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特許7574176高い強度及び高い電気伝導性を有する銅-ニッケル-ケイ素合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】高い強度及び高い電気伝導性を有する銅-ニッケル-ケイ素合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20241021BHJP
   C22C 9/10 20060101ALI20241021BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20241021BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241021BHJP
【FI】
C22C9/06
C22C9/10
C22F1/08 B
C22F1/00 602
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 626
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 630M
C22F1/00 661A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 650F
C22F1/00 691Z
C22F1/00 630C
C22F1/00 692A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021500904
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 US2019041556
(87)【国際公開番号】W WO2020014582
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】62/696,915
(32)【優先日】2018-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508348680
【氏名又は名称】マテリオン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】トリバス,キャロル・エル
(72)【発明者】
【氏名】クリ,ジュニア,ジョン・シー
(72)【発明者】
【氏名】テイラー,クリストファー・ジェイ
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-283059(JP,A)
【文献】特開2000-080428(JP,A)
【文献】特開2017-071812(JP,A)
【文献】特開2012-229467(JP,A)
【文献】特開2008-266787(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182776(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00-9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅合金であって:
.0重量%~2.0重量%のニッケル;
.2重量%~1.0重量%のケイ素;
.1重量%~0.4重量%のクロム;
.05重量%~0.2重量%のマンガン;
.01重量%~0.15重量%のジルコニウム;
任意選択で0.05重量%以下の鉄;
任意選択で0.05重量%以下のコバルト;及び
残余量の銅;
からなり
435℃における18時間の加熱時効処理後に、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有する、前記銅合金。
【請求項2】
前記合金が、1.2重量%~1.4重量%のニッケル;0.3重量%~0.4重量%のケイ素;0.3重量%~0.4重量%のクロム;0.08重量%~0.12重量%のマンガン;0.02重量%~0.06重量%のジルコニウム;及び残余量の銅;からなる、請求項1に記載の銅合金。
【請求項3】
前記合金が、ベリリウム、チタン、鉄、コバルト、マグネシウム、又はホウ素を含まない、請求項1に記載の銅合金。
【請求項4】
前記合金が、少なくとも88ksiの極限引張強さを有する、請求項1に記載の銅合金。
【請求項5】
前記合金が少なくとも2000万psiの弾性率を有する、請求項1に記載の銅合金。
【請求項6】
前記合金が、少なくとも8%の全伸び%(%TE)を有する、請求項1に記載の銅合金。
【請求項7】
前記合金が、0.4/1以下の成形性比を有する、請求項1に記載の銅合金。
【請求項8】
ケイ素、クロム、ニッケル、及びマンガンから形成されるケイ化物を含む、請求項1に記載の銅合金。
【請求項9】
少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力、少なくとも48%IACSの導電率、及び少なくとも8%の全伸び%(%TE)を有する、請求項1に記載の銅合金。
【請求項10】
少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力、少なくとも49%IACSの導電率、及び少なくとも90ksiのUTSを有する、請求項1に記載の銅合金。
【請求項11】
ベリリウムを含まず、少なくとも80ksiの0.2%のオフセット耐力、及び少なくとも48%IACSの導電率を有する銅合金を製造する方法であって、
銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金を、80%~95%の冷間加工率(%CW)まで冷間加工すること;
冷間加工された前記銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金を溶体化焼鈍すること;及び
溶体化焼鈍した前記銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金を、435℃において18時間、時効処理して、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有する前記銅合金を得ること;
を含み、
前記銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金が、1.0重量%~2.0重量%のニッケル;0.2重量%~1.0重量%のケイ素;0.1重量%~0.4重量%のクロム;0.05重量%~0.2重量%のマンガン;0.01重量%~0.15重量%のジルコニウム;任意選択で0.05重量%以下の鉄;任意選択で0.05重量%以下のコバルト;及び残余量の銅;からなる、前記方法。
【請求項12】
前記溶体化焼鈍を、900℃~1000℃の温度において5~20分間の時間行う、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法によって形成される銅合金。
