(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】たばこ香味液の製造方法、たばこ香味液、および香味吸引器
(51)【国際特許分類】
A24B 15/24 20060101AFI20241021BHJP
A24B 15/20 20060101ALI20241021BHJP
A24B 15/16 20200101ALI20241021BHJP
【FI】
A24B15/24
A24B15/20
A24B15/16
(21)【出願番号】P 2023523726
(86)(22)【出願日】2021-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2021019623
(87)【国際公開番号】W WO2022249242
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 亮祐
【審査官】芝井 隆
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02607880(EP,A1)
【文献】特表2015-505247(JP,A)
【文献】特開2017-077246(JP,A)
【文献】特表2018-516069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24B 1/00 - 15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
たばこ材料から前記たばこ材料に含まれる水溶性成分を水性溶媒で抽出して、たばこ上清を得ることと、
酵母を前記たばこ上清中で培養して、酵母含有培養液を得ることと、
前記酵母含有培養液と、有機溶媒を含む溶出溶媒とを混合し、得られた混合物に含有される前記酵母から、前記酵母の菌体内に含まれる有用成分を、前記混合物の液体部分に溶出させて、有用成分溶出液を得ることと、
前記有用成分溶出液を、無機多孔質体を含んだ材料で処理して、前記
有用成分溶出液から
前記有用成分溶出液に含まれる微生物を除去すること
と
を含む、たばこ香味液の製造方法。
【請求項2】
前記処理が、前記
有用成分溶出液を、無機多孔質体を含んだ層に通すことにより行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理が、前記
有用成分溶出液を、無機多孔質体を含んだ成形体に通すことにより行われる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記処理が、前記
有用成分溶出液を、無機多孔質体を含んだ粒子の集合体に通すことにより行われる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記無機多孔質体が、珪藻土またはゼオライトである請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~
5の何れか1項に記載の方法により得られるたばこ香味液。
【請求項7】
請求項
6に記載のたばこ香味液を含む香味吸引器。
【請求項8】
請求項
1~5の何れか1項に記載の方法により得られるたばこ香味液と、
請求項
1~5の何れか1項に記載の方法において前記たばこ上清を得る際に得られるたばこ残渣と
を含むたばこ添加物。
【請求項9】
請求項
8に記載のたばこ添加物を含む香味吸引器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たばこ香味液の製造方法、たばこ香味液、および香味吸引器に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥済みのたばこ植物の葉は、シガレットや加熱式たばこなどの香味吸引器の香味源として使用され、葉たばこと呼ばれる。葉たばこには種々の香味成分が含まれている。葉たばこは、そのまま香味吸引器の香味源として使用してもよいし、葉たばこからたばこ香味成分を抽出し、得られたたばこ抽出液を香味吸引器の香味源として使用してもよい。たばこ抽出液は、酵母等の微生物を含むため、香味吸引器の香味源として使用する場合には微生物を除去することが望ましい。
【0003】
また、たばこ抽出液を酵母等の微生物と反応させて、たばこ抽出液に含まれる香味成分を増加させることが知られている(例えば、特許文献1)。この場合も、反応後のたばこ抽出液を香味吸引器の香味源として使用する場合には微生物を除去することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、たばこ香味を損なうことなく、たばこ抽出液から酵母等の微生物を簡便な方法で除去する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面によれば、たばこ抽出液を、無機多孔質体を含んだ材料で処理して、たばこ抽出液から微生物を除去することを含む、たばこ香味液の製造方法が提供される。
【0007】
別の側面によれば、前述の方法により得られるたばこ香味液が提供される。
【0008】
更に別の側面によれば、前述のたばこ香味液を含む香味吸引器が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、たばこ香味を損なうことなく、たばこ抽出液から酵母等の微生物を簡便な方法で除去する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、たばこ香味液の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、たばこ香味液の製造方法の別の例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、燃焼型香味吸引器の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、加熱型香味吸引器の一例を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、たばこスティックの内部構造を示す図である。
【
図6】
図6は、エアロゾル生成装置の内部構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明を説明することを目的とし、本発明を限定することを意図しない。
【0012】
<1.たばこ香味液の製造方法>
たばこ香味液の製造方法は、たばこ抽出液を、無機多孔質体を含んだ材料で処理して、たばこ抽出液から微生物を除去することを含む。
【0013】
この方法では、たばこ抽出液に含まれる微生物が除去されるため、得られるたばこ香味液は、たばこ抽出液と比べて、低減した量の微生物を有する。本明細書において、「微生物」は、たばこ抽出液を、無機多孔質体を含んだ材料で処理する直前にたばこ抽出液に含まれる任意の微生物を指し、細菌や真菌を包含する。
【0014】
第1実施形態において、たばこ抽出液は、たばこ材料から前記たばこ材料に含まれる水溶性成分を水性溶媒で抽出することにより得られるたばこ上清である。第1実施形態に係る方法は、以下の<1-1.第1実施形態>の欄で詳細に説明する。
【0015】
第2実施形態において、たばこ抽出液は、以下の(a)~(c)の工程を含む方法により得られる有用成分溶出液である:
(a)たばこ材料から前記たばこ材料に含まれる水溶性成分を水性溶媒で抽出して、たばこ上清を得ること、
(b)酵母を前記たばこ上清中で培養して、酵母含有培養液を得ること、および
(c)前記酵母含有培養液と、有機溶媒を含む溶出溶媒とを混合し、得られた混合物に含有される前記酵母から、前記酵母の菌体内に含まれる有用成分を、前記混合物の液体部分に溶出させて、有用成分溶出液を得ること。第2実施形態に係る方法は、以下の<1-2.第2実施形態>の欄で詳細に説明する。
【0016】
<1-1.第1実施形態>
第1実施形態によれば、たばこ香味液の製造方法は、
(S1)たばこ材料から前記たばこ材料に含まれる水溶性成分を水性溶媒で抽出して、たばこ上清を得ることと、
(S4)前記たばこ上清を、無機多孔質体を含んだ材料で処理して、微生物フリーのたばこ上清を得ることと
を含む。
【0017】
第1実施形態に係る方法を
図1に示す。第1実施形態に係る方法を、
図1を参照しながら(S1)および(S4)の工程順に説明する。第1実施形態に係る方法により得られる「微生物フリーのたばこ上清」を「たばこ香味液」として使用することができる。
【0018】
[抽出工程(S1)]
抽出工程(S1)では、たばこ材料からたばこ材料に含まれる水溶性成分を水性溶媒で抽出して、たばこ上清を得る。抽出工程(S1)では、たばこ上清が得られるのと同時にたばこ残渣も得られる(
図1参照)。
【0019】
たばこ材料は、燃焼型または加熱型の香味吸引器などのたばこ製品に配合される準備が整ったたばこ刻を使用することができる。「たばこ製品に配合される準備が整ったたばこ刻」とは、農家での乾燥工程、その後の原料工場での1年ないし数年の長期熟成工程、およびその後の製造工場でのブレンドおよび裁刻など種々の加工処理を経て、たばこ製品に配合される準備が整ったたばこ刻を指す。
【0020】
