(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】インバータ制御装置、計算方法
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20241021BHJP
【FI】
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2023531388
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2022007760
(87)【国際公開番号】W WO2023276265
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2021110286
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山辺 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】明円 恒平
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-252094(JP,A)
【文献】特開2017-208893(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008676(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/036794(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング回路を用いて直流から三相交流に変換した電力をモータに供給するインバータに備えられるインバータ制御装置であって、
前記インバータは前記三相交流の各相の電流を
まとめて1つの電流検出値として取得する電流計を備え、
前記モータは、当該モータの回転角を測定する角度センサを備え、
前記スイッチング回路を制御するためのPWM信号のデューティ値と、前記PWM信号の1周期以内ごとに
前記電流検出値
を取得し前回取得した前記電流検出値と平均
することで算出される当該電流検出値の平均値と、補正係数と、に基づいて、前記PWM信号の1周期中における
前記直流
の電流値の平均値を推定する直流電流推定部を備え、
前記直流電流推定部は、前記PWM信号の周期、前記回転角、および前記デューティ値に基づき前記補正係数を算出する係数算出部を備える、インバータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインバータ制御装置において、
前記係数算出部は、前記各相の電流の波形が正弦波または余弦波であることを仮定して、前記PWM信号の周期、前記回転角、および前記デューティ値に基づき前記補正係数を算出する、インバータ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のインバータ制御装置において、
前記係数算出部は、前記各相の電流の波形が複数の正弦波または余弦波の重ね合わせであることを仮定して、前記PWM信号の周期、前記回転角、および前記デューティ値に基づき前記補正係数を算出する、インバータ制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のインバータ制御装置において、
前記係数算出部は、前記電流計が前記各相の電流を測定するタイミングは、前記PWM信号の各周期の始期と一致し、かつ、前記スイッチング回路の上アームに対応する前記PWM信号がオンの区間の中心時刻は、前記PWM信号の周期の中心時刻と一致することを仮定して、前記補正係数を算出する、インバータ制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のインバータ制御装置において、
前記係数算出部は、前記電流計が前記各相の電流を測定するタイミングは、前記PWM信号の各周期の中心時刻と一致し、かつ、前記スイッチング回路の上アームに対応する前記PWM信号がオフの区間の中心時刻は、前記PWM信号の周期の中心時刻と一致することを仮定して、前記補正係数を算出する、インバータ制御装置。
【請求項6】
スイッチング回路を用いて直流から三相交流に変換した電力をモータに供給するインバータに備えられるインバータ制御装置が実行する計算方法であって、
前記インバータは前記三相交流の各相の電流を
まとめて1つの電流検出値として取得する電流計を備え、
前記モータは、当該モータの回転角を測定する角度センサを備え、
前記スイッチング回路を制御するためのPWM信号のデューティ値と、前記PWM信号の1周期以内ごとに
前記電流検出値
を取得し前回取得した前記電流検出値と平均
することで算出される当該電流検出値の平均値と、補正係数と、に基づいて、前記PWM信号の1周期中における
前記直流
の電流値の平均値を推定する直流電流推定ステップを含み、
