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特許7574333フォトクロミック化合物、フォトクロミック組成物、フォトクロミック物品及び眼鏡
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】フォトクロミック化合物、フォトクロミック組成物、フォトクロミック物品及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/78 20060101AFI20241021BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20241021BHJP
   G02B 5/23 20060101ALI20241021BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
C07D311/78 CSP
G02B1/04
G02B5/23
G02C7/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022579649
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2022004931
(87)【国際公開番号】W WO2022168989
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2021018608
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】川上 宏典
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬
(72)【発明者】
【氏名】松江 葵
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2002/090342(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/042203(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/082849(WO,A1)
【文献】特開2004-210657(JP,A)
【文献】特開2008-039823(JP,A)
【文献】CAS Registry No.532987-53-4,Database REGISTRY [online], Retrieved from: STN International,Entered STN,2003年06月18日,[retrieved on 2002.04.04]
【文献】NITISHA et al,The Journal of Organic Chemistry,2019年08月06日,84,10679-10689
【文献】CAS Registry No.610769-71-6,Database REGISTRY [online], Retrieved from: STN International,Entered STN,2003年10月30日,[Retrieved on 2022/04/05]
【文献】PIETERS, Gregory et al,European Journal of Organic Chemistry,2012年12月06日,2013,490-497
【文献】RAYABARAPU, Dinesh Kumar et al,Organic Letters,2003年11月06日,5(25),4903-4906
【文献】NITISHA et al,Chemical Communications,2021年11月29日,58,431-434
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D、G02B、G02C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式1で表されるフォトクロミック化合物。
【化1】
(一般式1中、R100~R111 は、それぞれ独立に水素原子又は構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表し、X及びXは、それぞれ独立に置換又は無置換のフェニル基を表。)
【請求項2】
下記一般式2で表されるフォトクロミック化合物。
【化2】
(一般式2中、R200~R211 は、それぞれ独立に水素原子又は構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表し、X及びXは、それぞれ独立に置換又は無置換のフェニル基を表。)
【請求項3】
下記一般式3で表されるフォトクロミック化合物。
【化3】
(一般式3中、R300~R311 は、それぞれ独立に水素原子又は構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基を表し、X及びXは、それぞれ独立に置換又は無置換のフェニル基を表。)
【請求項4】
請求項1に記載のフォトクロミック化合物、請求項2に記載のフォトクロミック化合物及び請求項3に記載のフォトクロミック化合物からなる群から選択される1種以上のフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物。
【請求項5】
重合性化合物を更に含む、請求項に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項6】
請求項に記載のフォトクロミック組成物を硬化した硬化物を含むフォトクロミック物品。
【請求項7】
基材と、前記硬化物であるフォトクロミック層とを有する、請求項に記載のフォトクロミック物品。
【請求項8】
眼鏡レンズである、請求項又はに記載のフォトクロミック物品。
【請求項9】
ゴーグル用レンズである、請求項又はに記載のフォトクロミック物品。
【請求項10】
サンバイザーのバイザー部分である、請求項又はに記載のフォトクロミック物品。
【請求項11】
ヘルメットのシールド部材である、請求項又はに記載のフォトクロミック物品。
【請求項12】
請求項に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック化合物、フォトクロミック組成物、フォトクロミック物品及び眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物は、光応答性を有する波長域の光の照射下で着色し(coloring)、非照射下では退色する性質(フォトクロミック性能)を有する化合物である。例えば特許文献1及び特許文献2には、フォトクロミック性を有するナフトピラン系化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2000/15631
【文献】WO1996/14596
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、フォトクロミック化合物を基材に含有させる方法、フォトクロミック化合物を含む層を形成する方法等によって、眼鏡レンズ等の光学物品にフォトクロミック性能を付与することができる。
【0005】
フォトクロミック化合物は、一例として、太陽光等の光の照射を受けて励起状態を経て、着色体に構造変換する。光照射を経て構造変換した後の構造を「着色体」と呼ぶことができる。これに対し、光照射前の構造を「無色体」と呼ぶことができる。なお、無色体について「無色」とは、完全な無色に限定されるものではなく、着色体に対して色が薄い場合が包含される。無色体の状態において380nm付近の短波長可視光の吸収が抑制されたフォトクロミック化合物は、室内等の使用環境において着色(例えば黄色味)が少ない光学物品を提供するうえで好ましい。
【0006】
本発明の一態様は、無色体の状態において短波長可視光の吸収が抑制されたフォトクロミック化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、下記一般式1で表されるフォトクロミック化合物に関する。
【0008】
【化1】
【0009】
一般式1中、R100~R111、X及びXは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、2つ以上の置換基が結合して環構造を形成してもよい。
