(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】人工知能を用いた非破壊迅速食品プロファイリングのためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20241021BHJP
A23F 3/06 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
G01N21/27 B
A23F3/06 Z
(21)【出願番号】P 2022533366
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 SG2020050708
(87)【国際公開番号】W WO2021112762
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】10201911636P
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】522220072
【氏名又は名称】プロファイルプリント・ピーティーイー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウン・シオン・アラン・ライ
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-527594(JP,A)
【文献】特開2000-111505(JP,A)
【文献】特表2019-510968(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107274065(CN,A)
【文献】“人工知能は人間の舌を攻略できるか? チョコレート開発からレシピ提案まで「AI 味覚」サービスを一挙紹介”, Ledge.ai ,[2024年2月21日検索],2018年12月07日,[online],インターネット<URL:https://ledge.ai/articles/ai-taste-examples>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
G01J 3/00- 4/04
G01J 7/00- 9/04
A23F 3/00- 5/50
G06T 7/00- 7/90
G06N 20/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品の非破壊味覚プロファイリングを行うように構成された携帯型装置であって、
容積サンプリング空間において食品の試料を移動させるように構成されたレセプタクルであって、前記試料は非均質化形態の食品を含む、レセプタクルと、
前記容積サンプリング空間に向けて光を照射するように構成された光源と、
入力ポートと出力ポートとを有する光学デバイスであって、前記入力ポートは、前記容積サンプリング空間における前記試料の少なくとも一部からの反射光を感知するように構成され、前記光学デバイスは、前記出力ポートを通じて反射光
の成分を出力するように構成される、光学デバイスと、
前記出力ポートに結合された検出器であって、前記反射光の前
記成分をキャプチャデータに変換するように構成され、前記キャプチャデータは波長範囲にわたる反射率の測定値のスペクトルによって特徴付けられ、前記スペクトルは、前記波長範囲内で強度が徐々に変化することを含
み、前記スペクトルは、前記波長範囲内で強度が鋭いピークを持たないことによって特徴付けられる、検出器と、
前記検出器に結合された演算装置であって、
前記キャプチャデータを入力として用いて少なくとも1つの第1の機械学習モデルを実行し、前記少なくとも1つの第1の機械学習モデルが、
前記スペクトルの前記波長範囲から選択された少なくとも1つの波長を予測的に決定するステップと、
複数のファセットを予測するステップであって、前記複数のファセットの各々は、前記スペクトルから選択された少なくとも1つの波長に対応する、ステップと、
前記複数のファセットに基づいてシグネチャデータを予測するステップであって、前記シグネチャデータは前記食品の味の特徴であるステップと、
を含むように構成される、演算装置と、
を含む、
携帯型装置。
【請求項2】
前記演算装置が、前記シグネチャデータを入力として用いて、少なくとも1つの第2の機械学習モデルを実行するようにさらに構成されており、前記少なくとも1つの第2の機械学習モデルが、
少なくとも1つの記述子を予測することと、
前記少なくとも1つの記述子を用いて前記食品に特徴的なシグネチャを予測することと、
を含むように構成される、
請求項1に記載の携帯型装置。
【請求項3】
前記シグネチャが独立変数であり、前記少なくとも1つの記述子が従属変数である、
請求項2に記載の携帯型装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第1の機械学習モデルは、教師なし機械学習モデルを含み、前記少なくとも1つの第2の機械学習モデルは、教師あり機械学習モデルを含む、
請求項2に記載の携帯型装置。
【請求項5】
前記レセプタクルは回転可能なように構成され、前記演算装置は、前記レセプタクルの回転を開始してから約5秒以内に前記シグネチャを出力するようにさらに構成される、
請求項2に記載の携帯型装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの第2の機械学習モデルが、前記食品に関連する味を有することを意図したブレンドを予測するように構成され、前記ブレンドが、前記食品の組成とは異なる原料の組成を有する、
請求項2に記載の携帯型装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの第2の機械学習モデルが、前記食品の変種及び/又はカテゴリを予測するように構成される、請求項2に記載の携帯型装置。
【請求項8】
前記シグネチャは、前記試料の栽培品種、原産地、産地のうちのいずれかを含む、請求項2に記載の携帯型装置。
【請求項9】
前記レセプタクルは、前記光源及び/又は前記光学デバイスに対して相対的に移動し、前記容積サンプリング空間を定義するように構成される、請求項1に記載の携帯型装置。
【請求項10】
食品の試料を非破壊味覚プロファイリングする方法であって、
キャプチャデータを演算装置に提供するステップであって、前記キャプチャデータは、波長範囲にわたる反射率の測定値のスペクトルによって特徴付けられ、前記スペクトルは、前記波長範囲内で強度が徐々に変化することを含み、
前記スペクトルは、前記波長範囲内で強度が鋭いピークを持たないことによって特徴付けられ、前記反射率は、容積サンプリング空間内の試料の少なくとも一部から感知され、前記試料は、非均質化食品を含む、ステップと、
前記キャプチャデータに少なくとも1つの第1の機械学習モデルを適用することによって、少なくとも1つのファセットを予測するステップであって、前記少なくとも1つのファセットは、前記波長範囲から予測的に決定された少なくとも1つの選択された波長に対応する、ステップと、
前記試料の特徴であるシグネチャデータを提供するために前記少なくとも1つのファセットを使用するステップであって、前記シグネチャデータは前記食品の味の特徴である、
ステップと、を含む、方法。