【請求項14】
銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金から形成される物品であって、435℃における18時間の加熱時効処理後に、前記合金は、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有し、前記合金が、1.0重量%~2.0重量%のニッケル;0.2重量%~1.0重量%のケイ素;0.1重量%~0.4重量%のクロム;0.05重量%~0.2重量%のマンガン;0.01重量%~0.15重量%のジルコニウム;任意選択で0.05重量%以下の鉄;任意選択で0.05重量%以下のコバルト;及び残余量の銅;からなる、前記物品。
【請求項15】
前記合金が、
.2重量%~1.4重量%のニッケル;
.3重量%~0.4重量%のケイ素;
.3重量%~0.4重量%のクロム;
.08重量%~0.12重量%のマンガン;
.02重量%~0.06重量%のジルコニウム;及び
残余量の銅;
からなる、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記物品が、ヒートシンク;電気コネクタ;電子コネクタ;ワイヤリングハーネス端子;電気自動車充電器接点;高電圧/電流/電力端子接点;電力コネクタ接点;ミッドプレーンコネクタ;バックプレーンコネクタ;カードエッジコネクタ;、光起電システムコネクタ;電気器具電力接点;コンピュータ電力接点;ヒートスプレッダ;ブッシング若しくはベアリング表面;又は電子デバイス若しくは電気デバイス用の部品;である、請求項14に記載の物品。
【請求項17】
435℃における18時間の加熱時効処理後に、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有する銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金を使用する方法であって、
前記銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金の片から物品を打抜加工すること;
を含み、前記銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金が、1.0重量%~2.0重量%のニッケル;0.2重量%~1.0重量%のケイ素;0.1重量%~0.4重量%のクロム;0.05重量%~0.2重量%のマンガン;0.01重量%~0.15重量%のジルコニウム;任意選択で0.05重量%以下の鉄;任意選択で0.05重量%以下のコバルト;及び残余量の銅;からなる、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本出願は、2018年7月12日出願の米国仮特許出願第62/696,915号(その全部を参照により本明細書中に組み込む)に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
[0002]本発明は、高い耐力及び高い電気伝導率の組み合わせを有する銅合金に関する。また、かかる合金の製造及び使用方法、並びにそれから製造される物品も開示する。
【0003】
[0003]比較的高い0.2%オフセット耐力及び高い電気/熱伝導率の組合せを有する銅合金は、達成するのが困難である。銅-ベリリウム合金はかかる特性を有するが、ベリリウムの存在が望ましくない多くの用途が存在する。したがって、中でもかかる所望の特性を有する更なる銅合金に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0004】
[0004]本発明においては、高い0.2%のオフセット耐力(オフセット降伏強度)(offset yield strength)及び高い電気/熱伝導率の組み合わせを有する銅-ニッケル-ケイ素合金を開示する。本合金は、少なくともニッケル、ケイ素、クロム、マンガン、ジルコニウム、及び銅を含む。望ましくは、本合金は、ベリリウム及び/又は他の特定の金属を含まない。本合金を冷間加工し、次に溶体化焼鈍して微細結晶粒径を形成し、次に時効処理してNiSi及びCrZrSi析出物のような種々の析出物を形成する。これにより、粒界上に析出する析出物を有する転位ネットワークが形成され、微細な結晶粒径に固定される。特定の実施形態において、本合金は、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの電気伝導率を有する。かかる合金は、中でも、熱管理のような用途において、並びに高い強度及び性能の電気コネクタとして有用である。
【0005】
[0005]種々の実施形態においては、本発明において、約1.0重量%~約4重量%のニッケル;約0.2重量%~約2重量%のケイ素;約0.1重量%~約1重量%のクロム;約0.05重量%~約0.5重量%のマンガン;約0.01重量%~約0.2重量%のジルコニウム;及び残余量の銅;を含み、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有する銅合金が開示される。
【0006】
[0006]特定の実施形態においては、本合金は、約1.2重量%~約1.4重量%のニッケル;約0.3重量%~約0.4重量%のケイ素;約0.25又は約0.3重量%~約0.4重量%のクロム;約0.08重量%~約0.12重量%のマンガン;約0.02重量%~約0.06重量%のジルコニウム;及び残余量の銅;を含む。
【0007】
[0007]本銅合金は、一般に、ベリリウム、チタン、鉄、コバルト、マグネシウム、又はホウ素を含まない。
【0008】
[0008]本銅合金は、少なくとも88ksiの極限引張強さを有し得る。本銅合金は、少なくとも2,000万psiの弾性率を有し得る。本銅合金は、少なくとも8%の全伸びを有し得る。本銅合金は、少なくとも5%~約15%の延性を有し得る。本銅合金は、0.4/1以下の成形性比(formability ratio)を有し得る。本銅合金は、ケイ素、クロム、ニッケル、及びマンガンから形成されるケイ化物を含んでいてもよい。
【0009】
[0009]幾つかの実施形態においては、本銅合金は、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力、少なくとも48%IACSの導電率、及び少なくとも8%の%TEを有する。
【0010】
[0010]他の実施形態においては、本銅合金は、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力、少なくとも49%IACSの導電率、及び少なくとも90ksiの極限引張強さを有する。
【0011】