【0010】
本発明の他の一態様は、下記一般式2で表されるフォトクロミック化合物に関する。
【0011】
【化2】
【0012】
一般式2中、R200~R211、X及びXは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、2つ以上の置換基が結合して環構造を形成してもよい。
【0013】
本発明の他の一態様は、下記一般式3で表されるフォトクロミック化合物に関する。
【0014】
【化3】
【0015】
一般式3中、R300~R311、X及びXは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、2つ以上の置換基が結合して環構造を形成してもよい。
【0016】
一般式1~3の構造は、いずれも無色体の構造である。
【0017】
また、本発明の一態様は、一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物からなる群から選択される1種以上のフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物に関する。
【0018】
また、本発明の一態様は、一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物からなる群から選択される1種以上のフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック物品に関する。
【0019】
一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物は、いずれもトリフェニレン骨格を母骨格に有するピラン系化合物である。本発明者の鋭意検討の結果、これらフォトクロミック化合物は、無色体の状態において短波長可視光の吸収が少ないことが新たに見出された。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、無色体の状態において短波長可視光の吸収が抑制されたフォトクロミック化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】合成された例示化合物1のNMRチャートを示す。
図2】例示化合物1及び比較化合物1の紫外線照射前後の吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明及び本明細書において、「フォトクロミック物品」とは、フォトクロミック化合物を含む物品をいうものとする。本発明の一態様にかかるフォトクロミック物品は、一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物からなる群から選択される1種以上のフォトクロミック化合物を含む。フォトクロミック化合物は、フォトクロミック物品の基材に含まれることができ、及び/又は、基材とフォトクロミック層とを有するフォトクロミック物品においてフォトクロミック層に含まれることができる。「フォトクロミック層」とは、フォトクロミック化合物を含む層である。
【0023】
本発明及び本明細書において、「フォトクロミック組成物」とは、フォトクロミック化合物を含む組成物をいうものとする。本発明の一態様にかかるフォトクロミック組成物は、一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物からなる群から選択される1種以上のフォトクロミック化合物を含み、本発明の一態様にかかるフォトクロミック物品の製造のために使用することができる。
【0024】
[フォトクロミック化合物]
一般式1~3中、R100~R111、R200~R211、R300~R311及びX~Xは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。各一般式において、2つ以上の置換基が結合して環構造を形成してもよい。
【0025】
本発明及び本明細書において、各種置換基、即ち、一般式1~3中のR100~R111、R200~R211、R300~R311及びX~Xのいずれかで表され得る置換基、更に、後述する各基が置換基を有する場合の置換基は、それぞれ独立に、
ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5~18の単環若しくはビシクロ環等の複環の環状脂肪族アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、構成原子数1~24の非芳香族環状置換基、トリフルオロメチル基等の炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基、トリフルオロメトキシ基等の直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルコキシ基、メチルスルフィド基、エチルスルフィド基、ブチルスルフィド基等の構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルキルスルフィド基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオランテニル基、フェナントリル基、ピラニル基、ペリレニル基、スチリル基、フルオレニル基等のアリール基、フェニルオキシ基等のアリールオキシ基、フェニルスルフィド基等のアリールスルフィド基、ピリジル基、フラニル基、チエニル基、ピロリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、ジアゾリル基、トリアゾリル基、キノリニル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、フェナジニル基、チアンスリル基、アクリジニル基等のヘテロアリール基、アミノ基(-NH)、モノメチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基、ジメチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、モノフェニルアミノ基等のモノアリールアミノ基、ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、テトラヒドロキノリノ基、テトラヒドロイソキノリノ基等の環状アミノ基、エチニル基、メルカプト基、シリル基、スルホン酸基、アルキルスルホニル基、ホルミル基、カルボキシ基、シアノ基及びフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子からなる群から選ばれる置換基R;又は、
に更に1つ以上の同一若しくは異なるRが置換した置換基;
であることができる。
【0026】
上記のRに更に1つ以上の同一又は異なるRが置換した置換基の一例としては、アルコキシ基の末端の炭素原子に更にアルコキシ基が置換し、このアルコキシ基の末端の炭素原子に更にアルコキシ基が置換した構造を挙げることができる。また、上記のRに更に1つ以上の同一又は異なるRが置換した置換基の他の一例としては、フェニル基の5つの置換可能位置の中の2つ以上の位置に、同一又は異なるRが置換した構造を挙げることができる。ただし、かかる例に限定されるものではない。
【0027】
本発明及び本明細書において、「炭素数」及び「構成原子数」とは、置換基を有する基については、置換基の炭素数又は原子数も含む数をいうものとする。
【0028】
