(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】貫通穴を有する粘着剤層付光学積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23C 3/00 20060101AFI20241021BHJP
B23C 5/10 20060101ALI20241021BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20241021BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
B23C3/00
B23C5/10 Z
C09J7/38
C09J201/00
(21)【出願番号】P 2022509239
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2020041297
(87)【国際公開番号】W WO2021192391
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2020054110
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020090150
(32)【優先日】2020-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】中市 誠
(72)【発明者】
【氏名】山本 優樹
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6622439(JP,B1)
【文献】特開2012-096339(JP,A)
【文献】実開昭59-001512(JP,U)
【文献】国際公開第2016/203521(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C3/00-3/36
B23C5/10
B23D75/00-77/14
B32B27/00
C09J201/00
B32B 1/04
G05B 5/30
C09J 7/29
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層付光学積層体を複数枚重ねてワークを形成すること、および
エンドミルを用いた切削により該ワークの所定の位置に貫通穴を形成すること、
を含み、
該粘着剤層付光学積層体が、光学フィルムと、該光学フィルムの一方の側に配置された粘着剤層と、該粘着剤層に剥離可能に仮着されたセパレーターと、該光学フィルムのもう一方の側に剥離可能に仮着された表面保護フィルムと、を含み、
該貫通穴の形成が、穴の端面に該エンドミルを押し当てて切削しながら該エンドミルを上方または下方のいずれか一方に移動させて切削することを含む、
貫通穴を有する粘着剤層付光学積層体の製造方法。
【請求項2】
前記貫通穴の形成が、
下穴を形成すること;
該下穴の端面に前記エンドミルを押し当てて切削しながら、該エンドミルを該下穴の端面に沿って、かつ、該エンドミルを切削開始時の所定の位置から上方または下方のいずれか一方に移動させながら一周させ、該下穴の径より所定量大きい径を有する次の穴を形成すること;
該エンドミルを該所定の位置に戻し、該次の穴の端面に該エンドミルを押し当てて切削しながら、該エンドミルを該次の穴の端面に沿って、かつ、該エンドミルを該所定の位置から上方または下方のいずれか一方に移動させながら一周させ、該次の穴の径より所定量大きい径を有するさらに次の穴を形成すること;および、
エンドミルの周回による穴の端面に沿った切削を所定回数繰り返し、所定の径を有する貫通穴を形成すること;
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記貫通穴の形成が、片持ち状態のエンドミルで前記下穴を形成すること、および、両持ち状態のエンドミルで前記次の穴以降の穴を形成することを含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記エンドミルがねじれ刃を有し、前記貫通穴の形成における該エンドミルの上下の移動方向が切削くずの排出方向である、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
下穴を形成するエンドミルと
該下穴の径より所定量大きい径を有する次の穴以降の穴を形成するエンドミルとが同一のエンドミルであり、該次の穴以降の穴の形成における該エンドミルの上下の移動方向が上方である、請求項2から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記ワークの厚みが10mm以上である、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記光学フィルムが偏光子または偏光板を含む、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通穴を有する粘着剤層付光学積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノート型パーソナルコンピューター等の画像表示装置には、画像表示を実現し、および/または当該画像表示の性能を高めるために、種々の光学積層体(例えば、偏光板)が使用されている。光学積層体は、代表的には粘着剤層が設けられて粘着剤層付光学積層体として構成され、画像表示セルに貼り合わせ可能とされている。近年、スマートフォン、タッチパネル式の情報処理装置の急速な普及により、カメラが搭載された画像表示装置が広く利用されるようになっている。