(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20241021BHJP
H01L 21/8234 20060101ALI20241021BHJP
H01L 27/06 20060101ALI20241021BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20241021BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20241021BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20241021BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
H01L29/78 657D
H01L27/06 102A
H01L29/78 301D
H01L29/78 653A
H01L29/78 655B
H01L29/78 655D
H01L29/78 655G
H01L29/91 C
(21)【出願番号】P 2021154349
(22)【出願日】2021-09-22
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】松下 憲一
(72)【発明者】
【氏名】北川 光彦
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-225345(JP,A)
【文献】特開2012-129504(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0083097(US,A1)
【文献】特開2016-086136(JP,A)
【文献】特開2007-019518(JP,A)
【文献】特開2010-283132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 21/8234
H01L 21/336
H01L 29/739
H01L 29/861
H01L 29/868
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイオード領域およびIGBT領域が設定された半導体装置であって、
前記ダイオード領域および前記IGBT領域に設けられる第1電極と、
前記ダイオード領域において前記第1電極上に設けられ、前記第1電極の上面に沿う第1方向に交互に並ぶ第1導電形の複数の第1半導体部分および第2導電形の複数の第2半導体部分を含む第1半導体層と、
前記IGBT領域において前記第1電極上に設けられる前記第2導電形の第2半導体層と、
前記ダイオード領域において前記第1半導体層上に設けられる前記第1導電形の第3半導体層であって、前記第1電極から前記第1半導体層に向かう第2方向において前記第3半導体層の不純物濃度が最大となる第1位置が、前記第2方向において前記第1半導体部分の不純物濃度が最大となる第2位置と前記第3半導体層の下端との距離の3倍の長さだけ前記第1電極の上面から離れた第3位置と同じまたは前記第3位置よりも下方である前記第3半導体層と、
前記ダイオード領域において前記第3半導体層上に設けられ、前記IGBT領域において前記第2半導体層よりも上方に設けられる前記第1導電形の第4半導体層と、
前記ダイオード領域および前記IGBT領域において前記第4半導体層上に設けられる前記第2導電形の第5半導体層と、
前記IGBT領域において前記第5半導体層の上層部に設けられる前記第1導電形の第6半導体層と、
前記IGBT領域において前記第6半導体層から前記第4半導体層に向かって延び、前記第6半導体層、前記第5半導体層、および前記第4半導体層と隣り合う第2電極と、
前記ダイオード領域において前記第5半導体層上に設けられ、前記IGBT領域において前記第6半導体層上に設けられる第3電極と、
前記第2電極と前記第3電極との間、前記第2電極と前記第6半導体層との間、前記第2電極と前記第5半導体層との間、および前記第2電極と前記第4半導体層との間に設けられる絶縁膜と、
を備え
、
前記複数の第2半導体部分のうちの少なくとも1つは、前記第2方向において、前記第1半導体部分よりも突出している半導体装置。
【請求項2】
ダイオード領域およびIGBT領域が設定された半導体装置であって、
前記ダイオード領域および前記IGBT領域に設けられる第1電極と、
前記ダイオード領域において前記第1電極上に設けられ、前記第1電極の上面に沿う第1方向に交互に並ぶ第1導電形の複数の第1半導体部分および第2導電形の複数の第2半導体部分を含
み、前記複数の第2半導体部分のうちの少なくとも1つの幅は、前記第1半導体部分の幅よりも大きい第1半導体層と、
前記IGBT領域において前記第1電極上に設けられる前記第2導電形の第2半導体層と、
前記ダイオード領域において前記第1半導体層上に設けられる前記第1導電形の第3半導体層であって、前記第1電極から前記第1半導体層に向かう第2方向において前記第3半導体層の不純物濃度が最大となる第1位置が、前記第2方向において前記第1半導体部分の不純物濃度が最大となる第2位置と前記第3半導体層の下端との距離の3倍の長さだけ前記第1電極の上面から離れた第3位置と同じまたは前記第3位置よりも下方である前記第3半導体層と、
前記ダイオード領域において前記第3半導体層上に設けられ、前記IGBT領域において前記第2半導体層よりも上方に設けられる前記第1導電形の第4半導体層と、
前記ダイオード領域および前記IGBT領域において前記第4半導体層上に設けられる前記第2導電形の第5半導体層と、
前記IGBT領域において前記第5半導体層の上層部に設けられる前記第1導電形の第6半導体層と、
前記IGBT領域において前記第6半導体層から前記第4半導体層に向かって延び、前記第6半導体層、前記第5半導体層、および前記第4半導体層と隣り合う第2電極と、
前記ダイオード領域において前記第5半導体層上に設けられ、前記IGBT領域において前記第6半導体層上に設けられる第3電極と、
前記第2電極と前記第3電極との間、前記第2電極と前記第6半導体層との間、前記第2電極と前記第5半導体層との間、および前記第2電極と前記第4半導体層との間に設けられる絶縁膜と、
を備える半導体装置。
【請求項3】
ダイオード領域およびIGBT領域が設定された半導体装置であって、
前記ダイオード領域および前記IGBT領域に設けられる第1電極と、
前記ダイオード領域において前記第1電極上に設けられ、前記第1電極の上面に沿う第1方向に交互に並ぶ第1導電形の複数の第1半導体部分および第2導電形の複数の第2半導体部分を含む第1半導体層と、
前記IGBT領域において前記第1電極上に設けられる前記第2導電形の第2半導体層と、