また、本発明及び本明細書において、各種置換基、即ち、一般式1~3中のR100~R111、R200~R211、R300~R311及びX~Xのいずれかで表され得る置換基、更に、後述する各基が置換基を有する場合の置換基は、それぞれ独立に、可溶化基であることもできる。本発明及び本明細書において、「可溶化基」とは、任意の液体又は特定の液体との相溶性を高めることに寄与し得る置換基を指す。可溶化基としては、炭素数4~50の直鎖、分岐又は環状構造を含むアルキル基、構成原子数4~50の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基、構成原子数4~50の直鎖、分岐又は環状のシリル基、上記の基の一部をケイ素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子等に置き換えたもの、上記の基の2つ以上を組み合わせたもの等の、この置換基を有することが化合物の分子の熱運動を促進することに寄与し得る置換基が好適である。置換基として可溶化基を有する化合物は、溶質分子間の距離が近づくことを阻害することで溶質の固体化を防いだり、溶質の融点及び/又はガラス転移温度を下げることで液体に近い分子集合状態を作ることができる。こうして、可溶性基は、溶質を液体化したり、この置換基を有する化合物の液体への溶解性を高めることができる。一形態では、可溶化基としては、直鎖アルキル基であるn-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、分岐アルキル基であるtert-ブチル基並びに環状アルキル基であるシクロペンチル基及びシクロヘキシル基が好ましい。
【0029】
上記置換基は、好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルスルフィド基、エチルスルフィド基、フェニルスルフィド基、トリフルオロメチル基、フェニル基、ナフチル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、フェナジニル基、アクリジニル基、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリルノ基、チオモルホリノ基シアノ基及び可溶化基からなる群から選ばれる置換基であることができ、より好ましくは、メトキシ基、フェノキシ基、メチルスルフィド基、フェニルスルフィド基、トリフルオロメチル基、フェニル基、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリルノ基、チオモルホリノ基シアノ基及び可溶化基からなる群から選ばれる置換基であることができる。
【0030】
一般式1中のR100~R111、一般式2中のR200~R211、一般式3中のR300~R311で表され得る置換基の具体例としては、後掲の例示化合物に含まれる置換基を挙げることもできる。
【0031】
一般式1中のX及びX、一般式2中のX及びX並びに一般式3中のX及びXは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、置換基を表すことが好ましい。かかる置換基としては、置換若しくは無置換のフェニル基、置換若しくは無置換のナフチル基、置換若しくは無置換のフルオレニル基、置換若しくは無置換のベンゾフルオレニル基、置換若しくは無置換のフルオランテニル基、置換若しくは無置換のジベンゾフラニル基又は置換若しくは無置換のジベンゾチオフェニル基を表すことが好ましい。B及びBは、それぞれ独立に無置換フェニル基又は置換フェニル基を表すことがより好ましい。置換フェニル基は、例えば、メトキシ基、メチルスルフィド基、アミノ基、ジメチルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、フェニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメチル基、シアノ基及び後掲の例示化合物に含まれる置換基からなる群から選択される1つ以上の置換基を含むことができる。また、フェニル基が置換基を複数有する場合、これら置換基の2つ以上が結合して環を形成してもよい。形成される環の具体例としては、後掲の例示化合物に含まれる環を挙げることができる。一形態では、置換フェニル基が有する置換基の数は1つ又は2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。置換フェニル基における置換基の置換位置は、一般式1中のXとXとが結合する炭素原子に対して、一般式2中のXとXとが結合する炭素原子に対して、一般式3中のXとXとが結合する炭素原子に対して、オルト位、メタ位又はパラ位となる位置であることができ、パラ位及び/又はメタ位であることが好ましく、パラ位であることがより好ましい。
【0032】
一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物は、いずれもフォトクロミック物品の作製のために使用することができる。これら化合物の具体例としては、下記の化合物を例示できる。ただし、本発明は下記の例示化合物に限定されるものではない。
【0033】
【化4】
【0034】
【化5】
【0035】
【化6】
【0036】
【化7】
【0037】
【化8】
【0038】
【化9】
【0039】
【化10】
【0040】
【化11】
【0041】
【化12】
【0042】
一般式1で表されるフォトクロミック化合物は、公知の方法で合成することができる。合成方法については、例えば以下の文献を参照できる。特許第4884578号明細書、US2006/0226402A1、US2006/0228557A1、US2008/0103301A1、US2011/0108781A1、US2011/0108781A1、米国特許第7527754号明細書、米国特許第7556751号明細書、WO2001/60811A1、WO2013/086248A1、WO1996/014596A1、WO2001/019813A1、WO1995/16215A1、米国特許第5656206号明細書及びWO2011/016582A1。
【0043】
[フォトクロミック組成物、フォトクロミック物品]
本発明の一態様は、一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物からなる群から選択される1種以上のフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物に関する。
また、本発明の一態様は、一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物からなる群から選択される1種以上のフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック物品に関する。
【0044】
上記フォトクロミック組成物及び上記フォトクロミック物品は、一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物からなる群から選択されるフォトクロミック化合物を1種のみ含むことができ、又は2種以上(例えば2種以上4種以下)含むことができる。上記フォトクロミック物品及び上記フォトクロミック組成物は、それらの全量を100質量%として、一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物からなる群から選択されるフォトクロミック化合物(複数種含む場合にはそれらの合計)を、例えば0.1~15.0質量%程度含むことができる。ただし、上記範囲に限定されるものではない。
【0045】
上記フォトクロミック物品は、少なくとも基材を有することができる。一形態では、上記フォトクロミック化合物は、上記フォトクロミック物品の基材に含まれることができる。上記フォトクロミック物品は、基材とフォトクロミック層とを有することができ、基材及び/又はフォトクロミック層に、一般式1で表されるフォトクロミック化合物の1種以上を含むことができる。上記フォトクロミック化合物は、基材及びフォトクロミック層において、一形態では基材のみに含まれることができ、他の一形態ではフォトクロミック層のみに含まれることができ、また他の一形態では基材とフォトクロミック層とに含まれることができる。また、基材及びフォトクロミック層は、フォトクロミック化合物として、上記フォトクロミック化合物のみを含むことができ、又は1種以上の他のフォトクロミック化合物を含むこともできる。他のフォトクロミック化合物としては、アゾベンゼン類、スピロピラン類、スピロオキサジン類、ナフトピラン類、インデノナフトピラン類、フェナントロピラン類、ヘキサアリルビスイミダゾール類、ドナー-アクセプターステンハウス付加物(DASA)類、サリシリデンアニリン類、ジヒドロピレン類、アントラセンダイマー類、フルギド類、ジアリールエテン類、フェノキシナフタセンキノン類、スチルベン類等を挙げることができる。
【0046】
<基材>