これに対応して、カメラ部に対応する位置に貫通穴を有する粘着剤層付光学積層体もまた広く利用されるようになっている。このような貫通穴は、例えば、エンドミルを用いた穴あけ加工により形成され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、粘着剤層付光学積層体の穴あけ加工においては、いわゆる糊欠け(粘着剤層の端部が欠落する現象)、ならびに/あるいは、製造工程において用いられる表面保護フィルムおよび/またはセパレーターの浮きが生じる場合がある。本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、糊欠けならびに表面保護フィルムおよびセパレーターの浮きが抑制された、貫通穴を有する粘着剤層付光学積層体を簡便安価に製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による貫通穴を有する粘着剤層付光学積層体の製造方法は、粘着剤層付光学積層体を複数枚重ねてワークを形成すること、および、エンドミルを用いた切削により該ワークの所定の位置に貫通穴を形成すること、を含む。該粘着剤層付光学積層体は、光学フィルムと、該光学フィルムの一方の側に配置された粘着剤層と、該粘着剤層に剥離可能に仮着されたセパレーターと、該光学フィルムのもう一方の側に剥離可能に仮着された表面保護フィルムと、を含む。該貫通穴の形成は、穴の端面に該エンドミルを押し当てて切削しながら該エンドミルを上方または下方のいずれか一方に移動させて切削することを含む。
1つの実施形態においては、上記貫通穴の形成は、下穴を形成すること;該下穴の端面に上記エンドミルを押し当てて切削しながら、該エンドミルを該下穴の端面に沿って、かつ、該エンドミルを切削開始時の所定の位置から上方または下方のいずれか一方に移動させながら一周させ、該下穴の径より所定量大きい径を有する次の穴を形成すること;該エンドミルを該所定の位置に戻し、該次の穴の端面に該エンドミルを押し当てて切削しながら、該エンドミルを該次の穴の端面に沿って、かつ、該エンドミルを該所定の位置から上方または下方のいずれか一方に移動させながら一周させ、該次の穴の径より所定量大きい径を有するさらに次の穴を形成すること;および、エンドミルの周回による穴の端面に沿った切削を所定回数繰り返し、所定の径を有する貫通穴を形成すること;を含む。
1つの実施形態においては、上記貫通穴の形成は、片持ち状態のエンドミルで上記下穴を形成すること、および、両持ち状態のエンドミルで上記次の穴以降の穴を形成することを含む。
1つの実施形態においては、上記エンドミルはねじれ刃を有し、上記貫通穴の形成における該エンドミルの上下の移動方向は切削くずの排出方向である。
1つの実施形態においては、上記下穴を形成するエンドミルと上記次の穴以降の穴を形成するエンドミルとは同一のエンドミルであり、該次の穴以降の穴の形成における該エンドミルの上下の移動方向は上方である。
1つの実施形態においては、上記ワークの厚みは10mm以上である。
1つの実施形態においては、上記光学フィルムは偏光子または偏光板を含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、貫通穴を有する粘着剤層付光学積層体の製造における貫通穴の形成において、エンドミルを上方または下方のいずれか一方に移動させながら切削することにより、糊欠けならびに表面保護フィルムおよびセパレーターの浮きを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態による製造方法に用いられ得る粘着剤層付光学積層体の一例を説明する概略断面図である。
【
図2A】本発明の実施形態による製造方法に用いられ得る粘着剤層付光学積層体における貫通穴の一例を説明する概略断面図である。
【
図2B】本発明の実施形態による製造方法に用いられ得る粘着剤層付光学積層体における貫通穴の別の例を説明する概略断面図である。
【
図3】本発明の実施形態による製造方法における貫通穴の形成の概略を説明する概略斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態による製造方法における貫通穴の形成に用いられ得るねじれ刃を有するエンドミルの構造を説明するための概略図である。
【
図5】本発明の実施形態による製造方法に用いられ得るねじれ刃を有するエンドミルの構成の代表例と切削くずの排出方向および回転方向との関係を説明する概略図である。
【
図6】本発明の実施形態による製造方法における貫通穴の形成の詳細を説明する概略平面図である。
【
図7】(a)は貫通穴の形成における下穴の形成を説明する概略断面図であり、(b)は次の穴以降の穴の形成を説明する概略断面図である。
【
図8】貫通穴の形成におけるエンドミルによる切削を説明するための概略平面図である。
【
図9】(a)は、貫通穴の形成におけるエンドミルの平面内の軌道を説明する概略平面図であり;(b)は、エンドミルの平面内の移動に伴う上方向の移動を説明する概略図であり;(c)は、エンドミルの平面内の移動に伴う下方向の移動を説明する概略図である。
【
図10】比較例4におけるエンドミルの平面内の移動に伴う上下方向の移動を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。なお、見やすくするために図面は模式的に表されており、さらに、図面における長さ、幅、厚み等の比率、ならびに角度等は、実際とは異なっている。
【0009】
