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特許7574406無機酸化物粉末、樹脂組成物及び圧縮成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】無機酸化物粉末、樹脂組成物及び圧縮成形品
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/02 20220101AFI20241021BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241021BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241021BHJP
   C01F 7/022 20220101ALN20241021BHJP
   C01F 7/027 20220101ALN20241021BHJP
【FI】
C01F7/02
C08K3/22
C08L101/00
C01F7/022
C01F7/027
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023509089
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2022012146
(87)【国際公開番号】W WO2022202583
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2021053525
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】相京 輝洋
(72)【発明者】
【氏名】川畑 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】山口 純
(72)【発明者】
【氏名】山下 敦司
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-210570(JP,A)
【文献】特開2002-128520(JP,A)
【文献】特開平09-194242(JP,A)
【文献】特開2005-089293(JP,A)
【文献】特開2003-003074(JP,A)
【文献】特開2001-064522(JP,A)
【文献】特開平07-278415(JP,A)
【文献】特開2011-207662(JP,A)
【文献】特開2005-239892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 13/14 - 13/36
C01B 33/113 - 33/46
C01D 1/02
C01D 15/02
C01F 7/02 - 7/476
C01G
C08K 3/20 - 3/22
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積基準の頻度粒度分布において、粒径が0.001μm以上10μm以下の範囲に位置する第1領域の累積頻度に対する、粒径が0.001μm以上20μm以下の範囲に位置する第2領域の累積頻度の比の値(第2領域の累積頻度/第1領域の累積頻度)が1.2~1.4であり、
粒径が0.001μm以上10μm以下の範囲に位置する第1領域の累積頻度に対する、粒径が0.001μm以上35μm以下の範囲に位置する第3領域の累積頻度の比の値(第3領域の累積頻度/第1領域の累積頻度)が1.4~2.2であり、
前記第3領域の累積頻度が、70~95体積%であり、
BET法による比表面積が、0.5~2.0m /gであり、
シリカ(SiO )、アルミナ(Al )、チタニア(TiO )、マグネシア(MgO)、カルシア(CaO)から選択される1以上の金属酸化物粉末を含む、無機酸化物粉末。
【請求項2】
粒径が0.01μm以上70μm以下の範囲の累積頻度が90体積%以上である、請求項に記載の無機酸化物粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の無機酸化物粉末と樹脂とを含む、樹脂組成物。
【請求項4】
圧縮成形品の製造に用いられる、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
無機酸化物粉末と樹脂とを含む、圧縮成形品の製造に用いられる樹脂組成物であって、
無機酸化物粉末が、
体積基準の頻度粒度分布において、粒径が0.001μm以上10μm以下の範囲に位置する第1領域の累積頻度に対する、粒径が0.001μm以上20μm以下の範囲に位置する第2領域の累積頻度の比の値(第2領域の累積頻度/第1領域の累積頻度)が1.2~1.4であり、
