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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】走行用車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 50/64 20190101AFI20241021BHJP
   B60L 53/80 20190101ALI20241021BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20241021BHJP
【FI】
B60L50/64
B60L53/80
B60K1/04 Z
B60K1/04 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022581049
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2021004776
(87)【国際公開番号】W WO2022172326
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】杉村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】林▲崎▼ 正一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義一
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-125094(JP,A)
【文献】特表2020-524884(JP,A)
【文献】国際公開第2020/017324(WO,A1)
【文献】特開2013-233929(JP,A)
【文献】特開2007-060806(JP,A)
【文献】特開2008-018904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザ(U)が着座可能な座席(18)を有する車体(14)と、前記車体に設けられる複数の車輪(16)と、を備え、前記座席の座面(20)の少なくとも一部の高さが前記複数の車輪の上部よりも低い走行用車両(10、10A)であって、
前記車体は、前記座席の後方、且つ前記車体の後面視で前記座席の少なくとも一部と重複する位置に、バッテリ(60)を収容するバッテリ収容部(70)を備え、
前記バッテリ収容部は、下端部(72)よりも上端部(74)が後方に位置するように傾斜し
前記バッテリは、前記バッテリ収容部に対して着脱自在であり、
前記バッテリ収容部は、前記バッテリを収容するための開口(80)又は該開口を開閉可能な開閉部を前記上端部に有すると共に、
少なくとも前記上端部が、前記車体の外面よりも上方となり且つ前記外面よりも外側に露出するように前記外面から突出することを特徴とする走行用車両。
【請求項2】
請求項1に記載の走行用車両において、
前記座席は、前記座面から後方且つ上方に向かって傾斜した背凭れ部(22)を有し、
前記バッテリ収容部は、前記背凭れ部と平行に設けられることを特徴とする走行用車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の走行用車両において、
前記バッテリ収容部の少なくとも一部が、前記車体の平面視で、前記複数の車輪の一部を構成する後輪(16r)に対し重複する位置に設けられることを特徴とする走行用車両。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の走行用車両において、
前記開口の少なくとも一部又は前記開閉部の少なくとも一部が、前記座席の上端(22t)と同じ高さ又は前記座席の上端よりも上方に設けられることを特徴とする走行用車両。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の走行用車両において、
前記開口又は前記開閉部は、前記車体の側面視で、前記複数の車輪の一部を構成する後輪の上方、又は前記後輪よりも後方に設けられることを特徴とする走行用車両。
【請求項6】
請求項3又は記載の走行用車両において、
前記バッテリ収容部は、前記下端部の前端(72f)が、前記車体の平面視で、前記後輪に対し重複する一方で、前記下端部の後端(72r)が、前記車体の側面視で、前記後輪よりも後方に位置することを特徴とする走行用車両。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の走行用車両において、