[0011]また、ベリリウムを含まず、少なくとも80ksiの0.2%のオフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有する銅合金を製造する方法も、本発明において開示する。この方法は、銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金を約80%~約95%の冷間加工率(%CW)まで冷間加工すること;冷間加工された銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金を溶体化焼鈍すること(solution annealing);及び溶体化焼鈍された銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金を時効処理して、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有する銅合金を得ること;を含む。
【0012】
[0012]溶体化焼鈍は、約900℃~約1000℃の温度において約5分~約20分間の時間行うことができる。
【0013】
[0013]時効処理は、約400℃~約460℃の温度において約6時間~約60時間の時間行うことができる。より具体的な実施形態においては、時効処理は、約400℃~約460℃の温度において約6時間~約18時間の時間行う。これらの方法によって形成される銅合金も開示する。
【0014】
[0014]また、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有する、銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金から形成される物品も本発明において開示する。
【0015】
[0015]中でも、本物品は、ヒートシンク;電気コネクタ;電子コネクタ;ワイヤリングハーネス端子;電気自動車充電器接点;高電圧/電流/電力端子接点;電力コネクタ接点;ミッドプレーンコネクタ;バックプレーンコネクタ;カードエッジコネクタ;光起電システムコネクタ;電気器具電力接点;コンピュータ電力接点;ヒートスプレッダ;ブッシング若しくはベアリング表面;又は電子デバイス若しくは電気デバイス用の部品であってよい。
【0016】
[0016]また、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有する銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金を使用する方法であって、銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金の片から物品をスタンピングすることを含む上記方法も開示する。
【0017】
[0017]本発明のこれら及び他の非限定的な特徴を、以下においてより詳細に開示する。
【0018】
[0018]下記は、図面(本明細書に開示された代表的な実施形態を例示する目的で提示するものであって、それを限定する目的で提示されるものではない)の簡単な説明である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】[0019]図1は、銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金の光学画像である。
図2】[0020]図2は、後方散乱電子走査電子顕微鏡(BSE-SEM)によって得られた銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金の画像である。
図3】[0021]図3は、800°Fで時効処理した銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金の、左y軸上に0.2%オフセット耐力(ksi)、及び右y軸上に国際焼鈍銅標準試料のパーセント(%IACS)としての導電率を表すグラフである。試料は、x軸上に示される3、6、12、18、及び24時間の時間間隔で時効処理し、それぞれの時間間隔の間時効処理した後に測定を行った。左y軸は、10の間隔で0~100ksiである。右y軸は、10の間隔で0~60%IACSである。
図4】[0022]図4は、815°Fで時効処理した銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金の、左y軸上に0.2%オフセット耐力(ksi)、及び右y軸上に導電率(%IACS)を表すグラフである。試料は、x軸上に示される3、6、12、及び18時間の時間間隔で時効処理し、それぞれの時間間隔の間時効処理した後に測定を行った。左y軸は、10の間隔で0~100ksiである。右y軸は、10の間隔で0~60%IACSである。
図5】[0023]図5は、825°Fで時効処理した銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金の、左y軸上に0.2%オフセット耐力(ksi)、及び右y軸上に導電率(%IACS)を表すグラフである。試料は、x軸上に示される3、6、12、及び18時間の時間間隔で時効処理し、それぞれの時間間隔の間時効処理した後に測定を行った。左y軸は、10の間隔で0~100ksiである。右y軸は、10の間隔で0~60%IACSである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[0024]本明細書において開示される部品、プロセス、及び装置のより完全な理解は、添付の図面を参照することによって得ることができる。これらの図面は、本発明を示す都合及び容易さに基づく単なる概略的な表現であり、したがって、装置又はその部品の相対的なサイズ及び寸法を示すこと、及び/又は代表的な実施形態の範囲を規定又は限定することは意図しない。
【0021】
[0025]明確にするために、以下の説明においては特定の用語を使用するが、これらの用語は、図面における例示のために選択された実施形態の特定の構造のみをに関することを意図しており、本発明の範囲を規定又は限定することは意図していない。図面及び以下の説明においては、同様の数字表示は同様の機能の部品を指すことを理解すべきである。
【0022】
[0026]単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明確に他に示していない限りにおいては、複数の指示物を包含する。
【0023】
[0027]本明細書及び特許請求の範囲において用いる「含む」、「挙げられる」、「有し」、「有する」、「し得る」、「含有する」の用語、及びそれらの変形体は、言及された成分/工程の存在を必要とし、他の成分/工程の存在を容認する、非限定型の移行句、語、又は文言であることを意図している。しかしながら、かかる記載は、組成物又はプロセスを、列挙された成分/工程「から構成され(からなり)」及びそれら「から実質的に構成され(から実質的になり)」、言及された成分/工程のみが、それらからもたらされ得る不可避的不純物と共に存在することを容認し、他の成分/工程を排除する組成物又はプロセスを記載するものとしても解釈すべきである。
【0024】
[0028]本出願の明細書及び請求の範囲における数値は、同じ有効数字数に縮小した場合に同じである数値、並びにその値を求めるための本明細書中に記載されているタイプの通常の測定技術の実験誤差未満だけ示されている値と異なる数値を包含すると理解すべきである。