粒径が0.001μm以上10μm以下の範囲に位置する第1領域の累積頻度に対する、粒径が0.001μm以上35μm以下の範囲に位置する第3領域の累積頻度の比の値(第3領域の累積頻度/第1領域の累積頻度)が1.4~2.2であり、
前記第3領域の累積頻度が、70~95体積%である、
圧縮成形品の製造に用いられる、樹脂組成物。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、圧縮成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物粉末、樹脂組成物及び圧縮成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ICの高機能化及び高速化の進展に伴い、その発熱量は増大傾向にあり、封止材等の電子部品に用いられる樹脂に対しても高い熱放散性を実現する要求が高まっている。従来、樹脂の高い熱放散性を実現するために、樹脂中に熱伝導性が高い無機粉末を高含有量で充填することが行われている。熱伝導性が高い無機粉末としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、結晶シリカ等が知られている。しかし、熱伝導性が高い無機粉末を樹脂中に高充填すると樹脂の流動性が低下してしまい、成形性に劣る場合がある。
特許文献1には、粒度分布において所定の範囲内に少なくとも2つ以上の頻度極大ピークを有する所定の平均粒子径の球状アルミナ粉末と所定の平均粒径及び比表面積の球状シリカ粉末とを所定の割合で含有する高熱伝導性無機質粉末が記載されている。この高熱伝導性無機粉末によれば、樹脂に高充填しても容易に高粘度化しない、高流動性かつ低バリ特性を有する高熱伝導性樹脂組成物を調製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-244491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子部品の樹脂封止の成形方法として、トランスファーモールド法とコンプレッションモールド(圧縮成形)法とが知られている。トランスファーモールド法は、予め保温された金型のポット内にタブレット状の樹脂を投入し、溶融された樹脂をブランジャーでキャビティ内へ充填する成形方法である。コンプレッションモールド法は、パウダー又は顆粒状の樹脂組成物をキャビティ内に供給し、溶融された樹脂組成物にワークを押し当てて圧縮成形する方法である。コスト低減の観点からは、コンプレッションモールド法が望ましい。コンプレッションモールド法において成形性を高めるためには、用いられる樹脂組成物は、高せん断時の流動性に優れるだけでなく、低せん断時の流動性にも優れることが求められる。すなわち、低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比が小さい樹脂組成物を与えることができる無機酸化物粉末が求められている。
【0005】
本発明は、低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比が小さい樹脂組成物を与えることができる無機酸化物粉末、無機酸化物粉末を含む樹脂組成物、樹脂組成物を成形してなる圧縮成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1]体積基準の頻度粒度分布において、粒径が0.001μm以上10μm以下の範囲に位置する第1領域の累積頻度に対する、粒径が0.001μm以上20μm以下の範囲に位置する第2領域の累積頻度の比の値(第2領域の累積頻度/第1領域の累積頻度)が1.2~1.4であり、粒径が0.001μm以上10μm以下の範囲に位置する第1領域の累積頻度に対する、粒径が0.001μm以上35μm以下の範囲に位置する第3領域の累積頻度の比の値(第3領域の累積頻度/第1領域の累積頻度)が1.4~2.2であり、前記第3領域の累積頻度が、70~95体積%である、無機酸化物粉末。
[2]BET法による比表面積が、0.5~2.0m/gである、[1]に記載の無機酸化物粉末。
[3]粒径が0.01μm以上70μm以下の範囲の累積頻度が90体積%以上である、[1]又は[2]に記載の無機酸化物粉末。
[4][1]から[3]のいずれかに記載の無機酸化物粉末と樹脂とを含む、樹脂組成物。
[5]圧縮成形品の製造に用いられる、[4]に記載の樹脂組成物。
[6][4]又は[5]に記載の樹脂組成物を含む、圧縮成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比が小さい樹脂組成物を与えることができる無機酸化物粉末、無機酸化物粉末を含む樹脂組成物、樹脂組成物を成形してなる圧縮成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。本明細書において、数値範囲に関する「X~Y」との記載は、X以上Y以下であることを意味している。