【請求項11】
前記シグネチャデータに少なくとも1つの第2の機械学習モデルを適用することであって、前記少なくとも1つの第2の機械学習モデルが、
少なくとも1つの記述子を予測することと、
前記少なくとも1つの記述子を用いて、前記食品のシグネチャを提供することと、をさらに含むように構成される、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記食品に関連する味を有することを意図したブレンドを予測することであって、前記ブレンドが前記食品の組成とは異なる原料の組成を有する、ことをさらに含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の機械学習モデルが、味覚プロファイル予測モジュール、品種予測モジュール、ブレンド構成モジュール、混入物検出モジュール、及び食品等級/品質管理モジュール、並びに栄養分析モジュールを含む群から選択される少なくとも1つである、請求項
11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、人工知能を用いたシステムおよび方法に関し、より具体的には、分子レベルでの非破壊迅速食品分析のための機械学習を用いたシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者や規制当局は、製造業者やサプライヤーからの一貫した信頼性の高い食品を期待している。しかし、そのような製品は農業および農産物の性質のために、品種、土壌、標高、調理方法などの違いにより、固有のばらつきがあるため、そのような一貫性を保つことは困難である。同じ場所で栽培された商品であっても、季節や気候の変化、および土壌の質によって異なる特性を示すことがある。このようなばらつきを補正しようとするために、複数の品種をブレンドすることによって、これらの困難さが複合化されることもある。これまでにも、例えばガスクロマトグラフィー、電位差に基づいて作動する電子舌、質量分析計などを用いて、食品の特性測定の効率の向上を図る試みが、製造業者によってなされてきた。残念ながら、これらのアプローチでは、検査する試料を破壊する必要があり、処理に長いリードタイムがかかる。実際には、食品製造業者やサプライヤーは、目視や触診、製品の試食など、結局は人間の専門家に頼ることになるのが一般的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
一態様によると、食品の非破壊味覚プロファイリングのための携帯型装置およびシステムを提供し、前記システムが、
容積サンプリング空間において試料を移動させるように構成されたレセプタクルであって、試料は非均質化形態の食品を含む、レセプタクルと、
前記容積サンプリング空間に向けて光を照射するように構成された光源と、
入力ポートと出力ポートとを有する光学デバイスであって、前記入力ポートは、前記容積サンプリング空間における前記試料の少なくとも一部からの反射率を感知するように構成され、前記光学デバイスは、前記出力ポートを通じて反射率の成分を出力するように構成される、光学デバイスと、
前記出力ポートに結合された検出器であって、前記反射率の成分をキャプチャデータに変換するように構成され、前記キャプチャデータはオーバートーン・スペクトルによって特徴付けられる、検出器と、
前記検出器に結合された演算装置であって、前記演算装置が、
前記オーバートーン・スペクトルから選択された少なくとも1つの波長に対応する少なくとも1つのファセットを予測するために、前記キャプチャデータに少なくとも1つの第1の機械学習モデルを適用し、
少なくとも1つのファセットの複数に基づいて、前記食品に特徴的なシグネチャデータを提供するように構成された、演算装置と、
を含むシステムである。
【0004】
別の態様によると、
食品の試料を非破壊プロファイリングするためのシステムであって、
試料を容積サンプリング空間と交差するような経路で移動させるように構成されたレセプタクルであって、前記試料は非均質化形態である、レセプタクルと、
前記容積サンプリング空間内の前記試料の少なくとも一部からの反射率を感知するように構成されたセンサであって、前記センサは前記反射率の成分をキャプチャデータとして出力するように構成され、前記キャプチャデータは波長の範囲にわたるオーバートーン・スペクトルによって特徴付けられる、センサと、
前記キャプチャデータに少なくとも1つの第1の機械学習モデルを適用するように構成された演算装置であって、
波長範囲から選択された波長を予測的に決定し、
前記選択された波長に対応する少なくとも1つのファセットを予測し、
前記少なくとも1つのファセットを用いて、シグネチャデータを提供する、演算装置と、
を含むシステムである。
【0005】
上記のいずれのシステムにおいても、演算装置は、少なくとも1つの第2の機械学習モデルをシグネチャデータに適用して、少なくとも1つの記述子を予測し、少なくとも1つの記述子を用いて、茶葉に特徴的なシグネチャを提供するように、さらに構成されてもよい。
【0006】
別の態様によると、食品の試料を非破壊味覚プロファイリングする方法を提供し、前記方法が、
キャプチャデータを演算装置に提供するステップであって、前記キャプチャデータは、波長範囲にわたる反射率の測定値のオーバートーン・スペクトルによって特徴付けられ、前記反射率は、容積サンプリング空間内の試料の少なくとも一部から感知され、前記試料は、非均質化食品を含む、ステップと、
前記キャプチャデータに少なくとも1つの第1の機械学習モデルを適用することによって、少なくとも1つのファセットを予測するステップであって、前記少なくとも1つのファセットは、前記波長範囲から予測的に決定された少なくとも1つの選択された波長に対応する、ステップと、
前記試料の特徴であるシグネチャデータを提供するために前記少なくとも1つのファセットを使用するステップと、
を含む方法である。
【0007】
上記の方法は、
前記シグネチャデータに少なくとも1つの第2の機械学習モデルを適用するステップをさらに含んでもよく、前記少なくとも1つの第2の機械学習モデルが、
少なくとも1つの記述子を予測することと、
少なくとも1つの記述子を用いて、食品のシグネチャを提供することと、を行うように構成される。
この方法は、前記食品に関連する味を有することを意図したブレンドを予測するステップであって、前記ブレンドが前記食品の組成とは異なる成分の組成を有するステップを、さらに含んでもよい。
この方法は、第2の機械学習モデルをシグネチャデータに適用するステップであって、前記第2の機械学習モデルが、味覚プロファイル予測モジュール、品種予測モジュール、ブレンド構成モジュール、混入物検出モジュール、及び食品等級/品質管理モジュール、並びに栄養分析モジュールを含む群から選択される少なくとも1つであるステップを、さらに含んでもよい。
【0008】
本実施形態における、これらの態様および他の態様は、以下の説明および添付図面においてさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係るシステムの概略構成図である。
【
図2A】データ取り込みのための容積サンプリング空間の例を示す図である。
【
図2B】データ取り込みのための容積サンプリング空間の例を示す図である。
