(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】ホモプロパルギルアルコールを調製するための化学酵素的プロセス
(51)【国際特許分類】
C12P 7/04 20060101AFI20241021BHJP
C12P 41/00 20060101ALI20241021BHJP
C07C 33/042 20060101ALI20241021BHJP
C12N 11/00 20060101ALN20241021BHJP
C12N 9/20 20060101ALN20241021BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241021BHJP
【FI】
C12P7/04
C12P41/00 D
C07C33/042
C12N11/00
C12N9/20
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021576357
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 IN2020050533
(87)【国際公開番号】W WO2020255164
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】201911024666
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】596020691
【氏名又は名称】カウンスィル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
【氏名又は名称原語表記】COUNCIL OF SCIENTIFIC & INDUSTRIAL RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャンドラセクハール、スリヴァリ
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ、スブハシュ
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナ、アヴラ・シヴァ
(72)【発明者】
【氏名】レディー、チャダ・ラジ
(72)【発明者】
【氏名】スダカール、ガンガラジュラ
(72)【発明者】
【氏名】テンクリシュナン、クマラグル
(72)【発明者】
【氏名】パバラジャ、スリハリ
(72)【発明者】
【氏名】マインカール、プラサマ・サティエンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ナサム、ラジェシュ
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-047398(JP,A)
【文献】特表2002-541816(JP,A)
【文献】Org. Lett.,2009年,Vol. 11, No. 20,pp.4520-4523
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iのホモプロパルギルアルコール化合物の光学的に純粋なエナンチオマーを調製するための化学酵素的プロセスであって、
【化1】
式中、Pは、H又はアルコール保護基であり、
nは、0~12の範囲の整数であり、
i.金属触媒の存在下、有機溶媒中で式(III)のアルデヒド化合物を式(IV)のハロゲン化プロパルギル化合物と反応させて、式Iのラセ
ミ化合物を得る工程
【化2】
(式中、X=Cl、Br又はI);
ii.工程(i)で得られ
た式Iの前記ラセミ化合物を、アシル供与体及び有機溶媒の存在下で、20~50℃の範囲の温度で、酵素で処理して、
エナンチオマー的に濃縮された式I(a)
のアルコール及び
光学的に純粋な式I(c)の
アシル化化合物を得る工程
であって;
ここで、前記酵素は、シュードモナス属由来及びカンジダ属由来のリパーゼからなる群から選択され、
【化3】
iii.無水物
で処理して
、前記式I(c)の化合物を保持しながら、化合物式I(a)から式I(d)の
セミ-エステル誘導体を得る工程;
ここで、前記無水物は、無水フタル酸、無水マレイン酸又は無水コハク酸からなる群から選択され、
【化4】
iv.前記工程(iii)
で得られた
、式I(c)の化合物及び式I(d)のセミ-エステル誘導体の粗反応混合物を有機溶媒で洗浄して、光学的に純粋な式I(c)のアセチル生成物化合物を得る工程;
v.塩基の存在下で、
工程(iii)の前記式I(c)の化合物を加水分解して
、式I(b)の化合物を得る工程;
【化5】
vi.前記工程(
iii)から得られた
式I(d)のセミ-エステル誘導体を塩基で加水分解して、式I(a)の光学的に純粋なアセチル生成物化合物を得る工程;
【化6】
を含む、該プロセス。
【請求項2】
前記アルコール保護基は、メトキシメチルエーテル(MOM-O-)、2-メトキシエトキシメチルエーテル(MEM-O-)、テトラヒドロピラニルエーテル(THP-O-)、t-ブチルエーテル、アリルエーテル、ベンジルエーテル(Bn-O-)、p-メトキシベンジルエーテル(-O-PMB)、t-ブチルジメチルシリルエーテル(TBDMS-O-)、t-ブチルジフェニルシリルエーテル(TBDPS-O-)、酢酸エステル、ピバル酸エステル又は安息香酸エステルからなる群から選択さ
れる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記金属触媒は、Znダスト又はInから選択さ
れる、請求項
1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記アシル供与体は、酢酸イソプロペニル及び酢酸ビニルから選択される、請求項
1に記載のプロセス。
【請求項5】