前記走行用車両は、前記バッテリからの電力供給に基づき回転し、前記車輪を回転可能な回転駆動力を出力するモータ(48)を備え、
前記モータは、前記座席の側方に配置されることを特徴とする走行用車両。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の走行用車両において、
前記走行用車両は、前記バッテリからの電力供給に基づき回転し、前記車輪を回転可能な回転駆動力を出力するモータと、
前記モータに供給する前記バッテリの電力を調整する電力調整部(50)と、
を備え、
前記電力調整部は、前記座席の側方に配置されることを特徴とする走行用車両。
【請求項9】
請求項8に記載の走行用車両において、
前記電力調整部は、前記モータの上部に設けられることを特徴とする走行用車両。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の走行用車両において、
前記座席は、前記車体の車幅方向中心線(CL)上に設けられることを特徴とする走行用車両。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の走行用車両において、
前記走行用車両は、前記車体を囲うカウル(26)を備えることを特徴とする走行用車両。
【請求項12】
請求項11に記載の走行用車両において、
前記カウルには、前記バッテリ収容部を挿通配置するための保持口(42)が設けられることを特徴とする走行用車両。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の走行用車両において、
前記バッテリ収容部は、前記座席の後方に2つ設けられることを特徴とする走行用車両。
【請求項14】
請求項13に記載の走行用車両において、
2つの前記バッテリ収容部は、前記車体の車幅方向中心線を基点に互いに対称位置に設けられることを特徴とする走行用車両。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の走行用車両において、
前記車体の車幅は、前記車体の前後方向の長さよりも短いことを特徴とする走行用車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリからの電力供給に基づき走行する走行用車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、利便性や環境保護の観点から、バッテリを搭載した電動用の走行用車両が開発されている。レース用又は娯楽用の目的で使用される走行用車両も例外ではない。例えば、特開2007-60806号公報には、モータ、及びこのモータに電力供給を行うバッテリを搭載した電動用レーシングカート(走行用車両)が開示されている。この走行用車両は、ユーザUが着座する座席の側方に一対のバッテリを備える。
【発明の概要】
【0003】
ところで、特開2007-60806号公報に開示の走行用車両は、座席の側方にバッテリを備えることで、走行中の走行風がバッテリに多く当たるようになる。特に、レーシング用の走行用車両は、軽量に構成されるため、走行風の影響を受けることによって、走行が乱れ易くなる。また、走行用車両を長時間走行させるために大型のバッテリを搭載した場合には、バッテリが座席に着座したユーザの側方の視界を遮る可能性がある。
【0004】
本発明は、上記の実情を鑑みたものであり、視界を充分に確保すると共に、走行風の影響を低減することで、走行安定性をより向上させた走行用車両を提供することを目的とする。
【0005】
前記の目的を達成するために、本発明の一態様は、ユーザが着座可能な座席を有する車体と、前記車体に設けられる複数の車輪と、を備え、前記座席の座面の少なくとも一部の高さが前記複数の車輪の上部よりも低い走行用車両であって、前記車体は、前記座席の後方、且つ前記車体の後面視で前記座席の少なくとも一部と重複する位置に、バッテリを収容するバッテリ収容部を備え、前記バッテリ収容部は、下端部よりも上端部が後方に位置するように傾斜し、前記バッテリは、前記バッテリ収容部に対して着脱自在であり、前記バッテリ収容部は、前記バッテリを収容するための開口又は該開口を開閉可能な開閉部を前記上端部に有すると共に、少なくとも前記上端部が、前記車体の外面よりも上方となり且つ前記外面よりも外側に露出するように前記外面から突出する。
【0006】
上記の走行用車両は、視界を充分に確保すると共に、走行風の影響を低減することで、走行安定性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係る走行用車両であるレーシングカートの全体構成を側方から見た斜視図である。