前記直流電流推定ステップは、前記PWM信号の周期、前記回転角、および前記デューティ値に基づき前記補正係数を算出する、計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ制御装置、および計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを制御するインバータは、モータに供給される電流を演算により算出して制御に用いている。特許文献1には、多相電機子巻線を備えた交流回転電機をインバータ回路を介して制御する交流回転電機の制御装置であって、前記インバータ回路は、前記交流回転電機の各相に対応して設けられた上側スイッチング素子と下側スイッチング素子とから構成され、直流電源から電力の供給を受けて前記交流回転電機を駆動するものであって、前記インバータ回路の前記上側スイッチング素子と前記下側スイッチング素子との間の中点電位を各相ごとに検出する中点電位検出部と、前記交流回転電機の各相の相電流を検出する相電流検出部と、前記中点電位検出部により検出された各相の中点電位と前記相電流検出部により検出された各相の相電流とに基づいて、前記インバータ回路に前記直流電源から入力される直流電流の電流推定値を算出する制御部とを備えた、交流回転電機の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている発明では、モータの高回転時に電流の高精度な算出が困難になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によるインバータ制御装置は、スイッチング回路を用いて直流から三相交流に変換した電力をモータに供給するインバータに備えられるインバータ制御装置であって、前記インバータは前記三相交流の各相の電流をまとめて1つの電流検出値として取得する電流計を備え、前記モータは、当該モータの回転角を測定する角度センサを備え、前記スイッチング回路を制御するためのPWM信号のデューティ値と、前記PWM信号の1周期以内ごとに前記電流検出値を取得し前回取得した前記電流検出値と平均することで算出される当該電流検出値の平均値と、補正係数と、に基づいて、前記PWM信号の1周期中における前記直流の電流値の平均値を推定する直流電流推定部を備え、前記直流電流推定部は、前記PWM信号の周期、前記回転角、および前記デューティ値に基づき前記補正係数を算出する係数算出部を備える。
本発明の第2の態様による計算方法は、スイッチング回路を用いて直流から三相交流に変換した電力をモータに供給するインバータに備えられるインバータ制御装置が実行する計算方法であって、前記インバータは前記三相交流の各相の電流をまとめて1つの電流検出値として取得する電流計を備え、前記モータは、当該モータの回転角を測定する角度センサを備え、前記スイッチング回路を制御するためのPWM信号のデューティ値と、前記PWM信号の1周期以内ごとに前記電流検出値を取得し前回取得した前記電流検出値と平均することで算出される当該電流検出値の平均値と、補正係数と、に基づいて、前記PWM信号の1周期中における前記直流の電流値の平均値を推定する直流電流推定ステップを含み、前記直流電流推定ステップは、前記PWM信号の周期、前記回転角、および前記デューティ値に基づき前記補正係数を算出する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、モータの高回転時にも高精度に電流を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】インバータ制御装置を含むインバータの構成図
【
図4】本実施の形態における補正と比較例の補正との比較を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
―実施の形態―
以下、
図1~
図4を参照して、インバータ制御装置の実施の形態を説明する。
【0009】
(構成)
図1は、インバータ制御装置200を含むインバータ100の構成図である。インバータ100は、直流側が高圧電源300に接続され、交流側がモータ400に接続される。インバータ100は、平滑コンデンサ110と、スイッチング回路120と、交流電流センサ130と、ゲートドライバ140と、インバータ制御装置200と、を備える。
【0010】
高圧電源300は、システム駆動用の電源回路である。モータ400は、内部に3個の巻き線を有する3相電動機である。モータ400には、モータの回転角度を測定するための角度センサ410が搭載されている。角度センサ410はモータ400に搭載され、モータ400の回転角度を検出してインバータ制御装置200に角度信号S1を出力する。
【0011】