工程(ii)及び(iv)で使用される有機溶媒は、テトラヒドロフラン、メチル1-ブチルエーテル、ジメチルスルホキシド及びジメチルホルムアミドから選択される非プロトン性極性溶媒、アセトン及びメチルエチルケトンから選択されるケトン、アセトニトリル及びベンゾニトリルから選択されるニトリル、メタノール、エタノール及びt-ブタノールから選択されるアルコール
、メチルtert-ブチルエーテル並びにトルエンからなる群から選択さ
れる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
使用される前記酵素は、シュードモナス・スタッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、
又はシュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia
)からなる群から選択されるシュードモナス属由来のリパーゼ、並びにカンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)及びカンジダ・アンタークティカ(Candida Antarctica)からなる群から選択されるカンジダ属由来のリパーゼである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
工程(ii)における前記酵素の負荷は、基質の重量に対して
、0.1重量%
~100重量%の範囲で
ある
、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
得られた式I(a)及びI(b)の化合物の前記エナンチオマー純度は、95~>99
%e.eの範囲である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記酵素は、カラ
ム内又は固定床反応器内に充填され、前記反応は、連続フロープロセスにて、0.5時間~6時間の範囲の時間行われ
る、請求項
1に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、式Iのホモプロパルギルアルコール化合物の光学的に純粋なエナンチオマーを調製するための化学酵素的プロセスに関する。特に、本発明は、式Iのホモプロパルギルアルコール化合物の光学的に純粋なエナンチオマーであり、ハリコンドリンB及びエリブリン等の類似体を調製するための有用な中間体に関する。より具体的には、本発明は、式Iの光学的に純粋なエナンチオマー化合物、すなわちI(a)及びI(b)に関し、これらは酵素的分割法によって得られる。
【0002】
【0003】
式中、Pは、H又はアルコール保護基であり、
nは、0~12の範囲の整数である。
【0004】
発明の背景
エリブリンは、転移性疾患の治療のために少なくとも2つの化学療法レジメンを受けたことがある転移性乳がん患者の治療に適応される微小管阻害剤である。これは、構造的に簡素化したハリコンドリンBの合成類似体である。エリブリンのメシル酸塩は、ハラヴェン(登録商標)又はE7389としても知られている。
【0005】
エリブリンメシル酸塩及び他のハリコンドリンB類似体の合成のための方法及び中間体は、国際公開番号WO2005/118565、WO2009/046308、WO2009/064029、及びWO2009/124237、米国特許第6,214,865号、第6,214,865号、並びにインド公開番号IN02/2018、IN07/2015、IN47/2017及びIN48/2017に記載されている。ハリコンドリンB類似体、特にエリブリンを合成するための新規の方法は、その重要な化学療法の用途のために望ましい。
【0006】
式IIの4-メチレンテトラヒドロフラン化合物は、エリブリン等のハリコンドリンB類似体を調製するための中間体(C14-C26構成要素)として使用される。式Iのホモプロパルギルアルコール化合物の光学的に純粋なエナンチオマー(I(a)及びI(b))は、上記中間体を調製するための重要な出発物質として使用される。
【0007】
【0008】
式IIの4-メチレンテトラヒドロフラン化合物の調製プロセスは、PCT出願番号2005/118565A1、J.Am.Chem.Soc,1992,114,3162、及びOrg.Lett.,2002,4,3411-3414に開示される。単純なアルデヒド用のラセミホモプロパルギルアルコールの調製プロセスは、低収率(25%)で、Molecules 2001,6,964-968に開示された。式Iの光学的に純粋なホモプロパルギルアルコール化合物の調製プロセスは、Org.Lett.,2009,11,4520-4523に開示され、CrBr3によって媒介される、ハロゲン化プロパルギルでのアルデヒドの不斉プロパルギル化であり、収率78%、e.e.90%である。更に、e.eは、エナンチオ選択性アマノリパーゼ触媒によるアセタートの加水分解によって改善された(反応混合物を、50℃にて43時間緩衝液(pH7)中で攪拌した)。それは、酵素が緩衝液に溶けて再利用できなくなることに繋がる。それは、後処理中のエマルジョン形成及び製造コストの増加にも繋がる。光学的に純粋なホモプロパルギルアルコールを調製するための別の一般的なプロセスは、Org.Lett,2011,13,1900-1903に開示され、ZnEt2及びキラルアミノアルコール配位子によって媒介される。
【0009】
従って、報告されたプロセスには、非常に高価な有毒金属ベースの試薬の使用、低e.e、及び大量の触媒、極低温条件、より長い反応時間、及び生成物の単離のためのカラムクロマトグラフィーの使用を含む大きな不利点がある。
【0010】
従って、式I(a)及び(b)の光学的に純粋なホモプロパルギルアルコール化合物を調製するための代替のより環境に優しいプロセスを提供する必要があり、それは簡易で、経済的かつ工業的に実行可能であり、当該化合物はエリブリンに変換できる。本明細書では、本発明は、有機溶媒中で、生成物の単離のためのカラムクロマトグラフィーなく、上記化合物を調製するための代替の化学酵素的アシル化プロセスを提供する。この酵素は、リサイクル性が高いことが判明した。酵素の再生及び再利用は、更にコストを低減し、プロセスをより経済的に実行可能にする。
