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特許7574151方法、装置、制御装置及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】方法、装置、制御装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20241021BHJP
   B25J 17/02 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
B25J17/02 G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021129934
(22)【出願日】2021-08-06
(65)【公開番号】P2023023943
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小柳 佳介
(72)【発明者】
【氏名】安藤 富雄
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-020285(JP,U)
【文献】特開2017-026150(JP,A)
【文献】特開2017-100196(JP,A)
【文献】特開2013-208672(JP,A)
【文献】特開2007-276086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延在する部材を対象物に嵌合させる方法において、
ロボットアームの保持手段が前記部材を保持するステップと、
前記保持手段が前記部材の前記第1方向の少なくとも略中央部を保持しつつ、前記ロボットアームの変位手段が前記部材の前記略中央部を前記第1方向の端部に対して前記第1方向と垂直な第2方向に相対的に変位させるステップと、
前記変位手段が前記部材を変位させた状態で、前記部材の前記第1方向の端部を前記対象物の壁面に接触させながら、前記ロボットアームが前記部材を前記第2方向と反対の第3方向に移動させて前記対象物に挿入するステップと、
前記変位手段による変位を解除するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記ロボットアームは、柔軟性を有する駆動機構を備え
請求項に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも2つの孔が形成される前記部材を少なくとも2つの突起が形成される前記対象物に嵌合させる方法であって、
前記ロボットアームが前記部材を移動させて前記対象物に挿入することは、
前記ロボットアームが前記部材を移動させて前記2つの孔の一方の第1孔を、前記2つの突起の一方の第1突起に挿入し、かつ、前記2つの孔の他方の第2孔を、前記2つの突起の他方の第2突起に挿入することを含み、
前記変位手段による変位を解除することは、
前記変位手段による変位を解除して、前記第1孔の内壁のうち、前記第2孔側の内壁を前記第1突起に当接させ、かつ、前記第2孔の内壁のうち、前記第1孔側の内壁を前記第2突起に当接させることを含む
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1孔及び前記第2孔は、前記第1方向に長軸を有する長孔状に形成されており、
前記第1突起及び前記第2突起は、略円断面を有する円筒状乃至円錐状に形成される部分を含む
請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記保持手段は、
前記部材の前記略中央部を保持するための負圧発生手段、
前記部材の前記略中央部を保持するための電磁力発生手段、
前記部材の前記略中央部を保持するための静電気力発生手段、又は、
前記部材の前記略中央部を保持するためのファンデルワールス力発生手段の少なくとも何れか一つを備える請求項1乃至の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記変位手段は、
前記部材の前記第1方向の両端部に当接することにより前記第1方向の両端部の前記第2方向への移動を規制する手段と、
前記保持手段を前記第2方向に移動させる手段と
を含む請求項1乃至の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
第1方向に延在する部材を対象物に嵌合させるためのロボットアームを備えた装置において、
前記ロボットアームは、
前記部材を保持するための保持手段と、
前記部材の前記第1方向の略中央部を前記第1方向の端部に対して前記第1方向と垂直な第2方向に相対的に変位させるための変位手段と、
前記変位手段が前記部材を変位させた状態で、前記部材の前記第1方向の端部を前記対象物の壁面に接触させながら、前記部材を前記第2方向と反対の第3方向に移動させて前記対象物に挿入するための移動手段とを備え、
更に前記変位手段による変位を解除するための解除手段を備える
装置。
【請求項8】
第1方向に延在する部材を対象物に嵌合させるためのロボットアームを制御する制御装置において、
前記ロボットアームの保持手段が前記部材を保持するステップと、
前記保持手段が前記部材の前記第1方向の少なくとも略中央部を保持しつつ、前記ロボットアームの変位手段が前記部材の前記略中央部を前記第1方向の端部に対して前記第1方向と垂直な第2方向に相対的に変位させるステップと、
前記変位手段が前記部材を変位させた状態で、前記部材の前記第1方向の端部を前記対象物の壁面に接触させながら、前記ロボットアームが前記部材を前記第2方向と反対の第3方向に移動させて前記対象物に挿入するステップと、
前記変位手段による変位を解除するステップと
を実行可能に構成される制御装置。
【請求項9】
第1方向に延在する部材を対象物に嵌合させるためのロボットアームを制御する制御命令を生成させるためのコンピュータプログラムにおいて、
前記ロボットアームの保持手段が前記部材を保持するステップと、
前記保持手段が前記部材の前記第1方向の少なくとも略中央部を保持しつつ、前記ロボットアームの変位手段が前記部材の前記略中央部を前記第1方向の端部に対して前記第1方向と垂直な第2方向に相対的に変位させるステップと、
前記変位手段が前記部材を変位させた状態で、前記部材の前記第1方向の端部を前記対象物の壁面に接触させながら、前記ロボットアームが前記部材を前記第2方向と反対の第3方向に移動させて前記対象物に挿入するステップと、
前記変位手段による変位を解除するステップと
を実行させるための制御命令を生成させる
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方法、装置、制御装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットアームを用いて、板や棒などの部材を金型などの対象物に組み付ける方法が知られている。しかしながらロボットアーム(特に多関節ロボットアーム)は位置決め制御の為微小に振動していたり、減速機等の駆動伝達系の伝達精度により、性能の良いロボットアームでも、その位置精度は±30μm以上である。一方ですき間ばめですらJIS規格において50μm以下の寸法差を要する場合がある。このためロボットアームを用いて部材を対象物に嵌合することは容易でない。
【0003】
加えて環境によっては部材及び対象物が熱膨張するため、一層部材を対象物に組み付けることが難しくなる。組み付けに失敗すると高価な金型等の対象物が損傷してしまうおそれもある。
【0004】
特許文献1には、部品の組み付け作業を簡単に行うことができる多関節ロボットアームが記載されている。この文献には、ばね部材を利用した嵌合方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、ロボットハンドに設けられた押圧軸でブリッジの中央部を押すことによりブリッジの周辺部をフレームから取り外すことができる多関節ロボットアームが記載されている。
【0006】
特許文献3には、スムーズに部材を対象物に挿入することができる多関節ロボットアームが記載されている。この文献には、対象物を振動させることによりスムーズに部材を嵌合させる嵌合方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-100196号公報
【文献】特開2013-208672号公報
【文献】特開2007-276086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の嵌合方法は、ばねを対象物に挿入する作業を必須とするものであるから汎用性に欠ける。特許文献2記載の方法は、強い力でブリッジの中央部を押すためブリッジの寸法が広がってしまうおそれがある。又、強い力で中央部を押すことが許容される対象物にしか適用できない。特許文献3記載の嵌合方法は、ロボットアームで把持して振動させることができるような対象物にしか適用できない。
【0009】
そこで本発明は、各特許文献に記載された方法と比べて汎用性が高い嵌合方法、装置、制御装置及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願は、部材を対象物に嵌合させる方法を開示する。
