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特許7574190分極性基を含む電気活性フルオロポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】分極性基を含む電気活性フルオロポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20241021BHJP
   C09D 11/106 20140101ALI20241021BHJP
   C09D 127/22 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
C08F8/00
C09D11/106
C09D127/22
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021534696
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 FR2019053075
(87)【国際公開番号】W WO2020128266
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】1873054
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】513277212
【氏名又は名称】アンスティチュ ポリテクニーク ドゥ ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】311016455
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドミンゲス・ドス・サントス,ファブリス
(72)【発明者】
【氏名】スレスタン,ティボー
(72)【発明者】
【氏名】アドジオアヌー,ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】クルテ,エリク
(72)【発明者】
【氏名】ブロション,シリル
(72)【発明者】
【氏名】カリトシス,コンスタンティノス
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-171123(JP,A)
【文献】国際公開第2008/038682(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/016665(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00 - 8/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-式(I)のフッ素化単位:
(I)-CX-CX
(式中、X、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択される)と、
-式(III)のフッ素化単位:
(III)-CX-CXZ-
(式中、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択され、Zは、式-Y-Ar-R(式中、Yは、O原子又はS原子又はNH基を表し、Arは、アリール基を表し、Rは、1~30個の炭素原子を含む単座基又は二座基である)の分極性基である)と
を含み、
式(I)の単位が、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン及びそれらの組み合わせから選択されるモノマーに由来し、
5J/g以上の融解熱を有する
コポリマー。
【請求項2】
6J/g以上の融解熱を有する、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項3】
式(I)のフッ素化単位が、フッ化ビニリデンモノマーに由来する単位及びトリフルオロエチレンモノマーに由来する単位の両方を含む、請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項4】
単位の総量に対する式(I)のフッ素化単位のモル割合が、99%未満である、請求項1~の一項に記載のコポリマー。
【請求項5】
式(II)のフッ素化単位:
(II)-CX-CXZ’-
(式中、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択され、Z’はCl、Br及びIから選択される)
をさらに含む、請求項1~の一項に記載のコポリマー。
【請求項6】
式(II)のフッ素化単位が、クロロトリフルオロエチレン及びクロロフルオロエチレンから選択されるモノマーに由来する、請求項に記載のコポリマー。
【請求項7】
式(II)のフッ素化単位が、1-クロロ-1-フルオロエチレンに由来する、請求項6に記載のコポリマー。
【請求項8】
単位の総量に対する式(II)及び(III)の単位の総モル割合が、少なくとも1%である、請求項5~7の一項に記載のコポリマー。
【請求項9】
基Arが、Yに対してオルト位、及び/又はYに対してメタ位、及び/又はYに対してパラ位で基Rにより置換される、請求項1~8の一項に記載のコポリマー。
【請求項10】
基Rが、カルボニル官能基を含む、請求項1~9の一項に記載のコポリマー。
【請求項11】
基Arがメタ位で置換されたフェニルであり、基Rが非置換ベンゾイル基であるか、又は基Arがパラ位で置換されたフェニルであり、基Rが非置換ベンゾイル基であるか、又はArがパラ位で置換されたフェニルであり、基Rがヒドロキシル基でパラ位で置換されたベンゾイル基であるか、又は基Arがメタ位で置換されたフェニルであり、基Rがアセチル基であるか、又は基Arがパラ位で置換されたフェニルであり、基Rはアセチル基であるか、又は基Arがオルト位で置換されたフェニルであり、基Rがヒドロキシル基でカルボニル基にα置換されたフェニルアセチル基であるか、又は基Arがメタ位で置換されたフェニルであり、基Rがヒドロキシル基でカルボニル基に対してα置換されたフェニルアセチル基であるか、又は基Arがオルト位で置換されたフェニルであり、基Rがホスフィンオキシドアシル基であるか、又は基Arがメタ位で置換されたフェニルであり、基Rがホスフィンオキシドアシル基であるか、又は基Arがパラ位で置換されたフェニルであり、基Rがホスフィンオキシドアシル基であるか、又は基Arがオルト位及びメタ位で置換されたフェニルであり、基Rがフタロイル基である、請求項10に記載のコポリマー。
【請求項12】
リラクサー強誘電体である、請求項1~11のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項13】
請求項1~12の一項に記載のコポリマーの調製方法であって、
-式(I)のフッ素化単位:
(I)-CX-CX
(式中、X、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択される)と、
式(II)のフッ素化単位:
(II)-CX-CXZ’-
(式中、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択され、Z’はCl、Br及びIから選択される)と
を含む出発コポリマーを提供することと、
-前記出発コポリマーを、式HY-Ar-R(式中、Yは、O原子又はS原子又はNH基を表し、Arは、アリール基を表し、Rは、1~30個の炭素原子を含む単座基又は二座基である)の分極性分子と接触させることと
を含む、調製方法。
【請求項14】
前記接触させることが、溶媒中で行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記出発コポリマーを前記分極性分子と接触させる前に、前記分極性分子を塩基と反応させる工程をさらに含む、請求項13及び14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記出発コポリマーを前記分極性分子と接触させることが、20~120℃の温度で行われる、請求項13~15の一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~12の一項に記載の第1のコポリマーと、前記第1のコポリマーとは異なる第2のコポリマーとを含む組成物であって、前記第2のコポリマーもまた請求項1~11の一項に記載のものであるか、又は前記第2のコポリマーが、分極性基を含まず、
式(I)のフッ素化単位:
(I)-CX-CX
(式中、X、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択される)と、
-式(II)のフッ素化単位:
(II)-CX6-CXZ’-
(式中、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択され、Z’はCl、Br及びIから選択される)と
を含む、組成物。
【請求項18】
前記第2のコポリマーの式(I)のフッ素化単位が、フッ化ビニリデン及び/又はトリフルオロエチレンから選択されるモノマーに由来する、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記第2のコポリマーが、フッ化ビニリデンモノマーに由来する式(I)のフッ素化単位及びトリフルオロエチレンモノマーに由来する式(I)のフッ素化単位の両方を含む、請求項17又は18に記載の組成物。