【0011】
発明の目的
本発明の主な目的は、式Iのホモプロパルギルアルコール化合物の光学的に純粋なエナンチオマーを調製するための化学酵素的プロセスを提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、式Iのホモプロパルギルアルコール化合物の光学的に純粋なエナンチオマーであり、ハリコンドリンB及びエリブリン等の類似体を調製するために有用な中間体を提供することである。
【0013】
本発明の更に別の目的は、酵素的分割法によって、式Iの光学的に純粋なエナンチオマー化合物、すなわち式I(a)及び式I(b)を分離するためのプロセスを提供することである。
【0014】
本発明の更に別の目的は、カラムクロマトグラフィーを使用せずに、酵素的分割後にエナンチオマーアルコール及びそのアシル化エナンチオマーを分離するためのプロセスを提供することである。
【0015】
発明の概要
従って、本発明は、式Iのホモプロパルギルアルコール化合物の光学的に純粋なエナンチオマーを調製するための化学酵素的プロセスを提供し、
【0016】
【0017】
式中、Pは、H又はアルコール保護基であり、
nは、0~12の範囲の整数である;
【0018】
当該プロセスは、以下の工程を含む:
i.金属触媒の存在下、有機溶媒中で式(III)のアルデヒド化合物を式(IV)のハロゲン化プロパルギル化合物と反応させて、式Iのラセミホモプロパルギルアルコール化合物を得る工程
【0019】
【0020】
ii.工程(i)で得られた約0.1g/L~約1000g/Lの式Iのラセミ化合物を、アシル供与体及び有機溶媒の存在下で、20~50℃の範囲の温度で、酵素で処理して、式I(a)及び式I(c)の化合物を得る工程;
【0021】
【0022】
iii.無水物を使用して、エナンチオマー的に純粋な式I(a)のアルコール化合物及び式I(c)のアセチル化化合物を分離し、式I(c)の化合物を保持しながら、化合物式I(a)から式I(d)のエステル誘導体を得る工程;
【0023】
【0024】
iv.工程(iii)から得られた残留物を有機溶媒で洗浄して、式I(c)の光学的に純粋なアセチル生成物化合物を得る工程;
v.塩基の存在下で、式I(c)の化合物を加水分解して、既知の方法により式I(b)の化合物を得る工程;
【0025】
【0026】
vi.工程(iv)から得られた固体残留物を塩基で加水分解して、式I(a)の光学的に純粋なアセチル生成物化合物を得る工程。
【0027】
【0028】
本発明の実施形態において、アルコール保護基は、メトキシメチルエーテル(MOM-O-)、2-メトキシエトキシメチルエーテル(MEM-O-)、テトラヒドロピラニルエーテル(THP-O-)、t-ブチルエーテル、アリルエーテル、ベンジルエーテル(Bn-O-)、p-メトキシベンジルエーテル(-O-PMB)、t-ブチルジメチルシリルエーテル(TBDMS-O-)、t-ブチルジフェニルシリルエーテル(TBDPS-O-)、酢酸エステル、ピバル酸エステル又は安息香酸エステルからなる群から選択され、好ましくはt-ブチルジフェニルシリルエーテル(TBDPS-O-)である。
【0029】
本発明の別の実施形態において、使用される金属触媒は、Znダスト又はInから選択され、好ましくはZnダストである。
【0030】
本発明の更に別の実施形態において、アシル供与体は、酢酸イソプロペニル及び酢酸ビニルから選択される。
【0031】
本発明の更に別の実施形態において、工程(ii)及び(iv)で使用される有機溶媒は、テトラヒドロフラン、メチル1-ブチルエーテル、ジメチルスルホキシド及びジメチルホルムアミドから選択される非プロトン性極性溶媒、アセトン及びメチルエチルケトンから選択されるケトン、アセトニトリル及びベンゾニトリルから選択されるニトリル、メタノール、エタノール及びt-ブタノールから選択されるアルコールからなる群から選択され、好ましくはメチルtert-ブチルエーテル及びトルエンである。
【0032】
本発明の更に別の実施形態において、使用される酵素は、シュードモナス・スタッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)又はバークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)からなる群から選択されるシュードモナス属由来のリパーゼ、並びにカンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)及びカンジダ・アンタークティカ(Candida Antarctica)からなる群から選択されるカンジダ属由来のリパーゼである。
【0033】
本発明の更に別の実施形態において、工程(ii)における酵素の負荷は、基質の重量に対して、約0.1重量%~約100重量%の範囲であり、好ましくは基質の重量に対して、約0.1重量%~約10重量%である。
【0034】
本発明の更に別の実施形態において、無水物は、無水フタル酸、無水マレイン酸又は無水コハク酸からなる群から選択される。
【0035】
本発明の更に別の実施形態において、得られた式I(a)及びI(b)の化合物のエナンチオマー純度は、95~>99%、好ましくは99.99%e.eの範囲である。
【0036】
本発明の更に別の実施形態において、酵素は、カラム(充填層反応器、PBR)又は固定床反応器に充填され、反応は、連続フロープロセスにて、0.5時間~6時間の範囲の時間行われる(定常状態)。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、式(I)のラセミ-ホモプロパギルアルコール化合物を調製するためのプロセス工程を表す。