【
図3】明瞭なピークが無いように見えるオーバートーン・スペクトルを示している。
【
図4】明瞭なピークを持つスペクトルを表している。
【
図5】一実施形態に係る機械学習システムの概略ブロック図である。
【
図6】一実施形態に係る機械学習方法のフロー図である。
【
図7】他の実施形態に係る機械学習方法を示す図である。
【
図8】
図7の方法を、茶葉のシグネチャの予測に適用したものである。
【
図11】固体状態でない試料のオーバートーン・スペクトルの例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書の図に一般的に説明され図示されたような実施形態の部品は、説明された例示的な実施形態に加えて、多種多様な異なる構成で配置および設計され得ることは、容易に理解されるであろう。したがって、図と共に表される以下の例示的な実施形態のより詳細な説明は、請求された実施形態の範囲を制限することを意図するものではなく、例示的な実施形態を単に代表するものである。
【0011】
本明細書における「1つの実施形態」、「別の実施形態」または「一実施形態」(または同様のもの)への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書中の各所で「1つの実施形態において」または「一実施形態において」等の表現が現れても、必ずしも全てが同じ実施形態を指しているとは限らない。本明細書で使用される場合、単数形の「a」および「an」は、他に明確に示されていない限り、複数形の「1つまたはそれ以上」を含むと解釈されてもよい。
【0012】
さらに、説明した特徴、構造、または特性は、1つまたはそれ以上の実施形態において、任意の適切な方法で組み合わされてもよい。以降の説明では、実施形態を完全に理解するために、多数の具体的な詳細を提供する。関連する技術分野の当業者であれば、様々な実施形態は、1つまたはそれ以上の特定の詳細がなくても、他の方法、構成要素、材料などによって実施されることを認識するであろう。他の実施例では、難読化を避けるために、一部またはすべての既知の構造、材料、または動作について、詳細に例示や説明をしないことがある。
【0013】
分子レベルでの材料分析に機械学習を用いたシステムおよび方法について、茶葉を例として使用し非破壊迅速味覚プロファイリングを図示している
図1を参照して、説明する。本書で使用される「味覚プロファイリング」という用語は、味覚、原産地、産地、栽培品種などの少なくとも1種類の豊富な情報に基づいて食品または食品製品のプロファイルを提供することを意味し、物体の物理的形状の輪郭または線を生成する方法と混同されないようにするものである。
【0014】
システム100は、光(電磁放射)の光源110とセンサ120とが提供される装置102を含む。センサは、一般に可視近赤外(VIS-NIR)光と呼ばれる波長の光を感知するのに適したものであってもよい。あるいは、より広範囲の波長域の光を検知するのに適したセンサであってもよい。あるいは、センサは、選択された光源との使用に適したものであってもよい。光源は、レセプタクル130に向けて光を照射するように構成可能である。光源、レセプタブル、及びセンサは、センサによってピックアップされる外来光を低減するのに適した筐体を有する装置内に配置されてもよい。核磁気共鳴のための典型的なセットアップとは対照的に、
図1のシステムのための筐体は、ある場所から別の場所への携帯性又は移動を容易にするようなサイズ及び構成であってよい。回転可能なレセプタクル、光源、及びセンサは、携帯可能な装置の一部を形成してもよい。したがって、本開示の実施形態は、そう望まれる場合、「現場」での使用に適している。センサは、演算装置140に結合されてもよい。演算装置は、装置102の一部として提供されてもよいし、(図示のように)センサから出力されるデータ/信号を受信するように構成された別個の装置として提供されてもよい。演算装置は、演算装置の一部として提供されるメモリ/ストレージに結合されてもよいし、ネットワーク接続を介して提供されてもよい。
【0015】
レセプタクル130は、テスト用の試料200(テスト試料とも呼ばれる)を受け取る、または支持するように構成されたレセプタクルを順に備えた装置102に配置されてもよい。この例では、レセプタブルは、その円周または側面132の周りに隆起したエッジのない本質的に平らなディスクである。このようなレセプタブルは、レセプタクルの表面134に非流体試料を直接配置するのに適している。同時に、レセプタクル上に試料を配置することは、試料をカップ210内に提供することと、カップをレセプタクル上に配置することを含むことができる。「カップ」という用語は、一般に、試料の保持及び/又は運搬に適した、さまざまな形や大きさになりうる容器を指すために用いられる。試料を保持するためにカップを使用することは、試料が少なくとも部分的に液体である場合、または試料が粉末形態である場合に有効でありうる。試料が乾燥した茶葉の塊である例では、試料をカップを使わずにレセプタブルに直接載せることができる。あるいは、乾燥した茶葉をカップに入れ、カップをレセプタクルの上に置くか、そうでなければレセプタクルによって受容することもできる。
【0016】
図1のシステムは、さらに、レセプタクルが回転軸136を中心に回転可能であるように構成されている。レセプタクルが軸を中心に回転すると、試料は光源及び/又はセンサに対して相対的に変位する。試料と光源及び/又はセンサとの間の相対的な動きにより、光源から来る光に対して試料の異なる面が提供される。光は、試料のさまざまな面に、さまざまな角度で降り注ぐことが期待される。試料から反射され、センサによって感知された光は、試料と光源及び/又はセンサとの間の相対的な移動によって変化することも予想される。カップがレセプタクルの回転軸と実質的に同軸でないオフセット位置にカップを配置することで、ばらつきが増幅される可能性がある。直感に反して、高い再現性を得るためには、光源及び/又はセンサに対して試料を正確に位置決めする必要はない。例えるなら、カップはレセプタクルに対してオフセットして配置されてもよく、オフセットはあるテストと別のテストとで異なる量であってもよい。
図2Aおよび
図2Bは、試料が光源及び/又はセンサに対して相対的に動いている場合、試料への入射光が試料上の経路をたどり、正確に狙ったスポットではなく、ある領域からデータが取得されることを模式的に示している。この場合のデータ取得には、試料の「表面」下にある分子が寄与する反射率も含まれる。つまり、データが取り込まれる領域には、奥行き方向が含まれている。したがって、本開示の実施形態によるデータ取り込み処理は、スポットデータキャプチャまたはラインデータキャプチャと対比して、容積データキャプチャと表現することができる。レセプタブルは、光源及び/又は光学デバイス/センサに対して相対的に移動し、容積的なサンプリング空間を定義するように構成される。光源、レセプタクル、及びセンサは、これらの要素の少なくとも2つの間に相対的な動きがあるとき、試料の少なくとも一部が容積サンプリング空間内に配置されるように適合させることができる。言い換えると、容積サンプリング空間に対して試料を相対的に移動させることができる。
図1のシステムは、容積サンプリング空間300(
図2A、