【請求項20】
前記第2のコポリマーが、クロロトリフルオロエチレン及びクロロフルオロエチレンから選択されるモノマーに由来する式(II)のフッ素化単位を含む、請求項17~19の一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記第2のコポリマーが、1-クロロ-1-フルオロエチレンに由来する式(II)のフッ素化単位を含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
量を前記第1のコポリマー及び前記第2のコポリマーの合計に対して表して、5%~95重量%の第1のコポリマー及び5%~95重量%の第2のコポリマーを含む、請求項17~21の一項に記載の組成物。
【請求項23】
請求項1~12の一項に記載のコポリマーを含むか、又は請求項17~22の一項に記載の組成物を含む、液体ビヒクル中のコポリマーの溶液又は分散液であるインク。
【請求項24】
フィルムを製造する方法であって、請求項1~12の一項に記載のコポリマー、又は請求項17~22の一項に記載の組成物、又は請求項23に記載のインクを基材上に堆積させることを含む方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法を介して得られたフィルム。
【請求項26】
請求項25に記載のフィルムを含む電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分極性基を含む電気活性フルオロポリマー、その調製方法、及びそれから製造されるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気活性フルオロポリマー又はEAFPは、主にポリフッ化ビニリデン(PVDF)の誘導体である。これに関しては、論文、Vinylidene fluoride-and trifluoroethylene-containing fluorinated electroactive copolymers.How does chemistry impact properties? by Soulestin et al., in Prog.Polym.Sci.2017(DOI:10.1016/j.progpolymsci.2017.04.004)を参照されたい。これらのポリマーは、特に興味深い誘電特性及び電気機械特性を有する。フッ化ビニリデン(VDF)及びトリフルオロエチレン(TrFE)モノマーから形成されたフッ素化コポリマーは、それらの圧電特性、焦電特性及び強誘電特性のために特に興味深い。それらは、特に、機械的又は熱的エネルギーの電気エネルギーへの変換、又はその逆を可能にする。
【0003】
これらのフッ素化コポリマーのいくつかはまた、塩素、臭素又はヨウ素置換基を有する別のモノマー、特にクロロトリフルオロエチレン(CTFE)又はクロロフルオロエチレン(CFE)から得られる単位を含む。このようなコポリマーは、有用な一連の特性、すなわちリラクサー強誘電性(温度の関数としての比誘電率最大値を特徴とし、これはブロードであり、電界の周波数に依存する)、高比誘電率、高飽和分極、及び半結晶性形態を有する。
【0004】
EAFPは、ポリマー材料としては相対的に高い誘電率(10を超える)を有する。高い誘電率は、これらのポリマーを電子デバイス、特に有機電子デバイス、より具体的には電界効果トランジスタ又は電気熱量デバイスの製造に使用することを可能にする。例えば、誘電率の高いポリマーを使用することにより、半導体層を導電性にするために必要なゲートに印加する必要がある電圧を低減することによって、トランジスタの消費電力を低減することが可能になる。
【0005】
Ellingford et al.in Macromol.Rapid Commun.2018(p.1800340)の総説は、変性誘電エラストマーに関する。この総説は、これらのポリマーの誘電率を改善するために、鎖に沿って極性官能基をグラフトすることによって誘電エラストマーを変性させるための様々な戦略を提示している。グラフト化は、ヒドロシリル化によって、チオールの二重結合への付加によって、アルキンとアジドとの間のクリックケミストリーによって、又は原子移動ラジカル重合によって行うことができる。
【0006】
Wang et al.in Chem.Rev.2018(pages 5690-5754)の総説は、フレキシブルトランジスタの高誘電率材料に関する。EAFPは、このカテゴリーの材料の1つである。
【0007】
Li et al.in Adv.Mater.2009(pages 217-221)の論文は、著しく改善された電気エネルギー密度を有する、強誘電ポリマーとTiOナノ粒子とのナノコンポジットに関し、該強誘電ポリマーはVDFコポリマーである。
【0008】
Wang et al.in J.Pol.Sci.Part B Polym.Phys.2011(pages 1421-1429)の論文には、電気エネルギー貯蔵用のポリマーナノコンポジットが記載されている。この論文によれば、ナノコンポジットは、PVDF系ポリマー及びセラミックフィラーを含み得る。
【0009】
US 7402264は、分極性フラグメントを有するポリマーから製造された複合材と、外部刺激が加えられたときの複合材料の電気機械的機能のためにポリマーに組み込まれたカーボンナノチューブとを含む電気活性材料を記載している。ポリマーは、とりわけ、PVDF又はP(VDF-TrFE)コポリマーであり得る。
【0010】
Zhang et al.in Nature 2002(pages 284-287)の論文は、高比誘電率を有する有機複合アクチュエータ材料を記載している。複合材料は、P(VDF-TrFE)と、さらにポリマー中に分散させた銅フタロシアニンオリゴマーとを含む。
【0011】
US 2016/0145414は、緩和特性を有する少なくとも1種の強誘電性有機ポリマー(とりわけ、PVDFであり得る)と、少なくとも1種のフタラート型可塑剤とを含む複合材に関する。
【0012】
Yin et al.in Eur.Polym.J.2016(pages 88-98)の論文は、改善された電気機械性能を有する可塑剤による変性電歪ポリマーを記載している。したがって、P(VDF-TrFE-CTFE)がポリマーとして使用され、ビス(2-エチルヘキシル)フタレートが可塑剤として使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】米国特許第7402264号明細書
【文献】米国特許出願第2016/0145414号
【非特許文献】
【0014】
【文献】Vinylidene fluoride- and trifluoroethylene-containing fluorinated electroactive copolymers.How does chemistry impact properties? by Soulestin et al., in Prog.Polym.Sci.2017(DOI:10.1016/j.progpolymsci.2017.04.004)
【文献】Ellingford et al. in Macromol.Rapid Commun.2018(p.1800340)
【文献】Wang et al.in Chem.Rev.2018(pages 5690-5754)
【文献】Li et al.in Adv.Mater.2009(pages 217-221)
【文献】Wang et al.in J.Pol.Sci.Part B Polym.Phys.2011(pages 1421-1429)
【文献】Zhang et al.in Nature 2002(pages 284-287)
【文献】Yin et al.in Eur.Polym.J.2016(pages 88-98)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特に有機トランジスタなどの用途、電気熱量デバイス及びアクチュエータにおいて、これらのポリマーの特性を最適化するために、改善された誘電特性を有する電気活性フルオロポリマーを提供する必要が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、第1に、
-式(I)のフッ素化単位:
(I)-CX-CX
(式中、X、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択される)と、
-式(III)のフッ素化単位:
(III)-CX-CXZ-
(式中、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択され、Zは、式-Y-Ar-R(式中、Yは、O原子又はS原子又はNH基を表し、Arは、アリール基、好ましくはフェニル基を表し、Rは、1~30個の炭素原子を含む単座基又は二座基である)の分極性基である);
を含み、
5J/g以上の融解熱を有する
コポリマーに関する。
【0017】
特定の実施形態では、コポリマーは、6J/g以上、好ましくは8J/g以上の融解熱を有する。
【0018】
特定の実施形態では、式(I)の単位は、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン及びそれらの組み合わせから選択されるモノマーに由来する。