たばこ刻は、葉たばこの裁刻物である。たばこ刻は、除骨葉の刻、中骨の刻、再生たばこ(すなわち、工場の作業工程で生じる葉屑、刻み屑、中骨屑、細粉などを再使用可能な形状に加工したたばこ材料)の刻、またはこれらの混合物のいずれであってもよい。たばこ刻は、抽出効率を高めるために粉砕し、得られた粉砕物を抽出のために使用してもよい。
【0021】
たばこ刻は、任意の品種のものを使用することができ、たとえば黄色種、バーレー種、オリエント種などのものを使用することができる。たばこ刻は、単一品種のものを使用してもよいし、異なる品種の混合物を使用してもよい。
【0022】
水性溶媒としては、水または含水エタノールを使用することができる。含水エタノールとしては、例えば、エタノールと水との体積比1:1の混合物を使用することができる。水性溶媒は、一般的には水であり、好ましくは室温(例えば、約20℃)~70℃の水である。水性溶媒は、例えば、たばこ材料に対して500~5000質量%の量で使用することができる。
【0023】
抽出は、例えば、たばこ材料を40~60℃の温水中で30~180分間浸漬するか、あるいは、たばこ材料を40~60℃の温水中で30~180分間振盪(例えば200rpm)することにより行うことができる。
【0024】
また、抽出は、複数回の抽出操作を繰り返すことにより行ってもよい。具体的には、たばこ材料からたばこ材料に含まれる水溶性成分を水性溶媒で抽出し、その後、得られたたばこ残渣を新たな水性溶媒に入れて2回目の抽出操作を行い、更に必要に応じて、新たな水性溶媒での抽出操作を繰り返すことにより、抽出を行ってもよい。
【0025】
抽出により、たばこ残渣とたばこ上清との混合物が得られる。たばこ上清は、たばこ材料に含まれる水溶性成分を含有する。「たばこ材料に含まれる水溶性成分」として、例えば、酵母などの微生物の栄養源となる成分(例えば、糖類、アミノ酸、タンパク質、栄養塩類)や、たばこ香味に寄与する成分(例えば、有機酸、葉面樹脂、テルペノイド、ポリフェノール類)などが挙げられる。
【0026】
抽出の後、たばこ残渣とたばこ上清とは分離され、たばこ上清は、たばこ香味液を得るための原料として使用される。一方、たばこ残渣は、最終的に得られたたばこ香味液(この実施形態では、「微生物フリーのたばこ上清」)と混合し、得られた混合物を適宜加工して、たばこ充填材を作製するために使用することができる。例えば、たばこ残渣は、最終的に得られたたばこ香味液と混合し、得られた混合物からシートたばこなどのたばこ成形体を作製するために使用してもよい。あるいは、たばこ残渣は、最終的に得られたたばこ香味液と混合し、得られた混合物を乾燥させ粉砕してたばこパウダーを作製するために使用してもよい。
【0027】
[処理工程(S4)]
処理工程(S4)では、たばこ上清を、無機多孔質体を含んだ材料で処理して、たばこ上清から微生物を除去する。これにより、たばこ香味液として、微生物フリーのたばこ上清を得る。
【0028】
無機多孔質体は、例えば、珪藻土またはゼオライトである。珪藻土は、珪藻の殻の化石からなる堆積物であり、二酸化ケイ素を主成分として含む。ゼオライトは、ミクロ多孔性の結晶性含水アルミノケイ酸塩であり、天然ゼオライトであってもよいし、合成ゼオライトであってもよい。
【0029】
処理工程(S4)で除去される微生物は、たばこ上清に含まれる微生物であり、例えば、酵母、カビ、微細藻類などが挙げられる。後述の実施例1で、たばこ香味液の清澄性が実証されていることから、処理工程(S4)では、たばこ上清に含まれるあらゆる微生物が除去できるとともに、微生物以外の微粒子、例えば1μm以上のサイズの微粒子も除去できると考えられる。
【0030】
たばこ香味液中の微生物は、代謝によりたばこ香味液の組成を変化させ、品質劣化の原因になるため、たばこ香味液は微生物を含まないことが好ましい。また、たばこ香味液を電子たばこ(すなわち、たばこ香味液をヒータにより加熱して蒸発・気化させてユーザに吸引させる喫煙具)に適用する場合、たばこ香味液中の微生物は、ヒータの焦げの原因になるため、たばこ香味液は微生物を含まないことが好ましい。
【0031】
処理工程(S4)は、たばこ上清を、無機多孔質体を含んだ材料に通すことにより行ってもよいし、たばこ上清に、無機多孔質体を含んだ材料を添加し、その後、無機多孔質体を含んだ材料をたばこ上清から除去することにより行ってもよい。
【0032】
好ましい態様において、処理工程(S4)は、たばこ上清を、無機多孔質体を含んだ層に通すことにより行うことができる。無機多孔質体を含んだ層は、例えば、珪藻土を含んだ層またはゼオライトを含んだ層である。「無機多孔質体を含んだ層」は、無機多孔質体のみからなる層であってもよいし、主成分としての無機多孔質体と追加成分としての添加剤とを含んだ層であってもよい。添加剤として、例えば、成形助剤、バインダーなどが挙げられる。
【0033】
一つの態様において、「無機多孔質体を含んだ層」は、無機多孔質体を含んだ成形体から構成されていてもよい。すなわち、処理工程(S4)は、たばこ上清を、無機多孔質体を含んだ成形体に通すことにより行われてもよい。無機多孔質体を含んだ成形体は、例えば、珪藻土を含んだ成形体またはゼオライトを含んだ成形体である。「無機多孔質体を含んだ成形体」は、無機多孔質体のみからなる成形体であってもよいし、主成分としての無機多孔質体と追加成分としての添加剤とを含んだ成形体であってもよい。添加剤として、例えば、成形助剤、バインダーなどが挙げられる。より具体的には、「無機多孔質体を含んだ成形体」は、無機多孔質体を含んだ焼成成形体であってもよいし、無機多孔質体を含んだ粒子の圧縮成形体であってもよい。
【0034】
珪藻土を含んだ成形体は、例えば、セライト(登録商標)(ジーエルサイエンス株式会社)、スープラディスク(日本ポール株式会社)を使用することができる。
【0035】
あるいは、別の態様において、「無機多孔質体を含んだ層」は、無機多孔質体を含んだ粒子の集合体から構成されていてもよい。すなわち、処理工程(S4)は、たばこ上清を、無機多孔質体を含んだ粒子の集合体に通すことにより行われてもよい。無機多孔質体を含んだ粒子は、例えば、珪藻土を含んだ粒子またはゼオライトを含んだ粒子である。「無機多孔質体を含んだ粒子」は、無機多孔質体のみからなる粒子であってもよいし、主成分としての無機多孔質体と追加成分としての添加剤とを含んだ粒子であってもよい。添加剤として、例えば、成形助剤、バインダーなどが挙げられる。
【0036】
「無機多孔質体を含んだ粒子」は、例えば<400μmの粒度、一般的には10~400μmの粒度、好ましくは<100μmの粒度、より好ましくは10~100μmの粒度、更に好ましくは10~80μmの粒度、更に好ましくは30~75μmの粒度を有する。<Xμmの粒度とは、粒径がXμmよりも小さいことを表す。すなわち、<Xμmの粒度とは、Xμmの目開きのふるいを通過した粒子の粒度を指す。また、Y~Zμmの粒度とは、粒径がYμm以上、Zμmよりも小さいことを表す。すなわち、Y~Zμmの粒度とは、Zμmの目開きのふるいを通過したが、Yμmの目開きのふるいを通過しなかった粒子の粒度を指す。本明細書において、粒度は、ふるい分け粒度測定法(JIS Z 8815:1994)により測定された値を指す。
【0037】
珪藻土を含んだ粒子は、例えば、K-soluteの商品名で市販される珪藻土の粉砕品(粒度:<354μm)(ジーエルサイエンス株式会社)を使用することができる。ゼオライトを含んだ粒子は、例えば、合成ゼオライト粉末(粒度:<75μm)(富士フィルム和光純薬株式会社)を使用することができる。
【0038】
より好ましい態様において、処理工程(S4)は、たばこ上清を、無機多孔質体を含んだ粒子の集合体を充填したカラムに通すことにより行うことができる。「無機多孔質体を含んだ粒子」は、上記で説明したとおりであり、例えば、珪藻土を含んだ粒子またはゼオライトを含んだ粒子である。カラムは、例えば、内径11~100mmおよび長さ100~1000mmのサイズを有するカラムを使用することができる。たばこ上清は、例えば、重力落下によりカラムに通すことができる。
【0039】
<1-2.第2実施形態>
第2実施形態では、たばこ上清を酵母と反応させて、たばこ上清に含まれる香味成分を増加させた後に、香味成分が増加したたばこ上清から微生物を除去する。すなわち、第2実施形態によれば、たばこ香味液の製造方法は、
(S1)たばこ材料から前記たばこ材料に含まれる水溶性成分を水性溶媒で抽出して、たばこ上清を得ることと、
(S2)酵母を前記たばこ上清中で培養して、酵母含有培養液を得ることと、
(S3)前記酵母含有培養液と、有機溶媒を含む溶出溶媒とを混合し、得られた混合物に含有される前記酵母から、前記酵母の菌体内に含まれる有用成分を、前記混合物の液体部分に溶出させて、有用成分溶出液を得ることと、
(S4)前記有用成分溶出液を、無機多孔質体を含んだ材料で処理して、微生物フリーの有用成分溶出液を得ることと
を含む。
【0040】
第2実施形態に係る方法を
図2に示す。第2実施形態に係る方法を、
図2を参照しながら(S1)、(S2)、(S3)および(S4)の工程順に説明する。以下の説明では、第1実施形態に係る方法と重複する部分についての説明は省略し、第1実施形態に係る方法と異なる部分を中心に説明する。第2実施形態に係る方法により得られた「微生物フリーの有用成分溶出液」を「たばこ香味液」として使用することができる。
【0041】
[抽出工程(S1)]