図2】レーシングカートのバッテリケースを概略的に示す後面図である。
図3】レーシングカートの後輪、座席及びバッテリケースの配置を概略的に示す側面図である。
図4】変形例に係るレーシングカートを概略的に示す部分正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
本発明の一実施形態に係る走行用車両10は、図1に示すように、専用のレーシング場や遊技施設等において使用される電動用レーシングカートに構成されている(以下、単にレーシングカート12という)。レーシングカート12は、車体14と、車体14に取り付けられた複数(4つ)の車輪16と、を備える。車体14は、運転者であるユーザUが着座するための座席18を有する。この種のレーシングカート12は、走行風の影響を可及的に抑制するために、ユーザUの臀部が当たる座席18の座面20の少なくとも一部の高さ(車高方向の位置)を複数の車輪16の上部(詳細には、上端17)の高さよりも低く設定している。また、座席18の背凭れ部22は、座面20から後方且つ上方に向かって傾斜している。なお、走行用車両10は、レーシングカート12に限定されず、例えば、公道を走行可能な車両、又は娯楽用の玩具等であってもよい。また、座席18の座面20は路面Rに対し水平に設けられていてもよく、座席18の背凭れ部22は、水平に設けられた座面20に対し垂直或いは略垂直に設けられていてもよい。
【0010】
レーシングカート12は1人乗り用であり、車体14は前後方向に短く(コンパクトに)構成される。車体14の前後方向の長さは、例えば、1m~2m程度の範囲に設定される。また、車体14の車幅は、車体14の前後方向の長さよりもさらに短い。座席18は、この車体14の車幅方向中心線CL上に設けられている。車体14は、座席18よりも前方に一対の前輪16f(4つの車輪16の一部)を備え、座席18よりも後方に一対の後輪16r(4つの車輪16の一部)を備える。
【0011】
レーシングカート12の車体14は、前後方向に延在すると共に上面に座席18が固定されたメインパネル24と、メインパネル24に固定される図示しない複数のフレームと、を相互に組み付けて形成されている。メインパネル24は、適宜の剛性を有すると共に、座席18の幅と同程度に形成されており、レーシングカート12の床部を構成している。座席18に着座したユーザUの脚は、メインパネル24に沿って前方に伸ばすように配置される。
【0012】
車体14は、メインパネル24の周囲(前後及び両側方)を囲むように複数のカウル26を有する。複数のカウル26は、適宜のフレームに固定及び支持され、全体として略一連に連なる外観を形成している。例えば、複数のカウル26は、車体14の前方のフロントカウル26aと、フロントカウル26aの車幅方向中心位置から後方に延在するセンタカウル26bと、車体14の前方且つ両側方に設けられる一対のフロントサイドカウル26cと、車体14の後方且つ両側方に設けられる一対のリアサイドカウル26dと、を有する。
【0013】
メインパネル24の前方側には、一対の前輪16fを転舵するためのステアリング機構部28が設けられている。ステアリング機構部28は、後方且つ上方に向かって傾斜するステアリング軸30を備え、ステアリング軸30の上端には、ユーザUが把持及び操作するためのハンドル32が設けられている。ステアリング軸30の下方の延在部分は、センタカウル26bとコンソールパネル34とで覆われている。
【0014】
ステアリング機構部28は、ステアリング軸30の下部側において図示しないフレーム及びヒンジ等を組み合わせることで、ステアリング軸30の回転量に追従して一対の前輪16fの転舵量を変化させる。コンソールパネル34のユーザUに対向する面には、レーシングカート12の起動をオンオフするスタータスイッチ(不図示)等が設けられている。
【0015】
また、車体14は、車体14の前後及び両側方を囲う複数のカウル26(フロントカウル26a、フロントサイドカウル26c、リアサイドカウル26d)よりも外側に、衝撃を緩和するバンパ36を複数備える。バンパ36は、フロントカウル26aに設けられたフロントバンパ36a、一対のフロントサイドカウル26cに設けられた一対のフロントサイドバンパ36b、一対のリアサイドカウル26dに設けられた一対のリアサイドバンパ36c、及び後側のリアバンパ36dを相互に連結することで構成される。各バンパ36は、各車輪16よりも外側に突出し、各車輪16の中心よりも下側に位置している。
