特許 7574218 医療用管状体搬送装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-10-18

(45)【発行日】2024-10-28

(54)【発明の名称】医療用管状体搬送装置

(51)【国際特許分類】

   A61F 2/966 20130101AFI20241021BHJP

   A61M 25/00 20060101ALI20241021BHJP

【ＦＩ】

A61F2/966

A61M25/00 532

【請求項の数】 10

(21)【出願番号】P 2021565390

(86)(22)【出願日】2020-11-19

(86)【国際出願番号】 JP2020043203

(87)【国際公開番号】W WO2021124787

(87)【国際公開日】2021-06-24

【審査請求日】2023-09-11

(31)【優先権主張番号】P 2019228672

(32)【優先日】2019-12-18

(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP

(73)【特許権者】

【識別番号】000000941

【氏名又は名称】株式会社カネカ

(74)【代理人】

【識別番号】110002837

【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所

(72)【発明者】

【氏名】市村 想生

【審査官】上石 大

(56)【参考文献】

【文献】特開２０１６－０３００３３（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２００７－０９７６２０（ＪＰ，Ａ）

【文献】米国特許第０６６１３０７５（ＵＳ，Ｂ１）

【文献】特表２０１１－５１０７５８（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ａ６１Ｆ ２／９６６

Ａ６１Ｍ ２５／００

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

医療用管状体を体内に搬送する装置であって、
前記医療用管状体が内腔に配置される外側チューブと、
前記医療用管状体より近位側に配置されるガイドワイヤ挿通部材と、
前記外側チューブの内腔に配置される内挿部材とを有し、
前記ガイドワイヤ挿通部材には、ガイドワイヤが内腔に挿通される貫通路が形成されており、
前記貫通路内には、前記ガイドワイヤが内腔に挿通されるガイドワイヤ用チューブが配置されており、
前記ガイドワイヤ用チューブは、少なくとも前記貫通路の近位側開口位置より近位側に延伸して配置されており、
前記内挿部材の一部は、前記ガイドワイヤ挿通部材に固定されており、
前記内挿部材と前記ガイドワイヤ挿通部材とが固定されている固定領域より近位側における前記内挿部材の一部は、外方に保護部材を有しており、
前記保護部材は、該保護部材の軸方向に対する垂直な断面における断面積が遠位端に向かって減少する減面区間を有し、
該減面区間における前記保護部材は、前記内挿部材に対して前記ガイドワイヤ用チューブとは反対側に偏在しており、
前記ガイドワイヤ用チューブは、該ガイドワイヤ用チューブの軸方向に対する垂直な断面における断面積が近位端に向かって減少する減面区間を有し、
該減面区間における前記ガイドワイヤ用チューブは、前記内挿部材側に偏在していることを特徴とする医療用管状体搬送装置。

【請求項2】

前記保護部材の遠位端部は、テーパー形状である請求項１に記載の医療用管状体搬送装置。

【請求項3】

前記ガイドワイヤ挿通部材の最近位位置と前記保護部材の最遠位位置との距離は、０．５ｍｍ以上、３０ｍｍ以下である請求項１または２に記載の医療用管状体搬送装置。

【請求項4】

前記医療用管状体搬送装置は、前記外側チューブがガイドワイヤポートを有するラピッドエクスチェンジ型であり、
該ガイドワイヤポートは、前記外側チューブの近位端より遠位側に配置されている請求項１～３のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。

【請求項5】

前記ガイドワイヤ用チューブは、前記貫通路の遠位側開口位置より遠位側に延伸して配置されている請求項１～４のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。

【請求項6】

前記外側チューブの内腔には、前記ガイドワイヤが内腔に挿通される内挿チューブが配置されており、
該内挿チューブの近位端は、前記ガイドワイヤポートに固定されている請求項４に記載の医療用管状体搬送装置。

【請求項7】

前記内挿チューブの一部が、前記ガイドワイヤ用チューブの内腔に配置されている請求項６に記載の医療用管状体搬送装置。

【請求項8】

前記ガイドワイヤ用チューブの近位側端部は、テーパー形状である請求項１～７のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。

【請求項9】

前記ガイドワイヤ挿通部材は、着色されている請求項１～８のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。

【請求項10】

前記医療用管状体は、自己拡張型ステントである請求項１～９のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、医療用管状体搬送装置に関するものである。