【0019】
特定の実施形態では、式(I)のフッ素化単位は、フッ化ビニリデンモノマーに由来する単位及びトリフルオロエチレンモノマーに由来する単位の両方を含み、トリフルオロエチレンモノマーに由来する単位の割合は、フッ化ビニリデンモノマー及びトリフルオロエチレンモノマーに由来する単位の合計に対して、好ましくは15~55mol%である。
【0020】
特定の実施形態では、単位の総量に対する式(I)のフッ素化単位のモル割合は、99%未満、好ましくは95%未満である。
【0021】
特定の実施形態では、コポリマーはまた、式(II)のフッ素化単位を含む:
(II)-CX-CXZ’-
(式中、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択され、Z’はCl、Br及びIから選択される)。
【0022】
特定の実施形態では、式(II)のフッ素化単位は、クロロトリフルオロエチレン及びクロロフルオロエチレン、特に1-クロロ-1-フルオロエチレンから選択されるモノマーに由来する。
【0023】
特定の実施形態では、単位の総量に対する式(II)及び(III)の単位の総モル割合は、少なくとも1%、好ましくは少なくとも5%である。
【0024】
特定の実施形態では、基Arは、Yに対してオルト位、及び/又はYに対してメタ位、及び/又はYに対してパラ位で基Rにより置換される。
【0025】
特定の実施形態では、基Rはカルボニル官能基を含み、好ましくは、アセチル基、置換又は非置換のベンゾイル基、置換又は非置換のフェニルアセチル基、フタロイル基、及びホスフィンオキシドアシル基(ホスフィンは、メチル基、エチル基及びフェニル基から選択される1つ以上の基で置換されている)から選択される。
【0026】
特定の実施形態では、基Arはメタ位で置換されたフェニルであり、基Rは非置換ベンゾイル基であるか、又は基Arはパラ位で置換されたフェニルであり、基Rは非置換ベンゾイル基であるか、又はArはパラ位で置換されたフェニルであり、基Rはヒドロキシル基でパラ位で置換されたベンゾイル基であるか、又は基Arはメタ位で置換されたフェニルであり、基Rはアセチル基であるか、又は基Arはパラ位で置換されたフェニルであり、基Rはアセチル基であるか、又は基Arはオルト位で置換されたフェニルであり、基Rはヒドロキシル基でカルボニル基にα置換されたフェニルアセチル基であるか、又は基Arはメタ位で置換されたフェニルであり、基Rはヒドロキシル基でカルボニル基に対してα置換されたフェニルアセチル基であるか、又は基Arはオルト位で置換されたフェニルであり、基Rはホスフィンオキシドアシル基であるか、又は基Arはメタ位で置換されたフェニルであり、基Rはホスフィンオキシドアシル基であるか、又は基Arはパラ位で置換されたフェニルであり、基Rはホスフィンオキシドアシル基であるか、又は基Arはオルト位及びメタ位で置換されたフェニルであり、基Rはフタロイル基である。
【0027】
本発明はまた、上記コポリマーの調製方法であって、
-式(I)のフッ素化単位:
(I)-CX-CX
(式中、X、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択される)と、
式(II)のフッ素化単位:
(II)-CX-CXZ’-
(式中、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択され、Z’はCl、Br及びIから選択される)と
を含む出発コポリマーを提供することと、
-前記出発コポリマーを、式HY-Ar-R(式中、Yは、O原子又はS原子又はNH基を表し、Arは、アリール基、好ましくはフェニル基を表し、Rは、1~30個の炭素原子を含む単座基又は二座基である)の分極性分子と接触させることと
を含む、調製方法に関する。
【0028】
特定の実施形態では、接触させることは、好ましくは、ジメチルスルホキシド;ジメチルホルムアミド;ジメチルアセトアミド;ケトン、特に、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロペンタノン;フラン、特に、テトラヒドロフラン;エステル、特に、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート;カーボネート、特にジメチルカーボネート;及びホスフェート、特にリン酸トリエチルから選択される溶媒中で行われる。
【0029】
特定の実施形態では、本方法はまた、出発コポリマーを分極性分子と接触させる前に、この分極性分子を塩基と反応させる工程を含み、該塩基は好ましくは炭酸カリウムである。
【0030】
特定の実施形態では、出発コポリマーを分極性分子と接触させることは、20~120℃、好ましくは30~90℃の温度で行われる。
【0031】
本発明は、上記の第1のコポリマーと、該第1のコポリマーとは異なる第2のコポリマーとを含む組成物であって、該第2のコポリマーもまた上記の通りのものであるか、又は第2のコポリマーが分極性基を含まず、
-式(I)のフッ素化単位:
(I)-CX-CX
(式中、X、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択される)と、
-式(II)のフッ素化単位:
(II)-CX6-CXZ’-
(式中、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択され、Z’はCl、Br及びIから選択される)と
を含む、組成物。
【0032】
特定の実施形態では、第2のコポリマーの式(I)のフッ素化単位は、フッ化ビニリデン及び/又はトリフルオロエチレンから選択されるモノマーに由来する。
【0033】
特定の実施形態では、第2のコポリマーは、フッ化ビニリデンモノマーに由来する式(I)のフッ素化単位及びトリフルオロエチレンモノマーに由来する式(I)のフッ素化単位の両方を含み、トリフルオロエチレンモノマーに由来する単位の割合は、好ましくは、フッ化ビニリデンモノマー及びトリフルオロエチレンモノマーに由来する単位の合計に対して、好ましくは15~55mol%である。
【0034】
特定の実施形態では、第2のコポリマーは、クロロトリフルオロエチレン及びクロロフルオロエチレン、特に1-クロロ-1-フルオロエチレンから選択されるモノマーに由来する式(II)のフッ素化単位を含む。
【0035】
特定の実施形態では、組成物は、含有量を第1のコポリマー及び第2のコポリマーの合計に対して表して、5%~95重量%の第1のコポリマー及び5%~95重量%の第2のコポリマーを含み、好ましくは30%~70重量%の第1のコポリマー及び30%~70重量%の第2のコポリマーを含む。
【0036】
本発明はまた、液体ビヒクル中のコポリマーの溶液又は分散物である、上記のコポリマーを含むか、又は上記の組成物を含むインクに関する。
【0037】
本発明はまた、フィルムを製造する方法であって、上記コポリマー又は上記組成物又は上記インクを基材上に堆積させることを含む方法に関する。
【0038】
本発明はまた、上記方法を介して得られるフィルムに関する。
【0039】
本発明はまた、上記フィルムを含む電子デバイスであって、好ましくは、電界効果トランジスタ、メモリデバイス、コンデンサ、センサ、アクチュエータ、電気機械マイクロシステム、電気熱量デバイス及び触覚デバイスから選択される、電子デバイスに関する。
【0040】
本発明は、先行技術の欠点を克服可能にする。より具体的には、本発明は、特に有機トランジスタなどの用途、電気熱量デバイス及びアクチュエータにおいて、これらのポリマーの特性を最適化するために、改善された誘電特性を有する電気活性フルオロポリマーを提供する。
【0041】
これは、分極性基を有する単位を含むコポリマーの使用によって達成される。これらのコポリマーは、分極性基で全体的又は部分的に置換される脱離基(Cl、Br又はI)を有するコポリマーから調製され得る。この置換は、コポリマーと、分極性基を含む分極性分子とを反応させるだけでよい。
【0042】
高い双極子モーメントを有する分極性基の存在は、分子の分極を増加させることを可能にし、それはその誘電率を増加させ、したがって分極性基を有さない同じポリマーと比較した場合にその誘電特性を改善する。しかしながら、ポリマー中に分極性基が過剰な割合で存在すると、ポリマーの結晶性が不十分であるため、誘電率が低下する。本発明によるコポリマーは、5J/g以上の高い融解熱を有するという事実に起因して、分極性基の存在にもかかわらず十分な結晶性を有する。
【0043】
有利には、分極性基を有する変性ポリマーを、未変性ポリマー、すなわち式(I)の単位を含むポリマー、又は式(I)及び式(II)の単位を含み、式(III)の単位は含まないポリマーと組み合わせてもよい。
【0044】
また、有利には、分極性基を有する第1の変性ポリマーを、第1のポリマーとは異なる、分極性基を有する第2の変性ポリマーと組み合わせてもよい。
【0045】
これらの2つの実施形態は、単一のポリマーよりも広い温度範囲にわたって安定な高誘電率のポリマー組成物を得ることを可能にするので、特に有利である。この有利な特徴は、異なるポリマーが異なる温度で誘電率最大値を有し得るという事実に起因する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】4-ヒドロキシベンゾフェノンによる変性の前(破線)及び後(実線)のフルオロポリマーの、赤外吸収スペクトルを示すグラフである。波数(cm-1)を、x軸上に報告する。
