(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】三元正極材及びその製造方法、正極プレート並びにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241021BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20241021BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241021BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241021BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241021BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2022200283
(22)【出願日】2022-12-15
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】202210089034.7
(32)【優先日】2022-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520145160
【氏名又は名称】瑞浦蘭鈞能源股分有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】520145171
【氏名又は名称】上▲海▼瑞浦青▲創▼新能源有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】曹 輝
(72)【発明者】
【氏名】姚 毅
(72)【発明者】
【氏名】侯 敏
(72)【発明者】
【氏名】劉 嬋
(72)【発明者】
【氏名】楊 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】郭 穎穎
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-516434(JP,A)
【文献】特表2018-510450(JP,A)
【文献】国際公開第2021/132761(WO,A1)
【文献】特表2023-523667(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113851607(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112151775(CN,A)
【文献】特表2023-542196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成はLi
a(Ni
xCo
yM
1-x-y)
1-bM’
bO
2-cA
cであり、ただし、0.75≦a≦1.2、0.5≦x<1、0<y≦0.1、0<b≦0.01、0≦c≦0.2であり、MはMn及びAlから選ばれる少なくとも1つであり、M’はAl及び任意にZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数を含み、AはS、F、Nから選ばれる1つ又は複数であり、
ただし、2%≦C
Co1-C
Coであり、C
Co1は
、表面から20~60nmの表面構造をエッチング
した正極材をXPSにより測定して得られたLi元素を除く金属元素全体に占めるCo元素の原子比率であり、C
Coは正極材をICPにより測定して得られたLi元素を除く金属元素全体に占めるCo元素の原子比率であり、
5%≦C
Al-C
Al1であり、C
Alは正極材をXPSによりそのまま測定して得られたLi元素を除く金属元素全体に占めるAl元素の原子比率であり、C
Al1は
、表面から20~60nmの表面構造をエッチング
した正極材をXPSにより測定して得られたLi元素を除く金属元素全体に占めるAl元素の原子比率であることを特徴とする、三元正極材。
【請求項2】
5.3%≦C
Al-C
Al1であり、好ましくは、10%≦C
Al-C
Al1であり、及び/又は
2.7%≦C
Co1-C
Coであり、好ましくは、5%≦C
Co1-C
Coであることを特徴とする、請求項1に記載の三元正極材。
【請求項3】
前記エッチングの条件は、Ar
+イオンエッチング、
スポット径1.5mm、2500eV≦E≦3500eV、90s≦t≦100sであり、ただし、Eはエッチングに利用されるエネルギーであり、tはエッチング時間であることを特徴とする、請求項1に記載の三元正極材。
【請求項4】
化学組成Li
a(Ni
xCo
yM
1-x-y)
1-bM’
bO
2-cA
cにおいて、M’はAl及びZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数を含み、好ましくは、M’はAl及びZrを含むことを特徴とする、請求項1に記載の三元正極材。
【請求項5】
化学組成Li
a(Ni
xCo
yM
1-x-y)
1-bM’
bO
2-cA
cにおいて、c=0であることを特徴とする、請求項1に記載の三元正極材。
【請求項6】
粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径D
v50は2μm≦D
v50≦5μmを満たすことを特徴とする、請求項1に記載の三元正極材。
【請求項7】
Ni、Co、Mn又はNi、Co、Alを含む三元正極前駆体とリチウム源とを十分に混合させて、混合物Iを形成するステップS1と、
空気又は酸素雰囲気で混合物Iを加熱し、700-1100℃条件で4-15時間保持し、ローリング及び粉砕により中間産物IIを得るステップS2と、
中間産物IIとアルミニウム含有固体粉末とCo含有固体粉末とを十分に混合させて、混合物IIIを形成するステップS3と、
空気又は酸素雰囲気で混合物IIIを加熱し、700-1000℃条件で4-15時間保持し、ローリング及び粉砕によりα-NaFeO
2構造を有する三元正極材を得るステップS4と、を含み、
ただし、三元正極材における元素M’がZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数の元素を含む場合、混合物Iを形成するプロセス及び/又は混合物IIIを形成するプロセスでZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数の元素を含む化合物を加え、
三元正極材が元素Aを含む場合、混合物Iを形成するプロセス及び/又は混合物IIIを形成するプロセスで元素Aを含む化合物を加えることを特徴とする、請求項1~
6の何れか1項に記載の三元正極材の製造方法。
【請求項8】
ステップS1で、リチウム源は炭酸リチウム及び水酸化リチウムから選ばれる1つ又は複数であることを特徴とする、請求項
7に記載の三元正極材の製造方法。
【請求項9】
ステップS1で、三元正極材における元素M’がZr元素を含み、混合物Iを形成するプロセスでZr含有化合物を加えることを特徴とする、請求項
7に記載の三元正極材の製造方法。
【請求項10】
ステップS3で、アルミニウム含有固体粉末は酸化アルミニウム粉末であり、その粒子径が100nm≦D