抽出工程(S1)では、たばこ材料からたばこ材料に含まれる水溶性成分を水性溶媒で抽出して、たばこ上清を得る。抽出工程(S1)では、たばこ上清が得られるのと同時にたばこ残渣も得られる(
図2参照)。抽出工程(S1)は、第1実施形態の方法で説明した抽出工程(S1)と同様に実施することができる。
【0042】
[培養工程(S2)]
培養工程(S2)では、抽出工程(S1)で得られたたばこ上清中で酵母を培養して、酵母含有培養液を得る(
図2参照)。
【0043】
酵母は、たばこ上清中で培養した際に有用成分を生産することができれば、任意の種類の酵母を使用することができる。
【0044】
本明細書において、「有用成分」は、最終的に得られるたばこ香味液にとって有用な成分を指す。有用成分は、例えば、たばこ香味液の香味に寄与する成分(以下、香味寄与成分という)であってもよいし、たばこ香味液を着色する成分(以下、着色成分という)であってもよいし、たばこ香味液の腐敗や発酵を防ぐ成分(以下、防腐成分という)であってもよい。
【0045】
有用成分は、好ましくは香味寄与成分である。「香味寄与成分」は、香味を放出する香味成分であってもよいし、香味吸引器で加熱または燃焼されたときに香味成分に変換される前駆体であってもよい。
【0046】
香味寄与成分としては、例えば、カロテノイド、脂肪酸、中性脂肪(すなわち、脂肪酸のグリセリンエステル)、酢酸エステル、脂肪酸エステル、有機酸、高級アルコール(例えば、炭素数8~22のアルコール)などが挙げられる。着色成分としては、例えば、カロテノイドが挙げられる。防腐成分としては、例えば、乳酸、脂肪酸配糖体、安息香酸などが挙げられる。
【0047】
したがって、上述の有用成分を生産することが知られている酵母を、本発明の方法で使用することができる。
【0048】
カロテノイドを生産する酵母としては、Rhodotorula属の酵母、例えばRhodotorula alborubescens、Rhodotorula araucariae、Rhodotorula babjevae、Rhodotorula dairenensis、Rhodotorula diobovata、Rhodotorula evergladensis、Rhodotorula glutinis、Rhodotorula graminis、Rhodotorula kratochvilovae、Rhodotorula mucilaginosa、Rhodotorula ngohengohe、Rhodotorula pacifica、Rhodotorula paludigena、Rhodotorula sinensis、Rhodotorula sphaerocarpa、Rhodotorula taiwanensis、Rhodotorula toruloides;Xanthophyllomyces属の酵母、例えばXanthophyllomyces australis、Xanthophyllomyces rhodozyma、Xanthophyllomyces tasmanicaが挙げられる。
【0049】
脂肪酸を生産する酵母としては、Yarrowia属の酵母、例えばYarrowia alimentaria、Yarrowia bubula、Yarrowia deformans、Yarrowia divulgata、Yarrowia galli、Yarrowia hollandica、Yarrowia keelungensis、Yarrowia lipolytica、Yarrowia osloensis、Yarrowia parophoni、Yarrowia phangngaensis、Yarrowia porcina、Yarrowia yakushimensis;Lipomyces属の酵母、例えばLipomyces anomalus、Lipomyces arxii、Lipomyces chichibuensis、Lipomyces doorenjongii、Lipomyces japonicus、Lipomyces kockii、Lipomyces kononenkoae、Lipomyces lipofer、Lipomyces mesembrius、Lipomyces okinawensis、Lipomyces oligophaga、Lipomyces orientalis、Lipomyces smithiae、Lipomyces spencermartinsiae、Lipomyces starkeyiが挙げられる。
【0050】
酢酸エステル、脂肪酸エステル、または高級アルコールを生産する酵母としては、Saccharomyces属の酵母、例えばSaccharomyces cerevisiae、Saccharomyces paradoxus、Saccharomyces bayanus、Saccharomyces uvarum、Saccharomyces arboricola;Cyberlindnera属の酵母、例えばCyberlindnera jadinii、Cyberlindnera saturnus、Cyberlindnera fabianii、Cyberlindnera suaveolens、Cyberlindnera americana、Cyberlindnera xylosilytyca;Wickerhamomyces属の酵母、例えばWickerhamomyces anomalus、Wickerhamomyces ciferri、Wickerhamomyces canadensisが挙げられる。
【0051】
1種類の酵母がたばこ上清中で培養されてもよいし、2種類以上の酵母がたばこ上清中で培養されてもよい。また、酵母は、有用成分の生産量を増加するように遺伝的に改変された遺伝子組換え酵母であってもよい。
【0052】
酵母の培養条件は、特に限定されず、使用する酵母の生育および有用成分の生産に適した条件を適宜選択することができる。培養に先立って、酵母は、たばこ上清に、例えば10~108細胞/mLの濃度で添加することができる。培養は、例えば10~40℃で、例えば5~168時間にわたって行うことができる。
【0053】
たばこ上清は、酵母の栄養源となる成分や有用成分の原料となる成分が含まれており、酵母の生育および有用成分の生産に適した環境を提供することができる。このため、たばこ上清に追加の成分を添加する必要はない。ただし、本発明の方法は、たばこ上清に追加の成分を添加することを除外しない。
【0054】
酵母をたばこ上清中で培養した後に得られる、酵母とたばこ上清との混合物を、本明細書では「酵母含有培養液」と呼ぶ。酵母含有培養液は、「培養前の酵母とたばこ上清の混合物」と比べると、酵母が生産した有用成分の量が増加している。また、酵母含有培養液は、「培養前の酵母とたばこ上清の混合物」と比べると、酵母が生育や有用成分の生産のために消費した物質の量が減少している。
【0055】
[溶出工程(S3)]
溶出工程(S3)では、培養工程(S2)で得られた酵母含有培養液と、有機溶媒を含む溶出溶媒とを混合し、得られた混合物に含有される酵母から、酵母の菌体内に含まれる有用成分を、混合物の液体部分に溶出させる。これにより、有用成分溶出液を得る(
図2参照)。
【0056】
本明細書では、溶出工程を終えた後に得られる、酵母と溶出溶媒とを含有する混合物を「有用成分溶出液」と呼ぶ。
【0057】
溶出溶媒としては、有機溶媒を含む溶出溶媒を使用することができる。溶出溶媒は、有機溶媒それ自体であってもよいし、有機溶媒と水との混合物であってもよい。溶出溶媒は、好ましくは、水と混和性を有する有機溶媒を含む溶出溶媒であり、より好ましくは、水と混和性を有するアルコールを含む溶出溶媒である。すなわち、好ましい溶出溶媒は、水と混和性を有するアルコール、またはその含水アルコールである。
【0058】
溶出溶媒に含まれる有機溶媒は、好ましくは、10~14.5のSP値を有する有機溶媒であり、より好ましくは、10~14.5のSP値を有するアルコールである。溶出溶媒に含まれる有機溶媒の例として、エタノール、イソプロパノール、メタノール、またはブタノールが挙げられる。溶出溶媒に含まれる有機溶媒は、より好ましくは、エタノールまたはイソプロパノールであり、最も好ましくはエタノールである。すなわち、最も好ましい溶出溶媒は、エタノールまたは含水エタノールである。
【0059】
SP値は、Hildebrand溶解度パラメータの値を指す。溶媒のSP値が高いほど、水との混和性が高いことを表す。SP値は、種々の溶媒で公知であり、例えば、エタノールのSP値は12.7、イソプロパノールのSP値は11.5、メタノールのSP値は14.5、ブタノールのSP値は11.4である。
【0060】
溶出溶媒に含まれる有機溶媒は、1種類が使用されてもよいし、2種類以上が混合されて使用されてもよい。
【0061】
溶出溶媒は、酵母含有培養液と溶出溶媒との混合液中の有機溶媒の濃度が、例えば50体積%以上、好ましくは50~95体積%、より好ましくは60~95体積%になる量で、酵母含有培養液に添加することができる。有機溶媒の濃度は、有用成分の溶出効率を考えて適宜調整することができる。本明細書において、「酵母含有培養液と溶出溶媒との混合液(mixed solution)」の用語は、酵母含有培養液の液体部分(すなわち、培養後のたばこ上清)と溶出溶媒との混合液を指し、酵母を含まない。
【0062】