【背景技術】

【0002】

近年、体内の病変部に医療用管状体を搬送して配置する最小侵襲治療技術が開発されている。医療用管状体としては、例えば、ステント、ステントグラフト、閉塞具、注入カテーテル、プロテーゼ弁等が用いられる。これらのうちステントは、一般に、血管または他の体内管腔が狭窄または閉塞することによって生じる様々な疾患を治療する医療用管状体である。

【0003】

この技術では、体内管腔を通して病変部に医療用管状体を搬送して配置する搬送装置が用いられている。搬送装置は、外側チューブを備えており、この外側チューブの内腔に医療用管状体を保持させた状態で、体内管腔を通して病変部に医療用管状体を搬送する。搬送した後は、外側チューブの内腔から医療用管状体を解放することによって病変部に医療用管状体を配置できる。こうした医療用管状体を搬送する装置が、例えば、特許文献１～３に開示されている。

【0004】

医療用管状体を搬送する装置には、体内管腔に沿って抵抗なく進入可能なように、手元の操作が遠位側に伝わりやすい追随性や操作性の良さが求められ、使用時に変形、キンク、破壊が起こりにくいことが求められる。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0005】

【文献】特開２００６－５１５２０６号公報

【文献】米国特許出願公開第２００８／０２５５６５５号明細書

【文献】特開２０１２－４５０４３号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0006】

従来の医療用管状体搬送装置の実施形態の一例を図１に示す。なお、医療用管状体搬送装置は、術者の手元側を近位端とし、近位端の反対側、すなわち病変部等に近い側を遠位端とする。

【0007】

図１は、医療用管状体搬送装置の遠位側における断面模式図であり、医療用管状体１１が内腔に配置される外側チューブ１２と、該医療用管状体１１より近位側にガイドワイヤ挿通部材１４と、外側チューブ１２の内腔に配置される内挿部材１３とを有する。ガイドワイヤ挿通部材１４には、ガイドワイヤが内腔に挿通される貫通路１５が形成されており、該貫通路１５内には、ガイドワイヤが内腔に挿通されるガイドワイヤ用チューブ１６が配置されており、該ガイドワイヤ用チューブ１６は、少なくとも貫通路１５の近位側開口１５ａより近位側に延伸して配置されている。内挿部材１３の一部は、ガイドワイヤ挿通部材１４に固定されており、内挿部材１３とガイドワイヤ挿通部材１４とが固定されている固定領域１４ａより近位側における内挿部材１３の一部は、外方に保護部材１７が配置されている。また、図１に示すように、ガイドワイヤ用チューブ１６は、ガイドワイヤ挿通部材１４の遠位端より遠位側に延伸して配置されており、該ガイドワイヤ用チューブ１６の遠位端は、先端チップ１８の内腔に達している。

【0008】

内挿部材１３は医療用管状体搬送装置の近位端（術者の手元）まで延伸して配置されており、術者の手元の操作を、内挿部材１３を介して遠位側へ伝えることができる。また、外側チューブ１２を近位側へ引くことによって医療用管状体１１がガイドワイヤ挿通部材１４によって外側チューブ１２の内腔から体内管腔へ押し出され、解放される。詳説すると、外側チューブ１２を近位側へ引くと医療用管状体１１は外側チューブ１２の動きに追随して近位側へ移動し、ガイドワイヤ挿通部材１４と内挿部材１３を圧縮する。この圧縮の応力に対してガイドワイヤ挿通部材１４と内挿部材１３に生じた反力が医療用管状体１１の摩擦抵抗を上回ったときに、医療用管状体１１が外側チューブ１２の外方へと放出される。しかし医療用管状体１１の摩擦抵抗が過度に大きい場合や、ガイドワイヤ挿通部材１４および内挿部材１３が柔軟すぎる場合、さらにこれらの部材が長軸方向の応力伝達を阻害する構造である場合などの状況においては、外側チューブ１２を近位側へ引く荷重が増大することが知られている。また、図１に示した医療用管状体搬送装置では、ガイドワイヤと内挿部材１３が平行に配置されるため、ガイドワイヤ挿通部材１４の近位端において、荷重の伝達経路が平行にずれ、外方へ向かう力が生じる。特にガイドワイヤ挿通部材１４の近位端は、その構造上、剛性が大きく変化するため、荷重が外方に逃げやすくなる。荷重が外方に逃げると医療用管状体１１の展開に要する荷重が増大する。