図2】4-ヒドロキシベンゾフェノンによる変性の前及び後のフルオロポリマーの、H NMRスペクトルを示すグラフである。化学シフト(ppm)をx軸上に報告する。
図3】4-ヒドロキシベンゾフェノンによる変性の前及び後のフルオロポリマーの、走査熱量測定分析サーモグラムである。熱流束(発熱方向上向き)をy軸に報告し、温度(℃)をx軸に報告する。
図4】4-ヒドロキシベンゾフェノンによる変性の前及び後のフルオロポリマーに関する、1kHzにおける温度の関数としての誘電率の変化を示すグラフである。誘電率をy軸に報告し、温度(℃)をx軸に報告する。
図5】2-ヒドロキシアントラキノンによる変性の前及び後のフルオロポリマーの、走査熱量測定分析サーモグラムである。熱流束(発熱方向上向き)をy軸に報告し、温度(℃)をx軸に報告する。
図6】2-ヒドロキシアントラキノンによる変性の前及び後のフルオロポリマーの、1kHzにおける温度の関数としての誘電率の変化を示すグラフである。誘電率をy軸に報告し、温度(℃)をx軸に報告する。
【発明を実施するための形態】
【0047】
ここで、以下の説明において、本発明を非限定的に、より詳細に説明する。
【0048】
本発明は、これ以降FPポリマーと呼ばれるフルオロポリマーの使用に基づく。これらのFPポリマーは、出発ポリマーとして使用することができ、分極性基をグラフト化するために変性させることができ、このように変性されたフルオロポリマーを、これ以降、MFPポリマーと称する。
【0049】
FPポリマー
本発明によれば、FPポリマーは、
-式(I)のフッ素化単位:
(I)-CX-CX
(式中、X、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択される)と、
-式(II)のフッ素化単位:
(II)-CX-CXZ’-
(式中、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択され、Z’はCl、Br及びIから選択される)と
を含む。
【0050】
式(I)のフッ素化単位は、式CX=CXのモノマーに由来し、式(II)のフッ素化単位は、式CX=CXZ’のモノマーに由来する。
【0051】
式(I)のフッ素化単位は、少なくとも1つのフッ素原子を含む。
【0052】
式(I)のフッ素化単位は、好ましくは5個以下の炭素原子、より好ましくは4個以下の炭素原子、より好ましくは3個以下の炭素原子を含み、及びより好ましくは2個の炭素原子を含む。
【0053】
ある特定の実施形態では、X、X、X及びXの各基は、独立して、H若しくはF原子、又はH及びFから選択される1つ以上の置換基を任意選択的に含むメチル基を表す。
【0054】
ある特定の実施形態では、X、X、X及びXの各基は、独立して、H又はF原子を表す。
【0055】
特に好ましくは、式(I)のフッ素化単位は、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VDF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、トリフルオロプロペン、特に、3,3,3-トリフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、特に2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロブチルエチレン、ペンタフルオロプロペン、特に、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、特に、一般式Rf-O-CF-CF(式中、Rfは、アルキル基、好ましくは、C1-C4のアルキル基(好ましい例は、パーフルオロプロピルビニルエーテルすなわちPPVE、及びパーフルオロメチルビニルエーテルすなわちPMVEである)である)のものから選択されるフッ素化モノマーに由来する。
【0056】
式(I)のフッ素化単位を含む最も好ましいフルオロモノマーは、フッ化ビニリデン(VDF)及びトリフルオロエチレン(TrFE)である。
【0057】
式(II)のフッ素化単位は、少なくとも1つのフッ素原子を含む。
【0058】
式(II)のフッ素化単位は、好ましくは5個以下の炭素原子、より好ましくは4個以下の炭素原子、より好ましくは3個以下の炭素原子を含み、より好ましくは2個の炭素原子を含む。
【0059】
特定の実施形態では、X、X及びXの各基は、独立して、H若しくはF原子、又は、1つ以上のフッ素置換基を任意選択的に含むC1-C3アルキル基を表し、好ましくは、H若しくはF原子、又は、1つ以上のフッ素置換基を任意選択的に含むC1-C2アルキル基、より好ましくはH若しくはF原子、又は、1つ以上のフッ素置換基を任意選択的に含むメチル基を表し、Z’はCl、I及びBrから選択することができる。
【0060】
特定の実施形態では、X、X及びXの各基は、独立して、H若しくはF原子、又は、H及びFから選択される1つ以上の置換基を任意選択的に含むメチル基を表し、Z’はCl、I及びBrから選択することができる。
【0061】
ある特定の実施形態では、X、X及びXの各基は、独立して、H又はF原子を表し、Z’は、Cl、I及びBrから選択することができる。
【0062】
特に好ましくは、式(II)のフッ素化単位は、ブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン及びクロロトリフルオロプロペンから選択されるフルオロモノマーに由来する。クロロフルオロエチレンは、1-クロロ-1-フルオロエチレン又は1-クロロ-2-フルオロエチレンのいずれかを示し得る。1-クロロ-1-フルオロエチレン異性体が好ましい。クロロトリフルオロプロペンは、好ましくは、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン又は2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンである。
【0063】
式(II)のフッ素化単位を含む最も好ましいフルオロモノマーは、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)及びクロロフルオロエチレン、特に1-クロロ-1-フルオロエチレン(CFE)である。
【0064】
特定の実施形態では、FPポリマーは、式(I)のフッ素化単位及び式(II)のフッ素化単位からなる。
【0065】
特定の好ましい変形例では、FPポリマーはP(VDF-CTFE)コポリマーである。
【0066】
特定の好ましい変形例では、FPポリマーはP(TrFE-CTFE)コポリマーである。
【0067】
さらに他の変形例では、いくつかの異なるフルオロモノマーに由来する式(I)のフッ素化単位がFPポリマー中に存在してもよい。
【0068】
FPポリマーは、好ましくは、VDF、TrFE及びCTFEに同時に由来する単位を含む。
【0069】
特定の好ましい変形例では、FPポリマーはP(VDF-TrFE-CTFE)ターポリマーである。
【0070】
又は、FPポリマーは、VDF、TrFE及びCFEに同時に由来する単位を含み得る。
【0071】
特定の変形例では、FPポリマーはP(VDF-TrFE-CFE)ターポリマーであり得る。
【0072】
さらに他の変形例では、いくつかの異なるフルオロモノマーに由来する式(II)のフッ素化単位がFPポリマー中に存在してもよい。
【0073】
さらに他の変形形態では、1つ以上の追加のモノマーに由来する単位、さらに上記のものがFPポリマー中に存在してもよい。
【0074】
TrFEに由来する単位の割合は、VDF及びTrFEに由来する単位の合計に対して、好ましくは5~95mol%であり、特に5~10mol%、又は10~15mol%、又は15~20mol%;又は20~25mol%、又は25~30mol%;又は30~35mol%、又は35~40mol%、又は40~45mol%、又は45~50mol%、又は50~55mol%、又は55~60mol%、又は60~65mol%、又は65~70mol%、又は70~75mol%、又は75~80mol%、又は80~85mol%、又は85~90mol%、又は90~95mol%である。15~55mol%の範囲が特に好ましい。
【0075】
FPポリマー中の式(I)のフッ素化単位の(単位の総量に対する)割合は、99mol%未満、好ましくは95mol%未満であり得る。
【0076】
FPポリマー中の式(I)のフッ素化単位の(単位の総量に対する)割合は、例えば、1~2mol%、又は2~3mol%、又は3~4mol%、又は4~5mol%、又は5~6mol%、又は6~7mol%、又は7~8mol%、又は8~9mol%、又は9~10mol%、又は10~12mol%、又は12~15mol%、又は15~20mol%、又は20~25mol%、又は25~30mol%、又は30~40mol%、又は40~50mol%、又は50~60mol%、又は60~70mol%、又は70~80mol%、又は80~90mol%、又は90~95mol%、又は95~99mol%の範囲であり得る。
【0077】