前記ダイオード領域において前記第1半導体層上に設けられる前記第1導電形の第3半導体層であって、前記第1電極から前記第1半導体層に向かう第2方向において前記第3半導体層の不純物濃度が最大となる第1位置が、前記第2方向において前記第1半導体部分の不純物濃度が最大となる第2位置と前記第3半導体層の下端との距離の3倍の長さだけ前記第1電極の上面から離れた第3位置と同じまたは前記第3位置よりも下方であ
り、前記第1位置は前記第1電極から前記第2方向に0.25μm以上0.75μm以下の距離だけ離れた前記第3半導体層と、
前記ダイオード領域において前記第3半導体層上に設けられ、前記IGBT領域において前記第2半導体層よりも上方に設けられる前記第1導電形の第4半導体層と、
前記ダイオード領域および前記IGBT領域において前記第4半導体層上に設けられる前記第2導電形の第5半導体層と、
前記IGBT領域において前記第5半導体層の上層部に設けられる前記第1導電形の第6半導体層と、
前記IGBT領域において前記第6半導体層から前記第4半導体層に向かって延び、前記第6半導体層、前記第5半導体層、および前記第4半導体層と隣り合う第2電極と、
前記ダイオード領域において前記第5半導体層上に設けられ、前記IGBT領域において前記第6半導体層上に設けられる第3電極と、
前記第2電極と前記第3電極との間、前記第2電極と前記第6半導体層との間、前記第2電極と前記第5半導体層との間、および前記第2電極と前記第4半導体層との間に設けられる絶縁膜と、
を備える半導体装置。
【請求項4】
ダイオード領域およびIGBT領域が設定された半導体装置であって、
前記ダイオード領域および前記IGBT領域に設けられる第1電極と、
前記ダイオード領域において前記第1電極上に設けられ、前記第1電極の上面に沿う第1方向に交互に並ぶ第1導電形の複数の第1半導体部分および第2導電形の複数の第2半導体部分を含む第1半導体層と、
前記IGBT領域において前記第1電極上に設けられる前記第2導電形の第2半導体層と、
前記ダイオード領域において前記第1半導体層上に設けられる前記第1導電形の第3半導体層であって、前記第1電極から前記第1半導体層に向かう第2方向において前記第3半導体層の不純物濃度が最大となる第1位置が、前記第2方向において前記第1半導体部分の不純物濃度が最大となる第2位置と前記第3半導体層の下端との距離の3倍の長さだけ前記第1電極の上面から離れた第3位置と同じまたは前記第3位置よりも下方である前記第3半導体層と、
前記ダイオード領域において前記第3半導体層上に設けられ、前記IGBT領域において前記第2半導体層よりも上方に設けられる前記第1導電形の第4半導体層と、
前記ダイオード領域および前記IGBT領域において前記第4半導体層上に設けられる前記第2導電形の第5半導体層と、
前記IGBT領域において前記第5半導体層の上層部に設けられる前記第1導電形の第6半導体層と、
前記IGBT領域において前記第6半導体層から前記第4半導体層に向かって延び、前記第6半導体層、前記第5半導体層、および前記第4半導体層と隣り合う第2電極と、
前記ダイオード領域において前記第5半導体層上に設けられ、前記IGBT領域において前記第6半導体層上に設けられる第3電極と、
前記第2電極と前記第3電極との間、前記第2電極と前記第6半導体層との間、前記第2電極と前記第5半導体層との間、および前記第2電極と前記第4半導体層との間に設けられる絶縁膜と、
を備え
、
前記第5半導体層の単位面積あたりの不純物量は、1×10
12
cm
-2
以上、かつ、5×10
12
cm
-2
以下である半導体装置。
【請求項5】
前記第3半導体層は、前記第3半導体層の前記下端から前記第3半導体層の前記下端と上端との間の中間点に向けて不純物濃度が徐々に増加し、前記中間点において不純物濃度が最大となり、前記中間点から前記上端に向けて不純物濃度が徐々に減少する、請求項1
~4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第3半導体層は、前記下端において不純物濃度が最大となり、前記下端から前記第3半導体層の上端に向けて不純物濃度が徐々に減少する、請求項1
~4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1半導体層において交互に並ぶ前記複数の第1半導体部分と前記複数の第2半導体部分とのピッチは、0μmより大きく50μm以下である、請求項1~
4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第3半導体層の厚みは、前記第1半導体部分の厚みよりも大きい、請求項1~7のいずれか1つに記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ダイオード領域およびIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)領域が設定されたRC-IGBT(Reverse Conducting-IGBT)が知られている。RC-IGBTでは、IGBT領域のエミッタ側からコレクタ側に向かう還流電流を、ダイオード領域に流すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、損失を低減できる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る半導体装置は、ダイオード領域およびIGBT領域が設定された半導体装置である。前記半導体装置は、前記ダイオード領域および前記IGBT領域に設けられる第1電極と、前記ダイオード領域において前記第1電極上に設けられ、前記第1電極の上面に沿う第1方向に交互に並ぶ第1導電形の複数の第1半導体部分および第2導電形の複数の第2半導体部分を含む第1半導体層と、前記IGBT領域において前記第1電極上に設けられる前記第2導電形の第2半導体層と、前記ダイオード領域において前記第1半導体層上に設けられる前記第1導電形の第3半導体層であって、前記第1電極から前記第1半導体層に向かう第2方向において前記第3半導体層の不純物濃度が最大となる第1位置が、前記第2方向において前記第1半導体部分の不純物濃度が最大となる第2位置と前記第3半導体層の下端との距離の3倍の長さだけ前記第1電極の上面から離れた第3位置と同じまたは前記第3位置よりも下方である前記第3半導体層と、前記ダイオード領域において前記第3半導体層上に設けられ、前記IGBT領域において前記第2半導体層よりも上方に設けられる前記第1導電形の第4半導体層と、前記ダイオード領域および前記IGBT領域において前記第4半導体層上に設けられる前記第2導電形の第5半導体層と、前記IGBT領域において前記第5半導体層の上層部に設けられる前記第1導電形の第6半導体層と、前記IGBT領域において前記第6半導体層から前記第4半導体層に向かって延び、前記第6半導体層、前記第5半導体層、および前記第4半導体層と隣り合う第2電極と、前記ダイオード領域において前記第5半導体層上に設けられ、前記IGBT領域において前記第6半導体層上に設けられる第3電極と、前記第2電極と前記第3電極との間、前記第2電極と前記第6半導体層との間、前記第2電極と前記第5半導体層との間、および前記第2電極と前記第4半導体層との間に設けられる絶縁膜と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る半導体装置を示す上面図である。