本発明の実施形態による貫通穴を有する粘着剤層付光学積層体の製造方法は、粘着剤層付光学積層体を複数枚重ねてワークを形成すること、および、エンドミルを用いた切削によりワークの所定の位置に貫通穴を形成すること、を含む。粘着剤層付光学積層体は、光学フィルムと、光学フィルムの一方の側に配置された粘着剤層と、粘着剤層に剥離可能に仮着されたセパレーターと、光学フィルムのもう一方の側に剥離可能に仮着された表面保護フィルムと、を含む。本発明の実施形態においては、貫通穴の形成は、エンドミルを上方または下方のいずれか一方に移動させながら切削することを含む。便宜上、まず、本発明の実施形態による製造方法に用いられ得る粘着剤層付光学積層体の具体的な構成を説明し、次いで、本発明の実施形態による貫通穴を有する粘着剤層付光学積層体の製造方法について説明する。
【0010】
A.粘着剤層付光学積層体
図1は、本発明の実施形態による製造方法に用いられ得る粘着剤層付光学積層体の一例を説明する概略断面図である。図示例の粘着剤層付光学積層体100は、光学フィルム10と、光学フィルム10の一方の側に配置された粘着剤層20と、粘着剤層20に剥離可能に仮着されたセパレーター30と、光学フィルム10のもう一方の側に剥離可能に仮着された表面保護フィルム40と、を含む。粘着剤層付光学積層体が画像表示装置に適用された場合、代表的には、セパレーター30が画像表示セル側に配置される。粘着剤層付光学積層体の実際の使用時にはセパレーター30は剥離除去され、粘着剤層20は、粘着剤層付光学積層体を画像表示装置(実質的には、画像表示セル)に貼り合わせるために用いられ得る。表面保護フィルム40は、代表的には、基材41と粘着剤層42とを有する。なお、粘着剤層20と区別するために、表面保護フィルムの粘着剤層42を「PF粘着剤層」と称する場合がある。表面保護フィルム40もまた、粘着剤層付光学積層体の実際の使用時には剥離除去される。
【0011】
本発明の実施形態においては、粘着剤層付光学積層体は、所定の位置に貫通穴50を有する。貫通穴50は、
図2Aに示すように1つ形成されていてもよく、
図2Bに示すように2つ形成されていてもよく、3つ以上形成されていてもよい(図示せず)。例えば2つの貫通穴が形成される場合、
図2Bに示すように短辺方向に並んで形成されてもよく、長辺方向に並んで形成されてもよく、ランダムに形成されてもよい。貫通穴の形成位置は、目的に応じて適切に設定され得る。貫通穴は、代表的には粘着剤層付光学積層体の端部またはその近傍に形成され、好ましくは図示例のように隅部に形成されている。貫通穴を粘着剤層付光学積層体の端部またはその近傍に形成することにより、粘着剤層付光学積層体が画像表示装置に適用された場合に、画像表示に対する影響を最小限とすることができる。貫通穴は、1つの実施形態においては、画像表示装置のカメラ部に対応する位置に形成され得る。貫通穴の平面視形状は、目的および画像表示装置の所望の構成に応じて任意の適切な形状が採用され得る。代表例としては、図示例のような略円形が挙げられる。貫通穴のサイズ(図示例においては直径)は、例えば5mm以下であり、好ましくは1mm~5mmであり、より好ましくは2mm~4mmである。なお、
図1においては貫通穴の描写は省略されている。本発明の実施形態によれば、後述するように、貫通穴の形成において、エンドミルを上方または下方のいずれか一方に移動させながら切削することにより、糊欠けならびに表面保護フィルムおよびセパレーターの浮きを抑制することができる。すなわち、本発明の実施形態によれば、粘着剤層とセパレーターと表面保護フィルムとを含む粘着剤層付光学積層体の製造方法における特有の課題を解決することができる。
【0012】
光学フィルム10としては、貫通穴が必要とされる用途に用いられ得る任意の適切な光学フィルムが挙げられる。光学フィルムは、単一層で構成されるフィルムであってもよく、積層体であってもよい。単一層で構成される光学フィルムの具体例としては、偏光子、位相差フィルムが挙げられる。積層体として構成される光学フィルムの具体例としては、偏光板(代表的には、偏光子と保護フィルムとの積層体)、タッチパネル用導電性フィルム、表面処理フィルム、ならびに、これらの単一層で構成される光学フィルムおよび/または積層体として構成される光学フィルムを目的に応じて適切に積層した積層体(例えば、反射防止用円偏光板、タッチパネル用導電層付偏光板)が挙げられる。
【0013】
粘着剤層20としては、任意の適切な構成が採用され得る。粘着剤層を構成する粘着剤の具体例としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、およびポリエーテル系粘着剤が挙げられる。粘着剤のベース樹脂を形成するモノマーの種類、数、組み合わせおよび配合比、ならびに、架橋剤の配合量、反応温度、反応時間等を調整することにより、目的に応じた所望の特性を有する粘着剤を調製することができる。粘着剤のベース樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。透明性、加工性および耐久性などの観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。粘着剤層を構成する粘着剤の詳細は、例えば、特開2014-115468号公報に記載されており、当該公報の記載は本明細書に参考として援用されている。粘着剤層20の厚みは、例えば10μm~100μmであり得る。
【0014】