【0011】
この方法は、ロボットアームの保持手段が前記部材を保持するステップと、前記保持手段が前記部材の前記第1方向の少なくとも略中央部を保持しつつ、前記ロボットアームの変位手段が前記部材の前記略中央部を前記第1方向の端部に対して前記第1方向と垂直な第2方向に相対的に変位させるステップと、前記変位手段が前記部材を変位させた状態で、前記ロボットアームが前記部材を移動させて前記対象物に挿入するステップと、前記変位手段による変位を解除するステップとを含む。
【0012】
ここで「嵌合」とは、すき間ばめ、中間ばめ、しまりばめ及び部材を対象物に組み付けることを含む。
【0013】
また部材は、少なくとも第1方向に延在している部材であればよい。部材は、例えば、棒状に形成された部材や、板状に形成された部材、円板状に形成された部材、円環状に形成された部材を含む。
【0014】
一方で対象物は、凹部のように窪んだ部分を有するものでもよく、この場合本出願に係る嵌合方法は、部材を対象物の凹部に嵌合させるときに適用されてもよい。
【0015】
対象物は凸部のように突出した部分を有するものでもよく、この場合本出願に係る嵌合方法は、部材を対象物の凸部に嵌合させるときに適用されてもよい。部材には貫通している孔又は貫通していない孔(「窪み」を含む。)を設けてもよく、この場合本出願に係る嵌合方法は、部材に設けられた孔を対象物の凸部に嵌合させるときに適用されてもよい。
【0016】
なお前記ロボットアームが前記部材を移動させて前記対象物に挿入することは、前記ロボットアームが前記部材を前記第2方向と反対の第3方向に移動させることを含んでもよい。
【0017】
又は前記ロボットアームが前記部材を移動させて前記対象物に挿入することは、前記ロボットアームが前記部材を前記第2方向に対して120度以上240度以下の方向(好ましくは150度以上210度以下の方向)に移動させることを含んでもよい。
【0018】
更に前記ロボットアームは、柔軟性を有する駆動機構を備えてもよい。
【0019】
加えて前記ロボットアームが前記部材を前記第2方向と反対の第3方向に移動させることは、前記部材の前記第1方向の端部を前記対象物の壁面に接触させながら、前記ロボットアームが前記部材を前記第2方向と反対の第3方向に移動させることを含んでもよい。
【0020】
なお、ロボットアームは、柔軟性を有する駆動機構を備えてもよい。
【0021】
ここで、「柔軟性」とは、弾性、粘性又は弾性及び粘性を備えていることをいう。弾性とは、応力を加えると変形し、応力を除去すると元に戻る性質をいい、弾性変形のしやすさを示す可撓性という言葉で表現される場合もある。粘性とは、流体の流動速度を一様化する応力を生じさせる性質をいう。柔軟性を備えた駆動機構は、柔軟性を付与するための、例えば、磁性流体、機械ばね、空気ばね、磁力ばね及びベーンモータの何れか一つを少なくとも備えてもよい。
【0022】
「柔軟性を有する駆動機構」は、直列弾性アクチュエータであってもよい。直列弾性アクチュエータ(Series Elastic Actuator)は、例えば、モータと、ばね等の弾性体とを備える。モータから出力されるトルクは、弾性体をして、剛性を有するリンクに伝達される。このため、ロボットアームにより部材を対象物に接触させて倣わせることを容易に実現することが可能になる。直列弾性アクチュエータが備える弾性体が弾性変形するように、部材を対象物に対して倣わせることが可能になる。
【0023】
なお、部材を対象物に対して倣わせるとは、部材を対象物に接触させながら、部材を対象物に対して相対的に移動させることをいう。相対的に移動させることは、並進移動に限られず、対象物に対して部材を相対的に回転移動させることを含む。
本出願は、第1方向に延在する部材を対象物に嵌合させる方法を開示する。
【0024】
この方法は、前記部材の前記略中央部を前記第1方向の端部に対して前記第1方向と垂直な第2方向に相対的に変位させるステップと、前記部材を変位させた状態で、ロボットアームが前記部材を移動させて前記対象物に挿入するステップと、前記変位手段による変位を解除するステップとを含んでもよい。
【0025】
ここで前記部材の前記略中央部を前記第1方向の端部に対して前記第1方向と垂直な第2方向に相対的に変位させることは、ロボットアームが部材の第1方向の両端部を挟むこむことにより、前記部材の前記略中央部を前記第1方向の端部に対して前記第1方向と垂直な第2方向に相対的に変位させることを含む。
【0026】
ここで、前記ロボットアームが前記部材を移動させて前記対象物に挿入することは、前記ロボットアームが前記部材を前記第2方向と反対の第3方向に移動させることを含む。
【0027】
本出願は、第1方向に離間して少なくとも2つの孔が形成される部材を少なくとも2つの突起が形成される対象物に嵌合させる方法を開示する。
【0028】
この方法は、ロボットアームの保持手段が前記部材を保持するステップと、前記保持手段が前記部材の前記第1方向の少なくとも略中央部を保持しつつ、前記ロボットアームの変位手段が前記部材の前記略中央部を前記第1方向の端部に対して前記第1方向と垂直な第2方向に相対的に変位させるステップと、前記変位手段が前記部材を変位させた状態で、前記ロボットアームが前記部材を移動させて前記2つの孔の一方の第1孔を、前記2つの突起の一方の第1突起に挿入し、かつ、前記2つの孔の他方の第2孔を、前記2つの突起の他方の第2突起に挿入するステップと、前記変位手段による変位を解除して、前記第1孔の内壁のうち、前記第2孔側の内壁を前記第1突起に当接させ、かつ、前記第2孔の内壁のうち、前記第1孔側の内壁を前記第2突起に当接させるステップとを含む。
【0029】
ここで前記第1孔及び前記第2孔は、前記第1方向に長軸を有する長孔状に形成されてよい。前記第1孔及び前記第2孔は、長円状又は長方形状に形成されてもよい。
【0030】
ここで前記第1突起及び前記第2突起は、略円断面を有する円筒状乃至円錐状に形成される部分を含んでよい。
【0031】
以上のような構成において、保持手段及び変形手段は、それぞれ、ロボットアームのその他の部分とは着脱自在に取り付けられるように構成されてよい。
【0032】
保持手段を制御する制御手段及び変形手段を制御する制御手段は、それぞれ、ロボットアームの関節を制御する制御手段とは異なるものであってよい。例えば保持手段及び変形手段は、ロボットアームの関節を制御する制御手段とは異なる制御手段によって、シーケンシャル制御されてもよい。
【0033】
前記保持手段は、前記部材の前記略中央部を保持するための負圧発生手段、前記部材の前記略中央部を保持するための電磁力発生手段、前記部材の前記略中央部を保持するための静電気力発生手段、又は、前記部材の前記略中央部を保持するためのファンデルワールス力発生手段の少なくとも何れか一つを備えてもよい。
【0034】
前記変形手段は、前記部材の前記第1方向の両端部に当接することにより前記第1方向の両端部の前記第2方向への移動を規制する手段と、前記保持手段を前記第2方向に移動させる手段とを備えてもよい。
【0035】
本出願は、第1方向に延在する部材を対象物に嵌合させるためのロボットアームを備えた装置を開示する。このロボットアームは、前記部材を保持するための保持手段と、前記部材の前記第1方向の略中央部を前記第1方向の端部に対して前記第1方向と垂直な第2方向に相対的に変位させるための変位手段と、前記変位手段が前記部材を変位させた状態で、前記部材を前記対象物に挿入するための移動手段とを備え、更に前記変位手段による変位を解除するための解除手段を備える。
【0036】
本出願は、第1方向に延在する部材を対象物に嵌合させるためのロボットアームを制御する制御装置を開示する。この制御装置は、前記ロボットアームの保持手段が前記部材を保持するステップと、前記保持手段が前記部材の前記第1方向の少なくとも略中央部を保持しつつ、前記ロボットアームの変位手段が前記部材の前記略中央部を前記第1方向の端部に対して前記第1方向と垂直な第2方向に相対的に変位させるステップと、前記変位手段が前記部材を変位させた状態で、前記ロボットアームが前記部材を移動させて前記対象物に挿入するステップと、前記変位手段による変位を解除するステップとを実行可能に構成される。
【0037】
なお、上述したようにロボットアームの関節を制御するための制御手段と、保持手段又は変位手段を制御するための制御手段は、異なる制御手段であってもよい。例えばロボットアームの関節を制御するための制御手段が備える制御プログラムと、
保持手段又は変位手段を制御するための制御手段が備える制御プログラム(又は制御プログラムモジュール)は別の制御プログラム(又は制御プログラムモジュール)であってよい。この場合、ロボットアームの関節の制御と、保持手段又は変位手段の制御は、独立になされてもよい。
【0038】
本出願は、第1方向に延在する部材を対象物に嵌合させるためのロボットアームを制御する制御命令を生成させるためのコンピュータプログラムを開示する。このコンピュータプログラムは、前記ロボットアームの保持手段が前記部材を保持するステップと、前記保持手段が前記部材の前記第1方向の少なくとも略中央部を保持しつつ、前記ロボットアームの変位手段が前記部材の前記略中央部を前記第1方向の端部に対して前記第1方向と垂直な第2方向に相対的に変位させるステップと、前記変位手段が前記部材を変位させた状態で、前記ロボットアームが前記部材を移動させて前記対象物に挿入するステップと、