酸化アルミニウム≦1000nmであることを特徴とする、請求項
7に記載の三元正極材の製造方法。
【請求項11】
ステップS3で、Co含有固体粉末はCo
3O
4、CoO、Co(OH)
2、CoOOH、CoCO
3から選ばれる任意の1つ又は複数であることを特徴とする、請求項
7に記載の三元正極材の製造方法。
【請求項12】
ステップS3で、Co含有固体粉末におけるCo元素と中間産物IIとの
モル比が(1~3):100であり、及び/又はアルミニウム含有固体粉末におけるAl元素と中間産物IIとの質量比が(0.02~1.5):100であることを特徴とする、請求項
7に記載の三元正極材の製造方法。
【請求項13】
請求項1~
6の何れか1項に記載の三元正極材を含むことを特徴とする、正極プレート。
【請求項14】
請求項
13に記載の正極プレートを含むことを特徴とする、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の技術分野に関し、具体的に、α-NaFeO2構造を有する三元正極材及びその製造方法、正極プレート並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
α-NaFeO2構造を有するLiNiCoMn及びLiNiCoAl三元正極材は、比較的に高いグラム当たりの容量及び優れた充放電特性を持つことから、リチウムイオンパワー電池の主流の正極材の1つになっている。
【0003】
三元正極材において、3つの主な遷移金属元素はそれぞれ異なる役割を果たしている。Ni元素は、充放電プロセスで原子価状態の変化が発生し、リチウムイオンの挿入/脱離プロセスにおける材料内部の電荷補償に寄与する容量とエネルギーの主な寄与者である。Co元素は、2つの遍歴電子を有し、材料の電子伝導に寄与できるほかに、原子価状態の変化により容量とエネルギーにも寄与できる。Mn/Al元素は、材料の結晶構造をより安定的なものにして、リチウムイオン脱挿入プロセスにおける材料の安定性を向上させることができる。
【0004】
Co元素は、三元正極材の充放電特性にとって重要である。しかしながら、貴金属として、存在量が少なく、その他の2つの主な金属元素より価格が高い。三元正極材のコストを削減するために、性能を維持する前提で、Co元素の使用量を減らす必要がある。
【0005】
各金属元素の空間的分布の調整は、Co利用率を向上させる効果的な手段である。WO2019120973A1は、単結晶形態を有する濃度勾配の三元正極材の製造方法を提供したが、該出願に記述された材料及び方法がCo含有量>10%の三元リチウム含有化合物のみ適用し、その濃度勾配の設計がCo含有量の更に低い場合に適用できない。WO2021153546A1は、Co被覆三元正極活性材の製造方法を説明したが、該プロセスでCo被覆温度が700℃以上であり、該温度で材料性能に寄与するその他の酸化物微粒子を効果的に被覆しにくい。上記に鑑みて、Co含有量が低く表面被覆を持つ高充放電特性の製品を取得するための新しい製造方法は必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2019/120973号
【文献】国際公開第2021/153546号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の欠陥に対して、本発明は、三元正極材及びその製造方法、正極プレート並びにリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は下記の技術手段によって実現される。
本発明の第1態様は、化学組成はLia(NixCoyM1-x-y)1-bM’bO2-cAcであり、ただし、0.75≦a≦1.2、0.5≦x<1、0<y≦0.1、0≦b≦0.01、0≦c≦0.2であり、MはMn及びAlから選ばれる少なくとも1つであり、M’はAl、Zr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数を含み、AはS、F、Nから選ばれる1つ又は複数である三元正極材を提供する。
【0009】
幾つかの実施形態において、M’はAl、Zr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数である。幾つかの実施形態において、M’はAl及び任意にZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数を含む。幾つかの実施形態において、M’はAl及び任意にZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数により構成される。幾つかの実施形態において、M’はAl及びZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数を含む。幾つかの実施形態において、M’はAl及びZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数により構成される。幾つかの実施形態において、M’はAl及びZrを含む。幾つかの実施形態において、M’はAl及びZrにより構成される。
【0010】
幾つかの実施形態において、0.95≦a≦1.1であり、例えば、0.99≦a≦1.05である。
【0011】
幾つかの実施形態において、0.55≦x<0.76であり、例えば、0.6≦x<0.76である。
【0012】
本発明の三元正極材の化学組成はLia(NixCoyM1-x-y)1-bM’bO2-cAcであり、ただし、y≦0.1であるため、本発明の三元正極材は低コバルト三元正極材である。幾つかの実施形態において、0.05<y≦0.1であり、例えば、0.06<y≦0.09である。
【0013】
幾つかの実施形態において、0<b≦0.01であり、例えば、0.001≦b≦0.005である。
幾つかの実施形態において、cは0であり、即ち、A元素は存在しない。
【0014】
本発明の三元正極材において、2%≦CCo1-CCoであり、CCo1はエッチングされた正極材をX線光電子分光法(XPS)により測定して得られたLi元素を除く金属元素全体に占めるCo元素の原子比率であり、CCoは正極材を誘導結合プラズマ(ICP)により測定して得られたLi元素を除く金属元素全体に占めるCo元素の原子比率である。幾つかの実施形態において、CCo1はエッチングされた正極材を表面からの深さ約20~60nmでXPSにより測定して得られたLi元素を除く金属元素全体に占めるCo元素の原子比率である。該技術特徴を満たす三元正極材は、表面からの深さ約20~60nmにおけるCo含有量(CCo1)がバルク相におけるCo含有量(CCo)より明らかに高く、より低い直流抵抗を得ることができる。これは、リチウムイオン電池の作動過程における電子とLiイオンが界面(電解液と正極材との間の固液界面)で遷移する場合の抵抗がバルク相(正極材内部)で遷移する場合の抵抗より大きく、Coが三元正極材の構造安定性及びイオン/電子伝導に対してポジティブな効果を有するためである。より多くのCo元素が材料表面に集積する場合、界面における電子及びLiイオンの伝導速度が向上し、電子及びLiイオンの材料表面とバルク相における遷移速度をマッチングさせることができ、材料の出力性能を完全に発揮させる。一方、Co元素の集積が材料表面又は<20nmの深さだけに留まる場合、Coリッチの被覆層が電池のサイクル充放電プロセスで破壊されやすいため、材料の直流抵抗が維持できなくなる。本発明の三元正極材は、エッチングされた場合の表面Co含有量が材料全体Co含有量より高く、材料の使用プロセスでより低い直流抵抗を長期的に維持することができる。