粘着剤層20は、85℃におけるクリープ値が例えば500μm以下であり、好ましくは5μm~500μmである。1つの実施形態においては、クリープ値は、好ましくは200μm~450μmであり、より好ましくは220μm~420μmである。別の実施形態においては、クリープ値は、好ましくは5μm~300μmであり、より好ましくは5μm~200μmであり、さらに好ましくは10μm~100μmである。クリープ値がこのような範囲であれば、貫通穴形成時の糊欠けを顕著に抑制し、かつ、高温高湿環境下における剥がれを顕著に抑制することができる。クリープ値が相対的に大きい(例えば、200μm以上である)場合であっても、粘着剤層を構成する粘着剤の組成(例えば、ベースポリマーの種類(極性、Tg、柔らかさ)、分子量)、架橋構造(例えば、架橋剤の種類、架橋点間距離(架橋点間分子量)、架橋密度、未架橋成分(ゾル分))を制御することにより、糊欠けを抑制できると推定される。なお、クリープ値は、例えば以下の手順で測定され得る:粘着剤層付光学積層体から切り出した試験サンプルを10mm×10mmの接合面にて支持板に貼着する。試験サンプルを貼り付けた支持板を固定した状態で、500gfの荷重を鉛直下方に加える。荷重を加えて1秒後および3600秒後の支持板からのずれ量を測定し、それぞれCr1およびCr3600とする。Cr1およびCr3600から下記式により求められるΔCrをクリープ値とする。
ΔCr=Cr3600-Cr1
【0015】
粘着剤層20は、85℃における貯蔵弾性率が、好ましくは1.0×104Pa以上であり、好ましくは2.0×104Pa以上であり、より好ましくは5.0×104Pa以上であり、さらに好ましくは1.0×105Pa以上である。貯蔵弾性率がこのような範囲であれば、上記所望のクリープ値の実現が容易となる。一方で、貯蔵弾性率は、例えば3.0×106Pa以下である。なお、貯蔵弾性率は、例えば、動的粘弾性測定から求められ得る。
【0016】
セパレーター30としては、任意の適切なセパレーターが採用され得る。具体例としては、剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルム、不織布または紙が挙げられる。剥離材の具体例としては、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤が挙げられる。プラスチックフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムが挙げられる。セパレーターの厚みは、例えば10μm~100μmであり得る。
【0017】
表面保護フィルム40は、上記のとおり、代表的には基材41と粘着剤層42とを有する。基材41の形成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂が挙げられる。好ましくは、エステル系樹脂(特に、ポリエチレンテレフタレート系樹脂)である。このような材料であれば、弾性率が十分に高く、搬送および/または貼り合わせ時に張力をかけても変形が生じにくいという利点がある。
【0018】
基材41の弾性率は、例えば2.2kN/mm2~4.8kN/mm2であり得る。基材の弾性率がこのような範囲であれば、搬送および/または貼り合わせ時に張力をかけても変形が生じにくいという利点を有する。なお、弾性率は、JIS K 6781に準拠して測定される。
【0019】
基材41の厚みは、例えば30μm~70μmであり得る。
【0020】
粘着剤層(PF粘着剤層)42としては、任意の適切な構成が採用され得る。具体例としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、およびポリエーテル系粘着剤が挙げられる。粘着剤のベース樹脂を形成するモノマーの種類、数、組み合わせおよび配合比、ならびに、架橋剤の配合量、反応温度、反応時間等を調整することにより、目的に応じた所望の特性を有する粘着剤を調製することができる。粘着剤のベース樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。PF粘着剤層を構成する粘着剤は、ベース樹脂が活性水素含有官能基を有するポリマーを含むという特徴を有する。このようなベース樹脂であれば、所望の貯蔵弾性率を有するPF粘着剤層が得られ得る。PF粘着剤層を構成する粘着剤の詳細は、例えば、特開2018-123281号公報に記載されており、当該公報の記載は本明細書に参考として援用されている。PF粘着剤層42の厚みは、例えば10μm~100μmであり得る。PF粘着剤層42の25℃における貯蔵弾性率G’は、例えば0.5×106(Pa)~3.0×106(Pa)であり得る。貯蔵弾性率がこのような範囲であれば、粘着性と剥離性とのバランスに優れた粘着剤層(結果として、表面保護フィルム)を得ることができる。
【0021】
表面保護フィルム40の厚みは、例えば40μm~120μmであり得る。なお、表面保護フィルムの厚みとは、基材とPF粘着剤層の合計厚みをいう。
【0022】
B.粘着剤層付光学積層体の製造方法
以下、粘着剤層付光学積層体の製造方法の代表例を説明する。
【0023】
B-1.ワークの形成
まず、ワークを形成する。
図3は、本発明の実施形態による製造方法における貫通穴の形成の概略を説明する概略斜視図であり、本図にワークWが示されている。
図3に示すように、粘着剤層付光学積層体を複数枚重ねたワークWが形成される。粘着剤層付光学積層体は、ワーク形成に際し、代表的には任意の適切な形状に切断されている。具体的には、粘着剤層付光学積層体は矩形形状に切断されていてもよく、矩形形状に類似する形状に切断されていてもよく、目的に応じた適切な形状(例えば、円形)に切断されていてもよい。ワークWは、1つの実施形態においては、互いに対向する外周面(切削面)1a、1bおよびそれらと直交する外周面(切削面)1c、1dを有している。ワークWは、好ましくは、クランプ手段(図示せず)により上下からクランプされている。ワークの総厚みは、好ましくは3mm以上であり、より好ましくは5mm~40mmであり、さらに好ましくは10mm~30mmである。例えば貫通穴の直径が2mm~3mmである場合には、ワークの総厚みは、好ましくは10mm~25mmである。