(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】振動膜及び発音装置
(51)【国際特許分類】
H04R 31/00 20060101AFI20241021BHJP
C08L 9/02 20060101ALI20241021BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20241021BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241021BHJP
C08K 3/011 20180101ALI20241021BHJP
【FI】
H04R31/00 A
C08L9/02
C08L15/00
C08K3/013
C08K3/011
(21)【出願番号】P 2023518789
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(86)【国際出願番号】 CN2021114480
(87)【国際公開番号】W WO2022062816
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】202011010803.7
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512280079
【氏名又は名称】ゴーアテック インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】GOERTEK INC
【住所又は居所原語表記】#268 Dongfang Road,Hi-Tech Industry District,Weifang,Shandong,China
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン ツイツイ
(72)【発明者】
【氏名】ホイ ピン
(72)【発明者】
【氏名】リン フォンコアン
(72)【発明者】
【氏名】リー チュン
【審査官】▲徳▼田 賢二
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106957466(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110708638(CN,A)
【文献】特開平08-256397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 31/00
C08L 9/02
C08L 15/00
C08K 3/013
C08K 3/011
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムコンパウンドで製造された少なくとも1層のエラストマー層を含み、前記ゴムコンパウンドはニトリルゴム及び水素化ニトリルゴムを含み、前記ニトリルゴム及び前記水素化ニトリルゴムはいずれも含有量の範囲が質量百分率で20%~80%であるアクリロニトリルブロックを含有
し、
前記ニトリルゴムと前記水素化ニトリルゴムとの質量比は、1以上である、ことを特徴とする振動膜。
【請求項2】
前記ゴムコンパウンドは、前記ゴムコンパウンドにおける含有量が質量百分率で5%~60%である充填材をさらに含む、ことを特徴とする請求項1に記載の振動膜。
【請求項3】
前記充填材の粒径の範囲は、10nm~10μmであり、及び/又は、前記充填材は、カーボンブラック、ホワイトカーボン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、モンモリロナイト、マイカから選択される少なくとも1種である、ことを特徴とする請求項
2に記載の振動膜。
【請求項4】
前記ゴムコンパウンドは、前記ゴムコンパウンドにおける含有量が質量百分率で0.5%~5%である加硫剤をさらに含む、ことを特徴とする請求項1に記載の振動膜。
【請求項5】
前記加硫剤は、主架橋剤及び共架橋剤を含み、前記主架橋剤の加硫系は、硫黄加硫系と過酸化物加硫系のうちの少なくとも1種であり、前記共架橋剤は、トリアリルイソシアヌレートとポリマレイミドのうちの少なくとも1種である、ことを特徴とする請求項
4に記載の振動膜。
【請求項6】
引っ張り強度の範囲が、4MPa~25MPaである、ことを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の振動膜。