上記フォトクロミック物品は、フォトクロミック物品の種類に応じて選択された基材を含むことができる。基材の一例として、眼鏡レンズ基材としては、プラスチックレンズ基材又はガラスレンズ基材が挙げられる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコール等のヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.50~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。ここで屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0047】
例えば、上記フォトクロミック組成物は、重合性組成物であることができる。本発明及び本明細書において、「重合性組成物」とは、1種以上の重合性化合物を含む組成物である。一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物からなる群から選択される1種以上のフォトクロミック化合物と、重合性化合物の1種以上と、を少なくとも含む重合性組成物を公知の成形方法によって成形することにより、かかる重合性組成物の硬化物を作製することができる。かかる硬化物は、上記フォトクロミック物品に基材として含まれることができ、及び/又は、フォトクロミック層として含まれることができる。硬化処理は、光照射及び/又は加熱処理であることができる。重合性化合物とは、重合性基を有する化合物であり、重合性化合物の重合反応が進行することによって重合性組成物が硬化し硬化物が形成され得る。重合性組成物は、1種以上の添加剤(例えば重合開始剤等)を更に含むことができる。
【0048】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材及び眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、これに限定されるものではない。フォトクロミック層は、通常、レンズ基材の物体側表面上に設けることができるが、眼球側表面上に設けてもよい。
【0049】
<フォトクロミック層>
フォトクロミック層は、基材の表面上に直接又は一層以上の他の層を介して間接的に設けられた層であることができる。フォトクロミック層は、例えば、重合性組成物を硬化した硬化層であることができる。一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物からなる群から選択される1種以上のフォトクロミック化合物と、重合性化合物の1種以上と、を少なくとも含む重合性組成物を硬化した硬化層として、フォトクロミック層を形成することができる。例えば、かかる重合性組成物を基材の表面上に直接塗布するか、又は基材上に設けられた層の表面に塗布し、塗布された重合性組成物に硬化処理を施すことによって、一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物からなる群から選択される1種以上のフォトクロミック化合物を含む硬化層として、フォトクロミック層を形成することができる。塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ノズルコート法、スリットコート法等の公知の塗布方法を採用することができる。硬化処理は、光照射及び/又は加熱処理であることができる。重合性組成物は、1種以上の重合性化合物に加えて、1種以上の添加剤(例えば重合開始剤等)を更に含むことができる。重合性化合物の重合反応が進行することによって重合性組成物が硬化し硬化層が形成され得る。
【0050】
フォトクロミック層の厚さは、例えば5μm以上、10μm以上若しくは20μm以上であることができ、また、例えば80μm以下、70μm以下若しくは50μm以下であることができる。
【0051】
<重合性化合物>
本発明及び本明細書において、重合性化合物とは、1分子中に1つ以上の重合性基を有する化合物をいい、「重合性基」とは、重合反応し得る反応性基をいうものとする。重合性基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、ビニルエーテル基、エポキシ基、チオール基、オキセタン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基等を挙げることができる。
【0052】
上記基材及び上記フォトクロミック層の形成のために使用可能な重合性化合物としては、以下の化合物を例示できる。
【0053】
(エピスルフィド系化合物)
エピスルフィド系化合物は、1分子内に2個以上のエピスルフィド基を有する化合物である。エピスルフィド基は、開環重合し得る重合性基である。エピスルフィド系化合物の具体例としては、ビス(1,2-エピチオエチル)スルフィド、ビス(1,2-エピチオエチル)ジスルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピル)スルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)メタン、ビス(2,3-エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)メタン、ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)エタン、ビス(6,7-エピチオ-3,4-ジチアヘプチル)スルフィド、ビス(6,7-エピチオ-3,4-ジチアヘプチル)ジスルフィド、1,4-ジチアン-2,5-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)ベンゼン、1,6-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)-2-(2,3-エピチオプロピルジチオエチルチオ)-4-チアヘキサン、1,2,3-トリス(2,3-エピチオプロピルジチオ)プロパン、1,1,1,1-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)メタン、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)-2-チアプロパン、1,4-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)-2,3-ジチアブタン、1,1,1-トリス(2,3-エピチオプロピルジチオ)メタン、1,1,1-トリス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)メタン、1,1,2,2-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオ)エタン、1,1,2,2-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)エタン、1,1,3,3-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオ)プロパン、1,1,3,3-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)プロパン、2-[1,1-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)メチル]-1,3-ジチエタン、2-[1,1-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)メチル]-1,3-ジチエタン等を挙げることができる。
【0054】
(チエタニル系化合物)
チエタニル系化合物は、1分子内に2個以上のチエタニル基を有するチエタン化合物である。チエタニル基は、開環重合し得る重合性基である。チエタニル系化合物の中には、複数のチエタニル基と共にエピスルフィド基を有するものがある。かかる化合物は、上記のエピスルフィド系化合物の例に挙げられている。その他のチエタニル系化合物には、分子内に金属原子を有している含金属チエタン化合物と、金属を含んでいない非金属系チエタン化合物とがある。
【0055】