本発明の実施形態によれば、後述するように、貫通穴の形成において、エンドミルを上方または下方のいずれか一方に移動させながら切削することにより、ワークの総厚みを大きくすることができる。その結果、貫通穴を有する粘着剤層付光学積層体の製造効率を顕著に向上させることができる。粘着剤層付光学積層体は、ワークがこのような総厚みとなるように重ねられる。ワークを構成する粘着剤層付光学積層体の枚数は、粘着剤層付光学積層体の厚みによって変化し得る。粘着剤層付光学積層体の枚数は、好ましくは50枚以上であり、より好ましくは50枚~200枚であり、さらに好ましくは75枚~150枚である。本発明の実施形態によれば、通常よりも顕著に多い枚数の粘着剤層付光学積層体を重ねてワークを形成することができ、その結果、貫通穴を有する粘着剤層付光学積層体の製造効率を顕著に向上させることができる。クランプ手段(例えば、治具)は、軟質材料で構成されてもよく硬質材料で構成されてもよい。軟質材料で構成される場合、その硬度(JIS A)は、好ましくは60°~80°である。硬度が高すぎると、クランプ手段による押し跡が残る場合がある。硬度が低すぎると、治具の変形により位置ずれが生じ、切削精度が不十分となる場合がある。
【0024】
B-2.貫通穴の形成
次に、ワーク(実質的には、粘着剤層付光学積層体)に貫通穴を形成する。貫通穴は、
図3に示すようにエンドミルを用いた切削により形成され得る。なお、
図3においては、最初に形成される下穴と最終的に形成される貫通穴が模式的に示されている。以下、貫通穴の形成に用いられ得るエンドミルについて最初に説明し、次いで、貫通穴の形成の具体的な手順について説明する。
【0025】
B-2-1.エンドミルの構成
エンドミル60は、ねじれ刃を有していてもよく(所定の刃角度を有していてもよく)、刃角度0°であってもよい。エンドミル60は、代表的には、
図3および
図4に示すようにねじれ刃を有する。ねじれ刃を有するエンドミルを用いることにより、エンドミルを上方または下方のいずれか一方に移動させながら切削すること(後述)による効果が顕著になる。切削くずの排出方向とエンドミルの移動方向とを合わせることが容易だからである。ねじれ刃を有するエンドミル60は、
図4に示すように、ワークWの積層方向(鉛直方向)に延びる回転軸61と、回転軸61を中心として回転する本体の最外径として構成される切削刃62と、を有する。図示例では、切削刃62は、回転軸61に沿ってねじれた最外径として構成されており、右刃右ねじれを示している。切削刃62は、刃先62aと、すくい面62bと、逃がし面62cと、を含む。切削刃62の刃数は、目的に応じて適切に設定され得る。図示例における切削刃は3枚の構成であるが、刃数は連続した1枚であってもよく、2枚であってもよく、4枚であってもよく、5枚以上であってもよい。エンドミルの刃角度(図示例における切削刃のねじれ角θ)は、好ましくは10°~40°であり、より好ましくは20°~30°である。すくい角は、好ましくは15°~25°であり、逃げ角は、好ましくは25°~35°である。切削刃の逃がし面は、好ましくは、粗面化処理されている。粗面化処理としては、任意の適切な処理が採用され得る。代表例としては、ブラスト処理が挙げられる。逃がし面に粗面化処理を施すことにより、切削刃への粘着剤の付着が抑制され、結果として、ブロッキングが抑制され得る。エンドミルの外径は、好ましくは0.5mm~10mmであり、より好ましくは0.8mm~5mmであり、さらに好ましくは1mm~3mmである。エンドミルの切削刃の有効長さは、好ましくは10mm~50mmであり、より好ましくは20mm~40mmである。なお、本明細書において「ブロッキング」とは、ワークにおける粘着剤層付光学積層体同士が端面の粘着剤で接着する現象をいい、端面に付着する粘着剤の削りカスが粘着剤層付光学積層体同士の接着に寄与することとなる。また、「エンドミルの外径」とは、回転軸61から刃先62aまでの距離を2倍したものをいう。
【0026】
次に、エンドミルの構成と切削くずの排出方向および回転方向との関係を説明する。
図5は、本発明の実施形態による製造方法に用いられ得るねじれ刃を有するエンドミルの構成の代表例を説明する概略図である。
図5に示すとおり、ねじれ刃を有するエンドミルの構成は、右刃右ねじれ、右刃左ねじれ、左刃右ねじれ、左刃左ねじれに大別される。
図5に示すように、右刃とは、上側(シャンク側)から見て時計回りに回転したときに切削可能な構成をいい;左刃とは、上側(シャンク側)から見て反時計回りに回転したときに切削可能な構成をいう。
図5にさらに示すように、右ねじれとは、刃先が側方からみて右斜め上方向に延びる構成をいい;左ねじれとは、刃先が側方からみて左斜め上方向に延びる構成をいう。右刃右ねじれおよび左刃左ねじれは、切削くずの排出方向が上方であり;右刃左ねじれおよび左刃右ねじれは、切削くずの排出方向が下方である。
【0027】
B-2-2.貫通穴の形成
以下、上記のようなエンドミルを用いた貫通穴の形成の代表例について、
図6~
図9を参照して説明する。
【0028】
まず、
図6に示すように、下穴51を形成する。本明細書において「下穴」とは、正しい位置に貫通穴を形成するための手がかりとなる穴をいう。下穴51は、代表的には
図7(a)に示すように、片持ち状態(一端のみを保持した状態)のエンドミル60で形成され得る。図示例では上端を保持したエンドミル60を上方から下方に移動させて下穴51を形成しているが、下端を保持したエンドミル60を下方から上方に移動させて下穴51を形成してもよい。下穴51の直径は、エンドミル60の外径と実質的に同一である。
【0029】
次に、
図8に示すように、下穴51の端面にエンドミル60を押し当てて切削しながら、エンドミル60を下穴51の端面に沿って一周させる。その結果、