【0039】
前記変位手段による変位を解除するステップとを実行させるための制御命令を生成させる。
【0040】
本出願は、インサート成形方法を開示する。この方法は、第1方向に延在するインサート部材を金型に嵌合させる方法を含む。この方法は、ロボットアームの保持手段が前記インサート部材を保持するステップと、前記保持手段が前記インサート部材の前記第1方向の少なくとも略中央部を保持しつつ、前記ロボットアームの変位手段が前記インサート部材の前記略中央部を前記第1方向の端部に対して前記第1方向と垂直な第2方向に相対的に変位させるステップと、前記変位手段が前記インサート部材を変位させた状態で、前記ロボットアームが前記インサート部材を移動させて前記金型に挿入するステップと、前記変位手段による変位を解除するステップとを含む。その後、前記インサートが挿入された前記金型を用いて樹脂等を金型のキャビティー内に射出する等で成形するステップを含んでよい。
【0041】
このインサート成形方法は、更に変形してもよい。例えば、前記ロボットアームが前記インサート部材を移動させて前記金型に挿入することは、前記ロボットアームが前記インサート部材を前記第2方向と反対の第3方向に移動させることを含んでもよい。
【0042】
なお、上記方法又は上記インサート成形方法は、更にインサート部材を含む部材を加熱するステップを含み、加熱するステップを実行した後に、部材を対象物に挿入するステップが実行されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、一実施形態に係るロボットシステムの機能ブロック図である。
図2図2は、一実施形態に係るロボットアームの保持手段及び変位手段を示す模式図である。
図3図3は、一実施形態に係るロボットアームの模式図である。
図4図4は、一実施形態に係る部材の対象物への挿入方法のフローチャートである。
図5図5は、一実施形態に係る部材の対象物への挿入方法を示す模式図である。
図6図6は、一実施形態に係る部材の変位方法を示す模式図である。
図7図7は、一実施形態に係る部材の変位方法を示す模式図である。
図8図8は、一実施形態に係る部材の対象物への挿入方法を示す模式図である。
図9図9は、一実施形態に係る部材の対象物への挿入方法のフローチャートである。
図10図10は、一実施形態に係る部材の対象物への挿入方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施形態のみに限定する趣旨ではない。
【0045】
[第1実施形態]
図1は、ロボットシステム100の機能ブロック図を示している。図2は、本実施形態に係るロボットアーム20の保持手段30及び変位手段40を示す模式図である(インサート部材Wの変形等を強調している)。図3は、ロボットアーム20がインサート部品Wを金型Mに挿入する様子を示す模式図である。
【0046】
本実施形態に係るロボットシステム100は、インサート部材W(「部材」の一例)を金型M(「対象物」の一例)に挿入して嵌合させるための嵌合装置である。図1に示されるようにロボットシステム100は、ロボットアーム20と、ロボットアーム20を制御する制御装置10とを備えている。
【0047】
インサート部材Wは、少なくとも第1方向に延在し、曲げモーメントを作用させることにより変形する部材である。インサート部材Wは、例えば、SUS304、SUS316等のステンレス材、SPCC、SECC等の鉄板、真鍮材、銅材(電導部材)、A5052等のアルミ材、PET、PEN、ポリアミド等のプラスチック材料、合板等の木材、コートボール等の紙材等から構成されてよく、好ましくは、金属から構成されてよい。本実施形態における部材は、金型Mに挿入されてインサート成形に使用される、例えばSUS304から構成される板状のインサート部材Wである。
【0048】
インサート部材Wの変形量は、インサート部材Wに作用する曲げモーメントの大きさとインサート部材Wの断面二次モーメント及びヤング率(縦弾性係数)等に基づいて定まる。従ってインサート部材Wを容易に変形させるために、インサート部材Wは、例えば1mm以下の厚みを有することが好ましい。本実施形態におけるインサート部材Wは、例えば、インサート部材Wの延在方向である方向D1(「第1方向」の一例。図2における紙面左右方向)における幅が20~100mm、厚さが0.01~1mm、奥行き方向(図2における紙面垂直方向)が10~100mmの板状に形成される。
【0049】
本実施形態においてインサート部材Wが延在する方向(図2における紙面左右方向)を方向D1と呼び、インサート部材Wが変位する方向(同図紙面上方向)を方向D2(「第2方向」の一例)と呼び、インサート部材Wが移動する方向(同図紙面下方向)を方向D3(「第3方向」の一例)と呼ぶ。本実施形態においてインサート部材Wは厚み方向に変位させるため、方向D1と方向D2は略垂直である。本実施形態において、インサート部材Wは、変位させる方向と反対の方向に移動させるため、方向D2と方向D3は略反対の方向を向き、方向D1と方向D3は略垂直である。
【0050】
インサート部材Wの延在方向である方向D1における中央部分を中央部WCと呼び、中央部WCに対して方向D1における一方の端部を第1端部W1と呼び、他方の端部を第2端部W2と呼ぶ。
【0051】
金型M(図3)は、凹部GRが形成されたインサート成形用の金型である。凹部GRにはインサート部材Wが挿入される。凹部GRの方向D1における幅は、インサート部材Wの方向D1における幅より、例えば、10μm以上30μm以下の範囲で、凹部GRの方が大きくなるように形成されている。この場合、インサート部材Wと凹部GRとのクリアランスは10μm以上30μm以下である。
【0052】
従来においては、ロボットアームを用いてインサート部材Wの部材を金型Mのような対象物に嵌合させようとしても、ロボットアームがクリアランス以上に微小振動あるいは位置ズレしてしまい、部材と対象物が衝突してしまうため、うまく部材を対象物に嵌合させることが困難であった。しかしながら以下に示されるように、本実施形態に係る嵌合方法を用いることにより、僅かなクリアランスしか有さない場合であっても、部材を対象物に嵌合させることが可能となった。
【0053】
[ロボットアームの構成]
【0054】
図3に示されるようにロボットアーム20は、多関節(例えば7軸)からなる垂直型の多関節ロボットアームであり、ベースBと、ベースBに接続される複数のリンクLと、複数のリンクLをそれぞれの回転軸に従って回転させるためのアクチュエータA(図1)が搭載される複数のジョイントJとを備える。
【0055】
ジョイントJに搭載されるアクチュエータAは、リンクLを回転軸に従って回転させるための回転力を付与するための部材である。本実施形態に係るアクチュエータAは、SEA(Serial Elastic Actuators)とも呼ばれる、直列弾性アクチュエータを備える知られた駆動機構から構成されており、例えば、特許第6329149号及び欧州特許第2890528号には、SEAの一例が記載されている。リンクLを回転させるためのアクチュエータAは、駆動部AA(図1)と、駆動部AAに接続される弾性体AB(図1)とから構成される。駆動部AAは、例えば、電動機であるサーボモータから構成される。弾性体ABは、例えば、機械ばねから構成される。アクチュエータAにおいて駆動部AAから出力される動力は、弾性体ABを介して出力側のリンクLに伝達し、リンクLを回転させる。
【0056】
更にアクチュエータAは、負荷の大きさを取得するためのセンサと、弾性体ABの変位量を取得するためのセンサと、サーボモータの変位量や出力軸の位置情報を取得するためのセンサを含む複数のセンサを備えている。但し、負荷の大きさを取得するセンサーは、弾性体ABの変量から算出して代用する事が可能である。
【0057】
負荷の大きさは、例えば、駆動部AAを構成するサーボモータに流れる電流量を取得する電流センサから取得することが、弾性体ABの弾性変位量計測センサー、歪ゲージ等を利用した力覚センサーや、アクチュエータ入力軸(モータ軸)と出力軸(駆動軸)のエンコーダ信号の差分等から可能である。
【0058】
弾性体ABの変位量は、弾性体Aの両端の変位量(回転角度)を取得するために弾性体ABの両端にそれぞれ設けられた光学的センサ、弾性体ABに磁石等を取り付けこの磁石等から発生する磁場を検出する磁気センサ、又は、弾性体ABに設けられた歪センサ等から取得することが可能である。前述の通り弾性体ABの変位量及び弾性体ABの弾性定数に基づいて発生するトルクを取得することも可能となる。
【0059】
上記と同様に、サーボモータの変位量は、エンコーダ等の光学的センサ、ホール素子等の磁気センサ、又は、歪センサ等から取得することが可能である。
【0060】
以上のような構成のアクチュエータAは、各リンクLに対応する各ジョイントJごとに、搭載されてもよい。
【0061】