【0016】
また、メインパネル24の前方には、アクセルペダル40及びブレーキペダル(不図示)が設けられている。アクセルペダル40及びブレーキペダルは、ステアリング軸30(コンソールパネル34)を間に挟むように設けられている。例えば、アクセルペダル40は、ユーザUから見てステアリング軸30の右側にあり、ユーザUによるレーシングカート12の走行時に右足の足裏が載置される。ブレーキペダルは、ユーザUから見てステアリング軸30の左側にあり、ユーザUによるレーシングカート12の走行時に左足の足裏が載置される。
【0017】
アクセルペダル40は、メインパネル24に固定されたアクセル機構部41に作用可能に設けられている。アクセル機構部41は、ユーザUのアクセル操作量(アクセルペダル40の踏み込み量)を、後述する走行制御用のECU56(Electronic Control Unit)に電気的又は機械的に伝達する。ブレーキペダルは、メインパネル24に固定されたブレーキ機構部に作用可能に設けられている。例えば、ブレーキ機構部は、一対の前輪16f及び後輪16rを制動する制動部(不図示)に対して機械的に制動力をかけることが可能な構造(油圧、ワイヤ等)が適用されるとよい。
【0018】
また、メインパネル24は、車体14の後方において、車幅方向に延在する車軸46を回転自在に軸支している。車軸46の車幅方向両端部の各々には、後輪16rが固定されている。
【0019】
そして、車体14は、座席18の側方に、モータ48と、モータ48に供給する電力を調整する電力調整部50と、を一体化したPU52(Power Unit)を備える。例えば、PU52は、モータ48、電力調整部50及び後記のECU56を収容する1つのハウジング53を有する。PU52は、レーシングカート12の電装部の一部を構成しており、一対の後輪16rよりも車高方向に高く、且つ一対の後輪16rの前側に固定されている。車体14に設けられる座席18及びハンドル32は、側方にPU52があることで、車体14の車幅方向中心線CL(図2参照)に対して車幅方向(PU52の設置位置と反対方向)に若干ずれている。ただし、座席18の側方にPU52を配置したことで、車体14は、前後方向に一層コンパクト化される。
【0020】
モータ48は、電源であるバッテリ60からの電力供給に基づき回転し、駆動力伝達機構54を介して車軸46を回転させる。このモータ48は、一対の後輪16rを円滑に回転可能な適宜の回転駆動力を出力できればよく、ACモータ又はDCモータのうちいずれを適用してもよい。
【0021】
駆動力伝達機構54は、モータ48の出力軸と車軸46との間に設けられた複数のギヤやプーリ、チェーン等によって構成され、モータ48の回転駆動力を車軸46に伝達する。例えば、駆動力伝達機構54は、アクセルペダル40の操作量に基づき、シームレスにクラッチを接続する遠心クラッチを適用することができる。
【0022】
電力調整部50は、モータ48の上部に設けられている。この電力調整部50は、ECU56の制御下に、モータ48に供給するバッテリ60の電力を適宜調整する。また、モータ48がACモータである場合、電力調整部50は、バッテリ60の直流電力を三相交流電力に変換してモータ48に供給するように構成される。
【0023】
そして、レーシングカート12は、バッテリ60を離脱可能に収容するバッテリケース70(バッテリ収容部)を備える。本実施形態に係るバッテリケース70は、座席18の後方に複数(2つ)設けられる。図2に示すように、2つのバッテリケース70は、車体14の車幅方向中心線CLを基点に互いに対称位置に設けられる(図2は、車体14の後面図であり、紙面の上下は車高方向に沿っているが、便宜的に車幅方向中心線CLを紙面の上下に沿うように記す)。
【0024】
各バッテリケース70は、長尺の角筒状に形成されている。各バッテリケース70の下端は、座席18の後方の隣接位置においてメインパネル24に連結されたフレーム(不図示)に固定されている。
【0025】
車体14の後側の一対のリアサイドカウル26d間には、各バッテリケース70を挿通配置するための保持口42が設けられている。保持口42には、各バッテリケース70を支持する複数の収容部用フレーム44が設けられている。複数の収容部用フレーム44は、メインパネル24に接合されている。各バッテリケース70は、傾斜した姿勢で複数の収容部用フレーム44に対して固定される。バッテリケース70の下端部72と収容部用フレーム44の連結箇所(又は連結箇所付近のメインパネル24)には、バッテリ60からPU52、ECU56等に電力を配電する図示しないジャンクションボックスが設けられている。なお、ジャンクションボックスは、バッテリケース70内の下端部72側に設けられてもよい。