【0015】
本発明の三元正極材において、5%≦CAl-CAl1であり、CAlは正極材をXPSによりそのまま測定して得られたLi元素を除く金属元素全体に占めるAl元素の原子比率であり、CAl1はエッチングされた正極材をXPSにより測定して得られたLi元素を除く金属元素全体に占めるAl元素の原子比率である。幾つかの実施形態において、CAl1はエッチングされた正極材を表面からの深さ約20~60nmでXPSにより測定して得られたLi元素を除く金属元素全体に占めるAl元素の原子比率である。該技術特徴を満たす三元正極材は、その表面におけるAl含有量(CAl)が表面からの深さ約20~60nmにおけるAl含有量(CAl1)より明らかに高く、より優れたサイクル安定性を有する。これは、Al元素が酸化物の形態で材料表面に被覆されることで、三元材料における多価金属イオンと電解液との副反応を減らすことができるためである。一方、Alが材料の格子に侵入した場合、材料におけるLiイオンの拡散速度及び電子伝導が低下し、材料のグラム当たりの容量が低くなる。本発明の三元正極材は、エッチングされる前の表面Al含有量がエッチングされた場合の材料表面Al含有量より明らかに高く、材料の容量に影響を与えない範囲で、より優れたサイクル電池容量を得ることができる。
【0016】
幾つかの実施形態において、CAl-CAl1≧5.3%であり、例えば、≧7.5%である。好ましくは、10%≦CAl-CAl1である。
好ましくは、10%≦CAl-CAl1≦20%である。
【0017】
幾つかの実施形態において、CCo1-CCo≧2.7%であり、例えば、≧3.2%である。好ましくは、5%≦CCo1-CCoである。
好ましくは、5%≦CCo1-CCo≦11%である。
【0018】
好ましくは、前記エッチングの条件は、Ar+イオンエッチング、2500eV≦E≦3500eV、90s≦t≦100sである。ただし、Eはエッチングに利用されるエネルギーであり、tはエッチング時間である。
【0019】
好ましくは、三元正極材は単結晶又は単結晶ライク形態を有する。
好ましくは、三元正極材の粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50は2μm≦Dv50≦5μmを満たす。これは、全体積50%に占める粒子の粒子径がDv50以下であり、ただし、Dv50が2~5μm範囲内にあるという意味を表し、粒子径測定によく使われる記載方法である。
【0020】
本発明の第2態様は、
Ni、Co、Mn又はNi、Co、Alを含む三元正極前駆体とリチウム源とを十分に混合させて、混合物Iを形成し、該プロセスで、元素M’を含む化合物、例えば、元素M’の酸化物を加えても良いが、加えなくても良く、好ましくは、該元素M’はAlを除く元素M’であり、例えば、Zr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数の元素であり、該プロセスで、元素Aを含む化合物、例えば、アニオンAを含む酸又は塩を加えても良いが、加えなくても良いステップS1と、
空気又は酸素雰囲気で混合物Iを加熱し、700-1100℃条件で4-15時間保持し、ローリング及び粉砕により中間産物IIを得るステップS2と、
中間産物IIとアルミニウム含有固体粉末とCo含有固体粉末とを十分に混合させて、混合物IIIを形成し、該プロセスで、元素M’を含む化合物、例えば、元素M’の酸化物を加えても良いが、加えなくても良く、好ましくは、該元素M’はAlを除く元素M’であり、例えば、Zr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数の元素であり、該プロセスで、元素Aを含む化合物、例えば、アニオンAを含む酸又は塩を加えても良いが、加えなくても良いステップS3と、
空気又は酸素雰囲気で混合物IIIを加熱し、700-1000℃条件で4-15時間保持し、ローリング及び粉砕によりα-NaFeO2構造を有する三元正極材を得るステップS4と、を含む本明細書の何れか1つの実施形態に係る三元正極材の製造方法を提供する。
【0021】
本発明において、三元正極材は、元素M’としてZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数の元素を含んでも良いが、これらの元素を含まなくても良い。Zr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数の元素は、三元正極材のドープ元素及び/又は被覆元素としても良い。
【0022】
幾つかの実施形態において、三元正極材における元素M’がZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数の元素を含み、混合物Iを形成するプロセス及び/又は混合物IIIを形成するプロセスで元素M’としてZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数の元素を含む化合物を加える。混合物Iを形成するプロセスで加える、元素M’としてZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数の元素を含む化合物は、三元正極材のドープ剤としても良い。混合物IIIを形成するプロセスで加える、元素M’としてZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数の元素を含む化合物は、三元正極材の被覆剤としても良い。
【0023】
本発明に適用される元素M’を含む化合物は、元素M’の酸化物、元素M’を含む水酸化物などを含むが、これらに限定されない。
【0024】
幾つかの実施形態において、三元正極材が元素Aを含み、混合物Iを形成するプロセス及び/又は混合物IIIを形成するプロセスで元素Aを含む化合物を加える。混合物Iを形成するプロセス及び混合物IIIを形成するプロセスで加える、元素Aを含む化合物は、三元正極材の変性剤としても良い。
【0025】
幾つかの実施形態において、三元正極材が元素Aを含み、混合物IIIを形成するプロセスで元素Aを含む化合物を加える。
【0026】
本発明に適用される元素Aを含む化合物は、アニオンAを含む酸又は塩を含むが、これらに限定されない。好ましくは、アニオンAを含む塩又は酸性塩は、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、硝酸アンモニウム、硝酸リチウム、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸リチウム、硫酸水素リチウム、硫化アンモニウム、硫化水素アンモニウム、硫化リチウム、硫化水素リチウムから選ばれる1つ又は複数であっても良い。
【0027】
