(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】地下構造物の周囲岩盤の圧縮装置及び圧縮方法並びに岩盤と一体化された地下構造物
(51)【国際特許分類】
E02D 27/12 20060101AFI20241021BHJP
E02D 27/50 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
E02D27/50
(21)【出願番号】P 2023134109
(22)【出願日】2023-08-21
(62)【分割の表示】P 2019236083の分割
【原出願日】2019-12-26
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】春日 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】渕山 美怜
(72)【発明者】
【氏名】春名 久美子
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-096197(JP,A)
【文献】特開2004-084336(JP,A)
【文献】特開昭62-025611(JP,A)
【文献】特開2008-223348(JP,A)
【文献】実開平06-076426(JP,U)
【文献】特開2010-174553(JP,A)
【文献】特開2001-140600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/12
E02D 27/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩盤の内部を地下構造物から放射状に延びる複数のストランドと、
前記複数のストランドを緊張させ、前記複数のストランドの外側端部より内側の岩盤を圧縮させる複数の定着具と、を有
し、
前記複数のストランドは、前記地下構造物の上側半分の領域だけに設けられている、地下構造物の周囲岩盤の圧縮装置。
【請求項2】
前記複数のストランドは前記地下構造物から水平方向に延び、前記複数のストランドの一端は岩盤または前記地下構造物に定着され、前記複数の定着具は、前記複数のストランドの他端側に位置する前記地下構造物または岩盤に設けられている、請求項1に記載の圧縮装置。
【請求項3】
岩盤の内部を地下構造物から放射状に延びる複数のストランドと、
前記複数のストランドを緊張させ、前記複数のストランドの外側端部より内側の岩盤を圧縮させる複数の定着具と、を有し、
前記複数のストランドは前記地下構造物から水平方向に延び、前記複数のストランドの一端は岩盤または前記地下構造物に定着され、前記複数の定着具は、前記複数のストランドの他端側に位置する前記地下構造物または岩盤に設けられ、
前記複数のストランドの前記外側端部より内側の岩盤の内部を鉛直に延びる複数の他のストランドと、前記複数の他のストランドを緊張させ、前記複数のストランドの前記外側端部より内側の岩盤を圧縮させる複数の他の定着具と、を有する、
地下構造物の周囲岩盤の圧縮装置。
【請求項4】
岩盤の内部を地下構造物から放射状に延びる複数のストランドと、
前記複数のストランドを緊張させ、前記複数のストランドの外側端部より内側の岩盤を圧縮させる複数の定着具と、を有し、
前記複数のストランドは前記地下構造物から水平方向に延び、前記複数のストランドの一端は岩盤または前記地下構造物に定着され、前記複数の定着具は、前記複数のストランドの他端側に位置する前記地下構造物または岩盤に設けられ、
前記地下構造物の側方の岩盤に設けられ、前記定着具を収容するピットを有する、
地下構造物の周囲岩盤の圧縮装置。
【請求項5】
前記地下構造物の側方の岩盤に設けられ、前記定着具を収容するピットを有する、請求項3に記載の圧縮装置。
【請求項6】
前記複数のストランドは、前記地下構造物に支持される地上構造部から斜め下方に、前記地下構造物から離れる方向に延び、前記複数のストランドの下端は岩盤に定着され、前記複数の定着具は前記地上構造部に設けられている、請求項1に記載の圧縮装置。
【請求項7】
岩盤の内部を地下構造物から放射状に延びる複数のストランドと、