複数のアクチュエータAごとにそれぞれ設けられた柔軟性を備えた駆動機構に相当する直列弾性アクチュエータによって駆動される部分の慣性、質量及び長さ、外力並びに直列弾性アクチュエータが備える弾性体である機械ばねの弾性率をパラメータとする運動方程式が成立する。このため、制御装置10は、機械ばねの弾性率及び変位量等に基づいて、インピーダンスを制御するメカニカル・コンプライアンス制御を行うように構成される。
【0062】
なお、各アクチュエータAを構成する直列弾性アクチュエータは、駆動部であるサーボモータの駆動軸に接続され、動力を機械ばね等の弾性体に伝達するギヤを備えていてもよい。更に、直列弾性アクチュエータは、粘性に基づいて衝撃を緩和させるダンパ機構及び動力の伝達をスイッチするためのクラッチ機構を備えてもよい。粘性を有するダンパ機構等の粘性体を付与する場合、又は、ギヤの歯車間の摩擦等から生じる減衰を加味する場合、運動方程式には、粘性定数がパラメータとして加えられた運動方程式が成立する。
【0063】
例えば、サーボモータの駆動軸にギヤが接続され、ギヤの出力軸に弾性体を介して負荷(下流側のリンク等)が接続される直列弾性アクチュエータの場合、ギヤの出力軸に生じるトルクは、サーボモータに流れる電流及びギヤ比に比例し、このトルクが、ギヤの出力軸の角加速度に慣性を乗じた値と、ギヤの出力軸の角加速度にギヤの粘性を乗じた値と、弾性体の変位量に弾性率を乗じた値との和と等しくなる運動方程式が成立する。この運動方程式に基づいて、直列弾性アクチュエータの伝達関数を導くことにより、インピーダンスを制御するメカニカル・コンプライアンス制御が可能となる。
【0064】
以上のような構成により、ロボットアーム20の複数のリンクLを回動させることが可能になるため、保持手段30に保持されるインサート部材Wの位置及び姿勢を自由に変化させることが可能となる。なお、本開示における位置を示す情報は、合理的に必要と考えられる場合、姿勢を示す情報を含む場合がある。更にロボットアーム20は、インサート部材W等を画像認識するための撮像装置及び使用者と情報の授受を行うためのディスプレイを含む入出力手段を備えてもよい。更にロボットアーム20は、弾性を有さないアクチュエータによって駆動されるリンクを一部に備えてもよい。
【0065】
[保持手段及び変位手段の構成]
【0066】
図3(A)に示されるように、先端のジョイントJ(又はリンクL)には、インサート部材Wを保持するための保持手段30及びインサート部材Wを変位させるための変位手段40がジョイントJ(又はリンクL)に対して着脱自在に取り付けられる。
【0067】
保持手段30は、インサート部材Wを保持する機能を有する。後述するように保持手段30は、インサート部材Wを保持可能である様々な手段から構成することが可能である。
【0068】
本実施形態における保持手段30は、図2に示されるように、負圧(大気圧と真空に近い圧力との差圧)を発生させることによりインサート部材Wを吸引する吸引手段(「負圧発生手段」の一例。「エアー・サッカー」と呼ばれる場合がある。)から構成される。吸引手段は、インサート部材Wに接触してインサート部材Wを吸引するための吸着パッド32と、吸着パッド32に接続され、圧縮空気から負圧(真空圧)を発生させる真空発生器、あるいは真空ポンプに接続される接続チューブ34と、吸着パッド32を支持する支持体36とを備える。
【0069】
吸着パッド32は、例えば、伸縮性を有するポリウレタンゴム又は耐熱性を有するシリコーンゴム、耐溶剤性を有するNBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)等の材質から構成される。本実施形態においてインサート部材Wは高温の金型M内に挿入されるため、ポリウレタンゴムと比較して熱に強いシリコーンゴムから設けられている。接続チューブ34は、吸着パッド32と真空発生器、あるいは真空ポンプとを接続することにより、吸着パッド32の内部領域に負圧を発生させる。支持体36は、吸着パッド32を支持するために、例えば、円筒状に形成され端部において吸着パッド32に接続される。支持体36の内部には接続チューブ34の端部が挿入されて吸着パッド32に接続されている。
【0070】
なお本実施形態における保持手段30は、単一の吸着パッド32を備えているが、これに替えて複数個の吸着パッドを備えてよい。又、吸着パッド32は、円形乃至円筒状に形成されている他、インサート部材Wの形状等を踏まえて楕円形等様々な形状から構成されることが可能である。例えばブロック上に形成された吸着パッド(吸着ブロックと呼ばれる場合もある。)を利用してもよい。
【0071】
変位手段40は、インサート部材Wの少なくとも中央部WCを、インサート部材Wの第1端部W1及び第2端部W2に対して方向D2に相対的に変位させる。変位手段40は、インサート部材Wを変位可能である様々な手段から構成することが可能である。
【0072】
本実施形態における変位手段40は、電磁力を発生させるソレノイド42と、ソレノイド42によって生じる電磁力によって方向D2に移動するプランジャと、プランジャの移動に伴って移動する支持体36及び吸着パッド32を元の位置に戻すために方向D2と反対の方向D3に支持体36を付勢するバネ44と、ソレノイド42及びバネ44を収容する筐体46と、インサート部材Wの第1端部W1及び第2端部W2に当接することにより第1端部W1及び第2端部W2を支持する接触部48とを備える。
【0073】
ソレノイド42は、電気エネルギを機械的な直線運動に変換する電磁機能部品であり円筒状に巻回された巻線を備えている。
【0074】
ソレノイド42の内部にはプランジャが挿入されている。プランジャは、ソレノイド42に電流を流すことによって生じる電磁力によって方向D2に移動可能に構成されている。プランジャは、支持体36に接続されている。このためプランジャが方向D2に移動すると、プランジャの移動に伴って支持体36及び支持体36に支持される吸着パッド32は、方向D2に移動可能に構成されている。
【0075】
接触部48(「移動を規制する手段」の一例)は、インサート部材Wの第1端部W1及び第2端部W2に接触することにより、第1端部W1及び第2端部W2の方向D2への移動を禁止又は抑制する。接触部48は、インサート部材Wの形状等を踏まえて様々な形状から構成されることが可能である。
【0076】
本実施形態における接触部48は、支持体36と係合する中央部48Cと、中央部48Cからインサート部材Wの第1端部W1に接近するように、方向D1に延伸する部分と方向D3に延伸して第1端部W1に接触する部分とを備える第1接触部481と、中央部48Cからインサート部材Wの第2端部W2に接近するために、方向D1に延伸する部分と方向D3に延伸して第2端部W2に接触する部分とを備える第2接触部482とを備える。
【0077】
中央部48Cは、方向D2(及び方向D3)に移動可能に支持体36を支持する。中央部48Cは、例えば、支持体36を軸方向に移動可能に支持するすべり軸受けを備える。
【0078】
接触部48は、筐体46に固定されている。このため変位手段40によって支持体36が支持体36の軸方向に相当する方向D2に移動するとき、接触部48は移動しない。このため支持体36は、接触部48に対して相対的に支持体36の軸方向に相当する方向D2(及び方向D3)に移動可能に構成されている。
【0079】
バネ44は、支持体36とソレノイド42との間に挿入されることにより支持体36を方向D3に付勢する。このためソレノイド42によって方向D2に移動した支持体36は、ソレノイド42によるプランジャの駆動が停止されると、方向D3に移動して元の位置に戻る。
【0080】
なお筐体46には、支持体36の方向D2への移動距離を規定するストッパが設けられてもよい。例えば支持体36の上方(方向D2)に離間した位置にストッパを設け方向D2に所定距離移動した支持体36が当接するようにストッパを設置することにより支持体36の移動量、ひいては、インサート部材Wの変形量を設定することが可能となる。
【0081】
[制御装置の構成]
【0082】
制御装置10(図1)は、ロボットアーム20、保持手段30及び変位手段40を制御する。本実施形態に係る制御装置10は、ロボットアーム20を制御するための第1制御部101と、保持手段30及び変位手段40を制御するための第2制御部102とを備える。
【0083】
制御装置10の第1制御部101は、従来の位置制御ではなく、直列弾性アクチュエータを利用したメカニカル・コンプライアンス制御に基づいてロボットアーム20を制御する。
【0084】
第1制御部101は、ロボットアーム20の基準となる位置(例えば、手先位置に相当するリンクLのセンターポイント、又は、保持手段30のセンターポイント。以下、「基準位置」又は「基準部位」という。)の開始位置及びその時の姿勢を取得する開始位置取得部10Aと、目標位置及びその時の姿勢を取得する目標位置取得部10Bと、許容範囲取得部10Cと、開始位置と目標位置を結ぶ経路を取得する経路取得部10Dと、経路取得部10Dによって取得された経路に従って、各アクチュエータAの駆動部に相当するサーボモータを制御するための制御命令を取得する制御命令取得部10Eと、記憶部10Fとを備える。
【0085】