幾つかの実施形態において、三元正極材における元素M’がZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数の元素を含み、ステップS1で、混合物Iを形成するプロセスでZr、Ti、Y、Sr、W、Mgから選ばれる1つ又は複数の元素を含む化合物を更に加える。
【0028】
幾つかの実施形態において、三元正極材が元素Aを含み、ステップS3で、混合物IIIを形成するプロセスで元素Aを含む化合物を更に加える。
【0029】
幾つかの実施形態において、ステップS1で、リチウム源は炭酸リチウム及び水酸化リチウムから選ばれる1つ又は複数である。
【0030】
幾つかの実施形態において、ステップS1で、三元正極材における元素M’がZr元素を含み、混合物Iを形成するプロセスでZr含有化合物を更に加える。
【0031】
好ましくは、ステップS1で、Zr含有化合物は、ZrO2、Zr(OH)4から選ばれる任意の1つ又は複数である。
【0032】
幾つかの実施形態において、ステップS3で、アルミニウム含有固体粉末は酸化アルミニウム粉末であり、その粒子径範囲が100nm≦D酸化アルミニウム≦1000nmである。例えば、D酸化アルミニウムは100nm、150nm、200nm、300nm、400nm、500nmなどであっても良い。
【0033】
好ましくは、ステップS3で、Co含有固体粉末はCo3O4、CoO、Co(OH)2、CoOOH、CoCO3から選ばれる任意の1つ又は複数である。
【0034】
幾つかの実施形態において、ステップS3で、Co含有固体粉末におけるCo元素と中間産物IIとの物質量比が(1~3):100であり、例えば、1:100、1.5:100、2:100、2.5:100などである。
【0035】
幾つかの実施形態において、ステップS3で、アルミニウム含有固体粉末におけるAl元素と中間産物IIとの質量比が(0.02~1.5):100であり、例えば、0.1:100、0.15:100、0.2:100、0.25:100、0.3:100、0.5:100、1:100などである。
【0036】
本発明の第3態様は、本明細書の何れか1つの実施形態に係る三元正極材を含む正極プレートを提供する。
本発明の三元正極材及び正極プレートはリチウムイオン電池に利用されても良い。
【0037】
本発明の第4様態は、本明細書の何れか1つの実施形態に係る正極プレートを含むリチウムイオン電池を提供する。
【0038】
本発明の設計アイデアとして、三元正極材におけるCo元素が高電子伝導特性を有し、材料の層状構造を安定させることができるため、Co含有量の高い三元正極材がより優れた内部抵抗及び表面安定性を持っている。ところが、Co元素は地球における含有量が低く、コストが高い。同じ比率でより高い性能を有するNCM三元正極材を得るために、Coを材料表面に被覆させる。ところが、Coは、効果的構造を形成するために必要な温度が比較的に高く(>800℃)、三元正極材のよく使われるその他の被覆剤、特に表面副反応を効果的に抑制できるAl2O3と併用することができない。Al2O3を被覆剤として材料表面で高温処理(>800℃)した場合、Al元素が三元正極材の格子に侵入して、表面保護の効果が失うほかに、材料におけるLiイオンの脱離が難しくなり、材料のグラム当たりの容量が低下し、インピーダンスが向上する。本発明により提供される三元正極材において、Co元素が表面に集積すると共に、Al元素の材料バルク相への大量侵入を防止し、材料の低い直流抵抗及び長期充放電サイクル特性を併せ持っている。該効果を果たすために、本願は、材料の二次焼成時にCo含有固体粉末を被覆剤とするほかに、大粒子径のAl含有固体粉末を加える。本分野で一般的に使用される小粒子ナノサイズ酸化アルミニウム被覆剤と比較すれば、大粒子アルミニウム含有固体粉末は融点が高く、一次焼成で得られた三元正極材の中間産物との接触面が比較的に小さく、中間産物と固相反応を行うために必要な温度がより高いため、本願に係る高温被覆工程でCoを材料表面及び表面近くに集積させると共に、より多くのAlを材料表面に保持することができる。
【0039】
従来技術と比較すれば、本発明は下記の優位性を有する。
(1)本発明の三元正極材におけるCoが10%未満であるため、材料のコストを明らかに削減することができる。一部のCo元素は、材料の表面に集積することで、リチウムイオン及び電子の界面伝導プロセスにおける抵抗が低下するため、材料が優れた出力性能を示すと共に、材料の表面近くに集積することで、表面近くにおけるCo元素の比率が材料中におけるCo元素の平均比率より高いため、材料の長期サイクルプロセスにおける低い直流抵抗が確保される。また、材料表面にAl元素が被覆されると共に、焼成プロセスでAl元素が侵入していないため、材料の表面と表面近くとの間に明らかな濃度差(≧5%)が示される。これらのAl元素は、アルミニウムの酸化物又はリチウムを含むアルミン酸塩を構成することができるため、材料の電池充放電プロセスにおける表面副反応に対して抑制効果を有し、材料のサイクル寿命を更に延長することができる。
【0040】
(2)本発明の方法で材料を処理することで、材料の約20-60nmの表面構造をエッチングすることでその表面近くの元素を露出させることができる。この深さに比較的に高いCo含有量の材料があるため、長期サイクルプロセスでより低い直流抵抗を維持できる。
【0041】
(3)本発明の正極材は、充放電プロセスで格子定数変化による亀裂が多結晶材より少なく、優れた安定性を有することから、単結晶又は単結晶ライク形態を有する粒子が好ましい。
【0042】
(4)好ましくは、本発明の正極材は、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径範囲が2~5μmである。この際、材料の露出した活性面積が適切であるため、粒子粗大によりリチウムイオンの固体における伝導経路が長くなることや、粒子微小により表面構造の劣化が早くなることはない。
【0043】
(5)本発明の製造方法は通常の混合及び焼成プロセスを含み、ただし、ステップS4で使用される温度(700-1100℃)が通常の工程より高い。この際、ステップS3で加える被覆材として通常の高活性且つ小粒子のナノ酸化物を使用する場合、これらの被覆材が高温で材料のバルク相に侵入しやすいため、被覆の目的が実現できない。そのため、好ましくは、被覆用として粒子径100nm以上のアルミニウム含有粒子を使用し、その低い反応活性を利用することで、反応速度を抑制して材料表面に保持する効果が果たされる。
【0044】
(6)本発明の正極材で製造された正極プレート及びリチウムイオン電池は、優れた直流内部抵抗を持つともに、その長期充放電サイクル特性も優秀である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、具体的な実施例に合わせて、本発明を詳しく説明する。下記実施例は、当業者が本発明を深く理解するためのものであるが、任意の形態で本発明を限定するものではない。当業者にとって、本発明のアイデアを逸脱することなく、幾つかの変化や改善を行っても良い。これらは本発明の保護範囲にある。
【0046】
実施例1