【
図2】
図2は、式Iの光学的に純粋なエナンチオマー化合物、すなわちI(a)及び式I(c)のアシル化エナンチオマー化合物を調製するためのプロセス工程を表す。
【
図3】
図3は、式I(a)及び式I(c)から、式I(a)及び式I(b)のエナンチオマー化合物を分離するためのプロセス工程を表す。
【
図4】
図4は、例4において、化合物I(a)及び化合物I(c)を調製するためのプロセス工程を表す。
【
図5】
図5は、例5のように、化合物I(a)及び化合物I(c)を調製するためのプロセス工程を表す。
【
図6】
図6は、充填層反応器(PBR)の概略図を表す。
【0038】
発明の詳細な説明
本出願は、式Iのホモプロパルギルアルコール化合物の光学的に純粋なエナンチオマーを調製するための化学酵素的プロセスに関する。
【0039】
【0040】
式中、Pは、H又はアルコール保護基であり、
nは、0~12の範囲の整数である。
【0041】
本発明は、式Iの光学的に純粋なエナンチオマー化合物、すなわち式I(a)及び式I(b)へのラセミホモプロパルギルアルコールの酵素を使用した速度論的光学分割に関する。
【0042】
【0043】
式中、P及びnは、上記と同様である。
【0044】
このホモプロパルギルアルコール基質は、ハリコンドリンB及びエリブリン等の類似体の調製に有用な中間体として機能する。
【0045】
本出願は、式(I)のホモプロパルギルアルコール化合物の光学的に純粋なエナンチオマーを調製するためのプロセスを提供し、以下の工程を含む。
【0046】
a)金属触媒(M)の存在下、有機溶媒中で式IIIのアルデヒド化合物を式IVのハロゲン化プロパルギル化合物と反応させて、式Iのラセミ化合物を得る工程(
図1)
【0047】
【0048】
式中、Pは、H又はアルコール保護基であり、
nは、0~12の範囲の整数であり、
Xは、塩素、臭素又はヨウ素からなる群から選択されるハロゲンであり、好ましくは臭素である。
【0049】
金属触媒(M)は、Znダスト又はInから選択され、好ましくはZnダストである。
【0050】
b)式(I)のラセミ化合物を、アシル供与体及び有機溶媒の存在下で、酵素で処理して、エナンチオマー的に濃縮された式I(a)のアルコール及び光学的に純粋な式I(c)のアシル化化合物を得る工程(
図2)。
【0051】
c)当該混合物を無水物で処理することによって、エナンチオマー的に純粋な式I(a)のアルコール化合物及び式I(c)のアセチル化化合物を分離し、式I(c)の化合物を保持しながら、式I(a)の化合物から式I(d)のセミエステル化合物を得る工程(
図3)。式I(d)及びI(c)の化合物の塩基加水分解を別々に行って、エナンチオマー的に純粋な式I(a)及びI(b)の化合物を得た(
図3)。
【0052】
「化学酵素的」とは、酵素が触媒として使用される化学反応として定義される。
【0053】
「アルコール保護基」という用語は、別の反応を妨げるために、官能基の特徴的な化学的性質を一時的にマスクする基を指す。好ましい保護基には、限定されないが、メトキシメチルエーテル(MOM-O-)、2-メトキシエトキシメチルエーテル(MEM-O-)、テトラヒドロピラニルエーテル(THP-O-)、t-ブチルエーテル、アリルエーテル、ベンジルエーテル(Bn-O-)、p-メトキシベンジルエーテル(-O-PMB)、t-ブチルジメチルシリルエーテル(TBDMS-O-)、t-ブチルジフェニルシリルエーテル(TBDPS-O-)、酢酸エステル、ピバル酸エステル、安息香酸エステル等を含む。より具体的には、保護基は、t-ブチルジフェニルシリルエーテル(TBDPS-O-)である。
【0054】
「固定化酵素」という用語は、それらの触媒活性を保持しながら、特定の画定された空間領域内に物理的に拘束又は局在化されて、繰り返して連続的に使用できる酵素を指す。固定化により、酵素触媒の安定性を改善して、工業及び実験室の化学プロセスに特徴的な、過酷な溶媒環境や極端な温度での機能的完全性を保護することができる(Hartmeier,W.,Trends in Biotechnology 3:149-153(1985))。本明細書で使用される場合、酵素固定化という用語は、架橋酵素結晶(CLECs)及び架橋酵素凝集体(CLEAs)への付着、そのカプセル化、又はその中への凝集による、不溶化又は酵素触媒を指す。
【0055】
本明細書で使用される「置換した」という用語は、以下の置換基の任意の1つ又は任意の組み合わせによる置換を指す。フッ素、塩素、臭素及びヨウ素;ヒドロキシ;ニトロ;シアノ;オキソ(=O);チオキソ(=S);アジド;ニトロソ;アミノ;ヒドラジノ;ホルミル;アルキル;アルコキシ;アリール;トリフルオロメチル、トリブロモメチル及びトリクロロメチル等のハロアルキル基;-OCH2Cl、-OCHF2及び-OCF3等のハロアルコキシ基;ベンジルオキシ及びフェニルエトキシ等のアリールアルコキシ基;シクロアルキル;-O-シクロアルキル;アリール;アルコキシ;ヘテロシクリル;ヘテロアリール;アルキルアミノ;-O-CH2-シクロアルキル;-COORa;-C(O)Rb;-C(S)Ra;-C(O)NRaRb;-NRaC(O)NRbRc;-N(Ra)SORb;-N(Ra)SO2Rb;-NRaC(O)ORb;-NRaRb;-NRaC(O)Rb-;NRaC(S)Rb-;-SONRaRb-;-SO2NRaRb;-ORa;-ORaC(O)ORb-、-OC(O)NRaRb;OC(O)Ra;-OC(O)NRaRb-;-RaNRbRc;-RaORb-;-SRa;-SORa及び-SO2Ra;Ra、Rb、及びRcは、それぞれ独立して水素原子、アルキル、アリール、アリールアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロアリール及びヘテロアリールアルキルから選択される置換又は非置換基を表す;Ra、Rb及びRcは、組み合わされて0~2個のヘテロ原子を有する3~7員環も形成する。