また、溶出溶媒は、酵母含有培養液に対して、例えば100~900体積%の量で添加することができる。溶出溶媒の添加量は、有用成分の溶出効率を考えて適宜調整することができる。
【0063】
例えば、溶出溶媒としてエタノールまたは含水エタノールを使用し、有用成分として脂肪酸を溶出させたい場合、エタノールは、酵母含有培養液と溶出溶媒との混合液中のエタノールの濃度が、例えば50体積%以上、好ましくは50~90体積%、より好ましくは60~90体積%、更に好ましくは60~80体積%、最も好ましくは70体積%になる量で、酵母含有培養液に添加することができる。
【0064】
例えば、溶出溶媒としてエタノールまたは含水エタノールを使用し、有用成分としてカロテノイドを溶出させたい場合、エタノールは、酵母含有培養液と溶出溶媒との混合液中のエタノールの濃度が、例えば50体積%以上、好ましくは50~90体積%、より好ましくは60~90体積%、更に好ましくは70~90体積%、更に好ましくは80~90体積%、最も好ましくは90体積%になる量で、酵母含有培養液に添加することができる。
【0065】
溶出工程(S3)では、酵母含有培養液と溶出溶媒とを混合した後、得られた混合物に含有される酵母から、酵母の菌体内に含まれる有用成分を、混合物の液体部分に溶出させる。溶出は、酵母含有培養液と溶出溶媒との混合物を、必要であれば加熱しながら、所定期間にわたって撹拌することにより行うことができる。
【0066】
溶出は、有用成分の溶出効率の観点で、混合物を撹拌しながら行うことが好ましいが、混合物を静置しながら行ってもよい。混合物を撹拌する場合、撹拌速度は、例えば60~300rpmとすることができる。
【0067】
また、加熱により有用成分の溶出が促進される場合、溶出は、加熱しながら行ってもよいし、加熱による溶出の促進効果がみられない場合、溶出は、加熱することなく室温(例えば15~25℃)で行ってもよい。
【0068】
溶出温度および溶出時間は、有用成分の溶出効率を考えて適宜調整することができる。
【0069】
例えば、溶出溶媒としてエタノールまたは含水エタノールを使用し、有用成分として脂肪酸を溶出させたい場合、溶出は、混合物を室温(例えば15~25℃)で5~60分間にわたって撹拌することにより行うことができる。
【0070】
例えば、溶出溶媒としてエタノールまたは含水エタノールを使用し、有用成分としてカロテノイドを溶出させたい場合、溶出は、混合物を80~95℃に加熱しながら、15~60分間にわたって撹拌することにより行うことができる。
【0071】
[処理工程(S4)]
処理工程(S4)では、溶出工程(S3)で得られた有用成分溶出液を、珪藻土を含んだ材料で処理して、有用成分溶出液から微生物を除去する。これにより、たばこ香味液として、微生物フリーの有用成分溶出液を得る。処理工程(S4)は、第1実施形態の方法で説明した処理工程(S4)と同様に実施することができる。
【0072】
処理工程(S4)で除去される微生物は、培養工程(S2)で使用された酵母およびたばこ上清に含まれる微生物である。たばこ上清に含まれる微生物としては、例えば、酵母、カビ、微細藻類などが挙げられる。後述の実施例3で、たばこ香味液の清澄性が実証されていることから、処理工程(S4)では、培養工程(S2)で使用された酵母およびたばこ上清に含まれるあらゆる微生物が除去できるとともに、微生物以外の微粒子、例えば1μm以上のサイズの微粒子も除去できると考えられる。
【0073】
第2実施形態に係る方法は、「微生物フリーの有用成分溶出液」を得た後、「微生物フリーの有用成分溶出液」から有機溶媒を除去することを更に含んでいてもよい。有機溶媒の除去は、減圧濃縮、常圧濃縮、噴霧乾燥などの一般的な方法により行うことができる。
【0074】
<1-3.効果>
本発明の方法によれば、たばこ香味を損なうことなく、たばこ抽出液(第1実施形態では「たばこ上清」、第2実施形態では「有用成分溶出液」)から酵母等の微生物を簡便な方法で除去することができる。これにより、たばこ香味を損なうことなく、微生物量の低減したたばこ香味液(第1実施形態では「微生物フリーのたばこ上清」、第2実施形態では「微生物フリーの有用成分溶出液」)を簡便な方法で製造することができる。
【0075】
以下に、本発明の効果を詳細に説明する。
本発明の方法は、たばこ抽出液から微生物を除去するために、無機多孔質体を含む材料で処理するだけでよく、精密濾過を行う必要がない。精密濾過は、濾過に時間を要するとともに、濾過膜の詰まりを解消するなど装置のメンテナンスに労力がかかる。本発明の方法は、たばこ抽出液を、無機多孔質体を含んだ層に通した場合も抵抗が少なく、精密濾過膜での処理と比較して明らかに簡便であり、生産効率の点で優れている。
【0076】
また、本発明の方法は、精密濾過膜での処理と同程度に、微生物を除去することができるため、微生物の除去効率という点で優れている(後述の実施例1および3を参照)。
【0077】
また、本発明の方法は、微生物や微生物と同サイズの微粒子を除去するが、たばこ香味成分を除去しないため、本発明のたばこ香味液は、香味吸引器のたばこ香味源として優れている(後述の実施例4を参照)。
【0078】
とりわけ、第2実施形態に係る方法は、たばこ上清中で酵母を培養し、その後、酵母の菌体内に含まれる有用成分をたばこ上清に溶出させ、得られた有用成分溶出液から酵母を除去する。このため、第2実施形態に係る方法によれば、多量の有用成分を含み、かつ微生物量の低減したたばこ香味液を製造することができる。
【0079】
<2.たばこ香味液>
別の側面によれば、上述の「たばこ香味液の製造方法」により製造されるたばこ香味液が提供される。
【0080】
上述のとおり、たばこ香味液は、以下の何れであってもよい:
(i)第1実施形態の方法により得られる「微生物フリーのたばこ上清」;および
(ii)第2実施形態の方法により得られる「微生物フリーの有用成分含有液」。
【0081】
したがって、上述の「たばこ香味液の製造方法」により製造されるたばこ香味液は、上記2種類の生成物を具体例として包含する。
【0082】
上述のとおり、たばこ香味液は、微生物が除去されているため、微生物の代謝によりたばこ香味液の組成が変化する可能性をなくすことができ、香味吸引器の香味源として使用した際に品質安定性の観点で優れている。
【0083】
とりわけ、第2実施形態に係る方法により得られるたばこ香味液は、上述の第2実施形態に係る方法により製造されるため、多量の有用成分を含むことができる。したがって、かかるたばこ香味液を香味吸引器に組み込んだ場合、香味吸引器において有用成分の効果を顕著に発揮することができる。例えば、有用成分が香味寄与成分である場合、たばこ香味液は、多量の香味寄与成分を含むことができるため、香味吸引器などのたばこ製品に組み込んだ場合、増強した香味をユーザに提供することができる。
【0084】
上述の「たばこ香味液の製造方法」により製造されるたばこ香味液は、公知技術に従って、香味吸引器などのたばこ製品に組み込むことができる。以下に、たばこ香味液の使用例を説明する。
【0085】
例えば、たばこ香味液は、たばこ材料(例えば、除骨葉や葉たばこ)に添加し、得られた混合物を乾燥させることにより、使用することができる。
【0086】
あるいは、たばこ香味液は、上述の抽出工程(S1)で得られたたばこ残渣に添加し、得られた混合物から、シートたばこやたばこ顆粒などのたばこ成形体を作製し、たばこ成形体をたばこ製品のたばこ香味源として使用することができる。
【0087】
あるいは、たばこ香味液は、上述の抽出工程(S1)で得られたたばこ残渣に添加し、得られた混合物を乾燥させ粉砕してたばこパウダーを作製し、たばこパウダーをたばこ材料(例えば、除骨葉や葉たばこ)に添加することにより、使用することができる。
【0088】
あるいは、たばこ香味液は、上述の抽出工程(S1)で得られたたばこ残渣に添加し、得られた混合物を乾燥させ粉砕してたばこパウダーを作製し、たばこパウダーを水に懸濁してたばこスラリーを調製し、たばこスラリーをたばこ材料(例えば、除骨葉や葉たばこ)に添加することにより、使用することができる。
【0089】
あるいは、たばこ香味液は、公知技術に従ってカプセル化し、得られた香料カプセルをたばこ製品のフィルタ部分に組み込むことができる。
【0090】
<3.たばこ添加物>
上述のとおり、たばこ香味液は、上述の抽出工程(S1)で得られたたばこ残渣と組み合わせて使用してもよい。したがって、別の側面によれば、
上述の「たばこ香味液の製造方法」により製造されるたばこ香味液と、
上述の「たばこ香味液の製造方法」においてたばこ上清を得る際に得られるたばこ残渣と
を含むたばこ添加物が提供される。
【0091】
以下に、たばこ添加物の具体例を説明する。
例えば、たばこ添加物は、たばこ香味液と、抽出工程(S1)で得られたたばこ残渣との混合物を乾燥させることにより得られた生成物であってもよい。この生成物は、たばこ製品のたばこ香味源として使用することができる。
【0092】
あるいは、たばこ添加物は、たばこ香味液と、抽出工程(S1)で得られたたばこ残渣との混合物を、シート形状や顆粒形状などの特定形状に成形することにより得られたたばこ成形体であってもよい。たばこ成形体は、たばこ製品のたばこ香味源として使用することができる。
【0093】