図6および
図8に示すように、下穴51の径より所定量P大きい径を有する次の穴52を形成する。本発明の実施形態においては、エンドミル60を切削開始時の所定の位置Aから上方または下方のいずれか一方に移動させながら下穴51の端面に沿って一周させ、次の穴52を形成する。一例として、
図9(a)に示すように、下穴51の切削開始位置A
Sからスタートして次の穴52を形成する場合について説明する。この場合、エンドミル60は、最外部(刃先)が下穴51の端面を切削しながら、A
S→A
1→A
2→A
3→A
4→A
1→A
Sと移動する。具体的には、A
S→A
1はエンドミルが上から見て時計回りの軌道を描いて移動して所定ピッチの切削を開始し、次いで、エンドミルは下穴51の端面に沿ってA
1→A
2→A
3→A
4→A
1と一周する。1周してA
1に到達すると、エンドミルは上から見て時計回りの軌道を描いて切削しながらAsに戻る。ここで、エンドミル60(例えば、位置決め指標としての切削刃の中間点M)がワークの厚み方向(鉛直方向)の所定の位置Tにあるとき、エンドミルがA
S→A
1→A
2→A
3→A
4→A
1→A
Sと移動するにしたがって、エンドミルの位置は、エンドミルを上方に移動させる場合には
図9(b)のように変化し、エンドミルを下方に移動させる場合には
図9(c)のように変化する。1周切削して次の穴52が形成されると、位置A
Sにおいて、エンドミル60は位置Tに戻される(このとき、切削は行われない)。なお、本明細書においては、所定量Pを切削ピッチと称する場合がある。
【0030】
次いで、エンドミル60を位置A
Sから、さらに次の穴53の切削開始位置B
Sに水平方向に移動させる(当該移動の間には切削は行われない)。以下の手順は下穴の切削(次の穴52の形成)と同様にして、エンドミル60を上方または下方のいずれか一方に移動させながら次の穴52の端面に沿って一周させ、次の穴52の端面を切削する。その結果、
図6に示すように、次の穴52の径より所定量P大きい径を有するさらに次の穴53が形成される。より詳細には、
図9(a)に示すように、エンドミル60は、最外部(刃先)が次の穴52の端面を切削しながら、B
S→B
1→B
2→B
3→B
4→B
1→B
Sと移動する。エンドミルがB
S→B
1→B
2→B
3→B
4→B
1→B
Sと移動するにしたがって、エンドミルの位置は、エンドミルを上方に移動させる場合には
図9(b)のように変化し、エンドミルを下方に移動させる場合には
図9(c)のように変化する。1周切削してさらに次の穴53が形成されると、位置B
Sにおいて、エンドミル60は位置Tに戻される。次いで、エンドミル60を位置B
Sから、さらに次の穴の切削開始位置C
Sに水平方向に移動させ、同様の手順を繰り返すことにより、所望の直径を有する貫通穴を形成する。
【0031】
貫通穴の形成におけるエンドミルの上方または下方への移動量(
図9(b)のUまたは
図9(c)のD)は、好ましくは1mm~8mmであり、より好ましくは2mm~7mmであり、さらに好ましくは3mm~5mmである。当該移動量が小さすぎると、糊欠けあるいは表面保護フィルムまたはセパレーターの浮きが十分に抑制されない場合がある。当該移動量は大きいほど好ましく、上限はエンドミルの切削刃の有効長さによって制限され得る。当該移動量は、エンドミルの切削刃の有効長さに対して、例えば6%~15%であり得る。
【0032】
エンドミルの移動方向は、好ましくは、切削くずの排出方向である。すなわち、エンドミルが右刃右ねじれまたは左刃左ねじれである場合には、移動方向は上方であり;エンドミルが右刃左ねじれまたは左刃右ねじれである場合には、移動方向は下方である。このような構成であれば、すくい面の刃先に切削くずがたまることが顕著に抑制され、切削くずが極めて良好に排出されるので、当該切削くずによる粘着剤層ならびに/あるいは表面保護フィルムおよび/またはセパレーターへの押し込みが顕著に抑制され、その結果、糊欠けならびに表面保護フィルムおよびセパレーターの浮きを顕著に抑制することができる。
【0033】
1つの実施形態においては、貫通穴の形成(切削加工)において切削くずの排出側と逆側から排出方向に向かって送風することが好ましい。このような構成であれば、切削くずがさらに良好に排出されるので、糊欠けならびに表面保護フィルムおよびセパレーターの浮きをさらに良好に抑制することができる。送風圧力は例えば0.05Mpa~1Mpaであり、風速は例えば1,500m/分~15,000m/分であり、風量は例えば5L/分~1,000L/分である。
【0034】
次の穴52以降の穴は、代表的には
図7(b)に示すように、両持ち状態(両端を保持した状態)のエンドミル60で形成され得る。
【0035】
次の穴52以降の穴の形成(以下、周回による切削と称する場合がある)に用いられるエンドミルは、下穴51の形成に用いられるエンドミルと同一であってもよく、異なっていてもよい。周回による切削に用いられるエンドミルが下穴の形成に用いられるエンドミルと同一である場合、周回による切削における当該エンドミルの上下の移動方向は、好ましくは上方である。より詳細には、下穴は、代表的には上記のとおり、片持ち状態(上端を保持した状態)のエンドミルを下方に移動させることにより形成され得る。この場合、糊欠けならびに表面保護フィルムおよびセパレーターの浮きの抑制の観点から、切削くずの排出方向は好ましくは上方である。したがって、周回による切削における当該エンドミルの上下の移動方向は、切削くずの排出方向である上方が好ましい。周回による切削に用いられるエンドミルが下穴の形成に用いられるエンドミルと異なる場合には、周回による切削における当該エンドミルの上下の移動方向は、エンドミルの構成(切削くずの排出方向)に対応して上方であってもよく下方であってもよい。