【
図4】
図2の点P1と点P2との間の不純物濃度分布の一の例を示すグラフである。
【
図5】
図2の点P1と点P2との間の不純物濃度分布の他の例を示すグラフである。
【
図6】n形のカソード層を形成するためにイオン注入を行った際のイオン注入分布のピークpmaxのZ方向における位置と、順方向電圧Vfとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図7】UC層のピッチPとスイッチング損失Errとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図8】
図8(a)は、p形半導体層を形成するためにイオン注入を行った際のドーズQdを変化させた場合の順方向電圧Vfと逆回復電流Irrとの関係のシミュレーション結果、および、好ましい順方向電圧Vfと逆回復電流Irrとの関係を示すグラフであり、
図8(b)は、
図8(a)の好ましい順方向電圧Vfの近傍の順方向電圧Vfが得られるようなドーズQdの範囲を示すグラフである。
【
図9】第2の実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、各実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。更に、本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
また、以下では、説明をわかりやすくするために、XYZ直交座標系を用いて、各部分の配置および構成を説明する。X軸、Y軸、Z軸は、相互に直交している。またX軸が延びる方向を「X方向」とし、Y軸が延びる方向を「Y方向」とし、Z軸が延びる方向を「Z方向」とする。また、説明をわかりやすくするために、Z方向のうち矢印の方向を上方、その逆方向を下方とするが、これらの方向は、重力方向とは無関係である。
【0009】
また、以下において、+、-の表記は、各導電形における不純物濃度の相対的な高低を表す。具体的には、「+」が付されている表記は、「+」および「-」のいずれも付されていない表記よりも、不純物濃度の最大値が高いことを表す。「-」が付されている表記は、「+」および「-」のいずれも付されていない表記よりも、不純物濃度の最大値が低いことを表す。ここで、「不純物濃度」とは、それぞれの領域にドナーとなる不純物とアクセプターとなる不純物の両方が含まれている場合には、それらの不純物が相殺した後の正味の不純物濃度を表す。
【0010】
<第1の実施形態>
先ず、第1の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る半導体装置を示す上面図である。
図2は、
図1のA-A’線における断面図である。
図3は、
図2のB-B’線における断面図である。
本実施形態に係る半導体装置100は、RC-IGBTである。半導体装置100には、
図1に示すように、ダイオード領域S1と、IGBT領域S2と、が設定されている。半導体装置100には、例えば、複数のダイオード領域S1と複数のIGBT領域S2が設定されており、複数のダイオード領域S1と複数のIGBT領域S2は、X方向に交互に並んでいる。
【0011】
半導体装置100は、
図2に示すように本実施形態では、下部電極110と、UC(universal Contact)層121と、p
+形のコレクタ層122と、n形のカソード層123と、n形半導体層124と、p形半導体層125と、p
+形のコンタクト層126と、n
+形のエミッタ層127と、複数の内部電極130と、複数のゲート電極140と、上部電極150と、複数の絶縁膜161と、複数の絶縁膜162と、を備える。以下、半導体装置100の各部について詳述する。
【0012】
下部電極110は、金属材料等の導電材料からなる。下部電極110は、半導体装置100の下面の略全域に設けられている。すなわち、下部電極110は、ダイオード領域S1およびIGBT領域S2に亘って設けられている。下部電極110は、ダイオード領域S1では、カソード電極として機能し、IGBT領域S2では、コレクタ電極として機能する。下部電極110の上面および下面は、XY平面に概ね平行である。
【0013】
UC層121は、本実施形態では、下部電極110においてダイオード領域S1に位置する部分上に配置され、下部電極110にオーミック接触している。UC層121は、複数のn+形の半導体部分121aと、複数のp+形の半導体部分121bと、を含む。複数のn+形の半導体部分121aおよび複数のp+形の半導体部分121bは、例えば、X方向に交互に並ぶ。また各n+形の半導体部分121aおよび各p+形の半導体部分121bは、Y方向に延びている。ただし、複数のn+形の半導体部分および複数のp+形の半導体部分は、下部電極110の上面に沿う他の方向に交互に並んでもよい。
【0014】
各n+形の半導体部分121aのX方向の寸法、すなわち幅は、一定であってもよいし、異なっていてもよい。同様に、各p+形の半導体部分121bの幅は、一定であってもよいし、異なっていてもよい。交互に並ぶ複数のn+形の半導体部分121aと複数のp+形の半導体部分121bのピッチPは、一定であってもよいし、異なっていてもよい。ここで、「ピッチP」とは、あるn+形の半導体部分121aのX方向における中心と、そのn+形の半導体部分121aと隣り合うp+形の半導体部分121bのX方向における中心と、の距離を意味する。ピッチPは、例えば、0μmより大きく50μm以下であることが好ましい。
【0015】
複数のp+形の半導体部分121bのうちの少なくとも1つのp+形の半導体部分121b1は、隣接するn+形の半導体部分121aよりも上方に突出している。また、p+形の半導体部分121b1の幅は、隣接するn+形の半導体部分121aの幅よりも大きい。ただし、p+形の半導体部分121b1の幅は、隣接するn+形の半導体部分121aの幅以下であってもよい。また、半導体装置100にはこのようなp+形の半導体部分121b1が設けられていなくてもよい。
【0016】
p+形のコレクタ層122は、本実施形態では、下部電極110においてIGBT領域S2に位置する部分上に配置され、下部電極110に接している。p+型のコレクタ層122は、UC層121とX方向に隣り合っている。ただし、UC層の一部がIGBT領域内に位置していてもよいし、p+形のコレクタ層の一部がダイオード領域内に位置していてもよい。