前記複数のストランドを緊張させ、前記複数のストランドの外側端部より内側の岩盤を圧縮させる複数の定着具と、を有し、
前記複数のストランドは、前記地下構造物に支持される地上構造部から斜め下方に、前記地下構造物から離れる方向に延び、前記複数のストランドの下端は岩盤に定着され、前記複数の定着具は前記地上構造部に設けられ、
前記地上構造部に設けられた前記複数のストランドの支持部と、前記支持部に円周方向のプレストレスを加えるプレストレス付与手段と、を有する、
地下構造物の周囲岩盤の圧縮装置。
【請求項8】
岩盤の内部を地下構造物から放射状に延びる複数のストランドと、
前記複数のストランドを緊張させ、前記複数のストランドの外側端部より内側の岩盤を圧縮させる複数の定着具と、を有し、
前記複数のストランドは、前記地下構造物に支持される地上構造部から斜め下方に、前記地下構造物から離れる方向に延び、前記複数のストランドの下端は岩盤に定着され、前記複数の定着具は前記地上構造部に設けられ、
前記地上構造部に設けられた前記複数のストランドの支持部を有し、前記支持部は前記ストランド毎に周方向に分割されている、
地下構造物の周囲岩盤の圧縮装置。
【請求項9】
岩盤の内部を地下構造物から放射状に延びる複数のストランドを設けることと、
複数の定着具によって前記複数のストランドを緊張させ、前記複数のストランドの外側端部より内側の岩盤を圧縮させることと、を有
し、
前記複数のストランドは、前記地下構造物の上側半分の領域だけに設けられる、地下構造物の周囲岩盤の圧縮方法。
【請求項10】
前記複数のストランドを緊張させる前に岩盤の亀裂にグラウト材を注入する、請求項9に記載の圧縮方法。
【請求項11】
岩盤と、
前記岩盤に埋め込まれた地下構造物と、
前記岩盤の内部を前記地下構造物から放射状に延びる複数のストランドと、
前記複数のストランドを緊張させ、前記複数のストランドの外側端部より内側の岩盤を圧縮させる複数の定着具と、を有し、
前記複数のストランドは、前記地下構造物の上側半分の領域だけに設けられている、岩盤と一体化された地下構造物。
【請求項12】
前記地下構造物に支持された地上構造物に水平荷重を加えたときに、前記地下構造物の前記上側半分の領域の周囲の岩盤と前記上側半分の領域の変位差が、前記地下構造物の下側半分の領域の周囲の岩盤と前記下側半分の領域の変位差より小さい、請求項11に記載の地下構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地下構造物の周囲岩盤を圧縮する装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下構造物の周囲の地盤を基礎と一体化することで基礎の耐震性を高める技術が知られている。特許文献1には基礎の周囲に放射状に穿孔を形成し、穿孔に補強材を定着させ、補強材の端部を基礎本体に定着させる、地盤補強型の基礎形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された方法によれば、補強材を介して地盤を基礎と一体化することができる。従って、基礎を実質的に拡張し、大きな支持力を得ることができる。地下構造物の種類によっては、周辺地盤の遮水性の向上が求められることもある。このような様々な要求に対し、地下構造物の周囲の岩盤を圧縮させることが解決策の一つとなることがあり得る。本発明は、地下構造物の周囲の岩盤を圧縮させるための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、この装置は岩盤の内部を地下構造物から放射状に延びる複数のストランドと、複数のストランドを緊張させ、複数のストランドの外側端部より内側の岩盤を圧縮させる複数の定着具と、を有する。複数のストランドは、地下構造物の上側半分の領域だけに設けられている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の装置によれば、地下構造物の周囲の岩盤を圧縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】第1の参考形態に係る地下構造物とストランドの斜視図である。