図2B)からのキャプチャデータを提供する例であり、理解を助けるために記載されており、限定することを意図していない。簡略化のため、入射光及び/又は試料を、以前に通った経路を辿らずに指定された経路を通過させる一連の動作を1回のスキャンと呼ぶ。一例として、レセプタクルが1回転する間に1回のスキャンが完了する。食品のシグネチャを予測するためのキャプチャデータは、わずか1回のスキャンで十分であることが分かっている。ある実施形態では、1回のスキャンをわずか3秒程度で完了させることができる。食品(お茶など)に特徴的なシグネチャ(味覚シグネチャなど)を、レセプタクルの回転開始からおよそ5秒程度でシステムによって出力することが可能である。
【0017】
一例として、
図1に示すように、センサ120は、光学デバイス122と検出器128を含む。光学デバイスは、試料200からの反射光(反射率)を受光し、検出器に光を出力するように構成されている。検出器は、試料によって反射された光を間接的に受光するように構成されている。光学デバイスは、試料によって反射された散乱光、発散光、または拡散光を受け取るように構成されている。光学デバイスは、受光した光をさらに乱反射させるように構成されたデバイスとして説明することができる。光学デバイスは、受光した光を多重乱反射させるように構成されたデバイスとして説明することができる。光学デバイスは、受光した光を増幅するように構成されたデバイスとして説明することができる。光学デバイスは、受光した光の成分を検出器に出力するように構成されている。検出器は、光学デバイスから出力された光を演算装置が受信可能なデータ/電気エネルギーに変換するように構成されている。
【0018】
光学デバイスは、入力ポート124と出力ポート126を有すると説明することができる。入力ポートは、レセプタクル上に配置されたものによって反射された反射光を感知または受光するように、レセプタクル130の方に方向づけられている。光学デバイス、より具体的には入力ポートは、レセプタクル上に配置された試料から反射された反射光を感知または受信するように構成されている。
図1によって概略的に示されるように、システム100は、光が、入力ポート124を介して光学デバイスに反射されて受け取られる前に、光源から試料200(又は試料が配置され得るレセプタブル)に直接経路を移動するのに適した物理的配置で光源110、レセプタクル130及び光学デバイス120を提供するように構成される。光学デバイス120は、入力ポート124を介して受信した光から空間情報を除去し、出力ポート126を介して光の成分を出力するように構成される。光学デバイスは、その出力が空間情報を持たないように、その入力から空間情報を除去するように構成されたデバイスとして説明されてもよい。光学デバイスは、その出力が入力の成分または尺度、言い換えれば、入力の線形成分または大きさであるように、入力から非空間情報を抽出するように構成されたデバイスとして説明されてもよい。光学デバイスは、例えば、積分球、ゴニオフォトメータ、集光球、コブレンツ球または、散乱光、発散光、拡散光を受光し、受光した光の線形成分を出力する類似のデバイスを含んでもよい。考えられる限りでは、光学デバイスは、代替的に、メタサーフェスまたは検出器と統合されたデバイスなどの形態であってもよい。
【0019】
たとえ物品が3次元空間において様々な方向にランダムに配置されている場合であっても、乾燥した茶葉を試料として使用することで、固形状態の非均質化(非均質ともいう)物品を分析する際のシステム及び方法の有用性を説明するのに役立つ。抽出に使用する準備が整った茶葉のような物品の場合、非均質性は課題をもたらす。茶葉はそれぞれに固有の特徴があり、乾燥させると茶葉はさまざまな形や構成になりうるが、多くの場合、ある茶葉と別の茶葉の味を見分けるための目に見える特徴はない。これは、植物部分の外観の非均質性を利用して、植物部分の成長段階を識別する場合とは異なる。例えば、異なる成長段階にある新鮮な植物の部分は、目に見える特徴(芽や葉の有無など)を識別することで認識することができる。従来の目視検査では、識別を容易にするために、植物の新鮮な部分を、関連する部分が隠れないように並べる必要があることを意味している。
【0020】
非均質化試料で得られるデータに特徴的なスペクトルは、オーバートーン・スペクトルと表現することができる。オーバートーン・スペクトルは、明確なピークや鋭いピークがないことが特徴である。オーバートーン・スペクトルは、波長の範囲内で強度(ここでは反射率)が徐々に変化することが特徴である。
図3は、理解を助けるためのオーバートーン・スペクトル360の一例を示す。
図1の実施形態によれば、システムは、試料の複数のポイント(表面)に対して(光源による)照射を行うように構成されている。これは、「ノイズの多い」スペクトルやオーバートーンの大きいスペクトルを生成することが予想され、試料の分子シグネチャの迅速かつ正確な決定だけでなく、再現性のためにも、典型的には望ましくないと考えられている。
【0021】
その結果、FTIR(Fourier Transform Infrared:フーリエ変換赤外線)分光法、質量分析法、NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)などで得られるスペクトルと比較して、一見「ノイズの多い」および「特徴のない」スペクトル、あるいはオーバートーン度の大きいスペクトルになることが予想される。「ノイズ」には、同じ分子組成の試料であっても発生するデータ/信号の揺らぎが含まれることがある。得ることができるオーバートーン・スペクトルは、少なくとも部分的には、試料の物理的態様の非均質化された性質、及び/又は試料によって反射された光の拡散性の結果として、波長上のデータ/信号の分布の変動、および測定された絶対的光強度の変動を含むことがある。オーバートーン・スペクトルからは、ノイズを除去するための単純なフィルターを用いて、試料の分子的なシグネチャを容易に抽出することはできない。
【0022】
そのため、従来のFTIR(Fourier transform Infrared-Red:フーリエ変換赤外線)分光法では、試料を均質化するための前処理が一般的に必要とされている。均質化された試料は、粉末化した後、一定の大きさに濾過し、粉末から標準重量の圧縮ペレットを形成して作られることもある。従来のFTIR分光法(例えば、
図4に示されるような)を用いて得られるスペクトル460は、明瞭または鋭いピーク462を得るように、均質化した試料を使用し、このピークを試料の正確な識別に使用することができる。従来の方法では、均質性や再現性を向上させるための試料の前処理は、通常、不可欠な手順と考えられている。前処理や均質化は、茶を淹れる、茶葉から物質を溶かす、抽出するなどの形態をとりうる。前処理または均質化は、茶葉を粉砕し、同様のサイズおよび形状の粒子を有する粉末を生成する形態をとることができる。均質化の他の例としては、マイクロ波消化、サブボイル、蒸留などを含む。このような前処理または均質化の方法は、残念ながら破壊をもたらすものである。
【0023】