平滑コンデンサ110は、高圧電源300とIGBT120との間に接続され、電圧を平滑化する。IGBT120は、U相、V相、およびW相(以下、「UVW相」と呼ぶ)の各相の交流電流を生成してモータ400に供給する。スイッチング回路120は、平滑コンデンサ110とモータ400の間に接続される。スイッチング回路120は、複数のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を含み、IGBTはゲートドライバ140から出力されるPWM信号S2に従ってスイッチング動作を行う。交流電流センサ130は、IGBT120とモータ400の間に接続され、両者の間に流れる交流電流の大きさを測定して電流値を電流値信号S3としてインバータ制御装置200に出力する。交流電流センサ130は、インバータ制御装置200から指定されるタイミングにおいて電流の測定を行う。
【0012】
ゲートドライバ140は、インバータ制御装置200の動作指令に基づきスイッチング回路120を制御する。ゲートドライバ140はIGBT120とインバータ制御装置200の間に接続され、インバータ制御装置200から出力されるPWM指令信号S4に基づきPWM信号S2を生成してスイッチング回路120に出力する。ゲートドライバ140がPWM指令信号S4を受信してからPWM信号S2を出力するまでに若干の遅れがあるため、ゲートドライバ140は、この遅れ時間を通知する目的でPWM信号S2の出力と同時にPWMリードバック信号S5を生成してインバータ制御装置200に出力する。
【0013】
インバータ制御装置200は、モータ400から出力されるトルクが目標値と一致するように、公知の手法によりPWM指令信号45を生成し、PWM指令信号45をゲートドライバ140に出力する。インバータ制御装置200は、PWM指令信号45の生成に、交流電流センサ130が出力する電流値信号S3、角度センサ410が出力する角度信号S1、およびゲートドライバ140が出力するPWMリードバック信号S5を用いる。
【0014】
インバータ制御装置200は、直流電流値の平均値を推定する直流電流推定部290を備える。直流電流推定部290の構成および動作を、後に
図2を参照して説明する。インバータ制御装置200はさらに、交流電流センサ130に対して電流測定のタイミングを指示する信号を送信する。詳しくは後述するが、電流測定のタイミングは、PWM信号の各周期が始まるタイミングである。
【0015】
インバータ制御装置200のハードウエア構成を説明する。インバータ制御装置200は、信号の入出力を行う信号入出力部、および演算を行う演算部を備える。信号入出力部は、交流電流センサ130、角度センサ410、およびゲートドライバ140との信号の授受を行うハードウエアであり、たとえばIEEE802.3に対応する通信インタフェースや、AD変換装置である。演算部は、中央演算装置であるCPU、読み出し専用の記憶装置であるROM、および読み書き可能な記憶装置であるRAMを備え、CPUがROMに格納されるプログラムをRAMに展開して実行することで後述する演算を行う。
【0016】
演算部は、CPU、ROM、およびRAMの組み合わせの代わりに書き換え可能な論理回路であるFPGA(Field Programmable Gate Array)や特定用途向け集積回路であるASIC(Application Specific Integrated Circuit)により実現されてもよい。また演算部は、CPU、ROM、およびRAMの組み合わせの代わりに、異なる構成の組み合わせ、たとえばCPU、ROM、RAMとFPGAの組み合わせにより実現されてもよい。
【0017】
直流電流推定部290は、交流電流センサ130が出力する電流値信号S3、ゲートドライバ140が出力するPWMリードバック信号S5、および角度センサ410が出力する角度信号S1を用いて直流電流の平均値を算出する。直流電流推定部290の構成および動作を詳述する。
【0018】
図2は、直流電流推定部290の構成図である。以下では各構成の動作を、数式を用いずに説明する。数式を用いた説明は後述する。直流電流推定部290は、デューティ算出部201と、AC電流平均値算出部210と、AC電流極性判定部220と、PWMデューティ補正部230と、係数算出部240と、積算部250と、直流電流平均値算出部260と、を備える。
【0019】
デューティ算出部201は、PWMリードバック信号S5におけるデューティ値S5Dを算出して出力する。AC電流平均値算出部210は、PWM信号の周期ごとに交流電流センサ130により取得されるAC電流値の前回値と今回値による平均値をAC電流平均値として算出する。そしてこのAC電流平均値を示すAC電流平均値Iaを出力する。
【0020】
AC電流極性判定部220は、AC電流平均値算出部210により算出されたAC電流平均値Iaを読み込み、AC電流平均値Iaの極性を判定する。AC電流極性判定部220は、AC電流平均値Iaが正の場合は極性が正であると判断し、”0”をデューティ補正値とする。AC電流極性判定部220は、AC電流平均値Iaが負の場合は極性が負であると判断し、デッドタイムをPWM信号の周期で除算した値をデューティ補正値DBとする。なおデッドタイムはあらかじめ設定された値であり、PWM信号の周期TPはインバータ制御装置200において状況に応じて設定された値である。AC電流極性判定部220は、デューティ補正値DBをPWMデューティ補正部230に出力する。
