(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】果物及び野菜中の芳香物質の含有量及び遺伝子発現を増加させるために水素リッチな水を使用する方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/06 20060101AFI20241021BHJP
A01P 13/00 20060101ALI20241021BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20241021BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20241021BHJP
A01N 33/18 20060101ALI20241021BHJP
A01N 37/26 20060101ALI20241021BHJP
A01N 43/28 20060101ALI20241021BHJP
A01N 47/38 20060101ALI20241021BHJP
A01N 47/24 20060101ALI20241021BHJP
A01N 43/16 20060101ALI20241021BHJP
A01N 37/46 20060101ALI20241021BHJP
A01N 43/36 20060101ALI20241021BHJP
A01N 43/54 20060101ALI20241021BHJP
A01N 43/12 20060101ALI20241021BHJP
A01N 43/56 20060101ALI20241021BHJP
A01N 43/40 20060101ALI20241021BHJP
A01N 43/00 20060101ALI20241021BHJP
A01N 47/06 20060101ALI20241021BHJP
A01N 43/80 20060101ALI20241021BHJP
A01N 53/06 20060101ALI20241021BHJP
A01N 47/40 20060101ALI20241021BHJP
A01N 47/12 20060101ALI20241021BHJP
C05G 5/20 20200101ALI20241021BHJP
A01G 22/05 20180101ALI20241021BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20241021BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20241021BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20241021BHJP
【FI】
A01G7/06 Z
A01P13/00
A01P7/04
A01P3/00
A01N33/18 B
A01N37/26
A01N43/28
A01N47/38 B
A01N47/24 G
A01N43/16 A
A01N37/46
A01N43/36 A
A01N43/54 A
A01N43/12 Z
A01N43/56 D
A01N43/40 101J
A01N43/00
A01N47/06 D
A01N43/80 101
A01N53/06 150
A01N47/40 Z
A01N47/12 Z
A01N43/54 D
C05G5/20
A01G22/05 A
C12N15/54
C12N15/60
C12N15/53
(21)【出願番号】P 2023513430
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 CN2021117890
(87)【国際公開番号】W WO2022053037
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】202010959454.7
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202110791343.4
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202110791514.3
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】507255592
【氏名又は名称】南京▲農業▼大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード-ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】シェン、ウェンピャオ
(72)【発明者】
【氏名】ツォン、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ロンナー
(72)【発明者】
【氏名】サンダー、エム.
(72)【発明者】
【氏名】ワン、シュー
(72)【発明者】
【氏名】チョン、スー
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ユーハオ
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108370748(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0135295(US,A1)
【文献】特開2012-034649(JP,A)
【文献】特開2019-097395(JP,A)
【文献】特開2010-075095(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037819(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/06
A01P 13/00
A01P 7/04
A01P 3/00
A01N 33/18
A01N 37/26
A01N 43/28
A01N 47/38
A01N 47/24
A01N 43/16
A01N 37/46
A01N 43/36
A01N 43/54
A01N 43/12
A01N 43/56
A01N 43/40
A01N 43/00
A01N 47/06
A01N 43/80
A01N 53/06
A01N 47/40
A01N 47/12
C05G 5/20
A01G 22/05
C12N 15/54
C12N 15/60
C12N 15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果物及び野菜の芳香物質の含有量を増加させるために水素リッチな水を使用する方法であって、水素リッチな水で圃場が灌漑される期間内に、水素リッチな水の出口水素濃度は設定値以上に保たれることを特徴とし
、
前記水素リッチな水の前記出口水素濃度の前記設定値は、500ppbであり、
前記果物及び野菜は、芳香性の香りを有する果物及び野菜の作物の一方又は両方を含む、方法。
【請求項2】
前記圃場が灌漑される前記期間は少なくとも2時間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記圃場を灌漑するために使用される前記水素リッチな水の量は、前記圃場を灌漑するために使用される水の総量の30%以上を占めることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水素リッチな水は、ナノバブル水素水であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水素リッチな水の前記出口水素濃度の前記設定値は
、600pp
bであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記水素リッチな水の前記出口水素濃度の前記設定値は、700ppbであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記水素リッチな水の前記出口水素濃度の前記設定値は、1000ppbであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記芳香物質は、エステル物質、ケトン物質及びアルコール物質を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記アルコール物質は、ネロリドール及びリナロールの一方又は両方を含むことを特徴とする、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記ケトン物質は、DMMFを含むことを特徴とする、請求項