FPポリマー中の式(II)のフッ素化単位の(単位の総量に対する)割合は、少なくとも1mol%、好ましくは少なくとも5mol%であり得る。
【0078】
FPポリマー中の式(II)のフッ素化単位の(単位の総量に対する)割合は、例えば、1~2mol%、又は2~3mol%、又は3~4mol%、又は4~5mol%、又は5~6mol%、又は6~7mol%、又は7~8mol%、又は8~9mol%、又は9~10mol%、又は10~12mol%、又は12~15mol%、又は15~20mol%、又は20~25mol%、又は25~30mol%、又は30~40mol%、又は40~50mol%、又は50~60mol%、又は60~70mol%、又は70~80mol%、又は80~90mol%、又は90~95mol%、又は95~99mol%、又は99~99.5mol%の範囲であり得る。
【0079】
FPポリマー中の単位のモル組成は、赤外分光法又はRaman分光法などの様々な手段によって決定することができる。蛍光X線分光法などの炭素、フッ素及び塩素又は臭素又はヨウ素元素の元素分析の従来の方法は、ポリマーの質量組成を明確に計算可能にし、それによってモル組成を推定することができる。
【0080】
適切な重溶媒中のポリマー溶液の分析によって、多核、特にプロトン(H)及びフッ素(19F)、NMR技術を使用することもできる。NMRスペクトルは、多核プローブを備えたFT-NMR分光計で記録される。次いで、1つ又は他の核によって生成されたスペクトル中の、様々なモノマーによって示される特定のシグナルが同定される。したがって、例えば、TrFEに由来する単位は、プロトンNMRにおいて、CFH基に特異的な特定のシグナル(約5ppm)を示す。同じことがVDFのCH基(3ppmを中心とする広い未分解ピーク)にも当てはまる。2つのシグナルの相対積分は、2つのモノマーの相対的存在量、すなわちVDF/TrFEモル比を示す。
【0081】
同様に、例えば、TrFEの-CFH基は、フッ素NMRにおいて特徴的で十分に単離されたシグナルを示す。プロトンNMR及びフッ素NMRで得られた様々なシグナルの相対積分の組み合わせは、その解答が、様々なモノマーに由来する単位のモル濃度を提供する連立方程式をもたらす。
【0082】
最後に、例えば、塩素又は臭素又はヨウ素などのヘテロ原子の元素分析と、NMR分析とを組み合わせることが可能である。したがって、CTFEに由来する単位の含有量は、例えば、元素分析により塩素含有量を測定することにより決定することができる。
【0083】
したがって、当業者は、あいまいさなく、必要な精度でFPポリマーの組成を決定可能にする一連の方法又は方法の組み合わせを利用可能である。
【0084】
FPポリマーは、好ましくはランダムで線状である。
【0085】
これは有利には熱可塑性であり、(フルオロエラストマーとは対照的に)エラストマー性ではないか、又はあまりエラストマー性ではない。
【0086】
FPポリマーは、均一であっても不均一であってもよい。均一なポリマーは均一な鎖構造を有し、様々なモノマーに由来する単位の統計的分布は鎖間でほとんど変化しない。不均一ポリマーでは、鎖は、多峰性又は拡散型の、様々なモノマーに由来する単位の分布を有する。したがって、不均一ポリマーは、所与の単位においてより豊富である鎖を含み、及びこの単位においてより乏しい鎖を含む。不均一ポリマーの例は、WO2007/080338に見られる。
【0087】
FPポリマーは電気活性ポリマーである。
【0088】
特に好ましくは、0~150℃、好ましくは10~140℃の誘電率最大値を有する。強誘電ポリマーの場合、この最大値は「キュリー温度」と呼ばれ、強誘電相から常誘電相への転移に相当する。この温度最大値又は転移温度は、示差走査熱量測定又は誘電分光法によって測定することができる。
【0089】
ポリマーは、好ましくは90~180℃、より詳細には100~170℃の融点を有する。融点は、10℃/分の加熱勾配での第2の加熱において、規格ASTM D3418-15に従って示差走査熱量測定によって測定することができる。
【0090】
FPポリマーの製造
FPポリマーは、乳化重合、懸濁重合、及び溶液重合などの任意の公知の方法を用いて製造することができるが、WO2010/116105に記載の方法を使用することが好ましいと思われる。この方法は、高分子量及び適切な構造化のポリマーを得ることを可能にする。
【0091】
簡潔に言えば、好ましい方法は以下の工程を含む:
-式(I)の単位をもたらすフルオロモノマーのみを含む初期混合物(式(II)の単位をもたらすフルオロモノマーは含まない)を、水を含む撹拌オートクレーブに入れること;
-オートクレーブを重合温度に近い所定の温度に加熱すること;
-水と混合したラジカル重合開始剤をオートクレーブに注入して、オートクレーブ内の圧力を好ましくは少なくとも80バールに到達させ、式(I)の単位をもたらすフッ素化モノマーの水中懸濁液を形成すること;
-式(I)の単位をもたらすフッ素化モノマーと式(II)の単位をもたらすフッ素化モノマー(及び任意選択的に追加のモノマー)の第2の混合物をオートクレーブに注入すること;
-重合反応が始まるとすぐに、前記第2の混合物をオートクレーブ反応器に連続的に注入して、圧力を本質的に一定のレベル、好ましくは少なくとも80バールに維持すること。
【0092】
ラジカル重合開始剤は、特に、ペルオキシジカーボネート型の有機過酸化物であってもよい。これは、一般に、モノマー投入総量1キログラム当たり0.1~10gの量で使用される。使用量は、好ましくは0.5~5g/kgである。
【0093】
初期混合物は、有利には、所望の最終ポリマーの割合に等しい割合で式(I)の単位をもたらすフッ素化モノマーのみを含む。
【0094】
第2の混合物は、有利には、初期混合物及び第2の混合物を含む、オートクレーブに導入されたモノマーの全組成が所望の最終ポリマーの組成に等しいか又はほぼ等しくなるように調整された組成を有する。
【0095】
初期混合物に対する第2の混合物の重量比は、好ましくは0.5~2、より好ましくは0.8~1.6である。
【0096】
初期混合物及び第2の混合物を用いてこの方法を実施することにより、本方法はしばしば予測不可能である反応開始段階から独立したものになる。このようにして得られたポリマーは、外皮(crust)又は皮(skin)のない粉末の形態である。
【0097】
オートクレーブ反応器内の圧力は、好ましくは80~110バールであり、温度は、好ましくは40℃~60℃のレベルに維持される。
【0098】
第2の混合物をオートクレーブに連続的に注入することができる。これは、例えば圧縮機又は2つの連続する圧縮機を使用して、オートクレーブに注入される前に、一般にオートクレーブ内の圧力よりも高い圧力まで圧縮することができる。
【0099】
合成後、ポリマーを洗浄し、乾燥させることができる。
【0100】
ポリマーの重量平均モル質量Mwは、好ましくは少なくとも100000g.mol-1、好ましくは少なくとも200000g.mol-1、より好ましくは少なくとも300000g.mol-1、又は少なくとも400000g.mol-1である。これは、反応器内の温度などの特定の方法パラメータを変更することによって、又は移動剤を添加することによって調整することができる。
【0101】
分子量分布は、多孔度が漸増する3つのカラムのセットを用い、溶離液としてジメチルホルムアミド(DMF)を用いてSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)によって推定することができる。固定相はスチレン-DVBゲルである。検出方法は、屈折率の測定に基づいており、ポリスチレン標準を用いて較正が行われる。サンプルをDMFに0.5g/lで溶解し、0.45μmナイロンフィルターに通して濾過する。
【0102】
MFPポリマー
MFPポリマーは、式-Y-Ar-R(式中、Yは、O原子、又はS原子、又はNH基を表し、Arは、アリール基、好ましくはフェニル基を表し、Rは、1~30個の炭素原子を含む単座基、又は二座基である)の分極性基をポリマー鎖に組み込むように、ウイリアムソン反応に従って式HY-Ar-Rの分極性分子と反応させることによってFPポリマーから製造することができる。
【0103】
したがって、分極性分子は、脱離基(Cl、Br又はI)を完全に又は好ましくは部分的にのみ置換することによって反応する。
【0104】
このようにして、式(III):
(III)-CX-CXZ-
(式中、X、X及びXはそれぞれ、H、F、及び、1~3個の炭素原子を含む、任意選択的に部分的又は全体的にフッ素化されているアルキル基から独立して選択され、Zは式-Y-Ar-Rの分極性基である)
の単位を含むポリマーが得られる。
【0105】
このポリマーはまた、好ましくは、上記の式(I)及び式(II)のフッ素化単位を含む。
【0106】
「単座基」という用語は、この基Rの1個の原子のみを介して基Arに結合する基を意味する。
【0107】
「二座基」という用語は、この基Rの2つの異なる原子を介して、好ましくは基Arの2つの異なる位置で基Arに結合する基を意味する。
【0108】
特定の実施形態では、基Arは、Yに対してオルト位、及び/又はYに対してメタ位、及び/又はYに対してパラ位で基Rで置換されてもよい。
【0109】
基Rは、特に、2~20個の炭素原子、又は3~15個の炭素原子、又は4~10個の炭素原子、より好ましくは6~8個の炭素原子を含み得る。