Ni0.66Co0.06Mn0.28(OH)2前駆体と炭酸リチウムと(前駆体:リチウムのモル比1:1.05)を混合させ、0.12wt%(対前駆体)のナノサイズZrO2粉末を加え、高速ミキサーで均一に混合させて、混合物Iを得た。サガーに入れ、ローラーハースキルンで5℃/min昇温速度で940℃まで昇温して、8時間保持した。ブロックを冷却させ、ジョークラッシャーを介してジェットミルに入れ、粉砕して、一次焼成時の産物(中間産物II)を得た。一次焼成産物と2.0%モル比のCo(OH)2と0.25wt%質量比のAl2O3粉末(一次粒子の粒子径約150nm)とを高速ミキサーで均一に混合させ(混合物III)、サガーに入れ、ローラーハースキルンで10℃/min昇温速度で850℃まで昇温し、5時間保持して、二次焼成を行った。冷却された粉末は正極材製品である。正極材製品は、単結晶形態を有し、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50が2.3μmである。
【0047】
材料の組成をICPにより測定した結果、Li0.99(Ni0.65Co0.08Mn0.27)0.998Zr0.001Al0.001O2、即ち、CCo=7.98%である。XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、20.2%Al、14.1%Co、29.1%Mn、33.7%Ni、2.9%Zr、即ち、CAl=20.2%である。材料にAr+イオンでエッチングを施し、条件として、スポット径1.5mm、エネルギー3000eV、持続時間100sである。材料に対してエッチング処理を実施し、XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、10.2%Al、17.5%Co、30.7%Mn、40.1%Ni、1.5%Zr、即ち、CCo1=17.5%、CAl1=10.2%である。
【0048】
実施例2
Ni0.66Co0.06Mn0.28(OH)2前駆体と炭酸リチウムと(前駆体:リチウムのモル比1:1.05)を混合させ、0.12wt%(対前駆体)のナノサイズZrO2粉末を加え、高速ミキサーで均一に混合させて、混合物Iを得た。サガーに入れ、ローラーハースキルンで5℃/min昇温速度で940℃まで昇温して、8時間保持した。ブロックを冷却させ、ジョークラッシャーを介してジェットミルに入れ、粉砕して、一次焼成産物(中間産物II)を得た。一次焼成産物と1.0%モル比のCo(OH)2と0.20wt%質量比のAl2O3粉末(一次粒子の粒子径約110nm)とを高速ミキサーで均一に混合させ(混合物III)、サガーに入れ、ローラーハースキルンで10℃/min昇温速度で820℃まで昇温し、5時間保持して、二次焼成を行った。冷却された粉末は正極材製品である。正極材製品は、単結晶形態を有し、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50が2.5μmである。
【0049】
材料の組成をICPにより測定した結果、Li1.01(Ni0.65Co0.07Mn0.28)0.9975Zr0.001Al0.0015O2、即ち、CCo=6.98%である。XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、25.7%Al、7.8%Co、31.0%Mn、33.1%Ni、2.4%Zr、即ち、CAl=25.7%である。材料にAr+イオンでエッチングを施し、条件として、スポット径1.5mm、エネルギー2700eV、持続時間95sである。材料に対してエッチング処理を実施し、XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、9.4%Al、9.7%Co、38.7%Mn、41.0%Ni、1.2%Zr、即ち、CCo1=9.7%、CAl1=9.4%である。
【0050】
実施例3
Ni0.64Co0.06Mn0.30(OH)2前駆体と炭酸リチウムと(前駆体:リチウムのモル比1:1.05)を混合させ、0.12wt%(対前駆体)のナノサイズZrO2粉末を加え、高速ミキサーで均一に混合させて、混合物Iを得た。サガーに入れ、ローラーハースキルンで5℃/min昇温速度で940℃まで昇温して、8時間保持した。ブロックを冷却させ、ジョークラッシャーを介してジェットミルに入れ、粉砕して、一次焼成産物(中間産物II)を得た。一次焼成産物と2.5 %モル比のCo(OH)2と0.15wt%質量比のAl2O3粉末(一次粒子の粒子径約200nm)とを高速ミキサーで均一に混合させ(混合物III)、サガーに入れ、ローラーハースキルンで10℃/min昇温速度で840℃まで昇温し、5時間保持して、二次焼成を行った。冷却された粉末は正極材製品である。正極材製品は、単結晶形態を有し、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50が2.7μmである。
【0051】
材料の組成をICPにより測定した結果、Li1.03(Ni0.63Co0.08Mn0.29)0.9978Zr0.001Al0.0012O2、即ち、CCo=7.98%である。XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、19.7%Al、13.0%Co、29.1%Mn、33.7%Ni、4.5%Zr、即ち、CAl=19.7%である。材料にAr+イオンでエッチングを施し、条件として、スポット径1.5mm、エネルギー3300eV、持続時間90sである。材料に対してエッチング処理を実施し、XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、12.2%Al、18.5%Co、29.7%Mn、38.6%Ni、1.0%Zr、即ち、CCo1=18.5%、CAl1=12.2%である。
【0052】
実施例4
Ni0.61Co0.07Mn0.32(OH)2前駆体と炭酸リチウムと(前駆体:リチウムのモル比1:1.05)を混合させ、0.12wt%(対前駆体)のナノサイズZrO2粉末を加え、高速ミキサーで均一に混合させて、混合物Iを得た。サガーに入れ、ローラーハースキルンで5℃/min昇温速度で930℃まで昇温して、8時間保持した。ブロックを冷却させ、ジョークラッシャーを介してジェットミルに入れ、粉砕して、一次焼成産物(中間産物II)を得た。一次焼成産物と1.5%モル比のCo(OH)2と0.20wt%質量比のAl2O3粉末(一次粒子の粒子径約300nm)とを高速ミキサーで均一に混合させ、サガーに入れ、ローラーハースキルンで10℃/min昇温速度で840℃まで昇温し、5時間保持して、二次焼成を行った。冷却された粉末は正極材製品である。正極材製品は、単結晶形態を有し、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50が2.5μmである。
【0053】
材料の組成をICPにより測定した結果、Li1.03(Ni0.60Co0.09Mn0.31)0.9979Zr0.001Al0.0011O2、即ち、CCo=8.98%である。XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、27.3%Al、10.5%Co、27.8%Mn、31.9%Ni、2.5%Zr、即ち、CAl=27.3%である。材料にAr+イオンでエッチングを施し、条件として、スポット径1.5mm、エネルギー3400eV、持続時間90sである。材料に対してエッチング処理を実施し、XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、8.0%Al、14.4%Co、35.7%Mn、39.9%Ni、2.0%Zr、即ち、CCo1=14.4%、CAl1=8.0%である。