【0009】
[無機酸化物粉末]
本実施形態に係る無機酸化物粉末は、体積基準の頻度粒度分布において、
粒径が0.001μm以上10μm以下の範囲に位置する第1領域の累積頻度に対する、粒径が0.001μm以上20μm以下の範囲に位置する第2領域の累積頻度の比の値(第2領域の累積頻度/第1領域の累積頻度)が1.2~1.4であり、
粒径が0.001μm以上10μm以下の範囲に位置する第1領域の累積頻度に対する、粒径が0.001μm以上35μm以下の範囲に位置する第3領域の累積頻度の比の値(第3領域の累積頻度/第1領域の累積頻度)が1.4~2.2であり、
前記第3領域の累積頻度が、70~95体積%である。
このように設計された無機酸化物粉末は、低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比が小さい樹脂組成物を与えることができる。低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比が小さい樹脂組成物は、コンプレッションモールド法において、樹脂にワークを押し当てる際に初めから終わりまで粘度が低く保たれるので、成形性に優れている。
加えて、このように設計された無機酸化物粉末は、溶融時の流動性に優れる樹脂組成物を与えることができる。その結果、コンプレッションモールド法においてより成形性を高めることができる。
【0010】
「体積基準の頻度粒度分布」は、レーザー回折光散乱法(屈折率:1.68)により測定され、横軸を粒径(μm)、縦軸を体積基準の頻度(%)とする分布曲線で表される。無機酸化物粉末は、体積基準の頻度粒度分布において、少なくとも一つのピークを有していることが好ましい。ピークはショルダーを有していてもよい。
「粒径」は、体積基準の頻度粒度分布の横軸に表される数値とする。
「ピーク」は、体積基準の頻度粒度分布において一つの極大値を有している分布曲線を意味している。
「ショルダー」は、ピークから完全に分離していない不完全なピーク(すなわち、ピークを構成する分布曲線の傾斜の途中に膨らみが形成されている段差部分)であり一つの極大値を有する又は有しない分布曲線を意味している。
「極大値」は、体積基準の頻度粒度分布において曲線の傾きが正から負へと変わる境界のことを意味している。
【0011】
「領域」は、ここでは、体積基準の頻度粒度分布において、極大値の有無及び数に関わらず、所定の粒径を有する範囲に位置する分布曲線を意味している。
「第1領域」は、体積基準の頻度粒度分布において粒径が0.001~10μmの範囲に位置する分布曲線の一領域を意味している。
「第2領域」は、体積基準の頻度粒度分布において粒径が0.001~20μmの範囲に位置する分布曲線の一領域を意味している。なお、第2領域には第1領域が含まれている。
「累積頻度」は、体積基準の頻度粒度分布の所定の粒径範囲における頻度(%)の累積値のことを意味している。
「低せん断時の粘度」は、E型粘度計を用い、温度30℃、1rpmの回転数により測定した粘度を意味している。
「高せん断時の粘度」は、E型粘度計を用い、温度30℃、10rpmの回転数により測定した粘度を意味している。
【0012】
(第2領域の累積頻度/第1領域の累積頻度)
無機酸化物粉末は、体積基準の頻度粒度分布において、粒径が0.001~10μmの範囲に位置する第1領域の累積頻度に対する、粒径が0.001~20μmの範囲に位置する第2領域の累積頻度の比の値(第2領域の累積頻度/第1領域の累積頻度)が、1.2~1.4である。第1領域の累積頻度に対する第2領域の累積頻度の比の値を1.2~1.4とすることで、低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比が小さい樹脂組成物を与えることができる。
【0013】
従来、粒径が異なる小径粒子、中径粒子、及び大径粒子の複数の無機酸化物粉末を配合して中径粒子及び/又は大径粒子の隙間を小径粒子で埋めることで最密充填構造を形成させ流動性に優れた樹脂組成物とすることが試みられている。本実施形態に係る無機酸化物粉末は、流動性に優れるだけでなく、低せん断時の粘度が低い樹脂組成物を与えることができる。この理由は現段階では明らかではないが、第1領域の累積頻度に対する第2領域の累積頻度の比の値を1.2~1.4とすることで、小径粒子(粒径が10μm以下の微粒子)の凝集が抑制されて低せん断時における粒子の動きやすさが向上するためであると推測される。
【0014】