【0009】

こうした医療用管状体搬送装置は体内管腔に挿入されるが、体内管腔は複雑に屈曲しているため、医療用管状体搬送装置も体内管腔に追随して曲げられる。曲げられたときにガイドワイヤ挿通部材１４の近位側で局所的な応力集中が生じると、ガイドワイヤ挿通部材１４の近位端での剛性変化によってキンク、即ち、引っかかって動かない状態になりやすかった。キンクした状態で外側チューブ１２を近位側へ引くと、医療用管状体１１を体内管腔へ押し出すことができないことがあった。また、内挿部材１３はガイドワイヤ挿通部材１４よりも細いため、充分な支持力がない。従って医療用管状体１１の展開操作の際に内挿部材１３に過度の荷重がかかることがある。内挿部材１３を補強するために、図１に示したように内挿部材１３の外方に保護部材１７を配置することが考えられる。この場合ガイドワイヤ挿通部材１４の近位端と保護部材１７の遠位端との間に隙間を設けることによって、部材同士の干渉を適度に抑制できるため、操作性も向上させることができる。しかしこのような隙間があると剛性の不連続性が生じるため、キンクの発生や、医療用管状体１１の展開荷重の増加を助長することになる。また、医療用管状体搬送装置をキンクしにくくするには例えば外側チューブ１２の強度を高めることが考えられるが、強度を高めると体内管腔における曲がりくねった湾曲部もしくは分岐した分岐部を通過するときにこれらに合せて変形しにくくなる。そのため体内管腔等との間で接触抵抗が増加し、医療用管状体搬送装置を体内管腔へ挿入しにくくなり、操作性が低下すると考えられる。

【0010】

本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、操作性を低下させることなく、キンクしにくい医療用管状体搬送装置を提供することにある。

【課題を解決するための手段】

【0011】

本発明は、以下の発明を含む。
［１］医療用管状体を体内に搬送する装置であって、前記医療用管状体が内腔に配置される外側チューブと、前記医療用管状体より近位側に配置されるガイドワイヤ挿通部材と、前記外側チューブの内腔に配置される内挿部材とを有し、前記ガイドワイヤ挿通部材には、ガイドワイヤが内腔に挿通される貫通路が形成されており、前記貫通路内には、前記ガイドワイヤが内腔に挿通されるガイドワイヤ用チューブが配置されており、前記ガイドワイヤ用チューブは、少なくとも前記貫通路の近位側開口位置より近位側に延在しており、前記内挿部材の一部は、前記ガイドワイヤ挿通部材に固定されており、前記内挿部材と前記ガイドワイヤ挿通部材とが固定されている固定領域より近位側における前記内挿部材の一部は、外方に保護部材を有しており、前記保護部材は、該保護部材の軸方向に対する垂直な断面における断面積が遠位端に向かって減少する減面区間を有し、該減面区間における前記保護部材は、前記内挿部材に対して前記ガイドワイヤ用チューブとは反対側に偏在している医療用管状体搬送装置。
［２］前記ガイドワイヤ用チューブは、該ガイドワイヤ用チューブの軸方向に対する垂直な断面における断面積が近位端に向かって減少する減面区間を有し、該減面区間における前記ガイドワイヤ用チューブは、前記内挿部材側に偏在している［１］に記載の医療用管状体搬送装置。
［３］前記保護部材の遠位端部は、テーパー形状である［１］または［２］に記載の医療用管状体搬送装置。
［４］前記ガイドワイヤ挿通部材の最近位位置と前記保護部材の最遠位位置との距離は、０．５ｍｍ以上、３０ｍｍ以下である［１］～［３］のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。
［５］前記医療用管状体搬送装置は、前記外側チューブがガイドワイヤポートを有するラピッドエクスチェンジ型であり、該ガイドワイヤポートは、前記外側チューブの近位端より遠位側に配置されている［１］～［４］のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。
［６］前記ガイドワイヤ用チューブは、前記貫通路の遠位側開口位置より遠位側に延在している［１］～［５］のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。
［７］前記外側チューブの内腔には、前記ガイドワイヤが内腔に挿通される内挿チューブが配置されており、該内挿チューブの近位端は、前記ガイドワイヤポートに固定されている［５］に記載の医療用管状体搬送装置。
［８］前記内挿チューブの一部が、前記ガイドワイヤ用チューブの内腔に配置されている［７］に記載の医療用管状体搬送装置。
［９］前記ガイドワイヤ用チューブの近位側端部は、テーパー形状である［１］～［８］のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。
［１０］前記ガイドワイヤ挿通部材は、着色されている［１］～［９］のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。
［１１］前記医療用管状体は、自己拡張型ステントである［１］～［１０］のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。