8に記載の方法。
【請求項11】
前記エステル物質は、ヘキサン酸エチルを含むことを特徴とする、請求項
8に記載の方法。
【請求項12】
前記果物及び野菜は
、ベリー類を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
果物及び野菜の芳香物質の遺伝子発現を増加させるために水素リッチな水を使用する方法であって、水素リッチな水で圃場が灌漑される期間内に、水素リッチな水の出口水素濃度は設定値以上に保たれることを特徴とする、方法。
【請求項14】
前記遺伝子は、イチゴリポキシゲナーゼ遺伝子FaLOX、イチゴO-メチルトランスフェラーゼ遺伝子FaOMT及びネロリドールシンターゼ遺伝子FaNES1を含むことを特徴とする、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
果物及び野菜の芳香物質の含有量を維持又は増加させるために水素リッチな水、農薬、及び化学肥料を組み合わせて使用する方法であって、水素リッチな水で圃場が灌漑される期間内に、水素リッチな水の出口水素濃度は設定値以上に保たれ、
化学肥料及び農薬は以下の量で圃場に施用され、以下の農薬のうちの1つ、又は複数の組み合わせが前記果物及び野菜の生育期間内に噴霧され:
200~250ml/muのペンジメタリン(Stomp)、280~300ml/muのブタクロール、30~40ml/muのイソプロチオラン、50~60ml/muのイットリウム、55~60ml/muのプロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン)、70~80ml/muのカスガマイシン(カスミン)、30~40ml/muのピラクロストロビン、230~250ml/muのフルアジナム、40~50ml/muのジベレリン酸、70~80ml/muのメフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペルミメピリゾイル)、90~100ml/muのゾンシェンマイシン、90~100ml/muのテトラクロラントラニリプロール(テトラクロラミド)、70~80ml/muのメフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペリミメピリゾイル)、40~50ml/muのジベレリン酸、60~70g/muのピラクロストロビン+メティラム(アゾリダゾールエーテル誘導体)、40~50ml/muのスピロテトラマト、220~250ml/muのヒメキサゾール、220~250ml/muの花のリン動態、120~130ml/muのプロクロラズ、80~90ml/muのプロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン)、210~230ml/muのビフェントリン、120~130ml/muのアセタミプリド、70~80ml/muのクロラントラニリプロール、及び/又は70~80ml/muのプロパモカルブ塩酸塩(ジメトミル塩酸塩)、
前記化学肥料の施用計画は、有機肥料1000~1100kg/mu、複合肥料70~80kg/mu、細菌性肥料4~5kg/muである
ことを特徴とする、方法。
【請求項16】
前記設定値は、500pp
bであることを特徴とする、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記設定値は、700ppbであることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記設定値は、1000ppbであることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記設定値は、1500ppbであることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記圃場が灌漑される前記期間は少なくとも2時間であることを特徴とする、請求項
15に記載の方法。
【請求項21】
前記水素リッチな水は、ナノバブル水素水であることを特徴とする、請求項
15に記載の方法。
【請求項22】
前記芳香物質は、エステル物質、ケトン物質及びアルコール物質を含むことを特徴とする、請求項
15に記載の方法。
【請求項23】
果物及び野菜の芳香物質の含有量を維持又は増加させるために水素リッチな水、農薬、及び化学肥料を組み合わせて使用する方法であって、水素リッチな水で圃場が灌漑される期間内に、水素リッチな水の出口水素濃度対化学肥料の施用量の比は、0.63ppb/kg
超に保たれることを特徴とする、方法。
【請求項24】
前記水素リッチな水の出口水素濃度対化学肥料の施用量の前記比は、0.89ppb/kg超に保たれることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記水素リッチな水の出口水素濃度対化学肥料の施用量の前記比は、1.27ppb/kg超に保たれることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記水素リッチな水の出口水素濃度対化学肥料の施用量の前記比は、1.90ppb/kg超に保たれることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
200~250ml/muのペンジメタリン(Stomp)、280~300ml/muのブタクロール、30~40ml/muのイソプロチオラン、50~60ml/muのイットリウム、55~60ml/muのプロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン)、70~80ml/muのカスガマイシン(カスミン)、30~40ml/muのピラクロストロビン、230~250ml/muのフルアジナム、40~50ml/muのジベレリン酸、70~80ml/muのメフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペルミメピリゾイル)、90~100ml/muのゾンシェンマイシン、90~100ml/muのテトラクロラントラニリプロール(テトラクロラミド)、70~80ml/muのメフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペリミメピリゾイル)、40~50ml/muのジベレリン酸、60~70g/muのピラクロストロビン+メティラム(アゾリダゾールエーテル誘導体)、40~50ml/muのスピロテトラマト、220~250ml/muのヒメキサゾール、220~250ml/muの花のリン動態、120~130ml/muのプロクロラズ、80~90ml/muのプロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン)、210~230ml/muのビフェントリン、120~130ml/muのアセタミプリド、70~80ml/muのクロラントラニリプロール、及び/又は70~80ml/muのプロパモカルブ塩酸塩(ジメトミル塩酸塩)
の農薬のうちの1つ、又は複数の組み合わせが前記果物及び野菜の生育期間内に噴霧されることを特徴とする、請求項
23に記載の方法。
【請求項28】
果物及び野菜の芳香物質の遺伝子発現を維持又は増加させるために水素リッチな水、農
薬、及び化学肥料を組み合わせて使用する方法であって、水素リッチな水で圃場が灌漑される期間内に、水素リッチな水の出口水素濃度は設定値以上に保たれ、
化学肥料及び農薬は以下の量で圃場に施用され、以下の農薬のうちの1つ、又は複数の組み合わせが前記果物及び野菜の生育期間内に噴霧され:
200~250ml/muのペンジメタリン(Stomp)、280~300ml/muのブタクロール、30~40ml/muのイソプロチオラン、50~60ml/muのイットリウム、55~60ml/muのプロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン)、70~80ml/muのカスガマイシン(カスミン)、30~40ml/muのピラクロストロビン、230~250ml/muのフルアジナム、40~50ml/muのジベレリン酸、70~80ml/muのメフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペルミメピリゾイル)、90~100ml/muのゾンシェンマイシン、90~100ml/muのテトラクロラントラニリプロール(テトラクロラミド)、70~80ml/muのメフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペリミメピリゾイル)、40~50ml/muのジベレリン酸、60~70g/muのピラクロストロビン+メティラム(アゾリダゾールエーテル誘導体)、40~50ml/muのスピロテトラマト、220~250ml/muのヒメキサゾール、220~250ml/muの花のリン動態、120~130ml/muのプロクロラズ、80~90ml/muのプロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン)、210~230ml/muのビフェントリン、120~130ml/muのアセタミプリド、70~80ml/muのクロラントラニリプロール、及び/又は70~80ml/muのプロパモカルブ塩酸塩(ジメトミル塩酸塩)、
前記化学肥料の施用計画は、有機肥料1000~1100kg/mu、複合肥料70~80kg/mu、細菌性肥料4~5kg/muであることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業の技術分野に関し、特に、水素リッチな水を使用して圃場を灌漑する方法に関する。本方法は、果物及び野菜中の芳香物質の含有量、並びに芳香物質の遺伝子発現を維持又は増加させるために、水素リッチな水、農薬及び化学肥料を同時に組み合わせて使用することもできる。
【背景技術】
【0002】
果物及び野菜は、人間の食生活の中で重要な部分である。近年、消費者の風味に対する要求が多様化しているため、果物及び野菜中の揮発性芳香物質に対する注目度が徐々に高まってきている。果物及び野菜中の揮発性香気物質としては、主にアルデヒド、ケトン、エステル、アルコール、テルペノイド、芳香族化合物、脂肪族化合物、及び複素環式化合物などが挙げられる。従来の栽培方法では、農産物の収穫量は増加するにもかかわらず、化学肥料及び農薬の過剰使用により、果物及び野菜の体内での揮発性物質の変換及び合成が妨げられ、これにより農産物の品質及び自然の風味が弱くなる。
【0003】
水素は、さまざまな生物学的効果を有しており、並びに使用が安全で経済的であるため、農産物における応用が非常に期待されている。水素は、植物の成長及び発育を促進するさまざまな効果を有することが知られている。水素は重要なシグナル分子として、ライ麦、緑豆、米及び他の種子の発芽を促進し、ウツボカズラ、マリーゴールド及びキュウリの外植片の不定根の発生を促進し、植物の病気、虫、干ばつ、及び塩などに対する抵抗力を高めることができる。同時に、水素は特定の二次代謝産物の含有量を増加させることができ、例えば、カイワレ大根及びイチゴのアントシアニン及びポリフェノールの含有量を増加させ、それによって品質を向上させることができる。しかし、現時点では、果物及び野菜の揮発性香気物質に対する水素の効果についての報告はまだ見つかっていない。
【0004】
先行技術において、水素の作物への硬化に関する報告は、ほとんどの場合、実験室規模での水耕栽培及びポットでの土耕栽培で見受けられる。例えば、中国の発明特許「A hydrogen-rich liquid plant growth regulator and preparation method and use thereof」(特許第ZL201210154005.0号明細書)には、水素を栄養液に直接通し、水素リッチな植物成長調節剤を得ることが記録されている。この発明は、発酵法、電気分解法、化学法及びボンベによる水素の調製、引き続いて水又は栄養液への水素の溶解、それによる水素に富む植物成長調節剤を製造することを開示している。そのような水素リッチな植物成長調節剤は、収穫量の増加及び品質の向上、並びに植物のストレス耐性/抵抗性を向上させることができる。
【0005】
実験室では、少量の水素リッチな水を必要とするシナリオのためには、水素リッチな水のスティックの使用、又は純水素を水に通すなどして水素リッチな水を生成すれば十分である。実験室規模での水耕栽培及びポットでの土耕栽培などでは、栽培条件の制御が容易で、観察される現象が明らかであるが、そのような栽培では、研究対象が多くの場合、単一の因子又は少数の制御可能な因子であり、これらは管理が容易である。圃場での農業とは、主に広大な農地に植えられる作物を指すが、圃場での農業の大きな違いは、圃場における土壌が実際の圃場の複雑な環境に近く、制御性が悪く、不正確で管理が難しいことであり、実験室で得られた研究結果は圃場で模倣して再現できないことが多く、そのため、圃場での作物の性質及び植え付け条件についての研究は、難易度が高い独自のものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、既存の水素生成技術によって調製された水素リッチな水の半減期の短さ及び低濃度などの欠点を克服しつつ、果物及び野菜中の芳香物質の含有量及びその遺伝子発現を増加させる、水素リッチな水を使用して圃場を灌漑する方法を提供することである。水素リッチな水を使用する圃場の灌漑は、作物の通常の水に対する需要を満たしながら、高濃度水素の生物学的効果を発揮させることができ、果物及び野菜の芳香物質の含有量を増加させ、果物及び野菜の芳香を高めるという目的を達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、果物及び野菜の芳香物質の含有量を増加させるために水素リッチな水を使用する方法であって、水素リッチな水で圃場が灌漑される期間内に、水素リッチな水の出口水素濃度は設定値以上に保たれる、方法を開示する。
【0008】
さらに、圃場が灌漑される期間は少なくとも2時間である。
【0009】
さらに、圃場を灌漑するために使用される水素リッチな水の量は、圃場を灌漑するために使用される水の総量の30%以上を占める。
【0010】
さらに、水素リッチな水は、ナノバブル水素水である。
【0011】
さらに、芳香物質は、エステル物質、ケトン物質及びアルコール物質を含む。
【0012】
さらに、水素リッチな水の出口水素濃度の設定値は、500ppb、好ましくは600ppb、より好ましくは700ppb、最も好ましくは1000ppbである。
【0013】
さらに、圃場を灌漑するために使用される水素リッチな水の量は、1muあたり0.1~500立方メートルである。
【0014】
さらに、アルコール物質は、ネロリドール及びリナロールの一方又は両方を含む。
【0015】
さらに、ケトン物質は、DMMFを含む。
【0016】
さらに、エステル物質は、ヘキサン酸エチルを含む。
【0017】
さらに、果物及び野菜は、芳香性の香りを有する果物及び野菜の作物の一方又は両方を含み、好ましくは、ベリー類を含む。
【0018】
本発明の第2の態様は、果物及び野菜の芳香物質の遺伝子発現を増加させるために水素リッチな水を使用する方法であって、水素リッチな水で圃場が灌漑される期間内に、水素リッチな水の出口水素濃度は設定値以上に保たれる、方法を開示する。
【0019】
さらに、遺伝子は、イチゴリポキシゲナーゼ遺伝子FaLOX、イチゴO-メチルトランスフェラーゼ遺伝子FaOMT及びネロリドールシンターゼ遺伝子FaNES1を含む。
【0020】
本発明の別の目的は、既存の水素生成技術によって調製された水素リッチな水の半減期の短さ及び低濃度などの欠点を克服しつつ、果物及び野菜中の芳香物質の含有量及びその遺伝子発現を維持又は増加するために、水素リッチな水、農薬、及び化学肥料を組み合わせて使用する方法を提供することである。水素リッチな水を使用する圃場の灌漑は、作物の通常の水に対する需要を満たし、作物収穫量を増加させ、病害虫を低減しながら、高濃度水素の生物学的効果を発揮させることができ、果物及び野菜の芳香物質の含有量を維持又は増加させ、果物及び野菜の香りを高めるという目的を達成することができる。
【0021】
本発明の第3の態様は、果物及び野菜の芳香物質の含有量を維持又は増加させるために水素リッチな水、農薬、及び化学肥料を組み合わせて使用する方法であって、水素リッチな水で圃場が灌漑される期間内に、水素リッチな水の出口水素濃度は設定値以上に保たれ、