第1領域の累積頻度に対する第2領域の累積頻度の比の値(第2領域の累積頻度/第1領域の累積頻度)は、1.2~1.3、又は1.3~1.4とすることもできる。
【0015】
無機酸化物粉末は、流動性の観点から、第1領域の累積頻度が、30~70%であることが好ましく、35~70%であることがより好ましく、40~65%であることがさらに好ましい。一実施形態において、第1領域の累積頻度は、42~58%である。
【0016】
無機酸化物粉末は、流動性の観点から、第2領域の累積頻度が、40~80%であることが好ましく、45~75%であることがより好ましく、50~70%であることがさらに好ましい。一実施形態において、第2領域の累積頻度は、54~75%である。
【0017】
一実施形態において、無機酸化物粉末は、体積基準の頻度粒度分布において、粒径が0.01~10μmの範囲である第1a領域の累積頻度に対する、粒径が0.01~20μmの範囲である第2a領域の累積頻度の比の値(第2a領域の累積頻度/第1a領域の累積頻度)が、1.2~1.4である。第1a領域の累積頻度に対する第2a領域の累積頻度の比の値(第2a領域の累積頻度/第1a領域の累積頻度)は、1.2~1.3又は1.3~1.4とすることもできる。
無機酸化物粉末は、流動性の観点から、第1a領域の累積頻度が、30~70%であることが好ましく、35~70%であることがより好ましく、40~65%であることがさらに好ましい。一実施形態において、第1a領域の累積頻度は、42~58%であり得る。
無機酸化物粉末は、流動性の観点から、第2a領域の累積頻度が、40~80%であることが好ましく、45~75%であることがより好ましく、50~70%であることがさらに好ましい。一実施形態において、第2a領域の累積頻度は、54~75%であり得る。
【0018】
一実施形態において、無機酸化物粉末は、体積基準の頻度粒度分布において、粒径が0.1~10μmの範囲である第1b領域の累積頻度に対する、粒径が0.1~20μmの範囲である第2b領域の累積頻度の比の値(第2b領域の累積頻度/第1b領域の累積頻度)が、1.2~1.4である。第1b領域の累積頻度に対する第2b領域の累積頻度の比の値(第2b領域の累積頻度/第1b領域の累積頻度)は、1.2~1.3又は1.3~1.4とすることもできる。
無機酸化物粉末は、流動性の観点から、第1b領域の累積頻度が、30~70%であることが好ましく、35~70%であることがより好ましく、40~65%であることがさらに好ましい。一実施形態において、第1b領域の累積頻度は、42~58%であり得る。
無機酸化物粉末は、流動性の観点から、第2b領域の累積頻度が、40~80%であることが好ましく、45~75%であることがより好ましく、50~70%であることがさらに好ましい。一実施形態において、第2b領域の累積頻度は、54~75%であり得る。
【0019】
第1領域(粒径:0.001~10μm)の累積頻度に対する第2領域(0.001~20μm)の累積頻度の比の値を1.2~1.4に調整する方法としては、例えば、第1及び第2領域の累積頻度を上記した好ましい範囲に調整する方法等が挙げられる。
なお、累積頻度の調整は、粒度を調整した原料粉末の配合量を調整することや、篩分けや分級等で行うことができる。
【0020】
(第3領域の累積頻度/第1領域の累積頻度)
無機酸化物粉末は、体積基準の頻度粒度分布において、粒径が0.001~10μmの範囲に位置する第1領域の累積頻度に対する、粒径が0.001~35μmの範囲に位置する第3領域の累積頻度の比の値(第3領域の累積頻度/第1領域の累積頻度)が、1.4~2.2であることが好ましく、1.5~2.0であることがより好ましい。
第1領域の累積頻度に対する第3領域の累積頻度の比の値を1.4~2.2とすることで、流動性の高い樹脂組成物を与えることができる。
「第3領域」は、体積基準の頻度粒度分布において粒径が0.001~35μmの範囲に位置する分布曲線の一領域を意味している。「第1領域」については、上述のとおりである。なお、第3領域には第1領域及び第2領域が含まれている。
【0021】
無機酸化物粉末は、樹脂組成物の流動性の観点から、第3領域の累積頻度が、70~95%であり、75~95%であることが好ましく、75~90%であることがより好ましい。第1領域の累積頻度については上述のとおりである。一実施形態において、第3領域の累積頻度は、77~94%であり得る。
【0022】
第1領域(粒径:0.001~10μm)の累積頻度に対する第3領域(粒径:0.001~35μm)の累積頻度の比の値を1.4~2.2に調整する方法としては、例えば、第1~3領域の累積頻度を上記した好ましい範囲に調整する方法等が挙げられる。なお、累積頻度の調整は、粒度を調整した原料粉末の配合量を調整することや、篩分けや分級等で行うことができる。
【0023】