【0056】
「塩基」という用語は、有機塩基又は無機塩基であり、好ましくは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ナトリウム・エトキシド、tBuOK、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、4-メチルモルホリン、1-メチルピペリジン、ピリジン、又はN,N-ジメチルアミノピリジンから選択される。
【0057】
「アルキル」という用語は、特定の数の炭素原子を有する直鎖又は分岐脂肪族炭化水素基を指し、これらは単一の原子によって分子の残り部分に結合する。好ましいアルキル基は、限定されないが、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル等を含む。
【0058】
化合物の「エナンチオマー純度」は、化合物の「エナンチオマー過剰率(enantiomeric excess)」(e.e.)で測定される。「エナンチオマー過剰率」は、化合物が一方のエナンチオマーを他方よりも多く含む程度を示す。化合物のエナンチオマー過剰率(e.e.)は、以下の式で計算される:
【0059】
e.e.=((R-S)/(R+S))×100;式中、R及びSは、混合物中の個々の光学異性体を表す(R+S=1)。
【0060】
アシル供与体は、アセチル供与体又はモノハロアセチル供与体又は任意に置換されたフェニルエステルである。アシル供与体は、「可逆的」又は「不可逆的」供与体であり得る。可逆的供与体には、酢酸エチル及びトリアセチンを含む。アシル供与体の具体例には、酢酸イソプロペニル、トリアセチン、酢酸ビニル、酢酸エチル、ジアセチン、エチレングリコールジアセタート、cis-1,4-ジアセトキシブタン、1,4-ジアセトキシブタン、酢酸フェニル、1,2,4-トリアセトキシベンゼン、1,3-ブタンジアルジアセタート、1,2-プロパンジオールジアセタート、n-酢酸ブチル、トリエチレングリコールジアセタート、酢酸イソプロピル及び酢酸イソブチル等を含む。より好ましいアシル供与体は、トリフルオロエチルブチラート、S-エチルチオオクタノアート、ビアセチルモノオキシムアセタート、酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル、1-エトキシビニルアセタート、ジケテン、無水酢酸、無水コハク酸、無水イソ酪酸である。
【0061】
無水物は、無水フタル酸、無水マレイン酸又は無水コハク酸からなる群から選択される。
【0062】
式I(a)及びI(c)、並びに/又はI(c)及びI(d)の化合物の分離は、既存の技術で知られる任意の方法、すなわち結晶化又は酸塩基ワークアップの使用を含んでいた。
【0063】
アシル供与体とアルコールのモル比は、ラセミアルコールの場合では0.5:2にでき、すなわち1のエナンチオマーの定量的反応の場合は0.5当量にできる。或いは、アシル供与体は、例えば少量の酵素が使用されるべき場合では、大過剰、例えば100倍のモル過剰でも使用され得る。好ましい化学量論は、アルコールに対するアシル供与体の約1~約10当量の間である。
【0064】
本出願の化学酵素的プロセスのための基質の濃度は、約0.1g/L~約1000g/Lであり得る。本出願の化学酵素プロセスのための酵素の負荷は、基質の重量に対して、約0.1重量%~約100重量%であり得る。具体的には、本出願の化学酵素的プロセスのための酵素の負荷は、基質の重量に対して、約10重量%未満であり得る。
【0065】
本発明で使用される酵素は、市場で入手可能なリパーゼである。特に好ましいリパーゼは、以下を含む。
【0066】
・シュードモナス・スタッツェリ、シュードモナス・フルオレッセンス、シュードモナス・セパシア及びバークホルデリア・セパシア等のシュードモナス属由来のリパーゼ。
【0067】
・カンジダ・ルゴサ、カンジダ・シリンドラセア及びカンジダ・アンタークティカ等のカンジダ属由来のリパーゼ。
【0068】
より具体的には、本出願の化学酵素的プロセスは、シュードモナス・フルオレッセンス由来のリパーゼを使用して実施することができる。
【0069】
酵素は、遊離型又は固定化型で使用することができる。酵素の固定化方法は、当業者によく知られている。カラムプロセスは、遊離酵素と固定化酵素の両方に使用し得る。酵素の量は、バッチのサイズ、アルコールの反応性、所望の反応時間、及び酵素の遊離又は固定化した性質の関数として選択される。酵素の量の決定は、パイロット規模で反応を行う簡単な予備実験によって容易に行われる。
【0070】
好ましくは、反応中、溶液を撹拌する。反応時間は、使用するアルコールの性質や、酵素及び溶媒の量によって異なり、通常は数時間のみであるが、最大2週間かかる場合がある。反応の進行は、薄層クロマトグラフィー(TLC)及びHPLCを含む、有機合成の当業者に知られている任意の方法を使用して好都合に行われる。
【0071】
本出願の化学酵素的プロセスは、適切な有機溶媒中で、又は溶媒の混合物中で、又は有機溶媒なしで行い得る。有機溶媒には、ジイソプロピルエーテル(DIPE)、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルtert-ブチルエーテル等のエーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;アセトン等のケトン、アセトニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、tert-ブタノール等のアルコールが含まれ得るが、これらに限定されない。或いは、本出願の化学酵素的プロセスは、アルコールと有機溶媒の混合物中で行い得る。他の適切な有機溶媒の例には、シクロヘキサン(CH)、1,4-ジオキサン、ヘプタン、ヘキサン、炭酸ジメチル(DMC)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸エチル、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、トルエン、キシレン等が含まれるが、これらに限定されない。より具体的には、使用される有機溶媒は、好ましくは非極性であり、好ましくは、ジイソプロピルエーテル或いはt-ブチルメチルエーテル(MTBE)等のエーテル、又はイソヘキサン、ペンタン、ヘプタン或いはヘキサン等の炭化水素である。