【請求項7】
引裂強度の範囲が、15N/mm~100N/mmである、ことを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の振動膜。
【請求項8】
使用温度の範囲が、-80℃~180℃である、ことを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の振動膜。
【請求項9】
減衰係数が、0.15より大きい、ことを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の振動膜。
【請求項10】
密度の範囲は、0.9g/cm
3~1.2g/cm
3である、ことを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の振動膜。
【請求項11】
前記ゴムコンパウンドで製造された単層フィルムであるか、又は、少なくとも1層のフィルムが前記ゴムコンパウンドで製造された複合フィルム層である、ことを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の振動膜。
【請求項12】
磁気回路システムと、請求項1~
11のいずれか一項に記載の振動膜を含む振動システムとを含む、ことを特徴とする発音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発音装置の技術分野に関し、特に振動膜及び発音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術では、スピーカの振動膜は、モジュラスの高いプラスチックフィルム層(PEEK、PAR、PEI、PIなど)、柔らかい熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)及び減衰ゴムフィルム(アクリルゲル、シリカゲルなど)を複合した構造を用いることが多い。しかし、上記振動膜は、総合的性能が低く、例えば、モジュラスの高いプラスチックフィルム層が高周波環境で大きな機械的振動を受けにくいため、破膜現象が発生し、熱可塑性樹脂は、耐熱耐寒性が低く、高温で塑性変形し、低温で脆くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、振動膜及び発音装置を提供することを主な目的とし、振動膜の総合的性能を向上させることにより振動膜に優れた力学的強度、耐寒性能、反発性能及び高い減衰性能を持たせるためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明に係る振動膜は、ゴムコンパウンドで製造された少なくとも1層のエラストマー層を含み、前記ゴムコンパウンドはニトリルゴム及び水素化ニトリルゴムを含み、前記ニトリルゴム及び前記水素化ニトリルゴムはいずれも含有量の範囲が質量百分率で20%~80%であるアクリロニトリルブロックを含有するものである。
【0005】
一実施例では、前記ニトリルゴムと前記水素化ニトリルゴムとの質量比は、1以上である。一実施例では、前記ゴムコンパウンドは、前記ゴムコンパウンドにおける含有量が、質量百分率で5%~60%である充填材をさらに含んでもよい。
【0006】
一実施例では、前記充填材の粒径の範囲が、10nm~10μmであり、
及び/又は、前記充填材は、カーボンブラック、ホワイトカーボン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、モンモリロナイト、マイカから選択される少なくとも1種であってもよい。
【0007】
一実施例では、前記ゴムコンパウンドは、前記ゴムコンパウンドにおける含有量が、質量百分率で0.5%~5%である加硫剤をさらに含んでもよい。
【0008】
一実施例では、前記加硫剤は、主架橋剤及び共架橋剤を含み、前記主架橋剤の加硫系は、硫黄加硫系と過酸化物加硫系のうちの少なくとも1種であり、前記共架橋剤は、トリアリルイソシアヌレートとポリマレイミドのうちの少なくとも1種であってもよい。
【0009】
一実施例では、前記振動膜の引っ張り強度の範囲が、4MPa~25MPaであってもよい。
【0010】
一実施例では、前記振動膜の引裂強度の範囲が、15N/mm~100N/mmであってもよい。一実施例では、前記振動膜の使用温度の範囲が、-80℃~180℃であってもよい。
【0011】
一実施例では、前記振動膜の減衰係数が、0.15よりも大きくてもよい。
【0012】