本開示の実施形態に従って説明したシステム及び方法は、茶葉のような非均質化試料であっても、試料の非破壊分析に適していることが分かる。本書で使用する「非破壊」という用語は、試料を「そのまま」分析することを含む。この例では、分析を受けるために、茶葉を粉砕したり、粉末状にしたりする必要がないことを意味する。この例では、「非破壊的」とは、分析を受ける目的で茶葉を使用または抽出して液体を形成する必要がないことを意味すると理解することができる。この例では、茶葉に、分析を受ける目的で基質となる他の物質(試料を汚染する可能性がある)を添加する必要がないことも意味することができる。この例では、「非破壊的」とは、茶葉がレセプタブルによって受容される前に、均質化、抽出などの前処理を受ける必要がないことを意味することもできる。したがって、試料全体の均質性を確保または向上させるための前処理を行う必要がないという意味で、試料は「非均質」または「不均質」と表現することができる。当然のことながら、これらの「非破壊」や「非均質化」の例示は網羅的なものではなく、試料に異なる種類の食品が含まれる場合には異なる場合がある。本書で使用される「食品」という用語は、自然界から直接または間接的に入手可能な食品および飲料、並びに/又は関連製品を含む。茶葉および茶飲料は、食品の一例にすぎない。当然のことながら、このようなシステムおよび方法は、分析前と分析後の試料を同じ形状に維持することが望ましい状況で、特に有用となる可能性がある。用途を限定することではないが、このようなシステムおよび方法は、試料が高価な場合、または分析実施後に将来の販売/消費のために試料を保存する場合に有用である。分析を実施するための前処理を必要としないため、分析に要する総時間を大幅に短縮することが可能である。
【0024】
本システムは、このように、非均質性という課題を克服し、オーバートーン・スペクトルを用いて正確に分析する「スマート」なシステムとして構成されている。また、本システムおよび方法は、同じ試料について、異なる回の分析で同じ結果を再現することが可能である。「同じ結果」という用語は、統計的な意味で理解されることが理解されよう。反復性または再現性は、認証、証明、または検証などの目的に有用でありうる。
【0025】
異なる量の試料が使用される場合にも、本開示の実施形態によって再現性が達成可能であることが分かる。試料、及び/又は試料を構成する物品は、このようにランダムに、つまり、レセプタブルに対して特定の幾何学的または空間的要件なしに配置されることができる。乾燥茶葉は、互いに部分的または完全に、三次元空間のいずれの方向においても、様々な深さ、様々な厚さ及び/又は様々な層の数までオーバーラップすることができる。これは、試料を元の容器から移し替えることが好ましくない場合に有効になりうる。なお、いずれの物品も互いに重なり合ったり、接触したりしないように単層に配置する必要はない。これは、試料を構成する物品を過度に触ることが好ましくない場合に有効になりうる。
【0026】
図1に示すように、センサは、キャプチャデータ/信号(すなわち、検出された波長範囲にわたる試料反射率に基づくキャプチャデータ)を、センサ120に結合された演算装置140に出力するように構成される。演算装置は、演算装置によって実行可能な少なくとも1つの機械学習アルゴリズムを格納するように構成されたメモリに結合されてもよい。
図5の概略ブロック図によって示される方法500を参照すると、データキャプチャ510の出力は、少なくとも1つの第1の機械学習モデル520に供給される。少なくとも1つの第1の機械学習モデルの出力は、少なくとも1つの第2の機械学習モデル530に入力されてもよい。少なくとも1つの第2の機械学習モデル530は、例えば、味覚プロファイル予測モジュール、品種予測モジュール、ブレンド構成モジュール、混入物検出モジュール、及び食品等級/品質管理モジュール、栄養分析モジュールなどの1つ又は複数の人工知能モジュール530’として構成されてもよい。データベース540内の(演算装置によってアクセス可能なメモリ/ストレージ内の)訓練用及び/又は訓練済データは、少なくとも1つの第1の機械学習モデル及び/又は少なくとも1つの第2の機械学習モデルによって適用されてもよい。以下、様々な例について説明する。
【0027】
ここで、食品のシグネチャを予測するための方法600について
図6を参照すると、3次元または容積サンプリング空間300(
図2A、2B)からのキャプチャデータ141(
図1)は、少なくとも1つの第1の機械学習モデル520に提供される。演算装置140は、少なくとも1つの第1の機械学習モデル520を適用して、キャプチャデータ141に基づくシグネチャデータ610を予測するように構成される。キャプチャデータは、1つまたはそれ以上の試料200から取り込まれてもよい。キャプチャデータの一例として、試料の反射率がある。キャプチャデータは、試料の1つ以上のスキャンからキャプチャされてもよい。少なくとも1つの第1の機械学習モデルは、キャプチャデータの正規化522及び次元削減を含んでもよい。次元削減の手法は、主成分分析、ノイズ除去、変数の選択、及び/又は重み付けの適用を含みうる。演算装置は、シグネチャデータの少なくとも1つのファセットを予測するために、複数の第1の機械学習モデルから選択された少なくとも1つの第1の機械学習モデルを適用するように構成されてもよい。演算装置は、シグネチャデータのそれぞれのファセットを予測するために、複数の選択された第1の機械学習モデルを適用するように構成されてもよい。少なくとも1つの第1の機械学習モデルは、教師なし学習アルゴリズムとして説明されてもよい。得られた予測シグネチャデータ610は、システムの出力として提供されてもよく、データベースに格納されてもよく、及び/又は少なくとも1つの第2の機械学習モデル530に供給されてもよい。別の例として、第1の機械学習モデルは、教師あり学習モデル、または部分的教師あり学習モデルとして構成されてもよい。
【0028】
少なくとも1つの第2の機械学習モデル(ここでは人工知能(AI)モジュールとも呼ばれる)530は、教師あり機械学習モデルとして構成されてもよい。AIモジュールは、複数のAIモジュールのうちの1つであってもよく、ロジスティック回帰、ナイーブベイズ、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク、ランダムフォレストなどを適用するように構成されていてもよい。第2の機械学習モデルは、予測されたシグネチャデータ610に基づいて、食品のシグネチャ620を予測するように構成される。
【0029】
演算装置は、演算装置内の、又はクラウドストレージなどのネットワークを介してアクセス可能なメモリ又はストレージデバイスに格納された訓練用/訓練済データを用いて、第1の機械学習モデル及び/又は第2の機械学習モデルを適用するように構成されてもよい。訓練用/訓練済データは、1つ以上の教師あり機械学習モデル及び訓練用/訓練済データを格納するように構成されたデータベースの一部であってもよい。データベースは、食品の味のシグネチャなど、食品の複数のシグネチャを格納してもよい。
【0030】
一実施形態では、
図7に示すように、方法600’は、既知の試料からのキャプチャデータを用いて実行されてもよい。第2の機械学習モデル530は、シグネチャを予測し(710)、予測をデータベースからの既知または学習データと比較する(720)ように構成された教師あり機械学習アルゴリズムであってもよい。訓練フィードバック730は、第2の機械学習モデルを改善するようになされる。