【0026】
以上の各バッテリケース70は、車体14の後面視で、座席18に対して少なくとも一部が重複し、下端部72(後述の蓋体及び/又は開口80の対向位置に設けられる後述の底壁84を少なくとも含む)よりも上端部74(後述の蓋体及び/又は開口80を少なくとも含む)が後方に位置するように傾斜している。また、座席18の後方側に設置された各バッテリケース70は、車体14の側面視で、相互に同一の姿勢で固定されている。すなわち、レーシングカート12は、車幅方向中心線CLを基点(対称軸)として一対のバッテリケース70を相互に対称位置、且つ同一の姿勢で固定している。これにより、重量物であるバッテリ60を各バッテリケース70に収容した状態で、各バッテリ60の重心を車幅方向中心線CLに一致させることができる。
【0027】
図3に示すように、各バッテリケース70におけるバッテリ60の挿抜方向の軸線Oは、座席18の背凭れ部22に対して略平行に設定されることが好ましい。これにより、各バッテリケース70を座席18に一層近づけることができ、車体14の前後方向の長さを短くすることができる。路面Rに対する各バッテリケース70の傾斜角度θは、特に限定されるものではないが、例えば、90°より小さく、好ましくは50°~80°の範囲内に設定されるとよい。各バッテリケース70は、車体14の後面視で、座席18に対して少なくとも一部が重複するように設けられることで、レーシングカート12の走行時に、前方からの走行風が各バッテリケース70に当たることで抵抗となることを抑制できる。また、各バッテリケース70は、車体14の後面視で、座席18に対して重複していない部分についても、傾斜角度θで設置されていることで、レーシングカート12の走行時に、前方からの走行風を、後方に適切に受け流すことができる。
【0028】
また、各バッテリケース70は少なくとも一部が、車体14の平面視で、後輪16rに重複し、且つ車体14の側面視で、後輪16rよりも上方且つ座席18の座面20よりも高い位置に設けられている。より具体的には、各バッテリケース70の下端部72は、前端72fが後輪16rのちょうど上方(車体14の平面視で、後輪16rに重複する位置)に位置する一方で、後端72rが後輪16rよりも後方に位置する。これにより、各バッテリケース70に各バッテリ60が収容された状態で、一対の後輪16rに大きな荷重をかけることが可能となると共に、下端部72よりも上端部74が後方に位置する構成をコンパクトに実現することができる。また、レーシングカート12の重心を下げ、走行安定性を高めることもできる。
【0029】
各バッテリケース70の上端部74は、車体14の側面視で、座席18の上端22tよりも上方に位置し、またその全体が後輪16rよりも後方に位置している(図3の1点鎖線参照)。上端部74の後端74rは、リアバンパ36dよりも後方に突出してもよい。
【0030】
図1及び図3に示すように、各バッテリケース70は、バッテリ60を収容する収容空間76aを有する収容本体76を備える。収容本体76の上端部74には、収容空間76aに連通する開口80が設けられている。なお、バッテリケース70は、収容空間76a及び開口80を開閉可能な蓋体(開閉部、不図示)を備えた構成でもよい。
【0031】
収容本体76は、収容空間76aを形成するために、互いに連結した四方の側壁82と、各側壁82の下部に連結した底壁84と、を有する。これら四方の側壁82及び底壁84によって、収容空間76aの軸線Oが規定され、バッテリ60の挿抜方向をガイドする。換言すれば、側壁82は、バッテリ60の挿抜方向に対して平行に設けられている。
【0032】
また、収容本体76において下側に位置する側壁82bは、他の側壁82(上側の側壁82a)よりも厚みを有するように形成されてもよい。これにより、下側の側壁82bは、バッテリ60の挿抜時にバッテリ60から受ける荷重に耐え得る充分な剛性を持つようになり、バッテリ60を円滑にガイドすることが可能となる。
【0033】
底壁84の収容空間76a側の面には、端子86が設けられている。端子86は、バッテリ60の収容状態で、バッテリ60の端子68に電気的に接触し、レーシングカート12の電装部に電力を出力可能とする。
【0034】