一実施例では、前記振動膜の密度の範囲が、0.9g/cm3~1.2g/cm3であってもよい。
【0013】
一実施例では、前記振動膜は、前記ゴムコンパウンドで製造された単層フィルムであるか、又は、少なくとも1層のフィルムが前記ゴムコンパウンドで製造された複合フィルム層であってもよい。
【0014】
また、本発明に係る発音装置は、磁気回路システムと、含有量の範囲が質量百分率で20%~80%であるアクリロニトリルブロックをいずれも含有するニトリルゴム及び水素化ニトリルゴムを含むゴムコンパウンドで製造された少なくとも1層のエラストマー層を含む振動膜を含む振動システムとを含むものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の技術手段において、振動膜は、ニトリルゴム及び水素化ニトリルゴムを含むゴムコンパウンドで製造された少なくとも1層のエラストマー層を用いる。このように、振動膜は、優れた総合的性能を示すことができ、優れた力学的強度、耐寒性能、反発性能及び高い減衰性能を有する。また、振動膜は、高温及び低温の極端な条件で正常に使用でき、破膜現象が発生しにくく、耐用年数が一般的な振動膜材料の耐用年数より長く、より優れた信頼性を有する。該振動膜を適用した発音装置は、極めて過酷な環境に適用できるとともに、その音響性能が良好な状態に保持される。そして、振動膜におけるアクリロニトリルブロックの含有量を合理的に調整することにより、アクリロニトリルブロックの質量含有量の範囲を20%~80%にし、このように製造した振動膜は、優れた耐寒性能、力学的強度及び反発性能を兼ね備える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の実施例又は従来技術における技術手段をより明らかに説明するために、以下、実施例又は従来技術の説明に使用される図面を簡単に説明し、明らかに、以下の説明における図面は、本発明のいくつかの実施例にすぎず、当業者であれば、創造的な労力を要することなく、これらの図面に示された構造に基づいて他の図面を得ることができる。
【
図1】本発明の実施例に係る振動膜の高温前後の共振周波数F0の対比グラフの概略図である。
【
図2】従来の振動膜の高温前後の共振周波数F0の対比グラフの概略図である。
【
図3】本発明の一実施例に係るスピーカの振動膜と従来の振動膜の全高調波歪み試験グラフである。 本発明の目的の達成、機能特徴及び利点について、実施例と組み合わせて、図面を参照しながらさらに説明する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
また、各実施例の間の技術手段は、互いに組み合わせることができるが、当業者が実現できることを基礎としなければならず、技術手段の組み合わせが互いに矛盾する又は実現できない場合、このような技術手段の組み合わせは、存在せず、本発明の保護範囲内にないと見なされるべきである。
【0018】
本発明は、スピーカのような発音装置に適用される振動膜を提供する。
【0019】
本発明の一実施例では、振動膜は、含有量の範囲が質量百分率で20%~80%であるアクリロニトリルブロックをいずれも含有するニトリルゴム及び水素化ニトリルゴムを含むゴムコンパウンドで製造された少なくとも1層のエラストマー層を含む。
【0020】
ニトリルゴムは、アクリロニトリルとブタジエンを重合したものであり、その分子式にはアクリロニトリルブロック及びブタジエンブロックが含有され、ブタジエンブロックが材料マトリックスにおいて靭性を提供することにより、ニトリルゴムは、優れた耐低温性能を有し、これに対してアクリロニトリルブロックのニトリル基は、極性が強い基であり、大きな電気陰性度を有し、加硫剤における原子と水素結合を形成して、分子鎖の動きを制限することができ、かつアクリロニトリルの含有量が高いほど、このような交互構造単位が多くなるため、アクリロニトリルブロックの含有量が高くなるにつれて、ニトリルゴムのガラス転移温度及び引っ張り強度は、徐々に高くなる。
【0021】
水素化ニトリルゴムは、ニトリルゴムを水素化処理して得られた、高度に飽和する特殊なエラストマーであり、優れた耐熱酸素老化性能を有する。水素化ニトリルゴムの分子構造にもアクリロニトリルブロックを含有する。
【0022】