【0017】
n形のカソード層123は、ダイオード領域S1においてUC層121上に設けられている。n形のカソード層123は、本実施形態では、IGBT領域S2には設けられていない。ただし、n形のカソード層は、IGBT領域に設けられていてもよい。n形のカソード層123のZ方向の寸法、すなわち厚みD2は、UC層121のn+形の半導体部分121aの厚みD1よりも大きい。UC層121およびn形のカソード層123の不純物濃度分布については、後述する。
【0018】
n形半導体層124は、ダイオード領域S1およびIGBT領域S2に亘って設けられている。n形半導体層124は、本実施形態では、ダイオード領域S1では、n形のカソード層123上に配置され、IGBT領域では、p+形のコレクタ層122上に配置されている。なお、n形のカソード層がIGBT領域にも設けられている場合、n形半導体層は、IGBT領域においてもn形のカソード層上に設けられる。n形のカソード層がIGBT領域にも設けられている場合およびn形のカソード層がIGBT領域にも設けられていない場合のいずれにおいても、n形半導体層は、IGBT領域においてp+形のコレクタ層よりも上方に位置する。
【0019】
n形半導体層124は、n形のバッファ領域124aと、n-形のドリフト領域124bと、を有する。
【0020】
n形のバッファ領域124aは、ダイオード領域S1およびIGBT領域S2に亘って設けられている。n形のバッファ領域124aは、ダイオード領域S1では、n形のカソード層123上に配置され、IGBT領域S2では、p+形のコレクタ層122上に配置されている。n形のバッファ領域124aの不純物濃度は、n形のカソード層123の不純物濃度よりも低い。ただし、半導体装置にn形のバッファ領域は設けられていなくてもよい。
【0021】
n-形のドリフト領域124bは、ダイオード領域S1およびIGBT領域S2において、n形のバッファ領域124a上に配置されている。n-形のドリフト領域124bの不純物濃度は、n形のバッファ領域124aの不純物濃度よりも低い。
【0022】
p形半導体層125は、ダイオード領域S1およびIGBT領域S2に設けられている。p形半導体層125は、n-形のドリフト領域124b上に配置される。p形半導体層125は、ダイオード領域S1ではp形のアノード層として機能し、IGBT領域S2ではp形のベース層として機能する。
【0023】
p形半導体層125の単位面積あたりの不純物量は、1×1012cm-2以上、かつ、5×1012cm-2
以下であることが好ましい。p形半導体層125の単位面積あたりの不純物量は、例えば、p形半導体層125を形成するためにイオン注入を行った際の、イオンのドーズと概ね同じ量である。ただし、p形半導体層125の単位面積あたりの不純物量は、上記に限定されない。
【0024】
半導体装置100のダイオード領域S1には、複数のトレンチT1が設けられている。各トレンチT1は、
図2および
図3に示すように、p形半導体層125の上面から下方に延びる。各トレンチT1の下端は、n
-形のドリフト領域124bの上面よりも下方であって、n形のバッファ領域124aの上面よりも上方に、より具体的にはn
-形のドリフト領域124bの上層部に位置する。また、
図3に示すように、複数のトレンチT1は、X方向に配列している。また、各トレンチT1は、Y方向に延びている。
【0025】
同様に、半導体装置100のIGBT領域S2には、
図2に示すように、複数のトレンチT2が設けられている。各トレンチT2は、
図2および
図3に示すように、p形半導体層125の上面から下方に延びる。各トレンチT2の下端は、n
-形のドリフト領域124bの上面よりも下方であって、n形のバッファ領域124aの上面よりも上方に、より具体的にはn
-形のドリフト領域124bの上層部に位置する。また、
図3に示すように、複数のトレンチT2は、X方向に配列している。また、各トレンチT2は、Y方向に延びている。
【0026】
p
+形のコンタクト層126は、ダイオード領域S1およびIGBT領域S2において、p形半導体層125の上層部に部分的に設けられている。具体的には、p
+形のコンタクト層126は、
図3に示すように、ダイオード領域S1において、隣り合う2つのトレンチT1の間に位置し、X方向に延びる複数の延伸部126aと、IGBT領域S2において、隣り合う2つのトレンチT2の間に位置し、X方向に延びる複数の延伸部126bと、を含む。複数の延伸部126aは、Y方向に配列している。同様に、複数の延伸部126bは、Y方向に配列している。Y方向に隣り合う2つの延伸部126aの距離は、Y方向に隣り合う2つの延伸部126bの距離よりも長い。ただし、p
+形のコンタクト層の配置は、上記に限定されない。
【0027】
n+形のエミッタ層127は、IGBT領域S2において、p形半導体層125の上層部に部分的に配置されており、ダイオード領域S1には設けられていない。具体的には、n+形のエミッタ層127は、IGBT領域S2において、隣り合う2つのトレンチT2の間に位置し、X方向に延びる複数の延伸部127aを含む。各延伸部127aは、p形半導体層125を間に介して、隣り合う2つの延伸部126bの間に配置される。ただし、n+形のエミッタ層の配置は、上記に限定されない。
【0028】
UC層121、p+形のコレクタ層122、n型のカソード層123、n形半導体層124、p形半導体層125、p+形のコンタクト層126、およびn+形のエミッタ層127は、例えば、シリコン等の材料と、各層の導電形に対応する不純物と、を含む。
【0029】
ダイオード領域S1の各トレンチT1内には、
図2に示すように、内部電極130が配置されている。各内部電極130は、金属材料またはポリシリコン等の導電材料からなる。各内部電極130は、
図2に示すように、p
+形のコンタクト層126の上面から、n
-形のドリフト領域124bに向かって延びている。各内部電極130の下端は、n
-形のドリフト領域124bの上層部に位置する。各内部電極130は、
図3に示すように、Y方向に延びている。各内部電極130は、p
+形のコンタクト層126、p形半導体層125、およびn
-形のドリフト領域124bと、後述する絶縁膜161を介してX方向において隣り合っている。
【0030】
IGBT領域S2の各トレンチT2内は、
図2に示すように、ゲート電極140が配置されている。各ゲート電極140は、金属材料またはポリシリコン等の導電材料からなる。各ゲート電極140は、n
+形のエミッタ層127の上面から、n
-形のドリフト領域124bに向かって延びている。各ゲート電極140の下端は、n
-形のドリフト領域124bの上層部に位置する。各ゲート電極140は、
図3に示すように、Y方向に延びている。各ゲート電極140は、n