【発明の効果】

【0012】

本発明によれば、内挿部材とガイドワイヤ挿通部材とが固定されている固定領域より近位側における内挿部材の外方に配置されている保護部材の形状を、該保護部材の軸方向に対する垂直な断面における断面積が遠位端に向かって減少する減面区間を有する形状とし、且つ、該減面区間における保護部材を、内挿部材に対してガイドワイヤ用チューブとは反対側に偏在させているため、操作性を低下させることなく、曲げられてもキンクしにくい医療用管状体搬送装置を提供できる。

【図面の簡単な説明】

【0013】

【図1】図１は、従来の医療用管状体搬送装置における遠位側の実施形態の一例を示す断面図である。

【図2】図２は、本発明に係る医療用管状体搬送装置における遠位側の第１実施形態を示す断面模式図である。

【図3】図３は、医療用管状体搬送装置を屈曲させた状態を示す断面図である。

【図4】図４は、本発明に係る医療用管状体搬送装置における遠位側の第２実施形態を示す断面図である。

【図5】図５は、本発明に係る医療用管状体搬送装置における遠位側の第３実施形態を示す断面図である。

【図6】図６は、本発明に係る医療用管状体搬送装置における遠位側の第４実施形態を示す断面図である。

【図7】図７は、本発明に係る医療用管状体搬送装置における遠位側の第５実施形態を示す断面図である。

【発明を実施するための形態】

【0014】

本発明に係る医療用管状体搬送装置は、医療用管状体が内腔に配置される外側チューブと、前記医療用管状体より近位側に配置されるガイドワイヤ挿通部材と、前記外側チューブの内腔に配置される内挿部材とを有し、前記ガイドワイヤ挿通部材には、ガイドワイヤが内腔に挿通される貫通路が形成されており、前記貫通路内には、前記ガイドワイヤが内腔に挿通されるガイドワイヤ用チューブが配置されており、前記ガイドワイヤ用チューブは、少なくとも前記貫通路の近位側開口位置より近位側に延伸して配置されており、前記内挿部材の一部は、前記ガイドワイヤ挿通部材に固定されており、前記内挿部材と前記ガイドワイヤ挿通部材とが固定されている固定領域より近位側における前記内挿部材の一部は、外方に保護部材を有しており、前記保護部材は、該保護部材の軸方向に対する垂直な断面における断面積が遠位端に向かって減少する減面区間を有し、該減面区間における前記保護部材は、前記内挿部材に対して前記ガイドワイヤ用チューブとは反対側に偏在している点に特徴を有する。

【0015】

以下、本発明に係る医療用管状体搬送装置の実施形態の一例について、図面を参照しつつ具体的に説明するが、本発明は図示例に限定される訳ではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。

【0016】

図２は、本発明に係る医療用管状体搬送装置における遠位側の第１実施形態を示す断面模式図である。図２に示す医療用管状体搬送装置は、医療用管状体２１が内腔に配置される外側チューブ２２と、該医療用管状体２１より近位側に配置されるガイドワイヤ挿通部材２４と、外側チューブ２２の内腔に配置される内挿部材２３とを有している。

【0017】

ガイドワイヤ挿通部材２４には、ガイドワイヤが内腔に挿通される貫通路２５が形成されており、該貫通路２５内には、ガイドワイヤが内腔に挿通されるガイドワイヤ用チューブ２６が配置されており、該ガイドワイヤ用チューブ２６は、少なくとも貫通路２５の近位側開口２５ａ位置より近位側に延伸して配置されている。ガイドワイヤ用チューブ２６の近位端が、貫通路２５の近位端より近位側に突出していることによって、ガイドワイヤ挿通部材２４の近位端での剛性変化が連続的になるため、医療用管状体搬送装置の操作性を向上させることができる。