【0031】
図7をさらに参照すると、方法600’は、未知の試料からのキャプチャデータを用いて実行することもできる。第2の機械学習モデル530は、シグネチャ620を予測し(710)、出力するように構成された教師あり機械学習アルゴリズムであってもよい。
【0032】
図8は、本開示の実施形態が、茶に関連する感覚的な経験の予測、より具体的には茶の味に適用される例を示す。いくつかの例では、データベースは、1つまたは複数のトレーニングモデル、味覚シグネチャ、味覚シグネチャデータ、茶の品種、茶の品種の原産地、茶の分類などを含むように構成される。いくつかの例では、データベースは、シグネチャデータの独自の例であるProfilePrint
TMデータを格納するように構成されている。シグネチャデータを用いて予測できるシグネチャの別の種類の例としては、味覚プロファイル、品種、原産地、分類などを含む。
【0033】
乾燥茶葉の試料に基づいてシグネチャ予測を行う例800を、限定を意図することなく、理解を助けるために説明する。例えば、既知の茶の試料のシグネチャデータ610が、対応する紅茶鑑定人の入力とともに得られ、1つまたはそれ以上の第2の機械学習モデル530’を訓練するための入力として機能する。茶葉のシグネチャを予測する例で続けると、例えば紅茶鑑定人から入力(訓練用データ)を集めて、茶のシグネチャ予測モジュールを構築することができる。
【0034】
一例として、第2の機械学習モデルは、シグネチャ予測モジュール530’である。この例では、試料から採取した乾燥茶葉から抽出したお茶を説明するために、シグネチャ予測は、熟練の紅茶鑑定人の語彙を用いる。このようなシステムおよび方法によって、人間の熟練の紅茶鑑定人と同様に、味や風味を予測できることが分かっている。シグネチャの予測は、人間が行う場合には複雑な技術であることが理解できる。その名前とは反対に、「味覚シグネチャ」とは、単に抽出したお茶の風味を舌の味蕾で感じ取ることではなく、同様に、「味覚シグネチャ」を獲得するための手法として「味覚プロファイリング」を行うことである。熟練の紅茶鑑定人は、茶の外観、香り、風味、口当たりなどを考慮するだろう。そのため、特定の茶の試料を特徴付けるシグネチャを特定するためには、複数の記述子を必要とする。例えば、味のシグネチャには、記述子「鮮やか」と記述子「スモーキー」が含まれることがある。世界には少なくとも3,000種類のお茶があると言われている。インドやセイロンの紅茶業界では、「鮮やか」「刺激的」「スモーキー」など、約35種類の記述語を用いて、異なる味のシグネチャを構成している。別の例では、シグネチャは、「酸味」、「苦味」、「渋味」、「甘味」、「コク」、「旨味」、「塩味」、「後味A」、「後味B」などの異なる程度の記述子の組み合わせとすることもできる。同じ農園の同じ植物でも、収穫ごとに異なるシグネチャデータを持つ茶を生産することがある。したがって、単にシグネチャデータを照合するだけでは、一貫して正確な味覚予測は生じず、茶の品種を正しく予測するためには、正確な味覚予測が必要である。
【0035】
第2の機械学習モデルは、ロジスティック回帰、ナイーブベイズ、サポートベクターマシン、人工ニューラルネットワーク、およびランダムフォレストなどのモデルを含みうる。この例では、それぞれの記述子の有無を予測する予測モデルを実装している。各記述子は、別々のバイナリロジスティック回帰モデルによって予測することができる。あるいは、複数の記述子を多変量回帰モデルで予測してもよい。例えば、バイナリロジスティック回帰では、記述子「鮮やか」の有無を予測する、あるモデルを実装することができる。また、記述子「辛味」の有無を予測するために、別のモデルを実装してもよい。別の例では、予測モデルは、各記述子の値を予測するように構成され、その際、値は複数の可能な値のうちの1つである。
【0036】
第2の機械学習モデル530’は、シグネチャが独立変数であり、人間の紅茶鑑定人が定義した味覚特性が従属変数である、訓練用データで訓練された複数の予測モデルを含んでもよい。
図9Aから
図9Cを参照すると、9つのプロット901、902、903、904、905、906、907、908、909は、予測された記述子の例を示している。各記述子の予測には、異なる予測モデルを適用することができる。本実施例における第2の機械学習モデルは、複数の予測モデルを適用して、茶の試料のシグネチャ(記述子の組み合わせ)を予測または到達するように構成されている。
図10に、15種類のお茶の試料の予測シグネチャの例を示す。このシグネチャ予測は、教師あり機械学習モデルにフィードバックされ、将来の予測を向上させることができる。そのため、データベースは、学習データを新しいデータで更新し、その後の予測モデルで使用するように構成されている。
図9A、
図9Bおよび
図9Cは、予測された記述子と実測されたデータとの相関を追加で示したものである。予測モデルに経時的に多くのデータを与えれば与えるほど、予測された記述子と実測されたデータとの相関が向上することが期待される。
【0037】
一般的に知られているお茶の種類は、紅茶、濃茶、ウーロン茶、黄茶、白茶を含む。以下の表1に示すように、乾燥茶葉を用いた4種類のカテゴリの茶について、上記のようなシステムおよび方法を用いて、変種の同定試験を行った。
【0038】
【0039】
茶のそれぞれのカテゴリには、品種や季節、原産地などによる違いを有する300種類以上の変種がありうる。キャプチャデータに機械学習を適用した結果、シグネチャデータは紅茶の場合、分類/区分の精度が40%も向上することが実証された。したがって、味などの感覚的な経験を予測することに加えて、本開示の実施形態は、分類または区分にも有用である。
【0040】
さらに、本開示の実施形態によるシステム及び方法は、茶のカテゴリ内の異なる茶の品種を予測するために必要な解像度のレベルで十分に正確であることが判明している。以下の表2は、セイロンティーを1試料につき100回ブラインドテストを行った結果である。実験では、スリランカの異なる産地の異なる変種(ディンブラ、キャンディ、ルフナ、ウバ)の紅茶(同一カテゴリ)を使用した。それぞれの茶の品種ごとのシグネチャには、さまざまなバリエーションが見られる。例えば、ディンブラ地方では、「フルボディ」から「軽くて繊細」まで、さまざまな味わいのお茶が生産されている。400回に及ぶテストは、すべて茶の品種を正しく予測した。
【0041】
【0042】
【0043】
本開示の実施形態によるシステム及び方法は、茶の品種内の茶の異なる等級を予測するために必要とされるさらに細かい解像度のレベルにおいて十分に正確であることが判明している。以下の表3は、ディンブラ種について、1試料あたり100回のブラインドテストを実施した結果である。等級付けは、従来、人間の専門家や熟練の紅茶鑑定人が行っていた。その結果は、熟練の紅茶鑑定人が同じ試料をどのように評価したかと比較される。人間の専門家が「グレード1」と判定した試料に対してシステムが行った100回のテストのうち、システムは100%のテストで試料が「グレード1」であることを正確に予測した。人間の専門家が「グレード2」と判定した試料に対してシステムが行った100回のテストのうち、システムは85%のテストで試料が「グレード2」であることを正確に予測した。人間の専門家が「グレード3」と判定した試料に対してシステムが行った100回のテストのうち、86%のテストで試料が「グレード3」であることを正確に予測した。