非金属系チエタン化合物の具体例としては、ビス(3-チエタニル)ジスルフィド、ビス(3-チエタニル)スルフィド、ビス(3-チエタニル)トリスルフィド、ビス(3-チエタニル)テトラスルフィド、1,4-ビス(3-チエタニル)-1,3,4-トリチアブタン、1,5-ビス(3-チエタニル)-1,2,4,5-テトラチアペンタン、1,6-ビス(3-チエタニル)-1,3,4,6-テトラチアヘキサン、1,6-ビス(3-チエタニル)-1,3,5,6-テトラチアヘキサン、1,7-ビス(3-チエタニル)-1,2,4,5,7-ペンタチアヘプタン、1,7-ビス(3-チエタニルチオ)-1,2,4,6,7-ペンタチアヘプタン、1,1-ビス(3-チエタニルチオ)メタン、1,2-ビス(3-チエタニルチオ)エタン、1,2,3-トリス(3-チエタニルチオ)プロパン、1,8-ビス(3-チエタニルチオ)-4-(3-チエタニルチオメチル)-3,6-ジチアオクタン、1,11-ビス(3-チエタニルチオ)-4,8-ビス(3-チエタニルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、1,11-ビス(3-チエタニルチオ)-4,7-ビス(3-チエタニルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、1,11-ビス(3-チエタニルチオ)-5,7-ビス(3-チエタニルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、2,5-ビス(3-チエタニルチオメチル)-1,4-ジチアン、2,5-ビス[[2-(3-チエタニルチオ)エチル]チオメチル]-1,4-ジチアン、2,5-ビス(3-チエタニルチオメチル)-2,5-ジメチル-1,4-ジチアン、ビスチエタニルスルフィド、ビス(チエタニルチオ)メタン、3-[<(チエタニルチオ)メチルチオ>メチルチオ]チエタン、ビスチエタニルジスルフィド、ビスチエタニルトリスルフィド、ビスチエタニルテトラスルフィド、ビスチエタニルペンタスルフィド、1,4-ビス(3-チエタニルジチオ)-2,3-ジチアブタン、1,1,1-トリス(3-チエタニルジチオ)メタン、1,1,1-トリス(3-チエタニルジチオメチルチオ)メタン、1,1,2,2-テトラキス(3-チエタニルジチオ)エタン、1,1,2,2-テトラキス(3-チエタニルジチオメチルチオ)エタン等を挙げることができる。
【0056】
含金属チエタン化合物としては、分子内に、金属原子として、Sn原子、Si原子、Ge原子、Pb原子等の14族の原子、Zr原子、Ti原子等の4族の元素、Al原子等の13族の原子、Zn原子等の12族の原子等を含むものが挙げられる。具体例としては、アルキルチオ(チエタニルチオ)スズ、ビス(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、アルキルチオ(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(チエタニルチオ)環状ジチオスズ化合物、アルキル(チエタニルチオ)スズ化合物等が挙げられる。
【0057】
アルキルチオ(チエタニルチオ)スズの具体例としては、メチルチオトリス(チエタニルチオ)スズ、エチルチオトリス(チエタニルチオ)スズ、プロピルチオトリス(チエタニルチオ)スズ、イソプロピルチオトリス(チエタニルチオ)スズ等を例示できる。
【0058】
ビス(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズの具体例としては、ビス(メチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(エチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(イソプロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ等を例示できる。
【0059】
アルキルチオ(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズの具体例としては、エチルチオ(メチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、メチルチオ(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、イソプロピルチオ(メチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、エチルチオ(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、エチルチオ(イソプロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、イソプロピルチオ(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ等を例示できる。
【0060】
ビス(チエタニルチオ)環状ジチオスズ化合物の具体例としては、ビス(チエタニルチオ)ジチアスタンネタン、ビス(チエタニルチオ)ジチアスタンノラン、ビス(チエタニルチオ)ジチアスタンニナン、ビス(チエタニルチオ)トリチアスタンノカン等を例示できる。
【0061】
アルキル(チエタニルチオ)スズ化合物の具体例としては、メチルトリス(チエタニルチオ)スズ、ジメチルビス(チエタニルチオ)スズ、ブチルトリス(チエタニルチオ)スズ、テトラキス(チエタニルチオ)スズ、テトラキス(チエタニルチオ)ゲルマニウム、トリス(チエタニルチオ)ビスマス等を例示できる。
【0062】
(ポリアミン化合物)
ポリアミン化合物は、一分子中にNH基を2つ以上有する化合物であり、ポリイソシアネートとの反応でウレア結合を形成することができ、ポリイソチオシアネートとの反応でチオウレア結合を形成することができる。ポリアミン化合物の具体例としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、プトレシン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノ-ル、ジエチレントリアミン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、メラミン、1,3,5-ベンゼントリアミン等が挙げられる。
【0063】
(エポキシ系化合物)
エポキシ系化合物は、分子内にエポキシ基を有する化合物である。エポキシ基は、開環重合し得る重合性基である。エポキシ系化合物は、一般に、脂肪族エポキシ化合物、脂環族エポキシ化合物及び芳香族エポキシ化合物に分類される。
【0064】
脂肪族エポキシ化合物の具体例としては、エチレンオキシド、2-エチルオキシラン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、2,2’-メチレンビスオキシラン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ノナエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ノナプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0065】
脂環族エポキシ化合物の具体例としては、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス-2,2-ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0066】
芳香族エポキシ化合物の具体例としては、レゾールシンジグリシジルエーテル、ビスフェノ-ルAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0067】
また、上記以外にも、エポキシ基と共に、分子内に硫黄原子を有するエポキシ系化合物も使用することができる。このような含硫黄原子エポキシ系化合物には、鎖状脂肪族系のものと環状脂肪族系のものとがある。
【0068】