【0054】
実施例5
Ni0.61Co0.07Mn0.32(OH)2前駆体と炭酸リチウムと(前駆体:リチウムのモル比1:1.05)を混合させ、0.12wt%(対前駆体)のナノサイズZrO2粉末を加え、高速ミキサーで均一に混合させて、混合物Iを得た。サガーに入れ、ローラーハースキルンで5℃/min昇温速度で930℃まで昇温して、8時間保持した。ブロックを冷却させ、ジョークラッシャーを介してジェットミルに入れ、粉砕して、一次焼成産物(中間産物II)を得た。一次焼成産物と2.0 %モル比のCo(OH)2と0.16wt%質量比のAl2O3粉末(一次粒子の粒子径約150nm)とを高速ミキサーで均一に混合させ、サガーに入れ、ローラーハースキルンで10℃/min昇温速度で850℃まで昇温し、5時間保持して、二次焼成を行った。冷却された粉末は正極材製品である。正極材製品は、単結晶形態を有し、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50が3.1μmである。
【0055】
材料の組成をICPにより測定した結果、Li1.03(Ni0.60Co0.09Mn0.31)0.998Zr0.001Al0.001O2、即ち、CCo=8.98%である。XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、22.1%Al、12.5%Co、29.0%Mn、34.7%Ni、1.7%Zr、即ち、CAl=22.1%である。材料にAr+イオンでエッチングを施し、条件として、スポット径1.5mm、エネルギー2600eV、持続時間100sである。材料に対してエッチング処理を実施し、XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、10.8%Al、16.6%Co、31.7%Mn、38.6%Ni、2.3%Zr、即ち、CCo1=16.6%、CAl1=10.8%である。
【0056】
実施例6
Ni0.61Co0.07Mn0.32(OH)2前駆体と炭酸リチウムと(前駆体:リチウムのモル比1:1.05)を混合させ、0.12wt%(対前駆体)のナノサイズZrO2粉末を加え、高速ミキサーで均一に混合させて、混合物Iを得た。サガーに入れ、ローラーハースキルンで5℃/min昇温速度で930℃まで昇温して、8時間保持した。ブロックを冷却させ、ジョークラッシャーを介してジェットミルに入れ、粉砕して、一次焼成産物(中間産物II)を得た。一次焼成産物と2.5%モル比のCo(OH)2と0.12wt%質量比のAl2O3粉末(一次粒子の粒子径約150nm)とを高速ミキサーで均一に混合させ、サガーに入れ、ローラーハースキルンで10℃/min昇温速度で860℃まで昇温し、5時間保持して、二次焼成を行った。冷却された粉末は正極材製品である。正極材製品は、単結晶形態を有し、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50が3.6μmである。
【0057】
材料の組成をICPにより測定した結果、Li1.03(Ni0.60Co0.09Mn0.31)0.998Zr0.001Al0.001O2、即ち、CCo=8.98%である。XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、18.8%Al、14.2%Co、28.6%Mn、35.9%Ni、2.5%Zr、即ち、CAl=18.8%である。材料にAr+イオンでエッチングを施し、条件として、スポット径1.5mm、エネルギー3000eV、持続時間100sである。材料に対してエッチング処理を実施し、XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、13.5%Al、17.4%Co、30.3%Mn、36.7%Ni、2.1%Zr、即ち、CCo1=17.4%、CAl1=13.5%である。
【0058】
実施例7
本実施例と実施例1との区別は、前駆体と炭酸リチウムとを混合させた後にZrO2粉末を加えないことである。正極材製品は、単結晶形態を有し、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50が3.6μmである。
【0059】
材料の組成をICPにより測定した結果、Li0.99(Ni0.65Co0.08Mn0.27)0.999Al0.001O2、即ち、CCo=7.99%である。XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、20.7%Al、14.9%Co、30.1%Mn、34.3%Ni、即ち、CAl=20.7%である。材料にAr+イオンでエッチングを施し、条件として、スポット径1.5mm、エネルギー3000eV、持続時間100sである。材料に対してエッチング処理を実施し、XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、10.5%Al、18.0%Co、31.2%Mn、40.3%Ni、即ち、CCo1=18.0%、CAl1=10.5%である。
【0060】
実施例8
Ni0.77Co0.04Al0.19(OH)2前駆体と炭酸リチウムと(前駆体:リチウムのモル比1:1.05)を混合させ、0.12wt%(対前駆体)のナノサイズZrO2粉末を加え、高速ミキサーで均一に混合させて、混合物Iを得た。サガーに入れ、ローラーハースキルンで5℃/min昇温速度で930℃まで昇温して、8時間保持した。ブロックを冷却させ、ジョークラッシャーを介してジェットミルに入れ、粉砕して、一次焼成産物(中間産物II)を得た。一次焼成産物と2.5%モル比のCo(OH)2と0.12wt%質量比のAl2O3粉末(一次粒子の粒子径約150nm)とを高速ミキサーで均一に混合させ、サガーに入れ、ローラーハースキルンで10℃/min昇温速度で840℃まで昇温し、5時間保持して、二次焼成を行った。冷却された粉末は正極材製品である。正極材製品は、単結晶形態を有し、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50が2.6μmである。
【0061】
材料の組成をICPにより測定した結果、Li1.02(Ni0.76Co0.06Al0.18)0.999Zr0.001O2、即ち、CCo=5.99%である。XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、26.8%Al、11.2%Co、59.1%Ni、2.9%Zr、即ち、CAl=26.8%である。材料にAr+イオンでエッチングを施し、条件として、スポット径1.5mm、エネルギー3000eV、持続時間100sである。材料に対してエッチング処理を実施し、XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、16.5%Al、9.2%Co、71.6%Ni、2.7%Zr、即ち、CCo1=9.2%、CAl1=16.5%である。