理解できるように、ニトリル基は、極性が強い基であり、大きな電気陰性度を有し、アクリロニトリルブロックの含有量の増加に伴い、ニトリル基の極性が増加し、鎖の柔軟性が低下し、鎖間の相互作用力が増大し、ガラス転移温度が高いほど、分子鎖内の二重結合の含有量が低下し、飽和程度が増加し、その耐油性、気密性が向上し、相対密度が増大し、硫化速度が速くなり、引っ張り強度性能が向上し、加工性及び耐寒性が低下し、反発性能が低下する。耐寒性が低いと、製造された振動膜は、低温の極端な環境で硬くて脆くなりやすく、破膜のリスクを増加させる。したがって、製造された振動膜に優れたガラス転移温度、引っ張り強度、密度及び反発性能を兼ね備えさせるために、アクリロニトリルブロックの含有量を合理的に制御する必要がある。
【0023】
表1を参照すると、表1は、振動膜の性能に対するアクリロニトリルブロックの含有量の影響を示す。表1から分かるように、アクリロニトリルブロックの含有量の増加に伴い、ガラス転移温度が上昇し、引っ張り強度が高くなり、密度も相対的に大きくなるが、反発弾性率が徐々に低下し、特にアクリロニトリルブロックの含有量が80%より大きい場合、振動膜の反発弾性率が急激に低下する。振動膜が優れたガラス転移温度、引っ張り強度、密度及び反発性能を兼ね備えることを保証するために、アクリロニトリルブロックの含有量の範囲は、質量百分率で、20%~80%であり、例えば、アクリロニトリルブロックの含有
量は、20%、30%、40%、50%、60%、70%又は80%である。
表1 振動膜の性能に対するアクリロニトリルブロックの含有量の影響
【表1】
【0024】
したがって、理解できるように、振動膜は、ニトリルゴム及び水素化ニトリルゴムを含むゴムコンパウンドで製造された少なくとも1層のエラストマー層を用いる。このように、振動膜は、優れた総合的性能を示すことができ、優れた力学的強度、耐寒性能、反発性能及び高い減衰性能を有する。また、振動膜は、高温及び低温の極端な条件で正常に使用でき、破膜現象が発生しにくく、耐用年数が一般的な振動膜材料の耐用年数より長く、より優れた信頼性を有する。該振動膜を適用した発音装置は、極めて過酷な環境に適用できるとともに、その音響性能が良好な状態に保持される。そして、振動膜におけるアクリロニトリルブロックの含有量を合理的に調整することにより、アクリロニトリルブロックの質量含有量の範囲を20%~80%にし、このように製造した振動膜は、優れた耐寒性能、力学的強度及び反発性能を兼ね備える。
【0025】
ゴムコンパウンドを調製する場合、水素化ニトリルゴムの価格が高いため、好ましい実施例では、ニトリルゴムと水素化ニトリルゴムとの質量比は、1以上である。このように、ある程度でゴムコンパウンドのコストを低減することにより、振動膜の製造コストを低減することができる。
【0026】
さらに、ゴムコンパウンドは、ゴムコンパウンドにおける含有量が質量百分率で5%~60%である充填材をさらに含む。
【0027】
充填材は、一般的に無機充填材であり、充填材の表面に置換、還元、酸化などの反応を発生させることができる水素、カルボキシル基、ラクトン基、ラジカル、キノン基などの基を有する。充填材をゴムコンパウンドに混合すると、ゴムコンパウンド分子鎖の間の内部摩擦及び立体障害が増大し、内部損失が上昇して、材料の減衰性能が向上することをもたらす。
【0028】
カーボンブラックを例として、カーボンブラックは、非晶質構造であり、粒子が相互の物理化学的結合により凝集体を構成する。カーボンブラックの一次構造は、凝集体で構成され、かつ凝集体の間にファンデルワールス力又は水素結合が存在して、空間ネットワーク構造、すなわち、カーボンブラックの二次構造に凝集することができる。カーボンブラックの表面に置換、還元、酸化などの反応を発生させることができる水素、カルボキシル基、ラクトン基、ラジカル、キノン基などの基を有し、カーボンブラックをゴムコンパウンドに添加すると、カーボンブラックの表面とゴムコンパウンドの界面との間の強い相互作用により、材料が力を受ける場合、分子鎖は、カーボンブラックの表面に摺動しやすいが、カーボンブラックと脱離しにくく、ゴムコンパウンドとカーボンブラックは、摺動可能で強固な結合を構成し、力学的強度が増大する。
【0029】
なお、充填材補強剤を添加する場合、充填材補強剤の添加量を合理的に制御することにより、その減衰を適切にし、振動膜の偏光を抑制し、音質がよく、歪みが低く、力学的性能に優れ、音響性能及び信頼性条件を満たす必要がある。好ましくは、ゴムコンパウンドにおける充填材補強剤の含有量の範囲は、質量百分率で、5%~60%であり、例えばゴムコンパウンドにおける充填材補強剤の含有量は、5%、10%、20%、25%、35%、45%、55%又は60%である。