鎖状脂肪族系含硫黄原子エポキシ系化合物の具体例としては、ビス(2,3-エポキシプロピル)スルフィド、ビス(2,3-エポキシプロピル)ジスルフィド、ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)メタン、1,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)エタン、1,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)プロパン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)プロパン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルプロパン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ブタン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルブタン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ブタン、1,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ペンタン、1,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルペンタン、1,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-3-チアペンタン、1,6-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ヘキサン、1,6-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルヘキサン、3,8-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-3,6-ジチアオクタン、1,2,3-トリス(2,3-エポキシプロピルチオ)プロパン、2,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)プロパン、2,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)-1-(2,3-エポキシプロピルチオ)ブタン等が挙げられる。
【0069】
環状脂肪族系含硫黄原子エポキシ系化合物の具体例としては、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)シクロヘキサン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)シクロヘキサン、2,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)-1,4-ジチアン、2,5-ビス[<2-(2,3-エポキシプロピルチオ)エチル>チオメチル]-1,4-ジチアン、2,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)-2,5-ジメチル-1,4-ジチアン等が挙げられる。
【0070】
(ラジカル重合性基を有する化合物)
ラジカル重合性基を有する化合物は、ラジカル重合し得る重合性基である。ラジカル重合性基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基等が挙げられる。
【0071】
以下において、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選ばれる重合性基を有する化合物を、「(メタ)アクリレート化合物」と呼ぶ。(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレ-ト、テトラエチレングリコ-ルジ(メタ)アクリレ-ト、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールビスグリシジル(メタ)アクリレ-ト、ビスフェノ-ルAジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、ビスフェノ-ルFジ(メタ)アクリレート、1,1-ビス(4-(メタ)アクロキシエトキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-(メタ)アクロキシジエトキシフェニル)メタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリト-ルテトラ(メタ)アクリレート、メチルチオ(メタ)アクリレート、フェニルチオ(メタ)アクリレート、ベンジルチオ(メタ)アクリレート、キシリレンジチオールジ(メタ)アクリレート、メルカプトエチルスルフィドジ(メタ)アクリレート、2官能ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0072】
アリル基を有する化合物(アリル化合物)の具体例としては、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレ-ト、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカ-ボネート、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、ブトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、メタクリロイルオキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールアリルエーテル、メタクリロイルオキシポリエチレングリコールアリルエーテル等が挙げられる。
【0073】
ビニル基を有する化合物(ビニル化合物)としては、α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー、スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ジビニルベンゼン、3,9-ジビニルスピロビ(m-ジオキサン)等が挙げられる。
【0074】
上記フォトクロミック物品は、フォトクロミック物品の耐久性向上のための保護層、反射防止層、撥水性又は親水性の防汚層、防曇層、層間の密着性向上のためのプライマー層等のフォトクロミック物品の機能性層として公知の層の1層以上を任意の位置に含むことができる。
【0075】
上記フォトクロミック物品は、光学物品であることができる。光学物品の一形態は、眼鏡レンズである。かかる眼鏡レンズは、フォトクロミックレンズ又はフォトクロミック眼鏡レンズとも呼ぶことができる。また、光学物品の一形態としては、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることもできる。これら光学物品用の基材上に重合性組成物である上記フォトクロミック組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成することによって、防眩機能を有する光学物品を得ることができる。
【0076】
[眼鏡]
本発明の一態様は、上記フォトクロミック物品の一形態である眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡は、かかる眼鏡レンズを備えることにより、例えば屋外ではフォトクロミック化合物が太陽光の照射を受けて着色することでサングラスのように防眩効果を発揮することができ、屋内に戻るとフォトクロミック化合物が退色することで透過性を回復することができる。上記眼鏡について、フレーム等の構成については、公知技術を適用することができる。
【実施例
【0077】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0078】
[例示化合物1の合成]
【化13】
【0079】
アルゴン雰囲気下、4-クロロベンゾイルクロリド(35.6g,200mmol)のジクロロメタン溶液(400ml)を氷冷し、塩化アルミニウム(27.1g,200mmol)を添加した。続いてアニソール(20.0g,190mmol)のジクロロメタン溶液(140ml)を15分かけて滴下し、室温で2時間撹拌した。反応液を1N塩酸(200ml)、氷の中に注ぎ入れ撹拌し、分液した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過、濃縮することにより無色固体として化合物1(47.9g)を得た。
【0080】
【化14】
【0081】