+形のエミッタ層127、p
+形のコンタクト層126、p形半導体層125、およびn
-形のドリフト領域124bと、後述する絶縁膜162を介してX方向において隣り合っている。
【0031】
上部電極150は、金属材料等の導電材料からなる。上部電極150は、ダイオード領域S1およびIGBT領域S2に亘って設けられている。上部電極150は、p形半導体層125、p+形のコンタクト層126、n+形のエミッタ層127上に配置され、これらに接続される。上部電極150は、ダイオード領域S1では、アノード電極として機能し、IGBT領域S2では、エミッタ電極として機能する。上部電極150は、例えば、各内部電極130に電気的に接続されている。上部電極150は、ゲート電極140と電気的に絶縁されている。
【0032】
各絶縁膜161は、各内部電極130と上部電極150との間、各内部電極130とp形半導体層125との間、各内部電極130とp+形のコンタクト層126との間、各内部電極130とn形半導体層124との間に配置されている。
【0033】
各絶縁膜162は、各ゲート電極140と上部電極150との間、各ゲート電極140とn+形のエミッタ層127との間、各ゲート電極140とp+形のコンタクト層126との間、各ゲート電極140とp形半導体層125との間、および各ゲート電極140とn形半導体層124との間に配置されている。
【0034】
各絶縁膜161、162は、シリコン酸化物等又はシリコン窒化物等の絶縁材料からなる。
【0035】
次に、UC層121およびn形のカソード層123の不純物濃度分布について説明する。
図4は、
図2の点P1と点P2との間の不純物濃度分布の一の例を示すグラフである。
図5は、
図2の点P1と点P2との間の不純物濃度分布の他の例を示すグラフである。
図4および
図5の横軸は、Z方向における位置である。
図4および
図5の縦軸は、不純物濃度である。
【0036】
例えば
図4に示すように、半導体装置100の不純物濃度は、下部電極110の上面上の点P1を始点として、上方に向かうにつれて徐々に増加し、先ず点Paで極大となる。不純物濃度は、点Paから上方に向かうにつれて徐々に減少し、点Pbで極小となる。不純物濃度が、下部電極110の上面上の点P1と不純物濃度が最初に極小となる点Pbとの間の部分が、UC層121のn形の半導体部分121aに相当する。なお、点Pbは、不純物濃度を示す曲線S1の接線の傾きの絶対値が極小となる変曲点でもある。点P1と点Pbとの距離が、n形の半導体部分121aの厚みD1に相当する。点P1と点Paとの距離は、点Paと点Pbとの距離よりも十分に小さい。
【0037】
不純物濃度は、点Pbから上方に向かうにつれて徐々に増加し、点Pcで再び極大となる。不純物濃度は、点Pcから上方に向かうにつれて徐々に減少し、点P2で、点Pcにおける不純物濃度の1/10となる。半導体装置100において点Pbと点P2との間の部分が、n形のカソード層123に相当する。したがって、点Pbがn形のカソード層123の下端上の点であり、点P2がn形のカソード層123の上端上の点であり、点Pbと点P2との距離がn形のカソード層123の厚みD2に相当する。また、点Pcは、n形のカソード層123の上端と下端との間の中間点に相当する。
【0038】
点Pbと点Pcとの距離L1は、点Pcと点P2との距離L2よりも小さい。これにより、n形のカソード層123において不純物濃度が最大となる点PcをUC層121に近づけることができる。
【0039】
点Pcにおける不純物濃度は、点Paにおける不純物濃度よりも低い。すなわち、n形のカソード層123の不純物濃度の最大値は、UC層121のn形の半導体部分121aの不純物濃度の最大値よりも低い。
【0040】
また、例えば
図5に示すように、半導体装置100の不純物濃度は、点Pb以降で増加に転じなくてもよい。具体的には、不純物濃度は、点Pbから点P2に向かって徐々に減少する。また、点Paから点Pbに向かって不純物濃度が徐々に減少し、その減少率は点Pbに近づくにつれ、徐々に小さくなる。そして、点Pbから点P2に近づくにつれ、その減少率は、再び増加する。したがって、n
+形の半導体部分121aおよびn形のカソード層123の不純物濃度を示す曲線S2の接線の傾きの絶対値は、点Pbにおいて極小となる。すなわち点Pbは変曲点に相当する。不純物濃度は、点P2で、点Pbにおける不純物濃度の1/10となる。この場合も、点Pbと極小となる点P2との間の部分が、n形のカソード層123に相当する。したがって、点Pbがn形のカソード層123の下端上の点であり、点P2がn形のカソード層123の上端上の点であり、点Pbと点P2との距離がn形のカソード層123の厚みD2に相当する。この場合、n形のカソード層123において不純物濃度が最大となる点Pbとn形のカソード層123の下端との距離は、0(ゼロ)であり、n形のカソード層123において不純物濃度が最大となる点Pbと上端との距離よりも小さい。この場合も、n形のカソード層123において不純物濃度が最大となる点PbをUC層121に近づけることができる。
【0041】
図4または
図5に示す不純物濃度分布を有するn形のカソード層123は、例えば、イオン注入の際のイオン分布のピークのZ方向における位置を調整することにより形成できる。
図5に、n形のカソード層123を形成するためにイオン注入を行った際のイオン分布を、破線で示す。
図5のような不純物濃度分布を有するn形のカソード層123形成する際は、イオン分布のピークpmaxは、UC層121の上層部と重なってもよい。
【0042】
後述するように、ピークpmaxのZ方向における位置は、下部電極110の上面からn形の半導体部分121aを形成するためにイオン注入を行った際のイオンの拡散幅を0.5倍した長さ離れた位置と同じ、またはそれより上方であることが好ましい。これにより、ピークpmaxの近辺が、n形のカソード層123に現れる。このイオンの拡散幅を0.5倍した長さは、n形の半導体部分121aにおいて不純物濃度が最大となる点Paとn形のカソード層123の下端上の点Pbとの距離L3と概ね同じである。したがって、ピークpmaxのZ方向における位置は、下部電極110の上面から距離L3離れた位置Pz2と同じまたは位置Pz2よりも上方に位置することが好ましい。
【0043】
また、
図4に示す不純物濃度分布の半導体装置100では、n形のカソード層123を形成するためにイオン注入を行った際のイオン分布のピークpmaxのZ方向における位置は、下部電極110の上面からn形の半導体部分121aを形成するためにイオン注入を行った際のイオンの拡散幅を1.5倍した長さ離れた位置と同じ、またはそれより上方であることが好ましい。これにより、ピークpmaxが、UC層121から離隔することを抑制できる。このような場合イオン分布のピークpmaxのZ方向における位置は、n形のカソード層123において不純物濃度が極大となる点Pcの位置と概ね同じである。したがって、点Pcの位置は、下部電極110の上面から、距離L3の3倍分の長さL4離れた位置Pz1と同じ、または、位置Pz1よりも下方であることが好ましい。