【0021】
PWMデューティ補正部230は、デューティ算出部201が出力するデューティ値S5Dと、AC電流極性判定部220が出力するデューティ補正値DBとを加算し、補正後デューティ値CDを算出する。PWMデューティ補正部230は、補正後デューティ値CDを出力する。
【0022】
係数算出部240は、PWMデューティ補正部230から出力される補正後デューティ値CDと、角度センサ410により取得される角度信号S1と、PWM信号の周期TPとを用いて補正係数Kを算出する。この補正係数Kは、時間積分平均値Icを算出するための係数なので「時間積分平均変換係数」とも呼べる。係数算出部240は、この係数を示す係数信号S8を出力する。
【0023】
積算部250は、AC電流平均値算出部210から出力されるAC電流平均値Iaと、係数算出部240から出力される補正係数Kを乗算し、時間積分平均値Icを算出する。直流電流平均値算出部260は、積算部250が出力する時間積分平均値S9と、PWMデューティ補正部230が出力する補正後デューティ値CDとを乗算し、三相分の総和をとることで、直流電流値平均値S10を算出する。
【0024】
(測定と制御の条件)
直流電流推定部290による動作の詳細を説明する前に、本実施の形態における測定と制御の条件を説明する。本実施の形態における測定および制御は、次の3つの条件を満たす。第1の条件は、交流電流センサ130による電流の取得周期と、インバータ制御装置200が出力するPWM信号の周期、すなわちPWMのキャリア信号の周期とが一致することである。両者の周期が予め定められ、交流電流センサ130およびインバータ制御装置200に内蔵される発振器を用いて両者の周期を同一に保ってもよい。また、角度センサ410とインバータ制御装置200とで、周期を示す信号を送信することで両者の周期を同一に保ってもよい。本実施の形態では、PWM信号の周期をTPとする。
【0025】
第2の条件は、交流電流センサ130による電流の測定は、UVW相の各相における上アームのPWM信号がオフのタイミング、すなわちキャリア信号の谷で取得することである。第3の条件は、PWM信号の周期の中心時刻と、UVW相の上アームのPWM信号がオンの区間の中心時刻とが一致することである。
【0026】
(タイムチャート)
図3は、本実施の形態における補正係数算出を説明するタイムチャートである。
図3において、図示左から右に時間が経過している。図の上部から下部にかけて順番に、交流電流、キャリア信号、U相上アームのPWM信号、U相下アームのPWM信号、V相上アームのPWM信号、V相下アームのPWM信号、W相上アームのPWM信号、W相下アームのPWM信号を示している。
【0027】
図3の上部から順番に説明する。最上部に示すAC電流は、
図3に示す範囲ではU相は常に正の値、
図3に示す範囲ではV相およびW相は常に負の値である。U相は実線で示し、V相は破線で示し、W相は一点鎖線で示している。U相における白丸は電流を測定したタイミングを示しており、
図3に示す範囲では時刻t3および時刻t4に電流が測定されている。
【0028】
図3の2段目に示すキャリア信号は、時刻t3から時刻t4までで1周期であり、この2つ時刻の差である時間がキャリア信号の周期TPである。電流測定のタイミングも時刻t3と時刻t4なので、前述の第1の条件を満たしている。ここで、時刻t3と時刻t4の中心の時刻を時刻Tcとする。すなわち時刻t3から時刻tcまでの時間と、時刻tcから時刻t4までの時間とが等しい長さである。キャリア信号は時刻t3および時刻t4が谷であり、時刻tcに山となっている。そのため、電流を測定した時刻t3および時刻t4はキャリア信号の谷なので、前述の第2の条件を満たしている。
【0029】
図3の3段目に示すU相上アームのPWM信号は、時刻t1から時刻t2までがオンである。時刻t1と時刻t2の中心は時刻tcなので、前述の第3の条件を満たしていることがわかる。
図3に示す範囲ではU相の電流は正なので、上アームがオンとなる時刻t1から時刻t2の間に電流が流れる。この電流の総量は
図3において、時刻t1から時刻t2までの電流の時間積分値であり、時刻t1から時刻t2の期間にU相の電流グラフと0Aに挟まれる領域の面積、すなわち間隔が粗な右に傾いた斜線のハッチングで示す領域である。
図3の4段目に示すU相下アームのPWM信号は、不図示の時刻から時刻tu1までと、時刻tu2から時刻tu3までと、時刻tu4から不図示の時刻までと、がオフになる時間である。
【0030】
図3の5段目に示すV相上アームのPWM信号は、時刻tv1から時刻tv2までがオンとなる時間である。時刻tv1と時刻tv2の中心の時刻が時刻tcであり、第3の条件を満たしていることがわかる。
図3の6段目に示すV相下アームのPWM信号は、時刻tv3から時刻tv4までがオフとなる時間である。
図3に示す範囲においてV相の電流は負の値なので、この時刻tv3から時刻tv4の間に電流が流れる。この電流の総量は