【0072】
本出願の化学酵素的プロセスは、適した温度で行い得る。温度は、具体的には約-10℃~ほぼ溶媒の沸点、より具体的には約-10℃~約80℃、より具体的には約15℃~約40℃であり得る。
【0073】
本出願の化学酵素的プロセスは、安定剤又は添加剤の存在下で行い得る。当該技術分野で知られる任意の安定剤又は添加剤を、本出願の上記化学酵素的プロセスに使用し得る。
【0074】
本出願の化学酵素的プロセスは、適した装置内、例えば、ガラス或いは金属で作られた密閉反応容器又はバイオリアクター内又は充填層反応器内で行い得る。
【0075】
本出願の化学酵素的プロセスは、窒素又は空気の雰囲気下で行い得る。
【0076】
式(I)の化合物及びその異性体は、当該技術分野で知られる方法によって懸濁液から分離し得る。
【0077】
本明細書に開示される化合物は、単一の立体異性体、ラセミ体、及び又はエナンチオマー及び/又はジアステレオマーの混合物として存在し得る。全てのそのような単一の立体異性体、ラセミ体及びそれらの混合物は、記載された主題の範囲内にあることが意図される。
【0078】
本発明は、上記列挙した化合物に加えて、そのような化合物の類似体の使用を包含することを意図する。この文脈において、類似体は、構造的類似性に関係なく、実質的な生物学的類似性を有する分子である。
【0079】
使用した生物資源の詳細
シュードモナス属由来のリパーゼは、天野製薬、名古屋、日本から調達し、カンジダ属由来のリパーゼは、ノボザイム435、M/s ノボザイムズ、デンマークから調達する。
【0080】
例
以下の例は例示のために与えられ、従って本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0081】
例1:式Iのrac-ホモプロパルギルアルコールの調製
乾燥THF(750ml)中の式IIIのアルデヒド(式中、n=1及びP=TBDPS)(100g、306mmol)の撹拌溶液に、臭化プロパルギル(79.2ml、919mmol)を加え、続いて活性Znダスト(80gr.、61.32mmol)を-20℃で加え、その後、飽和塩化アンモニウムを発泡が停止するまでゆっくりと滴下して加えた。(TLCでモニターした)反応完了後、粗生成物をセリット床で濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。粗残留物を酢酸エチル(2×500mL)で抽出し、合わせた有機抽出物をブラインで洗浄し、無水Na2SO4で乾燥して、減圧下で蒸発させ、ラセミアルコールI(式中、n=1及びP=TBDPS)を提供した(108g、95.9%)。
【0082】
例2:選択的アシル化のための酵素のスクリーニング
MTBE(1mL)及び酢酸イソプロペニル(0.015mL)中の(+/-)-ホモプロパルギルアルコールI(式中、n=1及びP=TBDPS)(50mg、0.136mmol)の溶液に対して、酵素(10mg)を加えた。反応塊を27℃で10時間振とうし続けた。反応混合物をHPLCから分析して、転化率及びe.eを確認した。(-)は、転化なしを表す。
【0083】
【0084】
例3:酵素を使用したアシル化のための溶媒のスクリーニング
有機溶媒(1mL)及び酢酸イソプロペニル(0.015mL)中のrac-ホモプロパルギルアルコールI(式中、n=1及びP=TBDPS)(50mg、0.136mmol)の溶液に対して、酵素(10mg)を加えた。反応塊を27℃で10時間振とうし続けた。反応混合物をHPLCから分析して、転化率及びe.eを確認した。
【0085】
【0086】
例4:化合物I(a)及び化合物I(c)の調製(
図4)
攪拌棒を備えた25mLの丸底フラスコに対して、rac-ホモプロパルギルアルコールI(式中、n=1及びP=TBDPS)(1g、2.72mmol)、酢酸イソプロペニル(0.32mL、2.99mmol)、MTBE(10mL)、及びシュードモナス・フルオレッセンス由来のリパーゼ(0.1g)を加えた。反応混合物を27℃で16時間撹拌した。反応の進行をTLCでモニターした。こうして得たホモプロパルギルアルコール及びアセタートの光学純度は、キラルHPLC分析から>99.99%であることを確認した。アセタートの光学純度は、脱保護後に確認した。
【0087】
例5:化合物I(a)及び化合物I(c)の調製(
図5)
攪拌棒を備えた25mLの丸底フラスコに、(+/-)-ホモプロパルギルアルコールI(式中、n=1及びP=TBDPS)(1g、2.72mmol)、酢酸ビニル(0.28mL、3mmol)、MTBE(10mL)、及びシュードモナス・フルオレッセンス由来のリパーゼ(0.1g)を加えた。反応混合物を27℃で16時間撹拌した。反応の進行をTLCでモニターした。このようにして得られたホモプロパルギルアルコール式I(a)及びアセタート式I(c)の光学純度は、キラルHPLC分析から>99.99%であることが確認された。アセタートの光学純度は、脱保護後に確認した。
【0088】
例6:化合物I(a)及び1(c)の調製(
図4)