アルゴン雰囲気下、化合物1(20.0g,81.0mmol)、Pddba・CHCl(0.84g,0.81mmol)、XPhos(1.16g,2.43mmol)、tertブトキシナトリウム(10.9g,114mmol)、モルフォリン(10.6g,122mmol)のトルエン溶液(81ml)を外温105℃で2時間撹拌した。冷却後、セライトろ過し、不要物をクロロホルム(200ml)で洗浄した。ろ液を濃縮することにより薄い黄色固体として化合物2(27.1g)を得た。
【0082】
【化15】
【0083】
アルゴン雰囲気下、化合物2(25.0g,84.0mmol)のテトラヒドロフラン溶液(420ml)を氷冷し、臭化エチニルマグネシウム(250ml,0.5M,126mmol)を20分かけて滴下した。外温65℃で2時間撹拌した。反応液を冷却後、飽和塩化ナトリウム水溶液(300ml)でクエンチし、酢酸エチル(200ml×2回)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過、濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO:400g,ヘプタン/酢酸エチル=98/2~95/5)で精製することにより薄い黄色固体として化合物3(11.2g)を得た。
【0084】
【化16】
【0085】
アルゴン雰囲気下、化合物4(5.00g,17.9mmol)、化合物5(4.54g,19.6mol)、炭酸カリウム(7.40g,53.6mmol)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.63g,0.89mmol)のDMSO溶液(90mL)を140℃で23時間撹拌した。冷却後、水(200mL)を加え、酢酸エチル/ヘプタン(80mL/40mLx2)で抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過、濃縮をした。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO:100g、ヘプタン/酢酸エチル=98/2~95/5)にて精製し、化合物6(3.8g)を得た。
【0086】
【化17】
【0087】
アルゴン雰囲気下、化合物6(2.68g,11.6mol)のTHF溶液(50mL)を外温-78℃で冷却し、TMEDA(2.63mL,17.4mmol)、n-ブチルリチウム(1.59M,11.0mL,17.4mmol)を加えた。1時間かけて外温0℃まで昇温し、そのまま2時間撹拌した。ホウ酸トリメチル(2.30mL,20.3mmol)を添加し、室温で4時間撹拌した。氷冷下、酢酸(1.33mL,23.2mmol)、過酸化水素水(30%,2.40mL,27.2mmol)を加え、室温で終夜撹拌した。塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチル(50mLx2)で抽出し、有機層をチオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過、濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO:400g,ヘプタン/酢酸エチル=95/5~90/10)で精製し、化合物7(1.65g)を得た。
【0088】
【化18】
【0089】
アルゴン雰囲気下、化合物7(0.80g,2.92mol)、化合物3(1.60g,4.37mmol)のトルエン懸濁液(35mL)にp-トルエンスルホン酸1水和物(0.11g,0.58mmol)を加え、外温120℃で2時間撹拌した。冷却後、セライトでろ過し、酢酸エチルで洗浄、濃縮した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2:400g、ヘプタン/酢酸エチル=95/5~60/40)にて精製した。得られた固体に、ジイソプロピルエーテル(50mL)を用いて懸濁洗浄を実施することにより、例示化合物1を得た。
【0090】
得られた生成物の分析を、以下の方法によって行った。
【0091】
(1)純度分析
高速液体クロマトグラフ(HPLC)の面積比から純度を算出した。HPLC装置には島津製作所製LC-2040C(YMC-Triart C18 100x2.1mm、カラム温度40℃、PDA検出器)を用いた。移動相はアセトニトリル/0.1% TFA HO=5/95-95/5(7min)、95/5(3min)の条件とし、流速は0.4ml/minとした。
【0092】
(2)構造同定
質量分析にはLC-MS法を用いた。LC-MS装置には日本ウォーターズ製ACQUITY UPLC H-Classシステム(液体クロマトグラフ部)、SQD2(質量分析部)、ACQUITY UPLC BEH C18 φ2.1×50mm(カラム部)を用いた。質量分析の結果、表1に示す精密質量の計算値に対し、表1に示す実測値であった。
元素分析にはCHN元素分析を用いた。CHN元素分析装置にはパーキンエルマー製Series II 2400を用いた。表1に示す計算値に対し、実測値は表1に示す値であった。
プロトン核磁気共鳴(H-NMR)には、日本電子製ECS-400を用いた。測定溶媒には重クロロホルムを用いた。図1に、得られたNMRチャートを示す。
以上の分析結果より総合的に目的化合物が生成していることを確認した。
【0093】
[例示化合物2~5の合成]
同様の合成方法を用い、化合物7及び化合物3(合成中間体)を表1に示す化合物に変更した以外は同等の操作を行うことで、例示化合物2~5を得た。それぞれの分子構造と得られた化合物の分析結果を表1に示す。
【0094】
[比較化合物1の合成]
合成方法について先に挙げた文献に記載の方法にしたがい比較化合物1を合成した。得られた比較例化合物1の分析結果を表1に示す。
【0095】
[評価方法]
<紫外線照射前後の吸収特性の評価>
実施例及び比較例の各化合物を、安定剤を含有しないクロロホルムに溶解し、化合物のクロロホルム溶液を調製した。
調製した溶液を入れた1cm角の石英分光セルに蓋をし、紫外可視分光光度計(島津製作所製UV-1900i、測定波長:800~250nm、波長2nm刻み、高速モード)により吸光度を計測した。吸光度の計測は室温(20~25℃)で行った。更に、この溶液を分光光度計から一旦取り出し、紫外線光源として浜松ホトニクス製UV-LED(LIGHTNINGCURE LC-L1V5及びL14310-120を組み合わせたもの、出力70%)を用いて紫外線を15秒間照射した。紫外線照射中は小型スターラーで溶液を撹拌した。紫外線照射終了から10秒以内に紫外可視分光光度計に再度セットし、同様の条件で分光測定を行い、第一吸収波長を確認した。
紫外線照射前の波長380nmにおけるモル吸光係数ε(M-1cm-1)を読み取った。この領域は無着色体の吸収のすそ野に相当する領域であり、380nmのモル吸光係数を無着色体の着色の指標とすることができる。εが5000M-1cm-1を下回ると着色感が薄れるため好ましく、3000M-1cm-1を下回ることがより好ましい。読み取った380nmにおけるモル吸光係数の値を表1に示す。
紫外線照射後には着色体が形成されるため、可視光域(380nm~800nm)に新たな吸収ピークが現れる。可視域に現れた吸収ピークのうち、最も長波長に観察される吸収強度のピークの波長を読み取り、「第一吸収波長」として表1に示す。
一例として、例示化合物1及び比較化合物1について、紫外線照射前後の吸収スペクトルを図2に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
例示化合物1~5について、紫外線照射後に可視光域に新たな吸収ピークが現れたことから、これら化合物がフォトクロミック性能を示す化合物であることが確認できる。このようにフォトクロミック性能を示す化合物は、眼鏡レンズ等の各種フォトクロミック物品の作製のために使用することができる。
また、表1に示す結果から、例示化合物1~5が、トリフェニレン骨格を持たない比較例化合物1と比べて、無着色体の短波長可視光の吸収が少ないことが確認できる。
【0098】
[眼鏡レンズの作製及び評価]
<フォトクロミック組成物(重合性組成物)の調製>