開始位置取得部10Aは、例えば、制御装置10に接続可能な教示装置(不図示)から入力された開始位置及びその時のロボットアーム20の姿勢を取得する。教示装置50は、現場で実際にロボットアーム20を動かしてその時の基準位置及び姿勢を開始位置として教示するオンラインティーチングに従う教示装置でもよいし、コンピュータプログラムによって基準位置の位置及び姿勢を開始位置として教示する、テキスト型、シミュレータ型、エミュレータ型、又は、自動ティーチング型等のオフラインティーチングに従う教示装置でもよい。
【0086】
目標位置取得部10Bは、例えば、開始位置と同様に、教示装置から入力された目標位置及びその時の姿勢を取得する。目標位置取得部10Bは、複数の目標位置及びその時の姿勢を取得することが可能である。
【0087】
許容範囲取得部10Cは、基準位置の経路を基準として、ロボットアーム20の実際の基準位置が経路から離れることができる許容範囲を示す情報を取得する。例えば、ある目標位置にロボットアーム20の基準位置が到達した時の、直列弾性アクチュエータによって駆動される所定のリンクの角度がαであるとき、そのリンクの許容範囲を示す情報は、例えば、α±βという角度情報として取得される。βは、直列弾性アクチュエータの弾性体の弾性率等に基づいて、弾性変形可能な範囲として予め設定可能な角度単位の情報である。複数方向に対して柔軟性を有するために、ロボットアーム20は、複数の直列弾性アクチュエータを備えている。この場合、許容範囲取得部10Cは、直列弾性アクチュエータに駆動される複数のリンクごとに許容範囲を示す情報を取得することが可能である。
【0088】
なお、許容範囲を示す情報は、リンクの角度が変動した結果、ロボットアーム20の別の部位である基準位置が取り得る所定領域を示す位置情報であってもよい。即ち、所定のリンクの角度がα+βであるとき、βにリンクの長さを乗じた距離だけそのリンクの先端が変位するから、それに応じて、下流のロボットアーム20の部位も変位する。従って、許容範囲取得部10Cは、ロボットアーム20の他の部位を基準位置とし、この基準位置が取り得る所定領域を示す位置情報として取得してもよい。以下では、先端のリンクLによって保持されるワークのセンターポイントをロボットアーム20の基準位置とする場合を中心に説明する。許容範囲は、基準位置において少なくとも±5mm以上経路から離れることを許容するように構成されることが好ましい。
【0089】
許容範囲を示す情報は、記憶部10Fに格納されるコンピュータプログラム内において、予め、駆動機構が備える弾性又は粘性に基づく定数として定められることができる。従って、制御装置10の演算素子がコンピュータプログラムを読み出すことにより、許容範囲を示す情報が取得されるように構成されてもよい。或いは、制御装置10は、教示装置から、許容範囲を示す情報を取得してもよい。
【0090】
経路取得部10Dは、開始位置と目標位置を接続する経路(計画軌跡)を演算処理等により取得する。
【0091】
制御命令取得部10Eは、基準位置を経路に従って移動させるために各アクチュエータAの駆動部AAにそれぞれ搭載される各モータを制御するための制御命令を演算処理等により取得し、ロボットアーム20に供給する。例えば、制御命令取得部10Eは、逆運動学演算(インバースキネマティクス)により、基準位置が経路上に位置するための各モータの回転角度を算出し、これに基づいて制御命令を生成して、記憶部10Fに格納することが可能である。
【0092】
記憶部10Fは、各実施形態に示される各処理を実行するためのコンピュータプログラム(経路生成アルゴリズムを含む)及び必要なデータその他の情報を格納する。
【0093】
第2制御部102は、保持手段30及び変位手段40を制御する。具体的には第2制御部102は、第1制御部101からの指令に基づいて吸引手段による吸引を実行させることにより保持手段30によるインサート部材Wの保持を制御し、その後、変位手段40のソレノイド42によるプランジャの駆動を実行させることにより変位手段40によるインサート部材Wの変位を制御可能に構成される。
【0094】
以上述べた制御装置10のハードウェア構成に関し、制御装置10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)等のプロセッサである演算素子と、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性記憶素子と、NORフラッシュメモリ、NANDフラッシュメモリ、HDD(Hard Disc Drive)等の不揮発性記憶素子と、これらを接続するバス等の通信手段を備えるコンピュータから構成することが可能である。不揮発性記憶素子は、非一時的(Non-transitory)に情報を記憶する記憶媒体である。揮発性記憶素子は、これらコンピュータプログラムの少なくとも一部及び演算処理結果等を一時的に記憶する。記憶部10Fは、これら記憶素子により構成される。また、記憶部10Fに格納されるコンピュータプログラムを演算素子が実行することにより、開始位置取得部10A、目標位置取得部10B、許容範囲取得部10C、経路取得部10D、制御命令取得部10E及び第2制御部102として機能する。但し、これら演算素子、不揮発性記憶素子等の少なくとも一部は、インターネット等の通信ネットワークに接続された遠隔地に設置されていてもよい。例えば、演算素子は、通信ネットワークを介して、コンピュータプログラム又は必要なデータを取得するように構成されてもよい。また制御装置10は、2又は3以上のプロセッサを演算素子として備え、第1制御部101を第1のプロセッサから構成し、第2制御部102を第2のプロセッサから構成してもよい。更に制御装置10は、複数のコンピュータプログラムを実行可能に構成され、第1制御部101による制御を第1コンピュータプログラムに基づいて実現し、第2制御部102による制御を第2コンピュータプログラムに基づいて実現してもよい。第1コンピュータプログラムは、記憶部10Fの不揮発性記憶素子に格納されてもよい。第2コンピュータプログラムは、記憶部10Fの、第1コンピュータプログラムを格納する不揮発性記憶素子とは異なる不揮発性記憶素子に格納されてもよい。
【0095】
制御装置10とロボットアーム20は、無線又は有線による通信手段によって情報の送受信が可能に構成されている。
【0096】
制御装置10には、ロボットシステム100に動作教示するための教示装置が接続、又は、一体的に設けられてもよい。また、教示装置は、ロボットアーム20に設けられてもよく、例えば、ディスプレイを含む入出力手段を教示装置の一部として利用してもよい。教示装置は、例えば、携帯型の教示ペンダントを備える。教示装置50は、制御装置10と同様に、演算素子、揮発性記憶素子、不揮発性記憶素子を備え、更に、ディスプレイを有する表示手段及び複数の操作キー並びにレバーを有する入力手段を備えている。入力手段は、ディスプレイを押圧して入力を行うタッチパネル式の入力手段から構成されてもよい。
【0097】
[嵌合方法]
【0098】
続いて、ロボットシステム100のロボットアーム20を用いた部材の対象物への挿入方法(嵌合方法)を説明する。図4は、ロボットアーム20を用いた嵌合方法を示すフローチャートである。図5は、ロボットアーム20を用いた嵌合方法を示す模式図である。
【0099】
ロボットアーム20が取るべき姿勢は、教示手段等の手段により開始位置及び複数の目標位置として予め教示されていてよい。開始位置取得部10A及び目標位置取得部10Bは、それぞれ、ロボットアーム20の開始位置及び複数の目標位置を取得し、経路取得部10Dは、開始位置と目標位置を接続する経路(計画軌跡)を演算処理等により取得し、制御命令取得部10Eは、基準位置を経路に従って移動させるために各アクチュエータAの駆動部AAにそれぞれ搭載される各モータを制御するための制御命令を演算処理等により取得し、ロボットアーム20に供給するように構成されている。
【0100】
まず保持手段30は、インサート部材Wを保持する(ステップS41)。例えば、教示装置等を用いて作業者は、目標位置取得部10Bに、吸着パッド32による吸着を実行する際のロボットアーム20の姿勢を予め教示させておき、目標位置取得部10Bは、教示されたロボットアーム20姿勢を目標位置の一つとして取得する。経路取得部10Dは、ロボットアーム20の開始位置と目標位置を結ぶ経路を取得し、制御命令取得部10Eは目標位置に移動させるための制御命令を取得し、ロボットアーム20の各駆動部AAに供給する。その結果第1制御部101は、吸着パッド32をインサート部材Wの中央部WCに近接させ、第1接触部481の端部を第1端部W1に近接させ、第2接触部482の端部を第2端部W2に近接させるようにロボットアーム20の保持手段30をインサート部材Wに接近させる。
【0101】
第2制御部102は、第1制御部101からロボットアーム20が目標位置の一つに到達した旨、即ち、保持手段30をインサート部材Wに接近させる動作が完了した旨の通知を受けると、真空ポンプを駆動させ吸引手段による吸引を実行させる。その結果、吸着パッド32の内部領域に負圧が発生するため、インサート部材Wは吸着パッド32に吸引され、吸着パッド32と接触する。従って、保持手段30は、インサート部材Wを保持する(図2(B))。