【0025】
[0029]本明細書に開示される全ての範囲は、示されている端点を包含し、独立して組み合わせることができる(例えば、「2グラム~10グラム」の範囲は、端点の2グラム及び10グラム、並びに全ての中間値を包含する)。
【0026】
[0030]「約」及び「実質的に」のような1つ又は複数の用語によって修飾されている値は、示されている正確な値に限定されない可能性がある。近似の語は、その値を測定するための装置の正確性に対応する可能性がある。「約」という修飾語はまた、2つの端点の絶対値によって規定される範囲を開示するものとも考えるべきである。例えば、「約2~約4」という表現は、「2~4」の範囲も開示する。「約」という用語は、示された数のプラス又はマイナス10%を指し得る。
【0027】
[0031]本開示は、特定のプロセス工程に関する温度を指すことがある。これらは、一般に熱源(例えば加熱炉)を設定する温度を指し、熱に曝露される材料によって達成されなければならない温度を必ずしも指さないことに留意されたい。
【0028】
[0032]本発明は、ニッケル、ケイ素、クロム、マンガン、及びジルコニウムを含む銅合金に関する。かかる合金は、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有し、これは容易に達成できない強度と電気伝導率の組み合わせである。これにより、熱管理用途における使用が可能になる。望ましくは、本合金は成形可能であり、打抜加工可能であり、ベリリウムを含まない。
【0029】
[0033]ニッケルは、約1.0重量%~約4重量%のニッケル、例えば約1.0重量%~約2.0重量%、又は約1.2重量%~約1.4重量%のニッケルの量で銅合金中に存在させることができる。
【0030】
[0034]ケイ素は、約0.2重量%~約2重量%、例えば約0.2重量%~約1重量%、又は約0.3重量%~約0.4重量%の量で銅合金中に存在させることができる。
【0031】
[0035]クロムは、約0.1重量%~約1重量%、例えば約0.1重量%~約0.4重量%、或いは約0.25重量%又は約0.3重量%~約0.4重量%の量で銅合金中に存在させることができる。
【0032】
[0036]マンガンは、約0.05重量%~約0.5重量%、例えば約0.05重量%~約0.2重量%、又は約0.08重量%~約0.12重量%の量で銅合金中に存在させることができる。
【0033】
[0037]ジルコニウムは、約0.01重量%~約0.4重量%、例えば約0.01重量%~約0.15重量%、又は約0.10重量%~約0.4重量%、或いは約0.02重量%~約0.06重量%の量で銅合金中に存在させることができる。
【0034】
[0038]銅合金の残余は、不純物を除いて銅である。言い換えれば、銅は、約92.3重量%~約98.7重量%、或いは少なくとも92重量%、少なくとも94重量%、又は少なくとも96重量%の量で存在する。それぞれの元素のこれらの量の任意の組み合わせが意図される。
【0035】
[0039]幾つかの特定の実施形態においては、本銅合金は、約1.0重量%~約4重量%のニッケル;約0.2重量%~約2重量%のケイ素;約0.1重量%~約1重量%のクロム;約0.05重量%~約0.5重量%のマンガン;約0.01重量%~約0.4重量%のジルコニウム;及び残余量の銅;を含む。
【0036】
[0040]幾つかの特定の実施形態においては、本銅合金は、約1.0重量%~約2重量%のニッケル;約0.2重量%~約1重量%のケイ素;約0.1重量%~約0.4重量%のクロム;約0.05重量%~約0.2重量%のマンガン;約0.1重量%~約0.4重量%のジルコニウム;及び残余量の銅;を含む。
【0037】
[0041]幾つかの特定の実施形態においては、本銅合金は、約1.2重量%~約1.4重量%のニッケル;約0.3重量%~約4重量%のケイ素;約0.3重量%~約0.4重量%のクロム;約0.08重量%~約0.12重量%のマンガン;約0.02重量%~約0.06重量%のジルコニウム;及び残余量の銅;を含む。
【0038】
[0042]他の具体的な実施形態においては、本銅合金は、約1.2重量%のニッケル;約0.4重量%のケイ素;約0.25重量%のクロム;約0.08重量%のマンガン;約0.02重量%のジルコニウム;及び残余量の銅;を含む。
【0039】
[0043]本銅合金はまた、多少の不純物を有していてもよいが、望ましくは有しない。不純物としては、ベリリウム、チタン、マグネシウム、及びホウ素が挙げられる。これらの元素の幾つかは、時には特定の目的のために加工中に加えられる。例えば、ホウ素及び鉄を使用して、等軸晶の形成を更に増大させ、また、溶体化熱処理中のマトリクス中のNi及びSnの拡散速度の非類似性を減少させることもできる。マグネシウムは、脱酸剤として働かせることができる。本発明の製造方法においては、これらの元素は理想的には使用しない。本発明の目的のためには、これらの元素の0.01重量%未満の量は不可避的不純物であるとみなすべきであり、即ちそれらの存在は意図されておらず、又は所望されていない。幾つかの実施形態は鉄及びコバルトを更に含んでいてよいが、望ましくは含まない。幾つかの実施形態は、0.05重量%以下の鉄及び/又はコバルトを含んでいてよい。しかしながら、好ましい実施形態は、本明細書に開示されるように、これらの2つの元素の不存在下において性能及び特性特徴を満たす。。
【0040】
[0044]本発明のCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金は、複数の強化機構を利用するために加工する。合金を冷間加工し、次に溶体化焼鈍して結晶粒を小さく且つ微細に保持する。次に、合金を時効処理して種々の析出物を形成させる。これらの析出物としては、Ni-Si析出物、Cr-Zr-Si析出物、及び/又はCr-Ni-Mn-Si析出物を挙げることができる。冷間加工は、結晶粒界上に析出物を出現させる転位ネットワークを生成させ、これが微細な結晶粒度に固定される。本発明の方法は、概して(1)Cu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金を冷間加工すること;(2)冷間加工した合金を溶体化焼鈍すること;及び(3)溶体化焼鈍した合金を時効処理すること;を含む。
【0041】
[0045]冷間加工は、通常は室温付近において行う金属成形プロセスであり、合金をロール、ダイに通すか、又は別の形態で冷間加工して、合金の断面を減少させ、断面寸法を均一にする。これにより合金の強度が増加する。実施する冷間加工の程度は、厚さの減少%又は面積の減少%で示され、本発明においては%CWと呼ぶ。本方法においては、合金は初期鋳造状態で与えて、次に約85%~約95%の%CWまで冷間加工する。
【0042】