【0110】
基Rは、置換又は非置換であり得るアルキル又はアリール又はアリールアルキル又はアルキルアリール鎖を含み得る。基Rは、O、N、S、P、F、Cl、Br、Iから選択される1つ以上のヘテロ原子を含み得る。
【0111】
基Rは好ましくはカルボニル官能基を含み、好ましくはアセチル基、置換又は非置換のベンゾイル基、置換又は非置換のフェニルアセチル基、フタロイル基、及びホスフィンオキシドアシル基(ホスフィンは、特に、メチル基、エチル基及びフェニル基から選択される1つ以上の基で任意選択的に置換されている)から選択することができる。
【0112】
特定の実施形態では、基Ar上の唯一の置換基は基Rである。他の実施形態では、1~30個の炭素原子を含む1つ(又はそれ以上)の追加の置換基を含んでもよい。追加の置換基は、O、N、S、P、F、Cl、Br、Iから選択される1つ以上のヘテロ原子を含んでもよい。さらに、追加の置換基は、例えば、脂肪族炭素系鎖であってもよい。又は、追加の置換基は、置換若しくは非置換アリール基、好ましくはフェニル基、又は芳香族若しくは非芳香族複素環であってもよい。
【0113】
特定の実施形態では、基Arはメタ位で置換されたフェニルであり、基Rは非置換ベンゾイル基であるか、又は基Arはパラ位で置換されたフェニルであり、基Rは非置換ベンゾイル基であるか、又はArはパラ位で置換されたフェニルであり、基Rはヒドロキシル基でパラ位で置換されたベンゾイル基であるか、又は基Arはメタ位で置換されたフェニルであり、基Rはアセチル基であるか、又は基Arはパラ位で置換されたフェニルであり、基Rはアセチル基であるか、又は基Arはオルト位で置換されたフェニルであり、基Rはヒドロキシル基でカルボニル基にα置換されたフェニルアセチル基であるか、又は基Arはメタ位で置換されたフェニルであり、基Rはヒドロキシル基でカルボニル基に対してα置換されたフェニルアセチル基であるか、又は基Arはオルト位で置換されたフェニルであり、基Rはホスフィンオキシドアシル基であるか、又は基Arはメタ位で置換されたフェニルであり、基Rはホスフィンオキシドアシル基であるか、又は基Arはパラ位で置換されたフェニルであり、基Rはホスフィンオキシドアシル基であるか、又は基Arはオルト位及びメタ位で置換されたフェニルであり、基Rはフタロイル基である。
【0114】
好ましくは、Yは酸素原子である。
【0115】
したがって、分極性分子は、例えば、3-ヒドロキシベンゾフェノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、1-ヒドロキシアントラキノン、2-ヒドロキシアントラキノン、3-ヒドロキシアセトフェノン、4-ヒドロキシアセトフェノン、4,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシベンゾイン、4-ヒドロキシベンゾイン、エチル-(4-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンゾイル)フェニルホスフィネート及び(4-ヒドロキシ-4,6-トリメチルベンゾイル)(2,4,6トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドから選択され得る。
【0116】
分極性分子はまた、以下から選択することもできる:2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(フェニル基もまたカルボニル基に対してオルト、メタ又はパラ位でヒドロキシル基で置換されている);2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(フェニル基もまた、カルボニル基に対してメタ位でヒドロキシル基で置換されている);2,4,6-トリメチルベンゾイルエチルフェニルホスフィネート(フェニル基もまた、カルボニル基に対してメタ位でヒドロキシル基で置換されている);1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(フェニル基もまた、カルボニル基に対してオルト、メタ又はパラ位でヒドロキシル基で置換されている);ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド(フェニル基もまた、カルボニル基に対してメタ又はパラ位でヒドロキシル基で置換されている);1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(フェニル基もまた、カルボニル基に対してオルト又はメタ位でヒドロキシル基で置換されている);2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(フェニル基もまた、カルボニル基に対してオルト、メタ又はパラ位でヒドロキシル基で置換されている);2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン(フェニル基もまた、カルボニル基に対してオルト又はメタ位でヒドロキシル基で置換されている);2,4-ジエチルチオキサントン(チオキサントン基もヒドロキシル基で置換されている)。
【0117】
又は、YはNH基であってもよい。
【0118】
したがって、分極性分子はまた、以下から選択することもできる:2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(フェニル基もまたカルボニル基に対してオルト、メタ又はパラ位でアミン基で置換されている);2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(フェニル基もまた、カルボニル基に対してメタ位でアミン基で置換されている);2,4,6-トリメチルベンゾイルエチルフェニルホスフィネート(フェニル基もまた、カルボニル基に対してメタ位でアミン基で置換されている);1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(フェニル基もまた、カルボニル基に対してオルト、メタ又はパラ位でアミン基で置換されている);ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド(フェニル基もまた、カルボニル基に対してメタ又はパラ位でアミン基で置換されている);1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(フェニル基もまた、カルボニル基に対してオルト又はメタ位でアミン基で置換されている);2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(フェニル基もまた、カルボニル基に対してオルト、メタ又はパラ位でアミン基で置換されている);2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン(フェニル基もまた、カルボニル基に対してオルト又はメタ位でアミン基で置換されている);2,4-ジエチルチオキサントン(チオキサントン基もアミン基で置換されている)。
【0119】
又は、Yは硫黄原子であってもよい。
【0120】
したがって、分極性分子はまた、以下から選択することもできる:2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(フェニル基もまたカルボニル基に対してオルト、メタ又はパラ位でチオール基で置換されている);2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(フェニル基もまた、カルボニル基に対してメタ位でチオール基で置換されている);2,4,6-トリメチルベンゾイルエチルフェニルホスフィネート(フェニル基もまた、カルボニル基に対してメタ位でチオール基で置換されている);1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(フェニル基もまた、カルボニル基に対してオルト、メタ又はパラ位でチオール基で置換されている);ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド(フェニル基もまた、カルボニル基に対してメタ又はパラ位でチオール基で置換されている);1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(フェニル基もまた、カルボニル基に対してオルト又はメタ位でチオール基で置換されている);2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(フェニル基もまた、カルボニル基に対してオルト、メタ又はパラ位でチオール基で置換されている);2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン(フェニル基もまた、カルボニル基に対してオルト又はメタ位でチオール基で置換されている);2,4-ジエチルチオキサントン(チオキサントン基もチオール基で置換されている)。
【0121】
FPポリマーは、FPポリマーが溶解された溶媒中でFPポリマーと分極性分子とを接触させることによってMFPポリマーに変換され得る。
【0122】