【0062】
比較例1
本比較例と実施例1との区別は、二次焼成時にAl2O3粉末を加えないことである。その他の材料製造の条件及び方法は実施例1と同じである。正極材製品は、単結晶形態を有し、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50が2.3μmである。
【0063】
材料の組成をICPにより測定した結果、Li1.01(Ni0.65Co0.07Mn0.28)0.999Zr0.001O2、即ち、CCo=6.99%である。XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、0%Al(N.D)、10.9%Co、40.4%Mn、44.1%Ni、4.6%Zr、即ち、CAl=0%である。材料にAr+イオンでエッチングを施し、条件として、スポット径1.5mm、エネルギー3000eV、持続時間100sである。材料に対してエッチング処理を実施し、XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、0%Al(N.D)、9.5%Co、42.7%Mn、45.4%Ni、2.4%Zr、即ち、CCo1=9.5%、CAl1=0%である。
【0064】
比較例2
本比較例と実施例1との区別は、二次焼成時にCo(OH)2を加えないことである。その他の材料製造の条件及び方法は実施例1と同じである。正極材製品は、単結晶形態を有し、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50が2.3μmである。
【0065】
材料の組成をICPにより測定した結果、Li1.01(Ni0.66Co0.06Mn0.28)0.9975Zr0.001Al0.0015O2、即ち、CCo=5.99%である。XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、27.3%Al、4.1%Co、32.3%Mn、34.9%Ni、1.4%Zr、即ち、CAl=27.3%である。材料にAr+イオンでエッチングを施し、条件として、スポット径1.5mm、エネルギー3000eV、持続時間100sである。材料に対してエッチング処理を実施し、XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、8.2%Al、6.3%Co、39.6%Mn、43.0%Ni、2.9%Zr、即ち、CCo1=6.3%、CAl1=8.2%である。
【0066】
比較例3
本比較例と実施例1との区別は、本比較例で二次焼成時にAl2O3粉末も加えず、Co(OH)2も加えないことである。その他の材料製造の条件及び方法は実施例1と同じである。正極材製品は、単結晶形態を有し、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50が2.3μmである。
【0067】
材料の組成をICPにより測定した結果、Li1.01(Ni0.66Co0.06Mn0.28)0.999Zr0.001O2、即ち、CCo=5.99%である。XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、0%Al(N.D)、6.7%Co、39.8%Mn、51.3%Ni、2.2%Zr、即ち、CAl=0%である。材料にAr+イオンでエッチングを施し、条件として、スポット径1.5mm、エネルギー3000eV、持続時間100sである。材料に対してエッチング処理を実施し、XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、0%Al(N.D)、7.1%Co、37.3%Mn、52.9%Ni、2.7%Zr、即ち、CCo1=7.1%、CAl1=0%である。
【0068】
比較例4
本比較例と実施例1との区別は、本比較例で二次焼成時に加えたAl2O3一次粒子の粒子径が10nmであることである。その他の材料製造の条件及び方法は実施例1と同じである。正極材製品は、単結晶形態を有し、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50が2.3μmである。
【0069】
材料の組成をICPにより測定した結果、Li1.01(Ni0.65Co0.07Mn0.28)0.9975Zr0.001Al0.0015O2、即ち、CCo=6.98%である。XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、19.3%Al、9.2%Co、28.7%Mn、40.3%Ni、2.5%Zr、即ち、CAl=19.3%である。材料にAr+イオンでエッチングを施し、条件として、スポット径1.5mm、エネルギー3000eV、持続時間100sである。材料に対してエッチング処理を実施し、XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、18.2%Al、10.1%Co、30.3%Mn、39.6%Ni、1.8%Zr、即ち、CCo1=10.1%、CAl1=18.2%である。
【0070】
比較例5
本比較例と実施例1との区別は、本比較例で二次焼成時の温度が550℃である。その他の材料製造の条件及び方法は実施例1と同じである。正極材製品は単結晶形態を有し、粒度分布が累積で50%に達した場合の粒子径Dv50が2.1μmである。
【0071】
材料の組成をICPにより測定した結果、Li1.01(Ni0.65Co0.07Mn0.28)0.9975Zr0.001Al0.0015O2、即ち、CCo=6.98%である。XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、23.1%Al、15.6%Co、24.4%Mn、34.8%Ni、2.1%Zr、即ち、CAl=23.1%である。材料にAr+イオンでエッチングを施し、条件として、スポット径1.5mm、エネルギー3000eV、持続時間100sである。材料に対してエッチング処理を実施し、XPSにより測定した結果、表面のLiを除く金属元素の比率は、15.5%Al、8.3%Co、33.2%Mn、40.3%Ni、2.7%Zr、即ち、CCo1=8.3%、CAl1=15.5%である。
【0072】
上記の実施例及び比較例の正極材製品を利用して下記の方法で電池を製造する。
正極活性材と導電剤であるカーボンブラックと粘着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを質量比97:1.7:1.3で混合させ、有機溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に入れて、均一な分散液となるように高速で攪拌した。高速攪拌終了後、攪拌タンクで負圧を利用して脱泡を行って、塗布に適する正極ペーストを得た。得られた正極ペーストをトランスファー型コーターでアルミ箔に塗布し、乾燥、コールドプレス、切断により必要な形状の正極プレートを得た。コールドプレスプロセスで正極活性物質塗布エリアの圧縮密度が3.2g/cm3~3.6g/cm3範囲内となるように管理する。