[0046]溶体化焼鈍は、析出硬化性合金を、微細構造を単一相に変換するのに十分に高い温度に加熱することを含む。室温への急冷によって、合金が過飽和状態で維持され、これにより合金が軟質且つ延性になり、これによって結晶粒度の調節が促進されて、合金が時効処理に備えられる。その後に過飽和固溶体を加熱することによって、強化相の析出が可能になり、合金が硬化する。本方法においては、冷間加工の後に、冷間加工した合金を、約900℃~約1000℃、又は約900℃~約950℃、又は約925℃~約975℃、又は約950℃~約1000℃、又は約925℃~約950℃、又は約9750℃~約1000℃の温度において溶体化焼鈍する。溶体化焼鈍は、約5分~約20分、又は約5分~約15分、又は約5分~約10分、又は約10分~約20分、又は約10分~約15分、又は約15分~約20分の時間行うことができる。
【0043】
[0047]時効処理は、結晶格子中の欠陥の移動を妨げる不純物相の規則化及び微粒子(即ち析出物)を生成する熱処理技術である。これによって合金が硬化する。本方法においては、溶体化焼鈍の後、合金を、約400℃~約460℃(約752°F~約860°F)、又は約415℃~約460℃、又は約430℃~約460℃、又は約415℃~約445℃、又は約445℃~約460℃の温度で時効処理する。時効処理は、約6時間~約60時間、又は約6時間~約30時間、又は約6時間~約24時間、又は約40時間~約56時間、又は約6時間~約12時間、又は約6時間~約18時間の時間行うことができる。時効処理は複数の工程で行うことができ、それぞれの工程の温度はこれらの記載された範囲内であり、複数の工程の合計時間はこれらの記載された範囲内であることに留意されたい。望ましくは、時効処理は100%水素雰囲気中で行う。
【0044】
[0048]得られる銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム(Cu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr)合金は、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの電気伝導率を有する。幾つかの実施形態においては、本合金は、少なくとも82ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも49%IACSの電気伝導率の組み合わせを有する。0.2%オフセット耐力は、ASTM-E8にしたがって測定される。特定の実施形態においては、本合金は、少なくとも80ksi~約95ksi、又は少なくとも82ksi、又は少なくとも84ksiの0.2%オフセット耐力を有する。幾つかのより具体的な実施形態においては、本合金は、少なくとも48%IACS、又は少なくとも49%IACS、又は少なくとも50%IACSの電気伝導率を有する。他の実施形態においては、本合金は、少なくとも48%IACS~約55%IACSの電気伝導率を有する。
【0045】
[0049]本発明のCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金はまた、少なくとも2000万psi(20Msi)の弾性率も有する。弾性率は、ASTM-E111-17にしたがって測定される。弾性率は約22Msi以下であってよい。本発明のCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金はまた、少なくとも88ksi、又は少なくとも90ksi、又は少なくとも92ksiの極限引張強さ(UTS)も有し得る。極限引張強さは、ASTM-E8にしたがって測定される。本発明のCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金はまた、少なくとも200W/m・Kの熱伝導率も有し得る。
【0046】
[0050]本発明のCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金はまた、少なくとも5%、又は少なくとも6%、又は少なくとも8%、又は少なくとも10%の%の全破断伸び(%TE)も有し得る。この値は、合金を破断する前にどれだけ多く延伸することができるかを測るものであり、成形性の大まかな指標である。%TEもASTM-E8にしたがって測定される。或いは、本発明のCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金は、室温(22℃)において測定して少なくとも5%の延性を有し得る。より具体的な実施形態においては、本合金は少なくとも5%乃至約15%の延性を有する。
【0047】
[0051]本発明のCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金は、或いは0.4/1以下の成形性比を有し得る。良好な成形性は、通常は成形性比又はR/t比によって測定される。これは、破損のない厚さ(t)の片において90°の湾曲を形成するために必要な最小内側曲率半径(R)を規定し、即ち成形性比はR/tに等しい。良好な成形性を有する材料は低い成形性比(即ち低いR/t)を有し、言い換えればより低いR/tがより良好である。成形性比は90°Vブロック試験を使用して測定することができ、ここでは与えられた曲率半径を有するパンチを使用して、試験片を90°ダイ中に強制的に押し込み、次に曲げの外半径を亀裂に関して検査する。成形性比はまた、縦方向(良好な方法)の成形性と横方向(悪い方法)の成形性との比、又はGW/BWとして報告することもできる。
【0048】
[0052]本発明のCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金に関しては、上記で議論した0.2%オフセット耐力、電気伝導率、弾性率、極限引張強さ、%TE、延性、及び成形性比の任意の組合せが意図される。
【0049】
[0053]特定の実施形態においては、本発明のCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金は、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力、少なくとも48%IACSの導電率、少なくとも10%の%TE、及び少なくとも20Msiの引張弾性率を有する。
【0050】
[0054]特定の実施形態においては、本発明のCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金は、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力、少なくとも49%IACSの導電率、及び少なくとも90ksiのUTSを有する。
【0051】
[0055]特定の実施形態においては、本発明のCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金は、少なくとも84ksiの0.2%オフセット耐力、少なくとも49%IACSの導電率、少なくとも8%の%TE、及び少なくとも20Msiの引張弾性率を有する。