【0030】
表2を参照すると、表2は、材料の力学的性能に対するカーボンブラックの添加量の影響を示す。表から分かるように、カーボンブラックの部数が0.5である場合、材料の力学的強度及び断裂伸び率がいずれも小さく、これは、カーボンブラックの量が少なく、それがマトリックスに均一に分散せず、補強効果を達成しにくいためであり、カーボンブラックの添加部数が増加するにつれて、補強が強化され、ニトリルゴム及び水素化ニトリルゴムの力学的強度が増大し、断裂伸び率が徐々に低下し、カーボンブラックの部数が90部である場合、材料の断裂伸び率が急激に低下し、振動膜に製造すると、長期使用において破膜のリスクが存在する。
表2 材料の力学的性能に対するカーボンブラックの添加量の影響
【表2】
【0031】
なお、カーボンブラックが充填されたゴムのヒステリシスは、純粋なゴムよりはるかに大きく、実際にカーボンブラック充填量が大きいほど、ゴムのヒステリシスが大きく、ゴム材料のヒステリシス性は、充填量の二乗に比例する。スピーカの振動膜の減衰性が向上し、振動システムの振動過程において偏光現象を抑制できる能力が高く、振動の一致性が高い。一般的に使用されるエンジニアリングプラスチックフィルム層は、減衰が小さく、その減衰係数が一般的に0.01より小さく、減衰性が小さい。カーボンブラックの充填量が大きすぎる場合、ゴム材料のヒステリシス性が充填量の最適であるゴム材料より大きく、かつ補強作用が低下し、高減衰性能により材料の発熱量が増大し、高周波でこのような現象が特に顕著である。
【0032】
本発明の充填材が添加されたゴムコンパウンドは、高弾性状態にあり、分子鎖が運動しやすく、分子間の摩擦力が大きく、優れた減衰性能を有し、その室温で減衰係数が0.15より大きく、優れた減衰性能を有することにより、振動膜がより小さい抵抗を有することができる。スピーカの振動膜の減衰性能が向上し、振動システムの振動過程において偏光現象を抑制できる能力が高く、振動の一致性が高い。
【0033】
カーボンブラックを充填材補強剤として選択する場合、充填材補強剤が高い表面活性、高い表面エネルギーを有し、さらに補強性能が高くなるように、適切な充填材の粒径を選択する必要がある。好ましくは、充填材の粒径の範囲が、10nm~10μmである。該粒径のカーボンブラック粒子の比表面積が最適に達し、カーボンブラックの比表面積は、単位質量のカーボンブラック粒子の表面積の総和を指す。カーボンブラックの表面積は、外表面積(滑らかな表面積)及び内表面積(空隙内表面積)を含み、カーボンブラックの総表面積は、外表面積と内表面積の総和である。カーボンブラックの比表面積は、粒径の大きさに反比例し、すなわち粒径が小さいカーボンブラックは、比表面積が大きく、粒径が大きいカーボンブラックは、比表面積が小さい。
【0034】
理解できるように、カーボンブラックのゴムに対する補強は、カーボンブラックの凝集体の表面とゴム分子鎖の結合により行われる。カーボンブラックの表面とゴム分子鎖の結合には、2つの制限がある。1つは、カーボンブラック凝集体に細孔があり、ゴム分子鎖がこれらの孔内に入ることができないことであり、もう1つは、カーボンブラック凝集体の表面が粗く、ゴム分子鎖が粗い表面の凹面に接触しないことである。カーボンブラックは、補強剤として、ゴム分子鎖と結合してこそ補強作用を果たすことができ、この結合は、カーボンブラックの表面に依存して完了され、補強作用の大きさは、結合の程度、表面の大きさに依存することになる。カーボンブラック粒子が小さいほど、単位質量当たりのカーボンブラックが有する表面積が大きくなり、ゴムに対する補強作用が大きくなる。しかし、比表面積の増加により、未加硫接着剤の加工性能に大きな影響を与え、加硫接着剤の充填容量を減少させ、混入時間を増加させ、分散能力を低下させ、離ロール性を増加させ、粘度を増大させ、押出平滑度を向上させる一方、スコーチ時間、押出収縮率、押出速度を低下させる。粒子サイズが大きく、比表面積が小さく、表面活性、表面エネルギーが小さく、ゴムに対する補強が不十分である。
【0035】
カーボンブラック粒子が小さいほど、結晶子のサイズが小さくなり、結晶子のエッジ、格子欠陥及び不飽和電荷が多くなり、すなわち、表面活性点及び高エネルギー部位が多くなり、表面エネルギーが高くなる。表面活性が大きいカーボンブラックは、その補強作用が大きい。これは、表面活性が大きいカーボンブラックの表面上の活性点が多く、ゴム練りと加硫過程においてゴム分子と反応して形成されたネットワーク構造の数が多く、このようなカーボンブラックとゴムで形成されたネットワーク構造が加硫ゴムに強度を付与するためである。