あるいは、たばこ添加物は、たばこ香味液と、抽出工程(S1)で得られたたばこ残渣との混合物を、乾燥させ、パウダー状に粉砕することにより得られたたばこパウダーであってもよい。たばこパウダーは、たばこ材料(例えば、除骨葉や葉たばこ)に添加することにより、たばこ材料の香味を増強することができる。
【0094】
あるいは、たばこ添加物は、たばこ香味液と、抽出工程(S1)で得られたたばこ残渣との混合物を、乾燥させ、パウダー状に粉砕し、得られたパウダーを水に懸濁させることにより得られたたばこスラリーであってもよい。たばこスラリーは、たばこ材料(例えば、除骨葉や葉たばこ)に添加することにより、たばこ材料の香味を増強することができる。
【0095】
たばこ添加物は、必要に応じて、バインダー、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0096】
<4.香味吸引器>
上述の「たばこ香味液」または上述の「たばこ添加物」は、任意のたばこ製品に組み込むことができる。典型的な例として、上述の「たばこ香味液」または上述の「たばこ添加物」は、燃焼型香味吸引器や加熱型香味吸引器などの香味吸引器に組み込むことができる。すなわち、別の側面によれば、上述の「たばこ香味液」を含む香味吸引器または上述の「たばこ添加物」を含む香味吸引器が提供される。
【0097】
上述の「たばこ香味液」または上述の「たばこ添加物」は、たばこ製品をユーザが使用した際に、増強した香味を味わうことができれば、たばこ製品の任意の位置に組み込むことができる。
【0098】
燃焼型香味吸引器の例として、シガレット、パイプ、キセル、葉巻、またはシガリロなどが挙げられる。燃焼型香味吸引器の一例、すなわち典型的な構成のシガレットを、
図3に示す。
【0099】
図3に示す燃焼型香味吸引器1は、
たばこ充填材2aとたばこ充填材2aの周囲を巻装するたばこ巻紙2bとを含むたばこロッド2と、
濾材3aと濾材3aの周囲に巻かれたプラグラッパー3bとを含むフィルタ3と、
たばこロッド2とフィルタ3とを接続するようにたばこロッド2とフィルタ3上に巻かれたチップペーパー4と
を含む。
【0100】
たばこロッド2は、たばこ刻やたばこ成形体などのたばこ充填材2aを含む。たばこロッドは、通常のシガレットと同様、例えば、5~10mmの直径および40~80mmの長さを有することができる。
【0101】
フィルタ3は、単一の濾材3aからなるフィルタ、いわゆるプレーンフィルタである。濾材3aは、通常のシガレットと同様、アセテートトウなどの濾材により構成することができる。フィルタ3は、たばこロッド2とほぼ同じ直径を有し、長さは、通常のシガレットと同様、例えば15~40mmであり得る。プラグラッパー3bは、10~100μmの厚さであり得、その通気性の有無は問わないが、通気性を有する紙を使用するのが一般的である。
【0102】
チップペーパー4は、プラグラッパー3bの全体とたばこ巻紙2bの一部とを覆うように、接着剤で接着されている。チップペーパー4は、例えば、たばこロッドの軸方向の長さ(幅)が20~50mm、厚さが10~100μmであり得る。通常のシガレットと同様、チップペーパー4には、通気用の小開孔(ベンチレーション孔)がシガレットの円周方向に沿って一列、複数列若しくは不規則に多数穿設されていてもよい。
【0103】
図3に示す燃焼型香味吸引器1の場合、上述の「たばこ香味液」や上述の「たばこ添加物」は、例えば、たばこ充填材2aまたは濾材3aに組み込むことができる。
【0104】
次に、加熱型香味吸引器の例について説明する。加熱型香味吸引器の例として、
炭素熱源の燃焼熱でたばこ充填材を加熱する炭素熱源型吸引器(例えばWO2006/073065を参照);
たばこ充填材を含むたばこスティックと、たばこスティックを電気加熱するための加熱デバイスとを備えた電気加熱型吸引器(例えばWO2010/110226を参照);または
液状のエアロゾル源をヒータにより加熱してエアロゾルを発生させ、エアロゾルとともにたばこ充填材由来の香味を吸引する液体霧化型吸引器(例えばWO2015/046385を参照)
などが挙げられる。
【0105】
以下に、加熱型香味吸引器の一例を、
図4~6を参照して説明する。
図4は、加熱型香味吸引器の一例を示す斜視図である。
図5は、たばこスティックの内部構造を示す図である。
図6は、エアロゾル生成装置の内部構造を示す図である。
【0106】
図4に示すとおり、加熱型香味吸引器100は、
たばこ充填材とエアロゾル源とを含むたばこスティック110と、
たばこスティック110を着脱可能に装着するエアロゾル生成装置120であって、たばこスティック110を加熱してエアロゾル源からエアロゾルを発生させるとともに、エアロゾルの作用によりたばこ充填材から香味成分を放出させるエアロゾル生成装置120と
を有する。
【0107】
たばこスティック110は、交換可能なカートリッジであり、長手方向に沿って延びる柱状形状を有する。たばこスティック110は、エアロゾル生成装置120に挿入された状態で加熱されることによってエアロゾルおよび香味成分を発生するように構成されている。
【0108】
図5に示すとおり、たばこスティック110は、充填物111と、充填物111を巻装する第1巻紙112とを含む基材部11Aと、基材部11Aとは反対側の端部を形成する吸口部11Bとを有する。基材部11Aと吸口部11Bは、第2巻紙113によって連結されている。
【0109】
吸口部11Bは、紙管部114と、フィルタ部115と、紙管部114とフィルタ部115との間に配置された中空セグメント部116とを有する。紙管部114は、紙を円筒形に巻いて形成された紙管であり、内側は空洞である。フィルタ部115は、アセテートトウなどの濾材を含む。中空セグメント部116は、1つ又は複数の中空チャネルを有する充填層を含む。フィルタ部115の濾材と中空セグメント部116の充填層とは、プラグラッパー117で覆うことにより連結されている。充填層は、繊維から構成され、繊維の充填密度が高いため、吸引時は、空気やエアロゾルは中空チャンネルのみを流れることになり、充填層内はほとんど流れない。たばこスティック110において、フィルタ部115でのエアロゾル成分の濾過による減少を少なくしたいときに、フィルタ部115の長さを短くして中空セグメント部116で置き換えることはエアロゾルのデリバリー量を増大させるために有効である。
【0110】
吸口部11Bは3つのセグメントから構成されているが、吸口部11Bは1つ又は2つのセグメントから構成されていてもよいし、4つ又はそれ以上のセグメントから構成されていてもよい。例えば、中空セグメント部116を省略し、紙管部114とフィルタ部115を互いに隣接配置して吸口部11Bを形成することもできる。
【0111】
たばこスティック110の長手方向の長さは、40~90mmであることが好ましく、50~75mmであることがより好ましく、50~60mmであることがさらに好ましい。たばこスティック110の円周は15~25mmであることが好ましく、17~24mmであることがより好ましく、20~23mmであることがさらに好ましい。また、たばこスティック110の長手方向において、基材部11Aの長さは20mm、紙管部114の長さは20mm、中空セグメント部116の長さは8mm、フィルタ部115の長さは7mmであってよいが、これら個々のセグメントの長さは、製造適性、要求品質等に応じて、適宜変更できる。
【0112】
充填物111は、たばこ充填材とエアロゾル源とを含む。エアロゾル源は、所定温度で加熱されてエアロゾルを発生する。エアロゾル源として、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、トリアセチン、1,3-ブタンジオール、及びこれらの混合物を挙げることができる。充填物111中のエアロゾル源の含有量は、特に限定されず、十分な量のエアロゾルの発生と、良好な香喫味の付与の観点から、通常5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、また、通常50質量%以下であり、好ましくは20質量%以下である。
【0113】
たばこ充填材は、上記で説明したとおり、例えば、たばこ刻の形態またはたばこ成形体の形態を有する。たばこ充填材は、たばこ刻の形態を有する場合、葉たばこ(すなわち熟成済たばこ葉)を、例えば0.8~1.2mmの幅に刻むことにより得られたたばこ刻の形態を有していてもよい。あるいは、たばこ充填材は、シートたばこの形態を有する場合、シートたばこを、例えば0.8~1.2mmの幅に刻むことにより得られた細長いシートたばこの形態を有していてもよいし、あるいは、シートたばこを刻まずにギャザー加工することにより得られた波形のシートたばこの形態を有していてもよい。
【0114】
たばこスティック110における充填物111の含有量は、基材部11Aが円周22mm、長さ20mmの場合、例えば、200~400mgであり、250~320mgであることが好ましい。充填物111の水分含有量は、例えば、8~18質量%であり、10~16質量%であることが好ましい。このような水分含有量であると、巻染みの発生を抑制し、基材部11Aの製造時の巻上適性を良好にする。
【0115】
第1巻紙112、第2巻紙113、およびプラグラッパー117は、それぞれ、シガレットで使用されるたばこ巻紙、チップペーパー、およびプラグラッパーと同じものを使用することができる。
【0116】