【0052】
[0056]特定の実施形態においては、本発明のCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金は、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力、少なくとも50%IACSの導電率、少なくとも10%の%TE、及び少なくとも20Msiの引張弾性率を有する。
【0053】
[0057]本発明のCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金は、良好な耐力及び高い電気伝導率の組み合わせを有する。本合金は、片、ワイヤ、ロッド、チューブ、及び棒材として与えることができる。本合金はまた、はんだ付け性が高く、他の材料で容易にメッキされる。例えば片を最終物品の所望の形状、又は最終物品の形状に曲げることができる中間形状に打抜加工することによって物品を形成することができる。物品は、形成前又は形成後のいずれかにおいて、例えばスズ又は金或いは他の材料でオーバーコートして、更なる所望の特性を与えることができる。
【0054】
[0058]本合金は例えば、高い強度及び高い電気伝導性が望ましい、電気コネクタ;電子コネクタ;端子接点;又は電力接点を形成するために使用することができる。具体的な物品の例としては、携帯電話におけるヒートシンク;ワイヤリングハーネス端子;電気自動車充電器接点;高電圧/電流/電力端子接点;電力コネクタ接点;ミッドプレーンコネクタ;バックプレーンコネクタ;カードエッジコネクタ;光起電システムコネクタ;電気機器電力接点;コンピュータ電力接点;ヒートスプレッダ;ブッシング又はベアリング表面;及び電子装置又は電気装置の概して任意の部品を挙げることができる。
【実施例
【0055】
[0059]以下の実施例は、本発明の合金、方法、物品、及び特性を例示するために与える。実施例は単に例示的なものであり、本発明を、そこに示された材料、条件、又はプロセスパラメータに限定することは意図しない。
【0056】
実施例1
[0060]Cu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金を鋳造し、上記に記載のように加工して、約15インチの幅を有する片を得た。その特性を、内側及び外側ラップ(inner and outer wraps)の幅を横切る6つの位置において測定し、その後平均化した。これらの値は、84.3ksiの0.2%オフセット耐力、10.4%の%TE、21Msiの引張弾性率、及び50.3%IACSの導電率であった。R/t比は0.4/1であった。
【0057】
[0061]図1は、加工後の合金の光学画像である。代表的な結晶粒及び幾つかの加工跡が視認される。幾つかのNi-Crケイ化物が視認される。
【0058】
[0062]図2は、BSE-SEM画像である。暗い点はCr-Ni-Mn-Siケイ化物である。これらのケイ化物は、約100ナノメートル~約200nmのオーダーの粒径を有する。それらの存在はユニークであり、それらの小さいサイズは通常ではない。これらのケイ化物は、図1においては視認されないことに留意されたい。
【0059】
実施例2
[0063]Cu-1.23Ni-0.38Si-0.23Cr-0.08Mn-0.02Zr合金を鋳造し、約85%~約95%の%CWまで冷間加工し、約900℃~約1000℃の温度において溶体化焼鈍した後、2回時効処理した。最初の時効処理は、800°F、815°F、又は825°F(427℃、435℃、441℃)のいずれかにおいて24時間行った。2回目の時効処理は、800°F(427℃)において6時間行った。合金の0.2%オフセット耐力(YS)及び電気伝導率(%IACS)を、2回目の時効処理中の種々の時点において測定し、3つのグラフにおいて示す。
【0060】
[0064]図3は、1回目の時効処理が800°F(427℃)の温度であった場合の、2回目の時効処理中に測定されたYS及び%IACSを示す。2回目の時効処理中における約12時間において、YSは90.2ksiであり、導電率は45%IACSであった。18時間後、YSは65.5ksiに減少したが、導電率は52.8%IACSに増加した。
【0061】
[0065]図4は、1回目の時効処理が815°F(435℃)の温度であった場合の、2回目の時効処理中に測定されたYS及び%IACSを示す。12時間において、YSは86.4ksiであり、導電率は47.3%IACSと測定された。18時間において、YSは86.6ksiであり、導電率は51%IACSと測定された。
【0062】
[0066]図5は、1回目の時効処理が825°F(441℃)の温度であった場合の、2回目の時効処理中に測定されたYS及び%IACSを示す。12時間において、YSは79ksiであり、導電率は48.4%IACSと測定された。18時間において、YSは73.5ksiであり、導電率は50.5%IACSと測定された。
【0063】
[0067]引張試験及び導電率試験の選択された結果を下表1に示す。800°Fにおけるより長い時効処理は、%IACSによって測定されるように、より高い導電率をもたらし、0.2%オフセット耐力を減少させた。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例3
[0068]本発明において使用するCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金の組成を求めるために化学分析を行った。分析は、<0.01重量%のベリリウム、0.01重量%のコバルト、1.22重量%のニッケル、0.02重量%の鉄、0.38重量%のケイ素、<0.01重量%のアルミニウム、<0.01重量%のスズ、<0.01重量%の亜鉛、0.23重量%のクロム、<0.01重量%の鉛、0.08重量%のマンガン、0.02重量%のジルコニウム、及び残余量の銅の組成を示した。示される量は小数第2位まで報告されている。したがって、丸めによってここに示されるそれぞれの元素の報告された量が影響を受ける可能性がある。
【0066】
実施例4
[0069]実施例3において記載したCu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金の片を、約0.008インチに圧延した。次に、この合金片を約850°Fにおいて3時間時効処理した。Cu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金、並びに3種類の他の銅合金:C18150(Cu-1.0Cr-0.25Zr);C18140M(Cu-0.6Cr-0.1Ag-0.1Ni-0.07Si);及びC18070(Cu-0.7Cr-0.1Ag-0.05Ti-0.02Si)について、極限引張強さ(UTS)(ksi)、0.2%オフセット耐力(YS)(ksi)、破断伸び%(%TE)、導電率(%IACS及び抵抗率によって測定)、及び硬度を評価した。結果を下表2に概説する。Cu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金は、試験した他の合金と比較して、向上した引張強さ及び0.2%オフセット耐力を有していた。本発明の合金はまた、他の合金と比較して増加した抵抗率及び硬度も有していた。