【0036】
しかし、カーボンブラックの表面活性が大きすぎると、混練時に生成された結合ゴムの数が多いため、ゴム材料のムーニー粘度が向上し、押出時に口金膨張率及び半製品収縮率が大きくなり、押出速度が遅くなる。また、粒径が小さすぎると、粒子間の凝集力が大きいため、凝集しやすく、これにより、混練時に分散しにくく、かつ可塑性を低下させ、押出性能が低くなることをもたらす。
表3 カーボンブラックの粒径と比表面積、引裂強度、100%伸び引張モジュラス及び製品の
共振周波数F0との関係
【表3】
【0037】
該粒径の範囲のカーボンブラック粒子は、未加硫接着剤の加工性能を満たし、分散能力が高く、離ロール性能が高く、かつその比表面積が大きいため、カーボンブラック粒子とゴムとの緊密な結合を促進し、補強を強化する。表3を参照すると、表3は、コンパウンドの引裂強度、100%伸び引張モジュラス及び製品の共振周波数F0に対する同じ添加量での異なるサイズの充填材の影響を示す。表3から分かるように、充填材のサイズが小さいほど、補強がよくなり、引裂強度及び100%伸び引張モジュラスが高くなり、対応する製品の共振周波数F0が高くなり、サイズが大きいほど、補強が悪くなり、引裂強度及び100%伸び引張モジュラスが低くなり、対応する製品の共振周波数F0が低くなり、共振周波数F0が低いが、引裂強度が低いため、高パワーでの振動過程において破膜しやすい。
【0038】
なお、充填材を補強剤として選択する場合、充填材は、カーボンブラック、ホワイトカーボン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、モンモリロナイト、マイカから選択される少なくとも1種であってもよい。
【0039】
さらに、ゴムコンパウンドは、ゴムコンパウンドにおける含有量が質量百分率で0.5%~5%である加硫剤をさらに含む。
【0040】
該含有量の加硫剤を添加する場合、ゴムコンパウンドは、総合的性能に優れ、高い加工性能、力学的性能、耐油性能及び耐熱老化性能を有する。
表4 材料のガラス転移温度及び断裂伸び率に対する加硫剤の使用量の影響
【表4】
表5 異なる含有量の加硫剤の加硫データ
【表5】
【0041】
なお、TS2/sは、スコーチ時間を特徴づけ、T90/sは、90%ゴム加硫にかかる時間を特徴づける。
【0042】
表4及び表5を参照すると、表4は、材料のガラス転移温度及び断裂伸び率に対する加硫剤の使用量の影響を示し、表5は、異なる含有量の加硫剤の加硫データを示す。表から分かるように、加硫剤の含有量が低い場合、材料の有効架橋密度が低く、材料の力学的強度が低く、振動膜に製造すると、長時間使用において変形しやすく、かつ材料の加硫速度が遅く、製造効率を大幅に制限し、製造コストの増加をもたらし、加硫剤の使用量が増大するにつれて、ゴム材料のスコーチ時間が短縮し、加硫速度が速くなり、材料の架橋密度が増大し、加硫ゴムの所定伸び引張応力、硬度、反発性、一定荷重条件下での耐疲労亀裂性が向上し、引張伸び率が低下し、永久変形及び動的発熱が減少し、分子鎖の運動が制限され、ガラス転移温度が上昇する。しかし、架橋密度が高すぎると、架橋結合の分布の不均一性が深刻になり、応力分布が不均一になる。
【0043】
好ましくは、加硫剤は、主架橋剤及び共架橋剤を含み、主架橋剤の加硫系は、硫黄加硫系、過酸化物加硫系のうちの少なくとも1種であり、共架橋剤は、トリアリルイソシアヌレート、ポリマレイミドのうちの少なくとも1種である。
【0044】
主架橋剤は、ゴムコンパウンドの分子にラジカルを生成させ、共架橋剤は、ゴムコンパウンドにおけるラジカルにラジカル重合を発生させる。主架橋剤は、硫黄加硫系、過酸化物加硫系から選択される1種又は2種の混合物であってもよく、過酸化物加硫系は、ジクミルパーオキサイド(DCP)又は2,5-ジメチル-2,5(ジ-tert-ブチルパーオキシ)ヘキサンから選択される1種又は2種であってもよく、共架橋剤は、トリアリルイソシアヌレートTAIC、ポリマレイミド(PAPI)から選択される1種又は2種である。
【0045】