【0018】

内挿部材２３の一部は、ガイドワイヤ挿通部材２４に固定されている。内挿部材２３は、ガイドワイヤ挿通部材２４に圧入されて固定されていてもよく、ガイドワイヤ挿通部材２４と熱融着や接着剤等で固定されていてもよい。

【0019】

内挿部材２３と該ガイドワイヤ挿通部材２４とが固定されている固定領域２４ａより近位側における該内挿部材２３の一部は、外方に保護部材２７を有している。上記領域の内挿部材２３の一部の外方に保護部材２７を配置することによって、内挿部材２３の損傷を抑制できる。また、保護部材２７を配置することによって内挿部材２３の長軸方向における支持力および挿通性を向上できるため、医療用管状体を展開するときにかかる応力を支える力を高めることができ、医療用管状体を容易に展開できる。内挿部材２３の軸方向において、外方に保護部材２７が配置された領域を、以下、保護部材被覆領域と呼ぶことがある。

【0020】

そして、保護部材２７は、該保護部材２７の軸方向に対する垂直な断面における断面積が遠位端に向かって減少する減面区間ｄを有し、該減面区間ｄにおける保護部材２７は、内挿部材２３に対してガイドワイヤ用チューブ２６とは反対側に偏在している。例えば医療用管状体搬送装置を体内管腔の曲がっている箇所に通したときに図３の（ａ）に示すように内挿部材２３が外側になるように応力を受けても、内挿部材２３の外方に配置している保護部材２７の形状を、該保護部材２７の軸方向に対する垂直な断面における断面積が遠位端に向かって減少する形状とし、断面積が減少している区間における保護部材２７を、内挿部材２３に対してガイドワイヤ用チューブ２６とは反対側に偏在させることによって、内挿部材２３がガイドワイヤ用チューブ２６とは反対側に逃げにくくなるため、キンクしにくくなる。また、減面区間ｄにおいては、内挿部材２３に対してガイドワイヤ用チューブ２６側に保護部材２７を配置していないため、ガイドワイヤ用チューブ２６などとの干渉が軽減され、破損を防ぐことができる。また、例えば医療用管状体搬送装置を体内管腔の曲がっている箇所に通したときに図３の（ｂ）に示すように内挿部材２３が内側になるように応力を受けても減面区間ｄにおいては、内挿部材２３に対してガイドワイヤ用チューブ２６側に保護部材２７を配置していないため、曲げ抵抗が小さくなり、医療用管状体搬送装置の長手方向に対して垂直な断面における中心軸寄りに内挿部材２３が配置されることとなる。その結果、医療用管状体２１を開放するときの圧縮荷重を、内挿部材２３が医療用管状体搬送装置の長手方向に対して垂直な断面における中心軸近傍で受けることができるため、内挿部材２３への荷重の伝達効率が高くなり、医療用管状体２１を効率よく展開できる。よって本発明によれば、操作性を低下させることなく、曲げられてもキンクしにくい医療用管状体搬送装置を提供できる。

【0021】

保護部材２７の遠位端部の形状は、例えば、テーパー形状が好ましく、内挿部材２３に対してガイドワイヤ用チューブ２６とは反対側に傾斜するテーパー形状であることがより好ましい。

【0022】

ガイドワイヤ挿通部材２４の最近位位置２４ｂと、保護部材２７の最遠位位置２７ａとの距離ｘは、例えば、０．５ｍｍ以上、３０ｍｍ以下が好ましい。距離ｘを３０ｍｍ以下とすることによって、医療用管状体搬送装置の長軸方向の剛性が連続的になるため、屈曲に対する耐性が向上し、キンクしにくくなる。距離ｘは、２０ｍｍ以下がより好ましく、更に好ましくは１０ｍｍ以下、特に好ましくは５ｍｍ以下である。距離ｘを５ｍｍ以下とすることによって保護部材２７で内挿部材２３の支持力および挿通性を向上させ、医療用管状体２１の展開時にガイドワイヤ挿通部材２４から掛かる応力を内挿部材２３と一体的に支えることができる。距離ｘの下限は特に限定されないが、短すぎるとガイドワイヤ挿通部材２４と保護部材２７の遠位端が接触しやすくなり、ガイドワイヤ挿通部材２４からの応力で保護部材２７の遠位部が折れ曲がって損傷することがあるため、距離ｘは０．５ｍｍ以上が好ましく、より好ましくは１ｍｍ以上である。