図5に示すたばこスティック110の場合、上述の「たばこ香味液」や上述の「たばこ添加物」は、例えば、充填物111またはフィルタ部115の濾材に組み込むことができる。
【0117】
図6に示すとおり、エアロゾル生成装置120は、たばこスティック110を挿入可能な挿入孔130を有する。すなわち、エアロゾル生成装置120は、挿入孔130を構成する内側筒部材132を有する。内側筒部材132は、例えばアルミニウムやステンレス(SUS)のような熱伝導部材によって構成されていてよい。
【0118】
また、エアロゾル生成装置120は、挿入孔130を塞ぐ蓋部140を有していてよい。蓋部140は、挿入孔130を塞いだ状態と、挿入孔130を露出させた状態(
図4参照)との間をスライド可能に構成されている。
【0119】
エアロゾル生成装置120は、挿入孔130に連通する空気流路160を有していてよい。空気流路160の一端は、挿入孔130に連結されており、空気流路160の他端は、挿入孔130とは別のところでエアロゾル生成装置120の外部(外気)に連通している。
【0120】
エアロゾル生成装置120は、空気流路160の、外気に連通する側の端部を覆う蓋部170を有していてよい。蓋部170は、空気流路160の、外気に連通する側の端部を覆った状態にすることもできるし、あるいは、空気流路160を露出させた状態にすることもできる。
【0121】
蓋部170は、空気流路160を覆った状態であっても空気流路160に気密に閉塞することはない。すなわち、蓋部170が空気流路160を覆った状態であっても、蓋部170付近を介して空気流路160内に外気が流入可能に構成されている。
【0122】
ユーザは、エアロゾル生成装置120にたばこスティック110を挿入した状態で、たばこスティック110の一端部、具体的には、
図5に示される吸口部11Bを咥え、吸引動作を行う。ユーザの吸引動作により、空気流路160に外気が流入する。空気流路160内に流入した空気は、挿入孔130内のたばこスティック110を通って、ユーザの口腔内に導かれる。
【0123】
エアロゾル生成装置120は、空気流路160内又は空気流路160を構成する壁部の外面に、温度センサを有していてよい。温度センサは、例えば、サーミスタや熱電対等であってよい。ユーザがたばこスティック110の吸口部11Bを吸引すると、空気流路160内を蓋部170側からヒータ30側に向かって流れる空気の影響で、空気流路160の内部温度又は空気流路160を構成する壁部の温度が低下する。温度センサは、この温度低下を測定することによってユーザの吸引動作を検知することができる。
【0124】
エアロゾル生成装置120は、バッテリ10と、制御ユニット20と、ヒータ30と、を有する。バッテリ10は、エアロゾル生成装置120で用いる電力を蓄積する。バッテリ10は、充放電可能な二次電池であってよい。バッテリ10は、例えばリチウムイオン電池であってよい。
【0125】
ヒータ30は、内側筒部材132の周りに設けられていてよい。ヒータ30を収容する空間と、バッテリ10を収容する空間は、隔壁180によって互いに分離されていてよい。これにより、ヒータ30により加熱された空気が、バッテリ10を収容する空間内に流入することを抑制することができる。したがって、バッテリ10の温度上昇を抑制することができる。
【0126】
ヒータ30は、柱状のたばこスティック110の外周を加熱可能な筒形状であることが好ましい。ヒータ30は、例えばフィルムヒータであってよい。フィルムヒータは、一対のフィルム状の基板と、一対の基板の間に挟まれた抵抗発熱体とを有していてよい。フィルム状の基板は、耐熱性及び電気絶縁性に優れた材料から作られることが好ましく、典型的には、ポリイミドから作られる。抵抗発熱体は、銅、ニッケル合金、クロム合金、ステンレス、白金ロジウム等の金属材料の1つ又は2つ以上から作られることが好ましく、例えば、ステンレス製の基材によって形成され得る。さらに、抵抗発熱体はフレキシブルプリント回路(FPC)によって電源と接続するために接続部位及びそのリード部に銅メッキを施してもよい。
【0127】
好ましくは、熱収縮チューブが、ヒータ30の外側に設けられていてよい。熱収縮チューブは、熱により半径方向に収縮するチューブであり、例えば熱可塑性エラストマによって構成されている。熱収縮チューブの収縮作用により、ヒータ30が内側筒部材132に押し付けられる。これにより、ヒータ30と内側筒部材132の密着性が高まるので、ヒータ30からたばこスティック110への内側筒部材132を介した熱の伝導性が高まる。
【0128】
エアロゾル生成装置120は、ヒータ30の半径方向の外側、好ましくは熱収縮チューブの外側に、筒状の断熱材を有していてもよい。断熱材は、ヒータ30の熱を遮断することによって、エアロゾル生成装置120の筐体外面が過度な高温に達するのを防止する役割を果たし得る。断熱材は、例えば、シリカエアロゲル、カーボンエアロゲル、アルミナエアロゲル等のエアロゲルから作られることができる。断熱材としてのエアロゲルは、典型的には、断熱性能が高くかつ製造コストが比較的低いシリ力エアロゲルであってよい。ただし、断熱材は、グラスウールやロックウール等の繊維系断熱材であってもよいし、ウレタンフォームやフェノールフォームの発泡系断熱材であってもよい。或いは、断熱材は真空断熱材であってもよい。
【0129】
断熱材は、たばこスティック110に面する内側筒部材132と、断熱材の外側の外側筒部材134との間に設けられていてよい。外側筒部材134は、例えばアルミニウムやステンレス(SUS)のような熱伝導部材によって構成されていてよい。断熱材は、密閉された空間内に設けられることが好ましい。
【0130】
制御ユニット20は、制御基板、CPU、及びメモリ等を含んでいてよい。また、エアロゾル生成装置120は、制御ユニット20による制御の下でユーザに各種情報を報知するための通知部を有していてもよい。通知部は、例えばLEDのような発光素子もしくは振動素子、又はこれらの組み合わせであってよい。
【0131】
制御ユニット20は、ユーザの起動要求を検知したら、バッテリ10からヒータ30への電力供給を開始する。ユーザの起動要求は、例えば、ユーザによる押しボタンやスライド式スイッチの操作や、ユーザの吸引動作によって為される。ユーザの起動要求は、押しボタン150の押下によって為されてもよい。より具体的には、ユーザの起動要求は、蓋部140が開いた状態での押しボタン150の押下によって為されてもよい。或いは、ユーザの起動要求は、ユーザの吸引動作の検知によって為されてもよい。ユーザの吸引動作は、例えば前述したような温度センサによって検知できる。
【0132】
<5.好ましい実施形態>
以下に、好ましい実施形態をまとめて示す。
[A1] たばこ抽出液を、無機多孔質体を含んだ材料で処理して、前記たばこ抽出液から微生物を除去することを含む、たばこ香味液の製造方法。
【0133】
[A2] たばこ材料から前記たばこ材料に含まれる水溶性成分を水性溶媒で抽出して、たばこ上清を得ることと、
前記たばこ上清を、無機多孔質体を含んだ材料で処理して、微生物フリーのたばこ上清を得ることと
を含む、たばこ香味液の製造方法。
[A3] たばこ材料から前記たばこ材料に含まれる水溶性成分を水性溶媒で抽出して、たばこ上清を得ることと、
酵母を前記たばこ上清中で培養して、酵母含有培養液を得ることと、
前記酵母含有培養液と、有機溶媒を含む溶出溶媒とを混合し、得られた混合物に含有される前記酵母から、前記酵母の菌体内に含まれる有用成分を、前記混合物の液体部分に溶出させて、有用成分溶出液を得ることと、
前記有用成分溶出液を、無機多孔質体を含んだ材料で処理して、微生物フリーの有用成分溶出液を得ることと
を含む、たばこ香味液の製造方法。
【0134】
[A4] 前記処理が、前記たばこ抽出液を、無機多孔質体を含んだ層に通すことにより行われる[A1]に記載の方法。
[A5] 前記処理が、前記たばこ上清を、無機多孔質体を含んだ層に通すことにより行われる[A2]に記載の方法。
[A6] 前記処理が、前記有用成分溶出液を、無機多孔質体を含んだ層に通すことにより行われる[A3]に記載の方法。
【0135】
[A7] 前記処理が、前記たばこ抽出液を、無機多孔質体を含んだ成形体に通すことにより行われる[A1]に記載の方法。
[A8] 前記処理が、前記たばこ上清を、無機多孔質体を含んだ成形体に通すことにより行われる[A2]に記載の方法。
[A9] 前記処理が、前記有用成分溶出液を、無機多孔質体を含んだ成形体に通すことにより行われる[A3]に記載の方法。
【0136】
[A10] 前記処理が、前記たばこ抽出液を、無機多孔質体を含んだ粒子の集合体に通すことにより行われる[A1]に記載の方法。
[A11] 前記処理が、前記たばこ上清を、無機多孔質体を含んだ粒子の集合体に通すことにより行われる[A2]に記載の方法。
[A12] 前記処理が、前記有用成分溶出液を、無機多孔質体を含んだ粒子の集合体に通すことにより行われる[A3]に記載の方法。
【0137】
[A13] 前記処理が、前記たばこ抽出液を、無機多孔質を含んだ粒子を充填したカラムに通すことにより行われる[A1]に記載の方法。
[A14] 前記処理が、前記たばこ上清を、無機多孔質を含んだ粒子を充填したカラムに通すことにより行われる[A2]に記載の方法。
[A15]前記処理が、前記有用成分溶出液を、無機多孔質を含んだ粒子を充填したカラムに通すことにより行われる[A3]に記載の方法。