【0067】
【表2】
【0068】
実施例5
[0070]C18140M(Cu-0.6Cr-0.1Ag-0.1Ni-0.07Si)合金、Cu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr(実施例3の組成量)、C18070(Cu-0.7Cr-0.1Ag-0.05Ti-0.02Si)合金、及びC18150(Cu-1.0Cr-0.5Zr)合金の試料を、約70%の%CWまで冷間加工した。極限引張強さ、0.2%オフセット耐力、及び%伸びを、室温において測定した。それぞれの合金は、コイル状にした長い片の形態であった。測定値は、それぞれの片の内径(ID)及び外径(OD)においてとり、これは鋳造運転の開始時(ID)及び鋳造運転の終了時(OD)に対応している。これらの試験の結果を下表3に示す。焼鈍の後、本発明の合金は、Cu-1.0Cr-0.5Zr-ID合金を除く他の合金のものよりも大きい極限引張強さを有していた。また、耐力及び%伸びは焼鈍後の他の合金と同等であった。
【0069】
[0071]次に、合金を850°Fの加熱炉中で3時間時効処理した。試料は、加熱炉から取り出したら水で急冷した。強度及び導電率試験の結果を表3に示す。全ての合金は、圧延及び時効処理すると焼鈍後と比べて向上した極限引張強さを有していた。Cu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金は、他の合金と比較して最も高い引張強さを有していた。この合金はまた、他の合金と比較して最も低い%IACS及び最も高い抵抗率も有していた。本発明の合金は、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力を示した唯一の合金であった。
【0070】
【表3】
【0071】
[0072]また、ロックウェル硬度15T試験(15T)及びビッカース硬度試験(HV)を使用して、それぞれの合金の硬度も評価した。結果を下表4に示す。焼鈍後は、本発明の合金は、ロックウェル15Tスケールによって測定して、C18150(Cu-1.0Cr-0.5Zr)合金と同等の平均硬度を有していた。ビッカース硬度試験によって測定して、Cu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr合金は、(他の焼鈍後の合金と比較して)、並びに圧延及び時効処理後に(圧延及び時効処理後の他の合金と比較して)、最も高い平均高度を有していた。
【0072】
【表4】
【0073】
実施例6
[0073]Cu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr(実施例3における組成量)合金の4つの試料を、800°Fの加熱炉内に配置した。3時間後、試料の2つを加熱炉から取り出し、水で急冷した。他の2つの試料は、合計で6時間後に加熱炉から取り出し、次に水で急冷した。加工及び時効処理後に、極限引張強度さ、耐力、%TE、%IACS、硬度、及び抵抗率を含む幾つかの特性を評価した。これらの試験の結果を下表5に示す。合金を6時間時効処理すると、93.3及び92.8ksiの極限引張強さ測定値、87.5及び87.2ksiの0.2%オフセット耐力測定値、及び198.9HVの平均硬度が得られた。さらに、6時間の時効処理により、3.91μΩ・cm及び3.88μΩ・cmの抵抗率測定値を有する合金が得られた。
【0074】
【表5】
【0075】
実施例7
[0074]Cu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr(実施例3における組成量)合金の6つの試料を、825°Fの加熱炉内に配置した。3時間、6時間、及び12時間の間隔のそれぞれにおいて2つの試料を取り出し、取り出したら水で急冷した。極限引張強さ、耐力、伸び、%IACS、硬度、及び抵抗率を含む幾つかの特性を評価した。これらの試験の結果を下表6に示す。極限引張強さ及び耐力は、時効処理時間がより長いと減少する傾向があった。%IACSは、時効処理時間がより長いと増加する傾向があった。6時間の時効処理後に、合金は、ビッカース硬度試験によって測定して最も高い平均硬度を有していた。抵抗率は、時効処理時間がより長いと減少する傾向があった。
【0076】
【表6】
【0077】
実施例8
[0075]Cu-Ni-Si-Cr-Mn-Zr(実施例3の組成量)合金の4つの試料を冷間加工し、焼鈍した。試料を825°Fの加熱炉内に6時間配置した。次に、加熱炉の温度を800°Fに低下させ、これには30分~60分かかった。試料の2つは、825°Fでの加熱後に更に6時間加熱炉内に保持し、合計で12時間の加熱炉内時間であった。残りの2つの試料は、825°Fでの加熱後に12時間加熱炉内に保持し、合計で18時間の加熱炉内時間であった。引張強さ、硬度(5回の測定値の平均)、及び導電率を評価し、その結果を下表7に示す。12時間の時効処理においては、合金は、83.1ksi及び83.3ksiの0.2%オフセット耐力測定値を有し;合金は、49.3%IACS及び49.1%IACSの導電率を有していた。より長い時効処理は、極限引張強さ、耐力、及び硬度を低下させる傾向があった。18時間の時効処理は、12時間と比較して増加した抵抗率及び%伸びを与えた。12時間及び18時間の時効処理の両方において、合金は48%より高い%IACSを有していた。
【0078】
【表7】
【0079】
実施例9
[0076]C18140M(Cu-0.Cr-0.1Ag-0.1Ni-0.07Si)、C18070(Cu-0.7Cr-0.1Ag-0.05Ti-0.02Si)、C18150(Cu-1.0Cr-0.25Zr)合金のそれぞれの4つの試料を切断した。受領したままの合金について、導電率及び引張りの測定を行った。次に、残りの試料を825°Fにおいて3時間加熱した。次に、これらの試料について引張強さと導電率の測定を行った。これらの試験の結果を下表8に示す。試験した合金のいずれも、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力を有していなかった。時効処理後のみに、合金は少なくとも48%IACSの導電率を有していた。
【0080】
【表8】
【0081】
実施例10
[0077]厚さ約0.008インチのC18070(Cu-0.7Cr-0.1Ag-0.05Ti-0.02Si)合金の2つの試料を、6時間熱処理した。試料の1つは825°Fにおいて熱処理した。他方の試料は800°Fにおいて熱処理した。加熱炉から取り出したら、両方を水で急冷し、それらの引張及び導電特性を評価した。
【0082】