無機酸化物粉末は、体積基準の頻度粒度分布において、少なくとも、一つのピークを有していることが好まく、2以上のピークを有する場合、流動性に優れた樹脂組成物を与えることができる。
【0024】
(無機酸化物粉末)
無機酸化物粉末としては、金属酸化物粉末が挙げられる。金属酸化物粉末としては、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、マグネシア(MgO)、カルシア(CaO)等の無機質粉末が挙げられる。無機質粉末は、これらから選択される1以上の金属酸化物粉末を含むことが好ましく、アルミナを含むことがより好ましく、アルミナであることがさらに好ましい。樹脂への高充填化の観点から、球状のアルミナを含むことが好ましい。「球状」とは、走査型電子顕微鏡を用いて100倍で観察したときに円形状又は丸みを帯びた粒形状に観察されることを意味する。一実施形態において、無機酸化物粉末は、アルミナを90質量%以上、又は92質量%以上含む。一実施形態において、無機酸化物粉末は、球状非晶質アルミナを90質量%以上、又は92質量%以上含む。
【0025】
無機酸化物粉末は、BET法による比表面積が、0.5~2.0m/gであることが好ましく、0.8~1.8m/gであることがより好ましく、1.0~1.5m/gであることがさらに好ましく、1.1~1.5m/gであることが特に好ましい。BET法による比表面積が、0.5~2.0m/gであることで、粘度を所定の範囲に調整することができる。
BET法による比表面積は、例えば「Macsorb HM model-1208」(MACSORB社製)等の比表面積測定機を用いて測定することができる。
比表面積の調整方法は、配合する無機酸化物粉末の粒径、比率を変えることで行うことができる。
【0026】
無機酸化物粉末は、体積基準の頻度粒度分布において、好ましくは粒径が0.01μm以上70μm以下の範囲における累積頻度が、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましい。一実施形態において、無機酸化物粉末は、粒径が0.01μm以上70μm以下の範囲の累積頻度が100%であり得る。
無機酸化物粉末は、体積基準の頻度粒度分布において、好ましくは粒径が0.01μm以上60μm以下の範囲おける累積頻度が、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましい。一実施形態において、無機酸化物粉末は、粒径が0.01μm以上60μm以下の範囲の累積頻度が100%であり得る。
無機酸化物粉末は、体積基準の頻度粒度分布において、好ましくは粒径が1μm以上50μm以下の範囲における累積頻度が、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましい。一実施形態において、無機酸化物粉末は、粒径が1~50μmの範囲の累積頻度が100%であり得る。
【0027】
無機酸化物粉末は、体積基準累積50%径D50が、樹脂組成物の流動性、粘度の観点から、5~20μmであることが好ましく、5~15μmであることがより好ましい。体積基準累積50%径D50は、レーザー回折光散乱法(屈折率:1.68)により測定される体積基準の累積粒度分布において、累積値が50%に相当する粒子径である。
【0028】
無機酸化物粉末の製造は、市販の所定の粒度分布を有する無機酸化物粉末を混合して製造してもよく、既存の溶射技術によって製造してもよい。生産性、生産コストの観点から、溶射技術によることが好ましい。既存の溶射技術は、例えば「製綱窯炉に対する溶射捕集技術について 製鉄研究1982第310号」を基本とし、水素、メタン、天然ガス、アセチレンガス、プロパンガス、ブタン等の燃料ガスとで形成された高温火炎中に原料粉末を投入し、溶融球状化させることが挙げられる。製造装置の一例は、球状化炉と、その炉に接続された捕集装置とを基本構成としているものである。球状化炉で製造された球状無機酸化物粉末は、ブロワー等にて空気輸送され捕集装置で回収される。球状無機酸化物粉末は、捕集装置による捕集前及び/又は捕集後に、必要に応じて、分級される。球状化炉本体と輸送配管等は水冷ジャケット方式で水冷されていることが好ましい。捕集装置としては、サイクロン、重力沈降、ルーバー、バグフィルター等が用いられる。捕集温度は、可燃ガスの量による発熱量とブロワーの吸引量によって決定され、その調整は冷却水量や、ライン内に設けられた外気の取り入れ量等で行われる。球状アルミナ粉末の製造用原料としては、水酸化アルミニウム、アルミナ、金属アルミニウム等が使用される。