図3において、時刻t3から時刻t4の期間にV相の電流グラフと0Aに挟まれる領域の面積、すなわち間隔が密な右に傾いた斜線のハッチングで示す領域である。
【0031】
図3の7段目に示すW相上アームのPWM信号は、時刻tw1から時刻tw2までと、時刻tu3から時刻tu4までと、がオンとなる時間である。
図3の8段目に示すW相下アームのPWM信号は、時刻tw3から時刻tw4までがオフとなる時間である。
図3に示す範囲においてW相の電流は負の値なので、この時刻tw3から時刻tw4の間に電流が流れる。この電流の総量は
図3において、時刻tw3から時刻tw4の期間にV相の電流グラフと0Aに挟まれる領域の面積、すなわち左に傾いた斜線のハッチングで示す領域である。
【0032】
本実施の形態では、PWM信号の各周期の始期がPWM信号における谷に相当するので、上述した第1~第3の条件は、次のように整理することができる。すなわち、交流電流センサ130が各相の電流を測定するタイミングは、PWM信号の各周期の始期と一致し、かつ、スイッチング回路120の上アームに対応するPWM信号がオンの区間の中心時刻は、PWM信号の周期TPの中心時刻と一致する、と整理できる。
【0033】
(計算式)
図3において、間隔が粗な右に傾いた斜線のハッチングで示すU相の電流の時間積分平均値Icは、電流が正弦波であると仮定すると、次の式1により表される。
【0034】
【0035】
ただし式1において、Aは電流の振幅、ωは角度信号S1およびPWM信号の周期から算出される角速度である。式1におけるt1およびt2は、
図3における時刻t1および時刻t2である。この式1は、次の式2のように変形できる。
【0036】
【0037】
その一方で、時刻t3および時刻t4に取得した電流値信号S3の平均値であるAC電流平均値Iaは次の式3で表される。
【0038】
【0039】
補正係数KはIcをIaで除したものなので、補正係数Kは式変形により次の式4で表される。
【0040】
【0041】
さらに式4を和差の公式を用いて展開すると式5が得られる。
【0042】
【0043】
ここで、本実施の形態では上述した第1~第3の全ての条件を満たすので、「t1+t2」と「t3+t4」は等しいことから、式5は次の式6のように簡略化できる。
【0044】
【0045】
さらに、t3とt4の差がPWM信号の1周期であるTPなので、式6はさらに式7のように変形できる。
【0046】
【0047】
式7において、周期TPは既知であり、角速度ωは角度信号S1および周期TPから算出可能であり、t2-t1は、補正後デューティ値CDと周期TPとの積である。そのため係数算出部240は、
図2に示したように補正後デューティ値CDと、PWM信号の周期TPと、角度信号S1とを用いて式7により補正係数Kを算出できる。
【0048】
(比較例)
本発明の効果を説明するために、公知の電流補正方法を説明する。以下に説明する公知補正方法は、前回測定値と今回測定値とを補正係数により重みづけすることで補正値を得る。比較例では、以下に示す式8により比較例補正値IZcを得る。ただし式8において、αは0以上1以下の重み係数、Itは今回測定値、It-1は前回測定値である。
IZc =(1-α)It+αIt-1 ・・・(式8)
【0049】
図4は、本実施の形態における補正と比較例の補正との比較を示す図である。
図4では、図示左側に本実施の形態におけるインバータ制御装置200による補正を示し、図示右側に比較例による補正を示す。また
図4では上部に第1の例を示し下部に第2の例を示す。第1の例では、電流が増加している最中に2回の測定が行われ、補正係数を適切に算出できれば電流積算値を適切に算出できる。
【0050】
第2の例では、電流のピーク値前とピーク値後に測定が行われ、その2回の測定値が略同一であった状態が示されている。インバータ制御装置200は、電流値が正弦波であることを仮定して補正係数を適切に算出できるが、比較例は補正係数が1以下に制限されているので、測定値より大きな値には補正できない。そのため、第2の例では比較例は電流積算値を適切に算出できない。換言すると比較例の手法では、電流値を正確に算出するためには1周期に複数回の測定が行われる必要があり、モータ回転数が高くなるほど正確な算出が困難となる。その一方で本実施の形態では、
図3に示すように1周期に1回の測定でよいため、モータ400の高回転時にも高精度に電流を算出できる。
【0051】
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)インバータ制御装置200は、スイッチング回路120を用いて直流から三相交流に変換した電力をモータ400に供給するインバータ100に備えられる。インバータ100は三相交流の各相の電流を電流検出値として取得する交流電流センサ130を備える。モータ400は、当該モータ400の回転角を測定する角度センサ410を備える。インバータ制御装置200は、スイッチング回路120を制御するためのPWM信号のデューティ値と、PWM信号の1周期以内ごとに取得された電流検出値の平均値と、補正係数と、に基づいて、PWM信号の1周期中における直流電流値の平均値を推定する直流電流推定部290を備える。直流電流推定部290は、PWM信号の周期TP、回転角を表す角度信号S1、および補正されたデューティ値CDに基づき補正係数Kを算出する係数算出部240を備える。そのため、モータ400の高回転時にも高精度に電流を算出できる。