使用される溶媒は、特に、ジメチルホルムアミド;ジメチルアセトアミド;ジメチルスルホキシド;ケトン、特にアセトン、メチルエチルケトン(又はブタン-2-オン)、メチルイソブチルケトン及びシクロペンタノン;フラン、特にテトラヒドロフラン;エステル、特に酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート;カーボネート、特にジメチルカーボネート;及びホスフェート、特にリン酸トリエチルであってよい。これらの化合物の混合物も使用することができる。
【0123】
分極性分子を脱プロトン化し、式Y-Ar-R(式中、Y、Ar及びRは上記で定義した通りである)の分極性アニオンを形成するために、分極性分子を溶媒中のFPポリマーと接触させる前に塩基と反応させてもよい。
【0124】
分極性分子を脱プロトン化するために使用される塩基は、9~12.5、好ましくは10~12のpKaを有し得る。
【0125】
分極性分子を脱プロトン化するために使用される塩基は、好ましくは炭酸カリウム、炭酸カルシウム及び炭酸ナトリウムから選択され、好ましくは炭酸カリウムである。
【0126】
塩基は、分極性分子に対して1~1.25当量、又は1.25~1.5当量、又は1.5~2.0当量、又は2.0~3.0当量、又は3.0~4.0当量、又は4.0~5.0当量、又は5.0~6.0当量、又は6.0~7.0当量、又は7.0~8.0当量のモル量で使用され得る。
【0127】
分極性分子と塩基との反応は、上述のように、溶媒中で行うことができる。
【0128】
分極性分子と塩基との反応に使用される溶媒は、FPポリマーを分極性分子と接触させるために使用される溶媒と同じであっても、異なっていてもよい。好ましくは、分極性分子と塩基との反応に使用される溶媒は、FPポリマーを分極性分子と接触させるために使用される溶媒と同じである。
【0129】
分極性分子と塩基との反応は、20~80℃、より好ましくは30~70℃の温度で行うことができる。
【0130】
分極性分子と塩基との反応の持続時間は、例えば、5分~5時間、好ましくは15分~2時間、より好ましくは30分~1時間であり得る。
【0131】
特定の実施形態では、分極性分子を塩基と反応させる工程の後に、過剰の塩基を除去する工程を行ってもよい。
【0132】
反応媒体中に導入されるFPポリマーの濃度は、例えば1~200g/l、好ましくは5~100g/l、より好ましくは10~50g/lであり得る。
【0133】
反応媒体中に導入される分極性分子の量は、ポリマー中の分極性基の所望の置換度に応じて調整することができる。したがって、この量は、0.1~0.2モル当量(FPポリマー中に存在する脱離基Cl、Br又はIに対して、反応媒体中に導入された分極性基);又は0.2~0.3モル当量;又は0.3~0.4モル当量;又は0.4~0.5モル当量;又は0.5~0.6モル当量;又は0.6~0.7モル当量;又は0.7~0.8モル当量;又は0.8~0.9モル当量;又は0.9~1.0モル当量;又は1.0~1.5モル当量;又は1.5~2モル当量;又は2~5モル当量;又は5~10モル当量;又は10~50モル当量であり得る。
【0134】
FPポリマーと分極性分子との反応は、撹拌しながら行うことが好ましい。
【0135】
FPポリマーと分極性分子との反応は、好ましくは20~120℃、より好ましくは30~90℃、より詳細には40~80℃の温度で行われる。
【0136】
FPポリマーと分極性分子との反応の持続時間は、例えば、15分~96時間、好ましくは1時間~84時間、より好ましくは2時間~72時間であり得る。
【0137】
所望の反応時間に達したら、MFPポリマーを非溶媒、例えば脱イオン水から沈殿させることができる。その後、これを濾過し、乾燥させることができる。
【0138】
MFPポリマーの組成は、上述のように元素分析及びNMRによって、また赤外分光法によっても特徴付けることができる。特に、芳香族及びカルボニル官能基に特徴的な原子価振動バンドが1500~1900cm-1の間で観察される。
【0139】
特定の実施形態では、出発FPポリマーの脱離基Cl、Br又はIのすべてが、MFPポリマーでは分極性基で置換される。
【0140】
代替的及び優先的には、出発FPポリマーの脱離基Cl、Br又はIは、MFPポリマーでは部分的にのみ分極性基で置換される。
【0141】
したがって、分極性基で置換された脱離基(例えば、CTFE又はCFEを使用する場合の基Cl)のモル割合は、0.2~5mol%;又は5~10mol%;又は10~20mol%;又は20~30mol%;又は30~40mol%;又は40~50mol%;又は50~60mol%;又は60~70mol%;又は70~80mol%;又は80~90mol%;又は90~95mol%;又は95mol%超であり得る。
【0142】
したがって、MFPポリマーにおいて、脱離基(Cl又はBr又はI)を含む残留構造単位の(ポリマー中の構造単位の総量に対する)割合は、例えば、0.1~0.5mol%;又は0.5~1mol%;又は1~2mol%;又は2~3mol%;又は3~4mol%;又は4~5mol%;又は5~6mol%;又は6~7mol%;又は7~8mol%;又は8~9mol%;又は9~10mol%;又は10~12mol%;又は12~15mol%;又は15~20mol%;又は20~25mol%;又は25~30mol%;又は30~40mol%;又は40~50mol%であり得る。1~15mol%、好ましくは2~10mol%の範囲が特に好ましい。
【0143】
又は、MFPポリマーは、脱離基(Cl又はBr又はI)を含むすべての構造単位が変性されている。
【0144】
したがってまた、MFPポリマーにおいて、分極性基を含む構造単位の(ポリマー中の構造単位の総量に対する)割合は、例えば、0.1~0.5mol%;又は0.5~1mol%;又は1~2mol%;又は2~3mol%;又は3~4mol%;又は4~5mol%;又は5~6mol%;又は6~7mol%;又は7~8mol%;又は8~9mol%;又は9~10mol%;又は10~12mol%;又は12~15mol%;又は15~20mol%;又は20~25mol%;又は25~30mol%;又は30~40mol%;又は40~50mol%であり得る。0.2~15mol%、好ましくは0.5~10mol%の範囲が特に好ましい。
【0145】
MFPポリマーは半結晶性ポリマーである。
【0146】
MFPポリマーは、5J/g以上、好ましくは6J/g以上、より好ましくは8J/g以上の融解熱を特徴とする。
【0147】
したがって、MFPポリマーは、5~7J/g;又は7~9J/g;又は9~12J/g;又は12~15J/g;又は15~20J/g;又は20~25J/g;又は25~30J/gの融解熱を有し得る。融解熱は、規格ASTM D3418に従って示差走査熱量測定によって決定することができる。
【0148】
MFPポリマーは、20以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上の誘電率を特徴とし得る。変性ポリマーの誘電率は、例えば、1kHz及び25℃において、20~25;又は25~30;又は30~35;又は35~40;又は40~45;又は45~50;又は50~55;又は55~60;又は60~65;又は65~70;又は70~75;又は75~80;又は80~85;又は85~90;又は90~95;又は95~100;又は100~110;又は110~120;又は120~130;又は130~140;又は140~150であり得る。
【0149】
比誘電率は、規格ASTMD150の勧告に従って、材料の静電容量を測定することができるインピーダンスメータを使用して測定することができる。比誘電率は、以下の式に従って求められる:
【0150】
【数1】
(式中、tはフィルムの厚さであり、Aは、2つの電極の重ね合わせによって画定されるフィルムの分析された部分の面積であり、εは真空誘電率であり、及びCは材料の静電容量である。)前記材料は、2つの導電性電極の間に配置される。
【0151】
フィルムの作製
本発明によるフルオロポリマーフィルムは、基材上に、1種以上のMFPポリマーのみ、又は少なくとも1種のFPポリマー及び少なくとも1種のMFPポリマーのいずれかを堆積させることによって調製することができる。
【0152】
1種以上のMFPポリマーのみが使用される場合、脱離基の分極性基による置換は部分的であることが好ましい。少なくとも1種のFPポリマーが少なくとも1種のMFPポリマーと組み合わせて使用される場合、MFPポリマーの脱離基の一部のみ又は全部が分極性基で置換されていてもよい。
【0153】
特に、FPポリマーは、検討中のFPポリマーから得られたMFPポリマーと組み合わせることができる。FPポリマーは、MFPポリマーと組み合わせるFPポリマーとは異なるFPポリマーから得られるMFPポリマーと組み合わせてもよい。
【0154】
好ましい実施形態によれば、本発明によるフィルムは、広い温度範囲にわたって安定した誘電率を有するポリマーのブレンドを得るために、異なるキュリー温度を有するポリマー(MFP及び/又はFP)から調製される。
【0155】
少なくとも1種のFPポリマーが少なくとも1種のMFPポリマーと組み合わされる場合、FPポリマー及びMFPポリマーの全体に対するFPポリマーの質量割合は、特に5%~10%;又は10%~20%;又は20%~30%;又は30%~40%;又は40%~50%;又は50%~60%;又は60%~70%;又は70%~80%;又は80%~90%;又は90%~95%。であり得る。