【0044】
次に、本実施形態の効果を説明する。
ダイオード領域S1の下部電極110上に、UC層121ではなく電子しか内部を移動できないn+形のカソード層が設けられている場合は、ダイオード領域S1に還流電流が流れたときに、n+形のカソード層からn形半導体層124に電子のみが注入される。そのため、下部電極110の近傍の電子の濃度が増加する。その結果、ダイオード領域S1を還流電流が流れるONの状態からOFFの状態に切り替える際に、電子を下部電極110に排出するのに時間を要し、スイッチング損失が増加する。これに対して、本実施形態に係る半導体装置100においては、ダイオード領域S1に、下部電極110に接続されるUC層121が設けられている。UC層121内は、電子だけでなくホールも移動できる。そのため、ダイオード領域S1に還流電流が流れている状態では、UC層121からn形半導体層124への電子の注入量を減らし、その分、UC層121へのホールの注入量を増加させることができる。これにより、下部電極110の近傍の電子の濃度を低減できる。その結果、ダイオード領域をONの状態からOFFの状態に切り替える際に、電子を下部電極110に迅速に排出できる。これにより、スイッチング損失を低減できる。
【0045】
また、本実施形態に係る半導体装置100においては、UC層121上にn形のカソード層123が設けられている。n形のカソード層123において不純物濃度が最大となる位置である点Pcとn形のカソード層123の下端との距離L1が、不純物濃度が最大となる位置である点Pcとn形のカソード層123の上端との距離L2よりも短い。これにより、n形のカソード層123において不純物濃度が最大となる位置を、UC層121に近づけることができる。そのため、n形のカソード層123とUC層121を連関するように機能させ、UC層121およびn形のカソード層123からn形半導体層124への電子の注入量を好適に制御できる。これにより、半導体装置100の順方向電圧を制御できる。
【0046】
また、複数のp+形の半導体部分121bのうちの少なくとも1つのp+形の半導体部分121b1は、Z方向において、n形の半導体部分121aよりも突出している。そのため、ダイオード領域S1をON状態からOFF状態に切り替える際に、p+形の半導体部分121b1からn形半導体層124にホールが注入され易い。これにより、n形半導体層124内のキャリアが急に消失することを抑制できる。その結果、テール電流がON状態からOFF状態に切り替わる際にテール電流が振動するのを低減できる。
【0047】
<実施例>
次に、実施例について説明する。
図6は、n形のカソード層を形成するためにイオン注入を行った際のイオン注入分布のピークpmaxのZ方向における位置と、順方向電圧Vfとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図6の横軸は、下部電極110の上面を0とし、n形のカソード層123を形成するためにイオン注入を行った際のイオン分布のピークpmaxのZ方向における位置である。
図6の縦軸は、順方向電圧Vfである。
半導体装置100において、n形のカソード層123を形成するためにイオン注入を行った際のイオン分布のピークpmaxのZ方向における位置を変化させ、各ピークpmaxの位置における順方向電圧Vfをシミュレーションした。その結果を
図6に示す。
【0048】
ピークpmaxの位置を、下部電極110の上面から離隔させると、順方向電圧Vfは徐々に減少した。そして、ピークpmaxの位置を、下部電極110の上面からさらに離隔させると、順方向電圧Vfは増加に転じた。
【0049】
図6において、下部電極110から、n形の半導体部分121aを形成するためにイオン注入を行った際のイオンの拡散幅の0.5倍の長さ離れた位置は概ね深さ0.25μmで、符号Pz3で示す。また、下部電極110から、この拡散幅の1.5倍の長さ離れた位置は概ね深さ0.75μmで、符号Pz4で示す。ピークpmaxの位置が、位置Pz3以上、かつ、位置Pz4以下である範囲で、順方向電圧Vfは概ね極小となった。したがって、ピークpmaxの位置は、位置Pz3以上であり、位置Pz4以下であることが好ましい。
【0050】
なお、前述したように、この拡散幅の0.5倍の長さは、n形の半導体部分121aにおいて不純物濃度が最大となる点Paとn形のカソード層123の下端上の点Pbとの距離L3と概ね等しい。したがって、位置Pz3は、
図5の位置Pz2と概ね等しく、位置Pz4は、
図4の位置Pz1と概ね等しい。また、
図4のような不純物濃度分布を有するn形のカソード層123において、不純物濃度が極大となる点Pcは、ピークpmaxの位置と概ね等しい。したがって、点Pcの位置は、下部電極110の上面から、距離L3の3倍分の長さL4離れた位置Pz1と同じ、または、位置Pz1よりも下方であることが好ましい。
【0051】
図7は、UC層のピッチPとスイッチング損失Errとの関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図7の横軸は、UC層121のn
+形の半導体部分121aとp
+形の半導体部分121bとのピッチPである。
図7の縦軸は、ダイオード領域S1をON状態からOFF状態に切り替えた際のスイッチング損失Errである。
半導体装置100において、ピッチPを変化させ、各ピッチPにおけるスイッチング損失Errをシミュレーションした。その結果を
図7に示す。
【0052】
ピッチPを徐々に小さくしていくと、スイッチング損失Errは徐々に減少した。そして、ピッチPが50μm以下では、スイッチング損失Errが概ね一定となった。したがって、ピッチPは、0より大きく50μm以下であることが好ましい。なお、50μmは、キャリア拡散長の1/3の長さと概ね一致する。ここで、キャリア拡散長とは、電子とホール等のキャリアが再結合で消滅せずに流れる距離を意味する。
【0053】
図8(a)は、p形半導体層を形成するためにイオン注入を行った際のドーズQdを変化させた場合の順方向電圧Vfと逆回復電流Irrとの関係のシミュレーション結果、および、好ましい順方向電圧Vfと逆回復電流Irrとの関係を示すグラフであり、
図8(b)は、
図8(a)の好ましい順方向電圧Vfの近傍の順方向電圧Vfが得られるようなドーズQdの範囲を示すグラフである。
図8(a)の横軸は、順方向電圧Vfである。
図8(a)の縦軸は、逆回復電流Irrである。
図8(b)の横軸は、順方向電圧Vfである。
図8(b)の縦軸は、p形半導体層125を形成するためにイオン注入を行った際のドーズQdである。