【0023】

図２に示すように、ガイドワイヤ挿通部材２４の近位端から突出しているガイドワイヤ用チューブ２６の近位側突出長をＬとしたとき、近位側突出長Ｌと上記距離ｘは、Ｌ＞ｘ、の関係を満足することが好ましい。近位側突出長Ｌと距離ｘが、Ｌ＞ｘ、の関係を満足することにより、医療用管状体２１の展開時にガイドワイヤ挿通部材２４から掛かる応力をガイドワイヤ用チューブ２６の近位端から隙間無く連続的に保護部材２７へ移行させることができ、医療用管状体２１の展開をより容易にする。さらに、剛性変化が連続的になるため、医療用管状体搬送装置のキンクを抑制でき、より安全に操作できる。

【0024】

また、上記近位側突出長Ｌと、上記距離ｘと、上記保護部材２７の軸方向に対する垂直な断面における断面積が遠位端に向かって減少する減面区間ｄは、ｘ＋ｄ＞Ｌ、の関係を満足することが好ましい。近位側突出長Ｌと距離ｘと減面区間ｄが、ｘ＋ｄ＞Ｌ、の関係を満足することにより、ガイドワイヤ用チューブ２６と保護部材２７との干渉を最小限に抑えることができる。

【0025】

ガイドワイヤ挿通部材２４には、ガイドワイヤが内腔に挿通される貫通路２５が形成されており、該貫通路２５内には、ガイドワイヤが内腔に挿通されるガイドワイヤ用チューブ２６が配置されている。ガイドワイヤ用チューブ２６を配置することによって、ガイドワイヤの挿通性が良好となるため、挿通させたガイドワイヤに沿って医療用管状体搬送装置を体内管腔へ容易に挿入できる。貫通路２５の内壁とガイドワイヤ用チューブ２６の外壁は、例えば、接着剤や熱融着等によって固定されていることが好ましい。
ガイドワイヤ挿通部材２４の遠位端に、医療用管状体２１を押し出しやすくするための押出部材を配置してもよい。

【0026】

ガイドワイヤ挿通部材２４、外側チューブ２２、保護部材２７の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、フッ素樹脂（例えば、ポリテトラフルオロエチレン（ＰＴＦＥ）、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体（ＰＦＡ）等）、ポリアミド、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン、ポリエーテルエーテルケトン（ＰＥＥＫ）等の樹脂材料が挙げられる。

【0027】

内挿部材２３の構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケルチタン合金、タングステン、金、白金等の各種金属材料が挙げられる。

【0028】

次に、本発明に係る医療用管状体搬送装置における遠位側の第２実施形態について図４を用いて説明する。なお、図４において、上記図面と同一箇所には同じ符号を付して、重複説明を避ける（以下、同じ）。

【0029】

図４に示すように、ガイドワイヤ用チューブ２６は、該ガイドワイヤ用チューブ２６の軸方向に対する垂直な断面における断面積が近位端に向かって減少する減面区間Ｄを有し、該減面区間Ｄにおけるガイドワイヤ用チューブ２６は、内挿部材２３側に偏在していることが好ましい。ガイドワイヤ用チューブ２６が減面区間Ｄを有することによって、医療用管状体２１を放出する際に生じた長軸方向の荷重が、ガイドワイヤ用チューブ２６から、外方に保護部材２７が配置された内挿部材２３へ連続的に伝達されるため、連続的な剛性変化となり、荷重が外方に逃げにくくなり、医療用管状体２１の展開に要する荷重を小さくできる。その結果、医療用管状体２１を効率よく展開できる。

【0030】

ガイドワイヤ用チューブ２６の近位側端部の形状は、例えば、テーパー形状が好ましく、内挿部材２３側に傾斜するテーパー形状であることがより好ましい。テーパー形状とすることにより、剛性変化の連続性を高めてキンクを防止しやすくなる。

【0031】

ガイドワイヤ用チューブ２６は、貫通路２５の遠位側開口位置２５ｂより遠位側に延伸して配置されていてもよく、該ガイドワイヤ用チューブ２６の遠位端は、図２に示すように、先端チップ２８の内腔まで延伸して配置されてもよい。ガイドワイヤ用チューブ２６が、貫通路２５の遠位側開口位置２５ｂより遠位側に延伸して配置されていることによって、ガイドワイヤの挿通性を向上できる。