【0138】
[A16] 前記粒子が、<400μm、一般的には10~400μm、好ましくは<100μm、より好ましくは10~100μm、更に好ましくは10~80μm、更に好ましくは30~75μmの粒度を有する[A10]~[A15]の何れか1に記載の方法。
[A17] 前記無機多孔質体が、珪藻土またはゼオライトである[A1]~[A16]の何れか1に記載の方法。
[A18] 前記無機多孔質体を含んだ粒子が、珪藻土のみからなる粒子またはゼオライトのみからなる粒子である[A10]~[A17]の何れか1に記載の方法。
【0139】
[A19] 前記たばこ材料がたばこ刻である[A2]~[A18]の何れか1に記載の方法。
[A20] 前記水性溶媒が、水または含水エタノール、好ましくは水、より好ましくは20~70℃の水である[A2]~[A19]の何れか1に記載の方法。
[A21] 前記酵母が、ロドトルラ(Rhodotorula)属の酵母、キサントフィロマイセス(Xanthophyllomyces)属の酵母、ヤロウィア(Yarrowia)属の酵母、リポマイセス(Lipomyces)属の酵母、サッカロマイセス(Saccharomyces)属の酵母、サイバーリンドネラ(Cyberlindnera)属の酵母、およびウィッカーハモマイセス(Wickerhamomyces)属の酵母からなる群より選択される少なくとも1種類の酵母である[A3]、[A6]、[A9]、[A12]、[A15]~[A20]の何れか1に記載の方法。。
【0140】
[A22] 前記溶出溶媒が、有機溶媒、または有機溶媒と水との混合物である[A3]、[A6]、[A9]、[A12]、[A15]~[A21]の何れか1に記載の方法。
[A23] 前記有機溶媒が、水と混和性を有する有機溶媒、好ましくは水と混和性を有するアルコールである[A3]、[A6]、[A9]、[A12]、[A15]~[A22]の何れか1に記載の方法。
[A24] 前記溶出溶媒が、水と混和性を有するアルコール、またはその含水アルコールである[A3]、[A6]、[A9]、[A12]、[A15]~[A23]の何れか1に記載の方法。
【0141】
[A25] 前記有機溶媒が、10~14.5のSP値を有する有機溶媒、好ましくは、10~14.5のSP値を有するアルコール、より好ましくは、エタノール、イソプロパノール、メタノールまたはブタノール、更に好ましくは、エタノールまたはイソプロパノール、最も好ましくはエタノールである[A3]、[A6]、[A9]、[A12]、[A15]~[A24]の何れか1に記載の方法。
[A26] 前記溶出溶媒が、エタノールまたは含水エタノールである[A3]、[A6]、[A9]、[A12]、[A15]~[A25]の何れか1に記載の方法。
[A27] 前記溶出溶媒は、前記酵母含有培養液と前記溶出溶媒との混合液中の前記有機溶媒の濃度が、50体積%以上、好ましくは50~95体積%、より好ましくは60~95体積%になる量で、前記酵母含有培養液に添加される[A3]、[A6]、[A9]、[A12]、[A15]~[A26]の何れか1に記載の方法。
【0142】
[A28] 前記溶出が、前記酵母含有培養液と前記溶出溶媒との混合物を撹拌することにより行われる[A3]、[A6]、[A9]、[A12]、[A15]~[A27]の何れか1に記載の方法。
[A29] 前記溶出が、前記酵母含有培養液と前記溶出溶媒との混合物を加熱することにより行われる[A3]、[A6]、[A9]、[A12]、[A15]~[A28]の何れか1に記載の方法。
[A30] 前記微生物フリーの有用成分溶出液から前記有機溶媒を除去することを更に含む[A3]、[A6]、[A9]、[A12]、[A15]~[A29]の何れか1に記載の方法。
【0143】
[A31] 前記有用成分が、香味寄与成分である[A3]、[A6]、[A9]、[A12]、[A15]~[A30]の何れか1に記載の方法。
[A32] 前記香味寄与成分が、カロテノイド、脂肪酸、中性脂肪(すなわち、脂肪酸のグリセリンエステル)、酢酸エステル、脂肪酸エステル、有機酸、および高級アルコール(例えば、炭素数8~22のアルコール)からなる群より選択される少なくとも1種類の成分である[A31]に記載の方法。
【0144】
[B1] [A1]~[A32]の何れか1に記載の方法により得られるたばこ香味液。
[B2] 前記たばこ香味液が、[A2]に記載される微生物フリーのたばこ上清である[B1]に記載のたばこ香味液。
[B3] 前記たばこ香味液が、[A3]に記載される微生物フリーの有用成分溶出液である[B1]に記載のたばこ香味液。
【0145】
[C1] [A2]~[A32]の何れか1に記載の方法により得られるたばこ香味液と、
[A2]~[A32]の何れか1に記載の方法において前記たばこ上清を得る際に得られるたばこ残渣と
を含むたばこ添加物。
[C2] 前記たばこ香味液が、[A2]に記載される微生物フリーのたばこ上清である[C1]に記載のたばこ添加物。
[C3] 前記たばこ香味液が、[A3]に記載される微生物フリーの有用成分溶出液である[C1]に記載のたばこ添加物。
【0146】
[D1] [B1]~[B3]の何れか1に記載のたばこ香味液を含む香味吸引器。
[D2] [C1]~[C3]の何れか1に記載のたばこ添加物を含む香味吸引器。
[D3] 前記香味吸引器が燃焼型香味吸引器である[D1]または[D2]に記載の香味吸引器。
[D4] 前記香味吸引器が加熱型香味吸引器である[D1]または[D2]に記載の香味吸引器。
【実施例】
【0147】
[実施例1]
実施例1では、本発明の方法に従って製造されたたばこ香味液の清澄性を評価した。
【0148】
1-1.方法
黄色種の葉たばこを粉砕し、「たばこ材料」として使用した。黄色種の葉たばこの刻(100g)を粉砕器で100μm以下のサイズまで粉砕し、60℃の水600mLを加え、振盪(200rpm・2時間)した。これにより、葉たばこに含まれる水溶性成分を抽出した。その後、たばこ上清とたばこ残渣を吸引濾過により分離した。濾紙としてAdvantec No.60を使用した。得られた濾液を「たばこ上清」と呼ぶ。
【0149】
たばこ上清に以下の処理を行い、サンプルを調製した。
サンプル1:
たばこ上清5mLを、粉状体の珪藻土(粒度:<354μm)(ジーエルサイエンス株式会社)を充填したカラム(内径11mmおよび長さ25mm)に重力落下により通過させて、カラム溶出液を得た。カラム溶出液をサンプル1とした。
【0150】
比較サンプル1:
たばこ上清を比較サンプル1とした。
【0151】
リファレンスサンプル1:
たばこ上清5mLを孔径0.2μmのフィルタで精密濾過した。得られた濾液をリファレンスサンプル1とした。
【0152】
サンプル2:
たばこ上清100mLをオートクレーブで滅菌し、滅菌されたたばこ上清にSaccharomyces属の酵母(Saccharomyces cerevisiae)を105細胞/mLの濃度になるように加え、一晩振とう培養した(28℃、240rpm)。培養後に得られた酵母含有培養液5mLを、粉状体の珪藻土(粒度:<354μm)(ジーエルサイエンス株式会社)を充填したカラム(内径11mmおよび長さ25mm)に重力落下により通過させて、カラム溶出液を得た。カラム溶出液をサンプル2とした。
【0153】
比較サンプル2:
たばこ上清100mLをオートクレーブで滅菌し、滅菌されたたばこ上清にSaccharomyces属の酵母(Saccharomyces cerevisiae)を105細胞/mLの濃度になるように加え、一晩振とう培養した(28℃、240rpm)。培養後に得られた酵母含有培養液を比較サンプル2とした。
【0154】
リファレンスサンプル2:
たばこ上清100mLをオートクレーブで滅菌し、滅菌されたたばこ上清にSaccharomyces属の酵母(Saccharomyces cerevisiae)を105細胞/mLの濃度になるように加え、一晩振とう培養した(28℃、240rpm)。培養後に得られた酵母含有培養液5mLを、孔径0.2μmのフィルタで精密ろ過した。得られた濾液をリファレンスサンプル2とした。
【0155】
各サンプルについて、吸光光度計を用いて600nmの吸光度を測定することで、清澄性を評価した。サンプル1および比較サンプル1の清澄性の基準として、リファレンスサンプル1を使用した。サンプル2および比較サンプル2の清澄性の基準として、リファレンスサンプル2を使用した。
【0156】
1-2.結果
吸光度の測定結果を以下の表に示す。
【0157】
【0158】
表1に示す吸光度は、リファレンスサンプルに対する吸光度差を表す。このため、表1において、サンプルの吸光度の値が0に近いほど、リファレンスサンプルと同等の清澄性を有することを示す。
【0159】
サンプル1の清澄性は、比較サンプル1よりも優位に高かった。この結果は、たばこ上清を、珪藻土を充填したカラムに通過させたことにより、清澄性を低下させていた分子量が大きな懸濁物(たばこ上清に含まれる微生物を含む)が除去されたことを示す。
【0160】
サンプル2の清澄性は、比較サンプル2よりも優位に高かった。この結果は、たばこ上清を、珪藻土を充填したカラムに通過させたことにより、清澄性を低下させていた分子量が大きな懸濁物(たばこ上清に含まれる微生物および添加された酵母を含む)が除去されたことを示す。
【0161】