化学肥料及び農薬は以下の量で圃場に施用され、以下の農薬のうちの1つ、又は複数の組み合わせが果物及び野菜の生育期間内に噴霧され:
200~250ml/muのペンジメタリン(Stomp)、280~300ml/muのブタクロール、30~40ml/muのイソプロチオラン、50~60ml/muのイットリウム、55~60ml/muのプロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン(Micron chitin))、70~80ml/muのカスガマイシン(kasugmycin)(カスミン)、30~40ml/muのピラクロストロビン、230~250ml/muのフルアジナム、40~50ml/muのジベレリン酸、70~80ml/muのメフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペリミメピリゾイル(spermimepyrizoil))、90~100ml/muのゾンシェンマイシン、90~100ml/muのテトラクロラントラニリプロール(テトラクロラミド)、70~80ml/muのメフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペリミメピリゾイル)、40~50ml/muのジベレリン酸、60~70g/muのピラクロストロビン+メティラム(アゾリダゾールエーテル誘導体)、40~50ml/muのスピロテトラマト、220~250ml/muのヒメキサゾール、220~250ml/muの花のリン動態(flowers phosphorus dynamics)、120~130ml/muのプロクロラズ、80~90ml/muのプロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン)、210~230ml/muのビフェントリン、120~130ml/muのアセタミプリド、70~80ml/muのクロラントラニリプロール、及び/又は70~80ml/muのプロパモカルブ塩酸塩(ジメトミル塩酸塩(dimethomyl hydrochloride))、
化学肥料の施用計画は、有機肥料1000~1100kg/mu、複合肥料70~80kg/mu、細菌性肥料4~5kg/muである、方法を提供する。
【0022】
さらに、設定値は、500ppb、好ましくは700ppb、より好ましくは1000ppb、最も好ましくは1500ppbである。
【0023】
さらに、圃場が灌漑される期間は少なくとも2時間である。
【0024】
さらに、圃場を灌漑するために使用される水素リッチな水の量は、圃場を灌漑するために使用される水の総量の30%以上を占める。
【0025】
さらに、水素リッチな水は、ナノバブル水素水である。
【0026】
さらに、圃場を灌漑するために使用される水素リッチな水の量は、1mu当たり0.1~500立方メートルである。
【0027】
さらに、芳香物質は、エステル物質、ケトン物質及びアルコール物質を含む。
【0028】
さらに、アルコール物質は、ネロリドール及びリナロールの一方又は両方を含む。
【0029】
さらに、ケトン物質は、DMMFを含む。
【0030】
さらに、エステル物質は、ヘキサン酸エチルを含む。
【0031】
さらに、果物及び野菜は、芳香性の香りを有する果物及び野菜の作物を含み、好ましくは、ベリー類を含む。
【0032】
本発明の第4の態様は、果物及び野菜の芳香物質の含有量を維持又は増加させるために水素リッチな水、農薬、及び化学肥料を組み合わせて使用する方法であって、水素リッチな水で圃場が灌漑される期間内に、水素リッチな水の出口水素濃度対化学肥料の施用量の比は、0.63ppb/kg超、好ましくは0.89ppb/kg超、より好ましくは1.27ppb/kg超、最も好ましくは1.90ppb/kg超に保たれ;
200~250ml/muのペンジメタリン(Stomp)、280~300ml/muのブタクロール、30~40ml/muのイソプロチオラン、50~60ml/muのイットリウム、55~60ml/muのプロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン)、70~80ml/muのカスガマイシン(カスミン)、30~40ml/muのピラクロストロビン、230~250ml/muのフルアジナム、40~50ml/muのジベレリン酸、70~80ml/muのメフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペルミメピリゾイル)、90~100ml/muのゾンシェンマイシン、90~100ml/muのテトラクロラントラニリプロール(テトラクロラミド)、70~80ml/muのメフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペリミメピリゾイル)、40~50ml/muのジベレリン酸、60~70g/muのピラクロストロビン+メティラム(アゾリダゾールエーテル誘導体)、40~50ml/muのスピロテトラマト、220~250ml/muのヒメキサゾール、220~250ml/muの花のリン動態、120~130ml/muのプロクロラズ、80~90ml/muのプロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン)、210~230ml/muのビフェントリン、120~130ml/muのアセタミプリド、70~80ml/muのクロラントラニリプロール、及び/又は70~80ml/muのプロパモカルブ塩酸塩(ジメトミル塩酸塩)
の農薬のうちの1つ、又は複数の組み合わせが果物及び野菜の生育期間内に噴霧される、方法を提供する。
【0033】
本発明の第5の態様は、果物及び野菜の芳香物質の遺伝子発現を維持又は増加させるために水素リッチな水、農薬、及び化学肥料を組み合わせて使用する方法であって、水素リッチな水で圃場が灌漑される期間内に、水素リッチな水の出口水素濃度は設定値以上に保たれ、
化学肥料及び農薬は以下の量で圃場に施用され、以下の農薬のうちの1つ、又は複数の組み合わせが果物及び野菜の生育期間内に噴霧され:
200~250ml/muのペンジメタリン(Stomp)、280~300ml/muのブタクロール、30~40ml/muのイソプロチオラン、50~60ml/muのイットリウム、55~60ml/muのプロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン)、70~80ml/muのカスガマイシン(カスミン)、30~40ml/muのピラクロストロビン、230~250ml/muのフルアジナム、40~50ml/muのジベレリン酸、70~80ml/muのメフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペルミメピリゾイル)、90~100ml/muのゾンシェンマイシン、90~100ml/muのテトラクロラントラニリプロール(テトラクロラミド)、70~80ml/muのメフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペリミメピリゾイル)、40~50ml/muのジベレリン酸、60~70g/muのピラクロストロビン+メティラム(アゾリダゾールエーテル誘導体)、40~50ml/muのスピロテトラマト、220~250ml/muのヒメキサゾール、220~250ml/muの花のリン動態、120~130ml/muのプロクロラズ、80~90ml/muのプロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン)、210~230ml/muのビフェントリン、120~130ml/muのアセタミプリド、70~80ml/muのクロラントラニリプロール、及び/又は70~80ml/muのプロパモカルブ塩酸塩(ジメトミル塩酸塩)、
化学肥料の施用計画は、有機肥料1000~1100kg/mu、複合肥料70~80kg/mu、細菌性肥料4~5kg/muである、方法を提供する。
【0034】
さらに、遺伝子は、イチゴO-メチルトランスフェラーゼ遺伝子FaOMT及びネロリドールシンターゼ遺伝子FaNES1を含む。
【0035】
先行技術と比較して、本発明で提供される技術的解決策は、以下の利点を有する:
1.特定濃度の水素水を灌漑することにより、関連制御遺伝子の相対発現量を向上させ、果物及び野菜の風味の完成度を高めながら、果物及び野菜中のさまざまな芳香物質の含有量を増加させ、果物及び野菜中の揮発性物質の蓄積を増加することができる。農薬及び化学肥料と併用すると、農薬及び化学肥料が果物及び野菜の風味に与える悪影響を緩和することができる。