【
図9】第4の参考形態のさらなる変形例の概念図である。
【
図14】第2の実施形態のさらなる変形例の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の地下構造物の周囲岩盤を圧縮する装置と方法のいくつかの実施形態及び参考形態について説明する。以下の説明は、特記なき場合、既設の地下構造物を対象とするが、新設の地下構造物に適用することも可能である。
【0009】
(第1の参考形態)
本参考形態では、地下構造物として、地中深くまで施工される深礎杭を例に説明する。地下構造物に支持される地上構造物は橋脚であるが、建物などの建築物であってもよい。深礎杭は岩盤に埋め込まれた概ね円筒形の地下構造物である。
図1は本参考形態の概念図を示している。
図1(a)は地下構造物1の平面図を、
図1(b)は
図1(a)のA-A線に沿った断面図を示している。
図2(a)は地下構造物1と地上構造物2とストランドSの斜視図を、
図2(b)はストランドSの斜視図を示している。地下構造物1の周囲に沿って、複数のストランドSが設けられている。ストランドSは地下構造物1から径方向に離れた位置を周回しており、ストランドSと地下構造物1との間には岩盤Rが介在している。ストランドSは、岩盤Rに掘削された案内孔(図示せず)の内部を延びている。ストランドSはPC鋼材(PCケーブル)からなるが、アラミド繊維や炭素繊維などからなるケーブルであってもよい。ストランドSは、岩盤Rの複数の深さレベルに、概ね等間隔で水平に設けられている。各深さレベルのストランドSは、地下構造物1の全周を円状に取り囲む複数の分割ストランドS1,S2で構成されている。本参考形態では、各深さレベルに地下構造物1の周囲を半周する2本の分割ストランドS1,S2が設けられている。分割ストランドの数は限定されず、分割ストランドの長さが互いに異なっていてもよい。地下構造物1の全周を1本のストランドSが周回していてもよい。すなわち、各深さレベルにおいて、地下構造物1の側面に沿って少なくとも一つのストランドSが設けられ、ストランドSが地下構造物1の全周を円状に取り囲んでいる限り、ストランドSの数や長さは限定されない。
【0010】
分割ストランドS1,S2は定着具10で相互に連結され、且つ緊張されている。定着具10は分割ストランドS1,S2と同数設けられ、分割ストランドS1,S2の互いに対向する端部同士を連結している。定着具10の種類は特に限定されないが、一例として特許第3439403号記載の定着具を用いることができる。この定着具10はPC鋼材の端部を保持する2つのスリーブを一体化したもので、コンクリートに埋め込まれることによってPC鋼材の緊張力をコンクリートに伝達することができるようにされている。定着具10の設置及び緊張のため、地下構造物1の側方の岩盤Rに定着具10を収容するピット3が設けられている。ピット3は180°間隔で2箇所設けられ、地上に開口している。ストランドSと定着具10は本参考形態の地下構造物の周囲岩盤を圧縮する装置100を構成する。
【0011】
装置100の施工は以下の手順で行われる。まず、定着具10を収容するピット3を掘削する。次にピット3の側面から案内孔を掘削する。案内孔はいずれかのピット3を起点に自在ボーリングによって掘削する。これによって、地下構造物1の全周を周回する案内孔が形成される。次に各案内孔にストランドSを挿入する。各ピット3内で2本のストランドS1,S2の端部同士を対向させ、定着具10でこれらの端部を連結する。その後、定着具10でストランドS1,S2を緊張させる。
【0012】
定着具10はストランドSに緊張力を加える。緊張力によりストランドSがたがを締めるように機能し、地下構造物1とストランドSとの間の岩盤Rが圧縮され、
図1に白抜き矢印で示すように、地下構造物1が岩盤Rに向けて径方向に押し付けられる。岩盤Rに作用する圧縮力のため、岩盤Rが地下構造物1に抱き込まれ、あるいは地下構造物1と一体化される。換言すれば、地下構造物1を径方向内側に押し付ける圧縮力を岩盤Rに加えることによって、地下構造物1とストランドSとの間に、地下構造物1と一体化された環状の岩盤領域ないし抱き込み領域(以下、一体化領域R1という)が形成され、岩盤Rがあたかも地下構造物1の一部として挙動する。