各バッテリケース70の開口80は、バッテリケース70の軸線Oと直交するように設けられることで、車体14の後方且つ上方を臨むように傾斜している。各開口80の一部(前端80f)は、車体14の側面視で、後輪16rよりも後方に位置し、また座席18の背凭れ部22の上端22tよりも上方に位置している。各開口80の一部は、座席18の背凭れ部22の上端22tと同じ高さに設けられてもよい。開口80の一部は、車体14の側面視で、後輪16rよりも後方に位置しているため、バッテリ60の収容時又は取出時に、ユーザUは車体14の後方からのアクセスが容易であり、開口80の一部は、座席18の背凭れ部22の上端22tよりも上方又は同じ高さに位置しているため、ユーザUが座席18に着座した際に背中が当たる高さ位置に開口80を設けることができ、バッテリ60の収容時又は取出時に身体を大きく屈める必要のない位置に設定することができる。路面Rから開口80の中心位置の高さHは、例えば、50cm~100cmの範囲とすることが好ましい。
【0035】
バッテリケース70に搭載されるバッテリ60は、種々の機器に着脱自在に搭載される汎用型に構成されている。例えば、図3に示すように、バッテリ60は、全体的に角柱状に形成された筐体62を有し、この筐体62の軸方向一端部にはユーザUが把持するための取手64が設けられている。またバッテリ60は、電力を蓄電及び放電する複数の電池セル66を筐体62内に備えると共に、電力を入出力可能な端子68を筐体62の外面の所定位置に備える。端子68は、例えば、取手64と反対側(又は同側)の端面に設けられ、バッテリ60をバッテリケース70に収容した際に、バッテリケース70内の端子86に接触する。
【0036】
側壁82の上端部74側の内面には、収容空間76aに収容されたバッテリ60の離脱を防止するためのロック機構88が設けられている。例えば、ロック機構88は、バッテリ60の非搭載時に、幅方向外側に開放する一方で、バッテリ60の挿入に伴って閉塞する一対のロック板88aによって構成される。バッテリ60を収容本体76に収容してロック機構88にロックした状態で、一対のロック板88aは、バッテリ60の上部を押圧する。これにより、バッテリ60の各端子68とバッテリケース70の各端子86との接触状態が良好に維持される。
【0037】
図1に示すように、ECU56は、例えば、電力調整部50の上部に連設され、レーシングカート12の電装部の一部を構成している。ECU56は、1以上のプロセッサ、メモリ、入出力インタフェース及び電子回路等を有するコンピュータに構成される。ECU56は、アクセルペダル40のアクセル操作量を取得し、このアクセル操作量に基づき、適宜の電力指令を電力調整部50に出力することで、モータ48の回転速度を制御する。
【0038】
また、ECU56は、一対のバッテリケース70に収容された各バッテリ60の電力を、図示しないジャンクションボックスを介して、モータ48に適切に配分するように構成される。例えば、ECU56は、一方のバッテリ60の電池残量が所定値以下となるまで当該一方のバッテリ60の電力を使用し、一方のバッテリ60の電池残量が所定値以下となった場合に、他方のバッテリ60の電力を使用するように制御する。或いは、ECU56は、2つのバッテリ60の電力を略均等的に使用する構成でもよい。一例として、モータ48の回転速度が低い場合には、一方のバッテリ60の電力を使用し、モータ48の回転速度が高い場合には、両方のバッテリ60の電力を使用すること等があげられる。
【0039】
本実施形態に係る走行用車両10(レーシングカート12)は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下その動作について説明する。
【0040】
レーシングカート12のユーザU(又は介助者)は、走行前等に、一対のバッテリケース70の各々にバッテリ60を収容する。レーシングカート12は、上記したように、バッテリケース70の開口80が、座席18よりも後方に位置すると共に、一対の後輪16r及び座席18よりも上方に位置する。これにより、ユーザUは、車体14の後側からアクセスして、重量物であるバッテリ60の下部を開口80に容易に合わせることができる。
【0041】
ユーザUは、バッテリ60の姿勢をバッテリケース70の軸線Oに合わせることで、バッテリ60を収容空間76aの奥側に挿入していく。この際、バッテリケース70の各側壁82は、軸線Oに沿ってバッテリ60の挿入を円滑にガイドすると共に、下側の側壁82bはバッテリ60から荷重の一部を受ける。バッテリ60の下部が底壁84付近まで挿入されることで、バッテリケース70の端子86がバッテリ60の端子68に接触する。そして、バッテリケース70は、ロック機構88により収容本体76に対してバッテリ60をロックすることで、バッテリ60の離脱を防止する。
【0042】