【0073】
負極活性材と導電剤であるカーボンブラックと粘着剤とカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)とを質量比96.8:1.2:1.2:0.8で混合させ、脱イオン水に入れて、均一な分散液となるように高速で攪拌した。高速攪拌終了後、攪拌タンクで負圧を利用して脱泡を行って、塗布に適する負極ペーストを得た。得られた負極ペーストをトランスファー型コーターで銅箔に塗布し、乾燥、コールドプレス、切断により必要な形状の負極プレートを得た。コールドプレスプロセスで負極活性物質塗布エリアの圧縮密度が1.5g/cm3~1.8g/cm3範囲内となるように管理する。
【0074】
正負極プレートを厚み9μmのPE分離膜の両側に置き、巻き芯となるように巻き、未塗布エリア及びニッケルラグを残して超音波溶接で連結した。巻き芯をアルミプラスチックフィルムで覆い、液体充填用に片側をそのままにしてヒートシールを実施した。
【0075】
ECとEMCとDECと(質量比3:5:2)の混合溶剤に、リチウム塩である13wt%(電解液の総質量で計算)のLiPF6と添加剤である1wt%(電解液の総質量で計算)の炭酸ビニレンと2wt%(電解液の総質量で計算)の硫酸エチレン(DTD)を入れ、電解液を調製して、巻き芯が覆われたアルミプラスチックフィルムに充填した。更に、真空包装、放置及び化成工程でリチウムイオン電池を得た。
【0076】
正極材及び得られた電池の性能を測定した結果は表1に示され、測定方法は下記の通りである。
【0077】
粒子径Dv50測定:三元正極材サンプル5gを秤量し、100mLビーカーに入れ、脱イオン水50mL及びヘキサメタりん酸ナトリウム溶液(濃度1wt%)1mLを加え、超音波を1minかけてから、Mastersizer 3000サンプルインジェクトシステムに入れた。サンプルと脱イオン水の総量を500mLにして、ミクサー回転数2800rpm、粒子屈折率1.8、粒子吸収率1.0、溶剤屈折率1.33の条件で粒子径分布を測定して、粒度分布データのDv50を読取った。
【0078】
ICP測定:正極材サンプル試料0.4gを秤量し、250mlビーカーに入れ、HCl溶液(HClと水の体積比1:1)10mlを加え、180℃で加熱して溶解させた。加熱された液体を容量フラスコに移動し、純水で定容にし、測定可能な範囲まで希釈して、ICP装置で測定した。正極材の化学式Lia(NixCoyM1-x-y)1-bM’bO2-cAcにおいて、Ni、Co、Mn元素はICP測定結果により相対含有量と比較することでx、y値を算出し、ICP測定によりa、b、cを得た。M’及びAが複数ある場合、b及びcは各元素含有量の合計となる。
【0079】
XPS測定:正極材の粉末サンプルを両面テープが貼られたアルミ箔に広げ、打錠機でサンプルを圧縮成形してから、XPS装置で材料を測定した。測定プロセスとして、最初にフルスペクトルスキャンで存在可能な元素種類を特定し、次に存在する元素に対して狭スペクトルスキャンを実施した。元素の原子相対含有量は元素感度ファクターを参考にしてシグナルピークの面積から算出された。
【0080】
エッチング:Ar+イオンエッチングを採用し、スポット径1.5mm、2500eV≦E≦3500eV、90s≦t≦100sである。ただし、Eはエッチングに利用されるエネルギーであり、tはエッチング時間である。材料を処理してから、XPS装置で材料を測定した。詳しいエッチングパラメータは具体的な実施例と比較例を参照する。上記条件(Ar+イオンエッチング、スポット径1.5mm、2500eV≦E≦3500eV、90s≦t≦100s)でエッチングされた正極材をXPSにより測定して得られた任意元素の原子相対含有量は、表面からの深さ20~60nmにおける該元素の原子相対含有量である。
【0081】
直流抵抗(DCR)測定:充放電装置により0.33C倍率(即ち、電池定格容量Ahの0.33倍を電流の大きさとする)で電池の荷電状態(SOC状態)から10%まで調整し(即ち、電池の完全放電状態から定格容量の10%まで充電する)、30分間放置してから、3C定電流Aで電池を放電し、放電プロセスにおける電圧変化ΔVを記録する場合、DCR=ΔV/Aである。
【0082】
サイクル寿命:充放電装置により電池に対して1C倍率でサイクル充放電を行い、1000サイクルの容量保持率を記録する。
【0083】
DCR増加率測定:1000サイクルの電池に対して充放電装置により0.33C倍率(即ち、電池定格容量Ahの0.33倍を電流の大きさとする)で電池のSOC状態から50%まで調整し(即ち、電池の完全放電状態から定格容量の50%まで充電する)、30分間放置してから、3C定電流Aで電池を放電し、放電プロセスにおける電圧変化ΔVを記録する場合、DCR1000=ΔV/Aである。DCR増加率=(DCR1000/DCR)-1である。
【0084】
【0085】
実施例1~8に係る材料の技術特徴が本願の好適範囲内にあるため、該材料で製造された電池は、低い初期直流抵抗(DCR)、優れたサイクル容量保持率とサイクル直流抵抗(DCR)増加率を有する。CCo1-CCoは材料表面近くにおけるCo原子比率と材料におけるCo原子平均含有量との差であり、該差≧2%である場合、材料表面近くにおけるCoが比較的に多く、材料の電子伝導及びイオン遷移が向上される。CAl-CAl1は材料表面におけるAl原子比率と表面近くにおけるAl原子比率との差であり、該差≧5%である場合、材料表面にAl被覆があると共に、Al原子が材料に侵入していない。実施例1と比較例1とのデータを比較すれば、材料表面にAl被覆がない場合、CAl-CAl1<5%であり、好適範囲外であり、材料のサイクル容量保持率が明らかに低下した。実施例1と比較例2とのデータを比較すれば、材料表面にCo被覆がない場合、CCo1-CCo<2%であり、好適範囲外であり、材料の容量保持率が高いレベルに維持されるが、直流インピーダンスが高い。実施例1と比較例3とのデータを比較すれば、材料表面に2つの被覆がない場合、CAl-CAl1及びCCo1-CCoが好適範囲外であり、材料の直流インピーダンス、サイクル容量保持率及びサイクル直流抵抗(DCR)増加率が悪い。実施例1と比較例4とのデータを比較すれば、小粒子の被覆剤で被覆工程を施す場合、Al元素が材料表面近く及び内部に侵入し、CAl-CAl1<5%になり、材料の長期サイクルプロセスにおける保護作用が果たされないほかに、電子及びイオンの遷移が阻害され、材料の直流抵抗が向上される。実施例1と比較例5とのデータを比較すれば、二次焼成温度が高くないため、Co元素が材料表面近くに侵入していない場合、同様にCCo1-CCo<2%になる。この際、材料は、優れた直流インピーダンス及びサイクル容量保持率を有するが、長期サイクルプロセスで電池の直流インピーダンスを低いレベルに維持することができない。
【0086】
以上、本発明の具体的な実施例について説明した。本発明は、上記実施形態に限定されず、当業者が本発明の実質的な内容に影響を与えない前提で、請求範囲内で様々な変化又は修正を行っても良い。齟齬が生じない前提で、本願の実施例及び実施例の特徴は任意に互いに組み合わせても良い。