本発明に係る振動膜の密度は、充填材補強剤の含有量に関連し、一般的に、充填材補強剤の含有量が多いほど、振動膜の密度が大きくなり、エラストマー層におけるゴムコンパウンドの密度が低い場合、その充填材の含有量が低くなり、製造された振動膜の力学的性能が低く、陥没、破膜などの信頼性上の問題が発生しやすく、密度が大きい場合、製造された振動膜は、同じ厚さで、質量が一般的な従来の振動膜よりはるかに高いが、そのFr中間周波数性能が低いことをもたらす。したがって、製造された振動膜に優れた力学的性能及び中間周波数性能を両立させるために、適切なエラストマー密度を選択する必要がある。好ましくは、本発明に係る振動膜の密度の範囲は、0.9g/cm3~1.20g/cm3である。
【0046】
本発明に係る振動膜の引っ張り強度の範囲が、4MPa~25MPaであり、振動膜の引裂強度の範囲が、15N/mm~100N/mmである。
【0047】
本発明に係る振動膜は、発音装置に適用されて使用される過程において、破膜などの信頼性の問題が発生しにくい。
【0048】
本発明に係る振動膜は、高温及び低温の極端な条件で正常に使用でき、振動膜の使用温度の範囲が、-80℃~180℃であり、振動膜の振動に必要な強度、反発性及び減衰性能を兼ね備える。
【0049】
本発明の実施例に係る振動膜及び従来の振動膜をいずれも100℃で96h貯蔵し、かつそれらの共振周波数F0を試験測定した。試験結果は、
図1及び
図2に示すとおりであり、
図1及び
図2の比較から分かるように、本発明の実施例に係るスピーカの振動膜は、100℃で96h貯蔵した後、従来の振動膜に対して、その共振周波数F0が安定したままであるが、従来の振動膜は、高温で貯蔵した後、その共振周波数F0がわずかに低下した。これは、従来の振動膜が高温後に塑性変形し、かつ老化しやすいためである。これは、本発明の振動膜が高温を経た後にも性能の一貫性を保持できることを示す。
【0050】
一方で、本発明の実施例に係る振動膜と従来の振動膜をいずれも100℃で96h貯蔵してから、スピーカに適用した上、それぞれその全高調波歪み(THD)を試験測定した。試験結果は、
図3に示すとおりである。
図3から分かるように、本発明の実施例に係るスピーカの振動膜は、100℃で96h貯蔵した後、従来の振動膜に対して、より低いTHD(全高調波歪み)を有し、かつスパイクなどがなかった。これは、本発明の実施例に係るスピーカの振動膜は、高温で貯蔵された後に依然として優れた反発性を有し、振動膜の振動する過程において、揺れ振動が少なく、音質及び聴取安定性がより高いことを示す。
【0051】
本発明の一実施例では、振動膜は、ゴムコンパウンドで製造された単層フィルムである。本実施例では、振動膜は、上記のようなゴムコンパウンドで製造された単層フィルム構造であり、すなわち、単層のエラストマー層である。
【0052】
本発明の一実施例では、振動膜は、少なくとも1層のフィルムがゴムコンパウンドで製造された複合フィルム層である。
【0053】
複合振動膜は、2層、3層、4層又は5層のフィルム層を含んでもよく、そのうち1層は、ゴムコンパウンドで製造されたエラストマー層であり、他の複合層は、熱可塑性エラストマー層及び/又はエンジニアリングプラスチック層であってもよく、熱可塑性エラストマー層における熱可塑性エラストマーは、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマー、及びシリコーンエラストマーから選択される少なくとも1種であり、エンジニアリングプラスチック層のエンジニアリングプラスチックは、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートから選択される少なくとも1種である。
【0054】
また、本発明に係る発音装置は、磁気回路システムと、振動膜を含む振動システムとを含み、振動膜の具体的な構造は、上記実施例を参照することができ、発音装置は、前述の全ての実施例の全ての技術手段を用いるため、少なくとも前述の実施例の技術手段による全ての有益な効果を有し、ここでは説明を省略する。
【0055】
本発明の振動膜は、サラウンド振動膜又は平板振動膜であってもよく、振動膜は、発音装置本体に設置され、振動するように駆動され、振動により音声を生成するように配置される。発音装置本体にコイル、磁気回路システムなどの部品が配置されてもよく、電磁誘導により振動するように振動膜を駆動する。本発明に係る発音装置は、優れた発音効果及び優れた耐久性を有する。
【0056】
以上の記載は、本発明の好ましい実施例にすぎず、本発明の特許範囲を限定するものではなく、本発明の発明構想で、本発明の明細書の内容を用いて行われた等価構造変換、又は他の関連する技術分野における直接/間接運用は、いずれも本発明の特許保護範囲内に含まれる。