【0013】
本参考形態によれば、基礎自体を拡張するのと同様の効果が期待でき、耐震補強工事が合理化される。従来は、基礎自体を拡張する場合、周辺の岩盤を掘削し、鉄筋コンクリートの基礎を新たに構築し、既設の基礎と一体化する必要があった。これに対し、本参考形態では、上述の施工手順でストランドSを設置するだけでよいため、大規模な掘削や鉄筋コンクリート構造物の設置が不要であり、施工コストの削減や工期短縮が可能となる。
【0014】
本参考形態は新設の地下構造物1にも適用できる。この場合、最初に地下構造物1を構築してからストランドSを設置することが好ましい。これによって、地下構造物1の周囲の岩盤Rの一体化領域R1をより確実に形成することができる。ただし、地下構造物1と周囲の岩盤Rの一体性、密着性が充分に確保できる場合は先にストランドSを設置するか、ストランドSと地下構造物1を同時に施工することも可能である。
【0015】
図3は第1の参考形態の変形例を示す
図1と同様の図である。本変形例では深礎杭が省略され、橋脚が岩盤Rに埋め込まれている。従って、本変形例では、地下構造物1は橋脚である。橋脚の周囲の岩盤Rを橋脚と一体化することで、橋脚の周囲に基礎を設けたのと同様の効果が得られる。本変形例では深礎杭を省略できるため、施工コストの削減や工期短縮が可能となる。
【0016】
(第2の参考形態)
図4(a)は、第2の参考形態における地下構造物1と地上構造物2とストランドSの斜視図を、
図4(b)はストランドSの斜視図を示している。ここでは第1の参考形態との違いを中心に説明する。説明を省略した構成、効果等は第1の参考形態と同様である。ストランドSは、地下構造物1の周囲をらせん状に延びている。図示は省略するが、ストランドSの両端は岩盤Rに支持された定着具10に固定され、緊張されている。ストランドSの一端を線11で示すようにピット3の外側の岩盤Rまで延長し、端部をグラウトで固定してもよい。ストランドSの両端は鉛直方向にみて同じ角度位置にあるため、一つのピット3を設けるだけでよい。ストランドSの両端の角度位置は互いに異なっていてもよい。例えば、ストランドSの両端の角度位置が180度異なっていれば、第1の参考形態と同様、2つのピット3が設けられる。ストランドSの巻き数は第1の参考形態におけるストランドSの段数にほぼ相当し、必要とされる耐震性やコスト、工期を勘案して適宜設定することができる。本参考形態はストランドSの巻き数に拘わらず2つの定着具10があればよいため、定着具10の数を減らすことができる。また、ピット3も一つでいいため、施工コストの削減が可能である。
【0017】
図4(c)は第2の参考形態の変形例を示す
図4(b)と同様の図である。ストランドSは、地下構造物1の周囲をらせん状に取り囲むらせん部12と、らせん部12の上端に接続されて斜め下方に延びる上部接続部13と、らせん部12の下端に接続されて斜め上方に延びる下部接続部14とを有している。定着具10はピット3に設けられ、上部接続部13の下端と下部接続部14の上端とを連結している。本変形例ではストランドSの両端が一つの定着具10で連結されるため、定着具10の数をさらに減らすことができる。
【0018】
(第3の参考形態)
図5(a)は、第3の参考形態における地下構造物1と地上構造物2とストランドSの斜視図を、
図5(b)はストランドSの斜視図を、
図5(c)はストランドSの平面図を示している。
図5(c)では上段部のストランドSは全長に渡って示されているが、中段部と下段部のストランドSは両側の端部領域16だけが示されている。各ストランドSは、地下構造物1の全周を円状に取り囲んでいる。各ストランドSは交差部15で交差し、交差部15から両端17までの端部領域16は、地上に位置する両端17に向けて斜め上方に延びている。端部領域16は鉛直方向にみて概ね直線状に延びている。ストランドSの両端17はそれぞれ定着部10に支持されている。つまり、定着部10はストランドSの総数の2倍の数設けられている。定着部10は地上の岩盤や支持構造物に支持されている。両側の定着部10でストランドSを緊張させることによって、地下構造物1を径方向内側に押し付ける圧縮力が岩盤Rに加えられ、第1の参考形態と同様の効果が得られる。また、本参考形態ではピット3を設ける必要がないため、施工コストの削減及び工期の短縮が可能である。