【0102】
変位手段40は、保持手段30によるインサート部材Wの保持が完了すると、保持手段30による保持を維持した状態で、インサート部材Wの中央部WCを第1端部W1及び第2端部W2に対して、方向D2に変位させる(ステップS42)。
【0103】
具体的には第2制御部102は、ソレノイド42に電流を流して電磁力を発生させることにより、プランジャを方向D2に移動させる。その結果プランジャに接続される支持体36、支持体36に支持される吸着パッド32及び吸着パッド32に吸引されているインサート部材Wは、方向D2に移動する。インサート部材Wが方向D2に移動するとき、インサート部材Wの第1端部W1は変位手段40の第1接触部481の端部に接触し、第2端部W2は第2接触部482の端部に接触するため、第1端部W1及び第2端部W2は、それ以上、方向D2に移動することができない。このため、図2(C)に示されるようにインサート部材Wの中央部WCを第1端部W1及び第2端部W2に対して方向D2に相対的に変位させることが可能となる。第1接触部481及び第2接触部482を吸着パッド32に対して対称に設けるとき、インサート部材Wは、中央部WCを固定端とし第1端部W1(及び第2端部W2)を自由端とし、第1接触部481(及び第2接触部482)に回転モーメントが作用する片持ち梁と同様に変形する。
【0104】
以上のような変位手段40によるインサート部材Wの変位の結果、インサート部材Wは、方向D2に凸となる凸型に変形する。変形量は、対象物である金型Mとのクリアランス量に基づいて設定されることが好ましい。また、変形量は、対象物であるインサート部材Wが弾性変形領域内で変形するように設定されることが好ましい。
【0105】
ここで変位手段40は、変形量を設定する手段としてストッパを備えていてもよい。ストッパは、支持体36の方向D2への移動距離を設定するために、支持体36が方向D2に所定距離移動すると接触する位置に設けられる。ストッパにより方向D2に所定距離移動した支持体36はストッパに接触して、それ以上、方向D2に移動することができない。このためストッパにより、支持体36の移動量、ひいては、インサート部材Wの変形量を設定することが可能となる。
【0106】
インサート部材Wは、方向D2に凸となるように弾性変形するため、インサート部材Wの方向D1における幅は、変位前の状態と比較して小さくなる。本実施形態に係る変位手段40は、例えば、インサート部材Wの方向D1における幅が10μm以上50μm以下の範囲で短くなるように、インサート部材Wを方向D2に凸となるように弾性変形させる。
【0107】
次いでインサート部材Wを方向D2に凸となるように弾性変形させた状態を維持しながら、移動手段として機能するロボットアーム20は、凹部GR内でインサート部材Wを方向D2の反対方向である方向D3に移動させて、インサート部材Wを凹部GR内に挿入する(ステップS43,図4(A))。上述したようにインサート部材Wの方向D1の幅が小さくなっているため、凹部GRとインサート部材Wとのクリアランスを大きくすることが可能となる。従って部材(インサート部材W)と対象物(金型M)とのクリアランスが小さい場合であっても、部材を対象物に挿入することが可能となる。なお凹部GRの外の空間において、ロボットアーム20は、インサート部材Wを方向D3以外の方向へ移動させてもよい。
【0108】
本実施形態のように、中央部WCの第1端部W1及び第2端部W2に対する相対的変位方向である方向D2と、インサート部材Wの移動方向である方向D3とを反対方向に設定することが好ましい。仮に方向D2にインサート部材Wを移動させると、インサート部材Wの第1端部W1又は第2端部W2が金型Mの凹部GRの内壁に接触したときに、変形がより大きくなる方向の力がインサート部材Wに作用してしまう。その結果、インサート部材Wが座屈等して塑性変形してしまう可能性や、金型Mが傷ついてしまう可能性が生じる。更に別の理由として、仮に方向D2にインサート部材Wを移動させると、インサート部材Wの第1端部W1又は第2端部W2よりも中央部WCが前方に位置することとなるため、中央部WCが先に凹部GRの底面に接触する可能性が高まる。その結果、変位を解除したときに、第1端部W1又は第2端部W2が凹部GRの底面から離間した状態で、インサート部材Wが金型Mに嵌合してしまう可能性が高まる。
【0109】
本実施形態における嵌合方法は、相対的変位方向である方向D2と、インサート部材Wの移動方向である方向D3とを概ね反対方向(例えば、120度以上240度以下であり、好ましくは150度以上210度以下である。)に設定することにより、斯様な問題が生じる可能性を抑制することが可能となる。但し、このような問題が懸念されない場合に、相対的変位方向である方向D2と同じ方向又は概ね同じ方向にインサート部材Wを移動させるように構成してもよい。
【0110】
ロボットアーム20がインサート部材Wの方向D3への移動を継続するとやがてインサート部材Wは凹部GRの底面に接触する(ステップS44)。好ましくはロボットアーム20は、インサート部材Wの中央部WCを凹部GRの底面から離間させた状態で、インサート部材Wの第1端部W1又は第2端部W2の少なくとも一方、又は、第1端部W1及び第2端部W2を凹部GRの底面に接触させる(図5(B))。
【0111】
ここでロボットアーム20は、柔軟性を有する駆動機構として例えば直列弾性アクチュエータを備えている。このため第1端部W1又は第2端部W2が凹部GRの底面に接触したときに、ジョイントJに搭載されるアクチュエータAの弾性体ABは、方向D3に弾性変形することが可能である。このため凹部GRの底面を傷つけにくい態様で、インサート部材Wを凹部GRの底面に接触させることが可能となる。
【0112】
但しアクチュエータAの弾性体ABが方向D3に大きく弾性変形してインサート部材Wが凹部GRの底面を押し付ける力が大きくなりすぎると、インサート部材Wが塑性変形し、又は、金型Mが傷ついてしまう可能性がある。そこで、許容範囲取得部10Cによって取得される許容範囲は、ロボットアーム20の基準位置の経路と、ロボットアーム20の実際の位置との差が大きくなりすぎてインサート部材Wが塑性変形等しないように設定されることが好ましい。例えば、インサート部材Wが弾性変形領域内の変形にとどまるように許容範囲を設定し、ロボットアーム20の基準位置の経路と、ロボットアーム20の実際の位置との差が許容範囲に到達したときにロボットアーム20が動作停止するように、制御装置10はロボットアーム20を制御することにより、製造誤差等に起因してインサート部材Wの塑性変形や金型Mの損傷等が生じ得る場合であっても、そのような塑性変形等を抑制することが可能となる。
【0113】
第1制御部101は、インサート部材Wが凹部GRに接触したことを検出すると、第2制御部102に変位手段40による変位を解除させるための命令を送信する。
【0114】
第2制御部102(「解除手段」の一例)は、第1制御部101からの命令に基づいて、変位手段40によるインサート部材Wの変位を解除させる(ステップS45)。具体的には第2制御部102は、ソレノイド42への電流供給を停止させて、プランジャの駆動を停止させる。ソレノイド42によるプランジャの駆動が停止されると、バネ44の付勢力により支持体36及び吸着パッド32は方向D3に移動するため、弾性変形していたインサート部材Wの中央部WCは、変位がなくなる方向D3に移動して、インサート部材Wの変位が解除される。その結果、インサート部材Wは方向D1に10μm以上50μm以下の範囲で延伸する。このためインサート部材Wの第1端部W1及び第2端部W2をそれぞれ凹部GRの内壁に接触させることが可能となる。従ってインサート部材Wの金型Mへの嵌合を行うことが可能となる。
【0115】
その後第2制御部102は、インサート部材Wの保持を解除する(ステップS46)。具体的には第2制御部102は、真空ポンプの駆動を停止させて吸引手段による吸引を停止させる。
【0116】
その後、第1制御部101は、ロボットアーム20、保持手段30及び変位手段40を方向D2に移動させる(図5(C))。
【0117】
以上のステップにより、ロボットシステム100のロボットアーム20を用いたインサート部材Wの金型Mへの嵌合が完了する。
【0118】
本実施形態によれば、部材の弾性変形を利用することにより、汎用性が高い方法で部材を対象物に嵌合させることが可能となる。
【0119】
なお本実施形態に係る嵌合方法は、インサート部材Wの金型Mへの嵌合以外の場面においても利用することが可能である。例えば、部材を対象物に固定させる用途で本実施形態に係る嵌合方法を利用することが可能である。
【0120】
[第2実施形態]
【0121】
以下、第2実施形態に係るロボットシステムが備えるロボットアームの変位手段140について説明する。なお第1実施形態その他の実施形態と同一又は同様の構成を備えていることが当業者に理解される点については、同一又は同様の符号を付して説明を省略又は簡略化する。
【0122】
図6は、第2実施形態に係るロボットアームの変位手段140の模式図である。同図に示されるように変位手段140は、インサート部材Wの少なくとも中央部WCを、インサート部材Wの第1端部W1及び第2端部W2に対して方向D2に相対的に変位させる点で変位手段40と同様である。