【0044】
したがって、本開示の実施形態は、栽培品種、原産地、産地または味などのより豊かな情報を提供できることを理解することができる。原産地、品種、産地、又は味は、食品又は食品製品の目に見える特性の検査からは得られない、より豊かな情報の例である。原産地、品種、産地、又は味などは、重量や水分含有量などの単純な物理的属性の測定では得られないより豊かな情報の例である。このようなレベルの詳細は、これまで近赤外線(NIR)やその他の顕微分光法では得られなかったものである。特に、本開示以前は、原子吸光分光法や誘導結合プラズマ質量分析法などの微量元素データの助けなしには、このようなレベルの詳細は得られないものであった。原子吸光分光法や誘導結合プラズマ質量分析法は、線発光スペクトルを生成する破壊的な方法であることが理解できるであろう。
【0045】
コーヒー、茶、米、スパイス、ウィスキーなど、市場にある多くの食品は、消費者に一貫した感覚的体験を提供するために、実際にはブレンド物や混合物である。例えば、同じ銘柄で販売されているシャンパンでも、実際にはその年によってさまざまな原料の配合が異なっており、そうでなければ、自然の本質的な独自性によって、バッチごとに製品の味わいが異なってくる。従来のブレンド方法は、人間の専門家である鑑定人がブレンドに使用する素材を選び、各素材のブレンド比率を決定することを伴う。
【0046】
本開示の実施形態は、ブレンド組成を予測する非破壊迅速システム及び方法を提供する。この例では、複数の材料から選択された茶を使用してブレンドを作成することにより、既知の茶の味(対象の味)を再現または模倣することが望まれる。原料は、収穫物、地理的原産地、供給者、バッチ、供給元、品種、及び/又は等級などの点で互いに異なる場合がある。
【0047】
シグネチャのデータベースは、演算装置140によってアクセス可能なストレージ(例えば、ローカルサーバ、クラウドストレージなど)に格納され、演算装置は、本開示の実施形態に従ってブレンド組成を予測するよう構成されている。データベースの一部は、お茶の味を表現する業界標準の語彙記述子を用いて、人間の熟練の紅茶鑑定人が以前に開発したものであってもよい。さらに、データベースの少なくとも一部は、第1の機械学習モデル及び第2の機械学習モデルを含む人工知能ベースのシステムを用いて開発されてもよい。データベースは、複数のシグネチャを含んでもよく、各シグネチャは、複数の記述子の予測された組み合わせであり、各記述子は、予測されたバイナリ変数と関連付けられている。このようなシグネチャのそれぞれは、特定の茶品種やブレンドの味のTasteMapTMと呼ばれることがある。対象シグネチャがシグネチャのデータベースで利用できない場合、上述のシステム及び方法を用いて、対象の味に対するシグネチャを予測し、データベースに格納することができる。ある原料のシグネチャがシグネチャのデータベースで見つからない場合、その成分のシグネチャを予測し、データベースに保存することができる。
【0048】
例えば、
図1のシステムを使用して、第1の原料の少なくとも1つの試料からのキャプチャデータを取得することができる。演算装置は、キャプチャデータを第1の機械学習モデルに入力するように構成され得る。第1の機械学習モデルは、キャプチャデータを正規化するように構成されている。第1の機械学習モデルは、正規化されたキャプチャデータに次元削減を施すように構成される。第1の機械学習モデルは、シグネチャデータの少なくとも1つのファセットを予測するように構成され、少なくとも1つのファセットは、オーバートーン・スペクトルから予測的に選択された少なくとも1つの波長に対応する。一例として、次元削減には主成分分析が含まれ、VIS-NIR波長範囲内の離散波長値を決定する。決定された離散波長値は、他の分光器の測定値と比較すると、特徴が不十分なオーバートーン・スペクトルと言える。第1の機械学習モデルは、決定された離散波長値を用いて、第1の素材のシグネチャデータ(ProfilePrint
TMデータとも呼ばれる)を予測するように構成されている。一例として、シグネチャデータは、茶/食品の味の特徴である。別の例では、シグネチャデータは、茶/食品の組成を特徴付けるものである。
【0049】
言い換えれば、検出器は光の成分を受け取るために出力ポートに結合される。検出器は、光の成分をキャプチャデータに変換するように構成されている。このキャプチャデータは、少なくとも部分的に可視近赤外線波長域のオーバートーン・スペクトルであることが特徴である。演算装置は、検出器に結合され、キャプチャデータを受信する。演算装置は、複数の第1の機械学習モデルをキャプチャデータに適用して複数のシグネチャデータを予測し、複数のシグネチャデータが複数の記述子を予測するために使用される複数の第2の機械学習モデルを適用するように構成され、演算装置は、複数の第1の機械学習モデルを適用するように構成される。複数の記述子は、お茶のシグネチャを形成するために用いることができる。複数の第2の機械学習モデルの各々は、複数の記述子のうちのそれぞれの1つを予測するように構成されてもよい。
【0050】
この処理を繰り返し行うことで、各素材のシグネチャを予測することができる。予測されたシグネチャは、1つ以上の機械学習モデルの学習データの一部を形成するデータベースに保存することができる。したがって、このプロセスは、素材のシグネチャデータ予測を改善するために、時間をかけて繰り返し実行されうる。機械学習モデルは、シグネチャを独立変数として学習させることができる。機械学習モデルは、人間の紅茶鑑定人が定義した記述子(または特性)を従属変数として学習させることができる。使用される記述子は、ユーザが理解できる単語や記号の形式であってもよい。
【0051】
一例として、1つのシグネチャを予測するために、複数の機械学習モデルが提供される。一例として、第2の機械学習モデルは、単一の記述子の存在または不在を予測するように構成される。一例では、第2の機械学習モデルは、シグネチャにおける記述子の存在(例えば、「鮮やか」)又は不在(例えば、「鮮やかでない」)を予測するように構成される。一例として、第2の機械学習モデルは、複数の記述子のそれぞれに対して異なる機械学習モデルを適用するように構成される。
【0052】
【0053】
シグネチャ(例えば、TasteMapTM)は、1つまたはそれ以上のブレンドの予測に使用することができる。表4は、対象ブレンドの代替となり得る少なくとも1つのブレンドを含む表である。2つ目の機械学習モデルは、消費者が「対象ブレンド」と同様の味覚体験を持つと認識する可能性のある3つのブレンド(ブレンドA、ブレンドB、ブレンドC)を予測した。第2の機械学習モデルは、機械学習アルゴリズムを適用して、対象の味覚体験と同様の全体的な味覚体験をもたらし得るブレンドを予測するように構成されている。類似度は、繰り返し学習することで向上し、シグネチャのデータベースが発展するにつれて向上する。第2の機械学習モデルは、選択される1つまたはそれ以上の原料を予測するように構成される。
【0054】