【0156】
MFP(又はMFP及びFP)ポリマーはまた、1種以上の他のポリマー、特にフルオロポリマー、より具体的にはP(VDF-TrFE)コポリマーなどと組み合わされてもよい。
【0157】
基材は、特に、ガラス、シリコン、ポリマー材料又は金属表面であってもよい。
【0158】
堆積を行うために、1つの好ましい方法は、ポリマーを液体ビヒクルに溶解又は懸濁させて、その後基材上に堆積される「インク」組成物を形成することからなる。
【0159】
液体ビヒクルは、好ましくは溶媒である。この溶媒は、好ましくは以下から選択される:ジメチルホルムアミド;ジメチルアセトアミド;ジメチルスルホキシド;ケトン、特に、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロペンタノン;フラン、特に、テトラヒドロフラン;エステル、特に、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート;カーボネート、特にジメチルカーボネート;及びホスフェート、特にリン酸トリエチル。これらの化合物の混合物も使用することができる。
【0160】
液体ビヒクル中のポリマーの総質量濃度は、特に0.1%~30%、好ましくは0.5%~20%であり得る。
【0161】
インクは、特に表面張力調整剤、レオロジー調整剤、耐老化性調整剤、接着調整剤、顔料又は染料、及びフィラー(ナノフィラーを含む)から選択される1種以上の添加剤を、任意選択的に含んでもよい。好ましい添加剤は、特に、インクの表面張力を変更する共溶媒である。特に、溶液の場合、この化合物は、使用される溶媒と混和性の有機化合物であり得る。インク組成物はまた、ポリマーの合成に使用された1種以上の添加剤を含有してもよい。
【0162】
堆積は、特に、スピンコーティング、スプレーコーティング、バーコーティング、ディップコーティング、ロールツーロール印刷、スクリーン印刷、平版印刷又はインクジェット印刷によって行われ得る。
【0163】
堆積後、液体ビヒクルを蒸発させる。
【0164】
このように構成されたフルオロポリマー層は、特に、10nm~1mm、好ましくは100nm~500μm、より好ましくは150nm~250μm、より好ましくは500nm~50μmの厚さを有し得る。
【0165】
特定の実施形態では、本発明によるフルオロポリマーフィルムは、そのリラクサー強誘電特性を維持することができる。したがって、このフィルムは、20MV/m未満の抗電界を特徴とし得る。
【0166】
フルオロポリマーフィルムはまた、30mC/m未満、好ましくは20mC/m未満、好ましくは15mC/m未満の残留分極を特徴とし得る。
【0167】
フルオロポリマーフィルムはまた、150MV/mの電界、25℃で測定して、30mC/m超の、好ましくは40mC/m超の、好ましくは50mC/m超の自発分極を特徴とし得る。
【0168】
抗電界及び残留分極の測定値は、材料の分極曲線を測定することによって得ることができる。前記フィルムを2つの導電性電極の間に配置し、次いで正弦波電界を印加する。前記フィルムを通過する電流を測定することにより、分極曲線にアクセスすることができる。
【0169】
電子デバイスの製造
本発明によるフィルムは、電子デバイスの層として使用することができる。
【0170】
したがって、1つ以上の追加の層、例えばポリマー、半導体材料又は金属の1つ以上の層を、それ自体公知の方法で、本発明のフィルムを備えた基材上に堆積させることができる。
【0171】
「電子デバイス」という用語は、電子回路において1つ以上の機能を実行することができる単一の電子部品、又は電子部品のセットのいずれかを意味する。
【0172】
特定の変形例によれば、電子デバイスは、より具体的には、光電子デバイス、すなわち、電磁放射線を放射、検出、又は制御することができるデバイスである。
【0173】
本発明が関連する電子デバイス又は適切な場合には光電子デバイスの例は、トランジスタ(特に電界効果トランジスタ)、チップ、バッテリ、光起電力電池、発光ダイオード(LED)、有機発光ダイオード(OLED)、センサ、アクチュエータ、変圧器、触覚デバイス、電気機械マイクロシステム、電気熱量デバイス、及び検出器である。
【0174】
好ましい変形例によれば、本発明によるフィルムは、有機トランジスタにおける誘電体層として、又は電気熱量デバイスにおける活性層として使用することができる。
【0175】
別の変形例によれば、本発明によるフィルムは、2つの金属電極又はポリマー電極の間に含まれる活性層として、センサ、特に圧電センサに使用することができる。
【0176】
電子デバイス及び光電子デバイスは、多数の電子デバイス、機器又はサブアセンブリのアイテム、並びにテレビ、携帯電話、剛性又は可撓性スクリーン、薄膜光起電力モジュール、光源、エネルギー変換器、及びセンサなどの多数の物体及び用途において使用され、それらに統合される。
【実施例
【0177】
以下の実施例は、本発明を限定することなく例示する。
【0178】
0.6gの、モル組成61.7/28.3/10のP(VDF-TrFE-CTFE)ターポリマーを第一シュレンクチューブに入れ、続いて10mLのアセトンを入れた。ポリマーが溶解するまで混合物を撹拌した。4-ヒドロキシベンゾフェノン又は2-ヒドロキシアントラキノン、炭酸カリウム及び15mLのアセトンを、第2のシュレンクチューブ内で不活性雰囲気下、50℃において1時間撹拌した。第2の溶液を室温に冷却した後、(第2の)シュレンクチューブの内容物を1μmのPTFEフィルターを通して濾過し、第1のシュレンクチューブに移し、第1のシュレンクチューブを50℃~80℃の間の温度において4時間~3日間加熱した。次いで、溶液を冷却し、数滴の塩酸で酸性化した水から2回沈殿させた。次いで、綿状白色固体をエタノールで2回及びクロロホルムで2回洗浄した。変性ポリマーを60℃の真空オーブン中で一晩乾燥させた。
【0179】
様々な変性ポリマーを調製し、結果を以下の表に示す。
【0180】
【表1】
【0181】
分極性分子の当量数は、モノマー単位の総数から算出される。
【0182】
モノマー単位の置換度は、ポリマー中のモノマー単位の総数に対する、分極性基を有するモノマー単位の数に対応する割合に相当する。置換度は、H NMRスペクトルの様々なシグナルの積分から計算される。7~8ppmの間のシグナルは、ポリマーの変性後の芳香族核のプロトンに対応し、5~6ppmの間のシグナルは、TrFE単位のプロトンに対応する。
【0183】
モノマー単位の置換度は、以下の式によって定義される。
【0184】
【数2】
【0185】
P(VDF-TrFE-CTFE)ターポリマーの場合、十分な融解熱と組み合わせた分極性基の部分的な置換は、未変性ポリマーと比較して誘電率の増加を得ることを可能にすることが観察される。しかしながら、分極性基の置換度がさらに大きくなると、誘電率が低下する結果となる。
【0186】
ポリマーB-3の赤外スペクトルを測定し(実線)、変性前のポリマーA(破線)と比較した。
【0187】
結果は、図1のグラフに見ることができる。ポリマーAの変性後、1500~1700cm-1の間でベンゾフェノンの特徴的なバンドの出現が観察される。
【0188】
ポリマーA、B-1、B-2及びB-3の液体H NMRスペクトルも測定した。
【0189】
結果は、図2のグラフに見ることができる。ポリマーAの変性後、ポリマーの変性後の芳香族核のプロトンに対応する7~8ppmの間で特徴的なシグナル(未変性ポリマーAと比較したポリマーB-1、B-2及びB-3)の出現が観察される。分極性基のフェノール官能基のプロトンに対応する8~10ppmの間のシグナルが存在しないことにより、ポリマーへの基のグラフト化が確認される。
【0190】
図3は、未変性ポリマーA並びに変性ポリマーB-1、B-2及びB-3の、10℃/分での-25℃~200℃の間の第2の温度勾配の走査熱量測定分析サーモグラムである。置換度が大きくなると、融解熱及び融点の低下が観察される。これは、結晶化を妨げる分極性基の立体障害により、置換度が大きくなると結晶化度が低下することを示している。
【0191】
1kHzにおける温度の関数としての、未変性ポリマーA及び変性ポリマーB-1の誘電率の変化を図4に示す。未変性ポリマーAに対して0.4の置換度(ポリマーB-1)で誘電率の大幅な増加が観察される。
【0192】
図5は、未変性ポリマーA並びに変性ポリマーC-1、C-2、C-3及びC-4の、10℃/分での-25℃~200℃の間の第2の温度勾配の走査熱量測定分析サーモグラムである。置換度が大きくなると、融解熱及び融点の低下が観察される。これは、結晶化を妨げる分極性基の立体障害により、置換度が大きくなると結晶化度が低下することを示している。
【0193】
1kHzにおける温度の関数としての、未変性ポリマーA及び変性ポリマーC-1~C-4の誘電率の変化を図6に示す。未変性ポリマーAに対して0.6の置換度(ポリマーC-1)で誘電率の大幅な増加が観察される。他方で、高い置換度(ポリマーC-2、C-3及びC-4)で誘電率の低下が観察される。この低下は、結晶性の特定の喪失に関連していると思われる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6