2.ナノバブル水素水中の水素は、可能な限り多く溶解し、水中での滞留時間が長く、半減期も長いため、灌漑面積が広く、灌漑に長い時間がかかる圃場生産での実状により適している。
3.水素水は通常の灌漑用水として使用でき、人体への刺激がなく、安全性が高く、圃場灌漑後は速やかに拡散し、水素爆発の下限値(4%)を大幅に下回っている。
4.水素水は、水素及び水のみから構成され、安定した化学的性質を有し、公害を起こさず環境にやさしいため、人体又は環境に悪影響を与えない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】化学肥料又は農薬が施用されていない場合の、水素リッチな水の濃度に応じたイチゴ中の特定エステル物質の変動傾向の模式図を示す。
【
図2】化学肥料又は農薬が施用されていない場合の、水素リッチな水の濃度に応じたイチゴ中の特定アルコール物質の変動傾向の模式図を示す。
【
図3】化学肥料又は農薬が施用されていない場合の、水素リッチな水の濃度に応じたイチゴ中のネロリドール及びネロリドールシンターゼ遺伝子FaNES1の変動傾向の模式図を示す。
【
図4】化学肥料又は農薬が施用されていない場合の、水素リッチな水の濃度に応じたイチゴ中のDMMF及びO-メチルトランスフェラーゼ遺伝子(FaOMT)の変動傾向の模式図を示す。
【
図5】化学肥料及び農薬が施用された場合の、水素リッチな水の濃度に応じたイチゴ中の芳香物質の総含有量の変動傾向の模式図を示す。
【
図6】化学肥料及び農薬が施用された場合の、水素リッチな水の濃度に応じたイチゴ中のトランス-2-ヘキセナール、FaLOX及びアルデヒド物質の総含有量の変動傾向の模式図を示す。
【
図7】化学肥料及び農薬が施用された場合の、水素リッチな水の濃度に応じたイチゴ中のアルコール物質、ネロリドール、リナロール及びFaNES1の総含有量の変動傾向の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の具体的な実施形態が、以下で添付図面と併せて詳細に説明される。しかし、本発明は、以下に説明する実施形態のような実施形態に限定されるものではないと理解すべきであり、本発明の技術思想は、他の周知の技術又はそれらの周知の技術と同じ機能を有する他の技術と組み合わせて実施することができる。
【0038】
加えて、用語「第1」及び「第2」は、単に説明目的で使用されており、相対的な重要性を示す又は示唆するものとしても、示された技術的特徴の量を黙示的に特定するものとしても解釈してはならない。したがって、「第1」及び「第2」が規定される特徴は、明示的又は黙示的に当該特徴の1つ以上を含むことができる。本発明の説明において、「複数」の意味は、別途明確且つ具体的に指定がない限り、2つ以上である。
【0039】
別途明確に示されない限り、本明細書で定義される各態様又は実施形態は、他の任意の態様又は実施形態と組み合わせることができる。特に、示された任意の好ましい又は有利な特徴は、示された任意の他の好ましい又は有利な特徴と組み合わせることができる。
【0040】
用語の説明
本明細書で使用する場合、「ナノバブル水素水」の「ナノバブル」は、直径10~500nmの気泡であると理解してもよく、ナノバブルは、500nm未満の平均直径、又は約10nm~約500nm若しくは約75nm~約200nmの平均直径を有していてもよい。ナノバブル水素水の水素濃度は、500~1500ppbに達し得る。いくつかの実施形態では、これらのナノバブルは、周囲気圧及び温度で液体担体中で少なくとも約15時間安定であることができる。
【0041】
本明細書で使用する場合、水素の溶解度は、所定の温度において、1体積の水に溶解する水素の体積数(1標準大気圧)を意味する。標準的な条件、すなわち1気圧及び20℃では、水素の溶解度は1.83%(水100mlごとに1.83mlの水素が溶解でき、体積比及び質量比は換算して求めることができ、すなわち1.6ppmである)である。
【0042】
本明細書で使用する場合、「水素リッチな水」(HRW)とは、水素が豊富な水を意味する。1気圧及び20℃の環境下では、水に溶解する水素の最大濃度は1.6ppm(すなわち1600ppb)、すなわち水1kgあたり最大1.6mgの水素が溶解し、この時点で飽和濃度に達する。
【0043】
本明細書で使用する場合、「半減期」とは、濃度が半分になるのに要する時間を意味する。水に溶解した後、開放容器内では水素は依然としてゆっくりと水から出ていき、水の水素濃度が徐々に低下するが、これを「溶液から逃げる」と称する。開放容器において、通常の水素水の水素半減期は約1~2時間であるが、ナノバブル水素水の水素半減期は濃度に応じて約3~8時間である。
【0044】
本明細書で使用する場合、「水素リッチ水の出口水素濃度」とは、水素リッチ水の出口で測定された溶存水素濃度を意味する。水素の逃げを考慮しても、水素水の連続添加などの方法を使用して、圃場に灌漑する水素水の濃度を、例えば80%以上の出口濃度、好ましくは85%以上の出口濃度、より好ましくは90%以上の出口濃度、最も好ましくは95%~99.9%の出口濃度などの出口濃度にできるだけ近づけて保つことができることが当業者には周知である。
【0045】
本明細書で使用する場合、「圃場が灌漑される期間」とは、ある期間内に、圃場に灌漑する水素水の濃度が、水素リッチな水の使用により本発明が要求する最低値よりも高く保たれることを意味する。この期間は、連続的であっても、断続的であってもよい。
【0046】
水中の水素の溶解度及び滞留時間を増加させるために、ナノバブル技術と水素リッチな水とを組み合わせるが、電気分解により生成された水素又はガス源としてのボンベからの水素を使用し、ナノバブル生成モジュールを使用してナノ規模の純粋な水素気泡を分離し、これらを水に溶解させてナノバブル水素水を得る。比較すると、水に直接水素を導入して調製される水素リッチな水に溶解した水素は、非常に短い、わずか1~2時間の半減期を有するため、水素の滞留時間が非常に短く、調製後はそのような水はすぐに使用しなければならず、さもなければ水素が逃げてしまう。ナノバブル水素水はより長い半減期を有するため、灌漑面積が広く、灌漑に長い時間がかかる圃場生産での実状に適している。
【0047】
本明細書で使用する場合、用語「農薬」は、殺真菌剤、殺虫剤、殺線虫剤、除草剤、緩和剤、生物農薬及び/又は成長調節剤から選択される少なくとも1つの活性物質を意味する。一実施形態では、農薬は殺虫剤である。用語「農薬成分」とは、作物保護用の化学物質又はこれらの化学物質の混合物を含むことを意味する。より具体的には、各成分は、除草剤、殺真菌剤、殺菌剤、防虫剤、ダニ駆除剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、及び植物成長調節剤などから選択される。用語「殺虫剤」は、あらゆる害虫を誘引し、おびき寄せ、駆除又は軽減するために使用される物質を示すことを意図している。殺虫剤は殺生物剤の一種である。殺虫剤の最も一般的な用途は、植物保護製品(作物保護製品とも呼ばれる)であり、これは、一般に、雑草、植物病害又は昆虫の有害な影響から植物を保護し、例えば、除草剤、殺虫剤、昆虫成長調節剤、殺線虫剤、殺シロアリ剤、軟体動物駆除剤、殺魚剤、殺鳥剤、殺鼠剤、毒物、殺菌剤、防虫剤、動物忌避剤、抗菌剤、殺真菌剤、消毒剤(抗菌剤)及び消毒用殺菌剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
本明細書で使用する場合、用語「化学肥料」又は「化学肥料物質」は、製品の組成物の形態が微粒子、粉末又は液体であるかどうかにかかわらず、植物が使用するための1つ以上数の栄養成分を提供しながら地面の領域の生産能力を創出、再編成、保護又は増加させることを目的とした、農業及び/又は園芸に使用される任意の製品を示すことを意図する。当然ながら、用語「化学肥料物質」は、肥料、土壌改良剤及び/又は土壌改良物質も含む。
【0049】