【0052】
(2)係数算出部240は、各相の電流の波形が正弦波であることを仮定して、PWM信号の周期TP、回転角を表す角度信号S1、および補正されたデューティ値CDに基づき補正係数Kを算出する。そのため、各相の電流を単純なモデルである正弦波に仮定することで少ない計算量で補正係数Kを算出できる。
【0053】
(3)係数算出部240は、交流電流センサ130が各相の電流を測定するタイミングは、PWM信号の各周期の始期と一致し、かつ、スイッチング回路の上アームに対応するPWM信号がオンの区間の中心時刻は、PWM信号の周期の中心時刻と一致することを仮定して、補正係数Kを算出する。そのため式5を式6に変形でき、補正係数Kの算出を簡略化できる。
【0054】
(変形例1)
上述した実施の形態では、測定と制御に関して3つの条件を設けた。しかしインバータ制御装置200は、交流電流センサ130による電流の測定周期がPWM信号のキャリア信号の周期以下であればよい。ただしこの場合は、「t1+t2」と「t3+t4」は必ずしも等しくないため、式5を式6に変形させることができない。そのため本変形例では直流電流推定部290は、式5を用いて導出される数9を用いて補正係数Kを算出する。
【0055】
【0056】
式9におけるt1、t2、t3、およびt4の値は、直流電流推定部290がPWMリードバック信号S5を用いて算出できる。この変形例1によれば、計算量は少し増加するが、様々な測定条件でモータ400の高回転時にも高精度に電流を算出できる。
【0057】
(変形例2)
上述した実施の形態における第2および第3の条件は、次のように変更してもよい。すなわち新たな第2の条件は、交流電流センサ130による電流の測定は、キャリア信号の山で取得することである。新たな第3の条件は、PWM信号の周期の中心時刻と、UVW相の上アームのPWM信号がオフの区間の中心時刻とが一致することである。換言すると、交流電流センサ130が各相の電流を測定するタイミングが、PWM信号の各周期TPの中心時刻と一致し、かつ、スイッチング回路120の上アームに対応するPWM信号がオフの区間の中心時刻は、PWM信号の周期TPの中心時刻と一致すればよい。
本変形例によれば次の作用効果が得られる。
【0058】
(4)係数算出部240は、交流電流センサ130が各相の電流を測定するタイミングは、PWM信号の各周期TPの中心時刻と一致し、かつ、スイッチング回路120の上アームに対応するPWM信号がオフの区間の中心時刻は、PWM信号の周期TPの中心時刻と一致することを仮定して、補正係数を算出する。そのため、
図3においてキャリア信号の波形だけが半周期移動しただけなので、「t1+t2」と「t3+t4」とが等しくなるため、実施の形態のように式7を用いて補正係数Kを算出できる。
【0059】
(変形例3)
上述した実施の形態において、各相の電流の波形を正弦波と仮定して式1を設定したが、余弦波を用いてもよい。この場合は、式1において正弦が余弦に変更された影響により式2以下も同様に置き換えればよい。さらに、各相の電流の波形を複数の正弦波または余弦波の重ね合わせと仮定してもよい。この場合も、式2以下を同様に置き換えていくことで実施の形態と同様に補正係数Kを算出できる。
【0060】
本変形例によれば次の作用効果が得られる。
(5)係数算出部240は、各相の電流の波形が複数の正弦波または余弦波の重ね合わせであることを仮定して、PWM信号の周期TP、回転角を表す角度信号S1、および補正されたデューティ値CDに基づき補正係数を算出する。そのため、複数の正弦波または余弦波の重ね合わせで複雑な波形を再現し、算出する電流の精度を向上できる。
【0061】
上述した各実施の形態および変形例において、機能ブロックの構成は一例に過ぎない。別々の機能ブロックとして示したいくつかの機能構成を一体に構成してもよいし、1つの機能ブロック図で表した構成を2以上の機能に分割してもよい。また各機能ブロックが有する機能の一部を他の機能ブロックが備える構成としてもよい。
【0062】
上述した変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
100…インバータ
110…平滑コンデンサ
120…スイッチング回路
130…交流電流センサ
200…インバータ制御装置
201…デューティ算出部
210…AC電流平均値算出部
240…係数算出部
250…積算部
260…直流電流平均値算出部
290…直流電流推定部
400…モータ
410…角度センサ
K…補正係数