【0019】
本参考形態では、互いに深さレベルの異なる3つのストランドSが設けられている。鉛直方向にみて、3つのストランドSの地下構造物1を取り囲む部分は平面的に同一経路を辿っており、地下構造物1の中心Cからの半径は同じである。交差部15は互いに120度ずれており、定着部10同士の干渉が防止されている。ストランドSの数は3つに限定されないが、交差部15は等間隔で配置することが好ましい。第1の参考形態と同様、ストランドSは、地下構造物1の上側半分の領域だけに設けることが好ましい。端部領域16の長さ、すなわち交差部15から両端17までの長さはストランドSの設置深さレベルによって異なる。具体的には、深い位置に設置されたストランドSほど、端部領域16が長くされている。これによって、端部領域16の勾配をストランドS間で揃えることができる。
【0020】
施工は以下の手順で行われる。まず、地上から案内孔を掘削する。案内孔は自在ボーリングによって掘削する。案内孔は、地上から所定の深さレベルまで下り勾配で延び、地下構造物1の周囲を全周に渡って周回し、さらに上り勾配で地上に達する。次に、各案内孔にストランドSを挿入する。ストランドSの両端17を地上に露出させ、両端17を定着具10に連結する。その後、定着具10でストランドSを緊張させる。
【0021】
図6は、第3の参考形態の変形例を示す
図5と同様の図である。各ストランドSは地下構造物1のほぼ全周を円状に取り囲んでいる。ただし、第3の参考形態と異なり、各ストランドSは構造物1の周囲を完全に取り囲んではいない。3つのストランドSは互いに120度ずれて配置されているため、地下構造物1はその中心Cに関しどの角度位置においても、少なくとも2つのストランドSで取り囲まれている。端部領域18は、各ストランドSの構造物1の周囲を取り囲んでいる部分の端部から、地上に位置する両端17に向けて斜め上方に延びている。定着具10は、各ストランドSの両端17で共用されている。端部領域18は定着具10の同じ側に設けられている。換言すれば、端部領域18は地下構造物1と定着具10との間に位置している。これによって、地下構造物1のストランドSによって取り囲まれない部分を最小化するとともに、ストランドSの敷設距離を最小化することができる。第3の参考形態と同様、深い位置に設置されたストランドSほど、端部領域18が長くされている。本変形例では第3の参考形態と比べて定着具10の数が減るため、一層のコストダウンが可能である。
【0022】
(第4の参考形態)
図7は、第4の参考形態の
図5と同様の図である。ここでは第1の参考形態との違いを中心に説明する。説明を省略した構成、効果等は第1の参考形態と同様である。本参考形態では、3つのストランドSが設けられている。各ストランドSは地下構造物1を周方向に部分的に取り囲み、両端17が地上に設置されている。各ストランドSは地下構造物1を120度の範囲で弧状に取り囲む弧状部19を有しており、3つのストランドSは互いに120度ずれている。従って、地下構造物1の全周は3つのストランドSによって取り囲まれている。ストランドSの数は3つに限定されず、2つまたは4つ以上でもよい。図示は省略するが、複数のストランドSを複数の深さレベルにそれぞれ設けてもよい。各ストランドSは、弧状部19の両端に接続された端部領域20を有している。端部領域20は弧状部19の端部から、地上に位置する両端17に向けて斜め上方に延びている。端部領域20は鉛直方向にみて概ね直線状に延びている。定着具10は、ストランドSの両端17にそれぞれ設けられている。本参考形態でも、端部領域20の長さはストランドSの設置深さレベルによって異なる。深い位置に設置されたストランドSほど、端部領域20が長くされている。これによって、端部領域20の勾配をストランドS間で揃えることができる。本参考形態では第3の参考形態と比べて各ストランドSの長さが短く、ストランドSが湾曲する範囲も限定されているため、案内孔の掘削やストランドSの設置が容易である。また、3つのストランドSは並行して施工できるため、工期短縮上有利である。なお、岩盤Rに均等に圧縮力を加えるため、3つのストランドSの緊張作業は同時に行うことが好ましい。