本明細書で使用する場合、用語「圃場」は、穀物、換金作物(油料穀物、野菜作物、花、牧草、果樹)、工業原料作物、飼料作物又は漢方薬原料が植えられた土地又は農地を含むが、これらに限定されない、農業生産に使用される地面又は耕作地を意味し、好ましくは、完全に大量栽培可能、又は広範囲に収穫可能で、利益又は食料用(例えば、穀物、野菜、綿、亜麻など)に用いられる作物が植えられた土地を意味し、より好ましくは、米、トウモロコシ、豆、根菜、ハイランド大麦(highland barley)、ソラマメ、小麦、脂肪種子、カブ、カラシ、落花生、ゴマ、大麻、ヒマワリ、ラディッシュ、白菜、セロリ、ニラ、ニンニク、タマネギ、ニンジン、ヘビメロン、キャベツ、キクイモ、ナタマメ、コリアンダー、セルタス、シトロンデイリリー、トウガラシ、キュウリ、トマト、コリアンダーなどが植えられた農地又は土地を意味する。本発明において、用語「農地」は「圃場」に相当し、農地又は圃場の面積又は大きさ/形状に関して特定の要件はない。
【0050】
農産物の香気成分の測定方法については、参考文献Zhang Y,Wang G,Dong J,et al.(ZHANG Yuntao,WANG Guixia,DONG Jing,et al.)Analysis of volatile compounds in fruits of 33 European and American strawberry varieties.Journal of Fruit Science,2011,28(3):438-442を参照のこと。
【0051】
電気分解により調製される水素リッチな水:水素発生器(SHC-300、Saikesaisi、Shandon、China)は2~24Vの直流電流を用いて水を電気分解し、蒸気分離及び乾燥後に水素を得、次いで水溶液に60分間通して、電気分解によって調製された水素リッチな水を得る。
【0052】
ボンベにより調製される水リッチな素水:水素ボンベの水素を水に通し、ボンベの水素から調製した水素リッチな水を得る。
【0053】
電気分解により調製されるナノ水素リッチな水:水素発生器(CA/H、Cawolo、Guandong、China)は、7~21Vの直流電流を用いて水を電気分解し、蒸気分離及び乾燥後に水素を得、ナノ曝気ヘッドを通して水に通し、電気分解によって調製されたナノ水素リッチな水を得る。
【0054】
ボンベにより調製されるナノ水素リッチな水:水素ボンベの水素をナノ曝気ヘッドを通して水に通し、ボンベによって調製されたナノ水素リッチな水を得る。
【0055】
ガスクロマトグラフィによって校正された溶存水素計ENH-2000(TRUSTLEX、日本)を用いて、電気分解によって調製された、又はボンベのガスから調製された水素リッチな水又はナノバブル水素水中の溶存水素濃度を測定する。
【0056】
実施形態1:
本実施形態では、イチゴの圃場生産を例とし、選択した「Hongyan」イチゴの種子はShanghai City Seed Marketで購入した。「Hongyuan」イチゴの種子を、各々の面積が467平方メートル(約0.7mu)である圃場に播いた。各圃場は次のように処理された:
圃場番号1:通常の水による灌漑、化学肥料又は農薬は施用せず。
圃場番号3:電気分解により調製される水素リッチな水による灌漑(灌漑中、水素リッチな水の出口水素濃度は約300ppbであり、その半減期は約1時間である)、化学肥料又は農薬は施用せず。
圃場番号5:ボンベの水素から調製したナノバブル水素水による灌漑(灌漑中、水素リッチな水の出口水素濃度は約500ppbであり、その半減期は約3時間である)、化学肥料又は農薬は施用せず。
圃場番号7:ボンベの水素から調製したナノバブル水素水による灌漑(灌漑中、水素リッチな水の出口水素濃度は約1000ppbであり、その半減期は約6時間である)、化学肥料又は農薬は施用せず。
圃場番号9:ボンベの水素から調製したナノバブル水素水による灌漑(灌漑中、水素リッチな水の出口水素濃度は約1500ppbであり、その半減期は約8時間である)、化学肥料又は農薬は施用せず。
【0057】
圃場番号3、圃場番号5、圃場番号7、圃場番号9において、イチゴの生育期間中の水素水灌漑に使用される水の量は灌漑水の総量の30%を占めた。灌漑方法は点滴灌漑であり、灌漑流量は10t/時、各灌漑時間は2時間以上であった。
【0058】
本実施形態は、イチゴの生育期間において灌漑が行われる回数又はその方法を限定することを意図していない。当業者であれば、まず、灌漑が行われる都度、灌漑水の総量の30%を占める水素水による灌漑を選択してもよく、又は水素水の量が全生育期間の灌漑水の総量の約30%に達するように、数回集中して水素水で灌漑することを選択してもよい。
【0059】
完熟したイチゴを摘み取り、処理を行うたびに無作為に20個のサンプルを採取し、均一なスラリーに粉砕した後、ガス質量分析計を用いて揮発性芳香物質を同定し、その含有量を測定した。研究により、アルコール物質、アルデヒド物質、酸物質、ケトン物質、及びエステル物質などを含む合計54種の主要な揮発性芳香化合物が「Hongyan」イチゴの果実にて確認されたことが見出されている。代表的なアルデヒド物質としては、ヘキサナール及びトランス-2-ヘキセナールが挙げられ、エステル物質としてはヘキサン酸エチルが挙げられ、酸物質としてはヘキサン酸が挙げられ、アルコール物質としてはテルペンアルコール、例えばリナロール及びネロリドールが挙げられ、ケトン物質としては2,5-ジメチル-4-メトキシ-3(2H)-フラノン(DMMF)などが挙げられる。
【0060】
本実施形態では、「Hongyan」イチゴの果実中の主要な芳香化合物の含有量を個別に測定した。表1において、上記54種の主な揮発性アルコール物質、エステル物質、及びケトン物質などの含有量を個別に測定し、それらを合計して芳香物質の総含有量を求めた。内部標準法を用いて上記した種類の揮発性物質を測定し、測定したイチゴ試料に汎用内部標準物質を添加し、揮発性物質1gに含まれる内部標準物質の量(μg)をピーク面積から計算し、それによって試験される揮発性物質の含有量を測定した。
【0061】
各群の処理方法がイチゴ果実中の芳香物質の総含有量に与える効果は、表1から見てとれる。圃場番号1の灌漑処理に通常の水を使用した場合と比較すると、水中の水素濃度が高くなるにつれて、イチゴの芳香物質の総含有量も増加する。ナノバブル水素水の効果がより顕著であるが、これはおそらく、ナノバブル水素水中の水素が最大限溶解しており、水中での滞留時間が長いため、長時間の灌漑の需要をより満たすことができるためである。
【0062】
【0063】
アルデヒドはイチゴの重要な種類の芳香物質である。イチゴリポキシゲナーゼ遺伝子(FaLOX)は、揮発性アルデヒドの合成に関連している。表2で測定したアルデヒド物質としては、ヘキサナール及びトランス-2-ヘキセナールが挙げられる。下表2から、水素水による灌漑によってFaLOXの発現量が有意に増加し、これはイチゴのアルデヒド物質含有量と同じ変動傾向を示していることが見てとれる。
【0064】
【0065】
上記の他に、本発明者らは、イチゴ中の特定のエステル化合物、アルコール化合物、及びケトン化合物の含有量並びにそれらに対応する遺伝子発現量に関して、低濃度の水素リッチな水がイチゴ中の芳香物質及びアルデヒド物質の総含有量を増加させ得るにもかかわらず、いかなる濃度の水素水もこれらの物質の含有量を増加させる効果を有し得るとは決して言えないことを確認した。濃度の異なる水素水での灌漑は、物質の種類ごとに効果が異なり、その結果、イチゴの芳香物質の含有量に差が生じ、イチゴの風味の完成度にも影響を与える。
【0066】
低濃度の水素水を灌漑に使用すると、特徴的な芳香物質のいくつかの含有量は、逆に通常の水を灌漑した場合よりも減少する。その含有量は、より高濃度の水素水をある期間灌漑に使用した場合のみ、通常の水灌漑群に対して上昇傾向を示す。
【0067】
イチゴ中のエステル物質及びアルコール物質の含有量を表3に示す。ここで、アルコール物質としてはリナロール及びネロリドールが挙げられ、エステル物質としてはヘキサン酸エチルが挙げられる。
【0068】
【0069】
図1及び
図2は、表3の圃場番号1に対する圃場番号3、圃場番号5、圃場番号7及び圃場番号9における水素リッチな水の濃度とエステル物質及びアルコール物質の変化率との関係を示す。
図1及び
図2に示すように、水素水による灌漑は、出口水素水濃度が510~530ppb超である場合にのみ、エステル物質及びアルコール物質の含有量の増加を効果的に促進できることが見てとれる。
【0070】