原料粉末はあらかじめ粒度を製品粒度(目的とする無機酸化物粉末と同じ粒度)に調整しておくことが望ましいが、球状化処理後に分級処理して粒度調整を行うこともできる。また、同じ組成を有する球状無機質粉末であっても粒径が異なる数種の原料を分別して溶融球状し、後に混合し調整して得ることもできる。
混合は、例えば、常温の条件下で、既知のブレンダー、ミキサー等の機器を用いて行うことができる。
【0029】
無機酸化物粉末は、シランカップリング剤等の表面処理を行うことによって、粉末の吸水率を低減させ、樹脂組成物の高強度化、更には樹脂と粉末との間の界面抵抗を低下させ、熱伝導率を一段と向上させることができる。
シランカップリング剤としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β(3,4-エポキシシンクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシリメトキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等、その他表面処理剤として、Zrキレート、チタネートカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等を用いることができる。
【0030】
(用途)
無機酸化物粉末は、電子機器用の半導体封止材、接着剤、放熱シート等の製造に好ましく用いることができる。特に、低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比が小さい樹脂組成物を与えることができるので、圧縮成形品の製造に好ましく用いることができる。
【0031】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記した無機酸化物粉末と樹脂とを含む。無機酸化物粉末については、上述のとおりである。
無機酸化物粉末の含有量は、耐熱性、機械強度等の観点から、樹脂組成物中に、好ましくは80~95質量%であり、より好ましくは85~95質量%であり、さらに好ましくは90~95質量%である。一実施形態において、無機酸化物粉末の含有量は、樹脂組成物中に80質量%を超え95質量%以下であり得る。
【0032】
樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等が挙げられ、これらから選択される1以上を含むことが好ましい。
【0033】
樹脂組成物が封止用成形材料である場合、樹脂にはエポキシ樹脂が用いられることが好ましい。エポキシ樹脂としては、一分子中にエポキシ基を二個以上有するエポキシ樹脂であればいかなるものでも使用可能である。その具体例をあげれば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノール類とアルデヒド類のノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールSなどのグリシジルエーテル、フタル酸やダイマー酸などの多塩基酸とエポクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル酸エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、アルキル変性多官能エポキシ樹脂、β-ナフトールノボラック型エオキシ樹脂、1,6-ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、2,7-ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスヒドロキシビフェニル型エポキシ樹脂、更には難燃性を付与するために臭素などのハロゲンを導入したエポキシ樹脂等である。
【0034】
樹脂の含有量は、好ましくは5~20質量%であり、より好ましくは5~15質量%であり、さらに好ましくは5~10質量%である。
【0035】
エポキシ樹脂を含む場合の硬化剤としては、例えば、フェノールアラルキル樹脂;フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、クロロフェノール、t-ブチルフェノール、ノニルフェノール、イソプロピルフェノール、オクチルフェノール等の群から選ばれた1種又は2種以上の混合物をホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド又はパラキシレンとともに酸化触媒下で反応させて得られるフェノールノボラック型樹脂;ポリパラヒドロキシスチレン樹脂;ビスフェノールAやビスフェノールS等のビスフェノール化合物;ピロガロールやフロログルシノール等の3官能フェノール類;無水マレイン酸、無水フタル酸や無水ピロメリット酸等の酸無水物;メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン等が挙げられる。