プラスチック製容器内で、(メタ)アクリレートの合計100質量部に対して、68質量部のポリエチレングリコールジアクリレート、12質量部のトリメチロールプロパントリメタクリレート、20質量部のネオペンチルグリコールジメタクリレートを混合し、(メタ)アクリレート混合物を調製した。この(メタ)アクリレート混合物100質量部に対して、7質量部となるように例示化合物1を混合した。更に、光重合開始剤(フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド)、酸化防止剤[ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸)][エチレンビス(オキシエチレン)]及び光安定化剤(セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル))を混合し、十分に撹拌した後、シランカップリング剤(γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を撹拌しながら滴下した。その後、自動公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。
以上の方法により、フォトクロミック組成物を調製した。
【0099】
<プライマー層の成膜>
プラスチックレンズ基材(HOYA社製商品名EYAS:中心厚2.5mm、直径75mm、球面レンズ度数-4.00)を濃度10質量%の水酸化ナトリウム水溶液(液温60℃)に5分間浸漬処理することでアルカリ洗浄し、更に純水で洗浄し乾燥させた。その後、このプラスチックレンズ基材の凸面に対して、水系ポリウレタン樹脂液(ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョン、粘度100cPs、固形分濃度38質量%)を室温且つ相対湿度40~60%の環境において、ミカサ社製スピンコーターMS-B150を用い、回転数1500rpmで1分間スピンコート法により塗布した後、15分間自然乾燥させることにより、厚さ5.5μmのプライマー層を形成した。
【0100】
<フォトクロミック層の成膜>
上記で調製したフォトクロミック組成物を、上記プライマー層の上に滴下し、ミカサ社製MS-B150を用い、回転数500rpmから1500rpmまで1分間かけてスロープモードで回転数を変化させ、更に1500rpmで5秒間回転させるプログラムを用いたスピンコート法により塗布した。その後、プラスチックレンズ基材上に形成されたプライマー層上に塗布された上記フォトクロミック組成物に対し、窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(主波長405nm)を40秒間照射し、この組成物を硬化させてフォトクロミック層を形成した。形成されたフォトクロミック層の厚さは45μmであった。
こうして、フォトクロミック物品(眼鏡レンズ)を作製した。
【0101】
<着色濃度の評価>
JIS T7333:2005に準じた以下の方法によって視感反射率を求めた。
上記眼鏡レンズの凸面に向けて、キセノンランプを光源に用いてエアロマスフィルターを介した光を15分間照射し、フォトクロミック層を着色させた。この照射光はJIS T7333:2005に規定されているように放射照度及び放射照度の許容差が表2に示す値となるように行った。この着色時の透過率を大塚電子製分光光度計により測定した。
【0102】
【表2】
【0103】
<退色速度の評価>
退色速度は以下の方法により評価した。
上記眼鏡レンズの光照射前(未着色状態)の透過率(測定波長:550nm)を大塚電子製分光光度計により測定した。ここで測定された透過率を「初期透過率」と呼ぶ。
各眼鏡レンズに対し、キセノンランプを光源に用いてエアロマスフィルターを介した光を15分間照射し、フォトクロミック層を着色させた。この照射光はJIS T7333:2005に規定されているように放射照度及び放射照度の許容差が表〇に示す値となるように行った。この着色時の透過率を初期透過率と同様に測定した。ここで測定された透過率を「着色時透過率」と呼ぶ。
その後、光照射を止めた時間から透過率が、[(初期透過率-着色時透過率)/2]となるまでに要する時間を測定した。
例示化合物1を含む上記眼鏡レンズは、着色時の視感透過率T%が42%、半減時間が4.5分であった。
以上の結果から、上記眼鏡レンズが、紫外線照射前後で視感透過率が変化し、また、紫外線の照射を止めると経時的に元の状態に戻るフォトクロミック性能を示す眼鏡レンズ(フォトクロミックレンズ)であることが確認された。
【0104】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0105】
一態様によれば、一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物が提供される。
【0106】
一形態では、一般式1~3中のR100~R111、R200~R211、R300~R311及びX~Xのいずれかで表され得る置換基は、
ヒドロキシ基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数5~18の単環若しくは複環の環状脂肪族アルキル基、構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、構成原子数1~24の非芳香族環状置換基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基、直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルコキシ基、構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルキルスルフィド基、アリール基、アリールオキシ基、アリールスルフィド基、ヘテロアリール基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、環状アミノ基、エチニル基、メルカプト基、シリル基、スルホン酸基、アルキルスルホニル基、ホルミル基、カルボキシ基、シアノ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる置換基R;又は、
に更に1つ以上の同一若しくは異なるRが置換した置換基;
であることができる。
【0107】
一態様によれば、一般式1で表されるフォトクロミック化合物、一般式2で表されるフォトクロミック化合物及び一般式3で表されるフォトクロミック化合物からなる群から選択される1種以上のフォトクロミック化合物を含むフォトクロミック組成物が提供される。
【0108】
一形態では、上記フォトクロミック組成物は、重合性化合物を更に含むことができる。
【0109】
一態様によれば、上記フォトクロミック組成物を硬化した硬化物を含むフォトクロミック物品が提供される。
【0110】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、基材と、上記硬化物であるフォトクロミック層とを有することができる。
【0111】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、眼鏡レンズであることができる。
【0112】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、ゴーグル用レンズであることができる。
【0113】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、サンバイザーのバイザー部分であることができる。
【0114】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、ヘルメットのシールド部材であることができる。
【0115】
一態様によれば、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡が提供される。
【0116】
本明細書に記載の各種態様及び各種形態は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0117】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の一態様は、眼鏡、ゴーグル、サンバイザー、ヘルメット等の技術分野において有用である。
図1
図2