【0036】
切削ピッチPは、貫通穴のサイズ、エンドミルの外径、エンドミルの周回数に応じて変化し得る。エンドミルの周回数は、貫通穴のサイズ、エンドミルの外径、切削ピッチPに応じて変化し得る。切削ピッチは、例えば5μm~20μmであり、好ましくは5μm~10μmである。例えば、貫通穴のサイズが3mmであり、エンドミルの外径が2mmであり、切削ピッチPが10μmである場合、エンドミルの周回数は50回となる。
【0037】
貫通穴の形成における切削条件は、貫通穴のサイズ、エンドミルの外径、エンドミルの周回数等に応じて適切に設定され得る。エンドミルの回転数は、好ましくは1000rpm~10000rpmであり、より好ましくは1500rpm~4000rpmである。エンドミルの送り速度は、好ましくは50mm/分~2000mm/分であり、より好ましくは70mm/分~1000mm/分であり、さらに好ましくは70mm/分~400mm/分である。
【0038】
上記のようなエンドミルによる穴の端面に沿った切削を所定回数繰り返すことにより(すなわち、エンドミルによる切削を所定の周回数行うことにより)、所定の径を有する貫通穴50が形成される。必要に応じて、貫通穴の端面を仕上げ削りに供してもよい。
【0039】
以上のようにして、貫通穴を有する粘着剤層付光学積層体が得られ得る。本発明の実施形態による製造方法により得られ得る粘着剤層付光学積層体は、糊欠けならびに表面保護フィルムおよびセパレーターの浮きが抑制されている。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。実施例における評価項目は以下のとおりである。
【0041】
(1)糊欠け
実施例および比較例で得られた貫通穴を有する粘着剤層付光学積層体のワークから、10枚の粘着剤層付光学積層体を抜き出した。当該10枚の粘着剤層付光学積層体は、ワークの一番上および一番下の粘着剤層付光学積層体、ならびに、ワークを厚み方向に5分割したうちの上部および下部からそれぞれ1つ、および、中央部の3つの部分からそれぞれ2つランダムに抜き出した粘着剤層付光学積層体である。当該10枚の粘着剤層付光学積層体について、ルーペもしくは顕微鏡を用いて、貫通穴部分の糊欠けを観察し、50μm以上の糊欠けが観測されなければ、その粘着剤層付光学積層体は「糊欠け無し」サンプルとカウントした。10枚中の「糊欠け無し」サンプルの割合(%)を評価基準とした。実施例5および比較例3については、ワークを50セット用意し、合計500枚のサンプルを評価した。
A:「糊欠け無し」サンプルが90%以上
B:「糊欠け無し」サンプルが60%以上90%未満
C:「糊欠け無し」サンプルが60%未満
(2)表面保護フィルムまたはセパレーターの浮き
上記(1)と同様にして貫通穴部分の表面保護フィルムまたはセパレーターの浮きを観察し、50μm以上の浮きが観測されなければ、その粘着剤層付光学積層体は「浮き無し」サンプルとカウントした。10枚中の「浮き無し」サンプルの割合(%)を評価基準とした。実施例5および比較例3については、ワークを50セット用意し、合計500枚のサンプルを評価した。
A:「浮き無し」サンプルが98%以上
B:「浮き無し」サンプルが60%以上98%未満
C:「浮き無し」サンプルが60%未満
(3)クラック
上記(1)と同様にして貫通穴部分のクラックを観察し、50μm以上のクラックが観測されなければ、その粘着剤層付光学積層体は「クラック無し」サンプルとカウントした。10枚中の「クラック無し」サンプルの割合(%)を評価基準とした。実施例5および比較例3については、ワークを50セット用意し、合計500枚のサンプルを評価した。
A:「クラック無し」サンプルが98%以上
B:「クラック無し」サンプルが60%以上98%未満
C:「クラック無し」サンプルが60%未満
【0042】
<実施例1>
常法により、視認側から順に表面保護フィルム(58μm)/HC-TAC保護フィルム(32μm)/偏光子(5μm)/粘着剤層(15μm)/セパレーター(38μm)の構成を有する粘着剤層付偏光板を作製した。なお、HC-TAC保護フィルムは、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(25μm)にハードコート(HC)層(7μm)が形成されたフィルムであり、TACフィルムが偏光子側となるように積層した。また、表面保護フィルムとしては、PET基材(38μm)/PF粘着剤層(20μm)の構成を有する表面保護フィルムを用いた。粘着剤層のクリープ値は73μmであった。得られた粘着剤層付偏光板を5.7インチサイズ(縦140mmおよび横65mm程度)に打ち抜き、打ち抜いた偏光板を120枚重ねてワーク(総厚み約18mm)とした。得られたワークをクランプ(治具)で挟んだ状態で、エンドミル加工により、隅部に直径3mmの貫通穴を形成した。より詳細には以下のとおりであった。貫通穴の形成に用いたエンドミルは、外径2.0mm、切削刃の有効長さ30mm、刃角度25°、すくい角20°、逃げ角30°、右刃右ねじれ(切削くずの排出方向が上方)であった。このエンドミルを用いて、まず、片持ち状態で表面保護フィルム側(上方)から下方に移動させて下穴(直径2μm)を形成した。次いで、エンドミルを両持ち状態とし、
図9(a)のようにして、エンドミルを下穴の端面に押し当てて切削しながら下穴の端面に沿って一周させた。切削ピッチは10μmであった。本実施例においては、エンドミルを1周させるとともに上方に4mm移動させた。周回後、エンドミルをA
S位置に戻した後、下方に4mm移動させて(つまり、切削しない状態で下方に4mm移動させて)上下方向において元の位置に戻した。次いで、エンドミルをA