上記結果は、本発明の方法により製造されたたばこ香味液の清澄性を実証していることから、本発明の方法によれば、添加された酵母だけでなく、たばこ上清に含まれるあらゆる微生物、例えばカビや細菌なども除去できると考えられる。
【0162】
[実施例2]
実施例2では、本発明の方法に従って製造されたたばこ香味液の酵母濃度を評価した。
【0163】
2-1.方法
実施例1に記載される方法に従って、たばこ上清を得た。たばこ上清に以下の処理を行い、サンプルを調製した。
【0164】
サンプル3A:
たばこ上清100mLをオートクレーブで滅菌し、滅菌されたたばこ上清にSaccharomyces属の酵母(Saccharomyces cerevisiae)を105細胞/mLの濃度になるように加え、一晩振とう培養した(28℃、240rpm)。培養後に得られた酵母含有培養液をサンプル3Aとした。
【0165】
サンプル3B:
酵母含有培養液(サンプル3A)5mLを、ガラス粉末(粒度:63~106μm)(アズワン株式会社)を充填したカラム(内径11mmおよび長さ25mm)に重力落下により通過させて、カラム溶出液を得た。このカラム溶出液をサンプル3Bとした。
【0166】
サンプル3C:
酵母含有培養液(サンプル3A)5mLを、粉状体の珪藻土(粒度:<105μm)(IMERYS)を充填したカラム(内径11mmおよび長さ25mm)に重力落下により通過させて、カラム溶出液を得た。このカラム溶出液をサンプル3Cとした。
【0167】
サンプル3D:
酵母含有培養液(サンプル3A)5mLを、粉状体の珪藻土(粒度:<50μm)(ジーエルサイエンス株式会社)を充填したカラム(内径11mmおよび長さ25mm)に重力落下により通過させて、カラム溶出液を得た。このカラム溶出液をサンプル3Dとした。
【0168】
サンプル3E:
酵母含有培養液(サンプル3A)5mLを、粉状体の珪藻土(粒度:<354μm)(ジーエルサイエンス株式会社)を充填したカラム(内径11mmおよび長さ25mm)に重力落下により通過させて、カラム溶出液を得た。このカラム溶出液をサンプル3Eとした。
【0169】
サンプル3F:
酵母含有培養液(サンプル3A)5mLを、粉状体の合成ゼオライト(粒度:<75μm)(富士フィルム和光純薬株式会社)を充填したカラム(内径11mmおよび長さ25mm)に重力落下により通過させて、カラム溶出液を得た。このカラム溶出液をサンプル3Fとした。
【0170】
サンプル4A:
一方、酵母含有培養液(サンプル3A)を遠心分離して遠心分離上清を得た。遠心分離上清をサンプル4Aとした。
【0171】
サンプル4B:
遠心分離上清(サンプル4A)5mLを、ガラス粉末(63~106μmの粒径)(アズワン株式会社)を充填したカラム(内径11mmおよび長さ25mm)に重力落下により通過させて、カラム溶出液を得た。このカラム溶出液をサンプル4Bとした。
【0172】
サンプル4C:
遠心分離上清(サンプル4A)5mLを、粉状体の珪藻土(粒度:<105μm)(IMERYS)を充填したカラム(内径11mmおよび長さ25mm)に重力落下により通過させて、カラム溶出液を得た。このカラム溶出液をサンプル4Cとした。
【0173】
サンプル4D:
遠心分離上清(サンプル4A)5mLを、粉状体の珪藻土(粒度:<50μm)(IMERYS)を充填したカラム(内径11mmおよび長さ25mm)に重力落下により通過させて、カラム溶出液を得た。このカラム溶出液をサンプル4Dとした。
【0174】
サンプル4E:
遠心分離上清(サンプル4A)5mLを、粉状体の珪藻土(粒度:<354μm)(ジーエルサイエンス株式会社)を充填したカラム(内径11mmおよび長さ25mm)に重力落下により通過させて、カラム溶出液を得た。このカラム溶出液をサンプル4Eとした。
【0175】
サンプル4F:
遠心分離上清(サンプル4A)5mLを、粉状体の合成ゼオライト(粒度:<75μm)(富士フィルム和光純薬株式会社)を充填したカラム(内径11mmおよび長さ25mm)に重力落下により通過させて、カラム溶出液を得た。このカラム溶出液をサンプル4Fとした。
【0176】
サンプル3A~3F、4A~4Fにおける酵母菌体数をコロニーカウント法により測定した。
【0177】
2-2.結果
酵母菌体数の測定結果を以下の表に示す。
【0178】
【0179】
たばこ上清を珪藻土充填カラムに通過させた場合、酵母が確かに除去されていることが確認できた。珪藻土の粒度を変化させても、酵母を同様に除去することができた。また、たばこ上清をゼオライト充填カラムに通過させた場合も、酵母が確かに除去されていることが確認できた。一方、たばこ上清をガラス粉末充填カラムに通過させた場合、酵母を除去することができなかった。
【0180】
この結果は、本発明の方法に従ってたばこ上清を無機多孔質体で処理すると、添加された酵母を、検出不可能なレベルまで除去できることを示す。この結果と実施例1の結果から、本発明の方法は、添加された酵母に加えて、たばこ上清に含まれるあらゆる微生物、例えばカビや細菌なども除去できると考えられる。
【0181】
[実施例3]
実施例3では、第2実施形態に係る方法を実施した。
【0182】
3-1.方法
サンプル5:
第2実施形態に係る方法に従って、抽出工程(S1)、培養工程(S2)および溶出工程(S3)を行い、得られた有用成分溶出液5mLを、粉状体の珪藻土(粒度:<354μm)(ジーエルサイエンス株式会社)を充填したカラム(内径11mmおよび長さ25mm)に重力落下により通過させた。カラム溶出液をサンプル5とした。
【0183】
比較サンプル5:
第2実施形態に係る方法に従って、抽出工程(S1)、培養工程(S2)および溶出工程(S3)を行い、得られた有用成分溶出液を比較サンプル5とした。
【0184】
リファレンスサンプル5:
第2実施形態に係る方法に従って、抽出工程(S1)、培養工程(S2)および溶出工程(S3)を行い、得られた有用成分溶出液5mLを、孔径0.2μmのフィルタで精密濾過した。得られた濾液をリファレンスサンプル5とした。
【0185】
以下に、抽出工程(S1)、培養工程(S2)および溶出工程(S3)の詳細を記載する。
【0186】
抽出工程(S1)
黄色種の葉たばこを粉砕し、「たばこ材料」として使用した。黄色種の葉たばこの刻(100g)を粉砕器で100μm以下のサイズまで粉砕し、60℃の水600mLを加え、振盪(200rpm・2時間)した。これにより、葉たばこに含まれる水溶性成分を抽出した。その後、ろ過により固液分離した。これにより、たばこ上清およびたばこ残渣を得た。
【0187】
培養工程(S2)
得られたたばこ上清3mLに、Saccharomyces属の酵母(Saccharomyces cerevisiae)を105細胞/mLの濃度になるように添加し、酵母をたばこ上清中で培養した。培養は、好気条件下において、28℃で24時間にわたって、振盪培養(240rpm)により行った。培養後に得られた「酵母とたばこ上清との混合物」を「酵母含有培養液」と呼ぶ。
【0188】
溶出工程(S3)
培養開始から24時間後、酵母含有培養液3mLに、溶出溶媒としてエタノール7mLを添加した。具体的には、エタノールは、酵母含有培養液とエタノールとの混合液中のエタノールの濃度が70体積%になる量で添加した。
【0189】
各サンプルについて、吸光光度計を用いて600nmの吸光度を測定することで、清澄性を評価した。サンプル5および比較サンプル5の清澄性の基準として、リファレンスサンプル5を使用した。
【0190】
3-2.結果
吸光度の測定結果を以下の表に示す。
【0191】
【0192】
表3に示す吸光度は、リファレンスサンプル5に対する吸光度差を表す。このため、表3において、サンプルの吸光度の値が0に近いほど、リファレンスサンプル5と同等の清澄性を有することを示す。
【0193】
サンプル5の清澄性は、比較サンプル5よりも優位に高かった。この結果は、第2実施形態に係る方法に従って得られた有用成分溶出液を、珪藻土を充填したカラムに通過させたことにより、清澄性を低下させていた分子量が大きな懸濁物(たばこ上清に含まれる微生物および添加された酵母を含む)が除去されたことを示す。
【0194】
[実施例4]
実施例4では、官能評価を行った。
【0195】
4-1.方法
実施例1に記載されるとおり、サンプル1、比較サンプル1、リファレンスサンプル1、サンプル2、比較サンプル2、リファレンスサンプル2を調製し、たばこ香味液として使用した。各サンプル1mLをプロピレングリコール1mLと混合し、市販の電子シガレットを用いて霧化・吸引し、その香喫味を評価した。
【0196】
4-2.結果
サンプル1と比較サンプル1との間に、香喫味の差異は検知できなかった。また、サンプル2と比較サンプル2との間に、香喫味の差異は検知できなかった。これらの結果は、たばこ上清を珪藻土カラムに通過させた場合、分子量が大きな懸濁物は除去されるが、香喫味に影響する低分子化合物は除去されず、この処理工程が、たばこ上清の香喫味に影響を及ぼさないことを示す。
【0197】
サンプル1とリファレンスサンプル1との間に、香喫味の差異は検知できなかった。また、サンプル2とリファレンスサンプル2との間に、香喫味の差異は検知できなかった。これらの結果は、珪藻土カラムに通過させた場合と、精密ろ過を行った場合との間で、得られたたばこ香味液の香喫味に差が無いことを示す。