「Hongyan」イチゴの果実では、アルコール物質のうち主な特徴的な芳香物質は、リナロール及びネロリドールである。表4は、5つの圃場群におけるリナロール及びネロリドールの含有量の変動を示す。通常の水で灌漑した圃場番号1と比較して、低濃度の水素水で灌漑すると、逆にリナロール及びネロリドールの含有量が低下し、徐々にリナロール及びネロリドールの含有量を増加させるためには、高濃度の水素水での灌漑が必要とされた。本発明者らは、これは、低濃度の水素水で灌漑すると、植物の根系により吸収される元素状態の酸素量が減少し、この場合、水素の生物活性が酸素欠乏の悪影響を相殺するのに十分ではないためであり得ると考えており、したがって、圃場番号1と比較すると、圃場番号3はリナロール及びネロリドールの含有量が逆に減少する現象を示した。水素水濃度が上昇するにつれて、水素の生物活性は強くなり、すると初めて芳香物質を増加させる効果もはっきりした。
【0071】
【0072】
イチゴネロリドールシンターゼ遺伝子(FaNES1)は、テルペン化合物の合成に関連している。FaNES1の発現量を表4に示すが、その相対発現量はネロリドール含有量と同じ変動傾向を示す。
【0073】
図3は、表4の圃場番号1に対する圃場番号2、圃場番号5、圃場番号7、及び圃場番号9における水素リッチな水の濃度とリナロール、ネロリドール、及びFaNES1の変化率との関係を示す。
図3から、水素水による灌漑は、水素水濃度が約540ppb超である場合にのみ、ネロリドール及びネロリドールシンターゼ遺伝子(FaNES1)の相対発現量の増加を効果的に促進できることが見てとれる。
【0074】
また、2,5-ジメチル-4-メトキシ-3(2H)-フラノン(DMMF)もイチゴの特徴的な香気成分である。表5に示すように、圃場番号1の通常の水での灌漑と比較して、低濃度の水素水での灌漑では逆にDMMFの含有量が低下するが、高濃度の水素水での灌漑ではイチゴ果実中のDMMFの含有量を一定程度まで増加させることができる。さらに、ナノバブル水素水の濃度が高くなるにつれて、DMMFの含有量はより顕著に増加する。イチゴO-メチルトランスフェラーゼ遺伝子(FaOMT)は、DMMF合成の鍵となる酵素である。FaOMTの相対発現量は、DMMF含有量と同じ変動傾向を示す。果実中のFaOMTの発現量を増加させるには、より高濃度のナノバブル水素水による灌漑が必要とされるが、逆に低濃度の水素水による灌漑はFaOMTの相対発現量を減少させる。
【0075】
【0076】
図4は、表5の圃場番号1に対する圃場番号2、圃場番号5、圃場番号7及び圃場番号9における水素リッチな水の濃度とDMMFの変化率及びFaOMTの相対発現量との関係を示す。
図4から、水素水による灌漑は、水素水濃度が約500ppb超である場合にのみFaOMTの相対発現量の増加を効果的に促進でき、水素水による灌漑は、水素水濃度が680ppb超である場合にのみDMMFの増加を効果的に促進できることが見てとれる。
【0077】
従来の研究では、水素又は水素水の作物に対する成長調節作用が注目されることが多く、一般に、植物の成長、発育、及び形態形成を積極的に促進するために、水素水を作物に灌漑して、果物及び野菜の成長、発育、及び栄養の質を調節しさえすればよいと考えている。しかし、本発明の発明者らは、イチゴの芳香物質を調査する過程で、特定濃度を超える水素水を灌漑することのみが、イチゴのさまざまな芳香物質の増加をはっきりと促進し、そのような灌漑のみが、イチゴ果実の風味をより完全なものにできることを確認した。ナノバブル技術を活用することにより、ナノバブル水素水は、半減期がより長くなり、水素の生物学的効果をより効果的に発揮させることができる。
【0078】
実施形態2:
本実施形態では、イチゴの圃場生産を例とし、選択した「Hongyan」イチゴの種子はShanghai City Seed Marketで購入した。「Hongyuan」イチゴの種子を、各々の面積が467平方メートル(約0.7mu)である圃場に播いた。各圃場は次のように処理された:
圃場番号1:通常の水による灌漑、化学肥料又は農薬は施用せず。
圃場番号2:通常の水による灌漑、以下に記載される化学肥料及び農薬を施用。
圃場番号4:電気分解により調製される水素リッチな水による灌漑(灌漑中、水素リッチな水の出口水素濃度は約300ppbであり、その半減期は約1時間である)、以下に記載される化学肥料及び農薬を施用。
圃場番号6:ボンベの水素から調製したナノバブル水素水による灌漑(灌漑中、水素リッチな水の出口水素濃度は約500ppbであり、その半減期は約3時間である)、以下に記載される化学肥料及び農薬を施用。
圃場番号8:ボンベの水素から調製したナノバブル水素水による灌漑(灌漑中、水素リッチな水の出口水素濃度は約1000ppbであり、その半減期は約6時間である)、以下に記載される化学肥料及び農薬を施用。
圃場番号10:ボンベの水素から調製したナノバブル水素水による灌漑(灌漑中、水素リッチな水の出口水素濃度は約1500ppbであり、その半減期は約8時間である)、以下に記載される化学肥料及び農薬を施用。
【0079】
圃場番号2、圃場番号4、圃場番号6、圃場番号8及び圃場番号10において、イチゴの生育期間中の水素水灌漑に使用される水の量は灌漑水の総量の30%を占めた。灌漑方法は点滴灌漑であり、灌漑流量は10t/時、各灌漑時間は2時間以上であった。本実施形態は、イチゴの生育期間において灌漑が行われる回数又はその方法を限定することを意図していない。当業者であれば、まず、灌漑が行われる都度、灌漑水の総量の30%を占める水素水による灌漑を選択してもよく、又は水素水の量が全生育期間の灌漑水の総量の30%程度に達するように、数回集中して水素水で灌漑することを選択してもよい。
【0080】
農薬施用量(各圃場群の面積に基づく):
初回施用:ペンジメタリン(Stomp)(除草剤)165ml、ブタクロール(除草剤)200ml;
2回目の施用(初回施用から10日後):イソプロチオラン25ml、イットリウム41.7ml、プロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン)41.7ml、カスガマイシン(カスミン)50ml、ピラクロストロビン25ml。
3回目の施用(2回目の施用から10日後):フルアジナム83ml、ジベレリン酸33ml、メフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペルミメピリゾリル)50ml、ゾンシェンマイシン67ml。
4回目の施用(3回目の施用から10日後):テトラクロラントラニリプロール(テトラクロラミド)67ml、メフェノキサム+フルジオキソニル+アゾキシストロビン(スペルメピリゾリル)50ml、ジベレリン酸33ml、フルアジナム83ml。
5回目の施用(4回目の施用から7日後):ピラクロストロビン+メティラム(アゾリダゾールエーテル誘導体)47g、スピロテトラマト33ml、ヒメキサゾール167ml、花のリン動態167ml、プロクロラズ90ml。
6回目の施用(5回目の施用から18日後):プロクロラズ+キトサン(ミクロンキチン)62ml、ビフェントリン150ml、アセタミプリド90ml、クロラントラニリプロール50ml、プロパモカルブ塩酸塩(ジメトミル塩酸塩)50ml。
7回目(6回目の施用から87日後):エチリモール50ml、アゾエーテルフラミド25ml、ピリメタニル50ml、マンニトール(manntiol)-Ca66.7ml。
【0081】
化学肥料の施用量(各圃場群の面積に基づく):
初回施用:有機肥料750kg、化成肥料15kg、細菌性堆肥3kg。
2回目の施用(初回施用から52日後):化成肥料20kg。
【0082】
完熟したイチゴを摘み取り、処理を行うたびに無作為に20個のサンプルを採取し、均一なスラリーに粉砕した後、ガス質量分析計を用いて揮発性芳香物質を同定し、その含有量を測定した。研究により、アルコール物質、アルデヒド物質、酸物質、ケトン物質、及びエステル物質などを含む合計54種の主要な揮発性芳香化合物が「Hongyan」イチゴの果実にて確認されたことが見出されている。代表的なアルデヒド物質としては、ヘキサナール及びトランス-2-ヘキセナールが挙げられ、エステル物質としてはヘキサン酸エチルが挙げられ、酸物質としてはヘキサン酸が挙げられ、アルコール物質としてはテルペンアルコール、例えばリナロール及びネロリドールが挙げられ、ケトン物質としては2,5-ジメチル-4-メトキシ-3(2H)-フラノン(DMMF)などが挙げられる。
【0083】