【0023】
図8は、第4の参考形態の変形例の
図7と同様の図である。ストランドSは異なる深さレベルに設けられている。各深さレベルのストランドSの構成は第4の参考形態と同様である。第3の参考形態の変形例と同様、定着具10は、3つのストランドSの両端17で共用されている。定着具10の数が減るため、一層のコストダウンが可能である。また、ストランドSの段数が増えても、定着部10の数は一定であるため、地上における定着部10同士の干渉を防止することが容易である。
【0024】
図9は、第4の参考形態のさらなる変形例を示す概念図であり、
図9(a)は平面図、
図9(b)は地下構造物1と2本のストランドSだけを示した平面図、
図9(c)は
図9(a)のA-A線に沿った断面図である。本参考形態では地下構造物1は矩形である。各ストランドSは地下構造物1の一辺とこれに隣接する二辺とをU字状に取り囲んでいる。4つのU字型のストランドSが互いに90度ずれて配置されている。各ストランドSは、主に地下構造物1とU字の曲線部で囲まれた半円形の領域を圧縮する。従って、
図9(a)に示すように、地下構造物1の各辺に、中央部で径方向に広く、角部で径方向に小さい半円状の一体化領域R1が形成される。
図9(c)に示すように、複数段のストランドSが設けられており、各深さレベルのストランドSの構成は同一である。端部領域21は第3、第4の参考形態と同様、地上に向けて傾斜している。ストランドSの地上に位置する端部が定着具10で支持され、定着具10によってストランドSが緊張されている。本参考形態によれば、矩形の地下構造物1でも円形の地下構造物1と同様の効果を奏することができる。地下構造物1の形状は矩形に限定されず、多角形の地下構造物1に適用できる。
【0025】
(第1の実施形態)
図10は、第1の実施形態を示す概念図であり、
図10(a)は地下構造物1の平面図を、
図10(b)は
図10(a)のA-A線に沿った断面図を示している。ここでは第1の参考形態との違いを中心に説明する。説明を省略した構成、効果等は第1の参考形態と同様である。異なる深さレベルに水平に延びる複数のストランドSが設けられている。各深さレベルでは、8本のストランドSが地下構造物1から水平方向に延び、合計4段のストランドSが設けられている。8本のストランドSは、地下構造物1を中心に等間隔で放射状に延びている。地下構造物1の側壁に沿って、各段のストランドSと同数(本実施形態では8つ)のピット3が設けられている。定着具10は地下構造物1に固定されている。ストランドSの他端はピット3の側壁から掘削された案内孔(図示せず)に挿入され、グラウトGにより岩盤Rに定着されている。本実施形態では上述の各参考形態と異なり、ストランドSの緊張によるたが効果ではなく、ストランドSの圧縮力で岩盤Rを圧縮する。第1の参考形態と同様、一体化領域R1は地下構造物1と概ね同心の環状の領域となる。ピット3が地下構造物1の側壁に沿って設けられるため、本実施形態は敷地面積が限定されている場合に有利である。
【0026】
図11は、第1の実施形態の変形例を示す
図10と同様の図である。本実施形態では地下構造物1は矩形である。各ストランドSは地下構造物1の各辺から直交する方向に延びており、さらに地下構造物1の4つの角部からもこれらのストランドSに対して45度の角度をなして延びている。ストランドSの長さは一定であるため、一体化領域R1は角部が丸められた矩形形状となる。
【0027】
(第2の実施形態)
図12は、第2の実施形態を示す概念図であり、
図12(a)は平面図、
図12(b)は