MTBE(1.5リットル)中の(+/-)-ホモプロパルギルアルコールI(式中、n=1及びP=TBDPS)(100g、272.4mmol)の撹拌溶液に対して、酢酸イソプロペニル(32mL、299.7mmol)、シュードモナス・フルオレッセンス由来のリパーゼ(10g)を加えた。反応混合物を27℃で16時間撹拌した。反応の進行をTLCでモニターした。反応終了後、酵素を濾過して再利用した。濾液を濃縮して、カラムクロマトグラフィーにより精製して、光学的に純粋なアルコールI(a):(48g、収率48%)及び光学的に純粋なアシル化化合物I(c):52g、収率47%を得た。ホモプロパルギルアルコールI(a)の光学純度は、キラルHPLC分析から>99.99%であることを確認した。アセタートの光学純度は、脱保護後に確認した。
【0089】
例7:アルコール化合物I(b)を得るためのアセタートI(c)の脱保護
MeOH(1リットル)中の例6(52g、127.4mmol)から得た(S)-ホモプロパルギルアルコールの光学的に純粋なアセタートの撹拌溶液に対して、27℃でK2CO3(17.57g、127.4mmol)を順次加えた。次に、(TLCによってモニターした)反応完了後、反応混合物を4時間撹拌し、反応混合物を濾過し、有機層を蒸発して粗塊を得て、これを酢酸エチル(400mL)に溶解し、それを水(100mL)及びブライン(100mL)で洗浄した。溶媒を減圧下で蒸発させ、光学的に純粋な(S)-ホモプロパルギルアルコール(45.5g、97.6%の収率、及び>99%e.e)を得た。
【0090】
例8:光学的に純粋なホモプロパルギルアルコールの調製
工程1:酵素的アシル化
攪拌棒を備えた250mLの丸底フラスコに対して、(+/-)ホモプロパルギルアルコールI(式中、n=1及びP=TBDPS)(10g、27.2mmol)、酢酸イソプロペニル(3.2mL、29.9mmol)、MTBE(100mL)、及びシュードモナス・フルオレッセンス由来のリパーゼ(1g)を加えた。反応混合物を27℃で16時間撹拌した。反応の進行をTLCでモニターした。
【0091】
工程2:無水コハク酸によるアルコールのエステル化
酵素反応の完了後、有機層を濾過し、酵素をMTBE(2×5mL)で洗浄した。得られた合わせたMTBE画分を減圧下で蒸発した。残留物をDCM(100mL)で希釈し、Et3N(5.89mL、40.86mmol)、無水コハク酸(1.49g、14.98mmol)及びDMAP(332mg、2.7mmol)で0℃にて処理した。反応混合物を27℃で16時間撹拌した。
【0092】
工程3:溶媒洗浄による未反応のアセチル生成物の分離
セミエステル形成が完了した後、反応混合物を減圧下で蒸発した。残留物をヘキサン(2×15mL)で2回洗浄し、減圧下で蒸発した後、光学的に純粋なアセチル生成物を得た(5.1g、45.9%収率;>99.9%e.e、>99%e.e)。輸送後、アセタートの光学純度を確認した。
【0093】
工程4:塩基加水分解によるヒドロキシ生成物の単離
工程3で得た残留物を水で希釈し、4NのNaOHでpHが12に達するまで塩基性化して、1時間撹拌した。反応の進行をTLCでモニターした。セミエステルの完全な加水分解後、反応混合物をEtOAc(2×50mL)で2回抽出した。有機層を無水Na2SO4で乾燥し、減圧下で濃縮して、単離され、光学的に純粋なホモプロパルギルアルコール(4.8g、48%収率、>99.99%e.e)を得た。
【0094】
工程5:酵素のリサイクル性
16時間の反応(>49%転化率及び>99%e.e)後、酵素を濾過により分離し、MTBE(15mL)で2回洗浄した。合わせた有機部分を別々に収集した。使用した酵素は、酵素の生産性と活性に著しい変化なく、最大10回リサイクル可能であると判明した。回収した酵素を次のバッチで使用した。
【0095】
例9
光学的に純粋なホモプロパルギルアルコールの調製
工程1:酵素的アシル化
攪拌棒を備えた250mLの丸底フラスコに対して、(+/-)-ホモプロパルギルアルコールI(式中、n=1及びP=TBDPS)(10g)、酢酸イソプロペニル(3.2mL)、MTBE(100mL)及びシュードモナス・フルオレッセンス由来のリパーゼ(1g)を加えた。反応混合物を27℃で16時間撹拌した。転換の完了後、酵素を濾過して、MTBE(2×20mL)で洗浄した。
【0096】
工程2:無水コハク酸によるアルコールのエステル化
上記で得られた合わせたMTBE画分(140mL)に対して、0℃でEt3N(5.89mL)、無水コハク酸(1.49g)及びDMAPを入れた。反応混合物を27℃で16時間撹拌した。
【0097】
工程3:溶媒洗浄による未反応のアセチル生成物の分離
セミエステル形成の完了後、セミエステル生成物は白色の固体として沈殿した。MTBE層を濾過し、MTBE(2×5mL)で2回洗浄して、合わせた有機層を減圧下で蒸発して、アセチル生成物(5.03g、45.2%収率、>99%e.e)を得た。輸送後、アセタートの光学純度を確認した。
【0098】
工程4:塩基加水分解によるヒドロキシ生成物の単離
工程3で得た固体沈殿物を水で希釈し、4NのNaOHでpHが12に達するまで塩基性化して、1時間撹拌した。反応の進行をTLCでモニターした。セミエステルの完全な加水分解後、反応混合物をEtOAc(2×5mL)で2回抽出した。有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、減圧下で濃縮して、単離され、光学的に純粋なホモプロパルギルアルコール(4.6g、46%収率、>99.9%e.e)を得た。
【0099】
例10
充填層反応器中での酵素反応
図6に示すように、フローケミストリーの設備は、シュードモナス・フルオレッセンス由来のリパーゼ(2g)を充填した空のHPLCカラム(250mm×4mm)を使用して構築した。(+/-)-ホモプロパルギルアルコールI(式中、n=1及びP=TBDPS)(2g、10%w/v)及びMTBEに溶解した酢酸ビニル(1mL)を、その後0.1mL/分の流速のHPLCポンプ(島津LC 20AD)を使用する反応器の底部から固定流速で注入した。生成物ストリームを上から収集し、定常状態(30分)でHPLCによって分析した。こうして得たホモプロパルギルアルコール式I(a)及びアセタートI(c)の光学純度は、キラルHPLC分析から>99.99%であると確認した。アセタートの光学純度は、脱保護後に確認した。