図1に示すように、ユーザUは、座席18に着座して、スタータスイッチ等をオンすることで、バッテリ60の電力が各電装部に供給されて、レーシングカート12を起動する。そして、アクセルペダル40を踏み込むと共に、ハンドル32を把持及び操作することで、レーシングカート12を走行させる。レーシングカート12は、バッテリ60が収容された各バッテリケース70を車体14の車幅方向中心線CLを基点に互いに対称位置に設けることで、各バッテリ60全体の重心を車幅方向中心線CL上に位置させる。また、バッテリ60が収容された各バッテリケース70を座席18の後方に並べることで、各バッテリ60全体の重心が、車体14の平面視で、座席18の後方に位置し、ユーザUによるハンドル32の操作性が向上して高い旋回性能が得られる。
【0043】
図3に示すように、後輪16rの上方で傾斜している、つまりバッテリ60の一方(詳細には、一端)が後輪16rの後方に設けられると共に他方(詳細には、他端)が後輪16rの上方に設けられる各バッテリ60は、車体14の低い位置且つ各後輪16rの近傍位置に荷重をかけることができ、各後輪16rのグリップ力を高めることができる。さらに、座席18の後方に配置された各バッテリケース70は、ユーザUの前方及び側方の視界を遮ることがない。すなわち、レーシングカート12は、上記のようにバッテリケース70を適切に設置したことによって、走行安定性を一層高めることができる。
【0044】
走行時に、レーシングカート12は、前方から走行風を受ける。各バッテリケース70は、車体14の後面視で、座席18に対して少なくとも一部が重複するように設けることで、レーシングカート12の走行時に前方から当たる走行風が各バッテリケース70に当たることで抵抗となることを抑制できる。さらに、各バッテリケース70が車体14の後面視で、座席18に対して重複していない部分についても、下端部72よりも上端部74が後方に位置するように傾斜した各バッテリケース70は、レーシングカート12の走行時に前方から当たる走行風を後方に容易に受け流す。従って、レーシングカート12は、走行風の抵抗を抑制して走行することが可能となる。
【0045】
収容部用フレーム44を含む一対のバッテリケース70は、座席18の後方且つ隣接位置に配置されていることで、他のレーシングカート12が後方から衝突した際に、他のレーシングカート12がユーザUに接触することを抑制する。つまり、レーシングカート12は、ユーザUを保護する構造部として各バッテリケース70を用いることができる。
【0046】
本発明は、上記の実施形態に限定されず、発明の要旨に沿って種々の改変が可能である。例えば、レーシングカート12は、バッテリケース70を座席18の後方に3以上備えた構成でもよい。また上記の実施形態では、バッテリケース70の開口80が後輪16rよりも後方に位置していたが、車体14の側面視で、開口80の一部(前端)が後輪16rの上方に位置してもよい。これにより、バッテリケース70を座席18に一層近接して配置することができ、車体14の前後方向の長さが短くなる。
【0047】
図4に示す変形例のように、レーシングカート12A(走行用車両10A)は、バッテリケース70を座席18の後方に1つ備えた構成であってもよい。この場合、レーシングカート12は、バッテリケース70の車幅方向の中心位置(軸線O)が車幅方向中心線CLに重なるようにバッテリケース70を固定していることが好ましい。また、レーシングカート12Aは、ハウジング53を備えずにモータ48及び電力調整部50を露出したPU52を設置した構成でもよい。これにより、PU52を座席18の側方に備えた構成でも、座席18やハンドル32を車幅方向中心線CLに充分に近接させることができる。
【0048】
また、バッテリ60は、バッテリ収容部(バッテリケース70)に対して着脱自在でなくてもよい。つまり、バッテリ60及びバッテリ収容部は、それぞれ端子68、86を備えずに、バッテリ60から電装部へハーネス等を用いて電気接続を行う据え付けバッテリでもよい。
【0049】
上記の実施形態から把握し得る技術的思想及び効果について以下に記載する。
【0050】
本発明の一態様は、ユーザUが着座可能な座席18を有する車体14と、車体14に設けられる複数の車輪16と、を備え、座席18の座面20の少なくとも一部の高さが複数の車輪16の上部よりも低い走行用車両10、10Aであって、車体14は、座席18の後方、且つ車体14の後面視で座席18の少なくとも一部と重複する位置に、バッテリ60を収容するバッテリ収容部(バッテリケース70)を備え、バッテリ収容部は、下端部72よりも上端部74が後方に位置するように傾斜している。