【0123】
本実施形態における変位手段140は、接触部48を方向D3に移動させる偏心カム機構142によってインサート部材Wを変位させる点で、変位手段40と異なる。偏心カム機構142は、筐体46と接触部48の間に挿入され、回転したときに筐体46に対する接触部48の距離を変更させる。
【0124】
このため図6(A)に示されるように保持手段30がインサート部材Wを吸着した後に、制御装置10は、偏心カム機構142を回転させて、筐体46に対する接触部48の距離が大きくなるように接触部48を方向D3に移動させる(なお図6(A)等においてはインサート部材Wと接触部48とが離間していることを強調して描いている)。
【0125】
接触部48が方向D3に移動すると、第1接触部481の端部は、インサート部材Wの第1端部W1に接触し、第2接触部482の端部は第2端部W2に接触するので、図6(B)に示されるようにインサート部材Wの中央部WCを第1端部W1及び第2端部W2に対して方向D2に相対的に変位させることが可能となる。
【0126】
[第3実施形態]
【0127】
以下、第3実施形態に係るロボットシステムが備えるロボットアームの保持手段230について説明する。なお第1実施形態その他の実施形態と同一又は同様の構成を備えていることが当業者に理解される点については、同一又は同様の符号を付して説明を省略又は簡略化する。
【0128】
図7は、第3実施形態に係るロボットアームの保持手段230の模式図である。同図に示されるように保持手段230は、吸着パッド32を介して負圧によりインサート部材Wを吸引する吸引手段に替えて、マグネット232(「電磁力発生手段」の一例)を用いて磁力によりインサート部材Wを保持する点において第1実施形態と異なる。マグネット232は電磁石であってよく、制御装置10からの命令に基づいて磁力の発生を制御可能に構成されている。
【0129】
このような保持手段230によれば、第1接触部481の端部がインサート部材Wの第1端部W1に接触し、第2接触部482の端部が第2端部W2に接触した状態で、制御装置10は、マグネット232による磁力を発生させる。この結果、図7に示されるようにインサート部材Wの中央部WCを第1端部W1及び第2端部W2に対して方向D2に相対的に変位させることが可能となる。
【0130】
なおインサート部材Wの損傷を抑制させるためにマグネット232の表面に樹脂等を被覆してもよい。
【0131】
以上のとおりであるからインサート部材Wその他の部材が磁性を有する材料から構成される場合は、電磁力を利用して部材を保持するように保持手段を構成してもよい。
【0132】
更に保持手段は、静電気力(クーロン力)を用いてインサート部材Wその他の部材を保持可能に構成してもよい。即ち保持手段は、電圧が印加される電極(「静電気力発生手段」の一例)を備えてよい。この電極を反対の極性に帯電している部材に接近させることにより、保持手段の電極は部材を保持することが可能に構成されている。例えば、保持手段は正の200Vの電圧が印加される電極であってよく、この場合フッ素等の負に帯電する部材を保持可能であり、又は、保持手段は負に帯電可能に構成される電極であってよく、この場合正に帯電する部材を保持可能である。
【0133】
更に保持手段は、ファンデルワールス力(分子間力)を用いてインサート部材Wその他の部材を保持可能に構成してもよい。即ち保持手段は、接触する際のファンデルワールス力を吸着力として利用するパッド(「ファンデルワールス力発生手段」の一例)を備えてよい。なおパッドには、ファンデルワールス力によってインサート部材W表面に接着するための微細な毛を設けてよい。尚、吸着の解除には、パッドを回転する(捻る)等で実現する。
【0134】
[第4実施形態]
【0135】
以下、第4実施形態に係るロボットシステムが備えるロボットアームを用いた部材の対象物への挿入方法について説明する。なお第4実施形態に係るロボットシステムは、第1実施形態に係るロボットシステムと同一又は同様のハードウェア構成によって実現することが可能であるから、同一又は同様の符号を付して説明を省略又は簡略化する。
【0136】
この挿入方法は、インサート部材Wその他の部材の略中央部を方向D1における端部に対して方向D2に相対的に変位させた状態で、部材を方向D3に移動させて金型Mその他の対象物に挿入する点で、第1実施形態に示された挿入方法と同様である。
【0137】
第4実施形態に係る挿入方法は、部材の第1方向端部を凹部GRの壁面に接触させながら、部材を方向D3に移動させる点で、第1実施形態に示される挿入方法と異なる。
【0138】
図8は、第4実施形態に係る挿入方法を示す模式図であり、図9は、第4実施形態に係る挿入方法を示すフローチャートである。
【0139】
保持手段30によるインサート部材Wの保持(ステップS91)及び変位手段40によるインサート部材Wの変位(ステップS92)については、それぞれ、ステップS41及びステップS42と同様であるため説明を省略する。
【0140】
次いでロボットアーム20は、インサート部材Wを移動させ、インサート部材Wの方向D1端部である第1端部W1(特に第1端部W1の方向D2側の角部)を凹部GRの壁面に接触させる(ステップS93,図8(A))。
【0141】
ここでロボットアーム20は、柔軟性を有する駆動機構として例えば直列弾性アクチュエータを備えている。このため第1端部W1が凹部GRの壁面に接触したときに、ジョイントJに搭載されるアクチュエータAの弾性体ABは、方向D1に弾性変形することが可能である。このため凹部GRの壁面を傷つけにくい態様で、インサート部材Wの第1端部W1を凹部GRの壁面に接触させることが可能となる。
【0142】
次いでインサート部材Wを方向D2に凸となるように弾性変形させた状態で、かつ、第1端部W1を凹部GRの壁面に接触させながら、ロボットアーム20は、凹部GR内でインサート部材Wを方向D2の反対方向である方向D3に移動させて、インサート部材Wを凹部GR内に挿入する(ステップS94)。即ち、ロボットアーム20は、部材(インサート部材W)を対象物(金型M)に接触させながら、部材を対象物に対して相対的に移動させる。
【0143】
第1端部W1を凹部GRの壁面に接触させながらインサート部材Wを方向D3に移動させることにより、第2端部W2と凹部GRとのクリアランスを確保しながら、インサート部材Wを金型Mに挿入することが可能となる。また、ロボットアーム20は、柔軟性を有する駆動機構として例えば直列弾性アクチュエータを備えているから、凹部GRの壁面が曲面を含んでいたり、ロボットアーム20が微小振動しても、ロボットアーム20の弾性体ABが方向D1に弾性変形しながら、凹部GRの壁面を傷つけにくい態様で、インサート部材Wを移動させることが可能となる。
【0144】
ここで図8(A)に示されるように、ロボットアーム20は、インサート部材Wの方向D1における他方の端部に相当する第2端部W2が、凹部GRの壁面に接触する第1端部W1よりも移動方向である方向D3を基準として後退した位置となるようにインサート部材Wを傾けながら、インサート部材Wを方向D2に凸となるように弾性変形させた状態を維持しつつ、凹部GR内でインサート部材Wを方向D2の反対方向である方向D3に移動させることが好ましい。ここでインサート部材Wが傾けられたことにより、インサート部材Wの中央部WCは、厳密には、方向D2に対して傾斜する方向D4(「第2方向」の一例)に変位する。このため本実施形態においては、方向D4がインサート部材Wの変位方向に相当する。方向D4とインサート部材Wを移動させる方向に相当する方向D3のなす角は、120度以上240度以下であってよく、150度以上210度以下であることが更に好ましい。
【0145】
このようにインサート部材Wを移動させることにより、第2端部W2と凹部GRとのクリアランスを一層大きくすることが可能となる。また、第1端部W1を凹部GRの壁面と底面とを接続するコーナー部に挿入することが可能となる。
【0146】
ロボットアーム20がインサート部材Wの方向D3への移動を継続するとやがて、ロボットアーム20は、インサート部材Wの第1端部W1を凹部GRの底面に接触させる(ステップS95)。このとき、インサート部材Wの中央部WC及び第2端部W2は、凹部GRの底面から離間している。
【0147】
続いてロボットアーム20は、第1端部W1を支点として第1端部W1が凹部GRの底面に接触した状態を維持したままインサート部材Wを回転させて、第2端部W2を凹部GRの底面に接触させる(ステップS96。図8(B))。
【0148】
第2端部W2を凹部GRの底面に接触させた後、第2制御部102は、第1制御部101からの命令に基づいて、変位手段40によるインサート部材Wの変位を解除し(ステップS97)、更に、インサート部材Wの保持を解除する(ステップS98)。インサート部材Wの変位を解除するとインサート部材Wは元の形状に戻るので、第2端部W2は方向D1に延伸し、凹部GRの壁面に当接する(図8(C))。
【0149】
以上のステップにより、ロボットシステム100のロボットアーム20を用いたインサート部材Wの金型Mへの嵌合が完了する。
【0150】