硬化剤との反応を促進させるために硬化促進剤を配合することができる。硬化促進剤としては、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7,トリフェニルホスフィン、ベンジルジメチルアミン、2-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0036】
樹脂組成物には、必要に応じてその他の添加剤を配合することができる。その他の添加剤としては、低応力化剤として、シリコーンゴム、ポリサルファイドゴム、アクリル系ゴム、ブタジエン系ゴム、スチレン系ブロックコポリマーや飽和型エラストマー等のゴム状物質、上述した樹脂以外の、各種熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂状物質、更にはエポキシ樹脂やフェノール樹脂の一部又は全部をアミノシリコーン、エポキシシリコーン、アルコキシシリコーンなどで変性した樹脂等、難燃助剤として、Sb、Sb、Sb等、難燃剤として、ハロゲン化エポキシ樹脂やリン化合物等、着色剤として、カーボンブラック、酸化鉄、染料、顔料等が挙げられる。
【0037】
樹脂組成物は、低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比が小さいので、圧縮成形する場合でも成形性に優れており、半導体チップ等の被加工材(ワーク)を隙間なく封止することができる。
【0038】
樹脂組成物は、低せん断時の粘度として、E型粘度計を用い、温度30℃、1rpmの回転数により測定した粘度が45~70Pa・sであることが好ましく、45~65Pa・sであることがより好ましい。低せん断時の粘度を45~70Pa・sにすることで、コンプレッションモールド(圧縮成形)法において、樹脂組成物にワークを押し当て始めの段階で粘度が低く保たれるので、ワイヤー変形への影響が少なく、成形性に優れている。
【0039】
樹脂組成物は、高せん断時の粘度として、E型粘度計を用い、温度30℃、10rpmの回転数により測定した粘度が35~55Pa・sであることが好ましく、40~55Pa・sであることがより好ましい。高せん断時の粘度を35~55Pa・sにすることで、コンプレッションモールド(圧縮成形)法における高せん断時の粘度が低く保たれるので、成形性に優れている。
【0040】
樹脂組成物は、上記した低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比の値(低せん断時の粘度/高せん断時の粘度)が、1.5未満であることが好ましく、1.4以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましい。低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比の値が1.5未満である場合は、コンプレッションモールド(圧縮成形)法において、樹脂組成物にワークを押し当てる際に初めから終わりまで粘度が低く保たれるので、成形性に優れている。
【0041】
樹脂組成物の製造は、上記各材料の所定量を撹拌、溶解、混合、分散させることにより行うことができる。これらの混合物の混合、撹拌、分散等の装置としては、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー等を用いることができる。またこれらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0042】
(用途)
樹脂組成物は、電子機器用の半導体封止材、接着剤、放熱シート等の製造に好ましく用いることができる。特に、低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比が小さいので、圧縮成形品の製造に好ましく用いることができる。
【0043】
[圧縮成形品]
本実施形態に係る圧縮成形品は、上記した樹脂組成物を含む。圧縮成形品の製造方法は、公知のコンプレッションモールド法を用いることができる。例えば、圧縮成型機を用いて、温度180℃、圧力8MPaの条件下で、加熱硬化させることにより樹脂組成物を圧縮成形して製造することができる。
【0044】
圧縮成形品は、低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比が小さい樹脂組成物を含むので、半導体チップ等の被加工材を隙間なく、ボイドが極めて少なく封止することができる等の特性を有している。そのため、圧縮成形品は、電子機器用の半導体封止材、接着性部材、放熱シート等として好ましく用いることができる。
【実施例