SからB
Sに移動させ、上記のエンドミルの次の周回による切削を行った。このようなエンドミルの周回による切削を繰り返し、直径3mmの貫通穴を形成した。周回におけるエンドミルの水平方向の移動速度は250mm/分、回転数は2500rpmであった。得られた貫通穴を有する粘着剤層付偏光板について、上記(1)~(3)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0043】
<実施例2>
エンドミルの周回による切削加工を片持ち状態で行ったこと以外は実施例1と同様にして貫通穴を有する粘着剤層付偏光板を作製した。得られた貫通穴を有する粘着剤層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0044】
<比較例1>
エンドミルの周回による切削加工においてエンドミルを上方に移動させなかったこと(水平方向のみに移動させたこと)以外は実施例1と同様にして貫通穴を有する粘着剤層付偏光板を作製した。得られた貫通穴を有する粘着剤層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0045】
<比較例2>
エンドミルの周回による切削加工においてエンドミルを上方に移動させなかったこと(水平方向のみに移動させたこと)以外は実施例2と同様にして貫通穴を有する粘着剤層付偏光板を作製した。得られた貫通穴を有する粘着剤層付偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0046】
<実施例3>
常法により、視認側から順に表面保護フィルム(58μm)/HC-TAC保護フィルム(32μm)/偏光子(12μm)/TAC保護フィルム(25μm)/接着剤層(1μm)/第1の位相差層(厚み2.5μm)/粘着剤層(5μm)/第2の位相差層(厚み1.5μm)/粘着剤層(20μm)/セパレーター(38μm)の構成を有する粘着剤層付円偏光板を作製した。なお、第1の位相差層および第2の位相差層はいずれも液晶化合物の配向固化層であり、第1の位相差層の面内位相差は240nm、第2の位相差層の面内位相差は120nmであった。さらに、第1の位相差層の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は15°であり、第2の位相差層の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は75°であった。粘着剤層のクリープ値は73μmであった。得られた粘着剤層付偏光板を5.7インチサイズ(縦140mmおよび横65mm程度)に打ち抜き、打ち抜いた偏光板を90枚重ねてワーク(総厚み約18mm)とした。以下、エンドミルの周回における水平方向の移動速度を70mm/分としたこと以外は実施例1と同様にして、貫通穴を有する粘着剤層付円偏光板を作製した。得られた貫通穴を有する粘着剤層付円偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0047】
<実施例4>
エンドミルの周回における水平方向の移動速度を125mm/分としたこと以外は実施例3と同様にして、貫通穴を有する粘着剤層付円偏光板を作製した。得られた貫通穴を有する粘着剤層付円偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0048】
<実施例5>
エンドミルの周回における水平方向の移動速度を250mm/分としたこと以外は実施例3と同様にして、貫通穴を有する粘着剤層付円偏光板を作製した。得られた貫通穴を有する粘着剤層付円偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0049】
<比較例3>
エンドミルの周回による切削加工においてエンドミルを上方に移動させなかったこと(水平方向のみに移動させたこと)、および、エンドミルの周回による切削加工を片持ち状態で行ったこと以外は実施例5と同様にして、貫通穴を有する粘着剤層付円偏光板を作製した。得られた貫通穴を有する粘着剤層付円偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0050】
<比較例4>
エンドミルの周回による切削加工において、
図10に示すようにエンドミルをサインカーブのように上下方向に移動させた。具体的には、エンドミルを1周させる間に上下方向にそれぞれ2mm動かした。このこと以外は比較例3と同様にして、貫通穴を有する粘着剤層付円偏光板を作製した。得られた貫通穴を有する粘着剤層付円偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
<評価>
表1から明らかなように、本発明の実施例によれば、粘着剤層付光学積層体の貫通穴の形成においてエンドミルの周回の際にエンドミルを上方または下方のいずれか一方に移動させることにより、糊欠けならびに表面保護フィルムまたはセパレーターの浮きを顕著に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の製造方法は、貫通穴が必要とされる粘着剤層付光学積層体の製造に好適に用いられ得る。本発明の製造方法により得られる粘着剤層付光学積層体は、自動車のインストゥルメントパネル、スマートウォッチ、カメラ部を有する画像表示装置に代表される貫通穴を有する画像表示部に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0054】
W ワーク
10 光学フィルム
20 粘着剤層
30 セパレーター
40 表面保護フィルム
60 エンドミル
100 粘着剤層付光学積層体