本実施形態によっても、部材を対象物に嵌合させることが可能となる。また部材と対象物とのクリアランスを大きくすることが可能となるから、組み付けに失敗する可能性を低減することも可能となる。
【0151】
なおステップS91の実行の前に、インサート部材Wを加熱してもよい。インサート部材Wが加熱することにより弾性変形領域が大きくなる材料からなる場合、加熱することにより弾性変形領域内でインサート部材Wを大きく変形させることが可能となる。又は、インサート部材Wが、加熱することにより弾性変形量が大きくなる材料からなる場合、加熱することにより、同じ力でインサート部材Wを大きく変形させることが可能となる。なお許容される場面においては、インサート部材Wをクリープさせてもよい。
【0152】
なおインサート部材の変位(ステップS92)とインサート部材の保持(ステップS91)は、同時に行われてもよいし、インサート部材の変位(ステップS92)の前にインサート部材を保持(ステップS91)に行われてもよい。他の実施形態においても同様にインサート部材その他の部材を保持する前に部材を予め加熱(予熱)してもよい。
【0153】
[第5実施形態]
【0154】
以下、第5実施形態に係るロボットシステムが備えるロボットアームを用いた部材の対象物への挿入方法について説明する。なお第5実施形態に係るロボットシステムは、第1実施形態に係るロボットシステムと同一又は同様のハードウェア構成によって実現することが可能であるから、同一又は同様の符号を付して説明を省略又は簡略化する。その他、他の実施形態と同一又は同様の構成(行為を含む)であることが当業者に理解できる点については適宜記載を省略、簡略化し、異なる部分を中心に説明する。
【0155】
本実施形態に係る嵌合方法は、部材を対象物に挿入して嵌合を行う点において、第1実施形態に係る嵌合方法と共通する。
【0156】
しかしながら第1実施形態に係る嵌合方法が、部材を対象物の凹部に挿入したことと比べて本実施形態に係る嵌合方法は、部材に形成した孔を対象物の突起に挿入する点で相違する。
【0157】
図10は、本実施形態に係る嵌合方法を示す模式図である。図10(A)の紙面下方には側面図が示され、紙面上方にはインサート部材W1の平面図が示される。この図(A)に示されるように本実施形態に係る部材であるインサート部材W1には、インサート部材W1を厚み方向に貫通する少なくとも2つの孔が形成される。第1孔H1及び第2孔H2は、それぞれ、方向D1に長軸を有する長孔状(例えば楕円、長円又は長方形状)に形成されている。第1孔H1と第2孔H2は、第1方向に離間した位置に形成されている。但し突起P1及び突起P2の形状に応じて第1孔H1及び第2孔H2は異なる形状に形成されてもよい。
【0158】
一方で本実施形態に係る対象物である金型M1には、凹部GR1の底面から立設する第1突起P1及び第2突起P2が形成される。第1突起P1及び第2突起P2は、例えば、断面が円形状(略円断面)を有する円柱状又は円錐状に形成されていてよい。本実施形態において第1突起P1及び第2突起P2は、先端に近づくほど半径が小さい円形状の断面を有するように形成されている。
【0159】
第1孔H1、第2孔H2、第1突起P1及び第2突起P2の位置関係について図10(A)を用いて説明する。
【0160】
ここで第1孔H1の内壁のうち、第2孔H2側(内側)の内壁部を第1孔第1内壁部H11と呼び、第2孔H2と反対側(外側)の内壁部を第1孔第2内壁部H12と呼ぶ。第1突起P1の外壁のうち、インサート部材W1を取り付ける高さにおける第2突起P2側(内側)の外壁部を第1突起第1外壁部P11と呼び、第2突起P2と反対側(外側)の外壁部を第2突起第2外壁部P12と呼ぶ。
【0161】
同様に第2孔H2の内壁のうち、第1孔H1側(内側)の内壁部を第2孔第1内壁部H21と呼び、第1孔H1と反対側(外側)の内壁部を第2孔第2内壁部H22と呼ぶ。第2突起P2の外壁のうち、インサート部材W1を取り付ける高さにおける第1突起P1側(内側)の外壁部を第2突起第1外壁部P21と呼び、第1突起P1と反対側(外側)の外壁部を第2突起第2外壁部P22と呼ぶ。
【0162】
図10(A)に示されるように、平面図において、第1孔H1と第1突起P1とが重なり、第2孔H2と第2突起P2とが重なるように金型M1上にインサート部材W1を配置したとき、第1孔第1内壁部H11と第1突起第1外壁部P11との間には隙間がなく(第1孔第1内壁部H11よりも第1突起第1外壁部P11の方が内側に設けられる場合を含む。)、第1孔第2内壁部H12と第1突起第2外壁部P12との間には隙間CL1ができるように、第1孔第2内壁部H12が第1突起第2外壁部P12の外側に位置するように設けられる。同様に、第2孔第1内壁部H21と第2突起第1外壁部P21との間には隙間がなく(第2孔第1内壁部H21よりも第2突起第2外壁部P21の方が内側に設けられる場合を含む。)、第2孔第2内壁部H22と第2突起第2外壁部P22との間には隙間CL2ができるように、第2孔第2内壁部H22が第2突起第2外壁部P22の外側に位置するように設けられる。
【0163】
他の実施形態と同様に保持手段30はこのようなインサート部材W1を保持し、次いで変位手段40はインサート部材W1の中央部WC1を第1端部W11及び第2端部W12に対して方向D2に変位させる。
【0164】
インサート部材W1は、方向D2に凸となるように弾性変形するため、インサート部材Wの方向D1における幅は、変位前の状態と比較して小さくなる。その結果、第1孔H1と第1突起P1とが重なり、第2孔H2と第2突起P2とが重なるように金型M1上にインサート部材W1を配置したとき、第1孔H1に(インサート部材W1を取り付ける高さにおける)第1突起P1が囲まれ、第2孔H2に(インサート部材W1を取り付ける高さにおける)第2突起P2が囲まれるようにインサート部材W1を変形することが可能となる。
【0165】
このとき、平面視において、第1孔第1内壁部H11と第1突起第1外壁部P11との間に隙間が生じ、第1孔第2内壁部H12と第1突起第2外壁部P12との間には依然として隙間が生じ、第2孔第1内壁部H21と第2突起第1外壁部P21との間に隙間が生じ、第2孔第2内壁部H22と第2突起第2外壁部P22との間には依然として隙間が生じる。
【0166】
次いでインサート部材W1を方向D2に凸となるように弾性変形させた状態を維持しながら、ロボットアーム20は、インサート部材W1を方向D2の反対方向である方向D3に移動させて、第1孔H1を第1突起P1に挿入し、かつ、第2孔H2を第2突起P2に挿入する(図10(B))。
【0167】
そしてインサート部材W1が、第1突起P1及び第2突起P2を取り付ける高さにおける高さに到達すると、第2制御部102は、第1制御部101からの命令に基づいて、変位手段40によるインサート部材W1の変位を解除させる。その結果、インサート部材W1は方向D1に延伸する。このため第1孔H1の内壁のうち第2孔H2側の内壁である第1孔第1内壁部H11は、第1突起第1外壁部P11に当接する。第2孔H2の内壁のうち第1孔H1側の内壁である第2孔第1内壁部H21は、第2突起第2外壁部P21に当接する(図10(C))。一方で第1孔第2内壁部H12と第1突起第2外壁部P12との間にはクリアランスが生じる。同様に第2孔第2内壁部H22と第2突起第2外壁部P22との間にはクリアランスが生じる。
【0168】
従ってインサート部材W1を金型Mに嵌合することが可能となる。
【0169】
なおインサート部材W1の方向D1における幅が小さい場合は、ロボットアーム20がインサート部材W1の方向D1における両端部を挟むことにより、インサート部材W1を変形させてもよい。
【0170】
その後、金型Mを別の金型で閉塞して、キャビティに樹脂等を射出等してインサート成形を実行することにより、部品を製造することができる。
【0171】
また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。例えば保持手段30と変位手段40は、構成部品の一部を共通化させてもよい。たとえば、当業者の通常の創作能力の範囲内で、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態に追加することができる。また、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態の対応する構成要素と置換することができる。
【符号の説明】
【0172】
10 制御装置
10A 開始位置取得部
10B 目標位置取得部
10C 許容範囲取得部
10D 経路取得部
10E 制御命令取得部
10F 記憶部
20 ロボットアーム
30 保持手段
32 吸着パッド
34 接続チューブ
36 支持体
38 接触部
40 変位手段
42 ソレノイド
44 バネ
46 筐体
48 接触部
48C 中央部
50 教示装置
100 ロボットシステム
101 第1制御部
102 第2制御部
140 変位手段
142 偏心カム機構
230 保持手段
232 マグネット
481 第1接触部
482 第2接触部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10