図12(a)のA-A線に沿った断面図である。ここでは第1の参考形態との違いを中心に説明する。説明を省略した構成、効果等は第1の参考形態と同様である。複数のストランドSは、地下構造物1に支持される地上構造部2から斜め下方に、地下構造物1から離れる方向に延びている。地下構造物1の頂部に橋脚の周囲を覆う円形の支持部31が設けられ、複数の定着具10が地上構造部2の一部である支持部31に設けられている。ストランドSの下端はグラウトGによって岩盤Rに定着され、ストランドSは定着具10によって緊張されている。岩盤Rには緊張力の水平成分が地下構造物1を中心に放射状に加えられる。この緊張力の水平成分によって、地下構造物1の周囲の岩盤Rが地下構造物1に向けて圧縮され、第1の実施形態と同様の効果を奏する。本実施形態では、複数段のストランドSを設けなくても鉛直方向の広い領域に圧縮力を加えることができるため、ストランドSと定着具10の数を減らすことができる。
【0028】
地上構造部2は、支持部31に円周方向のプレストレスを加えるプレストレス付与手段32を有している。支持部31はストランドSの緊張力により径方向外側を向く力を受ける。この力に対抗するため、支持部31の内部に支持部31に沿って延びる円形のPC鋼線が配置され、PC鋼線に定着具(図示せず)によって緊張力が加えられる。支持部31の径は地下構造物1の径より大きく、定着具10は地下構造物1の側面より径方向外側に配置されている。このため、ストランドSをより鉛直方向に近い角度で配置することができ、岩盤Rが深いレベルにある場合でもストランドSを岩盤Rに定着させることができる。また、ストランドSは地震時の転倒モーメントに対して抵抗するため、耐震性を向上させることができる。
【0029】
図13は、第2の実施形態の変形例を示す
図12と同様の図である。本変形例は支持部31の径が地下構造物1の径より小さいことを除き、第2の実施形態と同様である。支持部31が小さいため、敷地に余裕がない場合であってもストランドSの施工が可能である。
【0030】
図14は、第2の実施形態のさらなる変形例を示す
図12と同様の図である。本変形例は支持部31がストランドS毎に周方向に分割されていることを除き、第2の実施形態と同様である。本変形例では支持部31の物量を削減することができる。
【0031】
(第3の実施形態)
図15は、第3の実施形態を示す概念図であり、
図15(a)は平面図、
図15(b)は
図15(a)のA-A線に沿った断面図である。本実施形態では、地下構造物1は例えば円筒形の地下タンクであり、ストランドSは主にタンクの周辺の岩盤Rの遮水性を高める目的で設置される。本実施形態では、地下構造物は新設であり、ストランドSとともに設けられる。タンクの構造は限定されないが、例えば岩盤を掘削して形成した地下空洞に鉄筋コンクリート製の躯体または金属製のライナを施工したものが挙げられる。本実施形態では、水平に延びる複数のストランドSが、異なる深さレベルに、複数段(本実施形態では合計4段)設けられている。各段には複数(本実施形態では8本)のストランドSが等間隔で設けられている。ストランドSの一端はグラウトGで岩盤Rに定着され、ストランドSの他端は定着具10に接続されている。定着具10は地下構造物1の内部に設けられているが、地下構造物1の外部に設けられてもよい。
【0032】
施工は以下の手順で行われる。まず、岩盤Rを掘削し、タンクとなる円筒形の空洞を形成する。次に、空洞の側壁から案内孔を水平且つ放射状に掘削する。次に、ストランドSを案内孔に挿入する。岩盤Rの内部を空洞から放射状に延びる複数のストランドSを設ける。次に、案内孔にグラウトGを注入し、ストランドSの先端部をグラウトGで岩盤Rに定着させる。次に、空洞の側壁に定着具10を設け、ストランドSを緊張させる。これによって、ストランドSの径方向外側端部より内側の岩盤Rが径方向に圧縮する。岩盤Rには節理などの不連続面や亀裂が極めて多く分布する。このため、このような構造のタンクでは、タンク内部の液体がタンクの側壁から漏洩し、岩盤Rに浸透、拡散する可能性がある。岩盤Rに圧縮力を加えることで岩盤R内の不連続面や亀裂を閉じ、遮水性を向上させることができる。複数のストランドSを緊張させる前に岩盤Rの亀裂にグラウト材を注入してもよい。これによって、岩盤Rの遮水性がさらに向上する。
【0033】