【0032】

貫通路２５の遠位側開口位置２５ｂより遠位側に延伸して配置されているガイドワイヤ用チューブ２６は、貫通路２５内に配置されているガイドワイヤ用チューブ２６の遠位端に熱融着や接着剤等によって固定されていてもよいし、貫通路２５内に配置されているガイドワイヤ用チューブ２６の遠位端を延伸して配置させ、一体型のチューブであってもよい。

【0033】

ガイドワイヤ挿通部材２４は、着色されていることが好ましい。ガイドワイヤ挿通部材２４を着色することによって、内視鏡下で視認しやすくなり、ガイドワイヤ挿通部材２４より遠位側に配置される医療用管状体２１の位置を確認しやすくなる。着色したガイドワイヤ挿通部材２４は、ビジュアルマーカーと呼ばれることがある。ガイドワイヤ挿通部材２４に着色する色は、内視鏡下で視認しやすい色であれば特に限定されないが、例えば、胃腸内の粘膜や血液に対して比較的目立つ色が好ましく、黄色が特に好ましい。

【0034】

次に、本発明に係る医療用管状体搬送装置における遠位側の第３実施形態について図５を用いて説明する。図５に示すように、医療用管状体搬送装置は、外側チューブ２２がガイドワイヤポート３１を有し、ガイドワイヤポート３１が、外側チューブ２２の近位端より遠位側に配置されているラピッドエクスチェンジ型であってもよい。ガイドワイヤ用チューブ２６の近位端側は、ガイドワイヤポート３１まで延伸して配置され、ガイドワイヤポート３１まで延伸して配置されていてもよい。

【0035】

なお、図５では、医療用管状体搬送装置の他の実施形態として、ラピッドエクスチェンジ型を示したが、オーバーザワイヤー型であってもよい。

【0036】

次に、本発明に係る医療用管状体搬送装置における遠位側の第４実施形態について図６を用いて説明する。

【0037】

図６に示すように、外側チューブ２２の内腔には、ガイドワイヤが内腔に挿通される内挿チューブ５１が配置されており、該内挿チューブ５１の近位端は、該ガイドワイヤポート３１に固定されていてもよい。

【0038】

内挿チューブ５１の近位端がガイドワイヤポート３１に固定されている形態としては、例えば、外側チューブ２２の一部を肉厚にして内挿チューブ５１との間に充填部材３０を形成し、外側チューブ２２と内挿チューブ５１の近位端部との隙間をなくして固定されている形態や、内挿チューブ５１の近位端部と外側チューブ２２との間に、樹脂等で構成される充填部材３０を介在させ、接着剤で固定されている形態や、充填部材３０として接着剤を用い、内挿チューブ５１の近位端部と外側チューブ２２とが接着されている形態などが挙げられる。また、充填部材３０を用いずに、外側チューブ２２の内壁と内挿チューブ５１の外壁が、例えば、熱溶融や圧着によって密着するように固定されている形態であってもよい。

【0039】

図６に示した医療用管状体搬送装置の実施形態では、ラピッドエクスチェンジ型であることが好ましい。

【0040】

図６に示すように、内挿チューブ５１の一部は、ガイドワイヤ用チューブ２６の内腔に配置されていてもよい。このように構成することによって、外側チューブ２２を近位側に引いて医療用管状体２１を放出、展開させるときに、ガイドワイヤが常に内挿チューブ５１または貫通路２５の内腔に配置されるため、ガイドワイヤが、例えば、内挿部材２３等に絡みついて操作できなくなることや、医療用管状体２１の放出の阻害を防止できる。

【0041】

次に、本発明に係る医療用管状体搬送装置における遠位側の第５実施形態について図７を用いて説明する。図７に示す医療用管状体搬送装置では、貫通路２５内に、ガイドワイヤが内腔に挿通されるガイドワイヤ用チューブ２６が配置されており、該ガイドワイヤ用チューブ２６の遠位側は、先端チップ２８まで延伸して配置されており、ガイドワイヤ用チューブ２６の近位側は、貫通路２５の近位側開口２５ａの位置まで延伸して配置されている。ガイドワイヤ用チューブ２６の近位端部の形状は、テーパー状である。テーパー状にすることによって、剛性変化の連続性を高めてキンクを防止しやすくなる。