【0045】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0046】
[実施例1~6、比較例1~6]
平均粒径(D50)が2~45μmの範囲に極大値を有するアルミナ原料粉末を、燃料ガスとしてLPG、助燃ガスとして、酸素を用いて形成された高温火炎中に投入し、溶融球状化させることによって無機酸化物粉末(球状アルミナ粉末)を作製した。
各粒度領域の累積頻度は、原料粉末の配合量を調整することや、篩分けや分級等で行うことで、表1に記載の値に調整した。
【0047】
(頻度粒度分布)
得られた無機酸化物粉末について、粒度分布測定機(ベックマン・コールター株式会社製、「LS-13230」)を用いて、屈折率1.68及び測定溶媒として、水を用い、前処理条件として、60秒間、超音波ホモジナイザー200Wの条件で、レーザー回折光散乱法による体積基準の頻度粒度分布を測定した。
得られた頻度粒度分布から、第1領域~第3領域の各領域における累積頻度を求めた。また、第1領域の累積頻度に対する第2領域の累積頻度の比の値、及び、第1領域の累積頻度に対する第3領域の累積頻度の比の値をそれぞれ算出した。結果を表1に示す。なお、実施例及び比較例のいずれも粒径が0.01μm以上70μm以下の範囲の累積頻度が90%以上であった。
【0048】
(比表面積)
得られた無機酸化物粉末を1.0g計量し、測定用のセルに投入、前処理後、BET比表面積値を測定した。結果を表1に示す。測定機はMACSORB社製「Macsorb HM model-1208」を使用した。以下に前処理条件を示す。
脱気温度:300℃
脱気時間:18分
冷却時間:4分
【0049】
次いで、得られた各無機酸化物粉末を以下の材料と、以下の配合量で、ヘンシェルミキサ(日本コークス工業社製「FM-20C/I」)を用いて、常温、回転数2000rpmの条件下で混合し、樹脂組成物を得た。作製した上記の球状アルミナ粉末90質量部と、ビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製YX-4000HK)5.5質量部と、フェノール樹脂(フェノールアラルキル樹脂、明和化成株式会社製MEHC-7800S)4.8質量部と、トリフェニルホスフィン(北興化学工業株式会社製:TPP)0.15質量部と、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン信越化学工業株式会社製:KBM-573)0.35質量部とをドライブレンドした。その後、同方向噛み合い二軸押出混練機(スクリュー径D=25mm、L/D=10.2、パドル回転数50~120rpm、吐出量3.0kg/Hr、混練物温度98~100℃)で加熱混練し、樹脂組成物を得た。
【0050】
(流動性)
得られた各樹脂組成物について、以下に示す方法で流動性を測定した。結果を表1に示す。
スパイラルフロー金型を用い、EMMI-1-66(Epoxy Molding Material Institute;Society of Plastic Industry)に準拠して行った。金型温度は175℃、成型圧力7.4MPa、保圧時間90秒とした。200cm以上であるものを○(優)として、200cm未満であるものと不良(×)として評価した。
【0051】
(粘度)
得られた無機酸化物粉末について、以下に示す方法でエポキシ樹脂に配合した際の粘度(低せん断時及び高せん断時)を測定した。得られた値を用いて低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比の値を算出した。結果を表1に示す。
ビスフェノールF型であるエポキシ樹脂(三菱化学社製:エピコート807、エポキシ当量170、粘度4Pa・s)20質量%と作製した上記の球状アルミナ粉末80質量%とからなる樹脂組成物を作製し、低せん断時の粘度として、E型粘度計(東機産業社製商品名「TVE-10」)を用い、温度30℃、1rpmの回転数により樹脂組成物の粘度測定を行った。高せん断時の粘度として、E型粘度計(東機産業社製商品名「TVE-10」)を用い、温度30℃、10rpmの回転数により樹脂組成物の粘度測定を行った。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、実施例で得られた無機酸化物粉末(球状アルミナ粉末)を含む樹脂組成物は、低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比が1.5未満であり、低せん断時の粘度と高せん断時の粘度との比が小さい。そのため、コンプレッションモールド法において樹脂組成物にワークを押し当てる際に初めから終わりまで粘度が低く保たれる。その結果、優れた成形性で圧縮成形品を製造することができる。