さらに、本実施形態では鉛直に延びる複数の他のストランド(以下、鉛直ストランドS3という)と、鉛直ストランドS3を緊張させる第2の定着具33と、が設けられている。鉛直ストランドS3はストランドSの径方向外側端部より内側の岩盤Rの内部を鉛直に延びている。鉛直ストランドS3の下端はグラウトGによって岩盤Rに定着されている。複数の第2の定着具33は地上構造物2に設けられ、複数の鉛直ストランドS3を緊張させる。これによってストランドSの下側端部より上部の岩盤Rを圧縮させる。水平方向に延びるストランドSは岩盤Rに径方向の圧縮力を作用させるため、鉛直方向に延びる不連続面や亀裂に対しては有効であるが、水平方向に延びる不連続面や亀裂に対しては、これらを閉じる方向の圧縮力が効率的に作用しない。鉛直ストランドS3は岩盤Rを鉛直方向に圧縮するため、水平方向に延びる不連続面や亀裂に対して有効である。鉛直ストランドS3の施工手順は以下の通りである。まず、地上から案内孔を鉛直に掘削する。次に、ストランドSを案内孔に挿入する。次に、案内孔にグラウトGを注入し、ストランドSの先端部をグラウトGで岩盤Rに定着させる。次に、地上に第2の定着具33を設け、ストランドSを緊張させる。これによって、ストランドSの下側端部より上部の岩盤Rが鉛直方向に圧縮される。
【0034】
図15(c)はタンクが既設の場合のストランドSと、鉛直ストランドS3と、ピット3の配置を示す。ストランドSの一端は地下構造物1に固定され、定着具10はストランドSの径方向外側端部に設けられている。これは、タンクが既設の場合、定着具10をタンクの側面に配置することが困難であるためである。本変形例の施工手順は以下の通りとなる。まず、タンクの径方向外側にピット3を設け、ピット3の側壁から案内孔を掘削する。次に、案内孔にストランドSを挿入し、ストランドSの端部をグラウトGでタンクの側面に定着させる。次に、ピット3の側方に定着具10を設け、ストランドSを緊張させる。これによって、ストランドSの径方向外側端部より内側の岩盤Rが径方向に圧縮する。鉛直ストランドS3は上述の方法で施工する。
【0035】
図示は省略するが、ストランドSと鉛直ストランドS3を地下構造物1より深い深度まで設置することもできる。地下構造物1の直下の岩盤Rが圧縮されるため、地下構造物1の底部からの液体の漏洩の可能性を低減することができる。
【0036】
(解析例)
図10に示す第1の実施形態について、岩盤Rの3次元FEM解析を行った。
図16(a)は地下構造物1と、地下構造物1に支持された地上構造物2と、岩盤Rの3次元FEM解析モデルを示している。地上構造物2に図示の位置で水平方向の荷重を加え、地上構造物2、地下構造物1及び岩盤Rの水平変位を求めた。水平方向の力は地震時の水平力を模擬している。解析は、ストランドSを配置しない場合(比較例)、地下構造物1の上部から下部に渡って10段のストランドSを配置した場合(実施例1)、地下構造物1の上部のみに5段のストランドSを配置した場合(実施例2)について実施した。
図16(b)は実施例1における変位のコンター図であり、薄い色は変位が大きく、濃い色は変位が小さいことを示している。これより、地下構造物1の周囲の岩盤Rが地下構造物1とほぼ同じ挙動を示すことがわかる。これは、上述の通り、岩盤Rに作用する圧縮力のため、岩盤Rが地下構造物1に抱き込まれ、あるいは地下構造物1と一体化されたためであると考えられる。他の実施形態及び参考形態についても同様の結果が得られると考えられる。
【0037】
図16(c)は比較例と実施例1,2における水平荷重と変位の関係を示している。変位は地下構造物1の頂部の中央における水平変位である。実施例1,2では比較例と比べて変位が減少しており、基礎の耐震性能が向上していることが分かる。一方、実施例1と実施例2では大きな差異はない。実施例2はストランドSや定着具10の数が減るだけでなく、ピット3の深さも半減するため、施工コストの削減や工期短縮の点で実施例1より有利である。従って、ストランドSは、地下構造物1の上側半分の領域だけに設けることが好ましい。
【符号の説明】
【0038】
1 地下構造物
2 地上構造物
3 ピット
10,33 定着具
12 らせん部
13 上部接続部
14 下部接続部
32 プレストレス付与手段
100 圧縮装置
G グラウト
R 岩盤
S ストランド
S1,S2 分割ストランド
S3 他のストランド(鉛直ストランド)