本実施形態では、「Hongyan」イチゴの果実中の主要な芳香化合物の含有量を個別に測定した。表6において、上記54種の主な揮発性アルコール物質、エステル物質、及びケトン物質などの含有量を個別に測定し、それらを合計して芳香物質の総含有量を求めた。内部標準法を用いて上記した種類の揮発性物質を測定し、測定したイチゴ試料に汎用内部標準物質を添加し、揮発性物質1gに含まれる内部標準物質の量(μg)をピーク面積から計算し、それによって試験される揮発性物質の含有量を測定した。
【0084】
各群の処理方法がイチゴ果実中の芳香物質の総含有量に与える影響は、表6から見てとれる。圃場番号1の灌漑処理に通常の水を使用した場合と比較すると、水中の水素濃度が高くなるにつれて、イチゴの芳香物質の総含有量も増加する。ナノバブル水素水の効果がより顕著であるが、これはおそらく、ナノバブル水素水中の水素が最大限溶解しており、水中での滞留時間が長いため、長時間の灌漑の需要をより満たすことができるためである。
【0085】
圃場番号1及び圃場番号2から、化学肥料及び農薬の使用だけでは、イチゴの芳香物質の総濃度が低下することが見てとれる。水素リッチな水は、化学肥料及び農薬によってイチゴの芳香物質に起こる損傷をある程度緩和することができる。
【0086】
図5は、表6の圃場番号1に対する圃場番号2、圃場番号4、圃場番号6、圃場番号8及び圃場番号10における水素リッチな水濃度と変化率との関係を示す。
図5に示すように、イチゴ果実の芳香物質の総含有量は、出口水素水濃度が約580ppb以上の場合にのみ、圃場番号1の芳香物質の総含有量を超え始める。このことにより、対応する化学肥料及び農薬を施用した場合、化学肥料及び農薬の使用によって引き起こされるイチゴの芳香物質への悪影響を相殺することによって、イチゴの口当たり及び風味をより良くするためには、水素水濃度が特定濃度を上回らなければならないことが示される。
【0087】
【0088】
アルデヒド物質、エステル物質、アルコール物質及びケトン物質は、イチゴ果実に高含有量で含まれる芳香物質である。本発明者らは、各種物質の含有量の増減と化学肥料、農薬及び水素水濃度それぞれとの関係を検討するために、エステル物質(ヘキサン酸エチルを含む)の含有量、イチゴの特徴的な芳香成分である2,5-ジメチル-4-メトキシ-3(2H)-フラノン(DMMF)の含有量、及びDMMF合成の鍵となる酵素、すなわち、イチゴO-メチルトランスフェラーゼ遺伝子(FaOMT)の相対発現量を測定した。その結果を表7に示す。
【0089】
【0090】
イチゴO-メチルトランスフェラーゼ遺伝子(FaOMT)は、DMMF合成の鍵となる酵素である。FaOMTの発現は、DMMF含有量と同じ変動傾向を示す。化学肥料及び農薬が施用される場合、水素水は、化学肥料及び農薬によるイチゴ果実の揮発性エステル物質及びDMMFに対する抑制作用をある程度緩和することができる。しかし、1500ppbという高濃度の水素水を用いても、農薬又は化学肥料を施用していない圃場番号1と比較して、エステル物質及びDMMFの含有量は依然として減少している。特定のエステル物質及びDMMFの含有量を維持することが望まれる場合、水素リッチな水の水素濃度と化学肥料の施用量との比が特定値より大きくなるように化学肥料及び農薬の使用量を削減することができる。例えば、本実施形態では、化学肥料の総施用量は788kgであり、化学肥料の施用量が削減され、それに応じて水素水の濃度を高めれば、水素水は、化学肥料の削減による収穫量及び単一果重への影響を軽減でき、また、特定のエステル物質及びDMMFの含有量の増加を大いに促すこともできる。
【0091】
次に、本発明者らは、イチゴ果実中のアルデヒド物質(ヘキサナール及びトランス-2-ヘキセナールを含む)の含有量、揮発性アルデヒドの合成に関連するイチゴリポキシゲナーゼ遺伝子(FaLOX)の相対発現量、及び特徴的なアルデヒド物質であるトランス-2-ヘキセナールの含有量を測定した。その結果を表8に示す。
【0092】
【0093】
化学肥料及び農薬の使用により、イチゴ果実のアルデヒド物質の含有量及びイチゴリポキシゲナーゼ遺伝子の発現が低下する。灌漑用水中の水素濃度が徐々に増加することにより、化学肥料及び農薬の悪影響をある程度相殺する。イチゴリポキシゲナーゼ遺伝子の相対発現量は全体的に上昇傾向を示し、イチゴの香気物質は著しく増加し、これはアルデヒド物質の含有量と同じ変動傾向を示す。
【0094】
図6は、表8の圃場番号1に対する水素リッチな水濃度とアルデヒド物質、FaLOX及びトランス-2-ヘキサナールの変化率との関係を示す。
図6に示すように、アルデヒド物質、FaLOX、及びトランス-2-ヘキセナールの含有量は全体的に上昇傾向を示し、化学肥料及び農薬によるこれらの種類の物質の含有量への悪影響は、水素水濃度がそれぞれ約500ppb、120ppb及び350ppbで完全に相殺され始める。
【0095】
本発明の発明者らは、イチゴに高含有量で含まれる芳香物質に関して、どのような濃度の水素水を灌漑しても、農薬及び化学肥料のその含有量への抑制効果を有効に相殺できるとは決して言えないことを確認した。濃度の異なる水素水での灌漑は、物質の種類ごとに効果が異なり、その結果、イチゴの芳香物質及びさまざまな風味の含有が完全なものとなる。
【0096】
「Hongyan」イチゴの果実では、アルコール物質のうち主な特徴的な芳香物質は、リナロールとネロリドールである。イチゴネロリドールシンターゼ遺伝子(FaNES1)は、テルペン化合物の合成に関連している。表9に示すように、化学肥料及び農薬の使用は、イチゴ果実中のアルコール物質であるリナロール及びネロリドールの含有量を低下させ、ネロリドールシンターゼ遺伝子(FaNES1)の相対発現量も低下させ、この相対発現量はネロリドールの含有量と同じ変動傾向を示す。特定濃度の水素水だけが、イチゴ果実のこれらの種類の芳香物質に対する化学肥料及び農薬の抑制効果を完全に相殺できる。
【0097】
【0098】
図7は、表9の圃場番号1に対する圃場番号2、圃場番号4、圃場番号6、圃場番号8及び圃場番号10における水素リッチな水濃度と変化率との関係を示す。
図7に示すように、アルコール物質、FaNES1、リナロール及びネロリドールの含有量は全体的に上昇傾向を示し、化学肥料及び農薬によるこれらの種類の物質の含有量への悪影響は、水素水濃度がそれぞれ約800ppb、1000ppb、1000ppb及び1000ppbで完全に相殺され始める。300ppbなどの低い水素濃度では、アルコール物質、FaNES1、リナロール及びネロリドールの含有量が最も低い値になっており、これは、低濃度の水素が特定の化合物の合成をある程度抑制している可能性があり、この抑制効果が化学肥料及び農薬の抑制効果に加わり、結果としてこれらの化合物の合成がかなり抑制されることを意味している。
【0099】
上の結果から、本発明で提供される水素水は、ある濃度を超えると、イチゴの芳香物質の発現を明らかに促進する効果を有し、それによって化学肥料及び農薬の使用によるイチゴの芳香物質への悪影響を相殺することが見てとれる。異なる具体的な濃度の水素水は、イチゴのさまざまな芳香物質に異なる程度で影響するため、化学肥料及び農薬による風味への損害を完全に相殺しつつ、イチゴの風味を維持又は向上させ続けるためには、適切な濃度の水素水を選択する必要がある。
【0100】
土壌は、栄養を補うために十分な栄養を吸収する必要があるが、農薬は作物の収穫量又は外観に影響を与えるさまざまな病気及び害虫を取り除くことができる。したがって、農作物の収穫量を追求し、病気及び害虫を減少させれば、農薬及び化学肥料の使用を完全に排除することは非常に困難である。本発明の発明者らが観察した上記のパターン及び結論は、圃場での農業の健全な発展のためのいくつかの指針を与えることができる。特に、水素リッチな水を圃場に灌漑する方法は、農薬及び化学肥料の施用量を適切に削減しつつ、果物及び野菜、特にベリー類の芳香物質の発現を高めるのに特に適している。果物及び野菜の通常の水に対する需要を満たしながら、高濃度の水素の生物学的効果を発揮させ、果物及び野菜の収穫量を保証し、果物及び野菜の芳香物質の含有量を増加させ、果物及び野菜の風味を向上させるという目的を達成することができる。
【0101】
本明細書に記載された実施形態は、単に本発明の好ましい具体的な実施形態であり、本発明を限定することなく、本発明の技術的解決策を説明することを意図しているに過ぎない。当業者が本発明の概念に従って論理的な分析、推論、又は限定的な実験によって得ることができるすべての技術的解決策は、本発明の範囲に含まれるべきである。