【0100】
発明の利点
本プロセスの様々な利点を以下に示す。
【0101】
1.本プロセスは、ハリコンドリンB及びエリブリン等の類似体を合成するための光学的に純粋なホモプロパルギルアルコール中間体を調製するための非常に効率的で拡張性のある製造方法として機能する。
【0102】
2.本発明は、酵素的分割法によって、光学的に純粋なホモプロパルギルアルコール中間体の分離をするプロセスを含む。
【0103】
3.生成物の単離及び/又は精製は、高収率及び高純度で容易である。
【0104】
4.本発明の別の利点は、プロセスにより、カラムクロマトグラフィーを使用せずに純粋な化合物を単離する新規の方法を提供することである。
【0105】
5.これは、光学的に純粋なホモプロパルギルアルコール中間体を製造するための魅力的で経済的な方法である。
【0106】
6.このプロセスは、プロセス中間体及び光学的に純粋なホモプロパルギルアルコール中間体の大規模なライブラリーを生成するために採用でき、これらは合成化学で多くの用途を持つ。
【0107】
7.充填層反応器で行われる酵素反応では、従来の撹拌槽型反応器と比較して酵素の摩耗を回避することにより、生産性と酵素のリサイクル性を向上させる(コストの改善)。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
式Iのホモプロパルギルアルコール化合物の光学的に純粋なエナンチオマーを調製するための化学酵素的プロセスであって、
【化7】
式中、Pは、H又はアルコール保護基であり、
nは、0~12の範囲の整数であり、
i.金属触媒の存在下、有機溶媒中で式(III)のアルデヒド化合物を式(IV)のハロゲン化プロパルギル化合物と反応させて、式Iのラセミホモプロパルギルアルコール化合物を得る工程
【化8】
(式中、X=Cl、Br又はI);
ii.工程(i)で得られた約0.1g/L~約1000g/Lの式Iの前記ラセミ化合物を、アシル供与体及び有機溶媒の存在下で、20~50℃の範囲の温度で、酵素で処理して、式I(a)及び式I(c)の化合物を得る工程;
【化9】
iii.無水物を使用して、前記エナンチオマー的に純粋な式I(a)のアルコール化合物及び式I(c)のアセチル化化合物を分離し、前記式I(c)の化合物を保持しながら、化合物式I(a)から式I(d)のエステル誘導体を得る工程;
【化10】
iv.前記工程(iii)から得られた残留物を有機溶媒で洗浄して、光学的に純粋な式I(c)のアセチル生成物化合物を得る工程;
v.塩基の存在下で、前記式I(c)の化合物を加水分解して、既知の方法により式I(b)の化合物を得る工程;
【化11】
vi.前記工程(iv)から得られた固体残留物を塩基で加水分解して、式I(a)の光学的に純粋なアセチル生成物化合物を得る工程;
【化12】
を含む、該プロセス。
[2]
前記アルコール保護基は、メトキシメチルエーテル(MOM-O-)、2-メトキシエトキシメチルエーテル(MEM-O-)、テトラヒドロピラニルエーテル(THP-O-)、t-ブチルエーテル、アリルエーテル、ベンジルエーテル(Bn-O-)、p-メトキシベンジルエーテル(-O-PMB)、t-ブチルジメチルシリルエーテル(TBDMS-O-)、t-ブチルジフェニルシリルエーテル(TBDPS-O-)、酢酸エステル、ピバル酸エステル又は安息香酸エステルからなる群から選択され、好ましくはt-ブチルジフェニルシリルエーテル(TBDPS-O-)である、[1]に記載のプロセス。
[3]
使用される金属触媒は、Znダスト又はInから選択され、好ましくはZnダストである、[1]の工程(i)に記載のプロセス。
[4]
アシル供与体は、酢酸イソプロペニル及び酢酸ビニルから選択される、[1]の工程(ii)に記載のプロセス。
[5]
工程(ii)及び(iv)で使用される有機溶媒は、テトラヒドロフラン、メチル1-ブチルエーテル、ジメチルスルホキシド及びジメチルホルムアミドから選択される非プロトン性極性溶媒、アセトン及びメチルエチルケトンから選択されるケトン、アセトニトリル及びベンゾニトリルから選択されるニトリル、メタノール、エタノール及びt-ブタノールから選択されるアルコールからなる群から選択され、好ましくはメチルtert-ブチルエーテル及びトルエンである、[1]に記載のプロセス。
[6]
使用される前記酵素は、シュードモナス・スタッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)又はバークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)からなる群から選択されるシュードモナス属由来のリパーゼ、並びにカンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)及びカンジダ・アンタークティカ(Candida Antarctica)からなる群から選択されるカンジダ属由来のリパーゼである、[1]に記載のプロセス。
[7]
工程(ii)における前記酵素の負荷は、基質の重量に対して、約0.1重量%~約100重量%の範囲であり、好ましくは基質の重量に対して、約0.1重量%~約10重量%である、[1]に記載のプロセス。
[8]
前記無水物は、無水フタル酸、無水マレイン酸又は無水コハク酸からなる群から選択される、[1]の工程(iii)に記載のプロセス。
[9]
得られた式I(a)及びI(b)の化合物の前記エナンチオマー純度は、95~>99%、好ましくは99.99%e.eの範囲である、[1]に記載のプロセス。
[10]
酵素は、カラム(充填層反応器、PBR)内又は固定床反応器内に充填され、前記反応は、連続フロープロセスにて、0.5時間~6時間の範囲の時間行われる(定常状態)、[1]の工程(ii)に記載のプロセス。