【0054】
半導体装置100において、ドーズQdを変化させ、各ドーズQdの順方向電圧Vfおよび逆回復電流Irrをシミュレーションした。その結果を
図8(a)に示す。また、
図8(a)に、破線K0で、好ましい順方向電圧Vfと逆回復電流Irrとの関係を示す。
【0055】
図8(a)に示すように、ドーズQdが1×10
12cm
-2以上の範囲で、破線K0に近い順方向電圧Vfと逆回復電流Irrとの関係を得られることが分かった。したがって、ドーズQdは、1×10
12cm
-2以上であることが好ましい。p形半導体層125の単位面積あたりの不純物量は、例えば、ドーズQdと概ね同じである。したがって、p形半導体層125の単位面積あたりの不純物量は、1×10
12cm
-2以上であることが好ましい。
【0056】
また、破線K0で示す順方向電圧Vfの近傍の順方向電圧Vfが得られるようなドーズQdを調査した。その結果、破線K0で示す順方向電圧Vfの近傍の順方向電圧Vfが得られるようなドーズQdは、
図8(b)の破線K1と破線K2との間の範囲であることがわかった。
【0057】
図8(b)の破線K1上のドーズQdと順方向電圧Vfとの関係は、ドーズQdの単位をcm
-2とし、Vfの単位をVとして、以下の式(1)により表せる。
【数1】
また、
図8(b)の破線K2上のドーズQdと順方向電圧Vfとの関係は、ドーズQdの単位をcm
-2とし、順方向電圧Vfの単位をVとして、以下の式(2)により表せる。
【数2】
したがって、ドーズQdの単位をcm
-2とし、順方向電圧Vfの単位をVとして、ドーズQd/10
12は、0.84×順方向電圧Vf
2-4.15×順方向電圧Vf+6.10以上であり、0.68×順方向電圧Vf
2-3.65×順方向電圧Vf+5.85以下であることが好ましい。p形半導体層125の単位面積あたりの不純物量は、例えば、ドーズQdと概ね同じである。したがって、p形半導体層125の単位面積あたりの不純物量の単位をcm
-2とし、順方向電圧Vfの単位をVとして、p形半導体層125の単位面積あたりの不純物量/10
12が、0.84×順方向電圧Vf
2-4.15×順方向電圧Vf+6.10以上であり、0.68×順方向電圧Vf
2-3.65×順方向電圧Vf+5.85以下であることが好ましい。
【0058】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。
図9は、本実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
本実施形態に係る半導体装置200は、UC層121およびn形のカソード層123の代わりに、トランスパレントなn
+形のカソード層221が設けられている点で、第1の実施形態に係る半導体装置100と相違する。
なお、以下の説明においては、原則として、第1の実施形態との相違点のみを説明する。以下に説明する事項以外は、第1の実施形態と同様である。以下に説明する他の実施形態についても同様である。
【0059】
n+形のカソード層221は、ダイオード領域S1において下部電極110上、およびn形のバッファ領域124aの下に設けられている。
【0060】
従来のn+形のカソード層内は、電子が移動可能であるものの、ホールは移動可能でなかった。これに対して、本実施形態では、n+形のカソード層221からn形半導体層124への電子の注入効率を下げ、その分、n形半導体層124からn+形のカソード層221にホールが注入されるようにしている。このように、n+形のカソード層221内を電子だけでなく、ホールも移動可能である場合、「n+形のカソード層221はトランスパレントである」という。
【0061】
n+形のカソード層221をトランスパレントにする方法は、特に限定されないが、n+形のカソード層221の厚みを薄くする方法、n+形のカソード層221の不純物濃度を低減する方法等が挙げられる。n+形のカソード層221がトランスパレントになるような厚みは、例えば、0μmより大きく0.1μm以下である。n+形のカソード層221がトランスパレントになるような不純物濃度は、例えば、1×1019cm-2以上1×1020cm-2以下である。
【0062】
n+形のカソード層221は、例えば、全体がトランスパレントであってもよいし、部分的にトランスパレントであってもよい。また、例えば、n+形のカソード層221は、ダイオード領域S1のうち、IGBT領域S2に隣接する第1領域における電子の注入効率が、ダイオード領域S1のうち、IGBT領域S2から離隔した第2領域における電子の注入効率よりも高くてもよい。このような構成は、例えば、第1領域の不純物濃度を第2領域の不純物濃度より高くすること、または、第1領域の厚みを第2領域の厚みよりも大きくすることにより実現できる。また、このような場合、ダイオード領域S1とIGBT領域S2との境界から、ダイオード領域S1のX方向における中心に向けて、電子の注入効率は、漸減してもよいし、段階的に減少してもよい。
【0063】
p+形のコレクタ層122も、同様に、トランスパレントである。すなわち、p+形のコレクタ層122からその上のn形半導体層124へのホールの注入効率を下げ、その分、n形半導体層124からp+形のコレクタ層122にホールが注入されるようにしている。
【0064】
p+形のコレクタ層122をトランスパレントにする方法は、特に限定されないが、p+形のコレクタ層122の厚みを薄くする方法、p+形のコレクタ層122の不純物濃度を低減する方法等が挙げられる。p+形のコレクタ層122がトランスパレントになるような厚みは、例えば、0μmより大きく0.2μm以下である。p+形のコレクタ層122がトランスパレントになるような不純物濃度は、例えば、1×1018cm―2以上1×1019cm-2以下である。
【0065】
p+形のコレクタ層122は、例えば、全体がトランスパレントであってもよいし、部分的にトランスパレントであってもよい。
【0066】
次に、本実施形態に係る半導体装置200の効果を説明する。
本実施形態におけるn+形のカソード層221は、少なくとも一部がトランスパレントである。そのため、n+形のカソード層221からn形半導体層124への電子の注入効率を低減できる。これにより、ダイオード領域S1がONの状態で、下部電極110の近傍の電子の濃度を低減できる。その結果、ダイオード領域をONの状態からOFFの状態に切り替える際に、電子を下部電極110に迅速に排出させることができる。これにより、半導体装置200のダイオード領域S1のスイッチング損失を低減できる。
【0067】
また、n+形のカソード層221は、ダイオード領域S1のうち、IGBT領域S2に隣接する第1領域における電子の注入効率が、ダイオード領域S1のうち、IGBT領域S2から離隔した第2領域における電子の注入効率よりも高くてもよい。このような場合、半導体装置200のダイオード領域S1のスイッチング損失を低減しつつ、IGBT領域S2に隣接する第1領域のキャリア濃度が低減することを抑制できる。IGBT領域S2に隣接する第1領域のキャリア濃度が低減することを抑制することで、スナップバックを抑制できる。
