低く、かつ、高温環境下において従来よりも低いE.S.R.を維持可能な電解コンデンサであることがわかった。
【0073】
上記実験では、実施例1~13において、ベンゼントリオールまたはベンゼントリオールの誘導体を用いた。しかし、ベンゼントリオールおよびベンゼントリオールの誘導体から選択される2種以上を使用した場合でも、本発明の効果が得られる。また、上記実験では、ベンゼントリオールの誘導体として、没食子酸プロピルまたはフロログルシノールを使用したが、他のベンゼントリオールの誘導体を使用した場合でも、本発明の効果が得られる。
【0074】
また、上記実験では、実施例1~13において、導電性高分子層を形成するため、高分子としてPEDOTを使用し、ドーパントとしてPSSを使用した。しかし、高分子およびドーパントは、上記に限られない。他の高分子を使用した場合にも、本発明の効果が得られる。また、他のドーパントを使用した場合にも、本発明の効果が得られる。
【0075】
また、上記実験では、実施例1~13において、有機溶媒層および第2液の有機溶媒として、ポリエチレングリコールを使用した。しかし、有機溶媒層および第2液の有機溶媒として、他の有機溶媒を使用してもよい。有機溶媒層および第2液の有機溶媒として他の有機溶媒を使用した場合にも、本発明の効果が得られる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について実施例に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0077】
また、上記実験では、カテゴリ上限温度125℃、定格電圧63WV、定格容量22μFおよび製品サイズφ8×7L(mm)の電解コンデンサを作製したが、本発明の電解コンデンサのカテゴリ上限温度、定格電圧、定格容量および製品サイズは上記に限られない。
【符号の説明】
【0078】
1 電解コンデンサ
2 外装ケース
3 封口体
4 外装体
5 コンデンサ素子
11 陽極
12 陰極
21,22 リード端子