【0051】
上記によれば、走行用車両10、10Aは、座席18の後方、且つ車体14の後面視で座席18の少なくとも一部と重複する位置に、バッテリ60を収容するバッテリケース70を備えることで、ユーザUが座席18に着座した際に、バッテリケース70が、ユーザUが前方及び側方の視界を遮らない。また、バッテリ収容部(バッテリケース70)の下端部72よりも上端部74が後方に位置するように傾斜していることで、鉛直方向に沿って配置するよりも車体14を低くすることができる。これにより、走行用車両10、10Aの重心を低くすることができるため、走行安定性が向上する。さらに、各バッテリケース70は、車体14の後面視で、座席18の少なくとも一部が重複する位置に、バッテリ60を収容するバッテリケース70を備えることで、レーシングカート12の走行時に前方から当たる走行風が各バッテリケース70に当たることで抵抗となることを抑制できると共に、走行風が各バッテリケース70に当たった場合でも、バッテリ収容部は、下端部72よりも上端部74が後方に位置するように傾斜しているため、前方からの走行風を後方に適切に受け流すことができる。そして、座席18の後方に配置されたバッテリ収容部は、後方からの衝突時にユーザUを保護することができる。
【0052】
また、座席18は、座面20から後方且つ上方に向かって傾斜した背凭れ部22を有し、バッテリ収容部(バッテリケース70)は、背凭れ部22と平行に設けられる。これにより、走行用車両10、10Aは、後方へ傾斜したバッテリ収容部を座席18に対して近づけて設置することが可能となり、車体14の前後方向の長さをより短くできる。
【0053】
また、バッテリ収容部(バッテリケース70)の少なくとも一部が、車体14の平面視で、複数の車輪16の一部を構成する後輪16rに対し重複する位置に設けられる。これにより、走行用車両10、10Aは、車体14の前後方向の長さをコンパクトにすることができると共に、後輪16rの近傍にバッテリ60の荷重をかけ易くなり、後輪16rの接地荷重(グリップ力)を高めることができる。
【0054】
また、バッテリ60は、バッテリ収容部(バッテリケース70)に対して着脱自在であり、バッテリ収容部は、バッテリ60を収容するための開口80又は該開口80を開閉可能な開閉部を上端部74に有する。これにより、走行用車両10、10Aは、バッテリ収容部が水平に設けられた場合に比べて、バッテリ60を着脱するための開口80又は該開口80を開閉可能な開閉部を上方に配置することができ、ユーザUがかがむ(腰を折り曲げる)量が小さくなる。従って、ユーザUは、バッテリ60をより容易に挿抜することができる。
【0055】
また、開口80の少なくとも一部又は前記開閉部の少なくとも一部が、座席18の上端22tと同じ高さ又は座席18の上端22tよりも上方に設けられる。これにより、ユーザUは、起立姿勢の状態から腰を大きくかがめることなく、バッテリ収容部(バッテリケース70)にバッテリ60を挿抜することができる。また、開口80の少なくとも一部が、座席18の上端22tよりも上方に設けられる場合、各バッテリケース70の一部が車体14の後面視で、座席18に対して重複していない(座席18の上端22tよりも上方に突出する突出部を有する)こととなるが、傾斜角度θで設置されたバッテリケース70は、レーシングカート12の走行時に突出部に対し前方から当たる走行風を、後方に適切に受け流すことができる。
【0056】
また、開口80又は該開口を開閉可能な開閉部は、車体14の側面視で、複数の車輪16の一部を構成する後輪16rの上方、又は後輪16rよりも後方に設けられる。これにより、走行用車両10、10Aは、車体14の後方の適宜の高さ又は車体14の後端付近に開口80を配置することが可能となり、ユーザUは、車体14の後方側からバッテリ60を容易に挿抜することができる。
【0057】
また、バッテリ収容部(バッテリケース70)は、下端部72の前端72fが、車体14の平面視で、後輪16rに対し重複する一方で、下端部72の後端72rが、車体14の側面視で、後輪16rよりも後方に位置する。これにより、下端部72の後端72rが前端72f側よりも低くなり、バッテリ収容部が傾斜姿勢をとり易くなる。従って、走行用車両10、10Aは、走行風の抵抗を下げつつ、重心をより下げることができ、しかも下端部72の前端72fが後輪16rの上方から後輪16rにバッテリ60の荷重をかけるので、グリップ力が充分に向上する。また、下端部72よりも上端部74が後方に位置する構成をコンパクトに実現することができる。
図1
図2
図3
図4