【0068】
実施形態は、以下の態様を含む。
【0069】
(付記1)
ダイオード領域およびIGBT領域が設定された半導体装置であって、
前記ダイオード領域および前記IGBT領域に設けられる第1電極と、
前記ダイオード領域において前記第1電極上に設けられ、前記第1電極の上面に沿う第1方向に交互に並ぶ第1導電形の複数の第1半導体部分および第2導電形の複数の第2半導体部分を含む第1半導体層と、
前記IGBT領域において前記第1電極上に設けられる前記第2導電形の第2半導体層と、
前記ダイオード領域において前記第1半導体層上に設けられる前記第1導電形の第3半導体層であって、前記第1電極から前記第1半導体層に向かう第2方向において前記第3半導体層の不純物濃度が最大となる第1位置が、前記第2方向において前記第1半導体部分の不純物濃度が最大となる第2位置と前記第3半導体層の下端との距離の3倍の長さだけ前記第1電極の上面から離れた第3位置と同じまたは前記第3位置よりも下方である前記第3半導体層と、
前記ダイオード領域において前記第3半導体層上に設けられ、前記IGBT領域において前記第2半導体層よりも上方に設けられる前記第1導電形の第4半導体層と、
前記ダイオード領域および前記IGBT領域において前記第4半導体層上に設けられる前記第2導電形の第5半導体層と、
前記IGBT領域において前記第5半導体層の上層部に設けられる前記第1導電形の第6半導体層と、
前記IGBT領域において前記第6半導体層から前記第4半導体層に向かって延び、前記第6半導体層、前記第5半導体層、および前記第4半導体層と隣り合う第2電極と、
前記ダイオード領域において前記第5半導体層上に設けられ、前記IGBT領域において前記第6半導体層上に設けられる第3電極と、
前記第2電極と前記第3電極との間、前記第2電極と前記第6半導体層との間、前記第2電極と前記第5半導体層との間、および前記第2電極と前記第4半導体層との間に設けられる絶縁膜と、
を備える半導体装置。
【0070】
(付記2)
前記第3半導体層は、前記第3半導体層の前記下端から前記第3半導体層の前記下端と上端との間の中間点に向けて不純物濃度が徐々に増加し、前記中間点において不純物濃度が最大となり、前記中間点から前記上端に向けて不純物濃度が徐々に減少する、付記1に記載の半導体装置。
【0071】
(付記3)
前記第3半導体層は、前記下端において不純物濃度が最大となり、前記下端から前記第3半導体層の上端に向けて不純物濃度が徐々に減少する、付記1に記載の半導体装置。
【0072】
(付記4)
前記第1半導体層において交互に並ぶ前記複数の第1半導体部分と前記複数の第2半導体部分のピッチは、0μmより大きく50μm以下である、付記1~3のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0073】
(付記5)
前記第5半導体層の単位面積あたりの不純物量は、1×1012cm-2以上、かつ、5×1012cm-2
以下である、付記1~4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0074】
(付記6)
前記複数の第2半導体部分のうちの少なくとも1つは、前記第2方向において、前記第1半導体部分よりも突出している、付記1~5のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0075】
(付記7)
前記第1半導体部分より突出する前記第2半導体部分の幅は、前記第1半導体層の幅よりも大きい、付記6に記載の半導体装置。
【0076】
(付記8)
前記第3半導体層の厚みは、前記第1半導体部分の厚みよりも大きい、付記1~7のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0077】
(付記9)
ダイオード領域およびIGBT領域が設定された半導体装置であって、
前記ダイオード領域および前記IGBT領域に設けられる第1電極と、
前記ダイオード領域において前記第1電極上に設けられ、少なくとも一部がトランスパレントである第1導電形の第1半導体層と、
前記IGBT領域において前記第1電極上に設けられる第2導電形の第2半導体層と、
前記ダイオード領域において前記第1半導体層上に設けられ、前記IGBT領域において前記第2半導体層上に設けられる前記第1導電形の第3半導体層と、
前記ダイオード領域および前記IGBT領域において前記第3半導体層上に設けられる前記第2導電形の第4半導体層と、
前記IGBT領域において前記第4半導体層の上層部に設けられる前記第1導電形の第5半導体層と、
前記IGBT領域において前記第5半導体層から前記第3半導体層に向かって延び、前記第5半導体層、前記第4半導体層、および前記第3半導体層と隣り合う第2電極と、
前記ダイオード領域においては前記第4半導体層上に設けられ、前記IGBT領域においては前記第5半導体層上に設けられる第3電極と、
前記第2電極と前記第3電極との間、前記第2電極と前記第5半導体層との間、前記第2電極と前記第4半導体層との間、および前記第2電極と前記第3半導体層との間に設けられる絶縁膜と、
を備える半導体装置。
【0078】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明及びその等価物の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
100、200:半導体装置
110 :下部電極(第1電極)
121 :UC層(付記1における第1半導体層)
121a :n+形の半導体部分(第1半導体部分)
121b、121b1:p+形の半導体部分(第2半導体部分)
122 :p+形のコレクタ層(第2半導体層)
123 :n形のカソード層(付記1における第3半導体層)
124 :n形半導体層(付記1における第4半導体層、付記9における第3半導体層)
124a :バッファ領域
124b :ドリフト領域
125 :p形半導体層(付記1における第5半導体層、付記9における第4半導体層)
126 :p+形のコンタクト層
126a、126b:延伸部
127 :n+形のエミッタ層(付記1における第6半導体層、付記9における第5半導体層)
127a :延伸部
130 :内部電極
140 :ゲート電極(第2電極)
150 :上部電極(第3電極)
161 :絶縁膜
162 :絶縁膜
221 :n+形のカソード層(付記9における第1半導体層)
D1、D2 :厚み
L1、L2、L3:距離
L4 :長さ
P :ピッチ
S1 :ダイオード領域
S2 :IGBT領域
T1、T2 :トレンチ