[0078]C18150(Cu-1.0Cr-0.25Zr)合金の8つの試料を取り、次のように熱処理した。2つは900°Fにおいて1時間加熱して水で急冷し;2つは900°Fにおいて2時間加熱して水で急冷し;2つは925°Fにおいて1時間加熱して水で急冷し;2つは925°Fにおいて2時間加熱して水で急冷した。導電率及び引張りの測定を行った。結果を下表9に示す。試験した合金のいずれも、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力を有していなかった。試験したすべての合金は、48%IACSより高い導電率を有していた。
【0083】
【表9】
【0084】
実施例11
[0079]約1.2重量%~約1.4重量%のニッケル;約0.3重量%~約4重量%のケイ素;約0.3重量%~約0.4重量%のクロム;約0.08重量%~約0.12重量%のマンガン;約0.02重量%~約0.06%のジルコニウム;及び残余量の銅;を含む片を、本発明にしたがって製造して試験した。
【0085】
[0080]合金を冷間加工して焼鈍した。試料を825°Fの加熱炉内に6時間配置した。次に、加熱炉の温度を800°Fに低下させ、これには30分~60分かかった。次に、試料を、825°Fの加熱後に更に6時間加熱し、合計で12時間の加熱炉内時間であった。極限引張強さ(UTS)、0.2%オフセット耐力(YS)、全破断伸び(%TE)、弾性率(EM)、電気伝導率(%IACS)の幾つかの特性を、(UTS、耐力、及び成形性は、両方の方向(GW、BW)において)測定した。結果及びそれぞれの片に関するゲージを下表10に示す。
【0086】
【表10】
【0087】
[0081]代表的な実施形態を参照して本発明を記載した。上述の詳細な説明を読み且つ理解すれば、修正及び変更が第三者に想到されるであろう。本発明は、添付の特許許請求の範囲又はその均等物の範囲内にある限りにおいて、かかるすべての修正及び変更を含むものと解釈されると意図される。
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
[態様1]
銅合金であって:
約1.0重量%~約4重量%のニッケル;
約0.2重量%~約2重量%のケイ素;
約0.1重量%~約1重量%のクロム;
約0.05重量%~約0.5重量%のマンガン;
約0.01重量%~約0.2重量%のジルコニウム;及び
残余量の銅;
を含み;
少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有する、前記銅合金。
[態様2]
前記合金が、約1.2重量%~約1.4重量%のニッケル;約0.3重量%~約0.4重量%のケイ素;約0.3重量%~約0.4重量%のクロム;約0.08重量%~約0.12重量%のマンガン;約0.02重量%~約0.06重量%のジルコニウム;及び残余量の銅;を含む、態様1に記載の銅合金。
[態様3]
前記合金が、ベリリウム、チタン、鉄、コバルト、マグネシウム、又はホウ素を含まない、態様1に記載の銅合金。
[態様4]
前記合金が、少なくとも88ksiの極限引張強さを有する、態様1に記載の銅合金。
[態様5]
前記合金が少なくとも2000万psiの弾性率を有する、態様1に記載の銅合金。
[態様6]
前記合金が、少なくとも8%の全伸び%を有する、態様1に記載の銅合金。
[態様7]
前記合金が、少なくとも5%乃至約15%の延性を有する、態様1に記載の銅合金。
[態様8]
前記合金が、0.4/1以下の成形性比を有する、態様1に記載の銅合金。
[態様9]
ケイ素、クロム、ニッケル、及びマンガンから形成されるケイ化物を含む、態様1に記載の銅合金。
[態様10]
少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力、少なくとも48%IACSの導電率、及び少なくとも8%の%TEを有する、態様1に記載の銅合金。
[態様11]
少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力、少なくとも49%IACSの導電率、及び少なくとも90ksiのUTSを有する、態様1に記載の銅合金。
[態様12]
ベリリウムを含まず、少なくとも80ksiの0.2%のオフセット耐力、及び少なくとも48%IACSの導電率を有する銅合金を製造する方法であって、
銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金を、約80%~約95%の冷間加工率(%CW)まで冷間加工すること;
冷間加工された前記銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金を溶体化焼鈍すること;及び
溶体化焼鈍した前記銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金を時効処理して、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有する前記銅合金を得ること;
を含む、前記方法。
[態様13]
前記溶体化焼鈍を、約900℃~約1000℃の温度において約5分~約20分間の時間行う、態様12に記載の方法。
[態様14]
前記時効処理を、約400℃~約460℃の温度において約6時間~約60時間の時間行う、態様12に記載の方法。
[態様15]
前記時効処理を、約400℃~約460℃の温度において約6時間~約18時間の時間行う、態様12に記載の方法。
[態様16]
態様12に記載の方法によって形成される銅合金。
[態様17]
銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金から形成される物品であって、前記合金は、少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有する、前記物品。
[態様18]
前記合金が、
約1.0重量%~約4重量%のニッケル;
約0.2重量%~約2重量%のケイ素;
約0.1重量%~約1重量%のクロム;
約0.05重量%~約0.5重量%のマンガン;
約0.01重量%~約0.2重量%のジルコニウム;及び
残余量の銅;
を含む、態様17に記載の物品。
[態様19]
前記物品が、ヒートシンク;電気コネクタ;電子コネクタ;ワイヤリングハーネス端子;電気自動車充電器接点;高電圧/電流/電力端子接点;電力コネクタ接点;ミッドプレーンコネクタ;バックプレーンコネクタ;カードエッジコネクタ;、光起電システムコネクタ;電気器具電力接点;コンピュータ電力接点;ヒートスプレッダ;ブッシング若しくはベアリング表面;又は電子デバイス若しくは電気デバイス用の部品;である、態様17に記載の物品。
[態様20]
少なくとも80ksiの0.2%オフセット耐力及び少なくとも48%IACSの導電率を有する銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金を使用する方法であって、
前記銅-ニッケル-ケイ素-クロム-マンガン-ジルコニウム合金の片から物品を打抜加工すること;
を含む、前記方法。
図1
図2
図3
図4
図5