この場合、対象ブレンドは、5つの原料を等しい割合、すなわち、茶1を20%、茶2を20%、茶3を20%、茶4を20%、茶5を20%の割合で混合したものである。まず、対象ブレンドに対してシグネチャ(対象シグネチャ)を予測する。5つの原料(茶1、茶2、茶3、茶4、茶5)は、茶葉のグレードのみが互いに異なる場合がある。5つの原料は、原料の産地や原産地が互いに異なる場合がある。
【0055】
なお、5種類の原料を有することはあくまで理解を助けるための例であり、他の例では5種類以上、あるいは5種類未満の原料であってもよいことが理解されるであろう。例えば、従来、対象ブレンドは5種類の原料のブレンドであったが、予測の結果は、意外にもわずか2種類の原料が使用されて対象ブレンドの対象の味を再現できることを示している。この例では、第2の機械学習モデルは、ブレンドAは61.3%の茶葉3と38.7%の茶葉5を混合(またはブレンド)して構成されていると予測した。
【0056】
第2の機械学習モデルは、複数のブレンドを予測するように構成されてもよい。例えば、同じ機械学習モデルで、茶3が44.9%、茶5が55.1%からなる第2の予測ブレンドBと、第3の予測ブレンドCも予測するように構成されてもよい。予測されたブレンドCは、茶3の36.7%と茶5の63.3%とからなる。したがって、演算装置は、第2の機械学習モデルをシグネチャに適用して、少なくとも2つの原料のブレンドを予測するように構成することができ、ブレンドは、茶に関連する味を有することを意図している。
【0057】
第2の機械学習モデルは、各予測ブレンドと対象ブレンドとの間のパーセンテージ差の数値指標を提供するように構成されてもよい。表4の数値指標によると、予測した3つのブレンドのうち、ブレンドBとブレンドCは、ブレンドAよりも対象ブレンドの味にマッチする可能性が高い。その予測結果を、人間の鑑定士(紅茶鑑定人、熟練の紅茶鑑定人、紅茶産業の上級幹部を含む)が検証したところ、全ての人によって、ブレンドBとブレンドCが対象ブレンドの味と一致することが確認された。このことは、茶1、茶2、茶3のいずれか1つ以上の原料が入手できない場合、食品メーカーが入手可能な原料を使用して、消費者に安定した味を提供するという選択肢を持つことを示唆している。2つ目の機械学習モデルは、例えば、食品メーカーが一般消費者向けの市場セグメント(ブレンドB)と紅茶愛好家向けの別の市場セグメント(ブレンドC)に市場をセグメント化するのに役立つツールにもなる。
【0058】
第2の機械学習モデルは、選択される原料を予測する際に、対象シグネチャに加えて、1つ以上のユーザ定義パラメータを考慮するようにさらに構成されてもよい。ユーザ定義パラメータの例は、ブレンドに使用する選択された原料の量または割合、原料の価格またはコスト関連データを含む。表4では、説明のために原料の相対的なコストを簡単に記号で表している。原料のコストと予測される配合に基づき、配合の切り替えによるコスト削減効果を演算装置で計算することができる。第2の機械学習モデルは、より複雑な意思決定を可能にするために、予測学習の一部として、このようなユーザ定義パラメータを考慮するように構成されてもよい。
【0059】
本開示の実施形態が茶以外の他の食品製品にも適用可能であることを説明するために、食用の鳥の巣の試料を含む例について説明する。4つの試料(EBN A、EBN F、EBN K、EBN B)が提供された。各試料には、塵芥粒子サイズから長さまたは幅が10mmを超えるものまで、さまざまなサイズの固形物が含まれている。各試料を、
図1のシステムを用いて5回ずつスキャンした。連続したスキャンの間に、内容物を静かに撹拌した。(第1の機械学習モデルに入力する前の)キャプチャデータを人間が目視で確認したところ、キャプチャデータは、4つの試料全てにおいて類似しており一貫しているように見えるため、特徴的なパターンを特定することはできなかった。このキャプチャデータを第1の機械学習モデルに与え、各試料のシグネチャデータ(ProfilePrint
TMデータ)を予測した。このシグネチャデータを予測アルゴリズムにかけると、以下の表5のような結果になる。予測されたシグネチャデータに基づき、混入物が肉眼で見えない、あるいはキャプチャデータから見えなくても、本物の食用鳥の巣(EBN A)の純試料を混入物の試料から区別することができる。EBN FおよびEBN Kには、それぞれ物質Xおよび物質Yが混入していた。EBN Bは、物質Xが大量に混入していたことに対応し、異なる予測結果となった。これは表5に反映されており、予測されたシグネチャデータに基づいて、他の試料の品質や品質の指標(純度など)を正しく予測できることが実証されている。
【0060】
【0061】
実験では、システムが、茶葉以外の物質のオーバートーン・スペクトルからシグネチャデータを予測することができることを示した。このことは、本システムが様々な物質、特に食品や食品関連物質のスクリーニングや不純物検出に使用できることも示している。
【0062】
固体状態の試料に加えて、液体状態の試料も、本開示の実施形態に使用するのに適していることが分かっている。
図11は、
図1のシステムの実施形態を使用して得られた牛乳の試料のオーバートーン・スペクトル(またはキャプチャデータ)1000を示す。牛乳の冷蔵試料についてキャプチャされたデータは、点線1110で囲まれた領域に広がっている。また、冷蔵保存していない時間の長さが異なる牛乳の試料について、キャプチャされたデータは、それぞれ破線1120と実線1130で囲まれた領域で示されている。オーバートーン・スペクトルは、明確なピークを持たないことが理解できる。その結果、1つの波長でキャプチャしたデータが反射率値の広範囲にわたっていても、キャプチャデータからシグネチャデータを予測し、予測及び/又は有意義な解析を行うことができることが分かった。この場合、試料の容積(あるいはカップ内のミルクの深さ)が異なれば、すべてのスキャンで一定である必要はないことも実証された。これにより、専門家でないユーザでもデータ取得のプロセスを大幅に簡略化できるため、実験室のリソースが乏しい地域やリソースが法外に高価な地域の、こうした技術の利用可能性を向上させる。牛乳の試料のキャプチャデータから、シグネチャデータを予測する。第1の機械学習モデルは、このようにキャプチャされたシグネチャデータに基づいて学習され、例えば、牛乳の鮮度など、牛乳の品質の非破壊迅速判定を提供することができる。
【0063】
本開示は、例示および説明のために提示されたが、網羅的または限定的であることを意図していない。当業者であれば、多くの修正と変形が明らかであろう。例示的な実施形態は、原理および実際の適用を説明するために、また、当業者が、企図される特定の用途に適するように様々な変更を伴う種々の実施形態についての開示を理解できるように、選択および説明されている。
【0064】
したがって、実例となる例示的な実施形態が添付の図を参照して本明細書に記載されたが、この説明は限定的なものではなく、本開示の範囲を逸脱することなく、当業者によってそこに様々な他の変更および修正がなされ得ることが理解されるだろう。
【符号の説明】
【0065】
141 キャプチャデータ
510 データキャプチャ
520 第1の機械学習モデル
522 正規化
524 シグネチャデータ予測
530 第2の機械学習モデル
540 データベース
610 予測されたシグネチャデータ
620 予測されたシグネチャ