【0042】

また、外側チューブ２２の内腔に、ガイドワイヤが内腔に挿通される内挿チューブ５１が配置されており、該内挿チューブ５１の近位端は、ガイドワイヤポート３１に固定されており、該内挿チューブ５１は、貫通路２５内に配置されたガイドワイヤ用チューブ２６の内腔を通り、先端チップ２８まで延伸して配置されている。内挿チューブ５１をガイドワイヤポート３１から先端チップ２８まで延伸して配置されていることによって、ガイドワイヤの挿通性を向上させることができる。また、医療用管状体を展開する際に外側チューブ２２を後退させても、ガイドワイヤが常にガイドワイヤ用チューブ２６または内挿チューブ５１に入った状態に維持できるため、外側チューブ２２内部でのガイドワイヤの絡みつき等を防止でき、より安全に操作できるようになる。

【0043】

図７では、内挿チューブ５１と外側チューブ２２との間に、充填部材３０を介在させている。充填部材３０の近位端部の形状は、内挿チューブ５１の近位端部の形状と一致している。充填部材３０の近位端部の形状と、内挿チューブ５１の近位端部の形状と一致させることによって、外側チューブ外表面の一体性が増し、送達操作の容易性が高まる。

【0044】

図７に示すように、ガイドワイヤ用チューブ２６の外表面に係止具３２を設けてもよい。該係止具３２は、医療用管状体２１の内表面に係合しており、外側チューブ２２を近位側に引くと医療用管状体２１は係止具３２によって後退を抑制され、外側チューブ２２の外方へと展開される。

【0045】

係止具３２を設ける位置は、医療用管状体２１の後退を抑制できれば特に限定されないが、例えば、医療用管状体２１の長軸方向長さにおける中央位置より遠位側に係止具３２を設けても、外側チューブ２２を近位側に引いて医療用管状体２１を展開すると間なしに係止具３２と医療用管状体２１が離れてしまうため、係止具３２による後退抑制効果がほとんど得られない。従って係止具３２は、医療用管状体２１の長軸方向長さにおける中央位置より近位側に設けることが好ましい。また、係止具３２を用いずに、ガイドワイヤ挿通部材２４の遠位端で医療用管状体２１の近位端を支えてもよい。

【0046】

医療用管状体としては、例えば、ステント、ステントグラフト、閉塞具、注入カテーテル、プロテーゼ弁等を用いることができる。中でもステントを用いることが好ましい。ステントとしては、例えば、１本の線状の金属または高分子材料で形成されたコイル状のステント、金属チューブをレーザーによって切り抜いて加工したステント、金属シートをレーザーで切り抜いた後に円筒形状に巻いてレーザー溶接したステント、線状の部材をレーザーによって溶接して組み立てたステント、または、複数の線状金属を織って作ったステントが挙げられる。ステントは、ステントをマウントしたバルーンによって拡張させるバルーン拡張型ステントと、ステントの拡張を抑制する外部部材を取り除くことによって自ら拡張させる自己拡張型ステントに分類される。本発明では、自己拡張型ステントを用いることが好ましい。

【0047】

本願は、２０１９年１２月１８日に出願された日本国特許出願第２０１９－２２８６７２号に基づく優先権の利益を主張するものである。２０１９年１２月１８日に出願された日本国特許出願第２０１９－２２８６７２号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。

【符号の説明】

【0048】

１１、２１ 医療用管状体
１２、２２ 外側チューブ
１３、２３ 内挿部材
１４、２４ ガイドワイヤ挿通部材
１４ａ 固定領域
１５、２５ 貫通路
１５ａ 貫通路１５の近位側開口
１６、２６ ガイドワイヤ用チューブ
１７、２７ 保護部材
１８、２８ 先端チップ
２４ａ 内挿部材２３とガイドワイヤ挿通部材２４とが固定されている固定領域
２４ｂ ガイドワイヤ挿通部材２４の最近位位置
２５ａ 貫通路２５の近位側開口
２５ｂ 貫通路２５の遠位側開口
２７ａ 保護部材の最遠位位置
３０ 充填部材
３１ ガイドワイヤポート
３２ 係止具
５１ 内挿チューブ
ｄ 減面区間
Ｄ 減面区間

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】